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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114607
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】過渡電圧保護部品
(51)【国際特許分類】
   H01T 4/10 20060101AFI20240816BHJP
   H01T 1/20 20060101ALI20240816BHJP
   H01T 2/02 20060101ALI20240816BHJP
   H01T 4/12 20060101ALI20240816BHJP
   H01T 4/02 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
H01T4/10 D
H01T1/20 F
H01T2/02 F
H01T4/10 G
H01T4/10 L
H01T4/12 F
H01T4/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023212043
(22)【出願日】2023-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2023019336
(32)【優先日】2023-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】新海 芳浩
(72)【発明者】
【氏名】吉田 尚義
(72)【発明者】
【氏名】早津 匡人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 駿介
(72)【発明者】
【氏名】平場 颯汰
(57)【要約】
【課題】低い放電開始電圧と、高いESD耐量とを有する過渡電圧保護部品を提供すること。
【解決手段】ギャップを介して互いに対向している一対の放電電極と、一対の放電電極と接する放電誘発部と、を有する過渡電圧保護部品である。放電誘発部が、セラミック材料と、金属粒子と、不連続に点在する細孔と、を含み、細孔の平均径が、0.05μm以上1.04μm以下である。
【選択図】図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギャップを介して互いに対向している一対の放電電極と、一対の前記放電電極と接する放電誘発部と、を有し、
前記放電誘発部が、セラミック成分と、金属粒子と、不連続に点在する細孔と、を含み、
前記細孔の平均径が、0.05μm以上1.04μm以下である過渡電圧保護部品。
【請求項2】
前記放電誘発部の断面における前記金属粒子の合計面積に対する前記細孔の合計面積の比が、0.45以上1.24以下である請求項1に記載の過渡電圧保護部品。
【請求項3】
前記金属粒子に関する最近接粒子間距離の平均が、0.25μm以上0.81μm以下である請求項1または2に記載の過渡電圧保護部品。
【請求項4】
前記金属粒子が、Pd、AgおよびPtの少なくとも1つを主成分として含む請求項1または2に記載の過渡電圧保護部品。
【請求項5】
前記放電誘発部が、さらに、ジルコニア粒子を含む請求項1または2に記載の過渡電圧保護部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、過渡電圧保護部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化および高性能化の進展に伴って、ESD(Electro-Static Discharge;静電気放電)などの過渡電圧から回路を保護するための電子部品が重要視されている。たとえば、特許文献1は、互いに対抗する一対の放電電極と、放電電極と隣接する放電誘発部と、を有する過渡電圧保護部品(所謂、ESDサプレッサ)を開示している。特許文献1で開示しているような過渡電圧保護部品は、積層バリスタおよびツェナーダイオードなどの他のESD保護素子よりも静電容量を小さくすることができ、高速伝送回路および高周波回路などに適している。
【0003】
ただし、電子機器における伝送速度の高速化および低駆動電圧化の要求はさらに高まっている。これらの要求に対応するために、過渡電圧保護部品では、放電開始電圧の低減、および、ESD耐量の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO 2009/098944
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示における例示的な実施形態の目的は、低い放電開始電圧と、高いESD耐量とを有する過渡電圧保護部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本開示に係る過渡電圧保護部品は、
ギャップを介して互いに対向している一対の放電電極と、一対の前記放電電極と接する放電誘発部と、を有し、
前記放電誘発部が、セラミック成分と、金属粒子と、不連続に点在する細孔と、を含み、
前記細孔の平均径が、0.05μm以上1.04μm以下である。
【0007】
過渡電圧保護部品が、上記の特徴を有することで、従来よりも低い放電開始電圧と高いESD耐量とを得ることができる。
【0008】
好ましくは、前記放電誘発部の断面における前記金属粒子の合計面積に対する前記細孔の合計面積の比が、0.45以上1.24以下である。
【0009】
好ましくは、前記金属粒子に関する最近接粒子間距離の平均が、0.25μm以上0.81μm以下である。
【0010】
好ましくは、前記金属粒子が、Pd、AgおよびPtの少なくとも1つを主成分として含む。
【0011】
好ましくは、前記放電誘発部が、さらに、ジルコニア粒子を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る過渡電圧保護部品を示す斜視図である。
図2A図2Aは、図1に示すIIA-IIA線に沿う断面図である。
図2B図2Bは、図1に示すIIB-IIB線に沿う断面図である。
図3A図3Aは、放電誘発部の断面を示す模式図である。
図3B図3Bは、放電誘発部における最近接粒子間距離の計測方法を示す模式図である。
図4A図4Aは、放電電極の断面を示す模式図の一例である。
図4B図4Bは、放電電極の断面を示す模式図の他の一例である。
図4C図4Cは、放電電極の断面を示す模式図の他の一例である。
図5図5は、過渡電圧保護部品の製造過程で使用するグリーンシートの平面図である。
図6図6は、過渡電圧保護部品の製造過程で使用するグリーンチップの分解斜視図である。
図7A図7Aは、過渡電圧保護部品の変形例を示す断面図である。
図7B図7Bは、過渡電圧保護部品の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下に説明する本開示の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、実施形態に係る各構成要素、たとえば、数値、形状、材料、製造工程などは、技術的に問題が生じない範囲内で改変したり、変更したりしてもよい。また、本開示の図面に表された形状等は、実際の形状および寸法とは必ずしも一致しない。各図面では、説明のために形状および寸法を改変している場合があるためである。
【0014】
第1実施形態
図1に示すように、本実施形態に係る過渡電圧保護部品2は、六面体形状(直方体形状)を有する素体10と、素体10の外面に形成してある一対の外部電極(第1外部電極6および第2外部電極8)と、を有する。
【0015】
素体10は、X軸に略垂直な一対の端面10aと、Y軸に略垂直な一対の側面10bと、Z軸に略垂直な一対の主面10cと、を有する。素体10の寸法は、特に限定されず、用途に応じて適当な寸法とすればよい。なお、各図面において、X軸、Y軸、およびZ軸は、相互に略垂直である。
【0016】
第1外部電極6は、一方の端面10aを覆っており、当該端面10aから側面10bおよび主面10cの一部に回り込むように形成してある。第2外部電極8は、他方の端面10aを覆っており、当該端面10aから側面10bおよび主面10cの一部に回り込むように形成してある。第1外部電極6および第2外部電極8は、X軸方向で互いに接触しないように絶縁されている。
【0017】
図2Aは、過渡電圧保護部品2を、Y軸方向の略中央で切断したX-Z断面である。一方、図2Bは、過渡電圧保護部品2を、Z軸方向の略中央で切断したX-Y断面である。図2Aおよび図2Bに示すように、素体10は、複数の絶縁体層11と、一対の放電電極20と、放電誘発部30と、空洞部15と、を有している。
【0018】
複数の絶縁体層11は、いずれも電気絶縁性を有する焼結体であり、Z軸方向に沿って積層してある。隣接する絶縁体層11同士の層間は、境界が視認できない程度に一体化されている。絶縁体層11の厚み、および、積層数は、特に限定されず、素体10の寸法に応じて適宜決定すればよい。
【0019】
一対の放電電極20のうち、第1外部電極6に対して電気的に接続されている放電電極を「第1放電電極21」と称し、第2外部電極8に対して電気的に接続されている他方の放電電極を「第2放電電極22」と称することとする。なお、以下の説明において、総称として「放電電極20」を使用する場合は、第1放電電極21と第2放電電極22の両方に共通する特徴を説明していることを意味する。
【0020】
各放電電極20は、長矩形の平面視形状を有する電極層であり、所定の絶縁体層11の間に介在している。各放電電極20の平均厚みTDEは、特に限定されず、たとえば、2μm以上20μm以下としてもよく、3μm以上10μm以下であることが好ましい。第1放電電極21と、第2放電電極22とは、異なる平均厚みを有していてもよいが、第1放電電極21と第2放電電極22が、同程度の平均厚みを有していることが好ましい。
【0021】
また、第1放電電極21および第2放電電極22は、いずれも、同一の絶縁体層11の上に積層してあり、主面10cから第1放電電極21までのZ軸方向の距離と、主面10cから第2放電電極22までのZ軸方向の距離とは、略同一である。すなわち、第1放電電極21と第2放電電極22とは、Z軸方向において、同程度の高さに位置する。ただし、第1放電電極21と第2放電電極22とは、X軸方向で直に接触しないように、互いに離間して配置されている。
【0022】
第1放電電極21は、引出部21aと、対向部21bと、を有している。引出部21aは、X軸方向の外側に向いている第1放電電極21の端部である。この引出部21aは、素体10の端面10aに露出して、第1外部電極6に対して電気的に接続されている。一方、対向部21bは、X軸方向の内側に向いている第1放電電極21の端部である。この対向部21bは、空洞部15の内側に位置しており、第2放電電極22の対向部22bと対向している。
【0023】
第2放電電極22は、引出部22aと、対向部22bと、を有している。引出部22aは、X軸方向の外側に向いている第2放電電極22の端部である。この引出部22aは、素体10の端面10aに露出して、第2外部電極8に対して電気的に接続されている。一方、対向部22bは、X軸方向の内側に向いている第2放電電極22の端部である。この対向部22bは、空洞部15の内側に位置しており、第1放電電極21の対向部21bと対向している。
【0024】
対向部21bと対向部22bとは、X軸方向で離間しており、この離間している部分であるギャップGが、対向部21bと対向部22bとの間に形成されている。第1外部電極6と第2外部電極8との間に所定値以上の電圧が印加されると、ギャップGにおいて、放電が生じる。過渡電圧保護部品2は、対向部21bと対向部22bとの間における上記放電により、保護対象(DUP:Device Under Protection)に対して過渡電圧が印加されることを防ぐ役割を担う。
【0025】
なお、ギャップGのX軸方向の幅は、特に限定されず、所望の放電特性が得られるように適宜決定すればよい。たとえば、ギャップGのX軸方向の幅は、10μm以上150μm以下としてもよく、30μm以上100μm以下であることが好ましい。また、放電誘発部30上で互いに対向している放電電極の対向部分の長さLG(各対向部(21b,22b)のY軸方向の長さ)は、特に限定されず、たとえば、10μm以上500μm以下としてもよく、30μm以上200μm以下であることが好ましい。ギャップGのX軸方向の幅に対する長さLGの比(LG/G)は、たとえば、0.1以上30以下としてもよく、0.5以上10以下であることが好ましい。
【0026】
放電誘発部30は、積層方向において両方の放電電極20と接するように、放電電極20のZ軸下方に積層してある。換言すると、放電誘発部30は、第1放電電極21と第2放電電極22との間に跨って形成してあり、対向部21bと対向部22bとを接続している。放電誘発部30は、積層方向から見て、略矩形の平面視形状を有している。そして、放電誘発部30のX軸方向の幅は、ギャップGの幅よりも大きく、放電誘発部30のY軸方向の幅は、対向部のY軸方向の幅よりも大きいことが好ましい。放電誘発部30の平均厚みTAEは、特に限定されず、たとえば、1μm~15μmとすることが好ましい。この放電誘発部30は、第1放電電極21と第2放電電極22との間の放電を発生し易くする機能を有する。
【0027】
空洞部15は、過渡電圧保護部品2の製造過程において、有機物成分(ラッカー)を焼失させることにより形成する空間である。図2Aに示すように、空洞部15を画成している面には、第1放電電極21の対向部21b近傍の表面、第2放電電極22の対向部22b近傍の表面、放電誘発部30の表面、および、放電電極20の上方に位置する絶縁体層11の下面が含まれる。空洞部15の形状や寸法は、特に限定されないが、空洞部15は、積層方向から見て、放電電極20同士の対向部分、および、放電誘発部30を覆うように形成してあることが好ましい。この空洞部15は、放電時において、第1放電電極21、第2放電電極22、放電電極20に近接する絶縁体層11、および、放電誘発部30の熱膨張を吸収する機能を有する。
【0028】
次に、各構成要素の材質などの特徴について詳述する。
【0029】
絶縁体層11は、絶縁性を有する無機化合物で構成してあればよく、絶縁体層11の組成は、特に限定されない。たとえば、絶縁体層11は、Fe23、NiO、酸化銅(CuO,Cu2O)、ZnO、MgO、SiO2、TiO2、MnCO3、SrCO3、CaCO3、BaCO3、Al23、ZrO2、および、B23から選択される1種または2種以上の無機化合物を含んでいてもよい。特に、ZrO2、または/および、酸化銅が絶縁体層11に含まれることが好ましい。2種以上の無機化合物が含まれる場合、当該無機化合物は、複合化合物として存在していてもよい(たとえば、CaZrO3など)。また、絶縁体層11には、上記の無機化合物と共に、ガラスが含まれていてもよく、希土類元素などを含む副成分化合物が含まれていてもよい。
【0030】
放電電極20は、導電性金属の焼結体層である。すなわち、放電電極20の主成分は、導電性金属であり、放電電極20は、主成分として、Ag、Pd、Au、Pt、Cu、Ni、Al、Mo、W、または、これら金属元素のうち少なくとも1種以上を含有する合金を含んでいてもよい。特に、放電電極20は、Pd、AgもしくはPtを主成分とすることが好ましく、Pd、Pt、およびAg-Pd合金の少なくとも1つを用いることが好ましい。放電電極20における主成分の含有量は、30wt%以上であってもよく、50wt%以上であることが好ましく、80wt%以上であることがより好ましく、90wt%以上であることがさらに好ましい。
【0031】
第1放電電極21と第2放電電極22とで、主成分が異なっていてもよいが、第1放電電極21および第2放電電極22は、同種の主成分で構成されることが好ましい。また、放電電極20には、S,Pなどの非金属成分が微量(たとえば1wt%以下)含まれていてもよい。
【0032】
放電誘発部30は、図3Aに示すように、セラミック成分31と、金属粒子33と、細孔36と、を含む。放電誘発部30におけるセラミック成分31は、基材であるガラス31aと、非ガラスのセラミック粒子31bとを含むことが好ましい。図3Aに示す断面では、金属粒子33、セラミック粒子31b、および、細孔36が、それぞれ、基材であるガラス31a中に分散している。
【0033】
金属粒子33は、素体10の焼成温度よりも高い融点(固相線温度)を有する。具体的に、金属粒子33としては、Ag粒子、Pd粒子、Au粒子、Pt粒子、Cu粒子、Ag-Pd合金粒子、Ag-Au合金粒子、Ag-Pt合金粒子などを用いることができる。金属粒子33はPd、AgおよびPtの少なくとも1つを主成分として含むことが好ましく、Pd粒子、Pt粒子、およびAg-Pd合金粒子の少なくとも1つを用いることが好ましい。ここで、各金属粒子33に含まれる主成分の含有率は、30wt%以上であることが好ましく、50wt%以上であることがより好ましい。
【0034】
放電誘発部30の断面における金属粒子33の平均粒径dMは、2.0μm以下であることが好ましく、0.1μm以上2.0μm以下であることがより好ましい。また、放電誘発部30の断面における金属粒子33の面積割合SMは、10%以上50%以下であることが好ましく、15%以上35%以下であることがより好ましい。
【0035】
金属粒子33の平均粒径dMおよび面積割合SMは、図3Aに示すような放電誘発部30の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)または走査透過型電子顕微鏡(STEM)などの電子顕微鏡を用いて観察し、得られた断面写真を画像解析することで、算出すればよい。たとえば、金属粒子33の平均粒径dMを算出する際には、少なくとも100個の金属粒子33の円相当径を計測して、金属粒子33の粒度分布を得ることが好ましい。当該粒度分布において、個数基準の累積頻度が50%となる粒子径を、金属粒子33の平均粒径dMとして算出すればよい。また、金属粒子33の面積割合SMは、放電誘発部30の解析した断面の合計面積をAAEとし、当該断面に含まれる金属粒子33の合計面積をAMとして、「SM(%)=(AM/AAE)×100」で表すことができる。金属粒子33の面積割合を算出する際には、複数の断面画像を解析し、AAEを少なくとも400μm2に設定することが好ましい。
【0036】
ガラス31aは、金属粒子33の間に介在し、金属粒子33同士を接合している。また、ガラス31aは、金属粒子33の間に介在することで、金属粒子33の間の絶縁性の確保、および、放電誘発部30の緻密性の確保に寄与する。ガラス31aの含有率は、放電誘発部30に含まれるセラミック成分100wt%に対して、10wt%以上であることが好ましく、12wt%以上であることがより好ましい。ガラス31aの含有率の上限値は、特に限定されず、100wt%とすることもできるが、好ましくは50wt%以下である。
【0037】
ガラス31aには、主要成分として、たとえば、SiO2、TiO2、および、アルカリ土類金属成分から選択される1種以上が含まれていてもよい。ここで、アルカリ土類金属元素とは、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Raの総称であり、本実施形態における「アルカリ土類金属成分」とは、アルカリ土類金属元素を含む酸化物などの化合物を意味する。ガラス31aには、1種または複数種のアルカリ土類金属成分が含まれていてもよい。アルカリ土類金属元素を記号Mで表すと、ガラス31aに含まれるアルカリ土類金属成分は、化学式MOで表される酸化物であることが好ましい。特に、CaO、SrO、および、BaOから選択される1種以上が、アルカリ土類金属成分として、ガラス31aに含まれることが好ましい。
【0038】
ガラス31aには、上記の主要成分に加えて、B23、Al23などのその他成分が含まれていてもよい。その他成分の含有率は、特に限定されず、たとえば、B23の含有率は、放電誘発部30のセラミック成分100wt%に対して、0.1wt%~20wt%であってもよい。
【0039】
また、ガラス31aには、K2OやNa2Oなどのアルカリ金属成分が含まれていてもよい。ただし、アルカリ金属成分は、金属粒子33の粒成長を助長する恐れがある。そのため、放電誘発部30におけるアルカリ金属成分の含有率は、セラミック成分100wt%に対して、2wt%以下であることが好ましく、アルカリ金属成分が実質的に含まれないことがより好ましい。「アルカリ金属成分が実質的に含まれない」とは、アルカリ金属成分の含有率が0.1wt%未満であることを意味する。なお、アルカリ金属とは、Li、Na、K、Rb、Cs、Frの総称であり、本実施形態における「アルカリ金属成分」とは、アルカリ金属元素を含む化合物を意味する。通常、ガラスに含まれるアルカリ金属成分は、Li2O、Na2O、K2Oなどである。
【0040】
上述したガラス31aなどのセラミック成分31の組成は、たとえば、エネルギー分散型X線分析(EDX)、電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)、透過型電子顕微鏡(TEM)の電子線回折、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析(LA-ICP-MS)、蛍光X線分析(XRF)などの各種成分分析法を用いて解析することができる。たとえば、SEM、STEM、または、TEMなどの電子顕微鏡を用いた放電誘発部30の断面観察では、コントラストに基づいて、セラミック成分31と金属粒子33とを識別できる。そして、EDXまたはEPMAを用いて、金属粒子33の組成、および、ガラス31aなどのセラミック成分31の組成を解析してもよい。もしくは、金属粒子33の組成を同定した後に、金属粒子33の構成元素以外の元素を、セラミック成分31の構成元素として認定し、ICPおよびXRFなどの各種成分分析法により、セラミック成分31を構成する各化合物の含有率を算出してもよい。
【0041】
前述したように、放電誘発部30のセラミック成分31には、ガラス31aに加えて、非ガラス材料のセラミック粒子31bが含まれていることが好ましい。セラミック粒子31bの材質としては、たとえば、SnO2およびRuO2などの半導体化合物、誘電体化合物、ジルコニア(ZrO2)、および、アモルファスシリカなどが挙げられ、セラミック粒子31bがジルコニア粒子であることがより好ましい。セラミック粒子31bの平均粒径dCAは、特に限定されず、たとえば、2.0μm以下であることが好ましく、0.01μm以上1.0μm以下であることがより好ましい。
【0042】
また、セラミック粒子31bがジルコニア粒子である場合、セラミック粒子31bの含有率は、放電誘発部30のセラミック成分100wt%に対して、0wt%~90wt%としてもよく、10wt%~80wt%であることが好ましい。換言すると、放電誘発部30の断面におけるジルコニア粒子(セラミック粒子31b)の面積割合SCAは、0%以上85%以下としてもよく、8%以上70%以下であることが好ましい。
【0043】
なお、ガラス31a中に分散しているジルコニア粒子などのセラミック粒子31bは、たとえば、EDXまたはEPMAを用いたマッピング分析により識別することができる。したがって、セラミック粒子31bの平均粒径dCAおよび面積割合SCAは、マッピング画像を解析し、金属粒子33の場合と同様の方法で算出すればよい。つまり、放電誘発部30の断面解析において、少なくとも100個のセラミック粒子31bの円相当径を計測して、セラミック粒子31bの粒度分布を得て、個数基準の累積頻度が50%となる粒子径を、平均粒径dCAとして算出すればよい。また、セラミック粒子31bの面積割合SCAは、放電誘発部30の解析した断面の合計面積をAAEとし、当該断面に含まれるセラミック粒子31bの合計面積をACAとして、「SCA(%)=(ACA/AAE)×100」で表すことができる。この際、複数の断面画像を解析し、AAEを少なくとも400μm2に設定することが好ましい。
【0044】
放電誘発部30の細孔36は、放電誘発部30の内部において不連続に点在しており、0.05μm以上1.04μm以下の平均径dPAを有する。細孔36の平均径dPAは、0.10μm以上1.00μm未満であることが好ましく、0.15μm以上0.74μm以下であることがより好ましい。
【0045】
細孔36の平均径dPAは、放電誘発部30の断面における細孔36の円相当径の算術平均値であり、SEMまたはSTEMなどの電子顕微鏡を用いた放電誘発部30の断面解析により算出すればよい。具体的に、放電誘発部30の断面で観測される各細孔36の面積を計測し、当該面積から各細孔36の円相当径を特定すればよい。当該解析では、少なくとも100個の細孔36の円相当径を特定して、平均径dPAを算出することが好ましい。なお、放電誘発部30の断面解析では、コントラストに基づいて、細孔36を識別することができ、コントラストとマッピング分析の結果を参酌して細孔36を識別してもよい。
【0046】
上述した平均径dPAを有する微小な細孔36を、放電誘発部30の内部に分散させることで、放電開始電圧を低減でき、かつ、ESD耐量を向上させることができる。このような効果が得られる理由は、必ずしも明らかではないが、以下の事由が考えられる。
【0047】
前述のとおり、ESDなどの過渡電圧が生じると、放電誘発部30の表面に存在する放電電極20の間のギャップGで、放電が発生する。本実施形態の過渡電圧保護部品2では、放電が、放電誘発部30の表面で発生するだけでなく、放電誘発部30の内部で、微小な細孔36を介した放電が発生すると考えられる。この微小な細孔36を介した放電によりESD吸収効果が高まり、放電開始電圧を低くすることができると考えられる。また、微小な細孔36を介した放電により、放電電極20の間のギャップGで発生する放電を分散させることができ、ESD耐量が向上すると考えられる。
【0048】
放電誘発部30の断面における細孔36の面積割合SPAは、たとえば、5%以上30%以下としてもよく、10%以上25%以下であることが好ましい。また、放電誘発部30の断面において、金属粒子33の合計面積に対する細孔36の合計面積の比(すなわち、金属粒子33の面積割合SMに対する細孔36の面積割合SPAの比)は、0.45以上1.24以下であることが好ましく、0.58以上0.95以下であることがより好ましい。金属粒子33の合計面積に対する細孔36の合計面積の比を上記の範囲に設定することで、放電開始電圧をより低減でき、かつ、ESD耐量をより向上させることができる。
【0049】
細孔36の面積割合SPAは、金属粒子33の面積割合SMと同様に、放電誘発部30の断面解析により算出すればよい。具体的に、放電誘発部30の解析した断面の合計面積をAAEとし、当該断面に含まれる細孔36の合計面積をAPAとして、細孔36の面積割合SPAは、「SPA(%)=(APA/AAE)×100」で表すことができる。この際、複数の断面画像を解析し、AAEは少なくとも400μm2に設定することが好ましい。なお、金属粒子33の合計面積に対する細孔36の合計面積の比は、「APA/AM(すなわち、SPA/SM)」で表すことができる。
【0050】
放電誘発部30の平均厚みTAEに対する細孔36の平均径dPAの比(dPA/TAE)は、たとえば、0.005以上0.25以下としてもよく、0.01以上0.1以下であることが好ましい。また、金属粒子33の平均粒径dMに対する細孔36の平均径dPAの比(dPA/dM)は、たとえば、0.05以上1.00未満であることが好ましく、0.1以上0.8以下であることがより好ましい。
【0051】
放電誘発部30がセラミック粒子31bを含む場合、セラミック粒子31bの平均粒径dCAに対する細孔36の平均径dPAの比(dPA/dCA)は、たとえば、1.00以上50以下としてもよく、3.00超過30以下であることが好ましい。特に、セラミック粒子31bがジルコニア粒子である場合は、dPA/dCAが、3.00以上30以下であることが好ましく、3.00超過20以下であることがより好ましい。
【0052】
また、放電誘発部30がセラミック粒子31bを含む場合、セラミック粒子31bの合計面積に対する細孔36の合計面積の比(APA/ACA、すなわちSPA/SCA)は、たとえば、0.1以上2.00以下としてもよく、0.25以上1.00未満であることが好ましい。特に、セラミック粒子31bがジルコニア粒子である場合、APA/ACAが、0.25以上1.00未満であることが好ましく、0.30以上0.80以下であることがより好ましい。
【0053】
放電誘発部30の断面において、金属粒子33に関する最近接粒子間距離の平均(EDAve)が、0.20μm以上1.00μm以下であってもよく、0.25μm以上0.81μm以下であることが好ましく、0.30μm以上0.65μm以下であることがより好ましい。
【0054】
一般的に、放電誘発部における金属粒子の含有率を増やすと、ESD吸収効果が高まることが期待できるが、その一方で、金属粒子の含有率が高いと、放電誘発部を介して一対の放電電極がショートしてしまうことがある。本実施形態の過渡電圧保護部品2では、微小な細孔36が分散している放電誘発部30において、金属粒子33に関する最近接粒子間距離の平均(EDAve)を上記の範囲に設定することで、放電電極20間のショートを抑制しつつ、低い放電開始電圧と良好なESD耐量とをより好適に両立させることができる。
【0055】
最近接粒子間距離の平均(EDAve)は、以下に示す手順で算出すればよい。まず、放電誘発部30の断面で観測される金属粒子33のうちから、測定対象とする中心粒子CPを任意に選定する(図3B参照)。そして、選定した中心粒子CPの周囲に存在する他の金属粒子33のうち、最も中心粒子CPに近接している金属粒子33を最近傍粒子として特定する。たとえば、図3Bに示す断面では、中心粒子CPの周囲にP1~P7の7つの金属粒子33が存在しており、このうちのP5で示す金属粒子33が最近傍粒子に該当する。
【0056】
次に、中心粒子CPと最近傍粒子との重心間距離CDを計測し、当該重心間距離CDから金属粒子33の平均粒径dMを差し引くことで、エッジ間距離EDを算出する。すなわち、図4Bに示す中心粒子CPと最近傍粒子P5とのエッジ間距離は、「ED=CD-dM」で表される。少なくとも100個の金属粒子33を中心粒子CPとして任意に選定し、上記の測定を実施し(すなわちエッジ間距離のn数を少なくとも100として)、最近接粒子間距離の平均(EDAve)を算出することが好ましい。
【0057】
第1外部電極6および第2外部電極8は、いずれも、焼付電極層や、樹脂電極層、メッキ電極層などを含むことができ、単一の電極層で構成してあってもよいし、複数の電極層を積層して構成してあってもよい。一般的には、素体10と接する下地電極として焼付電極層または樹脂電極層を形成し、その下地電極の表面に単層または複数層のメッキ電極層を形成する。
【0058】
焼付電極層を形成する場合、当該焼付電極層には、導電材として、Ag、Cu、Pd、Au、Ni、または、これら金属元素のうち少なくとも1種以上を含む合金が含まれる。その他、ガラスフリットや酸化物粒子が含まれていてもよい。樹脂電極層を形成する場合、樹脂電極層には、上記焼付電極層と同様の導電材が含まれ、その他、熱硬化性樹脂が含まれる。メッキ電極層を形成する場合は、過渡電圧保護部品2の実装方法や使用環境を考慮して、メッキ電極層の種類および積層数を決定すればよい。たとえば、メッキ電極層として、Niメッキ/Snメッキ、Cuメッキ/Niメッキ/Snメッキ、Niメッキ/Pdメッキ/Auメッキ、Niメッキ/Pdメッキ/Agメッキ、Niメッキ/Agメッキなどを採用することができる。
【0059】
次に、図5および図6に基づいて、過渡電圧保護部品2の製造方法の一例について説明する。
【0060】
まず、絶縁体層11の構成成分を含む絶縁体層用スラリーを調合する。具体的に、絶縁体層用スラリーは、ガラスフリットなどの絶縁材料の原料粉末を、有機溶媒と有機バインダとを含む有機ビヒクルに加えて混練することで、得られる。その後、ドクターブレード法などにより、当該スラリーを、PETフィルム上に塗布し、適宜乾燥させることで、複数のグリーンシートを得る。本実施形態では、放電部用パターンを印刷するシートを、第1グリーンシート110と称し、放電部用パターンを印刷しないシートを、第2グリーンシート111と称する。
【0061】
次に、放電誘発部用ペーストを用いて、第1グリーンシート110の上に、図5に示すような放電誘発部パターン130を形成する。放電誘発部用ペーストは、セラミック成分31の原料、金属粉末、および、焼失材を含む有機ビヒクルを、混練することで製造すればよい。セラミック成分31の原料としては、たとえば、ガラス31aの原料であるガラスフリットが挙げられ、使用するガラスフリットの組成によりガラス31aの組成を制御することができる。また、セラミック粒子31bを放電誘発部30に添加する場合は、セラミック粒子31bの原料として、半導体粉末もしくはジルコニア粉末などの非ガラス系セラミック粉末を、放電誘発部用ペーストに添加すればよい。
【0062】
細孔36を形成する方法としては、アクリルビーズなどの樹脂ビーズを添加して、3本ロールミルなどで混練した放電誘発部用ペースト使用することが考えられる。ただし、このような方法で製造した放電誘発部用ペーストを用いても、1μm以下の平均径dPAを有する細孔36を形成することが困難である。所定の平均径dPAを有する微小な細孔36を放電誘発部30中に点在させるためには、放電誘発部用ペーストに所定の焼失材を添加し、かつ、2段階の混練工程で放電誘発部用ペーストを製造することが好ましい。
【0063】
まず、放電誘発部用ペーストに添加する焼失材は、細孔36を形成するための原料であり、焼成中に熱分解して焼失する有機物成分である。本実施形態では、有機ビヒクル中の溶媒に可溶な高分子化合物を、焼失材として使用することが好ましい。つまり、放電誘発部用ペーストにおいて、細孔36の原料である焼失材が、液体として存在していることが好ましい。たとえば、有機ビヒクルの溶媒としては、エタノール、メチルエチルケトン(MEK)、ブチルカルビトール、または、ターピネオールなどの有機溶媒を使用すればよく、このような有機溶媒に可溶な焼失材としては、セルロース樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、および、塩化ビニル樹脂などが挙げられる。上記の高分子化合物の中でも、セルロース樹脂を使用することが好ましく、特に、エチルセルロースを使用することがより好ましい。
【0064】
また、放電誘発部用ペーストを混練する際には、まず、高圧湿式微粒化装置を用いて原料ペーストを粉砕(第1混練工程)し、当該第1混練工程後の原料ペーストを、さらに他の混練機を用いて混練(第2混練工程)することが好ましい。第1混練工程で使用する高圧湿式微粒化装置では、装置に投入した原料ペーストを2つの経路に分岐させ、分岐後の原料ペーストを、加圧(最高245MPa)した状態で、チャンバー内で互いに斜向衝突させる。この高圧湿式微粒化装置を用いた第1混練工程により、放電誘発部用ペースト中の原料(ガラスフリット、非ガラス系セラミック粉末、および、金属粉末など)を微粒化し、分散性を向上させることができる。第2混練工程では、ボールミル、ビーズミル、3本ロールミル、もしくは、ホモジナイザーなどの他の混練機を用いることができ、3本ロールミルを用いることがより好ましい。
【0065】
上記の2段階の混練工程により、放電誘発部用ペーストの分散性および均質性をより向上させることができる。つまり、2段階の混練工程により、細孔36の平均径dPAを小さくすることができ、かつ、金属粒子33に関する最近接粒子間距離を所望の範囲に制御することができる。細孔36の平均径dPAおよび面積割合SPAは、放電誘発部ペーストにおける原料の配合比、および、第1混練工程(高圧湿式微粒化装置による処理)の条件などに基づいて制御すればよい。
【0066】
なお、放電誘発部パターン130は、スクリーン印刷などの各種印刷法、転写法、または塗布法などにより、形成すればよい。
【0067】
次に、放電電極用ペーストを用いて、第1グリーンシート110の上に、図5に示すような導体パターン120を形成する。放電電極用ペーストは、放電電極20の原料である導電性粉末と、有機ビヒクルとを混練することで製造すればよい。放電電極用ペーストを混練する方法は、特に限定されず、たとえば、ボールミル、ビーズミル、3本ロール、ホモジナイザー、もしくは、高圧湿式微粒化装置などを用いてもよく、上記の装置のうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
導体パターン120は、第1グリーンシート110の表面と放電誘発部パターン130の表面とに跨るようにX軸方向に沿って形成する。また、導体パターン120は、放電誘発部パターン130の表面上において、所定幅のスリットSを有している。このスリットSは、導体パターン120が印刷されていない途切れ部分であり、焼成後にギャップGとなる。導体パターン120についても、放電誘発部パターン130と同様の方法で形成することができる。
【0069】
次に、空洞用ラッカーを用いて、放電誘発部パターン130および導体パターン120が印刷してある第1グリーンシートの上に、空洞用パターン150を形成する。空洞用ラッカーには、焼成時に焼失する有機溶剤および有機バインダが含まれており、空洞用パターン150は、放電電極20の対向部分に空洞部15を形成するために用いられる。空洞用パターン150は、図5に示すように、対向部21b,22bとなる導体パターン120の一部と、放電誘発部パターン130と、を覆うように形成することが好ましい。上記の工程により、放電誘発部パターン130、導体パターン120、および、空洞用パターン150を含む放電部用パターンが印刷された第1グリーンシート110が得られる。
【0070】
次に、放電部用パターンを有する第1グリーンシート110と、複数の第2グリーンシート111とを積層し、積層方向にプレスすることでグリーンチップ100を得る。この際、第1グリーンシート110は、図6に示すように第2グリーンシート111の間に積層する。第2グリーンシート111の積層数は、特に限定されず、第1グリーンシート110の上方と下方とで、第2グリーンシート111の積層数が異なっていてもよい。
【0071】
なお、図5および図6では、説明を簡略化するために、単一のグリーンチップを形成する過程を図示している。ただし、実際の製造工程では、通常、素体10よりもX-Y平面方向の寸法が大きいグリーンシートを準備し、当該グリーンシートの表面上に複数の放電部用パターンを連続して印刷する。そして、当該グリーンシートを用いてマザー積層体を形成し、このマザー積層体を所定間隔で切断することで複数のグリーンチップを得る。
【0072】
次に、上記工程で得られたグリーンチップ100に対して、焼成処理を施し、素体10を得る。焼成処理の条件は、特に限定されず、素体10に含まれる成分に応じて、素体10が焼結する条件を選択すればよい。たとえば、保持温度を800℃~1200℃とし、温度保持時間を0.1~3時間とし、焼成雰囲気を大気雰囲気、不活性ガス雰囲気、もしくは還元雰囲気としてもよい。この焼成処理の過程で、空洞用パターン150が焼失し、空洞用パターン150の積層箇所に空洞部15が形成される。また、放電誘発部パターン130中の高分子化合物(焼失材)が焼成処理の過程で焼失し、放電誘発部30の内部に細孔36が形成される。なお、焼成処理の前に、適宜、脱バインダ処理を実施してもよく、還元雰囲気で焼成した場合には、焼成後に、再酸化処理を実施してもよく、焼成後に、歪を除去するための熱処理を実施してもよい。
【0073】
次に、上記工程で得られた素体10の表面に一対の外部電極6,8を形成する。外部電極6,8の形成方法は、特に限定されない。たとえば、外部電極6,8として焼付電極層を形成する場合には、ガラスフリットを含む導電性ペーストを素体10の端面に塗布した後、素体10を所定の条件(たとえば大気中で600~800℃で1~5時間)で熱処理すればよい。また、外部電極6,8として樹脂電極を形成する場合には、熱硬化性樹脂を含む導電性ペーストを素体10の端面に塗布し、その後、素体10を熱硬化性樹脂が硬化する温度で加熱すればよい。さらに、上記の方法で焼付電極または樹脂電極を形成した後、スパッタリング、蒸着、電解メッキ、もしくは無電解メッキなどを施し、多層構造を有する外部電極6,8を形成してもよい。
【0074】
以上の製造過程により、図1に示す過渡電圧保護部品2が得られる。
【0075】
(第1実施形態のまとめ)
本実施形態に係る過渡電圧保護部品2は、ギャップGを介して対向している一対の放電電極20と、一対の放電電極20と接する放電誘発部30と、を有する。そして、放電誘発部30が、セラミック成分31と、金属粒子33と、不連続に点在する細孔36と、を含み、細孔36の平均径dPAが、0.05μm以上1.04μm以下である。
【0076】
過渡電圧保護部品2が上記の特徴を有することで、放電開始電圧を低減でき、かつ、ESD耐量を向上させることができる。このような効果が得られる理由は、必ずしも明らかではないが、放電誘発部30の内部での放電に起因すると考えられる。具体的に、放電誘発部30の内部では、微小な細孔36を介した放電が発生すると考えられ、この微小な細孔36を介した放電によりESD吸収効果が高まり、放電開始電圧を低くすることができると考えられる。また、微小な細孔36を介した放電により、放電電極20の間のギャップGで発生する放電を分散させることができ、ESD耐量が向上すると考えられる。
【0077】
放電誘発部30の断面において、金属粒子33の合計面積に対する細孔36の合計面積の比(APA/AM)が、0.45以上1.24以下であることが好ましい。APA/AMを上記の範囲内に制御することで、放電開始電圧をより低減でき、かつ、ESD耐量をより向上させることができる。
【0078】
放電誘発部30の断面において、金属粒子33に関する最近接粒子間距離の平均(EDAve)が、0.25μm以上0.81μm以下であることが好ましい。最近接粒子間距離の平均(EDAve)を上記の範囲に設定することで、放電電極20間のショートを抑制しつつ、低い放電開始電圧と良好なESD耐量とをより好適に両立させることができる。
【0079】
金属粒子33が、Pdを主成分として含むことが好ましい。Pdを主成分とすることで、放電による金属粒子33の溶融を抑制でき、ESD耐量をより向上させることができる。
【0080】
放電誘発部30が、セラミック粒子31bとして、ジルコニア粒子を含むことが好ましい。ジルコニア粒子を放電誘発部30の内部に分散させることで、放電によって金属粒子33の一部が溶融したとしても、隣接する金属粒子33同士の接触を抑制でき、ESD耐量をより向上させることができる。
【0081】
第2実施形態
以下、図4A図4Cに基づいて、本開示の第2実施形態について説明する。第2実施形態では、放電電極20の内部構成が、第1実施形態と異なるが、その他の構成は、前述した第1実施形態と同様である。つまり、放電誘発部30の構成は、第1実施形態と同様であり、第2実施形態においても、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。第2実施形態において、第1実施形態と共通する構成については、第1実施形態と同じ符号を付し、説明を省略する。
【0082】
第1実施形態では、放電電極20の成分として、主成分である導電性金属についてのみ説明したが、放電電極20は、導電性金属と共に、所定の介在物26を含むことが好ましい。具体的に、第2実施形態における放電電極20は、図4A図4Cに示すように、金属導体部25と、金属導体部25の内部で不連続に点在する介在物26と、を含む。
【0083】
金属導体部25は、放電電極20における基材(マトリックス相)であり、放電電極20の主成分である導電性金属を含む。たとえば、金属導体部25は、導電性金属として、Ag、Pd、Au、Pt、Cu、Ni、Al、Mo、W、または、これら金属元素のうち少なくとも1種以上を含有する合金を含んでいてもよい。特に、金属導体部25は、Pdを含むことが好ましく、放電電極20におけるPdの含有量は、80wt%以上であることがより好ましく、90wt%以上であることがさらに好ましい。
【0084】
放電電極20の内部に分散させる介在物26としては、図4Aに示すような細孔26a、および/または、図4Bに示すようなセラミック粒子26bが挙げられる。特に、放電電極20は、図4Cに示すように、細孔26a、および、セラミック粒子26bの両方を含むことがより好ましい。
【0085】
図4Aまたは図4Cに示すように、放電電極20が細孔26aを含む場合、細孔26aの平均径dPEが、0.45μm以上2.04μm以下であることが好ましく、0.60μm以上1.60μm以下であることがより好ましい。放電電極20の平均厚みTDEに対する細孔26aの平均径dPEの比(dPE/TDE)が、たとえば、0.03以上0.35以下としてもよく、0.05以上0.25以下であることが好ましい。また、放電電極20の断面における細孔26aの面積割合が、1.0%以上12.4%以下であることが好ましく、4.0%以上10.0%以下であることがより好ましい。
【0086】
上記の平均径dPEを有する細孔26aを放電電極20の内部に分散させることで、低い放電開始電圧を維持しつつ、ESD耐量をより向上させることができる。放電電極20の細孔26aにより、ESD耐量が向上する理由は、必ずしも明らかではない。放電電極20の細孔26aは、放電電極20における電荷の移動を阻害し、放電電極20の内部の電気抵抗を僅かに上昇させると考えられる。つまり、細孔26aにより、放電電極20の表面における電気抵抗が、内部よりも相対的に低くなり、電流が放電電極20の表面に集中し易いと考えられる。これにより、放電電極20間のギャップGにおける放電の発生箇所が分散され、ESD耐量の向上に繋がると考えられる。
【0087】
放電電極20における細孔26aの平均径dPEおよび面積割合は、放電誘発部30の解析と同様に、放電電極20の断面解析により測定すればよい。具体的に、細孔26aの平均径dPEは、放電電極20の断面における細孔26aの円相当径の算術平均値であり、少なくとも100個の細孔26aの円相当径を特定して平均径dPEを算出することが好ましい。また、放電電極20の解析した断面の合計面積をADEとし、当該断面に含まれる細孔26aの合計面積をAPEとして、細孔26aの面積割合は、「(APE/ADE)×100」で表すことができる。細孔26aの面積割合を算出する際には、複数の断面画像を解析し、ADEを少なくとも400μm2に設定することが好ましい。なお、放電電極20の細孔26aは、SEM画像もしくはSTEM画像におけるコントラストに基づいて、識別可能である。
【0088】
図4Bまたは図4Cに示すように、放電電極20がセラミック粒子26bを含む場合、セラミック粒子26bは、たとえば、たとえば、シリカ(SiO2)、TiO2、Al23、CaO、SrO、またはBaOを含んでいてもよく、シリカを主成分として含有することが好ましい。セラミック粒子26bにおける主成分とは、セラミック粒子26bにおいて最も含有率が高い成分を意味する。セラミック粒子26bの主成分がシリカである場合、セラミック粒子26bは、SiO2のみで構成してあってもよいし、微量元素が固溶していてもよい。
【0089】
放電電極20におけるセラミック粒子26bの平均粒径dCEは、0.05μm以上0.54μm以下であることが好ましく、0.15μm以上0.40μm以下であることがより好ましい。放電電極20の平均厚みTDEに対するセラミック粒子26bの平均粒径dCEの比(dCE/TDE)は、たとえば、0.005以上0.30以下としてもよく、0.01以上0.10以下であることが好ましい。また、放電電極20の断面におけるセラミック粒子26bの面積割合が、0.4%以上5.1%以下であることが好ましく、0.6%以上2.0%以下であることがより好ましい。
【0090】
上記の平均粒径dCEを有するセラミック粒子26bを放電電極20の内部に分散させることで、低い放電開始電圧を維持しつつ、ESD耐量をより向上させることができる。放電電極20のセラミック粒子26bにより、ESD耐量が向上する理由は、必ずしも明らかではない。放電電極20のセラミック粒子26bは、細孔26aと同様に、放電電極20の内部における電荷の移動を阻害すると考えられ、放電電極20の表面における電気抵抗が、内部よりも相対的に低くなると考えられる。また、セラミック粒子26bにより放電電極20の内部の電気抵抗が僅かに上昇することで、放電電極20における電気エネルギーの一部が熱エネルギーに変換されると考えられる。上記のような、表面への電流の集中、または/および、電気エネルギーの熱エネルギーへの変換によって、放電電極20間のギャップGにおける放電の発生箇所が分散され、ESD耐量の向上に繋がると考えられる。
【0091】
放電電極20のセラミック粒子26bは、SEM画像もしくはSTEM画像におけるコントラストに基づいて、識別可能である。また、セラミック粒子26bの平均粒径dCEおよび面積割合は、細孔26aと同様の方法で解析すればよい。
【0092】
図4Cに示すように、放電電極20が、細孔26aおよびセラミック粒子26bを両方含むことで、いずれか一方のみを含む場合(図4Aまたは図4Bの場合)よりも、ESD耐量をさらに向上させることができる。
【0093】
図4A図4Cに示すような介在物26を含む放電電極20は、介在物26の原料を添加した放電電極用ペーストを用いて形成することができる。たとえば、放電電極20に細孔26aを形成する場合は、有機物材料からなる焼失材を、放電電極用ペーストに添加すればよい。焼失材としては、アクリル樹脂のビーズ、カーボンブラック、ポリスチレン、ポリウレタン、もしくは、ポリビニルベンゼンなどの各種樹脂ビーズを用いることができ、アクリル樹脂のビーズを用いることが好ましい。放電電極20にセラミック粒子26bを分散させる場合は、セラミック粒子26bを含む粉末を放電電極用ペーストに添加すればよい。
【0094】
なお、放電誘発部30については、樹脂ビーズを使用すると1μm以下の細孔36を形成することが困難であるが、放電電極20については、樹脂ビーズを使用しても、1μm以下の細孔26aを形成できる。放電誘発部30では、金属粒子33が焼結していないのに対して、放電電極20では、放電誘発部30とは異なり、焼成の過程で、金属成分が焼結するためである。
【0095】
(第2実施形態のまとめ)
第2実施形態における過渡電圧保護部品2では、放電電極20が、細孔26a、および/または、セラミック粒子26bを含む。放電誘発部30に細孔36を形成するだけでなく、放電電極20に所定の介在物26を分散させることで、低い放電開始電圧を維持しつつ、ESD耐量のさらなる向上を図ることができる。また、放電電極20が、介在物として、細孔26aとセラミック粒子26bの両方を含むことで、細孔26aとセラミック粒子26bのいずれか一方のみを含む場合よりも、ESD耐量をより向上させることができる。
【0096】
(変形例)
以上、本開示の実施形態について説明してきたが、本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内で種々に改変することができる。
【0097】
たとえば、一対の放電電極20は、Y軸方向で対向していてもよい。図7Aに示す過渡電圧保護部品2aでは、第1放電電極21のY軸方向に沿った側縁21cと、第2放電電極22のY軸方向に沿った側縁22cとが、ギャップGを介して対向している。つまり、この側縁21c,22cが対向部であり、ESDなどの過渡電圧が発生した際の放電は側縁21cと側縁22cとの間で発生する。図7Aに示すように側縁21c,22cで放電電極20を対向させることで、端部で対向させる場合よりも、放電誘発部30上における放電電極20の対向部分の長さLGをより大きくすることができる。図7Aに示す過渡電圧保護部品2aにおいて、ギャップGのY軸方向の幅に対する対向部分の長さLGの比(LG/G)は、0.3以上とすることができ、0.5以上50以下とすることが好ましい。
【0098】
図2Aおよび図2Bでは、放電誘発部30および放電電極20の対向部分を覆うように一つの空洞部15が形成してあるが、放電電極20および放電誘発部30のZ軸上方に、複数の空洞部15が形成してあってもよい。また、一対の放電電極20、放電誘発部30、および空洞部15を、放電ユニットとすると、素体10には、放電ユニットが複数含まれていてもよい。また、過渡電圧保護部品が空洞部15を有していなくともよく、一対の放電電極間に放電誘発部30が充填してあってもよい。
【0099】
素体10には、図7Bに示すように、コイル40が含まれていてもよい。さらに、素体10には、コンデンサユニットが含まれていてもよい。コンデンサユニットは、たとえば、絶縁体層11の層間に内部電極層を積層することで構成できる。
【実施例0100】
以下、本開示をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本開示はこれら実施例に限定されない。
【0101】
実験1
実験1では、以下に示す手順で、実施例1~実施例8に係る過渡電圧保護部品を製造した。
【0102】
まず、絶縁体層用スラリーと、放電電極用ペーストと、放電誘発部用ペーストと、空洞用ラッカーと、を準備した。絶縁体層用スラリーには、有機ビヒクルと共に、絶縁体層の原料粉末としてガラス、ジルコニアを添加した。放電電極用ペーストには、有機ビヒクルと、0.5μmの平均粒径を有するPd粉末とを添加した。
【0103】
放電誘発部用ペーストの製造では、原料として、0.5μmの平均粒径を有するPd粉末と、ガラスフリットと、0.05μmの平均粒径を有するジルコニア粉末と、エチルセルロース(焼失材)と、エタノール(溶媒)と、を使用した。なお、ガラスフリットとしては、SiO2、SrO、CaO、および、B23を含むガラスフリットを使用した。
【0104】
上記の原料を混合した後、得られた混合物を、高圧湿式微粒化装置を用いて、200MPaの圧力で、粉砕した。その後、得られたスラリー中のエタノール溶媒を蒸発させ、スラリーを濃縮させた。さらに、濃縮後のスラリーを3本ロールミルで混練し、放電誘発部用ペーストを得た。各実施例で製造した放電誘発部用ペーストの配合比を、表1に示す。表1では、Pd粉末、ガラスフリット、ジルコニア粉末、および、焼失材の合計量を100vol%として、各原料の配合比(vol%)を示している。
【0105】
【表1】
【0106】
次に、上記の絶縁体層用スラリーを用いて、グリーンシートを作製した。そして、放電誘発部用ペースト、放電電極用ペースト、および空洞用ラッカーを、記載の順番にグリーンシートの上に塗布し、放電部用パターンを形成した。
【0107】
次に、放電部用パターンを印刷したグリーンシートと、放電部用パターンを有していないグリーンシートとを、図6に示すような所定の順番に積層し、積層方向でプレスすることでマザー積層体を得た。その後、マザー積層体を切断することで、複数のグリーンチップを得た。
【0108】
次に、各グリーンチップを、大気雰囲気中において800~1200℃で0.1~1時間、焼成することで、焼結体である素体を得た。その後、Agを含む導電性ペーストを各素体の外面に塗布し、素体を700℃で1時間、加熱することで、Agを含む焼付電極を形成した。以上の工程により、図1図2Bに示す構造を有する過渡電圧保護部品を得た。
【0109】
(比較例1)
比較例1では、焼失材を含まない放電誘発部用ペーストを使用した。具体的に、焼失材を添加せずに、ガラスフリットと、0.5μmの平均粒径を有するPd粉末と、0.05μmの平均粒径を有するジルコニア粉末と、エタノール(溶媒)と、を混合した。その後、得られた混合物を、高圧湿式微粒化装置を用いて、200MPaの圧力で、粉砕した。加えて、高圧湿式微量化装置を用いた粉砕により得られたスラリー中のエタノール溶媒を蒸発させ、スラリーを濃縮させた。さらに、濃縮後のスラリーを、3本ロールミルを用いて混練し、放電誘発部用ペーストを得た。比較例1では、放電誘発部用ペースト以外の製造条件は、各実施例と同様として、過渡電圧保護部品を製造した。
【0110】
(比較例2)
比較例2では、放電誘発部用ペーストの製造に際して、各原料を実施例8と同じ配合比で混合した。ただし、高圧湿式微粒化装置を使用することなく、3本ロールミルのみで放電誘発部用ペーストを混練した。比較例2では、放電誘発部用ペーストの混練方法以外の製造条件は、実施例8と同様として、過渡電圧保護部品を製造した。
【0111】
(比較例3)
比較例3では、焼失材としてエチルセルロースに代えて、アクリル樹脂のビーズを添加した放電誘発部用ペーストを使用した。具体的に、比較例3では、1μmの平均粒径を有するアクリル樹脂のビーズと、ガラスフリットと、0.5μmの平均粒径を有するPd粉末と、0.05μmの平均粒径を有するジルコニア粉末と、有機ビヒクルと、を混合した。その後、得られた混合物を、高圧湿式微粒化装置を用いて、200MPaの圧力で、粉砕した。加えて、高圧湿式微量化装置を用いた粉砕により得られたスラリー中のエタノール溶媒を蒸発させ、スラリーを濃縮させた。さらに、濃縮後のスラリーを3本ロールミルを用いて混練し、放電誘発部用ペーストを得た。比較例3では、放電誘発部用ペースト以外の製造条件は、各実施例と同様として、過渡電圧保護部品を製造した。
【0112】
各実施例および各比較例の過渡電圧保護部品に対して、以下に示す評価を実施した。
【0113】
(放電誘発部の断面解析)
過渡電圧保護部品を、図2Aに示すような断面が現れるように切断し、切断後の断面を鏡面研磨した。そして、放電誘発部の断面をSEMで観察し、放電誘発部に含まれる細孔の平均径dPA(μm)、細孔の面積割合(%)、および、金属粒子の面積割合(%)を測定した。細孔の平均径は、100個の細孔の円相当径を計測することで算出し、細孔の面積割合、および、金属粒子の面積割合を算出する際には、解析した放電電極の断面の合計面積を、400μm2に設定した。そして、細孔および金属粒子の面積割合から、金属粒子の合計面積に対する細孔の合計面積の比(APA/AM)を算出した。
【0114】
また、放電誘発部の断面解析では、100個の金属粒子を任意に選定し、選定した金属粒子を中心粒子CPとして、実施形態で述べた方法で、最近接粒子間距離の平均EDAveを算出した。
【0115】
(放電特性の評価)
各試料の放電開始電圧(kV)およびESD耐量(kV)を、IEC61000-4-2に定められている静電気放電イミュニティ試験によって測定した。本実験では、放電開始電圧が2.7kV以下で、かつ、ESD耐量が14kV以上である試料を「良好」と判定し、放電開始電圧が2.0kV以下で、かつ、ESD耐量が17kV以上である試料を「特に良好」と判定した。
【0116】
各実施例および各比較例の評価結果を、表2に示す。なお、放電誘発部における細孔の平均径、および、APA/AMの欄には、「-」の記載があるが、当該「-」は、5000倍の観察倍率で放電誘発部の断面を観察した際に、細孔を確認できなかったことを意味する。つまり、「-」が記載されている比較例1では、放電誘発部中に細孔が含まれていなかった。また、放電特性の欄には、「ND」の記載があるが、当該「ND」は、放電電極間がショートしたことにより、放電開始電圧およびESD耐量が測定不能であったことを意味する。
【0117】
【表2】
【0118】
表2に示すように、実施例1~実施例8では、比較例1~比較例3よりも放電開始電圧を低減でき、かつ、ESD耐量を向上させることができた。この結果から、0.05μm以上1.04μm以下の平均径dPAを有する細孔を放電誘発部の内部に分散させることで、低い放電開始電圧と、高いESD耐量とが得られることがわかった。
【0119】
また、放電開始電圧、および/または、ESD耐量をより向上させる観点から、APA/AMを0.45以上1.24以下に設定することが好ましいことがわかった。同様に、放電開始電圧、および/または、ESD耐量をより向上させる観点から、最近接粒子間距離の平均EDAveを0.25μm以上0.81μm以下に設定することが好ましいことがわかった。
【0120】
実験2
実験2では、放電電極の構成を実験1から変更し、実施例9~実施例17に係る過渡電圧保護部品を製造した。なお、実験2の実施例9~実施例17では、放電電極用ペースト以外の製造条件は、実施例4と同様とした。つまり、実験2における実施例9~実施例17では、実験1の実施例4と同じ放電誘発部用ペーストを使用して、放電誘発部を形成した。以下、実験2の各実施例で使用した放電電極用ペーストについて詳述する。
【0121】
(実施例9~実施例11)
実施例9~実施例11では、0.5μmの平均粒径を有するPd粉末と、アクリル樹脂のビーズと、有機ビヒクルと、を混合し、3本ロールミルで混練することで、放電電極用ペーストを製造した。具体的に、実施例9では、1μmの平均粒径を有するアクリル樹脂のビーズを使用し、放電電極用ペーストにおけるアクリル樹脂のビーズの配合比率を、3vol%に設定した。実施例10では、1μmの平均粒径を有するアクリル樹脂のビーズを使用し、アクリル樹脂のビーズの配合比率を、12vol%に設定した。また、実施例11では、1μmの平均粒径を有するアクリル樹脂のビーズを使用し、アクリル樹脂のビーズの配合比率を、16vol%に設定した。なお、放電電極用ペーストに添加したPd粉末および有機ビヒクルは、実施例4と同じ仕様のものを使用した。
【0122】
(実施例12~実施例14)
実施例12~実施例14では、焼失材であるアクリル樹脂のビーズに代えて、シリカ粉末を添加して、放電電極用ペーストを製造した。具体的に、実施例12では、0.05μmの平均粒径を有するシリカ粉末を使用し、放電電極用ペーストにおけるシリカ粉末の配合比率を、1vol%に設定した。実施例13では、0.05μmの平均粒径を有するシリカ粉末を使用し、放電電極用ペーストにおけるシリカ粉末の配合比率を、2vol%に設定した。実施例14では、0.05μmの平均粒径を有するシリカ粉末を使用し、放電電極用ペーストにおけるシリカ粉末の配合比率を、7vol%に設定した。なお、放電電極用ペーストに添加したPd粉末および有機ビヒクルは、実施例4と同じ仕様のものを使用した。
【0123】
(実施例15~実施例17)
実施例15~実施例17では、アクリル樹脂のビーズおよびシリカ粉末の両方を添加して、放電電極用ペーストを製造した。実施例15~実施例17の放電電極用ペーストにおいて、Pd粉末および有機ビヒクルは、実施例4と同じ仕様のものを使用した。
【0124】
実施例15では、1μmの平均粒径を有するアクリル樹脂のビーズと、0.05μmの平均粒径を有するシリカ粉末と、を使用した。そして、放電電極用ペーストにおけるアクリル樹脂のビーズの配合比率を3vol%に設定し、シリカ粉末の配合比率を1vol%に設定した。
【0125】
実施例16では、1μmの平均粒径を有するアクリル樹脂のビーズと、0.05μmの平均粒径を有するシリカ粉末と、を使用した。そして、放電電極用ペーストにおけるアクリル樹脂のビーズの配合比率を12vol%に設定し、シリカ粉末の配合比率を2vol%に設定した。
【0126】
実施例17では、1μmの平均粒径を有するアクリル樹脂のビーズと、0.05μmの平均粒径を有するシリカ粉末と、を使用した。そして、放電電極用ペーストにおけるアクリル樹脂のビーズの配合比率を12vol%に設定し、シリカ粉末の配合比率を7vol%に設定した。
【0127】
実験2においても、実験1と同様に、放電誘発部の断面解析、および、放電特性の評価を実施した。実験2では、これらの解析に加えて、放電電極の断面解析を実施し、放電電極に含まれる細孔の平均径dPE、細孔の面積割合、セラミック粒子の平均粒径dCE、および、セラミック粒子の面積割合を測定した。細孔の平均径は、100個の細孔の円相当径を計測することで算出し、セラミック粒子の平均粒径は、100個のセラミック粒子の円相当径を計測することで算出した。また、細孔の面積割合、および、セラミック粒子の面積割合を算出する際には、解析した放電電極の断面の合計面積を、400μm2に設定した。
【0128】
実験2の各実施例の評価結果を、表3に示す。
【表3】
【0129】
表3に示すように、細孔、および/または、セラミック粒子を、放電電極の内部に分散させることで、低い放電開始電圧を維持しつつ、ESD耐量の更なる向上が図れることがわかった。実験2の実施例では、特に、実施例15~実施例17のESD耐量が良好であり、放電電極は、細孔またはセラミック粒子のいずれか一方を含むよりも、細孔およびセラミック粒子の両方を含むことが好ましいことがわかった。
【0130】
実験3
実験3は、放電誘発部および/または放電電極の原料を実験1から変更し、実施例18~実施例24に係る過渡電圧保護部品を製造した。以下、詳述する。
【0131】
(実施例18)
0.5μmの平均粒径を有するPd粉末に代えて、0.5μmの平均粒径を有するPt粉末を使用して、放電誘発部用ペーストを製造したこと以外は実施例1と同様に、過渡電圧保護部品を得た。
【0132】
(実施例19)
0.5μmの平均粒径を有するPd粉末に代えて、0.5μmの平均粒径を有するPt粉末を使用して、放電誘発部用ペーストを製造したこと以外は実施例3と同様に、過渡電圧保護部品を得た。
【0133】
(実施例20)
0.5μmの平均粒径を有するPd粉末に代えて、0.5μmの平均粒径を有するPt粉末を使用して、放電誘発部用ペーストを製造したこと以外は実施例5と同様に、過渡電圧保護部品を得た。
【0134】
(実施例21)
0.5μmの平均粒径を有するPd粉末に代えて、0.5μmの平均粒径を有するPt粉末を使用して、放電誘発部用ペーストを製造したこと以外は実施例7と同様に、過渡電圧保護部品を得た。
【0135】
(実施例22)
0.5μmの平均粒径を有するPd粉末に代えて、0.5μmの平均粒径を有するPt粉末を使用して、放電電極用ペーストを製造したことと、0.5μmの平均粒径を有するPd粉末に代えて、0.5μmの平均粒径を有するPt粉末を使用して放電誘発部用ペーストを製造したこと以外は実施例3と同様に、過渡電圧保護部品を得た。
【0136】
(実施例23)
0.5μmの平均粒径を有するPd粉末に代えて、0.5μmの平均粒径を有するPt粉末を使用して、放電電極用ペーストを製造したことと、0.5μmの平均粒径を有するPd粉末に代えて、0.5μmの平均粒径を有するPt粉末を使用して放電誘発部用ペーストを製造したこと以外は実施例5と同様に、過渡電圧保護部品を得た。
【0137】
(実施例24)
0.5μmの平均粒径を有するPd粉末に代えて、0.5μmの平均粒径を有するAg-Pd合金粉末を使用して、放電誘発部用ペーストを製造したこと以外は実施例3と同様に、過渡電圧保護部品を得た。
【0138】
実験3における各実施例の放電誘発部用ペーストの配合比を、表4に示す。また、実験3においても、実験1と同様に、放電誘発部の断面解析、および、放電特性の評価を実施した。それらの評価結果を、表5に示す。
【0139】
【表4】
【0140】
【表5】
【0141】
表5に示すように、放電誘発部や放電電極の原料が異なる場合においても、放電開始電圧を低減でき、かつ、ESD耐量を向上させることができた。すなわち、放電誘発部にPtやAg-Pd合金を使用した場合においても、0.05μm以上1.04μm以下の平均径dPAを有する細孔を放電誘発部の内部に分散させることで、低い放電開始電圧と、高いESD耐量とが得られることがわかった。また、実験1と比較して、放電誘発部の金属粒子をPtとした場合に、ESD耐量のさらなる向上が図れることがわかった。さらに、特に放電電極をPtとした場合に、ESD耐量のさらなる向上が図れることがわかった。
【0142】
実験4
実験4は、放電誘発部および/または放電電極の原料を実験2から変更し、実施例25~実施例29に係る過渡電圧保護部品を製造した。以下、詳述する。
【0143】
(実施例25)
0.5μmの平均粒径を有するPd粉末に代えて、0.5μmの平均粒径を有するPt粉末を使用して放電誘発部用ペーストの製造したこと以外は実施例10と同様に、過渡電圧保護部品を得た。
【0144】
(実施例26)
0.5μmの平均粒径を有するPd粉末に代えて、0.5μmの平均粒径を有するPt粉末を使用して放電誘発部用ペーストの製造したこと以外は実施例13と同様に、過渡電圧保護部品を得た。
【0145】
(実施例27)
0.5μmの平均粒径を有するPd粉末に代えて、0.5μmの平均粒径を有するPt粉末を使用して放電誘発部用ペーストの製造したこと以外は実施例16と同様に、過渡電圧保護部品を得た。
【0146】
(実施例28)
0.5μmの平均粒径を有するPd粉末に代えて、0.5μmの平均粒径を有するPt粉末を使用して、放電電極用ペーストを製造したことと、0.5μmの平均粒径を有するPd粉末に代えて、0.5μmの平均粒径を有するPt粉末を使用して放電誘発部用ペーストを製造したこと以外は実施例16と同様に、過渡電圧保護部品を得た。
【0147】
(実施例29)
0.5μmの平均粒径を有するPd粉末に代えて、0.5μmの平均粒径を有するAg-Pd合金粉末を使用して放電誘発部用ペーストの製造したこと以外は実施例16と同様に、過渡電圧保護部品を得た。
【0148】
(実施例30)
0.5μmの平均粒径を有するPd粉末に代えて、0.5μmの平均粒径を有するAg-Pd合金粉末を使用して、放電電極用ペーストを製造したことと、0.5μmの平均粒径を有するPd粉末に代えて、0.5μmの平均粒径を有するPt粉末を使用して放電誘発部用ペーストを製造したこと以外は実施例16と同様に、過渡電圧保護部品を得た。
【0149】
実験4においても、実験2と同様の評価を実施した。実験4の各実施例の評価結果を、表6に示す。
【0150】
【表6】
【0151】
表6に示すように、放電誘発部や放電電極の原料が異なる場合においても、細孔、および/または、セラミック粒子を、放電電極の内部に分散させることで、実験2と同様に、低い放電開始電圧を維持しつつ、ESD耐量の更なる向上が図れることがわかった。実験4の実施例では、特に、実施例25~実施例27の結果から、細孔またはセラミック粒子のいずれか一方を含むよりも、細孔およびセラミック粒子の両方を含むことでESD耐量のさらなる向上が図れることがわかった。また、実験2と比較して、放電誘発部の金属粒子をPtとした場合に、ESD耐量のさらなる向上が図れることがわかった。さらに、特に放電電極をPtとした場合に、ESD耐量のさらなる向上が図れることがわかった。
【符号の説明】
【0152】
2,2a,2b … 過渡電圧保護部品
10 … 素体
10a … 端面
10b … 側面
10c … 主面
11 … 絶縁体層
20 … 放電電極
21 … 第1放電電極
22 … 第2放電電極
21a,22a … 引出部
21b,22b … 対向部
25 … 金属導体部
26 … 介在物
26a … 細孔
26b … (放電電極中の)セラミック粒子
30 … 放電誘発部
31 … セラミック成分
31a … ガラス
31b … (放電誘発部中の)セラミック粒子
33 … 金属粒子
36 … (放電誘発部中の)細孔
15 … 空洞部
6 … 第1外部電極
8 … 第2外部電極
100 … グリーンチップ
110 … 第1グリーンシート
120 … 導体パターン
130 … 放電誘発部用パターン
150 … 空洞用パターン
111 … 第2グリーンシート
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B