(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114661
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】補強部材、制振装置、壁体構造及び木造住宅並びに補強部材の製造方法及び壁体構造の製造方法
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240816BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
E04H9/02 311
F16F15/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024018633
(22)【出願日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2023019352
(32)【優先日】2023-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】523049122
【氏名又は名称】C&eホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100227868
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 一樹
(72)【発明者】
【氏名】渥美 幸久
(72)【発明者】
【氏名】花井 進吾
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB03
2E139AC02
2E139AC24
2E139BA12
2E139BA14
2E139BA19
2E139BD14
3J048AA06
3J048AC06
3J048BC09
3J048DA02
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】寸法が制限されたたて枠の切り欠きを通過させることができる補強部材を提供する。また、たて枠と交差する部分が占める鉛直方向の寸法を小さくすることができる補強部材を提供する。
【解決手段】一方の端部である第1端部212が第1のたて枠側に配置されるとともに他方の端部である第2端部222が第2のたて枠側に配置される棒状のブレース200であって、第1端部212を有している第1軸部210と、第2端部222を有している第2軸部220と、第1軸部210と第2軸部220との間に位置している中間軸部230と、を備え、中間軸部230の中心軸線Lcは、第1端部212と第2端部222とを結ぶ線分Lvbに対して交差している。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端部である第1端部が第1の構造部材側に配置されるとともに他方の端部である第2端部が第2の構造部材側に配置される棒状の補強部材であって、
前記第1端部を有している第1軸部と、
前記第2端部を有している第2軸部と、
前記第1軸部と前記第2軸部との間に位置している中間軸部と、
を備え、
前記中間軸部の中心軸線は、前記第1端部と前記第2端部とを結ぶ線分に対して交差している
補強部材。
【請求項2】
前記第1軸部と前記中間軸部とを滑らかに接続する第1曲げ部と、
前記第2軸部と前記中間軸部とを滑らかに接続する第2曲げ部と、
を備え、
前記第1軸部は、前記線分に沿って延び、
前記第2軸部は、前記線分に沿って延び
前記第1曲げ部は、一端が前記第1軸部と接続されるとともに他端が前記中間軸部と接続され、前記線分から逸れるように延び、
前記第2曲げ部は、一端が前記第2軸部と接続されるとともに他端が前記中間軸部と接続され、前記線分から逸れるように延び、
前記第1曲げ部が前記線分から逸れる方向は、前記線分に対して、前記第2曲げ部が前記線分から逸れる方向の反対とされている
請求項1に記載の補強部材。
【請求項3】
前記線分と前記中間軸部の前記中心軸線とが交差する点を交点Pとしたとき、
前記第1曲げ部から前記第2曲げ部までの形状は、前記交点Pに対して点対称とされている
請求項2に記載の補強部材。
【請求項4】
前記線分に沿った全長に対して、前記第1曲げ部から前記第2曲げ部までの部分の前記線分に沿った長さは、15%以上30%以下とされている
請求項2に記載の補強部材。
【請求項5】
前記線分に対する前記第1曲げ部の中心軸線の傾斜角度及び前記線分に対する前記第2曲げ部の中心軸線の傾斜角度は、8度以上14度以下とされている
請求項2に記載の補強部材。
【請求項6】
前記線分に対する前記第1曲げ部の前記中心軸線の傾斜角度及び前記線分に対する前記第2曲げ部の前記中心軸線の傾斜角度は、約12度とされている
請求項5に記載の補強部材。
【請求項7】
前記線分に対する前記中間軸部の前記中心軸線の傾斜角度は、20度以上45度以下とされている
請求項1に記載の補強部材。
【請求項8】
前記線分に対する前記中間軸部の前記中心軸線の傾斜角度は、約30度とされている
請求項7に記載の補強部材。
【請求項9】
請求項1に記載の補強部材と、
減衰力を発生させるダンパと、
を備え、
前記ダンパが前記第1端部と接続されている
制振装置。
【請求項10】
請求項2に記載の補強部材と、
減衰力を発生させるダンパと、
を備え、
前記ダンパが前記第1端部と接続され、
前記ダンパには、荷重が入力されたときに前記第1曲げ部から前記第2曲げ部までの部分に塑性変形が生じないような減衰力が設定されている
制振装置。
【請求項11】
請求項9に記載の制振装置と、
前記第1の構造部材と、
前記第2の構造部材と、
を備え、
前記第1の構造部材は、鉛直方向に延びている第1のたて枠であり、
前記第2の構造部材は、鉛直方向に延び、前記第1のたて枠と水平方向に離隔して設けられている第2のたて枠であり、
水平方向において前記第1のたて枠と前記第2のたて枠との間に設けられ、鉛直方向に延びている第3のたて枠を備え、
前記ダンパは、前記第1のたて枠の上部又は下部と接続され、
前記補強部材の前記第2端部は、前記第2のたて枠の下部又は上部と接続され、
前記補強部材の前記中間軸部は、前記第3のたて枠と交差している
壁体構造。
【請求項12】
前記第3のたて枠には、鉛直方向及び水平方向に直交する奥行方向に窪むように形成された切り欠きが設けられ、
前記補強部材の前記中間軸部は、前記第3のたて枠の前記切り欠きに配置されている
請求項11に記載の壁体構造。
【請求項13】
請求項9に記載の制振装置と、
前記第1の構造部材と、
前記第2の構造部材と、
を備え、
前記第1の構造部材は、鉛直方向に延びている第1のたて枠であり、
前記第2の構造部材は、鉛直方向に延び、前記第1のたて枠と水平方向に離隔して設けられている第2のたて枠であり、
水平方向において前記第1のたて枠と前記第2のたて枠との間に設けられ、鉛直方向に延びている第3のたて枠を備え、
前記ダンパは、前記第1のたて枠の上部又は下部と接続され、
前記補強部材の前記第2端部は、前記第2のたて枠の下部又は上部と接続され、
前記第3のたて枠には、鉛直方向及び水平方向に直交する奥行方向に窪むように形成された切り欠きが設けられ、
前記補強部材の前記中間軸部は、前記第3のたて枠の前記切り欠きに配置されている
壁体構造。
【請求項14】
請求項9に記載の制振装置と、
前記第1の構造部材と、
前記第2の構造部材と、
を備え、
前記第1の構造部材は、鉛直方向に延びている第1のたて枠であり、
前記第2の構造部材は、鉛直方向に延び、前記第1のたて枠と水平方向に離隔して設けられている第2のたて枠であり、
水平方向において前記第1のたて枠と前記第2のたて枠との間に設けられ、鉛直方向に延びている第3のたて枠と、
水平方向において前記第3のたて枠の隣に設けられ、鉛直方向に延びている第3-2のたて枠と、
を備え、
前記ダンパは、前記第1のたて枠の上部又は下部と接続され、
前記補強部材の前記第2端部は、前記第2のたて枠の下部又は上部と接続され、
前記第3のたて枠には、鉛直方向及び水平方向に直交する奥行方向に窪むように形成された切り欠きが設けられ、
前記第3-2のたて枠には、鉛直方向及び水平方向に直交する奥行方向に窪むように形成された第2の切り欠きが設けられ、
前記補強部材の前記中間軸部は、前記第3のたて枠の前記切り欠き及び前記第3-2のたて枠の前記第2の切り欠きに配置されている
壁体構造。
【請求項15】
前記第3のたて枠の前記切り欠き及び前記第3-2のたて枠の前記第2の切り欠きは、鉛直方向の寸法が同一で、鉛直方向の位置が異なる
請求項14に記載の壁体構造。
【請求項16】
前記補強部材の前記中間軸部の前記中心軸線は、前記線分よりも水平方向に横たわっている
請求項11、13、14のいずれかに記載の壁体構造。
【請求項17】
前記切り欠き及び/又は前記第2の切り欠きを覆う金属製のカバーを備えている
請求項12、13、14のいずれかに記載の壁体構造。
【請求項18】
前記第1のたて枠の面、前記第2のたて枠の面及び前記第3のたて枠の前記カバーが設けられた面の反対の面に共通して設けられたパネル材を備えている
請求項17に記載の壁体構造。
【請求項19】
前記第1のたて枠の上部又は下部と接続された前記ダンパの端部を第1装置端部とし、前記第2のたて枠の下部又は上部と接続された前記第2端部を第2装置端部とし、前記線分と前記中間軸部の前記中心軸線とが交差する点を交点Pとしたとき、
前記交点Pは、前記第1装置端部と前記第2装置端部をと結ぶ第2の線分上にあり、前記第2の線分の中間位置にある
請求項11、13、14のいずれかに記載の壁体構造。
【請求項20】
前記第1のたて枠の上部又は下部と接続された前記ダンパの端部を第1装置端部とし、前記第2のたて枠の下部又は上部と接続された前記第2端部を第2装置端部とし、前記線分と前記中間軸部の前記中心軸線とが交差する点を交点Pとしたとき、
前記交点Pは、前記第1装置端部と前記第2装置端部をと結ぶ第2の線分上にあり、前記第2の線分の中間位置にない
請求項11、13、14のいずれかに記載の壁体構造。
【請求項21】
請求項11、13、14のいずれかに記載の壁体構造を備えている
木造住宅。
【請求項22】
第1の構造部材側に配置される第1端部を有している第1軸部と、
第2の構造部材側に配置される第2端部を有している第2軸部と、
前記第1軸部と前記第2軸部との間に位置している中間軸部と、
を備え、
前記中間軸部の中心軸線は、前記第1端部と前記第2端部とを結ぶ線分に対して交差している補強部材の製造方法であって、
一本の管状の金属材料を曲げ加工することで前記第1軸部、前記第2軸部及び前記中間軸部を形成する
補強部材の製造方法。
【請求項23】
第1の構造部材側に配置される第1端部を有している第1軸部と、
第2の構造部材側に配置される第2端部を有している第2軸部と、
前記第1軸部と前記第2軸部との間に位置している中間軸部と、
前記第1軸部と前記中間軸部とを滑らかに接続する第1曲げ部と、
前記第2軸部と前記中間軸部とを滑らかに接続する第2曲げ部と、
を備え、
前記中間軸部の中心軸線は、前記第1端部と前記第2端部とを結ぶ線分に対して交差し、
前記第1軸部は、前記線分に沿って延び、
前記第2軸部は、前記線分に沿って延び、
前記第1曲げ部は、一端が前記第1軸部と接続されるとともに他端が前記中間軸部と接続され、前記線分から逸れるように延び、
前記第2曲げ部は、一端が前記第2軸部と接続されるとともに他端が前記中間軸部と接続され、前記線分から逸れるように延び、
前記第1曲げ部が前記線分から逸れる方向は、前記線分に対して、前記第2曲げ部が前記線分から逸れる方向の反対とされている補強部材の製造方法であって、
前記線分に対する前記第1曲げ部の中心軸線の傾斜角度及び前記線分に対する前記第2曲げ部の中心軸線の傾斜角度を、前記第1曲げ部の基端部分及び前記第2曲げ部の基端部分に作用する曲げモーメントに基づいて決定する
補強部材の製造方法。
【請求項24】
請求項14に記載の壁体構造の製造方法であって、
前記第2の切り欠きを、鉛直方向において前記切り欠きと異なる位置に設ける
壁体構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、補強部材、制振装置、壁体構造及び木造住宅並びに補強部材の製造方法及び壁体構造の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば枠組壁工法を採用した木造住宅の壁体構造においては、耐震性向上の観点から、鉛直方向に延びたたて枠同士の間に筋交いタイプの制振装置を設けることがある。例えば特許文献1には、直線状のブレース(補強部材)とダンパとの組み合わせによって構成された制振装置が開示されている。
また、例えば同壁体構造においては、所定の構造規定により、たて枠とたて枠との間の横方向のピッチを500mm以下にしなければならない。そのため、同壁体構造に制振装置を設ける場合、制振装置の一端が設けられる第1のたて枠と制振装置の他端が設けられる第2のたて枠との間(横方向の中間位置、枠体の中間部)には第3のたて枠が存在することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
制振装置を上述の壁体構造に設けようとした場合、制振装置の補強部材と第3のたて枠とが交差する位置で互いの干渉が発生する。この場合、干渉位置における第3のたて枠の一部に切り欠き(欠き込み)を設けることで、第3のたて枠との間で干渉を発生させることなく補強部材を第3のたて枠と交差させることができる。
このとき、制振装置が設けられた壁体構造が耐力壁とみなされるように、第3のたて枠に設けられる切り欠きは、所定の寸法に設計される。これによって、その壁体構造が耐力壁とみなされて、木造住宅に必要な所定の壁量が確保されやすくなる。
【0005】
ところが、切り欠きが設けられた第3のたて枠には寸法が定められた金物(Cマーク表示金物のパイプガード)を補強材として設け、切り欠きを当該金物で覆わなければならないとされている。そのため、金物の寸法に準じて切り欠きの寸法(特に鉛直方向の寸法)が自ずと制限される。切り欠きの寸法が制限された場合、補強部材を第3のたて枠と交差させるに際して、補強部材が第3のたて枠と干渉してしまい、壁体構造に制振装置を設けることができなくなる(なお、Cマーク表示金物のパイプガードを使用しないのであれば、切り欠きを鉛直方向に拡げることで補強部材をたて枠と交差させることができる。)。
【0006】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、寸法が制限されたたて枠の切り欠きを通すことができる補強部材、制振装置、壁体構造及び木造住宅並びに補強部材の製造方法及び壁体構造の製造方法を提供することを目的とする。また、たて枠と交差する部分が占める鉛直方向の寸法を小さくすることができる補強部材、制振装置、壁体構造及び木造住宅並びに補強部材の製造方法及び壁体構造の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、本開示の補強部材、制振装置、壁体構造及び木造住宅並びに補強部材の製造方法及び壁体構造の製造方法は、以下の手段を採用する。
本開示の第1態様に係る補強部材は、一方の端部である第1端部が第1の構造部材側に配置されるとともに他方の端部である第2端部が第2の構造部材側に配置される棒状の補強部材であって、前記第1端部を有している第1軸部と、前記第2端部を有している第2軸部と、前記第1軸部と前記第2軸部との間に位置している中間軸部と、を備え、前記中間軸部の中心軸線は、前記第1端部と前記第2端部とを結ぶ線分に対して交差している。
【0008】
本態様に係る補強部材によれば、第1軸部と第2軸部との間に位置している中間軸部の中心軸線は第1端部と第2端部とを結ぶ線分に対して交差しているので、中間軸部の中心軸線の角度を線分の角度に対して異ならせることができる。そのため、補強部材を第1の構造部材と第2の構造部材との間に配置したとき、補強部材の姿勢に依っては、中間軸部の中心軸線を水平方向に近付けることができる。これによって、中間軸部の中心軸線が線分と交差していない場合(例えば、補強部材が単なる直線状とされている場合)と比べて、中間軸部が占める鉛直方向の寸法を小さくすることができる。したがって、たて枠に設けられた切り欠きの寸法(鉛直方向の寸法)が制限されていたとしても、たて枠と干渉させることなく補強部材をたて枠と交差させることができる。
【0009】
本開示の第2態様に係る補強部材は、第1態様において、前記第1軸部と前記中間軸部とを滑らかに接続する第1曲げ部と、前記第2軸部と前記中間軸部とを滑らかに接続する第2曲げ部と、を備え、前記第1軸部は、前記線分に沿って延び、前記第2軸部は、前記線分に沿って延び前記第1曲げ部は、一端が前記第1軸部と接続されるとともに他端が前記中間軸部と接続され、前記線分から逸れるように延び、前記第2曲げ部は、一端が前記第2軸部と接続されるとともに他端が前記中間軸部と接続され、前記線分から逸れるように延び、前記第1曲げ部が前記線分から逸れる方向は、前記線分に対して、前記第2曲げ部が前記線分から逸れる方向の反対とされている。
【0010】
本態様に係る補強部材によれば、第1軸部と中間軸部とを滑らかに接続する第1曲げ部と、第2軸部と中間軸部とを滑らかに接続する第2曲げ部と、を備えているので、補強部材に生じる曲げモーメントを小さくすることができる。これによって、入力される荷重に対する補強部材の強度設定を小さくすることができるので、部材の肉厚やサイズを小さくすることができる。
【0011】
本開示の第3態様に係る補強部材は、第2態様において、前記線分と前記中間軸部の前記中心軸線とが交差する点を交点Pとしたとき、前記第1曲げ部から前記第2曲げ部までの形状は、前記交点Pに対して点対称とされている。
【0012】
本態様に係る補強部材によれば、第1曲げ部から第2曲げ部までの形状は、交点Pに対して点対称とされているので、第1曲げ部から第2曲げ部までの補強部材の部分に生じる力を均等に分布させることができる。
【0013】
本開示の第4態様に係る補強部材は、第2態様又は第3態様において、前記線分に沿った全長に対して、前記第1曲げ部から前記第2曲げ部までの部分の前記線分に沿った長さは、15%以上30%以下とされている。
【0014】
本態様に係る補強部材によれば、第1曲げ部から第2曲げ部までの部分の線分に沿った長さは、補強部材線分に沿った全長に対して、15%以上30%以下とされているので、曲げの範囲が補強部材の全体に及ぶことを回避できる。これによって、補強部材のサイズを小さくすることができる。
【0015】
本開示の第5態様に係る補強部材は、第2態様から第4態様のいずれかにおいて、線分に対する第1曲げ部の中心軸線の傾斜角度及び線分に対する第2曲げ部の中心軸線の傾斜角度は、8度以上14度以下とされている。
【0016】
本態様に係る補強部材によれば、線分に対する第1曲げ部の中心軸線の傾斜角度及び線分に対する第2曲げ部の中心軸線の傾斜角度は、8度以上14度以下とされているので、第1の曲げ部基端部分及び第2の曲げ部の基端部分に作用する曲げモーメントを抑制することができる。
【0017】
本開示の第6態様に係る補強部材は、第5態様において、前記線分に対する前記第1曲げ部の中心軸線の傾斜角度及び前記線分に対する前記第2曲げ部の中心軸線の前記傾斜角度は、約12度とされている。
【0018】
本態様に係る補強部材によれば、線分に対する第1曲げ部の中心軸線の傾斜角度及び線分に対する第2曲げ部の中心軸線の傾斜角度は、約12度とされているので、第1の曲げ部基端部分及び第2の曲げ部の基端部分に作用する曲げモーメントを抑制することができる。
【0019】
本開示の第7態様に係る補強部材は、第1態様から第6態様のいずれかにおいて、前記線分に対する前記中間軸部の前記中心軸線の傾斜角度は、20度以上45度以下とされている。
【0020】
本態様に係る補強部材によれば、線分に対する中間軸部の中心軸線の傾斜角度は、20度以上45度以下とされているので、ブレースの各部に作用する曲げモーメントを抑制することができる。
【0021】
本開示の第8態様に係る補強部材は、第7態様において、前記線分に対する前記中間軸部の前記中心軸線の傾斜角度は、約30度とされている。
【0022】
本態様に係る補強部材によれば、線分に対する中間軸部の中心軸線の傾斜角度は、約30度とされているので、ブレースの各部に作用する曲げモーメントを抑制することができる。
【0023】
本開示の第9態様に係る制振装置は、第1態様から第8態様のいずれかに記載の補強部材と、減衰力を発生させるダンパと、を備え、前記ダンパが前記第1端部と接続されている。
【0024】
本態様に係る制振装置によれば、補強部材と、減衰力を発生させるダンパと、を備え、ダンパが第1端部と接続されているので、補強部材を制振装置のブレースとして使用することができる。また、補強部材をダンパと組み合わせて使用することで、地震による荷重が入力されたときに補強部材に作用する力を抑えることができる。
ダンパの種類は特に限定されず、例えば、履歴系ダンパ、流体系ダンパや粘弾性系ダンパが挙げられる。
【0025】
本開示の第10態様に係る制振装置は、第2態様から第8態様のいずれかに記載の補強部材と、減衰力を発生させるダンパと、を備え、前記ダンパが前記第1端部と接続され、前記ダンパには、荷重が入力されたときに前記第1曲げ部から前記第2曲げ部までの部分に塑性変形が生じないような減衰力が設定されている。
【0026】
本態様に係る制振装置によれば、ダンパには、荷重が入力されたときに第1曲げ部から第2曲げ部までの部分に塑性変形が生じないような減衰力が設定されているので、地震による荷重が入力されたときに補強部材に作用する力を抑えて、第1曲げ部から第2曲げ部までの部分に塑性変形が生じることを回避することができる。
【0027】
本開示の第11態様に係る壁体構造は、第9態様又は第10態様に記載の制振装置と、前記第1の構造部材と、前記第2の構造部材と、を備え、前記第1の構造部材は、鉛直方向に延びている第1のたて枠であり、前記第2の構造部材は、鉛直方向に延び、前記第1の構造部材と水平方向に離隔して設けられている第2のたて枠であり、水平方向において前記第1のたて枠と前記第2のたて枠との間に設けられ、鉛直方向に延びている第3のたて枠を備え、前記ダンパは、前記第1の構造部材の上部又は下部と接続され、前記補強部材の前記第2端部は、前記第2の構造部材の下部又は上部と接続され、前記補強部材の前記中間軸部は、前記第3のたて枠と交差している。
【0028】
本態様に係る壁体構造によれば、補強部材の中間軸部は第3のたて枠と交差しているので、第3のたて枠と交差する制振装置の補強部材の部分(中間軸部)が占める鉛直方向の寸法を小さくすることができる。したがって、第3のたて枠に設けられた切り欠きの寸法(鉛直方向の寸法)が制限されていたとしても、第3のたて枠と干渉させることなく補強部材(制振装置)を第3のたて枠と交差させることができる。
【0029】
本開示の第12態様に係る壁体構造は、第11態様において、前記第3のたて枠には、鉛直方向及び水平方向に直交する奥行方向に窪むように形成された切り欠きが設けられ、前記補強部材の前記中間軸部は、前記第3のたて枠の前記切り欠きに通されている。
【0030】
本態様に係る壁体構造によれば、補強部材の中間軸部は、第3のたて枠の切り欠きに通されているので、切り欠きの寸法(鉛直方向の寸法)が制限されていたとしても、第3のたてと干渉させることなく補強部材(制振装置)を第3のたてと交差させることができる。
【0031】
本開示の第13態様に係る壁体構造は、第9態様又は第10態様に記載の制振装置と、前記第1の構造部材と、前記第2の構造部材と、を備え、前記第1の構造部材は、鉛直方向に延びている第1のたて枠であり、前記第2の構造部材は、鉛直方向に延び、前記第1のたて枠と水平方向に離隔して設けられている第2のたて枠であり、水平方向において前記第1のたて枠と前記第2のたて枠との間に設けられ、鉛直方向に延びている第3のたて枠を備え、前記ダンパは、前記第1のたて枠の上部又は下部と接続され、前記補強部材の前記第2端部は、前記第2のたて枠の下部又は上部と接続され、前記第3のたて枠には、鉛直方向及び水平方向に直交する奥行方向に窪むように形成された切り欠きが設けられ、前記補強部材の前記中間軸部は、前記第3のたて枠の前記切り欠きに配置されている。
【0032】
本態様に係る壁体構造によれば、補強部材の中間軸部は第3のたて枠の切り欠きに配置されているので、第3のたて枠の切り欠きに配置された制振装置の補強部材の部分(中間軸部)が占める鉛直方向の寸法を小さくすることができる。したがって、第3のたて枠に設けられた切り欠きの寸法(鉛直方向の寸法)が制限されていたとしても、第3のたて枠と干渉させることなく補強部材(制振装置)を第3のたて枠と交差させることができる。
【0033】
本開示の第14態様に係る壁体構造は、第9態様又は第10態様に記載の制振装置と、第1の構造部材と、前記第2の構造部材と、を備え、前記第1の構造部材は、鉛直方向に延びている第1のたて枠であり、前記第2の構造部材は、鉛直方向に延び、前記第1のたて枠と水平方向に離隔して設けられている第2のたて枠であり、水平方向において前記第1のたて枠と前記第2のたて枠との間に設けられ、鉛直方向に延びている第3のたて枠と、水平方向において前記第3のたて枠の隣に設けられ、鉛直方向に延びている第3-2のたて枠と、を備え、前記ダンパは、前記第1のたて枠の上部又は下部と接続され、前記補強部材の前記第2端部は、前記第2のたて枠の下部又は上部と接続され、前記第3のたて枠には、鉛直方向及び水平方向に直交する奥行方向に窪むように形成された切り欠きが設けられ、前記第3-2のたて枠には、鉛直方向及び水平方向に直交する奥行方向に窪むように形成された第2の切り欠きが設けられ、前記補強部材の前記中間軸部は、前記第3-2のたて枠の前記切り欠き及び前記第1-2のたて枠の前記第2の切り欠きに配置されている。
【0034】
本態様に係る壁体構造によれば、補強部材の中間軸部は第3のたて枠の切り欠き及び第3-2のたて枠の第2の切り欠きに配置されているので、第3のたて枠の切り欠き及び第3-2のたて枠の第2の切り欠きに配置された制振装置の補強部材の部分(中間軸部)が占める鉛直方向の寸法を小さくすることができる。したがって、第3のたて枠に設けられた切り欠きの寸法(鉛直方向の寸法)及び第3-2のたて枠に設けられた第2の切り欠きの寸法(鉛直方向の寸法)が制限されていたとしても、第3のたて枠及び第3-2のたて枠と干渉させることなく補強部材(制振装置)を第3のたて枠及び第3-2のたて枠と交差させることができる。
【0035】
本開示の第15態様に係る壁体構造は、第14態様において、前記第3のたて枠の前記切り欠き及び前記第3-2のたて枠の前記第2の切り欠きは、鉛直方向の寸法が同一で、鉛直方向の位置が異なる。
【0036】
本態様に係る壁体構造によれば、第3のたて枠の切り欠き及び第3-2のたて枠の第2の切り欠きは、鉛直方向の寸法が同一で、鉛直方向の位置が異なるので、制振装置の補強部材の配置(例えば傾斜角度)の自由度を増加させることができる。
【0037】
本開示の第16態様に係る壁体構造は、第11態様から第15態様のいずれかにおいて、前記補強部材の前記中間軸部の中心軸線は、前記線分よりも水平方向に横たわっている。
【0038】
本態様に係る壁体構造によれば、補強部材の中間軸部の中心軸線は、線分よりも水平方向に横たわっているので、中間軸部が占める鉛直方向の寸法を小さくすることができる。したがって、第3のたて枠に設けられた切り欠きの寸法(鉛直方向の寸法)が制限されていたとしても、第3のたて枠と干渉させることなく補強部材(制振装置)を第3のたて枠と交差させることができる。
【0039】
本開示の第17態様に係る壁体構造は、第12態様から第16態様のいずれかにおいて、前記切り欠き及び/又は前記第2の切り欠きを覆う金属製のカバーを備えている。
【0040】
本態様に係る壁体構造によれば、切り欠き及び/又は第2の切り欠きを覆う金属製のカバーを備えている。金属製のカバーは、例えばCマーク表示金物のパイプガードとされる。
【0041】
本開示の第18態様に係る壁体構造は、第17態様において、前記第1のたて枠の面、前記第2のたて枠の面及び前記第3のたて枠の前記カバーが設けられた面の反対の面に共通して設けられたパネル材を備えている。
【0042】
本態様に係る壁体構造によれば、パネル材を備えているので、壁体構造の強度を向上させることができる。
【0043】
本開示の第19態様に係る壁体構造は、第11態様から第18態様のいずれかにおいて、前記第1のたて枠の上部又は下部と接続された前記ダンパの端部を第1装置端部とし、前記第2のたて枠の下部又は上部と接続された前記第2端部を第2装置端部とし、前記線分と前記中間軸部の前記中心軸線とが交差する点を交点Pとしたとき、前記交点Pは、前記第1装置端部と前記第2装置端部をと結ぶ第2の線分上にあり、前記第2の線分の中間位置にある。
【0044】
本態様に係る壁体構造によれば、交点Pは、第1装置端部と第2装置端部をと結ぶ第2の線分上にあり、第2の線分の中間位置にあるので、補強部材の中間軸部の中心部を第3のたて枠の中心部と略一致させることができる。
【0045】
本開示の第20態様に係る壁体構造は、第11態様から第18態様のいずれかにおいて、前記第1のたて枠の上部又は下部と接続された前記ダンパの端部を第1装置端部とし、前記第2のたて枠の下部又は上部と接続された前記第2端部を第2装置端部とし、前記線分と前記中間軸部の前記中心軸線とが交差する点を交点Pとしたとき、前記交点Pは、前記第1装置端部と前記第2装置端部をと結ぶ第2の線分上にあり、前記第2の線分の中間位置にない。
【0046】
本態様に係る壁体構造によれば、交点Pは、第1装置端部と第2装置端部をと結ぶ第2の線分上にあり、第2の線分の中間位置にないので、補強部材の中間軸部の中心部を第3のたて枠の中心部からずらすことができる。これによって、第3-2のたて枠が追加された場合でも、ブレースを切り欠き及び第2の切り欠きに干渉させることなく設置することができる。
【0047】
本開示の第21態様に係る木造住宅は、第11態様から第20態様のいずれかに記載の壁体構造を備えている。
【0048】
本開示の第22態様に係る補強部材の製造方法は、第1の構造部材側に配置される第1端部を有している第1軸部と、第2の構造部材側に配置される第2端部を有している第2軸部と、前記第1軸部と前記第2軸部との間に位置している中間軸部と、を備え、前記中間軸部の中心軸線は、前記第1端部と前記第2端部とを結ぶ線分に対して交差している補強部材の製造方法であって、一本の管状の金属材料を曲げ加工することで前記第1軸部、前記第2軸部及び前記中間軸部を形成する。
【0049】
本開示の第23態様に係る補強部材の製造方法は、第1の構造部材側に配置される第1端部を有している第1軸部と、第2の構造部材側に配置される第2端部を有している第2軸部と、前記第1軸部と前記第2軸部との間に位置している中間軸部と、前記第1軸部と前記中間軸部とを滑らかに接続する第1曲げ部と、前記第2軸部と前記中間軸部とを滑らかに接続する第2曲げ部と、を備え、前記中間軸部の中心軸線は、前記第1端部と前記第2端部とを結ぶ線分に対して交差し、前記第1軸部は、前記線分に沿って延び、前記第2軸部は、前記線分に沿って延び、前記第1曲げ部は、一端が前記第1軸部と接続されるとともに他端が前記中間軸部と接続され、前記線分から逸れるように延び、前記第2曲げ部は、一端が前記第2軸部と接続されるとともに他端が前記中間軸部と接続され、前記線分から逸れるように延び、前記第1曲げ部が前記線分から逸れる方向は、前記線分に対して、前記第2曲げ部が前記線分から逸れる方向の反対とされている補強部材の製造方法であって、前記線分に対する前記第1曲げ部の中心軸線の傾斜角度及び前記線分に対する前記第2曲げ部の中心軸線の傾斜角度を、前記第1曲げ部の基端部分及び前記第2曲げ部の基端部分に作用する曲げモーメントに基づいて決定する。
【0050】
本開示の第24態様に係る壁体構造の製造方法は、第14態様に記載の壁体構造の製造方法であって、前記第2の切り欠きを、鉛直方向において前記切り欠きと異なる位置に設ける。
【発明の効果】
【0051】
本開示によれば、寸法が制限されたたて枠の切り欠きを通すことができる。また、たて枠と交差する部分が占める鉛直方向の寸法を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】本開示の第1実施形態に係る壁体構造の正面図である。
【
図2】本開示の第1実施形態に係る壁体構造の右側面図である。
【
図3】本開示の第1実施形態に係る壁体構造の背面図である。
【
図4】
図1に示すA部を部分的に拡大した正面図である。
【
図5】
図4に示す切断線V-Vにおける断面図である。
【
図6】本開示の第1実施形態に係る制振装置の斜視図である。
【
図7】本開示の第1実施形態に係る制振装置の正面図である。
【
図8】本開示の第1実施形態に係る制振装置の右側面図である。
【
図9】本開示の第1実施形態に係るブレースの正面図である。
【
図10】
図9に示すB部を部分的に拡大した正面図である。
【
図11】本開示の第1実施形態に係るブレースと比較例に係るブレースの部分的な正面図及び切断線X-Xにおける断面図である。
【
図12】比較例に係る壁体構造を部分的に拡大した正面図である。
【
図13】上枠に水平変位(図において左に移動する変位)が生じた壁体構造の正面図である。
【
図14】上枠に水平変位(図において右に移動する変位)が生じた壁体構造の正面図である。
【
図15】本開示の第1実施形態に係るブレースの中心軸線と線分との関係を示した概念図である。
【
図16】変形例1に係るブレースの中心軸線と線分との関係を示した概念図である。
【
図17】本開示の第2実施形態に係る壁体構造の正面図である。
【
図19】本開示の第2実施形態に係るブレースの正面図である。
【
図20】本開示の第2実施形態に係るブレースの第1曲げ部近傍を部分的に拡大した正面図である。
【
図21】本開示の第2実施形態に係るブレースの中間軸部及び第1曲げ部近傍を部分的に拡大した正面図である。
【
図22】
図1に示す壁体構造から第3-2のたて枠を省略した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本開示の第1実施形態及び第2実施形態に係る補強部材、制振装置、壁体構造及び木造住宅並びに補強部材の製造方法及び壁体構造の製造方法について、図面を参照しつつ説明する。
【0054】
[第1実施形態]
以下、第1実施形態について説明する。
【0055】
<壁体構造について>
図1から
図3に示すように、壁体構造10は、例えば、木造住宅の壁体に採用される構造物であって、下枠14の上において鉛直方向に延びた第1のたて枠11(第1の構造部材)、第2のたて枠12(第2の構造部材)及び第3のたて枠13並びに各たて枠の上において水平方向に延びた上枠15を有する枠状の構造体と、枠状の構造体の背面に設けられたパネル材16と、第1のたて枠11の上部から第2のたて枠12の下部にかけて配置された制振装置50と、を備えている。
壁体構造10の枠状の構造体は、例えば、枠組壁工法によって製作されている。ただし、この工法は例示であり、これ以外の工法を採用してもよい。
【0056】
下枠14は、水平方向に延びた木材であり、例えば、図示しない基礎、土台、床根太、床用構造合板の上に設けられている。下枠14は、各たて枠を支え、鉛直方向の荷重を基礎等に伝えるための部材である。
【0057】
第1のたて枠11は、鉛直方向に延びた木材であり、下枠14の一端側(
図1において左側)の上面に設けられている。第1のたて枠11は、主として鉛直方向の荷重が負荷される部材である。
第1のたて枠11の寸法は、例えば、規格(工法)によって定められている。本実施形態の場合、その幅寸法(水平方向の寸法)は89mm、高さ寸法(鉛直方向の寸法)は約2400mm、奥行寸法は89mmとされている。ただし、これらの数値は例示であり、これら以外の寸法であってもよい。
【0058】
第2のたて枠12は、鉛直方向に延びた木材であり、下枠14の他端側(
図1において右側)の上面に設けられている。第2のたて枠12は、主として鉛直方向の荷重が負荷される部材である。
第2のたて枠12の寸法は、例えば、規格(工法)によって定められている。本実施形態の場合、その幅寸法は89mm、高さ寸法は約2400mm、奥行寸法は89mmとされている。ただし、これらの数値は例示であり、これら以外の寸法であってもよい。
第2のたて枠12は、水平方向において第1のたて枠11と離隔して設けられている。
【0059】
第3のたて枠13は、鉛直方向に延びた木材であり、水平方向において第1のたて枠11と第2のたて枠12の間の下枠14の上面に設けられている。第3のたて枠13は、主として鉛直方向の荷重が負荷される部材である。
第3のたて枠13の寸法は、例えば、規格(工法)によって定められている。本実施形態の場合、その幅寸法は38mm、高さ寸法は約2400mm、奥行寸法は89mmとされている。ただし、これらの数値は例示であり、これら以外の寸法であってもよい。
【0060】
各たて枠の水平方向における中心間のピッチは、例えば、規格(工法)によって500mm以下と決められている。
本実施形態の場合、各たて枠のピッチは、その規格に則って、500mm以下の455mmとされている。具体的には、第1のたて枠11と第3のたて枠13との距離(中心間のピッチ)及び第3のたて枠13と第2のたて枠12との距離(中心間のピッチ)は、455mmとされている。
ただし、これらの数値は例示であり、これら以外の寸法であってもよい。
【0061】
図4及び
図5に示すように、水平方向において第1のたて枠11と第2のたて枠12との間に設けられた第3のたて枠13には、第1のたて枠11から第2のたて枠12にかけて配置された制振装置50のブレース200との干渉を回避するために、切り欠き13aが設けられている。
切り欠き13aの詳細については後述する。
【0062】
上枠15は、水平方向に延びた木材であり、第1のたて枠11、第2のたて枠12及び第3のたて枠13の上面に設けられている。
【0063】
図2及び
図3に示すように、パネル材16は、水平方向及び鉛直方向に拡がるパネル(例えば合板)であり、第1のたて枠11の背面、第2のたて枠12の背面、第3のたて枠13の背面、下枠14の背面及び上枠15の背面に設けられている。パネル材16は、第1のたて枠11、第2のたて枠12、第3のたて枠13、下枠14及び上枠15を有する枠状の構造体を面で補強するための部材である。
パネル材16は、例えば複数のくぎ21で第1のたて枠11、第2のたて枠12、第3のたて枠13、下枠14及び上枠15に固定されている。
【0064】
<制振装置について>
本実施形態に係る壁体構造10は、上述した枠状の構造体に制振装置50が取り付けられて構成されている。
以下、制振装置50について詳細に説明する。
【0065】
<<制振装置の概要>>
図6から
図8に示すように、制振装置50は、一方の端部(第1装置端部51)と他方の端部(第2装置端部52)とを結ぶ仮想的な線分Lvd(第2の線分)に沿って延びた装置であり、オイルダンパ100(ダンパ)及びブレース200(補強部材)を備えている。
【0066】
図1から
図3に示すように、枠状の構造体に取り付けられた状態の制振装置50は、第1装置端部51が第1のたて枠11の上部に配置され、第2装置端部52が第2のたて枠12の下部に配置されている。
すなわち、枠状の構造体に取り付けられた状態の制振装置50は、第1のたて枠11の上部から第2のたて枠12の下部にかけて筋交いのように斜めに配置されている。
【0067】
第1装置端部51は、第1ブラケット310を介して第1のたて枠11に取り付けられている。
第1ブラケット310は、複数のビス22(
図2参照)で第1のたて枠11の上部に固定されている。
第1ブラケット310は、第1装置端部51を回動自在に軸支している。このとき、第1装置端部51の回転軸は、奥行方向に沿っている。
【0068】
第2装置端部52は、第2ブラケット320を介して第2のたて枠12に取り付けられている。
第2ブラケット320は、複数のビス23(
図2参照)で第2のたて枠12の下部に固定されている。
第2ブラケット320は、第2装置端部52を回動自在に軸支している。このとき、第2装置端部52の回転軸は、奥行方向に沿っている。
【0069】
第1のたて枠11に取り付けられた第1ブラケット310及び第2のたて枠12に取り付けられた第2ブラケット320によって、制振装置50は、傾斜した状態で枠状の構造体に設置される。
このとき、制振装置50の寸法を考慮したうえで、傾斜角度θ(
図1参照)が約15度以上25度以下となるように、第1ブラケット310の位置(すなわち、第1装置端部51の位置)及び第2ブラケット320の位置(すなわち、第2装置端部52の位置)が決定される。傾斜角度θを上述の範囲に設定することで、制振装置50の減衰機能を十分に発揮させることができる。
ただし、この数値は例示であり、制振装置50の減衰性能や枠状の構造体の寸法を考慮して適宜決定される。
なお、傾斜角度θは、線分Lvdが鉛直方向に沿った線に対して成す角度である。
【0070】
<<オイルダンパ>>
図6から
図8に示すように、オイルダンパ100は、シリンダ110及びシリンダ110に対して進退するロッド120を備えている。
オイルダンパ100には、既知の構造のものを採用できる。
【0071】
ロッド120が延出していない側のシリンダ110の端部は、ブレース200の端部(第1端部212)と接続されている。
ロッド120の先端は、上述した第1装置端部51であり、第1ブラケット310と接続可能に構成されている。
【0072】
なお、流体系ダンパ(オイルダンパ100)に代えて、摩擦系ダンパや粘弾性系ダンパを採用してもよい。
また、その種類は特に限定されることはなく、所望の減衰力を発生させるダンパであればよい。
【0073】
<<ブレース>>
図9及び
図10に示すように、ブレース200は、第1のたて枠11側に配置される第1端部212から第2のたて枠12側に配置される第2端部222に向かって延びた金属製の棒状の部材である。
ここで、第1端部212と第2端部222とを結ぶ仮想的な線分Lvbとする。ブレース200は、この線分Lvbが上述の線分Lvdと一致するような姿勢をとる。すなわち、ブレース200の第1端部212及び第2端部222は、線分Lvd上に存在していることになる。言い換えれば、制振装置50の第1装置端部51、ブレース200の第1端部212、ブレース200の第2端部222及び制振装置50の第2装置端部52は、同一直線上(線分Lvd上)に存在していることになる。
【0074】
ブレース200は、例えば、第1軸部210、第2軸部220及び中間軸部230並びに第1曲げ部240及び第2曲げ部250を備えている。
なお、各部の境界は、
図10において破線で表示されている。ただし、破線は説明のために表示したものであり、実際のブレース200の形状を限定するものではない。
【0075】
ブレース200は、例えば、それぞれの端領域にある接続部位211及びロッド部位221を除いて、肉厚が約2mm、直径が約38mmの円管とされている。ただし、これらの数値は例示であり、これら以外の寸法であってもよい。また、ブレース200は必ずしも円管である必要はなく、円形状以外の横断面形状の管、中実の棒や角材であってもよい。ただし、中空とすることでブレース200の重量を低減することができる。
ブレース200は、例えば、接続部位211及びロッド部位221を除いて、一本の管状の金属材料が曲げ加工されることで製作される。ただし、この製造方法は例示であり、これ以外の製造方法を採用してもよい。
【0076】
ブレース200の一方の端領域(第1軸部210の端領域)は接続部位211とされ、シリンダ110と接続可能に構成されている(
図7参照)。このとき、接続部位211の端部は、第1端部212とされる。
ブレース200の他方の端領域(第2軸部220の端領域)はロッド部位221とされ、第2ブラケット320と接続可能に構成されている(
図7参照)。このとき、ロッド部位221の端部は、第2端部222とされる。また、この第2端部222は、上述した第2装置端部52でもある。
【0077】
次に、第1軸部210、第2軸部220及び中間軸部230並びに第1曲げ部240及び第2曲げ部250の詳細について説明する。
【0078】
第1軸部210は、第1端部212を有する接続部位211が設けられたストレートな棒状の部分である。
第1軸部210は、第2端部222に向かって、かつ、線分Lvbに沿って延びている。すなわち、ブレース200の中心軸線Lcは、第1軸部210に対応する範囲において線分Lvbに沿っている(一致している)。
【0079】
第2軸部220は、第2端部222を有するロッド部位221が設けられたストレートな棒状の部分である。
第2軸部220は、第1端部212に向かって、かつ、線分Lvbに沿って延びている。すなわち、ブレース200の中心軸線Lcは、第2軸部220に対応する範囲において線分Lvbに沿っている(一致している)。
【0080】
中間軸部230は、線分Lvbが延びる方向において第1軸部210と第2軸部220との間に配置されたストレートな棒状の部分である。
中間軸部230は、線分Lvbと交差している。すなわち、ブレース200の中心軸線Lcは、中間軸部230に対応する範囲において線分Lvbと交差している。このとき、線分Lvbに対する中心軸線Lc(中間軸部230の中心軸線Lc)の傾斜角度αは、20度以上45度以下、好ましくは約30度とされている。ただし、この数値は例示であり、ブレース200の各部に作用する曲げモーメント等を考慮して適宜決定される。
なお、中間軸部230は、
図10においてクロスハッチングで示されている。ただし、クロスハッチングは説明のために表示したものであり、実際のブレース200の形状を限定するものではない。
【0081】
第1曲げ部240は、第1軸部210と中間軸部230とを接続する滑らかに湾曲した部分である。
第1曲げ部240は、線分Lvbから逸れるように延びている。すなわち、ブレース200の中心軸線Lcは、第1曲げ部240に対応する範囲において線分Lvbから逸れている。詳細には、当該範囲の中心軸線Lcは、第1軸部210から中間軸部230に向かう方向において、線分Lvbから徐々に離れた後、再び線分Lvbに近付くように滑らかに湾曲しながら延びている(線分Lvbと交差はしていない)。
【0082】
第2曲げ部250は、第2軸部220と中間軸部230とを接続する滑らかに湾曲した部分である。
第2曲げ部250は、線分Lvbから逸れるように延びている。すなわち、ブレース200の中心軸線Lcは、第2曲げ部250に対応する範囲において線分Lvbから逸れている。詳細には、当該範囲の中心軸線Lcは、第2軸部220から中間軸部230に向かう方向において、線分Lvbから徐々に離れた後、再び線分Lvbに近付くように滑らかに湾曲しながら延びている(線分Lvbと交差はしていない)。
【0083】
このとき、第1曲げ部240及び第2曲げ部250は、線分Lvbに対して互いに反対に向かって逸れており、第1曲げ部240の形状及び第2曲げ部250の形状は、交点Pに対して点対称の関係となっている。
ここで、交点Pは、中間軸部230における中心軸線Lcと線分Lvbとが交差する点である。また、交点Pは、中間軸部230における中心軸線Lcの中心点でもある。
以上より、第1曲げ部240から第2曲げ部250までのブレース200の形状は、交点Pに対して点対称の関係となっていることになる。
【0084】
このように構成されたブレース200において、第1曲げ部240から第2曲げ部250までの部分は、ブレース200の全体から見れば、限定的な範囲を占めているに過ぎない。
具体的には、第1曲げ部240から第2曲げ部250までの部分の線分Lvbに沿った長さ(直線距離)は、第1端部212から第2端部222までの長さ(ブレース200の全長)に対して15%以上30%以下とされている。
【0085】
<制振装置と第3のたて枠との関係>
このように構成された制振装置50は、
図1から
図3に示すように、枠状の構造体(詳細には、第1のたて枠11及び第2のたて枠12)に取り付けられる。
このとき、制振装置50の第1装置端部51、ブレース200の第1端部212及びブレース200の第2端部222(制振装置50の第2装置端部52)は、上述の通り同一直線上(線分Lvd上)に存在している。
【0086】
図1及び
図4に示すように、制振装置50が枠状の構造体に取り付けられた状態において、交点Pは、第3のたて枠13の中心部(水平方向の中心部)と略一致することが好ましい。したがって、交点Pが第3のたて枠13の中心部に位置するように制振装置50(例えばブレース200の寸法や形状)が設計されることになる。
【0087】
図4及び
図5に示すように、ブレース200と交差する第3のたて枠13の部分には、切り欠き13aが設けられている。切り欠き13aにブレース200の中間軸部230を通すことで、言い換えれば、切り欠き13aにブレース200の中間軸部230を配置することで、第3のたて枠13と干渉させることなくブレース200を第3のたて枠13と交差させることができる。
また、第3のたて枠13の正面には、ブレース200の中間軸部230が通された切り欠き13aを覆うパイプガード17(カバー)が設けられている。パイプガード17は、例えば複数のくぎ24で第3のたて枠13に固定されている。
また、第3のたて枠13の切り欠き13a及びパイプガード17によって画定された空間において、ブレース200の中間軸部230の周囲には断熱材18が充填されている。断熱材18としては、グラスウールが例示される。だたし、グラスウール以外の断熱材18を使用してもよい。
【0088】
切り欠き13aは、奥行方向に窪むように形成された(詳細には第3のたて枠13の正面から背面に向かって窪むように形成された)凹所である。第3のたて枠13に切り欠き13aを設けた場合、切り欠き13aを覆うようにパイプガード17を設けなければならない。
パイプガード17は、Cマーク表示金物であり、規格によって各寸法が定められている。具体的には、その幅寸法は40mm、高さ寸法は160mm、厚さ寸法は1.2mmとされている。そのため、パイプガード17で切り欠き13aを覆うためには、パイプガード17の寸法に準じて、切り欠き13aの寸法(特に、鉛直方向の寸法)を決定しなければならない。本実施形態の場合、切り欠き13aの高さ寸法は、くぎ24の止め代を考慮して、約110mmとされている。
【0089】
なお、切り欠き13aの幅寸法は第3のたて枠13の幅寸法に等しく、奥行寸法は45mmとされているが、これらの寸法はパイプガード17の寸法に依らない。ただし、これらの数値は例示であり、これら以外の寸法であってもよい。
【0090】
このように、切り欠き13aの高さ寸法が制限されているので、ブレース200が占める高さ方向の寸法を、少なくとも切り欠き13aとの交差位置において、可能な限り小さくすることが望まれる。
そこで本実施形態においては、上述の通り、切り欠き13aを通る中間軸部230(詳細には、中間軸部230に対応する範囲の中心軸線Lc)を線分Lvbに対して交差させている。そのため、
図4に示すように、当該範囲の中心軸線Lcは、制振装置50が枠状の構造体に斜めに取り付けられた状態において、線分Lvbよりも水平方向に横たわることになる。これによって、
図11に示すように、例えば単なる直線状(線分Lvbに沿った直線状)とされた比較例としてのブレース200’と比べて、ブレース200が占める高さ方向の寸法を小さくすることができる。
仮に比較例としてのブレース200’を枠状の構造体に取り付けようとした場合、
図12に示すように、ブレース200が切り欠き13aと干渉してしまう。すなわち、ブレース200’を枠状の構造体に取り付けることができず、構造として成立しない。
【0091】
なお、
図11において実線で表示されたブレース200の断面及び二点鎖線で表示された比較例としてのブレース200’の断面は、交点Pを通過する鉛直方向に沿った切断線X-Xにおけるものである。
また、比較例は、本実施形態に含まれる形態ではない。
【0092】
<制振装置の動き>
図13及び
図14に示すように、制振装置50は、例えば地震によって上枠15が水平方向に変位するような壁体構造10の横揺れを抑制することができる。具体的には、制振装置50のオイルダンパ100で発生する減衰力によって、壁体構造10の横揺れが抑制される。
【0093】
地震による荷重が制振装置50に入力されると、オイルダンパ100及びブレース200には、線分Lvdに沿った力が作用する。ブレース200に線分Lvd(線分Lvbと一致)に沿った力が作用した場合、第1曲げ部240から第2曲げ部250までの部分は中心軸線Lcが線分Lvbと一致していないので、単なる直線状のブレース200’と比べて、当該部分には曲げモーメントによる変形が生じやすい。
そのため、制振装置50としては、地震による荷重が入力されたときに、ブレース200の当該部分に塑性変形が生じないように設計しておく必要がある。その為には、例えば、地震による荷重が入力されたときに当該部分に塑性変形が生じないような減衰力を発生させるオイルダンパ100をブレース200と組み合わせる必要がある。言い換えれば、ブレース200と組み合わされるオイルダンパ100の減衰力を適切に設定しておくことで、当該部分に塑性変形が生じることを回避することができる。
【0094】
さて、横揺れする壁体構造10において、
図13に示すように、例えば上部が左側に約3度傾くように各たて枠が傾斜した場合、オイルダンパ100のロッド120が減衰力を発生させながらシリンダ110から突出する。このとき、横たわった中間軸部230は、切り欠き13aの下部と接触していない。
また、横揺れする壁体構造10において、
図14に示すように、例えば上部が右側に約3度傾くように各たて枠が傾斜した場合、オイルダンパ100のロッド120が減衰力を発生させながらシリンダ110に入り込む。このとき、横たわった中間軸部230は、切り欠き13aの上部と接触していない。
なお、オイルダンパ100のロッド120が線分Lvdに沿って進退することは言うまでもない。
【0095】
<変形例1>
図15には、これまでに説明したブレース200の中心軸線Lcと線分Lvbとの関係が概念的に示されている。これによれば、ブレース200は、線分Lvbに沿った直線状の第1軸部210及び第2軸部220、線分Lvbに交差した直線状の中間軸部230並びに線分Lvbから逸れた滑らかな第1曲げ部240及び滑らかな第2曲げ部250を備えていた。
この構成は例示であり、例えば
図16に示すように、ブレース200を、線分Lvbから逸れた直線状の第1軸部210及び第2軸部220並びに線分Lvbに交差した直線状の中間軸部230から構成してもよい。ただし、
図15に示した構成のようにすることで、ブレース200に生じる曲げモーメントを小さくすることができる。これによって、入力される荷重に対するブレース200の強度設定を小さくすることができるので、部材の肉厚やサイズを小さくすることができる。
【0096】
<変形例2>
図15や
図16に示した以外の構成を採用してもよく、少なくとも、第3のたて枠13と交差するブレース200の部分に対応した範囲の中心軸線Lcが線分Lvbと交差していればよい。
【0097】
<本実施形態の効果>
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
ブレース200において、中間軸部230の中心軸線Lcは第1端部212と第2端部222とを結ぶ線分Lvbに対して交差しているので、中間軸部230の中心軸線Lcの角度を線分Lvbの角度に対して異ならせることができる。そのため、ブレース200を第1のたて枠11と第2のたて枠12との間に配置したとき、中間軸部230の中心軸線Lcを水平方向に近付けることができる。これによって、中間軸部230の中心軸線Lcが線分Lvbと交差していない場合(例えば、ブレース200が単なる直線状とされている場合)と比べて、中間軸部230が占める鉛直方向の寸法を小さくすることができる。したがって、第3のたて枠13に設けられた切り欠き13aの寸法(鉛直方向の寸法)が制限されていたとしても、第3のたて枠13と干渉させることなくブレース200を第3のたて枠13と交差させることができる。
【0098】
また、ブレース200に第1曲げ部240及び第2曲げ部250を設けることで、ブレース200に生じる曲げモーメントを小さくすることができる。これによって、入力される荷重に対するブレース200の強度設定を小さくすることができるので、部材の肉厚やサイズを小さくすることができる。
【0099】
また、ブレース200をオイルダンパ100と組み合わせて使用することで、地震による荷重が入力されたときにブレース200に作用する力を抑えることができる。
【0100】
[第2実施形態]
以下、本開示の第2実施形態について説明する。
なお、第1実施形態と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0101】
壁体構造10において、たて枠の数を増やしてもよい。
増やしたたて枠は、既存のたて枠と同一の幅寸法を有するものであってもよいし、異なる幅寸法を有するものであってもよい。
以下、たて枠を増やした場合の壁体構造10の例について説明する。
【0102】
図17に示すように、壁体構造10は、更に、第1-2のたて枠11’、第2-2のたて枠12’及び第3-2のたて枠13’を備えている。
【0103】
第1-2のたて枠11’は、鉛直方向に延びた木材であり、下枠14の上面に設けられている。第1-2のたて枠11’は、第1のたて枠11と同様に、主として鉛直方向の荷重が負荷される部材である。
第1-2のたて枠11’は、第1のたて枠11に隣り合うように、かつ、第1のたて枠11の側面(内面、第2のたて枠12と向かい合う側面)と接触するように配置されている。したがって、第1ブラケット310は、第1-2のたて枠11’に取り付けられることになる。
第1-2のたて枠11’の寸法は、例えば、規格(工法)によって定められている。
図17の場合、その幅寸法は38mm、高さ寸法及び奥行寸法は第1のたて枠11と同一とされている。ただし、幅寸法の数値は例示であり、これら以外の寸法であってもよい。
【0104】
第2-2のたて枠12’は、鉛直方向に延びた木材であり、下枠14の上面に設けられている。第2-2のたて枠12’は、第2のたて枠12と同様に、主として鉛直方向の荷重が負荷される部材である。
第2-2のたて枠12’は、第2のたて枠12に隣り合うように、かつ、第2のたて枠12の側面(内面、第1のたて枠11と向かい合う側面)と接触するように配置されている。したがって、第2ブラケット320は、第2-2のたて枠12’に取り付けられることになる。
第2-2のたて枠12’の寸法は、例えば、規格(工法)によって定められている。
図17の場合、その幅寸法は38mm、高さ寸法及び奥行寸法は第2のたて枠12と同一とされている。ただし、幅寸法の数値は例示であり、これら以外の寸法であってもよい。
【0105】
第3-2のたて枠13’は、鉛直方向に延びた木材であり、下枠14の上面に設けられている。第3-2のたて枠13’は、第3のたて枠13と同様に、主として鉛直方向の荷重が負荷される部材である。
第3-2のたて枠13’は、第3のたて枠13に隣り合うように、かつ、第3のたて枠13の側面(
図17の場合、左側面、第1のたて枠11と向かい合う側面)と接触するように配置されている。
第3-2のたて枠13’の寸法は、例えば、規格(工法)によって定められている。
図17の場合、その幅寸法、高さ寸法及び奥行寸法は、第3のたて枠13と同一とされている。ただし、幅寸法は例示であり、これら以外の寸法であってもよい。
【0106】
図18に示すように、第3-2のたて枠13’には、第3のたて枠13に設けられた切り欠き13aと同様に、制振装置50のブレース200との干渉を回避するために、第2の切り欠き13a’が設けられている。
第2の切り欠き13a’にもパイプガード17を設けなければならない。そのため、パイプガード17の寸法に準じて、第2の切り欠き13a’の寸法(特に、鉛直方向の寸法)が決定されている。本実施形態の場合、第2の切り欠き13a’の高さ寸法は、くぎ24の止め代を考慮して、約110mmとされている。これは、切り欠き13aと同様の設定思想/設計方法に基づいている。また、第2の切り欠き13a’の幅寸法は第3-2のたて枠13’の幅寸法に等しく、奥行寸法は45mmとされているが、これらの寸法はパイプガード17の寸法に依らない。これらも、切り欠き13aと同様の設計思想/設計方法に基づいている。
【0107】
切り欠き13a及び第2の切り欠き13a’は、ブレース200の形状や制振装置50の姿勢が考慮された結果、鉛直方向において互いに異なる位置に設けられている(鉛直方向にずれている)。第2の切り欠き13a’が切り欠き13aよりも左に位置している
図18の場合、第2の切り欠き13a’が切り欠き13aよりも上方に位置している。切り欠き13a及び第2の切り欠き13a’の位置を鉛直方向にずらすことによって、ブレース200の配置(例えば傾斜角度)の自由度が増すことになる。
なお、切り欠き13aの位置及び第2の切り欠き13a’の位置は、ブレース200の形状や制振装置50の姿勢に合わせて、壁体構造10の製造現場/建築現場で作業者が現物合わせで決定してもよい。
【0108】
上述のとおり、第1のたて枠11と第3のたて枠13との距離(中心間のピッチ)及び第3のたて枠13と第2のたて枠12との距離(中心間のピッチ)は、500mm以下の同値(例えば455mm)とされている。これらのピッチ/位置関係は、壁体構造10に第1-2のたて枠11’及び第2-2のたて枠12’が追加されても変わらない。
そのため、
図17に示すように、第1ブラケット310が取り付けられたたて枠と第2ブラケット320が取り付けられたたて枠との間の水平方向における内法は、第1実施形態の壁体構造10と比べて小さくなる。したがって、制振装置50の傾斜角度θは、第1実施形態の壁体構造10と比べて小さくなる。言い換えれば、線分Lvdが鉛直に近付くことになる。
【0109】
また、上述のとおり、第1のたて枠11と第3のたて枠13との距離(中心間のピッチ)及び第3のたて枠13と第2のたて枠12との距離(中心間のピッチ)は、500mm以下の同値(例えば455mm)とされているので、第3のたて枠13は、水平方向において第1のたて枠11と第2のたて枠12との間の中間位置に配置されていることになる。これらのピッチ/位置関係は、壁体構造10に第3-2のたて枠13’が追加されても変わらない。
そのため、第3のたて枠13及び第3-2のたて枠13’を1つの柱状の構造物として捉えたとき(以下、2つのたて枠13,13’を1つの柱状の構造物として捉えたものを「中間スタッド部」と言う。)、中間スタッド部は、水平方向において第1のたて枠11と第2のたて枠12との間の中間位置ではない位置に配置されている。つまり、中間スタッド部は、水平方向において第1のたて枠11又は第2のたて枠12のいずれかに寄った位置に配置されることになる。第3-2のたて枠13’が第3のたて枠13の左側面と接触するように配置した
図17の場合、中間スタッド部は、水平方向において第1のたて枠11に寄った位置に配置されることになる。反対に、第3-2のたて枠13’が第3のたて枠13の右側面と接触するように配置した場合、中間スタッド部は、水平方向において第2のたて枠12に寄った位置に配置されることになる。
【0110】
図18に示すように、本実施形態のブレース200の中間軸部230は、切り欠き13a及び第2の切り欠き13a’に配置されている。
制振装置50が枠状の構造体に取り付けられた状態において、交点Pは、水平方向において中間スタッド部の中心部(水平方向の中心部)と略一致することが好ましい。したがって、交点Pが中間スタッド部の中心部に位置するように制振装置50(例えばブレース200の寸法や形状)が設計されることになる。この場合、中間スタッド部が水平方向において第1のたて枠11又は第2のたて枠12のいずれかに寄った位置に配置されることを踏まえれば、交点Pも、水平方向において第1のたて枠11又は第2のたて枠12のいずれかに寄った位置に配置することになる。これは、
図19に示すように、線分Lvdに沿った第1装置端部51から交点Pまでの距離L1と、線分Lvdに沿った交点Pから第2装置端部52までの距離L2と、を異ならせることを意味している。言い換えれば、交点Pは、線分Lvdの中間位置(1/2の位置)に存在しないことになる。
ただし、これは、地震によって各たて枠が傾斜していない状態(以下、「通常状態」という。)を前提としている。地震によって各たて枠が傾斜した場合、オイルダンパ100のロッド120がシリンダ110に対して進退するので(すなわち、距離L1が長くなったり短くなったりするので)、交点Pが一時的に線分Lvdの中間位置に存在する可能性がある。
枠状の構造体に取り付けられていない状態の制振装置50を見れば(制振装置50単体を見れば)、オイルダンパ100が基準長とされている場合、交点Pは、線分Lvdの中間位置(1/2の位置)に存在しないことになる。ここで、「基準長」とは、通常状態にある枠状の構造体への取付けを想定した、オイルダンパ100の設計上の基準となる長さのことである。
【0111】
なお、第1実施形態のように、交点Pを第3のたて枠13の中心部に配置した場合、交点Pは、線分Lvdの中間位置に存在することになる。枠状の構造体に取り付けられていない状態の制振装置50を見れば(制振装置50単体を見れば)、オイルダンパ100が基準長とされている場合、交点Pは、線分Lvdの中間位置(1/2の位置)に存在することになる。
ただし、これも、通常状態を前提としている。地震によって各たて枠が傾斜した場合、オイルダンパ100のロッド120がシリンダ110に対して進退するので(すなわち、距離L1が長くなったり短くなったりするので)、交点Pが一時的に線分Lvdの中間位置に存在しなくなる可能性がある。
【0112】
<曲げ部の傾斜角度について>
線分Lvbに対する第1曲げ部240の傾斜角度βについて説明する。
なお、交点Pに対して第1曲げ部240と点対称とされた第2曲げ部250の傾斜角度については、第1曲げ部240と同様の設計方法が適用できるため、その説明を省略する。
【0113】
図20に示すように、第1曲げ部240の中心軸線Lcは、第1軸部210の中心軸線Lcと接続され線分Lvbから離れるような円弧形状の第1部分Lc1と、直線状の第2部分Lc2と、中間軸部230の中心軸線Lcと接続された円弧形状の第3部分Lc3を含んでいる。
線分Lvbに対する第1曲げ部240の傾斜角度βとは、中心軸線Lcの直線状の第2部分Lc2が線分Lvbに対して成す角度である。
この傾斜角度βは、ブレース200の寸法や材料を考慮して、例えば8度以上14度以下、好ましくは12度とされる。
【0114】
以下、傾斜角度βの決定方法について説明する。
なお、
図21では、説明のために、線分Lvbに沿う軸としてY軸を設定し、それに直交する軸としてX軸と設定している。
また、傾斜角度α(
図10参照)を30度としている。
また、中間軸部230の中心軸線Lcの延長線と第1曲げ部240の中心軸線Lcの第2部分Lc2の延長線とが交差する点を交点Qとしている。
また、中間軸部230の中心軸線Lcの延長線と線分Lvbとが交差する点を交点Rとしている。交点R近傍の部分を、第1曲げ部240の基端部分という。
また、交点Qから交点RまでのY軸方向の長さ(Y軸成分)を腕長さVとしている。
また、交点Qに作用するX軸成分の荷重をX成分荷重Fxとしている。このX成分荷重Fxは、ブレース200に入力された荷重(中心軸線Lcに沿った荷重)に起因している。
また、交点Pから交点QまでのX軸方向の距離(X軸成分)を距離Dxとしている。
また、中間スタッド部の中心線を基準線Ldとしている。なお、基準線Ldは、第3のたて枠13の中心線とは異なる。
また、線分Lvbが基準線Ldに対して成す角度は、
図1に示された傾斜角度θと等しい。
【0115】
まず、距離Dxを決定する。
距離Dxは、芯ずれ量でもあり、小さい方が好ましく、例えば、第1軸部210と第2軸部220とを結んだ仮想的な棒状部分400と、交点Qが含まれた第1曲げ部240の部分と、が重なるように設定される。なお、棒状部分400の中心軸線は、線分Lvbと一致している。
ただし、距離Dxを過度に小さく設定した場合、ブレース200が中間スタッド部に干渉するので、ブレース200が中間スタッド部に干渉しないように距離Dxを設定する必要がある。
距離Dxに範囲を持たせてもよいが、便宜のために距離Dxは固定の値としておくとよい。
【0116】
次に、決定された距離Dxにおいて、ブレース200が中間スタッド部の切り欠き13a及び第2の切り欠き13a’に干渉しないような傾斜角度θの最小値を設定する。
なお、傾斜角度θは例えば約15度以上25度以下とされていたが、これは、制振装置50の減衰機能を十分に発揮させるという観点において制振装置50の好ましい姿勢(傾斜角度)を示したものである。一方、ここで決定する傾斜角度θの最小値は、あくまでも傾斜角度βを決定するための数値であり、15度未満になることもある。
【0117】
次に、決定された距離Dx及び傾斜角度θの最小値において、交点R回りに作用する曲げモーメント、すなわち第1曲げ部240の基端部分に作用する曲げモーメントが設計上の許容範囲に収まるような傾斜角度βの範囲を決定する。
ここで、曲げモーメントは、腕長さV[m]×X成分荷重Fx[N]によって算出される。
なお、距離Dxは固定されているので、傾斜角度βを小さくする場合は腕長さVが大きくなり、傾斜角度βを大きくする場合は腕長さVが小さくなる。また、第1曲げ部240の基端部分に作用する曲げモーメントは、小さいほど好ましい。
【0118】
傾斜角度βを決定する過程で中間スタッド部の切り欠き13a及び第2の切り欠き13a’との干渉が考慮されているので、
図22に示すように、例えば
図17に示された中間スタッド部から第3-2のたて枠13’を省略した場合(すなわちブレース200が第3のたて枠13のみと交差する場合)であっても、当然、ブレース200が第3のたて枠13に設けられた切り欠き13aと干渉することはない。
【0119】
<変形例3>
壁体構造10のたて枠の数は、適宜増減できる。
例えば、
図23に示すように、
図17に示された壁体構造10から4のたて枠11’及び第2-2のたて枠12’を省略してもよい。
また、例えば
図24に示すように、第1のたて枠11の幅寸法を小さくしたうえで第1-2のたて枠11’の隣に第1-3のたて枠11’’を設け、第2のたて枠12の幅寸法を小さくしたうえで第2-2のたて枠12’の隣に第2-3のたて枠12’’を設けてもよい。この場合、各たて枠の幅寸法は、例えば38mmとされる。ただし、これらの数値は例示であり、これら以外の寸法であってもよい。
【0120】
<変形例4>
壁体構造10に追加するたて枠の位置は、適宜変更できる。
例えば、第1-2のたて枠11’を、第1のたて枠11に隣り合うように、かつ、第1のたて枠11の側面(外面、第2のたて枠12と向かい合う側面の反対の面)と接触するように配置してもよい。この場合、第1ブラケット310は、第1のたて枠11に取り付けられることになる。
また、第2-2のたて枠12’を、第2のたて枠12に隣り合うように、かつ、第2のたて枠12の側面(外面、第1のたて枠11と向かい合う側面と反対の面)と接触するように配置してもよい。この場合、第2ブラケット320は、第2のたて枠12に取り付けられることになる。
また、第3-2のたて枠13’を、第3のたて枠13に隣り合うように、かつ、第3のたて枠13の側面(右側面、第2のたて枠12と向かい合う側面)と接触するように配置してもよい。
【0121】
<本実施形態の効果>
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
切り欠き13a及び第2の切り欠き13a’の位置を鉛直方向にずらすことによって、ブレース200の配置(例えば傾斜角度)の自由度を増加させることができる。
【0122】
また、交点Pを線分Lvdの中間位置からずらすことで、第3-2のたて枠13’が追加された場合でも、制振装置50(ブレース200)を切り欠き13a及び第2の切り欠き13a’に干渉させることなく設置することができる。
【0123】
また、線分Lvbに対する第1曲げ部240の傾斜角度β及び第2曲げ部250の傾斜角度βを、8度以上14度以下、好ましくは12度としているので、第1曲げ部240の基端部分及び第2曲げ部250の基端部分に作用する曲げモーメントを抑えることができる。
【符号の説明】
【0124】
10 壁体構造
11 第1のたて枠(第1の構造部材)
12 第2のたて枠(第2の構造部材)
13 第3のたて枠13a 切り欠き
11’ 第1-2のたて枠
12’ 第2-2のたて枠
13’ 第3-2のたて枠
13a’ 第2の切り欠き
11’’ 第1-3のたて枠
12’’ 第2-3のたて枠
14 下枠
15 上枠
16 パネル材
17 パイプガード(カバー)
18 断熱材
21 くぎ(パネル材用)
22 ビス(第1ブラケット用)
23 ビス(第2ブラケット用)
24 くぎ(パイプガード用)
50 制振装置
51 第1装置端部
52 第2装置端部
100 オイルダンパ
110 シリンダ
120 ロッド
200 ブレース(補強部材)
210 第1軸部
211 接続部位
212 第1端部
220 第2軸部
221 ロッド部位
222 第2端部
230 中間軸部
240 第1曲げ部
250 第2曲げ部
310 第1ブラケット
320 第2ブラケット
Lc 中心軸線
Lvb 線分(ブレースにおける仮想的な線分)
Lvd 線分(制振装置における仮想的な線分)