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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114681
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】金属の回収方法、金属の回収装置
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/06 20060101AFI20240816BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20240816BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20240816BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C22B3/06
C22B3/44 101B
C22B7/00 C
C22B1/02
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024019548
(22)【出願日】2024-02-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-08-14
(31)【優先権主張番号】P 2023019764
(32)【優先日】2023-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】林 浩志
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 淳
(72)【発明者】
【氏名】中山 翔太
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA19
4K001BA19
4K001BA22
4K001CA11
4K001DB03
4K001DB04
4K001DB06
4K001DB24
(57)【要約】
【課題】水に難溶性の硫化物を形成する金属のイオンを含む金属溶出液から、特定の金属を、低コストで効率的に硫化物として分離させることが可能な金属の回収方法、および金属の回収装置を提供する。
【解決手段】水に難溶性の硫化物を形成する金属のイオンを含む金属溶出液に硫化剤を反応させて、金属硫化物を生成する金属硫化物生成工程と、前記金属硫化物を含む固相と、液相とを固液分離する固液分離工程と、前記固相に含まれる前記金属硫化物に無機酸を液温20℃以上で反応させて前記金属をイオンとして溶解させるとともに、硫化水素を生成する金属硫化物溶解工程と、前記硫化水素、または前記硫化水素を反応させた硫黄化合物を、前記硫化剤の少なくとも一部として前記金属硫化物生成工程に還流させる還流工程と、を少なくとも備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に難溶性の硫化物を形成する金属のイオンを含む金属溶出液に硫化剤を反応させて、金属硫化物を生成する金属硫化物生成工程と、
前記金属硫化物を含む固相と、液相とを固液分離する固液分離工程と、
前記固相に含まれる前記金属硫化物に無機酸を液温20℃以上で反応させて前記金属をイオンとして溶解させるとともに、硫化水素を生成する金属硫化物溶解工程と、
前記硫化水素、または前記硫化水素を反応させた硫黄化合物を、前記硫化剤の少なくとも一部として前記金属硫化物生成工程に還流させる還流工程と、を少なくとも備えたことを特徴とする金属の回収方法。
【請求項2】
前記還流工程は、前記金属硫化物溶解工程で生成した前記硫化水素のうち、少なくとも一部をアルカリ性液体に吸収させた状態で、前記硫化剤の少なくとも一部として前記金属硫化物生成工程に還流させる工程であることを特徴とする請求項1に記載の金属の回収方法。
【請求項3】
前記金属は、ニッケル、コバルトのいずれか一方、または両方を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の金属の回収方法。
【請求項4】
前記無機酸は、塩酸、硫酸あるいはこの2つを含む混酸であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属の回収方法。
【請求項5】
前記金属溶出液は、リチウムイオン電池を400℃以上、600℃以下の温度範囲で加熱処理した焼成物を粉砕して分級することで得られる、粒子径が1mm以下の焼成電池粉砕粉に含まれる前記金属を酸で溶出させたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の金属の回収方法。
【請求項6】
前記金属硫化物溶解工程は、前記固液分離工程で得られた前記固相を無機酸で浸出させて、前記金属をイオンとして溶解させるとともに、硫化水素を生成する第1金属硫化物溶解工程と、第1金属硫化物溶解工程の浸出物を固液分離して得られた残渣に、無機酸と、酸化剤とを反応させて、前記金属の硫酸塩を生成する第2金属硫化物溶解工程と、からなることを特徴とする請求項1または2に記載の金属の回収方法。
【請求項7】
水に難溶性の硫化物を形成する金属のイオンを含む金属溶出液に硫化剤を反応させて、金属硫化物を生成する金属硫化物生成手段と、
前記金属硫化物を含む固相と、液相とを固液分離する固液分離手段と、
前記固相に含まれる前記金属硫化物に無機酸を液温20℃以上で反応させて前記金属をイオンとして溶解させるとともに、硫化水素を生成する金属硫化物溶解手段と、
前記硫化水素を前記硫化剤の少なくとも一部として前記金属硫化物生成手段に還流させる還流手段と、を少なくとも備えたことを特徴とする金属の回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に難溶性の硫化物を形成する金属のイオンを含む金属溶出液から金属を回収するための金属の回収方法、および金属の回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、各種電子機器等の小型の物から電気自動車等の大型の物まで、幅広い分野の電源として利用されている。こうしたリチウムイオン二次電池が廃棄された際には、有用な金属を回収して再利用することが求められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、負極材と正極材とを、多孔質ポリオレフィン等のセパレータで分画し層状に重ね、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質および炭酸エステル等の有機電解液と共にアルミニウムやステンレス等のケースに封入して形成されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池の負極材は銅箔などからなる負極集電体にバインダーが混合された黒鉛などの負極活物質を塗布して形成されている。また、正極材はアルミニウム箔などからなる正極集電体にバインダーが混合されたコバルト酸リチウム、ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウムなどの正極活物質を塗布して形成されている。
【0005】
このようにリチウムイオン二次電池の正極活物質にはコバルトやニッケルが多く含まれている。従来、使用済みリチウムイオン二次電池に含まれるコバルトやニッケルを回収する方法として、例えば、特許文献1には、リチウムイオン電池を焼成、粉砕した電極材料から浸出させたコバルトおよびニッケルを含む浸出液に、S2-化合物を含む硫化剤を加えて撹拌することで、水に不溶性の硫化コバルトおよび硫化ニッケルとして沈殿させるコバルトおよびニッケル分離方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-042982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されたコバルトおよびニッケル分離方法では、ブラックマスに含まれるアルミニウム、鉄、マンガンといった不純物を取り込まずに、選択的にコバルトやニッケルなどの目的の金属を濃縮して回収することができる。しかしながら、浸出液に含まれるコバルトやニッケルだけを硫化物にして沈殿させる水硫化ナトリウム、硫化ナトリウム、硫化水素などの硫化剤のコストが高く、こうしたコバルトやニッケルの分離が高コストになるという課題があった。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、水に難溶性の硫化物を形成する金属のイオンを含む金属溶出液から、特定の金属を、低コストで効率的に硫化物として分離させることが可能な金属の回収方法、および金属の回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
(1)本発明の第1態様に係る金属の回収方法は、水に難溶性の硫化物を形成する金属のイオンを含む金属溶出液に硫化剤を反応させて、金属硫化物を生成する金属硫化物生成工程と、前記金属硫化物を含む固相と、液相とを固液分離する固液分離工程と、前記固相に含まれる前記金属硫化物に無機酸を液温20℃以上で反応させて前記金属をイオンとして溶解させるとともに、硫化水素を生成する金属硫化物溶解工程と、前記硫化水素、または前記硫化水素を反応させた硫黄化合物を、前記硫化剤の少なくとも一部として前記金属硫化物生成工程に還流させる還流工程と、を少なくとも備えたことを特徴とする。
【0010】
(2)本発明の第2態様に係る金属の回収方法は、第1態様において、前記還流工程は、前記金属硫化物溶解工程で生成した前記硫化水素のうち、少なくとも一部をアルカリ性液体に吸収させた状態で、前記硫化剤の少なくとも一部として前記金属硫化物生成工程に還流させる工程であることを特徴とする。
【0011】
(3)本発明の第3態様に係る金属の回収方法は、第1又は第2態様において、前記金属は、ニッケル、コバルトのいずれか一方、または両方を含むことを特徴とする。
【0012】
(4)本発明の第4態様に係る金属の回収方法は、第1から第3のいずれか1つの態様において、前記無機酸は、塩酸、硫酸あるいはこの2つを含む混酸であることを特徴とする。
【0013】
(5)本発明の第5態様に係る金属の回収方法は、第1から第4のいずれか1つの態様において、前記金属溶出液は、リチウムイオン電池を400℃以上、600℃以下の温度範囲で加熱処理した焼成物を粉砕して分級することで得られる、粒子径が1mm以下の焼成電池粉砕粉に含まれる前記金属を酸で溶出させたものであることを特徴とする。
【0014】
(6)本発明の第6態様に係る金属の回収方法は、第1から第5のいずれか1つの態様において、前記金属硫化物溶解工程は、前記固液分離工程で得られた前記固相を無機酸で浸出させて、前記金属をイオンとして溶解させるとともに、硫化水素を生成する第1金属硫化物溶解工程と、第1金属硫化物溶解工程の浸出物を固液分離して得られた残渣に、無機酸と、酸化剤とを反応させて、前記金属の硫酸塩を生成する第2金属硫化物溶解工程と、からなることを特徴とする。
【0015】
(7)本発明の第7態様に係る金属の回収装置は、水に難溶性の硫化物を形成する金属のイオンを含む金属溶出液に硫化剤を反応させて、金属硫化物を生成する金属硫化物生成手段と、前記金属硫化物を含む固相と、液相とを固液分離する固液分離手段と、前記固相に含まれる前記金属硫化物に無機酸を液温20℃以上で反応させて前記金属をイオンとして溶解させるとともに、硫化水素を生成する金属硫化物溶解手段と、前記硫化水素を前記硫化剤の少なくとも一部として前記金属硫化物生成手段に還流させる還流手段と、を少なくとも備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水に難溶性の硫化物を形成する金属のイオンを含む金属溶出液から、特定の金属を、低コストで効率的に硫化物として分離させることが可能な金属の回収方法、および金属の回収装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態の金属の回収方法を段階的に示したフローチャートである。
図2】本発明の第2実施形態の金属の回収方法を段階的に示したフローチャートである。
図3】本発明の第3実施形態の金属の回収方法を段階的に示したフローチャートである。
図4】本発明の第4実施形態の金属の回収方法を段階的に示したフローチャートである。
図5】本発明の第5実施形態の金属の回収方法を段階的に示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の金属の回収方法、および金属の回収装置について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0019】
(金属の回収装置)
本実施形態の金属の回収装置は、金属硫化物生成手段と、固液分離手段と、金属硫化物溶解手段と、還流手段とを少なくとも備えている。
金属硫化物生成手段は、水に難溶性の硫化物を形成する金属、例えばニッケルやコバルトのイオンを含む金属溶出液に硫化剤を反応させて金属硫化物を生成する反応容器と、硫化剤を供給する硫化剤供給装置と、から構成されていればよい。
【0020】
固液分離手段は、金属硫化物生成手段で生成された金属硫化物を含む固相と、液相とを固液分離する分離装置、例えば、加圧濾過装置であればよい。
【0021】
金属硫化物溶解手段は、固液分離手段で分離した固相に含まれる金属硫化物に無機酸を液温20℃以上で反応させて、金属、例えばニッケルやコバルトをイオンとして溶解させるとともに、硫化水素を生成する反応装置、例えば、撹拌槽であればよい。
【0022】
還流手段は、金属硫化物溶解手段で生成させた硫化水素を、金属硫化物生成手段で用いる硫化剤の少なくとも一部として、金属硫化物生成手段に還流させるブロワーやポンプなどからなる流体搬送装置やガス配管などであればよい。
【0023】
(金属の回収方法:第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態の金属の回収方法を段階的に示したフローチャートである。
本実施形態の金属の回収方法は、例えば、上述した金属の回収装置を用いて行うことができる。
まず、水に難溶性の硫化物を形成する金属のイオンを含む金属溶出液を用意する。本実施形態では、上述した金属として、ニッケル、およびコバルトを例示する。こうした水に難溶性の硫化物を形成する、ニッケルおよびコバルトのイオンを含む金属溶出液としては、例えば、リサイクル原料として回収されたリチウムイオン電池を用いて形成された電池焼成物(ブラックマス)を原料にして浸出した浸出液を挙げることができる。
【0024】
本実施形態で用いるブラックマスは、例えば、以下の方法で得ることができる。
リチウムイオン電池の正極活物質には、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(Li(NiMnCo)O)など、水に難溶性の硫化物を形成する金属であるコバルト、ニッケル、マンガンなどが含まれている。
【0025】
まず、リチウムイオン電池を熱分解炉に入れ、好ましくは、過熱水蒸気または窒素などの非酸化性雰囲気下で、例えば、400℃~600℃程度の温度範囲で、30分~5時間程度加熱し、リチウムイオン電池を熱分解する(熱分解工程S1)。
【0026】
こうした熱分解によって、リチウムイオン電池に含まれるコバルト、ニッケル、マンガンなどの金属は還元されて、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化マンガンなどの金属酸化物、あるいは金属ニッケルなど水に不溶な形態になる。
【0027】
次に、上述したリチウムイオン電池の熱分解物を破砕する(破砕工程S2)。破砕によって、集電体に付着している熱分解後の電極活物質は剥離して、概ね粒径が1mm未満の微細な破砕物にされる。破砕工程S2には、例えば、二軸剪断破砕機やハンマーミルを用いることができる。
【0028】
次に、リチウムイオン電池の熱分解物の破砕物を、適切な目開きの篩を用いて分級して、例えば、1mm未満、好ましくは0.5mm以下の細粒物と、これより大きい粗粒物とに篩分けする(分級工程S3)。分級には、例えば、目開き0.1mm~1.0mm、好ましくは目開き0.1mm~0.5mm程度の振動篩などを用いて篩分けすればよい。こうした分級によって、粗粒物に含まれる電池セルの外装材や集電体の金属箔と、細粒物に含まれる電極活物質の熱分解物とを分級することができる。
【0029】
以上の工程によって、リチウムイオン電池を400℃以上、600℃以下の温度範囲で焼成した焼成物を破砕して分級することで得られる、粒子径が1mm以下の電池焼成破砕物(ブラックマス)を得ることができる。
【0030】
次に、分級工程S3で得られたブラックマスを処理液に浸漬して、コバルト、ニッケル、マンガンなどの金属をイオンにして溶解した浸出液を得る(浸出工程S4)。浸出工程S4に用いる処理液としては、例えば、硫酸(HSO)を用いる。また浸出促進剤として過酸化水素(H)を用いることができる。
【0031】
ブラックマスに含まれるコバルト、ニッケル、マンガンが金属の場合には過酸化水素を酸化剤として用いることで、より硫酸に溶解しやすい2価のコバルト、ニッケル、マンガンに酸化することができる。あるいはブラックマスに含まれるコバルト、ニッケル、マンガンが3価,4価の状態の場合には、過酸化水素を還元剤として用いることで、より硫酸に溶解しやすい2価のコバルト、ニッケル、マンガンに還元することができる。
【0032】
本実施形態に用いる処理液の具体例としては、濃度が2mol/L以上の希硫酸が挙げられる。浸出促進剤である過酸化水素水は、濃度が10wt%の溶液を希硫酸添加後に添加することでコバルト、ニッケル、マンガンの浸出率を高めることができる。
【0033】
浸出工程S4の具体的な操作例としては、例えば分級工程S3で得られた粉末状のブラックマスを処理液に加え、60℃以上に加温して2時間以上浸漬する。この時、更に攪拌することが好ましい。
【0034】
処理液温度を60℃以上、浸出(浸漬)時間を2時間以上とすることで、コバルト、ニッケル、マンガンなどの金属浸出率を高めることができる。特に制限はないが、それ以上にしても浸出率のさらなる向上は望めないため、処理液温度の上限は90℃、浸出時間の上限は15時間である。
【0035】
こうした浸出工程S4によって、電極材料のうち、正極活物質由来の金属成分(コバルト、ニッケル、マンガン等)は処理液に溶解し(水に難溶性の硫化物を形成する金属のイオンを含む金属溶出液)、負極活物質由来の炭素は、溶解せずに炭素残渣として残る。
【0036】
以上のような前工程を経て、リチウムイオン電池を原料とした場合の、本実施形態の金属の回収方法に用いる、水に難溶性の硫化物を形成する金属のイオンを含む金属溶出液(以下、単に金属溶出液と称することがある)を得ることができる。
【0037】
なお、本実施形態では、金属溶出液として、上述したようにブラックマスからコバルト、ニッケルなどを硫酸浸出させたものを用いているが、本実施形態の金属の回収方法に用いる金属溶出液は、これに限定されるものではなく、水に難溶性の硫化物を形成する金属のイオンを含む金属溶出液であれば、例えば、各種物品の生産過程等で生じた金属排液などを用いることができる。
【0038】
次に、上述した金属溶出液を用いて、本実施形態の金属の回収方法の一例として、コバルト、ニッケルを回収する。
まず、金属溶出液に、予め必要に応じてアルカリ金属水酸化物を加えて硫化物が生成しやすいようにpHを調整することが好ましい。また、金属溶出液に銅、鉛、カドミウムなどの不溶解性の硫化物を形成する金属イオンがある場合には後段の金属硫化物溶解工程において不溶解残渣量が増大するため除去することが望ましい。
【0039】
こうしたpH調整を行うためのアルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)が挙げられる。本実施形態では、25wt%の水酸化ナトリウム水溶液を用いた。こうしたpH調整によって、溶出液のpHを2.0~5.0の範囲内、例えば3.5にする。ここでのpH調整は反応が遅いため、最後にアルカリ金属水酸化物を加えてから少なくとも30分以上保持してpHを安定させることが好ましい。
【0040】
この時、pHが低いと、後述する金属硫化物生成工程S5において、硫化剤とコバルト、ニッケルが反応しにくくなる虞があるが、硫化剤の添加に伴って、溶出液のpHは低下していく。pH調整後、硫化剤の添加開始時のpHが2.0未満であると、硫化剤の添加終了に至る前に過度のpH低下が生じ、再度のpH調整が必要になる。このため、金属硫化物生成工程S5の前処理であるpH調整時にpHを2.0以上にした方が効率的である。また、pH調整時にpHを5.0を超える値にすると、アルミニウムなどの不純物を取り込んで金属硫化物の純度を低下させてしまう。そのため、pH調整範囲としては2.0~5.0の範囲が望ましい。
【0041】
そして、必要に応じてpH調整を行った金属溶出液に、硫化剤(硫化水素ナトリウム、硫化水素ガス、硫化ナトリウム等)を加えて反応させて金属硫化物を生成する(金属硫化物生成工程S5)。より具体的には、pH調整を行った金属溶出液を反応容器に入れ、硫化剤を供給する硫化剤供給装置から、所定量の硫化水素ナトリウム水溶液を添加して、反応容器内を撹拌する。本実施形態では、硫化剤として硫化水素ナトリウム(水硫化ナトリウム:NaSH)のアルカリ性水溶液を用いている。
【0042】
硫化剤、例えば硫化水素ナトリウム水溶液の添加は、例えば、酸化・還元電位(vs Ag/AgCl)が-400mV以下になるまで行う。酸化・還元電位が-400mV以下になるまで硫化水素ナトリウム水溶液を添加することで、溶出液に含まれるコバルト、ニッケルの全量を金属硫化物の沈殿に転換することができる。こうした硫化水素ナトリウム水溶液は、添加後に数分程度保持すれば、反応は殆ど安定化する。
【0043】
硫化剤の添加開始から終了に至るまでの間の浸出液のpHは2.0~5.0、好ましくは2.0~3.5の範囲内に維持することが好ましい。浸出液のpHが2.0未満となった場合、硫化水素ナトリウムと硫酸との反応(NaSH+HSO→HS+NaSO)が生じ、硫化水素がガスとして気化しやすくなるためコバルト、ニッケルの硫化物生成効率が低下する。一方、浸出液のpHが5.0を超えると、他の金属の水酸化物が生じて沈殿物の純度が低下するおそれがある。また、高い領域でpHをコントロールすることは困難である。
【0044】
こうした金属硫化物生成工程S5で用いる硫化剤は、後工程である金属硫化物溶解工程S7で発生した硫化水素(HS)を用いて生成させた硫化水素ナトリウム水溶液を、必要量の一部に用いている。
【0045】
このような金属硫化物生成工程S5によって、金属溶出液に含まれるコバルトおよびニッケルは、それぞれ水に不溶性の硫化コバルト(CoS)および硫化ニッケル(NiS)の混合物となり、固相として沈殿する。
【0046】
なお、ここでいう硫化コバルトには、硫化コバルト(II)、二硫化コバルト(CoS)、八硫化九コバルト(Co)など、各種組成の硫化コバルト化合物が含まれていてもよい。同様に、硫化ニッケル(NiS)には、硫化ニッケル(II)、二硫化ニッケル(NiS)、四硫化三ニッケル(Ni)、二硫化三ニッケル(Ni)など、各種組成の硫化ニッケル化合物が含まれていてもよい。
【0047】
次に、金属硫化物生成工程S5によって生じた、金属硫化物を含む固相と、液相とを固液分離する(固液分離工程S6)。
固液分離は、例えば、加圧濾過装置を用いて、金属硫化物生成工程S5で得られた固液混合物を濾過することにより、固相と液相とを濾別すればよい。こうした固液分離工程S6によって、コバルト、ニッケルなどの金属硫化物(不溶性化合物)からなる固相と、有価物の金属を殆ど含まない液相と、をそれぞれ得ることができる。
この後、固液分離工程S6によって得られた液相は、金属回収排液として、残留している不純物等を排水処理施設で処理すればよい。
なお、固液分離工程S6は、上述した加圧濾過以外にも、例えば、減圧による吸引濾過や常圧による自然濾過などによって行うこともできる。
【0048】
一方、固液分離工程S6によって得られた、不溶性の金属硫化物を含む固相は、無機酸と液温20℃以上で反応させて、金属をイオンとして溶解させる(再溶解)とともに、硫化水素を生成する(金属硫化物溶解工程S7)。
【0049】
金属硫化物溶解工程S7で用いる無機酸としては、例えば、硫酸(HSO)、塩酸(HCl)などを用いることができる。本実施形態では、濃度が47質量%の硫酸を用いている。
【0050】
なお、金属硫化物溶解工程S7で用いる無機酸として、硫酸は工業的に安価に入手することができる。また、塩酸は、硫酸よりも硫化コバルトや硫化ニッケルの溶解性に優れているが、無機酸はこれら硫酸や塩酸に限定されるものではない。また、反応促進剤として鉄粉やニッケル粉などを入れても良い。
【0051】
金属硫化物溶解工程S7の具体例としては、例えば20℃以上に加熱した無機酸に、固液分離工程S6によって得られた固相(沈殿物)を加え、2時間以上浸漬する。この時、更に攪拌することが好ましい。液温は20℃以上100℃以下にするのがよく、より好ましくは80℃以下であればよい。
【0052】
こうした無機酸を用いた固相(沈殿物)の処理によって、不溶性の硫化コバルトおよび硫化ニッケルが、それぞれコバルトイオン、ニッケルイオンとなって無機酸に溶解された金属再溶解液が得られる。
【0053】
金属硫化物溶解工程S7において、無機酸として硫酸を用いた際の硫化コバルトおよび硫化ニッケルの反応を式(1)、式(2)にそれぞれ示す。
CoS+HSO→CoSO+HS↑・・・(1)
NiS+HSO→NiSO+HS↑・・・(2)
【0054】
また、金属硫化物溶解工程S7において、無機酸として塩酸を用いた際の硫化コバルトおよび硫化ニッケルの反応を式(3)、式(4)にそれぞれ示す。
CoS+2HCl→CoCl+HS↑・・・(3)
NiS+2HCl→NiCl+HS↑・・・(4)
【0055】
なお、金属硫化物溶解工程S7の前工程として、コバルト硫化物、ニッケル硫化物の沈殿物を微粉砕しておくことで反応効率を高めるとよい。
【0056】
また、金属硫化物溶解工程S7において無機酸に溶解せずに固形分として残った不溶解残渣は、無機酸以外の薬剤によって完全に溶解することができる。例えば、過酸化水素により硫化物を酸化溶解することでコバルト硫化物、ニッケル硫化物を溶解することができる。この不溶解残渣の溶解液は、先の金属再溶解液と混合して金属原料として利用することができる。
【0057】
こうして得られた、金属再溶解液は、コバルトやニッケル以外の電極材料の他の成分(銅、鉄、アルミニウム、リチウム、カルシウム等)は殆ど含まれておらず、コバルトおよびニッケルのリサイクル原料として用いることができる。
【0058】
例えば、金属硫化物溶解工程S7で得られた金属再溶解液に抽出剤溶液を添加して、コバルト抽出液と、ニッケル抽出液とを得ることができる。抽出剤溶液としては、金属抽出剤と希釈剤を混合した混合溶液を用いることができる。例えば、2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネート(PC88A:大八化学株式会社製)を20vol%、ケロシン(希釈剤)を80vol%の割合で混合した混合溶液を用いることができる。上述した抽出剤溶液を用いて、ミキサーセトラーにより金属再溶解液から高純度な硫酸コバルト(CoSO)溶液と、硫酸ニッケル(NiSO)溶液とを分離回収できる。
【0059】
一方、金属硫化物溶解工程S7では、無機酸によって硫化コバルトや硫化ニッケルなどを溶解する際に、同時に硫化水素(HS)が発生する。この金属硫化物溶解工程S7で発生した硫化水素は、金属硫化物生成工程S5で用いる硫化剤の少なくとも一部として、金属硫化物生成手段に向けて還流させる(還流工程S8)。
【0060】
本実施形態では、還流工程S8として、金属硫化物溶解工程S7で生じた硫化水素を、水酸化ナトリウム水溶液に吸収、反応させることで、硫黄化合物としての硫化水素ナトリウム溶液を生成させ(式(5)を参照)、この硫化水素ナトリウム水溶液を金属硫化物生成工程S5に還流させている。
S+NaOH→NaHS+HO・・・(5)
【0061】
硫化水素は、アルカリ性の液体に溶解しやすく、本実施形態では、濃度が1質量%~48質量%程度の水酸化ナトリウム水溶液を用いている。なお、硫化水素を吸収、反応させるアルカリ性水溶液は、水酸化ナトリウム水溶液に限定されるものではなく、例えば、水酸化カリウム水溶液などを用いることもできる。
【0062】
このような還流工程S8によって回収、還流される硫黄成分の量は、金属硫化物生成工程S5で用いる硫化剤として加えられる硫黄成分の全量に対して、例えば、30質量%~80質量%程度である。
【0063】
以上のように、本実施形態の金属の回収方法によれば、金属溶出液に硫化剤を反応させて金属硫化物を生成する際に用いる硫化剤として、後工程で金属硫化物を無機酸で再溶解する過程で生じた硫化水素を用いた硫黄化合物を還流させて用いることにより、新規に必要な硫化剤の必要量を減らすことができる。これにより、価格が比較的高い硫化剤に係るコストを削減して、水に難溶性の硫化物を形成する金属を金属溶出液から低コストで効率的に回収することが可能になる。
【0064】
本実施形態では、還流工程S8を行う設備として、こうした硫化水素を水酸化ナトリウム溶液に吸収させる吸収塔や、生成させた硫化水素ナトリウム溶液を金属硫化物生成工程S5を行う反応容器に送るポンプや配管などを備えている。
【0065】
(金属の回収方法:第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態の金属の回収方法について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図2は、本発明の第2実施形態の金属の回収方法を段階的に示したフローチャートである。
【0066】
本実施形態の金属の回収方法では、還流工程S18として、金属硫化物溶解工程S7で生じた硫化水素を、ブロワーやガス配管などを介してそのまま金属硫化物生成工程S5を行う反応容器に還流させている。このため、本実施形態の金属硫化物生成工程S5では、硫化剤として、金属硫化物溶解工程S7で生じた硫化水素と、必要に応じて新規に加える硫化水素ナトリウム溶液とを用いている。
【0067】
こうした第2実施形態の金属の回収方法によれば、第1実施形態と比較して、金属硫化物溶解工程S7で生じた硫化水素を吸収させる水酸化ナトリウム溶液や、吸収塔などが不要になるため、より一層簡易な設備で低コストに、金属溶出液から水に難溶性の硫化物を形成する金属、例えばコバルトやニッケルなどを回収することができる。
【0068】
(金属の回収方法:第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態の金属の回収方法について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図3は、本発明の第3実施形態の金属の回収方法を段階的に示したフローチャートである。
本実施形態の金属の回収方法では、還流工程S28として、金属硫化物溶解工程S7で生じた硫化水素の一部を、第1実施形態と同様に水酸化ナトリウム溶液に吸収させて、硫化水素ナトリウム溶液を生成させて金属硫化物生成工程S5に還流させ、硫化水素の他の一部を、第2実施形態と同様に、そのまま金属硫化物生成工程S5に還流させている。
【0069】
こうした第3実施形態の金属の回収方法によれば、金属硫化物溶解工程S7で生じた硫化水素を、金属硫化物生成工程S5で反応しやすい硫化水素ナトリウム溶液と、アルカリ溶液により吸収する過程が不要な硫化水素のままの状態とで、金属硫化物生成工程S5の反応状態に応じて、適宜その供給割合を調整して供給できる。
【0070】
例えば、金属硫化物生成工程の稼働時は硫化水素ガスの状態で回収、供給し、金属硫化物生成工程の停止時は硫化水素ナトリウム溶液として回収し、金属硫化物生成工程の稼働時に供給することによって、無駄なく硫化水素を還流することができる。これにより、効率的に、かつ低コストに金属溶出液から水に難溶性の硫化物を形成する金属、例えばコバルトやニッケルなどを回収することができる。
【0071】
(金属の回収方法:第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態の金属の回収方法について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図4は、本発明の第4実施形態の金属の回収方法を段階的に示したフローチャートである。
【0072】
本実施形態の金属の回収方法では、浸出工程S4を経て得られた正極活物質由来の金属成分(コバルト、ニッケル、マンガン等)を含む金属溶出液に、硫化剤として硫化水素ナトリウム水溶液を加えて反応させて、金属溶出液に含まれる金属の一部を第1金属硫化物にして沈殿させる(第1金属硫化物生成工程S35-1)。本実施形態では、金属溶出液に含まれるコバルト、ニッケルのそれぞれ50質量%~80質量%程度を、この第1金属硫化物生成工程S35-1において硫化コバルトおよび硫化ニッケル(第1金属硫化物)として沈殿させている。
【0073】
なお、この第1金属硫化物生成工程S35-1で用いる硫化剤は、後工程である金属硫化物溶解工程S37-3で発生した硫化水素(HS)を用いて生成させた硫化水素ナトリウム水溶液を、必要量の一部に用いている。
【0074】
次に、第1金属硫化物生成工程S35-1によって生じた、第1金属硫化物を含む固相と、液相とを固液分離する(第1固液分離工程S36-1)。
固液分離は、例えば、加圧濾過装置を用いて、第1金属硫化物生成工程S35-1で得られた固液混合物を濾過することにより、固相と液相とを濾別すればよい。こうした第1固液分離工程S36-1によって、コバルト、ニッケルなどの第1金属硫化物を含む固相と、第1金属硫化物生成工程S35-1で硫化しなかったコバルト、ニッケルなどの金属イオン(金属溶出液に含まれるコバルト、ニッケルのそれぞれ20質量%~50質量%程度)を含む液相(金属溶出液(残液))と、をそれぞれ得ることができる。
【0075】
次に、第1固液分離工程S36-1で分離された、第1金属硫化物生成工程S35-1で硫化物として回収できなかったコバルト、ニッケルなどの金属イオンを含む液相(金属溶出液の残液)に、硫化剤として硫化水素ナトリウム水溶液を加えて反応させて、金属溶出液の残液に含まれる残りの金属のほぼ全てを第2金属硫化物にして沈殿させる(第2金属硫化物生成工程S35-2)。本実施形態では、金属溶出液の残液に含まれる第1金属硫化物生成工程S35-1で硫化物により硫化できなかったコバルト、ニッケルの金属イオンを、この第2金属硫化物生成工程S35-2において硫化コバルトおよび硫化ニッケル(第2金属硫化物)として沈殿させている。
【0076】
なお、この第2金属硫化物生成工程S35-2で用いる硫化剤も、後工程である金属硫化物溶解工程S7で発生した硫化水素(HS)を用いて生成させた硫化水素ナトリウム水溶液を、必要量の一部に用いている。
【0077】
次に、第2金属硫化物生成工程S35-2によって生じた、第2金属硫化物を含む固相と、液相とを固液分離する(第2固液分離工程S36-2)。
固液分離は、例えば、加圧濾過装置を用いて、第2金属硫化物生成工程S35-2で得られた固液混合物を濾過することにより、固相と液相とを濾別すればよい。こうした第2固液分離工程S36-2によって、第1金属硫化物生成工程S35-1で硫化しなかった残りのコバルト、ニッケル、および金属溶出液の残液に含まれる、コバルト、ニッケル以外の金属が硫化した第2金属硫化物等の不溶性化合物からなる固相と、有価物の金属を殆ど含まない液相(排液)と、をそれぞれ得ることができる。
【0078】
この、第2固液分離工程S36-2によって得られた固相は、第2金属硫化物を含む固形物として、浸出工程S4を経て得られた金属溶出液とともに、金属源(コバルト、ニッケル)として第1金属硫化物生成工程S35-1に戻される。
また、第2固液分離工程S36-2によって得られた液相(排液)は、金属回収排液として、残留している不純物等を排水処理施設で処理すればよい。
【0079】
こうした第1金属硫化物生成工程S35-1と第2金属硫化物生成工程S35-2との2段階の硫化物生成工程では、第1金属硫化物生成工程S35-1で得られる第1金属硫化物の方が硫化物の酸溶解率、硫化水素の発生率が向上する。一方で、第2金属硫化物生成工程S35-2は溶解性が悪くなる。これは、コバルトとニッケルでは、ニッケル硫化物の方が硫化物として沈殿しやすく、酸に溶解しやすいため、第2金属硫化物生成工程S35-2のほうが、第1金属硫化物生成工程S35-1よりも、コバルト硫化物とニッケル硫化物の組成として、コバルト硫化物を多く含むためである。
【0080】
第1固液分離工程S36-1によって得られた、第1金属硫化物を含む固相は、無機酸を液温20℃以上で反応させて、金属をイオンとして溶解させる(再溶解)とともに、硫化水素を生成する(金属硫化物溶解工程S37-3)。
【0081】
金属硫化物溶解工程S37-3で用いる無機酸としては、例えば、硫酸(HSO)、塩酸(HCl)などを用いることができる。こうした無機酸を用いた第1金属硫化物を含む固相(沈殿物)の処理によって、不溶性の硫化コバルトおよび硫化ニッケルが、それぞれコバルトイオン、ニッケルイオンとなって無機酸に溶解された金属再溶解液が得られる。
【0082】
こうして得られた、金属再溶解液は、コバルトやニッケル以外の電極材料の他の成分(銅、鉄、アルミニウム、リチウム、カルシウム等)は殆ど含まれておらず、コバルトおよびニッケルのリサイクル原料として用いることができる。
【0083】
一方、金属硫化物溶解工程S37-3では、無機酸によって硫化コバルトや硫化ニッケルなどを溶解する際に、同時に硫化水素(HS)が発生する。この金属硫化物溶解工程S37-3で発生した硫化水素は、第1金属硫化物生成工程S35-1、および第2金属硫化物生成工程S35-2でそれぞれ用いる硫化剤の少なくとも一部として還流させる(還流工程S38)。
【0084】
本実施形態では、還流工程S38として、金属硫化物溶解工程S37-3で生じた硫化水素の一部を、水酸化ナトリウム水溶液に吸収、反応させることで、硫化水素ナトリウム水溶液を生成させこの硫化水素ナトリウム水溶液を、第1金属硫化物生成工程S35-1、および第2金属硫化物生成工程S35-2にそれぞれ還流させている。また、金属硫化物溶解工程S37-3で生じた硫化水素の残りの一部を、第1金属硫化物生成工程S35-1、および第2金属硫化物生成工程S35-2に硫化水素ガスのまま、硫化剤としてそれぞれ還流させている。なお、硫化剤として還流させる際、硫化水素ガスと硫化水素ナトリウムを併用しても良いが、併用せずに硫化水素ガスまたは硫化水素ナトリウムのいずれか一方のみを用いても良い。
【0085】
このような還流工程S38によって回収、還流される硫黄成分の量は、第1金属硫化物生成工程S35-1、および第2金属硫化物生成工程S35-2でそれぞれ用いる硫化剤として加えられる硫黄成分の全量に対して、例えば、30質量%~80質量%程度であればよい。
【0086】
なお、金属硫化物溶解工程S37-3で未反応として残った不溶解残渣は、少量の金属硫化物を含む固形物として、浸出工程S4を経て得られた金属溶出液とともに、金属源(コバルト、ニッケル)として第1金属硫化物生成工程S35-1に戻されても良い。
【0087】
以上のように、第4実施形態の金属の回収方法によれば、第1実施形態の金属の回収方法と比較して、金属溶出液に含まれる金属イオンを、2段階でそれぞれ硫化して沈殿させるので、金属硫化物溶解工程S37-3における金属硫化物の溶解率が高められ、溶解時に発生する硫化水素ガスをより高収率で回収することができる。
【0088】
金属硫化物生成工程で金属溶出液中のニッケル、コバルトを完全に硫化させると、酸に難溶解性の硫黄含有量の高いニッケルやコバルトの硫化物(二硫化コバルト、二硫化ニッケル等)も沈殿し、金属硫化物溶解工程で金属硫化物が酸に溶解しづらい可能性がある。一方、金属溶出液中のニッケル、コバルトの一部を硫化した場合、得られる金属硫化物には酸に難溶な金属硫化物(コバルトの硫化物や硫黄含有量の高いニッケルやコバルト)が少なく、酸に溶解しやすいため、硫化水素ガスの回収率を向上させることができる。
【0089】
また、2段階目の硫化工程である第2金属硫化物生成工程S35-2で得られる硫化物は、硫黄含有量の高いコバルトおよびニッケルの硫化物が水に難溶性であり、金属硫化物溶解工程S37-3において、排ガス処理が必要な硫化水素ガスの発生を抑制することができる。
【0090】
更に、コバルト硫化物は硫化しにくく水に難溶性であるため、硫化を第1金属硫化物生成工程S35-1と第2金属硫化物生成工程S35-2の2段階に分けることによって、1段階目の第1金属硫化物生成工程S35-1で得られる硫化物には、酸に対して溶解しやすいニッケル硫化物が多く含まれるため、酸溶解時の硫化水素ガスの回収率を向上させることができる。
【0091】
また、第2金属硫化物生成工程S35-2で得られる硫化コバルトおよび硫化ニッケル(第2金属硫化物)には、マンガンなどの不純物が多く移行しているため、こうした不純物を金属硫化物溶解工程S37-3に持ち込まないようにすることで、金属硫化物溶解工程S37-3で得られる金属再溶解液の不純物濃度を低減することができる。
【0092】
(金属の回収方法:第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態の金属の回収方法について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図5は、本発明の第5実施形態の金属の回収方法を段階的に示したフローチャートである。
【0093】
本実施形態の金属の回収方法では、固液分離工程S6によって得られた、不溶性の金属硫化物を含む固相に対して、無機酸、例えば硫酸を加えて酸浸出させる(第1金属硫化物溶解工程S47-1)。本実施形態では、無機酸として濃度が47質量%の硫酸を用いている。
【0094】
第1金属硫化物溶解工程S47-1の具体例としては、例えば20℃以上に加熱した無機酸に、固液分離工程S6によって得られた固相(沈殿物)を加え、2時間以上浸漬する。この時、更に攪拌することが好ましい。液温は20℃以上100℃以下にするのがよい。
【0095】
こうした無機酸を用いた固相(沈殿物)の処理によって、不溶性の硫化コバルトおよび硫化ニッケルの大部分が、それぞれコバルトイオン、ニッケルイオンとなって無機酸に溶解された金属再溶解液1が得られる。
【0096】
一方、第1金属硫化物溶解工程S47-1では、硫酸によって硫化コバルトや硫化ニッケルなどを溶解する際に、同時に硫化水素(HS)が発生する。この第1金属硫化物溶解工程S47-1で発生した硫化水素は、金属硫化物生成工程S5で用いる硫化剤の少なくとも一部として、金属硫化物生成手段に向けて還流させる(還流工程S8)。
【0097】
次に、固液分離を行って分離させた固相である、第1金属硫化物溶解工程S47-1において無機酸に溶解せずに固形分として残った、硫化コバルトや硫化ニッケルなどを含む不溶解残渣に対して、硫酸と酸化剤とを加えて酸化環境で浸出させる(第2金属硫化物溶解工程S47-2)。
【0098】
こうした第2金属硫化物溶解工程S47-2では、第1金属硫化物溶解工程S47-1で溶解しなかった硫化コバルトや硫化ニッケルも、無機酸と酸化剤による酸化によって溶解されて金属再溶解液2が得られる。なお、ここで用いる無機酸としては、例えば、濃度が47質量%の硫酸を用いることができる。また、酸化剤としては、例えば、過酸化水素(H)を用いることができる。このような第2金属硫化物溶解工程S47-2では、硫化コバルトや硫化ニッケルの溶解の際に、硫黄分は酸化剤の存在によって単体の硫黄になるまで酸化されるため、硫化水素(HS)は発生しない。
【0099】
そして、第2金属硫化物溶解工程S47-2の後に固液分離を行って得られた金属再溶解液2は、第1金属硫化物溶解工程S47-1で得られた金属再溶解液1と合わせて、コバルトやニッケル以外の電極材料の他の成分(銅、鉄、アルミニウム、リチウム、カルシウム等)を殆ど含まないコバルトおよびニッケルのリサイクル原料(金属原料)として用いることができる。
【0100】
例えば、金属再溶解液1と金属再溶解液2に抽出剤溶液を添加して、コバルト抽出液と、ニッケル抽出液とを得ることができる。抽出剤溶液としては、金属抽出剤と希釈剤を混合した混合溶液を用いることができる。例えば、2-エチルヘキシル2-エチルヘキシルホスホネート(PC88A:大八化学株式会社製)を20vol%、ケロシン(希釈剤)を80vol%の割合で混合した混合溶液を用いることができる。上述した抽出剤溶液を用いて、ミキサーセトラーにより金属再溶解液から高純度な硫酸コバルト(CoSO)溶液と、硫酸ニッケル(NiSO)溶液とを分離回収できる。
【0101】
一方、第2金属硫化物溶解工程S47-2の後に固液分離を行って生じた固形残渣は、単体の硫黄が少量含まれているだけであるので、廃棄物として処理すればよい。
【0102】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これら実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0103】
本発明の金属の回収方法の効果を検証した。
[検証例1:ニッケル硫化物、コバルト硫化物の無機酸溶解試験]
リチウムイオン電池セルを500℃で加熱して熱分解した(熱分解工程S1)。この焼成物を破砕(破砕工程S2)、分級(分級工程S3)して粒径が0.5mm以下の焼成電池粉砕粉(ブラックマス)を回収した。この焼成電池粉砕粉を希硫酸で浸出(浸出工程S4)してニッケル、コバルトイオンを含む金属溶出液を得た。この金属溶出液のニッケルの濃度は9.1g/L、コバルトの濃度は11.7g/Lであった。
【0104】
この金属溶出液を250mL分取してビーカーに移し、マグネチックスターラーで撹拌しながら濃度20質量%の硫化水素ナトリウム溶液を35mL添加し、硫化ニッケル、硫化コバルトを含む金属硫化物を得た(金属硫化物生成工程S5)。
【0105】
次に、硫化ニッケル、硫化コバルトを含む金属硫化物(固相)を濾過によって回収した(固液分離工程S6)。この固相を純水に懸濁させて200mLの金属硫化物のスラリーとして、セパラブルフラスコに移した。そして、セパラブルフラスコをオイルバスに入れて、金属硫化物のスラリーの温度が20℃~100℃の範囲となるように加温した(実施例1~4、比較例1)。
【0106】
次に、金属硫化物のスラリーに硫酸、塩酸を所定量を添加して、マグネチックスターラーで撹拌した(金属硫化物溶解工程S7)。硫酸添加直後に硫化物スラリーに気泡が発生して硫化水素ガスが発生する様子を確認した。
【0107】
発生した硫化水素ガスを濃度4質量%の水酸化ナトリウム水溶液(吸収液)1000mLに通して、硫化水素ガスを捕集した(還流工程S8)。
なお、金属硫化物スラリーの無機酸による溶解反応は2時間実施した。反応終了後は、濾過によって溶解液と不溶解残渣に分離した。
【0108】
(実施例1~5)金属硫化物スラリーの溶解に硫酸を用い、硫酸濃度を0.6mol/L、液温を20℃~98℃とした。
(実施例6)金属硫化物スラリーの溶解に塩酸を用い、塩酸濃度を1.2mol/L、液温を98℃とした。

(比較例1)金属硫化物スラリーの無機酸による溶解は行わず、液温を98℃とした。
(比較例2)金属硫化物スラリーの溶解に硫酸を用い、酸濃度を0.6mol/L、液温を10℃とした。
【0109】
以上のそれぞれの試料について、金属再溶解液中のコバルトおよびニッケルの濃度、水酸化ナトリウム吸収液に捕集された硫黄濃度を測定することで、コバルトとニッケルの溶解率(%)および硫化水素の回収率を評価した。コバルトとニッケルの溶解率、硫化水素の回収率は、それぞれ以下のように定義される。
(コバルトとニッケルの溶解率(%))=(金属再溶解液中のニッケル量+金属再溶解液中のコバルト量)/(金属硫化物中のニッケル量+金属硫化物中のコバルト量)×100
(硫化水素の回収率(%))=(吸収液中の硫黄量)/(金属硫化物中の硫黄量)×100
こうした結果を表1に示す。
・金属再溶解液中のニッケル濃度およびコバルト濃度はICP発光分光分析法によって測定した。
・硫化水素ガス吸収液の硫黄濃度はICP発光分光分析法にて測定した。
・金属硫化物に含まれるニッケル含有量およびコバルト含有量は酸溶解後にICP発光分光分析法によって測定した。
【0110】
【表1】
【0111】
本実施例によれば、ニッケル、コバルトを含む金属溶出液を硫化して得られた金属硫化物を、液温20℃~98℃の無機酸で溶解する(金属硫化物溶解工程S7)ことによって、ニッケル、コバルトを52質量%以上溶解できることが確認された。また、同時に発生する硫化水素ガスも、47質量%以上、回収(還流工程S8)することができる。
【0112】
一方、金属硫化物を無機酸で溶解しない比較例1は、コバルトとニッケルの溶解率は1.2%と僅かであり、硫化水素ガスの回収率はゼロであった。また、比較例2は、液温10℃の無機酸で溶解したため、溶解反応が進行せず、コバルトとニッケルの溶解率は23質量%に留まり、硫化水素ガスの回収率も11質量%程度あり、実用性が低かった。
【0113】
[検証例2:ニッケル硫化物、コバルト硫化物の無機酸溶解時の回収率による変化]
検証例1と同様の操作で得られたニッケル、コバルトを含む金属溶出液を分取してビーカーに移し、マグネチックスターラーで撹拌しながら濃度20質量%の硫化水素ナトリウム溶液を所定量添加し(第1金属硫化物生成工程S35-1)、硫化ニッケル、硫化コバルトを含む第1金属硫化物(固相)を得た。この第1金属硫化物生成工程S35-1で金属溶出液中から第1金属硫化物として回収されるニッケル、コバルトの回収率が60,70,80,100%となるように、金属溶出液の量を調整した。
【0114】
なお、コバルトとニッケルの回収率(%)は、以下のように定義される。
(コバルトとニッケルの回収率(%)=(金属硫化物中のコバルトとニッケル量)/(金属溶出液中のコバルトとニッケル量)
(本実施例7)ニッケル、コバルトの回収率が100%となるように調整した。
(本実施例8)ニッケル、コバルトの回収率が80%となるように調整した。
(本実施例9)ニッケル、コバルトの回収率が70%となるように調整した。
(本実施例10)ニッケル、コバルトの回収率が60%となるように調整した。
【0115】
以上のそれぞれの試料について、コバルトとニッケルの溶解率、硫化水素の回収率を評価した。こうした結果を表2に示す。
・金属再溶解液中のニッケル濃度およびコバルト濃度はICP発光分光分析法によって測定した。
・金属硫化物に含まれるニッケル含有量およびコバルト含有量は酸溶解後にICP発光分光分析法によって測定した。
・硫化水素ガス吸収液の硫黄濃度はICP発光分光分析法にて測定した。
【0116】
【表2】
【0117】
本検証例によれば、第1金属硫化物生成工程35-1において第1金属硫化物によるニッケル、コバルトの回収率を下げるほど、金属硫化物溶解工程S37-3におけるニッケルとコバルトの溶解率が高まり、硫化水素ガスの回収率も高められることが確認できた。よって、上述した本実施形態4のように、第1金属硫化物生成工程35-1と第2金属硫化物生成工程35-2の2段階で金属硫化物生成工程を行うことが有効であることが確認された。
【0118】
[検証例3:金属硫化物溶解工程で得られた硫化水素による金属硫化物の生成]
検証例1と同様の操作で得られたニッケル、コバルトを含む金属溶出液を250mL分取してビーカーに移し、マグネチックスターラーで撹拌しながら、実施例5、6、比較例1で得られた硫化水素ガスを濃度4質量%の水酸化ナトリウム水溶液に吸収(還流工程S8)させた吸収液を硫化剤として1000mL添加した。その後、希硫酸を添加してpH3.0に調整した。そして、20分間撹拌した後、黒色の金属硫化物の沈殿が得られるかを確認した。
(本実施例11)検証例1の実施例5で得られた硫化水素吸収液を用いた。
(本実施例12)検証例1の実施例6で得られた硫化水素吸収液を用いた。
(比較例3)検証例1の比較例1で得られた液(硫化水素発生無し)を用いた。
【0119】
以上のそれぞれの試料について、硫化水素吸収液の硫黄濃度、金属硫化物沈殿の生成の有無を調べた。こうした結果を表3に示す。
・硫化水素ガス吸収液の硫黄濃度はICP発光分光分析法にて測定した。
【0120】
【表3】
【0121】
本検証例によれば、金属硫化物の酸溶解時に生成した硫化水素を水酸化ナトリウム水溶液に吸収させて金属溶出液に供給することによって、コバルト、ニッケルを含む金属硫化物を生成できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明のコバルトおよびニッケルの分離方法は、使用済みのリチウムウムイオン二次電池に含まれるコバルトやニッケルなどを含む金属溶出液を硫化させて得られる金属硫化物を酸溶解させる際に、副産物として生成した硫化水素を金属溶出液の硫化に利用することによって、コストの高い硫化剤の使用量を低減するとともに、硫化水素の無害化処理も不要にする。よって、リチウムウムイオン二次電池からコバルトやニッケルなどの有価金属、低コストで効率的に回収することができる。従って、産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4
図5