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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114686
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/449 20210101AFI20240816BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20240816BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20240816BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20240816BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20240816BHJP
【FI】
H01M50/449
H01M50/46
H01M50/414
H01M50/403 Z
H01G11/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2024029186
(22)【出願日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2023030429
(32)【優先日】2023-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】515090628
【氏名又は名称】株式会社スリーダムアライアンス
(72)【発明者】
【氏名】福澤 武治
(72)【発明者】
【氏名】榎本 拓巳
【テーマコード(参考)】
5E078
5H021
【Fターム(参考)】
5E078AB02
5E078AB06
5E078CA06
5E078CA09
5H021AA06
5H021BB13
5H021CC04
5H021EE02
(57)【要約】
【課題】ポリイミド多孔膜を蓄電デバイス用のセパレータとして用いる場合に、ポリイミド樹脂におけるイミド結合の分解を低減ないし抑制したセパレータを提供する。
【解決手段】本発明の蓄電デバイス用のセパレータは、負極と対向する第1層と、正極と対向する第2層とを有し、第1、第2の層に、微粒子を除去することで連通孔を形成した多層ポリイミド多孔膜であって、この第1層を、カルボン酸としてピロメリット酸二無水物を用いたポリイミド樹脂で形成したことを特徴とする。このような構成にすることで、例えば第2層にカルボン酸としてビフェニルテトラカルボン酸二無水物に由来したポリイミド樹脂を用いたポリイミド製セパレータを使用して蓄電デバイスを構成したとしてもイミド結合の還元ないし分解を確実に防止できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極と対向する第1層と、正極と対向する第2層とを有し、
前記第1、第2の層に、微粒子を除去することで連通孔を形成した多層ポリイミド多孔膜であって、
前記第1層を、カルボン酸としてピロメリット酸二無水物を用いたポリイミドで形成した蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項2】
前記第2層を、カルボン酸としてビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いたポリイミドで形成した請求項1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項3】
正極、負極、および前記正極と負極との間に介装されるセパレータとを有する蓄電デバイスであって、
前記セパレータが、
前記負極と対向する第1層と、前記正極と対向する第2層とを有し、
前記第1、第2の層に、微粒子を除去することで連通孔を形成した多層ポリイミド多孔膜であって、
前記第1層を、カルボン酸としてピロメリット酸二無水物を用いたポリイミドで形成したことを特徴とする蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタなどの蓄電デバイスに用いられるセパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池やキャパシタなどの蓄電デバイスが普及している。中でも黒鉛を負極とするリチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、金属リチウムを負極とするリチウム金属電池などの技術が著しく発展している。これら蓄電デバイスは、正極、セパレータ、負極が順に積層配置され、セパレータによって正極と負極とが絶縁された構造を有しており、これらの負極としては、例えば金属リチウム、リチウムと他の金属との合金、カ-ボンやグラファイト等がよく用いられる。
【0003】
特に耐熱性の比較的高いポリイミド多孔質膜を絶縁用のセパレータとして用いることが検討されているが、ポリオレフィン多孔膜と比較してポリイミド多孔質膜の作製には手間や時間を要するため生産性の向上が課題となっている。
これに対し、特許文献1では樹脂粒子を用いることで従来の方法と比較してより簡便で生産性の高いポリイミド多孔膜の製法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【特許文献1】WO2014/196656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ポリイミド樹脂には、二次電池の充放電中に還元ないし分解作用を受けやすいポリイミドと、還元ないし分解作用を受けにくいポリイミドとがあることが判明してきている。この還元ないし分解されるメカニズムの詳細は定かではないが、電極、特に負極と接触することによりポリイミド樹脂のイミド結合が分解されることがわかっている。ポリイミド樹脂のイミド結合が分解されると膜の強度が低下してしまうことが予想され、蓄電デバイスの安全性に不安が生じる。
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、ポリイミド樹脂におけるイミド結合の分解を低減ないし抑制したセパレータを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のポリイミド多孔膜は上述した目的を達成するために以下の[1]~[3]の構成を有する。
【0006】
[1]
本発明の蓄電デバイス用のセパレータは、
負極と対向する第1層と、正極と対向する第2層とを有し、
第1、第2の層に、微粒子を除去することで連通孔を形成した多層ポリイミド多孔膜であって、
この第1層を、カルボン酸としてピロメリット酸二無水物を用いたポリイミド樹脂で形成したことを特徴とする。
このような構成にすることで、例えば第2層にカルボン酸としてビフェニルテトラカルボン酸二無水物に由来したポリイミド樹脂を用いたポリイミド製セパレータを使用して蓄電デバイスを構成したとしても、この第2層のイミド結合が還元ないし分解されることを確実に防止することができる。
【0007】
[2]
また本発明のセパレータは、単位厚さあたりの最大応力が20N/mm2以上であることも特徴である。
このような最大応力を有することにより、蓄電デバイスを製造するときに破断したり損傷することを防ぐことが可能となる。カルボン酸としてピロメリット酸二無水物のみを用いたポリイミド樹脂でセパレータを構成するとビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いた場合と比較してそもそもの最大応力が低く、このために蓄電デバイスの製造に支障をきたすことがあるが、本発明ではこのようなことも回避することができる。
【0008】
[3]
また、第1層の厚さは3μm以上10μm以下であることが望ましい。第2層のイミド結合の分解を防ぐには最低でも第1層の厚さを3μm確保すればよい。このとき、最大応力を高めたい場合は第1層よりも単位厚みあたりの膜強度の高い第2層を厚めにするとよい。また第1層を厚めにして他の膜物性を重視する構成としてももちろんよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第2層を形成するビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いたポリイミド樹脂が蓄電デバイスの負極と接触することを回避でき、第2層を形成するビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いたポリイミド樹脂におけるイミド結合の分解を防ぐことができる。これにより蓄電デバイスにおけるポリイミド製セパレータの膜強度を保持することができ、より安全な蓄電デバイスの提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明のポリイミド多孔膜について説明する。本発明の、カルボン酸とジアミンとの共重合体で構成されたポリイミド多孔膜はリチウムイオン電池やリチウム金属電池あるいはキャパシタなどの蓄電デバイス用のセパレータとして用いてもよいし、その他の用途に用いてもよく、用途に制限はない。
【0011】
ポリイミド多孔膜の厚みは、例えば4μm~50μm程度が好ましい。ポリイミド多孔膜の厚みが厚すぎるとイオン伝導性が低下する傾向が見られる。また短絡耐性にも関係しており、膜厚を薄くするほど、絶縁性が維持できなくなる傾向がある。またポリイミド多孔膜が薄すぎると、膜強度が低下する。また、ポリイミド多孔膜の最大応力は25N/mm以上であることが好ましい。
【0012】
本発明のポリイミド多孔膜の製造では、例えば、ポリアミック酸を化学イミド化または加熱によってイミド化させる方法など、公知の手法を用いることができ、以下の工程で作製することができる:
カルボン酸無水物と有機アミン化合物とからポリアミック酸(いわゆるポリイミドワニス)を含有したポリイミド前駆体溶液に開孔用の微粒子を混ぜてスラリーを作製する工程、
作製されたスラリーを支持体上に薄膜状に形成し無孔の原反を形成する工程、
当該原反を支持体から剥離する工程、
当該原反を焼成して多孔化する工程。
なお、開孔用の微粒子の除去と原反のイミド化は同時並行的に実施することもできるが、原反から微粒子を除去して開孔化したのちにイミド化することもできる。
【0013】
[スラリー作製]
ポリイミド前駆体溶液は、カルボン酸無水物と有機アミン化合物とから作製されるポリアミック酸を含む。ポリアミック酸、もしくはポリアミック酸と溶媒との混合物をポリイミド前駆体溶液とし、これに開口用の微粒子を混合することでスラリーを作製することができる。なお、ポリイミド前駆体溶液は、有機溶媒の存在下でテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合反応させて得られる溶液であってもよいが、ポリアミック酸を有機溶媒に溶解させて得られる溶液でもどちらでもかまわない。
【0014】
ポリイミド前駆体溶液、開孔用の微粒子のほか、分散剤や溶剤などを混合して成膜用のスラリーを作製する。このスラリーを薄膜状に成形することで無孔の原反を作製することができる。分散剤は必須ではなく、必要に応じ適宜用いるとよい。
開孔用の微粒子の材質は、ポリイミド前駆体溶液に使用する有機溶剤に不溶で、成膜後に選択的に除去可能なものであればよい。
例えば、無機材料で構成される微粒子としては、シリカ(二酸化珪素)、酸化チタン、アルミナ(Al203)等の金属酸化物などがあげられる。
有機材料で構成される微粒子としては、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン、ポリスチレン(PS)、アクリル系樹脂(例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等)、ポリウレタン樹脂(PUR)、メラミン樹脂(MF)、ユリア樹脂(UF)、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ABS樹脂、AS樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエステル、ポリエーテル等の有機高分子で構成された微粒子(以降、樹脂微粒子という)が挙げられる。
【0015】
微粒子の形状に制限はないが、球状または略球状が望ましい。基本的に真球に近い形状が望ましいが、多少の歪みや細かい凹凸等を有する、楕円形状など略球状の形状であってもかまわない。
また真球形状に近く粒径分布指数の小さい(粒径のばらつきの小さい)微粒子が好ましい。これらの条件を有する微粒子を用いることでポリイミド多孔膜に形成される細孔孔径のばらつきを小さくすることができる。
これによりポリイミド多孔膜を蓄電デバイスのセパレータとして使用した場合に、リチウムをセパレータ上でより均一に移動させることができるようになる。微粒子の粒径としては、800nm以下のものを用いるとよい。これにより、微粒子を取り除いて得られる多孔質フィルムの開孔径を800nm以下にすることができる。より好ましい微粒子の粒径は、600nm以下、さらに好ましくは500nm以下である。
【0016】
ポリイミド前駆体溶液中で微粒子を均一に分散することを目的に、ポリイミド前駆体溶液中に分散剤を添加してもよい。分散剤を添加することにより、ポリアミック酸と微粒子とをより均一に混合することができ、後述する原反において微粒子をより均一に分布させることができる。微粒子を均一に分布させることで、最終的に微粒子を除去して得られるポリイミド多孔膜において、細孔の分布をより均一にすることができる。
<カルボン酸無水物およびポリアミック酸>
ポリアミック酸としては、カルボン酸二無水物とジアミンとを重合して得られるものを使用することができる。カルボン酸二無水物およびジアミンの使用量も特に制限はないが、カルボン酸二無水物1モルに対して、ジアミンを0.50~1.50モルが好ましく、0.60~1.30モルがより好ましく、0.70~1.20モルが特に好ましい。
カルボン酸二無水物は、従来からポリアミック酸の合成原料として使用されているものの中から適切に選択するとよい。カルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であっても、脂肪族テトラカルボン酸二無水物であってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。カルボン酸二無水物は、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0017】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の好適な具体例としては、ピロメリット酸二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、オキシジフタル酸無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、ジフタル酸無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0018】
<有機アミン化合物>
有機アミン化合物であるジアミンは、従来からポリアミック酸の合成原料として使用されているジアミンから適宜選択するとよい。ジアミンは、芳香族ジアミンであっても、脂肪族ジアミンであってもよく、目的とするポリイミド樹脂の特性に鑑み、適宜選択することができるが、芳香族ジアミンが好ましい。またジアミンは2種以上を組合せて用いてもよい。
【0019】
芳香族ジアミンとしては、フェニレンジアミンおよびその誘導体、ジアミノビフェニル化合物およびその誘導体、ジアミノジフェニル化合物およびその誘導体、ジアミノトリフェニル化合物およびその誘導体、ジアミノナフタレンおよびその誘導体、アミノフェニルアミノインダンおよびその誘導体、ジアミノテトラフェニル化合物およびその誘導体、ジアミノヘキサフェニル化合物およびその誘導体、カルド型フルオレンジアミン誘導体などを挙げることができる。
【0020】
ベンゼン核の数に基づいてジアミンの具体例を挙げると以下の1)~4)である:
1)ベンゼン核1つのベンゼンジアミン
2,4-ジアミノトルエン、フェニレンジアミン、2,6-ジアミノトルエンなど。
【0021】
2)ベンゼン核2つのジアミン
3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジカルボキシ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス(4-アミノフェニル)スルフィド、4,4’-ジアミノベンズアニリド、ジメチルベンジジン、2,2‘-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、2,2’-ジメトキシベンジジン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、オキシジアニリン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジクロロベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4‘-ジアミノ-3,3‘-ジメチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホキシドなど。
【0022】
3)ベンゼン核3つのジアミン
1,3-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンなど。
【0023】
4)ベンゼン核4つのジアミン
3,3’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンなど。
【0024】
<有機溶剤>
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、一般に有機溶剤中で行われる。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に使用される有機溶剤は、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンを溶解させることができ、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンと反応しないものであれば特に限定されない。有機溶剤は単独でもちいてもよいし2種以上を混合して用いてもよく、適宜選択するとよい。
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる有機溶剤の例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、フェノール系溶剤、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等の環状ケトン類、トルエン、キシレン等の芳香族類、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式化合物挙げられる。これらの有機溶剤は単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。有機溶剤の使用量に特に制限はないが、生成するポリアミック酸の含有量が5~50質量%とするのが望ましい。
【0025】
ポリイミド前駆体溶液に用いる有機溶剤としては、使用するポリアミック酸またはポリイミド系樹脂を溶解しつつ微粒子を溶解しないものであればよい。
ポリイミド前駆体溶液中の全成分のうち、有機溶剤の含有量は、50~95質量%が好ましく、60~85質量%がより好ましい。ポリイミド前駆体溶液における固形分は、5~50質量%が好ましく、より15~40質量%がより好ましい
ポリイミド前駆体溶液には、上記の成分のほかに、帯電防止、難燃性付与、低温焼成化、離型性、塗布性、低吸湿性、低線膨張率性、低下熱収縮性等を目的とし、帯電防止剤、難燃剤、化学イミド化剤、縮合剤、離型剤、表面調整剤、寸法安定剤など、適宜混合するとよい。
【0026】
一例を示すと、ポリイミド多孔膜のより具体的な製造手順は下記(1)~(6)のとおりであるが、シリカなど開孔用の無機粒子を用いて原反を多孔化する場合は無機粒子を除去するために原反を溶媒に浸漬する必要があるため、多孔化工程と焼成工程とを同時に実行することは難しい。この場合、焼成工程の前に多孔化工程を実施するのが望ましい。
他方、樹脂製の粒子を用いて原反を多孔化する場合では、多孔化工程と焼成工程とを同時に実行することが可能となり製造工程をより簡便化ないしコンパクト化することが可能となる。
ポリイミド多孔膜の製造手順は次のとおり:
(1)カルボン酸無水物および有機アミン化合物から合成されるポリアミック酸を有するポリイミド前駆体溶液を調製する工程;
(2)ポリイミド前駆体溶液と微粒子とを混合したスラリーを作製する工程;
(3)スラリーを支持体上に塗工して無孔の原反を形成する原反形成工程;
(4)原反形成工程で形成された原反を支持体から引き剥す剥離工程;
(5)剥離工程によって支持体から剥離された原反を多孔化する多孔化工程;および
(6)原反を焼成する焼成工程。
【0027】
[ポリイミド前駆体溶液の作製]
上述したように、ポリアミック酸は、カルボン酸二無水物と有機アミン化合物とを重合することで得ることができる。ポリアミック酸に熱を付与することによってイミド化(熱イミド化)するか、もしくはポリアミック酸を化学的にイミド化(化学イミド化)することで、カルボン酸部分が閉環してポリイミド化することができる。
イミド化率は約80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であることが望ましいが、ここも目的とする物性に合わせて調節するとよい。
【0028】
ジアミンに関して、フェニレンジアミンとしてo-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミンのうちm-フェニレンジアミンおよびp-フェニレンジアミンが好ましく、p-フェニレンジアミンがさらに好ましい。
ジアミノジフェニルメタンとしては、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタンがあるが、なかでも4,4’-ジアミノジフェニルメタンが好ましい。
【0029】
上述したように、ポリアミック酸を重合するための溶媒としては例えば有機極性溶媒を用いることができ、好ましい有機極性溶媒としては、例えば、テトラメチル尿素、フェノール、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ピリジン、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド、p-クロロフェノール、o-クロルフェノール、ジメチルスルホキシド、クレゾールが挙げられる。
【0030】
ポリアミック酸を作製するときの他の条件としては、例えば、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンをだいたい等モル(略等モル)で、好ましくは約80℃以下、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは0~65℃、特に好ましくは10~60℃の温度条件下で反応させるとよい。
反応時間としては、好ましくは約0.1時間以上、より好ましくは0.2~72時間、さらに好ましくは0.5~60時間で反応させることで、ポリアミック酸を作製することができる。なお、ポリイミド前駆体溶液を製造するときに、分子量を調整するための成分を反応溶液に加えることもできる。
作製されたポリイミド前駆体溶液は、例えばポリアミック酸5~50質量%と有機極性溶媒50~95質量%とからなる。ポリアミック酸の含有量が5質量%未満だと多孔質ポリイミド膜を作製した際のフィルム強度が低下し、50質量%を超えると多孔質ポリイミド膜の粘度が高くなりすぎ、ハンドリング性が低下する。
【0031】
[スラリー作製]
上述したポリイミド前駆体溶液と微粒子とを混合してスラリーを作製する。スラリーには濃度調整用の有機溶剤、さらには帯電防止、低温焼成化、離型性、塗布性、低吸湿性、低線膨張率性、化学イミド化剤など既に述べた添加材を加えてもよい。
スラリーはポリイミド前駆体溶液5~90質量%と開孔用の微粒子2~40%、濃度調整用に有機溶剤を0~95質量%、添加剤については特に限定されないが好ましくは0~20質量%からなり、それらを攪拌装置で混合する。なお攪拌では「あわとり練太郎」((株)シンキー製)などの自転公転攪拌機を用いるとよい。
【0032】
スラリーの溶液粘度は、塗工で使用するダイやコータマシンの特性に応じて適宜決めるとよい。例えば、塗工のしやすさやフィルム強度の観点から、例えば0.1~1000Pa・s、好ましくは0.5~300Pa・s、更に好ましくは1~250Pa・s程度の粘度とすることで様々なダイやコータマシンで使用することができる。
【0033】
[原反形成工程]
作製したスラリーを支持体上に塗工して原反を形成することができる。塗工方法については特に制限はなく、例えば、スラリーブレードやTダイなどを用いてガラス板、ステンレス板、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PEN(ポリエチレンナフタレート)フィルム等の支持体の上に塗工する。これにより、支持体上にスラリーが層状に拡がった原反を形成することができる。
また、支持体としては金属ベルトなどの無端機構のほか、樹脂フィルムを用いるとよい。支持体としては、作製したスラリーの影響を受けない、あるいは影響を受けにくいものであればよく、無端機構であればステンレスなどの金属製、樹脂フィルムであればPETやポリテトラフルオロエチレンなどの樹脂を用いるとよい。多層構造のポリイミド多孔膜を製膜する場合はTダイとしてフィードブロック型やマルチマニーホールド型のダイを用いるとよい。多層構造を有するポリイミド多孔膜に本発明を適用してもよい。多層構造のうち、例えば表層に本発明を適用する、あるいは中間層に適用することで最大応力、伸び、弾性率などの物性を従来よりも高いレベルですべて両立する多層ポリイミド多孔膜を提供することが可能となる。
【0034】
[剥離工程]
支持体上に原反を形成した後であって焼成工程の前の適切なタイミングで支持体から原反を剥離する。原反の長さとしては特に制限はないが、生産性の観点から長尺(例えば、5m以上)であることが好ましく、10m以上であることがより好ましく、20m以上であることが更に好ましい。原反の長さの上限値としては特に制限はないが、例えば、4000m以下であり、典型的には1000m以下にすると原反の取り扱いが容易になる。原反を支持体からより容易に剥離するために原反を適切に乾燥させるとよい。
【0035】
[多孔化工程]
支持体から剥離した原反から微粒子を適切な方法を選択して除去することにより、球状または略球状の孔を有するポリイミド多孔膜を製造することができる。微粒子の除去方法としては溶媒や酸、アルカリで微粒子を溶かして除去する方法や、焼成によって微粒子を除去する方法があるが、これは用いる微粒子に依存する。生産性やコストを鑑みると、開孔を形成するための微粒子としては樹脂粒子が好ましい。
開孔粒子として、シリカ等の無機粒子を用いる場合、酸やアルカリと接触させて無機粒子を溶解させることにより除去することができる。
微粒子が樹脂粒子である場合、ポリイミドフィルムを溶解せず、樹脂粒子が可溶な有機溶剤により、樹脂粒子を溶解除去することができる。このような有機溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル類;トルエン等の芳香族類;アセトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類;が挙げられる。これらの中でも、テトラヒドロフラン等のエーテル類が好ましく、テトラヒドロフランを用いることがさらに好ましい。また樹脂微粒子の場合は、樹脂微粒子の熱分解温度以上、かつ、ポリイミド系樹脂の熱分解温度未満の温度に加熱することで樹脂微粒子を分解させて除去することで開孔を形成することができる。
【0036】
[焼成工程]
得られた原反もしくは多孔化された原反に熱を付与してイミド化(以降、熱イミド化という)し、これによりポリイミド多孔膜を形成することができる。この熱イミド化後のポリイミド多孔膜の機械方向(MD方向)の収縮率は5%以下、また幅方向(TD方向)の収縮率も5%以下に抑制するとよい。収縮率の抑制手段や方法に特に制限はないが、原反や開孔後のフィルムにかかるテンションを低減するとよい。
温度条件は、例えば250~500℃の温度範囲で、1~300分、好ましくは5~240分間、より好ましくは10~120分間で適宜実行するとよい。生産性を高めるには加熱焼成時間はなるべく短くすることが望ましい。
この熱イミド化処理では、200℃以上の温度域での昇温速度が、20℃/分以上、好ましくは30℃/分以上であることが望ましい。イミド化反応が顕著に起こる100~250℃の温度域において上記の昇温速度で加熱することにより、表面開口率および孔径が大幅に向上した本発明の多孔質ポリイミド膜を得ることができる。
焼成温度はポリアミック酸の種類や目的とするイミド化の度合いによっても異なるが、120~500℃が好ましく、150~500℃がさらに好ましい。
焼成を行う際は、乾燥工程と焼成工程とを分けてもよいが、厳密に分けずに実施してもよい。例えば、360℃で焼成を行う場合、室温から360℃まで連続的に昇温させた後に360℃で数十分間焼成する方法や、室温から360℃まで段階的に昇温させて360℃で数十分間焼成する方法があるが、適宜好ましい手順を選択するとよい。室温から昇温させていく途中の適切なタイミングで支持体から原反を剥離すればよい。
【0037】
焼成されたポリイミド多孔膜は、例えば直径2.5cm(1インチ)以上25cm(10インチ)以下の巻き芯に捲回するとよい。巻き芯の直径としては5cm(2インチ)以上10cm(4インチ)以下が好ましい。巻き芯の材質としては特に制限はないが、紙、ステンレスなどの金属製、ABSやPP、PE、PVC、PET、FRP、ベークライトなどの硬質プラスチック製が挙げられる。
【0038】
上記の焼成工程が樹脂粒子の除去を兼ねるとき、樹脂粒子を構成する有機材料が、ポリイミドよりも低温で分解するものであれば、ポリイミドに熱的なダメージを与えることなく樹脂粒子のみを消失させることができる。このため樹脂微粒子の分解温度は例えば、120℃以上500℃以下であることが好ましい。
【0039】
上記の手順で作製されたポリイミド多孔膜は、複数の球状孔または略球状孔が内部に形成されており、孔の少なくとも一部が互いに連通している。ポリイミド多孔膜表面や内部の孔径は、フィルムを製造する際に使用する微粒子の種類やサイズを適宜選択ないし調整することによりコントロールすることができる。
【0040】
孔径や分布のばらつきの小さい孔を有するフィルムは、フィルムの製造時に、真球率が高く、粒径分布指数の小さい微粒子を用いることや、微粒子とポリアミック酸またはポリイミド系樹脂とを含むポリイミド前駆体溶液の粘度を均一な塗布が可能となるような適切な粘度に調整すること等により製造することができる。
上記の方法で測定したガーレ法による透気度は400秒以下が好ましく、300秒以下であることがより好ましく、250秒以下がより好ましい。このような透気度となることにより、リチウムやリチウムイオンをより低抵抗に移動させることができるものと考えられる。
【0041】
本発明のポリイミド多孔膜の膜厚は、フィルムを電池用セパレータとして使用する場合には、6μm以上100μm以下が好ましく、7μm以上80μm以下がより好ましく、8μm以上50μm以下がさらに好ましい。膜厚はマイクロメータ等で複数の箇所の厚さを測定し平均することで求めることができる。
【0042】
以上では単層構造を有するポリイミド多孔膜の製膜態様について述べたが、以下では多層構造を有するポリイミド多孔膜を共押出し法で製膜する手順について述べる。
基本的な製造手順は上述した単層構造の場合と同様であるが、使用するダイなどは異なる。多層ポリイミド多孔質膜の製造手順は次のとおり:
ポリイミド前駆体溶液に開孔用の微粒子を混合して第一スラリーを調製する第一スラリー調製工程;
前記第一スラリーと異なる第二スラリーを調製する第二スラリー調製工程;
第一スラリーと第二スラリーとを共押出し成形用ダイに供給する工程;
共押出し成形用ダイの吐出口から第一スラリーで構成された層と第二スラリーで構成された層とを一体化した薄膜として平滑な支持体上に連続して押出す工程(多層原反形成高工程);
前記支持体上の多層薄膜を乾燥し、支持体上から多層薄膜を剥離する工程(剥離工程);および
多層薄膜を加熱処理し微粒子を除去して多孔化する工程(多孔化工程)。
なお開孔前の多層薄膜のことを多層原反ともよぶ。
【0043】
本発明の多層ポリイミド多孔質膜では、多層押出用ダイから支持体へ向けて吐出する際のポリアミック酸溶液の温度は0~150℃であり、中でも特に5~100℃、さらには10~60℃が好ましい。膜状に吐出されたポリアミック酸溶液は支持体から剥離するためにある程度乾燥させるが、この乾燥温度は、50~200℃、特に60~180℃の範囲で適宜定めるとよい。
支持体から剥離された膜状のポリアミック酸は、加熱処理温度が300~500℃で、加熱処理時間が約1~80分間、特に2~60分間程度にすることで、ポリアミック酸をイミド化し、かつ樹脂粒子を除去できるため望ましい。
【0044】
<多層原反形成工程>
多層原反形成工程では、多層ダイを用いて支持体上にスラリーを層状に積層する。
この共押出し法では、複数種類のスラリーを支持体上に同時に吐出することにより、多層構造の無孔原反を一括的に形成する。このときスラリー同士が乾くことなく直に接触し、多層原反の層間が強く密着することになる。
これにより、工程数の低減だけでなく、逐次塗工法よりも多層原反の形成時間を短くすることができ、例えば脱水剤などの添加材を用いる場合では、層間に滞留する危険性を逐次塗工法よりも低くすることができる。
【0045】
スラリーが吐出される支持体としては、上述のとおり材質に制限はなく、平滑であってスラリーと溶け合うことが無いものであればよい。好ましくは多層原反の剥離性に優れたものがよい。一例としては、ステンレスなど金属製のベルト(無端機構)、PETなどの樹脂製フィルム、回転ドラム等が挙げられるがこれに限らず適宜好ましいものをもちいるとよい。
【0046】
製造効率の観点から支持体は回転ドラムや無端機構が好ましいがここも適宜選択するとよい。無端機構であれば回転駆動させることで多層原反を連続形成しつつ、樹脂製フィルムなどを使い捨てする必要がなく、製造コストの低減につなげられる。
また多層原反を焼成するとき、多層原反の端部をテンターピンやチャック等の固定手段で幅を固定してもよい。
【0047】
本発明では、複数種類のポリイミド系ワニスを支持体上に同時に吐出可能とする構成であり、その実現手段としては多層共押出ダイを用いることが挙げられる。
第1層目の後に第2層目を積層する方法(逐次塗工法)よりも、複数の液膜を一括同時に形成する共押出し法の方が、層間の密着性を高めることができ、また層間の界面形成も低減することができ層間剥離などの問題も生じない。
【0048】
<剥離工程>
剥離工程では、多層原反を支持体から自立した無孔膜として剥離する。
支持体から多層原反を剥離するときの条件に制限はなく、多層原反から有機溶媒を一部蒸発させたりポリアミック酸の一部をイミド化して支持体から良好に多層原反を剥離できる条件であればよい。支持体から多層原反を剥離するときの温度は50℃以上200℃以下であることが好ましく、60℃以上180℃以下で適宜定めるとよい。
多層原反を支持体から剥離するとときの温度を60~200℃の範囲内とすることにより、多層原反をよりゲル状にでき支持体から剥離しやすくなる。加熱時間についても特に制限はなく膜厚や生産性に鑑み適宜定めるとよい。
【0049】
<多孔化工程>
多孔化工程では、支持体から剥離された多層原反を焼成しイミド化をすすめつつ、樹脂粒子や残存溶媒を焼き飛ばし、これにより多層ポリイミド多孔質膜を形成する。この多孔化工程における焼成で、多層原反に含まれた溶媒成分の蒸散、ポリアミック酸のイミド化反応の促進、ならびに樹脂粒子の除去を並行的にすすめる。これにより複数のポリイミド多孔層が積層された多層ポリイミド多孔質膜を得ることができる。
【0050】
この多孔化工程における焼成で用いる加熱方法も特に制限はなく支持体から剥離された多層原反を効果的に加熱できる方法であればよい。例えば、多層原反の上面(一方の面)または下面(他方の面)、もしくは両面から100℃以上の熱風を多層原反全体に吹き付けて加熱する方式や遠赤外線を原反に照射する方式を用いるとよい。
加熱温度は、200℃以上600℃以下であることが好ましいが、ポリアミック酸の組成などに鑑みて適宜定めるとよい。このとき温度は段階的に上昇させるとよい。 加熱温度を急激に高めると、多層原反の焼成にムラができやすく膜表面の平滑性に影響をおよぼす危険性がある。また加熱温度が低すぎたり加熱時間が短すぎたりすると樹脂粒子を十分に焼き飛ばすことができず、十分に多孔化することができない危険性がある。
【0051】
本発明のポリイミド多孔膜をセパレータとして用いる蓄電デバイスは、セパレータのほか、負極、正極、および電解液を含む。蓄電デバイスの形式としては捲回型(外観は円筒や角型)、ラミネート型、コイン型など様々な形式があり、正極、セパレータ、および負極が順に積層された電極構造体が外装体に内容され、この外装体内に電解液が注液され蓄電デバイスが作製される。
【0052】
リチウムイオン電池の負極は、例えば負極活物質、導電助剤およびバインダからなる負極合剤が、集電体上に成形された構造をとる。負極活物質として、リチウムを電気化学的にドープすることが可能な材料が採用でき、このような活物質としては例えば、炭素材料、シリコン、アルミニウム、スズ、ウッド合金等が挙げられる。なおリチウム金属電池の場合は周知のように負極として金属リチウムを用いる。
【0053】
負極を構成する導電助剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダは有機高分子からなり、例えば、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。集電体には、銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔等を用いることが可能である。
【0054】
また、正極は、正極活物質、導電助剤およびバインダからなる正極合剤が、集電体上に成形された構造とすることができる。例えば、正極活物質としては、ニッケルカドミウム電池の場合は水酸化ニッケルを、ニッケル水素電池の場合は水酸化ニッケルやオキシ水酸化ニッケルを、それぞれ用いることができる。リチウムイオン二次電池の場合、正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられ、具体的にはLiCoO2、LiNiO2、LiMn0.5Ni0.5O2、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2、LiMn2O4、LiFePO4、LiCo0.5Ni0.5O2、LiAl0.25Ni0.75O2等が挙げられる。導電助剤はアセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。
【0055】
リチウムイオン電池やリチウム金属電池の電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した非水電解液が典型的に使用されるが、求める特性に応じて水系電解液を使用してもよい。リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiFSI等が挙げられる。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、ビニレンカーボネート等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし添加剤を混合して用いてもよい。
【0056】
外装材は、金属缶またはアルミラミネートパック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型等があるが、本発明のセパレータはいずれの形状においても好適に適用することが可能である。
一例として、以下にラミネート型電池、円筒電池、およびコイン電池の作製手順について説明する。
[ラミネート型リチウムイオン二次電池およびリチウム金属二次電池]
[正極・負極]
正極および負極としてそれぞれ市販品を使用することができ、例えば、正極に含まれる正極活物質はスピネル構造を有するLi1.1Mn1.9O4と、リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(Ni/Liモル比0.7)との混合物であり、バインダとしてポリフッ化ビニリデン、導電助剤としてカーボンブラック粉末を用いることができる。
【0057】
負極には負極活物質として黒鉛などを用いることができ、正極活物質層および負極活物質層の空孔率と空孔径は適宜調整するとよい。正極および負極の集電体の一方の面側の活物質層を剥がし、例えば29mm×40mmのサイズに切り抜いて使用する。また黒鉛のかわりに金属リチウム層を所定の厚さで形成して負極として使用することもできる。この場合、エネルギー密度の向上が期待できる。
【0058】
正極の正極集電体にアルミニウム製の正極タブを溶接し、負極の負極集電体に銅製の負極タブ(負極集電板)を溶接する。これらタブを溶接した正極の正極活物質層と負極の負極活物質層とを対向させ、間にセパレータを挟んでプレート状の1つの電極構造体を作製する。
【0059】
アルミ層が設けられたラミネートフィルムによる外装材(サイズおよび形状は例えば60mm×60mmの方形状)を用いて上述の電極構造体を挟み込み、方形状の4辺のうちの3辺を熱で圧着封止して外装体を形成する。
この外装体に、真空含浸装置(例えばTOSPACK V-307GII;東静電気株式会社製)を用いて電解液を注入して、残りの1辺を熱圧着で真空封止してセルを作製する。その後、注液した電解液が電極構造体の細孔に十分含浸するまで、例えば室温で所定時間静置するとよい。
【0060】
[捲回型リチウムイオン二次電池/リチウム金属電池]
捲回型のリチウムイオン二次電池/リチウム金属二次電池(以降、リチウム二次電池という)は、例えば、電極構造体が非水電解液と共に円筒形状の外装体に収容された構成を有する。捲回型のリチウム二次電池における電極構造体は、それぞれ帯状にした正極、負極、2枚のセパレータを準備し、これらを重ねて層状に巻くことで作製される。この電極構造体を円筒形状の外装体に収容し、この外装体内に電解液を注液して封をすることで捲回型の電池が作製される。
【0061】
捲回型のリチウム二次電池では、例えば、長尺シート状の正極集電体と、正極活物質を含み且つ正極集電体上に設けられた正極合材層とで構成される正極を用いる。また、長尺シート状の負極集電体と、負極活物質を含み且つ負極集電体上に設けられた負極合材層と、で構成された負極を用いることができる。
セパレータは、正極および負極と同様に、長尺シート状に形成され、このセパレータを上述した正極および負極の間に介装した状態で捲回する。
【0062】
外装体は、有底円筒状のケース本体と、ケース本体の開口部を塞ぐ蓋とを備える。蓋およびケース本体は例えば金属製であり、互いに絶縁されている。蓋は正極集電体に電気的に接続され、ケース本体は負極集電体に電気的に接続されている。蓋が正極端子、ケース本体が負極端子をそれぞれ兼ねるようにしてもよい。
【0063】
リチウム二次電池は、例えば-10~80℃で充放電することができる。電池内の内圧上昇の対策として、電池の蓋に安全弁を設ける対策や、電池のケース本体やこのケース本体に組み合わせられるガスケットに切り込みを入れる対策を採用することができる。また、過充電防止のために電池の内圧を感知して電流を遮断する電流遮断機構を蓋に設けることもできる。
【実施例0064】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
[膜厚]
接触式厚み計(ピーコック製)により測定した。
【0065】
[ガーレ値(透気度)]
製造した微多孔膜からMD方向に80mm、全幅の試験片を採取し、中央部と左右の端部(端面から50mm内側)の3点について、B型ガーレ式デンソメーター(熊谷理機工業株式会社型録No.2060)を用い、JIS P8117に準じて、測定を行った。3点の平均値をガーレ値として算出した。
【0066】
[空孔率(重量法)]
3.5×4.5cmの大きさの多孔質フィルムを20枚打ち抜き、合計の大きさが315cm2になるような面積の多孔質フィルムを用意し、膜厚と重量を測定した。
測定に際し、真密度測定装置(BELPycno:マイクロトラック・ベル社製)を用いて多孔質フィルムの真密度を測定した。測定セルの大きさは3.5ccのものを使用し、得られた真密度の結果をD、多孔質フィルムの面積をS、膜厚をd、重量をwとして次式により空孔率を算出した:
空孔率=(1-(w/(S×d×D)×100 (1)
【0067】
[最大応力]
JIS K-6251-6号のサンプル形状の試験片を、25℃の測定環境下において、引張り速度を1mm/min、チャック間距離を50mmとして測定を行い、フィルムが破断するまでのうち最も高い引張応力値(MPa)を最大応力とした。引張試験機は(島津製作所製:オートグラフAGS-50NX)を用いた。
【0068】
[弾性率]
JIS K-6251-6号に準じ短冊状の試験片を、25℃の測定環境下において、引張り速度を1mm/min、チャック間距離を30mmとして測定を行い、応力-ひずみ曲線において、初期の立ち上がり部の勾配から求めた。引張試験機は(島津製作所製:オートグラフAGS-50NX)を用いた。
【0069】
[伸び]
JIS K-6251-6号のサンプル形状の試験片を、25℃(常温)の測定環境下において、引張り速度を1mm/min、チャック間距離を50mmとして測定を行い、フィルムが破断した際の破断ひずみを伸びとした。引張試験機は(島津製作所製:オートグラフAGS-50NX)を用いた。
【0070】
実施例1
N,N-ジメチルアセトアミド:16gにジアミンとして4,4’-オキシジアニリン(ODA)を:1.915g、および2,2‘-ジメチルベンジジン(m-TB):1.973gを用い、カルボン酸としてピロメリット酸無水物(PMDA):2.027gを添加し、セパラブルフラスコ中にて25℃で12時間攪拌して反応させ、第1のポリアミック酸を得た。
N,N-ジメチルアセトアミド:16gにジアミンとしてp-フェニレンジアミン(PDA):1.075gを用い、カルボン酸として3,3‘,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物(BPDA):2.925gを添加し、セパラブルフラスコ中にて25℃で12時間攪拌して反応させ、第2のポリアミック酸を得た。
これら第1、第2のポリアミック酸に平均粒径800nmのPMMA粒子(樹脂粒子)を理論空孔率が65%となるよう混合し第1、第2スラリーを調製した。これら第1、第2スラリーをTダイを介して第1スラリーを第1層とし第2スラリーを第2層とする2層構造を有する積層体を支持体上に層設し、熱処理(焼成)を施してPMMA粒子を除去してポリイミド多孔質膜を作製した。これにより第1スラリーによって第1層、第2スラリーによって第2層が形成された2層構造を有するポリイミド多孔膜を得た。得られたポリイミド多孔膜について膜物性を測定し、充放電前の膜物性として表1にまとめた。
次に、上記の2層構造を有するポリイミド多孔膜をリチウムイオン二次電池用のセパレータとして、既に述べたラミネート型リチウムイオン二次電池の作製手順に従い、NMC系を用いた正極、グラファイトを用いた負極を使用してラミネート型のリチウムイオン二次電池を作製した。このとき2層構造を有するセパレータの第1層を負極に向け、第2層を正極に向けた。なお電解液としては一般的なEC:DMC:EMC=1:1:1の有機溶媒に1M LiPF6を混合した組成を有するものを使用した。充放電試験を行った後に当該電池を解体し、再度、セパレータ(ポリイミド多孔膜)の膜物性を測定した。結果を表1にまとめた。
【0071】
実施例2
実施例
第1層と第2層の層比を36:64としたこと以外は実施例1と同様にして実施した。
【0072】
実施例3
実施例
第1層と第2層の層比を23:77としたこと以外は実施例1と同様にして実施した
【0073】
比較例1
第1層を、第2層のポリアミック酸組成(BPDA/PDA)で構成し単層構造とした以外は実施例1と同様に実施した。この結果、充放電後に当該電池を解体して測定した最大応力や伸びが、充放電前に測定した値と比較して著しく低下したことを確認した。
【0074】
比較例2
第2層を、第1層のポリアミック酸組成(PMDA/ODA+m-TB)で構成し単層構造とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0075】
【表1】