(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114727
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】摺動部材および摺動部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 11/06 20060101AFI20240816BHJP
A61F 2/32 20060101ALI20240816BHJP
A61F 2/36 20060101ALI20240816BHJP
A61L 27/10 20060101ALI20240816BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
F16C11/06 Z
F16C11/06 A
A61F2/32
A61F2/36
A61L27/10
A61L27/16
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024096018
(22)【出願日】2024-06-13
(62)【分割の表示】P 2022533763の分割
【原出願日】2021-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2020114933
(32)【優先日】2020-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】村上 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 泰斗
(72)【発明者】
【氏名】池田 潤二
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性が向上した摺動部材および摺動部材の製造方法を実現することを目的とする。
【解決手段】本開示の一態様の骨頭ボールは、アルミナと、アルミナ以外の少なくとも1つの酸化物と、を含む複合セラミックスを含み、人工関節を構成する構成部材に対して骨頭ボールが摺動するときの摺動面の表面粗さRaが0.01μm以下である。摺動面は、開口径が2μm以下である複数の凹部を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工関節を構成する構成部材に対して摺動可能な摺動面を備え、
アルミナと、アルミナ以外の少なくとも1つの酸化物と、を含む複合セラミックスを含み、
前記摺動面は、開口径が2μm以下である複数の凹部を有しており、表面粗さRaが0.01μm以下である、摺動部材。
【請求項2】
前記複数の凹部のうち少なくとも一部の前記凹部は、前記複合セラミックスに含まれるアルミナの結晶の一部が欠如することによって形成されたものである、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記アルミナの結晶の平均結晶粒径は、2μm以下である、請求項1または2に記載の摺動部材。
【請求項4】
前記凹部は、開口から底部までの深さが2μm以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の摺動部材。
【請求項5】
前記摺動面は、前記凹部を1平方ミリメートル当たり10,000個以上有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の摺動部材。
【請求項6】
前記複合セラミックスは、65~96重量%のアルミナ、4~34.4重量%のジルコニアを含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の摺動部材。
【請求項7】
前記人工関節は、人工股関節であり、
前記摺動部材は、前記人工股関節の骨頭ボールである、請求項1から6のいずれか1項に記載の摺動部材。
【請求項8】
前記構成部材が、ポリエチレンまたは架橋超高分子量ポリエチレンを含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の摺動部材。
【請求項9】
アルミナと、アルミナ以外の少なくとも1つの酸化物と、を含む複合セラミックスの表面を研磨する研磨工程と、
研磨された前記表面を強酸溶液で処理して前記表面に凹部を形成する酸処理工程と、を含む摺動部材の製造方法。
【請求項10】
前記アルミナ以外の少なくとも1つの酸化物は、ジルコニアを含む、請求項9に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項11】
前記研磨工程の後、かつ、前記酸処理工程の前の前記表面の表面粗さRaが0.01μm以下であり、前記酸処理工程の後の前記表面の表面粗さRaも0.01μm以下である、請求項9または10に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項12】
前記酸処理工程により形成された前記凹部は、開口から底部までの深さが2μm以下である、請求項9から11のいずれか1項に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項13】
前記酸処理工程により、人工関節を構成する構成部材に対して摺動可能な摺動面に前記凹部を1平方ミリメートル当たり10,000個以上形成する、請求項9から12のいずれか1項に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項14】
前記強酸溶液は、塩酸水溶液である、請求項9から13のいずれか1項に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項15】
前記酸処理工程において、前記表面を前記塩酸水溶液に5分以上接触させる、請求項14に記載の摺動部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、摺動部材および摺動部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関節を構成する一対の関節部材を有し、該一対の関節部材間に、潤滑液を介して互いに接触した状態で相対的に摺動する一対の摩擦面を形成する人工関節が知られている。また、公知の人工関節には、前記一対の摩擦面のうち少なくとも一方の前記摩擦面は、前記摩擦面の表面側から内側にかけて徐々に幅が狭くなる溝状および穴状の少なくともいずれかの凹部と、該凹部を形成する面と前記摩擦面の表面部を形成する面とを滑らかに繋ぐ曲面部と、を有しているものがある。
【0003】
一般に摩擦面の表面粗さRaは大きくなると切削性の摩耗量が増加し、摩擦面の表面粗さRaは小さくなると凝着性の摩耗量が増加する。このため、切削性の摩耗量および凝着性の摩耗量との和が最も小さくなり、耐摩耗性が向上する表面粗さRaが存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐摩耗性が向上した摺動部材および摺動部材の製造方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る摺動部材は、人工関節を構成する構成部材に対して摺動可能な摺動面を備え、アルミナと、アルミナ以外の少なくとも1つの酸化物と、を含む複合セラミックスを含み、前記摺動面は、開口径が2μm以下である複数の凹部を有しており、表面粗さRaが0.01μm以下である。
【0006】
また、本開示の一態様に係る摺動部材の製造方法は、アルミナと、アルミナ以外の少なくとも1つの酸化物と、を含む複合セラミックスの表面を研磨する研磨工程と、研磨された前記表面を強酸溶液で処理して前記表面に凹部を形成する酸処理工程と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、耐摩耗性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施形態に係る人工股関節の模式図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る摺動面の断面の模式図である。
【
図3】本開示の一実施例に係る骨頭ボールの酸浸漬時間による凹部発生状況を示す図である。
【
図4】本開示の一実施例に係る骨頭ボールの酸浸漬前後(酸洗浄前後)の摺動面の凹部の拡大図である。
【
図5】本開示の一実施例に係る骨頭ボールの酸浸漬後(酸洗浄後)の摺動面の凹部の拡大図である。
【
図6】本開示の一実施例に係る酸浸漬後における骨頭ボールの表面粗さを比較する図である。
【
図7】酸浸漬後の骨頭ボールの摩耗試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施形態1〕
(人工股関節1の全体構成)
以下、本開示の一実施形態について、詳細に説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る人工関節としての人工股関節1の模式図である。
図1に示すように、人工股関節1は、寛骨93の寛骨臼に固定される寛骨臼カップ10と、大腿骨91の近位端に固定される大腿骨ステム20と、寛骨臼カップ10と摺動する骨頭ボール22とから構成されている。すなわち、寛骨臼カップ10、大腿骨ステム20、および骨頭ボール22は、人工股関節1を構成する構成部材である。ただし、人工関節は、本開示に係る人工股関節1に限られず、例えば人工膝関節、人工足関節、または人工肩関節でもよい。
【0010】
寛骨臼カップ10は、ほぼ半球状の寛骨臼固定面14およびほぼ半球状にくぼんだ摺動面16を有している。大腿骨ステム20の一端側には、摺動部材としての骨頭ボール22が備えられている。なお、本開示の一態様では、大腿骨ステム20の一端側に嵌め込まれる骨頭ボール22を有する構成である。
【0011】
骨頭ボール22は、寛骨臼カップ10に対して骨頭ボール22が摺動するときの摺動面23を有している。摺動面23は、寛骨臼カップ10に対して摺動可能となっている。骨頭ボール22は、寛骨臼カップ10のほぼ半球状にくぼんだ摺動面16に対して摺動することにより、股関節として機能する。ただし、本開示における摺動部材は骨頭ボール22に限られず、寛骨臼カップ10でもよい。この場合、寛骨臼カップ10は、骨頭ボール22に対して摺動する。摺動面23の表面粗さRaは、0.01μm以下である。これにより、寛骨臼カップ10と骨頭ボール22との摺動時に対する摩擦係数を低減することができる。
【0012】
なお、寛骨臼固定面14は、寛骨臼94に近い側に配された外表面である。また、摺動面16は、骨頭ボール22に接触する内表面または接触面でもある。
【0013】
本開示の一実施形態において、寛骨臼カップ10は、ポリエチレンまたは超高分子量ポリエチレン製である。
【0014】
骨頭ボール22は、アルミナと、アルミナ以外の少なくとも1つの酸化物と、を含む複合セラミックスを含む。これにより、骨頭ボール22を高硬度、高強度にすることができる。本実施形態では、骨頭ボール22は、65~96重量%のアルミナ、および4~34.4重量%のジルコニアを含む複合セラミックスである。これにより、骨頭ボール22は、ジルコニアを含まないアルミナ単体のセラミックスと比べて、より高強度かつ高靱性であり、また、ジルコニア単体のセラミックスと比べてより高硬度である。
【0015】
骨頭ボール22は、SiO2を0.20質量%以上、TiO2を0.22質量%以上、MgOを0.12質量%以上含有してもよい。これにより、焼結温度で形成された液相の粘度が高くなることにより焼結促進効果が小さくなることを低減できる。本実施形態では、骨頭ボール22は、SiO2、TiO2及びMgOの合計の含有割合が0.6~4.5質量%である。これにより、高緻密化と微粒組織形成という効果が得られる。
【0016】
本実施形態では、人工関節は、人工股関節1であり、摺動部材は、人工股関節1の骨頭ボール22である。このため、人工股関節1の骨頭ボール22という用途において耐摩耗性を向上させることができる。なお、耐摩耗性は、骨頭ボール22と寛骨臼カップ10とを繰り返し摺動させたときの、寛骨臼カップ10の摩耗による重量減少を測定することによって評価される。
【0017】
図2は、本開示の一実施形態に係る摺動面23の断面の模式図である。
図2に示される個々の多角形は、多結晶体である複合セラミックスの個々の結晶粒を示す。本開示の一実施形態では、結晶粒は、アルミナ結晶粒またはジルコニア結晶粒であるが、
図2においては区別をしていない。なお、
図2では、便宜上、摺動面23を平面として図示している。
図2に示すように、摺動面23は、開口径L1が2μm以下である複数の凹部24を有する。ここで、開口径L1とは、摺動面23に存在する微小な開口の幅を示すものであり、必ずしも円の直径を示すものではない。開口径L1は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影された摺動面23にみられる開口の幅を計測することにより求められる。また、摺動面23の画像を画像処理ソフトにより二値化処理、円換算処理等を行って、同面積の円に換算した場合の直径として算出してもよい。摺動面23が複数の凹部24を有することにより、人工股関節1が適用される環境において存在する水を凹部24に捉えることができる。その結果、寛骨臼カップ10との間の摺動が潤滑になるので、耐摩耗性を向上させることができる。
【0018】
複数の凹部24のうち少なくとも一部の凹部24は、複合セラミックスに含まれるアルミナの一部の結晶粒が欠如することによって形成されたものである。例えばアルミニウムと酸素以外の添加物元素を含むアルミナの結晶粒が欠如することによって凹部24を摺動面23に形成することができる。凹部24の形状は、アルミナの一部の結晶粒が欠如することによって形成されるため、不定形状であり、鋭利なエッジを有する場合もある。凹部24の形状は、摺動面23の表面側から内側にかけて徐々に幅が狭くなる溝状および孔状であってもよいし、開口から所定の深さまでにおいては、凹部の幅が大きくなる形状であってもよい。
【0019】
アルミナの結晶の平均結晶粒径は、2μm以下である。これにより、アルミナの結晶の平均結晶粒径は、2μm以上のものと比べて、開口径L1が2μm以下である複数の凹部24を増やすことができる。平均結晶粒径は、例えばSEMにより撮影された複合セラミックスの断面の拡大画像を用いて、直線切断法により求めることができる。本実施形態においては、アルミナの結晶粒の個々の粒径は0.05~3μmの範囲にある。アルミナの結晶粒の欠如により形成される凹部の個々の径も、0.05μm以上となっている。
【0020】
凹部24の底部までの深さL2は、2μm以下である。ここで、凹部24の底部までの深さL2とは、摺動面23における凹部24の開口から凹部24の底面までの距離のうち、最大となる距離を意味する。これにより、摩擦面間の潤滑液の停留を促進させることができ、摩擦材料の摩耗を抑制することができる。深さL2は、凹部24を含む摺動面23に垂直な断面をSEM等で拡大観察して測定することが可能である。また、深さ方向の形状測定の分解能が高い共焦点レーザー顕微鏡等を用いて、凹部24を含む摺動面23を拡大観察して測定してもよい。
【0021】
摺動面23は、凹部24を1平方ミリメートル当たり10,000個以上有する。これにより、摺動面23は、凹部24を1平方ミリメートル当たり10,000個未満有する摺動面を備えた摺動面と比べて、人工股関節1が適用される環境において存在する水をより多く凹部24に捉えることができる。凹部24の1平方ミリメートル当たりの存在個数の上限は特に定まっていないが、存在個数が過剰になると表面粗さRaに影響を及ぼす。表面粗さRaが大きくなると、耐摩耗特性が低下するため、凹部24の1平方ミリメートル当たりの存在個数は、表面粗さRaが0.01μmを超えない範囲に設定される。
【0022】
(製造方法)
本開示の一実施形態に係る骨頭ボール22の製造方法は、研磨工程、および酸処理工程を含んでいる。研磨工程では、アルミナと、アルミナ以外の少なくとも1つの酸化物と、を含む複合セラミックスの表面(摺動面23)を研磨する。研磨工程では、摺動面23の表面粗さRaが0.01μm以下となるように摺動面23を研磨する。本実施形態では、アルミナ以外の少なくとも1つの酸化物にジルコニアを含む。これにより、骨頭ボール22は、ジルコニアを含まない構成と比べて、より高強度、高靭性となる。また、研磨工程と酸処理工程によって耐摩耗性が向上する。
【0023】
酸処理工程では、研磨工程において研磨された骨頭ボール22の表面を強酸溶液で処理して表面に凹部24を形成する。本実施形態では、酸処理工程において、研磨工程において研磨された骨頭ボール22を塩酸水溶液に浸漬することにより、骨頭ボール22の表面を塩酸水溶液に5分~200分接触させる。酸処理工程では、凹部24における開口から底部までの深さL2が2μm以下となるように凹部24を形成する。また、酸処理工程では、摺動面2に凹部24を1平方ミリメートル当たり10,000個以上形成する。本実施形態における酸処理工程では、本開示の一実施形態に係る骨頭ボール22の製造方法は、研磨工程後に強酸溶液に浸漬するだけで骨頭ボール22を製造することができるので、簡便でかつコストを下げることができる。なお本願明細書においては、酸処理工程を、酸浸漬、または酸洗浄ということがある。酸処理工程において、研磨工程において研磨された表面を塩酸水溶液に30分~150分以上接触させることがより好ましい。
【0024】
強酸溶液は、塩酸水溶液、硫酸水溶液、または硝酸水溶液であるが、これに限られない。また、強酸溶液は、これらの水溶液の混合溶液でもよい。本実施形態では、強酸溶液は塩酸水溶液である。これにより、強酸溶液が例えば硫酸水溶液と硝酸水溶液との混合溶液であるものと比べて、簡単に強酸溶液を作製することができる。
【0025】
本開示の一形態の骨頭ボール22の製造方法では、研磨工程の後、かつ、酸処理工程の前の摺動面23の表面粗さRaが0.01μm以下であり、酸処理工程の後の摺動面23の表面粗さRaも0.01μm以下である。
【0026】
なお、本開示の一実施形態に係る摺動部材の製造方法は、研磨工程の前に研削工程を含んでいてもよい。研削工程では、アルミナと、アルミナ以外の少なくとも1つの酸化物と、を含む複合セラミックスを所定の形状(すなわち、骨頭ボールの形状)に研削する。前記研磨工程では、研削工程で所定の形状に研削された複合セラミックスを研磨してもよい。
【実施例0027】
以下、実施例および比較例に基づいて本開示の一態様をより詳細に説明するが、本開示の態様はこれらに限定されるものではない。本実施例では、以下の実施例1、実施例2および比較例1~3の骨頭ボールを作成した。作製した実施例および比較例についてSEMによる観察、粗さ測定、摩耗試験による観察を行った。
【0028】
実施例1の骨頭ボールの材料として、ISO6474-2に準拠したジルコニア強化アルミナ(京セラ株式会社製)を用いた。具体的には、79.3重量%のアルミナ、および18.2重量%のジルコニアを含む材料を用いた。
【0029】
実施例2の骨頭ボールの材料として、ISO6474-2に準拠したジルコニア強化アルミナ(京セラメディカル株式会社製)を用いた。具体的には、79重量%のアルミナ、および19重量%のジルコニアを含む材料を用いた。
【0030】
比較例1の骨頭ボールの材料として、実施例1および実施例2と同サイズの市販品のISO6474-2に準拠したジルコニア強化アルミナを用いた。当該ジルコニア強化アルミナは、約75重量%のアルミナ、および約25重量%のジルコニアを含む。比較例2の骨頭ボールの材料として、高純度アルミナを用いた。当該高純度アルミナは、99.5重量%以上のアルミナを含む。比較例3の骨頭ボールの材料として、Co-Cr-Mo合金(ASTM F1537準拠)を用いた。
【0031】
(SEMによる観察)
それぞれの骨頭ボール22の表面を白金蒸着し、走査型電子顕微鏡(SEM)にて骨頭ボール22の表面を観察した。1000倍~30000倍の倍率で2次電子像を取得した。
【0032】
図3は、実施例1の骨頭ボールの塩酸水溶液に浸漬させる時間を変化させたときの凹部の発生状況を示す図である。
図3に示すように、酸浸漬5分後の骨頭ボールの摺動面23は、酸浸漬前のものと比べて粗くなっており、凹部24が形成される結果を示した。酸浸漬30分後の骨頭ボール22の摺動面23は、酸浸漬5分後の骨頭ボール22の摺動面23と比べてより多くの凹部が形成されていた。酸浸漬150分後の骨頭ボールの摺動面23は、酸浸漬30分後の骨頭ボール22の摺動面23と比べてより多くの凹部が形成されていた。これにより、複合セラミックスの表面を塩酸水溶液に5分以上接触させることにより摺動面23の表面に凹部24を形成することができることが示される。
【0033】
図4は、実施例1の骨頭ボールの酸浸漬前後(酸洗浄前後)の摺動面の凹部の拡大図である。
図5は、実施例1の骨頭ボールの酸浸漬後(酸洗浄後)の摺動面の凹部の拡大図である。
図4および
図5に示すように、酸浸漬前においては、倍率を5000倍にしたときに摺動面の表面に微細な凸凹が形成されていることを示した。これは、酸浸漬前の骨頭ボールの摺動面の表面粗さに対応するものである。
図4に示すように、酸浸漬後においては、倍率を1000倍にしたときに、摺動面に凹部が形成されている結果を示した。また、酸浸漬後においては、倍率を5000倍にしたときに、摺動面に黒い斑点状が現れる結果を示した。この黒い斑点状のものが、複合セラミックスに含まれるアルミナの結晶の一部が欠如することによって形成されたものである。
【0034】
(レーザー顕微鏡観察)
それぞれの骨頭ボールの表面を、オリンパス製共焦点レーザー顕微鏡にて100倍の倍率で観察した。
図6は、酸浸漬後における実施例1の骨頭ボールおよび、酸浸漬を行っていない比較例1の摺動面の表面粗さを比較する図である。なお、各写真の右下の縮尺の長さは15μmである。
図6に示すように、実施例1の表面には、比較例1の表面と比べて多くの凹部が形成されていた。
【0035】
(粗さ測定)
JIS B 0601に準拠して、接触式の粗さ測定器(株式会社ミツトヨ製、SV-3100SA)を用いて、基準長さ:0.08mm、区間数:5でそれぞれの骨頭ボールの天頂部にて粗さ曲線を取得した。λc:0.08mm、λs:0.0008mmのガウシアンフィルタでカットオフし、算術平均粗さRaを測定した。
【0036】
【0037】
表1は、酸浸漬後における、実施例1、実施例2の骨頭ボールの表面粗さ、および酸浸漬を行っていない比較例1の骨頭ボールの表面粗さを示す表である。表1のnは、各実施例、比較例のサンプルナンバーである。表1に示すように、酸浸漬後における骨頭ボール22の表面粗さの平均は、それぞれ実施例1が0.0034、実施例2が0.0033、比較例1が0.0032であった。すなわち、酸浸漬後における骨頭ボール22の表面粗さの平均は、実施例1、実施例2、および比較例1のいずれにおいても略等しい結果であった。この結果より、本実施例においては、骨頭ボールに形成された凹部は、骨頭ボールの表面粗さに殆ど影響を与えていないことが示された。また、比較例2、比較例3の骨頭ボールにおいても、その表面の表面粗さRaは同等で、全て0.01μm以下であることを確認している。
【0038】
(摩耗試験)
ジルコニア強化アルミナ材を用いて外径40mmの骨頭ボールを作製し、ISO14242-1、ISO14242-2に準拠した摩耗シミュレーション試験を実施した。摺動相手はガスプラズマ滅菌した架橋超高分子量ポリエチレン製ライナー(カップ)を用いた。試験は実施例および比較例毎にサンプル数n=3で実施した。摩耗量は50万サイクル毎にライナーの重量変化を計測し、試験開始からの重量減少とload soakとの差の計測から求めた。摩耗量は、50万サイクル毎に500万サイクルまで計測し、各サイクルにおいてn=3の摩耗量の平均値を算出した。
【0039】
図7は、酸浸漬後の骨頭ボールの摩耗試験の結果を示す図である。
図7の縦軸は、骨頭ボールと摺動させたライナーの摩耗量をmg単位で示す軸である。
図7の横軸は、摺動回数を示す軸である。例えば、
図7の横軸における5の値は、500万サイクルを意味する。
【0040】
図7に示すように、500万サイクル後における実施例1および実施例2の摩耗量は、約8mgであった。これに対して、500万サイクル後における比較例1、比較例2、および比較例3の摩耗量は、それぞれ約12mg、約13.5mg、および約17.5mgであった。凹部を形成した実施例1および実施例2の摩耗量は、比較例1、比較例2、および比較例3よりも摩耗量が低い結果を示した。このため、複数の凹部が形成されることにより耐摩耗性向上が向上することが示された。
【0041】
以上、本開示に係る発明について、諸図面および実施例に基づいて説明してきた。しかし、本開示に係る発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。すなわち、本開示に係る発明は本開示で示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示に係る発明の技術的範囲に含まれる。つまり、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。また、これらの変形または修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。