(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114740
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】薬効評価用中空糸膜モジュール、及びそれを含む装置
(51)【国際特許分類】
B01D 63/02 20060101AFI20240816BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240816BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
B01D63/02
C12M1/00 Z
B01D69/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024098453
(22)【出願日】2024-06-19
(62)【分割の表示】P 2022192527の分割
【原出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】594152620
【氏名又は名称】ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中塚 修志
(72)【発明者】
【氏名】石井 良和
(72)【発明者】
【氏名】濱田 将風
(57)【要約】
【課題】
細菌又は細胞が産生する薬物分解酵素(例えばβラクタマーゼ、分子量約40kDa)のECSからICSへの移行が起こり、かつECS内での細菌又は細胞の分布の偏りが抑制された薬効評価用中空糸膜モジュールを提供することを目的とする。
【解決手段】
筒状ハウジングの内壁と複数の中空糸膜との間隙の細菌又は細胞に薬物を供給する装置に搭載するための薬効評価用中空糸膜モジュールにおいて、中空糸膜の分画分子量を100kDa以上3000kDa以下、平均内径を0.1~0.4mm、長さを15cm以下とし、中空糸膜モジュールの膜透過抵抗を10×10
11~50×10
11m
-1とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の端部に溶液供給口が設けられ、第二の端部に溶液排出口が設けられた筒状ハウジングと、前記筒状ハウジング内に、前記第一の端部、前記第二の端部間方向に向けて収容された複数の中空糸膜とを備え、
前記溶液供給口から薬物を含む溶液を前記複数の中空糸膜内に供給し、前記溶液排出口から前記溶液を排出し、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙の細菌又は細胞に薬物を供給する装置に搭載するための薬効評価用中空糸膜モジュールであって、
前記中空糸膜は、その分画分子量が100kDa以上3000kDa以下であり、その平均内径が0.1~0.4mmであり、その長さが15cm以下であり、
前記中空糸膜モジュールの膜透過抵抗が10×1011~50×1011m-1である、薬効評価用中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記中空糸膜モジュールの圧力損失が、0.003MPa以下である、請求項1に記載の薬効評価用中空糸膜モジュール。
【請求項3】
前記中空糸膜が、直径0.5μm以上又は100μm3以上の容積を有するボイドを含まず、その膜厚が30~200μmである、請求項1又は2に記載の薬効評価用中空糸膜モジュール。
【請求項4】
β-ラクタマーゼを産生するβ-ラクタム系抗菌薬耐性菌に対するβ-ラクタム系抗菌薬の薬効を評価するための、請求項1又は2に記載の薬効評価用中空糸膜モジュール。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の薬効評価用中空糸膜モジュールと、前記中空糸膜モジュール外から前記複数の中空糸膜の内側に供給される薬物を含む溶液、及び、前記複数の中空糸膜の内側から前記中空糸膜モジュール外に排出された前記薬物を含む溶液を含む溶液槽と、前記溶液槽から前記複数の中空糸膜の内側に前記溶液を供給するための第一の流路と、前記中空糸膜モジュール外に排出された前記溶液を前記溶液槽へ供給するための第二の流路と、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に細菌又は細胞と、を含む、細菌又は細胞に薬物を適用する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、薬効評価用中空糸膜モジュール、及びそれを含む装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで薬効評価のためのin vitro薬物動態シミュレーションシステムとしてChemostat Model(CM)が使われてきた。このシステムは、12時間~24時間程度の短時間の評価のみに用いることができる。近年、CMを改良したHollow-Fiber Infection Model(HFIM)と呼ばれる新たなシステムが開発された。このシステムは、ヒトの薬物体内動態を2週間以上に亙ってシミュレートすることが可能であり、耐性菌の出現などを加味した用法・用量の設定にも使われている(例えば、非特許文献1)。米国FDAや欧州EMAでは第II相の臨床試験を簡素化して、薬物の開発を加速するために用いることを推奨している。
【0003】
従来のHFIMは1コンパートメントモデルに基づくものであったが、コンピュータ制御下で稼働する2コンパートメントモデルのシステムが開発されている(特許文献1)。このシステムでは投与される薬物が中空糸膜の内側のInter-Capillary Space(ICS)で循環されつつ、中空糸膜の外側Extra-Capillary Space(ECS)では培養された細菌あるいは細胞が外部循環されることによって安定かつ高再現性の評価が行える。これまでに、このシステムに搭載される薬物の薬効評価用中空糸膜モジュールにおいて、分画分子量を50~3000kDaに最適化することによって、薬物動態の優れた再現性が得られることがわかっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】中空糸膜を使用したコンパクトで高密度な連続細胞培養システム、[online]、VERITAS、[令和2年1月23日検索]、インターネット<https://www.veritastk.co.jp/products/images/Fibercell%20system%20flyer%2020181120.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば上記システムにおいて薬物としてβラクタム系抗菌薬の薬効評価を行う場合、薬物の膜透過性を高めるとともに、中空糸膜モジュールのECS内において耐性菌が産出する薬物分解酵素(βラクタマーゼ、分子量約40kDa)の蓄積を抑制する必要があるが、分画分子量40kDa以下の中空糸膜ではこの課題を解決することが困難であることが分かった。
そこで、本発明者等は、ECSで蓄積されるβラクタマーゼ(抗菌薬分解酵素)をECSからICSへ移行させることによって、βラクタム系抗菌薬の薬効評価を過小評価することなく適正な評価ができることを期待し、分画分子量が70kDaの中空糸膜を用いて試験を行った。
しかしながら、実際にECS内に細菌を培養して評価したところ、予想に反して、βラクタマーゼのICSへの移行はほとんど起こらなかっただけでなく、ECSにおける細菌の分布に大きな偏りが見られた。
【0007】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、細菌又は細胞が産生する薬物分解酵素(例えばβラクタマーゼ、分子量約40kDa)のECSからICSへの移行が起こり、かつECS内での細菌又は細胞の分布の偏りが抑制された薬効評価用中空糸膜モジュールの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、中空糸膜の長さを短くし、さらに中空糸膜モジュールの膜透過抵抗を増大させたところ、驚くべきことに、ICSからECSへの対流が抑制され、細菌又は細胞が産生する薬物分解酵素(例えばβラクタマーゼ、分子量約40kDa)のECSからICSへの移行が起こり、かつECS内での細菌又は細胞の分布の偏りが抑制された中空糸膜モジュールとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本開示では上記課題を解決するために以下の手段を採用できる。
[1]第一の端部に溶液供給口が設けられ、第二の端部に溶液排出口が設けられた筒状ハウジングと、前記筒状ハウジング内に、前記第一の端部、前記第二の端部間方向に向けて収容された複数の中空糸膜とを備え、
前記溶液供給口から薬物を含む溶液を前記複数の中空糸膜内に供給し、前記溶液排出口から前記溶液を排出し、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙の細菌又は細胞に薬物を供給する装置に搭載するための薬効評価用中空糸膜モジュールであって、
前記中空糸膜は、その分画分子量が100kDa以上3000kDa以下であり、その平均内径が0.1~0.4mmであり、その長さが6~15cmであり、
前記中空糸膜モジュールの膜透過抵抗が10×1011~50×1011m-1である、薬効評価用中空糸膜モジュール。
[2]前記中空糸膜が、直径0.5μm以上又は100μm3以上の容積を有するボイドを含まず、その膜厚が30~200μmである、[1]に記載の薬効評価用中空糸膜モジュール。
[3]β-ラクタマーゼを産生するβ-ラクタム系抗菌薬耐性菌に対するβ-ラクタム系抗菌薬の薬効を評価するための、[1]又は[2]に記載の薬効評価用中空糸膜モジュール。
[4][1]から[3]のいずれかに記載の薬効評価用中空糸膜モジュールと、前記中空糸膜モジュール外から前記複数の中空糸膜の内側に供給される薬物を含む溶液、及び、前記複数の中空糸膜の内側から前記中空糸膜モジュール外に排出された前記薬物を含む溶液を含む溶液槽と、前記溶液槽から前記複数の中空糸膜の内側に前記溶液を供給するための第一の流路と、前記中空糸膜モジュール外に排出された前記溶液を前記溶液槽へ供給するための第二の流路と、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に細菌又は細胞と、を含む、細菌又は細胞に薬物を適用する装置。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、細菌又は細胞が産生する薬物分解酵素(例えばβラクタマーゼ、分子量約40kDa)のECSからICSへの移行が起こり、かつECS内での細菌又は細胞の分布の偏りが抑制された薬効評価用中空糸膜モジュールを提供するという効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示における一実施態様に係る薬効評価用中空糸膜モジュールの概略断面図。
【
図2】本開示における一実施態様に係る装置の概略図。
【
図3】本開示における一実施態様に係る中空糸膜の断面を示す図。
【
図5】本開示における一実施態様に係る実験の結果を示す図。
【
図6】本開示における一実施態様に係る実験の結果を示す図。
【
図7】中空糸膜モジュールの圧力損失測定装置の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本開示について説明する。なお、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。このことは、後述する実施例についても同様である。
【0013】
[1.薬効評価用中空糸膜モジュール]
本開示の薬効評価用中空糸膜モジュールは、第一の端部に溶液供給口が設けられ、第二の端部に溶液排出口が設けられた筒状ハウジングと、前記筒状ハウジング内に、前記第一の端部、前記第二の端部間方向に向けて収容された複数の中空糸膜とを備え、前記溶液供給口から薬物を含む溶液を前記複数の中空糸膜内に供給し、前記溶液排出口から前記溶液を排出し、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙の細菌又は細胞に薬物を供給する装置に搭載するための薬効評価用中空糸膜モジュールであって、前記中空糸膜は、その分画分子量が100kDa以上3000kDa以下であり、その平均内径が0.1~0.4mmであり、その長さが6~15cmであり、前記中空糸膜モジュールの膜透過抵抗が10×1011~50×1011m-1である、薬効評価用中空糸膜モジュールある。
中空糸膜の平均内径を0.1~0.4mm、長さを6~15mmにし、かつ中空糸膜モジュールの膜透過抵抗を10×1011~50×1011m-1にすることにより、細菌又は細胞が産生する薬物分解酵素(例えばβラクタマーゼ、分子量約40kDa)のECSからICSへの移行阻害及びECS内での細菌又は細胞の分布の偏りを防ぐことができる。このメカニズムは現段階では明らかではないが、非限定的なメカニズムとして、中空糸膜の平均内径及び長さを上記範囲内となるように短くすることにより、中空糸膜モジュールのICSでの圧力損失が低下し、それにより中空糸膜モジュールのECSにおける入口側から出口側に向かう液流れが抑制されたとともに、膜透過抵抗を上記の範囲となるように増大させることにより、ICSからECSへの流れが抑制されたと考えられる。その結果、中空糸膜モジュールのECSでの液流れ乱れが抑制され、ECSからICSへの移行阻害及びECS内での細菌又は細胞の分布の偏りが抑制されたものと考えられる。一方、中空糸膜モジュールのICSでの圧力損失を低下させる他の方法として、中空糸膜の内径を大きくすることも考えられるが、その場合は中空糸膜の有効膜面積が小さくなり、中空糸膜モジュール自体を大きくしなければならない。中空糸膜の長さを上記の範囲内となるように短くすることにより、中空糸膜モジュールの大きさを大きくすることなく圧力損失を低下させることができる。
膜透過抵抗を上記の範囲に調整する方法としては、例えば、中空糸膜の構造はボイドを含まない緻密な均一多孔膜にすることや、中空糸膜の膜厚を厚くすることが挙げられる。中空糸膜モジュールの大きさを大きくすることなく膜透過抵抗を増大させることができる点で、中空糸膜の構造はボイドを含まない緻密な均一多孔膜にすることが好ましい。
一般的に分画分子量が高い中空糸膜を用いた場合は中空糸膜モジュールの膜透過抵抗は低くなる傾向があるが、本開示の薬効評価用中空糸膜モジュールの特徴の一つとして、中空糸膜の分画分子量が100kD以上3000kD以下と比較的高いにもかかわらず、10×1011~50×1011m-1と高い膜透過抵抗を有している点が挙げられる。
【0014】
<中空糸膜モジュール>
本実施形態の中空糸膜モジュール101は、
図1に示すように、第一の端部に溶液供給口10111が設けられ、第二の端部に溶液排出口10112が設けられた筒状ハウジング1011と、筒状ハウジング1011内に、第一の端部、第二の端部間方向に向けて収容された複数の中空糸膜1012とを備える。
中空糸膜モジュールに含まれる中空糸膜の本数は、本開示の効果を奏する限り特に制限されないが、100本以上5000本以下、好ましくは200本以上4000本以下、さらに好ましくは300本以上3000本以下である。
【0015】
中空糸膜モジュールの有効膜面積は、好ましくは0.03m2以上0.5m2以下、より好ましくは0.07m2以上0.4m2以下、さらに好ましくは0.10m2以上、最も好ましくは0.15m2以上0.3m2以下である。
有効膜面積を0.03m2以上とすることで生体分子の十分な通過が可能となりやすい。また、有効膜面積を0.5m2以下とすることで中空糸膜モジュール部分をインキュベーター等に収納し、装置を効率的に稼働しやすくなる。
中空糸膜モジュールの有効膜面積は、中空糸膜の長さを大きくすること、中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の本数を多くすることなどによって任意に大きく調整できるが、中空糸膜モジュール部分をインキュベーター等に収納する上で中空糸膜モジュールの長さが問題となることがあり、その場合には中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の本数をより多くすることが好ましい。
なお、中空糸膜モジュールの有効膜面積とは、中空糸膜の内径と、封止剤で覆われていない部分の長さから求められる1本当たりの有効膜面積と、本数との積によって算出される。
【0016】
一実施形態において、中空糸膜モジュールにおけるECSの容積は、5~40cm3であることが好ましく、10~30cm3であることがより好ましく、10~20cm3であることがさらに好ましい。中空糸膜モジュールにおけるECSの容積を5cm3以上とすることで、ECS内で細菌又は細胞を適切に培養するための容積を十分に確保することができる。また、中空糸膜モジュールにおけるECSの容積を40cm3以下とすることで、薬液等の使用量を抑制することができる。
【0017】
また、本実施形態の中空糸膜モジュールの膜透過抵抗は10×1011~50×1011m-1である。一実施形態においては、中空糸膜モジュールの膜透過抵抗は、15×1011~50×1011m-1であることが好ましく、20×1011~50×1011m-1であることがより好ましく、25×1011~50×1011m-1であることがさらに好ましい。中空糸膜モジュールの膜透過抵抗を10×1011m-1以上とすることで、ECS内における溶液の流れが乱れるのが抑制され、ECS内での細菌分布の偏りが抑制される。また、中空糸膜モジュールの膜透過抵抗を50×1011m-1以下とすることで、ICSからECSに移行する溶液の量が一定以上となり、ECS内の細菌又は細胞に適切に薬物を供給することができる。
なお、膜透過抵抗R[m-1]と透過流束J[m・s-1]との関係は、次式で示される。
J=P/(μR)
P[Pa]:膜間差圧
μ[Pa・s]:水の粘度(25℃における水の粘度は0.00089[Pa・s]である。)
すなわち、
R=P/(Jμ)
また、透過流束Jは、純水透水性能(PWP)を単位換算して算出することもできる。
一実施形態においては、膜透過抵抗は、膜間差圧100000Paで純水を中空糸膜の外側へ純水を透過させた場合の値であり、膜間差圧100000Paを、純水透水性能(PWP)の値を単位換算した透過流束J[m・s-1]と水の粘度0.00089[Pa・s]との積で除して算出した値である。
【0018】
一実施形態において、中空糸膜モジュールの純水透水性能(PWP)は、50~400L・m-2・h-1であることが好ましく、50~300L・m-2・h-1であることがより好ましく、50~200L・m-2・h-1であることがさらに好ましい。中空糸膜モジュールの純水透水性能を50L・m-2・h-1以上とすることで、HFIMにおいてICS内を循環する薬物、栄養物および酸素をECSに効果的に透過させることができる。また、中空糸膜モジュールの純水透水性能を400L・m-2・h-1以下とすることで、膜透過抵抗を効果的に増加させることができる。中空糸膜モジュールの純水透水性能は、例えばJIS 3821-1990に従って測定することができる。
【0019】
一実施形態において、中空糸膜モジュールの圧力損失が0.003MPa以下である。好ましくは、0.0025MPa以下であり、より好ましくは0.002MPa以下である。中空糸膜モジュールの圧力損失を0.003MPa以下とすることで、ECSにおける中空糸膜モジュールの入口側から出口側に向かう液流れを抑制することができる。ここでは、圧力損失は、溶液供給口から溶液排出口の方向に純水を100mL/分の流量で流した場合の値であり、例えば中空糸膜モジュールを通過する前後の圧力を測定することで算出することができる。
【0020】
(筒状ハウジング)
本実施形態における筒状ハウジングは、第一の端部に溶液供給口が設けられ、第二の端部に溶液排出口が設けられている。前記筒状ハウジングの構成としては、公知の中空糸フィルタや人工透析、人工腎臓、HFIMなどで用いられているハウジングの構成を用いることができ、第一の端部に溶液供給口、第二の端部に前記溶液排出口を有する筒状ハウジングも公知である。
筒状ハウジングの幅方向の断面形状は、例えば、円形、多角形(好ましくは円形に近い多角形)などにすることができる。
また、筒状ハウジングの材質は、金属、合成樹脂などにすることができる。
また、筒状ハウジングの大きさ(内容量の大きさ)は、その内に収容する中空糸膜の合計本数などに応じて決めることができる。
【0021】
・溶液供給口
本実施形態における筒状ハウジングは、第一の端部に溶液供給口を有する。溶液供給口は、薬物を含む溶液を複数の中空糸膜内に供給するためのものであり、公知の中空糸フィルタや人工透析、人工腎臓、HFIMなどで用いられている構成であってよい。
一実施形態において、溶液供給口の内径は、2.0~4.0mmであることが好ましい。溶液供給口の内径を2.0mm以上とすることで、溶液供給口における流路圧損を下げることができる。また、溶液供給口の内径を4.0mm以下とすることで、溶液がモジュール内の過剰に流入することを抑制することができる。
【0022】
・溶液排出口
本実施形態における筒状ハウジングは、第二の端部に溶液排出口を有する。溶液排出口は、薬物を含む溶液を中空糸膜モジュール外に排出するためのものであり、公知の中空糸フィルタや人工透析、人工腎臓、HFIMなどで用いられている構成であってよい。
一実施形態において、溶液排出口の内径は、2.0~4.0mmであることが好ましい。溶液排出口の内径を2.0mm以上とすることで、ECS側で細菌又は細胞が循環する場合の均一性を確保することができる。また、溶液排出口の内径を4.0mm以下とすることで、ECS内での圧力を適度に高め、ICSからECSへの透過流束を抑制し、薬物分解酵素のECSからICSへの移行を促進することができる。
【0023】
・溶液循環流路口
本開示の一実施形態において、筒状ハウジングは、
図2のポンプ6の流路に示すように、筒状ハウジングの内壁と複数の中空糸膜との間隙に存在する溶液が、中空糸膜モジュール外との間で循環するように長さ方向上であって、第一の端部側及び第二の端部側に、それぞれ溶液循環流路口を有していてもよい。
このような構成にすることで、筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に存在する溶液を均一にすることができ、また、溶液のサンプリングが容易となる。また、筒状ハウジングの内壁と複数の中空糸膜との間隙に細菌又は細胞を含む場合には、そのサンプリングが容易となる。循環の向きは制限されない。
溶液循環流路口は、公知の中空糸フィルタや人工透析、人工腎臓、HFIMなどで用いられている構成であってよい。
一実施形態においては、第一の端部側溶液循環流路口の内径は、2.0~4.0mmである。ある実施形態においては、第一の端部側溶液循環流路口の内径を第二の端部側溶液循環流路口の内径よりも小さくする、具体的には第一の端部側溶液循環流路口の内径を1.5~2.5mmとし、第二の端部側溶液循環流路口の内径を3.0~4.0mmとすることで、細菌又は細胞が産生する薬物分解酵素(例えばβラクタマーゼ、分子量約40kDa)のECSからICSへの移行を促進することができる。
【0024】
(中空糸膜)
本実施形態において、中空糸は、筒状ハウジング内に、前記第一の端部、前記第二の端部間方向に向けて収容されている。
複数の中空糸膜の各中空糸膜は、同一の性質を有する中空糸膜でもよく、異なる性質を有する中空糸膜でもよいが、同一の性質を有する中空糸膜であることが好ましい。
【0025】
中空糸膜の分画分子量は、例えば、膜間差圧0.1MPa:90%阻止、10%透過である場合には、良好な生体内の薬物動態の再現性を得るために分子量の大きい成分も中空糸膜を通過しやすいことから、70kDa以上3000kDa以下が好ましい。本実施形態においては、ECS内の細菌が産生した薬物分解酵素、例えばβラクタマーゼ(分子量約40kD)がECSからICSへ移行するのを阻害せず、かつ細菌が中空糸膜を通過することを抑制できることから、100kDa以上3000kDa以下である。より好ましくは150kDa以上2000kDa以下、さらに好ましくは300kDa以上1500kDa以下、さらにより好ましくは400kDa以上1000kDa以下である。
なお、従来のHFIMでの送液圧力においては、中空糸膜内外の膜間差圧が0.01MPaを下回る程度である。
【0026】
本実施形態において、中空糸膜の平均内径は、0.1~0.4mmである。中空糸膜の平均内径を0.1mm以上とすることで、溶液が中空糸膜モジュールを通過する際の圧力損失を一定以下に抑制することができる。また、中空糸膜の平均内径を0.4mm以下とすることで、中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の本数を多くしやすくなる。なお、本開示における「中空糸膜の平均内径」は、1本の中空糸膜を長手方向に対して垂直な任意の面で切断し、その切断面の中空部と内接する最小の円の直径より算出した値である。本開示では、上記の切断面における任意の10箇所以上100箇所以下の前記直径を測定し、その平均値を「平均内径」とする。
【0027】
一実施形態において、中空糸膜の平均外径は、0.2~0.6mmであることが好ましい。中空糸膜の平均外径を0.6mm以下とすることで、中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の本数を多くすることができる。なお、「中空糸膜の平均外径」は、前述の中空糸膜の平均内径と同じ方法で切断した中空糸膜において、その切断面の外縁を内包する最小の円の直径より算出した値である。本開示では、上記の切断面における任意の10箇所以上100箇所以下の前記直径を測定し、その平均値を「平均外径」とする。
【0028】
本実施形態における中空糸膜の長さは、6~15cmである。より好ましくは7~13cmであり、さらに好ましくは8~12cmである。中空糸膜の長さを6cm以上とすることで、有効膜面積の減少を抑制することができる。また、中空糸膜の長さを15cm以下とすることで、液体が中空糸膜モジュールを通過する際の圧力損失を一定以下に抑制することができる。なお、中空糸膜の封止剤で覆われている部分の長さも含めた中空糸膜全体の長さは3箇所程度を測定し、その平均値を「中空糸膜の長さ」とする。
中空糸膜の封止剤で覆われている部分の長さは、片側3~8mmが好ましく、4~6mmがより好ましく、5mmがさらに好ましい。つまり、中空糸膜の封止剤で覆われている部分の長さは、両側で6~16mmが好ましく、8~12mmがより好ましく、10mmがさらに好ましい。
【0029】
一実施形態において、中空糸膜の膜厚は、30~200μmであることが好ましい。より好ましくは40~150μmであり、さらに好ましくは50~100μmである。中空糸膜の膜厚を30μm以上とすることで、中空糸膜の強伸度を確保することができる。また、中空糸膜の膜厚を200μm以下とすることで、中空糸膜モジュールの有効膜面積の減少を抑制することができる。
【0030】
また、中空糸膜の材質は、本開示の効果を阻害するものでなければ特に制限されないが、例えば、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリビニリデンフロライド、ポリアクリトニトリル、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、酢酸セルロース等が挙げられる。
【0031】
また、複数の中空糸膜の両端部はポッティング剤などの封止剤を用いて、筒状ハウジングに格納することができる。
【0032】
一実施形態において、中空糸膜のγグロブリン(分子量約150kDa)阻止率は、0~20%であることが好ましい。より好ましくは0~10%であり、さらに好ましくは1~5%である。中空糸膜のγグロブリン阻止率を0~20%とすることで、中空糸膜の分画分子量500kDa程度に調整することができるため、細菌又は細胞がECSからICSに移行することを阻害し、かつ細菌又は細胞などの培地に含まれる栄養物(牛胎児血清)等はICSからECSに効果的に移行して培養効率を上げることができる。
【0033】
一実施形態における中空糸膜は、
図3に示すように、中空糸膜断面全体に実質的にボイドがない構造となっている。上記の構造を有することにより、中空糸膜モジュールの膜透過抵抗の値を適正範囲に調整することが可能となる。なお、実質的にボイドがない構造とは、中空糸膜の膜断面を走査型電子顕微鏡により1000倍で観察したときに、直径0.5μm以上及び/又は100μm
3以上の容積を有するボイドやスポンジ構造に由来する空隙が観察されない構造をいう。それに対し、従来の中空糸膜(分画分子量500kDa、膜厚130μm、膜透過抵抗3.0m
-1)の断面図には、
図4において矢印で示すように、直径0.5μm以上及び100μm
3以上の容積を有するボイドが観察される。
【0034】
(中空糸膜モジュールの製造方法)
複数の中空糸膜を筒状ハウジングに格納する方法は特に限定されないが、例えば、次の方法が挙げられる。まず、中空糸膜を適切な長さに切断し、必要本数を束ねた後、筒状ハウジングに入れる。その後両端に仮のキャップをし、中空糸膜両端部にポッティング剤などの固化する封止剤を入れる。このとき、封止剤を均一に充填するため、遠心機で筒状ハウジングを回転させながら封止剤を入れることができる。封止剤が固化した後、中空糸膜の両端が開口するように両端部を切断し、ヘッダーを取り付けることで中空糸膜モジュールが得られる。
【0035】
[2.装置]
本開示の装置は、上記実施形態にかかる薬効評価用中空糸膜モジュールと、中空糸膜モジュール外から複数の中空糸膜の内側に供給される薬物を含む溶液、及び、複数の中空糸膜の内側から中空糸膜モジュール外に排出された薬物を含む溶液を含む溶液槽と、溶液槽から複数の中空糸膜の内側に溶液を供給するための第一の流路と、中空糸膜モジュール外に排出された溶液を溶液槽へ供給するための第二の流路と、筒状ハウジングの内壁と複数の中空糸膜との間隙に細菌又は細胞と、を含む、細菌又は細胞に薬物を適用する装置である。
【0036】
<溶液槽>
本実施形態の装置は、中空糸膜モジュール外から複数の中空糸膜の内側に供給される薬物を含む溶液、及び、複数の中空糸膜の内側から中空糸膜モジュール外に排出された薬物を含む溶液を含む溶液槽を含む。
【0037】
(中空糸膜モジュール外から複数の中空糸膜の内側に供給される薬物を含む溶液)
溶液槽に含まれる、中空糸膜モジュール外から複数の中空糸膜の内側に供給される薬物を含む溶液としては、薬物を含まない場合でも細菌が生存できる溶液であって、薬物を含む限り特に制限されず、蛋白質等を含んでもよい。例えば、細菌の培養の際に用いられる溶液(培地)が挙げられる。好ましくは、抗生物質の感受性試験に使用される培地であり、具体例としては、ミューラー・ヒントン(Mueller-Hinton)培地やカチオン調整ミューラー・ヒントン(Cation-Adjusted Mueller Hinton Broth、CAMHB)培地等が挙げられる。
また、培地は、細菌の細胞の通常の培養に用いられる添加物を含んでよい。例えば、細菌の培養の際に用いられる血清が挙げられる。例えば、牛血清アルブミン分子量は66.5kDaである。
【0038】
溶液は、後述する第一の流路により、溶液槽から複数の中空糸膜の内側に溶液を供給される溶液である。溶液の組成は、後述する「送液系」欄の説明や実施例の説明に考慮して、細菌の種類や薬物の種類などに応じて適宜設定することができる。
【0039】
(複数の中空糸膜の内側から中空糸膜モジュール外に排出された薬物を含む溶液)
溶液槽に含まれる、複数の中空糸膜の内側から中空糸膜モジュール外に排出された薬物を含む溶液は、中空糸膜モジュール外から複数の中空糸膜の内側に供給された薬物を含む溶液が、複数の中空糸膜内を通過して排出される溶液である。この間、複数の中空糸膜の孔を通じて、筒状ハウジングの内壁と複数の中空糸膜との間隙との間で成分の交換等が行われる。
【0040】
<第一の流路>
本実施形態の装置は、溶液槽から複数の中空糸膜の内側に溶液を供給するための第一の流路を含む。第一の流路の構成、例えば、材質や長さ、内径、外径等は、細菌の培養や薬物の抗菌能を測定等する際に通常用いられる流路の構成であってよく、例えば、後述する「送液系」欄や実施例に記載する構成が挙げられる。
【0041】
<第二の流路>
本実施形態の装置は、中空糸膜モジュール外に排出された溶液を溶液槽へ供給するための第二の流路を含む。第二の流路の構成、例えば、材質や長さ、内径、外径等は、細菌の培養や薬物の抗菌能を測定等する際に通常用いられる流路の構成であってよく、例えば、後述する「送液系」欄や実施例に記載する構成が挙げられる。
【0042】
<溶液循環流路>
溶液循環流路は、筒状ハウジングの内壁と複数の中空糸膜との間隙に存在する溶液を均一するための流路である。溶液循環流路の構成、例えば、材質や長さ、内径、外径等は、細菌の培養や薬物の抗菌能を測定等する際に通常用いられる流路の構成であってよく、例えば、後述する「送液系」欄や実施例に記載する構成が挙げられる。
【0043】
<送液系>
本実施形態の装置は、公知人工透析、人工腎臓、HFIMなどで用いられている必要な送液系を含んでよく、送液条件も適宜設定することができる。例えば、実施例に記載する送液系、送液条件が挙げられる。
【0044】
一実施形態において、溶液槽の容量、第一の流路の容量、第二の流路の容量、溶液循環流路の容量、及び中空糸膜モジュール(ICS及びECSの両方を含む。)の容量の合計容量(本明細書では、「分布容積に相当する容量(mL)」と定義する。)が、例えば、100mL以上200mL以下、100mL以上160mL以下、110mL以上140mL以下、110mL以上120mL以下である。
分布容積に相当する容量は、通常の知識に基づいて設定することができる。
【0045】
送液系の一例として
図2の送液系について説明する。なお、次に記載する送液手段の具体例としては、例えばポンプが挙げられる。
本態様に係る装置は室温下で稼働してもよいが、細菌の生育のために、例えば、循環する溶液の温度が35℃~38℃、好ましくは37℃となるように設定して稼働してもよい。
中空糸膜モジュール101外から複数の中空糸膜の内側に供給される薬物を含む溶液は、例えば、溶液槽203から送液手段5により第一の流路301を通じて送液されてよい。
また、溶液排出口から中空糸膜モジュール101外に排出された溶液は、溶液槽203へ送液される。当該送液は送液手段5により第二の流路302を通じて行われてよい。
【0046】
一実施形態において、装置は、例えば、溶液供給口の第一の流路301側、溶液排出口の第二の流路302側、及び2つの溶液循環口の溶液循環流路側の送液速度を調整でき、かつ、中空糸膜内外の膜間差圧を測定することができる。中空糸膜内外の膜間差圧については、例えば、実施例に記載の測定系により、通常の圧力計を用いて測定することができる。
中空糸膜内外の膜間差圧は特に制限されないが、0.005~0.01MPa程度にすることが好ましい。
これは従来のHFIMにおいて装置や流路の構成、例えば、材質や長さ、内径、外径等は、細菌の培養や抗菌薬の抗菌能を測定等する際に通常用いられる構成(特に耐圧性)上の理由からである。
【0047】
筒状ハウジングの内壁と複数の中空糸膜との間隙に存在する溶液は、溶液循環流路303を通じて循環されてよく、例えば、送液手段6により循環されてよい。
【0048】
一実施形態において、装置は、培地を含む槽202(例えば、培地ボトル)を含んでよい。当該培地を含む槽202は、バックアップ用培地を含む別の槽201(例えば、バックアップ用培地ボトル)から送液手段3によって送液されてよい。
【0049】
<薬物>
本明細書において薬物とは、細菌の増殖を抑制する薬剤、及び/又は細菌を死滅させる薬剤をいうものとする。すなわち、薬物とは、前記細菌の増殖を抑制する能力、及び/又は前記細菌を死滅させる能力を有する薬物である。薬物の種類は、細菌の種類によって適宜選択することができる。また、薬物、1種でも2種でもよく、3種以上でもよい。2種の場合、3種以上の場合は、混合薬物の形態であってよい。
【0050】
薬物としては、例えば、β-ラクタム系抗菌薬、抗体抗菌薬(すなわち、抗体の形態である抗菌薬)が挙げられる。
β-ラクタム系抗菌薬の具体例としては、
ペニシリン系:ペニシリンG、アンピシリン、バカンピシリン、レナンピシリン、シクラシリン、アモキシシリン、ピブメシリン、アスポキシシリン、クロキサシリン、ピペラシリン、メチシリン;
複合ペニシリン系:アンピシリン、クロキサシリン;
β-ラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系:アンピシリン、スルバクタム、クラブラン酸、アモキシシリン、ピペラシリン、タゾバクタム;
セフェム系:セファゾリン、セファロンチン、セファレキシン、セファトリジン、セフロキサジン、セファクロル、セファドロキシル、セフォチアム、セフメタゾール、フロモキセフ、セフミノックス、セフブペラゾン、セフロキシム、アキセチル、セフジニル、セフジトレン、ピボキシル、セフテラム、ピボキシル、セフポドキシム、プロキセチル、セフカペン、ピボキシル、セフォタキシム、セフトリアキソン、セフォペラゾン、セフメノキシム、セフタジジム、セフチブテン、セフィキシム、セフォジジム、ラタモキセフ、セフチゾキシム、セフピロム、セフォゾプラン、セフェピム;
β-ラクタマーゼ阻害剤配合セフェム系:セフォペラゾン、スルバクタム;
カルバペネム系:イミペネム、シラスタチン、パニペネム、ベタミプロン、メロペネム、ビアペネム、ドリペネム、テビペネム;
モノバクタム系:アズトレオナム、スルバクタム、タゾバクタム、カルモナム;
ペネム系:ファロペネム;
セファマイシン系:セフォキシチン、セフメタゾール、セフォテタン、セフブペラゾン、セフミノクス;
等が挙げられる。
【0051】
前記抗体抗菌薬の具体例としては、ベズロトクスマブ等が挙げられる。
【0052】
近年、耐性菌の問題がクローズアップされてきているが、耐性菌の多くはβ-ラクタム系抗菌薬の分解酵素(β-ラクタマーゼ)を有することが知られており、治療としてβ-ラクタム系抗菌薬とβ-ラクタマーゼ阻害剤を併用することも多い。
更に、β-ラクタマーゼは、分子量20kDa~40kDaであり、耐性菌に有効な新規抗菌薬開発のためには、分子量40kDaを上回る成分が、HFIMの中空糸膜通過を容易にすることが重要である。
更に薬物としては、分子量が40kDaを上回る抗体抗菌薬も挙げられる。
細菌が、β-ラクタム系抗菌薬に対する耐性菌である場合には、薬物が分子量40kDa以上の抗菌薬であり、薬物を含む溶液がβ-ラクタマーゼを含む態様も好ましい。また、当該分子量の上限は特に制限されないが、例えば、1000kDa以下である。
【0053】
薬物は、また、製剤上、当該抗菌薬の通常の溶解に用いられる溶媒に溶解されたものであってよく、薬理的に許容され得る担体を含む溶液としてもよい。担体としては、例えば、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、他の添加剤(例えば、防腐剤等)等が挙げられる。
【0054】
<細菌>
本開示の一実施形態において、装置は、筒状ハウジングの内壁と複数の中空糸膜との間隙に細菌を含む。すなわち、装置の稼働前、稼働中、及び稼働後のいずれか一又はそれ以上の時期に、筒状ハウジングの内壁と複数の中空糸膜との間隙に細菌を含むことが好ましい。ここで、筒状ハウジングの内壁と複数の中空糸膜との間隙に細菌を含むとは、筒状ハウジングの内壁表面と中空糸膜の表面との間の空間に細菌が存在することを意味し、複数の中空糸膜の間、筒状ハウジング内壁表面、中空糸膜の表面に細菌が存在することも含まれる。
また、筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に細菌を含むことは、筒状ハウジングの内壁と複数の中空糸膜との間隙で細菌を培養することであってよい。当該培養が装置の稼働前の培養である場合とは、いわゆる、細菌の前培養のことである。このとき、溶液は薬物を含まない溶液として装置を稼働して前培養をしてもよい。
【0055】
細菌としては、薬物により増殖が抑制される、及び/又は死滅する細菌であれば制限されない。好ましくは病原菌である。
具体例としては、ブドウ球菌属細菌(例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)等)、レンサ球菌属細菌、肺炎球菌、腸球菌属細菌、モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス、大腸菌、シトロバクター属細菌、クレブシエラ属細菌、エンテロバクター属細菌、セラチア属細菌、プロテウス属細菌、プロビデンシア属細菌、インフルエンザ菌、緑膿菌、アシネトバクター属細菌、肺炎桿菌、モルガネラ・モルガニー、バクテロイデス属細菌、プレボテラ属細菌(但し、プレボテラ・ビビアを除く。)が挙げられる。
また、前記細菌が耐性菌である場合、該耐性菌は前記β-ラクタム系抗菌薬に対する耐性菌に限られず、他の耐性菌であってもよい。そのような場合、前記抗菌薬を含む溶液は、該耐性菌が耐性を有する抗菌剤を含んでよい。前記耐性菌の具体例としては、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、メタロβ-ラクタマーゼ産生菌、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)、β-lactamase非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)、多剤耐性緑膿菌(drug-resistant P. aeruginosa)、ESBL等が挙げられる。
【0056】
間隙における細菌の数は、細菌に対する抗菌薬の効果が判断できる数であれば特に制限されないが、好ましくは1×106cfu/mL以上、より好ましくは5×106cfu/mL、さらに好ましくは1×107cfu/mL以上である。一方で、中空糸膜モジュール内の溶液の循環を良好に保つことから、好ましくは1×109cfu/mL以下、より好ましくは5×108cfu/mL以下、さらに好ましくは1×108cfu/mL以下である。「cfu」は、colony forming unit(コロニー形成単位)である。
【0057】
<細胞>
本開示の一実施形態において、装置は、筒状ハウジングの内壁と複数の中空糸膜との間隙に細胞を含む。すなわち、装置の稼働前、稼働中、及び稼働後のいずれか一又はそれ以上の時期に、筒状ハウジングの内壁と複数の中空糸膜との間隙に細胞を含むことが好ましい。
また、筒状ハウジングの内壁と複数の中空糸膜との間隙に細胞を含むことは、筒状ハウジングの内壁と複数の中空糸膜との間隙で細胞を培養することであってよい。当該培養が装置の稼働前の培養である場合とは、いわゆる、細胞の前培養のことである。このとき、溶液は薬物を含まない溶液として装置を稼働して前培養をしてもよい。抗ウイルス薬の薬効評価においては、細胞はウイルスに感染された細胞を含み、薬物は抗ウイルス薬を含む。間隙におけるウイルスの数は、ウイルスに対する抗ウイルス薬の効果が判断できる数であれば特に制限されない。
【0058】
<顕微鏡観察>
装置の稼働前、稼働中、及び稼働後のいずれか一又はそれ以上の時期において、筒状ハウジングの内壁と複数の中空糸膜との間隙に存在する細菌又は細胞を顕微鏡で観察するために、中空糸膜モジュールは、例えば、内部が観察できるように透明な材質で構成されてよい。また、観察時の対物レンズの作動距離が小さい場合には、内部が観察できるように一部の厚みが薄くされていてもよい。
顕微鏡は、筒状ハウジングの内壁と複数の中空糸膜との間隙に存在する細菌又は細胞が観察できれば特に制限されないが、例えば、共焦点顕微鏡が挙げられ、好ましくは正立顕微鏡である。また、観察には可視光や反射光を用いることが好ましい。
【0059】
[3.細菌に対する抗菌薬の抗菌能を測定する方法]
本開示の他の態様は、上記実施形態にかかる薬効評価用中空糸膜モジュールを用いて細菌に対する抗菌薬の抗菌能を測定する方法であって、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に細菌を播種する工程、前記溶液供給口を通じて、前記中空糸膜モジュール外から前記複数の中空糸膜の内側に前記薬物を含む溶液を供給する工程、前記溶液排出口を通じて、前記複数の中空糸膜の内側から前記薬物を含む溶液を前記中空糸膜モジュール外に排出する工程、及び前記細菌の生細胞数を測定する工程を含む、方法である。
【0060】
前記細菌を播種する工程は、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に細菌を通常に播種できる限り、前記溶液を供給する工程及び前記溶液を排出する工程との間で順序は問わない。
【0061】
<細菌を播種する工程>
細菌の播種の方法は、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に細菌が播種され、前記装置が正常に稼働する限り特に制限されないが、例えば、溶液循環流路口から、例えばシリンジを用いて播種することができる。
【0062】
播種する細菌の数は、前記間隙における前記細菌の数と同様に設定できるが、前記装置の稼働日数と前記細菌の増殖速度との関係から適宜設定できる。例えば、予備的に、種々の細菌数で播種し、前記細菌の増殖速度を測定し、本試験の際の前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に存在する細菌数が前記値の範囲内となるような条件を選択することによって、適宜設定することができる。
【0063】
前記細菌を播種する工程が、前記溶液を供給する工程及び前記溶液を排出する工程の前に行われる場合、前記細菌を播種した後、前記抗菌薬を含まない溶液を前記溶液として、前記装置を稼働して前培養をしてもよい。
【0064】
<溶液を供給する工程>
本方法は、前記溶液供給口を通じて、前記中空糸膜モジュール外から前記複数の中空糸膜の内側に前記抗菌薬を含む溶液を供給する工程を含む。当該工程の詳細については、前記態様の説明を援用する。
【0065】
<溶液を排出する工程>
本方法は、前記溶液排出口を通じて、前記複数の中空糸膜の内側から前記抗菌薬を含む溶液を前記中空糸膜モジュール外に排出する工程を含む。当該工程の詳細については、前記態様の説明を援用する。
【0066】
<細菌の生細胞数を測定する工程>
本方法は、前記細菌の生細胞数を測定する工程を含む。
前記抗菌薬の効果(抗菌能)がある細菌は、増殖が抑制され、及び/又は死滅する。そのため、前記抗菌能は、前記細菌の生細胞数を測定することで評価することができる。前記細菌の生細胞数を測定する方法としては、例えば、採取した培養液を寒天培地に塗布し、培養後のコロニー数をカウントする方法が用いられる。また、前記顕微鏡観察により一定領域内の生細胞を計数する方法や、細胞の生死状態を判定するために通常用いられる蛍光色素やトリパンブルーなどを用いて生細胞を計数する方法などが挙げられる。また、生ウイルス数を測定する場合は、常法を用いることができる。
【0067】
<その他の工程>
(溶液循環工程)
本方法は、前記溶液循環流路口を通じて、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に存在する前記溶液を、前記中空糸膜モジュール外との間で循環させる工程を含むことが好ましい。当該工程の詳細については、前記態様の説明を援用する。
【実施例0068】
以下に実施例を記載するが、いずれの実施例も、限定的な意味として解釈される実施例ではない。
【0069】
[中空糸膜及び中空糸膜モジュール構造の検討]
〔実施例1〕
(送液前の準備)
表1に記載する中空糸膜及び中空糸膜モジュールを準備した(中空糸膜の材質:ポリエーテルサルホン(PES)、中空糸膜の分画分子量:500kDa、内径:200μm、中空糸膜モジュールの中空糸有効長さ:9cm、膜透過抵抗:36.8×10
11m
-1、有効膜面積:0.11m
2、ECS容積:13.8cm
3)。溶液供給口の内径を3.5mm、溶液排出口の内径を3.5mm、第一の端部側溶液循環流路口の内径を3.5mm、第二の端部側溶液循環流路口の内径を3.5mmとした。
図3は、本実施例に係る中空糸膜の断面図を示す図である。
中空糸膜モジュールについて、圧力損失、純水透水性能(PWP)を、以下の条件下で測定した。
図7に示す装置を用いて中空糸膜モジュールのICSに純水を供給循環させた場合の中空糸膜モジュールの入口部圧力(P1)と出口部圧力(P2)を測定し、その差を圧力損失とした。その際、中空糸膜モジュールの透過口は閉にし、純水送液速度を10mL/分~400mL/分の範囲で4点以上変化させた各条件で圧力損失の値を測定し、純水送液速度と圧力損失との比例関係の近似直線を作製し、その直線から純水送液速度が100mL/分における圧力損失の値を求めた。
また、純水透水性能(PWP)は、特許第06649779号公報記載の純水透過係数測定方法と同様に、中空糸膜の内側から膜間差圧0.1MPa(=100000Pa)で純水を中空糸膜の外側へ純水を透過させた場合の純水透過量を測定することによって求めた。
膜透過抵抗は、膜間差圧を、純水透水性能(PWP)を単位換算した透過流束Jと水の粘度との積で、除した値である。
水の粘度は、純水透過量を測定する際の水の温度に対する値であり、例えば水の温度が25℃の場合は0.00089(Pa・s)である。
【0070】
ECSに、エンテロバクター・クロアカP99(Enterobacter cloacae P99)を播種した。
中空糸膜モジュールを
図2に記載するように装置へ設置した。
分布容積に相当する容量は、溶液槽203の容量、第一の流路301の容量、第二の流路302の容量、溶液循環流路303の容量、及び中空糸膜モジュール101(ICS及びECSの両方を含む。)の容量の合計容量であり、450mLとした。
装置を実験台に設置し、中空糸膜モジュール及び溶液が37℃となるよう温度を調節した。送液ラインには、シリコンチューブ(ヤマト科学株式会社製「Masterflex」)、ポンプ2~6には、スムーズフローポンプ(タクミナ社製、型式QI、機種100)を用いた。
溶液槽203には、予め溶液としてカチオン調整ミューラー・ヒントン(Cation-Adjusted Mueller Hinton Broth、CAMHB)培地38mLを仕込んだ。
中空糸膜モジュール101の溶液供給口及び溶液排出口を通じて、常時60mL/分で中空糸膜モジュール101に溶液を供給した。また、常時100mL/分で溶液循環をした。
【0071】
(送液)
送液開始から0.5時間までは、
図2の装置を下に記載したように操作した。
4mg/mLのセフォキシチン水溶液を、シリンジポンプ1を用いて、0.2mL/分の流量で、溶液槽203へ送液した。
培地を含む槽202からポンプ2を用いて、1.05mL/分の流量で、溶液を、溶液槽203へ送液した。
その間、バックアップ用培地を含む別の槽201からポンプ3を用いて、1.05mL/分の流量で、補給のための溶液を槽202へ送液した。
溶液槽203からポンプ4を用いて、1.875mL/分の流量で、廃液槽204へ送液した。
これらの送液開始から0.5時間後からの3.5時間は、
図2の装置を以下に記載したように操作した。
槽202に仕込まれた溶液を、ポンプ2を用いて、1.25mL/分の流量で溶液槽203へ送液した。
さらに、これと並行して、溶液槽203からポンプ4を用いて、1.875mL/分の流量で、廃液槽204へ送液した。
その後、溶液槽203、ポンプ5、ポンプ6、およびそれらをつなぐ第一の流路301、第二の流路302、溶液循環流路303を用いて、溶液を循環させた。
【0072】
(ECSにおける細菌の分布の確認)
送液開始から42時間後になるまで6時間毎に、中空糸膜モジュール内ECS、溶液循環流路口、及び溶液循環流路からそれぞれ溶液をサンプリングし、細菌数の計測を行った。細菌数の計測は、サンプリングした溶液を寒天培地に塗布し、培養後のコロニー数をカウントする方法により行った。細菌数が最も多い箇所と最も少ない箇所との差が5%以内である場合に、細菌の分布の偏りがない(○)と判断し、差が5%より大きい場合を細菌の分布の偏りがある(×)と判断した。
図5は、送液開始から24時間後のサンプルについての本実施例における細菌数の計測結果を示す図である。
【0073】
(β-ラクタマーゼのECSからICSへの移行の確認)
送液開始から42時間後になるまで6時間毎に、ICS、溶液循環流路口、及び溶液循環流路からそれぞれ溶液をサンプリングし、ウエスタンブロット法によるβ-ラクタマーゼの検出を行った。ICSのサンプルにおいて検出されたβ-ラクタマーゼのバンドの大きさが他の箇所のサンプルにおいて検出されたβ-ラクタマーゼのバンドの大きさの50%以上である場合をβ-ラクタマーゼのECSからICSへの移行が十分に起こっている(○)と判断し、50%未満である場合をβ-ラクタマーゼのECSからICSへの移行が十分に起こっていない(×)と判断した。
図6は、送液開始から24時間後のサンプルについての本実施例におけるウエスタンブロット法によるβ-ラクタマーゼの検出結果を示す図である。
結果を表1に示した。
【0074】
〔比較例1~4〕
表1に記載するように中空糸膜、中空糸膜モジュールの条件を変更した以外は、実施例1と同様にした。
図4は、比較例4に係る中空糸膜の断面図を示す図である。
結果を表1に示した。
【0075】
【0076】
表1に示した結果から以下のことが明らかとなった。
比較例1と比較例2との比較から、細菌の分布の隔りを抑制するのに膜透過抵抗の値を大きくすることは有効である。
比較例1と比較例3との比較から、圧力損失を抑制するのに中空糸膜の有効長さを短くすることは有効である。
実施例3と比較例4との比較から、中空糸膜の分画分子量を500kDaと大きくしても、圧力損失が抑制されていない場合にはβ-ラクタマーゼのECSからICSへの移行は十分には起こらない。
実施例1の結果から、β-ラクタマーゼのECSからICSへの移行が起こり、かつECS内での細菌又は細胞の分布の偏りが抑制された薬効評価用中空糸膜モジュールとするために、膜透過抵抗の値を大きくし、中空糸膜の有効長さを短くすることは有効である。
【0077】
また、第一の端部側溶液循環流路口の内径3.5mm、第二の端部側溶液循環流路口の内径3.5mmとしていたものを、第一の端部側溶液循環流路口の内径を2.0mm、第二の端部側溶液循環流路口の内径を3.5mmと第一の端部側溶液循環流路口の内径を第二の端部側溶液循環流路口の内径よりも小さな値とすることで、βラクタマーゼのECSからICSへの移行が促進されることが分かった。