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特開2024-114770偏光板および該偏光板を含む画像表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114770
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】偏光板および該偏光板を含む画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240816BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20240816BHJP
   H05B 33/14 20060101ALI20240816BHJP
   H10K 50/86 20230101ALI20240816BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20240816BHJP
【FI】
G02B5/30
H05B33/02
H05B33/14 Z
H10K50/86
H10K59/10
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024100977
(22)【出願日】2024-06-24
(62)【分割の表示】P 2022540176の分割
【原出願日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2020127939
(32)【優先日】2020-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020133462
(32)【優先日】2020-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼永 幸佑
(72)【発明者】
【氏名】木村 智之
(72)【発明者】
【氏名】森本 剛司
(57)【要約】
【課題】極めて薄型でありながら、異形加工部におけるクラック発生が抑制された偏光板を提供すること。
【解決手段】本発明の偏光板は、偏光子と、保護層と、を有し、かつ、矩形以外の異形を有する。保護層は樹脂フィルムで構成されている。偏光子は、二色性物質を含むPVA系樹脂フィルムで構成されている。単体透過率をx%とし、PVA系樹脂の複屈折をyとし、PVA系樹脂フィルムの面内位相差をznmとし、PVA系樹脂の配向関数をfとした場合に、1つの実施形態において、偏光子は下記式(1)を満たし、別の実施形態において、偏光子は下記式(2)を満たし、さらに別の実施形態において、偏光子は下記式(3)を満たす。さらに別の実施形態において、偏光子は、突き刺し強度が30gf/μm以上である。
y<-0.011x+0.52 (1)
z<-60x+2850 (2)
f<-0.018x+1.1 (3)
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有する偏光板であって、
該偏光板は矩形以外の異形を有し、
該保護層は樹脂フィルムで構成されており、
該偏光子は、二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、かつ、単体透過率をx%とし、該ポリビニルアルコール系樹脂の複屈折をyとした場合に、下記式(1)を満たす、偏光板:
y<-0.011x+0.525 (1)。
【請求項2】
偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有する偏光板であって、
該偏光板は矩形以外の異形を有し、
該保護層は樹脂フィルムで構成されており、
該偏光子は、二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、かつ、単体透過率をx%とし、該ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの面内位相差をznmとした場合に、下記式(2)を満たす、偏光板:
z<-60x+2875 (2)。
【請求項3】
偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有する偏光板であって、
該偏光板は矩形以外の異形を有し、
該保護層は樹脂フィルムで構成されており、
該偏光子は、二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、かつ、単体透過率をx%とし、該ポリビニルアルコール系樹脂の配向関数をfとした場合に、下記式(3)を満たす、偏光板:
f<-0.018x+1.11 (3)
【請求項4】
偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有する偏光板であって、
該偏光板は矩形以外の異形を有し、
該保護層は樹脂フィルムで構成されており、
該偏光子は、二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、かつ、突き刺し強度が30gf/μm以上である、偏光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板および該偏光板を含む画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置およびエレクトロルミネセンス(EL)表示装置(例えば、有機EL表示装置、無機EL表示装置)に代表される画像表示装置が急速に普及している。画像表示装置の画像形成方式に起因して、画像表示装置の少なくとも一方には偏光板が配置されている。近年、画像表示装置の薄型化への要望が高まるのに伴い、偏光板についても薄型化の要望が高まっている。ところで、近年、偏光板を矩形以外に加工すること(異形加工:例えば、ノッチおよび/または貫通穴の形成)が望まれる場合がある。しかし、薄型偏光板の異形加工部においては、クラックが発生しやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-343521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、極めて薄型でありながら、異形加工部におけるクラック発生が抑制された偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの実施形態による偏光板は、偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有し、かつ、矩形以外の異形を有する。該保護層は樹脂フィルムで構成されている。該偏光子は、二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、かつ、単体透過率をx%とし、該ポリビニルアルコール系樹脂の複屈折をyとした場合に、下記式(1)を満たす:
y<-0.011x+0.525 (1)。
本発明の別の実施形態による偏光板は、偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有し、かつ、矩形以外の異形を有する。該保護層は樹脂フィルムで構成されている。該偏光子は、二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、かつ、単体透過率をx%とし、該ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの面内位相差をznmとした場合に、下記式(2)を満たす:
z<-60x+2875 (2)。
本発明のさらに別の実施形態による偏光板は、偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有し、かつ、矩形以外の異形を有する。該保護層は樹脂フィルムで構成されている。該偏光子は、二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、かつ、単体透過率をx%とし、該ポリビニルアルコール系樹脂の配向関数をfとした場合に、下記式(3)を満たす:
f<-0.018x+1.11 (3)。
本発明のさらに別の実施形態による偏光板は、偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有し、かつ、矩形以外の異形を有する。該保護層は樹脂フィルムで構成されている。該偏光子は、二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、かつ、偏光子の突き刺し強度が30gf/μm以上である。
1つの実施形態において、上記偏光子の厚みは10μm以下である。
1つの実施形態において、上記偏光子の単体透過率は40.0%以上であり、かつ、偏光度が99.0%以上である。
1つの実施形態においては、上記異形は、貫通穴、V字ノッチ、U字ノッチ、平面視した場合に船形に近似した形状の凹部、平面視した場合に矩形の凹部、平面視した場合にバスタブ形状に近似したR形状の凹部、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
1つの実施形態においては、上記U字ノッチの曲率半径は5mm以下である。
1つの実施形態においては、上記偏光板は、上記保護層の上記偏光子と反対側に反射型偏光子をさらに有する。
本発明の別の局面によれば、画像表示装置が提供される。当該画像表示装置は、上記の偏光板を含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、異形(異形加工部)を有する偏光板において、偏光子のポリビニルアルコール(PVA)系樹脂の配向状態を制御することにより、極めて薄型でありながら、異形加工部におけるクラック発生が抑制された偏光板を実現することができる。また、このような偏光子(結果として、偏光板)は、実用上許容可能な光学特性を発揮し得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の1つの実施形態による偏光板の概略断面図である。
図2】本発明の実施形態による偏光板における異形または異形加工部の一例を説明する概略平面図である。
図3】本発明の実施形態による偏光板における異形または異形加工部の変形例を説明する概略平面図である。
図4】本発明の実施形態による偏光板における異形または異形加工部のさらなる変形例を説明する概略平面図である。
図5】本発明の実施形態による偏光板における異形または異形加工部のさらなる変形例を説明する概略平面図である。
図6】本発明の実施形態による偏光板に用いられ得る偏光子の製造方法における加熱ロールを用いた乾燥収縮処理の一例を示す概略図である。
図7】本発明の実施形態による偏光板に用いられ得る反射型偏光子の一例の概略斜視図である。
図8】実施例および比較例で作製した偏光子の単体透過率とPVA系樹脂の複屈折との関係を示すグラフである。
図9】実施例および比較例で作製した偏光子の単体透過率とPVA系樹脂フィルムの面内位相差との関係を示すグラフである。
図10】実施例および比較例で作製した偏光子の単体透過率とPVA系樹脂の配向関数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
A.偏光板の全体構成
図1は、本発明の1つの実施形態による偏光板の概略断面図である。図示例の偏光板100は、偏光子10と、偏光子10の一方の側に配置された保護層20と、を有する。目的に応じて、偏光子10の保護層20と反対側に別の保護層(図示せず)が設けられてもよい。保護層20は樹脂フィルムで構成されており、代表的には接着剤層(図示せず)を介して偏光子と貼り合わせられている。1つの実施形態においては、偏光板100は、保護層20の偏光子10と反対側に反射型偏光子(図示せず)をさらに有していてもよい。偏光板は、画像表示装置の視認側偏光板として用いられてもよく、背面側偏光板として用いられてもよい。偏光板が反射型偏光子を有する場合、当該偏光板は、代表的には背面側偏光板として用いられる。この場合、反射型偏光子は、外側(画像表示セルと反対側)に配置され得る。
【0010】
本発明の実施形態による偏光板は、矩形以外の異形を有する。本明細書において「矩形以外の異形を有する」とは、偏光板の平面視形状が矩形以外の形状を有することをいう。異形は、代表的には、異形加工された異形加工部である。したがって、「矩形以外の異形を有する偏光板」(以下、「異形偏光板」と称する場合がある)は、異形偏光板全体(すなわち、偏光板の平面視形状を規定する外縁)が矩形以外である場合のみならず、矩形の偏光板の外縁から内方に離間した部分に異形加工部が形成されている場合も包含する。偏光板において、このような異形加工部にはクラックが発生しやすいところ、本発明の実施形態によれば、そのようなクラックを顕著に抑制することができる。より詳細には、以下のとおりである。通常の(すなわち、異形ではない)偏光板(実質的には、偏光子)においては、クラックは多くの場合偏光子の吸収軸(延伸方向)に沿って発生する。一方、異形加工部においては、L字クラック(吸収軸に対して斜め方向のクラック)が発生し得る。本発明の実施形態によれば、後述するように、偏光子のPVA系樹脂の分子鎖の吸収軸方向への配向を従来の偏光子よりも緩やかにすることにより、通常のクラックのみならずこのようなL字クラックも顕著に抑制することができる。
【0011】
異形(異形加工部)としては、例えば図2および図3に示すように、隅部をR形状に面取りしたもの、貫通穴、平面視した場合に凹部となる切削加工部が挙げられる。凹部の代表例としては、船形に近似した形状、矩形、バスタブ形状に近似したR形状、V字ノッチ、U字ノッチが挙げられる。異形(異形加工部)の別の例としては、図4および図5に示すように、自動車のメーターパネルに対応した形状が挙げられる。当該形状は、外縁がメーター針の回転方向に沿った円弧状に形成され、かつ、外縁が面方向内方に凸のV字形状(R形状を含む)をなす部位を含む。言うまでもなく、異形(異形加工部)の形状は図示例に限定されない。例えば、貫通穴の形状は、図示例の略円形以外に目的に応じて任意の適切な形状(例えば、楕円形、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形)が採用され得る。また、貫通穴は、目的に応じて任意の適切な位置に設けられる。貫通穴は、図3に示すように、矩形状の偏光板の長手方向端部の略中央部に設けられてもよく、長手方向端部の所定の位置に設けられてもよく、偏光板の隅部に設けられてもよく;図示していないが、矩形状の偏光板の短手方向端部に設けられてもよく;図4または図5に示すように、異形偏光板の中央部に設けられてもよい。図3に示すように、貫通穴を複数設けてもよい。さらに、図示例の形状を目的に応じて適切に組み合わせてもよい。例えば、図2の異形偏光板の任意の位置に貫通穴を形成してもよく;図4または図5の異形偏光板の外縁の任意の適切な位置にV字ノッチおよび/またはU字ノッチを形成してもよい。このような異形偏光板は、自動車のメーターパネル、スマートフォン、タブレット型PCまたはスマートウォッチ等の画像表示装置に好適に用いられ得る。なお、例えば異形がR形状を含む場合、その曲率半径は、例えば0.2mm以上であり、また例えば1mm以上であり、また例えば2mm以上である。一方、曲率半径は、例えば10mm以下であり、また例えば5mm以下である。また例えば、異形がU字ノッチである場合、その曲率半径(U字部分の曲率半径は)、例えば5mm以下であり、また例えば1mm~4mmであり、また例えば2mm~3mmである。
【0012】
異形(異形加工部)は、任意の適切な方法により形成され得る。形成方法の具体例としては、エンドミルによる切削、トムソン刃等の打ち抜き刃による打ち抜き、レーザー光照射による切断が挙げられる。これらの方法は組み合わせてもよい。
【0013】
以下、偏光板の構成要素である偏光子、保護層および反射型偏光子について説明する。
【0014】
B.偏光子
偏光子は、二色性物質を含むPVA系樹脂フィルムで構成されている。1つの実施形態において、偏光子は、単体透過率をx%とし、当該偏光子を構成するポリビニルアルコール系樹脂の複屈折をyとした場合に、下記式(1)を満たす。1つの実施形態において、偏光子は、単体透過率をx%とし、当該偏光子を構成するポリビニルアルコール系樹脂フィルムの面内位相差をznmとした場合に、下記式(2)を満たす。1つの実施形態において、偏光子は、単体透過率をx%とし、当該偏光子を構成するポリビニルアルコール系樹脂の配向関数をfとした場合に、下記式(3)を満たす。1つの実施形態において、偏光子の突き刺し強度は、30gf/μm以上である。
y<-0.011x+0.525 (1)
z<-60x+2875 (2)
f<-0.018x+1.11 (3)
【0015】
上記偏光子におけるPVA系樹脂の複屈折(以下、PVAの複屈折またはPVAのΔnと表記する)、PVA系樹脂フィルムの面内位相差(以下、「PVAの面内位相差」と表記する)、PVA系樹脂の配向関数(以下、「PVAの配向関数」と表記する)および偏光子の突き刺し強度はいずれも、偏光子を構成するPVA系樹脂の分子鎖の配向度と関連する値である。具体的には、PVAの複屈折、面内位相差および配向関数は、配向度の上昇に伴って大きい値となり得、突き刺し強度は、配向度の上昇に伴って低下し得る。本発明の実施形態による偏光子(すなわち、上記式(1)~(3)または突き刺し強度を満たす偏光子)は、PVA系樹脂の分子鎖の吸収軸方向への配向が従来の偏光子よりも緩やかであることに起因して、吸収軸方向の加熱収縮が抑制される。その結果、このような偏光子(結果として、偏光板)は、極めて薄型でありながら、異形加工部におけるクラック発生を抑制することができる。また、このような偏光子(結果として、偏光板)は可撓性および折り曲げ耐久性にも優れることから、好ましくは湾曲した画像表示装置、より好ましくは折り曲げ可能な画像表示装置、さらに好ましくは折り畳み可能な画像表示装置に適用され得る。従来、配向度が低い偏光子では許容可能な光学特性(代表的には、単体透過率および偏光度)を得るのが困難であったところ、本発明の実施形態に用いられる偏光子は、従来よりも低いPVA系樹脂の配向度と許容可能な光学特性とを両立することができる。
【0016】
偏光子は、好ましくは下記式(1a)および/または式(2a)を満たし、より好ましくは下記式(1b)および/または式(2b)を満たす。
-0.004x+0.18<y<-0.011x+0.525 (1a)
-0.003x+0.145<y<-0.011x+0.520 (1b)
-40x+1800<z<-60x+2875 (2a)
-30x+1450<z<-60x+2850 (2b)
【0017】
本明細書において、上記PVAの面内位相差は、23℃、波長1000nmにおけるPVA系樹脂フィルムの面内位相差値である。近赤外領域を測定波長とすることにより、偏光子中のヨウ素の吸収の影響を排除することができ、位相差を測定することが可能となる。また、上記PVAの複屈折(面内複屈折)は、PVAの面内位相差を偏光子の厚みで割った値である。
【0018】
PVAの面内位相差は、下記のように評価する。まず、波長850nm以上の複数の波長で位相差値を測定し、測定された位相差値:R(λ)と波長:λのプロットを行い、これを下記のセルマイヤー式に最小二乗法でフィッティングさせる。ここで、AおよびBはフィッティングパラメータであり最小二乗法により決定される係数である。
R(λ)=A+B/(λ-600
このとき、この位相差値R(λ)は、波長依存性のないPVAの面内位相差(Rpva)と、波長依存性の強いヨウ素の面内位相差値(Ri)とに下記のように分離することができる。
Rpva= A
Ri = B/(λ-600
この分離式に基づいて、波長λ=1000nmにおけるPVAの面内位相差(すなわちRpva)を算出することができる。なお、当該PVAの面内位相差の評価方法については、特許第5932760号公報にも記載されており、必要に応じて、参照することができる。
また、この位相差を厚みで割ることでPVAの複屈折(Δn)を算出することができる。
【0019】
上記波長1000nmにおけるPVAの面内位相差を測定する市販の装置としては、王子計測社製のKOBRA-WR/IRシリーズ、KOBRA-31X/IRシリーズ等があげられる。
【0020】
偏光子の配向関数(f)は、好ましくは下記式(3a)を満たし、より好ましくは下記式(3b)を満たす。配向関数が小さすぎると、許容可能な単体透過率および/または偏光度が得られない場合がある。
-0.01x+0.50<f<-0.018x+1.11 (3a)
-0.01x+0.57<f<-0.018x+1.1 (3b)
【0021】
配向関数(f)は、例えば、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用い、偏光を測定光として、全反射減衰分光(ATR:attenuated total reflection)測定により求められる。具体的には、偏光子を密着させる結晶子はゲルマニウムを用い、測定光の入射角は45°入射とし、入射させる偏光された赤外光(測定光)は、ゲルマニウム結晶のサンプルを密着させる面に平行に振動する偏光(s偏光)とし、測定光の偏光方向に対し、偏光子の延伸方向を平行および垂直に配置した状態で測定を実施し、得られた吸光度スペクトルの2941cm-1の強度を用いて、下記式に従って算出される。ここで、強度Iは、3330cm-1を参照ピークとして、2941cm-1/3330cm-1の値である。なお、f=1のとき完全配向、f=0のときランダムとなる。また、2941cm-1のピークは、偏光子中のPVAの主鎖(-CH-)の振動に起因する吸収であると考えられている。
f=(3<cosθ>-1)/2
=(1-D)/[c(2D+1)]
=-2×(1-D)/(2D+1)
ただし、
c=(3cosβ-1)/2で、2941cm-1の振動の場合は、β=90°である。
θ:延伸方向に対する分子鎖の角度
β:分子鎖軸に対する遷移双極子モーメントの角度
D=(I)/(I//)(この場合、PVA分子が配向するほどDが大きくなる)
:測定光の偏光方向と偏光子の延伸方向が垂直の場合の吸収強度
// :測定光の偏光方向と偏光子の延伸方向が平行の場合の吸収強度
【0022】
偏光子の厚みは、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは8μm以下である。偏光子の厚みの下限は、例えば1μmであり得る。偏光子の厚みは、1つの実施形態においては2μm~10μm、別の実施形態においては2μm~8μmであってもよい。偏光子の厚みをこのように非常に薄くすることにより、熱収縮を非常に小さくすることができる。このような構成が、偏光板の異形加工部におけるクラック発生の抑制にも寄与し得ると推察される。
【0023】
偏光子は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光子の単体透過率は、好ましくは40.0%以上であり、より好ましくは41.0%以上である。単体透過率の上限は、例えば49.0%であり得る。偏光子の単体透過率は、1つの実施形態においては40.0%~45.0%である。偏光子の偏光度は、好ましくは99.0%以上であり、より好ましくは99.4%以上である。偏光度の上限は、例えば99.999%であり得る。偏光子の偏光度は、1つの実施形態においては99.0%~99.9%である。本発明の実施形態による偏光子は、当該偏光子を構成するPVA系樹脂の配向度が従来よりも低く、上記のような面内位相差、複屈折および/または配向関数を有するにもかかわらず、このような実用上許容可能な単体透過率および偏光度を実現できることを1つの特徴とする。これは、後述する製造方法に起因するものと推察される。なお、単体透過率は、代表的には、紫外可視分光光度計を用いて測定し、視感度補正を行なったY値である。偏光度は、代表的には、紫外可視分光光度計を用いて測定して視感度補正を行なった平行透過率Tpおよび直交透過率Tcに基づいて、下記式により求められる。
偏光度(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
【0024】
偏光子の突き刺し強度は、例えば30gf/μm以上であり、好ましくは35gf/μm以上であり、より好ましくは40gf/μm以上であり、さらに好ましくは45gf/μm以上であり、特に好ましくは50gf/μm以上である。突き刺し強度の上限は、例えば80gf/μmであり得る。偏光子の突き刺し強度をこのような範囲とすることにより、異形加工部にクラックが発生すること、および、偏光子が吸収軸方向に沿って裂けることを顕著に抑制することができる。その結果、屈曲性に非常に優れた偏光子(結果として、偏光板)が得られ得る。突き刺し強度は、所定の強さで偏光子を突き刺した時の偏光子の割れ耐性を示す。突き刺し強度は、例えば、圧縮試験機に所定のニードルを装着し、当該ニードルを所定速度で偏光子に突き刺したときに偏光子が割れる強度(破断強度)として表され得る。なお、単位から明らかなとおり、突き刺し強度は、偏光子の単位厚み(1μm)あたりの突き刺し強度を意味する。
【0025】
偏光子は、上記のとおり、二色性物質を含むPVA系樹脂フィルムで構成される。好ましくは、PVA系樹脂フィルム(実質的には、偏光子)を構成するPVA系樹脂は、アセトアセチル変性されたPVA系樹脂を含む。このような構成であれば、所望の突き刺し強度を有する偏光子が得られ得る。アセトアセチル変性されたPVA系樹脂の配合量は、PVA系樹脂全体を100重量%としたときに、好ましくは5重量%~20重量%であり、より好ましくは8重量%~12重量%である。配合量がこのような範囲であれば、突き刺し強度をより好適な範囲とすることができる。
【0026】
偏光子は、代表的には、二層以上の積層体を用いて作製され得る。積層体を用いて得られる偏光子の具体例としては、樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子が挙げられる。樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子は、例えば、PVA系樹脂溶液を樹脂基材に塗布し、乾燥させて樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して、樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を得ること;当該積層体を延伸および染色してPVA系樹脂層を偏光子とすること;により作製され得る。本実施形態においては、好ましくは、樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成する。延伸は、代表的には積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することを含む。さらに、延伸は、好ましくは、ホウ酸水溶液中での延伸の前に積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸することをさらに含む。本発明の実施形態においては、延伸の総倍率は好ましくは3.0倍~4.5倍であり、通常に比べて顕著に小さい。このような延伸の総倍率であっても、ハロゲン化物の添加および乾燥収縮処理との組み合わせにより、許容可能な光学特性を有する偏光子を得ることができる。さらに、本発明の実施形態においては、好ましくは空中補助延伸の延伸倍率がホウ酸水中延伸の延伸倍率よりも大きい。このような構成とすることにより、延伸の総倍率が小さくても許容可能な光学特性を有する偏光子を得ることができる。加えて、積層体は、好ましくは長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理に供される。1つの実施形態においては、偏光子の製造方法は、積層体に、空中補助延伸処理と染色処理と水中延伸処理と乾燥収縮処理とをこの順に施すことを含む。補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂上にPVA系樹脂を塗布する場合でも、PVA系樹脂の結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる。また、同時にPVA系樹脂の配向性を事前に高めることで、後の染色工程や延伸工程で水に浸漬された時に、PVA系樹脂の配向性の低下や溶解等の問題を防止することができ、高い光学特性を達成することが可能になる。さらに、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色処理および水中延伸処理等、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光子の光学特性を向上し得る。さらに、乾燥収縮処理により積層体を幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。得られた樹脂基材/偏光子の積層体はそのまま用いてもよく(すなわち、樹脂基材を偏光子の保護層としてもよく)、樹脂基材/偏光子の積層体から樹脂基材を剥離し、当該剥離面に目的に応じた任意の適切な保護層を積層して用いてもよい。偏光子の製造方法の詳細については、C項で説明する。
【0027】
C.偏光子の製造方法
上記偏光子の製造方法は、好ましくは、長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂(PVA系樹脂)とを含むポリビニルアルコール系樹脂層(PVA系樹脂層)を形成して積層体とすること、および、積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む。PVA系樹脂層におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部である。乾燥収縮処理は、加熱ロールを用いて処理することが好ましく、加熱ロールの温度は、好ましくは60℃~120℃である。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は、好ましくは2%以上である。さらに、空中補助延伸の延伸倍率は、好ましくは水中延伸の延伸倍率よりも大きい。このような製造方法によれば、上記B項で説明した偏光子を得ることができる。特に、ハロゲン化物を含むPVA系樹脂層を含む積層体を作製し、上記積層体の延伸を空中補助延伸及び水中延伸を含む多段階延伸とし、延伸後の積層体を加熱ロールで加熱して幅方向に2%以上収縮させることにより、優れた光学特性(代表的には、単体透過率および偏光度)を有する偏光子を得ることができる。
【0028】
C-1.積層体の作製
熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を作製する方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。好ましくは、熱可塑性樹脂基材の表面に、ハロゲン化物とPVA系樹脂とを含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成する。上記のとおり、PVA系樹脂層におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくはPVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部である。
【0029】
塗布液の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)等が挙げられる。上記塗布液の塗布・乾燥温度は、好ましくは50℃以上である。
【0030】
PVA系樹脂層の厚みは、好ましくは2μm~30μm、さらに好ましくは2μm~20μmである。延伸前のPVA系樹脂層の厚みをこのように非常に薄くし、かつ、後述するように延伸の総倍率を小さくすることにより、従来よりもPVA系樹脂の配向度が低いにもかかわらず許容可能な単体透過率および偏光度を有する偏光子を得ることができる。
【0031】
PVA系樹脂層を形成する前に、熱可塑性樹脂基材に表面処理(例えば、コロナ処理等)を施してもよいし、熱可塑性樹脂基材上に易接着層を形成してもよい。このような処理を行うことにより、熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させることができる。
【0032】
C-1-1.熱可塑性樹脂基材
熱可塑性樹脂基材としては、任意の適切な熱可塑性樹脂フィルムが採用され得る。熱可塑性樹脂基材の詳細については、例えば特開2012-73580号公報に記載されている。当該公報は、その全体の記載が本明細書に参考として援用される。
【0033】
C-1-2.塗布液
塗布液は、上記のとおり、ハロゲン化物とPVA系樹脂とを含む。上記塗布液は、代表的には、上記ハロゲン化物および上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部~20重量部である。このような樹脂濃度であれば、熱可塑性樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。塗布液におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部である。
【0034】
塗布液に、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、得られるPVA系樹脂層の均一性や染色性、延伸性をより一層向上させる目的で使用され得る。
【0035】
上記PVA系樹脂としては、任意の適切な樹脂が採用され得る。例えば、ポリビニルアルコールおよびエチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%~100モル%であり、好ましくは95.0モル%~99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%~99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光子が得られ得る。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。上記のとおり、PVA系樹脂は、好ましくはアセトアセチル変性されたPVA系樹脂を含む。
【0036】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択し得る。平均重合度は、通常1000~10000であり、好ましくは1200~4500、さらに好ましくは1500~4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。
【0037】
上記ハロゲン化物としては、任意の適切なハロゲン化物が採用され得る。例えば、ヨウ化物および塩化ナトリウムが挙げられる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、およびヨウ化リチウムが挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。
【0038】
塗布液におけるハロゲン化物の量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部であり、より好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して10重量部~15重量部である。PVA系樹脂100重量部に対するハロゲン化物の量が20重量部を超えると、ハロゲン化物がブリードアウトし、最終的に得られる偏光子が白濁する場合がある。
【0039】
一般に、PVA系樹脂層が延伸されることによって、PVA系樹脂層中のポリビニルアルコール分子の配向性が高くなるが、延伸後のPVA系樹脂層を、水を含む液体に浸漬すると、ポリビニルアルコール分子の配向が乱れ、配向性が低下する場合がある。特に、熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体をホウ酸水中延伸する場合において、熱可塑性樹脂基材の延伸を安定させるために比較的高い温度で上記積層体をホウ酸水中で延伸する場合、上記配向度低下の傾向が顕著である。例えば、PVAフィルム単体のホウ酸水中での延伸が60℃で行われることが一般的であるのに対し、A-PET(熱可塑性樹脂基材)とPVA系樹脂層との積層体の延伸は70℃前後の温度という高い温度で行われ、この場合、延伸初期のPVAの配向性が水中延伸により上がる前の段階で低下し得る。これに対して、ハロゲン化物を含むPVA系樹脂層と熱可塑性樹脂基材との積層体を作製し、積層体をホウ酸水中で延伸する前に空気中で高温延伸(補助延伸)することにより、補助延伸後の積層体のPVA系樹脂層中のPVA系樹脂の結晶化が促進され得る。その結果、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色処理および水中延伸処理等、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光子の光学特性を向上し得る。
【0040】
C-2.空中補助延伸処理
特に、高い光学特性を得るためには、乾式延伸(補助延伸)とホウ酸水中延伸を組み合わせる、2段延伸の方法が選択される。2段延伸のように、補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂基材の結晶化を抑制しながら延伸することができる。さらには、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂を塗布する場合、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度の影響を抑制するために、通常の金属ドラム上にPVA系樹脂を塗布する場合と比べて塗布温度を低くする必要があり、その結果、PVA系樹脂の結晶化が相対的に低くなり、十分な光学特性が得られない、という問題が生じ得る。これに対して、補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂上にPVA系樹脂を塗布する場合でも、PVA系樹脂の結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる。また、同時にPVA系樹脂の配向性を事前に高めることで、後の染色工程や延伸工程で水に浸漬された時に、PVA系樹脂の配向性の低下や溶解等の問題を防止することができ、高い光学特性を達成することが可能になる。
【0041】
空中補助延伸の延伸方法は、固定端延伸(たとえば、テンター延伸機を用いて延伸する方法)でもよいし、自由端延伸(たとえば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよいが、高い光学特性を得るためには、自由端延伸が積極的に採用され得る。1つの実施形態においては、空中延伸処理は、上記積層体をその長手方向に搬送しながら、加熱ロール間の周速差により延伸する加熱ロール延伸工程を含む。空中延伸処理は、代表的には、ゾーン延伸工程と加熱ロール延伸工程とを含む。なお、ゾーン延伸工程と加熱ロール延伸工程の順序は限定されず、ゾーン延伸工程が先に行われてもよく、加熱ロール延伸工程が先に行われてもよい。ゾーン延伸工程は省略されてもよい。1つの実施形態においては、ゾーン延伸工程および加熱ロール延伸工程がこの順に行われる。また、別の実施形態では、テンター延伸機において、フィルム端部を把持し、テンター間の距離を流れ方向に広げることで延伸される(テンター間の距離の広がりが延伸倍率となる)。この時、幅方向(流れ方向に対して、垂直方向)のテンターの距離は、任意に近づくように設定される。好ましくは、流れ方向の延伸倍率に対して、自由端延伸により近くなるように設定され得る。自由端延伸の場合、幅方向の収縮率=(1/延伸倍率)1/2で計算される。
【0042】
空中補助延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、延伸倍率は、各段階の延伸倍率の積である。空中補助延伸における延伸方向は、好ましくは、水中延伸の延伸方向と略同一である。
【0043】
空中補助延伸における延伸倍率は、好ましくは1.0倍~4.0倍であり、より好ましくは1.5倍~3.5倍であり、さらに好ましくは2.0倍~3.0倍である。空中補助延伸の延伸倍率がこのような範囲であれば、水中延伸と組み合わせた場合に延伸の総倍率を所望の範囲に設定することができ、所望の複屈折、面内位相差および/または配向関数を実現することができる。その結果、異形加工部におけるクラック発生が抑制された偏光子(結果として、偏光板)を得ることができる。さらに、上記のとおり、空中補助延伸の延伸倍率は水中延伸の延伸倍率よりも大きいことが好ましい。このような構成とすることにより、延伸の総倍率が小さくても許容可能な光学特性を有する偏光子を得ることができる。より詳細には、空中補助延伸の延伸倍率と水中延伸の延伸倍率との比(水中延伸/空中補助延伸)は、好ましくは0.4~0.9であり、より好ましくは0.5~0.8である。
【0044】
空中補助延伸の延伸温度は、熱可塑性樹脂基材の形成材料、延伸方式等に応じて、任意の適切な値に設定することができる。延伸温度は、好ましくは熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、さらに好ましくは熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)+10℃以上、特に好ましくはTg+15℃以上である。一方、延伸温度の上限は、好ましくは170℃である。このような温度で延伸することで、PVA系樹脂の結晶化が急速に進むのを抑制して、当該結晶化による不具合(例えば、延伸によるPVA系樹脂層の配向を妨げる)を抑制することができる。
【0045】
C-3.不溶化処理、染色処理および架橋処理
必要に応じて、空中補助延伸処理の後、水中延伸処理や染色処理の前に、不溶化処理を施す。上記不溶化処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬することにより行う。上記染色処理は、代表的には、PVA系樹脂層を二色性物質(代表的には、ヨウ素)で染色することにより行う。必要に応じて、染色処理の後、水中延伸処理の前に、架橋処理を施す。上記架橋処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。不溶化処理、染色処理および架橋処理の詳細については、例えば特開2012-73580号公報に記載されている。
【0046】
C-4.水中延伸処理
水中延伸処理は、積層体を延伸浴に浸漬させて行う。水中延伸処理によれば、上記熱可塑性樹脂基材やPVA系樹脂層のガラス転移温度(代表的には、80℃程度)よりも低い温度で延伸し得、PVA系樹脂層を、その結晶化を抑えながら延伸することができる。その結果、優れた光学特性を有する偏光子を製造することができる。
【0047】
積層体の延伸方法は、任意の適切な方法を採用することができる。具体的には、固定端延伸でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。好ましくは、自由端延伸が選択される。積層体の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、延伸の総倍率は、各段階の延伸倍率の積である。
【0048】
水中延伸は、好ましくは、ホウ酸水溶液中に積層体を浸漬させて行う(ホウ酸水中延伸)。延伸浴としてホウ酸水溶液を用いることで、PVA系樹脂層に、延伸時にかかる張力に耐える剛性と、水に溶解しない耐水性とを付与することができる。具体的には、ホウ酸は、水溶液中でテトラヒドロキシホウ酸アニオンを生成してPVA系樹脂と水素結合により架橋し得る。その結果、PVA系樹脂層に剛性と耐水性とを付与して、良好に延伸することができ、優れた光学特性を有する偏光子を製造することができる。
【0049】
上記ホウ酸水溶液は、好ましくは、溶媒である水にホウ酸および/またはホウ酸塩を溶解させることにより得られる。ホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~10重量部であり、より好ましくは2.5重量部~6重量部であり、特に好ましくは3重量部~5重量部である。ホウ酸濃度を1重量部以上とすることにより、PVA系樹脂層の溶解を効果的に抑制することができ、より高特性の偏光子を製造することができる。なお、ホウ酸またはホウ酸塩以外に、ホウ砂等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等を溶媒に溶解して得られた水溶液も用いることができる。
【0050】
好ましくは、上記延伸浴(ホウ酸水溶液)にヨウ化物を配合する。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。ヨウ化物の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部~15重量部、より好ましくは0.5重量部~8重量部である。
【0051】
延伸温度(延伸浴の液温)は、好ましくは40℃~85℃、より好ましくは60℃~75℃である。このような温度であれば、PVA系樹脂層の溶解を抑制しながら高倍率に延伸することができる。具体的には、上述のように、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、PVA系樹脂層の形成との関係で、好ましくは60℃以上である。この場合、延伸温度が40℃を下回ると、水による熱可塑性樹脂基材の可塑化を考慮しても、良好に延伸できないおそれがある。一方、延伸浴の温度が高温になるほど、PVA系樹脂層の溶解性が高くなって、優れた光学特性が得られないおそれがある。積層体の延伸浴への浸漬時間は、好ましくは15秒~5分である。
【0052】
水中延伸による延伸倍率は、好ましくは1.0倍~2.2倍であり、より好ましくは1.1倍~2.0倍であり、さらに好ましくは1.1倍~1.8倍であり、さらにより好ましくは1.2倍~1.6倍である。水中延伸における延伸倍率がこのような範囲であれば、延伸の総倍率を所望の範囲に設定することができ、所望の複屈折、面内位相差および/または配向関数を実現することができる。その結果、異形加工部におけるクラック発生が抑制された偏光子(結果として、偏光板)を得ることができる。延伸の総倍率(空中補助延伸と水中延伸とを組み合わせた場合の延伸倍率の合計)は、上記のとおり、積層体の元長に対して、好ましくは3.0倍~4.5倍であり、より好ましくは3.0倍~4.3倍であり、さらに好ましくは3.0倍~4.0倍である。塗布液へのハロゲン化物の添加、空中補助延伸および水中延伸の延伸倍率の調整、および乾燥収縮処理を適切に組み合わせることにより、このような延伸の総倍率であっても許容可能な光学特性を有する偏光子を得ることができる。
【0053】
C-5.乾燥収縮処理
上記乾燥収縮処理は、ゾーン全体を加熱して行うゾーン加熱により行っても良いし、搬送ロールを加熱する(いわゆる加熱ロールを用いる)ことにより行う(加熱ロール乾燥方式)こともできる。好ましくは、その両方を用いる。加熱ロールを用いて乾燥させることにより、効率的に積層体の加熱カールを抑制して、外観に優れた偏光子を製造することができる。具体的には、加熱ロールに積層体を沿わせた状態で乾燥することにより、上記熱可塑性樹脂基材の結晶化を効率的に促進させて結晶化度を増加させることができ、比較的低い乾燥温度であっても、熱可塑性樹脂基材の結晶化度を良好に増加させることができる。その結果、熱可塑性樹脂基材は、その剛性が増加して、乾燥によるPVA系樹脂層の収縮に耐え得る状態となり、カールが抑制される。また、加熱ロールを用いることにより、積層体を平らな状態に維持しながら乾燥できるので、カールだけでなくシワの発生も抑制することができる。この時、積層体は、乾燥収縮処理により幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。PVAおよびPVA/ヨウ素錯体の配向性を効果的に高めることができるからである。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は、好ましくは1%~10%であり、より好ましくは2%~8%であり、特に好ましくは2%~6%である。
【0054】
図6は、乾燥収縮処理の一例を示す概略図である。乾燥収縮処理では、所定の温度に加熱された搬送ロールR1~R6と、ガイドロールG1~G4とにより、積層体200を搬送しながら乾燥させる。図示例では、PVA樹脂層の面と熱可塑性樹脂基材の面を交互に連続加熱するように搬送ロールR1~R6が配置されているが、例えば、積層体200の一方の面(たとえば熱可塑性樹脂基材面)のみを連続的に加熱するように搬送ロールR1~R6を配置してもよい。
【0055】
搬送ロールの加熱温度(加熱ロールの温度)、加熱ロールの数、加熱ロールとの接触時間等を調整することにより、乾燥条件を制御することができる。加熱ロールの温度は、好ましくは60℃~120℃であり、さらに好ましくは65℃~100℃であり、特に好ましくは70℃~80℃である。熱可塑性樹脂の結晶化度を良好に増加させて、カールを良好に抑制することができるとともに、耐久性に極めて優れた光学積層体を製造することができる。なお、加熱ロールの温度は、接触式温度計により測定することができる。図示例では、6個の搬送ロールが設けられているが、搬送ロールは複数個であれば特に制限はない。搬送ロールは、通常2個~40個、好ましくは4個~30個設けられる。積層体と加熱ロールとの接触時間(総接触時間)は、好ましくは1秒~300秒であり、より好ましくは1~20秒であり、さらに好ましくは1~10秒である。
【0056】
加熱ロールは、加熱炉(例えば、オーブン)内に設けてもよいし、通常の製造ライン(室温環境下)に設けてもよい。好ましくは、送風手段を備える加熱炉内に設けられる。加熱ロールによる乾燥と熱風乾燥とを併用することにより、加熱ロール間での急峻な温度変化を抑制することができ、幅方向の収縮を容易に制御することができる。熱風乾燥の温度は、好ましくは30℃~100℃である。また、熱風乾燥時間は、好ましくは1秒~300秒である。熱風の風速は、好ましくは10m/s~30m/s程度である。なお、当該風速は加熱炉内における風速であり、ミニベーン型デジタル風速計により測定することができる。
【0057】
C-6.その他の処理
好ましくは、水中延伸処理の後、乾燥収縮処理の前に、洗浄処理を施す。上記洗浄処理は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。
【0058】
D.保護層
保護層は、樹脂フィルムで構成されている。樹脂フィルム(保護層)は、目的に応じて任意の適切な材料で形成され得る。保護層の形成材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂;(メタ)アクリル系、ウレタン系、(メタ)アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂;シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーが挙げられる。好ましくは、保護層は、TACまたは(メタ)アクリル系樹脂フィルムで構成される。
【0059】
保護層の厚みは、好ましくは5μm~80μm、より好ましくは10μm~40μm、さらに好ましくは10μm~30μmである。
【0060】
E.反射型偏光子
反射型偏光子は、上記のとおり、保護層20の偏光子10と反対側に設けられ得る。反射型偏光子は、特定の偏光状態(偏光方向)の偏光を透過し、それ以外の偏光状態の光を反射する機能を有する。反射型偏光子は、直線偏光分離型であってもよく、円偏光分離型であってもよい。以下、一例として、直線偏光分離型の反射型偏光子について説明する。なお、円偏光分離型の反射型偏光子としては、例えば、コレステリック液晶を固定化したフィルムとλ/4板との積層体が挙げられる。
【0061】
図7は、反射型偏光子の一例の概略斜視図である。反射型偏光子は、複屈折性を有する層Aと複屈折性を実質的に有さない層Bとが交互に積層された多層積層体である。例えば、このような多層積層体の層の総数は、50~1000であり得る。図示例では、A層のx軸方向の屈折率nxがy軸方向の屈折率nyより大きく、B層のx軸方向の屈折率nxとy軸方向の屈折率nyとは実質的に同一である。したがって、A層とB層との屈折率差は、x軸方向において大きく、y軸方向においては実質的にゼロである。その結果、x軸方向が反射軸となり、y軸方向が透過軸となる。A層とB層とのx軸方向における屈折率差は、好ましくは0.2~0.3である。なお、x軸方向は、反射型偏光子の製造方法における反射型偏光子の延伸方向に対応する。
【0062】
上記A層は、好ましくは、延伸により複屈折性を発現する材料で構成される。このような材料の代表例としては、ナフタレンジカルボン酸ポリエステル(例えば、ポリエチレンナフタレート)、ポリカーボネートおよび(メタ)アクリル系樹脂(例えば、ポリメチルメタクリレート)が挙げられる。ポリエチレンナフタレートが好ましい。上記B層は、好ましくは、延伸しても複屈折性を実質的に発現しない材料で構成される。このような材料の代表例としては、ナフタレンジカルボン酸とテレフタル酸とのコポリエステルが挙げられる。
【0063】
反射型偏光子は、A層とB層との界面において、第1の偏光方向を有する光(例えば、p波)を透過し、第1の偏光方向とは直交する第2の偏光方向を有する光(例えば、s波)を反射する。反射した光は、A層とB層との界面において、一部が第1の偏光方向を有する光として透過し、一部が第2の偏光方向を有する光として反射する。反射型偏光子の内部において、このような反射および透過が多数繰り返されることにより、光の利用効率を高めることができる。
【0064】
1つの実施形態においては、反射型偏光子は、図7に示すように、画像表示セルと反対側の最外層として反射層Rを含んでいてもよい。反射層Rを設けることにより、最終的に利用されずに反射型偏光子の最外部に戻ってきた光をさらに利用することができるので、光の利用効率をさらに高めることができる。反射層Rは、代表的には、ポリエステル樹脂層の多層構造により反射機能を発現する。
【0065】
反射型偏光子の全体厚みは、目的、反射型偏光子に含まれる層の合計数等に応じて適切に設定され得る。反射型偏光子の全体厚みは、好ましくは10μm~150μmである。
【0066】
反射型偏光子としては、例えば、特表平9-507308号公報、特開2013-235259号公報に記載のものが使用され得る。反射型偏光子は、市販品をそのまま用いてもよく、市販品を2次加工(例えば、延伸)して用いてもよい。市販品としては、例えば、3M社製の商品名DBEF、3M社製の商品名APFが挙げられる。
【0067】
F.画像表示装置
上記偏光板は、画像表示装置に適用され得る。したがって、本発明の実施形態は、そのような偏光板を用いた画像表示装置を包含する。画像表示装置の代表例としては、液晶表示装置、エレクトロルミネセンス(EL)表示装置(例えば、有機EL表示装置、無機EL表示装置)が挙げられる。画像表示装置は、好ましくは、矩形以外の異形を有する。このような画像表示装置において、本発明の実施形態による効果が顕著である。異形を有する画像表示装置の具体例としては、自動車のメーターパネル、スマートフォン、タブレット型PC、スマートウォッチが挙げられる。
【実施例0068】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。各特性の測定方法は以下の通りである。なお、特に明記しない限り、実施例および比較例における「部」および「%」は重量基準である。
【0069】
(1)厚み
干渉膜厚計(大塚電子社製、製品名「MCPD-3000」)を用いて測定した。厚み算出に用いた計算波長範囲は400nm~500nmで、屈折率は1.53とした。
(2)PVAの面内位相差(Re)
実施例および比較例で得られた偏光子/熱可塑性樹脂基材の積層体から樹脂基材を剥離除去した偏光子(偏光子単体)について、位相差測定装置(王子計測機器社製 製品名「KOBRA-31X100/IR」)を用いて、波長1000nmにおけるPVAの面内位相差(Rpva)を評価した(説明した原理にしたがい、波長1000nmにおけるトータルの面内位相差から、ヨウ素の面内位相差(Ri)を引いた数値である)。吸収端波長は600nmとした。
(3)PVAの複屈折(Δn)
上記(2)で測定したPVAの面内位相差を、偏光子の厚みで割ることによりPVAの複屈折(Δn)を算出した。
(4)単体透過率および偏光度
実施例および比較例で得られた偏光子/熱可塑性樹脂基材の積層体から樹脂基材を剥離除去した偏光子(偏光子単体)について、紫外可視分光光度計(日本分光社製「V-7100」)を用いて単体透過率Ts、平行透過率Tp、直交透過率Tcを測定した。これらのTs、TpおよびTcは、JIS Z8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値である。得られたTpおよびTcから、下記式により偏光度Pを求めた。
偏光度P(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
なお、分光光度計は、大塚電子社製「LPF-200」等でも同等の測定をすることが可能であり、いずれの分光光度計を用いた場合であっても同等の測定結果が得られることが確認されている。
(5)突き刺し強度(単位厚み当たりの破断強度)
実施例および比較例で得られた偏光子/熱可塑性樹脂基材の積層体から偏光子を剥離し、ニードルを装着した圧縮試験機(カトーテック社製、 製品名「NDG5」ニードル貫通力測定仕様)に載置し、室温(23℃±3℃)環境下、突き刺し速度0.33cm/秒で突き刺し、偏光子が割れたときの強度を破断強度とした。評価値は試料片10個の破断強度を測定し、その平均値を用いた。なお、ニードルは、先端径1mmφ、0.5Rのものを用いた。測定する偏光子については、直径約11mmの円形の開口部を有する治具を偏光子の両面から挟んで固定し、開口部の中央にニードルを突き刺して試験を行った。
(6)PVAの配向関数
実施例および比較例で得られた偏光子/熱可塑性樹脂基材の積層体から樹脂基材を剥離除去した偏光子(偏光子単体)について、樹脂基材を剥離した面と反対側の面に対して、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)(Perkin Elmer社製、商品名:「Frontier」)を用い、偏光された赤外光を測定光として、偏光子表面の全反射減衰分光(ATR:attenuated total reflection)測定を行った。偏光子を密着させる結晶子はゲルマニウムを用い、測定光の入射角は45°入射とした。配向関数の算出は以下の手順で行った。入射させる偏光された赤外光(測定光)は、ゲルマニウム結晶のサンプルを密着させる面に平行に振動する偏光(s偏光)とし、測定光の偏光方向に対し、偏光子の延伸方向を垂直(⊥)および平行(//)に配置した状態で各々の吸光度スペクトルを測定した。得られた吸光度スペクトルから、(3330cm-1強度)を参照とした(2941cm-1強度)Iを算出した。Iは、測定光の偏光方向に対し偏光子の延伸方向を垂直(⊥)に配置した場合に得られる吸光度スペクトルから得られる(2941cm-1強度)/(3330cm-1強度)である。また、I//は、測定光の偏光方向に対し偏光子の延伸方向を平行(//)に配置した場合に得られる吸光度スペクトルから得られる(2941cm-1強度)/(3330cm-1強度)である。ここで、(2941cm-1強度)は、吸光度スペクトルのボトムである、2770cm-1と2990cm-1をベースラインとしたときの2941cm-1の吸光度であり、(3330cm-1強度)は、2990cm-1と3650cm-1をベースラインとしたときの3330cm-1の吸光度である。得られたIおよびI//を用い、式1に従って配向関数fを算出した。なお、f=1のとき完全配向、f=0のときランダムとなる。また、2941cm-1のピークは、偏光子中のPVAの主鎖(-CH-)の振動起因の吸収といわれている。また、3330cm-1のピークは、PVAの水酸基の振動起因の吸収といわれている。
(式1)f=(3<cosθ>-1)/2
=(1-D)/[c(2D+1)]
但し
c=(3cosβ-1)/2
で、上記のように2941cm-1を用いた場合、β=90°⇒y=-2×(1-D)/(2D+1)である。
θ:延伸方向に対する分子鎖の角度
β:分子鎖軸に対する遷移双極子モーメントの角度
D=(I)/(I//
:測定光の偏光方向と偏光子の延伸方向が垂直の場合の吸収強度
//:測定光の偏光方向と偏光子の延伸方向が平行の場合の吸収強度
(7)クラック発生率
実施例および比較例で得られた偏光板の反射型偏光子表面に表面保護フィルムを仮着した。次いで、粘着剤層にセパレーターを仮着した。この積層体を約130mm×約70mmに切り出した。このとき、偏光子の吸収軸が短手方向となるように切り出した。切り出した積層体の短辺の中央部に幅5mm、深さ(凹部の長さ)6.85mm、曲率半径2.5mmのU字ノッチを形成した。U字ノッチは、エンドミル加工により形成した。エンドミルの外径は4mm、送り速度は500mm/分、回転数は35000rpm、削り量および削り回数は粗削り0.2mm/回、仕上げ削り0.1mm/回の合計2回であった。U字ノッチを形成した積層体からセパレーターを剥離し、アクリル系粘着剤層を介してガラス板(厚み1.1mm)に貼り付けた。最後に、表面保護フィルムを剥離し、反射型偏光子/粘着剤層/保護層/偏光子/粘着剤層/ガラス板の構成を有する試験サンプルを得た。この試験サンプルを-40℃で30分間保持した後85℃で30分間保持することを300サイクル繰り返すヒートショック試験に供し、試験後のL字クラック発生の有無を目視で確認した。この評価を3枚の偏光板を用いて行い、クラック(実質的には、L字クラック)の発生した偏光板の数を評価した。
【0070】
[実施例1]
1.偏光子の作製
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で、吸水率0.75%、Tg約75℃である、非晶質のイソフタル共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:100μm)を用いた。樹脂基材の片面に、コロナ処理(処理条件:55W・min/m)を施した。
ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ410」)を9:1で混合したPVA系樹脂100重量部に、ヨウ化カリウム13重量部を添加し、PVA水溶液(塗布液)を調製した。
樹脂基材のコロナ処理面に、上記PVA水溶液を塗布して60℃で乾燥することにより、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、130℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に2.4倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸処理)。
次いで、積層体を、液温40℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素とヨウ化カリウムを1:7の重量比で配合して得られたヨウ素水溶液)に、最終的に得られる偏光子の単体透過率(Ts)が40.5%となるように濃度を調整しながら60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温40℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温62℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4.0重量%、ヨウ化カリウム5.0重量%)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に延伸の総倍率が3.0倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸処理:水中延伸処理における延伸倍率は1.25倍)。
その後、積層体を液温20℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
その後、90℃に保たれたオーブン中で乾燥しながら、表面温度が75℃に保たれたSUS製の加熱ロールに約2秒接触させた(乾燥収縮処理)。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は2%であった。
このようにして、樹脂基材上に厚み7.4μmの偏光子を形成した。
【0071】
2.偏光板の作製
樹脂基材/偏光子の積層体の偏光子表面に、紫外線硬化型接着剤(厚み1.0μm)を介して、TACフィルム(厚み20μm)を貼り合わせた。さらに、TACフィルム表面に、アクリル系粘着剤(厚み5μm)を介して、反射型偏光子を貼り合わせた。次いで、樹脂基材を剥離し、剥離面にアクリル系粘着剤層(厚み15μm)を設けた。このようにして、反射型偏光子/粘着剤層/保護層/偏光子/粘着剤層の構成を有する偏光板を得た。
【0072】
[実施例2~4]
ヨウ素濃度が異なる染色浴(ヨウ素とヨウ化カリウムの重量比=1:7)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、樹脂基材上に偏光子(厚み:7.4μm)を形成した。以下の手順は実施例1と同様にして、反射型偏光子/粘着剤層/保護層/偏光子/粘着剤層の構成を有する偏光板を得た。
【0073】
[実施例5~8]
水中延伸の延伸倍率を1.46倍としたこと(結果として、延伸の総倍率を3.5倍としたこと)、および、ヨウ素濃度が異なる染色浴(ヨウ素とヨウ化カリウムの重量比=1:7)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、樹脂基材上に偏光子(厚み:6.7μm)を形成した。以下の手順は実施例1と同様にして、反射型偏光子/粘着剤層/保護層/偏光子/粘着剤層の構成を有する偏光板を得た。
【0074】
[実施例9~12]
水中延伸の延伸倍率を1.67倍としたこと(結果として、延伸の総倍率を4.0倍としたこと)、および、ヨウ素濃度が異なる染色浴(ヨウ素とヨウ化カリウムの重量比=1:7)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、樹脂基材上に偏光子(厚み:6.2μm)を形成した。以下の手順は実施例1と同様にして、反射型偏光子/粘着剤層/保護層/偏光子/粘着剤層の構成を有する偏光板を得た。
【0075】
[実施例13~16]
水中延伸の延伸倍率を1.88倍としたこと(結果として、延伸の総倍率を4.5倍としたこと)、および、ヨウ素濃度が異なる染色浴(ヨウ素とヨウ化カリウムの重量比=1:7)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、樹脂基材上に偏光子(厚み:6.0μm)を形成した。以下の手順は実施例1と同様にして、反射型偏光子/粘着剤層/保護層/偏光子/粘着剤層の構成を有する偏光板を得た。
【0076】
[比較例1~4]
水中延伸の延伸倍率を2.29倍としたこと(結果として、延伸の総倍率を5.5倍としたこと)、および、ヨウ素濃度が異なる染色浴(ヨウ素とヨウ化カリウムの重量比=1:7)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、樹脂基材上に偏光子(厚み:5.5μm)を形成した。以下の手順は実施例1と同様にして、反射型偏光子/粘着剤層/保護層/偏光子/粘着剤層の構成を有する偏光板を得た。
【0077】
実施例および比較例で得られた偏光板を上記(2)~(7)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
表1から明らかなように、実施例の偏光板は、異形加工部(U字ノッチ部分)のクラック発生が抑制されている。
【0080】
また、図8図10にそれぞれ、実施例および比較例で得られた偏光子の単体透過率とPVAのΔn、面内位相差または配向関数との関係を示す。図8図10に示される通り、複屈折、面内位相差または配向関数が同程度(結果として、配向度が同程度)であったとしても、単体透過率が高い場合には、異形加工部においてクラックが発生しやすいことがわかる。例えば、図8においてΔnが35(×10-3)付近を見ると、単体透過率が約44.2%より大きくなると式(1)を満たさなくなり、結果として、比較例4のようにクラックが発生する。よって、異形加工部におけるクラックの発生を効果的に抑制するためには、PVA系樹脂の配向度に加えて単体透過率(結果として、二色性物質の吸着量)の調整も重要であることがわかる。また、式(1)、式(2)および/または式(3)を満たす偏光子は、これらの調整が好適に行われたものであり、異形加工部におけるクラックの発生が好適に抑制され得ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の偏光板は、画像表示装置に用いられ、特に、自動車のメーターパネル、スマートフォン、タブレット型PC、スマートウォッチ等の異形を有する画像表示装置に好適に用いられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10