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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114773
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】偏光膜および偏光膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240816BHJP
   H05B 33/14 20060101ALI20240816BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20240816BHJP
   H10K 50/86 20230101ALI20240816BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20240816BHJP
   B29C 55/06 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
G02B5/30
H05B33/14 Z
H05B33/02
H10K50/86
H10K59/10
B29C55/06
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024101013
(22)【出願日】2024-06-24
(62)【分割の表示】P 2020192442の分割
【原出願日】2020-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100143650
【弁理士】
【氏名又は名称】山元 美佐
(72)【発明者】
【氏名】小島 理
(72)【発明者】
【氏名】南原 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】後藤 周作
(57)【要約】
【課題】外観に優れ、画像表示装置の表示特性の向上に寄与し得る偏光膜を提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態による偏光膜は、ヨウ素を含む樹脂フィルムから構成され、厚みが7μm以下であり、表面の、吸収軸方向の波長680nmの光の反射率Rc680に対する吸収軸方向の波長400nmの光の反射率Rc400の比(Rc400/Rc680)は1を超える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素を含む樹脂フィルムから構成され、
厚みが7μm以下であり、
表面の、吸収軸方向の波長680nmの光の反射率Rc680に対する吸収軸方向の波長400nmの光の反射率Rc400の比(Rc400/Rc680)が1を超える、
偏光膜。
【請求項2】
前記表面のRc680が5%以下である、請求項1に記載の偏光膜。
【請求項3】
前記表面のRc400が4.8%以上である、請求項1または2に記載の偏光膜。
【請求項4】
前記表面側の端部に、表面から裏面に向かってヨウ素量が多くなる傾斜分布領域を有する、請求項1から3のいずれかに記載の偏光膜。
【請求項5】
前記表面側のヨウ素量が裏面側のヨウ素量よりも少ない、請求項1から4のいずれかに記載の偏光膜。
【請求項6】
単体透過率が42.0%以上であり、偏光度が99.98%以上である、請求項1から5のいずれかに記載の偏光膜。
【請求項7】
ヨウ素を含み、水分率が15重量%以下の樹脂膜の表面を水洗すること、
を含む、請求項1から6のいずれかに記載の偏光膜の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂膜のヨウ素濃度が5重量%以上である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂膜が樹脂基材上に形成された樹脂層である、請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂層を67℃以下で水中延伸することを含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
加熱ロールを用いて前記樹脂層を加熱することを含む、請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1から6のいずれかに記載の偏光膜と、
前記偏光膜の少なくとも片側に配置される保護層または位相差層と
を有する、偏光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光膜および偏光膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な画像表示装置である液晶表示装置には、その画像形成方式に起因して、液晶セルの両側に偏光膜が配置されている。また、薄型ディスプレイの普及と共に、有機エレクトロルミネセンス(EL)パネルを搭載したディスプレイ(OLED)や、量子ドットなどの無機発光材料を用いた表示パネルを用いたディスプレイ(QLED)が提案されている。これらのパネルは反射性の高い金属層を有しており、外光反射や背景の映り込み等の問題を生じやすい。そこで、偏光膜とλ/4板とを有する円偏光板を視認側に設けることにより、これらの問題を防ぐことが知られている。偏光膜の製造方法としては、例えば、樹脂基材とポリビニルアルコール(PVA)系樹脂層とを有する積層体を延伸し、次に染色して、樹脂基材上に偏光膜を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1)。このような方法によれば、厚みの薄い偏光膜が得られるため、近年の画像表示装置の薄型化に寄与し得るとして注目されている。しかし、厚みの薄い偏光膜は外観が劣り、画像表示装置に用いた場合に十分な表示特性が得られない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-343521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、外観に優れ、画像表示装置の表示特性の向上に寄与し得る偏光膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態によれば、偏光膜が提供される。この偏光膜は、ヨウ素を含む樹脂フィルムから構成され、厚みが7μm以下であり、表面の、吸収軸方向の波長680nmの光の反射率Rc680に対する吸収軸方向の波長400nmの光の反射率Rc400の比(Rc400/Rc680)は1を超える。
1つの実施形態においては、上記表面のRc680は5%以下である。
1つの実施形態においては、上記表面のRc400は4.8%以上である。
1つの実施形態においては、上記偏光膜は、上記表面側の端部に、表面から裏面に向かってヨウ素量が多くなる傾斜分布領域を有する。
1つの実施形態においては、上記偏光膜において、上記表面側のヨウ素量が裏面側のヨウ素量よりも少ない。
1つの実施形態においては、上記偏光膜は、単体透過率が42.0%以上であり、偏光度が99.98%以上である。
本発明の別の局面によれば、上記偏光膜の製造方法が提供される。この製造方法は、ヨウ素を含み、水分率が15重量%以下の樹脂膜の表面を水洗することを含む。
1つの実施形態においては、上記樹脂膜のヨウ素濃度は5重量%以上である。
1つの実施形態においては、上記樹脂膜は樹脂基材上に形成された樹脂層である。
1つの実施形態においては、上記製造方法は、上記樹脂層を67℃以下で水中延伸することを含む。
1つの実施形態においては、上記製造方法は、加熱ロールを用いて上記樹脂層を加熱することを含む。
本発明のさらに別の局面によれば、偏光板が提供される。この偏光板は、上記偏光膜と、上記偏光膜の少なくとも片側に配置される保護層または位相差層とを有する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、表面の反射特性が制御されていることにより、外観に優れた偏光膜を得ることができる。また、このような偏光膜によれば、画像表示装置の表示特性の向上に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の1つの実施形態による偏光膜の模式的な断面図である。
図2】加熱ロールを用いた乾燥の一例を示す概略図である。
図3】本発明の第一実施形態による偏光板の概略の構成を示す模式的な断面図である。
図4】本発明の第二実施形態による偏光板の概略の構成を示す模式的な断面図である。
図5】実施例1、比較例1および参考例2の偏光膜の厚み方向におけるヨウ素のイオン強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
(用語および記号の定義)
本明細書における用語および記号の定義は下記の通りである。
(1)屈折率(nx、ny、nz)
「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。
(2)面内位相差(Re)
「Re(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した面内位相差である。例えば、「Re(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差である。Re(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Re(λ)=(nx-ny)×dによって求められる。
(3)厚み方向の位相差(Rth)
「Rth(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した厚み方向の位相差である。例えば、「Rth(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差である。Rth(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Rth(λ)=(nx-nz)×dによって求められる。
(4)Nz係数
Nz係数は、Nz=Rth/Reによって求められる。
(5)角度
本明細書において角度に言及するときは、当該角度は基準方向に対して時計回りおよび反時計回りの両方を包含する。したがって、例えば「45°」は±45°を意味する。
【0010】
A.偏光膜
図1は、本発明の1つの実施形態による偏光膜の模式的な断面図である。なお、図1では、図を見やすくするために偏光膜の断面は、ハッチングを省略している。偏光膜10は、第一主面(表面)10aおよび第二主面(裏面)10bを有する。偏光膜10は、表面10a側の端部に、表面10aから裏面10bに向かってヨウ素量が多くなる傾斜分布領域を有する。
【0011】
偏光膜10は、ヨウ素を含む樹脂フィルムから構成される。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムが用いられる。
【0012】
偏光膜10の厚みは、7μm以下であり、好ましくは6μm以下である。このような厚みの偏光膜は、ヨウ素濃度が高い傾向にある。一方、偏光膜の厚みは、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは2μm以上である。
【0013】
偏光膜10は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光膜10の単体透過率(Ts)は、好ましくは41.0%以上であり、より好ましくは42.0%以上であり、さらに好ましくは42.5%以上である。一方、偏光膜10の単体透過率は、例えば44.2%以下である。偏光膜10の偏光度(P)は、好ましくは99.95%以上、より好ましくは99.98%以上であり、さらに好ましくは99.99%以上である。一方、偏光膜10の偏光度は、例えば99.996%以下である。
【0014】
上記単体透過率は、代表的には、紫外可視分光光度計を用いて測定し、視感度補正を行なったY値である。上記偏光度は、代表的には、紫外可視分光光度計を用いて測定して視感度補正を行なった平行透過率Tpおよび直交透過率Tcに基づいて、下記式により求められる。
偏光度(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
【0015】
偏光膜10の表面10aの、吸収軸方向の波長680nmの光の反射率Rc680に対する吸収軸方向の波長400nmの光の反射率Rc400の比(Rc400/Rc680)は、1を超え、好ましくは1.3以上であり、より好ましくは1.5以上である。このような関係を満たすことにより、反射色相が良好に制御されて外観に優れ得る。具体的には、赤味が抑制され、外観に優れ得る。その結果、例えば、視認性に優れた画像表示装置を提供し得る。ここで、偏光膜10を、その表面10aが画像表示装置の視認側となるように配置してもよいし視認側とは反対側となるように配置してもよく、いずれの配置においても外観に優れ得る。偏光膜10の表面10aが画像表示装置の視認側となるように配置することにより、外観および表示特性において極めて優れ得る。一方、偏光膜10の表面10aのRc400/Rc680は、例えば2以下である。
【0016】
偏光膜10の表面10aのRc400は、例えば4.8%以上であり、好ましくは4.9%以上であり、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは5.3%以上である。一方、偏光膜10の表面10aのRc400は、例えば6%以下である。偏光膜10の表面10aのRc680は、例えば5%以下であり、好ましくは4.9%以下であり、より好ましくは4.5%以下であり、さらに好ましくは4%以下である。一方、偏光膜10の表面10aのRc680は、例えば3%以上である。
【0017】
偏光膜10の表面10aの透過軸方向の波長400nmの光の反射率Rp400は、例えば4.5%~5%である。偏光膜10の表面10aの透過軸方向の波長680nmの光の反射率Rp680は、例えば4.3%~4.8%である。
【0018】
上記RcおよびRpはそれぞれ、偏光膜(樹脂フィルム)の表面に所定の角度で光を入射させて吸収軸方向および透過軸方向の反射光を検出した場合の、入射光強度に対する反射光強度の比率である。
【0019】
例えば、偏光膜10は、表面10a側のヨウ素量が裏面10b側のヨウ素量よりも少ない。具体的には、偏光膜10は、表面側から、ヨウ素の分布状態が異なる第一領域11と第二領域12とをこの順に有する。第一領域11は、表面10aから裏面10bに向かってヨウ素量が多くなる傾斜分布領域である。第二領域12ではヨウ素は均一に分布している。ここで、均一とは、例えば、分析により検出されるヨウ素に由来する(例えば、ヨウ素イオンの)強度が平均値より-20%~+20%の範囲内であることをいう。第一領域11の厚みは、偏光膜10の厚みの2%以上50%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以上40%以下である。第一領域11の厚みは、偏光膜10の厚みの20%以上であってもよい。具体的には、第一領域11の厚みは、100nm以上2.7μm以下であることが好ましく、より好ましくは500nm以上2μm以下である。第一領域11の厚みは、1μm以上であってもよい。このような範囲によれば、例えば、優れた光学特性(上記単体透過率および偏光度)と優れた外観とを達成し得る。
【0020】
図示しないが、例えば、偏光膜は、表面側から、ヨウ素の分布状態が異なる第一領域、第二領域および第三領域をこの順に有していてもよい。具体的には、偏光膜は、表面から裏面に向かってヨウ素量が多くなる第一領域、ヨウ素が均一に分布する第二領域、および、表面側から裏面に向かってヨウ素量が少なくなる第三領域を有していてもよい。
【0021】
B.製造方法
上記偏光膜は、ヨウ素を含み、所定の水分率を有する樹脂膜の表面を水洗することにより得られる。樹脂膜の水分率(水洗前)は、15重量%以下であり、好ましくは12重量%以下であり、より好ましくは9重量%以下であり、さらに好ましくは6重量%以下である。一方、樹脂膜の水分率は、例えば3重量%以上である。このような水分率を有する樹脂膜に対し水洗を行うことにより、上記偏光膜を良好に作製し得る。具体的には、優れた光学特性を保持させながら、表面の反射特性(例えば、反射率、色相)を良好に制御することができる。例えば、波長550nm以上の長波長領域の反射率を下げて赤味を抑え、目視にて青味を認識可能にし得る。
【0022】
上記樹脂膜のヨウ素濃度は、例えば5重量%以上であり、5.5重量%以上であってもよく、6重量%以上であってもよい。樹脂膜のヨウ素濃度は、例えば8重量%以下である。上記樹脂膜の厚みは、例えば7μm以下であり、6μm以下であってもよい。樹脂膜の厚みは、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは2μm以上である。このようなヨウ素濃度、厚みにおいて優れた外観を達成し得ることが、本発明の特徴の一つである。
【0023】
B-1.樹脂膜
上記所定の水分率を有する樹脂膜は、例えば、樹脂基材上に樹脂層(代表的には、ポリビニルアルコール系樹脂層)を形成して積層体を作製し、この積層体(樹脂層)を延伸およびヨウ素で染色し、その後、積層体(樹脂層)を乾燥することにより得ることができる。
【0024】
B-1-1.積層体
1つの実施形態においては、熱可塑性樹脂基材(例えば、長尺状の)上に、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂とハロゲン化物とを含むPVA系樹脂層を形成して上記積層体を作製する。具体的には、熱可塑性樹脂基材上に、PVA系樹脂とハロゲン化物とを含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、積層体を作製する。
【0025】
上記熱可塑性樹脂基材の厚みは、好ましくは20μm~300μmであり、より好ましくは50μm~200μmである。20μm未満であると、PVA系樹脂層の形成が困難になるおそれがある。300μmを超えると、例えば、後述の水中延伸において、熱可塑性樹脂基材が水を吸収するのに時間を要するとともに、延伸に過大な負荷を要するおそれがある。
【0026】
熱可塑性樹脂基材の吸水率は、好ましくは0.2%以上であり、さらに好ましくは0.3%以上である。このような熱可塑性樹脂基材は、水を吸収し、水が可塑剤的な働きをして可塑化し得る。その結果、延伸応力を大幅に低下させ、高倍率に延伸し得る。一方、熱可塑性樹脂基材の吸水率は、好ましくは3.0%以下であり、より好ましくは1.0%以下である。このような吸水率によれば、製造時に熱可塑性樹脂基材の寸法安定性が著しく低下して、得られる偏光膜の品質が悪化するなどの不具合を防止することができる。また、水中延伸時に熱可塑性樹脂基材が破断したり、PVA系樹脂層が剥離したりするのを防止することができる。熱可塑性樹脂基材の吸水率は、例えば、構成材料に変性基を導入することにより調整することができる。なお、吸水率は、JIS K 7209に準じて求められる値である。
【0027】
熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは120℃以下である。このような熱可塑性樹脂基材を用いることにより、PVA系樹脂層の結晶化を抑制しながら、積層体の延伸性を十分に確保することができる。さらに、水による熱可塑性樹脂基材の可塑化と、水中延伸を良好に行うことを考慮すると、Tgは、より好ましくは100℃以下であり、さらに好ましくは90℃以下である。一方、熱可塑性樹脂基材のTgは、好ましくは60℃以上である。このようなTgによれば、上記塗布液を塗布・乾燥する際に、熱可塑性樹脂基材が変形(例えば、凹凸やタルミ、シワ等の発生)するなどの不具合を防止して、良好に積層体を作製することができる。また、上記樹脂層の延伸を、好適な温度(例えば、60℃程度)にて良好に行うことができる。熱可塑性樹脂基材のTgは、例えば、構成材料に変性基を導入する、結晶化材料を用いて加熱することにより調整することができる。なお、ガラス転移温度(Tg)は、JIS K 7121に準じて求められる値である。
【0028】
熱可塑性樹脂基材の構成材料としては、任意の適切な熱可塑性樹脂が採用され得る。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重合体樹脂が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ノルボルネン系樹脂、非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂である。
【0029】
1つの実施形態においては、非晶質の(結晶化していない)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましく用いられる。中でも、非晶性の(結晶化しにくい)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が特に好ましく用いられる。非晶性のポリエチレンテレフタレート系樹脂の具体例としては、ジカルボン酸としてイソフタル酸および/またはシクロヘキサンジカルボン酸をさらに含む共重合体や、グリコールとしてシクロヘキサンジメタノールやジエチレングリコールをさらに含む共重合体が挙げられる。
【0030】
別の実施形態においては、イソフタル酸ユニットを有するポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましく用いられる。延伸性に極めて優れるとともに、延伸時の結晶化が抑制され得るからである。これは、イソフタル酸ユニットを導入することで、主鎖に大きな屈曲を与えることによるものと考えられる。ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、テレフタル酸ユニットおよびエチレングリコールユニットを有する。イソフタル酸ユニットの含有割合は、全繰り返し単位の合計に対して、好ましくは0.1モル%以上であり、より好ましくは1.0モル%以上である。延伸性に極めて優れた熱可塑性樹脂基材が得られるからである。一方、イソフタル酸ユニットの含有割合は、全繰り返し単位の合計に対して、好ましくは20モル%以下であり、より好ましくは10モル%以下である。後述の乾燥において結晶化度を良好に増加させ得るからである。
【0031】
熱可塑性樹脂基材は、予め(例えば、PVA系樹脂層を形成する前に)、延伸されていてもよい。1つの実施形態においては、長尺状の熱可塑性樹脂基材の横方向に延伸されている。横方向は、好ましくは、後述の積層体の延伸方向に直交する方向である。なお、本明細書において、「直交」とは、実質的に直交する場合も包含する。ここで、「実質的に直交」とは、90°±5.0°である場合を包含し、好ましくは90°±3.0°、さらに好ましくは90°±1.0°である。熱可塑性樹脂基材の延伸温度は、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)に対し、好ましくはTg-10℃~Tg+50℃である。熱可塑性樹脂基材の延伸倍率は、好ましくは1.5倍~3.0倍である。熱可塑性樹脂基材の延伸方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体的には、固定端延伸でもよいし、自由端延伸でもよい。延伸方式は、乾式でもよいし、湿式でもよい。延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、上記延伸倍率は、各段階の延伸倍率の積である。
【0032】
上記塗布液は、代表的には、PVA系樹脂とハロゲン化物とを溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。塗布液におけるPVA系樹脂の含有量は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部~20重量部である。このような範囲によれば、熱可塑性樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。塗布液におけるハロゲン化物の含有量は、PVA系樹脂100重量部に対して、好ましくは5重量部~20重量部である。
【0033】
上記PVA系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%~100モル%であり、好ましくは95.0モル%~99.95モル%であり、より好ましくは99.0モル%~99.93モル%である。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光膜が得られ得る。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。なお、ケン化度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。
【0034】
PVA系樹脂の平均重合度は、通常1000~10000であり、好ましくは1200~4500であり、より好ましくは1500~4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。
【0035】
上記ハロゲン化物としては、任意の適切なハロゲン化物が採用され得る。例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化リチウム等のヨウ化物、塩化ナトリウム等の塩化物が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。ハロゲン化物を用いることにより、優れた光学特性を有する偏光膜を得ることができる。具体的には、後述の空中補助延伸後のPVA系樹脂の結晶化が促進され、その後の湿式処理(例えば、後述の染色、水中延伸)において、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れおよび配向性の低下が抑制され、優れた光学特性を有する偏光膜を得ることができる。
【0036】
塗布液の調製において、PVA系樹脂100重量部に対して、ハロゲン化物を5重量部~20重量部配合することが好ましく、より好ましくは10重量部~15重量部である。具体的には、得られるPVA系樹脂層におけるハロゲン化物の含有量は、PVA系樹脂100重量部に対し、好ましくは5重量部~20重量部であり、より好ましくは10重量部~15重量部である。PVA系樹脂に対するハロゲン化物の量が多いと、例えば、ハロゲン化物がブリードアウトし、得られる偏光膜が白濁する場合がある。
【0037】
塗布液に、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、例えば、得られるPVA系樹脂層の均一性や染色性、延伸性を向上させる目的で使用される。
【0038】
上記塗布液の塗布方法としては、例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)が挙げられる。塗布液の塗布・乾燥温度は、好ましくは50℃以上である。
【0039】
上記PVA系樹脂層の厚みは、好ましくは3μm~40μmであり、さらに好ましくは3μm~20μmである。
【0040】
PVA系樹脂層を形成する前に、熱可塑性樹脂基材に表面処理(例えば、コロナ処理等)を施してもよいし、熱可塑性樹脂基材上に易接着層を形成してもよい。このような処理を行うことにより、熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させることができる。
【0041】
B-1-2.延伸
上記延伸は、上記積層体を、乾式延伸(空中補助延伸)した後に、水中延伸することにより行うことが好ましい。補助延伸により、上記熱可塑性樹脂基材の結晶化を抑制しながら延伸することができ、ホウ酸水中延伸において熱可塑性樹脂基材の過度の結晶化により延伸性が低下するという問題を解決し、積層体をより高倍率に延伸することができる。また、熱可塑性樹脂基材を用いる場合、上記塗布温度が低く設定され得ることから、PVA系樹脂の結晶化が相対的に低くなって十分な光学特性が得られないという問題が生じ得る。これに対して、補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂を用いる場合でも、PVA系樹脂の結晶性を高め得る。また、PVA系樹脂の配向性を事前に高めることで、後の湿式処理時に、PVA系樹脂の配向性の低下や溶解などの問題を防止し得る。こうして、優れた光学特性を有する偏光膜が得られ得る。
【0042】
空中補助延伸の方法は、固定端延伸(例えば、テンター延伸機を用いて延伸する方法)でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。好ましくは、自由端延伸が採用される。例えば、上記積層体をその長手方向に搬送しながら、加熱ロール間の周速差により延伸する加熱ロール延伸が採用される。1つの実施形態においては、空中補助延伸は、熱空間(ゾーン)におけるゾーン延伸工程と加熱ロール延伸工程とを含む。ゾーン延伸工程と加熱ロール延伸工程の順序は限定されないが、例えば、ゾーン延伸工程および加熱ロール延伸工程がこの順に行われる。別の実施形態においては、テンター延伸機において、フィルム端部を把持し、テンター間の距離を流れ方向に広げることで延伸される(テンター間の距離の広がりが延伸倍率となる)。この時、幅方向(流れ方向に対して垂直方向)のテンターの距離は、好ましくは、流れ方向の延伸倍率に対して、自由端延伸により近くなるように設定される。自由端延伸の場合、幅方向の収縮率は、式:幅方向の収縮率=(1/延伸倍率)1/2で計算される。
【0043】
空中補助延伸の延伸倍率は、好ましくは2.0倍~3.5倍である。空中補助延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、延伸倍率は、各段階の延伸倍率の積である。空中補助延伸における延伸方向は、好ましくは、後述の水中延伸の延伸方向と略同一である。
【0044】
空中補助延伸の延伸温度は、例えば、用いる熱可塑性樹脂基材、延伸方式等に応じて、任意の適切な値に設定される。延伸温度は、好ましくは熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、より好ましくはTg+10℃以上であり、さらに好ましくはTg+15℃以上である。一方、延伸温度の上限は、好ましくは170℃である。このような温度で延伸することで、PVA系樹脂の結晶化が急速に進むのを抑制して、当該結晶化による不具合(例えば、延伸によるPVA系樹脂層の配向を妨げる)を抑制することができる。
【0045】
上記水中延伸は、代表的には、積層体を延伸浴に浸漬させて行う。水中延伸によれば、上記熱可塑性樹脂基材やPVA系樹脂層のガラス転移温度(代表的には、80℃程度)よりも低い温度で延伸し得、PVA系樹脂層を、その結晶化を抑えながら、高倍率に延伸することができる。その結果、優れた光学特性を有する偏光膜を得ることができる。
【0046】
水中延伸の方法は、固定端延伸でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。好ましくは、自由端延伸が採用される。積層体の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、後述の積層体の延伸倍率は、各段階の延伸倍率の積である。
【0047】
水中延伸は、好ましくは、積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて行う(ホウ酸水中延伸)。延伸浴としてホウ酸水溶液を用いることで、PVA系樹脂層に、延伸時にかかる張力に耐える剛性と、水に溶解しない耐水性とを付与することができる。具体的には、ホウ酸は、水溶液中でテトラヒドロキシホウ酸アニオンを生成してPVA系樹脂と水素結合により架橋し得る。その結果、PVA系樹脂層に剛性と耐水性とを付与して、良好に延伸することができ、優れた光学特性を有する偏光膜を得ることができる。
【0048】
上記ホウ酸水溶液は、好ましくは、溶媒である水にホウ酸および/またはホウ酸塩を溶解させることにより得られる。ホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~10重量部であり、より好ましくは2.5重量部~6重量部であり、さらに好ましくは3重量部~5重量部である。ホウ酸濃度を1重量部以上とすることにより、PVA系樹脂層の溶解を効果的に抑制することができ、より高特性の偏光膜を製造することができる。なお、ホウ酸またはホウ酸塩以外に、ホウ砂等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等を溶媒に溶解して得られた水溶液も用いることができる。
【0049】
好ましくは、上記延伸浴(ホウ酸水溶液)にヨウ化物を配合する。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタンが挙げられる。ヨウ化物の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部~15重量部であり、より好ましくは0.5重量部~8重量部である。
【0050】
延伸温度(延伸浴の液温)は、好ましくは40℃以上であり、より好ましくは60℃以上である。このような温度であれば、PVA系樹脂層の溶解を抑制しながら高倍率に延伸することができる。具体的には、上述のように、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、PVA系樹脂層の形成との関係で、好ましくは60℃以上である。この場合、延伸温度が40℃を下回ると、水による熱可塑性樹脂基材の可塑化を考慮しても、良好に延伸できないおそれがある。一方、延伸温度は、例えば70℃以下であり、好ましくは67℃以下であり、より好ましくは65℃以下である。延伸温度が高温になるほど、PVA系樹脂層の溶解性が高くなって、優れた光学特性が得られないおそれがある。また、このような延伸温度によれば、後述の水洗においてPVA系樹脂層が膨潤・溶解するのを抑制し、表面性状に優れた偏光膜を得ることができる。積層体の延伸浴への浸漬時間は、好ましくは15秒~5分である。
【0051】
水中延伸による延伸倍率は、好ましくは1.5倍以上であり、より好ましくは3.0倍以上である。積層体の総延伸倍率(空中補助延伸と水中延伸とを組み合わせた延伸倍率)は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上であり、より好ましくは5.5倍以上であり、さらに好ましくは6.0倍以上である。このような高い延伸倍率を達成することにより、光学特性に極めて優れた偏光膜を製造することができる。このような高い延伸倍率は、水中延伸方式(ホウ酸水中延伸)を採用することにより、達成し得る。
【0052】
B-1-3.染色
上記染色は、代表的には、PVA系樹脂層にヨウ素を吸着させることにより行う。ヨウ素の吸着方法としては、例えば、ヨウ素を含む染色液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬させる方法、PVA系樹脂層に当該染色液を塗工する方法、当該染色液をPVA系樹脂層に噴霧する方法が挙げられる。好ましくは、染色液(染色浴)に積層体を浸漬させる方法である。ヨウ素が良好に吸着され得るからである。
【0053】
上記染色液は、好ましくは、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部~0.5重量部である。ヨウ素の水に対する溶解度を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物の具体例としては、上述のとおりである。好ましくは、ヨウ化カリウムが用いられる。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部~10重量部であり、より好ましくは0.3重量部~5重量部である。染色液の染色時の液温は、PVA系樹脂の溶解を抑制するため、好ましくは20℃~50℃である。染色液にPVA系樹脂層を浸漬させる場合、浸漬時間は、PVA系樹脂層の透過率を確保するため、好ましくは5秒~5分であり、より好ましくは30秒~90秒である。
【0054】
染色条件(濃度、液温、浸漬時間)は、例えば、最終的に得られる偏光膜の単体透過率が42.0%以上であり、かつ、偏光度が99.98%以上となるように設定することができる。このような染色条件としては、例えば、染色液であるヨウ素水溶液において、ヨウ素およびヨウ化カリウムの含有量の比を1:5~1:20とすることが好ましく、より好ましくは1:5~1:10である。
【0055】
ホウ酸を含有する処理浴に積層体を浸漬させる処理(例えば、後述の不溶化処理)後に連続して染色を行う場合、ホウ酸が染色浴に混入して染色浴のホウ酸濃度が変化し、染色性が不安定になる場合がある。このような染色性の不安定化を抑制するために、染色浴のホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは4重量部以下、より好ましくは2重量部以下となるように調整される。一方で、染色浴のホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上であり、より好ましくは0.2重量部以上であり、さらに好ましくは0.5重量部以上である。1つの実施形態においては、予めホウ酸を含む染色浴を用いて染色する。このような形態によれば、ホウ酸が染色浴に混入した場合のホウ酸濃度の変化の割合を低減し得る。予め染色浴に配合するホウ酸の配合量(上記処理浴に由来しないホウ酸の含有量)は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部~2重量部であり、より好ましくは0.5重量部~1.5重量部である。
【0056】
B-1-4.その他の処理
必要に応じて、上記空中補助延伸の後、水中延伸および染色の前に、不溶化処理を行う。不溶化処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。不溶化処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与し、水に浸漬した時のPVAの配向低下を防止することができる。不溶化処理におけるホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~4重量部である。不溶化処理の温度(ホウ酸水溶液の液温)は、好ましくは20℃~50℃である。
【0057】
必要に応じて、染色の後、水中延伸の前に、架橋処理を行う。架橋処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。架橋処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与し、後の水中延伸においてPVAの配向低下を防止することができる。架橋処理におけるホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~5重量部である。ホウ酸水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~5重量部である。架橋処理の温度(ホウ酸水溶液の液温)、好ましくは20℃~50℃である。
【0058】
好ましくは、水中延伸の後、後述の乾燥の前に、洗浄を行う。洗浄は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。
【0059】
B-1-5.乾燥
上記乾燥は、上記所定の水分率を有する樹脂膜が得られ得る限り、任意の適切な方式および条件において行い得る。具体的には、ゾーン全体を加熱すること(ゾーン加熱方式)により行ってもよいし、搬送ロールを加熱すること(加熱ロール方式)により行ってもよい。好ましくは加熱ロール方式を採用し、より好ましくはその両方を採用する。加熱ロールを用いることにより、効率的に積層体の加熱カールを抑制して、品質に優れた偏光膜を製造することができる。具体的には、加熱ロールに積層体を沿わせた状態で乾燥することにより、上記熱可塑性樹脂基材の結晶化を効率的に促進させて結晶化度を増加させることができ、比較的低い乾燥温度であっても、熱可塑性樹脂基材の結晶化度を良好に増加させることができる。その結果、熱可塑性樹脂基材は、その剛性が増加して、乾燥によるPVA系樹脂層の収縮に耐え得る状態となり、カールが抑制される。また、加熱ロールを用いることにより、積層体を平らな状態に維持しながら乾燥できるので、カールだけでなくシワの発生も抑制することができる。
【0060】
乾燥により、積層体を幅方向に収縮させ、光学特性を向上させることができる。PVAおよびPVA/ヨウ素錯体の配向性を効果的に高めることができるからである。乾燥による積層体の幅方向の収縮率は、好ましくは1%~10%であり、より好ましくは2%~8%であり、さらに好ましくは4%~6%である。加熱ロールを用いることにより、積層体を搬送しながら連続的に幅方向に収縮させることができ、高い生産性を実現することができる。
【0061】
図2は、加熱ロールを用いた乾燥の一例を示す概略図である。図示例では、所定の温度に加熱された搬送ロールR1~R6と、ガイドロールG1~G4とにより、積層体200を搬送しながら乾燥させる。図示例では、PVA系樹脂層の面と熱可塑性樹脂基材の面を交互に連続加熱するように搬送ロールR1~R6が配置されているが、例えば、積層体200の一方の面(たとえば熱可塑性樹脂基材面)のみを連続的に加熱するように搬送ロールR1~R6を配置してもよい。
【0062】
搬送ロールの加熱温度(加熱ロールの温度)、加熱ロールの数、加熱ロールとの接触時間等を調整することにより、乾燥条件を制御することができる。加熱ロールの温度は、好ましくは60℃~120℃であり、より好ましくは65℃~100℃であり、さらに好ましくは70℃~80℃である。このような温度によれば、熱可塑性樹脂の結晶化度を増加させてカールを抑制し得るとともに、積層体に極めて優れた耐久性を付与し得る。また、上記樹脂膜の水分率を良好に達成し得る。なお、加熱ロールの温度は、接触式温度計により測定することができる。図示例では、6個の搬送ロールが設けられているが、搬送ロールは複数個であれば特に制限はない。搬送ロールは、通常2個~40個、好ましくは4個~30個設けられる。積層体と加熱ロールとの接触時間(総接触時間)は、好ましくは1秒~300秒であり、より好ましくは1~20秒であり、さらに好ましくは1~10秒である。
【0063】
加熱ロールは、加熱炉(例えば、オーブン)内に設けてもよいし、通常の製造ライン(室温環境下)に設けてもよい。好ましくは、送風手段を備える加熱炉内に設けられる。加熱ロールによる乾燥と熱風乾燥とを併用することにより、加熱ロール間での急峻な温度変化を抑制することができ、幅方向の収縮を容易に制御することができる。熱風乾燥の温度は、好ましくは30℃~100℃である。また、熱風乾燥時間は、好ましくは1秒~300秒である。熱風の風速は、好ましくは10m/s~30m/s程度である。なお、当該風速は加熱炉内における風速であり、ミニベーン型デジタル風速計により測定することができる。
【0064】
B-2.水洗
上記水洗は、例えば、上記樹脂膜の表面に水を接触させることにより行う。例えば、樹脂膜を水浴に浸漬させることにより水洗を行う。樹脂膜を水浴に浸漬させる際、樹脂膜の裏面は、任意の適切な保護基材で保護されていることが好ましい。1つの実施形態においては、保護基材として、上記樹脂基材を用いる。具体的には、樹脂膜から樹脂基材を剥離させないで(上記積層体の状態で)、樹脂膜を水浴に浸漬させる。別の実施形態においては、保護基材として、後述の保護層を用いる。例えば、上記積層体の樹脂膜表面に保護層を積層した後、樹脂膜から樹脂基材を剥離して保護層と樹脂膜との積層物を作製し、この積層物を水浴に浸漬させる。水浴に浸漬させる際、樹脂膜は長尺状であってもよいし、枚葉状であってもよい。
【0065】
上記水浴(接触させる水)の温度は、例えば20℃以上であり、好ましくは25℃以上であり、より好ましくは30℃以上であり、さらに好ましくは35℃以上であり、特に好ましくは40℃以上である。このような温度によれば、例えば、短時間で上記反射率を満足する偏光膜を作製することができる。一方、水浴(接触させる水)の温度は、好ましくは60℃以下であり、より好ましくは50℃以下である。このような温度によれば、例えば、得られる偏光膜は表面性状に優れ、優れた光学特性を保持し得る。
【0066】
水浴への浸漬時間(接触時間)は、例えば、上記温度、樹脂膜の厚み等に応じて設定される。水浴への浸漬時間は、好ましくは15秒~5分であり、より好ましくは30秒~3分である。
【0067】
水浴(接触させる水)は、ホウ酸等の添加剤を含んでいてもよい。
【0068】
上記水洗後、偏光膜は乾燥処理に供され得る。乾燥温度は、例えば30℃~60℃である。乾燥時間は、例えば15秒~3分である。
【0069】
C.偏光板
本発明の1つの実施形態による偏光板は、上記偏光膜と、この偏光膜の少なくとも片側に配置される保護層または位相差層とを有する。
【0070】
図3は、本発明の第一実施形態による偏光板の概略の構成を示す模式的な断面図である。偏光板(位相差層付偏光板)100は、偏光膜10、保護層20、位相差層30および粘着剤層40をこの順に有する。偏光板100において、偏光膜10の裏面10b側にのみ保護層20が配置され、表面10a側(例えば、視認側)には保護層は配置されていないが、実用的には、偏光膜10の表面10aは、任意の適切な保護材(図示せず)で保護される。例えば、偏光板100の偏光膜10に対し加工が施された後に、偏光膜10に保護材が積層される。位相差層30は、単一層であってもよいし、二層以上が積層された積層構造を有していてもよい。
【0071】
図4は、本発明の第二実施形態による偏光板の概略の構成を示す模式的な断面図である。偏光板(位相差層付偏光板)110は、偏光膜10の裏面10b側に配置された保護層20、偏光膜10、偏光膜10の表面10a側に配置された位相差層30および粘着剤層40を視認側からこの順に有する。本実施形態では、位相差層30が偏光膜10の保護層として機能し得、位相差層30が偏光膜10の表面10a側に配置される点が上記第一実施形態と異なる。
【0072】
図示しないが、偏光板は、その他の機能層をさらに有していてもよい。偏光板が有し得る機能層の種類、特性、数、組み合わせ、配置等は、目的に応じて適切に設定され得る。例えば、偏光板は、導電層または導電層付等方性基材をさらに有していてもよい。導電層または導電層付等方性基材を有する偏光板(位相差層付偏光板)は、例えば、画像表示パネル内部にタッチセンサが組み込まれた、いわゆるインナータッチパネル型入力表示装置に適用される。別の例としては、偏光板は、その他の位相差層をさらに有していてもよい。その他の位相差層の光学的特性(例えば、屈折率特性、面内位相差、Nz係数、光弾性係数)、厚み、配置等は、目的に応じて適切に設定され得る。具体例として、偏光膜10の視認側には、偏光サングラスを介して視認する場合の視認性を改善するその他の位相差層(代表的には、(楕)円偏光機能を付与する層、超高位相差を付与する層)が設けられていてもよい。このような層を有することにより、偏光サングラス等の偏光レンズを介して表示画面を視認した場合でも、優れた視認性を実現することができる。したがって、得られる偏光板(位相差層付偏光板)は、屋外で用いられ得る画像表示装置にも好適に適用され得る。
【0073】
偏光板を構成する各部材は、任意の適切な接着層(図示せず)を介して積層され得る。接着層の具体例としては、接着剤層、粘着剤層が挙げられる。具体的には、位相差層30は、接着剤層を介して(好ましくは、活性エネルギー線硬化型接着剤を用いて)偏光膜10または保護層20に貼り合わせられてもよいし、粘着剤層を介して偏光膜10または保護層20に貼り合わせられてもよい。位相差層30が二層以上の積層構造を有する場合、それぞれの位相差層は、例えば、接着剤層を介して(好ましくは、活性エネルギー線硬化型接着剤を用いて)貼り合わせられている。
【0074】
図示しないが、粘着剤層40の表面には、実用的には、剥離フィルム(セパレーター)が貼り合わせられる。剥離フィルムは、偏光板が使用に供されるまで仮着され得る。剥離フィルムを用いることにより、例えば、粘着剤層を保護するとともに、偏光板のロール形成が可能となる。
【0075】
偏光板は、長尺状であってもよいし、枚葉状であってもよい。本明細書において、「長尺状」とは、幅に対して長さが十分に長い細長形状をいい、例えば、幅に対して長さが10倍以上、好ましくは20倍以上の細長形状をいう。長尺状の偏光板は、ロール状に巻回可能である。
【0076】
C-1.保護層
保護層20は、偏光膜の保護層として使用できる任意の適切なフィルムで形成され得る。当該フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂が挙げられる。
【0077】
上記偏光板は、代表的には、画像表示装置の視認側に配置される。したがって、保護層20には、必要に応じて(例えば、図4に示す形態では)、ハードコート(HC)処理、反射防止処理、スティッキング防止処理、アンチグレア処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0078】
保護層20の厚みは、好ましくは5μm~80μm、より好ましくは10μm~40μm、さらに好ましくは10μm~30μmである。なお、上記表面処理が施されている場合、保護層20の厚みは、表面処理層の厚みを含めた厚みである。
【0079】
偏光膜10と位相差層30との間に配置される保護層は、1つの実施形態においては、光学的に等方性であることが好ましい。本明細書において「光学的に等方性である」とは、面内位相差Re(550)が0nm~10nmであり、厚み方向の位相差Rth(550)が-10nm~+10nmであることをいう。
【0080】
1つの実施形態においては、上記樹脂基材を偏光膜の保護層として用い得る。例えば、図3に示す形態では、樹脂基材をそのまま保護層として用いることにより、製造工程を少なくすることができる。
【0081】
C-2.位相差層
位相差層30としては、任意の適切な構成が採用され得る。1つの実施形態においては、位相差層30として、液晶化合物の配向固化層(液晶配向固化層)が用いられる。液晶化合物を用いることにより、得られる位相差層のnxとnyとの差を非液晶材料に比べて格段に大きくすることができるので、所望の面内位相差を得るための位相差層の厚みを格段に小さくすることができる。本明細書において「配向固化層」とは、液晶化合物が層内で所定の方向に配向し、その配向状態が固定されている層をいう。なお、「配向固化層」は、後述のように液晶モノマーを硬化させて得られる配向硬化層を包含する概念である。位相差層においては、代表的には、棒状の液晶化合物が位相差層の遅相軸方向に並んだ状態で配向している(ホモジニアス配向)。
【0082】
上記位相差層の厚みは、その構成(単一層であるか積層構造を有するか)にもよるが、好ましくは8μm以下であり、より好ましくは5μm以下である。一方、位相差層の厚みは、例えば1μm以上である。なお、位相差層が積層構造である場合、「位相差層の厚み」は、各位相差層の厚みの合計を意味する。具体的には、「位相差層の厚み」には接着層の厚みは含まれない。
【0083】
上記液晶配向固化層は、所定の基材の表面に配向処理を施し、当該表面に液晶化合物を含む塗工液を塗工して当該液晶化合物を上記配向処理に対応する方向に配向させ、当該配向状態を固定することにより形成され得る。配向処理としては、任意の適切な配向処理が採用され得る。具体的には、機械的な配向処理、物理的な配向処理、化学的な配向処理が挙げられる。機械的な配向処理の具体例としては、ラビング処理、延伸処理が挙げられる。物理的な配向処理の具体例としては、磁場配向処理、電場配向処理が挙げられる。化学的な配向処理の具体例としては、斜方蒸着法、光配向処理が挙げられる。各種配向処理の処理条件は、目的に応じて任意の適切な条件が採用され得る。
【0084】
液晶化合物の配向は、液晶化合物の種類に応じて液晶相を示す温度で処理することにより行われる。このような温度処理を行うことにより、液晶化合物が液晶状態をとり、基材表面の配向処理方向に応じて当該液晶化合物が配向する。
【0085】
配向状態の固定は、1つの実施形態においては、上記のように配向した液晶化合物を冷却することにより行われる。液晶化合物が重合性モノマーまたは架橋性モノマーである場合には、配向状態の固定は、上記のように配向した液晶化合物に重合処理または架橋処理を施すことにより行われる。
【0086】
液晶化合物の具体例および配向固化層の形成方法の詳細は、特開2006-163343号公報に記載されている。当該公報の記載は本明細書に参考として援用される。
【0087】
位相差層30が単一層である場合、位相差層30は、例えば、λ/4板として機能し得る。具体的には、位相差層のRe(550)は、好ましくは100nm~180nmであり、より好ましくは110nm~170nmであり、さらに好ましくは110nm~160nmである。位相差層の厚みは、λ/4板の所望の面内位相差が得られるよう調整され得る。位相差層が上述の液晶配向固化層である場合、その厚みは、例えば1.0μm~2.5μmである。本実施形態においては、位相差層の遅相軸と偏光膜の吸収軸とのなす角度は、好ましくは40°~50°であり、より好ましくは42°~48°であり、さらに好ましくは44°~46°である。本実施形態では、位相差層は、好ましくは、位相差値が測定光の波長に応じて大きくなる逆分散波長特性を示す。なお、この実施形態においては、偏光板は、nz>nx=nyの屈折率特性を示す層(その他の位相差層、図示せず)をさらに有し得る。
【0088】
位相差層30が積層構造を有する場合、位相差層30は、例えば、偏光膜10側から順にH層とQ層とが配置された、二層の積層構造を有する。H層は、代表的にはλ/2板として機能し得、Q層は、代表的にはλ/4板として機能し得る。具体的には、H層のRe(550)は好ましくは200nm~300nmであり、より好ましくは220nm~290nmであり、さらに好ましくは230nm~280nmであり;Q層のRe(550)は、好ましくは100nm~180nmであり、より好ましくは110nm~170nmであり、さらに好ましくは110nm~150nmである。H層の厚みは、λ/2板の所望の面内位相差が得られるよう調整され得る。H層が上述の液晶配向固化層である場合、その厚みは、例えば2.0μm~4.0μmである。Q層の厚みは、λ/4板の所望の面内位相差が得られるよう調整され得る。Q層が上述の液晶配向固化層である場合、その厚みは、例えば1.0μm~2.5μmである。本実施形態においては、H層の遅相軸と偏光膜の吸収軸とのなす角度は、好ましくは10°~20°であり、より好ましくは12°~18°であり、さらに好ましくは12°~16°であり;Q層の遅相軸と偏光膜の吸収軸とのなす角度は、好ましくは70°~80°であり、より好ましくは72°~78°であり、さらに好ましくは72°~76°である。位相差層30が積層構造を有する場合、それぞれの層(例えば、H層およびQ層)は、位相差値が測定光の波長に応じて大きくなる逆分散波長特性を示してもよく、位相差値が測定光の波長に応じて小さくなる正の波長分散特性を示してもよく、位相差値が測定光の波長によってもほとんど変化しないフラットな波長分散特性を示してもよい。
【0089】
位相差層30(積層構造を有する場合にはそれぞれの層)は、代表的には、屈折率特性がnx>ny=nzの関係を示す。なお、「ny=nz」はnyとnzが完全に等しい場合だけではなく、実質的に等しい場合を包含する。したがって、本発明の効果を損なわない範囲で、ny>nzまたはny<nzとなる場合があり得る。位相差層のNz係数は、好ましくは0.9~1.5であり、より好ましくは0.9~1.3である。
【0090】
上述のとおり、位相差層は、好ましくは液晶配向固化層である。上記液晶化合物としては、例えば、液晶相がネマチック相である液晶化合物(ネマチック液晶)が挙げられる。このような液晶化合物として、例えば、液晶ポリマーや液晶モノマーが使用可能である。液晶化合物の液晶性の発現機構は、リオトロピックでもサーモトロピックでもどちらでもよい。液晶ポリマーおよび液晶モノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、組み合わせてもよい。
【0091】
液晶化合物が液晶モノマーである場合、当該液晶モノマーは、重合性モノマーおよび架橋性モノマーであることが好ましい。液晶モノマーを重合または架橋(すなわち、硬化)させることにより、液晶モノマーの配向状態を固定できるからである。液晶モノマーを配向させた後に、例えば、液晶モノマー同士を重合または架橋させれば、それによって上記配向状態を固定することができる。ここで、重合によりポリマーが形成され、架橋により3次元網目構造が形成されることとなるが、これらは非液晶性である。したがって、形成された位相差層は、例えば、液晶性化合物に特有の温度変化による液晶相、ガラス相、結晶相への転移が起きることはない。その結果、位相差層は、温度変化に影響されない、極めて安定性に優れた位相差層となる。
【0092】
液晶モノマーが液晶性を示す温度範囲は、その種類に応じて異なる。具体的には、当該温度範囲は、好ましくは40℃~120℃であり、さらに好ましくは50℃~100℃であり、最も好ましくは60℃~90℃である。
【0093】
上記液晶モノマーとしては、任意の適切な液晶モノマーが採用され得る。例えば、特表2002-533742(WO00/37585)、EP358208(US5211877)、EP66137(US4388453)、WO93/22397、EP0261712、DE19504224、DE4408171、およびGB2280445等に記載の重合性メソゲン化合物等が使用できる。このような重合性メソゲン化合物の具体例としては、例えば、BASF社の商品名LC242、Merck社の商品名E7、Wacker-Chem社の商品名LC-Sillicon-CC3767が挙げられる。液晶モノマーとしては、ネマチック性液晶モノマーが好ましい。
【0094】
C-3.粘着剤層
粘着剤層40としては、任意の適切な構成が採用され得る。具体例としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、エポキシ系粘着剤、およびポリエーテル系粘着剤が挙げられる。粘着剤のベース樹脂を形成するモノマーの種類、数、組み合わせおよび配合比、ならびに、架橋剤の配合量、反応温度、反応時間等を調整することにより、目的に応じた所望の特性を有する粘着剤を調製することができる。粘着剤のベース樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。ベース樹脂は、好ましくはアクリル樹脂である(具体的には、粘着剤層は、好ましくはアクリル系粘着剤で構成される)。粘着剤層の厚みは、例えば10μm~20μmである。
【0095】
C-4.偏光板の作製
偏光板は、代表的には、上記水洗後、偏光膜に位相差層等の各種層を積層することにより得ることができる。
【0096】
図3に示す偏光板100は、例えば、上記水洗後の樹脂基材と偏光膜との積層体の樹脂基材をそのまま保護層20として用い、樹脂基材に位相差層30および粘着剤層40を順次積層することにより得ることができる。また、例えば、上記樹脂基材と樹脂膜との積層体の樹脂膜側に保護層20を積層し、樹脂膜から樹脂基材を剥離して得られた積層物を水洗し、保護層20側に位相差層30および粘着剤層40を順次積層することにより得ることができる。また、例えば、上記保護層20と樹脂膜との積層物に、位相差層30または位相差層30と粘着剤層40とを積層した後に、上記水洗を行うことで、偏光板100を得てもよい。
【0097】
図4に示す偏光板110は、例えば、上記樹脂基材と樹脂膜との積層体の樹脂膜側に保護層20を積層し、樹脂膜から樹脂基材を剥離して得られた積層物を水洗し、偏光膜10側に位相差層30および粘着剤層40を順次積層することにより得ることができる。
【実施例0098】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、厚み、樹脂膜のヨウ素濃度および水分率は下記の測定方法により測定した値である。また、特に明記しない限り、実施例および比較例における「部」および「%」は重量基準である。
1.厚み
10μm以下の厚みは、走査型電子顕微鏡(日本電子社製、製品名「JSM-7100F」)を用いて測定した。10μmを超える厚みは、デジタルマイクロメーター(アンリツ社製、製品名「KC-351C」)を用いて測定した。
2.樹脂膜のヨウ素濃度
蛍光X線分析装置(リガク社製、製品名「ZSX Primus IV」、測定径:ψ20mm)を用いてヨウ素元素の蛍光X線強度(kcps)強度を測定し、下記式によりヨウ素濃度(重量%)を算出した。ここで、ヨウ素濃度を算出する際の係数は、検量線を用いて求めた。
ヨウ素濃度(重量%)=20.5×蛍光X線強度/樹脂膜の厚み(kcps/μm)
3.樹脂膜の水分率
樹脂膜単体(樹脂基材から剥離した状態の樹脂膜)を120℃、2時間の条件で乾燥し、乾燥前後の重量変化量を測定することにより樹脂膜に含まれる水分量を求め、水分率を算出した。
【0099】
[実施例1]
(樹脂膜の作製)
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で、吸水率0.75%、Tg約75℃である、非晶質のイソフタル共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:100μm)を用いた。樹脂基材の片面に、コロナ処理を施した。
ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ410」)を9:1で混合したPVA系樹脂100重量部に、ヨウ化カリウム13重量部を添加し、PVA水溶液(塗布液)を調製した。
樹脂基材のコロナ処理面に、上記PVA水溶液を塗布して60℃で乾燥することにより、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、130℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に2.4倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸)。
次いで、積層体を、液温40℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素とヨウ化カリウムを1:7の重量比で配合して得られたヨウ素水溶液)に、最終的に得られる偏光膜の単体透過率(Ts)が43%以上となるように濃度を調整しながら60秒間浸漬させた(染色)。
次いで、液温40℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温64℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4.0重量%)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸)。
その後、積層体を液温20℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄)。
その後、90℃に保たれたオーブン中で乾燥しながら、表面温度が75℃に保たれたSUS製の加熱ロールに約2秒接触させた(乾燥)。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は5.2%であった。
このようにして、樹脂基材上に、厚み5.4μm、ヨウ素濃度6.4%、水分率4.4%の樹脂膜を形成した。
【0100】
(水洗1)
次いで、得られた樹脂膜の片面(樹脂基材が配置されていない面)に、紫外線硬化型接着剤を介して、厚み20μmのラクトン環構造を有するアクリルフィルムを貼り合わせた後に、樹脂膜から樹脂基材を剥離し、アクリルフィルムと樹脂膜との積層物を43℃の水浴に2分間浸漬させて、樹脂膜の片面(剥離面)を水洗し、50℃にて乾燥することにより、アクリルフィルムと偏光膜との積層物を得た。
【0101】
(水洗2)
次いで、得られた樹脂膜の片面(樹脂基材が配置されていない面)に、紫外線硬化型接着剤を介して、厚み27μmのHC-COPフィルムを貼り合わせた後に、樹脂膜から樹脂基材を剥離し、HC-COPフィルムと樹脂膜との積層物を43℃の水浴に2分間浸漬させて、樹脂膜の片面(剥離面)を水洗し、50℃にて乾燥することにより、HC-COPフィルムと偏光膜との積層物を得た。なお、HC-COPフィルムは、シクロオレフィン系樹脂(COP)フィルム(厚み25μm)にHC層(厚み2μm)が形成されたフィルムであり、COPフィルムが樹脂膜側となるようにして貼り合わせた。
【0102】
(位相差層の作製)
ネマチック液晶相を示す重合性液晶(BASF社製:商品名「Paliocolor LC242」、下記式で表される)10gと、当該重合性液晶化合物に対する光重合開始剤(BASF社製:商品名「イルガキュア907」)3gとを、トルエン40gに溶解して、液晶組成物(塗工液)を調製した。
【化1】
【0103】
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み38μm)表面を、ラビング布を用いてラビングし、配向処理を施した。配向処理の方向は、偏光板に貼り合わせる際に偏光膜の吸収軸の方向に対して視認側から見て15°方向となるようにした。この配向処理表面に、上記液晶塗工液をバーコーターにより塗工し、90℃で2分間加熱乾燥することによって液晶化合物を配向させた。このようにして形成された液晶層に、メタルハライドランプを用いて1mJ/cmの光を照射し、当該液晶層を硬化させることによって、PETフィルム上に液晶配向固化層A(H層)を形成した。液晶配向固化層Aの厚みは2.5μm、面内位相差Re(550)は270nmであった。さらに、液晶配向固化層Aは、nx>ny=nzの屈折率特性を示した。
【0104】
塗工厚みを変更したこと、および、配向処理方向を偏光膜の吸収軸の方向に対して視認側から見て75°方向となるようにしたこと以外は上記と同様にして、PETフィルム上に液晶配向固化層B(Q層)を形成した。液晶配向固化層Bの厚みは1.5μm、面内位相差Re(550)は140nmであった。さらに、液晶配向固化層Bは、nx>ny=nzの屈折率特性を示した。
【0105】
(偏光板Aの作製)
上記アクリルフィルムと偏光膜との積層物のアクリルフィルム側に、得られた液晶配向固化層A(H層)および液晶配向固化層B(Q層)をこの順に転写した。このとき、偏光膜の吸収軸と配向固化層Aの遅相軸とのなす角度が15°、偏光膜の吸収軸と配向固化層Bの遅相軸とのなす角度が75°になるようにして転写(貼り合わせ)を行った。それぞれの転写は、紫外線硬化型接着剤(厚み1.0μm)を介して行った。その後、液晶配向固化層B上に厚み15μmの粘着剤層を形成して偏光板Aを得た。
【0106】
(偏光板Bの作製)
上記HC-COPフィルムと偏光膜との積層物の偏光膜側に、得られた液晶配向固化層A(H層)および液晶配向固化層B(Q層)をこの順に転写した。このとき、偏光膜の吸収軸と配向固化層Aの遅相軸とのなす角度が15°、偏光膜の吸収軸と配向固化層Bの遅相軸とのなす角度が75°になるようにして転写(貼り合わせ)を行った。それぞれの転写は、紫外線硬化型接着剤(厚み1.0μm)を介して行った。その後、液晶配向固化層B上に厚み15μmの粘着剤層を形成して偏光板Bを得た。
【0107】
[実施例2]
積層体を40℃の水浴に2分間浸漬させることにより水洗したこと以外は実施例1と同様にして、偏光膜および偏光板を得た。
【0108】
[実施例3]
積層体を液温70℃のホウ酸水溶液に浸漬させて水中延伸して厚み5.4μm、ヨウ素濃度6.6%、水分率4.5%の樹脂膜を作製したこと、および、積層体を25℃の水浴に5分間浸漬させることにより水洗したこと以外は実施例1と同様にして、偏光膜および偏光板を得た。なお、水洗後の偏光膜の表面性状(膨潤)により偏光板Bは作製しなかった。
【0109】
[実施例4]
積層体を液温67℃のホウ酸水溶液に浸漬させて水中延伸して厚み4.8μm、ヨウ素濃度5.5%、水分率4%の樹脂膜を作製したこと、および、積層体を43℃の水浴に1分間浸漬させることにより水洗したこと以外は実施例1と同様にして、偏光膜および偏光板を得た。
【0110】
[実施例5]
積層体を液温67℃のホウ酸水溶液に浸漬させて水中延伸して厚み4.8μm、ヨウ素濃度5.5%、水分率4%の樹脂膜を作製したこと、および、積層体を35℃の水浴に2分間浸漬させることにより水洗したこと以外は実施例1と同様にして、偏光膜および偏光板を得た。
【0111】
[比較例1]
樹脂膜を水洗しなかったこと以外は実施例1と同様にして、偏光膜および偏光板を得た。
【0112】
[比較例2]
樹脂膜を水洗しなかったこと以外は実施例4と同様にして、偏光膜および偏光板を得た。
【0113】
[比較例3]
樹脂膜を水洗しなかったこと以外は実施例3と同様にして、偏光膜および偏光板を得た。
【0114】
[参考例1]
(樹脂膜の作製)
厚み30μmのPVA系樹脂フィルムの長尺ロールを、ロール延伸機により総延伸倍率が6.5倍になるように、長手方向に66℃で一軸延伸しながら、同時に膨潤、染色、架橋および洗浄処理を施し、最後に乾燥処理を施すことにより厚み12μm、ヨウ素濃度2.9%、水分率11%の樹脂膜を作製した。
【0115】
(水洗1)
得られた樹脂膜の片面に、紫外線硬化型接着剤を介して、厚み20μmのラクトン環構造を有するアクリルフィルムを貼り合わせて積層物を作製し、フィルムと樹脂膜との積層物を43℃の水浴に2分間浸漬させて、得られた樹脂膜の表面(フィルムが貼り合わせられていない面)を水洗し、50℃にて乾燥することにより、フィルムと偏光膜との積層物を得た。
【0116】
(水洗2)
得られた樹脂膜の片面に、紫外線硬化型接着剤を介して、厚み27μmのHC-COPフィルムを貼り合わせて積層物を作製し、フィルムと樹脂膜との積層物を43℃の水浴に2分間浸漬させて、得られた樹脂膜の表面(フィルムが貼り合わせられていない面)を水洗し、50℃にて乾燥することにより、フィルムと偏光膜との積層物を得た。
【0117】
(偏光板Aの作製)
上記アクリルフィルムと偏光膜との積層物のアクリルフィルム側に、得られた液晶配向固化層A(H層)および液晶配向固化層B(Q層)をこの順に転写した。このとき、偏光膜の吸収軸と配向固化層Aの遅相軸とのなす角度が15°、偏光膜の吸収軸と配向固化層Bの遅相軸とのなす角度が75°になるようにして転写(貼り合わせ)を行った。それぞれの転写は、紫外線硬化型接着剤(厚み1.0μm)を介して行った。その後、液晶配向固化層B上に厚み15μmの粘着剤層を形成して偏光板Aを得た。
【0118】
(偏光板Bの作製)
上記HC-COPフィルムと偏光膜との積層物の偏光膜側に、得られた液晶配向固化層A(H層)および液晶配向固化層B(Q層)をこの順に転写した。このとき、偏光膜の吸収軸と配向固化層Aの遅相軸とのなす角度が15°、偏光膜の吸収軸と配向固化層Bの遅相軸とのなす角度が75°になるようにして転写(貼り合わせ)を行った。それぞれの転写は、紫外線硬化型接着剤(厚み1.0μm)を介して行った。その後、液晶配向固化層B上に厚み15μmの粘着剤層を形成して偏光板Bを得た。
【0119】
[参考例2]
積層体を水洗しなかったこと以外は参考例1と同様にして、偏光膜および偏光板を得た。
【0120】
実施例および比較例について、下記の評価を行った。評価結果を表1および表2にまとめる。
<評価>
1.単体透過率および偏光度
実施例および比較例の偏光膜(偏光膜/アクリルフィルムまたはHC-COPフィルム)について、紫外可視分光光度計(日本分光社製、V-7100)を用いて測定した単体透過率Ts、平行透過率Tp、直交透過率Tcをそれぞれ、偏光膜のTs、TpおよびTcとした。これらのTs、TpおよびTcは、JIS Z8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値である。
得られたTpおよびTcから、下記式により偏光度Pを求めた。
偏光度P(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
2.反射率(RcおよびRp)
実施例および比較例の偏光膜の表面(水洗した面)の反射率を、分光光度計(日立ハイテク社製、U-4100)により、吸収軸方向の反射率(Rc)および透過軸方向の反射率(Rp)を測定した。その際、水洗した面とは反対側の面を黒板に貼り合わせて表面反射のみを測定できるようにした。また、光源(偏光)の入射角度を5°とし、測定波長を380nm~780nmとした。
3.表面性状
実施例および比較例の偏光膜の表面性状(樹脂膜の膨潤による凹凸の発生の有無)を、目視により観察した。
(評価基準)
良好:凹凸は確認されない
不良:凹凸が確認される
4.偏光板の色相(aおよびb
実施例および比較例の偏光板(円偏光板)をアルミシート上に貼り合わせ、分光測色計(コニカミノルタ社製、cm-2600d)により、SCEモードにて反射色相を測定した。
【0121】
【表1】
【0122】
【表2】
【0123】
実施例、比較例ともに、優れた光学特性(単体透過率および偏光度)が得られる。実施例では、赤味が抑制され、優れた外観が得られる。
【0124】
実施例1、比較例1および参考例2で得られた偏光膜について、厚み方向におけるヨウ素のイオン強度を測定した。測定は、飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)(ION-TOF製、製品名:TOF-SIMS 5)を用い、一次イオンにはBi32 を用いて行った。測定結果(横軸を偏光膜の厚みに換算したグラフ)を図5に示す。図5に示すように、実施例1の偏光膜では、表面側の端部に、表面から裏面に向かってヨウ素量が多くなる傾斜分布領域を有することが確認された。なお、縦軸のヨウ素のイオン強度は、ヨウ素濃度に対応する。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の1つの実施形態に係る偏光膜は、例えば、液晶表示装置、有機EL表示装置、無機EL表示装置等の画像表示装置に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0126】
10 偏光膜
20 保護層
30 位相差層
40 粘着剤層
100 偏光板
110 偏光板
図1
図2
図3
図4
図5