(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114781
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】高圧加工処理用抗菌剤
(51)【国際特許分類】
D06M 13/355 20060101AFI20240816BHJP
D06M 13/184 20060101ALI20240816BHJP
D06M 23/08 20060101ALI20240816BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240816BHJP
A01N 43/90 20060101ALI20240816BHJP
D06P 1/16 20060101ALI20240816BHJP
D06P 3/54 20060101ALI20240816BHJP
D06P 5/20 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
D06M13/355
D06M13/184
D06M23/08
A01P3/00
A01N43/90 102
D06P1/16 Z
D06P3/54 Z
D06P5/20 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024101670
(22)【出願日】2024-06-25
(62)【分割の表示】P 2019165004の分割
【原出願日】2019-09-11
(71)【出願人】
【識別番号】000208260
【氏名又は名称】大和化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】影山 亮平
(57)【要約】
【課題】繊維加工分野で使用する抗菌剤には、単に一般的な抗菌性能だけでなく、繊維評価技術協議会で規定する特定制菌加工、耐洗濯性、更には染色が必要な場合に染色同浴加工にも使用でき、染色性能にも悪影響を与えない新しい染色・抗菌加工技術とすること。
【解決手段】染料、及び、オキソリニック酸又はその塩を有効成分として含有し、高圧加工処理で使用されることを特徴とする繊維類の高圧加工処理用抗菌剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料、及び、オキソリニック酸又はその塩を有効成分として含有し、高圧加工処理で使用されることを特徴とする繊維類の高圧加工処理用抗菌剤。
【請求項2】
前記オキソリニック酸の塩が二価以上の金属塩であることを特徴とする請求項1に記載の繊維類の高圧加工処理用抗菌剤。
【請求項3】
オキソリニック酸又はその塩の平均粒径が0.1~10ミクロンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維類の高圧加工処理用抗菌剤。
【請求項4】
染料、及び、オキソリニック酸又はその塩及び水の存在下、オキソリニック酸又はその塩の濃度が0.01~10重量%である抗菌加工処理液に繊維類を浸漬し、加圧下、60~150℃の処理浴中で加熱処理することを特徴とする繊維類の高圧抗菌加工方法。
【請求項5】
前記繊維がポリエステル繊維又はトリアセテート繊維であることを特徴とする請求項4に記載の繊維類の高圧抗菌加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル繊維等の合成繊維類、アセテート繊維等の半合成繊維類、天然繊維、及び合成繊維、半合成繊維類と天然繊維類との混合繊維からなる繊維製品に抗菌性等を付与する抗菌剤、さらに、その抗菌剤を用いた繊維製品の抗菌加工方法に関する。
【0002】
特に、本発明は、結合剤を使用することなく、繊維製品に耐久性のある黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌等に対する抗菌性を付与する繊維類の高圧加工処理用抗菌剤及び繊維類の高圧抗菌加工方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、医療施設で使用される白衣、シーツ等に限らず、靴下、下着等の衣料用繊維製品、カーテン、タオル、カーペット等の身のまわりの繊維製品に、抗菌加工された繊維が使用されるようになってきている。しかし、抗菌加工では、通常、抗菌効果の持続性を高めるために、結合剤で処理することが一般的に行われている。また、繊維製品の場合、抗菌加工だけでなく、多くは難燃化、染色等の他の加工処理も行われるのが通常であり、その場合には他の処理との関係で加工条件、加工順序等色々な制約を受けることも多いのが現状である。
しかし、上述の結合剤による処理は、繊維の風合いを損ねたり、抗菌性能の低下といった問題が生じることがあり、その改善が求められている。また、抗菌加工以外の処理をそれぞれ別工程で行うことは作業工程上好ましいことではなく、いくつかの処理を同時に行うこと、例えば、染色と抗菌加工などを同時に行うことが可能な加工方法も強く望まれている。
さらに、繊維製品は洗濯をすることが前提となるため、抗菌加工では結合剤での処理によらず、耐洗濯性を備えることも要求されている。
【0004】
合成繊維等からなる製品の抗菌加工技術としては、その紡糸原液に抗菌剤を練り込み、紡糸して抗菌特性を有する繊維を使用する方法、普通に紡糸された合成、半合成繊維又はそれらを縫製して得た製品に抗菌剤を結合剤と共に付着させる方法が代表的なものである
。本発明の高圧加工処理用抗菌剤は、他の抗菌剤とは異なり、結合剤を用いずに繊維に強固に付着可能であり、また、染色浴で染料と共存することができ、繊維又は繊維製品に対し、染色と同時に抗菌剤を付着させることも可能であるため、染色同浴加工に有利に使用することができる。
【0005】
結合剤を用いずに繊維類に強固に付着でき、また、染色同浴加工に使用可能な抗菌剤としては、現時点では、特許文献1に記載されているピリチオン亜鉛が唯一実用可能なものとして知られている。また、そのピリチオン亜鉛を用いた加工方法には、繊維や繊維製品を抗菌剤を含む染色浴に浸漬し加圧下に保持する方法、繊維や繊維製品に抗菌剤を含む処理液を含浸させ次いで加熱する方法等が、特許文献1で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1で使用する抗菌剤は、その化学構造中に亜鉛金属イオンを含むものであるため、製造工程や抗菌加工処理時には厳密なpH管理も必要であり、また、鉄
や銅成分が存在する環境下ではその抗菌剤を製造することも、使用することもできないという問題点がある。さらに、同様の理由から、染色同浴加工に用いる場合は使用できる染料に制限がある。
また、上記特許文献1の抗菌剤は、染色同浴加工に用いた場合、耐光堅牢度などの染色性能に悪影響を及ぼすこともあり、抗菌性能と共に染色性能も改善することができ、さらに、染色同浴加工にも使用できる抗菌剤の開発が繊維加工の分野で強く求められている現状である。
【0008】
以上のとおり、繊維加工分野で使用する抗菌剤には、単に一般的な抗菌性能だけでなく、繊維評価技術協議会で規定する特定制菌加工、耐洗濯性、更には染色が必要な場合に染色同浴加工にも使用でき、染色性能にも悪影響を与えない新しい染色・抗菌加工技術の開発が待たれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、結合剤を用いることなく耐久性のある抗菌性能を維持でき、また、染色同浴加工にも使用できる抗菌剤及び抗菌加工方法について精力的に研究を行い、これらの研究の中から、極めて有効な高圧加工処理用抗菌剤及び高圧抗菌加工方法を見出し、本発明の完成に至ったものである。
本発明は、主に、合成繊維類を主体とする繊維類に対し、結合剤を用いることなく、黄色ブドウ球菌等に対して強い抗菌性能を持続でき、耐洗濯性を付与できる繊維類の高圧加工処理用抗菌剤及び繊維類の抗菌加工方法を提供することを目的とするものである。さらに本発明の抗菌剤は、染色同浴加工にも使用できるものである。
【0010】
本発明は、以下の高圧加工処理用抗菌剤及びその抗菌剤を使用する繊維類の高圧抗菌加工方法に関する発明である。
(1)オキソリニック酸又はその塩を有効成分として含有し、高圧加工処理で使用されることを特徴とする繊維類の高圧加工処理用抗菌剤、
(2)前記オキソリニック酸の塩が二価以上の金属塩であることを特徴とする(1)に記載の繊維類の高圧加工処理用抗菌剤、
(3)オキソリニック酸又はその塩の粒径が0.1~10ミクロンであることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の繊維類の高圧加工処理用抗菌剤、
(4)オキソリニック酸又はその塩及び水の存在下、オキソリニック酸又はその塩の濃度が0.01~10重量%である抗菌加工処理液に繊維類を浸漬し、加圧下、60~150℃の処理浴中で加熱処理することを特徴とする繊維類の高圧抗菌加工方法、
(5)前記処理液がさらに染料を含むことを特徴とする前記(4)に記載の繊維類の高圧抗菌加工方法、
(6)前記繊維がポリエステル繊維又はトリアセテート繊維であることを特徴とする(4)又は(5)に記載の繊維類の高圧抗菌加工方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、抗菌性能、処理効率が極めて高く、染色性能にも悪影響を与えない極めて優れた高圧加工処理用抗菌剤及び処理方法が提供される。特に、ポリエステル、トリアセテートといった人造繊維製品及びこれらと天然繊維との混合繊維製品に対して黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌等の細菌に対して優れた抗菌性を発揮する加工処理を施すことができ、付与された抗菌性能は、洗濯にも十分耐えるものであり、それらの効果は金属イオンの存在にも影響を受けない。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の処理方法を用い得る繊維類としては、木綿等の天然繊維、ポリエステル繊維等の合成繊維、トリアセテート繊維等の半合成繊維類及びこれらを混合した繊維を挙げることができるが、その中ではポリエステル繊維又はトリアセテート繊維を好ましく使用することができる。
【0014】
繊維の形態としては、糸、編物、織物、布が挙げられ、製品としては例えば衣料品、寝装寝具、敷物、カーテン、屋内壁布、タオル、布巾等の製品が挙げられる。
本発明で使用する高圧加工処理用抗菌・抗カビ剤としては、オキソリニック酸又はその塩が用いられる。
【0015】
本発明において用いられるオキソリニック酸は、化学名が5-エチル-5,8-ジヒドロ-8-オキソ[1,3]ジオキソロ[4,5-g]キノリン-7-カルボン酸であり、ThePesticide Manual第10版(British Crop Protection Council発行) 、第760頁に記載の抗菌性化合物であり、本発明においては抗菌活性を有するオキソリニック酸だけでなく、その任意の塩、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、亜鉛塩、アルミニウム塩などの二価以上の金属塩の形でも使用される。
【0016】
オキソリニック酸は、キノリン骨格を有する抗菌剤(殺菌剤)であり、農薬としても使用されている化合物である。また、獣医学領域では、キノロン系抗生物質の一つとして利用され、安全性の評価も実施されている。
本発明のオキソリニック酸又はその塩の平均粒径は、取り扱い性や分散性の観点から0.1~10ミクロンであることが好ましい。
【0017】
本発明による繊維類の抗菌加工処理は加圧下に処理を行うものであり、耐圧密閉容器中に、被加工繊維重量に対し、高圧加工処理用抗菌剤0.01~10重量%程度、好ましくは0.1~5重量%になるようにオキソリニック酸又はその塩を入れ、これに繊維類を浸し、40~200℃で加熱処理することが好ましく、より好ましくは60~150℃である。処理時間は通常、10~60分間程度である。また、加圧条件は、常圧程度の1013hPaから4800hPa程度以下の範囲であることが好ましい。オキソリニック酸又はその塩の濃度、処理温度、処理時間が上記範囲であれば、繊維類に対し十分な抗菌性能を付与することができる。染色同浴加工処理の場合は、処理液中の染料濃度は、0.01
~10重量%程度である。
【0018】
上記のオキソリニック酸又はその塩を分散液として使用する場合は、分散液は取り扱いの安定性等からオキソリニック酸又はその塩の濃度を10~80重量%としておき、実際に繊維加工に用いる場合は、用途目的に応じ、適当に希釈して用いる。通常は浴中では加工液中のオキソリニック酸又はその塩が被加工繊維重量に対し0.01~10重量%程度の濃度になるように希釈して用いるのが良い。
【0019】
前記の処理方法において処理後、さらに、熱処理を行うことにより、耐洗濯性、即ち、洗濯による抗菌性の劣化防止効力を高めることができる。この熱処理は、通常、繊維を110~200℃、好ましくは100~150℃で0.5~3分間程度、保持することにより行われる。
【0020】
繊維類の抗菌加工は繊維の種類によって条件が多少変わるが、ポリエステル繊維の場合は加圧下、110~140℃程度の温度で、トリアセテート繊維の場合は常圧下、60~100℃程度の温度で処理することが望ましい。いずれの場合も処理時間は10分から1時間程度でよい。
【0021】
このようにすることにより、本発明のオキソリニック酸又はその塩は、良好に繊維類の
繊維分子間に入り込み旨く固定され、抗菌性能の持続性が向上する。
【実施例0022】
次に、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例中の、洗濯法や各種試験方法は、次の方法に従った。
1.洗濯法
繊維評価技術協議会「SEKマーク繊維製品の洗濯方法」に準じた。
【0023】
2.抗菌性試験
1)試験方法 JIS L1902「繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果」に準じた
。
2)供試菌株
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)
【0024】
3.耐光堅牢度試験
試験方法 JIS L0842「紫外線カーボンアーク灯光に対する染色堅ろう度試験
方法」に準じた。
【0025】
実施例
ポリエステル標準布(トロピカル135g/m2:谷頭商店)を用い、下記の条件で試験試料を作成した。
加工機:12色回転ポット染色試験機(MINI-COLOUR 12EL型:(株)テクサム技研製)
加工液:オキソリニック酸分散液(固型分10%,平均粒径1ミクロン)
分散染料(Kayalon Polyester Navy Blue EX-SF 200:日本化薬(株))2.25%owf
染色酸(ウルトラN-2:大和化学工業(株))0.5g/l
均染剤(イオネットRAP-250:三洋化成工業(株))0.5g/l
浴比: 1:15
加工温度及び時間: 130℃×30分間。加工後、湯洗,脱水を行った。
還元洗浄
洗浄液:ハイドロサルファイト(試薬)2g/l
炭酸ソーダ(試薬)2g/l
還元剤(ダイソーパーRC-150:大和化学工業(株))1g/l
浴比: 1:15
洗浄温度及び時間: 80℃×20分間。
【0026】
比較例
上記実施例のオキソリニック酸分散液の代わりにピリチオン亜鉛分散液(固型分60%,平均粒径1ミクロン)を加工、比較用試験試料を作成した。
【0027】
【0028】
【0029】
実施例、比較例で使用した抗菌成分分散液100mlに金属イオンを含む水溶液1mlを添加、状態の変化を確認した。
【0030】
本発明によれば、抗菌性能、処理効率が極めて高く、染色性能にも悪影響を与えない極めて優れた高圧加工処理用抗菌剤及び処理方法が提供される。特に、ポリエステル、トリアセテートといった人造繊維製品及びこれらと天然繊維との混合繊維製品に対して黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌等の細菌に対して優れた抗菌性を発揮する加工処理を施すことができる。