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特開2024-11479油脂成分を含有する組成物及びその利用並びに組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011479
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】油脂成分を含有する組成物及びその利用並びに組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/18 20060101AFI20240118BHJP
   A23L 33/115 20160101ALI20240118BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240118BHJP
   A23L 29/10 20160101ALI20240118BHJP
   A23D 7/01 20060101ALI20240118BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20240118BHJP
   A23D 7/005 20060101ALI20240118BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20240118BHJP
   A61K 35/60 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 35/612 20150101ALI20240118BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20240118BHJP
   A61K 31/01 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 31/045 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 31/047 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 31/164 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 31/202 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 31/336 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 31/36 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240118BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
A61K36/18
A23L33/115
A23L5/00 L
A23L29/10
A23L5/00 C
A23D7/01
A23D9/00 516
A23D7/005
A23L5/00 N
A23L33/125
A61K35/60
A61K35/612
A61K35/12
A61K31/01
A61K31/045
A61K31/047
A61K31/122
A61K31/164
A61K31/202
A61K31/336
A61K31/36
A61K47/14
A61K47/36
A61K9/107
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113467
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】392036094
【氏名又は名称】株式会社岐阜セラツク製造所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 大輔
(72)【発明者】
【氏名】岡本 拓也
【テーマコード(参考)】
4B018
4B026
4B035
4C076
4C086
4C087
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE03
4B018MD11
4B018MD12
4B018MD14
4B018MD20
4B018MD23
4B018MD24
4B018MD26
4B018MD30
4B018MD34
4B018MD36
4B018MD37
4B018MD46
4B018MD61
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4B018MD94
4B018ME02
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4B035LG09
4B035LG12
4B035LG18
4B035LG20
4B035LG21
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4B035LG54
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4B035LK13
4B035LP01
4B035LP21
4B035LP24
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4C076AA30
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4C076AA36
4C076AA53
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4C206MA72
4C206NA03
4C206NA11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】油脂成分に相溶性のある機能性成分を安定して保持でき、かつ油脂成分や機能性成分の細胞への取り込み性を向上させうる組成物を提供する。
【解決手段】組成物は、油脂成分と、加工デンプンとデキストリンとを少なくとも含む糖類と、HLB値が15以上16以下のショ糖ステアリン酸エステル及びHLB値が12以上16以下のポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される1種又は2種以上の乳化剤と、を、備える粉末を含有し、前記油脂成分は、100nm以上400nm以下の体積基準のメジアン径を有している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、
油脂成分と、
加工デンプンとデキストロース当量が10超20以下のデキストリンとを少なくとも含む糖類と、
HLB値が15以上16以下のショ糖ステアリン酸エステル及びHLB値が11以上16以下のポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される1種又は2種以上の乳化剤(ただし、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルのみを用いる場合は前記油脂成分と前記糖類と前記乳化剤との総量に対して6質量%以上12質量%以下含有する。)と、
を、含有する粉末を含み、
前記粉末中の油脂成分の体積基準メジアン径が100nm以上400nm以下である、組成物。
【請求項2】
前記ショ糖ステアリン酸エステルを、前記油脂成分と前記糖類と前記乳化剤との総量に対して1.5質量%以上3質量%以下含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記1種又は2種以上の乳化剤は、前記ショ糖ステアリン酸エステルに加えて、リゾレシチンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記油脂成分と前記糖類と前記乳化剤との総量に対して、前記油脂成分を15質量%以上25質量%以下、前記糖類を60質量%以上84質量%以下、前記乳化剤を1質量%以上15質量%以下含有する粉末を含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記粉末は、前記油脂成分が前記糖類及び前記乳化剤でカプセル化されている粒子を含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記乳化剤は、HLB値が11以上13以下の前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記乳化剤として、前記ショ糖ステアリン酸エステル、前記ポリグリセリン脂肪酸エステル及びリゾレシチンを含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記油脂成分は、脂溶性の機能性成分を含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記機能性成分は、β-カロチン、ルテイン、β-クリプトキサンチン、リコピン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、フコキサンチン、ビタミンA、セラミド、クルクミン、セサミン、EPA及びDPAからなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物は、前記油脂成分と前記糖類と前記乳化剤との総量に対して、前記油脂成分を18質量%以上23質量%以下、前記糖類を70質量%以上80質量%以下、前記乳化剤を2質量%以上12質量%以下含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の組成物を含有する、錠剤、カプセル剤、顆粒剤又は散剤である経口投与のための医薬製剤。
【請求項12】
請求項1に記載の組成物を含有する、錠剤、カプセル剤、顆粒剤又は散剤である、経口摂取又は経管栄養のための食品又は栄養補助食品。
【請求項13】
油脂成分と、加工デンプンとDEが10超20以下のマルトデキストリンとを少なくとも含む糖類と、HLB値が15以上16以下のショ糖ステアリン酸エステル及びHLB値が11以上16以下のポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される1種又は2種以上の乳化剤と、を含有する、水中油滴型エマルジョンであって、油滴の体積基準のメジアン径が100nm以上400nm以下である試料液を調製する試料液調製工程と、
前記試料液を噴霧乾燥して粉末とする粉末化工程と、
を備える、製造方法。
【請求項14】
前記試料液調製工程は、加温した水性媒体に、前記糖類及び前記乳化剤を加えて溶解して第1の原液を調製し、前記油脂成分が油滴として分散できる程度の温度まで降下した前記第1の原液に前記油脂成分を加えて第2の原液を調製し、前記第2の原液をホモジナイズして前記試料液を調製することを含む、請求項13に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、油脂成分を含有する組成物及びその利用並びに組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、食用油などの油脂成分を含有する粉末状の組成物がある。こうした粉末状組成物は、例えば、本来、液体である食用油のハンドリング性、保存安定性、水への溶解性、種々の使用形態への適用性などの向上を意図して、油脂成分に加えて、乳化剤や、その他の適切な媒体を混合して製造されることがある。
【0003】
この種の組成物では、例えば、油脂成分が浸出することがあり、そのような浸出を抑制する組成が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/076164号
【特許文献2】国際公開第2013/084518号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現状において、油溶性の機能性成分を効果的に油脂成分に内包して保持するとともに、油脂成分ないし機能性成分の細胞への取り込み性を向上させることができる組成物は提供されていない。
【0006】
本明細書は、油脂成分に相溶性のある機能性成分を安定して保持でき、かつ油脂成分や機能性成分の細胞への取り込み性を向上させうる組成物を提供する。また、本明細書は、かかる組成の利用及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、油脂成分を含有する組成物に関し、用いる乳化剤組成について種々検討するほか、油脂成分の粒子径について検討した。その結果、本発明者らは、ある種の乳化剤の組合せが、機能性成分を安定保持できるという知見を得た。さらに、本発明者らは、粉末化したとき、油脂成分の粒子径を制御することにより、機能性成分の細胞内取り込み性を向上させうるという知見を得た。本明細書は、これらの知見に基づき、以下の手段を提供する。
【0008】
[1]組成物であって、
油脂成分と、
加工デンプンとデキストロース当量が10超20以下のデキストリンとを少なくとも含む糖類と、
HLB値が15以上16以下のショ糖ステアリン酸エステル及びHLB値が11以上16以下のポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される1種又は2種以上の乳化剤(ただし、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルのみを用いる場合は前記油脂成分と前記糖類と前記乳化剤との総量に対して6質量%以上12質量%以下含有する。)と、
を、含有する粉末を含み、
前記粉末中の油脂成分の体積基準メジアン径が100nm以上400nm以下である、組成物。
[2]前記ショ糖ステアリン酸エステルを、前記油脂成分と前記糖類と前記乳化剤との総量に対して1.5質量%以上3質量%以下含有する、[1]に記載の組成物。
[3]前記1種又は2種以上の乳化剤は、前記ショ糖ステアリン酸エステルに加えて、リゾレシチンを含む、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]前記油脂成分と前記糖類と前記乳化剤との総量に対して、前記油脂成分を15質量%以上25質量%以下、前記糖類を60質量%以上84質量%以下、前記乳化剤を1質量%以上15質量%以下含有する粉末を含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]前記粉末は、前記油脂成分が前記糖類及び前記乳化剤でカプセル化されている粒子を含有する、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]前記乳化剤は、HLB値が11以上13以下の前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを含む、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7]前記乳化剤として、前記ショ糖ステアリン酸エステル、前記ポリグリセリン脂肪酸エステル及びリゾレシチンを含有する、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]前記油脂成分は、脂溶性の機能性成分を含有する、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9]前記機能性成分は、β-カロチン、ルテイン、β-クリプトキサンチン、リコピン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、フコキサンチン、ビタミンA、セラミド、クルクミン、セサミン、EPA及びDPAからなる群から選択される1種又は2種以上である、[8]に記載の組成物。
[10]前記組成物は、前記油脂成分と前記糖類と前記乳化剤との総量に対して、前記油脂成分を18質量%以上23質量%以下、前記糖類を70質量%以上80質量%以下、前記乳化剤を2質量%以上12質量%以下含有する、[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[11][1]~[10]のいずれかに記載の組成物を含有する、錠剤、カプセル剤、顆粒剤又は散剤である経口投与のための医薬製剤。
[12][1]~[10]のいずれかに記載の組成物を含有する、錠剤、カプセル剤、顆粒剤又は散剤である、経口摂取又は経管栄養のための食品又は栄養補助食品。
[13]油脂成分と、加工デンプンとDEが10超20以下のマルトデキストリンとを少なくとも含む糖類と、HLB値が15以上16以下のショ糖ステアリン酸エステル及びHLB値が11以上16以下のポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される1種又は2種以上の乳化剤と、を含有する、水中油滴型エマルジョンであって、油滴の体積基準のメジアン径が100nm以上400nm以下である試料液を調製する試料液調製工程と、
前記試料液を噴霧乾燥して粉末とする粉末化工程と、
を備える、製造方法。
[14]前記試料液調製工程は、加温した水性媒体に、前記糖類及び前記乳化剤を加えて溶解して第1の原液を調製し、前記油脂成分が油滴として分散できる程度の温度まで降下した前記第1の原液に前記油脂成分を加えて第2の原液を調製し、前記第2の原液をホモジナイズして前記試料液を調製することを含む、[13]に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書の開示は、油脂成分を含有する組成物、その利用及びその製造方法等に関する。
【0010】
本明細書に開示される組成物(以下、単に本組成物ともいう。)は、内包される油脂成分の体積基準のメジアン径(以下、単に、メジアン径ともいう。)を所定範囲となっている。こうした油脂製分は、安定して粉末粒子において保持され、しかも、油脂成分自身の細胞取り込み性に優れている。また、前記粉末は、水の再溶解性に優れている。さらに、本組成物は、油脂成分のカプセル化率にも優れている。このため、油脂成分の劣化を抑制できる。以上のことから、本組成物は、油脂成分ないし油脂成分に相溶する油溶性の機能性成分を粉末の形態で提供し利用することに適している。
【0011】
本組成物は、粉末として種々の形態、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤及び散剤等として医薬製剤又は栄養補助食品などとして用いることができる。本組成物は、水性媒体に溶解して、医薬製剤又は栄養補助食品などとして用いることができる。
【0012】
本明細書に開示される本組成物の製造方法によれば、本組成物を効率的に製造することができる。
【0013】
なお、本明細書において、「HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)値」は、成分として市販品を使用し、かつ、市販品のカタログ等の文献において、その市販品のHLB値が明確に示されている場合には、カタログ等の文献に示された値を採用する。使用する成分が市販品ではない場合、或いは、市販であってもHLB値がカタログ等の文献に明確に示されていない場合には、本開示におけるHLB値としては、以下に示す川上式を採用する。
【0014】
HLB=7+11.7log(M/M
ここで、Mは親水基の分子量、Mは疎水基の分子量である。
【0015】
以下、本組成物、その製造方法、本組成物の利用等につき、詳細に説明する。
【0016】
(油脂成分を含有する組成物)
本組成物は、油脂成分と、加工デンプンとマルトデキストリンとを少なくとも含む糖類と、ショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される1種又は2種以上の乳化剤と、を、含み、100nm以上400nm以下の体積基準のメジアン径を有する油脂成分を含んでいる。すなわち、本組成物は、こうした組成とメジアン径で規定される油脂成分を含む混合物(粉末)である。
【0017】
本組成物は、糖類及び乳化剤をシェルとし油脂成分をコアとするコアシェル型又は油脂成分を分散質とし糖類及び乳化剤をマトリックスとして有するマトリックス型のマイクロカプセル(粒子)の形態を有しているものと考えられ、マクロ的には粉末の形態を備えている。以下、本組成物の組成及び油脂成分のメジアン径等について説明について説明する。
【0018】
(油脂成分)
油脂成分としては、少なくとも常温で液状である可食性の液状油脂を含んでいる。なお、本明細書において、常温とは、15℃以上25℃以下をいう。保存安定性の観点から、かかる液状油脂を含有することが有利な場合がある。液状油脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、亜麻仁油、オリーブ油、グレープシード油、コメ油、エゴマ油、アボカド油、パンプキンシード油、ベニハナ油、月見草油、ボラージシード油、シーバックソーン油、ターメリック油、ナタネ油、大豆油、ゴマ油、ピーナッツ油、ローズヒップ油などの植物由来の液状油脂、魚油、クリルオイルなどの海生生物由来の液状油脂、炭素数6~12の中鎖脂肪酸を構成脂肪酸とする中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、炭素数6~12の中鎖脂肪酸と炭素数12~24の長鎖脂肪酸とを構成脂肪酸とするトリグリセリド、及びこれらの混合油等が挙げられる。本組成物では、1種又は2種以上の液状油脂を組み合わせて用いることができる。油脂成分としては、例えば、植物由来の液状油脂を用いることが、製造設備の汚染回避の観点から好適な場合がある。
【0019】
油脂成分は、常温で固体の可食性の固形状油脂を含んでいてもよい。こうした油脂としては、パーム油、ココナッツオイルなどの植物由来の固形状油脂のほか、ラード、バターなどの動物由来の固形状油脂が挙げられる。
【0020】
油脂成分には、上記した液状油脂及び固形状油脂との混合物を用いてもよい。油脂成分においては、油脂成分の総量に対して液状油脂が例えば50質量%以上、また例えば、60質量%以上、また例えば、65質量%以上、また例えば、70質量%以上、また例えば、75質量%以上、また例えば、80質量%以上、また例えば、85質量%以上、また例えば、90質量%以上、また例えば、95質量%以上、また例えば、97質量%以上、Mあ、98質量%以上、また例えば99質量%以上、また例えば100質量%である。液状油脂を50質量%以上含むことで、好適なメジアン径を得やすくなる場合及び/又は油脂成分の内包状態に貢献する場合がある。
【0021】
また、油脂成分の総量に対して固形状油脂は、例えば、30質量%以下、また例えば、25質量%以下、また例えば、20質量%以下、また例えば、15質量%以下、また例えば、10質量%以下、また例えば、5質量%以下、また例えば、1質量%以下である。固形状油脂が多すぎる場合、好適なメジアン径が得られなくなる場合及び/又は油脂成分の内包状態が低下する場合がある。
【0022】
(機能性成分)
油脂成分は、液状油脂及び固形状油脂のほかに、本組成物に用いる液状油脂等に相溶する油溶性である機能性成分を含むことができる。機能性成分は、ヒトなどの動物の生理学的機能の促進、改善、機能低下抑制に貢献する成分であり、その作用は特に限定されない。例えば、抗酸化作用、過剰アレルギー抑制作用、血圧上昇抑制、血糖値上昇抑制作用、脂質代謝改善作用、認知機能改善作用、骨量また骨密度改善作用、筋肉量低下抑制作用、疾患リスク低減作用等の各種の生理機能の改善に貢献する成分が挙げられる。こうした機能性成分は、特に限定するものではないが、例えば、βーカロチン、ルテイン、β-クリプトキサンチン、リコピン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、フコキサンチン、ビタミンA、セラミド、クルクミン及びセサミン等が挙げられる。また、EPA、DPA等であってもよい。さらに、油溶性の治療用又は予防用の成分であってもよい。機能性成分としては、これらを一種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0023】
なお、液状油脂又は固形状油脂が、それ自体機能性成分である場合がある。また、液状油脂又は固形状油脂が、その原料に由来する油溶性の機能性成分を含有する場合がある。
【0024】
例えば、油脂成分は、液状油脂や固形状油脂が1種又は2種以上の機能性成分を内包するとともに、液状油脂等に由来しない機能性成分を含有している場合がある。
【0025】
本組成物における油脂成分の含有量は、特に限定するものでなく、所定範囲のメジアン径の油脂成分を得られる範囲で適宜設定される。本組成物における油脂成分の含有量は、本組成物における油脂成分、糖類及び乳化剤の総量に対して、例えば、10質量%以上であり、また例えば、15質量%以上であり、また例えば、17質量%以上であり、また例えば、18質量%以上であり、また例えば、19質量%以上であり、また例えば、20質量%以上である。また、その含有量は、30質量%以下であり、また例えば、25質量%以下であり、また例えば、23質量%以下であり、また例えば、22質量%以下であり、また例えば、21質量%以下である。また、油脂成分の含有量の範囲は、上記上限値及び下限値から適宜選択して選択することができるが、例えば、15質量%以上25質量%以下であり、また例えば、17質量%以上23質量%以下であり、また例えば、18質量%以上でありまた例えば22質量%以下であり、また例えば、19質量%以上21質量%以下である。
【0026】
本組成物における機能性成分の含有量は、特に限定するものではなく、油脂成分の範囲内又はその一部として適宜設定される。
【0027】
(糖類)
糖類としては、少なくとも加工デンプンとデキストリンとを含むことができる。加工デンプンは、デンプンを、酵素的及び/又は化学的及び/又は物理的に修飾したものであり、特に限定するものではないが、例えば、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸化架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピルリン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、リン酸架橋デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等が挙げられる。加工デンプンとしてはこれらを1種又は2種以上組み合わせて用いることができるが、加工デンプンを用いることで、油脂成分のカプセル化及び/又は細胞取り込み性に貢献できる場合がある。例えば、少なくともオクテニルコハク酸デンプンナトリウムを用いることが、乳化に貢献できて有利な場合がある。
【0028】
デキストリンは、α-グルコースがグリコシド結合によって重合したものであって、典型的には、例えば、デンプン又はグリコーゲンの加水分解で得られる炭水化物の総称である。デキストリンとしては、これらを1種又は2種以上組み合わせて用いることができるが、DE(DextroseEquivalent、デキストロース当量、デンプンの糖化率の指標である。)が10超20以下のマルトデキストリンが、有利な場合がある。マルトデキストリンは、様々な長さのD-グルコース単位で構成される。マルトデキストリンにおいては、D-グルコースはα1,4-グリコシド結合で繋がっており、通常、グルコースの長さが3から19の混合物として得られる。
【0029】
また、DEが2以上10以下のデキストリンが、マルトデキストリンと区別されて単にデキストリンと称される場合がある。また、クラスターデキストリン(典型的には、アミロペクチンなどを原料として高度に分岐したデキストリンであり、高分子量である。)が挙げられる。クラスターデキストリンのDEは、約3の場合がある。2以上10以下のデキストリンやクラスターデキストリンを用いないことが、粉末化に有利な場合がある。
【0030】
糖類としては、加工デンプン及びデキストリン以外に、適宜他の糖類を含むことができる。例えば、単糖、二糖、オリゴ糖などが挙げられる。
【0031】
本組成物における糖類の含有量は、特に限定するものでなく、所定範囲のメジアン径の油脂成分を得られる範囲で適宜設定される。本組成物における糖類の含有量は、本組成物における油脂成分、糖類及び乳化剤の総量に対して、例えば、60質量%以上であり、また例えば、65質量%以上であり、また例えば、66質量%以上であり、また例えば、67質量%以上であり、68質量%以上であり、また例えば、69質量%以上であり、また例えば、70質量%以上であり、また例えば、71質量%以上であり、また例えば、72質量%以上であり、また例えば、73質量%以上であり、また例えば、74質量%以上であり、また例えば、75質量%以上であり、また例えば、76質量%以上である。前記含有量は、また例えば、84質量%以下であり、また例えば、83質量%以下であり、また例えば、82質量%以下であり、また例えば、81質量%以下であり、」麻、80質量%以下であり、また例えば、79質量%以下であり、また例えば、78質量%以下であり、77質量%以下であり、76質量%以下であり、また例えば、75質量%以下であり、また例えば、74質量%以下である。また、糖類の含有量の範囲は、上記上限値及び下限値から適宜選択して選択することができるが、例えば、60質量%以上84質量%以下であり、また例えば、70質量%以上80質量%以下であり、また例えば、72質量%以上77質量%以下であり、また例えば、72質量%以上75質量%以下である。
【0032】
糖類における加工デンプン及びデキストリンの含有量は、特に限定するものではないが、加工デンプン及びデキストリンの総量が糖類の総量の、例えば、90質量%以上、また例えば、95質量%以上、また例えば、96質量%以上、また例えば、97質量%以上、また例えば、98質量%以上、また例えば、99質量%以上、また例えば、100%である。また、糖類における加工デンプンとデキストリンとの質量比は特に限定するものではないいが、例えば、加工デンプン:デキストリンが、30:70~70:30であり、また例えば、40:60~60:40であり、また例えば、45:55~55:45であり、また例えば、50:50である。
【0033】
(乳化剤)
乳化剤としては、少なくとも、ショ糖ステアリン酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される1種又は2種以上を用いることができる。本組成物における乳化剤は、糖類とともに、油脂成分を乳化し油脂成分を所定範囲のメジアン径にカプセル化できるように適宜選択される。
【0034】
(ショ糖ステアリン酸エステル)
ショ糖ステアリン酸エステルは、単独で、又は、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はリゾレシチンとの組合せで、油脂成分のメジアン径及び/又は細胞取り込み性の観点から有利な場合がある。
【0035】
ショ糖ステアリン酸エステルのHLB値としては、乳化安定性向上の観点から、例えば、14以上であり、また例えば、15以上である。また、HLB値は、同様の観点から、例えば、18以下であり、また例えば、17以下であり、また例えば、16以下である。典型的には、HLB値は、14以上17以下であり、あるいは、15以上16以下である。
【0036】
ショ糖ステアリン酸エステルにおけるエステル置換数は特に限定されないが、乳化安定性向上の観点から、ショ糖脂ステアリン酸エステルの全質量に対するモノ置換体(モノエステル体ともいう)の割合が、例えば70質量%以上、また例えば、75質量%以上、また例えば、80質量%以上、また例えば、85質量%以上、また例えば、90質量%以上、また例えば、95質量%以上、また例えば、100質量%(すなわち、全てのショ糖脂肪酸エステルがモノエステル体)であってもよい。なお、ショ糖ステアリン酸エステルにおけるモノエステル体の含有率は、以下の方法により算出することができる。
【0037】
(ショ糖ステアリン酸エステルにおけるモノエステル体の含有率の測定)
以下に示す高速液体クロマトグラフィーにおける保持時間15分~30分におけるピーク総面積に対する保持時間17分~22分におけるピーク面積の割合を算出し、これをモノエステル体の含有率とする。
【0038】
<試料の調製>
ショ糖ステアリン酸エステルを、1mg/mLとなる量でテトラヒドロフランへ添加し、溶解して試料溶液を得る。
<測定条件>
使用装置:高速液体クロマトグラフィーprominence(株式会社島津製作所)
検出方法:コロナ荷電化粒子検出
カラム:CapcellpackC18UG1204.6mm×150mm(株式会社資生堂)
カラム温度:40℃
溶離液:0分~20分:水/メタノール50/50、7mM酢酸アンモニウム;20分~30分:メタノール、7mM酢酸アンモニウム
流量:1mL/min
注入量:10μL
【0039】
なお、ショ糖ステアリン酸脂肪酸エステル以外の他のショ糖脂肪酸エステルも適宜用いることができる。他のショ糖脂肪酸エステルとしては、例えば、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル等が挙げられる。他のショ糖脂肪酸エステルとしては、1種又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0040】
ショ糖ステアリン酸エステルとしては、例えば、商業的に入手可能なショ糖ステアリン酸エステルを用いることができる。特に限定するものではないが、例えば、リョートー(登録商標)シュガーエステルS1570(商品名、ショ糖ステアリン酸エステル、HLB値:約15(カタログ値))、リョートー(登録商標)シュガーエステルS1670(商品名、ショ糖ステアリン酸エステル、HLB値:約16(カタログ値)、DKエステル(登録商標)F-160(ショ糖ステアリン酸エステル、HLBチャネル:約15~16、第一工業製薬(株)製)が挙げられる。また、他のショ糖脂肪酸エステルとしては、例えば、リョートー(登録商標)シュガーエステルP1570(商品名、ショ糖パルミチン酸エステル、HLB値:約15(カタログ値)、三菱化学フーズ(株))、リョートー(登録商標)シュガーエステルP1670(商品名、ショ糖パルミチン酸エステル、HLB値:約16(カタログ値))(以上、三菱化学フーズ(株)製)、)を用いることができる。さらに、DKエステルSS、F140、F110、F90、F70、F50、F-20W、F-10、FA-10E、コスメライク、S-10、S-50、S-70、S-110、S-160、S-190(以上、商品名、第一工業製薬(株)製)等が挙げられる。
【0041】
ショ糖脂ステアリン酸エステルの含有量は、本組成物の油脂成分、糖類及び乳化剤の総量に対して規定されうる。すなわち、ショ糖ステアリン酸エステルの含有量は、例えば、前記総量の0.1質量%以上であり、また例えば、0.5質量%以上であり、また例えば、0.7質量%以上であり、また例えば、0.8質量%以上であり、また例えば、また例えば、1.0質量%以上であり、また例えば、1.2質量%以上であり、また例えば、1.3質量%以上であり、また例えば、1.4質量%以上であり、また例えば、1.5質量%以上である。また、同含有量は、2.0質量%以下であり、また例えば、1.8質量%以下であり、また例えば、1.6質量%以下であり、また例えば、1.8質量%以下であり、また例えば、2.0質量%以下であり、また例えば、2.2質量%以下であり、また例えば、2.4質量%以下であり、また例えば、2.6質量%以下であり、また例えば、2.8質量%以下であり、また例えば、3.0質量%以下であり、また例えば、3.5質量%以下であり、また例えば、4.0質量%以下である。
【0042】
ショ糖ステアリン酸エステルの含有量の範囲は、上記した下限値及び上限値を適宜組み合わせることができるが、例えば、1.0質量%以上4.0質量%以下であり、また例えば、1.0質量%以上3.0質量%以下であり、また例えば、1.0質量%以上2.0質量%以下であり、また例えば、1.2質量%以上1.8質量%以下であり、また例えば、1.4質量%以上1.6質量%以下などの範囲とすることができる。
【0043】
なお、ショ糖ステアリン酸エステルは、乳化剤として単独で使用するほか、リゾレシチン及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルと組み合わせて使用する場合において、上記下限値及び上限値でその使用量を規定しうる。例えば、単独で使用する場合には、1.0質量%以上4.0質量%以下などが好ましい場合がある。
【0044】
(ポリグリセリン脂肪酸エステル)
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、公知のポリグリセリン脂肪酸エステルを1種又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。こうしたポリグリセリン酸脂肪酸エステルは、単独で、あるいはショ糖ステアリン酸エステル及び/又はリゾレシチンと組み合わせて用いることで、油脂成分のメジアン径、カプセル化、細胞取り込み性、外観変化等に有利な場合がある。
【0045】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、乳化安定性をより向上させる観点から、HLB値が、例えば、10以上であり、また例えば、11以上であり、また例えば、12以上であり、また例えば、13以上であり、また例えば、14以上であり、また例えば、15以上である。また、HLB値は、例えば、20以下であり、また例えば、18以下であり、また例えば、17以下である。
【0046】
ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値は、ショ糖脂肪酸エステルのHLB値とは異なることが好ましい。異なるHLB値とすることで乳化安定性、油脂成分のカプセル化、油脂成分のメジアン径及び細胞取り込み性に有利な場合がある。ポリグリセリン酸脂肪酸エステルのHLB値は、ショ糖脂肪酸エステルのHLB値よりも、例えば1以上4以下、また例えば、1以上3以下、また例えば、1以上2以下程度低いことが好ましい場合がある。こうした観点からは、ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値は、HLB値は、例えば、11以上13以下、また例えば、12等である。
【0047】
ポリグリセリン酸脂肪酸エステルとしては、平均重合度が好ましくは6~20、より好ましくは8~16、さらに好ましくは8~10のポリグリセリンと、炭素数10~22の不飽和脂肪酸及び炭素数8~22の飽和脂肪酸から選ばれる脂肪酸のエステルが挙げられる。なお、炭素数10~22の不飽和脂肪酸には、炭素数10~22の直鎖状不飽和脂肪酸及び炭素数10~22の分岐不飽和脂肪酸が含まれ、炭素数8~22の飽和脂肪酸には、炭素数8~22の直鎖状飽和脂肪酸及び炭素数8~22の分岐飽和脂肪酸が含まれる。ポリグリセリンの重合度が上記範囲にあることで、乳化安定性がより良好となる。
【0048】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、炭素数10~22の不飽和脂肪酸構造、炭素数8~22の飽和脂肪酸構造から選ばれる脂肪酸構造を有するエステルが好ましく、炭素数16~22の不飽和脂肪酸構造の少なくとも1つを有する脂肪酸のエステルがより好ましい場合がある。炭素数10~22の不飽和脂肪酸から選ばれる脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、リノール酸等が挙げられる。炭素数8~22の飽和脂肪酸から選ばれる脂肪酸としては、例えば、ミリスチン酸等が挙げられる。
【0049】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、モノエステル体であってもよく、ジエステル体であってもよいが、モノエステル体であることが好ましい場合がある。
【0050】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、特に限定するものではないが、例えば、デカグリセリンラウリン酸エステル、デカグリセリンミリスチン酸エステル、デカグリセリンパルミチン酸エステル、デカグリセリンステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンリノール酸エステル、デカグリセリンイソステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンイソステアリン酸エステル、デカグリセリンモノイソステアリン酸エステル等が挙げられ、なかでも、デカグリセリンラウリン酸エステル、デカグリセリンミリスチン酸エステル、デカグリセリンパルミチン酸エステル、デカグリセリンステアリン酸エステル、イソステアリン酸ポリグリセリル及びオレイン酸ポリグリセリルからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、デカグリセリンモノオレイン酸エステル(HLB値:12)、デカグリセリンミリスチン酸エステル(HLB値:16)等が有利な場合がある。
【0051】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは市販品を用いてもよく、ポエムJ-0381V(理研ビタミン(株)社製)、SYグリスターMM-750(阪本薬品工業株式会社製)などが挙げられる。
【0052】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、本組成物の油脂成分、糖類及び乳化剤の総量に対して規定されうる。ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、例えば、乳化剤として単独で用いる場合には、6.0質量%以上、また例えば、7.0質量%以上、また例えば、8.0質量%以上、また例えば、9.0質量%以上とすることができる。また、12質量%以下、また例えば、11質量%以下、また例えば、10質量%以下などとすることができる。かかる場合のポリグリセリン脂肪酸エステルの範囲は、既述の下限及び上限を適宜組み合わせて設定できるが、例えば、6.0質量%以上12質量%以下、また例えば、6.0質量%以上11質量%以下、また例えば、7.0質量%以上11質量%以下、8質量%以上10質量%以下、9.0質量%以上10質量%以下などとすることができる。
【0053】
一方、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量の範囲は、ショ糖ステアリン酸エステルと併用する場合には、例えば、1.0質量%以上2.0質量%以下であり、また例えば、1.2質量%以上1.8質量%以下、また例えば、1.4質量%以上1.6質量%以下などの範囲とすることができる。
【0054】
(リゾレシチン)
本組成物は、乳化剤として、ショ糖ステアリン酸エステルと組み合わせて、リゾレシチンを用いることができる。リゾレシチンは、動物細胞の生体膜の主要構成成分であるリン脂質を主成分とするレシチンを酵素処理によりアルキル鎖を単鎖化して親水性を高めた、レシチンの加水分解物をいう。ここで、レシチンは、典型的には、ホスファチジルコリン(PC)などの各種のリン脂質を含有する混合物である。リゾレシチンは、より具体的には、ホスホリパーゼなどの酵素により、ホスファチジルコリン分子が持つ1つの脂肪酸が失われたリゾホスファチジルコリンを含有する組成物である。リゾレシチンは、ショ糖ステアリン酸エステルの組合せにより、あるいはショ糖ステアリン酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルとの組み合わせにより、油脂成分の乳化を促進し、油脂成分のメジアン径を調整するのに有効である。なお、本明細書におけるリゾレシチンは、水素添加処理を行い、結合脂肪酸を飽和脂肪酸にすることで酸化安定性を向上させた、いわゆる水素添加された酵素分解レシチンを含む。
【0055】
リゾレシチンに含まれるリゾホスファチジルコリンの濃度は、安定な水中油型エマルジョンを得る観点及び油脂成分のカプセル化の観点から、例えば、18質量%以上75質量%以下であり、また例えば、18質量%以上65質量%以下であり、また例えば、18質量%以上30質量%以下である。
【0056】
リゾレシチンの含有量は、本組成物の油脂成分、糖類及び乳化剤の総量に対して規定されうる。すなわち、リゾレシチンの含有量は、例えば、前記総量の0.1質量%以上であり、また例えば、0.5質量%以上であり、また例えば、1質量%以上であり、また例えば、2質量%以上であり、また例えば、2.5質量%以上であり、また例えば、2.8質量%以上であり、また例えば、2.9質量%以上である。また、同含有量は、9質量%以下であり、また例えば、8質量%以下であり、また例えば、6質量%以下であり、また例えば、5質量%以下であり、また例えば、4.5質量%以下であり、また例えば、4質量%以下であり、また例えば、3.5質量%以下であり、また例えば、3.2質量%以下であり、また例えば、3.1質量%以下である。リゾレシチンの含有量の範囲は、上記した下限値及び上限値を適宜組み合わせることができるが、例えば、0.1質量%以上5質量%以下、0.5質量%以上4質量%以下、1質量%以上4質量%以下、2質量%以上4質量%以下などとすることができる。
【0057】
リゾレシチンとしては、例えば、商業的に入手可能なリゾレシチンを用いることができる。特に限定するものではないが、SLP-ホワイトリゾ(商品名、辻製油社製)、SLP-ホワイトリゾH(商品名、辻製油社製)、ベネコート(登録商標)BMI-40L(商品名、花王社製)、レシマール(登録商標)EL(商品名、理研ビタミン社製)等が挙げられる。
【0058】
本組成物に用いる乳化剤としては、ショ糖ステアリン酸エステルのみを用いることが有利な場合もある。この場合、ショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖脂肪酸エステルであって脂肪酸がステアリン酸及び/又はHLB値が15以上16以下であり、ショ糖脂肪酸エステルは、前記総量に対して、例えば、1質量%以上3質量%以下、1.2質量%以上1.7質量%以下などとすることができる。
【0059】
本組成物に用いる乳化剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステルのみを用いることが有利な場合もある。この場合、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLB値が12以上16以下であり、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、前記総量に対して、例えば、5質量%以上10質量%以下、また例えば、6質量%以上10質量%以下、また例えば、7質量%以上10質量%以下、8質量%以上10質量%以下などとすることができる。
【0060】
本組成物に用いる乳化剤としては、ショ糖ステアリン酸エステル及びリゾレシチンを用いることが、油脂成分のメジアン径、カプセル化、細胞取り込み性に関して有利な場合がある。なかでも、ショ糖ステアリン酸エステルであってHLB値が15以上16以下であることが有利な場合がある。この場合、リゾレシチンは、前記総量に対して、例えば、2質量%以上4質量%以下、2.5質量%以上3.5質量%以下などとすることができ、ショ糖ステアリン酸エステルは、1質量%以上3質量%以下、1.2質量%以上1.7質量%以下などとすることができる。
【0061】
さらに、本組成物に用いる乳化剤としては、ショ糖ステアリン酸エステル、リゾレシチン及びポリグリセリン脂肪酸エステルを組み合わせることが有利な場合がある。この場合、ショ糖ステアリン酸エステルであってHLB値が15以上16以下であり、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、HLB値が11以上13以下であることが有利な場合がある。この場合、ショ糖ステアリン酸エステルは、1質量%以上3質量%以下、1.2質量%以上1.7質量%以下などとすることができ、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、1質量%以上に2質量%以下、1.2質量%以上1.7質量%以下などとすることができる。リゾレシチンは、前記総量に対して、例えば、2質量%以上4質量%以下、2.5質量%以上3.5質量%以下などとすることができ、
【0062】
本組成物における乳化剤の総量は、特に限定するものではないが、前記総量に対して、例えば、1質量%以上10質量%以下、また例えば、1質量%以上8質量%以下、また例えば、1.5質量%以上7質量%以下などとすることができる。
【0063】
(酸化防止剤)
本組成物は酸化防止剤を含有することができる。酸化防止剤としては、特に限定されないで、公知の酸化防止剤を1種又は2種以上を適宜用いることができる。例えば、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物、トコフェロール等のビタミンE及びその誘導体、ビタミンA、レチノイン酸、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、レチニルアセテート、レチニルパルミテート、レチノイン酸トコフェリル、ビタミンC及びその誘導体、カイネチン、セサミン、α-リポ酸、コエンザイムQ10、フラボノイド類、エリソルビン酸、没食子酸プロピル、BHT(ジ-n-ブチルヒドロキシトルエン)、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、トレチノイン、ポリフェノール、SOD(スーパーオキサイドディスムターゼ)、フィチン酸、コウキエキス、大豆エキス、エイジツエキス、ローズマリーエキスなどを挙げることができる。
【0064】
酸化防止剤の含有量は、特に限定するものではないが、例えば、油脂成分のカプセル化の観点から、本組成物の全質量に対して0.1質量%以上3質量%以下、また例えば、0.1質量%以上2質量%以下であり、また例えば、0.1質量%以上1質量%以下である。
【0065】
(その他の成分)
本組成物は、上述した各成分の他に、必要に応じて任意の他の成分を、1種又は2種以上含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、医薬品、栄養補助食品及び/又は飲食品に使用可能なものであれば、特に制限されない。
【0066】
本組成物は、以下の特徴を有することができる。本組成物は、例えば、以下の特徴のうち、油脂成分のメジアン径分布に関する特徴のほか、1種又は2種以上の特徴を有することができる。好ましくは、メジアン径、細胞取り込み性であり、さらに、カプセル化率及び/又は水溶解性を備えることができる。
【0067】
(本組成物中の油性成分の平均粒子径)
本組成物に含まれる油脂成分の平均粒子径は、体積基準メジアン径で規定されうる。かかる平均粒子径は、例えば、100nm以上400nm以下である。こうした平均粒子径であると、油脂成分の細胞取り込み性に貢献することができる場合がある。油脂成分の細胞取り込み性及び本組成物の良好な透明性と安定性の観点からは、また例えば、100nm以上350nm以下、また例えば、100nm以上300nm以下であり、また例えば、100nm以上250nm以下であることが好ましい場合がある。また、油脂成分の体積基準の粒径分布において、体積基準メジアン径の±50%の範囲に、60体積%以上の粒子が含まれることが好ましい場合がある。
【0068】
油性成分の体積基準メジアン径は、動的光散乱法により、レーザー回折/散乱式の粒子径分布測定装置(堀場製作所製 LA-960)を用いて、油滴の体積メジアン径として測定することができる。本組成物1gを脱イオン水5mLに溶解させ、その水溶液100μlを脱イオン水20mlに分散させたものを試料として上記装置にて測定することができる。なお、当該平均粒子径は、本組成物の製造工程において、水中油滴エマルジョン中の油滴の平均粒子径(体積基準メジアン径)に対応している。
【0069】
(カプセル化率)
本組成物5gを採取し、n-ヘキサン50mlに分散、ろ過することで油脂成分の抽出を行い、抽出液を乾固し、本組成物の表面に露出した油脂成分の質量を求める。次に、ヘキサン抽出を行った後の不溶物である粉状組成物を脱イオン水100mLに溶解する。この溶液を溶媒(エタノール:ヘキサン=1:1)100mLにて3回分液を行い、得られたエタノール:ヘキサン層を纏めて濃縮することで、本組成物中において内包された(カプセル化された)油脂成分の質量を求める。得られた値を用い、以下の式(1)からカプセル化率を算出する。
カプセル化率(%)=本組成物に内包された油脂成分の質量/(本組成物表面の油脂成分の質量+本組成物に内包された油脂成分の質量)×100 式(1)
【0070】
本組成物においては、カプセル化率は、例えば、90%以上であり、また例えば、92%以上であり、また例えば94%以上であり、また例えば、96%以上であり、また例えば、98%以上である。
【0071】
(細胞への取り込み性能)
ヒト結腸癌由来Caco-2細胞をトランスウェル(コーニング社製)の上層ウェル半透膜上でDMEM培地を用いて5%CO、37℃、2週間培養し、評価前にHBSS緩衝液にて洗浄後、Millicell-ERS(ミリポア社製)により上層ウェルと下層ウェルの電気抵抗を測定し、小腸上皮様のモデルとして用いた。上層ウェルに油脂成分が0.5 mg/ml、DMSOが0.1%になるように、HBSS緩衝液で希釈した油脂成分(対照液)及び本組成物を同様に希釈した液(試料液)それぞれ添加し、5%CO、37℃で1時間インキュベート後、下層ウェルの培地を回収した。
【0072】
回収した培地に、ヘプタデカン酸を10nMになるように添加し、クロロホルム:メタノール=1:1溶液を2ml用いて油脂成分を抽出した。クロロホルム層を回収して乾固後、アセトニトリル1mlで再溶解させた。これを15000rpmで5分遠心し、上清をLC-MS/MS用サンプルとした。
【0073】
LC-MS/MS(Xevo TQD:Waters社製)を用いて上層ウェルから半透膜を透過して下層ウェルに吸収された油脂成分の定量分析を、ヘプタデカン酸を内部標準として行った。条件は以下のとおりである。
カラム: Develosil C18
移動相: A:0.5%ギ酸水溶液
B:アセトニトリル(0.5%ギ酸)
【0074】
【表1】
流速: 3 ml/min
測定モード:MRMモード
例えば、油脂成分としてシーバックソーンオイルを使用したとき:
β-カロチン(ポジティブイオンモード):m/z 538 → 281
コリジョンeV:30V、コーンeV:25V
ヘプタデカン酸(ネガティブイオンモード):m/z 270 → 270
コリジョンeV:15V、コーンeV:25V
注入量:10 μL
【0075】
細胞への取り込み性を、HBSSで希釈した油脂成分について得られた脂溶性成分に対するHBSSで希釈した本組成物の脂溶性成分で除した数値を指標として評価する。例えば、10倍以上であり、また例えば、12倍以上であり、また例えば、14倍以上であり、また例えば、15倍以上であり、また例えば、16倍以上であり、また例えば、18倍以上であり、また例えば、20倍以上であり、また例えば、22倍以上であり、また例えば、24倍以上であり、また例えば、25倍以上であり、26倍以上であり、また例えば、28倍以上である。
【0076】
(外観の経時的変化)
本組成物の外観の経時的変化は、以下の方法で確認することができる。すなわち、製造直後の本組成物をアルミ製パウチ袋に入れて密封し、25℃の温度で遮光環境の下で30日間保存した。また、本組成物をアルミ製パウチ袋に入れて密封し、40℃の温度で遮光環境の下で30日間保存した。保存後の本組成物について、25℃において保存した本組成物の外観と、40℃において保存した本組成物の外観とを、それぞれ目視で観察し、比較を行った。以下の基準で、それぞれの条件での保存前後における外観の変化を評価した。
5:全く変化なし。
4:わずかに黄色の濃さが薄くなった。
3:半分ほど黄色の濃さが薄くなった。
2:わずかに黄色が残っている。
1:完全に白色化。
【0077】
(水溶解性、水性媒体に対する溶解性)
本組成物1gを100mlの脱イオン水に溶解させ、25℃で10日間静置する。静置後の状態を目視で観察したとき、水層と油層が完全に分離し、振とうしても再溶解することはない場合、乳化安定性に劣り溶解性が低いとした。一方、静置後の状態を目視で観察したとき、均一に溶解し水層と油層の分離は見られない場合、溶解性に優れるとした。本組成物は、水溶解性に優れることが好ましい。
【0078】
(本組成物の製造方法)
本組成物は、例えば、以下の方法で製造することができる。すなわち、油脂成分と、加工デンプンとマルトデキストリンとを少なくとも含む糖類と、リゾレシチン、ショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される1種又は2種以上の乳化剤と、を含有する、水中油滴型エマルジョンであって、油滴の体積基準のメジアン径が100nm以上400nm以下である試料液を調製する試料液調製工程と、試料液を噴霧乾燥して粉末とする粉末化工程と、を備える方法によって製造することができる。
【0079】
(試料液調製工程)
水中油滴型エマルジョンを得るために、ホモジナイズ(乳化)に供される原液は、水などの水性媒体を含むほか、必要に応じて、水と相溶する有機溶媒を含むことができるが、典型的には、水である。乳化に供される原液は、それぞれ所定量の油脂成分と、糖類と、乳化剤と、水とを混合し、必要に応じて加温するなどして調製してもよい、これらの成分を、逐次混合して乳化用のための原液を調製してもよい。なお、原液における油脂成分の含有量は、特に限定されないが、例えば、2質量%以上4質量%以下である。
【0080】
乳化用の原液は、例えば、加温した水性媒体に、糖類及び乳化剤を加えて溶解して第1の原液を調製し、油脂成分が油滴として分散できる程度の温度まで降下した第1の原液に油脂成分を加えて第2の原液を調製して、乳化用の原液としてもよい。
【0081】
第1の原液の調製において、第1の原液の調製に用いる水性媒体は、例えば、水であるが、糖類及び乳化剤の溶解性を考慮して、加温されていることが好ましい。特に限定するものではないが、使用する糖類や乳化剤に関する使用説明書等における溶解の推奨温度を参考に適宜決定することができる。例えば、50℃以上70℃以下であり、また例えば、55℃以上65℃以下である。
【0082】
次いで、油脂成分及び乳化剤を十分に溶解した第1の原液を、油脂成分が油滴として分散できる程度の温度まで降下させる。降下させる温度は、用いる油脂成分の種類等にもよるが、例えば、40℃以下であり、また例えば、30℃以下である。また、例えば、25℃以上である。こうした第1の原液に対して、油脂成分、必要に応じて機能性成分(油脂成分の一部を構成している場合がある。)及び酸化防止剤などを添加して、第2の原液とする。こうすることで、油脂成分の固化を抑制しつつ酸化を抑制しつつ、第2の原液を、乳化に供することができる。
【0083】
ホモジナイズは、第2の原液につき、公知の乳化装置を用いて行うことができる。なお、ホモジナイズは、窒素雰囲気下で行うことで、油脂成分等の酸化を抑制できる。
【0084】
ホモジナイズは、例えば、スターラー、インペラー式撹拌機、ホモミキサー、又は連続流通式剪断装置等の剪断作用を利用する通常の乳化装置を用いて一次乳化をした後、高圧ホモジナイザーを通す等の方法で二次乳化をするなどとすることができる。高圧ホモジナイザーを使用して二次乳化する場合、乳化粒子を更に均一に近い粒子径に揃えることができる。更なる粒子径の均一化を図る目的で、乳化分散を複数回行ってもよい。
【0085】
一次乳化においては、例えば、通常の乳化装置を用いる際には、例えば、回転数を、5000rpm以上10000rpm以下などとすることができ、また例えば、7000rpm以上9000rpm以下などとすることができる。
【0086】
二次乳化は、高圧ホモジナイザーを用いて行う。高圧ホモジナイザーには、処理液の流路が固定されたチャンバーを有するチャンバー型高圧ホモジナイザー、及び均質バルブを有する均質バルブ型高圧ホモジナイザーがある。均質バルブ型高圧ホモジナイザーは、処理液の流路の幅を容易に調節することができるので、操作時の圧力及び流量を任意に設定することができ、その操作範囲が広いため、本開示の水中油型乳化組成物の製造において好ましく用いることができる。操作の自由度は低いが、圧力を高める機構が作りやすいため、超高圧を必要とする用途にはチャンバー型高圧ホモジナイザーも好適に用いることができる。
【0087】
チャンバー型高圧ホモジナイザーとしては、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディクス社製)、ナノヴェイタ(吉田機械興業(株)製)、スターバースト((株)スギノマシン製)等が挙げられる。均質バルブ型高圧ホモジナイザーとしては、ゴーリンタイプホモジナイザー(APV社製)、ラニエタイプホモジナイザー(ラニエ社製)、高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)、ホモゲナイザー(三和機械(株)製)、高圧ホモゲナイザー(イズミフードマシナリ(株)製)、超高圧ホモジナイザー(イカ社製)等が挙げられる。
【0088】
高圧ホモジナイザーの圧力は、例えば、50MPa以上、また例えば、80MPa以上、また例えば、200MPa以下、また例えば、150MPa以下などとし、50MPA以上250MPa以下、80MPa以上150MPa以下などとすることができる。
【0089】
以上のホモジナイズは、水中油滴型エマルジョンであって、ホモジナイズによって得られる水中油滴型エマルジョンの油滴の体積基準のメジアン径が100nm以上400nm以下となるように行う。また例えば、100nm以上350nm以下、また例えば、100nm以上300nm以下であり、また例えば、100nm以上250nm以下であることが好ましい場合がある。なお、油滴のメジアン径は、既に説明した本組成物中の油脂成分の平均粒子径の測定方法に準じて測定することができる。すなわち、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-960(堀場製作所)を用いて測定する。具体滴には、水中油滴型エマルジョン1gを脱イオン水5mLに溶解させ、その水溶液100μlを脱イオン水20mlに分散させたものを試料として上記装置にて測定することができる。
【0090】
(粉末化工程)
処置得の水中油滴エマルジョンにつき、噴霧乾燥して粉末とする粉末化する。噴霧乾燥法を用いることにより、油滴に基づく粉末粒子を得ることができる。噴霧乾燥法としては特に限定するものではないが、通常の加熱による噴霧乾燥、噴霧凍結乾燥法などを用いることができるが、噴霧加熱乾燥を用いると生産効率の観点から有利な場合がある。また、噴霧加熱乾燥の場合、大河原化工機社製のCL-8噴霧乾燥装置などを用いることができる。また、乾燥温度は、例えば、120℃以上160℃以下、また例えば、130℃以上150℃以下などとし、また、アトマイザー回転数を10Hz以上40Hz以下、また例えば、10Hz以上30Hz以下などとすることができる。
【0091】
以上の工程により、本組成物を得ることができる。本組成物は、上記した組成を備えるほか、油脂成分のメジアン径分布、カプセル化率、細胞取り込み性又は水溶解性などの機能性を備えることができる。
【0092】
(用途)
本組成物は、医薬品、医薬部外品、化粧品、栄養補助食品、飲料及び食品(機能性食品)等の各種用途に適用することができる。特に、油脂成分又は油脂成分に含まれる機能性成分を提供するための成分ないし剤として使用できる。粉末であることから、各種固形製剤又は食品ほか、用時溶解又は懸濁の製剤又は食品や飲料など、広く適用することができる。また、特に、粉末であるにも関わらず、それ自体細胞取り込み性等に優れるため、各種の固形製剤や食品等として好適に用いられ得る。
【0093】
また、本組成物は、油脂成分が、糖類及び乳化剤によってそれ自体カプセル化されている。安定して油脂成分を保持でき、かつ細胞取り込み性に優れる点において有用である。
【0094】
例えば、本組成物は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤又は散剤である経口投与のための医薬製剤及び栄養補助食品に有用である。また、本組成物は、経口摂取性の飲食品のほか、経管栄養の飲食品に有用である。
【実施例0095】
以下、本明細書の開示をより具体的に説明するために具体例としての実施例を記載する。以下の実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであって、その範囲を限定するものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り部又は%は、質量基準である。
【実施例0096】
(組成物の調製)
表2に、調製しようとする組成物において、水を除く各成分の質量%を示す。表2に示す組成に従い、以下の方法で各種組成物を調製した。まず。水500gを60℃に加温し、加工デンプン(38.8g)、マルトデキストリン(38.8g)、ショ糖脂肪酸エステルA(HLB値16、ショ糖ステアリン酸エステル)(1.5g)を、この水に加えて溶解した。
【0097】
乳化剤等の溶解確認後、当該液を40℃に低下させた後、油脂成分としての食用油(シーバックソーン油)20.5g及び酸化防止剤0.3gを、乳化剤等の溶液に添加した。
【0098】
この液を、窒素充填したチャンバーを用いて、ホモミキサー(プライミクス株式会社製、TKホモミキサー)を用いて、回転数8,000rpmで、60分処理した。次いで、この処理液をさらに高圧ホモジナイザー装置(吉田機械興業社製ナノヴェイタC-ES)を用いて、処理圧100MPaで全溶液を3パス処理して、水中油滴型エマルジョンを得た。なお、この水中油滴型エマルジョンにおける油脂成分の体積基準のメジアン径が、140nmであることを、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置“LA-960”(堀場製作所社製)を用い、上記水中油滴型エマルジョン1gを脱イオン水5mLに溶解させ、さらに、この液100μlを脱イオン水20mLで希釈したものをサンプルとして分析することにより、確認した。
【0099】
この水中油滴型エマルジョンを、噴霧乾燥装置(大河原化工機株式会社製CL-8)を用いて、塔内温度140℃、アトマイザー回転数20Hzで噴霧乾燥して、実施例1の粉末を得た。
【0100】
実施例2~7について、表1の組成に従うとともに、表2に示す水中油滴エマルジョンにおける油脂成分(油滴)の体積基準メジアン径を取得した以外は、試験例1と同様に操作して、実施例2~7の粉末を得た。なお、併せて、表3及び表4に示す組成に従い、比較例1~21の粉末を得た。
【0101】
【表2】
【0102】
<表2における組成の説明>
加工デンプン:CAPSUL Ingredion社製
マルトデキストリン:TK-16、松谷化学工業製
デキストリン:パインデックス#100(DE5)(松谷工業製)
クラスターデキストリン:クラスターデキストリン(登録商標) 江崎グリコ製
リゾレシチン:SLP-ホワイトリゾ、辻製油製
ショ糖脂肪酸エステルA:DKエステル F-160 第一工業製薬製又はリョートーシュガーエステルS-1670 三菱ケミカル株式会社製
ショ糖脂肪酸エステルB:リョートーシュガーエステルS-1570 三菱ケミカル株式会社製
ショ糖脂肪酸エステルC:リョートーシュガーエステルP-1570 三菱ケミカル株式会社製
ショ糖脂肪酸エステルD:リョートーシュガーエステルO-1570 三菱ケミカル株式会社製
ポリグリセリン脂肪酸エステル A:ポエム J-0318V、理研ビタミン社製
ポリグリセリン脂肪酸エステルB:SY-グリスター MM-750 阪本薬品工業株式会社製
アラビアガム:PURITY GUM2000 ingredion社製
ガディガム:ガティコールSS 三栄薬品貿易株式会社製
カゼインNa:Casein Sodium from Milk 富士フイルム和光純薬株式会社
酸化防止剤:エアコートCE、三菱ケミカル株式会社製
【0103】
【表3】
【0104】
【表4】
【実施例0105】
(組成物の評価)
実施例1で得た粉末につき、以下の項目につき評価した。結果を併せて表2に示す。
【0106】
(粒径分布:油脂成分の体積基準メジアン径)
油脂成分の体積基準メジアン径は、水中油滴エマルジョン中の油脂成分の体積基準メジアン径に一致していた。
【0107】
(カプセル化率)
既に説明した操作方法により評価した。
【0108】
(細胞取り込み性)
既に説明した操作方法により評価した。
【0109】
(水溶解性)
既に説明した操作方法により評価した。
【0110】
(外観経時変化)
既に説明した操作方法により評価した。
【0111】
表2に示すように、加工デンプンとマルトデキストリンに加えて、ショ糖ステアリン酸エステル(HLB値16又は15)、ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB値12又は16)は、乳化剤として単独で用いても優れた粉末粒子を調製することができた(実施例1~4)。また、ショ糖ステアリン酸エステル(HLB16又は15)は、リゾレシチンと組み合わせて乳化剤として用いること(実施例5)で、さらに、ポリグリセリン脂肪酸エステルと組み合わせて用いること(実施例6~7)で、油脂成分のメジアン径をより小さくできたとともに細胞取り込み性を顕著に向上させることができた。さらに、カプセル化率、外観変化についても貢献が認められた。
【0112】
一方、表3に示すように、乳化剤不使用(比較例1)、リゾレシチンのみの利用(比較例2~4)、低濃度のポリグリセリン脂肪酸エステルのみの利用(比較例5~6)、乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB12)のみ(5質量%)の利用(比較例7)リゾレシチンとショ糖パルミチン酸エステル又は同オレイン酸エステルとの組合せの利用(比較例8,9)では、油脂成分のメジアン径、カプセル化率、外観変化及び細胞取り込み性を通じて優れることがなく、また、乳化自体が不可能な場合があった。さらに、表4に示すように、加工デンプンとマルトデキストリンを用いない場合には、粉末化自体が困難であるほか不十分な特性しか得られず、代替的に糖類や他の乳化剤を用いても、不十分な特性しか得られないことが明らかであった(比較例10~21)。