(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114843
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】経口摂取用コリンエステル含有組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20240816BHJP
A61K 31/221 20060101ALI20240816BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20240816BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20240816BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20240816BHJP
A61K 36/81 20060101ALI20240816BHJP
A61K 36/899 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K31/221
A61P9/12
A61P25/18
A61P25/02
A61K36/81
A61K36/899
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024103012
(22)【出願日】2024-06-26
(62)【分割の表示】P 2022105480の分割
【原出願日】2017-10-16
(31)【優先権主張番号】P 2016202909
(32)【優先日】2016-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩蔵
(57)【要約】
【課題】 本発明の課題は、アセチルコリンなどのコリンエステルを有効成分としながら、ヒトが簡易に経口摂取でき、血圧降下作用および/または抗ストレス作用を有する組成物を提供することである。
【解決手段】本発明の課題は、アセチルコリンなどのコリンエステルを、ヒトが簡易に経口摂取でき、血圧降下作用および血管拡張作用を有する新規な経口摂取用組成物を提供すること、そのために有用な供給源となる食品を提供することにある。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コリンエステルを有効成分とする血圧降下作用および/または抗ストレス作用を有する組成物であって、コリンエステル含量が5μg~50mgであり、経口摂取用である、前記組成物。
【請求項2】
食品組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
血圧降下用および/または抗ストレス用の医薬組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
コリンエステルが、食用植物由来である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
食用植物の凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末からなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
20メッシュの篩を通過できる凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末からなる、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
食用植物をエタノールまたは含水エタノールで抽出してなる抽出物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
食用植物が、ナス科ナス属ナス種(Solanum melongena)の果実および/またはイネ科タケ亜科タケ連(Poaceae, Bambusoideae, Bambuseae)の若芽である、請求項4~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
コリンエステルが、アセチルコリン、ブチリルコリンおよびプロピオニルコリンからなる群から選択される1種または2種以上を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
コリンエステルが、ラクトイルコリンを含まない、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
コリンエステルの濃度が5μg/g~250mg/gであり、かつ、1日の摂取量が、5μg~50mgに調整されてなる、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
冷凍加工されてなる、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
冷凍加工されたナス科ナス属ナス種(Solanum melongena)の果実の一部または全部である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
コリンエステルを有効成分とする経口摂取用の血圧降下作用および/または抗ストレス作用を有する組成物を製造する方法であって、食用植物を凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末にすること、凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末を、コリンエステル含量が5μg~50mgとなるように分配することを含む、前記方法。
【請求項15】
食用植物が、ナス科ナス属ナス種(Solanum melongena)の果実および/またはイネ科タケ亜科タケ連(Poaceae, Bambusoideae, Bambuseae)の若芽である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
食用植物を加熱することをさらに含む、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
食用植物の凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末を水に懸濁し、得られた懸濁液に酸を添加することをさらに含む、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
酸を添加した懸濁液のpHを5.5~4.5に調整することをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項14~18のいずれか一項に記載の方法で製造された、コリンエステルを有効成分とする経口摂取用の血圧降下作用および/または抗ストレス作用を有する組成物。
【請求項20】
コリンエステルを有効成分とする経口摂取用の血圧降下作用および/または抗ストレス作用を有する抽出物を製造する方法であって、食用植物を、または、食用植物の凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末を、エタノールまたは含水エタノールで抽出することを含む、前記方法。
【請求項21】
食用植物を、または、食用植物の凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末を、エタノールで抽出することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
食用植物を、または、食用植物の凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末を、含水エタノールで抽出することを含み、含水エタノールのエタノール濃度が、25~60%(w/w)であるか、または95%(w/w)以上である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
抽出に用いるエタノールまたは含水エタノールにL-アスコルビン酸が添加されている、請求項20~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
抽出物のコリンエステル含量を5μg~50mgに調整することを含む、請求項20~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
請求項20~24のいずれか一項に記載の方法で製造された、コリンエステルを有効成分とする経口摂取用の血圧降下作用および/または抗ストレス作用を有する抽出物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コリンと有機酸がエステル結合した化合物であるコリンエステルを有効成分とする血圧降下作用および/または抗ストレス作用を有する組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コリンエステルの中で、アセチルコリンは哺乳類の神経伝達物質として生命活動に不可欠な物質であることが知られている。また、1929年に、ウマの脾臓からヒスタミンとは異なる血圧降下物質が単離され、その活性物質がアセチルコリンであることが化学的に同定された(非特許文献1)。さらに、麦角の血圧降下物質がアセチルコリンであることが解明され、菌類がアセチルコリンを産生することが確認されている(非特許文献2)。アセチルコリンは、食用植物、食用菌類、ローヤルゼリー、牛乳等に含まれており、枯草菌、酵母にもアセチルコリンが存在し、食用植物では、ナスおよびタケノコのアセチルコリン含量が高いことが報告されている(非特許文献3~7)。
【0003】
また、アセチルコリンの他、複数のコリンエステル類も発見されている。
アセチル基より1つ炭素鎖が長いプロピオニル基を有するプロピオニルコリンは、1953年に牛の脾臓から発見されている(非特許文献8、9)。その後、牡牛の精液中、ヨーロッパザリガニ、アメリカカブトガニ、ヨーロッパザルガイ、オオノガイ、ムラサキイガイ、ホンドブガイ、リンゴマイマイ中の血リンパと平滑筋中、シビレエイの電気発生組織培養中の他、ヘンヨウボク、緑豆、オオバコ、ポプラ、シラカバ中などに、プロピオニルコリン産生が確認されている(非特許文献10~13)。
【0004】
また、ブチリルコリンについては、1954年に脳抽出物から発見され(非特許文献14)、節足動物、軟体動物中に、アセチルコリン、プロピオニルコリンと共に存在することが示されている(非特許文献11)。
さらに、プロピオニルコリン、ブチリルコリン以外にも軟体動物から、いくつかのコリンエステル類が確認されている。たとえば、ウロカノイルコリンがアクキガイの一種から、ββ-ジメチルアクロイルコリン(セネシオイルコリン)がレイシガイの一種から、アクロイルコリンがエゾバイの一種から、イミダゾールプロピオニルコリンがレイシガイの一種から構造決定されている(非特許文献15~18)。
【0005】
本発明者は、発酵キョウバク(ソバ植物体の乳酸発酵物)に含まれる血圧降下作用および血管拡張作用活性成分について研究し、少なくともアセチルコリンとプロピオニルコリンを含む、複数のコリンエステルを主体とした第4級アルキルアンモニウム化合物を含有する抽出組成物を提供し、また精製したアセチルコリン、プロピオニルコリン、ブチリルコリンを高血圧自然発症ラット(SHR)に単回経口投与した場合に血圧降下作用を示すことを明らかにした(特許文献1、2)。一方で、アセチルコリン塩化物を有効成分とする医薬のインタビューフォーム(非特許文献19)に、「アセチルコリンは経口投与すると消化管で分解され、ほとんど吸収されないので、注射剤とした」と記載されているように、これまでコリンエステルのヒトへの適用は注射剤によるもので経口摂取により作用させることについての検討はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2015/147251号
【特許文献2】特開2015-189745号公報
【特許文献3】特開平06-065068号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Dale HH, Dudley HW. The presence of histamine and acetylcholine in the spleen of the ox and the horse. J Physiol 68:97-123, 1929.
【非特許文献2】Ewins AJ. Acetylcholine, a new active principle of ergot. Biochem J 8:44-49, 1914.
【非特許文献3】桃木芳枝, 植物におけるアセチルコリン, 植物の化学調節, 30(1), 49-61 (1995)
【非特許文献4】川島紘一郎, アセチルコリンのルーツと非神経性アセチルコリン, 基礎老化研究, 34(4), 12-24 (2010)
【非特許文献5】篠田雅人ら, ローヤルゼリー中の血流増加因子について, 薬学雑誌, 98(2), 139-145 (1978)
【非特許文献6】Whittaker VP. Acetylcholine in Milk. Nature 181:856-857, 1958.
【非特許文献7】Horiuchi Y, Kimura R, Kato N, Fujii T, Seki M, Endo T, Kato T, Kawashima, K. Evolutional study on acetylcholine expression. Life Sci 72:1745-1756, 2003.
【非特許文献8】Banister J, Whittaker VP, Wijesundera S. The occurrence of homologues of acetylcholine in ox spleen. J Physiol 121(1):55-71, 1953.
【非特許文献9】Gardiner JE, Whittaker VP. The identification of propionylcholine as a constituent of ox spleen. Biochem J 58(1):24-29, 1954.
【非特許文献10】Bishop MR, Sastry BV, Stavinoha WB. Identification of acetylcholine and propionylcholine in bull spermatozoa by integrated pyrolysis, gas chromatography and mass spectrometry. Biochim Biophys Acta 500(2):440-444, 1977.
【非特許文献11】Wolfgang W, Jutta N, Dettmar W. Distribution of cholinesters and cholinesterases in haemolymphs and smooth muscles of molluscs. Comp Biochem Phys C 61(1):121-131, 1978.
【非特許文献12】O'Regan S. The synthesis, storage, and release of propionylcholine by the electric organ of Torpedo marmorata. J Neurochem 39(3):764-772, 1982.
【非特許文献13】Miural GA, Shin TM. Identification of proprionylcholine in higher plants. Physiol Plant 62:341-343, 1984.
【非特許文献14】Holtz P, Schumann HJ. Butyrylcholine in brain extracts. Naturwissenschaften 41:306, 1954.
【非特許文献15】Erspamer V, Benati O. Identification of murexine as beta-[imidazolyl-(4)]acrylcholine. Science 117:161-162, 1953.
【非特許文献16】Keyl MJ, Michaelson IA, Whittaker VP. Physiologically active choline esters in certain marine gastropods and other invertebrates. J Physiol 139:434, 1957.
【非特許文献17】Whittaker VP. Acrylylcholine: a new naturally occurring pharmacologically active choline ester from Buccinum undatum. Biochem Pharmacol 1(4):342-346, 1959.
【非特許文献18】Roseghini M. Occurrence of dihydromurexine (imidazole propionylcholine) in the hypobranchial gland of Thais (purpura) haemastoma. Experientia 27(9):1008-1009, 1971.
【非特許文献19】オビソート(登録商標)注射用0.1gのインタビューフォーム, 2013年1月
【非特許文献20】最新基礎薬理学(監修:高木敬次郎, 亀山勉, 編集:大石幸子,岡部進, 発行者:廣川書店, 96ページ, 6~10行
【非特許文献21】日本農芸化学会2016年(平成28年)度大会講演要旨集, 4E076, 2016年3月5日公開.
【非特許文献22】Kleiber, M. The fire of life. An introduction to animal energetics. New York: Wiley, 1961.
【非特許文献23】Kim JM, Lee SW, Kim KM, Chang UJ, Song JC, Suh HJ. Anti-stress effect and functionality of yeast hydrolysate SCP-20. Europe Food Res Technol 217(2):168?172, 2003.
【非特許文献24】Armando I, Carranza A, Nishimura Y, Hoe KL, Barontini M, Terron JA, Falcon-Neri A, Ito T, Juorio AV, Saavedra JM. Peripheral administration of an angiotensin II AT(1) receptor antagonist decreases the hypothalamic-pituitary- adrenal response to isolation Stress. Endocrinology 142(9):3880-3889, 2001.
【非特許文献25】Nakamura K, Okitsu S, Ishida R, Tian S, Igari N, Amano Y. Identification of natural lactoylcholine in lactic acid bacteria-fermented food.Food Chem 201:185-189, 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、ヒトにおいてコリンエステルの経口摂取による利用が可能になれば、身体への負担がなく、安全かつ簡易に血圧降下等を実現できることになるにもかかわらず、ヒトにアセチルコリンを経口で適切に投与する技術および該技術に適切な供給源がいまだ見出されていないことに着目し、これらを明らかにすることが重要であると考えた。
したがって本発明の課題は、アセチルコリンなどのコリンエステルを有効成分としながら、ヒトが簡易に経口摂取でき、血圧降下作用および血管拡張作用を有する新規な経口摂取用組成物を提供すること、そのために有用な供給源となる食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねる中で、これまでのアセチルコリンはヒトへの経口投与はできないとの定説にもかかわらず、驚くべきことに、コリンエステルが経口投与によって血圧降下作用および血管拡張作用を示すための適正な用量が存在すること、さらにかかる用量で抗ストレス作用を奏することを見出し、またそのためのコリンエステルを効率よく供給するための原料としての適切な食用植物を発見し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
したがって本発明は、以下に関する。
[1] コリンエステルを有効成分とする血圧降下作用および/または抗ストレス作用を有する組成物であって、コリンエステル含量が5μg~50mgであり、経口摂取用である、前記組成物。
[2] 食品組成物である、前記[1]に記載の組成物。
[3] 血圧降下用および/または抗ストレス用の医薬組成物である、前記[1]に記載の組成物。
【0011】
[4] コリンエステルが、食用植物由来である、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の組成物。
[5] 食用植物の凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末からなる、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の組成物。
[6] 20メッシュの篩を通過できる凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末からなる、前記[5]に記載の組成物。
[7] 食用植物をエタノールまたは含水エタノールで抽出してなる抽出物である、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の組成物。
[8] 食用植物が、ナス科ナス属ナス種(Solanum melongena)の果実および/またはイネ科タケ亜科タケ連(Poaceae, Bambusoideae, Bambuseae)の若芽である、前記[4]~[7]のいずれか一項に記載の組成物。
【0012】
[9] コリンエステルが、アセチルコリン、ブチリルコリンおよびプロピオニルコリンからなる群から選択される1種または2種以上を含む、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の組成物。
[10] コリンエステルが、ラクトイルコリンを含まない、前記[9]に記載の組成物。
[11] コリンエステルの濃度が5μg/g~250mg/gであり、かつ、1日の摂取量が、5μg~50mgに調整されてなる、前記[1]~[10]のいずれか一項に記載の組成物。
[12] 冷凍加工されてなる、前記[1]~[11]のいずれか一項に記載の組成物。
[13] 冷凍加工されたナス科ナス属ナス種(Solanum melongena)の果実の一部または全部である、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の組成物。
【0013】
[14] コリンエステルを有効成分とする経口摂取用の血圧降下作用および/または抗ストレス作用を有する組成物を製造する方法であって、食用植物を凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末にすること、凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末を、コリンエステル含量が5μg~50mgとなるように分配することを含む、前記方法。
[15] 食用植物が、ナス科ナス属ナス種(Solanum melongena)の果実および/またはイネ科タケ亜科タケ連(Poaceae, Bambusoideae, Bambuseae)の若芽である、前記[14]に記載の方法。
[16] 食用植物を加熱することをさらに含む、前記[14]または[15]に記載の方法。
[17] 食用植物の凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末を水に懸濁し、得られた懸濁液に酸を添加することをさらに含む、前記[14]~[16]のいずれか一項に記載の方法。
[18] 酸を添加した懸濁液のpHを5.5~4.5に調整することをさらに含む、前記[17]に記載の方法。
[19] 前記[14]~[18]のいずれか一項に記載の方法で製造された、コリンエステルを有効成分とする経口摂取用の血圧降下作用および/または抗ストレス作用を有する組成物。
【0014】
[20] コリンエステルを有効成分とする経口摂取用の血圧降下作用および/または抗ストレス作用を有する抽出物を製造する方法であって、食用植物を、または、食用植物の凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末を、エタノールまたは含水エタノールで抽出することを含む、前記方法。
[21] 食用植物を、または、食用植物の凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末を、エタノールで抽出することを含む、前記[20]に記載の方法。
[22] 食用植物を、または、食用植物の凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末を、含水エタノールで抽出することを含み、含水エタノールのエタノール濃度が、25~60%(w/w)であるか、または95%(w/w)以上である、前記[20]に記載の方法。
[23] 抽出に用いるエタノールまたは含水エタノールにL-アスコルビン酸が添加されている、前記[20]~[22]いずれか一項に記載の方法。
[24] 抽出物のコリンエステル含量を5μg~50mgに調整することを含む、前記[20]~[23]のいずれか一項に記載の方法。
[25] 前記[20]~[24]のいずれか一項に記載の方法で製造された、コリンエステルを有効成分とする経口摂取用の血圧降下作用および/または抗ストレス作用を有する抽出物。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、有効成分であるコリンエステルを注射剤とすることなく、経口摂取した場合でも、血圧降下作用を有し、長期間に亘って摂取することが容易である組成物を提供することができる。とくに食用植物の凍結乾燥粉末からなる組成物の場合、抽出や精製の工程を必要としないことから、極めて安価に加工することができる。さらに、コリンエステルを増加させると共に殺菌するために、凍結乾燥前に一定条件で加熱すること、コリンエステルの安定性を増すために凍結乾燥前または後に酸を添加することができる。コリンエステルは食経験が豊富なことから、本発明の組成物は、安全性が高く、食品組成物としても、血圧降下用医薬組成物としても利用することができる。
また、本発明の組成物によれば、食用植物(生鮮物)を所定量のコリンエステルを含有するように切り分けたもの、該食用植物を加熱したものや冷凍したもの、食用植物の乾燥粉末(凍結乾燥粉末、熱風乾燥粉末)、該乾燥粉末の懸濁液、生鮮物からコリンエステルを抽出した抽出物、該抽出物を濃縮した濃縮抽出物など、種々の形態で飲食品や医薬品に利用することができる。
【0016】
コリンエステルは、コリン作動性受容体(ムスカリン性アセチルコリン受容体およびニコチン性アセチルコリン受容体)に作用するところ、ニコチン性アセチルコリン受容体を刺激するには、ムスカリン性アセチルコリン受容体刺激よりも高濃度のアセチルコリンが必要である(非特許文献20)。また、ムスカリン性アセチルコリン受容体の作用で血圧が低下するが、かかる作用は、ニコチン性アセチルコリン受容体の作用で交感神経の活動が優位となり、ムスカリン性アセチルコリン受容体の作用を打ち消してしまうと考えられる。本発明は、コリンエステルを極少量で経口摂取すると、大量に経口摂取した場合と異なる作用を示すとの知見に基づく。すなわち、本発明の組成物におけるコリンエステルは、オビソート(登録商標)注射用0.1g/回に比べて極少量であるが、ムスカリン性アセチルコリン受容体に十分に作用し、血圧降下作用を奏し、しかもニコチン性アセチルコリン受容体には作用せず、かかる血圧降下作用を打ち消すことがない量で含まれている。本発明の組成物では、前記2つの受容体の作用のバランスに応じたコリンエステル含量であるため、アセチルコリンは経口投与できないとされる従来の技術常識に反し、経口摂取による血圧降下作用を奏する。
【0017】
本発明において、ナスやタケノコなどのコリンエステル含量の高い食用植物を用いた場合、利用する植物体の量が少量で足りるため経口用として好ましい。このことは、例えば、レタスなどのコリンエステル含量の少ないものを選択した場合、生重で1日約7.5kg以上を摂取する必要があり、1日の摂取としても現実的ではない。レタスを凍結乾燥した場合でも、収率が3.60%程度であり、1日約270gを摂取することが望まれる。一方、ナスでは、SHRを用いた動物試験結果から求めた1日摂取目安量が、生重でわずか0.41gであったことから、毎日の継続摂取が可能な量で血圧降下作用を奏することができる。またナスをそのまま、または、加熱して凍結乾燥した場合、1日摂取目安量をさらに少量とすることができる。したがって、これを加工した食品とした場合においても極めて合理的、経済的な経口食品とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、各生鮮農産物の凍結乾燥後の収率を示すグラフである。
【
図2】
図2は、各生鮮農産物の各コリンエステルおよびコリン含量を示すグラフである。縦軸を対数目盛とした。AcCh:アセチルコリン、BuCh:ブチリルコリン、PrCh:プロピオニルコリン、Ch:コリン。
【
図3】
図3は、常温保存1~5日目における生鮮ナス果実中の各コリンエステルおよびコリン含量の経時変化を示すグラフである(p*<0.05、p**<0.01vs経過一日目)。AcCh:アセチルコリン、BuCh:ブチリルコリン、PrCh:プロピオニルコリン、Ch:コリン。
【
図4】
図4は、常温および冷蔵保存6日目における生鮮ナス果実中のコリンエステル含量を示すグラフである。(p*<0.05、p**<0.01)。縦軸を対数目盛とした。AcCh:アセチルコリン、BuCh:ブチリルコリン、PrCh:プロピオニルコリン。
【
図5】
図5は、標品を用いた場合のpHによるアセチルコリン量の経時変化を示すグラフである。AcCh:アセチルコリン。
【
図6】
図6は、ナス抽出物を用いた場合のpHによるアセチルコリン量の経時変化を示すグラフである。AcCh:アセチルコリン。
【
図7】
図7は、加熱によるナス中のアセチルコリン量の変化を示すグラフである。AcCh:アセチルコリン。
【
図8】
図8は、SHRへのアセチルコリン1.00×10
-9mol/kg等量を含むナス凍結乾燥粉末の単回経口投与試験結果(収縮期血圧)を示すグラフである(p*<0.05vs純水投与)。
【
図9】
図9は、SHRへのアセチルコリン1.00×10
-9mol/kg等量を含むナス凍結乾燥粉末の単回経口投与試験結果(拡張期血圧)を示すグラフである。
【
図10】
図10は、SHRへのアセチルコリン1.00×10
-9mol/kg等量を含むナス凍結乾燥粉末の単回経口投与試験結果(心拍数)を示すグラフである。
【
図11】
図11は、WKYラットへのナス凍結乾燥粉末の単回経口投与試験結果(収縮期血圧)を示すグラフである(p*<0.05、p**<0.01vs純水投与)。
【
図12】
図12は、ナス凍結乾燥物の血管等尺性張力試験結果を示すグラフである(p*<0.05、p**<0.01vs凍結乾燥20メッシュパス;p#<0.05、p##<0.01vs熱風乾燥20メッシュパス)。
【
図13】
図13は、SHRへのナス凍結乾燥粉末の反復経口投与試験結果(収縮期血圧)を示すグラフである(p*<0.05、p**<0.01vs純水投与)。
【
図14】
図14は、SHRへのナス凍結乾燥粉末の反復経口投与試験結果(拡張期血圧)を示すグラフである(p*<0.05vs純水投与)。
【
図15】
図15は、SHRへのナス凍結乾燥粉末の反復経口投与試験結果(尿中アドレナリン量変化)を示すグラフである(p*<0.05、p**<0.01vs純水投与)。
【
図16】
図16は、SHRへのナス凍結乾燥粉末の反復経口投与試験結果(尿中ノルアドレナリン量変化)を示すグラフである(p*<0.05、p**<0.01vs純水投与)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、コリンエステルを有効成分とする血圧降下作用を有する組成物、および、該組成物であって、さらに抗ストレス作用を有する組成物に関する。
本発明の組成物は、経口摂取用であり、コリンエステル含量が5μg~50mgであり得る。
本発明の組成物において、コリンエステル含量は、5~500μg、好ましくは5~250μg、さらに好ましくは10~50μg、とくに好ましくは25μgである。かかるコリンエステル含量は、例えば、高血圧症の対象へ用いる場合に好ましい。
また、コリンエステル含量は、5μg~50mg、好ましくは500μg~50mg、さらに好ましくは500μg~5mgであってもよい。かかるコリンエステル含量は、例えば、健常である(高血圧症ではない)が血圧が高めである対象へ用いる場合に好ましい。
【0020】
本発明の組成物は、食品組成物または医薬組成物であってもよい。本発明の組成物が医薬組成物の場合、血圧降下用および/または抗ストレス用の医薬組成物であってもよい。
本発明の組成物の有効成分であるコリンエステルは、動物に由来するもの、植物に由来するもの、微生物に由来するもののいずれも用いることができるが、ヒトが食経験のある生物に由来するものを用いることが好ましく、とくに、食用植物由来であることが好ましい。
【0021】
食用植物としては、コリンエステルを含有する物であれば、とくに限定されない。食用植物としては、例えば、きゅうり、トマト、パプリカ、ピーマン、ナス、アスパラガス、やまのいも、キャベツ、レタス、にんじん、りんご、ししとう、日本なし、ぶどう、かいわれ大根、ブロッコリー、アルファルファ、豆苗、ソバ、タケノコなどが挙げられる。アセチルコリンの含有量の観点から、ナス科ナス属ナス種(Solanum melongena)、イネ科タケ亜科タケ連(Poaceae, Bambusoideae, Bambuseae)が好ましく、とくにナス科ナス属ナス種(Solanum melongena)の果実および/またはイネ科タケ亜科タケ連(Poaceae, Bambusoideae, Bambuseae)の若芽が好ましい。
【0022】
ナス科ナス属ナス種(Solanum melongena)の品種のうち、泉州水なす、ばってんなす、広陵サラダ茄子(別名:美男)、ヒゴムラサキ、大長茄子、筑陽などが好ましく、生食可能であることから、泉州水なす、ばってんなす、広陵サラダ茄子、ヒゴムラサキが好ましい。とくに好ましくは、ヒゴムラサキである。
【0023】
本発明の組成物に含まれ得るコリンエステルとしては、アセチルコリン、ブチリルコリン、プロピオニルコリン、ラクトイルコリンなどが挙げられ、これらのうち、1種または2種以上を含む組成物であってもよい。とくにコリンエステルを植物由来とする場合、本発明の組成物は、アセチルコリン、ブチリルコリンおよびプロピオニルコリンからなる群から選択される1種または2種以上を含み、ラクトイルコリンを含まない。
【0024】
本発明の組成物は、コリンエステルの1日の摂取量が、所定の範囲に調整されてなる。
例えば、1包装に、コリンエステル含量が5~125μg、好ましくは10~75μg、特に好ましくは15~50μgの範囲に調整されており、それを1日に1回~数回(好ましくは3回程度)経口摂取することができる。また、例えば、複数の包装により、コリンエステルの合計が前記の範囲となるように調整されていてもよい。この場合、コリンエステル濃度は5~2500μg/gとなる。
また、例えば、コリンエステルの1日の摂取量を前記の数値範囲よりも多く調整する場合、すなわち、例えば、5μg~50mg、好ましくは500μg~12.5mg、さらに好ましくは500μg~1.25mgに調整する場合、前記の方法に倣って、1包装あたりのコリンエステル含量を多く調整することが可能である。この場合、コリンエステル濃度は500~250mg/gであってもよい。
【0025】
本発明の組成物は、所定のコリンエステル含量に調整されている。本発明の組成物には、例えば、コリンエステル含量を調整して、生鮮農産物を切り分けたもの、冷凍したもの、凍結乾燥したものや抽出物などを用いることができる。本発明の組成物は、好ましくは、食用植物の凍結乾燥粉末および/または抽出物からなる組成物である。
本発明の組成物は、1日に摂取するコリンエステル含量となるように、1日分ずつに切り分けたもの、品質の劣化を防止したり、果肉の褐変を防止したりするために真空パックなどで個包装してもよい。
また、本発明の組成物は、冷凍加工されていることが好ましい。冷凍加工により、組成物に混入しているコリンエステラーゼ活性を抑制することができ、コリンエステルを長期間保持することができる。本発明の組成物は、好ましくは、冷凍加工されたナス科ナス属ナス種(Solanum melongena)の果実の一部または全部である。
【0026】
本発明は、一態様において、コリンエステルを有効成分とする経口摂取用の血圧降下作用および/または抗ストレス作用を有する組成物を製造する方法に関する。
当該方法において、食用植物を凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末や抽出物にすること、凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末や抽出物を、コリンエステル含量が所定の量となるように分配することを含む。
ここで所定の量とは、5μg~250mg、好ましくは5μg~50mg、さらに好ましくは10μg~50mgであってもよい。また、一態様において、所定の量は、例えば、5~500μg、5~250μg、10~50μgまたは25μgであってもよい。
【0027】
本発明の方法は、食用植物を加熱することをさらに含むことができる。加熱は、電子レンジや湯中で茹でることによって行うことができる。例えば、550Wの電子レンジで加熱する場合、食用植物100gあたり、1~15分間、好ましくは、2~10分間、さらに好ましくは、4~6分間加熱する。また、湯中で茹でる場合、90~100℃の湯中で加熱することが好ましい。このように食用植物を加熱することによって、殺菌を行うことができると共に、食用植物内のコリンエステルを増加させることができる。
本発明の方法は、一態様において、通常、凍結乾燥または熱風乾燥することで微生物による腐敗が回避されるところ、さらに食用植物を加熱処理(殺菌作用およびコリンエステルの増加作用)することを特徴とする。
【0028】
本発明の方法は、食用植物の凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末を水に懸濁し、得られた懸濁液に酸を添加することをさらに含むことができる。酸を添加した懸濁液のpHは、例えば、5.5~4.5、好ましくは、5.4~4.6に調整する。このようにpHを調整することにより、コリンエステルが安定化し、長期保存性に優れた組成物(懸濁液)とすることができる。
【0029】
本発明はまた、コリンエステルを有効成分とする経口摂取用の血圧降下作用および/または抗ストレス作用を有する抽出物を製造する方法に関する。
本発明の方法は、食用植物を、または、食用植物の凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末を、エタノールまたは含水エタノールで抽出することを含む。
より具体的には、本発明の方法は、食用植物の凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末にエタノールまたは含水エタノールを加え、または、生鮮の食用植物にエタノールを加えて粉砕して残渣を除いて得られる、コリンエステルを濃縮した抽出物を含むことができる。
【0030】
含水エタノールで抽出を行う場合、含水エタノールのエタノール濃度は、とくに限定されないが、コリンエステルの抽出率や濃縮率などの観点から、適宜選択し得る。含水エタノールのエタノール濃度は、例えば、10%(w/w)以上であってもよく、10~99%(w/w)が好ましく、さらに好ましくは、25~60%(w/w)であるか、または95%(w/w)以上であり、とくに好ましくは30~60%(w/w)であるか、または99%(w/w)以上である。
抽出に用いるエタノールまたは含水エタノールには、L-アスコルビン酸が添加されていてもよく、例えば、1~5wt%、好ましくは、3wt%で添加されている。
本発明の方法は、抽出物のコリンエステル含量を5μg~50mgに調整することを含んでいてもよい。
【0031】
本発明はまた、前記の方法で製造されたコリンエステルを有効成分とする経口摂取用の血圧降下作用および/または抗ストレス作用を有する組成物に関する。
本発明の組成物に係る乾燥粉末は、適当なメッシュの篩にかけて、通過した粉末であることが好ましい。本発明の組成物は、例えば、20メッシュの篩を通過できる凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末からなるものであることが好ましい。
ここで熱風乾燥粉末は、例えば、食用植物を約90℃の熱風に約1~2時間曝することによって乾燥し、これを粉砕して粉末にすることによって調製することができる。
【0032】
本発明の組成物は、各種の機能性健康食品あるいは医薬品組成物の有効成分として用いることができる。
食品の場合、適当な食品添加物と組み合わせて、食品用組成物として用いることができる。また、このような食品用組成物に限らず、緑茶、紅茶、烏龍茶、雑穀茶等に配合して飲料として、あるいはビスケット、パン、飴等に配合して食品として、日常的に摂取可能な形態で提供することも可能である。また、下記医薬品の調剤に準じて適当な剤形として、所謂サプリメントとして利用することも可能である。
【0033】
医薬品とする場合は、適当な医薬品添加剤と組み合わせて、通常の調剤の手法に従って各種の剤形として用いることができる。このような剤形としては、例えば散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等の経口投与剤が挙げられる。
【0034】
本発明の組成物を食品として用いる場合、一般的な飲食品としてだけでなく、特定の機能を発揮して健康増進を図る機能性健康食品としての使用が挙げられる。
この場合の具体的な形態としては、本発明の組成物を有効成分として含有するカプセル剤、錠剤、粉末剤、顆粒剤等からなるサプリメント類、パン、ケーキ、クッキー等のベーカリー食品類、ソース、スープ、ドレッシング、マヨネーズ等の調味料類、牛乳、ヨーグルト、クリーム類等の乳製品類、チョコレート、キャンデー等の菓子類、あるいは緑茶、紅茶、烏龍茶、麦茶、雑穀茶、果汁、野菜飲料、乳飲料、清涼飲料および炭酸飲料等の各種飲料類等が挙げられる。
【0035】
本発明の組成物を医薬品組成物の有効成分として使用する場合の投与量は、各成分の比率によっても異なり、また、患者の年齢、体重、性別、症状、投与方法などの種々の要因によって異なるが、成人で、1日当たり、経口投与の場合は、概ね、コリンエステル含量が5μg~50mgの範囲、また一態様として5μg~500μgの範囲で選択することができる。また、症状改善の度合いによって、適宜増減することもできる。投与回数としては、1日1回~数回に分けて投与することができる。
【0036】
本発明の組成物を食品として使用する場合の摂取量は、上記医薬品の経口投与の場合に準じて選択することができる。但し、飲食物の場合は医薬品とは異なり、投与用量および投与回数が特に制限されないことから、特に重篤な症状を発生しない限りにおいて、健康維持という目的、並びに、呈味性、嗜好性を考慮して、上記の範囲に限定されずに摂取量を選択してもよい。
【実施例0037】
以下に、本発明の実施の態様について実施例および試験例を挙げて説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。なお、実施例中の各略語の意味は次のとおりである。EN:(2-アミノエチル)トリメチルアンモニウムピバロイルアミド、AcCh:アセチルコリン、BuCh:ブチリルコリン、Ch:コリン、LaCh:ラクトイルコリン、PrCh:プロピオニルコリン。また、以降、EN、AcCh、BuCh、Ch、LaCh、PrChの総称をコリン化合物とする。EtOH:エタノール。
【0038】
〔実験材料と方法〕
1.分析サンプル
分析サンプルとして、表1に記載の各種農産物を入手した。
【表1】
【0039】
2.抽出法
(1)試料の調製
生鮮農産物(分析サンプル)は入手後すぐに、水道水で表面を洗浄した。水分を拭き取った後、可食部のみを必要に応じて1~3cm幅に包丁でスライスした。可食部を凍結乾燥機(FDU-2000、東京理化器械(株))で凍結乾燥した。凍結乾燥物はミルミキサー(MASTER、(株)東京ユニコム)で粉砕し、粉末状にした。
【0040】
(2)試薬の調製
リン酸二水素ナトリウム(59.99mg)とリン酸水素二ナトリウム(70.98mg)を量り取り、純水(100mL)に溶解し、10mMリン酸緩衝液を調製した。
EN(0.80mg)を10mMリン酸緩衝液(1mL)に溶解して800.00μg/mLに調製後、100倍希釈して8.00μg/mLに調製し、EN内部標準とした。
【0041】
(3)振とう抽出
凍結乾燥物(10mg)を2mLチューブに量り取り、EN内部標準(10μL)を加えた。10mMリン酸緩衝液(190μL)を添加し、ボルテックス(FLX-S、FRONT LAB、アズワン(株))で3分間撹拌した後、遠心分離機(CFM-200、(株)イワキ)で遠心分離(1000×g、室温、3min)し、上清を得た。残渣に再び10mMリン酸緩衝液(200μL)を添加し撹拌、遠心分離、上清採取の操作を2回繰り返した。採取した上清をすべて合わせ(約600μL)、抽出サンプルとした。
【0042】
(4)固相抽出
固相抽出カートリッジは弱酸性陽イオン交換カートリッジInert Sep CBA 100 mg/1 mL(ジーエルサイエンス(株))を用いた。メタノール(1mL)、純水(1mL)で活性化した固相抽出カートリッジを10mMリン酸緩衝液(8mL)で平衡化した後、前記(3)で調製した抽出サンプル(約600μL)を添加した。10mMリン酸緩衝液(600μL)で安定化、純水(2.5mL)で洗浄後、塩酸(500μL)で溶出した。
【0043】
(5)定量サンプル調製
固相抽出で塩酸溶出した溶出液(500μL)を1mLメスフラスコを用いてLC/MS/MS分析溶媒で精確に1mLにフィルアップし、300μLずつ3つに分けた。それぞれに、コリン化合物混合溶液を添加し、溶出液が2倍希釈になるようにLC/MS/MS分析溶媒を加え(表2)、定量サンプルを作成した。
【0044】
【0045】
コリン化合物混合溶液は表3のように作成し、コリン化合物混合溶液無添加サンプル(表2-A)の分析結果によって各コリン化合物ストック溶液の添加濃度を決定した。コリン化合物ストック溶液はLC/MS/MS分析溶媒で希釈して各濃度に調製した。検出されなかったコリン化合物があった場合は、その化合物を含まない等量のLC/MS/MS分析溶媒のみを加えた。
【0046】
【0047】
3.LC/MS/MS分析
(1)LC/MS/MS分析条件
カラムはYMC-Triart PFP(4.6mm×250mm、5μm、(株) ワイエムシィ)を用いた。分析溶媒に0.01%ギ酸-33%メタノール含有水を用い、流速は0.5mL/min(LC)、0.3mL/min(MS)、注入量は50μL、分離温度は40℃、分析時間は30min、イオン化モードはESI+・MRM、Capillary Voltageは3500V、Cone Voltageは10V、Collision Voltageは10V、N2 gas flow(desolvation)は600L/hr、N2 gas flow(cone)は50L/hr、N2 source tempは120℃、N2 desolvation tempが350℃の条件で、ACQUITY UPLC [UPLC, Waters corp.]-Quattro micro API [MS, Waters corp.]を用いて、LC/MS/MS分析を行った。各コリン化合物のMRMモード指定m/zは表4に示した。
【0048】
【0049】
(2)標準添加法
LC/MS/MS分析によって得られたクロマトグラフのピーク面積値から検量線を作成し、標準添加法によってコリン化合物を定量した。EN内部標準の検量線から算出した回収率で各コリン化合物濃度を補正し、定量サンプル中の正確なコリン化合物濃度を算出した。得られた濃度を凍結乾燥物中の含量(mg/gD.W.)に換算後、凍結乾燥前後の収率より、新鮮重量100g当たりの各コリン化合物量(μg/100gF.W.)を算出した。
【0050】
〔実験1〕新鮮重量と乾燥重量
各種生鮮農産物の新鮮重量と乾燥重量を求め、凍結乾燥前後での収率を算出した。結果を
図1に示す。
図1に示すとおり、レタス(シナノホープ)(新鮮重量:79.19g、乾燥重量:2.85g)の収率が3.60%と一番低く、やまのいも(長いも)(新鮮重量:79.76g、乾燥重量:21.23g)の収率が26.62%で一番高かった。多くの農産物の場合、収率は約5~約10%程度であった。
【0051】
〔実験2〕各生鮮農産物中のコリン化合物定量
前述の方法によって、20種類の生鮮農産物からコリン化合物を抽出し、LC/MS/MSでAcCh、Ch、BuCh、PrCh、LaChの5種のコリン化合物の分析をn=3で行った。結果を
図2に示す。
AcChおよびChは、試験した全ての農産物から検出された。一方、LaChは試験した全ての農産物から検出されなかった。また、BuChは、トマト、レタス、アルファルファもやし、豆苗、ソバスプラウト、りんご、日本なし、ぶどう、タケノコ以外の農産品から検出された。PrChは、トマト、豆苗以外の農産品から検出された。
本実験での定量の結果、タケノコとナス中からは、他の18種の生鮮農産物の1000倍以上ものAcChが検出された。AcCh含量は、タケノコが最も高かった。
【0052】
〔実験3〕ナス6品種中のコリン化合物定量
実験2でAcChを多く含み生食可能で周年栽培可能なナスにおいて、品種間でのコリン化合物含有量の差を調べた。前述の方法によって、6品種のナスからコリン化合物を抽出し、LC/MS/MSでAcCh、Ch、BuCh、PrCh、LaChの5種のコリン化合物の分析をn=3で行った。結果を表5に示す。
いずれの品種からもLaChは検出されなかった。また、6品種中、ヒゴムラサキが最も多くAcChを含んでいた。
【0053】
【0054】
これまでに、ナス中のAcChは高速液体クロマトグラフィー電気化学検出(HPLC-ECD)法によって定量されており、6.09×103μg/100gF.W.含まれていることが報告されているが(非特許文献7)、本実験におけるLC/MS/MS分析での定量の結果でもそれと同等のAcCh含有量となった。
【0055】
〔実験4〕ナス中のコリン化合物含量経時変化
ナスの保存期間は一般に、常温で2~3日、7~10℃で1週間程度とされているが、6℃以下での保存は、果皮がクレーター状に陥没するピッティングや褐変、黒い陥没などの低温障害を起こす可能性があるため推奨されていない。ナス果実の貯蔵適温は10℃以上20℃以下とされている。
本実験では、ナスの品種、ヒゴムラサキを常温保存した場合のコリン化合物量の経時変化を調べるため、新聞紙に包んで常温、暗所に保管し、同一の1個体から1日1回、約10gずつをサンプリングし、別個体を2分割した1つを6日目にサンプリングを行った。また、2分割した別の一つを新聞紙に包んで6日間冷蔵保存したサンプルも用意し、前述の方法によって、コリン化合物を抽出し、LC/MS/MSでAcCh、Ch、BuCh、PrCh、LaChの5種のコリン化合物の分析をn=3で行った。結果を表6、
図3および
図4に示す。
【0056】
【0057】
いずれにおいてもLaChは検出されなかった。各コリン化合物含有量は保存日数の経過とともに、緩やかに減少する傾向があった(
図3)。また、本実験では、冷蔵保存した個体にピッティングなどの低温障害は起こっていなかったが、常温保存の方が冷蔵保存よりもコリンエステル残存量が多かった(
図4)。
【0058】
本実験の結果より、ナスを5日間常温保存すると、コリンエステル含量は日数の経過とともに緩やかに減少する傾向があった。しかし、5日間常温保存した個体内にも1日目の80%以上のAcChが残存していたことから、常温保存時におけるナス中でのAcCh量の急激な変化はなく、安定性は高いと考えられる。
【0059】
〔実験5〕酸性条件下でのAcCh安定性
ナス中のコリンエステルを、より安定化させるための方法を検討した。一般に、エステル化合物は塩基条件で加水分解されやすく、酸性条件では比較的安定である。また、ナスに含まれるコリンエステルの99%以上はAcChである。そこで、まず、中性または酸性条件でのAcCh標品の濃度変化を経時的に調べた。中性溶液(pH7.0)はリン酸緩衝液で、酸性溶液(pH4.1、pH3.6、pH3.1、pH2.6)は酢酸を添加して調製し、AcCh濃度1.9mg/mLの各pH溶液を、常温(23~25℃)で0、3、6、12日静置した後にAcCh含量を定量した。その結果を表7、
図5に示す。
【0060】
【0061】
中性条件では、AcChは時間とともに分解され12日後では約半分に減少した。一方、pH4.1(酢酸濃度0.0015%)では、AcChは安定して存在し12日後にAcCh含量は増加する傾向が見られた。pH4.1~pH3.1で、AcChは12日後でも97%以上が保持され安定して存在することが明らかとなった。pH2.6では、AcChの安定性はやや低下し、12日後の残存率は88%であった。
【0062】
次に、ナス抽出物中に含まれるAcChの安定性を、中性条件、酸性条件で検討した。中性溶液(pH7.0)はリン酸緩衝液で、酸性溶液(pH5.2、pH5.0、pH4.3、pH3.5)は酢酸を、酸性溶液(pH5.4、pH4.6)はアスコルビン酸を添加して調製し、AcCh濃度0.040mg/mLとなるようにナス抽出物を添加した各pH溶液を、常温(23~25℃)で0、3、6、12日静置した後にAcCh含量を定量した。その結果を表8、
図6に示す。
【0063】
【0064】
ナス抽出物中のAcChは、中性条件では不安定であり、3日で半分以上、12日でほぼ全てのAcChが分解した。酸性条件では比較的安定であり、pH5.4~4.6では、12日後でも88%以上のAcChが残存したが、酢酸でpH3.5に調整した溶液では12日後に24.6%のAcChが分解された。ナス中のAcChは、室温で、pH5.4~4.6の酸性条件で安定して存在した。
以上の結果から、ナスなど農産物中のコリンエステルは、有機酸等を添加してpHを5.5~4.5に調整すれば、より安定化させることができる。懸濁液としたときにこのpH範囲であれば、酸は適切な時期に添加すればよい。
【0065】
〔実験6〕加熱によるナス中のAcCh含量変化
加熱によってナス中のAcCh含量がどのような影響を受けるかを調べるために、代表的な長卵形ナス品種 “竜馬”を厚さ2~3cmに切断し、ラップで包み、時間を変化させて電子レンジ(550W)で加熱後、室温で放冷してから凍結乾燥した試料中のAcCh含量を定量した。また、沸騰水中に投入して5分間茹でた場合のナス中のAcCh含量変化も調べた。これらの加熱処理後、直ちに温度を測定して記録した。結果を、表9、
図7に示す。
【0066】
【0067】
ナス中のコリンエステルは、電子レンジで加熱すると増加することが明らかとなった。100gあたり5分間の加熱が最もAcChを増加させる条件であり非加熱の2.9倍にAcCh含量が増加した。AcCh含量の増加は、100gあたり2分間の加熱で非加熱の2.6倍、100gあたり10分間の加熱で2.8倍であった。100gあたり2分間の加熱で内温が91.1℃に達し、5分間で92.6℃、10分間では水分の蒸発によって87.8℃に低下した。100gあたり5分間の茹で加工では、AcCh含量は2.5倍に増加し、その時の内温は95.6℃であった。
以上の結果から、一般的な加熱加工条件ではAcCh含量は増加し、ある程度安定に保持されると推測された。加工条件が異なっても、温度変化が同様であれば、AcCh含量は増加すると見込まれる。また、この工程で殺菌を行うことが出来る。
【0068】
実験4~6の結果から、コリンエステル分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼ(EC番号3.1.1.7)がコリンエステル含量に影響を与えることが明らかとなった。非特許文献3に記載のように、アセチルコリンエステラーゼは、植物に広く存在する。表8で示されたAcCh減少は、アセチルコリンエステラーゼによる分解が主な原因であると考えられる。アセチルコリンエステラーゼの至適pH8.0~8.5に近い中性ではより多くのAcChが分解され、酵素活性が低下する低いpHではAcChの分解が抑制されたものと考えられた。また、加熱すると、アセチルコリンエステラーゼが失活するため、AcChは分解されず、水分が蒸発して濃縮されたと考えられた。つまり、ナスおよびナス加工品では、アセチルコリンエステラーゼを制御する加工技術が重要である。そこで、ナスのアセチルコリンエステラーゼを機能させない冷凍したナスおよびナス加工品のAcCh含量の変化を調べた。
【0069】
〔実験7〕冷凍生鮮ナスおよび冷凍加熱ナス中のAcCh含量変化試験
生鮮ナス(約10gにカット)および加熱ナス(約10gにカットしたものを100gあたり5分間電子レンジ(550W)加熱)を夫々、-20℃で冷凍し、1か月毎にサンプルを取り出して凍結乾燥した後AcCh含量を定量し、6か月間のAcCh含量変化を調べた。なお、生鮮ナスおよび加熱ナスは、それぞれ同一のナス果実から切り分けたものを使用した。結果を、表10に示す。
【0070】
【0071】
生鮮ナスおよび加熱ナス中のAcChは、冷凍することによってほぼ変化せず、冷凍加工によってナス中のコリンエステルを長期間、安定して保持できることが明らかとなった。生鮮ナスでは、冷凍することで、ナス中コリンエステルを分解する要因であるコリンエステラーゼの活性を抑制できた結果である。事前に加熱してコリンエステラーゼを失活させた加熱ナスの結果とほぼ同等のAcCh含量変化であったことからも、冷凍によるコリンエステラーゼ活性抑制が十分であったと考えられる。
【0072】
〔実験8〕ナス抽出物調製試験
ナス凍結乾燥粉末や生鮮ナスを用いてナス抽出物を調製した。ナス凍結乾燥粉末を用いた抽出物調製法は以下の通りである。
ナス凍結乾燥粉末(1g)を遠沈管(50mL容量)に量りとり10倍重量(10g)の、10~100%まで10%ずつEtOH濃度変化させた溶媒を加え、室温で3000rpm、30分間、振とう攪拌した後、ろ過して上清を得た。上清をナスフラスコ(200mL)に移し、純水(10g)を加えてエバポレーターを用いて濃縮した。液量が1/5程度になったら、内容物を遠沈管(15mL)に完全に移し、凍結乾燥した。凍結乾燥物をナス抽出物とし、収率を求め、前記の「2.抽出法」および「3.LC/MS/MS分析」に記載の方法で定量した。50%EtOHおよびEtOHを用いた抽出ではL-アスコルビン酸を加えて抽出物を調製した。結果を表11に示す。
【0073】
【0074】
生鮮ナスを用いる場合、カットした生鮮ナス(10g)に各濃度のEtOHを添加してミルミキサーで粉砕し、ナス凍結乾燥粉末と同様の方法で調製し、同様にして収率とコリンエステル含量を求めた。添加EtOH重量は、生鮮ナス重量の0.5倍、同量、2倍量とした。また、同量のEtOHを用いた抽出ではL-アスコルビン酸を加えて抽出物を調製した。結果を表12に示す。
【0075】
【0076】
ナス抽出物は、凍結乾燥粉末および/または熱風乾燥粉末よりもコリンエステルが濃縮された水溶性の半固形物である。L-アスコルビン酸を加えて溶液を酸性にすると共に酸化を抑制すると、抽出過程でのコリンエステルの安定化と色調変化防止が可能である。
【0077】
〔実験9〕ナス凍結乾燥物を用いた高血圧自然発症ラットへの単回経口投与試験
ナス凍結乾燥物を高血圧自然発症ラット(SHR)に単回経口投与し、血圧降下作用を検討した。雄性14週齢SHR(体重324~368g)を、1週間の馴化飼育後、12時間絶食させ、水に懸濁したナス凍結乾燥粉末を、ゾンデを用いて単回経口投与した。ナス凍結乾燥粉末は、大阪府阪南市産・泉州水ナスを水洗、次亜塩素酸で殺菌したものの可食部を凍結乾燥後に細かく粉砕し調製した。ナス凍結乾燥粉末中のコリンエステル類の99%以上はAcChであり、AcCh含量は2.25mg/gD.W.であった。投与量は、AcCh1.00×10
-9mol(0.146μg)/kgに相当するナス凍結乾燥粉末量0.065mg/kgとし、6匹のSHRに単回経口投与した。血圧降下作用を比較するためAcCh標品1.00×10
-9mol/kgの投与試験を同様にして行い収縮期血圧を測定した。コントロール群には、同様の条件で水のみを投与した。経口投与後、0、3、6、9、24時間後に、非観血式血圧測定器Softron BP-98A(ソフトロン(株)、東京)を用いてテイルカフ法で収縮期血圧、拡張期血圧および心拍数を測定した。ナス凍結乾燥粉末の単回経口投与試験結果を
図8~10に示した。
【0078】
ナス凍結乾燥粉末投与群は、投与3、9時間後にコントロール群と比較して有意な収縮期血圧低下作用(p<0.05)を引き起し、最大血圧低下は投与9時間後の-17.8mmHg、コントロール群と比較して-10.0mmHgであり、アセチルコリン1.00×10-9mol/kg投与とほぼ同様の血圧降下作用を示した。また、拡張期血圧も低下傾向を示し、最大血圧低下は投与9時間後の-11.3mmHg、コントロール群と比較して-8.3mmHgであった。心拍数は、投与3時間後にはコントロール群よりも低下する傾向がみられたが、その後、投与9時間後まで上昇傾向を示した。こうしてナスの経口投与での血圧降下作用が確認された。
【0079】
12時間絶食後のSHRへの一日当たりAcCh有効用量は1.00×10-9mol(0.146μg)/kgであるが、非絶食のSHRへの一日当たりAcCh有効用量は、反復経口投与試験において有意な血圧上昇抑制作用が見られた1.00×10-8mol(1.46μg)/kgであった(非特許文献21)。この通常状態のSHRが経口摂取で血圧降下作用を引き起こすAcCh用量を、クレーバーの法則(非特許文献22)を用いてヒトへ外挿した。クレーバーの法則では、哺乳類代謝量は体重の3/4乗に比例するとされ、SHRの体重が370g、ヒトの体重が60kgと想定すると、SHRの有効用量の45.4倍がヒト有効用量と見積もられる。すなわち、血圧降下作用を引き起こすSHRのAcCh摂取量は一日当たり3.70×10-9mol(0.540μg)であり、一日当たりのヒト有効用量は1.68×10-7mol(24.5μg)となる。
【0080】
また、本発明者は、既に、発酵キョウバク(ソバ植物体の乳酸発酵物)の血圧降下作用と血管拡張作用を見出し、有効成分としてAcCh、BuCh、LaCh、PrChのコリンエステル類を含み、精製したAcCh、BuCh、PrChをSHRに単回経口投与した場合に、血圧降下作用を示すことを明らかにした(特許文献1および2)。さらに検討を進め、ヒトにおけるコリンエステルの経口投与における血圧降下作用について検討した。
正常高値血圧者およびI度高血圧者(男性6名、女性6名、33~63歳)に、発酵キョウバク含有飲料(1本あたり25μgのコリンエステルを含む)を、毎日1本、4週間にわたって摂取させた。
結果、被験者の収縮期血圧が、摂取前に比べて-11.8mmHg低下(P=0.0080、t検定)した。すなわち、ヒトにおいて、コリンエステルを血圧降下成分として25μg含む発酵キョウバク含有飲料の4週間継続摂取で、有意な血圧降下が認められた。このように、SHRで血圧降下作用を引き起こすAcCh有効用量を、クレーバーの法則でヒトに外挿して求めた有効用量に極めて近い用量で血圧降下作用が確認された。
【0081】
非絶食SHRへの反復経口投与試験において2.00×10-9mol(0.292μg)/kgで血圧降下作用が大きく減弱した。このAcCh用量をクレーバーの法則(非特許文献22)を用いてヒトへ外挿し、一日当たりのヒト有効用量の下限は3.36×10-8mol(4.91μg)となる。同様の試験で2.00×10-7mol(29.2μg)/kgで血圧降下作用が大きく減弱した。このAcCh用量をクレーバーの法則(非特許文献22)を用いてヒトへ外挿した場合、一日当たりのヒト有効用量の上限は3.36×10-6mol(491μg)となる。よって、SHRのような遺伝特性を持つ高血圧者一日当たりのヒト有効用量は5~500μgの範囲と推定された。
血圧降下作用を引き起こすコリンエステル用量は、上記のとおり推定されたヒト有効容量を考慮すると共に、本発明の組成物以外の食事由来のコリンエステルの量を考慮して最終的に決定され得る。
【0082】
〔実験10〕ナス凍結乾燥物を用いた正常血圧ラットへの単回経口投与試験
実験9と同様の方法でナス凍結乾燥物をウィスター京都ラット(WKYラット)に単回経口投与して血圧降下作用を検討した。WKYラットは、SHRの親系統であり、試験対照として用いられる高血圧になる遺伝的要因を持つ正常血圧ラットである。使用動物は、雄性14週齢WKYラット(体重320~362g)、実験9と同じナス凍結乾燥粉末を使用した。投与量は、ナス凍結乾燥粉末量0.065mg/kg(AcCh1.00×10
-9mol(0.146μg)/kgに相当)および6.5mg/kg(AcCh1.00×10
-7mol(14.6μg)/kgに相当)とした。
WKYラットへのナス凍結乾燥粉末の単回経口投与試験結果を
図11に示した。
【0083】
SHRで血圧降下作用が引き起こされたAcCh1.00×10-9mol/kgに相当するナス凍結乾燥粉末投与では、WKYラットの血圧に変化は見られなかった。AcCh1.00×10-7mol/kgに相当するナス凍結乾燥粉末投与で、SHRにおけるAcCh1.00×10-9mol/kgに相当するナス凍結乾燥粉末投与と同等の血圧降下作用が引き起こされた。すなわち、正常血圧のWKYラットで血圧降下作用を引き起こすためには、より多くのナス凍結乾燥粉末が必要であることが明らかとなった。
【0084】
〔実験11〕ナス粉砕試料を用いた血管等尺性張力測定試験
試験に用いたナス粉砕試料は、次のようにして調製した。大阪府阪南市産・泉州水ナスを水洗、次亜塩素酸で殺菌したものの可食部を1~3cm幅にスライスし、市販フードプロセッサ(クラッシュミルサーIFM-C20G、岩谷産業(株))で粉砕し、ペースト状にした。また、1~3cm幅にスライスし加熱滅菌(約90℃、約5分間)したナス果実を凍結乾燥して得られたナス果実凍結乾燥物、または、熱風乾燥(約90℃、約1~2時間)して得られたナス果実熱風乾燥物を、ミルミキサー(MASTER、(株)東京ユニコム)で粉砕し、粉末状にした。それぞれの粉砕試料を、ステンレス篩(JIS規格、20メッシュ)にかけ、通過したものを20メッシュパス、通過しなかったものを20メッシュオンとし、生鮮ナス果実粉砕物20メッシュパス(試料1)、生鮮ナス果実粉砕物20メッシュオン(試料2)、凍結乾燥粉末20メッシュパス(試料3)、凍結乾燥粉末20メッシュオン(試料4)、熱風乾燥粉末20メッシュパス(試料5)、熱風乾燥粉末20メッシュオン(試料6)を調製した。
【0085】
全ての試料は試験に用いるまで-98℃で保存した。試料1および2の中のコリンエステル含量は、凍結乾燥後に細かく粉砕し、前記の「2.抽出法」および「3.LC/MS/MS分析」に記載の方法で定量した。試料3および試料5はそのままの粉末を用いて、前記の「2.抽出法」および「3.LC/MS/MS分析」に記載の方法で定量した。試料4および試料6は細かく粉砕し、前記の「2.抽出法」および「3.LC/MS/MS分析」に記載の方法で定量した。
【0086】
ナス粉砕試料のコリンエステル類の99%以上はAcChであり、AcCh含量は表13に示す通りであった。
【表13】
【0087】
血管等尺性張力測定は以下のようにして行った。
雄性14週齢SHR(体重320~346g)を、エーテル麻酔下でラットを開腹、放血死させ、速やかに胸部大動脈を摘出した。摘出した大動脈を、生理食塩水に浸し、血液をよく洗い流した後、Krebs-Henseleit溶液中で血管に付着した結合組織および脂肪組織を除去し、幅約2~3mmのリング標本を作製した。作製したリング標本は混合ガス(95%O
2、5%CO
2)を通気したKrebs-Henseleit溶液(119mM NaCl/4.7mM KCI/1.1mM KH
2PO
4/1.2mM MgSO
4/25mM NaHCO
3、pH7.4、37oC)を満たした等尺性張力試験装置(UFER UC-05A、いわしや岸本医科産業(株)、京都)のオーガンバス内に取り付け、1.0gの至適静止張力を負荷し、60分間リング標本を安定させた。その後、オーガンバス内にフェニレフリン(PE、0.3μM)を添加し、血管が収縮して安定したところでAcCh(終濃度100μM)を添加し内皮状態に問題がないこと確認した後、Krebs-Henseleit溶液で洗浄し、静止張力に戻した。15分後に再び収縮剤PE(0.3μM)によって血管を収縮させて収縮が最大に達したことを確認して、AcCh終濃度が10
-9、10
-8、10
-7、10
-6.5、10
-6、10
-5.5、10
-5Mとなるように、Krebs-Henseleit溶液に懸濁させたそれぞれのナス粉砕試料を加えた。張力変化は、トランスデューサー(UFER UM-20、いわしや岸本医科産業(株))を用いて測定し記録し、下記の式(1)で拡張率(%)を算出し、3回繰り返し試験結果の平均値±標準誤差(Mean±S.E.)を求めた。ナス粉砕試料の血管等尺性張力試験結果を
図12に、結果とプロビット法で求めたEC
50(50%効果濃度)、統計解析結果と表14に示した。
【0088】
式(1)
拡張率(%)={最大張力(g)-サンプル添加時の張力(g)}/最大張力(g)
【0089】
【0090】
AcCh終濃度が10-9、10-8、10-7、10-6.5、10-6、10-5.5、10-5Mとなるように加えたナス粉砕試料濃度は表14に示す通りであり、本試験に用いた生鮮ナス果実粉砕物の凍結乾燥収率が6.0%であったことから、生鮮ナス果実粉砕物20メッシュオンの血管等尺性張力試験のナス粉砕物濃度が最も高く、19mg/mLであった。
コリンエステル以外に血管拡張に影響を与える可能性があるクロロゲン酸類とγ-アミノ酪酸(GABA)含量は、それぞれ0.56mg/gFW、0.24mg/gFWであり、この試験系での濃度は、それぞれ11μg/mL、4.8μg/mLであり、それぞれの標品を用いた試験で、これらの濃度で血管への影響は見られなかった。他のナス粉砕物を用いた試験系では、これらの化合物濃度はより低くなるため血管拡張作用への関与は極めて限定的で、コリンエステルが主要な血管拡張成分であると考えられた。
【0091】
全てのナス粉砕試料で、用量依存的に血管拡張作用を示した。最も強い血管拡張作用を示した凍結乾燥粉末20メッシュパス(試料3)は、チャンバー内のAcCh濃度が10-8Mとなるようにナス粉砕試料(6.2×10-4mg/mL)を添加するとナス凍結乾燥粉末を添加する前と比較して19%の有意な血管拡張(p<0.05)を示し、それ以降10-6M(ナス粉砕試料6.2×10-2mg/mL)まで用量依存の有意な血管拡張を示した、それより高濃度ではやや収縮したものの有意な血管拡張であった。最大拡張率は、AcCh濃度が10-6Mとなるナス粉砕試料(6.2×10-2mg/mL)添加時で80%であった。次に最も強い血管拡張作用を示した熱風乾燥粉末20メッシュパスは、チャンバー内のAcCh濃度が10-8Mとなるようにナス粉砕試料(7.2×10-4mg/mL)を添加するとナス凍結乾燥粉末を添加する前と比較して15%の有意な血管拡張(p<0.05)を示し、それ以降10-6M(ナス粉砕試料7.2×10-2mg/mL)まで用量依存の有意な血管拡張を示した、それより高濃度ではやや収縮したものの有意な血管拡張であった。最大拡張率は、AcCh濃度が10-6Mとなるナス粉砕試料(7.2×10-2mg/mL)添加時で78%であった。これらの結果から、ナス乾燥粉末の強い血管拡張作用が確認された。
【0092】
一方、試料4および6は、AcCh濃度が10-7M(凍結乾燥粉末8.9×10-3mg/mL、熱風乾燥粉末9.8×10-3mg/mL)から有意な血管拡張(p<0.05)を示し、最大拡張率は、AcCh濃度が10-5Mとなるナス粉砕試料添加時で凍結乾燥粉末57%、熱風乾燥粉末50%であった。試料3と試料4の血管拡張作用を比較すると、試料3を添加した場合にAcCh濃度が10-8Mから有意に強い血管拡張作用が確認され、10-8Mの血管拡張作用は6.5倍であった。同様に、試料5の血管拡張作用は試料6よりAcCh濃度が10-8Mから有意に強く、10-8Mの血管拡張作用は7.8倍であった。以上の結果から、試料3および5は、夫々、試料4および6よりも血管拡張作用が強いことが確認された。
【0093】
また、試料1および2は、それぞれAcCh濃度が10-6M(1.4mg/mL)、10-6.5M(0.59mg/mL)から有意な血管拡張(p<0.05)を示したものの、いずれも乾燥粉末よりも血管拡張作用が弱く、20メッシュパス乾燥粉末が生体で高い効果を発揮することが明らかとなった。
【0094】
EC50は試験試料の生体作用の強さを表す指標である。試料3の本試験における血管拡張作用EC50は0.015mg/mLであり、試料5以外のナス粉砕物よりも有意に強い活性が認められ、活性の強さは試料1の467倍、試料2の660倍、試料4の16倍、試料6の26倍であった。また、次に強い血管拡張作用を示した試料5のEC50は0.027mg/mLであり、試料3以外のナス粉砕物よりも有意に強い活性が認められ、活性の強さは試料1の259倍、試料2の367倍、試料4の9倍、試料6の14倍であった。
以上の結果から、20メッシュより細かいナス乾燥粉末が強い血管拡張作用を有していると結論付けられた。
【0095】
〔実験12〕ナス凍結乾燥物を用いた反復経口投与試験
ナス凍結乾燥物を高血圧自然発症ラット(SHR)に4週間にわたり、毎日、経口投与し、血圧降下作用を確認すると共に尿中カテコールアミン量の変化を調べて抗ストレス作用を評価した。
雄性6週齢SHR(体重263~286g)を、6日間の順化飼育後、コントロール群(純水投与、n=6)と被験群(ナス凍結乾燥粉末投与、n=6)の2群に分け、室温23±4℃、湿度50±20%、明暗周期12時間(明期5時30分~17時30分)の条件で、個別の代謝ゲージを用いて飼育した。飼料には飼育用標準飼料(MF、オリエンタル酵母工業(株))、飲用水には水道水を用い、それぞれ自由摂取とした。原料ナスには、土佐鷹なす(2月収穫、高知県産)を使用し、前記〔実験9〕の方法でナス凍結乾燥粉末を調製した。ナス凍結乾燥粉末投与量はラット1匹あたり0.82mg/kg(b.w.)(AcCh換算量:10-8mol/kg)とし、ステンレス製経口胃ゾンデを用いて30日間反復経口投与を行った。試験期間中、摂餌量、摂水量を週に2回、体重を週に1回、尿量を毎日測定した。血圧(収縮期、拡張期)を前記〔実験9〕と同様にして、試験開始前および試験開始後7日目、14日目、21日目、28日目に測定した。各測定は3回繰り返し行い、平均値±標準誤差(Mean±S.E.)を求めた。
【0096】
血圧測定前日の尿サンプルを用いて尿中カテコールアミンを定量した。反復経口投与開始の前日から、24時間分の尿サンプルの採取を開始した。5N塩酸(1mL)を加えた採尿容器を用いて1日1回採尿し、排尿量を測定した後、得られた尿は測定まで-80℃で冷凍保存した。分析時に解凍し、尿サンプルを遠心分離(4℃、1000×g、3分間)して得られた上清(200μL)を、MonoSpin(登録商標)PBA(ジーエルサイエンス(株))にアプライし、洗浄後、1%酢酸水溶液(400μL)で溶出し、尿中カテコールアミンを濃縮したものを分析サンプルとした。尿中カテコールアミンは、HPLCシステム(Prominence HPLC system、(株)島津製作所、京都:システムコントローラー:CBM-20A、送液ユニット:LC-20AD、カラムオーブン:CTO-10A)と電気化学検出器(ECD、ジーエルサイエンス(株)、ED723ダイヤモンド電極)を用い、次の条件で定量を3回繰り返し、平均値±標準誤差(Mean±S.E.)を求めた。
カラム:Inertsil ODS-4(4.6×250mm、ジーエルサイエンス(株))
流速:0.8mL/min、分離温度:35℃、標品注入量:20μL
移動相:Acetate-citrate buffer/CH3CN(100/16 v/v)
検出条件:ECD 800mV (参照電極Ag/AgCl)
【0097】
表15、16および17に示すように、飼育期間を通して、体重、尿量、摂水量、総摂餌量では両群に有意な差は見られなかった。
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
図13および
図14に示すように、被験群はコントロール群と比較して、収縮期血圧は試験開始14日、21日、28日目、拡張期血圧は28日目において有意な低値を示し、単回経口投与試験で明らかとなったナス凍結乾燥粉末摂取による血圧降下作用が、反復経口投与試験でも確認された。
【0102】
図15および
図16に示すように、尿に含まれる代表的なカテコールアミンであるアドレナリン、ノルアドレナリン量が、コントロール群と比較して被験群では有意に低下した。尿中アドレナリン量は試験開始後20日と27日目に、尿中ノルアドレナリン量は試験開始後6日と27日目に、被験群はコントロール群よりも有意な低値を示した。
【0103】
ノルアドレナリンは交感神経終末から放出される神経伝達物質であり、アドレナリンは、ノルアドレナリンが副腎で変換されて生成する。これらのカテコールアミンは、アドレナリン受容体に作用して様々な臓器や代謝系の制御に関与する。放出されたカテコールアミンは、神経が到達している効果器で作用すると共に一部が血中に移行して全身に影響を及ぼす。血中カテコールアミンは代謝され不活性化されるが、そのまま尿中に排出されるものもある。そのため、尿中カテコールアミン量は生体における交感神経活動の指標となる。つまり、交感神経活動が亢進し活発に活動した結果、尿中カテコールアミン量が増加することになる。交感神経は覚醒、攻撃、防御、逃避行動を促進する。交感神経活動の亢進によって放出されるカテコールアミンは、血管のアドレナリンα受容体に作用し、血管を収縮させて血圧上昇を引き起こす。そのため、経口摂取コリンエステルの血圧降下作用メカニズムには、交感神経活動の抑制によるカテコールアミン減少が深く関与していると考えられる。
【0104】
また、生体は交感神経活動を亢進させてストレスに対応することが知られており、ストレスによってカテコールアミン量は増加する。そのため、カテコールアミンはストレス指標として知られている。
β-カロチンを有効成分とする抗ストレス組成物の、生体での抗ストレス作用の指標としてカテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)が採用され、組成物摂取によるカテコールアミンの有意な減少によって抗ストレス作用が示されている(特許文献3)。また、酵母加水分解物投与後の拘束ストレスでの、血中アドレナリン(文献ではepinephrineと記載)、血中ノルアドレナリン(文献ではnorepinephrineと記載)レベルの有意な低値によって抗ストレス作用を裏付けている(非特許文献23)。カンデサルタン(アンジオテンシンII 1型受容体拮抗阻害剤)による抗ストレス作用評価では、代謝ケージでの個別飼育ストレスの指標として尿中カテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)が用いられ、それぞれの有意な低値が抗ストレス作用の裏付けとされている。
【0105】
実験12で、尿中カテコールアミン量がナス凍結乾燥粉末摂取によって有意に低下したことは、ナス凍結乾燥粉末摂取が交感神経活動を抑制し抗ストレス作用を発揮した結果であるといえる。つまり、ナス凍結乾燥粉末摂取による抗ストレス作用が認められた。実験11の血管拡張作用は、ナスに含まれるコリンエステルがムスカリン性アセチルコリン受容体へ作用して引き起こされる(非特許文献25)。この抗ストレス作用も、ナスに含まれるコリンエステルがムスカリン性アセチルコリン受容体へ作用して、交感神経活動を抑制して神経抹消からのカテコールアミン放出を抑制した結果であると考えられ、一定量のコリンエステルを含むナスを原料とする抽出物および加工食品は抗ストレス作用を有するものと考えられる。経口摂取コリンエステルによる交感神経活動の抑制が引き起こす血圧降下作用および抗ストレス作用は互いに密接に関連している。そのため、血圧降下作用が見られたSHRとWKYラットでのコリンエステル用量の差異は、抗ストレス作用にも適応されるものである。
【0106】
4.実施の検討
本発明者の研究により、コリンエステルは1日に25μgという極少量の摂取で血圧降下作用が認められている。25μgのAcChを摂取するのに必要な農産物の重量を1日摂取目安量と設定し、実験1および2で定量した生鮮農産物20種の1日摂取目安量を算出した。結果を表18に示す。
【0107】
【0108】
表18に示すとおり、25μgのAcChを摂取するためには、ナスおよびタケノコ以外の18種の農産物では、非常に多量の摂取を必要とする。例えば、レタスでは、1日約7.5kg以上を摂取する必要があり、1日の摂取としても現実的ではなく、日常的に継続的な摂取は到底不可能である。一方、ナスおよびタケノコは、それぞれ1日摂取目安量がわずか0.41gおよび0.25gであることから、毎日の継続摂取が可能な量で血圧降下作用を示すと期待できる。また、今回の実験に用いたナス7品種のうち、泉州水なす、ばってんなす、広陵サラダ茄子、ヒゴムラサキ、竜馬の5品種は皮がやわらかく、あくが少ないという特徴があり、生食が可能な品種である。生食により摂取する場合は、調理によるコリンエステルの減少を考慮する必要がなくなる。
本発明の組成物は、顕著な血圧降下作用を有しており、これを活性成分として含有させることにより、機能性表示食品あるいは高血圧症等の治療用医薬品を製造することができる。