(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114858
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
H01F 17/00 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
H01F17/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024103337
(22)【出願日】2024-06-26
(62)【分割の表示】P 2019207240の分割
【原出願日】2019-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100129296
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 博昭
(72)【発明者】
【氏名】大久保 等
(72)【発明者】
【氏名】太田 学
(72)【発明者】
【氏名】福岡 玲
(72)【発明者】
【氏名】木股 寛統
(57)【要約】
【課題】特性の向上が図られたコイル部品を提供する。
【解決手段】 コイル部品1において、樹脂壁18の台座部18aの高さh1は段部18cの高さ位置に相当する。また、シード部14aの高さh2は、コイル13の巻回部14をめっき成長させる際のめっき開始位置に相当する。台座部18aの高さh1とシード部14aの高さh2とが0.3≦h1/h2≦10を満たすことで、めっき開始位置と段部18cとが近くなるように設計されている。したがって、コイル部品1は、樹脂壁18が段部18cを有する構成ではあるものの、その段部18c内がコイル導体で十分に充たされるため、特性の低下が抑制されている。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の両方の主面上に設けられたシード部と、該シード部を覆うめっき部とを有するコイルと、
前記基板の両方の主面に設けられ、前記コイルの巻回部が間に延びる複数の樹脂壁を有する樹脂体と
を備え、
前記基板の両方の主面にそれぞれ設けられた前記樹脂壁は、前記基板の主面に接する台座部と、前記基板から離れる向きに前記台座部から延びるとともに前記台座部より幅狭の壁部とを有し、
前記台座部と前記壁部とが一体的に形成されており、
前記基板の主面上において前記樹脂壁の台座部と前記シード部とが離間しており、
前記樹脂壁の台座部の高さをh1とし、前記コイルのシード部の高さをh2としたときに、0.3≦h1/h2<0.75を満たす、コイル部品。
【請求項2】
前記台座部を構成する樹脂材料と前記壁部を構成する樹脂材料との主成分が同じである、請求項1に記載のコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコイル部品として、たとえば特許文献1には、基板の主面に設けられた樹脂壁の間にコイルの巻回部をめっき成長させたコイル部品が開示されている。本文献には、基板側に位置する幅広の台座部と、基板から離れる向きに台座部から延びる幅狭の壁部とを有し、台座部と壁部との間に段部が形成された樹脂壁が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来技術に係るコイル部品において、樹脂壁が台座部に比べて幅狭な壁部を有することで、壁部の間におけるコイル導体の増量が図られ、それによりコイル特性の向上を図ることができる。一方で、樹脂壁の間にコイルの巻回部をめっき成長させる際、台座部と壁部との間の段部ではめっき成長しづらくなっており、段部において十分なめっき成長がおこなわれない場合には、段部がコイル導体で充たされずに特性の低下を招く虞がある。
【0005】
本発明は、特性の向上が図られたコイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係るコイル部品は、基板と、基板の主面上に設けられたシード部と、該シード部を覆うめっき部とを有するコイルと、基板の主面に設けられ、コイルの巻回部が間に延びる複数の樹脂壁を有する樹脂体とを備え、樹脂壁は、基板の主面に接する台座部と、基板から離れる向きに台座部から延びるとともに台座部より幅狭の壁部とを有し、樹脂壁の台座部の高さをh1とし、コイルのシード部の高さをh2としたときに、0.3≦h1/h2≦10を満たす。
【0007】
上記コイル部品において、台座部の高さh1は、台座部と壁部との間の段部の高さ位置に相当し、シード部の高さh2は、コイルの巻回部をめっき成長させる際のめっき開始位置に相当する。台座部の高さh1とシード部の高さh2とが0.3≦h1/h2≦10を満たす場合には、めっき開始位置と段部とが近い。そのため、段部がコイル導体で充たされ、特性の低下が抑制される。
【0008】
他の側面に係るコイル部品は、台座部を構成する樹脂材料と壁部を構成する樹脂材料との主成分が同じである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特性の向上が図られたコイル部品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るコイル部品の概略斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すコイル部品の製造に用いられる基板を示した斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2に示した基板のシードパターンを示した平面図である。
【
図4】
図4は、
図1に示すコイル部品の製造方法の一工程を示した斜視図である。
【
図8】
図8は、
図1に示すコイル部品の製造方法の一工程を示した斜視図である。
【
図9】
図9は、
図1に示すコイル部品の製造方法の一工程を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0012】
まず、本発明の実施形態に係るコイル部品の構造について、
図1~4を参照しつつ説明する。説明の便宜上、図示のようにXYZ座標を設定する。すなわち、平面コイル素子の厚さ方向をZ方向、外部端子電極の対面方向をY方向、Z方向とY方向とに直交する方向をX方向と設定する。
【0013】
コイル部品1は、略直方体形状を呈する本体部10と、本体部10の対向する一対の端面を覆うようにして設けられた一対の外部端子電極30A、30Bとによって構成されている。コイル部品1は、一例として、長辺2.0mm、短辺1.6mm、高さ0.9mmの寸法で設計される。
【0014】
以下では、本体部10を作製する手順を示しつつ、併せて、コイル部品1の構造についても説明する。
【0015】
本体部10は、
図2に示す基板11を含んでいる。基板11は、非磁性の絶縁材料で構成された平板矩形状の部材である。基板11の中央部分には、主面11a、11b間を繋ぐように貫通された略円形の開口12が設けられている。基板11としては、ガラスクロスにシアネート樹脂(BT(ビスマレイミド・トリアジン)レジン:登録商標)が含浸された基板で、板厚60μmのものを用いることができる。なお、BTレジンのほか、ポリイミド、アラミド等を用いることもできる。基板11の材料としては、セラミックやガラスを用いることもできる。基板11の材料としては、大量生産されているプリント基板材料が好ましく、特にBTプリント基板、FR4プリント基板、あるいはFR5プリント基板に用いられる樹脂材料が最も好ましい。
【0016】
基板11には、
図3に示すように、それぞれの主面11a、11bに、後述するコイル13をめっき成長させるためのシードパターン13Aが形成されている。シードパターン13Aは、基板11の開口12の周りを回る螺旋パターン14Aと、基板11のY方向に関する端部に形成された端部パターン15Aとを有し、これらのパターン14A、15Aが連続的かつ一体的に形成されている。なお、一方の主面11a側に設けられるコイル13と他方の主面11b側に設けられるコイル13とでは電極引き出し方向が逆であり、そのため、一方の主面11a側の端部パターン15Aと他方の主面11b側の端部パターンとは、基板11のY方向に関する互いに異なる端部に形成されている。
【0017】
図2に戻って、基板11の各主面11a、11b上には、樹脂体17が設けられている。樹脂体17は、公知のフォトリソグラフィーによってパターニングされた厚膜レジストである。樹脂体17は、コイル13の巻回部14の成長領域を画定する樹脂壁18と、コイル13の引出電極部15の成長領域を画定する樹脂壁19とを有している。
【0018】
図4は、シードパターン13Aを用いてコイル13をめっき成長させたときの基板11の状態を示している。コイル13のめっき成長には、公知のめっき成長方法を採用することができる。
【0019】
コイル13は、銅で構成されており、シードパターン13Aの螺旋パターン14A上に形成された巻回部14と、シードパターン13Aの端部パターン15A上に形成された引出電極部15とを有している。コイル13は、平面視したときに、シードパターン13A同様、基板11の主面11a、11bに平行に延在する平面渦巻き状の空芯コイルの形状となっている。より詳しくは、基板上面11aの巻回部14は、上面側から見て外側に向かう方向に沿って左回転の渦巻きであり、基板下面11bの巻回部14は、下面側から見て、外側に向かう方向に沿って左回転の渦巻きである。基板上面11aおよび基板下面11bの両コイル13は、たとえば、開口12の近傍に別途設けられた貫通孔を介して端部同士が接続される。両コイル13に一方向に電流を流したときには、両コイル13の電流の流れる回転方向が同一となるため、コイル13で発生する磁束が重畳して強め合う。
【0020】
図5は、
図2に示しためっき成長前の基板11の状態を示しており、
図2のV-V線断面図である。
図6は、
図4に示しためっき成長後の基板11の状態を示しており、
図4のVI-VI線断面図である。
【0021】
図5および
図6に示すように、基板11上には、基板11の法線方向(Z方向)に沿って延びる樹脂壁18が形成されており、これらの樹脂壁18の間においてコイル13の巻回部14がZ方向に成長する。コイル13の巻回部14は、その成長領域が、めっき成長前に基板11上に形成された樹脂壁18によって予め画定されている。
【0022】
樹脂壁18は、基板11の主面11aに接する台座部18aと、基板11から離れる向き(すなわち、Z方向の向き)に台座部18aから延びる壁部18bとを有する。壁部18bは均一な幅d2’を有し、壁部18bの幅d2’は、台座部18aの幅d’’よりも狭くなるように設計されている。本実施形態では、壁部18bの幅は5μmであり、台座部18aの幅d’’は10μmである。壁部18bが台座部18aに比べて幅狭な場合、壁部18bの間におけるコイル導体が有意に増量し、それによりコイル特性が向上する。また、幅広の台座部18aによれば、基板11側の断面積が大きくなることで樹脂壁18の強度が増し、樹脂壁18の歪みや倒壊が抑制される。
【0023】
壁部18bは、台座部18aの幅方向(
図5のX方向)に関する中心からZ方向の向きに延びている。それにより、
図7に示すように、台座部18aと壁部18bとの間には段部18cが形成されている。
【0024】
台座部18aの高さh1は、シード部14aの高さh2と同程度になるように設計されている。台座部18aの高さh1は、たとえば5μm~50μmであり、一例として15μmである。シード部14aの高さh2は、たとえば5μm~15μmであり、一例として10μmである。台座部18aの高さh1は、シード部14aの高さh2と同じでもよく、シード部14aの高さh2より高くてもよく、シード部14aの高さh2より低くてもよい。本実施形態では、台座部18aの高さh1とシード部14aの高さh2とは、0.3≦h1/h2≦10を満たすように設計されている。台座部18aの高さh1とシード部14aの高さh2とは、0.6≦h1/h2≦1.8を満たす関係であってもよく、0.75≦h1/h2≦1.6を満たす関係であってもよい。
【0025】
台座部18aと壁部18bとは一体的に形成されており、台座部18aを構成する樹脂材料と壁部18bを構成する樹脂材料との主成分は同じである。樹脂壁18の台座部18aおよび壁部18bは、一度の露光で成形することができる。たとえば、台座部18aの樹脂材料と壁部18bの樹脂材料とで、副成分(架橋剤等)の種類や添加量を変えることができる。
【0026】
コイル13の巻回部14は、螺旋パターン14Aの一部であるシード部14aと、シード部14a上にめっき成長させためっき部14bとで構成されており、シード部14a周りにめっき部14bが徐々に成長していくことにより形成される。このとき、コイル13の巻回部14は、隣り合う2つの樹脂壁18の間に画成された空間を充たすように成長して、樹脂壁18の間に画成された空間と同一の形状に形成され、その結果、コイル13の巻回部14は基板11の法線方向(Z方向)に沿って長く延びる形状となる。すなわち、樹脂壁18の間に画成される空間の形状を調整することで、コイル13の巻回部14の形状が調整され、設計したとおりの形状にコイル13の巻回部14を形成することができる。
【0027】
図6に示すとおり、コイル13の巻回部14の高さは、樹脂壁18の高さよりも低いことが好ましい。すなわち、コイル13の巻回部14のめっき成長が樹脂壁18の高さよりも低い位置で止まるように調整することが好ましい。コイル13の巻回部14の高さが樹脂壁18の高さよりも低いと、巻回部14は高さ方向にわたって設計寸法どおりの厚さとなる。また、コイル13の巻回部14の高さが、樹脂壁18の高さより高いと、隣り合う巻回部14同士が接触する事態が生じてしまう。
【0028】
なお、上述したコイル13のめっき成長は、基板11の両主面11a、11bにおいておこなわれる。両主面11a、11bのコイル13同士は、基板11の開口においてそれぞれの端部同士が接続されて導通される。
【0029】
基板11上にコイル13をめっき成長させた後、
図8に示すように、基板11は被覆樹脂21で全体的に覆われる。すなわち、被覆樹脂21が、基板11の主面11a、11bのコイル13と樹脂体17とを一体的に覆う。樹脂体17は、被覆樹脂21内に残ったままコイル部品1の一部を構成する。被覆樹脂21は、金属磁性粉含有樹脂からなり、ウエハ状態の基板11の上に形成され、その後、硬化されることにより形成される。
【0030】
被覆樹脂21を構成する金属磁性粉含有樹脂は、金属磁性粉が分散された樹脂で構成されている。金属磁性粉は、たとえば鉄ニッケル合金(パーマロイ合金)、カルボニル鉄、アモルファス、非晶質または結晶質のFeSiCr系合金、センダスト等で構成され得る。金属磁性粉含有樹脂に用いられる樹脂は、たとえば熱硬化性のエポキシ樹脂である。金属磁性粉含有樹脂に含まれる金属磁性粉の含有量は、一例として、90~99wt%である。
【0031】
さらに、ダイシングしてチップ化することで、
図9に示す本体部10が得られる。チップ化した後、必要に応じてバレル研磨等によりエッジの面取りをおこなってもよい。
【0032】
最後に、本体部10の端部パターン15Aが露出した端面(Y方向において対向する端面)に、端部パターン15Aと電気的に接続されるように外部端子電極30A、30Bを設けることで、コイル部品1が完成する。外部端子電極30A、30Bは、コイル部品を搭載する基板の回路に接続するための電極であり、複数層構造とすることができる。たとえば、外部端子電極30A、30Bは、端面に樹脂電極材料を塗布した後、その樹脂電極材料に金属めっきを施すことにより形成することができる。外部端子電極30A、30Bの金属めっきには、Cr、Cu、Ni、Sn、Au、はんだ等を用いることができる。
【0033】
上述したコイル部品1において、樹脂壁18の台座部18aの高さh1は段部18cの高さ位置に相当する。また、シード部14aの高さh2は、コイル13の巻回部14をめっき成長させる際のめっき開始位置に相当する。台座部18aの高さh1とシード部14aの高さh2とが0.3≦h1/h2≦10を満たすことで、めっき開始位置と段部18cとが近くなるように設計されている。この場合、シード部14aからめっき成長するコイル導体が、段部18cに回り込みやすく、段部18c内がコイル導体で充たされやすい。すなわち、樹脂壁18の間(特に、段部)に、コイル導体が存在しない空乏部が生じにくく、樹脂壁18の間が十分なコイル導体で充たされる。したがって、コイル部品1は、樹脂壁18が段部18cを有する構成ではあるものの、その段部18c内がコイル導体で十分に充たされるため、高い特性を実現することができる。たとえば、樹脂壁18の段部18c内がコイル導体で充たされている場合には、樹脂壁18の段部18c内がコイル導体で充たされていない場合に比べて、コイル導体の断面積が広くなるため、コイル導体の直流抵抗が低減される。
【0034】
なお、コイル部品1は、上述した形態に限らず、様々な形態を採用することができる。たとえば、コイルは、基板の両面に設ける態様であってもよく、基板の一方面にのみ設ける態様であってもよい。
【符号の説明】
【0035】
1…コイル部品、11…基板、13…コイル、14…巻回部、14a…シード部、14b…めっき部、17…樹脂体、18…樹脂壁、18a…台座部、18b…壁部、18c…段部、30A、30B…外部端子電極。