(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114875
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】作物生長促進用配合資材並びにコーティング種子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20240816BHJP
A01C 1/06 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
A01G7/00 605A
A01C1/06 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024103799
(22)【出願日】2024-06-27
(62)【分割の表示】P 2020109106の分割
【原出願日】2020-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】302018020
【氏名又は名称】石井 孝昭
(71)【出願人】
【識別番号】520230488
【氏名又は名称】一般財団法人日本菌根菌財団
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128392
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(72)【発明者】
【氏名】石井 孝昭
(57)【要約】
【課題】菌根菌生長促進活力剤の安定性や持続性を高めることができる菌根菌生長促進活力剤用の複合材に、菌根菌およびそのパートナー細菌を配合した作物生長促進用配合資材と、これを用いたコーティング種子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る作物生長促進用配合資材は、シクロデキストリンで包接させた菌根菌生長促進活力剤を、ゼオライト、炭、コーヒー粕、珪藻土、ベントナイト、およびモンモリロナイトの少なくとも1つを含む複合材に、菌根菌およびそのパートナー細菌を配合したものである。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリンで包接させた菌根菌生長促進活力剤を、ゼオライト、炭、コーヒー粕、珪藻土、ベントナイト、およびモンモリロナイトの少なくともいずれか1つを含む複合材に、菌根菌およびそのパートナー細菌を配合した
ことを特徴とする作物生長促進用配合資材。
【請求項2】
前記パートナー細菌は、
Bacillus属における、Bacillus sp.(KTCIGME01)NBRC109633菌株、Bacillus thuringiensis(KTCIGME02)NBRC109634菌株、
Paenibacillus属における、Paenibacillus rhizosphaerae(KTCIGME03)NBRC109635菌株、および Pseudomonas属における、Pseudomonas sp.(KCIGC01)NBRC109613菌株、の群より選択された少なくとも一種類以上の微生物を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の作物生長促進用配合資材。
【請求項3】
請求項1または2記載の作物生長促進用配合資材を種子にコーティングさせた、
ことを特徴とするコーティング種子。
【請求項4】
請求項1または2記載の作物生長促進用配合資材を種子にコーティングする、
ことを特徴とするコーティング種子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌根菌生長促進活力剤の安定性や持続性を高めることができる菌根菌生長促進活力剤用の複合材に、菌根菌およびそのパートナー細菌を配合した作物生長促進用配合資材と、これを用いたコーティング種子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
菌根菌の中でも最も古いアーバスキュラー菌根菌(AMF)は、4億6千万年前から植物と「持ちつ持たれつ」の関係、つまり「共生」を作り上げて、植物の光合成産物を得る見返りに、植物の養水分吸収を促進したり、植物の病害虫抵抗性や環境ストレス耐性を付与したりする等、現在のほぼ全ての植物の生育に多大な貢献をしている。この菌根菌を活用することによって、化学合成農薬や化学肥料の不使用が可能となり、安心・安全で持続可能な有機作物栽培や有機環境緑化を実現できることが明らかになってきている。現在、菌根菌が市販化されているが、植物根への菌根菌の接種の効果をより安定化させる技術が必要となっている。
【0003】
その改善策として、(1)菌根菌生長促進活力剤を活用して、菌根菌接種効果の安定性や持続性を高める必要がある。また、(2)この菌根菌生長促進活力剤と菌根菌または菌根菌およびそのパートナー細菌との配合資材を製造すると非常に効果的な菌根菌接種源となりうる。さらに、(3)菌根菌生長促進活力剤と菌根菌または菌根菌およびそのパートナー細菌との配合資材を用いた種子のコーティング方法は、菌根菌の活用場面が広がるという画期的な農業生産技術になる。
【0004】
現在までに明らかになっている菌根菌生長促進活力剤として、非特許文献1-3に示す物質が知られている。これら以外に、本発明では、株式会社フローラ製の植物活力剤HB101(商品名)も菌根菌生長促進活力剤であることを明らかにしている。
図1は、これらの菌根菌生長促進活力剤をまとめたものである。
【0005】
しかし、これらの菌根菌生長促進活力剤は、水に不溶のもの、揮発しやすいもの等があり、安定的で効果の持続性を高めた菌根菌生長促進活力剤を含有する資材の製造にあたって考慮する必要がある。ただ、この不溶性や揮発性の菌根菌生長促進活力剤の場合には、本発明者の特許(特許文献1)にて示すように、これらをシクロデキストリンに包接することで問題解決できる方策が知られている。
【0006】
パートナー細菌は、菌根菌の胞子内またはその周辺に生息する細菌であり、非特許文献4では、Bacillus sp.(KTCIGME01:NBRC109633、2013年5月8日受入)、Bacillus thuringiensis(KTCIGME02:NBRC109634、2013年5月8日受入)、Paenibacillus rhizosphaerae(KTCIGME03:NBRC109635、2013年5月8日受入)およびPseudomonas sp.(KCIGC01:NBRC109613、2013年4月12日受入)が同定されている。これらのパートナー細菌は、菌根菌の生長を促進するとともに、抗菌作用や殺虫作用を有し、窒素固定能やリン溶解能を有していることが明らかとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5513563号公報
【非特許文献1】石井孝昭、2014年、菌根菌の働きと使い方、農村文化協会、p.37
【非特許文献2】ルット,K.L.外、1999年、脂質がVA菌根菌の菌糸生長に及ぼす影響、園芸学会雑誌 第64巻(別2)p.113
【非特許文献3】柴田雄亮、外、2005年、リン脂質がアーバスキュラー菌根菌の生長に及ぼす影響、園芸学会雑誌 第74巻(別1)p.457
【非特許文献4】石井孝昭、2012年、アーバスキュラー菌根菌およびその菌に関連する微生物とパートナー植物を活用した土壌管理に関する研究、IFOリサーチコミュニケーション、第26巻 p.87-100
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在、菌根菌接種源が販売されているが、一部の接種源では接種効果が不安定なものがある。また、これまでに知られている菌根菌生長促進活力剤以外の新しい活力剤の発見も行う必要があるとともに、菌根菌に作用しやすいように水に可溶にしたり、揮発しにくくしたりした活力剤にしなければならない。さらに、菌根菌生長促進活力剤と菌根菌または菌根菌およびそのパートナー細菌とを配合した非常に有益な菌根菌接種源を製造する必要があるとともに、菌根菌の活用場面を拡げるためには、菌根菌生長促進活力剤と菌根菌または菌根菌およびそのパートナー細菌との配合資材を用いた画期的なコーティング種子の開発も極めて重要である。
【0009】
このように、菌根菌の普及を図るためには、現状の単なる菌根菌のみの接種源だけでなく、安定的な接種効果を示し、効果が持続する菌根菌接種源を作製する必要がある。そして、この技術を活用して、菌根菌やパートナー細菌を積極的に活用できる、極めてユニークなコーティング種子を開発しなければならない。
【0010】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、安定性および持続性を高めることができる菌根菌生長促進活力剤用の複合材に、菌根菌およびそのパートナー細菌を配合した作物生長促進用配合資材と、これを用いたコーティング種子およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の作物生長促進用配合資材は、シクロデキストリンで包接させた菌根菌生長促進活力剤を、ゼオライト、炭、コーヒー粕、珪藻土、ベントナイト、およびモンモリロナイトの少なくともいずれか1つを含む複合材に、菌根菌およびそのパートナー細菌を配合した、ことを特徴としている。
【0012】
そして、水に不溶性および揮発性の少なくとも何れかの性質を有する前記菌根菌生長促進活力剤は、シクロデキストリンで包接させてから、前記複合材に含有させる、ことが好ましい。
【0013】
また、本発明の配合資材は、上記の複合材と、菌根菌と、を配合したことを特徴としている。
【0014】
そして、上記の配合資材は、菌根菌の胞子内またはその周辺に生息する微生物であるパートナー細菌を配合した、ことが好ましい。
【0015】
さらに、上記の配合資材は、前記パートナー細菌は、Bacillus属における、Bacillus sp.(KTCIGME01)NBRC109633菌株、Bacillus thuringiensis(KTCIGME02)NBRC109634菌株、Paenibacillus属における、Paenibacillus rhizosphaerae(KTCIGME03)NBRC109635菌株、およびPseudomonas属における、Pseudomonas sp.(KCIGC01)NBRC109613菌株、の群より選択された少なくとも一種類以上の微生物を含む、ことが好ましい。
【0016】
本発明の配合資材の製造方法は、上記の配合資材の製造方法であって、前記菌根菌生長促進活力剤を前記資材に含ませる工程と、前記菌根菌を前記資材に生息させる工程と、を有することを特徴としている。
【0017】
また、本発明のコーティング種子は、上記の配合資材を種子にコーティングさせた、ことを特徴としている。
【0018】
さらに、本発明のコーティング種子の製造方法は、上記の配合資材を種子にコーティングする、ことを特徴としている。
【0019】
本発明によれば、菌根菌生長促進活力剤の安定性や持続性を高めることができ、この菌根菌生長促進活力剤と菌根菌およびそのパートナー細菌との配合資材の製造や、その配合資材を用いたコーティング種子を製造できる。
【0020】
本発明によって、菌根菌の働きが活性化するので、作物の養水分吸収が早く活発になるだけでなく、作物の病虫害抵抗性や環境ストレス耐性も高まりやすくなる。また、パートナー細菌は、菌根菌の生長を促進するだけでなく、抗菌作用および殺虫作用を有し、大気中の窒素を固定でき、また、土壌中の難溶性あるいは不溶性のリンを溶解できる力を持つ微生物であるので、本発明の配合資材で菌根菌と共働して、窒素やリンの施用量を削減しても作物の生長を旺盛にさせうることが期待される。また、この配合資材を用いたコーティング種子は、菌根菌やパートナー細菌の活用場面を著しく拡大させる技術になると考えられる。
【0021】
このように、本発明による安定性や持続性を高めた菌根菌生長促進活力剤と菌根菌およびそのパートナー細菌との配合資材は、作物の養水分吸収を促進し、かつ作物に病害虫抵抗性や環境ストレス耐性を付与して、作物の生長を旺盛にするとともに、収量の増加や作物の品質向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、菌根菌生長促進活力剤の安定性や持続性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】HB101が菌根菌(Glomus clarum)の生長に及ぼす影響を示す表である。
【
図3】HB101が菌根菌(Glomus clarum)の生長に及ぼす影響を示す顕微鏡写真である。
【
図4】菌根菌生長促進活力剤(HB101)を含有するゼオライトと、菌根菌とそのパートナー細菌との配合資材がトマトの生長に及ぼす影響を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0025】
(1)菌根菌生長促進活力剤の製造方法
菌根菌生長促進活力剤の中には、水に不溶のもの、揮発しやすいもの等があり、安定的で効果の持続性を高めた菌根菌生長促進活力剤が必要である。そこで、特許文献1に記載の方法にて菌根菌生長促進活力剤にシクロデキストリンで包接させたものを作製した。なお、水溶性および不揮発性の少なくとも何れかの性質を有する菌根菌生長促進活力剤は、シクロデキストリンで包接させることなく、そのままの状態で良い。
【0026】
(2)新規の菌根菌生長促進活力剤とその実施例
植物活力剤HB101(商品名:株式会社フローラ製)が菌根菌(Glomus clarum)の生長に及ぼす影響を調査した。
図2に示すように、HB101の各濃度下における菌根菌の菌糸生長を25℃の暗黒下で調査した。その結果、10-4希釈液で菌糸生長が著しく促進される傾向がみられた(
図2および
図3)。このことは、HB101のような活力剤の植物への生長促進効果が菌根菌とそのパートナー細菌の存在下で顕著になることを示唆している。
【0027】
(3)菌根菌生長促進活力剤を含有させた複合材、例えば菌根菌生長促進活力剤と、菌根菌または菌根菌およびそのパートナー細菌との配合資材の製造方法
前記菌根菌生長促進活力剤を、ゼオライト、炭、コーヒー粕のような資材と混合させて菌根菌生長促進活力剤を含有させた複合材を作製する。そして、この複合材に、菌根菌または菌根菌およびそのパートナー細菌を配合させる。菌根菌は、Glomus clarumのようなアーバスキュラー菌根菌とともに、エリコイド菌根菌、ラン型菌根菌、外生菌根菌等も用いることができる。また、パートナー細菌は、菌根菌の胞子内またはその周辺に生息する細菌で、次の群より選択された一種類以上の微生物である。
【0028】
1)Bacillus sp.(KTCIGME01)NBRC109633菌株
2)Bacillus thuringiensis(KTCIGME02)NBRC109634菌株
3)Paenibacillus rhizosphaerae(KTCIGME03)NBRC109635菌株
4)Pseudomonas sp.(KCIGC01)NBRC109613菌株
なお、相同性が97%以上のものを含む。菌根菌生長促進活力剤を含有させた資材、菌根菌、並びにパートナー細菌の配合割合は、作物の種類、栽培環境等によって変化すると考えられるので、その都度、適切な配合割合を決定する。
【0029】
(3-1)実験例
上記の菌根菌生長促進活力剤を含有させたゼオライトと、菌根菌と、そのパートナー細菌との配合資材がトマトの生長に及ぼす影響の実験例について説明する。
【0030】
(実験)
トマト(品種:オレンジアイコ)の種子を培土に播種した後、無加温のビニルハウスで養成した。発芽後、菌根菌生長促進活力剤を含有させたゼオライトと、菌根菌と、そのパートナー細菌との配合資材2gを施用した。対照区は、菌根菌生長促進活力剤を含有させたゼオライトのみとした。なお、菌根菌生長促進活力剤にはHB101(商品名)を、菌根菌にはGlomus clarumというアーバスキュラー菌根菌を、パートナー細菌には上記の細菌4種類を供試した。処理開始2週間後、苗の生育を観察した。
【0031】
その結果、菌根菌生長促進活力剤を含有させたゼオライトと、菌根菌と、そのパートナー細菌との配合資材を用いた区(処理区)の苗の生長は、処理開始わずか2週間後でも、対照区と比べて著しく旺盛に生長することが認められた。なお、
図4は、菌根菌生長促進活力剤(HB101)を含有させたゼオライトと、菌根菌と、そのパートナー細菌との配合資材がトマトの生長に及ぼす影響を示す図である。
【0032】
(4)菌根菌生長促進活力剤を含有させた資材と、菌根菌または菌根菌およびそのパートナー細菌との配合資材を用いたコーティング種子の製造方法
菌根菌の胞子や菌糸体を含む前記菌根菌生長促進活力剤を含有させたゼオライト30gを、上記パートナー細菌を含む1%から3%のアルギン酸ナトリウム水溶液100ml程度の割合で配合する。その後、この配合液中に作物種子を浸漬するか、配合液を種子に塗布させた後、1%塩化カルシウム溶液に滴下摘果してゲル化させる。これを室温下等で24時間程度乾燥させて造粒して、菌根菌生長促進活力剤を含有し菌根菌とそのパートナー細菌との配合資材が種子の表面にコーティングされたコーティング種子を製造する。
【0033】
ゼオライト以外に、炭、コーヒー粕、珪藻土、ベントナイト、モンモリロナイト等の資材も活用できるが、ゼオライトが最も適している。また、アルギン酸ナトリウム以外にも、カルボキシメチルセルロースナトリウムや、ポリアクリル酸ナトリウムも活用できるが、ポリアクリル酸ナトリウムは、土壌で分解しにくいため、使用が好ましくない。
【0034】
以上、本発明の特長や製造方法について説明したが、本発明は上記の特長や実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0035】
例えば、
図1は、現在までに見出された菌根菌生長促進活力剤であるが、今後、新規の菌根菌生長促進活力剤も発見されると考えられ、本発明は、これら新規の菌根菌生長促進活力剤にも対応できる製造方法である。
【0036】
また、上記実施形態の3-1では、上記の4種のパートナー細菌すべてを供試したが、必ずしもこれらの細菌に限られず、他の1又は複数の種類の有益微生物をさらに加えても良い。他の有益な微生物としては、例えば、乳酸菌、酵母、ボーベリア菌等がある。上記の4種類のパートナー細菌は、いずれも乳酸菌、酵母、ボーベリア菌等と共存できる微生物であるため、さらに有効(安定した良質)な菌根菌生長促進活力剤を含有させた複合材と、菌根菌あるいは菌根菌とそのパートナー細菌とを配合した配合資材を製造できる。