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特開2024-114929週2回の頻度でテリパラチド又はその塩を投与することを特徴とする、骨粗鬆症の予防又は治療方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114929
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】週2回の頻度でテリパラチド又はその塩を投与することを特徴とする、骨粗鬆症の予防又は治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/29 20060101AFI20240816BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
A61K38/29
A61P19/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024105424
(22)【出願日】2024-06-28
(62)【分割の表示】P 2022208709の分割
【原出願日】2019-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2018203235
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303046299
【氏名又は名称】旭化成ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】南田 岳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 亮
(72)【発明者】
【氏名】小池 章
(72)【発明者】
【氏名】尾瀬 淳
(72)【発明者】
【氏名】北見 彰啓
(72)【発明者】
【氏名】牧山 敬
(72)【発明者】
【氏名】山本 光
(72)【発明者】
【氏名】北川 和彦
(72)【発明者】
【氏名】高尾 亮子
(57)【要約】
【課題】安全性及び/又は有効性に優れた、テリパラチド又はその塩による骨粗鬆症治療及び/又は予防方法を提供すること。
【解決手段】テリパラチド又はその塩を有効成分とし、1回当たり28.2μgのテリパラチド又はその塩が週2回の頻度で投与される、骨粗鬆症治療及び/又は予防方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1回当たり28.2μgのテリパラチド又はその塩を骨粗鬆症患者に週2回の頻度で皮下に投与することを特徴とする、骨粗鬆症治療及び/又は予防の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、週2回の頻度でテリパラチド又はその塩を投与することを特徴とする、骨粗鬆症の予防又は治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症は、「骨強度の低下を特徴とし、骨折の危険性が増大しやすくなる骨格疾患」と定義され(非特許文献1)、この定義が一般的に使用されている。
【0003】
骨粗鬆症の予防と治療の主たる目的は、骨折を予防又は抑制し、生活機能やQOL(Quality of life;生活の質)を維持等することと言われている。骨折による疼痛や身体支持機能の低下、それに引き続く運動機能障害による生活機能障害は重大な問題であることから、とりわけ骨折の危険性の高い骨粗鬆症の予防と治療の臨床的意義は高いと言える。
【0004】
このような背景もあって、骨折の危険性の高い骨粗鬆症を効能・効果とする薬剤として、テリパラチド又はその塩を有効成分とする連日投与用製剤や週1回投与用製剤が開発され、販売承認を経て、臨床現場で実際に使用されている(非特許文献4、8)。
【0005】
しかしながら、テリパラチド又はその塩を有効成分とする連日投与用製剤や週1回投与用製剤は、安全性の面から見て、必ずしも十分に優れているとは言えない。
【0006】
PTHは、血管平滑筋弛緩作用を有していることが知られている(非特許文献21)。連日投与用製剤が供された臨床試験において、めまいがプラセボ群と比較して有意に高いことが報告されている(非特許文献9)。また、連日投与用製剤や週1回投与用製剤の投与直後から数時間後にかけて、ショック、一過性の急激な血圧低下を伴う意識消失、痙攣、転倒があらわれることがあることも知られている(非特許文献4、8)。
【0007】
あるいは、テリパラチド酢酸塩投与によって、悪心、嘔吐、頭痛等が多く見られることも報告されている(非特許文献9)。例えば、週1回投与用製剤が供された臨床試験において、悪心頻度がプラセボ群と比較して有意に高く、その数値も週1回投与用製剤群全体の20%を超え、有害事象による投与中止率も約20%と高い数値を示したことも報告されている(非特許文献5)。
【0008】
さらに、連日投与用製剤が供された臨床試験において、中等度の高カルシウム血症(10.6mg/dl超過)の発症割合が11%(プラセボ群では2%)であったことも報告されている(非特許文献7)。
【0009】
その他、週1回投与用製剤や連日投与用製剤が供された試験において、有害事象として発熱も観察されている(非特許文献6、21)。
【0010】
一般的に、骨粗鬆症の薬物治療における服薬状況は、治療開始後5年以内に52.1%が脱落してしまうことが報告され、さらに、服薬遵守不足による、骨折抑制の低下、施設利用の必要性の高まり、医療費削減の停滞も問題視されている(非特許文献9)。服薬遵守不良に関連する要因として、痛みの存在、副作用、胃腸障害に対する服薬などが例示されている(非特許文献9)。
【0011】
一方、テリパラチド又はその塩を有効成分とする製剤については、治療継続率の低さも指摘されており、12ヶ月間にわたる治療継続率は34.9%であることが報告されている(非特許文献22)。安全性については、副作用による服薬アドヒアランスの低下の懸念が知られており、週1回投与用製剤が供された試験において重篤以外の治験薬の投与中止に至った有害事象は本剤群で14.1%と高いことが報告されている(非特許文献23)。
【0012】
このように、テリパラチド又はその塩を有効成分とする連日投与用製剤や週1回投与用製剤は、安全性の面で多くの課題を示すが、有効性の面からみても十分なベネフィットを提供しているとは必ずしも言えない。
【0013】
例えば、週1回投与用製剤が骨折危険性の高い骨粗鬆症患者に供された72週を投与期間とする臨床試験において、腰椎骨密度は、投与開始後48週時点において、4.9~6.0%程度上昇することが報告されている(特許文献1(表26)、非特許文献5(FIG.3))。また、週1回投与用製剤が骨折危険性の高い骨粗鬆症患者に供された24ヶ月を投与期間とする臨床試験において、腰椎骨密度は、投与開始後48週時点において、約6.9%上昇することが報告されている(非特許文献6)。
【0014】
両剤に関する有効性については、骨密度増加効果のみならず骨折抑制効果も知られている。例えば、連日投与用製剤が供された臨床試験において、椎体骨折の危険性は65%低下することが報告されている(非特許文献7)。
【0015】
また、テリパラチドの連日投与が椎体など海綿骨の多い部位で強い骨形成促進作用を示す反面、四肢骨など皮質骨内の空隙を増加させることが近年動物実験や臨床において報告されていること、及び、PTHの間歇投与においても投与頻度により皮質骨への作用が異なる可能性が考えられたこと、などが報告されている(非特許文献14)。さらに、骨吸収マーカーの1つであるCTXは、テリパラチドの連日投与開始から24週後において、投与量依存的に、投与開始時と比べて上昇する傾向が認められることが報告されている)。
【0016】
骨粗鬆症モデルとして汎用されている卵巣摘除ラットでの検討から、骨密度と骨強度は1週間当たりのテリパラチドの投与量に応じて増加することが報告されている(非特許文献14)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2011/030774号
【特許文献2】特開平8-73376号公報
【特許文献3】国際公開第2000/10596号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】JAMA,(2001),Vol.285,No.6,pp.785-795
【非特許文献2】Osteoporos Int,(1999),Vol.9,pp.296-306
【非特許文献3】J Bone Miner Metab(2004),Vol.22,pp.569-576
【非特許文献4】テリボン(登録商標)皮下注用56.5μg添付文書(2018年8月改訂)
【非特許文献5】J Clin Endocrinol Metab (2012),Vol.97,No.9,pp.3097-3106
【非特許文献6】Adv Ther(2017),Vol.34,pp.1727-1740
【非特許文献7】N Engl J Med (2001),Vol.344,No.19,pp.1434-1441
【非特許文献8】フォルテオ(登録商標)皮下注キット600μg添付文書(2018年1月改訂)
【非特許文献9】骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版
【非特許文献10】原発性骨粗鬆症の診断基準(2012年度改訂版)
【非特許文献11】J Bone Miner Res(1993),Vol.8,pp.1137-1148
【非特許文献12】Osteoporos Int(1995) ,Vol.5,pp.354-370
【非特許文献13】J Bone Miner Metab(2004),Vol.22,pp.104-110
【非特許文献14】日骨形態誌(2018),Vol.28,pp.31-37
【非特許文献15】「骨粗鬆症用薬の臨床評価方法に関するガイドラインの改訂について」(2017)、薬生薬審発0707第1号
【非特許文献16】Bone Vol.45(2009) ,pp.1053-1058
【非特許文献17】J Bone Miner Metab(2008),Vol.26,pp.624-634
【非特許文献18】鹿児島市医報(2006),Vol.45,No.9 「薬剤熱について」
【非特許文献19】JAPI(2008),Vol.56,pp.418-424
【非特許文献20】Calcif Tissue Int(2014),Vol.94,pp.170-175
【非特許文献21】Endocrine Reviews(1989), Vol. 10, No.4, pp. 420-436
【非特許文献22】Arch Osteoporos.(2018),13(1):54,s11657-018-0466-0
【非特許文献23】医薬品インタビューフォーム 日本標準商品分類番号:872439
【非特許文献24】日本内科学会雑誌(2012),Vol.101,第4号,pp.1007-1014
【非特許文献25】BoneKEy Rep(2014),3,No.512
【非特許文献26】川崎医学会誌(2010),36(2),pp.153-157
【非特許文献27】PLOS ONE 12(4) e0175329「Acute development of cortical porosity and endosteal naive bone formation from the daily but not weekly short-term administration of PTH in rabbit.」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の課題は、安全性及び/又は有効性に優れた、テリパラチド又はその塩による骨粗鬆症治療及び/又は予防方法、並びに、テリパラチド又はその塩を有効成分として含有する骨粗鬆症治療及び/又は予防剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤ならびに骨粗鬆症治療方法及び/又は予防方法の一態様は、テリパラチド又はその塩を有効成分とし、1回当たり28.2μgのテリパラチド又はその塩が週2回の頻度で投与されることを特徴とする。
【0021】
これらの骨粗鬆症治療及び/又は予防剤ならびに骨粗鬆症治療方法及び/又は予防方法は、優れた安全性及び/又は有効性を示す。
【0022】
すなわち、本発明は、以下の発明等に関する。
[1]1回当たり28.2μgのテリパラチド又はその塩が週2回の頻度で投与されることを特徴とする、テリパラチド又はその塩を有効成分として含有する骨粗鬆症治療及び/又は予防剤。
[2]週内の2回の投与間隔(投与日は含まれない)が2日及び3日間隔である、前記[1]に記載の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤。
[3]週2回の頻度で投与された期間の週数をnとし、そのn週のうち週内の2回の投与の間隔が2日及び3日である(投与日は含まれない)週の数をmとした場合、(m/n)×100(%)が70%又はそれ以上である、前記[1]に記載の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤。
[4]皮下に投与される、前記[1]~[3]のいずれかに記載の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤。
[5]腰椎骨密度がその若年成人平均値の60%未満である者に投与される、前記[1]~[4]のいずれかに記載の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤。
[6]既存椎体骨折が1個である者に投与される、前記[1]~[4]のいずれかに記載の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤。
[7]血清オステオカルシン濃度が15.2(ng/mL)未満である者に投与される、前記[1]~[4]のいずれかに記載の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤。
[8]年齢が80歳以上の者に投与される、前記[1]~[4]のいずれかに記載の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤。
[9]男性に投与される、前記[1]~[4]のいずれかに記載の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤。
[10]骨折の危険性の高い骨粗鬆症患者に投与される、前記[1]~[4]のいずれかに記載の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤。
[11]加齢、既存骨折、低骨密度の全ての骨折危険因子を有する骨粗鬆症患者に投与される、前記[1]~[4]のいずれかに記載の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤。
[12]以下の(1)~(3)の条件を充足する骨粗鬆症患者へ投与される、前記[1]~[4]のいずれかに記載の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤:
(1)年齢が65歳以上であること;
(2)既存椎体骨折が1個以上5個以下であること;
(3)腰椎骨密度がその若年成人平均値の80%未満であること。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、安全性及び/又は有効性に優れている、テリパラチド又はその塩を有効成分として含有する骨粗鬆症治療及び/又は予防剤ならびに骨粗鬆症治療方法及び/又は予防方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を2週間にわたって週2回の頻度で投与する場合であって、その投与の間隔を1及び6日間隔(投与日を含まない場合には、0及び5日間隔)、2及び5日間隔(投与日を含まない場合には、1及び4日間隔)、又は、3及び4日間隔(投与日を含まない場合には、2及び3日間隔)とする場合の投与計画例を示す図である。
図2図2は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を2週間にわたって週2回の頻度で投与する場合であって、その投与の間隔を3及び4日間隔(投与日を含まない場合には、2及び3日間隔)とする場合の投与計画例を示す図である。
図3図3は、本発明の実施例における治療計画を模式的に示す図である。また、図4図28は実施例の試験結果に関する図であるが、各図の詳細を以下に説明する。
図4図4は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を48週間にわたって骨粗鬆症患者に投与した際の腰椎骨密度(第2~第4腰椎)の変化率平均値(%)の推移を示す図である。横軸は投与週数であり、縦軸は開始時からの変化率平均値(%)を示す。「BL」は、Baseline(ベースライン)を示す。「Final」は、48週間の途中で治療中止した患者の腰椎骨密度(第2~第4腰椎)の変化率(%)を含め、各患者の治療最終時腰椎骨密度(第2~第4腰椎)の変化率(%)を示すための「治療最終時」を意味する。下段の2行に示される数値は、それぞれの週における治療患者数を意味する。「**」は、p<0.01を示す。
図5図5は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を48週間にわたって骨粗鬆症患者に投与した際の血清CTXの変化率中央値(%)の推移を示す図である。横軸は投与週数であり、縦軸は開始時からの変化率中央値(%)を示す。「BL」は、Baseline(ベースライン)を示す。下段の2行に示される数値は、それぞれの週において検査を受けた患者数を意味する。
図6図6は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を48週間にわたって骨粗鬆症患者に投与した際の血清NTXの変化率中央値(%)の推移を示す図である。横軸は投与週数であり、縦軸は開始時からの変化率中央値(%)を示す。「BL」は、Baseline(ベースライン)を示す。下段の2行に示される数値は、それぞれの週において検査を受けた患者数を意味する。
図7図7は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を48週間にわたって骨粗鬆症患者に投与した際の尿中NTXの変化率中央値(%)の推移を示す図である。横軸は投与週数であり、縦軸は開始時からの変化率中央値(%)を示す。「BL」は、Baseline(ベースライン)を示す。下段の2行に示される数値は、それぞれの週において検査を受けた患者数を意味する。
図8図8は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を48週間にわたって骨粗鬆症患者に投与した際の血清OC(オステオカルシン)の変化率中央値(%)の推移を示す図である。横軸は投与週数であり、縦軸は開始時からの変化率中央値(%)を示す。「BL」は、Baseline(ベースライン)を示す。下段の2行に示される数値は、それぞれの週において検査を受けた患者数を意味する。「*」は、Wilcoxon rank sum test p<0.05を、「**」は、Wilcoxon rank sum test p<0.01を、それぞれ示す。
図9図9は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を48週間にわたって骨粗鬆症患者に投与した際の血清P1NPの変化率中央値(%)の推移を示す図である。横軸は投与週数であり、縦軸は開始時からの変化率中央値(%)を示す。「BL」は、Baseline(ベースライン)を示す。下段の2行に示される数値は、それぞれの週において検査を受けた患者数を意味する。「*」は、Wilcoxon rank sum test p<0.05を、「**」は、Wilcoxon rank sum test p<0.01を、それぞれ示す。
図10図10は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を48週間にわたって骨粗鬆症患者に投与した際の腰椎骨密度(第2~第4腰椎)の変化率平均値(%)の推移を、投与間隔遵守割合70%以上、70%未満で分類した図である。横軸は投与週数であり、縦軸は開始時からの変化率平均値(%)を示す。下段の2行に示される数値は、それぞれの週において解析対象となっている患者数を意味する。
図11図11は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を48週間にわたって骨粗鬆症患者に投与した際の腰椎骨密度(第2~第4腰椎)の変化率平均値(%)の推移を、投与間隔遵守割合75%以上、75%未満で分類した図である。横軸は投与週数であり、縦軸は開始時からの変化率平均値(%)を示す。下段の2行に示される数値は、それぞれの週において解析対象となっている患者数を意味する。
図12図12は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を48週間にわたって骨粗鬆症患者に投与した際の腰椎骨密度(第2~第4腰椎)の変化率平均値(%)の推移を、投与間隔遵守割合80%以上、80%未満で分類した図である。横軸は投与週数であり、縦軸は開始時からの変化率平均値(%)を示す。下段の2行に示される数値は、それぞれの週において解析対象となっている患者数を意味する。
図13図13は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を48週間にわたって骨粗鬆症患者に投与した際の腰椎骨密度(第2~第4腰椎)の変化率平均値(%)の推移を、投与間隔遵守割合85%以上、85%未満で分類した図である。横軸は投与週数であり、縦軸は開始時からの変化率平均値(%)を示す。下段の2行に示される数値は、それぞれの週において解析対象となっている患者数を意味する。
図14図14は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を48週間にわたって骨粗鬆症患者に投与した際の腰椎骨密度(第2~第4腰椎)の変化率平均値(%)の推移を、投与間隔遵守割合90%以上、90%未満で分類した図である。横軸は投与週数であり、縦軸は開始時からの変化率平均値(%)を示す。下段の2行に示される数値は、それぞれの週において解析対象となっている患者数を意味する。
図15図15は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を48週間にわたって骨粗鬆症患者に投与した際の大腿骨頸部骨密度の変化率平均値(%)の推移を、投与間隔遵守割合70%以上、70%未満で分類した図である。横軸は投与週数であり、縦軸は開始時からの変化率平均値(%)を示す。下段の2行に示される数値は、それぞれの週において解析対象となっている患者数を意味する。
図16図16は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を48週間にわたって骨粗鬆症患者に投与した際の大腿骨頸部骨密度の変化率平均値(%)の推移を、投与間隔遵守割合75%以上、75%未満で分類した図である。横軸は投与週数であり、縦軸は開始時からの変化率平均値(%)を示す。下段の2行に示される数値は、それぞれの週において解析対象となっている患者数を意味する。
図17図17は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を48週間にわたって骨粗鬆症患者に投与した際の大腿骨頸部骨密度の変化率平均値(%)の推移を、投与間隔遵守割合80%以上、80%未満で分類した図である。横軸は投与週数であり、縦軸は開始時からの変化率平均値(%)を示す。下段の2行に示される数値は、それぞれの週において解析対象となっている患者数を意味する。
図18図18は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を48週間にわたって骨粗鬆症患者に投与した際の大腿骨頸部骨密度の変化率平均値(%)の推移を、投与間隔遵守割合85%以上、85%未満で分類した図である。横軸は投与週数であり、縦軸は開始時からの変化率平均値(%)を示す。下段の2行に示される数値は、それぞれの週において解析対象となっている患者数を意味する。
図19図19は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を48週間にわたって骨粗鬆症患者に投与した際の大腿骨頸部骨密度の変化率平均値(%)の推移を、投与間隔遵守割合90%以上、90%未満で分類した図である。横軸は投与週数であり、縦軸は開始時からの変化率平均値(%)を示す。下段の2行に示される数値は、それぞれの週において解析対象となっている患者数を意味する。
図20図20は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を48週間にわたって骨粗鬆症患者に投与した際の大腿骨近位部total骨密度の変化率平均値(%)の推移を、投与間隔遵守割合70%以上、70%未満で分類した図である。横軸は投与週数であり、縦軸は開始時からの変化率平均値(%)を示す。下段の2行に示される数値は、それぞれの週において解析対象となっている患者数を意味する。
図21図21は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を48週間にわたって骨粗鬆症患者に投与した際の大腿骨近位部total骨密度の変化率平均値(%)の推移を、投与間隔遵守割合75%以上、75%未満で分類した図である。横軸は投与週数であり、縦軸は開始時からの変化率平均値(%)を示す。下段の2行に示される数値は、それぞれの週において解析対象となっている患者数を意味する。
図22図22は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を48週間にわたって骨粗鬆症患者に投与した際の大腿骨近位部total骨密度の変化率平均値(%)の推移を、投与間隔遵守割合80%以上、80%未満で分類した図である。横軸は投与週数であり、縦軸は開始時からの変化率平均値(%)を示す。下段の2行に示される数値は、それぞれの週において解析対象となっている患者数を意味する。
図23図23は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を48週間にわたって骨粗鬆症患者に投与した際の大腿骨近位部total骨密度の変化率平均値(%)の推移を、投与間隔遵守割合85%以上、85%未満で分類した図である。横軸は投与週数であり、縦軸は開始時からの変化率平均値(%)を示す。下段の2行に示される数値は、それぞれの週において解析対象となっている患者数を意味する。
図24図24は、本発明の骨粗鬆症治療剤等を48週間にわたって骨粗鬆症患者に投与した際の大腿骨近位部total骨密度の変化率平均値(%)の推移を、投与間隔遵守割合90%以上、90%未満で分類した図である。横軸は投与週数であり、縦軸は開始時からの変化率平均値(%)を示す。下段の2行に示される数値は、それぞれの週において解析対象となっている患者数を意味する。
図25図25は、各2~3日投与間隔遵守割合が各特定数値(70,75,80,85,90%)以上の遵守実績を示した骨粗鬆症患者に本発明の骨粗鬆症治療剤等を投与した際に観察された腰椎骨密度(第2~第4腰椎)の投与開始48週後の変化率平均値(%)を示す図である。
図26図26は、各2~3日投与間隔遵守割合が各特定数値(70,75,80,85,90%)以上の遵守実績を示した骨粗鬆症患者に本発明の骨粗鬆症治療剤等を投与した際の臨床骨折の骨折発生割合(%)を示す図である。
図27図27は、各2~3日投与間隔遵守割合が各特定数値(70,75,80,85,90%)以上の遵守実績を示した骨粗鬆症患者に本発明の骨粗鬆症治療剤等を投与した際に観察されたOCの投与開始4週経過後における変化率中央値(%)を示す図である。
図28図28は、各2~3日投与間隔遵守割合が各特定数値(70,75,80,85,90%)以上の遵守実績を示した骨粗鬆症患者に本発明の骨粗鬆症治療剤等を投与した際の悪心(副作用)の発現割合(%)を示す図である。
図29図29は、被験薬群および対照薬群の基本的な投与スケジュールである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を具体的な実施の形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0026】
(1)テリパラチド又はその塩(以降、有効成分と称することもある):
本発明において、ヒトPTH(1-34)は、ヒト副甲状腺ホルモンであるヒトPTH(1-84)のアミノ酸配列において、N末端側からみて第1番目から第34番目までのアミノ酸残基からなる部分アミノ酸配列で示されるペプチドである。
【0027】
本発明において、テリパラチドは、フリー体のヒトPTH(1-34)を意味する。テリパラチドは塩の形態であることもできる。
【0028】
本発明において、テリパラチドの塩としては、テリパラチドと1種又は2種以上の揮発性有機酸とによって形成される任意の塩が挙げられる。揮発性有機酸としては、トリフルオロ酢酸、蟻酸、酢酸などが例示される。フリー体のテリパラチドと揮発性有機酸とが塩を形成する際の両者の比率は、当該塩を形成する限りにおいて特に限定されない。中でも、揮発性有機酸としては、酢酸が好ましい。即ち、本発明におけるテリパラチドの塩としては、テリパラチド酢酸塩を好ましく例示できる。
【0029】
テリパラチド又はその塩は、自体公知の方法により製造され得る(特許文献1~3等)。
【0030】
(2)投与量:
本発明の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤に含有される、ならびに、本発明の骨粗鬆症治療方法及び/又は予防方法で使用される、有効成分の1回当たりの投与量は特に限定されないが、好適には以下を例示できる。
【0031】
即ち、有効成分の1回当たりの投与量としては20μg以上、25μg以上、27μg以上、又は28μg以上であることがより好ましい。また、本発明の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤に含有される、有効成分の1回当たりの投与量としては40μg以下であることが好ましく、35μg以下、又は30μg以下であることがより好ましい。
【0032】
中でも、有効成分の1回当たりの投与量は、テリパラチドとして28.2μg又は29.2μgであることが好ましい。用いるテリパラチドが酢酸塩の場合には酢酸量を加味した投与量を例示でき、例えば、テリパラチド五酢酸塩を用いる場合には、有効成分の1回当たりの投与量は、テリパラチド酢酸塩として30.3μg又は31.3μgであることが好ましい。従って、本発明において、「1回当たり28.2μgのテリパラチド又はその塩」の用語について、テリパラチドの塩の1回当たりの用量は、テリパラチドとして28.2μgとなる量を意味し、テリパラチド酢酸塩の場合は30.3μgである。
【0033】
(3)投与頻度・投与間隔:
本発明の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤ならびに本発明の骨粗鬆症治療方法及び/又は予防方法は、週2回の頻度で投与されることを特徴の1つとする。
【0034】
本発明の骨粗鬆症治療剤等を、週2回の頻度で投与する際、週内の投与の間隔は、1)1及び6日間隔(投与日を含まない場合には、0及び5日間隔)、2)2及び5日間隔(投与日を含まない場合には、1及び4日間隔)、又は、3)3及び4日間隔(投与日を含まない場合には、2及び3日間隔)であることができる(図1)。
【0035】
週内の投与の間隔は特に限定されないが、3及び4日間隔(投与日を含まない場合には、2及び3日間隔)である態様が最も好ましい。
【0036】
週内の投与の間隔が3及び4日間隔(投与日を含まない場合には、2及び3日間隔)である態様を、初回投与から2週間にわたる投与スケジュール例で具体的に説明すると、初回投与日から4日目又は5日目に投与することで初回投与の週(1週目)における週2回投与をすることができ、その後、8日目に投与し、11日目又は12日目に投与することで2週目における週2回投与をすることができる(図2)。
【0037】
投与の時間帯は特に限定されず、日中であってもよく、夜であってもよい。投与の時間帯が日中の場合には、その投与は、午前における投与であっても、午後における投与であってもよい。ただし、他の治療薬や基礎薬(Ca、vD剤など)を併用する場合には、服薬時間が互いに重ならないことがより好ましい。
【0038】
本発明の骨粗鬆症治療剤等が週2回の頻度で投与された期間の週数をnとし、そのうち、週内の2回の投与の間隔が3及び4日(投与日を含まない場合には、2及び3日)の週数をmとした場合、(m/n)×100(%)が一定以上であることができ、同割合の下限として、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%を例示でき、同割合の下限は80%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0039】
例えば、本発明の骨粗鬆症治療剤等が週2回の頻度で投与された期間が34日であった場合であって、週内の2回の投与の間隔が3及び4日(投与日を含まない場合には、2及び3日)の週数が2である場合、前記の(m/n)×100は、2÷(34÷7)×100、すなわち、約41.2(%)と算出される。
【0040】
(4)投与経路・投与部位:
本発明の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤ならびに本発明の骨粗鬆症治療方法及び/又は予防方法の投与経路は特に限定されず、静脈、皮下、又は、筋肉内に投与され得る。中でも、皮下投与を好ましく例示することができる。
【0041】
本発明の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤ならびに本発明の骨粗鬆症治療方法及び/又は予防方法の投与部位も特に限定されず、例えば、上腕部、大腿部、又は腹部に投与され得る。ただし、2回目からの投与においては、前回の投与部位から少なくとも3cm程度離れた部位に投与されることが好ましい。また、投与の直前に、投与部位周辺を手で摘み、投与部位及びその周辺を皮膚表面から盛り上げることで投与を容易にすることもできる。
【0042】
(5)投与期間:
本発明の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤ならびに本発明の骨粗鬆症治療方法及び/又は予防方法の投与期間は特に限定されず、患者に応じた担当医師の処方等により適宜決定され得る。
【0043】
投与期間の下限は特に限定されず、投与期間として、例えば、4週間以上、8週間以上、12週間以上、24週間以上、48週間以上、又は、1年以上を好ましく例示できる。投与期間の上限も同様に制限されず、投与期間の上限として、例えば、5年以内、4年以内、3年以内、又は、2年以内を好適に挙げることができる。
【0044】
(6)疾患・患者:
(6-1)疾患:
本発明の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤ならびに本発明の骨粗鬆症治療方法及び/又は予防方法は、骨粗鬆症の治療及び/又は予防の目的をもって投与されることを特徴の1つとする。
【0045】
本発明に係る骨粗鬆症とは、「骨強度の低下を特徴とし、骨折の危険性が増大しやすくなる骨格疾患」(非特許文献1;2000年のNIHにおけるコンセンサス会議での定義)を意味し、原発性骨粗鬆症及び続発性骨粗鬆症のいずれをも含む。
【0046】
原発性骨粗鬆症としては、退行期骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症及び老人性骨粗鬆症)、特発性骨粗鬆症(妊娠後骨粗鬆症、若年性骨粗鬆症など)が例示される。続発性骨粗鬆症は、特定の疾病や薬剤等の原因により誘発される骨粗鬆症であり、特定の薬剤、関節リウマチ、糖尿病、甲状腺機能亢進症、性機能異常、不動性、栄養性、その他先天性疾患などが原因として挙げられる。特定の薬剤として、例えば、ステロイドが挙げられる。原発性骨粗鬆症の診断基準は周知である(非特許文献10)。
【0047】
本発明に係る骨粗鬆症として、骨折の危険性の高い骨粗鬆症を好ましく挙げることができる。骨折の危険性の高い骨粗鬆症とは、低骨密度、既存骨折、加齢、大腿骨頚部骨折の家族歴等の危険因子を有する患者であってもよい。(非特許文献9)。
【0048】
前述の通り、骨折の危険性の高い骨粗鬆症を効能・効果とする薬剤として、テリパラチド又はその塩を有効成分とする連日投与用製剤や週1回投与用製剤が開発され、販売承認を経て、臨床現場で実際に使用されている。また、骨折の危険性の高い骨粗鬆症治療薬として、ヒト抗スクレロスチン抗体の開発も進んでいる。これらの事情などから、当業者は、骨折の危険性の高い骨粗鬆症を容易かつ明確に認識することができる。
【0049】
個人の骨折絶対危険性を評価するツールとして、WHO(世界保健機関)のFRAX(登録商標)が知られており、個人の将来10年間の骨折発生確率(%)を算出することができる。日常診療では、医療機関を受診している無症状の高齢者において、潜在的な骨折高危険性者を判別するスクリーニング手段として使え得る。
【0050】
(6-2)患者:
本発明に係る骨粗鬆症患者は、前記の骨折の危険因子を少なくとも1以上有する骨粗鬆症患者であることができる。このような患者として、加齢、既存骨折、及び、低骨密度の3つの骨折危険因子を有する骨粗鬆症患者を好ましく例示できる。
【0051】
また、本発明に係る骨粗鬆症患者は、前記の骨折の危険因子の内少なくとも1の危険因子が特定条件(例:特定の閾値以下、特定の閾値以上、特定の数値範囲、有無など)を充足する骨粗鬆症患者であることもできる。
【0052】
中でも、本発明に係る骨粗鬆症患者は、骨折の危険性の高い骨粗鬆症患者であることが好ましい。このような、骨折の危険性の高い骨粗鬆症患者として、以下の3条件を充足する骨粗鬆症患者を好ましく例示できる。
1)65歳以上である。
2)既存骨折が1個以上ある。
3)腰椎骨密度がその若年成人平均値(Young Adult Mean;YAMと称することもある)の80%未満である。
【0053】
ここで、既存骨折として既存椎体骨折を好ましく挙げることができ、既存骨折数として1個以上5個以下であることができる。また、既存椎体骨折を、軽度変形(グレード1)、中等度変形(グレード2)又は高度変形(グレード3)である既存椎体骨折とすることもできる(非特許文献9)。
【0054】
グレード1の具体例として、椎体高が20~25%低下する軽度の骨折、グレード2の具体例として、椎体高が25~40%低下する中等度の骨折、グレード3の具体例として、椎体高が40%以上低下する高度の骨折、をそれぞれ挙げることができる。
【0055】
本発明に係る骨粗鬆症患者は、以下の6条件の内少なくともいずれか1つの条件を充足する患者ではない骨粗鬆症患者であることができる。
1)骨肉腫発生危険性が高いと考えられる患者。
2)高カルシウム血症の患者。
3)原発性の悪性骨腫瘍もしくは転移性骨腫瘍のある患者。
4)骨粗鬆症以外の代謝性骨疾患の患者。
5)本発明の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤の有効成分又は他のテリパラチド製剤に対し過敏症の既往歴のある患者。
6)妊婦又は妊娠している可能性のある婦人。
【0056】
骨肉腫発生危険性が高いと考えられる患者として、例えば、骨ページェット病患者、アルカリフォスファターゼ高値を示す患者、小児等及び若年者で骨端線が閉じていない患者、過去に骨への影響が考えられる放射線治療を受けた患者、を挙げることができる。
【0057】
また、本発明に係る骨粗鬆症患者は、以下の5条件の内少なくともいずれか1つの条件を充足する患者ではない骨粗鬆症患者であることができる。
1)低血圧の患者。
2)腎障害のある患者。
3)重篤な心疾患のある患者。
4)重篤な肝機能障害を有する患者。
5)尿路結石のある患者及びその既往歴のある患者。
【0058】
あるいは、本発明に係る骨粗鬆症患者は、軽度又は中等度の腎障害を有する骨粗鬆症患者であることができる。腎機能正常、障害、及び障害の程度は、クレアチニンクリアランスに基づき区別可能である。具体的には、クレアチニンクリアランスが80mL/分以上を腎機能正常、50mL/分以上80mL/分未満を軽度腎機能障害、30mL/分以上50mL/分未満を中等度腎機能障害と判定可能である。クレアチニンクリアランスを算出する方法としては、例えばCockcroft-Gaultの式(男性:(140-年齢)×体重/(72×血清クレアチニン値)、女性:0.85×(140-年齢)×体重/(72×血清クレアチニン値))が例として挙げられる。
【0059】
また、本発明に係る骨粗鬆症患者は、患者が有する以下の18因子のうち少なくともいずれか1の因子について、その各々の因子がそれぞれ特定条件(例:特定の閾値以下、特定の閾値以上、特定の数値範囲、種別、有無など)を充足する骨粗鬆症患者であることもできる。
1)性別。
2)年齢。
3)身長。
4)体重。
5)BMI。
6)閉経後年数(女性であり、閉経している患者に限る)。
7)50歳以降の非椎体骨折受傷歴(50歳以上の患者に限る)。
8)50歳以降の大きな外力を伴わない非椎体骨折受傷歴(50歳以上の患者に限る)。
9)骨代謝に影響を及ぼす既往歴。
10)喫煙。
11)アルコール摂取。
12)両親の大腿骨骨折歴。
13)骨粗鬆症の前治療薬。
14)25-ヒドロキシビタミンD。
15)既存椎体骨折数。
16)腰椎骨密度(YAM換算値)(%)。
17)大腿骨頸部骨密度(YAM換算値)(%)。
18)大腿骨近位部Total骨密度(YAM換算値)(%)。
【0060】
例えば、本発明に係る骨粗鬆症患者を、男性又は女性である患者、65歳以上かつ75歳未満である患者、75歳以上かつ80歳未満である患者、80歳以上である患者、腰椎骨密度(YAM換算値)(%)が60%未満、60%以上かつ70%未満、又は、70%以上かつ80%未満である患者、既存椎体骨折数がゼロである患者、既存椎体骨折数が1個である患者、既存椎体骨折数が2~3個である患者、既存椎体骨折数が4~5個である患者、既存椎体骨折数が6個以上である患者などとすることもできる。
【0061】
本発明に係る骨粗鬆症患者は、以下の26臨床検査項目のうち少なくともいずれか1の項目について、その各々の項目がそれぞれ特定条件(例:特定の閾値以下、特定の閾値以上、特定の数値範囲など)を充足する骨粗鬆症患者であることもできる。
1)血液一般検査項目(計6項目)(赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット、白血球数、白血球分画、血小板数)。
2)血液生化学検査項目(計14項目)(AST(GOT)、ALT(GPT)、アルカリフォスファターゼ、総コレステロール、尿素窒素、尿酸、クレアチニン、CPK、カルシウム、無機リン、ナトリウム、カリウム、クロール、アルブミン)。
3)尿検査項目(計6項目)(潜血、蛋白、糖、ウロビリノーゲン、ビリルビン、pH)。
【0062】
ここで、AST(GOT)とは、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ)(Aspartate aminotransferase (Glutamic oxaloacetic transaminase))を意味し、ALT(GPT)とは、アラニンアミノ基転移酵素(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)(Alanine aminotransferase (Glutamic pyruvic transaminase))を意味する。ここで、CPKとは、クレアチンホスホキナーゼ(Creatine phosphokinase)を意味する。
【0063】
また、本発明に係る骨粗鬆症患者は、バイタルサイン(座位収縮期血圧、座位拡張期血圧、脈拍数、など)項目のうち少なくともいずれか1の項目について、その各々の項目がそれぞれ特定条件(例:特定の閾値以下、特定の閾値以上、特定の数値範囲など)を充足する骨粗鬆症患者であることもできる。
【0064】
あるいは、本発明に係る骨粗鬆症患者は、本発明の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤の服薬に伴って、抗薬物抗体(例:テリパラチド又はその塩に対する抗体など)や中和抗体(例:テリパラチド又はその塩の活性を減退又は消失させ得る抗体など)を産生し得る骨粗鬆症患者であることもできる。
【0065】
また、本発明に係る骨粗鬆症患者は、以下の12のマーカーのうち少なくともいずれか1のマーカーについて、その各々のマーカーがそれぞれ特定条件(例:特定の閾値以下、特定の閾値以上、特定の数値範囲など)を充足する骨粗鬆症患者であることもできる。
1)血中マーカー(オステオカルシン、P1NP、NTX、CTX、カルシウム、無機リン、アルブミン、25-ヒドロキシビタミンD分画)。
2)尿中マーカー(NTX、カルシウム、無機リン、クレアチニン)。
【0066】
ここで、P1NPとは、I型プロコラーゲンN-プロペプチド(Procollagen type I amino-terminal propeptide)を、NTXとは、I型コラーゲン架橋 N-テロペプチド(Crosslinked N-telopeptide of type I collagen)を、CTXとは、I型コラーゲン架橋 C-テロペプチド(Type I collagen crosslinked C-telopeptide)を、それぞれ意味する。
【0067】
本発明に係る骨粗鬆症患者として、血中オステオカルシン濃度が15.2(ng/mL)未満である患者、血中オステオカルシン濃度が15.2(ng/mL)以上かつ21.8(ng/mL)未満である患者、血中オステオカルシン濃度が21.8(ng/mL)以上である患者を挙げることができる。
【0068】
あるいは、本発明に係る骨粗鬆症患者として、例えば、血中オステオカルシン濃度が14.8(ng/mL)未満である患者、血中オステオカルシン濃度が14.8(ng/mL)以上かつ21.9(ng/mL)未満である患者、血中オステオカルシン濃度が21.9(ng/mL)以上である患者を挙げることができる。
【0069】
また、本発明に係る骨粗鬆症患者として、例えば、血中P1NP濃度が38.0(μg/L)未満である患者、血中P1NP濃度が38.0(μg/L)以上かつ58.5(μg/L)未満である患者、58.5(μg/L)以上である患者を挙げることができる。
【0070】
あるいは、本発明に係る骨粗鬆症患者として、例えば、血中P1NP濃度が37.4(μg/L)未満である患者、血中P1NP濃度が37.4(μg/L)以上かつ57.3(μg/L)未満である患者、57.3(μg/L)以上である患者を挙げることができる。
【0071】
本発明に係る骨粗鬆症患者は、骨粗鬆症に対する前治療薬による治療歴を有する患者であることもできる。骨粗鬆症に対する前治療薬として、カルシウム薬、女性ホルモン薬、SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)、活性型ビタミンD薬、ビタミンK薬、カルシトニン薬、副甲状腺ホルモン薬、ビスホスホネート薬、及び、デノスマブを挙げることができる。
【0072】
ここで、SERMとして、ラロキシフェン及びバゼドキシフェンを、活性型ビタミンD薬として、エルデカルシトール、アルファカルシドール及びカルシトリオールを、ビタミンKとして、メナテトレノンを、それぞれ好ましく例示できる。さらに、ビスホスホネート薬として、エチドロネート、アレンドロネート、リセドロネート、ミノドロネート、イバンドロネートを例示できる。カルシトニン薬として、サケカルシトニン及びエルカトニンを例示できる。副甲状腺ホルモン薬として、前述のテリパラチド又はその塩を有効成分とする連日投与用製剤や週1回投与用製剤を挙げることができる。
【0073】
また、本発明に係る骨粗鬆症患者は、他の疾患を罹患する、すなわち合併症を有する骨粗鬆症患者であることもできる。他の疾患として、糖尿病、高血圧、脂質異常症(高脂血症等)、慢性腎臓病(CKD)、関節リウマチ、痛風、高尿酸血症、認知症、白内障、老人性難聴、排尿障害、脳血管疾患、虚血性心疾患などを挙げることができる。
【0074】
あるいは、本発明に係る骨粗鬆症患者は、要介護状態にある骨粗鬆症患者であることもできる。
【0075】
(7)併用:
本発明の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤ならびに本発明の骨粗鬆症治療方法及び/又は予防方法は、他の薬剤と併用することもできる。他の薬剤は、本発明の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤と一緒に又は逐次に(すなわち別々の時間に)、同一又は異なる経路で投与され得る。
【0076】
他の薬剤として、前述の骨粗鬆症に対する前治療薬の少なくとも1の薬剤を挙げることができる。あるいは、他の薬剤として、前述の合併症に対する治療及び/又は予防薬を挙げることもできる。また、他の薬剤が、基礎薬(Ca、vD剤など)であってもよい。
【0077】
好ましい基礎薬として、vD(ビタミンD)剤、マグネシウム剤、及び、カルシウム剤を挙げることができる。これらは任意に組み合わせて併用することもでき、配合剤としてもよい。例えば、vD及びマグネシウム配合のカルシウム剤を基礎薬として好ましく例示できる。このような配合剤は、1日1回、夕食後に服薬することが好ましく、1回あたり、vD400IU及びマグネシウム30mg及びカルシウム610mgが含まれる。
【0078】
本発明の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤を被験薬として臨床試験に供する場合、被験者に前記又は相当する基礎薬を服薬させた状態下でその評価を実施することもできる(非特許文献15)。なお、vDとカルシウム剤の併用の骨折リスク低減性は不明確であること(非特許文献25)や、被験薬群と対照薬群のいずれにも基礎薬を施す場合、有効性や安全性に関する両群差に基礎薬の影響は実質的に認められないであろうとの考えを考慮することもできる。これらのことから、本発明の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤を臨床現場において使用する場合、vDとカルシウム剤の使用を必ずしも必要としない。
【0079】
(8)製剤:
本発明の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤は、種々の製剤形態をとり得る。一般的には、本剤は、安定性等の観点から薬学的に許容される賦形剤及び添加物を含有する注射剤とすることが好ましい。
【0080】
賦形剤及び添加物は、特に限定されないが、例えば、糖アルコール(マンニトールなど)、無機塩(塩化ナトリウムなど)、糖類(スクロースなど)、アミノ酸(メチオニンなど)を含むことができる。本剤は緩衝剤を含んでもよいが、含まないこともできる。本剤のpHは適宜に調整することができ、例えば、3.5~5.5とすることができる。
【0081】
本剤における有効成分の濃度も、特に限定されないが、例えば、50μg/mL以上とすることができ、100~200 μg/mLとすることもできる。
【0082】
本剤が注射剤の場合、有効成分や賦形剤及び添加物を適当な溶剤(滅菌水、緩衝液、生理食塩水等)に溶解した後、フィルター等によるろ過及び/又は滅菌処理を施し、次いで、洗浄・滅菌処理された容器に充填・密封することによって、本剤は製造され得る。
【0083】
ここで、充填用容器として、例えば、アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ、バックなどを例示できる。容器の材質は、特に限定されないが、ガラスやプラスチックを挙げることができる。強度、取扱い容易さ、安全性などの観点から、容器の材質としてプラスチックを好ましく例示できる。
【0084】
例えば、予め薬液を充填した針付プレフィルドシリンジを、オートインジェクターに組み入れた自動投与製剤としてもよい。本発明に係る骨粗鬆症治療剤等は十分な安全性を示すことから、在宅自己投与用製剤とすることもできる。
【0085】
(9)有効性:
本発明に係る骨粗鬆症の治療及び/又は予防剤ならびに本発明の骨粗鬆症治療方法及び/又は予防方法の主目的は、骨折を予防又は抑制することである。
【0086】
(9-1)骨折の予防又は抑制:
本発明に係る骨折は、骨粗鬆症・骨形成不全・骨腫瘍などを原因とする病的骨折、交通事故・打撲などを原因とする外傷性骨折のいずれをも含む。好ましくは、骨粗鬆症を原因とする骨折を挙げることができる。
【0087】
本発明に係る骨折は、椎体骨折と非椎体骨折のいずれをも含む。非椎体骨折も特に限定されず、例えば、大腿骨近位部、橈骨遠位端、上腕骨近位部、脛骨、骨盤、肋骨などに係る骨折を挙げることができる。本発明に係る骨折として、椎体骨折(新規椎体骨折や増悪椎体骨折など)を好ましく挙げることができる。
【0088】
一般的に、大腿骨近位部骨折とは、高齢者のhip fractureを意味し、大腿骨近位部の骨折(fractures of the proximal part of the femur)とは異なる骨折と理解されている(非特許文献9)。大腿骨近位部骨折に含まれる骨折としては、例えば、大腿骨頭軟骨下骨折(subchondral insufficiency fracture of the femoral head)、大腿骨頚部骨折(femoral neck fracture)、大腿骨頚基部骨折(basal neck fracture)、大腿骨転子部骨折(trochanteric fracture)、大腿骨転子下骨折(subtrochanteric fracture )を挙げることができる(非特許文献9)。
【0089】
なお、大腿骨頭軟骨下骨折は極めて稀であることや大腿骨頚基部骨折の診断が難しいことから、大腿骨頚部骨折や大腿骨転子部骨折のいずれかに分類されることもでき、大腿骨転子部骨折と大腿骨転子下骨折の区別は明確でないことなどから、大腿骨近位部骨折を、大腿骨頚部骨折と大腿骨転子部骨折に大きく2つに分けて分類する方法も可能である(非特許文献9)。大腿骨近位部は、その全体を強調するなどの意味合いから、大腿骨近位部totalと称されることもある。
【0090】
椎体骨折は、最も頻度の高い骨粗鬆症性骨折であることや骨粗鬆症の診断治療の指標として重要であることなどから、その予防又は抑制の臨床的意義は極めて高い(非特許文献9)。また、大腿骨近位部骨折は、生活機能やQOLの悪化を引き起こし、生命予後にも関係しているとされていることから(非特許文献9)、大腿骨近位部骨折に対しては十分な予防や抑制の処置が講じられることが好ましい。
【0091】
椎体骨折は、形態骨折として、臨床症状の有無とは無関係に椎体の変形の度合の程度により判定することができる(非特許文献9)。形態骨折は、既存骨折と新規骨折に分類されることができる。
【0092】
新規骨折は、2つの時点におけるエックス線像等を比較して新たに発生したと判定される骨折であることができ、既存骨折は、治療開始前のある1時点における椎体の変形の程度で判定される骨折であることができる。新規骨折のうち、治療開始前に変形していなかった椎体が治療開始後に変形したものを新規椎体骨折とし、治療開始後に椎体変形の度合いが増強したものを増悪(worsening)骨折として区別することもできる。本願明細書においては、新規椎体骨折と増悪椎体骨折をこのように区別して表記する。
【0093】
本発明に係る椎体骨折は、新規椎体骨折及び増悪椎体骨折のいずれをも含む。例えば、椎体全体の形態をみてその変形の程度はGrade分類されることができ、Grade0(正常)、Grade1(椎体高約20~25%減少、かつ、椎体面積10~20%減少)、Grade2(椎体高約25~40%減少、かつ、椎体面積20~40%減少)、Grade3(椎体高約40%以上減少、かつ、椎体面積40%以上減少)とすることが一般的である。新規・増悪の区分はGenantの判定基準に従いGradeの増加パターンに沿って実施可能である。具体的には、Grade0からGrade1、2、または3への変化が認められた場合には新規椎体骨折と診断され、Grade1からGrade2または3、Grade2からGrade3への変化が認められた場合には増悪骨折とみなすことができる。
【0094】
本発明に係る骨折のうち疼痛などの臨床症状を伴い診断される骨折を臨床骨折ということができ、臨床骨折は、臨床椎体骨折と臨床非椎体骨折に分類することができる。本願明細書では、臨床非椎体骨折を、単に、非椎体骨折と称する。臨床症状は、例えば、腰背部の急性疼痛などであって、被験者の訴えによって確認することができる。
【0095】
エックス線像やMRIを用いた骨折評価法は自体公知であって、例えば、定量的評価法(QM法)や半定量的評価法(SQ法)が知られている。SQ法は、1993年にGenantらが提唱した方法で、これまでに国内外の多くの臨床試験で使用され、そのエビデンスも構築されているため、より好ましく使用できる(非特許文献11)。その他、Wuらの方法や福永らの方法を用いることもできる(非特許文献11~13)。
【0096】
骨粗鬆症の治療及び/又は予防剤を試験する際、その骨折抑制作用を評価することが好ましい。被験薬の骨折抑制作用を評価する際、過去の臨床データ等によって骨折抑制性が認められている対照薬を同試験に供して同試験を実施して得られた対照薬の骨折発生率と被験薬の骨折発生率を比較すること、過去の臨床データ等に基づいて推察され得る同試験の被験者に対する無治療骨折発生率と被験薬の骨折発生率を比較することなどを実施することで、同試験にプラセボ対照薬を供せずに同試験における被験薬の骨折抑制作用(骨折リスク低減性など)を評価することもできる。
【0097】
(9-2)骨密度の増加:
骨強度は、骨密度と骨質の2つの要因からなり、一般的に、「骨密度」は骨強度のおよそ70%を説明し、残りの30%程度は「骨質」により説明することができる(非特許文献9)。テリパラチド又はその塩を有効成分とする連日投与用製剤や週1回投与用製剤においても、骨折抑制効果のみならず骨密度増加効果も知られている(非特許文献4、5、8、9)。
【0098】
ここで、骨密度とは、典型的には腰椎の骨塩量を指す。腰椎は骨代謝回転速度の速い海綿骨が豊富なため、薬物治療による骨密度変化の検出変化の感度も高い。また、腰椎骨塩量の評価が困難な場合などでは、橈骨、第二中手骨、大腿骨頸部、踵骨の骨塩量値により当該骨密度を示すことができる。また、若年成人平均値とは20~44歳の骨密度の平均値を意味する。
【0099】
骨密度は、例えば、二重エネルギーX線吸収測定法、photodensitometry法、光子吸収測定法、定量的CT法、定量的超音波法など自体公知の方法により測定可能である。
【0100】
骨密度変化率は、例えば以下の式により算出され得る。
ある時点aにおける骨密度変化率(%)={(当該時点の骨密度-投与開始時の骨密度)/投与開始時の骨密度}×100
【0101】
また、本発明において骨萎縮度とはX線上骨量減少度を意味する。骨萎縮度は、骨萎縮なし、骨萎縮度I度、骨萎縮度II度、及び骨萎縮度III度に分類される。当該骨萎縮度における骨萎縮なしとは、正常状態を指し、具体的には、縦・横の骨梁が密であるため骨梁構造を認識することができない状態を意味する。骨萎縮度I度とは、縦の骨梁が目立つ状態を意味し、典型的には、縦の骨梁は細くみえるがいまだ密に配列しており、椎体終板も目立ってくる状態を意味する。当該骨萎縮度における骨萎縮度II度とは、縦の骨梁が粗となり、縦の骨梁は太くみえ、配列が粗となり、椎体終板も淡くなる状態を意味する。当該骨萎縮度における骨萎縮度III度とは、縦の骨梁も不明瞭となり、全体として椎体陰影はぼやけた感じを示し,椎間板陰影との差が減少する状態を意味する。骨萎縮度は、例えば、腰椎側面X線像から判定可能である。
【0102】
(9-3)骨代謝マーカーの変動:
骨代謝マーカーの変動は、骨折の予防又は抑制及び骨密度の増加と関係している。したがって、骨粗鬆症治療剤を、有効性の面から評価等する際、被験者由来の生体試料(血液試料、尿試料など)における骨代謝マーカー値を測定し、その変動(例:投与前の値と投与後の値の差など)を確認することも有用であると考えられている(非特許文献9)。
【0103】
本発明の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤を、有効性の面から評価する目的で、骨代謝マーカーの変動、骨密度の増加、又は、骨折の抑制を観察し得るが、本発明に係る週2回投与法であってその週内の投与間隔が2及び3日間隔(投与日を含まない)である投与態様においては、骨密度の増加又は骨折の抑制を直接的に観察することで有効性を評価することが好ましい。
【0104】
骨代謝マーカーは、骨形成マーカーと骨吸収マーカーに大別される。骨形成マーカーは、骨芽細胞の分化の各段階において骨芽細胞から直接または間接的に産生される物質でありえ、オステオカルシンやP1NPなどが知られている。骨吸収マーカーは、破骨細胞の活性化や骨吸収に関係する物質でありえ、NTXやCTXなどが知られている。
【0105】
従前、テリパラチドを用いた連日骨粗鬆症治療に関して、特に早期において、投与開始から速やかな上昇を認める骨形成マーカーと骨吸収マーカーの乖離を「Anabolic window」と称し、投与早期からの骨密度上昇の機序とされてきた(非特許文献24)。本発明の骨粗鬆症治療及び/又は予防剤においても、特に投与開始の早期(例:投与開始から数ヶ月以内)において、骨代謝マーカーの変動、例えば「Anabolic window」を治療モニタリング用の指標とすることもできる。
【0106】
しかし、本発明に係る週2回投与法であってその週内の投与間隔が2及び3日間隔(投与日を含まない)である投与態様は、骨代謝マーカーと有効性との関係性に関して、従前のテリパラチド治療法と明確に区別し得る。従って、同投与態様において、有効性を評価する際、骨代謝マーカーの変動ではなく、骨密度の増加又は骨折の抑制を直接的に観察することがより好ましい。
【0107】
さらに、骨粗鬆症モデルとして汎用されている卵巣摘除ラット(非特許文献14~15)での検討から、皮質骨の空隙はテリパラチドの投与頻度が高い場合に投与量に応じて増加することが報告されている(非特許文献14)。
【0108】
また、テリパラチドは骨折の危険性の高い骨粗鬆症の治療薬として用いられていること、その対象となる患者では加齢や病態により皮質骨の空隙が増加していることが報告されていること、テリパラチドによる治療効果を最大化するには、患者の病態とテリパラチドの薬理作用の特徴を考慮した治療戦略が必要であることなどが報告されている(非特許文献14)。
【0109】
従って、本発明にかかる治療又は予防において、骨密度増加や骨折抑制率と関連する骨形成マーカーは増加させつつ、皮質骨の空隙化や多孔化と関係が深い骨吸収マーカーの血中濃度又は尿中濃度が経時的に減少する又は経時的増加が抑制されるような態様が好ましい。皮質骨の空隙化や多孔化と関係が深い骨吸収マーカーとして、NTXやCTXを例示することができる。そして、このような本発明の態様として、反復投与する際、骨吸収を持続的に亢進させない程度に投与と投与の間を適切に空ける態様であることができ、より具体的には、例えば、投与量がテリパラチド換算で28.2μgである治療又は予防を例示でき、中でも、本発明に係る週2回投与法(ただし、1回投与量がテリパラチド換算で28.2μg)であってその週内の投与間隔が2及び3日間隔(投与日を含まない)である投与法を好ましく例示することができる。
【0110】
(10)安全性:
(10-1)有害事象及び副作用:
薬剤を投与された者に生じた全ての好ましくないまたは意図しない疾病やその徴候を有害事象(Adverse event;AE)と称することができる。
【0111】
有害事象のうち、薬剤との因果関係が否定できないものを副作用と称することができる。ここで、因果関係が否定できないとは、因果関係の合理的な可能性が認められることの他、因果関係の合理的な可能性がないと評価できないことを含む。
【0112】
有害事象は、重篤な有害事象と非重篤な有害事象に大別し得て、以下の6つの有害事象を重篤な有害事象とすることができ、重篤な有害事象以外を非重篤な有害事象とすることもできる。
1)死に至るもの(死亡)。
2)生命を脅かすもの(死亡のおそれ)。
3)治療のため入院または入院期間の延長が必要となるもの(入院または入院期間の延長)。
4)永続的または顕著な障害・機能不全に陥るもの(障害)。
5)先天異常を来すもの(先天異常)。
6)その他の医学的な重要な状態(障害のおそれ、上記1)~4)に準じて重篤)。
【0113】
また、有害事象は、重篤性や因果関係性の他、その程度によっても大別することができ、例えば、以下の3つの程度を考慮することができる。
1)軽度: 一過性で容易に耐えられる程度。
2)中等度:通常の活動に支障を来す程度。
3)高度: 通常の活動を不可能にする程度。
【0114】
あるいは、有害事象は、経時的変化の観点から、その転帰を、例えば、回復(recovered/resolved)、軽快(recovering/resolving)、未回復(not recovered/not resolved)、回復したが後遺症あり(recovered/resolved with sequelae)、死亡、不明、と分類することもできる。
【0115】
ある薬剤と別の薬剤を安全性で比較する場合の方法は、特に制限されず、例えば、ある有害事象に着目し、その発現頻度、重篤性、因果関係、転帰、及び/又は程度に関して比較することもできる。あるいは、有害事象全体やその一部又は副作用全体やその一部に起因する投与中断の観点で、両剤を比較することもできる。
【0116】
有害事象は、臨床検査値やバイタルサインの異常を含むことができる。
【0117】
有害事象は、特に限定されず、器官別大分類(System Organ Class;SOC)によっても分類され得る。有害事象に係る器官別大分類は、以下のように例示され得る。
1)Infections and infestations(感染症及び寄生虫症)
2)Gastrointestinal disorders(胃腸障害)
3)Musculoskeletal and connective tissue disorders(筋骨格系及び結合組織障害)
4)Injury, poisioning and procedural complications(障害、中毒、及び処置合併症)
5)General disorders and administration
site conditions(一般・全身障害及び投与部位の状態)
6)Skin and subcutaneous tissue disorders(皮膚及び皮下組織障害)
7)Nervous system disorders(神経系障害)
8)Respiratory,thoracic and mediastinal disorders(呼吸器、胸郭及び縦隔障害)
9)Eye disorders(眼障害)
10)Metabolism and nutrition disorders(代謝及び栄養障害)
11)Investigations(臨床検査)
12)Neoplasms benign,malignant and unspecified(incl cysts and polyps)(良性、悪性及び詳細不明の新生物(嚢胞及びポリープを含む))
13) Ear and labyrinth disorders(耳及び迷路障害)
14)Cardiac disorders(心臓障害)
15)Vascular disorders(血管障害)
【0118】
「感染症及び寄生虫症」に分類される有害事象として、上咽頭炎、インフルエンザを例示できる。「神経系障害」に分類される有害事象として、頭痛、浮動性めまいを例示できる。「呼吸器、胸郭及び縦隔障害」に分類される有害事象として、上気道の炎症を例示できる。「胃腸障害」に分類される有害事象として、悪心、嘔吐、便秘を例示できる。「皮膚及び皮下組織障害」に分類される有害事象として、湿疹を例示できる。「筋骨格系及び結合組織障害」に分類される有害事象として、変形性関節症を例示できる。「一般・全身障害及び投与部位の状態」に分類される有害事象として、倦怠感、注射部位出血、発熱を例示できる。「障害、中毒、及び処置合併症」に分類される有害事象として、挫傷を例示できる。
【0119】
前述の通り、テリパラチド酢酸塩投与によって、悪心、嘔吐、頭痛等が多く見られることも報告されている(非特許文献9)。また、テリパラチド又はその塩を有効成分とする連日投与用製剤が供された臨床試験において、めまいがプラセボ群と比較して有意に高いことも報告されている(非特許文献9)さらに、テリパラチド又はその塩を有効成分とする連日投与用製剤や週1回投与用製剤の投与直後から数時間後にかけて、ショック、一過性の急激な血圧低下を伴う意識消失等があらわれることがあることも知られている(非特許文献4、8)。
【0120】
従って、本発明にかかる治療又は予防において、悪心、嘔吐、頭痛等、(浮動性)めまい、ショック、血圧低下、意識消失といった有害事象又は副作用のうち少なくともいずれか1つの有害事象又は副作用の発現頻度、重篤性、及び/又は程度をできるだけ抑制する態様が好ましい。
【0121】
(10-2)治療継続:
前述の通り、一般的に、骨粗鬆症の薬物治療における服薬状況は、治療開始後5年以内に52.1%が脱落してしまうことが報告され、さらに、服薬遵守不足による、骨折抑制の低下、施設利用の必要性の高まり、医療費削減の停滞も問題視されている(非特許文献9)。服薬遵守不良に関連する要因として、痛みの存在、副作用、胃腸障害に対する服薬などが例示されている(非特許文献9)。また、一方、テリパラチド又はその塩を有効成分とする製剤は、治療継続率の低さも指摘されており、12ヶ月間にわたる治療継続率は34.9%であることが報告されている(非特許文献22)。
【0122】
従って、テリパラチド又はその塩による薬物治療であって、より高い治療継続率を奏する治療を提供することは、個々の患者の生活改善を超えて、社会福祉や医療経済といった公共的な高い意義も有すると考えられる。
【0123】
以上のことから、本発明にかかる治療又は予防において、高い治療継続率を示す態様が好ましい。
【実施例0124】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例にも束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0125】
(実施例1)
【0126】
1.試験方法:
被験者を被験薬群と対照薬群のいずれかに無作為に割り付け、図3に示すように、被験薬群の各被験者に対しては被験薬及び対照薬プラセボを、対照薬群の各被験者に対しては対照薬及び被験薬プラセボを、二重盲検法(ダブルダミー法)にて、48週間にわたって皮下投与した。また、いずれの群の被験者も標準併用薬2錠を1日1回の頻度で夕食後に服薬した。
【0127】
各被験者の治験同意取得前8週以内の骨粗鬆症治療薬の使用が有る場合、ウォッシュアウトを実施した。ウォッシュアウトは、骨粗鬆症治療に対する前治療薬の最終服薬・注射日の翌日をウォッシュアウトの1日目とし、治験薬の治験開始日がウォッシュアウト8週(56日)以降であればよいとした。ただし、原則、同意取得から治験薬の治療開始が12週(84日)を超えないものとした。
【0128】
治験責任医師または治験分担医師は、治験薬の治療開始後に被験者が所定の基準に合致すると認める場合には、その被験者に係る治験を中止した。所定の基準は、有害事象、効果の欠如、追跡調査不可、治験責任医師または治験分担医師の判断、治験実施計画書からの重大な逸脱、治験薬投与のコンプライアンス不良、被験者の申し出、又は、依頼者の判断とした。
【0129】
1.1.被験薬:
被験薬は、1本中に0.2gの薬液を含有するオートインジェクター製剤であって、1本全量を投与した際には、テリパラチドとして28.2μg(テリパラチド酢酸塩として30.3μg)投与される、製剤であった。薬液は、オートインジェクターに組み込まれた針付プレフィルドシリンジに予め充填されており、オートインジェクターは、人体への薬液の皮下注射に用いる器具である。
【0130】
1.2.被験薬プラセボ:
被験薬プラセボは、被験薬との外観比較において識別不能なオートインジェクター製剤であって、テリパラチドを実質的に含有しない製剤である。
【0131】
1.3.対照薬:
対照薬は、バイアル製剤であって、1バイアル中にテリパラチドとして63.3μgを含有する(テリパラチド酢酸塩として67.9μg)凍結乾燥注射用製剤である。なお、対照薬は、日局生理食塩液1mLを加えて溶解して得た薬液をシリンジで投与する場合、テリパラチドとして56.5μg投与される、製剤である。
【0132】
1.4.対照薬プラセボ:
対照薬プラセボは、対照薬との外観比較において、識別不能な凍結乾燥注射用製剤であって、テリパラチドを実質的に含有しない製剤である。
【0133】
1.5.標準併用薬:
標準併用薬は、ビタミンD及びマグネシウム配合のカルシウム剤(新カルシチュウ(登録商標)D;製造販売元は日東薬品工業株式会社であり、販売元は武田薬品工業株式会社である)である。標準併用薬2錠中には、沈降炭酸カルシウム1525mg(カルシウムとして610mg)、炭酸マグネシウム118.4mg(マグネシウムとして30mg)、コレカルシフェロール(ビタミンD)400IU、及び各種添加物が含まれる。
【0134】
1.6.週2回の頻度:
週2回の頻度における投与間隔は、原則的に、3~4日間隔(中2日、中3日間隔)とした。ここでの原則的な投与間隔(3~4日間隔)は、連続する2回の投与のうちいずれか一方の投与の投与日を1日目として、4日目又は5日目にもう一方の投与をすることを意味する。例えば、ある週の月曜日に投与した場合、次の投与日は、以下のように、原則的に、木曜日又は金曜日となる。
(原則的な投与間隔の1例)
月曜日 1日目 投与
火曜日 2日目
水曜日 3日目
木曜日 4日目、又は、金曜日 5日目 投与
【0135】
1.7.被験者:
被験者は、「加齢」、「既存骨折」、「低骨密度」の3つの骨折危険因子全てを有する骨粗鬆症患者であった。より具体的には、被験者は、以下の条件(1)~(6)を全て満たし(選択基準を満たし)、以下の(7)~(25)の条件のいずれをも満たさない(除外基準を満たす)、原発性骨粗鬆症患者であった。被験者は、「加齢」、「既存骨折」、「低骨密度」の3つの骨折危険因子全てを有する(以下の条件(2)~(4)を満たす)骨粗鬆症患者であることから、骨折の危険性の高い骨粗鬆症患者である。
【0136】
[1] 選択基準:
(1)原発性骨粗鬆症の診断基準(2012年度改訂版)に基づき原発性骨粗鬆症と診断された患者。
(2)同意取得時の年齢が65歳以上の男女。
(3)椎体のTh4~L4(第4胸椎~第4腰椎)の既存骨折が1個以上5個以内の患者。
(4)仮登録時の腰椎(L2~L4)骨密度が若年成人平均値の80%未満の患者。
(5)自立歩行可能な外来患者。
(6)被験薬等の初回投与前に、自己注射手技を習得し、被験薬等の管理及び投与が可能であると治験責任医師又は治験分担医師が判断した患者。
【0137】
[2] 除外基準:
(7)続発性骨粗鬆症と診断された患者。
(8)骨粗鬆症以外の骨量減少を呈する疾患を有する患者。
(9)腰椎骨密度の評価に影響を及ぼすと考えられる以下のX線所見を有する患者。
・腰椎L2~L4のいずれかに高度の椎体骨折を認める。
・腰椎L2~L4のいずれかに高度の骨硬化を認める。
・高度の側弯、前弯、後弯を認める。
・高度の変形性脊椎症性変化を認める。
・その他、異物の混入など、骨評価委員が不適当と判定した。
なお、「骨評価委員」とは、全患者の骨量評価及び骨折評価を均一に評価するために設けられた「骨評価委員会」を構成する委員である。各々の評価委員は、骨粗鬆症の画像診断のエキスパートで構成されている。
【0138】
(10)椎体の手術が施行されている患者。
(11)椎体骨折を疑うような急性疼痛を訴えている患者{同意取得12週間(84日)前から治療開始日までに急性の腰背部痛が発現または増強し、安静及び消炎鎮痛剤などの加療が必要な患者}。
(12)問診の信頼性が低いと判断された患者(少なくとも認知症の患者は除外)。
(13)重篤な腎疾患、肝疾患または心疾患を有する患者(ただし、ここで「重篤な腎疾患」とは、仮登録前に規定された検査で血清クレアチニン値が2mg/dL以上を示すことを意味し、「重篤な肝疾患」とは、仮登録前に規定された検査でAST(GOT)またはALT(GPT)値が基準値上限の2.5倍以上または100IU/L以上を示すことを意味し、「重篤な心疾患」とは、「医薬品の副作用の重篤度分類基準について(平成4年6月29日薬安発第80号)」に示すグレード2を参考に判断されたことを意味する)。
【0139】
(14)気管支喘息、発疹(紅斑、膨疹等)等の過敏症状を起こしやすい体質の患者。
(15)仮登録前に規定された検査で血清カルシウム値が11.0mg/dL以上の患者。
(16)仮登録前に規定された検査でアルカリフォスファターゼ値が基準値上限の2倍以上の患者。
(17)骨ページェット病の患者。
(18)原発性の悪性骨腫瘍もしくは転移性骨腫瘍の合併、または既往がある患者。
(19)悪性骨腫瘍の合併または過去5年以内に既往のある患者。
(20)過去に骨への影響が考えられる放射線治療を受けた患者。
(21)過去にテリパラチド製剤または抗RANKL抗体製剤の投与を受けた患者。
(22)同意取得前52週(364日)以内にビスホスホネート製剤の投与を受けた患者(ただし、薬剤の用法で一定間隔の期間が設定されている薬剤では、同意取得前52週(364日)にその期間を加えた日数とする)。
(23)他の治験薬を同意取得前26週(182日)以内に投与された患者。
【0140】
(24)同意取得日に以下の(A)~(G)骨粗鬆症治療薬の投与を受けている患者(ただし、治療開始までに8週(56日)以上のウォッシュアウト(前治療薬の影響を排除することなどを目的とした休薬を意味する)が可能ならば、対象として選択可とする)。
(A)カルシトニン製剤。
(B)活性型ビタミンD製剤。
(C)ビタミンK製剤。
(D)イプリフラボン製剤。
(E)エストロゲン製剤。
(F)SERM製剤。
(G)蛋白同化ホルモン製剤。
(25)その他、治験責任医師または治験分担医師が本治験の実施にあたり不適当と判断した患者。
【0141】
1.8.被験薬群及び対照薬群への投与:
被験者を被験薬群または対照薬群のいずれかに無作為に割り付け、図3に示すように、被験薬群の各被験者に対しては被験薬及び対照薬プラセボを、対照薬群の各被験者に対しては対照薬及び被験薬プラセボを、二重盲検法(ダブルダミー法)にて、48週間にわたって皮下投与した。また、いずれの群の被験者も標準併用薬2錠を1日1回の頻度で夕食後に服薬した。
【0142】
被験薬群に割り付けされた各患者は、被験薬1本を週2回皮下注射(上腕部・大腿部・腹部のいずれかの部位に自己注射)した。投与間隔は原則3~4日間(中2日、中3日の間隔)とした。さらに、同患者に対して、対照薬プラセボ1バイアルを1mLの日局生理食塩液に用時溶解して得た溶液を、週に1回皮下注射した(通院注射)。
【0143】
対照薬群に割り付けされた各患者は、被験薬プラセボ1本を週2回皮下注射(上腕部・大腿部・腹部のいずれかの部位に自己注射)した。さらに、同患者に対して、対照薬1バイアルを1mLの日局生理食塩液に用時溶解して得た溶液を、週に1回皮下注射した(通院注射)。
【0144】
試験の有効性主要評価項目は、腰椎骨密度変化率(第2~第4腰椎)であった。
【0145】
試験の有効性副次評価項目は、大腿骨骨密度変化率、腰椎骨密度変化率(第1~第4腰椎)、新規椎体骨折発生率、増悪椎体骨折発生率、(新規及び増悪)椎体骨折発生率、臨床骨折(臨床椎体骨折、非椎体骨折)発生率、脆弱性臨床骨折発生率、脆弱性非椎体骨折発生率、及び、骨代謝マーカーであった。
【0146】
試験の安全性評価項目は、有害事象、バイタルサイン、臨床検査、及び、免疫原性であった。
【0147】
1.9.骨密度変化率の測定:
腰椎骨密度及び大腿骨骨密度の各骨密度変化率の測定方法を下記表1-1に示す。
【0148】
【表1-1】
【0149】
1.10.椎体骨折の評価:
椎体骨折の評価方法を下記表1-2に示す。
【0150】
【表1-2】
【0151】
1.11.臨床骨折(臨床椎体骨折及び非椎体骨折)の評価:
治療開始から48週後(中止時)までに、被験者の訴え(臨床症状)があり、かつ治験責任医師または治験分担医師がX線写真またはMRIなどにより骨折を確認した場合は臨床骨折とした。特に、被験者が腰背部の急性疼痛を訴える場合は、X線撮影を行い骨折の有無を確認した。
【0152】
評価内容は、骨折発生日(被験者が当該臨床症状を発症した日)、骨折部位(椎体、大腿骨近位部、橈骨、上腕骨、その他)、大きい外力の有無、骨折の判断根拠(X線撮影・MRI、他科・他院からの情報、その他)、X線・MRI撮影日、とした。
【0153】
1.12.骨代謝マーカーの検査:
骨代謝マーカーの検査方法を下記表1-3に示す。
【0154】
【表1-3】
【0155】
1.13.有害事象の調査:
治験責任医師または治験分担医師は、各被験者の同意取得日~最終投与日から1週間後にわたって、被験者からの自発的報告、問診、及び各種検査により、有害事象を調査した。
【0156】
調査項目は、有害事象名、発現日、治験薬の投与状況、消失日、転帰、重篤度分類、重篤理由、程度、治験薬及び標準併用薬との因果関係、注射部位に生じた有害事象の場合にはその部位、及び、治験中止の有無、であった。
【0157】
1.14.バイタルサインの測定:
バイタルサインの測定方法を下記表1-4に示す。
【表1-4】
【0158】
1.15.臨床検査:
臨床検査の方法を下記表1-5に示す。
【表1-5】
【0159】
1.16.免疫原性の評価:
治験責任医師または治験分担医師は、検体(血液)を各検査日の治験薬投与前に採取し、保存した。検体回収後に治験薬に対する抗薬物抗体を測定した。抗薬物抗体が陽性であった検体のみ中和抗体を測定した。
【0160】
2.試験結果:
2.1.有効性の解析対象者:
治療同意を示した被験者は859名であり、その内553名が治験登録し、治療を受け、76名が治療を中断し、477名が治療を完結した。治療を受けた553名のうち、有効性の解析対象者である551名の背景(概要)を以下の表2-1に示す。表2-1は、被験薬群と対照薬群の間で、背景に大きな偏りはなく、骨折リスクもほぼ同等であろうことを示している。
【0161】
【表2-1】
【0162】
2.2.平均投与回数及び平均投与期間:
治療を受けた553名における、平均投与回数及び平均投与期間を以下の表2-2及び2-3に示す。なお、平均投与回数について、被験薬を実薬(MN-10-T AI)として投与している被験者は対照薬のプラセボ(MN-10-T Placebo)を投与しており、対照薬を実薬(MN-10-T)として投与している被験者は被験薬のプラセボ(MN-10-T AI Placebo)を投与しているため(図29)、被験薬実薬、対照薬プラセボ、被験薬プラセボ、対照薬実薬の4剤の平均投与回数を算出している。
【0163】
【表2-2】
【0164】
【表2-3】
【0165】
平均投与回数は、被験薬群の被験薬実薬と対照薬群の被験薬プラセボ、被験薬群の対照薬プラセボと対照薬群の対照薬実薬を比較して大きな差はないと考えられた。
【0166】
平均投与期間は、被験薬群と対照薬群で差はないと考えられた。なお、48週に到達していないのは途中中止例が含まれているためである。
【0167】
2.3.腰椎、大腿骨頚部及び大腿骨近位部totalそれぞれの骨密度変化率平均値の時間
的推移:
有効性の解析対象者における、腰椎(第2~第4腰椎)、腰椎(第1~第4腰椎)、大腿骨頚部及び大腿骨近位部totalそれぞれの骨密度変化率平均値の時間的推移を以下の表2-4~2-7に示す。表内の数値は、開始時からの変化率平均値(%)を示す。
【0168】
また、有効性の解析対象者における、腰椎(第2~第4腰椎)骨密度変化率平均値の時間的推移を図4に示す。
【0169】
【表2-4】
【0170】
【表2-5】
【0171】
【表2-6】
【0172】
【表2-7】
【0173】
被験薬による治療は、対照薬による治療と比較して、腰椎骨密度、大腿骨頚部骨密度、及び大腿骨近位部total骨密度のいずれにおいても高い増加率を示した。とくに、腰椎骨密度において有意に高かった。
【0174】
被験薬による治療と対照薬による治療を比較すると、1週間当たりのテリパラチドの投与量は実質的に同等と考えられる。一方、骨密度と骨強度は1週間当たりのテリパラチドの投与量に応じて増加することが報告されている(非特許文献14)。したがって、被験薬による治療が対照薬による治療と比較して有意であると考えられるこの結果は、従前の医療技術とは明確に区別され得ると考えられた。
【0175】
有効性の解析対象者を、開始時の腰椎(第2~第4腰椎)骨密度又は既存椎体骨折数を指標としたサブグループに分け、腰椎(第2~第4腰椎)の最終時における骨密度変化率平均値を解析した結果を以下の表2-8及び2-9に示す。表内の数値は、開始時からの変化率平均値(%)を示す。
【0176】
【表2-8】
【0177】
【表2-9】
【0178】
腰椎骨密度1SD低下で椎体骨折の危険性が2.3倍となることが報告されている(非特許文献9)。
【0179】
開始時の腰椎骨密度や既存椎体骨折数を指標として、投与による腰椎骨密度の増加を解析した結果、開始時の腰椎骨密度の低下に伴って投与による腰椎骨密度の増加は高くなる傾向を示し、逆に、既存椎体骨折数の上昇に投与による腰椎骨密度の増加は低くなる傾向を示した。
【0180】
有効性の解析対象者を、血清オステオカルシン開始時値を指標としたサブグループに分け、腰椎(第2~第4腰椎)及び大腿骨頚部の骨密度変化率平均値の時間的推移を解析した結果を以下の表2-10及び2-11に示す。表内の数値は、開始時からの変化率平均値(%)を示す。
【0181】
【表2-10】
【0182】
【表2-11】
【0183】
有効性の解析対象者を、血中P1NP開始時値を指標としたサブグループに分け、腰椎(第2~第4腰椎)及び大腿骨頚部の骨密度変化率平均値の時間的推移を解析した結果を以下の表2-12及び2-13に示す。表内の数値は、開始時からの変化率平均値(%)を示す。
【0184】
【表2-12】
【0185】
【表2-13】
【0186】
上記4つの表のデータを基に、開始時のOC又はP1NP濃度が最も低いサブグループの最終における骨密度変化率平均値(被験薬群)を開始時のOC又はP1NP濃度が最も低いサブグループの最終における骨密度変化率平均値(対照薬群)で除算した値を算出した結果を以下の表2-14に示す。
【0187】
【表2-14】
【0188】
被験薬による治療は、血中OC濃度が比較的低い(例:15.2(ng/mL)未満)患者を対象とした大腿骨頚部骨密度増加効果の観点において、特に優れていると考えられた。
【0189】
2.4.椎体骨折発生率:
有効性の解析対象者における、カプラン・マイヤー法による新規椎体骨折発生率及び増悪椎体骨折発生率の時間的推移等を以下の表2-15及び2-16に示す。
【0190】
【表2-15】
【0191】
【表2-16】
【0192】
2.5.臨床椎体骨折発生率:
有効性の解析対象者における、カプラン・マイヤー法による臨床椎体骨折発生率の時間的推移等を以下の表2-17に示す。
【0193】
【表2-17】
【0194】
以上の椎体骨折発生率データによれば、被験薬による治療は、対照薬による治療と比較して、全般的に椎体骨折抑制の観点においても優れていると考察できる。
【0195】
2.6.骨吸収マーカー:
有効性の解析対象者における、骨吸収マーカーの時間的推移を以下の表2-18~2-20に示す。
【0196】
【表2-18】
【0197】
【表2-19】
【0198】
【表2-20】
【0199】
被験薬による治療に伴う骨吸収マーカーの時間推移は、対照薬による治療に伴う骨吸収マーカーの時間推移と比較して、同等又はやや抑制されていた(図5~7)。
【0200】
非特許文献17は、被験薬の連日投与が、骨吸収マーカーを亢進させること等を報告している。さらに、非特許文献27において、被験薬の連日投与により生じた皮質骨の空隙表面には骨吸収を示す浸食面が認められることから(Fig.7 cなど参照)、皮質骨の多孔化と骨吸収の亢進と深い関係があることが示唆されている。これらの文献の内容等に照らすと、今回の週2回投与治療における骨吸収マーカーの時間推移は、週2回投与治療が、週1回投与治療よりも皮質骨空隙率を増加せしめるような骨代謝回転の亢進を示さない治療であることを示唆しているものと推察される。
【0201】
2.7.骨形成マーカー:
有効性の解析対象者における、骨形成マーカーの時間的推移を以下の表2-21及び2-22に示す。
【0202】
【表2-21】
【0203】
【表2-22】
【0204】
被験薬による治療に伴う骨形成マーカーの時間推移は、対照薬による治療に伴う骨形成マーカーの時間推移と比較して、高位であった(図8~9)。とりわけ、投与開始後早期(ここでは、投与開始から12週後程度までを意味する)において、週2回投与治療は、週1回投与治療と比較して骨形成マーカーの変化率が有意に高かった。すなわち、骨形成亢進が優れていると考察されることができ、週2回投与治療は、週1回投与治療と比較してより大きな骨密度増加率を示す可能性を考えることができる。
【0205】
2.8.安全性:
安全性の解析対象は、治療期において被験薬又は対照薬を少なくとも1回以上投与された被験者と定義し、以下の集計解析を行った。Trearment-emergent adverse event(TEAE)とは、治療期において発現した有害事象を意味する。
【0206】
2.8.1.有害事象及び副作用の発現率(概要):
【表2-23】
【0207】
被験薬投与による副作用発現率は、対照薬投与による副作用発現率と比較して、大幅に低下していた。
【0208】
【表2-24】
【0209】
副作用発現率を、TEAEの副作用発現率、重篤な有害事象の副作用発現率、及び、その他の重要な有害事象の副作用発現率の3つに分類して解析した結果、いずれの副作用発現率においても、被験薬投与による副作用発現率は、対照薬投与による副作用発現率と比較して、大幅に低下していた。ここで、重要な有害事象とは、重篤あるいは中止に至った有害事象と定義した。また、「重要な有害事象」から「重篤な有害事象」を除いた有害事象を「その他の重要な有害事象」とした。
【0210】
2.8.2.比較的に発現率の高い有害事象及び副作用の発現率(悪心、嘔吐等):
【表2-25】
【0211】
両群に共通する比較的に発現率の高い悪心、嘔吐等に関する有害事象及び副作用の発現率は、対照薬群と比較して、被験薬群で低い傾向を示した。また、「頭痛」や「発熱」の有害事象及び副作用発現率についても、対照薬群と比較して、被験薬群で低い傾向を示した。
【0212】
2.8.3.器官別の有害事象及び副作用の発現率(神経系障害等):
【表2-26】
【0213】
有害事象及び副作用を器官別に集計解析した結果、神経系障害、胃腸障害、一般・全身障害及び投与部位の状態、心臓障害、血管障害のいずれの障害又は状態においても、有害事象及び副作用の発現率は、対照薬群と比較して、被験薬群で低い傾向を示した。
【0214】
2.8.4.有害事象及び副作用の発現率(ショック、血圧低下、意識消失)及び血圧変化の経時変化:
【表2-27】
【0215】
前述の通り、PTHの連日投与用製剤や週1回投与用製剤の投与直後から数時間後にかけて、ショック、一過性の急激な血圧低下を伴う意識消失、痙攣、転倒があらわれることがあることも知られている(非特許文献4、8)。
【0216】
ここで、血圧低下に関連する事象について、有害事象及び副作用の発現率は、対照薬群と比較して、被験薬群で低い傾向を示した。さらに、ショックや意識消失に関連する事象についても、被験薬群において、有害事象及び副作用の発現は一切認められないという優れた安全性を示した。
【0217】
【表2-28】
【0218】
被験薬群において、収縮期血圧変化量(投与後値-投与前値)の平均値は、いずれの検査時期(0,4,12,24及び48週後)でも低下傾向は同様であった。一方、対照薬群において、被験薬群と比べて、同平均値は、とりわけ0,4,12週後で低下幅が大きかった。血圧低下の程度については、被験薬群では-6.3~-9.4mmHg、対照薬群では-7.4~-12.2mmHgであり、被験薬群における血圧低下は、対照薬群における血圧低下と比べて、緩やかであった。
【0219】
【表2-29】
【0220】
被験薬群において、拡張期血圧変化量(投与後値-投与前値)の平均値は、いずれの検査時期(0,4,12,24及び48週後)でも低下傾向は同様であった。一方、対照薬群において、同平均値は、0,4,12週後で低下幅が大きかった。血圧低下の程度については、被験薬群では-4.2~-6.3mmHg、対照薬群では-4.3~-8.0mmHgであり、被験薬群における血圧低下は、対照薬群における血圧低下と比べて、緩やかであった。
【0221】
2.8.5.年齢別の有害事象及び副作用の発現率:
【表2-30】
【0222】
高齢化によって副作用頻度の発現率が低下する傾向が、被験薬群ではより強く観察され、とりわけ、80歳以上の被験薬群の患者では、副作用頻度の発現率が顕著に低下していた。
【0223】
2.8.6.性別の有害事象及び副作用の発現率:
【表2-31】
【0224】
対照薬群と比較して、被験薬群において、男女問わず優れた安全性を示したが、とりわけ、男性では副作用発現率が顕著に低下していた。
【0225】
2.8.7.治療継続性:
【表2-32】
【0226】
治療継続性は、対照薬群と比較して、被験薬群で高い傾向を示した。
【0227】
【表2-33】
【0228】
有害事象による治療中止の割合は、対照薬群と比べて被験薬群で低かった。また、24週未満の有害事象による中止は、対照薬群での25名に対して被験薬群では11名であり、被験薬群では、とりわけ治療早期段階での有害事象による中止例が少なかった。
【0229】
【表2-34】
【0230】
被験薬群による治療は、対照薬群による治療と比較して、悪心・嘔吐などの有害事象又は副作用の発現率を低下させることによる治療継続性の向上が認められた。
【0231】
2.9.投与間隔が治療効果に与える影響解析:
2.9.1.解析方法:
被験薬群のうち48週間にわたる治療を完遂した被験者242名(以降、治療完遂被験薬群)を対象とし、各被験者について、投与全期間週数である48週のうち、週内の投与間隔(投与日は含まれない)が2日及び3日間隔である週が占める割合(%)(以降、2~3日投与間隔遵守割合)を算出した。その際、以下の条件(1)又は(2)を充足する週については、週内の投与間隔(投与日は含まれない)が2日及び3日間隔である週に該当しないものとした。
(1)対照薬プラセボを投与された日から次の対照薬プラセボを投与された日までの経過期間が6日以内である場合のその週。
【表2-35】
(2)対照薬プラセボを投与された日から次の対照薬プラセボを投与された日までの経過期間が7日以上である場合の被験薬が投与間隔なし、投与間隔1日、投与間隔4日、及び投与間隔5日で投与された場合のその週。
【0232】
【表2-36】
【0233】
【表2-37】
【0234】
【表2-38】
【0235】
【表2-39】
【0236】
以上の通り、2~3日投与間隔遵守割合を定義した上で、以下の5つの集計解析を実施した。
(1)2~3日投与間隔遵守割合が70%以上である治療完遂被験薬群と2~3日投与間隔遵守割合が70%未満である治療完遂被験薬群の有効性及び安全性の対比解析。
(2)2~3日投与間隔遵守割合が75%以上である治療完遂被験薬群と2~3日投与間隔遵守割合が75%未満である治療完遂被験薬群の有効性及び安全性の対比解析。
(3)2~3日投与間隔遵守割合が80%以上である治療完遂被験薬群と2~3日投与間隔遵守割合が80%未満である治療完遂被験薬群の有効性及び安全性の対比解析。
(4)2~3日投与間隔遵守割合が85%以上である治療完遂被験薬群と2~3日投与間隔遵守割合が85%未満である治療完遂被験薬群の有効性及び安全性の対比解析。
(5)2~3日投与間隔遵守割合が90%以上である治療完遂被験薬群と2~3日投与間隔遵守割合が90%未満である治療完遂被験薬群の有効性及び安全性の対比解析。
【0237】
ここで、有効性の評価項目を腰椎骨密度変化率(第2~第4腰椎)、大腿骨頚部骨密度変化率、大腿骨近位部全体(大腿骨近位部total)骨密度変化率、臨床骨折発生率、及び、非椎体骨折発生率とした。また、安全性の評価項目を全副作用発現率及び悪心(副作用)発現率とした。
【0238】
さらに、対比される各群における平均投与回数及び平均投与期間数を算出した。
【0239】
2.9.2.解析結果:
2.9.2.1.平均投与回数及び平均投与期間:
治療完遂被験薬群の242名を対象に、投与間隔遵守割合毎に平均投与回数及び平均投与期間を算出した。その結果を以下の表2-40に示す。
【0240】
【表2-40】
【0241】
2~3日投与間隔遵守割合70%以上と同70%未満で区別した場合の両者の比較で、平均投与回数及び平均投与期間に大きな差はなく同程度であった。また、2~3日投与間隔遵守割合75%、80%、85%及び90%の各々の値について特定値以上と特定値未満とを比較した場合においても、2~3日投与間隔遵守割合70%以上の場合と同様の結果に至った。したがって、異なる2~3日投与間隔遵守割合でも平均投与回数及び平均投与期間に差はなく、治験薬の曝露量に差はないと考えられた。
【0242】
2.9.2.2.2~3日投与間隔遵守割合毎に特定値以上/未満で区別した場合における腰椎、大腿骨頸部及び大腿骨近位部totalそれぞれの骨密度変化率平均値(%):
各2~3日投与間隔遵守割合を特定値以上/未満で区別した場合における腰椎、大腿骨頸部及び大腿骨近位部totalそれぞれの骨密度変化率平均値(%)を算出した。その結果
を以下の表2-41~2-43に示す。
【0243】
【表2-41】
【0244】
【表2-42】
【0245】
【表2-43】
【0246】
また、腰椎骨密度(第2~第4腰椎)、大腿骨頸部骨密度、及び大腿骨近位部total骨密度の各々の変化率平均値(%)の推移を、2~3日投与間隔遵守割合毎に特定値以上と特定値未満とで比較して示すグラフを図10~24に示す。
【0247】
前述の通り、腰椎骨密度(第2~第4腰椎)は、本試験の有効性主要評価項目である。そこで、投与開始48週後時点において2~3日投与間隔遵守割合がある特定値(%)以上である患者が示す腰椎骨密度(第2~第4腰椎)変化率平均値(%)に対して特定値の変動が与える影響の解析結果を図25に示す。
【0248】
2~3日投与間隔遵守割合が特定値以上となる層では、2~3日投与間隔遵守割合が大きくなるにつれ、骨密度変化率平均値(%)が高くなる傾向であった。したがって、週内の投与間隔(投与日は含まれない)が2日及び3日間隔である週が占める割合が高いほど、高い治療効果が得られると考えられた。より具体的には、同割合が70%以上の態様において良好な治療効果を示し、さらに90%以上の態様において一層に顕著な治療効果を獲得でき、加えて、同割合と治療効果との強い正の相関傾向も考慮すると、同割合が100%になることで治療効果は概ね最大化するであろうと考察された。
【0249】
一方、2~3日投与間隔(投与日を含むと3,4日間隔)遵守率が0%であって、概ね1,4日間隔(投与日を含むと2,5日間隔)による週2回の頻度で投与された症例は2例あった。これらの2症例の腰椎骨密度(第2~第4腰椎)変化率平均値(%)を解析した結果、投与開始48週後において、一方は5.8%であり、他方は5.9%であった。この結果も、週2回投与を行う際、 2~3日投与間隔(投与日を含むと3,4日間隔)を遵守することが有用であることを示唆している、と発明者は考えている。
【0250】
2.9.2.3.2~3日投与間隔遵守割合が75~85%、85~100%に区分した場合の各区分における骨密度変化率平均値(%):
【0251】
【表2-44】
【0252】
2.9.2.4.2~3日投与間隔遵守割合毎に特定値以上/未満で区別した場合における臨床骨折及び非椎体骨折の発生割合:
2~3日投与間隔遵守割合毎に特定値以上/未満で区別した場合における臨床骨折及び非椎体骨折の発生割合を算出した。その結果を以下の表2-45~2-46に示す。
【0253】
【表2-45】
【0254】
【表2-46】
【0255】
前述の通り、臨床骨折は、椎体と非椎体を包含する類の骨折である。そこで、2~3日投与間隔遵守割合がある特定値(%)以上である患者が示す臨床骨折の骨折発生割合(%)に対して特定値の変動が与える影響の解析結果を図26に示す。
【0256】
特定値以上となる層では、2~3日投与間隔遵守割合が大きくなるにつれ、骨折発生割合(%)が概ね低下する傾向であった。したがって、週内の投与間隔(投与日は含まれない)が2日及び3日間隔である週が占める割合が高いほど、高い治療効果が得られると考えられた。より具体的には、同割合が70%以上の態様において良好な治療効果を示し、さらに90%以上の態様において一層に顕著な治療効果を獲得でき、加えて、同割合と治療効果との強い正の相関傾向も考慮すると、同割合が100%になることで治療効果が概ね最大化するであろうと考察された。
【0257】
2.9.2.5.投与間隔遵守割合毎に特定値以上/未満で区別した場合における骨代謝マーカー(尿中NTX(u-NTX)、血清NTX(s-NTX)、CTX、OC、P1NP)の経時的推移:
投与間隔遵守割合毎に特定値以上/未満で区別した場合における骨代謝マーカー(尿中NTX(u-NTX)、血清NTX(s-NTX)、CTX、OC、P1NP)の経時的推移を算出した。その結果を以下の表2-47~表2-51に示す。
【0258】
【表2-47】
【0259】
【表2-48】
【0260】
【表2-49】
【0261】
【表2-50】
【0262】
【表2-51】
【0263】
テリパラチド又はその塩を有効成分とする連日投与用製剤や週1回投与用製剤の骨形成作用を観察するための骨代謝マーカーとして、血清中のオステオカルシン(OC)が汎用されている(非特許文献5など)。また、本発明に係る被験薬投与において、投与開始から概ね4週間後にOC上昇のピークが認められる(図8)。そこで、投与開始4週間後時点において2~3日投与間隔遵守割合がある特定値(%)以上である患者が示すOCに対して特定値の変動が与える影響の解析結果を図27に示す。
【0264】
骨形成マーカーであるOCについては、前記の治療効果と異なり、特定値以上となる層では、2~3日投与間隔遵守割合とのはっきりとした相関が認められなかった。
【0265】
副甲状腺ホルモン薬は骨形成促進剤であることが知られており(非特許文献9)、骨形成マーカーと骨吸収マーカーの乖離がテリパラチドを用いた連日骨粗鬆症治療における有効性指標として認識されている(非特許文献24)。従って、2~3日投与間隔遵守割合との相関性に関して、治療効果と骨形成マーカーであるOCとの間で異なる傾向を示した本解析結果は、従来のテリパラチド療法知見に照らすと極めて画期的と考えられた。
【0266】
2.9.2.6.投与間隔遵守割合毎に特定値以上/未満で区別した場合における全副作用及び悪心(副作用)の発現例数及び発現割合(%):
【0267】
【表2-52】
【0268】
【表2-53】
【0269】
前述(2.8.2)の通り、悪心は最も発現率が高い副作用であった。そこで、2~3日投与間隔遵守割合がある特定値(%)以上である患者が示す悪心発現割合(%)に対して
特定値の変動が与える影響の解析結果を図28に示す。
【0270】
投与間隔遵守割合が特定値以上となる群では、投与間隔遵守割合が大きくなるにつれ、悪心(副作用)の発現割合が低い傾向であった。したがって、週内の投与間隔(投与日は含まれない)が2日及び3日間隔である週が占める割合が高いほど、安全性の高い治療となると考えられた。より具体的には、同割合が70%以上の態様において良好な安全性を示し、同割合と安全性との強い正の相関傾向も考慮すると、同割合が100%になることで、安全性が概ね最大化するであろうと考察された。
【0271】
(実施例2)
【0272】
1.試験方法
6ヵ月齢の雌性のウサギに、テリパラチドの週当たり用量を140μg/kg に揃えて、
週1 回、週2 回もしくは週7回の頻度で4週間にわたって、あるいは、テリパラチドを
含まない対照薬を週7回の頻度で4週間にわたって皮下投与し、骨代謝および骨組織構造に与える影響を検討した(表2-54)。併せて、脛骨の骨密度および骨強度を測定した。投与されたテリパラチド溶液は、テリパラチド酢酸塩を注射用水で溶解、ろ過後、バイアルに充填し、凍結乾燥した製剤を用時に生理食塩液に溶解させることで適宜に調製した。
【0273】
【表2-54】
【0274】
2.試験結果
(1)脛骨骨密度
脛骨骨密度を分割領域で解析した結果、本薬は海綿骨の多い近位部(1/5 部位)の骨密度を対照群と比べて顕著に増加させ、本部位において週2 回投与群の骨密度は週1 回投与群よりも高値であった。本試験結果は、脛骨近位部と同様に海綿骨の多い腰椎(第2~4腰椎)(腰椎では60%が海綿骨であり、椎体では80%が海綿骨;非特許文献26)において、週2回投与群の骨密度は週1回投与群よりも高値であったことを示した実施例1試験結果(表2-4)と符合する。
【0275】
【表2-55】
(2)脛骨骨強度
投与終了後に採取した脛骨の3 点曲げ骨強度を測定した結果、最大荷重は本薬の週2 回投与群および週7 回投与群において対照群よりも高値を示した。
【0276】
【表2-56】
(3)脛骨骨幹部の骨組織形態
週7 回投与群では、皮質骨内膜面の海綿骨化、皮質骨内部の多数の空隙(多孔化)、ならびに層板構造の乱れが観察されたが、週1 回および週2 回投与群ではいずれの所見も観察されなかった。
非特許文献14は、テリパラチド高頻度投与が骨代謝回転を亢進することやテリパラチドによる皮質骨空隙率増加は投与頻度の影響を強く受けることが示唆されることを報告している。本実施例において、週1回投与治療に対して、週2回投与治療はその投与頻度の倍化に関わらず、皮質骨空隙率を増加せしめるような骨代謝回転の亢進が認められなかったことは、非特許文献14に照らすと意外で画期的な結果と考えられた。
また、非特許文献17は、被験薬の連日投与が、骨吸収マーカーを亢進させること等を
報告している。さらに、非特許文献27において、被験薬の連日投与により生じた皮質骨の空隙表面には骨吸収を示す浸食面が認められることから(Fig.7 cなど参照)、皮質骨
の多孔化と骨吸収の亢進と深い関係があることが示唆されている。
実施例1において、週2回投与治療に伴う骨吸収マーカーの時間推移は、週1回投与治療に伴う骨吸収マーカーの時間推移と比較して同等又はやや抑制されていた(図5~7)が、このような機序を通じて、週2回投与治療は、週1回投与治療に対して、投与頻度の倍化に関わらず皮質骨空隙率を増加せしめるような骨代謝回転の亢進を示さない治療であろうことを推察できる。従って、実施例1での効果は、実施例2のウサギでの試験の結果によって支持されるものであった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
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図22
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図24
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