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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114963
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】触感評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/00 20060101AFI20240816BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
G01N11/00 A
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024106162
(22)【出願日】2024-07-01
(62)【分割の表示】P 2022020264の分割
【原出願日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2021032381
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 崇訓
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】度会 悦子
(57)【要約】
【課題】被験者の皮膚表面の触感を定量的に評価する技術を提供する。
【解決手段】触感評価方法は、皮膚表面または所定の剤を塗布した皮膚表面に対して接触させた指または測定治具を前記皮膚表面から離れる方向へ動かすことにより発生する力学的な物理量を経時的に取得する取得工程と、前記物理量から時間に関する特徴量を1以上含む複数種類の特徴量を抽出する抽出工程と、前記複数種類の特徴量に基づいて前記皮膚表面または前記所定の剤の触感を評価する評価工程と、を含む。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚表面または所定の剤を塗布した皮膚表面に対して接触させた指、手のひらまたは測定治具を前記皮膚表面から離れる方向へ動かすことにより発生する力学的な物理量を経時的に取得する取得工程と、
前記物理量から時間に関する特徴量を1以上含む複数種類の特徴量を抽出する抽出工程と、
前記複数種類の特徴量に基づいて前記皮膚表面または前記所定の剤の触感パラメータを評価する評価工程と、
を含む触感評価方法。
【請求項2】
前記特徴量は、
前記物理量の立ち上がり時から最大強度となるピーク時までの第一時間、
前記物理量の前記ピーク時から立ち下がり時までの第二時間、
前記物理量の前記最大強度の半値幅である第三時間、
前記立ち上がり時から前記立ち下がり時までの全長である第四時間、または
前記第一時間から第四時間のいずれか一以上を用いて演算された一または複数の演算時間
の何れかを含む請求項1に記載の触感評価方法。
【請求項3】
前記評価工程において、前記第一時間から前記第四時間または前記演算時間の少なくとも2つを用いて前記皮膚表面または前記所定の剤の触感パラメータを評価することを特徴とする請求項2に記載の触感評価方法。
【請求項4】
前記評価工程において、前記第四時間または前記第二時間と前記第三時間との比率に基づき前記皮膚表面または前記所定の剤の触感パラメータを評価することを特徴とする請求項2または3に記載の触感評価方法。
【請求項5】
前記複数種類の特徴量は、前記物理量の前記立ち上がり時から当該物理量が平均値になるまでの時間を示す第五時間をさらに含み、
前記評価工程において、前記第一時間と前記第五時間との差分時間に基づいて前記皮膚表面または前記所定の剤の触感パラメータを評価することを特徴とする請求項2から4いずれか1項に記載の触感評価方法。
【請求項6】
前記触感パラメータの評価に用いられる複数種類の前記特徴量が、いずれも時間に関する特徴量である請求項1から5のいずれか1項に記載の触感評価方法。
【請求項7】
前記触感パラメータの評価に用いられる複数種類の前記特徴量が、前記物理量の強度に関する特徴量を含む請求項1から5のいずれか1項に記載の触感評価方法。
【請求項8】
前記複数種類の特徴量は、前記最大強度をさらに含み、
前記評価工程において、前記第一時間と前記第五時間との差分時間および前記最大強度に基づいて前記皮膚表面または前記所定の剤の触感パラメータを評価することを特徴とする請求項5を引用する請求項7に記載の触感評価方法。
【請求項9】
前記抽出工程において、前記取得工程で取得した物理量の経時変化を示す波形を擬似ヒストグラムとみなして当該擬似ヒストグラムの歪度または尖度を算出し、
前記評価工程において、前記歪度または前記尖度に基づき前記皮膚表面または前記所定の剤の触感パラメータを評価することを特徴とする請求項1から8いずれか1項に記載の触感評価方法。
【請求項10】
皮膚表面に所定の剤を塗布し、
前記所定の剤を塗布した皮膚表面に対して接触させた指、手のひらまたは測定治具を前記皮膚表面から離れる方向へ動かすことにより発生する力学的な物理量を経時的に取得する取得工程と、
前記物理量から時間に関する特徴量を1以上含む複数種類の特徴量を抽出する抽出工程と、
前記複数種類の特徴量に基づいて前記所定の剤の触感パラメータを評価する評価工程と、
を含む剤の評価方法。
【請求項11】
皮膚表面または所定の剤を塗布した皮膚表面に対して接触させる接触手段と、
接触させた前記接触手段を前記皮膚表面または所定の剤を塗布した皮膚表面から離れる方向へ動かすことにより発生する力学的な物理量を経時的に取得する取得手段と、
前記物理量から時間に関する特徴量を1以上含む複数種類の特徴量を抽出する抽出手段と、
前記複数種類の特徴量について前記皮膚表面または前記所定の剤の触感パラメータを評価する評価手段と、
を含む触感評価システム。
【請求項12】
音声出力手段をさらに備え、
前記評価手段は、評価された前記皮膚表面の触感パラメータに応じた音声を前記音声出力手段に出力させることを特徴とする請求項11に記載の触感評価システム。
【請求項13】
表示手段をさらに備え、
前記評価手段は、評価された前記皮膚表面の触感パラメータに応じた表示態様を前記表示手段に表示させることを特徴とする請求項11または12に記載の触感評価システム。
【請求項14】
振動出力手段をさらに備え、
前記評価手段は、評価された前記皮膚表面の触感パラメータに応じた振動を前記振動出力手段に出力させることを特徴とする請求項11から13いずれか1項に記載の触感評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚触感の評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚表面の感覚を評価する方法として、化粧料が塗布された皮膚の評価対象部位に所定の力を加え、そのときの力学応答特性を計測するものがある(例えば、特許文献1)。非特許文献1に関しては後述する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-052858号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y.Tanaka,D.P.Nguyen,T.Fukuda,A.Sano,Proceedings of the IEEE World Haptics Conference,pp.146-151(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の場合、皮膚の評価対象部位に所定の力を加え、そのときの力学応答特性を計測しているが、計測結果をどのように用いて解析するかいまだ研究の余地があった。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、被験者の皮膚に接触させた指、手のひらまたは計測治具を離す方向に動かすことにより発生する物理量を計測し、計測した物理量から複数種類の特徴量を抽出し、評価することを可能とする技術に関する。本明細書において「皮膚触感評価」とは、非医療目的で、被験者の皮膚表面の触感パラメータを評価することを意味し、専門家以外の評価者であっても可能な評価を含む。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、皮膚表面または所定の剤を塗布した皮膚表面に対して接触させた指、手のひらまたは測定治具を前記皮膚表面から離れる方向へ動かすことにより発生する力学的な物理量を経時的に取得する取得工程と、前記物理量から時間に関する特徴量を1以上含む複数種類の特徴量を抽出する抽出工程と、前記複数種類の特徴量に基づいて前記皮膚表面または前記所定の剤の触感パラメータを評価する評価工程と、を含む触感評価方法に関する。
【0008】
また、本発明は、皮膚表面に所定の剤を塗布し、前記所定の剤を塗布した皮膚表面に対して接触させた指、手のひらまたは測定治具を前記皮膚表面から離れる方向へ動かすことにより発生する力学的な物理量を経時的に取得する取得工程と、前記物理量から時間に関する特徴量を1以上含む複数種類の特徴量を抽出する抽出工程と、前記複数種類の特徴量に基づいて前記所定の剤の触感パラメータを評価する評価工程と、を含む剤の評価方法に関する。
【0009】
また、本発明は、皮膚表面または所定の剤を塗布した皮膚表面に対して接触させる接触手段と、接触させた前記接触手段を前記皮膚表面または所定の剤を塗布した皮膚表面から離れる方向へ動かすことにより発生する力学的な物理量を経時的に取得する取得手段と、前記物理量から時間に関する特徴量を1以上含む複数種類の特徴量を抽出する抽出手段と、前記複数種類の特徴量について前記皮膚表面または前記所定の剤の触感パラメータを評価する評価手段と、を含む触感評価システムに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により提供される技術によれば、被験者の皮膚表面の触感を定量的に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】被験者の皮膚表面にセンサを装着した指を接触させるイメージ図である。
図2】本実施形態の触感評価方法(本方法)を示すフローチャートである。
図3】皮膚表面に接触させた指の動きと皮膚表面の剤と関係を示した概念図である。
図4】(a)は取得した物理量の波形信号であり、(b)は取得した物理量の波形信号のうち評価に有効な時間領域を抽出した波形信号である。
図5】抽出例1で抽出する特徴量を説明する図である。
図6】評価例1の評価結果を示すグラフである。
図7】評価例2の評価結果を示すグラフである。
図8】抽出例2で抽出する特徴量を説明する図である。
図9】評価例3の評価結果を示すグラフである。
図10】触感評価システム200のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
はじめに、本実施形態の概要について説明する。
本実施形態の触感評価方法(以下、本方法と表示する場合がある)は、取得工程、抽出工程および評価工程を含む。取得工程は、皮膚表面または所定の剤を塗布した皮膚表面に対して接触させた指、手のひらまたは測定治具を皮膚表面から離れる方向へ動かすことにより発生する力学的な物理量を経時的に取得する工程である。抽出工程は、取得した物理量から時間に関する特徴量を1以上含む複数種類の特徴量を抽出する工程である。評価工程は、抽出した複数種類の特徴量に基づいて皮膚表面または所定の剤の触感パラメータを評価する工程である。
【0013】
本発明者らは、これまでの技術、例えば、特許文献1では、所定の剤を皮膚に塗布し、皮膚の評価対象部位に所定の力を加え、そのときの力学応答特性を計測し、計測した値に基づき、所定の剤が塗布された皮膚の感触を評価していた。すなわち、計測された力学応答特性の値そのものに着眼し評価を行っていた。しかし、研究を進めたところ、計測された力学的な物理量から抽出できる複数種類の特徴量を用いることで、被験者の皮膚表面の触感を客観的に評価できるとの見識に至った。
そこで、本方法においては、皮膚表面または所定の剤を塗布した皮膚表面に対して接触させた指、手のひらまたは測定治具を皮膚表面から離れる方向へ動かすことにより発生する力学的な物理量を経時的に取得し、取得した物理量から時間に関する特徴量を1以上含む複数種類の特徴量を抽出し、抽出した複数種類の特徴量に基づいて皮膚表面または前記所定の剤の触感パラメータを評価する。
【0014】
以下、本方法について更に詳細に説明する。
【0015】
本方法の皮膚表面とは、ヒトの皮膚表面や人工皮膚の表面である。また皮膚表面とは素肌の皮膚のほか、後述する所定の剤が素肌の上に塗布された皮膚の表面も含む。すなわち皮膚表面に指や手のひら等を接触させるとは、指や手のひら等が素肌に直接接触する場合のほか、皮膚に塗布された所定の剤の塗布膜を介して素肌に間接的に指や手のひら等で接触する場合を含む。ヒトの皮膚表面の位置、すなわち、体の部位は問わない。所定の剤の触感を評価する場合は、皮膚表面に例えばイボやにきび跡のような凹凸がない部分を評価対象とすることが好ましい。これは、皮膚表面に指を接触した際の触感が所定の剤によるものなのか、皮膚表面の形状によるものなのか評価し難いためである。ただし、例えば、凹凸のある皮膚に所定の剤を塗布したことにより凹凸がカバーされたかどうか(皮膚表面がフラットになったかどうか)を触感により評価したい場合は、これに限らない。評価したい条件に合わせ、評価対象の皮膚表面を決定することが望ましい。また、人工皮膚とは、人工的に皮膚の表面を模擬したものであり、ヒトの皮膚に似た性状を有するものである。本実施形態では、特段の記載がない限り、皮膚表面とは、ヒトの顔の皮膚表面、とくに、頬付近とする。
所定の剤とは、皮膚表面に塗布する皮膚外用剤、化粧料、シート状のスキンケア化粧料が挙げられ、たとえば、ローション、乳液、クリーム、美容液、マッサージ、パック、リップクリーム、アイケアシート、口元シート、パックマスク、シート状ローション、シート状メイク落とし等のスキンケア化粧料;ファンデーション、化粧下地、液状ファンデーション、油性ファンデーション、パウダーファンデーション、コンシーラー、コントロールカラー、アイシャドウ、頬紅、口紅、リップグロス、リップライナー、ボディのデコルテ用等のメイクアップ化粧料;日やけ止め乳液、日やけ止めジェル、日焼け止めクリームなどの紫外線防御化粧料が挙げられ、特にこれらに限定されるものではない。
皮膚表面に対して接触させた指20、手のひら、または測定治具には、詳細は後述するが、図1に示すセンサ30が装着されている。皮膚表面に対して接触させる指20は、指20のどの位置でもよいが、指腹で触感を確認することが多いため、指腹が好ましい。皮膚表面の触感を確認する際には、指だけでなく手のひら全体を接触させて確認することもあるため、手のひらを皮膚表面に対して接触させてもよい。また、測定治具とは、指と同様に皮膚表面に対して接触させる治具である。測定治具のうち皮膚表面に接触させる部分の構造は限定されないが、当該部分を人工皮膚で構成することで、人が指や手のひらで皮膚表面を触ったときに近い物理量を測定することが可能となる。
【0016】
指20、手のひら、または測定治具を動かす方向である皮膚表面から離れる方向とは、皮膚表面に対して、外向き略垂直方向のことである。本方法では皮膚表面の触感を評価するため、皮膚表面に対し内向き略垂直方向、すなわち、押し込みの方向は含んでもよいし、その力は目的によって変えてもよい。なお、本実施形態においては、皮膚表面上で指20、手のひら、または測定治具を水平方向にのみ動かすこと、すなわち、皮膚表面をもっぱら擦るように動かすことは含まないものとする。言い換えると、指20、手のひら、または測定治具は皮膚表面に対して外向き略垂直に移動させることが好ましく、皮膚表面に対して水平方向の動きを伴いつつ外向き略垂直に移動させてもよい。
また、皮膚表面に指20や手のひらを接触させ移動する際に、1本の指を接触させ移動する、同時に複数本の指を接触させ同時に複数本の指を移動する、複数本の指を順に接触させ、順に移動する、同時に指と手のひらを接触させ、同時に移動する、指を接触させた後、手のひらも接触させるなど、何れでもよい。
【0017】
力学的な物理量とは、力学的に生じる力の量であり、弾性力の大きさ、皮膚の変位に起因して生じる電流量、電圧値、振動量などが例示される。本方法において評価する皮膚表面の触感は、べたつき感、さっぱり感、しっとり感のように、皮膚表面に指や手のひらなどを接触させることによる触感であり、冷たさや温かさなどの熱的な感覚は評価対象でないため、取得する物理量には熱的な特徴のみを示す物理量は含まないものとする。
【0018】
時間に関する特徴量とは、経時的に取得した物理量に対し、時間に関する特徴量であり、例えば、物理量の立ち上がり時から最大強度となるピーク時までの時間(第一時間)、物理量の前記ピーク時から立ち下がり時までの時間(第二時間)、物理量の最大強度の半値幅である時間(第三時間)、立ち上がり時から立ち下がり時までの全長である時間(第四時間)、物理量の立ち上がり時から当該物理量が平均値になるまでの時間(第五時間)、第一時間から第五時間のいずれか一以上を用いて演算された時間(演算時間)などである。また、取得した物理量から抽出する特徴量には、時間に関する特徴量の他、例えば、取得した信号の最大強度などがある。
特徴量を抽出するとは、取得した物理量から所定の特徴量を抽出するだけでなく、抽出した特徴量に対し所定の演算を施すことも含むこととする。また、物理量の「強度」および「最大強度」とは、取得した波形信号(物理量)の絶対値およびその絶対値が最大であるピーク強度を指している。したがって、後述する図5のように取得した波形信号(物理量)の値が負である場合、当該波形信号(物理量)の最大強度は同図のグラフの最下端の点を指す。
【0019】
皮膚表面の触感とは、皮膚表面に接触させた指を皮膚表面から離れる方向に動かしたときに皮膚表面を触ったことによる感覚のことであり、例えば、べたつき感、さっぱり感、しっとり感、ねっとり感、うるおい感、乾燥感、はり感、弾力感、硬軟感、すいつき感、もちもち感、ふっくら感などであるが、皮膚表面に接触させた指を皮膚表面から離すことで生じる触感であればこれに限るものではない。ここで、「べたつき感」とは、皮膚表面に指を接触させた際に、べたべたと指に粘着してくっつく感じを指している。「さっぱり感」とは、皮膚表面に指を接触させた際に、くっつく感じがなく、スムーズで清々した感じを指している。「しっとり感」とは、皮膚表面に指を接触させた際に、少し湿ったなめらかな感じを指している。「ねっとり感」とは、皮膚表面に指を接触させた際に、少し指が付着するような感じを指している。「うるおい感」とは、皮膚表面に指を接触させた際に、適度な湿り気がある感じを指している。「乾燥感」とは、皮膚表面に指を接触させた際に、かさかさした感じを指している。「はり感」とは、皮膚表面に指を接触させた際に、皮膚がぴんと硬直した感じを指している。「弾力感」とは、皮膚表面に指を接触させた際に、しずむ感じがなく跳ね返す感じを指している。「硬軟感」とは、皮膚表面に指を接触させた際に、皮膚の変形度合いが生じる程度の感じを指している。「すいつき感」とは、皮膚表面に指を接触させた際に、指が密着するような感じを指している。「もちもち感」とは、皮膚表面に指を接触させた際に、指が少し密着し跳ね返される感じを指している。「ふっくら感」とは、皮膚表面に指を接触させた際に、やや弾力性があってくっつく感じがなく、清々した感じを指している。
所定の剤の触感とは、皮膚表面に所定の剤を塗布した際の剤自体の触感、または、剤を塗布した皮膚表面の触感のことであり、例えば、べたつき感、さっぱり感、しっとり感、ねっとり感、うるおい感、乾燥感、はり感、弾力感、すいつき感、もちもち感、ふっくら感などである。なお、各感覚については上記した通りである。
触感パラメータとは、触感(例えば、べたつき感、さっぱり感、しっとり感、ねっとり感、うるおい感、乾燥感、はり感、弾力感、すいつき感、もちもち感、ふっくら感)およびその度合いのほか、これらの触感を生み出す物性およびその度合いを含むものとする。ここで、触感を生み出す物性としては、皮膚表面の粘着性や水分量、皮膚表面または皮膚内部組織の弾性、粘弾性などである。「粘着性」とは、皮膚表面がねばりつくことであり、所定の剤や皮脂・汗、汚れなどにより生じる。「水分量」とは、皮膚表面に存在する水分であり、所定の剤や汗などにより生じる。また、皮膚内部組織(例えば、真皮)に含まれる水分の量を指している。「弾性」とは、皮膚の硬さであり皮膚内部組織(例えば、コラーゲン)に影響する。「粘弾性」とは、皮膚に力を加えたときにどのような速度で変形が進行するかを指すものであり、皮膚内部組織(例えば、角層)に含まれる水分量に影響する。
触感パラメータを評価するとは、皮膚表面の触感の評価、または、当該触感を生み出す物性の評価を指している。評価するとは、抽出した特徴量を単軸または多軸にプロットし、プロットした位置により定量的に評価することだけでなく、抽出した特徴量を所定の基準値と比較評価することや、評価の目的とする感覚量との相関関係を検量線などを用いて評価することなども含まれる。
【0020】
<物理量の計測方法>
まず、顔の表面(皮膚表面)に対して接触させた指20、手のひらまたは測定治具(図示しない)を顔の表面(皮膚表面)から離れる方向へ動かすことにより発生する物理量の計測方法について図1を用いて説明する。
図1に示すように、演算装置10、指20、および、センサ30によって被験者の皮膚表面の触感について計測する。演算装置10は、キーボード、ポインティングデバイスなどの入力装置、演算処理装置、記憶部等を備えている。
図1に示すように、指20にはセンサ30が装着されている。指20、特に指腹(以下、指腹の場合も指という)で顔の表面(皮膚表面)を触り、触った指20を移動させると指皮膚に振動や変形が生じ、センサ30はこの振動や変形を検知し、電気信号として演算装置10に出力する。触感の違いにより指皮膚に生じる振動や変形が異なるため、触感の違いにより出力される電気信号も異なる。この出力される電気信号が本発明の「力学的な物理量」に相当し、当該電気信号を経時的に取得している。なお、センサ30として、例えば上掲の非特許文献1に記載のデバイスなどが挙げられるが、これに限られない。センサ30は、指20で触ったことにより生じる力学的な物理量を取得できればよく、例えば、顔の表面に接触させた指20を離すことにより生じる加速度や力を取得可能なセンサ(多軸センサ、力センサ)でもよい。経時的に物理量を取得するとは、当該物理量を示すアナログ情報(本実施形態では電気信号)をセンサ30が所定時間に亘って連続的に取得する態様のほか、ミリ秒オーダーまたはサブミリ秒オーダーなどの短時間の間隔ごとに多数回に亘ってセンサ30が当該物理量をデジタル情報として取得する態様を含む。センサ30が当該物理量をアナログ情報として連続的に取得した場合、演算装置10は当該アナログ情報をミリ秒オーダーまたはサブミリ秒オーダーなどの所定の短時間の間隔ごとにサンプリングして離散化するとよい。
図1に示したように、センサ30を装着した指20を顔の表面(皮膚表面)に接触させ、顔の表面(皮膚表面)から離れる方向に指20を動かす、タップ動作を行う。指20は所定周期で複数回、タップ動作を繰り返してもよい。
なお、本実施形態では、センサ30を指20に装着し、顔の表面(皮膚表面)に対して接触させた指20を顔の表面(皮膚表面)から離れる方向へ動かすことにより発生する物理量を測定したが、測定治具を用いて計測する際は、図1の指20に替えて測定治具(図示しない)にセンサ30を設け、当該測定治具を顔の表面(皮膚表面)に対して接触させ、顔の表面(皮膚表面)から離れる方向へ動かすことにより、発生する物理量を同様に測定することが可能となる。また、測定治具を顔の表面に接触させ動かすことにより測定する場合は、動かし方が均一となるように、測定治具の動きを所定の装置(図示しない)を用いて制御してもよい。
【0021】
<触感評価方法の概要>
図2を用いて、触感評価方法の概要について説明する。
工程(ステップS100)は、力学的な物理量を取得する工程である。
図1に示したように、被験者の顔の表面(皮膚表面)をセンサ30を装着した指20で触る。触り方としては、指20を顔の表面に接触させ、顔の表面から離れる方向に動かす、タップ動作が好ましい。指20を顔の表面に対し押し込むように接触するか否かは評価目的に応じて決めればよい。押し込むように接触しない方が皮膚表面のみの情報による評価に必要な物理量を取得することができる。また、複数回、同様にタップし、複数回分の力学的な物理量を取得してもよい。
【0022】
工程(ステップS110)は、ステップS100で取得した力学的な物理量から複数種類の特徴量を抽出する工程である。詳細は後述するが、抽出する特徴量は時間に関する特徴量を含むものとする。また、ステップS100で指20を顔の表面に複数回タップし、複数回分の力学的な物理量を取得した場合は、何れか1回分を特定し、当該1回分の力学的な物理量から複数種類の特徴量を抽出してもよいし、複数回分の力学的な物理量の平均的な1回分の物理量から複数種類の特徴量を抽出してもよい。本実施形態では、1回分の力学的な物理量から複数種類の特徴量を抽出することとする。
【0023】
工程(ステップS120)は、ステップ110で抽出した複数種類の特徴量を用いて、皮膚表面または所定の剤の触感パラメータを評価する評価工程である。詳細は後述するが、被験者の顔の表面に所定の剤を塗布していなければ、すなわち、素肌であれば、皮膚表面の触感パラメータを評価し、所定の剤を塗布した被験者の顔の表面であれば、所定の剤の触感パラメータまたは所定の剤を塗布した皮膚表面の触感パラメータを評価する。
【0024】
<力学的な物理量について>
本実施形態においては、所定の剤として、さっぱりタイプの剤、しっとりタイプの剤、べたつきタイプの剤をそれぞれ塗布した顔の表面(皮膚表面)の触感パラメータについて評価する。
図3に示すように、指20を所定の剤50が塗布された顔の表面40に接触させ(図3-(1)参照)、顔の表面40から離れる方向に指20を動かすと顔の表面40と指20の間には、指20に付着した所定の剤50による液架橋が形成され液架橋力が生じ(図3-(2)参照)、これにともない、指20の皮膚に張力がかかる。そして、液架橋力が最大となり(図3-(3)参照)、その後、所定の剤50による液架橋が指20から離れることにより、指20の皮膚にかかっていた張力がかからなくなる(図3-(4)参照)。このときの指20の皮膚に生じた張力の変化により生じる皮膚の変形や振動の変化をセンサ30によって検出し、信号出力することにより力学的な物理量を取得する。
本実施形態では、所定の剤を塗布した顔の表面の触感パラメータについて評価するが、所定の剤が塗布されていない素肌の場合でも、皮脂や汗など、指20と顔の表面40との間に存在する物質の特性を分析することで、所定の剤が塗布されていない皮膚表面(素肌)の触感パラメータについて評価することができる。
【0025】
図4(a)に、それぞれのタイプの剤を塗布したときに取得した測定波形を、図4(b)に、図4(a)の波形に対し評価に適した時間領域を抽出した測定波形を示す。
図4(a)の横軸は、顔の表面40に接触した指20を離し始めてから完全に離れるまでの経過時間を示し、縦軸はセンサ30で取得した信号強度(電圧)を示している。また、さっぱりタイプの剤を塗布した場合に取得された信号を薄黒線で示し、同様に、しっとりタイプの剤の場合を細線で、べたつきタイプの剤の場合を太い黒線で示している。
図4(a)の波形は、顔の表面に接触した指20を離し始めてから完全に離れるまでの経過時間であるため、指20の動かし方により、波形の開始および終了部分には評価に適さない信号波形も含まれるため、図4(b)に示す評価に適した時間領域の信号波形を抽出して評価を行った。
ここで、図4(b)に示される評価に用いる物理量を示す波形を分析すると、べたつきタイプの剤を塗布した場合は、他のタイプの剤より最大強度が大きいことが分かる。しっとりタイプの剤とさっぱりタイプの剤の最大強度は、べたつきタイプの剤に比べ、近似した値であることがわかる。また、剤のタイプによって信号強度の立ち上がりから最大強度となるまでの時間が異なることがわかる。
このように、取得した物理量の最大強度を評価するだけでも、剤のタイプの違い、すなわち、触感の違いを評価できるが、最大強度を評価するだけでは、例えば、物理量の経時的変化に伴う評価は行えない。しかし、図4(b)より、触感の違いと物理量の経時的変化には関係性があることはわかるため、この関係性を評価することで、皮膚表面または所定の剤の触感を定量的に評価することした。
【0026】
<複数種類の特徴量の抽出例1>
本実施形態において、取得した力学的な物理量から抽出した複数種類の特徴量について説明する。
図5は、図4に示した信号波形のうち、べたつきタイプの剤を塗布した場合に取得された信号波形のみを示したものである。べたつきタイプの剤を塗布した場合の信号波形を例に、抽出した特徴量について説明する。
抽出例1では、以下の特徴量について抽出した。
(1)取得する信号の立ち上がり時から最大強度となるピーク時までの時間(第一時間という)
(2)取得する信号強度のピーク時から立ち下がり時までの時間(第二時間という)
(3)取得する信号の最大強度の半値幅である時間(第三時間という)
(4)取得する信号強度の立ち上がり時から立ち下がり時までの全長である時間(第四時間という)
(5)取得する信号強度の立ち上がり時から信号強度が平均値になるまでの時間(第五時間という)
(6)取得する信号の最大強度
(7)第一時間から第五時間のいずれかを用いて演算された時間
抽出例1では、図5に示すように取得する信号の安定した範囲の始点を「立ち上がり時」、終点を「立ち下がり時」として特定した。ここで、抽出例1での「立ち上がり時」および「立ち下がり時」の特定方法の一例について説明する。取得する物理量の信号波形に対し、高周波フィルタを適用して高周波ノイズを除去する。高周波ノイズを除去した信号波形の中の最大強度を選択する。選択した最大強度を内包し、信号強度が実質ゼロになる両側(始点と終点)時刻を求めて、タッピングの1周期を切り出す。ここで、強度に対し、予め閾値を定めておく。閾値は、例えば、信号の最大強度に対し、10%の強度とすることができる。そして、最大強度の発生点から時刻を遡って(図5における左側に向かって)走査して予め定めた閾値より最初に低くなる瞬間を「立ち上がり時」とする。また、最大強度の発生点から時刻を進めて(図5における右側に向かって)走査して予め定めた閾値より最初に低くなる瞬間を「立ち下がり時」とする。このように特定した「立ち上がり時」および「立ち下がり時」に基づき各特徴量を抽出した。なお、閾値を最大強度に対し10%の強度としたが、最大強度に対する割合はこの値に限るわけではない。閾値は、最大強度に対する比率ではなく固定値として設定してもよい。
さらに、抽出例1では上記(1)から(7)に示した特徴量について抽出したが、この限りではない。例えば、取得する信号強度が平均値になってからピーク時になるまでの時間、第一時間と第二時間の比率、第五時間と取得する信号強度が平均値になってからピーク時になるまでの時間の比率、取得する信号の平均強度など、取得する信号の経時的変化タイミングに関わる時間および強度の特徴量などが挙げられる。
【0027】
抽出例1で抽出した特徴量を用いて行った評価について説明する。
(1)評価例1
抽出例1で抽出した特徴量のうち、第四時間と、第三時間と第四時間との比率とに基づき評価を行った。すなわち、触感の評価に用いられる複数種類の特徴量がいずれも時間に関する特徴量を用いて評価を行った。第三時間および第四時間は、接触させた指20を顔の表面から離す方向に動かした際に、顔の表面に塗布した所定の剤ののび方に影響する特徴量である。なお、本実施形態では、第三時間と第四時間との比率を(第四時間-第三時間)/第四時間で求めたが、これに限らず、第三時間と第四時間との比率が算出できればよく、例えば、第三時間/第四時間でもよい。
所定の剤を塗布した場合に取得された信号波形から抽出した特徴量を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
図6は、表1の特徴量について、横軸に第四時間を、縦軸に第三時間と第四時間との比率をプロットしたグラフである。比率が大きいほど、取得した物理量の最大強度の山が鋭く、剤ののびがよいタイプであるといえる。図6から明らかなように、所定の剤のタイプによって剤ののび方に違いがあることがわかった。特に、べたつきタイプは、第四時間が他のタイプの剤より短く、比率が大きい。また、例えば、図4に示した取得した物理量の波形では、しっとりタイプとべたつきタイプは、指20から剤が離れるタイミングは近い値であったが、しっとりタイプの剤ののび方はさっぱりタイプの剤ののび方に近いことがわかる。
このように、取得した物理量から抽出した時間に関する特徴量を含む複数種類の特徴量に基づき評価を行うと、取得した物理量を評価しただけではわからなかった経時的変化に伴う剤の特徴を評価できるため、皮膚表面または所定の剤の触感を定量的に評価することが可能となる。強度に関する特徴量の場合、タッピング速度、タッピング強度など、指20の皮膚表面の触り方によって抽出される値にばらつきが生じる。一方、触感パラメータの評価に用いられる複数種類の特徴量がいずれも時間に関する特徴量の場合、このようなばらつきを排除した値であるため、皮膚表面や剤の特性にフォーカスした評価ができる。その結果、被験者の皮膚表面の触感パラメータまたは所定の剤の触感パラメータを定量的に評価することが可能となる。
【0030】
上述した評価例1は、第四時間と、第三時間と第四時間との比率とに基づき評価を行った。すなわち、種類の異なる複数の時間項に基づき評価を行ったが、他の時間項でもよい。例えば、第二時間と、第三時間と第二時間との比率とに基づき評価を行ってもよい。第二時間は、指20に付着した所定の剤50が指20から離れ、指20の皮膚にはのびていた剤50が戻る際に生じる振動が生じる。このとき生じる振動は、剤の違いによる影響が大きく、指20の動かし方(動かす速さ)の影響を受けにくい値であるため、触感を評価するのに適した特徴量である。したがって、第二時間と、第三時間と第二時間との比率に基づき評価を行ってもよい。第二時間と、第三時間と第二時間との比率に基づき評価を行う場合も、複数種類の特徴量がいずれも時間に関する特徴量を用いて触感パラメータの評価を行うこととなる。
【0031】
(2)評価例2
図4に示した、物理量の経時変化を示す波形をヒストグラムとみなして(これを擬似ヒストグラムと呼ぶ)、各擬似ヒストグラムの歪度および尖度を算出し評価を行った。各擬似ヒストグラムから算出した特徴量を表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
図7は、表2に示した尖度を剤ごとにグラフにしたものである。図7から、べたつきタイプの剤の尖度は他のタイプの剤と比較し値が大きいため、べたつきタイプの剤の物理量は鋭いピークであることがわかる。
このように、取得した物理量から抽出した時間に関する特徴量を含む複数種類の特徴量に基づき評価を行うと、取得した物理量を評価しただけではわからなかった経時的変化に伴う剤の特徴を評価できるため、皮膚表面または所定の剤の触感パラメータを定量的に評価することが可能となる。
【0034】
<複数種類の特徴量の抽出例2>
図8は、図4に示した信号波形のうち、べたつきタイプの剤を塗布した場合に取得された信号波形のみを示したものである。べたつきタイプの剤を塗布した場合の信号波形を例に、抽出した特徴量について説明する。
抽出例2では、以下の特徴量について抽出した。
(1)取得する信号の立ち上がり時から最大強度となるピーク時までの時間(第一時間という)
(2)取得する信号の最大強度
(3)物理量の平均強度
(4)取得する信号強度の立ち上がり時から立ち下がり時までの全長である時間(第四時間という)
(5)取得する信号強度の立ち上がり時から信号強度が平均値になるまでの時間(第五時間という)
抽出例2での「立ち上がり時」および「立ち下がり時」の特定方法の一例について説明する。取得する物理量の信号波形に対し、高周波フィルタを適用して高周波ノイズを除去する。高周波ノイズを除去した信号波形の中の最大強度を選択する。選択した最大強度を内包し、信号強度がゼロになる両側(始点と終点)時刻を求めて、タッピングの1周期を切り出す。すなわち、最大強度の発生点から時刻を遡って(図8における左側に向かって)走査して0と交差する瞬間を「立ち上がり時」とする。また、最大強度の発生点から時刻を進めて(図8における右側に向かって)走査して0と交差する瞬間を「立ち下がり時」とする。このように特定した「立ち上がり時」および「立ち下がり時」に基づき各特徴量を抽出した。
なお、上記特徴量は、以下の評価例3で用いる特徴量のみ記載したものであり、評価内容によっては他の特徴量も抽出することはいうまでもない。また、抽出例1と同様に、取得する信号の安定した範囲の始点を「立ち上がり時」、終点を「立ち下がり時」として特定して切り出したタッピングの1周期を用いてもよい。複数回タッピングし、取得した物理量の信号波形や評価内容等に応じて、「立ち上がり時」および「立ち下がり時」の特定方法を決定すればよい。
【0035】
(3)評価例3
抽出例2で抽出した特徴量のうち、第一時間と第五時間との差分と、取得した信号の絶対値として最大ピーク強度とに基づき評価を行った。本実施形態では、抽出例2(1)~(5)で抽出した値を用いて、次のように算出した値を横軸に、取得した信号の最大強度(絶対値としての最大強度)を縦軸にプロットしてグラフを図9に示す。
本実施形態での横軸の値の算出方法について説明する。
最初に、第一時間と第五時間との差分を求める。このとき、符号は残したままとする。すなわち、図4から明らかなように、べたつきタイプの剤およびしっとりタイプの剤の波形信号は、第一時間と第五時間との差分は正値となり、さっぱりタイプの剤の波形信号は、第一時間と第五時間との差分は負値となる。そして、第一時間と第五時間との差分を第四時間で割ることで、解析対象として特定した期間に依存しない規格化された値となる。したがって、指20の皮膚表面の触り方(タップタイミング)に影響しない値によって評価することが可能となる。なお、第一時間と第五時間との差分を第四時間で必ずしも割る必要はなく、第一時間と第五時間との差分を横軸の値とできればよい。
図9から明らかなように、剤のタイプによってベクトル量が明らかに異なる。べたつきタイプの剤およびしっとりタイプの剤は、第一時間と第五時間との差分が正値であるため、信号が最大強度となる前に信号強度が平均値になり、さっぱりタイプの剤は、信号が最大強度のなった後に信号強度が平均値になることがわかる。したがって、取得した物理量の最大強度だけでは、さっぱりタイプの剤としっとりタイプの剤との違いが評価し難かったが、時間に関する特徴量を評価項目に含めることで、さらなる客観的な評価が可能となる。
【0036】
このようにして、取得した力学的な物理量から複数種類の特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づき皮膚表面または所定の剤の触感パラメータを評価することで、皮膚表面または所定の剤の触感パラメータを定量的に評価することが可能となる。
【0037】
<剤の評価方法について>
上述した触感評価方法では、経時的に取得した物理量から時間に関する特徴量を1以上含む複数種類の特徴量を抽出して、皮膚表面または所定の剤の触感パラメータについて評価した。皮膚表面に所定の剤を塗布し、当該塗布した皮膚表面を指20、手のひらまたは測定治具によってタップし、同様の工程を行うことで、塗布した剤の触感パラメータを評価できる、すなわち、剤の評価を行う剤の評価方法としても用いることが可能である。
【0038】
<触感評価システムについて>
図10を用いて、触感評価システム200について説明する。
本実施形態における触感評価システム200は、接触手段110、取得手段120、抽出手段130および評価手段140で構成される。また、各種の処理を実行可能な情報処理端末100を備え、当該情報処理端末100に、抽出手段130および評価手段140は備えられている。情報処理端末100は、キーボード、ポインティングデバイスなどの入力装置、演算処理装置、記憶部等を備えている。また、情報処理端末100には、表示手段150(表示装置)および音声出力手段160(スピーカ)を備えていることが好ましいが、情報処理端末100の外部に設けられ、ネットワークで接続されていてもよい。
【0039】
接触手段110は、顔の表面に接触させる指20、手のひらまたは測定治具である。
取得手段120は、図1に示した指20に装着したセンサ30を用いて、指20を動かすことにより生じた力学的な物理量を経時的に取得する手段である。センサ30で取得された力学的な物理量(電気信号)は、ネットワーク回線、媒体などを経由して情報処理端末100で取得できるように構成されている。
抽出手段130は、取得手段120で取得した力学的な物理量(電気信号)から時間に関する特徴量を含む複数種類の特徴量を抽出する手段である。抽出する複数種類の特徴量は、触感評価方法で上述したものと同様である。
評価手段140は、抽出手段130で抽出した特徴量を用いて、皮膚表面または所定の剤の触感パラメータを評価する手段である。被験者の顔の表面に所定の剤を塗布していなければ、すなわち、素肌であれば、皮膚表面の触感パラメータを評価し、所定の剤を塗布した被験者の顔の表面であれば、所定の剤の触感パラメータを評価する。評価内容は、触感評価方法で上述したものと同様である。評価手段140による評価結果は、表示手段150や音声出力手段160を用いて、評価者が把握しやすいようにすることが好ましい。
表示手段150は、評価手段140による評価結果、例えば、図6図7および図9に示したグラフを表示する手段である。表示手段150には、図6図7および図9に示したグラフの他、該当する触感を表した(触感に応じた)文字や態様などを表示することで、評価者が視覚的に把握しやすいようにしてもよい。文字の場合であれば、べたつきは「べたつき」、「べたべた」「べちょ」のようにべたつきを表すまたは想起する文字を表示する。態様の場合であれば、べたつきは、例えば、べたべたした肌画像やのりのようなべたついた状態の画像を表示してもよい。
音声出力手段160は、評価手段140による評価結果に基づき、該当する触感を表す音、イメージする音(触感に応じた音声)を出力するようにしてもよい。例えば、所定の複数の合成音を準備しておき、本実施形態で抽出した特徴量に応じて、合成音の種類や出力時間、出力音量を決定するようにしてもよい。また、所定の音変換関数を予め記憶しておき、本実施形態で抽出した特徴量を当該音変換関数に入力することにより、特徴量に応じた合成音を出力するようにしてもよい。
【0040】
<変形例>
本発明の実施は、上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形、改良等が可能である。
【0041】
本実施形態では、所定の剤を塗布した顔の表面の触感パラメータまたは剤の触感パラメータを評価した。同様の方法で所定の剤が塗布されていない皮膚表面(素肌)の触感パラメータを評価することもできる。皮膚表面(素肌)には、皮脂や汗などの物質が付着しており、指20を皮膚表面(素肌)に接触させ、離す方向へ動かす際に、皮膚表面に付着している物質の特性を分析することで皮膚表面(素肌)の触感パラメータについて評価することができる。
【0042】
上述した評価例1は、第四時間と、第三時間と第四時間との比率とに基づき評価を行った。すなわち、種類の異なる複数の時間項に基づき評価を行ったが、他の時間項でもよい。例えば、第一時間と第五時間とを抽出し、第一時間と第五時間との差分により評価を行ってもよい。第一時間および第五時間も所定の剤ののび方に影響される時間であるため、他の時間を用いた場合と同様に、取得した物理量を評価しただけではわからなかった経時的変化に伴う剤の特徴を評価できるため、皮膚表面または所定の剤の触感パラメータを定量的に評価することが可能となる。
【0043】
上述した評価例2は、擬似ヒストグラムから算出した尖度により評価を行ったが、擬似ヒストグラムから算出した歪度により評価を行ってもよい。剤の種類により、擬似ヒスとグラムの山の位置に特徴があるため、歪度により、擬似ヒストグラムの山がどのような位置にあるかを評価することで、触感パラメータを評価することができる。
【0044】
上述した、抽出例1で抽出した複数種類の特徴量のうち「第三時間」は、取得する信号の最大強度の半値幅とした。本実施形態での半値幅は図5に示したように、最大強度の50%以上の値をとる時間長としたがこれに限らず、25%以上の値をとる時間長を半値幅としてもよいし、75%以上の値をとる時間長を半値幅としてもよい。すなわち、本実施形態で説明する「半値幅」は、取得した物理量の経時変化を示す波形における最大強度となるピークの山の広がりの程度を示す指標であり、最大強度の50%以上の強度である時間長さに限らない。半値幅を設定するにあたり、ピークの極大値に対してどの程度の割合の強度までをピークの山に含めるかは任意である。この割合が低すぎるとピークの山の裾野部分が過剰に含まれるため、25%以上が好ましい。
【0045】
本実施形態では、触感パラメータの評価方法として、グラフ表示するほか、評価内容に応じた表示態様を表示すること、評価内容に応じた音声を出力することとした。しかし、これに限らず、例えば、所定の振動を発生する振動子(振動出力手段(図示しない))を設け、評価結果に応じた振動態様で振動子を振動させるようにしてもよい。このようにすることで、実際に皮膚表面を触った人以外の人にも評価した触感パラメータを体感させることができ、評価結果をより把握しやすくすることが可能となる。
【0046】
本実施形態では、指20を顔の表面に接触させる際に、指20を顔の表面に対し押し込むように接触せず皮膚表面の触感を計測した。しかし、これに限らず、指20を顔の表面に接触させる際に、皮膚表面に対し内向き略垂直方向、すなわち、押し込みの方向は含んでもよく、評価したい内容に応じて指20を顔の表面にどのように接触させるか決めればよい。押し込みの方向を含むことで皮膚内部の情報を含んだ評価を行うことができる。
【0047】
本実施形態では、所定の剤を塗布した後の皮膚表面の触感パラメータを計測したが、例えば、所定の剤を塗布した直後、30分後、1時間後のように複数回計測してもよい。このように複数回計測し、結果を比較することで、所定の剤の塗布後の時間経過に伴う皮膚表面の触感パラメータの変化を把握することができる。
【0048】
本実施形態では、顔の表面に所定の剤を塗布し、皮膚表面の触感を計測した。しかしこれに限らず、例えば、所定の剤を染み込ませたパックシートのようなスキンケア剤を顔の表面にのせて(貼り付けて)その触感パラメータを計測してもよい。このようにすることで、顔の表面にのせて(貼り付けて)使用する剤の使用時の触感パラメータを評価することができる。
コットンやシートに化粧水やメイク落としを染み込ませて使用する場合は、剤の染み込んだコットンやシートを指に巻き付けて使用することもある。この場合、剤の染み込んだコットンやシートを巻き付けた指を顔の表面に接触させ、所定の物理量を経時的に取得し、上述した内容と同様の評価を行うことで、剤の染み込んだコットンやシートを使用する際の触感パラメータを評価することもできる。また、所定の剤を染み込ませてなくても、例えば、油取り紙やペーパー、フィルムを巻き付けた指を顔の表面に接触させ、所定の物理量を経時的に取得し、上述した内容と同様の評価を行うことで、油取り紙やペーパーを使用する際の触感パラメータを評価することもできる。同様に、白粉やファンデーションを付着させたパフを使用する場合でも、指でパフを顔の表面に接触させ、同様の評価を行うことで、パフ使用時の触感パラメータを評価できる。
剤を使用する際の触感としては、剤を顔の表面に塗布した状態のほか、例えば、指で剤を取り(指に剤をのせ)当該指を顔の表面に接触させる際に生じる触感もある。剤をのせた指を顔の表面に接触させ、所定の物理量を経時的に取得し、上述した内容と同様の評価を行うことで、剤を指で塗布する際の触感パラメータを評価することもできる。
【符号の説明】
【0049】
10 演算装置
20 指
30 センサ
40 皮膚表面
50 剤
100 情報処理端末
110 接触手段
120 取得手段
130 抽出手段
140 評価手段
150 表示手段
160 音声出力手段
200 触感評価システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10