(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011497
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】超音波映像装置及び反射波のノイズ除去方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/06 20060101AFI20240118BHJP
G01N 29/32 20060101ALI20240118BHJP
G01N 29/44 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
G01N29/06
G01N29/32
G01N29/44
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113508
(22)【出願日】2022-07-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】大野 茂
(72)【発明者】
【氏名】北見 薫
(72)【発明者】
【氏名】菊川 耕太郎
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047AB05
2G047AC10
2G047BA03
2G047BB06
2G047BC03
2G047CA01
2G047DB03
2G047DB12
2G047EA10
2G047GG29
2G047GG35
2G047GG38
2G047GG41
2G047GH06
(57)【要約】
【課題】ノイズを除去した波形により画素化情報を生成することで、対象物の接合界面の高精度の画像情報を生成することができる超音波映像装置を提供する。
【解決手段】多層に積層されてなる対象物に超音波を照射して対象物の接合界面の反射波を取得して、反射波の信号強度に基づき接合界面の画像を生成する超音波映像装置100であって、対象物における第1の照射点からの第1の反射波に対する、対象物における第2の照射点からの第2の反射波の位相のずれを補正するマッチング処理部56と、第1の反射波と位相補正後の第2の反射波とに基づき第1の反射波からノイズを除去し、ノイズを除去した第1の反射波のうち接合界面からの波形を示す界面エコーの信号強度に基づき接合界面における界面エコーを返した部位の画素化情報を生成する画素化情報生成処理部(アベレージング処理部57)と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層に積層されてなる対象物に超音波を照射して前記対象物の接合界面の反射波を取得して、前記反射波の信号強度に基づき前記接合界面の画像を生成する超音波映像装置であって、
前記対象物における第1の照射点からの第1の反射波に対する、前記対象物における第2の照射点からの第2の反射波の位相のずれを補正するマッチング処理部と、
前記第1の反射波と位相補正後の前記第2の反射波とに基づき前記第1の反射波からノイズを除去し、ノイズを除去した前記第1の反射波のうち前記接合界面からの波形を示す界面エコーの信号強度に基づき前記接合界面における前記界面エコーを返した部位の画素化情報を生成する画素化情報生成処理部と、を有する
ことを特徴とする超音波映像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波映像装置であって、
前記マッチング処理部は、
前記第1の反射波の前記界面エコーの信号強度が所定の値を示す閾値以上の大きさを有する場合は、前記第1の反射波の前記界面エコーのピーク部の位相に前記第2の反射波の前記界面エコーのピーク部の位相一致させる処理を行い、
前記第1の反射波の前記界面エコーの信号強度が前記閾値以上の大きさを有しない場合は、前記第1の反射波の表面エコーのピーク部の位相に前記第2の反射波の前記表面エコーのピーク部の位相を一致させる処理を行う
ことを特徴とする超音波映像装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波映像装置であって、
前記画素化情報生成処理部は、前記第1の反射波と前記第1の反射波との位相の補正を施した前記第2の反射波を加算平均する
ことを特徴とする超音波映像装置。
【請求項4】
請求項1に記載の超音波映像装置であって、
前記マッチング処理部は、前記第2の照射点は、前記第1の照射点に隣接する照射点の中から定めた位置の照射点を1つ以上選択して設定する
ことを特徴とする超音波映像装置。
【請求項5】
多層に積層されてなる対象物に超音波を照射して前記対象物の接合界面の反射波を取得して、前記反射波の信号強度に基づき前記接合界面の画像を生成する超音波映像装置における反射波のノイズ除去方法であって、
前記対象物における第1の照射点からの第1の反射波と、前記対象物における第2の照射点からの第2の反射波とをマッチング処理により前記第1の反射波に対する前記第2の反射波の位相のずれを補正する位相補正ステップと、
前記第1の反射波と、前記位相補正ステップにより位相補正後の前記第2の反射波とに基づいて前記第1の反射波からノイズを除去するノイズ除去ステップと、を有する
ことを特徴とする反射波のノイズ除去方法。
【請求項6】
請求項5に記載の反射波のノイズ除去方法であって、
前記第1の反射波の接合界面からの波形を示す界面エコーの信号強度が所定の値を示す閾値以上の大きさを有する場合は、前記マッチング処理において、前記第1の反射波の前記界面エコーのピーク部の位相に前記第2の反射波の前記界面エコーのピーク部の位相一致させる処理を行い、
前記第1の反射波の前記界面エコーの信号強度が前記閾値以上の大きさを有しない場合は、前記マッチング処理において、前記第1の反射波の表面エコーのピーク部の位相に前記第2の反射波の前記表面エコーのピーク部の位相を一致させる処理を行う
ことを特徴とする反射波のノイズ除去方法。
【請求項7】
請求項6に記載の反射波のノイズ除去方法であって、
前記ノイズ除去ステップにおいて、前記第1の反射波と前記マッチング処理により前記第1の反射波との位相の補正を施した前記第2の反射波を加算平均する
ことを特徴とする反射波のノイズ除去方法。
【請求項8】
請求項5に記載の反射波のノイズ除去方法であって、
前記マッチング処理において、前記第2の照射点は、前記第1の照射点に隣接する照射点の中から予め定めた位置の照射点を1つ以上選択して設定する
ことを特徴とする反射波のノイズ除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波映像装置及び反射波のノイズ除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波映像装置は、プローブから検査対象物(被検体)に超音波を照射し、その反射波を受信して対象界面を映像化する。検査対象物に超音波の送受信を繰り返して行う超音波検査装置において、対象波形を鮮明化する方法として、類似の反射波により平均化してノイズを除去する方法が提案されている。
【0003】
特許文献1には、検査対象物への超音波の送信を繰り返して行う超音波送信部と、超音波送信部から送信され且つ検査対象物を伝搬した検査対象超音波の受信を繰り返して行う超音波受信部と、超音波送信部による超音波の送信の繰り返し間隔を設定する繰り返し間隔設定部であって、超音波送信部による超音波の送信を繰り返す毎に、該繰り返し間隔を一定のシフト量ずつ増加または減少させる繰り返し間隔設定部と、超音波受信部で受信が繰り返して行われた検査対象超音波を、超音波送信部による超音波の送信開始タイミングを同期させて平均化する平均化処理部と、を備え、シフト量は、検査対象超音波に重畳する残響成分の、平均化処理部による平均化前後での比の絶対値を表す指標が最小または所定値以下となる条件を満たす値である、超音波検査装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された技術においては、ジッター(時間軸方向のゆらぎ)の影響が考慮されていない。超音波映像装置においては、超音波を対象物に照射してその反射波を取得するが、これらの反射波は、ジッターによって位相のずれが生じる。位相のずれが生じた状態で平均化した場合、必用な波形の信号強度が弱められるおそれがある。その結果、見つけるべき欠陥を見逃すという問題を生じる。
【0006】
本発明は、前記課題に鑑みなされたものであって、ノイズを除去した波形により画素化情報を生成することで、対象物の接合界面の高精度の画像情報を生成することができる超音波映像装置及び反射波のノイズ除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の超音波映像装置は、多層に積層されてなる対象物に超音波を照射して前記対象物の接合界面の反射波を取得して、前記反射波の信号強度に基づき前記接合界面の画像を生成する超音波映像装置であって、前記対象物における第1の照射点からの第1の反射波に対する、前記対象物における第2の照射点からの第2の反射波の位相のずれを補正するマッチング処理部と、前記第1の反射波と位相補正後の前記第2の反射波とに基づき前記第1の反射波からノイズを除去し、ノイズを除去した前記第1の反射波のうち前記接合界面からの波形を示す界面エコーの信号強度に基づき前記接合界面における前記界面エコーを返した部位の画素化情報を生成する画素化情報生成処理部と、を有することを特徴とする。本発明のその他の態様については、後記する実施形態において説明する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ノイズを除去した波形により画素化情報を生成することで、多層に積層されてなる対象物の接合界面の高精度の画像情報を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る超音波映像装置の構成を示す図である。
【
図2】反射波である界面エコーとノイズを示す図である。
【
図3】照射点配置図であり、第1の照射点と第2の照射点の配置を示す図である。
【
図6】反射波のノイズ除去処理を示すフローチャートである。
【
図7】アベレージング処理後の波形データを示す図である。
【
図8】アベレージング処理前の画像を示す図である。
【
図9】アベレージング処理後の画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を実施するための実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る超音波映像装置100の構成を示す図である。
図2は、反射波である界面エコーとノイズを示す図である。超音波映像装置100は、多層積層された半導体など、多層に積層されてなる対象物の接合界面の欠陥を見つけるのに使用される。
【0011】
超音波映像装置100は、制御部50とスキャナ部70(メカ部)と超音波プローブ20を含んで構成する。超音波映像装置100は、対象物の検査範囲に、プローブを介して予め定めた間隔で設定した照射点に超音波を照射してその反射波を取得し、該反射波の中から検査対象とする接合界面の波形を示す界面エコーを抽出し、該界面エコーの信号強度を正の整数値(0~255)に変換して画素化情報を生成する処理を全ての照射点または特定の照射点に施し、生成した照射点の画素化情報に基づき接合界面の画像を生成して欠陥を見つけ出す。
【0012】
しかしながら反射波には、
図2の波形データ31に示すように、表面エコーや界面エコーの他に、電気ノイズなどのノイズが重畳することがある。これらのノイズは、界面エコーの画素化情報を生成する際に影響することから、できるだけノイズを除去することが必要である。
【0013】
図1に戻り、超音波プローブ20は、当該超音波プローブ20の走査位置を検知するエンコーダ21と、電気信号と超音波信号とを相互に変換する圧電素子22とを備えている。圧電素子22は、単一焦点型の超音波センサである。
【0014】
制御部50は、超音波プローブ20の走査位置を制御する走査制御部51と、超音波の送受信を制御する送受信制御部52と、アベレージング処理部57で生成した画素化情報に基づいて超音波画像を生成する画像生成部53と、被検体15(対象物)における第1の照射点からの第1の反射波に対する被検体15における第2の照射点からの第2の反射波の位相のずれを補正するマッチング処理部56と、第1の反射波と位相補正後の第2の反射波とに基づき第1の反射波からノイズを除去し、ノイズを除去した第1の反射波のうち接合界面からの波形を示す界面エコーの信号強度に基づき接合界面における界面エコーを返した部位の画素化情報を生成するアベレージング処理部57(画素化情報生成処理部)と、記憶部58と、送受信部60等を備えている。なお、第1の照射点、第2の照射点については、
図3を参照して後記する。アベレージング処理についても、説明は後記する。
【0015】
送受信部60は、図示しないが、発信器と、超音波プローブ20が受信した受信信号を増幅するアンプと、当該受信信号をアナログ信号からデジタル信号に変換するA/D変換器と、当該受信信号を信号処理する信号処理部等を備えている。
【0016】
走査制御部51は、メカ制御装置77と入出力可能に接続されている。走査制御部51は、メカ制御装置77、X軸スキャナ71、Y軸スキャナ72及びZ軸スキャナ73によって超音波プローブ20の走査位置を制御すると共に、メカ制御装置77から超音波プローブ20の現在の走査位置情報を受信する。
【0017】
メカ制御装置77の出力側は、X軸スキャナ71、Y軸スキャナ72及びZ軸スキャナ73に接続されている。メカ制御装置77には、超音波プローブ20のエンコーダ21の出力側が接続されている。メカ制御装置77は、エンコーダ21の出力信号によって、超音波プローブ20の走査位置を検知し、X軸スキャナ71、Y軸スキャナ72及びZ軸スキャナ73によって、超音波プローブ20が指示された走査位置になるように制御する。メカ制御装置77は、走査制御部51から超音波プローブ20の制御指示を受けると共に、超音波プローブ20の走査位置情報を応答する。
【0018】
圧電素子22は、圧電膜の両面にそれぞれ電極が取り付けられているものであり、酸化亜鉛(ZnO)、セラミックス、フッ素系共重合体等で構成される。圧電素子22は、両電極間に電圧が印加されることにより、当該圧電膜から超音波を送信する。さらに圧電素子22は、当該圧電膜が受信したエコー波(受信波)を、前記両電極間に発生する電圧である受信信号に変換する。
【0019】
水槽10内には水11が注入されており、当該水11中に被検体15が水没状態で置かれている。水槽10内の水11は、超音波プローブ20(超音波探触子)の下端の開口面から放射された超音波を、被検体15の内部に効率良く伝播させるために必要な伝播媒体である液状物質である。被検体15は、例えばウエハ、多層構造(または積層構造)等を含む半導体パッケージである。
【0020】
超音波プローブ20は、水槽10に満たされた水11に浸漬され、被検体15の上部Z方向に所定の距離を於いて対向するように配置されている。
【0021】
スキャナ部70によって超音波プローブ20をXYZ方向に自在に移動させることができる。例えば、超音波プローブ20は、超音波を被検体15に照射しながら、所定の速度で被検体15の始点(一方端点)から終点(他方端点)まで、X軸方向にスキャンする。超音波プローブ20が終点に到達すると、Y軸方向にプローブを所定量移動させ、所定の速度で反対方向に、視点から終点までX軸方向にスキャンする。
【0022】
この移動動作に基づいて、超音波プローブ20は被検体15の表面における予め定められた測定範囲を走査し、超音波を送信し、測定範囲内において予め設定された複数の測定点で反射エコー波を受信し、当該測定範囲に含まれる内部構造の欠陥を映像化して検査することができる。
【0023】
本実施形態での反射波のノイズ除去処理は、
図1に示すように、マッチング処理部56での処理(マッチング処理)と、アベレージング処理部57での処理(アベレージング処理)との2段階で処理しているのが特徴である。
【0024】
図1のアベレージング処理部57において、複数の照射点で得た反射波を加算し、加算した照射点の数で除する加算平均の方法(詳細は後記)によりノイズを除去する(ノイズ除去ステップ)。ノイズは、それぞれの反射波において時間的に無相関でランダムに発生しているが、界面エコーは同一時間で取得することとなる。従って、これらの反射波を加算すると、界面エコーはn倍(nは加算した照射点の数)となり、ノイズは小さくなることを利用するものである。そして、これらの結果を平均化することで、界面エコーが鮮明となる。
【0025】
図3は、照射点配置図であり、第1の照射点と第2の照射点の配置を示す図である。
図3においては、画素化情報を求める照射点(画素化照射点)を第1の照射点として●で示し、それ以外の照射点(非画素化照射点)を第2の照射点として○で示している。本実施形態においては、アベレージング処理により、次のように加算及び平均化処理を行う。
【0026】
制御部50は、アベレージング処理に用いる第2の照射点を、第1の照射点に隣接する中から1つ以上選択して設定する。隣接する照射点を用いて鮮明化の効果が得られるのは加算する反射波同士が類似の性質を持つためである。すなわち、超音波映像装置100では、多くの場合、スキャナの走査ピッチは、超音波の焦点サイズに対して小さくなるよう設定される。その結果、1ピッチの違いによる取得反射波の違いはごく僅かとなる。加算する反射波同士の性質が類似していると、加算によりお互いを相殺することはない。一方時間的にランダムなノイズは加算により小さくなるため、鮮明化の効果が得られる。実施形態では、
図3においてP0を第1の照射点とした場合、アベレージング処理に用いる第2の照射点をP1からP8の中から1つ以上選択する。なお、選択する個数は、多いほど鮮明な画素化情報を得ることができるが、処理時間も長くなることから、全体の処理時間を考慮して設定することとなる。
【0027】
図4は、アベレージング処理(ノイズ除去処理)の例を示す図である。例えば、第1の照射点(P0)と隣接する8個の第2の照射点(P1からP8)によるアベレージング処理は、次のように行う。P0及びP1からP8における反射波を、時間軸の値(反射波を取得時刻を基準とする時刻)と信号強度の時系列データ(時刻、信号強度)として、記憶部58(
図1参照)に記憶する。同一時刻におけるP0の時系列データの信号強度とP1からP8までの時系列データの信号強度を加算し、その値を加算した照射点の数(第1の照射点の数と第2の照射点の数の和)である9で除して平均化する。この処理を該時系列データ内のすべての時刻の信号強度に施し、ノイズを除外して第1の照射点の反射波の界面エコーを鮮明化し、信号強度を得る。
【0028】
本実施形態におけるアベレージング処理について前記したが、実際の処理においては、時間的要素を考慮する。つまり、時間軸方向のゆらぎであるジッターによる影響を対策する必要がある。対象物に超音波を照射して取得する反射波には、波形の時間軸方向に微小な変動が発生する。つまり、これらの時間軸の微小変動は、それぞれの反射波固有のものであるので、画素化照射点からの反射波を基準とした場合、アベレージング処理に用いる非画素化照射点からの反射波は位相のずれを生じることとなる。位相のずれが生じたままアベレージング処理を行うと、画素化情報を生成すべき界面エコーの波形がうまく加算されない事象が生じることとなる。
【0029】
図5は、マッチング処理の例を示す図である。波形データ32はマッチング処理を施す前の波形であり、波形データ33はマッチング処理を施した後の波形である。本実施形態では、
図5に示すマッチング処理により対策する。画素化照射点からの反射波をテンプレート信号として、該テンプレート信号に非画素化照射点からの反射波の位相を合わせる。具体的には、テンプレート信号の中の対象接合界面からの界面エコーのピーク部に、アベレージング処理の対象とする非画素化照射点からの反射波の中の対象接合界面からの界面エコーのピーク部を合わせるように時間軸の位置を調整し、位相のずれをなくす。
【0030】
しかしながら、この方法では、対象接合界面からの界面エコーの信号強度が十分に大きい場合には対処できるが、該信号強度が小さな場合には、対象とする界面エコーを抽出するのが難しい。従って、その場合には、反射波の中で最初に抽出できる表面エコーを使用する。つまり、アベレージング信号の表面エコーのピーク部にアベレージング処理の対象とする非画素化照射点からの反射波の中の表面エコーのピーク部を合わせるように時間軸の位置を調整し、位相のずれをなくす。
【0031】
なお、マッチング処理において、対象接合界面からの界面エコーを使用するか表面エコーを使用するかは、該界面エコーの信号強度が予め設定したしきい値以上か否かで決定する。該界面エコーの信号強度が予め設定したしきい値以上の場合は界面エコーを用いてマッチング処理を行い、該界面エコーの信号強度が予め設定したしきい値より小さい場合は表面エコーを用いてマッチング処理を行う。該しきい値は、実験により適切な値を設定する。なお、
図1に示すように、マッチング処理はアベレージング処理の前処理として行う。
【0032】
図6は、反射波のノイズ除去処理を示すフローチャートである。制御部50は、まず、第2の照射点の個数と位置を決定し、第2の照射点を選定する(処理S51)。制御部50は、全ての第1の照射点の処理が終了したか否かを判定し(処理S52)、全ての第1の照射点の処理が終了していない場合(処理S52,No)、処理S53に進み、全ての第1の照射点の処理が終了している場合(処理S52,Yes)、処理S57に進む。
【0033】
制御部50は、照射する位置にプローブを合わせ、対象物に対して超音波送受信し(処理S53)、反射波を時系列データとして記憶部58に記憶する(処理S54)。そして、制御部50は、第1の反射波と第2の反射波をマッチング処理し(処理S55)、その後、アベレージング処理をし(処理S56)、処理S52に戻る。
【0034】
処理S57において、全ての第1の照射点における画像生成処理をする。具体的には、鮮明化した界面エコーの信号強度を正の整数値に変換することで画素化情報を生成する。これらの処理を、対象物の検査範囲の全域に繰り返して施し、接合界面を画像化する。
【0035】
処理S54において、超音波を対象物に照射し、全ての第2の照射点が第1の照射点の前側に位置する場合には、第1の照射点に対する超音波の送受信処理が終了した時点において、第2の照射点に対してマッチング処理を施し、次にアベレージング処理を施す。
【0036】
なお、第2の照射点が第1の照射点の後にも位置する場合には、関連するすべての第2の照射点に対する超音波の送受信処理が終了した時点でマッチング処理とアベレージング処理を施すことになる。
【0037】
図7は、アベレージング処理後の波形データ31Aを示す図である。
図7には、
図2に記載した波形データ31に対してマッチング処理、アベレージング処理を施した結果を示す。サンプル由来(被検体15由来)の表面エコーや界面エコーの信号はアベレージング処理を施しても消失することはない。一方、サンプルに由来しない時間的にランダムに発生するノイズ成分は平均化されてその強度が低減する。
【0038】
図8は、アベレージング処理前の画像を示す図である。
図9は、アベレージング処理後の画像を示す図である。
図8に示すマッチング処理、アベレージング処理を施さずに生成した画像では、視野内に欠陥が映像化されているが、欠陥部分の輝度値に対して周囲のノイズレベルが高いため、視認性やコントラストが低くなる。
【0039】
これに対し、
図9に示すマッチング処理、アベレージング処理を施して生成した画像では、欠陥の信号が消失することなく、周囲のノイズレベルが低減されるため、より高い視認性やコントラストが得ることができている。
【0040】
以上、本実施形態の超音波映像装置100は、次の特徴を有する。
(1)多層に積層されてなる対象物に超音波を照射して対象物の接合界面の反射波を取得して、反射波の信号強度に基づき接合界面の画像を生成する超音波映像装置100であって、対象物における第1の照射点(例えば、P0)からの第1の反射波に対する、対象物における第2の照射点(例えば、P1からP8)からの第2の反射波の位相のずれを補正するマッチング処理部56と、第1の反射波と位相補正後の第2の反射波とに基づき第1の反射波からノイズを除去し、ノイズを除去した第1の反射波のうち接合界面からの波形を示す界面エコーの信号強度に基づき接合界面における界面エコーを返した部位の画素化情報を生成する画素化情報生成処理部(例えば、アベレージング処理部57)と、を有することを特徴とする。これにより、超音波映像装置において、ノイズを除去した波形により画素化情報を生成することで、多層に積層されてなる対象物の接合界面の高精度の画像情報を生成することを可能とする。
【0041】
(2)(1)において、マッチング処理部56は、第1の反射波の界面エコーの信号強度が所定の値を示す閾値以上の大きさを有する場合は、第1の反射波の界面エコーのピーク部の位相に第2の反射波の界面エコーのピーク部の位相一致させる処理を行い、第1の反射波の界面エコーの信号強度が閾値以上の大きさを有しない場合は、第1の反射波の表面エコーのピーク部の位相に第2の反射波の表面エコーのピーク部の位相を一致させる処理を行うとよい。
【0042】
(3)(2)において、画素化情報生成処理部は、第1の反射波と第1の反射波との位相の補正を施した第2の反射波を加算平均する。
【0043】
(4)(1)において、マッチング処理部56は、第2の照射点は、第1の照射点に隣接する照射点の中から予め定めた位置の照射点を1つ以上選択して設定する(例えば、処理S51、
図3参照)。
【0044】
(5)多層に積層されてなる対象物に超音波を照射して対象物の接合界面の反射波を取得して、反射波の信号強度に基づき接合界面の画像を生成する超音波映像装置100における反射波のノイズ除去方法であって、対象物における第1の照射点からの第1の反射波と、対象物における第2の照射点からの第2の反射波とをマッチング処理により第1の反射波に対する第2の反射波の位相のずれを補正する位相補正ステップ(例えば、処理S55、
図5参照)と、第1の反射波と、位相補正ステップにより位相補正後の第2の反射波とに基づいて第1の反射波からノイズを除去するノイズ除去ステップ(例えば、処理S56、
図4参照)と、を有する。
【0045】
なお、本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、前記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0046】
10 水槽
11 水
15 被検体(対象物)
20 超音波プローブ
31,31A,32,33 波形データ
50 制御部
51 走査制御部
52 送受信制御部
53 画像生成部
56 マッチング処理部
57 アベレージング処理部(画素化情報生成処理部)
60 送受信部
70 スキャナ部(メカ部)
71 X軸スキャナ
72 Y軸スキャナ
73 Z軸スキャナ
100 超音波映像装置
【手続補正書】
【提出日】2022-10-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層に積層されてなる対象物に超音波を照射して前記対象物の接合界面の反射波を取得して、前記反射波の信号強度に基づき前記接合界面の画像を生成する超音波映像装置であって、
前記対象物における第1の照射点からの第1の反射波に対する、前記対象物における第2の照射点からの第2の反射波の位相のずれを補正するマッチング処理部と、
前記第1の反射波と位相補正後の前記第2の反射波とに基づき前記第1の反射波からノイズを除去し、ノイズを除去した前記第1の反射波のうち前記接合界面からの波形を示す界面エコーの信号強度に基づき前記接合界面における前記界面エコーを返した部位の画素化情報を生成する画素化情報生成処理部と、を有し、
前記マッチング処理部は、
前記第1の反射波の前記界面エコーの信号強度が所定の値を示す閾値以上の大きさを有する場合は、前記第1の反射波の前記界面エコーのピーク部の位相に前記第2の反射波の前記界面エコーのピーク部の位相一致させる処理を行い、
前記第1の反射波の前記界面エコーの信号強度が前記閾値以上の大きさを有しない場合は、前記第1の反射波の表面エコーのピーク部の位相に前記第2の反射波の前記表面エコーのピーク部の位相を一致させる処理を行う
ことを特徴とする超音波映像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波映像装置であって、
前記画素化情報生成処理部は、前記第1の反射波と前記第1の反射波との位相の補正を施した前記第2の反射波を加算平均する
ことを特徴とする超音波映像装置。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波映像装置であって、
前記マッチング処理部は、前記第2の照射点は、前記第1の照射点に隣接する照射点の中から定めた位置の照射点を1つ以上選択して設定する
ことを特徴とする超音波映像装置。
【請求項4】
多層に積層されてなる対象物に超音波を照射して前記対象物の接合界面の反射波を取得して、前記反射波の信号強度に基づき前記接合界面の画像を生成する超音波映像装置における反射波のノイズ除去方法であって、
前記対象物における第1の照射点からの第1の反射波と、前記対象物における第2の照射点からの第2の反射波とをマッチング処理により前記第1の反射波に対する前記第2の反射波の位相のずれを補正する位相補正ステップと、
前記第1の反射波と、前記位相補正ステップにより位相補正後の前記第2の反射波とに基づいて前記第1の反射波からノイズを除去するノイズ除去ステップと、を有し、
前記第1の反射波の接合界面からの波形を示す界面エコーの信号強度が所定の値を示す閾値以上の大きさを有する場合は、前記マッチング処理において、前記第1の反射波の前記界面エコーのピーク部の位相に前記第2の反射波の前記界面エコーのピーク部の位相一致させる処理を行い、
前記第1の反射波の前記界面エコーの信号強度が前記閾値以上の大きさを有しない場合は、前記マッチング処理において、前記第1の反射波の表面エコーのピーク部の位相に前記第2の反射波の前記表面エコーのピーク部の位相を一致させる処理を行う
ことを特徴とする反射波のノイズ除去方法。
【請求項5】
請求項4に記載の反射波のノイズ除去方法であって、
前記ノイズ除去ステップにおいて、前記第1の反射波と前記マッチング処理により前記第1の反射波との位相の補正を施した前記第2の反射波を加算平均する
ことを特徴とする反射波のノイズ除去方法。
【請求項6】
請求項4に記載の反射波のノイズ除去方法であって、
前記マッチング処理において、前記第2の照射点は、前記第1の照射点に隣接する照射点の中から予め定めた位置の照射点を1つ以上選択して設定する
ことを特徴とする反射波のノイズ除去方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の超音波映像装置は、多層に積層されてなる対象物に超音波を照射して前記対象物の接合界面の反射波を取得して、前記反射波の信号強度に基づき前記接合界面の画像を生成する超音波映像装置であって、前記対象物における第1の照射点からの第1の反射波に対する、前記対象物における第2の照射点からの第2の反射波の位相のずれを補正するマッチング処理部と、前記第1の反射波と位相補正後の前記第2の反射波とに基づき前記第1の反射波からノイズを除去し、ノイズを除去した前記第1の反射波のうち前記接合界面からの波形を示す界面エコーの信号強度に基づき前記接合界面における前記界面エコーを返した部位の画素化情報を生成する画素化情報生成処理部と、を有し、前記マッチング処理部は、前記第1の反射波の前記界面エコーの信号強度が所定の値を示す閾値以上の大きさを有する場合は、前記第1の反射波の前記界面エコーのピーク部の位相に前記第2の反射波の前記界面エコーのピーク部の位相一致させる処理を行い、前記第1の反射波の前記界面エコーの信号強度が前記閾値以上の大きさを有しない場合は、前記第1の反射波の表面エコーのピーク部の位相に前記第2の反射波の前記表面エコーのピーク部の位相を一致させる処理を行うことを特徴とする。本発明のその他の態様については、後記する実施形態において説明する。