(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114970
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】長時間の局所麻酔のための麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲート
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240816BHJP
A61P 23/02 20060101ALI20240816BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20240816BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20240816BHJP
A61K 31/529 20060101ALI20240816BHJP
A61K 31/56 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P23/02
A61K47/60
A61K45/06
A61K31/529
A61K31/56
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024106268
(22)【出願日】2024-07-01
(62)【分割の表示】P 2020529484の分割
【原出願日】2018-12-03
(31)【優先権主張番号】62/593,784
(32)【優先日】2017-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】596115687
【氏名又は名称】ザ チルドレンズ メディカル センター コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル エス. コヘイン
(72)【発明者】
【氏名】チャオ ジャオ
(57)【要約】
【課題】非コンジュゲート化麻酔剤と比べて低毒性で、神経遮断に有効な量の局所麻酔剤の制御放出をインビボで提供する加水分解性結合を介して生分解性及び生体適合性親水性ポリマーに共有結合的にコンジュゲート化された麻酔薬を提供すること。
【解決手段】麻酔薬放出速度は、そのポリマーの親水性の変更によって調整できる。テトロドトキシン(TTX)にコンジュゲート化された
、必要に応じてポリエチレングリコール(PEG)ポリマーを含むポリ(セバシン酸グリセロール)(PGS)の例示的製剤(PGS-PEG-TTX及びPGS-TTX)及びその使用方法が提供される。PGS-PEG-TTX及びPGS-TTXによる神経遮断は、最小限の全身毒性並びに筋肉及び末梢神経に対する局所毒性に関連した。PEG200中に均一分散したTDP-TTXコンジュゲートも記載される。PEG200は、媒介物としてだけでなく、TTXの有効性を高める化学的浸透促進剤(CPE)としても働いた。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2017年12月1日出願の米国特許出願第62/593,784号の利益を主張し、その優先権を主張する。この米国特許出願は、その全体が参照により本明細書中に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
これは、概して、毒性が低い、長時間の神経ブロックならびに局所麻酔および局所鎮痛の分野、詳細には、制御放出のために生体適合性ポリマーに共有結合的に連結されたテトロドトキシンの製剤の分野におけるものである。
【0003】
政府支援
本発明は、National Institute of General Medical Sciencesが授与した助成金番号5R01GM073626-12および1R01GM116920-01の政府支援を受けて行われた。米国政府は、本発明の一定の権利を有する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
単回注射後の持続時間が長い局所麻酔は、過去20年間、臨床的研究および科学的研究の中心であった。しかしながら、現在臨床で用いられている従来のアミノ-エステルおよびアミノ-アミド局所麻酔化合物には、関連する制限が多くある。これらの化合物は、有効な末梢神経遮断をもたらすにもかかわらず、それらの作用の持続時間が比較的短いことは、特に、慢性疼痛および神経因性疼痛の管理においては、不十分であることが多い。これらの化合物は、筋肉および末梢神経に対する局所毒性などの副作用も引き起こし、それらの副作用は、濃度が高くなるほど、および曝露の持続時間が長くなるほど、増大する。残念なことに、これらの副作用は、徐放性のビヒクルを使用してこれらの化合物を送達すると悪化し(送達ビヒクル自体の毒性が最小限に抑えられたとしても)、神経において炎症反応を引き起こすことがあり、その炎症反応は、時折、神経遮断の持続時間よりもかなり長く続く(Paderaら、Anesthesiology 108,921-928,doi:10.1097/ALN.0b013e31816c8a48(2008);Kohaneら、Pain 104,415-421,doi:http://dx.doi.org/10.1016/S0304-3959(03)00049-6(2003);Kohaneら、Journal of Biomedical Materials Research 59,450-459,doi:10.1002/jbm.1261(2002))。特に、多くの試薬が末梢神経の電位開口型ナトリウムチャネルに対して特異性が低いことから、重篤な全身性副作用(主に心臓血管の副作用(例えば、生命を危うくする不整脈)および神経性の副作用(例えば、発作)である)が生じ得る。
【0005】
これらの限界に照らして、全身性および局所性の副作用を最小限に抑えつつ、神経遮断を増強または延長し得る局所麻酔製剤を開発することが長年の目標であった。天然に存在するサイト1ナトリウムチャネル遮断薬(S1SCB)であるテトロドトキシン(TTX)が、従来の局所麻酔剤に代わるものとして過去20年間研究されてきた(Lahayeら、Anesthesiology 123,741-742(2015))。TTXは、極めて強力な局所麻酔特性を有するが(Kohaneら、Regional Anesthesia and Pain Medicine 25,52-59,doi:http://dx.doi.org/10.1016/S1098-7339(00)80011-5(2000))、有意な末梢神経遮断を達成するために必要なTTXの用量は、低血圧および全身の筋力低下(横隔膜麻痺および呼吸不全を含む)を引き起こし得る。TTXの治療濃度域(therapeutic window)は狭いにもかかわらず、それを診療に導入する試みは現在も進行中であり(Lahayeら、Anesthesiology 123,741-742(2015);PEREら、Regional Anesthesia and Pain Medicine 18,304-307(1993);Loboら、Anesthesiology 123,873-885(2015))、臨床で使用するためにTTXの神経遮断の持続時間を延長するためのアプローチが望まれている。
【0006】
薬物を持続送達系にカプセル封入することによって、長い薬物持続時間が達成できるが、TTXは、非常に親水性であることから、効果的なカプセル封入が妨げられている(Rweiら、Proceedings of the National Academy
of Sciences 112,15719-15724,doi:10.1073/pnas.1518791112(2015);Shankarappaら、Proceedings of the National Academy of Sciences 109,17555-17560,doi:10.1073/pnas.1214634109(2012))。リポソームはこれまでに、TTXの制御放出のための効率的なキャリアとして報告されており、カプセル封入効率は最大50%である(Rweiら、Proceedings of the National Academy of
Sciences 112,15719-15724,doi:10.1073/pnas.1518791112(2015);Epstein-Barash,H.ら、Proceedings of the National Academy of Sciences 106,7125-7130,doi:10.1073/pnas.0900598106(2009);Zhan,C.ら、Nano Letters 16,177-181,doi:10.1021/acs.nanolett.5b03440(2016))。これらのリポソームは、ラット坐骨神経モデルにおいて、局所毒性または全身毒性を最小限に抑えつつ、最大13.5時間続く末梢神経遮断を達成した。しかしながら、TTXの最初のバースト放出により、注射用量のさらなる増加が妨げられ、それにより、神経遮断のさらなる延長が妨げられた。理想的には、術後疼痛または慢性疼痛の管理のための注射可能な麻酔薬は、数日間から最大数週間持続し得る。さらに、時間のかかる煩雑な調製プロトコルのせいで、リポソーム製剤を臨床で使用するのは不便である。
【0007】
ゆえに、単回投与後に長時間にわたって麻酔剤を低毒性で送達するための生体適合性プラットフォームを提供することが、本発明の目的である。
【0008】
局所毒性または全身毒性を低く抑えつつ、サイト1ナトリウムチャネル遮断薬(S1SCB)由来の麻酔の持続時間を延長する特定のS1SCBの生体適合性製剤を提供することも、本発明の目的である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Paderaら、Anesthesiology 108,921-928,doi:10.1097/ALN.0b013e31816c8a48(2008)
【非特許文献2】Kohaneら、Pain 104,415-421,doi:http://dx.doi.org/10.1016/S0304-3959(03)00049-6(2003)
【非特許文献3】Kohaneら、Journal of Biomedical Materials Research 59,450-459,doi:10.1002/jbm.1261(2002))
【非特許文献4】Kohaneら、Regional Anesthesia and Pain Medicine 25,52-59,doi:http://dx.doi.org/10.1016/S1098-7339(00)80011-5(2000)
【非特許文献5】Lahayeら、Anesthesiology 123,741-742(2015);PEREら、Regional Anesthesia and Pain Medicine 18,304-307(1993)
【非特許文献6】Loboら、Anesthesiology 123,873-885(2015)
【非特許文献7】Rweiら、Proceedings of the National Academy of Sciences 112,15719-15724,doi:10.1073/pnas.1518791112(2015)
【非特許文献8】Shankarappaら、Proceedings of the National Academy of Sciences 109,17555-17560,doi:10.1073/pnas.1214634109(2012)
【非特許文献9】Epstein-Barash,H.ら、Proceedings of the National Academy of Sciences 106,7125-7130,doi:10.1073/pnas.0900598106(2009)
【非特許文献10】Zhan,C.ら、Nano Letters 16,177-181,doi:10.1021/acs.nanolett.5b03440(2016)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
加水分解性エステル結合を介して生分解性かつ生体適合性のポリマー骨格に共有結合された、麻酔剤(anesthetic agent)、特に、テトロドトキシンなどのサイトIナトリウ
ムチャネル遮断薬を含むコンジュゲートが、有意に低い毒性で長時間の局所麻酔を提供する。その共有結合は、麻酔剤の最初の「バースト放出」を防ぐのに十分に安定であり、エステル結合のゆっくりとした加水分解によって、有効量の麻酔薬の徐放が達成され、それにより、単回投与後最大72時間または72時間超、最大1ヶ月間、インビボにおいて疼痛が阻止される。麻酔薬は、天然の形態で放出される。そのコンジュゲート内のエステル結合の加水分解速度は、ポリマー骨格の親水性を変更することによって、レシピエントのニーズに適応される。
【0011】
PEGは、コンジュゲート内の麻酔薬の有効性を高める化学的透過促進剤(chemical permeation enhancer)として機能することも立証されている。ゆえに、PEG200中に均一に分散させられた麻酔薬-ポリマーコンジュゲート(anesthetic-polymer conjugates)の製剤が記載される。好ましい実施形態において、麻酔薬-ポリマーコンジュゲートの製剤は、シリンジによって注射可能な製剤としてPEG200中に分散させられる。共有結合性の麻酔薬-ポリマー製剤を作製する方法およびそれらの使用方法も記載される。
【0012】
ある特定の実施形態において、麻酔剤は、サイト1ナトリウムチャネル遮断薬(S1SCB)である。例示的なS1SCBとしては、テトロドトキシン(TTX)、サキシトキシン(STX)、デカルバモイルサキシトキシン、ネオサキシトキシンおよびゴニオトキシンが挙げられる。ある例示的な実施形態において、S1SCBは、テトロドトキシン(TTX)である。いくつかの実施形態において、コンジュゲートは、バニロイドレセプターサブタイプ1(TRPV1)アゴニストである麻酔剤を含む。例示的なTRPV1アゴニストとしては、trans8-メチル-N-バニリル-6-ノネンアミド(カプサイシン)、ジヒドロ-カプサイシン、ノルジヒドロカプサイシン、ホモジヒドロカプサイシン、ホモカプサイシンおよびレシニフェラトキシンが挙げられる。
【0013】
上記コンジュゲートは、生分解性かつ生体適合性のポリマーに共有結合された麻酔剤を含む。そのポリマーの親水性は、制御された様式で、例えば、親水性ポリマーを付加することによって、改変され得る。ゆえに、コンジュゲートは、コンジュゲートにおける親水性および疎水性ポリマーおよび親水性および疎水性モノマーの濃度ならびに相対比を変化させることによって、インビボにおいて、調整可能な麻酔剤放出を可能にする。好ましい生体適合性ポリマー骨格には、ポリ無水物が含まれる。例示的なポリ無水物ポリマーは、ポリ(セバシン酸グリセロール)(PGS)である。好ましい親水性ポリマーとしては、ポリエチレンオキシドポリマーおよびポリエチレンオキシド共重合体、例えば、ポリ(エチレングリコール)(PEG)が挙げられる。例示的なPEGとしては、PEG100、PEG200、PEG300、PEG400、PEG500、PEG600、PEG700、PEG800、PEG900、PEG1000およびPEG2000が挙げられる。好ましい麻酔剤としては、フィコトキシンおよびバニロイドが挙げられる。
【0014】
当業者であれば、製剤内の麻酔剤の量が、レシピエントのニーズに適応され得ることを理解できるだろう。いくつかの実施形態において、上記製剤は、1用量あたり0.1μg~200μg(両端値を含む)、好ましくは、1μg~100μg(両端値を含む)の投与量で麻酔剤を含む。
【0015】
インビボにおいてコンジュゲートの製剤を投与することによって生じる有効な神経ブロックの持続時間は、コンジュゲートにおける親水性ポリマーの量および比を変更することによって調節され得る。ゆえに、いくつかの実施形態において、コンジュゲート内の親水性ポリマーの量および比は、レシピエントのニーズに応じて1時間から最大1ヶ月間のある期間にわたって有効な神経ブロックを提供するのに十分である。例えば、いくつかの実施形態において、製剤は、インビボにおいて最大72時間、有効な神経遮断を提供する量の麻酔薬を送達する。他の実施形態において、製剤は、インビボにおいて少なくとも72時間、最大2週間または2週間超、例えば、最大1ヶ月間、有効な神経遮断を提供する量の麻酔薬を送達する。製剤は、全身毒性が最小限であり、筋肉または末梢神経への局所毒性が実質的にない状態で、有効な神経遮断を提供する。いくつかの実施形態において、コンジュゲートは、両親媒性ポリマーに共有結合的に連結された、1つまたはそれを超えるさらなる治療薬、予防薬または診断薬を含む。他の実施形態において、コンジュゲートは、必要に応じて1つまたはそれを超えるさらなる治療薬、予防薬または診断薬を含む、リポソームまたは他の二次送達ビヒクルに製剤化される。他の実施形態において、1つまたはそれを超えるさらなる治療薬、予防薬または診断薬は、注入物に混ぜることによって、コンジュゲートとの注射のために含められる。さらなる活性な剤は、加水分解性エステル結合を介してポリマー骨格に共有結合的に連結され得る。いくつかの実施形態において、さらなる活性な剤は、デキサメタゾンなどの糖質コルチコイドである。
【0016】
有効な神経遮断を必要とする被験体において単回投与後に局所毒性が存在しないまたは有意に低下した状態で最大1ヶ月間の持続時間にわたって有効な神経遮断を提供するための方法が提供される。その方法は、PGSに共有結合的にコンジュゲート化され、必要に応じてPEGの付加によって改変された麻酔剤を含む有効量の製剤を、投与後最大3日間、最大1ヶ月間、投与部位において神経ブロックを提供するのに有効な量でその被験体に投与する工程を含む。いくつかの実施形態において、その方法は、被験体における神経因性疼痛を処置または予防するのに有効である。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
持続時間が長い局所麻酔のための麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートであって、
前記コンジュゲートは、
(a)麻酔剤;および
(b)ポリマー骨格
を含み、
前記ポリマー骨格は、1つまたはそれを超える親水性ポリマーまたは疎水性ポリマーおよび必要に応じて1つまたはそれを超えるポリエチレンオキシドポリマーを含み、
前記麻酔剤は、局所神経遮断を必要とする部位における被験体への投与後に、非コンジュゲート化麻酔剤と比べて低毒性で有効な局所神経遮断を誘導するのに有効な量で、加水分解性リンカーを介して前記ポリマー骨格に共有結合的にコンジュゲート化されている、コンジュゲート。
(項目2)
前記麻酔剤が、サイト1ナトリウムチャネル遮断薬(S1SCB)である、項目1に記載のコンジュゲート。
(項目3)
前記S1SCBが、テトロドトキシン(TTX)、サキシトキシン(STX)、デカルバモイルサキシトキシン、ネオサキシトキシンおよびゴニオトキシンからなる群より選択される、項目2に記載のコンジュゲート。
(項目4)
前記麻酔剤が、バニロイドレセプターサブタイプ1(TRPV1)アゴニストである、項目1に記載のコンジュゲート。
(項目5)
前記ポリマー骨格が、ポリ(セバシン酸グリセロール)(PGS)を含む、項目1に記載のコンジュゲート。
(項目6)
前記ポリマー骨格が、約100Da~約200,000Da(両端値を含む)、好ましくは、約200Da~約2,000Da(両端値を含む)の分子量を有する1つまたはそれを超える親水性ポリマーをさらに含む、項目1または項目5に記載のコンジュゲート。
(項目7)
前記ポリマー骨格が、ポリエチレングリコール(PEG)を含む、項目6に記載のコンジュゲート。
(項目8)
前記PEGが、PEGモノメチルエーテル(PEGMME)、PEG100、PEG200、PEG300、PEG400、PEG500、PEG600、PEG700、PEG800、PEG900、PEG1000およびPEG2000からなる群より選択される1つまたはそれを超えるPEGである、項目7に記載のコンジュゲート。前記PGSが、加水分解性エステル結合を介して前記親水性ポリマーに共有結合している、項目1に記載の製剤。
(項目9)
前記コンジュゲートが、インビボでの投与後、約24時間~72時間、72時間~1週間または1週間~1ヶ月間のある期間にわたって前記麻酔剤を放出する、項目1に記載のコンジュゲート。
(項目10)
前記骨格ポリマーに共有結合的にコンジュゲート化された1つまたはそれを超える活性な剤をさらに含む、項目1~9のいずれか1項に記載のコンジュゲート。
(項目11)
前記コンジュゲートが、1つまたはそれを超える共有結合した糖質コルチコイドをさらに含む、項目10に記載のコンジュゲート。
(項目12)
前記糖質コルチコイドが、デキサメタゾン、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、フルニソリド、メチルプレドニゾン、パラメタゾン
、プレドニゾロン、トリアムシノロン、アルクロメタゾン、アムシノニド、クロベタゾール、フルドロコルチゾン、二酢酸ジフルロソン、フルオシノロンアセトニド、フルオロメタロン、フルランドレノリド、ハルシノニド、メドリゾンおよびモメタゾン、ならびにそれらの薬学的に許容され得る塩および混合物からなる群より選択されるからなる群より選択される、項目11に記載のコンジュゲート。
(項目13)
前記コンジュゲートが、共有結合したデキサメタゾンをさらに含む、項目10に記載のコンジュゲート。
(項目14)
項目1~13のいずれか1項に記載のコンジュゲートを含む、インビボで投与するための製剤。
(項目15)
前記製剤が、PEGを賦形剤として含む、項目14に記載の製剤。
(項目16)
前記PEGが、PEG200である、項目15に記載の製剤。
(項目17)
0.1μg~200μg(両端値を含む)、好ましくは、1μg~100μg(両端値を含む)の量の麻酔剤を含む、項目14~16のいずれか1項に記載の製剤を含む投与単位。
(項目18)
前記量の麻酔薬が、それを必要とする被験体への投与後最大1ヶ月間にわたって有効な局所神経遮断を誘導するのに有効な量である、項目17に記載の投与単位。
(項目19)
神経遮断を必要とする被験体において神経遮断を提供するための方法であって、有効量の項目14~16のいずれか1項に記載の製剤または項目17に記載の投与単位を、投与部位において神経ブロックを提供するのに有効な量で前記被験体に投与する工程を含む、方法。
(項目20)
前記製剤が、前記被験体において神経因性疼痛の発生を遅延させるのに有効な量で存在する、項目19に記載の方法。
(項目21)
前記被験体が、ヒトである、項目19に記載の方法。
(項目22)
前記方法が、投与後少なくとも3日間、最大1週間、2週間、3週間または1ヶ月間、疼痛緩和を提供する、項目19に記載の方法。
(項目23)
前記製剤が、シリンジによって注射可能な製剤である、項目19~22のいずれか1項に記載の方法。
(項目24)
前記製剤が、注射または浸潤を介して、有痛部位にまたは有痛部位付近に投与される、項目19~22のいずれか1項に記載の方法。
(項目25)
項目1~13のいずれか1項に記載のコンジュゲートを作製する方法であって、1つまたはそれを超える麻酔剤を1つまたはそれを超えるポリマー骨格に共有結合的にカップリングする工程を含む、方法。
(項目26)
前記共有結合性のカップリングが、Steglichエステル化反応を含む、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記共有結合性のカップリングが、前記麻酔剤を変性させないかまたは他の方法で前記麻
酔剤の生物学的活性を低下させない条件下で行われる、項目25に記載の方法。
(項目28)
項目14~16のいずれか1項に記載の製剤を作製する方法であって、前記コンジュゲートをインビボでの投与に適した賦形剤中に分散させる工程を含む、方法。
(項目29)
ある部位における疼痛の処置または予防を必要とする被験体において、前記部位における疼痛を処置または予防する方法であって、前記方法は、
(a)麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートであって、
ここで、前記コンジュゲートは、加水分解性リンカーを介してポリマー骨格に共有結合的にコンジュゲート化された麻酔剤を含み、
前記ポリマー骨格は、1つまたはそれを超える親水性ポリマーまたは疎水性ポリマーおよび必要に応じて1つまたはそれを超えるポリエチレンオキシド(PEG)ポリマーを含む、麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲート;および
(b)PEGの水溶液
を含む製剤を前記被験体に投与する工程を含み、
ここで、前記麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートは、前記PEGの水溶液内に分散させられ、
前記製剤は、投与後少なくとも72時間、最大1ヶ月間のある期間にわたって、前記必要とする部位において有効な神経遮断を提供するのに有効な量である、方法。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】
図1Aおよび1Bは、それぞれTD-TXXコンジュゲートを形成するための(
図1A)、またはPEG(P)を含めてTDP-TXXコンジュゲートを形成するための(
図1B)、麻酔薬(テトロドトキシン;TTX)とジカルボン酸/トリオールポリマー(TD)との共有結合性コンジュゲートの段階的な合成の模式図である。
図1Cは、PGS-PEG-TTXコンジュゲートの「格子」の分子モデルの模式図である。TTXは、(●)として表されており、PGS-PEGは、(-)として表されている。
【
図1B】
図1Aおよび1Bは、それぞれTD-TXXコンジュゲートを形成するための(
図1A)、またはPEG(P)を含めてTDP-TXXコンジュゲートを形成するための(
図1B)、麻酔薬(テトロドトキシン;TTX)とジカルボン酸/トリオールポリマー(TD)との共有結合性コンジュゲートの段階的な合成の模式図である。
図1Cは、PGS-PEG-TTXコンジュゲートの「格子」の分子モデルの模式図である。TTXは、(●)として表されており、PGS-PEGは、(-)として表されている。
【
図1C】
図1Aおよび1Bは、それぞれTD-TXXコンジュゲートを形成するための(
図1A)、またはPEG(P)を含めてTDP-TXXコンジュゲートを形成するための(
図1B)、麻酔薬(テトロドトキシン;TTX)とジカルボン酸/トリオールポリマー(TD)との共有結合性コンジュゲートの段階的な合成の模式図である。
図1Cは、PGS-PEG-TTXコンジュゲートの「格子」の分子モデルの模式図である。TTXは、(●)として表されており、PGS-PEGは、(-)として表されている。
【0018】
【
図2】
図2A~2Cはそれぞれ、f
phil(%)に対する接触角(度)(
図2A);f
phil(%)に対するT
1/2質量損失(時間)(
図2B);ならびにTgD8
【数1】
TgD8P200(-●-);
TgD8P1000
【数2】
およびTgD8P2000
【数3】
の各々の場合の時間(時間)に対する質量損失(%)(
図2C)を示している折れ線グラフである。
【0019】
【
図3】
図3Aおよび3Bは、TgD8;TgD8P200;TgD8P1000;およびTgD8P2000(これらの各々は、それぞれ0.001mg/ml(左のバー)、0.01mg/ml(中央のバー)および0.1mg/ml(右のバー)の投与量であった)の各々とともに24時間インキュベートされた、C2C12細胞(
図3A)またはPC12細胞(
図3B)に対する%細胞生存度を示している棒グラフである。データは、平均値±SD、n=4である。
【0020】
【
図4】
図4A~4Bはそれぞれ、f
phil(%)に対するT
1/2質量損失(時間)(
図4A)、ならびにTgD8
【数4】
TgD8P200(-●-);
TgD8P1000
【数5】
およびTgD8P2000
【数6】
および遊離TTX(-◆-)の各々の場合の時間(0~800時間)に対する累積TTX放出(%)(
図4B)を示している折れ線グラフである。
【0021】
【
図5A】
図5Aおよび5Bはそれぞれ、1つまたはそれを超えるさらなる「連結」ポリマーを含めてTDポリマー-TXXコンジュゲートを形成するための(
図5A)、またはデキサメタゾン(Dex)を含めてTD-Dex-TXXコンジュゲートを形成するための(
図5B)、麻酔薬(テトロドトキシン;TTX)とジカルボン酸/トリオールポリマー(TD)との共有結合性コンジュゲートの段階的な合成の模式図である。
【
図5B】
図5Aおよび5Bはそれぞれ、1つまたはそれを超えるさらなる「連結」ポリマーを含めてTDポリマー-TXXコンジュゲートを形成するための(
図5A)、またはデキサメタゾン(Dex)を含めてTD-Dex-TXXコンジュゲートを形成するための(
図5B)、麻酔薬(テトロドトキシン;TTX)とジカルボン酸/トリオールポリマー(TD)との共有結合性コンジュゲートの段階的な合成の模式図である。
【0022】
【数7】
TgD8P200(-●-);
TgD8P1000
【数8】
およびTgD8P2000
【数9】
および遊離TTX(-◆-)の各々に対する、時間(時間)に対する累積Dex放出(%)を示している。
図6B~6Eはそれぞれ、PGS-PEG2000-TTX/デキサメタゾン(
図6B);PGS-PEG1000-TTX/デキサメタゾン(
図6C);PGS-PEG200-TTX/デキサメタゾン(
図6D);およびPGS-TTX/デキサメタゾン(
図6E)の各々の場合の、時間(時間)に対する25mgの各PGS-PEG-薬物コンジュゲートからの累積薬物放出(%)および質量損失(%)を示している。TTXは、(-●-)として表されており、デキサメタゾン(Dex)は、
【数10】
として表されており、質量損失は、
【数11】
として表されている。
【数12】
TgD8P200(-●-);
TgD8P1000
【数13】
およびTgD8P2000
【数14】
および遊離TTX(-◆-)の各々に対する、時間(時間)に対する累積Dex放出(%)を示している。
図6B~6Eはそれぞれ、PGS-PEG2000-TTX/デキサメタゾン(
図6B);PGS-PEG1000-TTX/デキサメタゾン(
図6C);PGS-PEG200-TTX/デキサメタゾン(
図6D);およびPGS-TTX/デキサメタゾン(
図6E)の各々の場合の、時間(時間)に対する25mgの各PGS-PEG-薬物コンジュゲートからの累積薬物放出(%)および質量損失(%)を示している。TTXは、(-●-)として表されており、デキサメタゾン(Dex)は、
【数15】
として表されており、質量損失は、
【数16】
として表されている。
【数17】
TgD8P200(-●-);
TgD8P1000
【数18】
およびTgD8P2000
【数19】
および遊離TTX(-◆-)の各々に対する、時間(時間)に対する累積Dex放出(%)を示している。
図6B~6Eはそれぞれ、PGS-PEG2000-TTX/デキサメタゾン(
図6B);PGS-PEG1000-TTX/デキサメタゾン(
図6C);PGS-PEG200-TTX/デキサメタゾン(
図6D);およびPGS-TTX/デキサメタゾン(
図6E)の各々の場合の、時間(時間)に対する25mgの各PGS-PEG-薬物コンジュゲートからの累積薬物放出(%)および質量損失(%)を示している。TTXは、(-●-)として表されており、デキサメタゾン(Dex)は、
【数20】
として表されており、質量損失は、
【数21】
として表されている。
【数22】
TgD8P200(-●-);
TgD8P1000
【数23】
およびTgD8P2000
【数24】
および遊離TTX(-◆-)の各々に対する、時間(時間)に対する累積Dex放出(%)を示している。
図6B~6Eはそれぞれ、PGS-PEG2000-TTX/デキサメタゾン(
図6B);PGS-PEG1000-TTX/デキサメタゾン(
図6C);PGS-PEG200-TTX/デキサメタゾン(
図6D);およびPGS-TTX/デキサメタゾン(
図6E)の各々の場合の、時間(時間)に対する25mgの各PGS-PEG-薬物コンジュゲートからの累積薬物放出(%)および質量損失(%)を示している。TTXは、(-●-)として表されており、デキサメタゾン(Dex)は、
【数25】
として表されており、質量損失は、
【数26】
として表されている。
【数27】
TgD8P200(-●-);
TgD8P1000
【数28】
およびTgD8P2000
【数29】
および遊離TTX(-◆-)の各々に対する、時間(時間)に対する累積Dex放出(%)を示している。
図6B~6Eはそれぞれ、PGS-PEG2000-TTX/デキサメタゾン(
図6B);PGS-PEG1000-TTX/デキサメタゾン(
図6C);PGS-PEG200-TTX/デキサメタゾン(
図6D);およびPGS-TTX/デキサメタゾン(
図6E)の各々の場合の、時間(時間)に対する25mgの各PGS-PEG-薬物コンジュゲートからの累積薬物放出(%)および質量損失(%)を示している。TTXは、(-●-)として表されており、デキサメタゾン(Dex)は、
【数30】
として表されており、質量損失は、
【数31】
として表されている。
【0023】
【
図7】
図7は、PEG200中のPGS-PEG-TTXコンジュゲートの注射可能な製剤を調製する溶媒蒸発プロセスの模式図である。
【0024】
【数32】
1rad/s(●);
および10rad/s
【数33】
の各々の場合の、f
phil(%)に対する複素粘度(Pa・s)を示している。
図8Bは、それぞれPEG200中のPGS-TTX
【数34】
PEG200中のPGS-PEG200-TTX(●);
PEG200中のPGS-PEG1000-TTX
【数35】
PEG200中のPGS-PEG2000-TTX
【数36】
およびPEG200(◆)
の各々の場合の、角振動数(rad/s)に対する複素粘度(Pa・s)を示している。
図8Cは、それぞれG”
【数37】
およびG’(●)
の各々の場合の角振動数(rad/s)に対する弾性率G’、G”(Pa)を示している。
【0025】
【数38-1】
コンジュゲート化TTX/PEG200;遊離TTX/PBS(●);
遊離TTX/PEG200
【数39-1】
の各々の場合の、それぞれTTX用量(μg)に対する%ブロック成功(
図9A);TTX用量に対するブロックの持続時間(時間)(
図9B);TTX用量(μg)に対する%反対側のブロック(
図9C);およびTTX用量(μg)に対する%死亡率(
図9D)を示している折れ線グラフである。
【数38-2】
コンジュゲート化TTX/PEG200;遊離TTX/PBS(●);
遊離TTX/PEG200
【数39-2】
の各々の場合の、それぞれTTX用量(μg)に対する%ブロック成功(
図9A);TTX用量に対するブロックの持続時間(時間)(
図9B);TTX用量(μg)に対する%反対側のブロック(
図9C);およびTTX用量(μg)に対する%死亡率(
図9D)を示している折れ線グラフである。
【数38-3】
コンジュゲート化TTX/PEG200;遊離TTX/PBS(●);
遊離TTX/PEG200
【数39-3】
の各々の場合の、それぞれTTX用量(μg)に対する%ブロック成功(
図9A);TTX用量に対するブロックの持続時間(時間)(
図9B);TTX用量(μg)に対する%反対側のブロック(
図9C);およびTTX用量(μg)に対する%死亡率(
図9D)を示している折れ線グラフである。
【数38-4】
コンジュゲート化TTX/PEG200;遊離TTX/PBS(●);
遊離TTX/PEG200
【数39-4】
の各々の場合の、それぞれTTX用量(μg)に対する%ブロック成功(
図9A);TTX用量に対するブロックの持続時間(時間)(
図9B);TTX用量(μg)に対する%反対側のブロック(
図9C);およびTTX用量(μg)に対する%死亡率(
図9D)を示している折れ線グラフである。
【0026】
【数40】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、35mgのTgD8-TTXにおける25mgのTgD8TTXコンジュゲートにおける10μgのTTXの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
図10Bは、それぞれ注射された脚
【数41】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、30mgのTgD8P200-TTXにおける9.2μgのTTXコンジュゲートの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
図10Cは、それぞれ注射された脚
【数42】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、25mgのTgD8P1000における25mgのTTXコンジュゲートにおける7μgのTTXの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
図10Dは、それぞれ注射された脚
【数43】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、25mgのTgD8P2000における30mgのTTXコンジュゲートにおける4.8μgのTTXの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
図10Eは、それぞれ注射された脚
【数44】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、4.0μgの遊離TTXの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
【数45】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、35mgのTgD8-TTXにおける25mgのTgD8TTXコンジュゲートにおける10μgのTTXの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
図10Bは、それぞれ注射された脚
【数46】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、30mgのTgD8P200-TTXにおける9.2μgのTTXコンジュゲートの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
図10Cは、それぞれ注射された脚
【数47】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、25mgのTgD8P1000における25mgのTTXコンジュゲートにおける7μgのTTXの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
図10Dは、それぞれ注射された脚
【数48】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、25mgのTgD8P2000における30mgのTTXコンジュゲートにおける4.8μgのTTXの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
図10Eは、それぞれ注射された脚
【数49】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、4.0μgの遊離TTXの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
【数50】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、35mgのTgD8-TTXにおける25mgのTgD8TTXコンジュゲートにおける10μgのTTXの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
図10Bは、それぞれ注射された脚
【数51】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、30mgのTgD8P200-TTXにおける9.2μgのTTXコンジュゲートの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
図10Cは、それぞれ注射された脚
【数52】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、25mgのTgD8P1000における25mgのTTXコンジュゲートにおける7μgのTTXの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
図10Dは、それぞれ注射された脚
【数53】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、25mgのTgD8P2000における30mgのTTXコンジュゲートにおける4.8μgのTTXの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
図10Eは、それぞれ注射された脚
【数54】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、4.0μgの遊離TTXの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
【数55】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、35mgのTgD8-TTXにおける25mgのTgD8TTXコンジュゲートにおける10μgのTTXの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
図10Bは、それぞれ注射された脚
【数56】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、30mgのTgD8P200-TTXにおける9.2μgのTTXコンジュゲートの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
図10Cは、それぞれ注射された脚
【数57】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、25mgのTgD8P1000における25mgのTTXコンジュゲートにおける7μgのTTXの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
図10Dは、それぞれ注射された脚
【数58】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、25mgのTgD8P2000における30mgのTTXコンジュゲートにおける4.8μgのTTXの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
図10Eは、それぞれ注射された脚
【数59】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、4.0μgの遊離TTXの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
【数60】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、35mgのTgD8-TTXにおける25mgのTgD8TTXコンジュゲートにおける10μgのTTXの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
図10Bは、それぞれ注射された脚
【数61】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、30mgのTgD8P200-TTXにおける9.2μgのTTXコンジュゲートの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
図10Cは、それぞれ注射された脚
【数62】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、25mgのTgD8P1000における25mgのTTXコンジュゲートにおける7μgのTTXの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
図10Dは、それぞれ注射された脚
【数63】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、25mgのTgD8P2000における30mgのTTXコンジュゲートにおける4.8μgのTTXの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
図10Eは、それぞれ注射された脚
【数64】
および反対側の脚(-●-)の各々の場合の、4.0μgの遊離TTXの場合の時間(時間)に対する熱潜時(秒)を示している折れ線グラフである。
【0027】
【
図11】
図11は、それぞれコンジュゲート化TTX/PEG200
【数65】
、遊離TTX/PBS(-●-)および遊離TTX/PEG200
【数66】
の各々の場合の、TTX用量(μg)に対する遮断の持続時間(単位は時)の用量反応曲線を示している折れ線グラフである。
【0028】
【
図12A】
図12A~12Dは、折れ線グラフである。
図12Aおよび12Bはそれぞれ、10μgのTTXコンジュゲートの場合の、f
phil(%)に対する%死亡率(
図12A)およびブロックの持続時間(時間)(
図12B)を示している。
図12Cおよび12Dはそれぞれ、1μgのTTXコンジュゲートの場合の、f
phil(%)に対する%ブロック成功(
図12C)およびブロックの持続時間(時間)(
図12D)を示している。
【
図12B】
図12A~12Dは、折れ線グラフである。
図12Aおよび12Bはそれぞれ、10μgのTTXコンジュゲートの場合の、f
phil(%)に対する%死亡率(
図12A)およびブロックの持続時間(時間)(
図12B)を示している。
図12Cおよび12Dはそれぞれ、1μgのTTXコンジュゲートの場合の、f
phil(%)に対する%ブロック成功(
図12C)およびブロックの持続時間(時間)(
図12D)を示している。
【
図12C】
図12A~12Dは、折れ線グラフである。
図12Aおよび12Bはそれぞれ、10μgのTTXコンジュゲートの場合の、f
phil(%)に対する%死亡率(
図12A)およびブロックの持続時間(時間)(
図12B)を示している。
図12Cおよび12Dはそれぞれ、1μgのTTXコンジュゲートの場合の、f
phil(%)に対する%ブロック成功(
図12C)およびブロックの持続時間(時間)(
図12D)を示している。
【
図12D】
図12A~12Dは、折れ線グラフである。
図12Aおよび12Bはそれぞれ、10μgのTTXコンジュゲートの場合の、f
phil(%)に対する%死亡率(
図12A)およびブロックの持続時間(時間)(
図12B)を示している。
図12Cおよび12Dはそれぞれ、1μgのTTXコンジュゲートの場合の、f
phil(%)に対する%ブロック成功(
図12C)およびブロックの持続時間(時間)(
図12D)を示している。
【0029】
【
図13】
図13は、注射後の時間(時間)に対する相対蛍光(%)を示している折れ線グラフである。
【0030】
【数67】
PGS-Cap-2(-●-);PGS-PEG-1000-Cap
【数68】
およびPGS-PEG-1000-Cap-2
【数69】
の各々の場合の、時間(日)に対するカプサイシンの量(μg)によって表される、PGS-カプサイシンコンジュゲートからのカプサイシンの放出を示している折れ線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
I.定義
用語「サイト1ナトリウムチャネル遮断薬」または「S1SCB」とは、「サイト1」と呼ばれる位置におけるナトリウムチャネルの外側の開口部に結合する分子のことを指す。好ましい実施形態において、サイト1ナトリウムチャネル遮断薬は、天然に存在するトキシンまたはその誘導体である。用語「その誘導体」には、誘導体化されていないサイト1ナトリウムチャネル遮断薬と実質的に同じ機能特性を有するサイト1ナトリウムチャネル遮断薬(例えば、生物学的および/または薬理学的なもの、すなわち、ナトリウムチャネルを効果的に遮断するもの)の任意の誘導体が含まれる。
【0032】
用語「麻酔」とは、感覚消失(意識消失を引き起こさない局所的;意識消失を伴う全身性)のことを指し、通常は、生体機能を失わない意識消失のことを指す。用語「麻酔薬」および「麻酔剤」とは、被験体において麻酔を誘導する作用物質のことを指す。
【0033】
用語「血管収縮薬」は、特に血管運動作用の結果としての血管内腔の狭小化を引き起こす作用物質である。
【0034】
用語「浸潤」とは、組織の複数の層または領域への注射のことを指す。
【0035】
用語「注射」とは、組織または内腔における単一のポイントへの注射のことを指す。
【0036】
用語「神経ブロック」とは、神経幹に沿ったインパルスの流れの中断によってもたらされる局所麻酔のことを指す。
【0037】
用語「最小有効濃度」(MEC)は、疼痛緩和を提供するのに十分な、所与の場所における1つまたはそれを超える薬物の最も低い局所濃度である。
【0038】
用語「個体」、「個体」、「被験体」および「患者」は、互換的に使用され、ヒト、げっ歯類(例えば、マウスおよびラット)および他の実験動物を含むがこれらに限定されない哺乳動物のことを指す。
【0039】
用語「生体適合性」とは、それら自体が宿主(例えば、動物またはヒト)にとって有毒でなく、宿主においてモノマーもしくはオリゴマーのサブユニットまたは他の副産物を有毒な濃度で生成する速度で分解しない(ポリマーが分解する場合)、1つまたはそれを超える材料のことを指す。
【0040】
用語「骨格ポリマー」または「骨格」とは、麻酔薬が共有結合的に付着される、麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲート内に含まれる化学的部分またはポリマーのことを指す。骨格ポリマーは、賦形剤の一部を形成しない。例示的な骨格ポリマーとしては、ジカルボン酸/トリオール誘導体が挙げられる。好ましい骨格ポリマーは、ポリ(セバシン酸グリセロール)(PGS)-PEG共重合体(PGS-PEG)である。
【0041】
用語「加水分解性リンカー」とは、エステル結合などの、加水分解的に分解され得る任意の化学結合または化学的部分のことを指す。
【0042】
用語「バースト放出」とは、作用物質の急速または放出または送達、例えば、送達ビヒクルまたは送達構造体からの活性な剤の急速な送達のことを指す。例えば、インビボでの薬物送達系からの薬物の急速な放出または「バースト」放出は、送達系の拡散または分解によるより遅い薬物放出と比べて、送達系に吸着されたまたは弱く結合された薬物の一部分によって生じ得る。
【0043】
用語「薬学的に許容され得るキャリア」には、任意のあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤ならびに吸収遅延剤などが含まれる。薬学的に活性な物質に対するそのような媒質および作用物質の使用は、当該分野で周知である。任意の従来の媒質または作用物質が、活性な化合物と不適合である場合を除いて、治療的製剤におけるその使用が企図される。補充的な活性な化合物も、その製剤に組み込まれ得る。
【0044】
II.組成物
PGSおよびPGS-PEG骨格などの生分解性かつ生体適合性のポリマーに共有結合的にコンジュゲート化された局所麻酔剤を含む製剤は、インビボにおいて調整可能な麻酔薬放出を提供することが立証された。それらの製剤は、全身毒性および局所毒性が低い、高濃度の麻酔薬の局所送達を可能にする。投与部位において放出される麻酔薬の速度および量は、麻酔薬の量、ポリマーの分子量、組成および濃度、ならびに分子をコンジュゲート化するために使用される共有結合性リンカーのタイプを変化させることによって、制御可能である。
【0045】
例示的な麻酔剤としては、サイト1ナトリウムチャネル遮断薬およびバニロイドが挙げられる。麻酔剤は、少なくとも1つの局所的な両親媒性ポリマーにコンジュゲート化される。例示的な両親媒性ポリマーとしては、ポリ(セバシン酸グリセロール)(PGS)が挙げられる。いくつかの実施形態において、PGSコンジュゲートは、1つまたはそれを超える親水性ポリマーを含む。例示的な親水性ポリマーとしては、ポリエチレン-グリコール(PEG)が挙げられる。これらの構成要素の各々は、下記で詳細に論じる。麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートの製剤は、さらなる活性な剤(例えば、治療薬または診断薬)ならびに賦形剤および保存剤も含み得る。
【0046】
A.麻酔剤
麻酔剤は、麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートに含められる。コンジュゲート化の前に、麻酔剤は、1つまたはそれを超える遊離ヒドロキシル基または遊離カルボキシル基を含む。いくつかの実施形態において、麻酔剤は、コンジュゲート化の前に、またはそれを超える遊離ヒドロキシル基または遊離カルボキシル基を含むように改変される。いくつかの実施形態において、麻酔剤は、局所麻酔剤である。麻酔剤の例示的なクラスとしては、サイト1ナトリウムチャネルを遮断する作用物質(S1SCB)およびバニロイドレセプターサブタイプ1(TRPV1)アゴニストが挙げられる。好ましい麻酔剤は、テトロドトキシン(TTX)である。
【0047】
1.サイト1ナトリウムチャネル遮断薬(S1SCB)
サイト1遮断薬は、電位開口型ナトリウムチャネルの強力かつ特異的な遮断について長く認識されている分子ファミリーである。サイトIナトリウムチャネル遮断薬(S1SCB)には、フィコトキシン(サキシトキシン(STX)、デカルバモイルサキシトキシン、ネオサキシトキシン(Neo)およびゴニオトキシン)、テトロドトキシン(TTX)、およびコノトキシンのいくつかが含まれる。
【0048】
i.テトロドトキシン(TTX)
テトロドトキシン(TTX)は、ヒト筋細胞(筋肉の収縮性細胞)において高速のNa+電流を遮断することにより、それらの収縮を阻害する、非常に強力な神経毒である。化学的には、それは、アミノポリヒドロキノリン(amino polhydroquinoline)である(Pharmacological Reviews,Vol.18
No.2,pp.997-1049を参照のこと)。
【0049】
テトロドトキシン単独では、有毒すぎて麻酔薬として使用できない。ラットでは、テトロドトキシンとブピバカインとの併用により、テトロドトキシン単独と比べて、強い全身毒性なしに、長い持続時間の坐骨神経遮断がもたらされた(Kohaneら、Anesthesiology,1998:119-131)。電位開口型Na+チャネルの強力な阻害は、TTXが薬物として単独で使用されるには有害すぎるが、制御された形式でそのようなチャネルを遮断することは、パーキンソン病および末期癌患者における慢性疼痛などの症状の処置において望ましいことがある。コンジュゲートの形成によって、この非常に有毒なトキシンが有用かつ安全な麻酔薬となる。
【化1】
【0050】
a.テトロドトキシンの起源
テトロドトキシンは、ヒョウモンダコなどの動物から単離されており、また、細菌によって産生される。TTX産生に関連する最も一般的な細菌は、Vibrio属の種の細菌であり、Vibrio alginolyticusが、最も一般的な種である。フグ、毛顎動物および紐形動物が、Vibrio alginolyticusおよびTTXを含むと示されているが、これらの事実と動物におけるTTXの産生との関連性は、確固として確立されておらず、それらの細菌が本当に動物におけるTTXの起源であるのかに関して文献には多くの議論が残っている。テトロドトキシンは、おそらく最も広く知られたサイト1トキシンであるが、フグに由来する必要があるため、臨床で使用するには高価である。TTXを産生する内共生細菌は、エキソビボで生育されると、TTXの産生が減少する。テトロドトキシンは、いくつかの種のフグおよびある特定の種のカリフォルニアイモリの卵巣および卵から入手できる。Diels-Alder反応によるものまたは炭水化物および同族体からのTTXの合成(Ohyabuら、J Am Chem Soc.Jul 23;125(29):pp8798-805(2003));Nishikawaら、Angew.Chem.Int.Ed.,43,4782.DOI:10.1002/anie.200460293(2004);Chau and Ciufolini,Mar Drugs,9(10):2046-2074(2011)におけるレビュー)をはじめとしたテトロドトキシンの全化学合成に対する数多くのスキームが報告されている。合成は、鏡像異性的に純粋なジエノフィル(dienopile)を使用したDiels-Alder付加環化によるシクロヘキセンの迅速な構築、アミノ化された第四級中心の早期導入、および環の周りのさらなる官能化の相対配置を方向付けるためにその中心を使用することを特長とする。
【0051】
ii.フィコトキシン
フィコトキシンは、興奮性細胞に存在する電位依存性ナトリウムチャネルの特異的な遮断薬として作用する(Kao,C.Y.,Pharm.Rev.,18:997-1049(1966))。ナトリウムチャネルの阻害に起因して、神経インパルスの伝達が遮断され、神経伝達物質の放出が運動神経接合部(neuromotor junction)のレベルで妨げられ、それにより、筋収縮が妨げられる。これらの生理学的効果に起因して、これらの化合物は、注射可能な形態で局所適用されるとき、筋肉の過活動(例えば、筋痙縮および限局性ジストニア)と関連する病理において筋活動阻害剤として使用されるとき、薬理学において潜在的に有用である。さらに、伝達レベルでの神経インパルスの遮断は、これらの化合物が局所浸潤として適用されるときにもたらされるので、それらの化合物は、遠心性神経伝達経路を遮断できるだけでなく、求心性経路も遮断でき、感覚経路の阻害を引き起こすことができ、これらの化合物が局所注射されるときに麻酔効果ももたらすことができる。米国特許第4,001,413号に記載されているように、両方の効果が同時に起こるので、これは、驚くべき効果である。
【0052】
これらのフィコトキシンの化学構造は、式IIの一般構造を有する。
【化2】
【0053】
この構造の特定の化学構造は、表1.1に記載の置換基R1~R5によって定義される。
【表1-1】
【0054】
a.サキシトキシン
サキシトキシン(STX)は、アラスカバタークラムであるSaxidomus gigantcusから初めて抽出され、Gonyaulax属の藻類に存在する。報告されている化学式は、C10H15N7O3.2HClである。サキシトキシンは、水およびメタノールに支障なく溶け、このトキシンは、2つのグアニジニウム部分が組み込まれたペルヒドロプリン核を有すると考えられている。STXは、麻痺性貝中毒に関与する。STXは、公知の最も有毒な非タンパク質化合物の1つであり、マウスでは8μg/Kgの毒性があると報告されている(ヒトに対しては、およそ0.2~1.0mgで致死性であると証明されるであろう)ので、局所麻酔剤として単独で使用するには有毒すぎると広く考えられている。
【0055】
b.ネオサキシトキシンおよびデカルバモイルサキシトキシン
ネオサキシトキシンおよびデカルバモイルサキシトキシンは、潜在的により強力であり、製剤化においてはサキシトキシンにまさる利点を有する可能性がある。
【0056】
ネオサキシトキシン(「NeoSTX」または「Neo」)は、持続時間の長い局所麻酔剤として臨床開発中である(Rodriguez-Navarroら、Anesthesiology,2007;106:339-45;Rodriguez-Navarroら、Neurotox.Res.,2009;16:408-15;Rodriguez-Navarroら、Reg.Anesth.Pain Med.,2011;36:103-9)。ヒトボランティアにおける皮下浸潤の第1相試験は、NeoSTXが、有効な皮膚知覚鈍麻を引き起こしたことを示し(Rodriguez-Navarroら、Anesthesiology,2007;106:339-45)、第2の第1相試験は、ブピバカインとの併用によって、NeoSTXまたはブピバカイン単独と比べてより長時間の痛覚消失がもたらされたことを示した(Rodriguez-Navarroら、Neurotox.Res.,2009;16:408-15)。
【化3】
【0057】
(i)フィコトキシンの起源
サキシトキシン(STX)およびその誘導体は、藻類由来のバイオリアクターにおいて生成され得る。フィコトキシンであるネオサキシトキシン、サキシトキシンおよびゴニオトキシン(gonyaulatoxin)は、Alexandrium属の種、Piridinium属の種およびGimnodinium属の種といった有害藻類の異常発生によって産生される活性な化合物である(Lagos,N.Biol.Res.,31:375-386 1998))。過去15年間で、これらのフィコトキシンは、海生渦鞭毛藻類によって産生されることに加えて、光合成藍藻類などの淡水シアノバクテリアによっても産生され得ることが実証された。
【0058】
麻痺性フィコトキシンを産生できるたった4つの属のシアノバクテリアが同定されており、その各々は、産生されるフィコトキシンの量とタイプの両方が異なるフィコトキシン混合物を産生する。すなわち、それらは、異なるプロファイルの麻痺性フィコトキシンを産生する(Lagosら、1999,TOXICON,37:1359-1373(1999).Pereiraら、TOXICON,38:1689-1702(2000)。
【0059】
STXは、少なくとも3つの異なる方法に従った化学合成によっても生成され得る(Kishiら、J.Am.Chem.Soc.,98,2818(1977));Jacobiら、J.Am.Chem.Soc.,,106(19),pp5594-5598(1984)Flemingら、J.Am.Chem.Soc.,3926(2006))。
【0060】
2つのサキシトキシン誘導体であるネオサキシトキシン(NeoSTX)およびデカルバモイルサキシトキシンが、生成プロセスおよび効力に関して利点を有する。ある研究では、NeoSTXを含むサキシトキシンシリーズのいくつかのメンバーを用いてラットの坐骨神経遮断を調べた(Kohaneら、Reg.Anesth.Pain Med.,25:52-9(2000)。サキシトキシンおよびこれらの2つの誘導体のすべてが、ブピバカインまたはエピネフリンと併用されたとき、顕著に相乗的な遮断および長時間のブロック(インビボのラット坐骨神経において1~2日間)をもたらす。
【0061】
2.バニロイドレセプターサブタイプ1(TRPV1)アゴニスト
a.カプサイシンおよびその誘導体
カプサイシンは、3-ヒドロキシ-4-メトキシ-ベンジルアミド(バニロイド環)ファーマコフォアおよび疎水性アルキル側鎖を含むと特徴付けられているカプサイシノイド群の化合物のメンバーである。カプサイシノイドは、トウガラシの果実およびそれらの製品の辛味に関与する化合物である。
【0062】
カプサイシンは、1876年に初めて単離され、1919年に初めて、実験構造がC
18H
27NO
3(8-メチル-N-バニリル-trans-6-ノネンアミド)と明らかにされた。カプサイシンは、305ダルトンの分子量を有し、式IVに記載の、11個の炭素の疎水性アルキル側鎖を有するバニロイド環ファーマコフォアを有する。疎水性アルキル側鎖における二重結合構造は、分子内回転を防ぐことから、この分子は、cis/trans異性を示す。しかしながら、cis異性体は、安定性の低い配置であるので、カプサイシンは、天然にはtrans異性体として存在する。
【化4】
【0063】
カプサイシンの揮発度は非常に低く、完全に無臭である。精製されたカプサイシンは、室温において蝋様の無色の物質であり、冷水に溶けないが、アルコール、脂肪および油には支障なく溶ける。長い炭化水素尾部は、脂質の多い細胞膜へのカプサイシンの組み込みを可能にし、カプサイシンは、皮膚および粘膜から局所的に効果的に吸収されると知られている。カプサイシンの薬物動態学的半減期は、およそ24時間であると見出された。
【0064】
カプサイシンは、慢性疼痛管理のための局所薬物としてFDAに承認されている。カプサイシンは、一過性受容体電位バニロイド(TRPV1)に結合し(Caterinaら、Nature,389:816-824(1997))、それにより、感覚ニューロンにおける侵害刺激が媒介される。カプサイシンは、動物試験において安全であると示された(Parkら、Anticancer Res.,18:4201-4205(1998))。
【0065】
カプサイシノイドは、チリペッパーの活性な構成要素である天然に存在する化合物であり、世界中で調理用途において使用されることで有名である。カプサイシノイドは、ナス科のCapsicum属に属する植物の果実内で産生される。「芳しい」トウガラシ植物の果実(例えば、ハラペーニョまたはハバネロとしてよく知られているもの)は、カプサイシンの豊富な天然の起源である。カプサイシンは、種子とトウガラシ果実の肋との間に位置し、乾燥および/または粉砕されたトウガラシ果実の中に保持されている。カプサイシノイドが高含有量であることで有名なCapsicum種の例としては、C.annum(オレオレジントウガラシ)、C.frutescens(ハラペーニョトウガラシ)およびC.chinense(ハバネロトウガラシ)が挙げられ、これらは、0.22~20mgの総カプサイシノイド/g乾燥重量を含むと見出された。カプサイシンは、トウガラシ植物内で最も豊富なカプサイシノイドであり、辛味品種のほとんどにおいて総カプサイシノイドの約71%を占める(de Lourdes Reyes-Escogidoら、Molecules,16:1253-1270(2011)を参照のこと)。カプサイシンの生合成は、酵素カプサイシンシンターゼ(CS)によって生じる、バニリルアミンと8-メチルノネン酸との縮合を必要とする。
【0066】
精製されたカプサイシンは、市販されている(Sigma Aldrich # M2808,CAS#404-86-4)。カプサイシンおよびそのアナログは、中程度の圧力下の140~170℃の温度において塩化脂肪酸およびアミンを使用して産業的に生成される(Kagaら、J.Org.Chem.,54:3477-3478,1989およびKagaら、Tetrahedron 1996,52,8451-8470を参照のこと)。しかしながら、カプサイシンの大規模化学合成の応用は、必要とされる試薬の毒性によって限定され、この欠点が、酵素的合成を従来の化学合成に代わる魅力的なものにする。ゆえに、酵素触媒反応を用いて基質分子からカプサイシノイドをインビトロで化学合成するためのいくつかの方法が知られている(例えば、Kobataら、Biotechnol.Lett.,21,547-550(1999)を参照のこと)。インビトロにおけるカプサイシンの酵素的形成は、液体培地で生育されたCapsicum annum植物由来の細胞および組織を用いて実証されている(Johnsonら、Plant Sci.70:223-229(1990)を参照のこと)。インビトロで生育され、アルギン酸カルシウムで固定化された果実由来の細胞および胎座組織は、培地中でカプサイシンを産生した。カプサイシン合成の大きな可能性が、固定化された細胞よりも固定化された胎座組織で観察された。30日間培養した後、2,400μgカプサイシン/g固定化胎座という最大収量が観察された。
【0067】
b.カプサイシンのアナログ
i.カプサイシノイド
いくつかの実施形態において、カプサイシンは、カプサイシンのカプサイシノイドアナログである。カプサイシンのカプサイシノイドアナログは、当該分野で公知である。例えば、Reilly and Yost,Drug Metab.Disp.,33:550-536(2005)を参照のこと。ReillyおよびYostは、カプサイシンの5つの天然に存在するカプサイシノイドアナログを報告している。これらの化合物は、同じ3-ヒドロキシ-4-メトキシ-ベンジルアミド(バニロイド環)ファーマコフォアを有するが、疎水性アルキル側鎖部分に違い(例えば、C15-16(ω-2,3位)の飽和、C17におけるメチル基の欠失(第三級炭素の喪失)および炭化水素鎖の長さの変更)がある。カプサイシンの天然に存在するカプサイシノイドアナログとしては、式Vにおけるような、ホモカプサイシン、ノルジヒドロカプサイシン、ジヒドロカプサイシン、ホモジヒドロカプサイシン、n-バニリルオクタンアミド、ノニバミドおよびn-バニリルデカンアミドが挙げられるが、これらに限定されない。
【化5】
【0068】
いくつかの実施形態において、カプサイシンは、カプサイシンのカプシノイドアナログである。カプシエイト、ジヒドロカプシエイトおよびノルジヒドロカプシエイト(nordihydrocapsoate)を含むカプシノイド群の化合物は、カプサイシノイドと構造的に似ているが、式VIにおけるように、中央の結合が異なる(カプサイシノイドではアミド部分であり、カプシノイドではエステル部分である)。カプシノイドは、少数の品種の無辛味赤唐辛子植物(例えば、CH19sweetという栽培品種)から単離される。カプシエイトの生物作用能は、カプサイシンと似ているが、カプシノイドは、辛味または感覚刺激を示さない。
【化6】
【0069】
いくつかの実施形態において、カプサイシンは、合成カプサイシノイドであるか、またはカプサイシンのカプシノイドアナログである。カプサイシンの複数の合成(天然に存在しない)アナログが当該分野で公知である(例えば、Satohら、Biochim.Biophys.Acta.,1273:21-30(1996)を参照のこと)。辛味アナログおよび無辛味アナログは、種々のアシル鎖長および/または芳香環における化学的置換を用いて合成できる。詳細には、カプサイシノイドとカプシノイドの両方が、置換パターンの改変および/またはベンゼン環上のメトキシ基の数の改変によって合成的に修飾でき、それらの修飾は、ユビキノンのキノン環上で重ねることができる場合がある。さらに、カプサイシンは、その分子における両性のアミド結合単位の位置の変更および/またはこの単位の他の化学修飾によって改変され得る。化学修飾の例を式VIIに示す。
【化7】
【0070】
B.ポリマー
インビボで麻酔薬を制御放出するためのコンジュゲートは、麻酔薬が例えばエステル結合によって共有結合的にコンジュゲート化された1つまたはそれを超えるポリマーを含む。麻酔薬が結合するポリマーは、「骨格」ポリマーとも称されることがある。
【0071】
麻酔薬およびポリマーの共有結合性コンジュゲートは、麻酔薬が結合し得る好適なポリマー(例えば、ジカルボン酸/トリオール(TD)ポリマー)から形成される「骨格」を必要とする。そのようなポリマーの生成およびコンジュゲート化のための代表的なスキームをそれぞれ
図1Aおよび1Bに提供する。
【0072】
いくつかの実施形態において、コンジュゲートは、ポリエステルポリマーを含む。いくつかの実施形態において、コンジュゲートは、1種より多いポリエステルポリマーのブレンド物を含む。好ましいポリエステルポリマーは、ポリ(セバシン酸グリセロール)(PGS)である。
【0073】
いくつかの実施形態において、PGSは、1つまたはそれを超えるさらなるポリエステルポリマーとブレンドされて、コンジュゲートの1つまたはそれを超える材料特性を変化させる。コンジュゲートに含めるのに適したポリエステルポリマーとしては、生体吸収型の合成ポリエステル(例えば、ポリ(ラクチド-co-カプロラクトン)、ポリ(カプロラクトン)(PCL)、ポリジオキサノン(PDO)、ポリ(オルト)エステル、ポリ(グリコール酸)(PGA)、乳酸およびグリコール酸のポリマー、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリブチレート)、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ならびにそれらの共重合体(copolmyers)、ブレンド物および化学的誘導体(化学基、例えば、アルキル、アルキレンの置換、付加、ヒドロキシル化、酸化、および当業者が日常的に行う他の修飾)が挙げられる。-COOH基または-OH基を有する任意の天然高分子または合成ポリマーが、麻酔剤をコンジュゲート化するために使用され得る。ゆえに、天然高分子および合成ポリマー(例えば、ヒアルロン酸、タンニン酸、ポリ-アクリル酸、およびカルボキシル末端または側鎖部分を含む他の化合物)が、麻酔薬コンジュゲートに含められ得る。一般に、麻酔薬の共有結合性コンジュゲートに含められるポリマーは、生分解性かつ生体適合性である。しかしながら、いくつかの実施形態において、1つまたはそれを超える非生分解性ポリマーが、麻酔薬の共有結合性コンジュゲートに含められる。麻酔薬の共有結合性コンジュゲートが、1つまたはそれを超える生分解性ポリマーおよび1つまたはそれを超える非生分解性ポリマーのブレンド物を含むとき、その生分解性ポリマーと非生分解性ポリマーとの比率は、レシピエントのニーズに応じて、例えば、麻酔剤の量および/または送達速度を調整するために変更され得る。
【0074】
1.ポリ(セバシン酸グリセロール)(PGS)
いくつかの実施形態において、他の生体吸収型ポリエステルが、麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートにおいて使用するために、ポリ(セバシン酸グリセロール)(PGS)と併用されるか、またはPGSの代わりに用いられる。インビボで麻酔薬を制御放出するための、ポリマーに共有結合された麻酔薬のコンジュゲートは、ポリ(セバシン酸グリセロール)(PGS)を含み得る。PGSは、種々の生物医学的用途において用いられる生分解性ポリエステルポリマーである。PGSは、通常、グリセロールとセバシン酸との重縮合によって調製される。PGSは、生体適合性かつ生分解性であり、PGSの機械的特性および分解動態は、硬化時間、硬化温度、反応体の濃度、およびアクリル化PGSではアクリル化の程度などの因子を制御することによって適応され得る(Raiら、Progress in Polymer Science V.37,(8),pp.1051-1078(2012))。
【0075】
グリセロールは、脂質の基本的な構成単位であり、一方、セバシン酸は、中鎖から長鎖脂肪酸のω-酸化における天然の代謝中間体である。さらに、グリセロール、およびセバシン酸を含む共重合体は、米国食品医薬品局(FDA)によって医学的応用について承認されている。PGSは、その望ましい機械的特性、生体適合性および制御分解に起因して、組織工学用途に提案されている(Jia,Y.ら、Polymer Chemistry 7,2553-2564,doi:10.1039/c5py01993a(2016);Raiら、Progress in Polymer Science 37,1051-1078(2012);Wangら、Journal of Biomedical Materials Research Part A 66A,192-197,(2003);Lohら、Journal of Materials Chemistry B 3,7641-7652(2015);Wangら、Nat Biotech 20,602-606(2002))。PGSは、ヒドロキシル基およびカルボキシル基を末端とし、ペプチド、タンパク質および薬物に容易に共有結合的にコンジュゲート化され得る。TTXは、
図1に描かれているように、ヒドロキシル基が豊富な分子構造を有し、エステル結合を介してPGSに共有結合的にコンジュゲート化され得、これらの結合の加水分解によって放出され得る。さらに、ほぼゼロ次のプロファイルに従ってTTXの長期間にわたる一貫した放出を誘導する、PGSおよびPGS系共重合体の表面侵食の性質は、それらをユニークなものにし、制御された薬物送達用途について他のポリエステルよりも好ましくする(Wangら、Journal of Biomedical Materials Research Part A 66A,192-197(2003))。PEGを組み込むことにより、得られるコンジュゲートの親水性の調整が可能になるので、TTXの放出速度の調整が可能になる。これらの特徴は、このコンジュゲートに、全身毒性および局所毒性を最小限に抑えながら、長い持続時間の局所麻酔の可能性を付与する。
【0076】
2.親水性を調整可能にするためのポリマー
ポリ(セバシン酸グリセロール)(PGS)に共有結合された麻酔薬のコンジュゲートは、必要に応じて、1つまたはそれを超えるさらなる親水性ポリマーを含む。その親水性ポリマーは、PGS骨格を延長し、コンジュゲートの親水性を変化させる。PGSに対する親水性ポリマーの相対量が増加すると、コンジュゲートの親水性が高まる。コンジュゲートの親水性は、インビボでのエステル結合の加水分解速度に関係する。PGS-麻酔薬コンジュゲートにおけるエステル結合の加水分解速度は、インビボでのコンジュゲートからの麻酔剤の放出に関係する。ゆえに、インビボでのポリエステルコンジュゲートからの共有結合した麻酔薬の放出速度は、PGS-麻酔薬コンジュゲートに付着または会合する親水性ポリマーの量およびサイズによって制御される。
【0077】
好ましい実施形態において、1つまたはそれを超える親水性ポリマー成分は、ポリ(アルキレングリコール)鎖を含む。ポリ(アルキレングリコール)鎖は、1~500個の繰り返し単位、より好ましくは、40~500個の繰り返し単位を含み得る。好適なポリ(アルキレングリコール)としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレン1,2-グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリプロピレン1,3-グリコールおよびそれらの共重合体が挙げられる。
【0078】
ポリβ-アミノエステルおよび1,2-アミノアルコール脂質をはじめとした多種多様の親水性ポリマーが含められ得る。いくつかの実施形態において、それらのポリマーは、アルキル修飾ポリマー、例えば、アルキル修飾ポリ(エチレングリコール)である。他の例示的なポリマーとしては、ポリ(アルキレングリコール)、多糖、ポリ(ビニルアルコール)、ポリピロリドン、ポリオキシエチレンブロック共重合体(例えば、PLURONIC(登録商標))、ポリエチレングリコール(PEG)およびそれらの共重合体が挙げられる。好ましい親水性ポリマーは、生体適合性であり(すなわち、著しい炎症応答または免疫応答を誘導せず)、無毒性である。好適な親水性ポリマーの例としては、ポリ(アルキレングリコール)、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(プロピレングリコール)(PPG)、およびエチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体、ポリ(オキシエチル化ポリオール)、ポリ(オレフィンアルコール)、ポリビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリルアミド)、ポリ(サッカライド)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(ビニルアルコール)、ならびにそれらの共重合体、ターポリマーおよび混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
いくつかの実施形態において、1つまたはそれを超える親水性ポリマー成分は、ポリエチレンオキシド(PEO)の1つまたはそれを超えるブロックを、他の生体適合性ポリマー(例えば、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)またはポリカプロラクトン)から構成される1つまたはそれを超えるブロックとともに含む共重合体である。1つまたはそれを超える親水性ポリマーセグメントは、PEOの1つまたはそれを超えるブロックを、ポリプロピレンオキシド(PPO)を含む1つまたはそれを超えるブロックとともに含む共重合体であり得る。具体例としては、PEO-PPO-PEOのトリブロック共重合体(例えば、POLOXAMERS(商標)およびPLURONICS(登録商標))が挙げられる。
【0080】
a.ポリ(エチレングリコール)(PEG)
1つまたはそれを超えるPEGを必要に応じて含む(PGS)に共有結合された麻酔薬のコンジュゲートが記載される。
【0081】
PEGは、通常使用される親水性ポリマー剤である。修飾デンドリマー系ナノ粒子(MDNP)に含められる両親媒性PEGのサイズ、相対量および分布は、得られるMDNPの生物物理学的特徴(例えば、構造的特長および電荷密度)に影響し得る。
【0082】
MDNPの物理的特性は、両親媒性PEGのサイズ、相対量および分布(すなわち、ペグ化の程度)と直接関連する。改変され得る例示的な特性としては、1つまたはそれを超えるタイプの真核細胞によるMDNP取り込みの有効性、治療薬、予防薬および診断薬の細胞内送達のスピードおよび有効性、ならびにMDNPの免疫原性および細胞傷害性が挙げられる。ある特定の実施形態において、ペグ化によって、MDNPの電荷中和が生じる。
【0083】
通常、両親媒性PEGには、短鎖オリゴ-エチレングリコールが含まれる。例示的なオリゴ(oligoi)-エチレングリコールとしては、ジ-エチレングリコール、トリ-エチレングリコール、テトラ-エチレングリコール、ペンタ-エチレングリコール、ヘキサ-エチレングリコールなどが挙げられる。
【化8】
【0084】
いくつかの実施形態において、両親媒性ポリマーは、モノメトキシポリエチレングリコール(mPEG)にコンジュゲート化されたリン脂質である。ある特定の実施形態において、脂質と会合したPEGまたはmPEGは、分枝状または「マルチアーム型」のPEGである。MDNPには、スルフヒドリルまたはチオピリジン末端基を有する少なくとも2つの分枝を有するマルチアーム型ポリエチレングリコールが含まれ得る。しかしながら、スクシンイミジルまたはマレイミド末端などの他の末端基を有するPEGポリマーも使用できる。
【0085】
麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートは、種々の分子量を有するポリエチレングリコールポリマーを含み得る。例えば、PEGは、およそ100Da(すなわち、PEG100Da)~およそ12,000kDa(すなわち、PEG12KDa)(両端値を含む)の分子量を有し得る。麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートは、単一種の両親媒性PEGを用いて形成され得るか、または2つもしくはそれを超える異なる種の両親媒性PEGから形成され得る。例えば、麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートは、種々の分子量を有する複数の異なる種のPEGを用いて形成され得る。
【0086】
麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートは、単一の両親媒性ポリマー種、または複数の異なる両親媒性ポリマー種の混合物を用いて形成され得る。両親媒性ポリマーは、付加物で修飾され得る。例えば、両親媒性ポリマーは、同じまたは異なる1つまたはそれを超える種々の付加物で修飾され得る。ゆえに、麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートは、PGSおよび1つまたはそれを超えるPEGおよび他のポリマー(必要に応じて同じまたは異なる付加物の混合物を含む)を用いて形成され得る。
【0087】
例示的なPEGは、ある分子量を有するPEG、例えば、PEG(100);PEG(200);PEG(300);PEG(400);PEG(500);PEG(600);PEG(750);PEG(800);PEG(900);PEG(1,000);PEG(2,000);PEG(3,000);PEG(5,000);PEG(6,000);PEG(7,000);PEG(8,000);PEG(9,000);PEG(10,000);PEG(12,000);および12,000を超える分子量を有するPEG、例えば、PEG(20,000)である。脂質成分は、飽和脂肪酸部分または不飽和脂肪酸部分を含み得る。
【0088】
いくつかの実施形態において、麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートは、1つまたはそれを超える種のPEGまたは[メトキシ(ポリエチレングリコール)]mPEG)分子を含む。単一種より多いPEGおよび/またはmPEGが使用されるとき、それらは、同じまたは異なるモル比で存在し得る。麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートに組み込まれ得る例示的なPEGまたはmPEGとしては、100Da~80,000Da、例えば、100Da~10,000Da、より好ましくは、200Da~5,000Da、最も好ましくは、200~2,000Daの分子量を有するPEGまたはmPEG成分が挙げられる。
【0089】
PEGおよび/またはmPEGは、1:01~1:1,000というポリエステル対PEGのモル比で含められ得る。例えば、いくつかの実施形態において、PEGは、1:1のPGS:PEGのモル比、または1:1を超えるモル比(例えば、1:2、1:3、1:4;1:5、1:6、1:7、1:8、1:9もしくは1:10または1:10を超えるモル比)でPGS-PEG-TTXコンジュゲートに存在する。いくつかの実施形態において、PEGは、1:1のPEG:PGSのモル比、または1:1を超えるモル比(例えば、1:2、1:3、1:4;1:5、1:6、1:7、1:8、1:9もしくは1:10または1:10を超えるモル比)でPGS-PEG-TTXコンジュゲートに存在する。
コンジュゲートに含められるPEG(または他の親水性ポリマー)の量およびサイズは、インビボでのコンジュゲートの所望の生理学的特性に応じて変更され得る。
【0090】
C.共有結合性リンカー部分
PGSまたはPGS-PEGまたは他のポリマーコンジュゲートに共有結合された麻酔薬のコンジュゲートは、1つまたはそれを超えるタイプの共有結合を介して1つまたはそれを超える麻酔剤に結合する。好ましい実施形態において、その共有結合は、インビボにおいて分解されるかまたはその他の方法で切断されて、分解の部位においてまたは分解の部位付近において麻酔剤を放出するような、生分解性の結合である。例示的な生分解性の共有結合は、エステル結合などの加水分解性の結合である。
【0091】
いくつかの実施形態において、麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートは、例えばエステル結合を介して、PGSまたはPGS-PEGまたは他のポリマー骨格に直接、コンジュゲート化または付着された麻酔剤および/またはさらなる活性な剤を含む。必要に応じて、それらの麻酔剤または化合物は、種々の結合(例えば、ジスルフィド、カーボネート、カルバメート、チオエステル、ヒドラジン、ヒドラジドおよびアミド結合)を介し、1つまたはそれを超えるスペーサー/リンカーを介して、PGSまたはPGS-PEGまたは他のポリマー骨格にコンジュゲート化される。いくつかの実施形態において、その付着は、その作用物質とPGSまたはPGS-PEGまたは他のポリマー骨格との間にジスルフィド架橋を提供する適切なスペーサーを介して生じる。この場合、麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートは、身体内に見られる還元条件下におけるチオール交換反応によって、インビボにおいて作用物質を急速放出することができる。
【0092】
1.スペーサー
いくつかの実施形態において、麻酔剤は、1つまたはそれを超える中間体「スペーサー」または「リンカー」分子を介してポリマー骨格にカップリングされる。そのスペーサーまたはリンカーは、その分子の親水性を高めることができ、それにより、麻酔薬/ポリマー結合の加水分解または分解の速度を高め、その結果、インビボでの麻酔剤の放出が増大する。ゆえに、スペーサーは、インビボにおけるポリマーからの麻酔薬および/またはさらなる活性な剤の放出速度を改変するために含められ得る。
【0093】
用語「スペーサー」は、活性な剤をPGSまたはPGS-PEGまたは他のポリマー骨格に連結するために使用される化合物を含む。そのスペーサーは、ポリマーと麻酔剤とを架橋するために共に連結される、単一の化学的実体または2つもしくはそれを超える化学的実体であり得る。そのスペーサーには、スルフヒドリル、チオピリジン、スクシンイミジル、マレイミド、ビニルスルホンおよびカーボネート末端を有する任意の低分子化学的実体、ペプチドまたはポリマーが含まれ得る。
【0094】
スペーサーは、スルフヒドリル、チオピリジン、スクシンイミジル、マレイミド、ビニルスルホンおよびカーボネート基が末端である化合物から選択され得る。スペーサーには、チオピリジン末端の化合物、例えば、ジチオジピリジン、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル6-(3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート(LC-SPDP)またはスルホスクシンイミジル6-(3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート(スルホ-LC-SPDP)が含まれ得る。スペーサーには、ペプチドも含まれ得、ここで、それらのペプチドは、スルフヒドリル基を本質的に有する、直鎖状であるかまたは環状である(例えば、グルタチオン、ホモシステイン、システインおよびその誘導体、arg-gly-asp-cys(RGDC)、シクロ(Arg-Gly-Asp-d-Phe-Cys)(c(RGDfC))、シクロ(Arg-Gly-Asp-D-Tyr-Cys)、シクロ(Arg-Ala-Asp-d-Tyr-Cys))。スペーサーは、メルカプト酸誘導体(例えば、3メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、4メルカプト酪酸、チオラン-2-オン、6メルカプトヘキサン酸、5メルカプト吉草酸および他のメルカプト誘導体、例えば、2メルカプトエタノールおよび2メルカプトエチルアミン)であり得る。
【0095】
いくつかの実施形態において、スペーサーは、チオサリチル酸および/またはその誘導体、(4-スクシンイミジルオキシカルボニル-メチル-アルファ-2-ピリジルチオ)トルエン、(3-[2-ピリジチオ]プロピオニルヒドラジドである。いくつかの実施形態において、スペーサーは、マレイミド末端を有し、ここで、そのスペーサーは、ポリマーまたは低分子化学的実体(例えば、ビス-マレイミドジエチレングリコールおよびビス-マレイミドトリエチレングリコール、ビス-マレイミドエタン、ビスマレイミドヘキサン)を含む。いくつかの実施形態において、スペーサーは、ビニルスルホン、例えば、1,6-ヘキサン-ビス-ビニルスルホンを含む。いくつかの実施形態において、スペーサーは、チオグリコシド、例えば、チオグルコースを含む。いくつかの実施形態において、スペーサーは、1つまたはそれを超える還元タンパク質(例えば、ウシ血清アルブミンおよびヒト血清アルブミン)、ジスルフィド結合を形成できる任意のチオール末端の化合物から形成される。スペーサーには、マレイミド、スクシンイミジルおよびチオール末端を有するポリエチレングリコールも含まれ得る。
【0096】
いくつかの実施形態において、スペーサー/リンカーは、ガンマ-アミノ酪酸(GABA)リンカー、アリルリンカー、プロパルギルリンカー、エタンチオールリンカー、ピリジンジスルフィドリンカーである。いくつかの実施形態において、スペーサー/リンカーは、例えばエステル結合と比べて生理学的条件下における安定性が改善されるように、エーテル、チオエステル、カルバメート、カーボネート、ヒドラジンまたはアミド結合のうちの1つまたはそれを超える結合を介してPGSまたはPGS-PEGまたは他のポリマー骨格にコンジュゲート化される。
【0097】
他の実施形態において、NACなどの活性な剤のコンジュゲート化のためのクリックケミストリーに関与し得る、種々の結合、例えば、エーテル、エステル、カルバメート、カーボネートなどを介した、PGSまたはPGS-PEGまたは他のポリマー骨格表面に対する種々のリンカー、例えば、アリル、プロパルギルなどの連結。
【0098】
さらなる実施形態において、PGSまたはPGS-PEGまたは他のポリマー骨格は、1つのリンカーを介して第1の麻酔薬または活性な剤にコンジュゲート化され、一方で、異なるリンカーを介して第2の麻酔薬または活性な剤にコンジュゲート化される。
【0099】
D.浸透促進賦形剤
ポリエチレンオキシドは、麻酔薬-ポリマーコンジュゲートに対して化学的浸透促進剤(CPE)として機能することが立証されている。
【0100】
実施例におけるデータは、麻酔薬-ポリマーコンジュゲートがPEG200の溶液中に分散させられたとき、PEG200がCPEとして機能することを実証している。PEG中に分散させられた麻酔薬-ポリマーコンジュゲートの溶液は、神経への薬物流入を増大させることができ、これは、PEG200の両親媒性の性質に起因し得る。CPEは、麻酔薬が神経周膜バリアを通り抜けて神経への薬物流入を増大させることを可能にするかまたはそのように増大させることができるように促進することがあり得る。
【0101】
下記の実施例に記載されるように、0.5mLのPEG200中の1~3μgの用量のコンジュゲート化されていない麻酔薬(例えば、TTX)は、試験動物の100%において完全な神経遮断をもたらし、ブロックの持続時間は、最大5.3±0.3時間であった。これは、臨床において通常使用される麻酔薬である0.5%ブピバカインの効果よりも3倍長い。PEG200は、低毒性であること、および種々の薬学的製剤においてすでに広く使用されていることから、臨床における局所麻酔に適した送達媒体である。
【0102】
ゆえに、いくつかの実施形態において、麻酔薬-ポリマーコンジュゲートの製剤は、PEGを含む賦形剤を含む。好ましい賦形剤は、PEG200である。賦形剤は、麻酔薬-ポリマーコンジュゲートの有効性を高める。
【0103】
TDP-TTXコンジュゲートは、混和性が良いことから、PEG200中に容易に分散させられ、シリンジで注射可能な均一なTDP-TTX/PEG200製剤が形成された。調製されたすべてのTDP-TTX/PEG200製剤は、10Pa・s未満の粘度を有する液体として挙動し、シリンジ注射による患者への投与が可能になった。
【0104】
いくつかの実施形態において、麻酔薬-ポリマーコンジュゲートおよびCPEは、1つの系に統合される。例示的な実施形態において、PGS-PEG-TTXの製剤内にPEG200を含めることにより、PEG200賦形剤が存在しない等量のPGS-PEG-TTXよりも広い治療指数がもたらされる。
【0105】
ゆえに、いくつかの実施形態において、PGSまたはPGS-PEGに共有結合された麻酔薬のコンジュゲートは、注射製剤の有効性を高めるために、PEG200などのPEG中に分散させられる。
【0106】
好ましい実施形態において、麻酔薬の共有結合性コンジュゲートは、注射または浸潤を介して、有痛部位にまたは有痛部位の近くに直接投与するための液体として製剤化される。好ましい賦形剤としては、1Da~1,000Daの分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)、例えば、PEG200が挙げられる。
【0107】
1.シリンジによって注射可能な製剤
PGS-TTXおよびPGS-PEG-TTXのシリンジによって注射可能な製剤に対する溶媒の選択は、患者による患部への適切な投与に必要な所望の特定の流動特性を考慮しなければならない(Mastropietroら、J Dev Drugs 2,108(2013))。例えば、PGSは、熱硬化性ポリマーであり、PGSの弾性率は、様々なパラメータ(例えば、反応時間、反応温度および硬化時間)を制御することによって容易に調整できる。
【0108】
いくつかの実施形態において、麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートは、そのコンジュゲートがリン酸緩衝食塩水(PBS)などの水性媒質中に分散させられることを可能にするのに十分量の親水性ポリマーを含む。例えば、骨格に高いパーセンテージのPEGを含むPGS-PEG2000-TTXおよびPGS-PEG1000-TTXコンジュゲートは、PBSに均一に懸濁させられ得る。しかしながら、いくつかのPGS-PEG-TTXおよびPGS-TTXコンジュゲートは、PBSに容易に均一に懸濁できない。ゆえに、いくつかの実施形態において、コンジュゲートの親水性を高めるために可溶化剤が加えられ、注射製剤に適用できるようになる。例示的な可溶化剤としては、PEGが挙げられる。好ましいPEGは、PEG200である。PEG200は、コンジュゲートのための可溶化媒体として機能するだけでなく、麻酔剤用の送達ビヒクルとしてのコンジュゲートの有効性を高める浸透促進剤として機能することも立証されている。
【0109】
i.PEG
いくつかの実施形態において、麻酔薬の共有結合性コンジュゲートは、PEGへの均一な懸濁によって、シリンジによって注射可能な形態として製剤化される。
【0110】
用語「注入物」とは、注射される材料のことを指す。いくつかの実施形態において、注入物は、流体媒質として、麻酔薬の共有結合性コンジュゲートの分散を可能にするかまたは増大させる1つまたはそれを超える賦形剤材料を含み、注射または浸潤を介した投与に適用できるようになる。ゆえに、いくつかの実施形態において、麻酔薬の共有結合性コンジュゲートは、PEGの水溶液への分散による注射可能な溶液として製剤化される。
【0111】
通常、PEGは、PGS-PEG-TTXコンジュゲートの親水性を高めるために製剤に加えられる。PEG濃度が高まると、PBSに共重合体が溶解する。例えば、いくつかの実施形態において、PGS-TTXコンジュゲートは、PEG100、PEG-モノメチル-エーテル(mPEG)、PEG200、PEG250、PEG300、PEG400またはPEG500に均一に懸濁させられる。
【0112】
好ましい実施形態において、麻酔薬の共有結合性コンジュゲートは、PEG200への均一な懸濁によって、シリンジによって注射可能な形態として製剤化される。PEG200は、無色透明の粘稠性の液体である。PEG200は、低毒性であることに部分的に起因して、種々の薬学的製剤において広く使用されている。シリンジによって注射可能な高品質の製剤を作製するために、PGS-PEG-TTXおよびPGS-TTXコンジュゲートは、
図4の図に示されるように、溶媒蒸発プロセスを介して製剤化されて、PEG200中になる。
【0113】
合成された製剤の粘弾特性を、レオロジーによって調べた。PGS-PEG200-TTX/PEG200(50mg/ml)の製剤の場合、損失弾性率(G”)が、貯蔵弾性率(G’)よりも高かったことから、その複素弾性率の粘稠成分が材料の挙動を支配することが示唆された(
図5A)。さらに、コンジュゲートにおけるPEG濃度が低下するにつれて粘度は上昇するが、すべてのPGS-PEG-TTX/PEG200製剤(50mg/ml)が、試験された角振動数において10Pa・s未満の粘度を有した(
図5B)。粘稠性の挙動ではあるが低粘度であることから、PGS-PEG-TTX/PEG200製剤はすべて、シリンジによって注射可能であった。
【0114】
E.麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートおよび投与単位
親水性ポリマー(例えば、PGSまたはPGS-PEG)に共有結合された麻酔薬のコンジュゲートは、(i)神経遮断を提供する有効量の局所麻酔剤;(ii)親水性ポリマー骨格(好ましくは、PGS);ならびに(iii)必要に応じて、(a)製剤の1単位用量あたりにロードされる麻酔薬の総量;および(b)インビボにおけるポリマー骨格からの麻酔薬の放出速度といった所望の機能要素を提供するのに必要な相対比でポリマー骨格に結合した1つまたはそれを超えるPEGを含む。
【0115】
単位時間あたりの麻酔薬の放出速度および用量(すなわち、用量/時、用量/日など)は、投与される総量、ならびに親水性ポリマーの互いの比(例えば、PGSの量とPEGの量との比)に応じて変更され得る。例えば、いくつかの実施形態において、ポリマー-麻酔薬コンジュゲートへのPEGの付加は、コンジュゲートの全親水性を決定する。コンジュゲートの全親水性は、インビボにおけるエステル結合の加水分解速度を決定する。インビボにおけるエステル結合の加水分解速度は、インビボにおける麻酔薬の放出速度を決定する。ゆえに、コンジュゲートの全親水性は、コンジュゲート内のエステル結合の加水分解がインビボにおいて生じる期間を短縮または延長するためにより多いまたはより少ないPEGを付加することによって、調整され得る。
【0116】
いくつかの実施形態において、インビボにおける麻酔薬の放出速度は、活性な剤の放出をインビボにおける生理学的条件への曝露後最大1ヶ月間にわたって提供するようにポリマー-麻酔薬コンジュゲートにおけるPEGセグメントのパーセンテージを調整することによって、調節される。例えば、インビボにおけるTTXの放出速度は、PGS-TTXコンジュゲートにおけるPEGセグメントのパーセンテージを調整することによって調節され得る。いくつかの実施形態において、TTXの放出速度は、PGS-PEG骨格に組み込まれるPEGの分子量に比例して高まる。ゆえに、TTX-PGS-PEG1000は、インビボにおいて、等モル量のTTX-PGS-PEG100よりもかなり速い速度でTTXを放出する。
【0117】
コンジュゲートは、インビボにおける放出速度が、1~30日間の期間に全麻酔薬のおよそ50%、60%、70%、80%、90%または90%超を放出するように、製剤化され得る。ある例示的な実施形態では、28日後に、TTXの99.7%が、PGS-PEG2000-TTXから放出されるのに対し、PGS-PEG1000-TTX、PGS-PEG200-TTXおよびPGS-TTXは、同じ期間で、それぞれ89.5、62.5および43.7%のTTX放出を示した。PGS-PEG200-TTXおよびPGS-TTXコンジュゲートの場合、TTXは、表面侵食機構の下でのPGS系共重合体の分解に起因する、ゼロ次の放出プロファイルに従って放出される。PEG濃度の上昇に伴うTTX放出の増加は、共重合体骨格の親水性の増大に起因する。そのような親水性の増大は、水の取り込みを増加させ、それにより、エステル結合の加水分解が加速する。実施例に提示される結果から、エステル結合の加水分解に起因して薬物放出が起きることが確かめられた。数週間にわたる目的の化合物の調整可能な徐放は、コンジュゲートが持続時間の長い局所麻酔を提供できるように支援する。
【0118】
ある例示的な実施形態において、PEG-PGSのコンジュゲートは、PEGに対して過剰なモル比のPGSを含む。例えば、PGS-PEG共重合体合成のための-COOH基と-OHとのモル比は、通常、8:7である。残りの-COOH基は、麻酔薬および必要に応じてさらなる活性な剤にコンジュゲート化される(表1および2を参照のこと)。PGS/ポリマー混合物における遊離「-COOH」基と遊離「-OH」基との比を用いることにより、PGSに組み込まれるPEGの総量を計算することができる。通常、コンジュゲートの設計は、少なくとも1つの麻酔薬および必要に応じてさらなる活性な剤の組み込みを可能にする。
【0119】
F.さらなる剤
麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートの製剤は、1つまたはそれを超えるさらなる薬学的に活性な剤を含み得る。活性な剤(例えば、治療薬、予防薬および/または診断薬)は、麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートと会合され得る。いくつかの実施形態において、それらの活性な剤は、麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートと共有結合的または非共有結合的に会合される。例えば、さらなる活性な剤は、エステル結合を介してポリマー骨格に共有結合され得る。他の実施形態において、さらなる活性な剤は、共有結合性の非エステルリンカーを介して、例えば、1つまたはそれを超えるスペーサーを介して、ポリマー骨格に結合される。活性な剤が、ポリマー骨格と共有結合的に会合されるとき、その作用物質は、インビボにおける共有結合性麻酔薬の放出のタイミングと一致する時点または異なる時点において、インビボにおいて骨格から放出され得る。ゆえに、いくつかの実施形態において、麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートを含む製剤は、麻酔薬と1つまたはそれを超えるさらなる活性な剤の両方を、インビボにおいて同じ時間全体または異なる時間全体にわたって同じ速度または異なる速度で送達する。いくつかの実施形態において、さらなる活性な剤は、麻酔薬-ポリマーコンジュゲートと非共有結合的に会合される。例えば、麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートの製剤は、混合によって1つまたはそれを超えるさらなる活性な剤を含み得る。例示的なさらなる活性な剤としては、さらなる局所麻酔剤、血管収縮薬、ホルモン、抗炎症薬および抗感染症剤が挙げられる。
【0120】
1.局所麻酔剤
麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートの製剤は、1つまたはそれを超えるさらなる局所麻酔剤を含み得る。用語「局所麻酔剤」は、局所的なしびれまたは疼痛緩和を提供する薬物を意味する。利用され得る局所麻酔剤のクラスとしては、アミノアシルアニリド化合物(例えば、リドカイン、プリロカイン、ブピバカイン、メピバカイン、および環系上またはアミン窒素上に様々な置換基を有する関連する局所麻酔化合物);アミノアルキルベンゾエート化合物(例えば、プロカイン、クロロプロカイン、プロポキシカイン、ヘキシルカイン、テトラカイン、シクロメチカイン、ベノキシネート、ブタカイン、プロパラカインおよび関連する局所麻酔化合物);コカインおよび関連する局所麻酔化合物;アミノカーボネート化合物(例えば、ジペロドンおよび関連する局所麻酔化合物);N-フェニルアミジン化合物(例えば、フェナカインおよび関連する麻酔薬化合物);N-アミノアルキルアミド化合物(例えば、ジブカインおよび関連する局所麻酔化合物);アミノケトン化合物(例えば、ファリカイン(falicaine)、ジクロニンおよび関連する局所麻酔化合物);およびアミノエーテル化合物(例えば、プラモキシン、ジメチソキン(dimethisoquien)および関連する局所麻酔化合物)が挙げられる。好ましい局所麻酔剤は、アミノ-アミドおよびアミノエステルであり、最も好ましいのは、ブピバカインであり、局所麻酔剤の血管収縮活性が望ましい場合はブピバカインのレボエナンチオマーが望ましく、わずかにより感覚選択的であるテトラカインおよびロピバカインも好ましい。
【0121】
種々の部位においておよび種々のタイプの手術で投与されたとき、これらの薬物の疼痛緩和は、平均して6~10時間続く。多くのタイプの手術の場合、疼痛緩和の持続時間が2または3日間続くことが好ましいであろう。NeoSTXとの併用において使用するための好ましい局所麻酔剤は、ブピバカイン、ロピバカイン、テトラカインおよびレボブピバカインである。ブピバカインは、特に長時間作用型の強力な局所麻酔剤である。ブピバカインの他の利点としては、部分的な運動神経遮断だけでなく十分な感覚麻酔があり、幅広い利用が可能であることが挙げられる。
【0122】
2.血管収縮薬
麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートの製剤は、1つまたはそれを超える血管収縮剤を含み得る。有用な血管収縮薬は、血流を制限するように局所的に作用するものであり、それにより、それらが投与された領域に、注射された薬物が保持される。これは、全身毒性を実質的に低下させる効果を有する。
【0123】
好ましい血管収縮薬は、アルファアドレナリンレセプターに対して作用するもの(例えば、エピネフリンおよびフェニルエピネフリン)である。他の薬物および色素(例えば、ブピバカインおよびレボブピバカイン)は、副作用として血管収縮させる。
【0124】
いくつかの実施形態において、PGSまたはPGS-PEGまたは他のポリマーコンジュゲートに共有結合された麻酔薬のコンジュゲートは、エピネフリンとともに製剤化される。例えば、エピネフリンは、コンジュゲート内の1つまたはそれを超える麻酔剤から生じる神経遮断を増大させるまたは延長するのに有効な量で含められ得る。
【0125】
3.糖質コルチコイド
麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートの製剤は、1つまたはそれを超える糖質コルチコイドを含み得る。例示的な糖質コルチコイドとしては、デキサメタゾン、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、フルニソリド、メチルプレドニゾン、パラメタゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロン(triamcinolome)、アルクロメタゾン、アムシノニド、クロベタゾール、フルドロコルチゾン、二酢酸ジフルロソン(diflurosone diacetate)、フルオシノロンアセトニド、フルオロメタロン(fluoromethalone)、フルランドレノリド、ハルシノニド、メドリゾンおよびモメタゾン、ならびにそれらの薬学的に許容され得る塩および混合物 抗炎症剤が挙げられる。
【0126】
いくつかの実施形態において、PGSまたはPGS-PEGまたは他のポリマーコンジュゲートに共有結合された麻酔薬のコンジュゲートは、デキサメタゾンとともに製剤化される。デキサメタゾンは、それが、TTXのコンジュゲート化において用いられるエステル結合と同じエステル結合を介してPGS-PEGに共有結合的にコンジュゲート化されることを可能にするヒドロキシル基を有する。実施例に記載されるように、TTXおよびデキサメタゾンに対する薬物放出プロファイルは、すべてのPGS-PEG-薬物コンジュゲートで一致していた。質量損失は、PGS-PEG-TTXコンジュゲートの薬物放出の傾向と同様の傾向に従った(
図3A~3D)。28日後、PGS-TTXの質量損失は、27.3%であったのに対し、PGS-PEG200-TTX、PGS-PEG1000-TTXおよびPGS-PEG2000-TTXの質量損失は、それぞれ30.4、70.4および94.7%であった。
【0127】
4.他の治療薬
いくつかの実施形態において、PGSまたはPGS-PEGまたは他のポリマーコンジュゲートに共有結合された麻酔薬のコンジュゲートは、さらなる活性な剤(例えば、抗炎症薬、抗感染症剤、抗増殖剤(anti-proloferative agents)など)とともに製剤化される。例示的な抗炎症薬としては、非ステロイド性薬物(例えば、インドメタシン、アスピリン、アセトアミノフェン、ジクロフェナクナトリウムおよびイブプロフェン);およびステロイド性抗炎症薬(例えば、デキサメタゾン)が挙げられる。
【0128】
G.他の賦形剤および保存剤
PGSまたはPGS-PEGまたは他のポリマーに共有結合された麻酔薬のコンジュゲートは、投与のために1つまたはそれを超える賦形剤または保存剤を含むように製剤化され得る。通常、組成物は、非経口経路を介した投与のための賦形剤を含むように製剤化される。麻酔薬の共有結合性コンジュゲートの例示的な薬学的組成物は、筋肉内、腹腔内、静脈内(iv)または皮下注射、経皮投与(受動投与、またはイオン導入もしくはエレクトロポレーションを用いた投与)を介した投与のために製剤化される。
【0129】
PGSまたはPGS-PEGに共有結合された麻酔薬の製剤は、1つまたはそれを超えるさらなる薬学的に許容され得る賦形剤を含む。例示的なさらなる賦形剤としては、保存剤、pH調整剤、酸化防止剤および等張剤が挙げられる。いくつかの実施形態において、麻酔薬の共有結合性コンジュゲートは、例えば非経口経路を介した投与のために、保存剤を必要に応じて含む、食塩水または酸性緩衝液中に製剤化される。麻酔薬の共有結合性コンジュゲートの薬学的組成物は、非経口(筋肉内、腹腔内、静脈内(iv)または皮下注射)、経皮(受動投与、またはイオン導入もしくはエレクトロポレーションを用いた投与)、経粘膜(経鼻、経膣、直腸または舌下)の投与経路による投与または生体内分解性挿入物を用いた投与のために製剤化され、各投与経路に適切な単位剤形に製剤化され得る。
【0130】
いくつかの実施形態において、麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートは、非経口注射による投与のために水溶液中に製剤化される。その製剤は、懸濁液またはエマルジョンの形態であってもよい。一般に、有効量の麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートを含む薬学的組成物が提供され、その薬学的組成物は、薬学的に許容され得る希釈剤、保存剤、可溶化剤、乳化剤、アジュバントおよび/またはキャリアを必要に応じて含む。そのような組成物は、希釈剤(例えば、滅菌水、様々な緩衝剤の内容物(例えば、Tris-HCl、アセテート、ホスフェート)、pHおよびイオン強度の緩衝食塩水);および必要に応じて、添加物(例えば、界面活性剤および可溶化剤(例えば、TWEEN(登録商標)20、TWEEN(登録商標)80、Polysorbate80)、酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)および保存剤(例えば、Thimersol、ベンジルアルコール)および増量物質(例えば、ラクトース、マンニトール)を含む。
【0131】
非水溶媒または非水ビヒクルの例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えば、オリーブ油およびトウモロコシ油)、ゼラチンおよび注射可能な有機エステル(例えば、オレイン酸エチル)である。上記製剤は、凍結乾燥され、使用の直前に再度溶解/再度懸濁させられ得る。上記製剤は、例えば、細菌保持フィルターで濾過すること、滅菌剤を製剤に組み込むこと、製剤に照射すること、または加熱することによって、滅菌され得る。
【0132】
いくつかの実施形態において、麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートは、1つまたはそれを超えるタンパク質またはポリペプチドを含む溶液中に製剤化される。ある例示的な実施形態において、麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートは、アルブミンタンパク質を含む溶液中に製剤化される。例えば、水溶液へのコンジュゲートの可溶化または分散を可能にするかまたは増大させるために、ウシアルブミンなどのアルブミンタンパク質が麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートの混合物に加えられ得る。
【0133】
H.剤形
好ましい実施形態において、麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートは、バイアル内に水溶液として提供される。先に概説されたおよび下記に概説されるように、製剤のタイプに応じて、バイアルのサイズは、10μl~200ml、好ましくは、約100μl~約10mlの範囲であり得、1~5本のバイアルが、種々の状況における1人の患者に対して使用され得る。別の実施形態において、麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートは、1本またはそれを超えるバイアル内に提供され、必要に応じて凍結乾燥され、次いで、使用の前に、再水和され、合わせられる。
【0134】
好ましくは、剤形は、疼痛の低減または予防を必要とする被験体において毒性なしで疼痛を低減させるまたは予防するのに有効な量の麻酔薬を含む。動物試験では、350~400gのラットに、およそ80μgのコンジュゲート化TTXを含む麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートを、全身毒性なしに投与した。最大1.5mg(1.5mgを含む)のコンジュゲート化TTXを有する麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートを含む、ヒトへの投与用の剤形が、企図される。
【0135】
III.使用方法
麻酔剤を送達するために麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートを使用する方法が提供される。神経遮断を必要とする被験体に麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートを投与することによってその被験体において神経遮断を提供する方法が提供される。
【0136】
上記方法は、1つまたはそれを超える神経の周囲組織を有効量の麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートと接触させて、コントロールと比べてその神経における感覚活動を低減させるまたは阻害する工程を含み得る。上記方法は、毒性を最小限に抑えるかまたは低下させつつ、サイト1ナトリウムチャネル(S1SC)の遮断を延長し得る。
【0137】
いくつかの実施形態において、活性な剤は、感覚神経活動の生理学的プロセスに関連する細胞表面レセプターに結合するかまたは他の方法でその活性を阻害する。例えば、麻酔剤は、イオンチャネル(例えば、サイト1ナトリウムチャネル(S1SC)またはTRPV1レセプター)を遮断するために有効であり得る。好ましい実施形態において、1つまたはそれを超えるポリマーに共有結合的にカップリングされた麻酔剤は、S1SCBテトロドトキシン(TTX)である。1つまたはそれを超える神経を有効量のTTXと接触させて、コントロールと比べてその神経における感覚活動を低減させるまたは阻害する工程を含む方法が提供される。麻酔剤は、共有結合したポリマーコンジュゲートとして投与され、その後、ポリマー骨格に対する共有結合の分解によって、投与部位または投与部位付近においてインビボで放出される。
【0138】
上記方法は、ある量の麻酔剤を生理的に活性な状態で一貫して放出して、長期間にわたって投与部位において有効な神経遮断を達成し得る。麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートを投与する方法は、ポリマーコンジュゲートの非存在下において当量の麻酔薬を同じ部位に投与することによって達成される場合と比べて有意に長い時間にわたって、有効な神経遮断を提供し得る。ゆえに、サイト1ナトリウムチャネル遮断薬を共有結合性ポリマーコンジュゲートとしてインビボで投与する方法は、同じ部位に単独で投与される当量のサイト1ナトリウムチャネル遮断薬と比べて長時間にわたってサイト1ナトリウムチャネルを効果的に遮断できる。通常、それらの方法は、血管収縮を起こさない。
【0139】
上記方法において使用するための麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートは、その麻酔薬が、数分から数時間、数日間、数週間または数ヶ月間のある期間にわたって放出されるように、製剤化され得る。いくつかの実施形態において、上記方法は、共有結合性ポリマーコンジュゲートの非存在下において投与される場合にレシピエントにとって有毒であり得る量の麻酔剤の安全な投与を可能にする。例えば、麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートが、長時間にわたって投与部位に麻酔薬を送達するように製剤化されるとき、任意の所与の時点における遊離麻酔薬の血清濃度は、麻酔薬がボーラスとして単独で投与されたときの血清濃度未満であり得る。
【0140】
ゆえに、いくつかの実施形態において、上記方法は、低毒性でのTTXによる長時間の神経遮断を提供する。通常、麻酔剤は、インビボにおいて、天然の形態で(すなわち、生理的に活性な状態で)ポリマー骨格から放出される。いくつかの実施形態において、麻酔剤は、ポリマー骨格に共有結合的にコンジュゲート化されているとき、生理的に不活性である。
【0141】
A.疼痛を処置または予防するための方法
被験体において感覚神経および/または運動神経の遮断を提供する方法であって、ポリマー骨格に共有結合的にコンジュゲート化された有効量の1つまたはそれを超える麻酔剤を被験体の神経または神経付近に投与して、その神経における感覚機能および/または運動機能を低下させるまたは阻害する工程を含む方法が、提供される。好ましい実施形態において、被験体は、ヒトである。いくつかの実施形態において、上記方法は、被験体における侵害受容性疼痛および/または神経因性疼痛などの疼痛の発生を遅延させるのに有効である。いくつかの実施形態において、被験体は、成人である。他の実施形態において、被験体は、小児である。記載される方法のすべてが、疼痛緩和を必要とする被験体を特定する工程を含み得る。
【0142】
いくつかの実施形態において、上記方法は、麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートを、1つまたはそれを超えるさらなる活性な剤(例えば、局所麻酔剤)と併用して投与する工程を含む。用語「併用」または「併用される」は、2つまたはそれを超える異なる作用物質の併投与、同時投与または連続投与のことを指すために使用される。ゆえに、併用は、同時に(例えば、混合物として)、別々であるが同時に(例えば、同じ被験体に別個の適用によって)または連続的に(例えば、当該化合物または作用物質のうちの1つを最初に投与した後、第2のものを投与する)投与され得る。例えば、併用療法は、TTX-PGS-PEGおよび/またはTTX-PGSと、1つまたはそれを超えるさらなる麻酔薬または他の活性な剤とを、2つの異なる製剤として別々に、または同じ製剤(すなわち、両方の活性な剤を含む単一の薬学的組成物)として一緒に、共投与することを含み得る。2つの作用物質が、別個の製剤として投与される場合、共投与は、それらの2つの作用物質の同時投与および/または連続投与を含み得る。連続投与に適切な時間経過は、患者の疾病の性質および患者の症状などの因子に従って、医師が選択できる。ある特定の実施形態において、連続投与には、2つの作用物質が互いに数時間、数日間または数週間という期間内で共投与されることが含まれる。例えば、いくつかの実施形態において、TTX-PGS-PEGおよび/またはTTX-PGSが最初に投与された後、アルファ-2-アドレナリンアゴニストが併用される。他の実施形態において、TTX-PGS-PEGおよび/またはTTX-PGSが最初に投与された後、さらなる活性な剤が続く。
【0143】
1.投与量
1つまたはそれを超える麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートは、別々の位置から生じる疼痛を低減させるまたは排除する目的で疼痛の惹起に関与する別々の限局部分において高度に局部的な選択的神経遮断をもたらすのに有効な量で別々の有痛部位に投与され得る。
【0144】
いくつかの実施形態において、投与量は、1つまたはそれを超える組織の浸潤麻酔のために投与されるとき、疼痛を処置または予防するのに有効な量である。いくつかの実施形態において、投与量は、伝導麻酔または神経ブロック麻酔のために投与されるとき、疼痛を処置または予防するのに有効な量である。
【0145】
上記方法は、疼痛の位置の外側における麻酔剤の潜在的な有害事象を最小限に抑える。例えば、PGS-PEGおよび/またはTTX-PGSは、被験体のニーズに応じて、約1時間~約72時間にわたって被験体における別々の位置から生じる疼痛を低減させるまたは排除する目的で疼痛の惹起に関与する別々の限局部分において高度に局部的な選択的神経遮断をもたらすのに有効な量で別々の有痛部位に投与され得る。
【0146】
疼痛の減弱を必要とするヒトまたは動物のある部位における疼痛を減弱するための麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートの薬学的組成物は、ポリマー骨格にコンジュゲート化された1μg~1.5mgの麻酔剤を含み得る。例えば、疼痛の減弱を必要とするヒトまたは動物のある部位における疼痛を減弱するための麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートの薬学的組成物は、1μg~5,000mgのコンジュゲートを含み得る。投与されるコンジュゲートの量は、ポリマー骨格のサイズおよびタイプ、ならびにコンジュゲート内の麻酔剤に依存する。ある特定の実施形態において、コンジュゲート内の麻酔剤の用量は、約1μg~約2000μg、約10μg~約200μgまたは約20μg~約50μgの範囲である。通常、麻酔剤の総量の少なくとも75%、少なくとも80%または90%、最大100%(100%を含む)が、投与後の所望の時間にわたって、インビボにおいてポリマー骨格コンジュゲートから放出される。
【0147】
長時間の局所麻酔のための本開示の製剤は、当該分野で公知の任意の手段(ヒトまたは動物の皮膚を通じた別々の部位への注射を介したもの;ヒトまたは動物の皮膚、組織、筋肉、腱、関節または他の身体部分にその用量を埋め込むことによる別々の部位への植え込みを介したもの;別々の創傷、組織表面、または手術創が開いている外科的部位への浸潤によるものを含む)によって投与され得る。
【0148】
動物およびヒトにおける長時間の麻酔の場合、被験体の体重が、適切な投与量を決定するための指針として使用できる(下記の表8を参照のこと)。種々の臨床的状況が、局所麻酔剤の安全性および有効性に対する種々の要求を突きつける。全身安全性が、TTXまたは開示される他の活性な剤の総用量(mgまたはmg/kg)の上限を決定する。取り込みの時間経過、血管分布などに基づいた許容できる総用量の差は小さいが、全部の局所麻酔剤はそれぞれ、許容できる総用量の最大値を有する。
【0149】
身体の任意の局部領域において、求心性伝達を遮断するためには、局所麻酔剤の十分な局所組織濃度が必要である。疼痛緩和を提供するのに十分な、所与の位置における1つまたはそれを超える薬物の最低局所濃度は、「最小有効濃度」(MEC)と呼ばれる。
【0150】
したがって、容積が大きい組織への浸潤を必要とする臨床的状況では、容積がより小さい組織が関わる臨床的状況よりも大きな総体積の局所麻酔剤が、MECにおいてまたはMECを超えて必要である。異なる位置におけるMECが似ている場合、より容積が大きい組織は、容積が小さい組織よりも大きな総用量を必要とする。
【0151】
麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲート内の麻酔薬の用量は、投与される麻酔薬、ならびに局所麻酔剤が投与される部位に依存する。通常、投与単位は、約0.1ml~約120mlの範囲の体積で使用するように調製される。ある特定の実施形態において、PGSまたはPGS-PEGコンジュゲート内の麻酔剤は、0.01%(重量/体積)~5%(w/v)の濃度範囲で存在し、1つまたはそれを超えるアルファ-2-アドレナリンアゴニストは、0.01%(w/v)~5%(w/v)の濃度範囲で存在する。通常、総全身用量は、成体においてわずかおよそ1mg/kg体重~およそ200mg/kg体重である。例えば、局所麻酔剤が局部ブロック(例えば、くるぶしブロック)を介して投与される実施形態では、麻酔薬の用量は、0.5%(w/v)溶液の約1mlから約30mlまでの範囲である。他の実施形態では、3mg/kg用量(最大値200mg)の2%(w/v)溶液が、関節内浸潤によって投与され得る。他の実施形態において、局所麻酔剤の用量は、0.5ml~約60mlの0.25%~5%(w/v)溶液の範囲であり得る。
【0152】
好ましい実施形態において、麻酔剤は、TTXである。コンジュゲート内のTTXは、0.01mM~100mM、好ましくは、0.1mM~0.3mMの範囲、最も好ましくは、0.21mMの濃度で存在し得る。いくつかの実施形態において、単回適用で投与されるコンジュゲートの投与量は、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、10時間、12時間、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、1週間、2週間、3週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、6ヶ月または6ヶ月超のある期間にわたって感覚機能および/または運動機能を低下させるまたは阻害するのに十分な量である。特定の実施形態において、TTX-PGS-PEGは、最大72時間にわたって被験体の投与部位または投与部位周辺における疼痛を低減するのに十分な量で、注射製剤として投与される。例示的な方法では、被験体への、1.0μgのTTXを含むPGS-PEG1000-TTXおよび/またはPGS-PEG2000-TTXを含む製剤の注射が、その被験体において1時間~6時間のある期間にわたって神経遮断をもたらすのに有効である。動物データに基づいて実験によって決定された量を下記の表1.2に示す。
【表1-2】
a実験に使用されたラットの質量=0.35kg
bPGM=ポリ(グリセロールマロン酸)
【0153】
2.処置される疼痛
サイト1ナトリウムチャネル遮断薬および/または他の麻酔薬を含む麻酔剤のコンジュゲートは、多くの症状を処置するために使用され得、ここで、その麻酔製剤は、有痛性の領域にまたは有痛性の領域の近くに投与され得、その処置としては、急性疼痛または慢性疼痛、侵害受容性疼痛および神経因性疼痛、術前痛および術後痛、癌疼痛、神経伝達物質調節不全症候群および整形外科的障害に関連する疼痛、スポーツ関連傷害、急性外傷痛、侵害受容性疼痛、ならびに神経伝達物質調節不全症候群の処置が挙げられるが、これらに限定されない。
【0154】
i.手術
本開示の製剤は、外科手技に関連する疼痛を予防するためまたは低減させるために使用され得る。いくつかの実施形態において、投与単位は、全長開放開腹術(full-length open laparotomy)、胸腹部切開または側腹切開のための複数層の大きな手術創に関連する疼痛の処置または予防;帝王切開術、開放子宮摘出術、食道胃切除術、腎摘出術または大きな腹部癌の手術(例えば、結腸切除術);人工股関節全置換術(股関節形成術)または人工膝関節全置換術(膝関節形成術)のための創傷浸潤;末梢神経ブロックまたは神経叢ブロック(神経周囲注射);浸潤(創傷の層に沿った注射);肩、手もしくは腕の手術、鼡径ヘルニア修復術のための浸潤または腸骨鼡径/腸骨下腹ブロック、尿道下裂修復のための陰茎ブロック、人工膝関節全置換術または前十字靱帯修復のための大腿ブロック、開胸術のための肋間神経ブロック、または脚切断または足および足首の手術のための大腿および坐骨神経ブロック;脚の複合性局所性疼痛症候群/反射性交感神経性ジストロフィもしくは血行不全に対する腰部交感神経遮断、または膵炎もしくは膵臓癌に対する腹腔神経叢ブロックの提供;人工関節置換術のために股関節または膝関節に対する神経ブロック(大腿および坐骨、腰部神経叢および坐骨神経ブロック);または下肢切断のように迅速な運動回復が必要ない場合に長い持続時間の坐骨神経遮断の提供に有効な量の、PGSまたはPGS-PEGにコンジュゲート化された1つまたはそれを超えるサイト1ナトリウムチャネル遮断薬を含む。
【0155】
眼または眼窩に長い持続時間の麻酔を提供するための、PGSおよび/またはPGS-PEGにコンジュゲート化されたある量の1つまたはそれを超えるサイト1ナトリウムチャネル遮断薬を含む投与単位も提供される。他の実施形態において、眼の角膜における感覚機能および/または運動機能を妨げる、低下させるまたは阻害するのに有効な量で投与単位が調製され得る。
【0156】
いくつかの実施形態において、1つまたはそれを超える末梢神経における感覚機能および/または運動機能を妨げる、低下させるまたは阻害するのに有効な量で投与単位が調製され得る。
【0157】
他の実施形態において、投与単位は、坐骨神経または坐骨神経付近における麻酔剤の送達または放出を延長するために、1つまたはそれを超えるポリマーに共有結合的にコンジュゲート化されたある量の1つまたはそれを超える麻酔剤を含む。
【0158】
ii.慢性疼痛
いくつかの実施形態において、本開示の製剤は、長期間にわたる疼痛の処置または予防において使用され得る。上記方法は、長時間にわたる投与部位における麻酔剤の制御放出または遅延放出のために、1つまたはそれを超えるポリマーに共有結合的にコンジュゲート化された1つまたはそれを超える麻酔剤を含む製剤を被験体に投与する工程を含み得る。例えば、長時間にわたる投与部位または投与部位付近におけるTTXの制御放出または遅延放出のために、TTX-PEG-PGSを含む製剤を被験体に投与する工程を含む方法が、提供される。1つまたはそれを超えるサイト1ナトリウムチャネル遮断薬および1つまたはそれを超える他の麻酔薬または他の作用物質を含む麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートを、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、10時間、12時間、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、1週間、2週間、3週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、6ヶ月または6ヶ月超のある期間にわたって、感覚機能および/または運動機能を低下させるまたは阻害するのに有効な量で、被験体の有痛性の構造または有痛性の構造付近に投与する工程を含む方法が、提供される。
【0159】
ある特定の実施形態において、上記方法は、慢性疼痛、例えば、疾患または障害に伴う慢性疼痛の処置または減弱のために使用され得る。例えば、慢性疼痛に苦しんでいる患者において、TTX-PGSおよび/またはTTX-PGS-PEGから放出されるTTXの用量は、最大100μg/時、最大10μg/時、最大1μg/時、最大μg/日または最大1μg/週などである。最初の投与において被験体に投与される麻酔薬の量は、所望の1時間量または1日量を考慮して計算され得る。総投与量および放出速度は、血清濃度が、毒性および/または副作用が生じる血清濃度を超えないように、麻酔薬の血清半減期を考慮して計算され得る。通常、総投与量は、当該疾患もしくは障害のすぐ近くの部位もしくはすぐ近くの部位付近に、または有痛性の構造の周囲の領域に、一度に投与される。
【0160】
IV.製剤および作製方法
ヒトの処置に有効な投与量および体積を決定するために、動物およびヒトでの研究が必要である。例えば、インビトロでの生理学実験から得られたサイト1ナトリウムチャネル遮断薬の効力の順位は、インビボにおけるそれらの化合物の効力の順位を予測しなかった(Kohaneら、Reg.Anesth.Pain Med.,25:52-9(2000))。
【0161】
種々の臨床的状況が、局所麻酔剤の安全性および有効性に種々の要求を突きつける。全身安全性が、TTXまたは他の局所麻酔剤の総用量(mgまたはmg/kg)の上限を決定する。取り込みの時間経過、血管分布などに基づいた許容できる総用量の差は小さいが、全部の局所麻酔剤がそれぞれ、許容できる総用量の最大値を有する。本明細書中に記載されるように、TTXを共有結合性のコンジュゲートとしてPGSまたはPGS-PEGポリマー骨格に含めることにより、インビボにおけるエステル結合の加水分解を介してTTXの遅延放出が可能になる。遅延放出は、長時間の神経遮断、高い有効性および全身安全性を可能にし、より多くの用量またはより多くを可能にする。
【0162】
いくつかの臨床的状況において、局所麻酔剤の効果が望ましくないまたは危険でさえある他の身体箇所にしびれまたは脱力が広がるのを防ぐために、大きな体積の(すなわち、20mlを超える)局所麻酔剤を投与しないことが重要である。記載される麻酔薬-ポリマー共有結合性コンジュゲートは、用量、放出速度およびレシピエントが所望する他のパラメータに従って、所望の体積で、例えば、1ml~500mlで投与され得る。
【0163】
実施例(下記)に記載されるように、Steglichエステル化反応を介して、ジカルボン酸(dicarboxylid acid)のカルボキシル基とトリオールおよびPEGのヒドロキシル基との間にエステル結合を形成することによって、ポリ(トリオールジカルボン酸)-co-ポリ(エチレングリコール)(TDP)ポリマーを合成した。TDPポリマーは、エステル結合の加水分解によって分解可能であり、細胞傷害性を最小限に抑えつつ、良好な生体適合性を示した。様々なfphilを有するTDPポリマーのファミリーを合成した。表面と容積の両方の特徴付けから、それらのポリマーのfphilが、ポリマーネットワークのエステル結合の加水分解速度を決定したことが示唆される。TDPポリマーは、薬物が共有結合的にコンジュゲート化できる複数の活性な末端基(ヒドロキシル基およびカルボキシル基)を有する。これらの特徴は、TDPポリマーが、広範囲の治療的薬物の制御放出のためのユニバーサルプラットフォームとして働く潜在能力を有することを示唆している。
【0164】
Steglichエステル化反応を介して、TDPポリマーのカルボキシル基とTTXのヒドロキシル基との間にエステル結合を形成することによって、TTXとTDPポリマーとの共有結合性のコンジュゲート化が達成された。Steglichエステル化合成は、薬物の分解を回避するために室温において行われた。合成されたTDP-TTXコンジュゲートは、徐々に分解して、より小さいポリマー-TTXフラグメントになり、最終的には、エステル結合の加水分解によって天然の形態のTTXに分解して、TTXの制御放出が達成された。TTXの放出速度は、TDPポリマーのfphilに反比例した。37.8%未満のfphilでは、TDP-TTXコンジュゲートは、インビトロにおいて1ヶ月を超える長期間のTTX放出が達成された。
【0165】
A.ポリマー-麻酔薬共有結合性コンジュゲートを作製する方法
通常、ポリ(トリオールジカルボン酸)-co-ポリ(エチレングリコール)(TDP)ポリマーの合成は、3段階の反応で行われる。その反応は、通常、麻酔薬の破壊または変性を最小限に抑える条件下で行われる。
【0166】
例示的な方法において、PGS-PEG-TTXの合成は、薬物の変性を回避するために室温において3段階の反応で行われる。第1の工程は、PEGおよびセバシン酸のSteglichエステル化であり、これにより、いかなる架橋も有しない直鎖状のプレ-ポリマー鎖が形成される。この反応の模式図を
図1A~1Bに示す。最終的な共重合体の親水性は、PEGの付加によって調整される。例示的な方法は、種々の分子量のPEG(例えば、200Da、1,000Daおよび2,000Da)を使用する。
【0167】
第2の工程は、グリセロールの付加であり、これにより、PGS-PEGのブロック共重合体が得られる。実施例に示されるように、PGS-PEG共重合体合成の場合、-COOH基と-OH基とのモル比は、8:7であり、余分な-COOH基が、薬物のコンジュゲート化に使用された(表1および2)。
【0168】
第3の工程では、PGS-PEG共重合体の残りの-COOH基とTTXの-OH基との間のSteglichエステル化を介して、PGS-PEG-TTXコンジュゲートが得られる(
図1A、1B)。
【0169】
B.シリンジによって注射可能な製剤を作製する方法
いくつかの実施形態において、上記方法は、シリンジによって注射可能な製剤を作製する工程を含む。ある例示的な実施形態では、PGS-PEG-TTXおよび/またはPGS-TTXコンジュゲートをDCMに十分溶解させた後、PEG200を加える。PEG200は、DCMと十分に混和性であるので、混合物をボルテックスした後、均一な溶液が得られる。回転蒸発および凍結乾燥によってDCMを徐々に除去する。好ましくは、PGS-PEG-TTXおよび/またはPGS-TTXコンジュゲートならびにPEG200を含む均一な溶液が形成される。
【0170】
以下の非限定的な例を参照することにより、本発明がさらに理解される。
【実施例0171】
実施例1:麻酔薬と両親媒性ポリマーおよびPEGとのコンジュゲート
ポリ(セバシン酸グリセロール)(PGS)、PEGおよびTTXの両親媒性で生分解性のコンジュゲートを、以下の方法に従って設計し、生成し、アッセイした。
【0172】
方法
材料
セバシン酸(99%)、ポリ(エチレングリコール)(PEG、200、1000、2000kDa)、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC、99%)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP、99%)、無水N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、99.8%)、無水ジメチルスルホキシド(DMSO、99.9%)、無水ジクロロメタン(DCM、99.8%)、グリセロール(99%)、デキサメタゾン(98%)、フルオレセインイソチオシアネート異性体I(FITC、90%)、リン酸緩衝食塩水(PBS、pH7.4、0.15M、138mM NaCl、2.7mM KCl)、クロロホルム-d(100%、99.96原子%D)、ヘキサメチレンジイソシアナート(99.0%)およびジブチルスズジラウレート(95.0%)をSigma-Aldrich Inc.(St.Louis,MO)から購入した。シアニン5.5カルボン酸(Cy5.5,95%)をLumiprobe Corporation(Hallandale Beach,FL)から購入した。テトロドトキシン(TTX)をAbcam plc(Cambridge,MA)から入手し;テトロドトキシンELISAキットをReagen LLC(Moorestown,NJ)から購入した。
【0173】
TDPポリマーの合成
ポリ(トリオールジカルボン酸)-co-ポリ(エチレングリコール)(TDP)ポリマーを、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)をカップリング試薬としておよび4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)を触媒として使用するSteglichエステル化を介して合成した。簡潔には、乾燥PEG(0.005mol)およびセバシン酸(2.02g,0.01mol)を丸底フラスコに加え、残っている水を蒸発させた後、そのフラスコを窒素下に置いた。無水N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、8mL)および無水ジクロロメタン(DCM、4mL)を加えた後、その混合物を数分間、超音波処理し、DIC(4.336mL,0.028mol)およびDMAP(0.489g,0.004mol)を加えた。その混合物を室温で24時間放置した。グリセロール(184μl,0.0025mol)を加え、その混合物を室温で24時間放置した。反応後、その反応混合物中のDCMを回転蒸発によって除去し、次いで、残渣を30mLのDI水で2回洗浄し、30mLの10%エタノールで2回洗浄した。ポリマーが水から沈殿し、20000rpmで5分間遠心した。乾燥させると、TDPポリマーが88~96%収率で得られた。その乾燥したTDPポリマーを、さらに使用するまでデシケーター内に保存した。
【0174】
TDP-薬物コンジュゲートの合成
同様のSteglichエステル化を介して、TDP-薬物コンジュゲートを合成した。簡潔には、乾燥PEG(0.005mol)およびセバシン酸(2.02g,0.01mol)を丸底フラスコに加え、残っている水を蒸発させた後、そのフラスコを窒素下に置いた。無水N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、8mL)および無水ジクロロメタン(DCM、4mL)を加えた後、その混合物を数分間、超音波処理し、DIC(4.336mL,0.028mol)およびDMAP(0.489g,0.004mol)を加えた。その混合物を室温で24時間放置した。グリセロール(184μl,0.0025mol)を加え、その混合物を室温で24時間放置した。TTX(1mg,0.003mmol)および/またはデキサメタゾン(10mg,0.026mmol)および/またはFITC(1mg,0.003mmol)および/またはCy5.5(1.6mg,0.003mmol)を含む無水DMSO(10mL)溶液を加え、その混合物を室温において7日間放置した。反応後、その反応混合物中のDCMを回転蒸発によって除去した。未結合の薬物を排除するためおよび純粋なポリマーコンジュゲートを単離するために、残渣を30mLのDI水で2回洗浄し、30mLの10%エタノールで2回洗浄した。TDP-薬物コンジュゲートが水から沈殿し、20000rpmで5分間遠心した。乾燥させると、TDP薬物コンジュゲートが88~96%収率で得られた。その乾燥したTDP-薬物コンジュゲートを、さらに使用するまでデシケーター内に保存した。
【0175】
TgD8-イソシアネートの合成
代表的には、0.240gのTgD8(Mn=6011、0.4×10-3mol)を、高真空下の100mLフラスコ内で一晩乾燥させた。次いで、そのフラスコに5mLの無水DMSOを加え、1.13gのHMDI(240μl,1.5×10-3mol)および2滴のジブチルスズジラウレート(8×10-3g)を連続的に加えた。その反応混合物を60℃の窒素雰囲気下において一晩撹拌した。反応の終わりに、生じたポリマーをジエチルエーテルから沈殿させ、1,2-ジクロロエタンに再度溶解させることによってさらに精製した後、メタノールとジエチルエーテルとの混合物(5/95、v/v)中で沈殿させることにより、残りのジブチルスズジラウレートを除去した。乾燥させると、TgD8-イソシアネートが80~95%収率で得られた。
【0176】
TgD8-TTXウレタンの合成
代表的には、0.325gのTgD8-イソシアネートを、高真空下の100mLフラスコ内で一晩乾燥させた。次いで、そのフラスコに5mLの無水DMSOを加え、1滴のジブチルスズジラウレート(4×10-3g)および0.1mgのTTXを連続的に加えた。その反応混合物を60℃の窒素雰囲気下において一晩撹拌した。反応の終わりに、生じたポリマーをジエチルエーテルから沈殿させ、1,2-ジクロロエタンに再度溶解させることによってさらに精製した後、メタノールとジエチルエーテルとの混合物(5/95、v/v)中で沈殿させることにより、残りのジブチルスズジラウレートを除去した。乾燥させると、TgD8-TTXウレタンが90~95%収率で得られた。
【0177】
接触角の手順
シリコンウエハ基材上にスピンコートされたポリマーフィルムに対する水接触角の計測を、自動ディスペンサーが備え付けられたゴニオメーター(Rame-Hart,モデル500)を用いて行った。静滴法を適用した。1μLの体積の水を、サンプル表面に垂らし、高解像度画像に基づいて接触角を決定した。
【0178】
1H NMRの計測
ポリマーおよびポリマー-薬物コンジュゲートを、核磁気共鳴(
1H NMR)分光法(5mm AutoX OneProbeおよびVarian 7600オートサンプラーが備え付けられたVarian 400MHz)を用いて解析した。ポリマーをCDCl
3に溶解させ、400MHzにおいてスペクトルを記録した。以下のポリマーのリストにおける斜体で表記された水素に対応するピークの化学シフト(δ,単位はppm)を提供する。s/d/mは、ピークの形状を示す(すなわち、シングレット、ダブレット、トリプレット)。
1H NMR(T
gD
8)(400MHz,CDCl3)δ/ppm:1.30(2H,m,-CH
2-),1.62(2H,d,-CH
2CH
2O(CO)-),2.35(2H,m,-CH
2O(CO)-),3.50-3.85(2H,m,OHCH
2CHO-),3.94(1H,m,-OCH
2CHOH),4.05-4.35(2H,m,-OCH
2CHO-),5.09(1H,s,OHCH2CHO-),5.26(1H,s,-OCH
2CHO-).
1H NMR(T
gD
8P
1k)(400MHz,CDCl3)δ/ppm:1.30(2H,m,-CH
2-),1.62(2H,d,-CH
2CH
2O(CO)-),2.35(2H,m,-CH
2O(CO)-),3.64(2H,m,-OCH
2-),3.94(1H,m,-OCH
2CHOH),4.05-4.35(2H,m,-OCH
2CHO-),5.09(1H,s,OHCH2CHO-),5.26(1H,s,-OCH
2CHO-)。すべてのTDPポリマーの
1H NMRスペクトルを、重要な構造要素を割り当てて
図1aに示す。いくつかのピークは、シグナルが重なっているために割り当てることができなかった。
【0179】
FTIRの計測
サンプルのフーリエ変換赤外分光法(FTIR)スペクトルを、Alpha Bruker分光計を用いて記録した。4cm-1の分解能での48回のスキャンの平均値を各サンプルに対して収集した。
【0180】
分子量の計測
Watersゲル浸透クロマトグラフ(GPC)モデル440を用いて、分子量を計測した。THFを、1.0mL/分という流速の移動相として使用した。マクロモノマーおよび共重合体の分子量および多分散性を、ポリスチレン標準で較正した。
【0181】
ポリマーのインビトロ分解
ポリマーを、10,000MWカットオフを有するSlide-A-Lyzer MINI透析デバイス(Thermo Scientific,Tewksbury,MA)にかけ、14mLのPBSでさらに透析し、プラットフォーム振盪機(New Brunswick Innova 40、60rpm)上において37℃でインキュベートすることによって、質量損失研究を行った。各時点において、透析溶液を、予め加温しておいた新しいPBSと交換した。14mLの透析溶液を凍結し、凍結乾燥し、質量損失解析のために、残留分の質量を計量した。すべての実験を3つ組で行った。
【0182】
細胞培養
C2C12マウス筋芽細胞(American Type Culture Collection(ATCC)CRL-1772)およびPC12ラット副腎褐色細胞腫細胞(ATCC,CRL-1772)の細胞培養を、報告されているとおりに2行った。手短に言えば、C2C12細胞を、20%FBSおよび1%ペニシリンストレプトマイシン(Invitrogen)を含むDMEM中で培養した。細胞を24ウェルプレートに50,000細胞/mLで播種し、2%ウマ血清および1%ペニシリンストレプトマイシンを含むDMEM中で10~14日間インキュベートして、筋小管に分化させた。PC12細胞は、12.5%ウマ血清、2.5%FBSおよび1%ペニシリンストレプトマイシンを含むDMEM中で生育した。細胞を24ウェルプレートに播種し、播種の24時間後に50ng/mLの神経成長因子を加えた(Invitrogen)。
【0183】
細胞生存度
細胞(1×104/ウェル)を、様々な濃度のポリマー-TTXコンジュゲートとともに24時間インキュベートした。インキュベーションの後、細胞をPBSで最大5回洗浄して、ポリマーを除去し、MTTによって細胞生存度を決定した。簡潔には、コントロールウェルおよびポリマー含有ウェルからの培養上清を回収し、細胞をMTTとともにインキュベートした(0.5mg/mL;3時間)。ホルマザン(formazon)を200μlのDMSOに溶解させ、550nmにおいて光学濃度を計測した。コントロールウェルの吸光度を100%と仮定し、処置ウェルの細胞生存度を、コントロールウェルを基準にして測定した。
【0184】
平衡溶解度法1
TTXの溶解度研究を、過剰量のTTXを有機溶媒中で平衡させることによって行った。2mLの容量のプラスチックフラスコにおいてアッセイを行った。各フラスコに、1mLの有機溶媒および1mgのTTXを加えた。このTTXの量は、各溶媒を飽和させるのに十分な量であり、このことは、未溶解のTTXの析出によって特徴付けられた。恒温器振盪機を用いて、試験中、72時間にわたって(サンプルが平衡条件に達するまで)150rpmで振盪しながらサンプルを25℃で維持した。この期間の後、直ちにサンプルを0.45μmポアサイズの使い捨てカプセルフィルターで濾過した(Dezaniら、Brazilian Journal of Pharmaceutical Sciences 49,853-863(2013))。
【0185】
DMSOおよびDMFにおけるTTXの溶解度
50μlの濾液を450μlのPBSで希釈した。その混合物中のTTXの濃度を、TTX Elisaキットを用いて計測した。TTXの定量プロセスのために、TTX ELISAキットを、各溶媒の最大吸光度波長で使用し、各物質に対して求めた検量線を用いて、溶解度値を計算した。同一の比のDMSOまたはDMFを、TTX Elisaキット内の標準液に加え、検量線を作成した。その濃度は、TTXの飽和溶解度または平衡溶解度と見なされる。
【0186】
DCMにおけるTTXの溶解度
1mlの濾液を丸底フラスコに移し、回転蒸発によってDCMを除去した。その丸底フラスコに0.1mlのクエン酸緩衝液を加えて、すべてのTTXを溶解させた。50μlの溶液を450μlのPBSで希釈した。その混合物中のTTX濃度を、TTX Elisaキットを用いて計測した。
【0187】
薬物結合の程度の計測。
エステル化反応が完了した後、反応混合物中のDCMを回転蒸発によって除去し、次いで、その反応混合物を30mLのDI水で洗浄した。ポリマー-薬物コンジュゲートを20000rpmで5分間遠心し、上清を上清#1として回収した。ポリマー-薬物コンジュゲートを40mLのDI水で洗浄し、再度遠心した。上清を上清#2として回収した。回収した上清のTTX濃度をELISAによって計測した。回収した上清のデキサメタゾン濃度をHPLCによって決定した。
【0188】
薬物結合の程度を、以下のとおり計算した:
【数70】
【0189】
インビトロ薬物放出
ポリマー-薬物コンジュゲートを、10,000MWカットオフを有するSlide-A-Lyzer MINI透析デバイス(Thermo Scientific,Tewksbury,MA)にかけ、14mLのPBSでさらに透析し、プラットフォーム振盪機(New Brunswick Innova 40、60rpm)上において37℃でインキュベートすることによって、薬物放出研究および質量損失研究を行った。各時点において、透析溶液を、予め加温しておいた新しいPBSと交換した。0.5mLの透析溶液を薬物解析のために取っておいた。TTXの濃度をELISAによって定量した。デキサメタゾンの濃度を、C18カラム(Poroshell 120 EC-C18,4.6×100mm,i.d.2.7μm,Phenomenex,Torrance,CA,USA)およびアセトニトリル/水(70:30)の移動相および0.5mL/分の流速を用いるHPLC(Agilent 1260 Infinity,Agilent
Co.,Palo Alto,CA,USA)によって決定した。デキサメタゾンは、λ=254nmにおけるUV吸光度によって検出した。
【0190】
LC-MSの計測装置および条件
Waters(登録商標)Xevo(商標)TQ MS ACQUITY UPLC(登録商標)装置において解析を行った。インラインフィルターアセンブリ(Waters)および移動相Aとして0.05%(v/v)ギ酸の水溶液および移動相Bとして0.05%(v/v)ギ酸のメタノール溶液とともにKinetex Hilicカラム(100×2.1mm,100Å,2.6μm粒子;Phenomenex)を用いてクロマトグラフィー分離を行った。0~2.2分における10%~30%Bによる勾配溶出の後、95%Bへの上昇(2.2~2.5分)および10%Bへの平衡化(2.5~3.0分)を用いた。移動相の流速は、500μl/分であり、カラム温度は、25℃であり、サンプルマネージャーの温度は、10℃であった。注入量は、5μlであり;注入間の時間は、4分間であった。
【0191】
溶媒蒸発法
シリンジによって注射可能なTDP-TTX/PEG200製剤を調製するために、所定の量のTDP-TTXコンジュゲートを過剰量のDCMに完全に溶解させた後、所定の量のPEG200を加えた。得られた混合物を1分間ボルテックスして、均一な溶液を得た。DCMを回転蒸発によって蒸発させた後、室温で一晩真空にした。
【0192】
レオロジー試験
TDP-TTX/PEG200製剤のレオロジー特性を、温度調節器が備え付けられたAR2000レオメーター(TA instruments、米国)を用いてモニターした。直径20mmの平行プレートをすべての試験に使用した。プレート間の間隙の距離は、0.3mmであった。0.1~100rad/sの範囲の周波数掃引を室温において行った。一定の0.1Pa応力を使用した。
【0193】
動物試験
International Association for the Study
of Painのガイドラインに準拠し、Boston Children’s Hospital Animal Care and Use Committeeが承認したプロトコルに従って、動物試験を行った。体重が350~400gの成体雄Sprague-Dawleyラット(Charles River Laboratories)を、6:00AMに照明を点灯する12時間/12時間明暗サイクルにおいて群ごとに収容した。
【0194】
イソフルラン-酸素で麻酔した後、左の坐骨神経に注射を行った。23Gの針を用いて薬物/キャリアをそれらの動物に注射した。その針は、大転子に対して後内側から挿入し、前内側方向に向け、骨に接触したら、製剤を坐骨神経に注射した。
【0195】
神経遮断の試験を、坐骨神経に神経支配されている皮板(すなわち、左足の足底)の遠位部位で行い、右脚(未注射)を、全身副作用に関する反対側のブロックの証拠を示し得る未処置コントロールとした。感覚神経遮断を評価するために、後足を順に(左の次に右)56℃のホットプレートに曝露し、熱潜時を計測した。熱潜時は、動物が足をホットプレート上に置いたままにできた時間として定義した。2秒という熱潜時は、神経遮断がないことを示し(ベースライン)、12秒という熱潜時は、強い神経遮断を示した。神経遮断の成功は、7秒を超える熱潜時として定義した。熱傷を防ぐために、12秒後にホットプレートから後足を離した。
【0196】
ラットの後足の運動強度を決定する体重負荷試験によって、運動神経ブロックを評価した。手短に言えば、ラットをデジタル天秤の上で1本の後足で立たせ、自身の体重をかけさせた。ラットが足首をその天秤に接触させずに耐えられた最大重量を記録し、以前に記載されたように、運動強度が最大半量未満になったとき、運動ブロックが達成されたと見なした。
【0197】
2秒をベースラインとして、また、12秒を完全な感覚ブロックとして用いて、熱潜時が7秒に戻るのに必要な時間によって、感覚ブロックの持続時間を計算した。運動ブロックの持続時間は、体重負荷が最大ブロックから正常の半分に戻るのに要する時間として定義した。
【0198】
共焦点イメージング
イソフルラン-酸素麻酔下において、ラットに0.5mLの試験製剤(PEG200中の25mgのFITC-TgD8コンジュゲート、PEG200中の0.25mgのフルオレセインナトリウム、PBS中の0.25mgのフルオレセインナトリウム)を注射し、坐骨神経注射後に所定の間隔で安楽死させた。坐骨神経を周囲組織とともに収集し、OCT化合物に包埋し、次いで凍結し、-20℃で保存した。切片(10μm)を、クライオスタットミクロトームを用いて調製し、スライドガラスにのせた。その後、スライドを、予め冷却しておいた4%パラホルムアルデヒドで室温において20分間固定し、PBS緩衝液(pH7.4)で3回洗浄した。最後に、スライドにProLong Gold Antifade Mountant with DAPI(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)およびカバーガラスをのせた。すべてのイメージングを、Zeiss LSM 710多光子共焦点顕微鏡を用いて行った。
【0199】
IVISイメージング
イソフルラン-酸素麻酔下において、ラットを剪毛し、0.5mLの試験製剤(PEG200中の25mgのCy5.5-TgD8コンジュゲート)を注射した。注射後の種々の時点においてIVIS Spectrum(PerkinElmer,Inc.,USA)を用いて、インビボ蛍光像を捕捉し、蛍光強度を評価した。動物の全身像を非侵襲的に記録した。エキソビボ組織分布研究に向けて、注射の1日後にラットを安楽死させた。像を記録するために、動物を各計測の前にイソフルランで麻酔し、計測後に回復させた。675nmの励起フィルターおよび700nmの発光フィルターをイメージングに使用した。
【0200】
組織の収集および組織学的検査
ラットを注射の4および14日後に屠殺し(これらの時点は、炎症と筋毒性の両方の評価において有用である)、坐骨神経を周囲組織とともに取り出した。解剖者は、どの溶液を各ラットに注射したかを知らなかった。神経および周囲組織を10%ホルマリンに入れ、組織学的検査(ヘマトキシリン-エオシン染色スライド)に向けて、標準的な手法を用いて処理した。個々のサンプルの性質について知らない観察者(RP)がスライドを解析した。この研究における筋毒性の主要な形態学的指標は、再生中の線維(顕著な核小体を含む中心核を有する好塩基性の小径線維)の存在であり、偶然の筋線維だけが、進行中の変性変化を示した。
【0201】
筋肉サンプルを、炎症(0~4点)および筋毒性(0~6点)についてスコアリングした(Hirata,Y.Pure and Applied Chemistry Vol.50 979(1978))。炎症スコアは、重症度の主観評価であった(0:炎症なし、1:末梢の炎症、2:深部の炎症、3:筋神経束片側の炎症、4:筋神経束全体の炎症)。筋毒性スコアは、局所麻酔剤の筋毒性の2つの特徴的な特長:核内部移行および再生を反映した。核内部移行は、筋細胞のサイズおよびクロミシティ(chromicity)が正常であるが、核が通常の位置から離れて細胞の周縁部に位置することによって特徴付けられる(Gewert,B.,Plassmann,M.M.& MacLeod,M.Pathways for degradation of plastic polymers floating in the marine environment.Environmental Science:Processes & Impacts 17,1513-1521(2015))。再生は、好塩基性の細胞質を有する縮んだ筋細胞によって特徴付けられる。スコアリングは、以下のとおりであった:0.正常;1.線維束周囲の内部移行;2.深部の内部移行(>5細胞層)、3.線維束周囲の再生、4.深部の再生、5.線維束片側の再生、6.線維束全体の再生。サンプルに対するグレードは、スライド上に存在する最も悪い領域(最も重篤な損傷)を表す。
【0202】
統計。データは、平均値±SDとして提示する(放出動態、細胞機能および神経行動学的研究においてn=4)。多重比較を考慮するために、すべての統計比較を、Originソフトウェアを使用してチューキー・クレーマー検定によって行った。P<0.05を、統計的有意性を意味するとみなした。
【0203】
結果
TDPポリマーの合成
TDPポリマーの合成を、室温(
図1A)でのトリオール、ジカルボン酸およびPEGのSteglichエステル化を介して行った。それらのポリマーの親水性は、親水性トリオール(グリセロール)または疎水性トリオール(PCLトリオール)を使用すること、ジカルボン酸の脂肪族鎖における炭素数を変化させること(1、5または8)、およびPEGの分子量を変えることによって、改変することができた。本明細書中では、合成されたTDPポリマーの命名は、T
xD
yP
zであり、ここで、「x」は、トリオールのタイプを表し(gはグリセロールであり、cはPCLトリオールである)、「y」は、ジカルボン酸の脂肪族鎖における炭素数を表し、「z」は、PEGの分子量(200、1000、2000kDa)を表す(表1)。TDPポリマー内のグリセロールおよびPEGの存在は、それらのポリマーの親水性の割合(f
phil)を高めることを目的としており、その割合は、TDPポリマー内のグリセロールおよびPEGの重量パーセントとして定義される。
【表1-3】
aポリマーの名称は、本文に記載されているように省略または簡略化されている。
bポリマーの親水性の割合(f
phil):ポリマー内のPEGおよびグリセロールの重量百分率。
cGPCによって決定。
dPCLトリオール=ポリカプロラクトントリオール。
【0204】
TDPポリマーの特徴付け
TDPポリマーの構造を、1H NMR分光法によって調べた。TDPポリマーの1H
NMRにおいて、ジカルボン酸のメチレンピークは、1.30、1.62および2.35ppmに検出され、トリオールのメチレンピークは、4.05~4.35ppmに検出された。TgD8P200、TgD8P1000およびTgD8P2000では、3.45~3.60ppmのさらなるメチレンピークが観察されたことから、PEGセグメントの存在が示唆された。TDPポリマーの分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定した(表1)。TDPポリマーのMnは、4,000~7,000の範囲内であった。
【0205】
TDPポリマーの親水性を、表面と容積の両方の特徴付けを評価することによって調べた。ポリマー薄膜の表面の特徴を、光学的な張力測定法(ゴニオメトリー(geniometry))によって計測した。この手法では、ポリマー表面と水滴表面の接線との間の角度(接触角)を測定した。接触角は、親水性と相関する。ポリマーのf
philの上昇は、接触角と逆の相関があった(
図2A):f
philが、0から83.5%に上昇するにつれて、ポリマー薄膜の接触角は、73.9±1.3から31.3±2.1°に減少した。ポリマーの容積の特徴を、ポリマーの水溶解度を比較することによって調べた。f
philの上昇は、水への溶解を誘導した。
【0206】
インビトロにおけるポリマーの分解速度は、生理学的条件下(PBS、pH7.4、37℃)においてf
philが上昇するにつれて高まった(
図2B)。これはおそらくf
philが高くなるほど、水の取り込みが多くなり、エステル結合の加水分解が加速するためである。f
philが、37.8%未満であったとき(T
gD
8およびT
gD
8P
200)、ポリマーは、ほぼ線形の質量損失に従った(
図2C)。
細胞傷害性
【0207】
TDPポリマーの細胞傷害性を、潜在的な筋毒性を評価するために筋芽細胞株C2C12由来の筋管、および神経毒性のアッセイにおいて通常使用される褐色細胞腫細胞株PC12由来の筋管において評価した。TDPポリマーを、PEG200(50mg/ml)中に分散させ、細胞培養物に加え、24時間後にMTTアッセイによって細胞生存度を評価した(
図3Aおよび3B)。どちらの細胞株のいずれの群においても、細胞生存度は低下しなかった。
【0208】
TDP-TTXコンジュゲートの合成
Steglichエステル化反応は、反応が室温において進むことを可能にして薬物分解を回避するので、TDP-TTXコンジュゲートの合成を、Steglichエステル化反応を介して行った(
図1B)。TTXコンジュゲート化の難点は、有機溶媒に対するTTXの溶解度が低いことに起因するが、TTXは、非常に極性であり、酸性化された水にだけ難溶性である。Steglichエステル化反応は、乾燥した非水溶媒中で行われなければならないので、TTXに適した有機溶媒が、TTXとコンジュゲートとの結合を促進するために必要であった。3つの無水溶媒、DMF、DCMおよびDMSOを、Steglichエステル化反応に使用した。DMFは、ジカルボン酸にとって良い溶媒であり、DCMは、触媒(DMAP)、カップリング剤(DIC)、グリセロール、PEGおよび得られるポリマーにとって良い溶媒である。TTXは、試験された有機溶媒のうち、DMSOに最も高い溶解度を有した(10μg/mL)ので、TTXに対する溶媒としてDMSOを選択した(表2)。詳細には、1mgのTTXを反応混合物に加えた(方法を参照のこと)。DMSOへの溶解度が低いことに起因して、当初は、ほんの少量のTTXしか、DMSOに溶解せず、反応に参加しなかった。しかしながら、Steglichエステル化反応が進むにつれて、溶解したTTXが、TDPポリマーにコンジュゲート化され、それにより、DMSOにおけるTTXの溶液平衡が崩れ、続いて、より多くのTTXがDMSOに溶解して、反応に参加した。TTXとTDPとの結合程度(供給された総TTXを基準とした、ポリマーにコンジュゲート化したTTXの質量分率)を高めるために、その反応を室温で7日間行わせた。反応後、ELISAによって反応混合物中の未結合のTTXを計測することによって、結合の程度を決定した。>99.0%のTTXが、TDPポリマーにコンジュゲート化された(表3、表4、表5)。
【表2】
【0209】
溶解度を測定するための平衡溶解度法の説明については、方法を参照のこと。
【表3】
aELISAによって決定。
b結合の程度:供給された総TTXを基準とした、ポリマーにコンジュゲート化されたTTXの質量分率。
【表4】
薬物結合の程度の計測の説明については、方法を参照のこと。
asteglichエステル化反応後、反応混合物中のDCMを回転蒸発によって除去し、次いで、10mLのDMSO、ポリマー-TTXコンジュゲートおよび未結合TTXを含む反応混合物を30mLのDI水で洗浄した。ポリマー-TTXコンジュゲートを20000rpmで5分間遠心し、30mLのDI水、10mLのDMSOおよび未結合TTXを含む上清を上清#1として回収した。ポリマー-TTXコンジュゲートを40mLのDI水で洗浄し、再度遠心した。40mLのDI水および未結合TTXを含む上清を上清#2として回収した。
b上清のTTX濃度を、TTX Elisaキットを用いて計測した。上清#1中に有機溶媒が存在するので、上清#1を、PBSで10倍希釈して、ELISA計測に対する有機溶媒の影響を回避した。
【0210】
TTX結合の程度を、以下のとおり計算した:
【数71】
【表5】
aPEG濃度を、PEG内のメチレン水素とセバシン酸内のメチレン水素のNMR比に従って計算した。
b反応後、反応混合物を40mLのDI水で2回洗浄した。20,000rpmで5分間遠心分離した後、ポリマー-TTXコンジュゲートを回収し、その後、液体窒素で凍結し、凍結乾燥した。ポリマー-TTXコンジュゲートの実際の収率を、乾燥したポリマー-TTXコンジュゲートおよびすべての反応体を計量することによって計算した。ポリマー-TTXコンジュゲートのパーセント収率(%)を、以下のとおり計算した:
【数72】
【0211】
TDP-TTXコンジュゲートの特徴付け
TDPポリマーとTTXとのコンジュゲート化を、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)によって直接確かめた。3000~3600cm-1の範囲内の吸収ピークは、TTXのグアニジウム基およびTDPポリマーのヒドロキシル基に特徴的である。TDP-TTXは、3,000~3,600cm-1の範囲において、未改変のTDPポリマーよりも強い吸収を示したことから、TTXの存在が示唆される。
【0212】
実施例2:TTX-PGS/PEGは、細胞傷害性なしに、持続時間の長いインビトロ薬物放出を提供する
結果
TDP-TTXコンジュゲートが持続的な神経遮断をもたらす可能性を評価するために、生理学的条件下のインビトロにおいて放出動態を調べた(PBS、pH7.4、37℃)。放出サンプルのHPLCは、約5.0分におけるピークを明らかにした。液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)から、その画分中の分子の分子量が、TTXの分子量に対応する(m/z320.1は[TTX+H]
+である)ことが確かめられ、これにより、TDP-TTXコンジュゲートからTTXが天然の形態で放出されたことが確かめられた。ロードされたTTXの半量を放出するのにかかる時間である、TTXの放出半減期を調べた。すべてのTDP-TTXコンジュゲートが、遊離TTXと比べて、TTX放出の持続時間を有意に延長した(
図4Aおよび4B)。
【0213】
TDPポリマーのfphilが、TTXの放出速度を決定した。fphilが、83.5から0%に低下するにつれて、TTXの放出半減期は、25±5時間から723±75時間に延長した。さらに、TTX放出は、より低い値のfphilにおいてはほぼ線形のプロファイルに従ったことから(TgD8-TTXおよびTgD8P200-TTX)、全身毒性を最小限に抑えつつ、長い局所麻酔の持続時間にわたって一定速度でTTXを放出する可能性が示唆される。
【0214】
TTX放出がエステル結合の切断に依存したことを実証するために、エステル結合よりもかなり遅い速度ではあるが加水分解され得るウレタン結合(Chaffin,K.A.,Chen,X.,McNamara,L.,Bates,F.S.& Hillmyer,M.A.Polyether Urethane Hydrolytic Stability after Exposure to Deoxygenated Water.Macromolecules 47,5220-5226,doi:10.1021/ma500904d(2014))を介してTTXをTDPに共有結合的にコンジュゲート化した(
図5A)。インビトロでは、生理学的条件(PBS、pH7.4、37℃)における28日間のインキュベーションの後、ELISAで検出可能なTTXは、10μgのTTXを含む25mgのT
gD
8-TTXウレタンコンジュゲートから放出されなかった(
図6)。
【0215】
PGS-PEG-TTXコンジュゲートおよびPGS-TTXコンジュゲートからのインビトロ薬物放出
PGS-PEG-TTXコンジュゲートおよびPGS-TTXコンジュゲートのインビトロにおける薬物放出および分解を、生理学的条件下(PBS、37℃)において28日間にわたって調べた。LC-MS分析から、TTXが天然の形態でポリマー-TTXコンジュゲートから放出されたことが確かめられた。すべてのポリマー-TTXコンジュゲート製剤が、遊離TTXと比べてTTX放出の持続時間を有意に延長した(
図6B、6C)。PGS-TTXコンジュゲートへのPEGの付加は、ポリマー骨格の親水性を決定し、ポリマー骨格の親水性は、エステル結合の加水分解速度およびTTX放出速度を決定した。したがって、ポリマー-TTXコンジュゲートにおけるPEGセグメントのパーセンテージを調整することによって、TTX放出速度を調節できる。TTXの放出は、組み込まれたPEGの量に比例して増加した。28日後、PGS-PEG2000-TTXは、99.7%のTTX放出を示したのに対して、PGS-PEG1000-TTX、PGS-PEG200-TTXおよびPGS-TTXは、それぞれ89.5、62.5および43.7%のTTX放出を示した。PGS-PEG200-TTXコンジュゲートおよびPGS-TTXコンジュゲートの場合、表面侵食機構の下でのPGS系共重合体の分解に起因するゼロ次の放出プロファイルに従ってTTXが放出された。PEG濃度の増加に伴うTTX放出の増加は、共重合体の骨格の親水性の増大に起因し得る。そのような親水性の増大は、水の取り込みを増加させ、それにより、エステル結合の加水分解が加速する。
【0216】
TTXのコンジュゲート化において使用されるのと同じエステル結合を介してPGS-PEGに共有結合させることができるヒドロキシル基を有する薬物-デキサメタゾンについても同様の傾向が示された。デキサメタゾンの濃度を、HPLCを用いて計測した。TTXおよびデキサメタゾンの薬物放出プロファイルは、調べたすべてのPGS-PEG-薬物コンジュゲートで一貫していた(表6を参照のこと)。質量損失は、PGS-PEG-TTXコンジュゲートの薬物放出の傾向と同様の傾向に従った(
図6A~6E)。28日後、PGS-TTXの質量損失は、27.3%であったのに対して、PGS-PEG200-TTX、PGS-PEG1000-TTXおよびPGS-PEG2000-TTXの質量損失は、それぞれ30.4、70.4および94.7%であった。これらの結果から、エステル結合の加水分解に起因して薬物放出が生じたことが確かめられた。数週間にわたる目的の化合物の調整可能な徐放は、コンジュゲートが持続時間の長い局所麻酔を提供する可能性を裏付けた。
【0217】
上記データから、ヒドロキシル基またはカルボキシル基を含む任意の薬物を、加水分解性のエステル結合を介してTDPポリマーに共有結合的にコンジュゲート化できることが実証された。TDPポリマーは、デキサメタゾンなどの広範囲の治療的薬物の制御放出のためのユニバーサルなプラットフォームとして働く可能性を有する(
図5B、表6、
図6A~6E)。
【表6】
aDex=デキサメタゾン。
bHPLCによって決定。
【0218】
実施例3:シリンジによって注射可能な製剤の製作
結果
注射可能な溶液および懸濁液は、任意の投与経路によって身体に注射される可能性を有する(Mastropietro,D.,Nimroozi,R.& Omidian,H.Rheology in pharmaceutical formulations-A perspective.J Dev Drugs 2,108(2013))。しかしながら、83.5%という高いf
philを有するT
gD
8P
2000は、PBSに均一に懸濁させられて、注射製剤を生成することができたが、f
philが低い他のTDPポリマーは、PBSに均一に懸濁できなかった(
図3Aおよび3B)。注射によって患者にTDP-TTXコンジュゲートを投与するために、均一なTDP-TTX/PEG200製剤を溶媒蒸発によって作製した(
図7)。手短に言えば、TDP-TTXコンジュゲートをDCMに溶解させて、均一な溶液を生成した後、DCMと混和性であるPEG200を加えた。DCMを回転蒸発および凍結乾燥によって除去することにより、PEG200中のTDP-TTXの均一な懸濁液が得られた。
【0219】
TDP-TTX/PEG200製剤の動的貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)および複素粘度を、ある範囲の角振動数において特徴付けた(
図8A~8C)。シリンジ通過性(syringeability)および注射性(injectability)を考慮するとき、粘度が重要である。50mg/mLでは、試験された角振動数の範囲において、すべてのTDP-TTX/PEG200製剤が、10Pa・s未満の粘度を有した。G”がG’より高かったことから、複素弾性率の粘稠性の成分がその材料の挙動を支配したこと、すなわち、それらが液体として挙動したことが示唆された(
図8C)。TDP-TTX/PEG200製剤の粘稠性の挙動および低い粘度は、それらがシリンジによって注射可能であることを示唆する。
【0220】
上記ポリマーのf
philは、TDP-TTX/PEG200製剤の粘度と逆相関した(
図8A)。これはおそらく、親水性の低下が、PEG200との混和性の低下を意味したからである。T
cD
8-TTX/PEG200の粘度は、T
gD
8-TTX/PEG200の粘度より低く、これは、PEG200に対するPCL-トリオールの混和性が、グリセロールの混和性よりも良いことに起因し得る。
【0221】
実施例4:TDP-TTXコンジュゲートは、インビボにおいて坐骨神経遮断を誘導する
結果
神経遮断に対するTTX用量の影響
ラット(1群につき4匹)の左坐骨神経に、遊離TTXを含む0.5mLのPBSもしくはPEG200、またはTDP-TTXコンジュゲートを含む0.5mLのPEG200を注射した。次いで、それらのラットに神経行動試験を受けさせて、両後足における機能障害(すなわち、神経遮断)の持続時間を測定した。注射した(左)側の障害の持続時間は、神経ブロックの持続時間を反映した。注射していない(右、反対側)側における障害は、TTXの全身分布を反映した。
【0222】
PEG200を伴うおよび伴わない遊離TTX
遊離TTXの坐骨神経注射を受けたラットの群は、神経ブロックの成功頻度および神経ブロックの持続時間の中央値の用量依存的な増加を示した(
図9Aおよび9B)。PBS中の低用量のTTX(1または2μg;それぞれ6または12μM)は、検出可能な神経ブロックまたは毒性を引き起こさなかった。PBS中の4μg(24μM)の遊離TTXからのブロックは、100%の動物において成功し、1.9±1.0時間という感覚神経ブロックの持続時間の中央値をもたらした。これは、臨床で通常使用される麻酔薬である0.5%ブピバカインの効果に匹敵する。しかしながら、PBS中の4μgのTTXによるブロックは、注射されていない(反対側の)脚における感覚消失によって証明される、顕著な全身毒性を伴った(
図9Cおよび
図10A~10E)。PBS中の5μg(30μM)の遊離TTXの注射は、すべての動物において反対側に障害を引き起こし、一様に致死的であった(
図9D)。PBS中のいずれの用量の遊離TTXにおいても感覚神経遮断の持続時間と運動神経遮断の持続時間との間に統計学的に有意な差は無かった(
図11)。
【0223】
0.5mLのPEG200中の遊離TTXは、PBS中のTTXよりもかなり速い速度での神経遮断成功および長い持続時間の神経ブロックをもたらした(
図9A、9B)。PEG200中の1μg(6μM)および3μg(18μM)の遊離TTXは、それぞれ3.6±0.3時間および5.3±0.3時間という持続時間で100%遮断をもたらした。PEG200は、全身毒性の発生率に影響しなかった(
図9C、9D)。PEG200による神経ブロックの成功率および持続時間の改善は、化学的浸透促進剤またはナノカプセル封入の効果と一致する。
【0224】
T
gD
8-TTX/PEG200
神経ブロックの持続時間は、T
gD
8-TTX/PEG200中の製剤によって有意に延長された(
図9A、9B)。1μg(6μM)のT
gD
8-TTX/PEG200としてのコンジュゲート化TTXは、50%のブロック成功をもたらし、1.6±1.1時間という持続時間の中央値であった。感覚ブロックの成功および持続時間は、コンジュゲート化TTXの用量が増加するにつれて増大した。80μg(480μM)のT
gD
8-TTX/PEG200としてのコンジュゲート化TTXによる感覚神経ブロックは、71.5±6.9時間続き(
図9B)、動物は死亡せず、反対側の障害を起こさなかった(
図9C、9Dおよび
図10A~10E)。重要なことに、この動物モデルでは、毒性が限定的であることに起因して、徐放(Rwei,A.Y.ら、Repeatable and adjustable on-demand sciatic nerve block
with phototriggerable liposomes.Proceedings of the National Academy of Sciences
112,15719-15724,(2015))、化学的浸透促進剤(Lahaye,L.A.& Butterworth,I.V.J.F.Site-1 Sodium
Channel Blockers as Local AnestheticsWill Neosaxitoxin Supplant the Need for Continuous Nerve Blocks? Anesthesiology 123,741-742(2015))、またはS1SCBの効果を高める薬物(Rai,R.,Tallawi,M.,Grigore,A.& Boccaccini,A.R.Synthesis,properties and biomedical applications of poly(glycerol sebacate)(PGS):A review.Progress in Polymer Science 37,1051-1078,(2012))の非存在下においては、TTXによるそのような長い神経ブロックを達成することができない。運動ブロックは、コンジュゲート化TTXのすべての用量において、感覚ブロックよりも長かった。例えば、T
gD
8-TTX/PEG200としての80μg(480μM)のコンジュゲート化TTXによる運動ブロックは、83.5±10.5時間続いた(
図11)。
【0225】
T
gD
8-TTX/PEG200における低用量のTTX(例えば、1~3μg)は、PBS中の遊離TTXより高いブロック成功率を有したという事実は、その製剤における賦形剤のCPE様効果と一致した。そうでなければ一般に、薬物の遊離画分がより多いために、遊離薬物がより高いブロック成功率を有すると予想され得る。PEG200またはT
gD
8がCPE様効果に関与したかを判定するために、0.5mLのPEG200中の25mgのT
gD
8ポリマーとともに(しかしそれにコンジュゲート化されていない)3μg(18μM)の遊離TTXを、坐骨神経に注射したところ、3.5±1.1時間という持続時間で100%遮断がもたらされた。これは、遊離TTXからのブロックの持続時間よりも長かった(p<0.05)が、PEG200中のTTXよりも長くなかったことから、T
gD
8ではなくPEG200がCPE様効果に関与することが示唆された。TTXの非存在下では、0.5mLのPEG200中のT
gD
8ポリマーは、神経ブロックを引き起こさなかった(表7)。
【表7】
神経ブロックの持続時間に対するデータは、平均値±SDである。
【0226】
460nmの励起波長および515nmの発光波長を有する蛍光色素であるフルオレセインナトリウムとTTXの両方ともが非常に親水性であるので、PEG200が神経へのTTX流入を増加させるCPE分子として働くことができる可能性を調べるために、フルオレセインナトリウムをTTXの代わりとして用いた。0.5mLのPEG200またはPBS中の0.25mgのフルオレセインナトリウムをラットの坐骨神経に注射した。1時間後および4時間後、動物を安楽死させ、坐骨神経および周囲組織を収集した。それらの組織の凍結切片を作製し、蛍光像を撮影した。坐骨神経および周囲組織の切片の蛍光像は、0.5mlのPEGまたはPBS中の0.25mgのフルオレセインナトリウムの注射の1および4時間後に捕捉した。
【0227】
PEG200中のフルオレセインナトリウムを注射された動物では、注射の1時間後に、神経全体にわたって蛍光が観察されたが、注射の4時間後には、観察されなかった。同じ用量のフルオレセインナトリウムを含むPBSを注射された動物の神経ではいずれの時点においても、または注射されていない肢において、蛍光は観察されなかった。これらの結果から、PEG200は、分子が神経に浸透するのを助ける化学的浸透促進剤として作用できることが実証された。
【0228】
この研究の基礎をなす重大な仮説は、ポリマーに結合したTTXが不活性であり得ること、およびそれは放出されると活性になり得るということであった。この仮説を検証するために、ウレタン結合を介したTgD8に対する10.0μgのコンジュゲート化TTXを、坐骨神経に注射した。試験されたいずれの動物においても、感覚神経遮断はもたらされなかった。これらの結果から、TTXは、ポリマー骨格に共有結合的にコンジュゲート化されると、生物学的活性を有しないことが示唆された。
【0229】
PBSで希釈したT
gD
8-TTX/PEG200
PEG200によって誘導されるCPE効果を排除するため、および神経ブロックに対するT
gD
8-TTX自体からのTTXの徐放の効果を調査するために。遊離TTX/PEG200およびT
gD
8-TTX/PEG200溶液を、10wt%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBSで4倍希釈した。BSAは、界面活性物質として働くことにより、その溶液からのT
gD
8-TTXの沈殿を回避した。0.5mlのその希釈溶液中の1μg(6μM)の遊離TTXは、検出可能な神経ブロックまたは毒性を引き起こさなかったことから、純粋なPEG200のCPE効果の排除が示唆された(表8)。0.5mlの希釈溶液中に40μg(240μM)のTTXを含む25mgのT
gD
8-TTXは、検出可能な神経ブロックまたは毒性を引き起こさなかったことから、T
gD
8-TTXからのTTXのゆっくりとした放出は、神経ブロックをもたらす治療用量のTTXを達成しなかったことが示唆される。これらの結果から、T
gD
8-TTX/PEG200製剤におけるPEG200のCPE様の機能がさらに確かめられた。
【表8】
神経ブロックの持続時間に対するデータは、平均値±SDである。
【0230】
実施例5:fphilは、コンジュゲート化TTXの毒性および有効性に影響する(Effects)
TDPポリマーのfphilが、インビトロにおいてTDP-TTXコンジュゲートからのTTX放出速度を決定したという事実から着想を得て、本発明者らは、TDPポリマーのfphilがインビボにおいて特定の用量のコンジュゲート化TTXの毒性および有効性も決定するという仮説を立てた:より高いfphilは、天然の形態でのより速いTTXの放出を誘導したので、特定の高用量のコンジュゲート化TTXの毒性を高めたが、一方で特定の低用量のコンジュゲート化TTXの有効性を高めた。
【0231】
本発明者らの仮説を検証するために、ラットの左坐骨神経に、2つの用量のコンジュゲート化TTX:10μg(60μM)および1μg(6μM)を含むTDP-TTXコンジュゲートを注射した。コンジュゲート化TTXの毒性および有効性に対するf
philの効果を調べた。TDPポリマーのf
philの上昇は、死亡率の上昇によって証明されるように、10μg(60μM)のコンジュゲート化TTXの全身毒性を高めた(
図12A~12D)。他方で、TDPポリマーのf
philの上昇は、ブロックの成功率およびブロックの持続時間の増加によって証明されるように、1μg(6μM)のコンジュゲート化TTXの有効性を高めた。
【0232】
実施例6:TDPポリマーはインビボにおいて神経に生体内分布した
結果
坐骨神経注射後のTDPポリマーの局所分布を調べるために、色素が単独で拡散できないようにフルオレセインイソチオシアネート(488nmの励起波長および519nmの発光波長を有する蛍光色素)に共有結合的にコンジュゲート化されたTgD8(0.5mLのPEG200中)を動物に注射した。そのポリマーは、FITC-TgD8と表示される。注射後の所定の時点において、動物を安楽死させ、神経および周囲組織を組織学的検査のために処理した。共焦点による蛍光イメージングは、注射の24、48および168時間後に、筋肉と神経との間の結合組織にFITC蛍光を示した。注射されていない肢において、FITC蛍光は観察されなかった。
【0233】
組織におけるTDPの局所保持の時間経過を評価するために、Cy5.5(生きている動物における蛍光計測にとって理想的な近赤外シグナルを発する蛍光色素)に共有結合的にコンジュゲート化されたT
gD
8(0.5mLのPEG200中)を動物に注射した。そのポリマーは、Cy5.5-T
gD
8と表示される。インビボイメージングシステム(IVIS)によって蛍光イメージングを撮影して、組織におけるCy5.5-T
gD
8の位置を経時的に評価した。蛍光シグナルは、すべての動物の坐骨神経で見られ、その他の箇所で検出可能な蛍光は見られなかった。4週間かけて蛍光シグナルは低下したことから、TDPがインビボにおいて徐々に分解されたことが示唆される(
図13)。注射の24時間後の剖検において、目に見える沈着物が坐骨神経に位置した。これらは、蛍光性であったことから、TDPを含んでいることが確かめられた。
【0234】
実施例7:TDP-TTXコンジュゲートは、組織反応を誘発(illicit)しない 結果
遊離TTXおよび様々なf
philを有するTDP-TTXコンジュゲートを注射された動物を、坐骨神経注射の4および14日後に安楽死させた。T
gD
8-TTXコンジュゲートに対する代表的な組織反応を
図8に示した。解剖時に、共焦点およびIVISによって検出される残留材料がいくらかあった。それらの組織は、浮腫性であるかまたは変色しているようには見えず、組織損傷の他の肉眼的徴候も有しなかった。坐骨神経および周囲組織を切断し、組織学的評価のために収集した。筋組織をヘマトキシリン-エオシン染色で処理し、神経組織をトルイジンブルー染色で処理した。
【0235】
鏡検では、注射の4および14日後に、遊離TTXおよびTDP-TTXを注射された動物において有意な筋毒性および炎症は明らかにされなかった。筋毒性および炎症を、スコアリングシステムを用いて定量した(表3)(Wang,Y.,Kim,Y.M.& Langer,R.In vivo degradation characteristics of poly(glycerol sebacate).Journal of Biomedical Materials Research Part A 66A,192-197,(2003))。遊離TTXに対するスコアと様々なfphilを有するTDP-TTXコンジュゲートに対するスコアとの間に統計学的に有意な差は無かった。
【0236】
H&E染色は、神経損傷の特定に対して比較的感受性でないので、TDP-TTXを注射された動物の坐骨神経のトルイジンブルー染色Epon包埋切片を得た。神経の組織学的検査および顕微鏡像は、注射されたすべてのラットにおいて正常な軸索の分布およびミエリン構造を示した。注射の4および14日後における神経の鏡検から、正常な無髄線維が明らかにされ、損傷(例えば、腫脹、崩壊または濃く染色される軸索原形質)の証拠は無かった。すべての群において、有髄線維が、軸索内に沈着物を有するかまたはミエリン鞘内に円形の切れ目を有することが時折見られたが、これらは、正常な末梢神経線維の一般的な所見である。
【表9】
a0.5mLのPBS中の3μgの遊離TTX、
bTDP-TTXコンジュゲートを、0.5mLのPEG200中で製剤化した。データは、25および75パーセンタイルによる中央値である(n=4)。炎症スコアは、0~4の範囲であり;筋毒性スコアは、0~6の範囲である(McAlvin,J.B.,Reznor,G.,Shankarappa,S.A.,Stefanescu,C.F.& Kohane,D.S.Local Toxicity from Local Anesthetic Polymeric Microparticles.Anesthesia and analgesia 116,794-803,(2013);F Padera,R.,Tse,J.,Bellas,E.& S Kohane,D.Tetrodotoxin for prolonged local anesthesia with minimal myotoxicity.Vol.34(2006))。
【0237】
実施例8:PGS-PEG-TTXコンジュゲートは、すべてのアルコール性薬物またはカルボン酸薬物に対してユニバーサルな治療的薬物プラットフォームを提供する
結果
PGS-PEG共重合体は、調節可能な親水性を有するので、すべてのアルコール性薬物またはカルボン酸薬物に対してユニバーサルな治療的薬物プラットフォームとして働き得る。1つのヒドロキシル基を含む従来の局所麻酔剤であるカプサイシンを、エステル結合を介してPGS-PEG共重合体にコンジュゲート化した(
図14)。ラットモデルにおいて神経遮断をもたらすために、カプサイシンの最小有効量は、およそ50μgであり、これは、TTX27-28の最小有効量よりかなり多い。したがって、カプサイシンの最小有効量を達成するためには、TTXの注射用量および放出速度よりも高いカプサイシンの注射用量およびより速いカプサイシンの放出速度が望まれる。この概念を証明するために、PGS-カプサイシンコンジュゲートおよびPGS-PEG1000-カプサイシンコンジュゲートを合成した。それらの各々は、2つのグラフト密度を有する:PGS-カプサイシンおよびPGS-PEG1000-カプサイシンは、44.4μg/mgというグラフト密度を有し、PGS-カプサイシン-2およびPGS-PEG1000-カプサイシン-2は、182.9μg/mgというグラフト密度を有する(表10)。
【表10】
【0238】
TTXおよびデキサメタゾンの放出傾向と一致して、カプサイシンは、PGS-カプサイシンコンジュゲートよりもかなり速くPGS-PEG1000-カプサイシンコンジュゲートから放出された。PBS中での1日間のインキュベーションの後、70.8μgのカプサイシンが25mgのPGS-PEG1000-カプサイシン-2コンジュゲートから放出されたのに対して、25mgのPGS-カプサイシン、PGS-カプサイシン-2およびPGS-PEG1000-カプサイシンからは、それぞれたった5.3、21.2および15.2μgのカプサイシンしか放出されなかった(
図10)。インビボでは、25mgのPGS-PEG1000-カプサイシン-2の注射によって、試験されたすべての動物において神経遮断がもたらされ、それは1日間から27日間継続した。他方で、25mgのPGS-PEG1000-カプサイシン、PGS-カプサイシンおよびPGS-カプサイシン-2の注射は、試験されたすべての動物において神経遮断をもたらさなかったことから(表11)、最小有効量のカプサイシンに到達しなかったことが示唆される。これらの結果から、PGSは、TTXに最も適したプラットフォームであるが、神経遮断をもたらすカプサイシンの制御放出のためのプラットフォームとしては、PGSよりもPGS-PEG1000が適していることが実証された。
【表11】
a0.5mlのPEG200中で製剤化された
【0239】
PGS-PEG-TTXコンジュゲートは、ヒトなどの大型動物に適用される可能性を有する。局所麻酔剤(TTXを含む)の毒性用量の中央値は、レシピエント2の質量(分布容積)に正比例するので、所与の量の調製物の毒性は、より大きな動物で使用されると、大幅に低下し得る。神経を遮断する用量は、身体サイズに比例するので、TTXの注射用量と放出速度の両方が、動物が大きくなるほど増加するはずである。PGS-PEG-TTXは、TTXの放出速度が速いので、より大きな動物ではPGS-TTXよりも適している可能性がある。
【0240】
要約
Steglichエステル化反応を介して、ジカルボン酸のカルボキシル基およびトリオールのヒドロキシル基およびPEGの間にエステル結合を形成することによって、TDPポリマーを合成した。TDPポリマーは、エステル結合の加水分解によって分解可能であり、細胞傷害性を最小限に抑えつつ、良好な生体適合性を示した。様々なfphilを有するTDPポリマーのファミリーを合成した。表面と容積の両方の特徴付けから、そのポリマーのfphilが、ポリマーネットワークのエステル結合の加水分解速度を決定したことが示唆された。TDPポリマーは、薬物が共有結合的にコンジュゲート化できる複数の活性な末端基(ヒドロキシル基およびカルボキシル基)を有する。これらの特徴は、TDPポリマーが、広範囲の治療的薬物の制御放出のためのユニバーサルプラットフォームとして働く潜在能力を有することを示唆している。
【0241】
Steglichエステル化反応を介して、TDPポリマーのカルボキシル基とTTXのヒドロキシル基との間にエステル結合を形成することによって、TTXとTDPポリマーとの共有結合性のコンジュゲート化が達成された。Steglichエステル化合成は、薬物の分解を回避するために室温において行われた。合成されたTDP-TTXコンジュゲートは、徐々に分解して、より小さいポリマー-TTXフラグメントになり、最終的には、エステル結合の加水分解によって天然の形態のTTXに分解して、TTXの制御放出が達成された。TTXの放出速度は、TDPポリマーのfphilに反比例した。37.8%未満のfphilでは、TDP-TTXコンジュゲートは、インビトロにおいて1ヶ月を超える長期間のTTX放出が達成された。
【0242】
PEG200のCPE機能が初めて確かめられた。PEG200は、神経周膜バリアを通り抜けて神経への薬物流入を増大させることができ、これは、PEG200の両親媒性の性質に起因し得る。0.5mLのPEG200中の1~3μgの用量の遊離TTXは、最大5.3±0.3時間というブロックの持続時間で100%遮断をもたらした。これは、臨床において通常使用される麻酔薬である0.5%ブピバカインの効果よりも3倍長い。PEG200は、低毒性であること、および種々の薬学的製剤においてすでに広く使用されていることから(D’souza,A.A.& Shegokar,R.Polyethylene glycol(PEG):a versatile polymer for pharmaceutical applications.Expert Opinion on Drug Delivery 13,1257-1275,doi:10.1080/17425247.2016.1182485(2016))、臨床での局所麻酔用のTTX送達媒体として働く大きな可能性を有する。
【0243】
TDP-TTXコンジュゲートは、混和性が良いことから、PEG200中に容易に分散させられ、シリンジで注射可能な均一なTDP-TTX/PEG200製剤が形成された。調製されたすべてのTDP-TTX/PEG200製剤が、10Pa・s未満の粘度を有する液体として挙動したことから、シリンジ注射による患者への投与の可能性が示唆された。
【0244】
インビボ動物試験から、TDP-TTX/PEG200製剤が、TTXの持続放出を達成し、局所麻酔に対するTTXの治療指数を大幅に拡大できることが確証された。(i)TDP-TTX/PEG200は、最大80μgという用量のTTXの注射を、その全身毒性を増大させることなく、可能にした。さらに、TDP-TTXコンジュゲートは、神経周辺の神経上膜組織において長時間保持され、それは最大4週間続き、これにより、長期間にわたる治療的なTTX濃度が維持され、局所麻酔の持続時間の延長が可能になった。(ii)TDP-TTX/PEG200製剤は、TTXの有効性を高めることができた。TDP-TTX/PEG200製剤は、1μgもの少ないTTXの有効性を有意に高め、神経遮断をもたらす。全体的に見て、1.0~80.0μgという広範囲のTTX注射用量において、TDP-TTX/PEG200製剤は、数時間から3日間という調節可能な神経ブロックの持続時間を提供した。
【0245】
TDP-TTXコンジュゲートは、ヒトなどの大型動物に適用できる。局所麻酔剤(TTXを含む)の毒性用量の中央値は、レシピエント2の質量(分布容積)に正比例するので、所与の量の本発明者らの調製物の毒性は、より大きな動物で使用されると、大幅に低下し得る。神経を遮断する用量は、身体サイズに比例するので、TTXの注射用量と放出速度の両方が、動物が大きくなるほど増加するはずである。より高いfphilを有するTDP-TTXコンジュゲートは、TTXの放出速度が速いので、より大きな動物ではより適している可能性がある。
【0246】
TTXを診療に導入することを目的として、TTXの治療指数を拡大する送達系を合理的に設計した。TTXを、加水分解性のエステル結合を介して、生分解性かつ生体適合性のTDP骨格に共有結合的にコンジュゲート化した。上記データから、TDP-TTXコンジュゲートが、調整可能なTTX放出を提供し得ることが実証された。TTXは、エステル結合の加水分解によって天然の形態で放出され得、放出速度は、TDP骨格の親水性を制御することによって調整可能であり得る。PEG200は、CPE分子として働くことにより、神経周膜バリアを通り抜けて神経への薬物流入を増大させることができる。PEG200は、神経遮断をもたらすTTXの有効性を有意に高め得る。TDP-TTX/PEG200は、PEG200のCPE機能とともにTDP-TTXコンジュゲートからの持続的なTTX放出を備えている、シリンジによって注射可能な製剤であり、TTXの治療濃度域を有意に拡大すると立証された。TDP-TTX/PEG200製剤は、インビボ実験において、1.0~80.0μgという広範囲のTTX注射用量において、数時間から3日間という調節可能な持続時間の神経ブロックを提供した。さらに、神経遮断は、最小限の全身毒性、ならびに筋肉および末梢神経に対する実質的に無い局所毒性を伴った。TDP-TTX/PEG200製剤は、持続時間が長く調節可能な局所麻酔のための首尾よい安全なアプローチを提供する。