(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114978
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】歯ブラシ
(51)【国際特許分類】
A46B 5/02 20060101AFI20240816BHJP
A46B 9/04 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
A46B5/02
A46B9/04
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024106333
(22)【出願日】2024-07-01
(62)【分割の表示】P 2019208456の分割
【原出願日】2019-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 明
(72)【発明者】
【氏名】吉井 圭二
(72)【発明者】
【氏名】崔 天蔚
(57)【要約】
【課題】前歯等の口腔内方に位置する歯面及び歯茎のブラッシングを容易にするとともに、過度のブラッシング圧となるのを回避して、適切なブラッシング圧で歯面や歯茎をブラッシングすることができる歯ブラシを提供すること。
【解決手段】歯ブラシ10は、毛束18が植設される複数の植毛孔16が形成されている植毛台14と、把持部11と、把持部11と植毛台14とを連結するネック部12とを含む歯ブラシ本体15を備える。把持部11のネック部12側の一端部分11aには、親指と人差指とで両側からつまむことが可能なつまみ部19が設けられている。つまみ部19は、植毛台14の植毛面14Aと平行な横方向の幅よりも、該方向と垂直な縦方向の幅の方が長くなった縦長の断面形状を備える。つまみ部19は、植毛台14の植毛面14Aに沿った仮想延長線V1よりも、毛束が立設する側に配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛束が植設される複数の植毛孔が形成されている植毛台と、把持部と、該把持部と前記植毛台とを連結するネック部とを含む歯ブラシ本体を備える歯ブラシであって、
前記把持部の前記ネック部側の端部分には、前記植毛台の植毛面と平行な横方向の幅よりも、該方向と垂直な縦方向の幅の方が長くなった縦長の断面形状を備える、親指と人差指とで両側からつまむことが可能なつまみ部が設けられており、
前記つまみ部は、前記植毛台の植毛面に沿った仮想延長線よりも、毛束が立設する側に配置されている、歯ブラシ。
【請求項2】
前記つまみ部は、その中心位置が前記植毛台の先端から50mm以上100mm以下の領域に配置されている、請求項1に記載の歯ブラシ。
【請求項3】
前記植毛台は、該植毛台の植毛面に沿う仮想延長線と、前記把持部の軸に沿う仮想延長線とが平行となるように配されている、請求項1又は2に記載の歯ブラシ。
【請求項4】
前記植毛台は、該植毛台の植毛面に沿う仮想延長線が、前記把持部の軸に沿う仮想延長線から、毛束が立設する側に傾斜するように配置されている、請求項1又は2に記載の歯ブラシ。
【請求項5】
前記つまみ部は、前記把持部の延びる方向に沿う長さが、該方向に直交する長さよりも長い横長の側面形状を備えている、請求項1~4のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項6】
重心位置が、前記植毛台の先端を起点として全長の60%以下の領域にある、請求項1~4のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項7】
前記植毛台の厚さが2.0mm以上4.0mm以下であり、
前記ネック部の径が最も小さい部分における断面積が14.0mm2以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項8】
前記植毛台及び前記ネック部はいずれも、曲げ弾性率が2000MPa以上であり且つ引張破壊ひずみが30%以上90%以下である熱可塑性樹脂を含んで構成されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項9】
前記植毛台及び前記ネック部はいずれも、ポリアセタール樹脂及びポリブチレンテレフタレート樹脂のうち少なくとも一方を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
歯ブラシを用いた口腔内のブラッシングは、歯ブラシの柄部の中間部分を親指と人差し指との間に挟み込むとともに、植毛台とは反対側の部分を中指や薬指や小指や掌で包み込んで把持する方法によって、歯ブラシを手に持った状態で行なわれることが多い。歯ブラシの柄部を把持した状態では、歯ブラシの柄部の最も後端側を包み込んだ小指の部分を支点とし、中間部分を挟み込んだ親指や人差し指の部分を力点として、作用点である毛束が植毛された植毛台に、梃の原理によってブラッシング圧を負荷しながら、歯面や歯茎をブラッシングできるようになっている。
【0003】
例えば特許文献1には、歯茎のマッサージ及び歯面磨きを目的として、歯茎のマッサージと歯みがきを行なう剛毛を設けたヘッド部分と、このヘッド部分から延びる細長いハンドルとを有している、歯茎のマッサージ及び歯みがき用の歯ブラシが開示されている。同文献には、上述のハンドルが、歯ブラシの使用中に親指と人差し指とで歯ブラシを回転させやすい形状のたる形グリップ部分と、このグリップ部分から延びて、使用時に手の平の横方向にぴったり合う延出部分とを有し、また歯ブラシの使用中に手に当接して回転動作の制御を助ける安定化部分を備えていることも開示されている。
【0004】
また特許文献2には、歯茎のマッサージ及び歯面磨きを目的として、ブラシ部と柄部とからなり、柄部はブラシ部に続く頚部、ブラシ部から遠い延長部及び頚部と延長部とを連結する中間部からなる歯ブラシが開示されている。この歯ブラシは、中間部の縦巾は頚部及び延長部の縦巾よりも実質的に大きく、中間部の最大縦巾は頚部の最小縦巾の少なくとも倍でありかつ延長部の最小縦巾の少なくとも1.5倍であることも同文献に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63-23608号公報
【特許文献2】実開平1-171221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、歯ブラシにおけるブラシ面と歯面及び歯茎との当接によって生じるブラッシング圧が過度に発生した状態でブラッシングを行うと、歯肉が下がって歯根面が露出し易くなり、冷たいものがしみる「知覚過敏」や、歯根面が削れる「皿状欠損」や、歯根面が虫歯になる「根面う蝕」を引き起こす原因となり得る。そのため、歯ブラシを用いて口腔内をブラッシングする際には、歯面及び歯茎に対して過度のブラッシング圧となるのを回避して、適切なブラッシング圧で行われるようにすることが望まれている。これに加えて、前歯を対象として口腔内方に位置する歯面及び歯茎のブラッシングを行う場合、歯ブラシの柄部を把持した状態ではブラッシングを行いづらく、またブラッシング位置の適切な制御が困難である。これらの点に関して、特許文献1及び2に記載の技術では何ら検討されていない。
【0007】
したがって、本発明は、前歯等における口腔内方に位置する歯面及び歯茎のブラッシングを容易にするとともに、過度のブラッシング圧となるのを回避して、適切なブラッシング圧で口腔内方に位置する歯面や歯茎をブラッシングすることができる歯ブラシに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、毛束が植設される複数の植毛孔が形成されている植毛台と、把持部と、該把持部と前記植毛台とを連結するネック部とを含む歯ブラシ本体を備える歯ブラシに関する。
一実施形態では、前記把持部の前記ネック部側の端部分には、前記植毛台の植毛面と平行な横方向の幅よりも、該方向と垂直な縦方向の幅の方が長くなった縦長の断面形状を備える、親指と人差指とで両側からつまむことが可能なつまみ部が設けられている。
一実施形態では、前記つまみ部は、前記植毛台の植毛面に沿った仮想延長線よりも、毛束が立設する側に配置されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前歯等における口腔内方に位置する歯面及び歯茎のブラッシングを容易にするとともに、過度のブラッシング圧となるのを回避して、適切なブラッシング圧で口腔内方に位置する歯面や歯茎をブラッシングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の歯ブラシの一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1に示す歯ブラシの植毛面側から見たときの状態を模式的に示す正面図であり、
図2(b)は、
図1に示す歯ブラシの側面を模式的に示す側面図であり、
図2(c)は、
図2(b)におけるI-I面での模式的な断面図であり、
図2(d)は、
図2(b)におけるII-II面での模式的な断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の歯ブラシの別の実施形態における側面を模式的に示す側面図である。
【
図4】
図4は、本発明の歯ブラシを用いた好適なブラッシング方法の一例を、歯型模型とともに示した写真である。
【
図5】
図5は、本発明の歯ブラシの更に別の実施形態において、つまみ部の側面を模式的に示す要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。本発明の歯ブラシは、毛束が植設される複数の植毛孔が形成されている植毛台と、把持部と、該把持部と該植毛台とを連結するネック部とを含む歯ブラシ本体を備える。
【0012】
図1ないし
図3に示す実施形態の歯ブラシ10は、長手方向Xに延びる把持部11と、同方向Xに延びるネック部12とを含む柄部13と、植毛台14とを備える歯ブラシ本体15を含んで構成されている。ネック部12は、把持部11と植毛台14とを連結している。つまり、本実施形態の歯ブラシ10は、一方の端部に植毛台14を有し、他方の端部に把持部11を有し、把持部11と植毛台14との間にネック部12が配置された一方向に延びる形状を有している。
【0013】
植毛台14は、一対の主面と該主面に交差する側面とから構成される略板状の部材であり、主面を平面視したときに略楕円形状を有している。植毛台14は、その主面の一方の面に、分散配置されて開口形成されてなる複数の植毛孔16が形成された植毛面14Aを有する。植毛孔16は、その孔内に、フィラメント状の合成樹脂等からなる複数本のブリッスル17を束ねてなる毛束(タフト)18が各々植設(植毛)されて、植毛面14Aと略平行なブラシ面18Aを形成している。これによって、植毛面14Aは、植毛台14における毛束が立設する側の面となっている。本実施形態では、歯ブラシ10の厚み方向Zと、毛束の立設方向とが一致している。
【0014】
以下の歯ブラシ10に関する説明では、植毛台14における毛束が立設する側の面(すなわち植毛面14A)を「正面」ともいい、植毛台14における毛束が立設していない側の面(すなわち植毛面14Aと反対側の面)を「背面」ともいい、植毛台14における側面を単に「側面」ともいう。
【0015】
把持部11は、歯ブラシ10における植毛台14とは反対側の端部分を形成するものである。本実施形態における把持部11は、把持部11のネック部12側、すなわち植毛台14から近い側に位置する一端部分11aと、植毛台14から遠方に位置する他端部分11bとを備える。把持部11は、後述するように、一次樹脂形成部Aからなる芯材と、一次樹脂形成部Aの表面を被覆する二次樹脂形成部Bとを含んで構成されることが好ましい。この場合、一次樹脂形成部Aと二次樹脂形成部Bとを係合する係合部11j,11hが把持部11に形成されていてもよい。
【0016】
歯ブラシ10を構成するネック部12は、把持部11における一端部分11aと植毛台14とを連結する部分を形成するものである。本実施形態におけるネック部12は、把持部11における一端部分11aから、植毛台14との接続部分12aに向けて、略四角形状の断面形状を保持したまま、断面積が連続して減少する形状を備えている。
【0017】
図1並びに
図2(a)ないし(d)に示す実施形態の歯ブラシ10は、把持部11のネック部12側の一端部分11aに、つまみ部19が設けられている。つまみ部19の両側面は、
図2(a)に示すように、歯ブラシ10の正面又は背面からみたときに略凹形状となっている。
【0018】
図2(c)に示すように、つまみ部19は、これを断面視したときに、植毛台14の植毛面14Aと平行な方向である横方向の幅よりも、横方向と垂直な縦方向の幅のほうが長くなった縦長の断面形状を備えている。本実施形態では、略楕円状の断面形状を備えている。つまみ部19の断面視における縦方向は歯ブラシ10における厚み方向Zに沿う方向であり、正面及び背面に交差又は直交する方向である。また、つまみ部19の断面視における横方向は、歯ブラシ10における幅方向Yに沿う方向であり、歯ブラシ10の両側面に交差又は直交する方向である。このような構成とすることによって、歯ブラシ10における把持部11と掌とを離間させた状態で、つまみ部19を親指及び人差指で効率良くつまみやすくすることができる。
【0019】
つまみ部19は、その断面視において、植毛面14Aと平行な方向である横方向(幅方向Y)の幅が好ましくは4~10mm程度の大きさを有する。また、つまみ部19の断面視において、縦方向(厚み方向Z)の幅が好ましくは8~15mm程度の大きさを有する。
【0020】
図2(b)に示すように、つまみ部19は、これを側面視したときに、把持部11の延びる方向に沿う長さが、該方向に直交する方向の長さよりも長い、横長の側面形状を備えている。詳細には、本実施形態では、厚み方向Zに沿う長さに比べて長手方向Xに沿う長さが長い略楕円形の側面形状を有しており、つまみ部19の側面形状は、長手方向Xと長軸の延在方向とが略一致し、且つ厚み方向Zと短軸の延在方向とが略一致している。つまみ部19が横長の側面形状を備えていことによって、歯ブラシ10の使用時につまみ部19を片手で把持したときに、つまみ部19の両側面に親指及び人差指をそれぞれ押し当てるように誘導して、親指の指腹部と人差指の指腹部とによって両側から挟み込むようにしてつまむことが、容易にできるようになっている。
【0021】
図2(d)に示すように、把持部11の他端部分11bは、略五角形状の断面形状を備えている。また、他端部分11bは、その角部が湾曲形状に面取りされた形状となっている。他端部分11bの断面視において、植毛面14Aと平行な方向である横方向(幅方向Y)の幅が好ましくは10~18mm程度の大きさを有する。また、つまみ部19の断面視において、縦方向(厚み方向Z)の幅が9~15mm程度の大きさを有する。
【0022】
本実施形態の歯ブラシ10を側面視したときに、植毛台14とつまみ部19との位置関係を説明すると、
図2(b)に示すように、つまみ部19は、植毛台14の植毛面14Aに沿った仮想延長線V1よりも、毛束が立設する側に配置されている。つまり、仮想延長線V1を基準として、つまみ部19が植毛面14Aよりも正面側に位置している。
【0023】
つまみ部19が仮想延長線V1よりも毛束が立設する側に配置されているか否かは、つまみ部19の側面視における図心Gの位置を基準とすることができる。詳細には、図心Gの位置が仮想延長線V1上であるか、又は仮想延長線V1よりも毛束が立設する側に位置していれば、「つまみ部19は毛束が立設する側に配置されている」とし、仮想延長線V1よりも毛束が立設されていない側に位置していれば、「つまみ部19は毛束が立設する側に配置されていない」とする。
【0024】
つまみ部19が仮想延長線V1よりも毛束が立設する側に配置された態様としては、例えば以下の態様が挙げられる。例えば
図2(b)に示すように、ネック部12が把持部11の一端部分11aから背面側に傾斜するように湾曲して構成されており、植毛台14の植毛面14Aが把持部11の軸に沿う第2仮想延長線V2よりも背面側にある態様が挙げられる。同図に示すように、植毛面14Aに沿う仮想延長線V1と、把持部11の軸に沿う第2仮想延長線V2とが平行となっていることも好ましい。このような構成となっていることによって、把持部11と植毛面14Aとを同一方向に連動して動かすことができるので、口腔内方に位置する歯面及び歯茎のブラッシング時における取扱い易さを更に高めることができるとともに、適度なブラッシング圧を付与した状態でのブラッシング効率が更に向上する。本実施形態における「平行」とは、仮想延長線V1と第2仮想延長線V2とが平行である態様、並びに、仮想延長線V1と第2仮想延長線V2とのなす角度が5度以下である態様の双方を包含する。
【0025】
図1並びに
図2(a)ないし(d)に示す実施形態に代えて、つまみ部19が仮想延長線V1よりも毛束が立設する側に配置された態様として、例えば
図3に示すように、ネック部12が把持部11の一端部分11a側から歯ブラシ10の正面側に傾斜するように湾曲して、植毛台14の植毛面14Aが第2仮想延長線V2よりも正面側にある態様となっていてもよい。
図3に示すように、植毛面14Aに沿う仮想延長線V1が、把持部11の軸に沿う第2仮想延長線V2から毛束が立設する側に傾斜するように配置されていることが好ましい。本実施形態における仮想延長線V1と第2仮想延長線V2との鋭角側のなす角度は、5度超である。このような場合でも、口腔内方に位置する歯面及び歯茎のブラッシング時における取扱い易さを高めることができる。なお、
図3に示す実施形態に関し、特に説明しない点については、先に述べた
図1並びに
図2(a)ないし(d)に示す実施形態に関する説明が適宜適用される。
【0026】
以上の構成を有する歯ブラシ10は、把持部11のネック部12側の一端部分11aにおいて、縦長の立体形状を有するつまみ部19が形成されていることによって、歯ブラシ10の把持部11と掌とが離間した状態となるように、つまみ部19を親指の指腹部と人差指の指腹部とでつまむように誘導することができる。これによって、例えば
図4に示すように、下あごの前歯等の口腔内方に位置する歯面及び歯茎をブラッシング対象部位とする場合、指腹部でつまんだつまみ部19以外の把持部11の部位と掌とが接触しない状態で、且つ、植毛面14Aと掌とが相対するような状態で使用者に把持させることができる。このとき、指腹部でつまんだつまみ部19が力点及び支点となり、植毛台14に植毛されて形成されたブラシ面18Aが歯面及び歯茎にブラッシング圧を作用させる作用点となる。この把持状態でブラッシングを行うことによって、把持部11全体を掌で包み込んで把持するブラッシング方法と比較して、力点と支点との位置が略一致するようになるので、作用点であるブラシ面から歯面及び歯茎に対して付与されるブラッシング圧が過度になるのを回避して、適切なブラッシング圧で口腔内方に位置する歯面及び歯茎(例えば
図4中、符号Sで示す部位である。)をブラッシングすることができる。これに加えて、つまみ部19は、植毛台14の植毛面14Aに沿った仮想延長線V1よりも毛束18が立設する側に配置されているので、例えば歯ブラシ10を、下あごの前歯等の口腔内方に位置する歯面及び歯茎のブラッシングに用いたときに、歯ブラシ10が上唇や上あごの前歯などに意図せず当たることを防いで、口腔内方に位置する歯面及び歯茎のブラッシングを容易にすることができる。
【0027】
上述した本発明の効果が奏される限りにおいて、歯ブラシ10は、つまみ部19を親指と人差し指との間でつまむとともに、把持部11を中指や薬指や小指や掌で包み込んで把持する方法によって、口腔内方に位置する歯面及び歯茎を含む口腔内のブラッシングを行ってもよい。この場合であっても、歯ブラシ10は、ブラッシング時における取扱い性を高めつつ、過度のブラッシング圧となるのを回避して、適切なブラッシング圧で歯面や歯茎をブラッシングすることができる。この点は、
図2(b)に示すような、植毛台14の植毛面14Aが把持部11の軸に沿う第2仮想延長線V2よりも歯ブラシ10の背面側にある態様において特に有利である。
【0028】
上述した効果を顕著なものとする観点から、歯ブラシ10におけるつまみ部19はその中心位置が、植毛台14の先端14aから中心位置までの間の長手方向Xに沿う長さL1(
図2(a)参照)として、好ましくは50mm以上、より好ましくは55mm以上、更に好ましくは60mm以上であり、好ましくは100mm以下、より好ましくは95mm以下、更に好ましくは90mm以下の領域に配されている。このような領域に配置されていることによって、植毛台14から近接した位置につまみ部19が形成されているので、ブラッシング時において、ブラッシング対象部位に狙いを定めやすくすることができ、ブラッシング対象部位での汚れの除去性を高めることができるという利点も奏される。つまみ部19の中心位置は、側面視における図心Gの位置とすることができる。
【0029】
同様の観点から、歯ブラシ10の長手方向Xの全長L2(
図2(a)参照)に対する、植毛台14の先端14aからつまみ部19の中心位置までの長さL1の比の百分率は、好ましくは25%以上、更に好ましくは35%以上であり、好ましくは55%以下、更に好ましくは45%以下である。
また同様の観点から、歯ブラシ10の長手方向Xの全長L2は、好ましくは160mm以上、更に好ましくは170mm以上であり、好ましくは200mm以下、更に好ましくは190mm以下である。
【0030】
歯ブラシ10に形成されたつまみ部19は、略凹形状となっている領域(以下、これを「略凹形状領域」ともいう。)が歯ブラシ10の両側面にそれぞれ独立して形成されており、各領域は、その周囲との間に段差が生じている。本実施形態においては、略凹形状領域は、二次樹脂形成部Bに囲まれた一次樹脂形成部Aの領域となっている。上述した各領域を側面視したときに、その面積は、好ましくは50mm
2以上、より好ましくは80mm
2以上、更に好ましくは100mm
2以上であり、好ましくは200mm
2以下、より好ましくは180mm
2以下、更に好ましくは160mm
2以下である。また、歯ブラシ10の製造効率の観点から、つまみ部19の両側の側面はともに略同じ面積を有していることも好ましい。このような構成を有していることによって、つまみ部19を親指と人差指とでつまむように把持したときに、歯ブラシ10をより安定的に保持させることができ、ブラッシング圧の意図しない変動を防止することができる。本実施形態において、つまみ部19の略凹形状領域は、二次樹脂形成部Bに囲まれた一次樹脂形成部Aの領域としたが、例えば
図5に示すように、つまみ部19の側面視において、二次樹脂形成部Bがつまみ部19の長手方向Xに沿う両端側にのみ存在する実施形態では、略凹形状領域は、つまみ部19の側面視において、一次樹脂形成部Aの上端縁a1及び下端縁a2と、一次樹脂形成部Aと二次樹脂形成部Bとの間における段差の各境界線b1,b2とを結ぶ線で画定することができる。また、歯ブラシ10が一次樹脂形成部Aのみで形成されている場合、つまみ部19の側面視において、段差の輪郭線で略凹形状領域を画定することができる。
【0031】
これに加えて、つまみ部19は、両側の側面に滑り止め19aが形成されていることが好ましい。これによって、つまみ部19を親指と人差指とでつまむように把持したときに、指からの歯ブラシ10の意図しない脱落を防ぐことができ、歯ブラシ10をより安定的に保持することができる。本実施形態における滑り止め19aは、長手方向Xと交差する方向に延びる線状の凹凸構造が、つまみ部19の外面に複数形成されたものとなっている。
【0032】
歯ブラシ10は、植毛台14の先端14aを起点とした重心の位置が、全長L2に対する先端14aから重心までの長さの比の百分率として、好ましくは全長の60%以下の領域に形成されており、歯ブラシの把持のしやすさと太さとのバランスの観点から、全長L2の40%以上の領域に形成されていることが現実的である。このような構成となっていることによって、ブラッシング時において、植毛台14側に過度なブラッシング圧の付与を回避することができるとともに、ブラッシング対象部位に狙いを安定的に定めやすくすることができ、ブラッシング対象部位の汚れの除去性を更に高めることができる。歯ブラシ10をこのような重心の位置となるように形成するためには、例えば後述する製造方法のように、ネック部12及び植毛台14を構成する材料と、把持部11を構成する材料とにおいて、密度の異なる樹脂をそれぞれ用いて歯ブラシ本体15を製造すればよい。
【0033】
ネック部12と植毛台14とに関する説明に戻ると、植毛の安定性、またネック部12の一部と植毛台14とを口腔内に入れた場合でも、植毛台14を口腔内で移動させやすくして、ブラッシング対象部位に狙いを定めやすくする観点から、植毛台14の厚み方向Zに沿う厚さT1(
図2(b)参照)は好ましくは2.0mm以上であり、好ましくは4.0mm以下、更に好ましくは3.5mm以下である。植毛台14の厚み方向Zに沿う厚さは、例えば定規、ノギス又はマイクロメータ等を用いて測定することができる。
【0034】
同様の観点から、ブリッスル17の毛丈T2(
図2(b)参照)は、植毛台14の植毛面14Aからの高さとして、好ましくは5mm以上、更に好ましくは8mm以上であり、好ましくは15mm以下、更に好ましくは13mm以下である。
【0035】
また、植毛台14及びネック部12を口腔内で移動させやすくして、ブラッシング対象部位に狙いを定めやすくする観点から、ネック部12の径が最も小さい部分における断面積は、好ましくは14.0mm2以下、更に好ましくは12.0mm2以下であり、実用に耐えうる強度を発現する観点から、7.0mm2以上が現実的である。上述の断面積は、例えばネック部12における長手方向Xに直交する方向に沿う径を定規、ノギス又はマイクロメータ等を用いて測定して、径の最も小さい部位を特定し、当該部位の切断面を画像解析するといった方法等で算出することができる。
【0036】
また同様の観点から、ネック部12の長手方向Xに直交する方向に沿う径は、その最も小さい部分において、好ましくは3mm以上であり、好ましくは5mm以下、更に好ましくは4mm以下である。ネック部12の径は、例えば定規、ノギス又はマイクロメータ等を用いて測定することができる。本実施形態においては、ネック部12の径が最も小さい部位は、好ましくはネック部12と植毛台14との接続部分12a又はその近傍に位置している。
【0037】
把持部11、ネック部12及び植毛台14を含む歯ブラシ本体15を構成する材料としては、例えば歯ブラシ10の製造に一般的に使用されている合成樹脂を特に制限無く用いることができる。本実施形態では、歯ブラシ本体15を形成するための合成樹脂として、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、セルロースプロピオネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
製造時における成形性と、実使用時における機械的な強度の発現とのバランスを両立させる観点から、ネック部12及び植毛台14を構成する材料としてはともに、曲げ弾性率及び引張強度ひずみが所定の範囲にある熱可塑性樹脂を含んで構成されることが好ましく、該熱可塑性樹脂として、ポリアセタール樹脂及びポリブチレンテレフタレート樹脂のうちの少なくとも一方を含む樹脂を有するように構成されることが更に好ましい。
【0039】
詳細には、ネック部12及び植毛台14を構成する熱可塑性樹脂は、曲げ弾性率が好ましくは2000MPa以上、より好ましくは2200MPa以上であり、好ましくは4000MPa以下である。また、ネック部12及び植毛台14を構成する熱可塑性樹脂は、引張破壊ひずみが好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上であり、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、更に好ましくは75%以下である。このような曲げ弾性率及び引張強度ひずみの少なくとも一方を有することによって、剛性と靱性とのバランスが良好な歯ブラシ10となる。
【0040】
上述した熱可塑性樹脂の曲げ弾性率(MPa)及び引張強度ひずみ(%)は、例えば以下の方法で測定することができる。
曲げ弾性率は、測定対象となる樹脂を用いて、80mm×10mm×4mmのダンベル試験片を作製し、JIS K7171に規定される方法によって測定することができる。
引張強度ひずみは、測定対象となる樹脂をダンベル状(2号)に加工し、JIS K6251に準じ、引張ひずみとして測定することができる。
【0041】
以上の構成を有する歯ブラシ10は、例えば以下に示すような二色成形法によって好適に製造することができる。まず、溶融した一次樹脂を射出成形用の金型に導入して、該金型と相補的な形状を有する、植毛台14、ネック部12及びつまみ部19と、把持部11を形成するための芯部とを射出成形によって成形して、一次樹脂形成部Aとする。この一次樹脂形成部Aは、植毛台14、ネック部12及びつまみ部19が、目的とする歯ブラシ10と略同一の寸法となるように形成されたものである。すなわち、一次樹脂形成部Aにおけるつまみ部19は、植毛台14の植毛面14Aに沿う仮想延長線V1よりも、毛束が立設される予定の方向側に配置されていることが好ましい。
【0042】
次いで、一次樹脂と同一の又は異なる二次樹脂を用い、溶融した該二次樹脂を、目的とする把持部11の形状と相補的な形状を有する射出成形用の金型に導入する。これとともに、一次樹脂形成部Aにおけるつまみ部19の周縁部と把持部11を形成するための芯部とを、二次樹脂によって被覆するように射出成形して、把持部11に二次樹脂形成部Bを形成する。このとき、植毛台14及びネック部12、並びにつまみ部19の外面は、二次樹脂によって被覆されないように配置されている。これによって、
図1ないし
図3に示すように、一次樹脂によって形成された一次樹脂形成部Aと、二次樹脂によって形成された二次樹脂形成部Bとを含む把持部11を有する歯ブラシ本体15が形成される。本工程を経て得られた歯ブラシ本体15は、把持部11の外面が二次樹脂によって形成されている。また、つまみ部19は、歯ブラシ本体15の外面に露出した状態で、且つ、つまみ部19の外周縁が二次樹脂によって囲まれた状態で形成される。これによって、つまみ部19を視認したときに、指によってつまむ部位を使用者に容易に判別させることができるように構成することができる。
【0043】
最後に、歯ブラシ本体15における植毛台14の植毛面14Aに形成された植毛孔16に対して、複数本のブリッスル17を植毛して、毛束18が植毛台14に形成された歯ブラシ10を得る。ブリッスル17の植毛は、例えば、フィラメントを二つ折りにして平線を打ち込む平線植毛や、片端部に溶融塊を形成して熱融着する融着植毛等、公知の各種の植毛方法を用いることができる。
【0044】
つまみ部19を所定の領域に配置したり、所定の面積となるように形成したり、あるいはつまみ部19に滑り止めを設ける場合には、例えば一次樹脂形成部Aを射出成型する際のつまみ部19の形成予定位置において、目的とする構造と相補的な金型を用いて射出成形をすればよい。また、つまみ部19を所定の面積に形成する場合には、例えば一次樹脂形成部Aにおけるつまみ部19の周縁部において、二次樹脂の被覆面積を適宜変更することによっても調整することができる。
【0045】
また上述のように、歯ブラシ10の重心を好適な範囲に制御するためには、例えば、一次樹脂形成部Aを構成する一次樹脂の密度と、つまみ部19の周縁部及び把持部11の表面を構成する二次樹脂の密度とが互いに異なるように構成すればよい。詳細には、例えば二次樹脂の密度が一次樹脂の密度よりも小さいものを用いて歯ブラシ10を製造すればよい。このような構成としては、例えば一次樹脂として、ポリアセタール樹脂及びポリブチレンテレフタレート樹脂のうちの少なくとも一方を含む樹脂を用い、二次樹脂として、ポリプロピレン樹脂またはスチレン・ブタジエン共重合樹脂を用いればよい。このような方法のほかに、例えば一次樹脂によって形成された一次樹脂形成部Aのみ全長を短くしたり、二次樹脂による一次樹脂形成部Aの被覆面積及び被覆量を適宜変更したり、把持部11に空洞部や貫通孔等の樹脂が存在しない部位を設けるように製造したりすることによっても調整することができる。特に、一次樹脂として、ポリアセタール樹脂及びポリブチレンテレフタレート樹脂のうちの少なくとも一方を含む樹脂を用いることによって、上述した曲げ弾性率及び引張強度ひずみを有する植毛台14及びネック部12を簡便に得ることができるという利点もある。
【0046】
上述した一次樹脂及び二次樹脂が同一の樹脂であるか否かを問わず、一次樹脂と二次樹脂とは異なる色に着色されていることが好ましい。これらの樹脂を着色する染料は、プラスチック系染料として一般的に用いられている染料を特に制限なく用いることができる。このような染料としては、例えば、アゾ、アントラキノン、キノフタロン、スチリル、ジーまたはトリフェニルメタン、オキサジン、トリアジン、キサンテン、メチン、アゾメチン、チクリジン、ジアジンなどの染料を用いることができる。特に、一次樹脂と二次樹脂とが互いに異なる色に着色されていることによって、つまみ部19を容易に視認することができ、つまみ部19を親指及び人差指で把持するように、容易に誘導させることができる。
【0047】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば、上述した各実施形態における歯ブラシ10は、一次樹脂と二次樹脂とを用いた態様として説明したが、これらの形態に限られず、本発明の効果が奏される限りにおいて、単一の樹脂からなる一体成形体であってもよい。
【0048】
また、上述した各実施形態におけるつまみ部19は、歯ブラシ10の正面又は背面からみたときに略凹形状となっている態様として説明したが、この形態に限られず、本発明の効果が奏される限りにおいて、略凸形状となっていてもよい。
【0049】
また
図4では、下あごの前歯における口腔内方に位置する歯面及び歯茎を歯ブラシ10によってブラッシングする方法を例にとり説明したが、この方法に限られず、上あごの前歯等の口腔内方に位置する歯面及び歯茎をブラッシング対象部位とした場合でも、本発明の効果は十分に奏される。この場合、歯ブラシ10は、指腹部でつまんだつまみ部19以外の把持部11の部位と掌とが離間した状態で、且つ、把持部11の正面と掌とが相対するような状態で使用者に把持される。この把持状態でブラッシングを行う場合でも、力点と支点との位置が略一致するようになるので、作用点であるブラシ面から歯面及び歯茎に対して付与されるブラッシング圧が過度になるのを回避して、適切なブラッシング圧で上あごの口腔内方に位置する歯面及び歯茎をブラッシングすることができる。これに加えて、つまみ部19は、植毛台14の植毛面14Aに沿った仮想延長線V1よりも毛束18が立設する側に配置されているので、例えば歯ブラシ10を、上あごの前歯等の口腔内方に位置する歯面及び歯茎のブラッシングに用いたときに、歯ブラシ10が下唇や下あごの前歯などに意図せず当たることを防いで、口腔内方に位置する歯面及び歯茎のブラッシングを容易にすることができる。
【符号の説明】
【0050】
10 歯ブラシ
11 把持部
11a 一端部分
11b 他端部分
12 ネック部
12a 植毛台との接続部分
13 柄部
14 植毛台
14A 植毛面
15 歯ブラシ本体
16 植毛孔
17 ブリッスル
18 毛束
19 つまみ部