(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011500
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20240118BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20240118BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20240118BHJP
H01L 21/318 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
H01L29/78 658F
H01L29/78 652K
H01L29/78 652T
H01L21/318 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113511
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牛島 隆志
(72)【発明者】
【氏名】近藤 健
(72)【発明者】
【氏名】石田 崇
(72)【発明者】
【氏名】上杉 勉
【テーマコード(参考)】
5F058
【Fターム(参考)】
5F058BA01
5F058BB10
5F058BC08
5F058BF02
5F058BH20
(57)【要約】
【課題】電気的特性の変動が抑えられる半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】半導体装置の製造方法は、第1主面1aと第2主面1bを有するGaN系基板1の前記第1主面上に分離膜22aと酸化膜22bを有するゲート絶縁膜22を形成する工程であって、前記分離膜が前記GaN系基板の前記第1主面に接するように成膜されるとともに酸素を含まない材料であり、前記酸化膜が前記分離膜を介して前記GaN系基板の前記第1主面に対向するように成膜される、ゲート絶縁膜形成工程と、前記ゲート絶縁膜形成工程の後に、前記GaN系基板の前記第2主面から前記GaN系基板内に向けてレーザ32を照射するレーザ照射工程と、を備える。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置の製造方法であって、
第1主面(1a)と第2主面(1b)を有するGaN系基板(1)の前記第1主面上に分離膜(22a)と酸化膜(22b)を有するゲート絶縁膜(22)を形成する工程であって、前記分離膜が前記GaN系基板の前記第1主面に接するように成膜されるとともに酸素を含まない材料であり、前記酸化膜が前記分離膜を介して前記GaN系基板の前記第1主面に対向するように成膜される、ゲート絶縁膜形成工程と、
前記ゲート絶縁膜形成工程の後に、前記GaN系基板の前記第2主面から前記GaN系基板内に向けてレーザ(32)を照射するレーザ照射工程と、を備える、半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記GaN系基板のうちの前記ゲート絶縁膜が形成されたデバイス層(2)を前記GaN系基板の残りの層から剥離する剥離工程、をさらに備えており、
前記レーザ照射工程では、前記GaN系基板の前記第2主面から前記GaN系基板の所定深さを延びる面(3)に前記レーザが照射され、
前記剥離工程では、前記レーザが照射された面に沿って前記デバイス層が前記GaN系基板の残りの層から剥離される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記GaN系基板は、前記ゲート絶縁膜が接する部分にp型のチャネル領域(CH)を有しており、
前記チャネル領域のp型不純物の濃度が、6×1016~9×1017cm-3である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記分離膜が、窒化物と金属膜とSiとからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記分離膜が、AlN又はSiNである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記酸化膜が、SiO2である、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、半導体装置の製造方法に関する。
【0002】
GaN系基板を用いて製造される半導体装置の開発が進められており、その一例が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の半導体装置では、製造工程中にGaN系基板とゲート絶縁膜の界面に酸化ガリウムが生成してしまうことがある。GaN系基板とゲート絶縁膜の界面に酸化ガリウムが存在すると、例えば閾値電圧がシフトするといった電気的特性の変動が懸念される。本明細書は、電気的特性の変動が抑えられる半導体装置の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する半導体装置の製造方法は、第1主面(1a)と第2主面(1b)を有するGaN系基板(1)の前記第1主面上に分離膜(22a)と酸化膜(22b)を有するゲート絶縁膜(22)を形成する工程であって、前記分離膜が前記GaN系基板の前記第1主面に接するように成膜されるとともに酸素を含まない材料であり、前記酸化膜が前記分離膜を介して前記GaN系基板の前記第1主面に対向するように成膜される、ゲート絶縁膜形成工程と、前記ゲート絶縁膜形成工程の後に、前記GaN系基板の前記第2主面から前記GaN系基板内に向けてレーザ(32)を照射するレーザ照射工程と、を備えることができる。ここで、前記GaN系基板とは、結晶の構成元素にガリウムと窒素を含む窒化物半導体であり、例えば、GaN、AlGaN、InGaN、InAlGaNであってもよい。前記半導体装置の種類は、特に限定されるものではないが、例えばMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)又はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であってもよい。
【0006】
上記製造方法では、前記GaN系基板と前記酸化膜の間に、酸素を含まない材料の前記分離膜が成膜されている。このため、前記GaN系基板と前記酸化膜が直接的に接していないので、前記GaN系基板に含まれるガリウムの酸化が抑えられる。さらに、上記製造方法では、前記ゲート絶縁膜形成工程の後に前記レーザ照射工程が実施される。前記レーザ照射工程が実施されると、前記分離膜の少なくとも一部が前記酸化膜側に向けて移動するとともに、前記酸化膜の少なくとも一部が前記分離膜側に移動する。これにより、前記GaN系基板と前記ゲート絶縁膜の界面のうちの少なくとも一部は、前記GaN系基板と前記酸化膜の界面によって構成される。上記製造方法によると、前記GaN系基板と前記ゲート絶縁膜の界面における酸化ガリウムの生成が抑えられるとともに、前記GaN系基板と前記ゲート絶縁膜の界面に前記GaN系基板と前記酸化膜の良質な界面が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】半導体装置の製造方法のうちのMOS構造形成工程、レーザ照射工程、剥離工程及びダイシング工程のフローを示す図である。
【
図2】半導体装置の製造過程におけるGaN系基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図3】GaN系基板の上面側に形成されているデバイス構造の単位セルの断面図を模式的に示す図である。
【
図4】半導体装置の製造過程におけるGaN系基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図5】半導体装置の製造過程におけるGaN系基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図6】半導体装置の製造過程におけるGaN系基板の断面図を模式的に示す図である。
【
図7】レーザ照射工程において、GaN系基板内に照射されるレーザの様子を模式的に示す図である。
【
図8】レーザ照射前のGaN系基板とゲート絶縁膜の界面近傍の元素分布を示す図である。
【
図9】レーザ照射後のGaN系基板とゲート絶縁膜の界面近傍の元素分布を示す図である。
【
図10】本明細書が開示する製造方法で製造された半導体装置のチャネル領域のp型不純物濃度と閾値電圧の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、レーザ剥離技術を利用した半導体装置の製造方法について説明する。なお、本明細書が開示する技術は、レーザ剥離技術を利用した半導体装置の製造方法に限らず、他の様々な製造方法にも適用可能である。
【0009】
図1に示すように、本明細書が開示するレーザ剥離技術を利用した半導体装置の製造方法は、MOS構造形成工程(ステップS1)、レーザ照射工程(ステップS2)、剥離工程(ステップS3)及びダイシング工程(ステップS4)を備えている。この製造方法は、
図2に示すGaN系基板1に対してこれら工程を実行することにより、複数の半導体装置(チップともいう)を製造することができる。なお、詳細な説明は省略するが、MOS構造形成工程(ステップS1)よりも前に、GaN系基板1の内部にデバイス構造を構成する各種の半導体領域を形成する工程が実施される。デバイス構造を形成するための工程は、特に限定されるものではなく、既知の製造技術を利用することができる。
【0010】
図2に示されるように、GaN系基板1は、各々が平面で相互に平行に延びている上面1aと下面1bを有している。これら上面1aと下面1bは、主面とも称される。GaN系基板1は、特に限定されるものではないが、この例では窒化ガリウムの基板であってもよい。GaN系基板1の所定深さを延びる面3は、後述するように、レーザが照射される面、すなわち、レーザの複数の集光点が集まった面である。本明細書では、GaN系基板1のうちのレーザが照射される面3よりも上側の部分、すなわち、GaN系基板1から剥離される部分をデバイス層2という。GaN系基板1のデバイス層2内にデバイス構造が形成されている。
【0011】
図3に、MOS構造形成工程(
図1のステップS1)が実施された後の、GaN系基板1のデバイス層2内に形成されているデバイス構造10の単位セルを示す。デバイス構造10は、特に限定されるものではないが、例えば縦型のMOSFETであってもよい。
【0012】
デバイス構造10は、n+型のドレイン領域12と、n型のドリフト領域14と、p型のボディ領域16と、n+型のソース領域18と、プレーナ型のMOS構造20と、を備えている。
【0013】
ドレイン領域12は、GaN系基板1の下面1bに露出する位置に設けられている。ドリフト領域14は、ドレイン領域12とボディ領域16の間に設けられている。GaN系基板1の上面1aに露出する位置に配置されているドリフト領域14の一部をJFET領域14aという。ボディ領域16は、GaN系基板1の上面1aに露出する位置に設けられており、ドリフト領域14とソース領域18を隔てるように配置されている。ドリフト領域14のJFET領域14aとソース領域18の間に位置するボディ領域16の一部をチャネル領域CHという。MOS構造20に印加されるゲート電圧に応じてボディ領域16のチャネル領域CHに生成される反転層の電子密度が制御され、デバイス構造のオンオフが制御される。このように、チャネル領域CHとは、MOS構造20によってキャリア密度が制御される領域として定義される。ソース領域18は、GaN系基板1の上面1aに露出する位置に設けられている。
【0014】
MOS構造20は、GaN系基板1の上面1aの一部を被覆するように設けられており、ゲート絶縁膜22と、ゲート電極24と、を備えている。ゲート電極24は、ゲート絶縁膜22を介してボディ領域16のチャネル領域CHに対向している。ゲート絶縁膜22は、分離膜22aと、酸化膜22bと、を備えている。分離膜22aは、GaN系基板1の上面1aに接するように成膜されている。酸化膜22bは、分離膜22a上に積層しており、分離膜22aを介してGaN系基板1の上面1aに対向するように成膜されている。なお、分離膜22aと酸化膜22bの間に他の膜が設けられていてもよい。
【0015】
MOS構造形成工程(
図1のステップS1)は、GaN系基板1の上面1a上に分離膜22aと酸化膜22bを有するゲート絶縁膜22を形成するゲート絶縁膜形成工程と、ゲート絶縁膜22上にゲート電極24を形成するゲート電極形成工程と、を有している。
【0016】
ゲート絶縁膜形成工程は、特に限定されるものではないが、例えば原子層堆積法(ALD法)を利用して、GaN系基板1の上面1aに分離膜22aを成膜する工程を有していてもよい。分離膜22aは、特に限定されるものではないが、例えば窒化アルミニウム(AlN)膜であってもよい。
【0017】
ゲート絶縁膜形成工程はさらに、特に限定されるものではないが、例えば原子層堆積法(ALD法)を利用して、分離膜22aの表面に酸化膜22bを成膜する工程を有していてもよい。酸化膜22bは、特に限定されるものではないが、例えば酸化シリコン(SiO2)であってもよい。
【0018】
図4に示されるように、レーザ照射工程(
図1のステップS2)では、GaN系基板1の所定深さを延びる面3にレーザが照射される。レーザは、デバイス構造が形成されていないGaN系基板1の下面1bからGaN系基板1の所定深さで集光するように照射される。レーザは、GaN系基板1(この例では窒化ガリウムの基板)に対して透過性を有する波長域のレーザである。レーザは、特に限定されるものではないが、可視光のレーザであってもよく、例えば緑色レーザであってもよい。集光点の位置では、GaN系基板1を構成する結晶(この例では、窒化ガリウムの単結晶)が加熱されて分解される。その結果、集光点の位置に、GaN系基板1を構成する結晶の構成原子の析出層等(この例では、ガリウムの析出層等)によって構成された改質層が形成される。改質層の強度は、GaN系基板1を構成する結晶よりも低い。したがって、改質層の強度は、その周囲の結晶よりも低くなる。
【0019】
図5に示されるように、剥離工程(
図1のステップS3)では、デバイス構造10が形成されているデバイス層2が、レーザが照射された面3に沿って残りのGaN系基板1から剥離される。レーザが照射された面3は改質層の形成によって強度が低下しているので、デバイス層2は残りのGaN系基板1から良好に剥離される。なお、デバイス層2が剥離された後のGaN系基板1は、半導体装置の製造に再利用される。例えば、GaN系基板1の剥離面に対して研磨及びエッチング等を実施した後に、エピタキシャル結晶成長技術を利用して剥離面上にデバイス層を成膜することにより、成膜したデバイス層にデバイス構造を形成することができる。
【0020】
図6に示されるように、ダイシング工程(
図1のステップS4)では、GaN系基板1から剥離されたデバイス層2に対して研磨工程及び電極形成工程等を実施した後、デバイス層2から複数のデバイス(ダイともいう)が切り出され、半導体装置が完成する。
【0021】
次に、上記したレーザ照射工程(
図1のステップS2)について詳細する。
図7に、GaN系基板1の下面1bからGaN系基板1内にレーザ32が照射される様子を示す。レーザ32は、GaN系基板1の所定深さを延びる面3で集光するように照射される。レーザ32の一部は、集光点を越えてGaN系基板1の上面1a側に到達する。このようなレーザ32の抜け光は、ゲート絶縁膜22に照射される。
【0022】
レーザ32の抜け光は、ゲート絶縁膜22のうちの分離膜22aで吸収される。ここで、分離膜22aが設けられていない場合を仮定する。この場合、GaN系基板1と酸化膜22bが直接的に接している。このような例では、レーザ32の抜け光のエネルギーにより、酸化膜22bに含まれる酸素によってGaN系基板1に含まれるガリウムの酸化が促進され、GaN系基板1とゲート絶縁膜22の界面に酸化ガリウムが生成してしまう。このような酸化ガリウムの生成は、例えば閾値電圧をシフトさせるといった電気的特性の変動を引き起こす。一方、本明細書が開示する半導体装置の製造方法では、GaN系基板1と酸化膜22bの間に酸素を含まない分離膜22aが設けられているので、GaN系基板1に含まれるガリウムの酸化が抑えられる。このように、GaN系基板1と酸化膜22bの間に分離膜22aを設ける技術は、レーザ剥離技術を利用した半導体装置の製造方法において、レーザ32の抜け光による電気的特性の変動を抑えることができる。
【0023】
さらに、レーザ32の抜け光を吸収した分離膜22a(AlN膜)の少なくとも一部は、アルミニウムと窒素に分解する。分解して生成されたアルミニウムは、酸化アルミニウムとなりながら拡散し、酸化膜22b側に移動する。一方、酸化膜22bの一部は、GaN系基板1とゲート絶縁膜22の界面側に移動する。このように、分離膜22aにレーザ32が照射されると、分離膜22aが分解して生成されたアルミニウムがレーザ32の進行方向に沿って移動することにより、分離膜22aの少なくとも一部と酸化膜22bの少なくとも一部の位置が入れ換わり、GaN系基板1とゲート絶縁膜22の界面のうちの少なくとも一部がGaN系基板1と酸化膜22bの界面によって構成される。GaN系基板1と酸化膜22bの良質な界面は、チャネル領域のキャリア移動度及びゲート絶縁膜22の絶縁破壊強度を向上させる。
【0024】
図8及び
図9に、電子エネルギー損失分光法(EELS法)を利用して得られたGaN系基板1とゲート絶縁膜22の界面近傍の元素分布を示す。
図8はレーザ照射前の元素分布を示し、
図9はレーザ照射後の元素分布を示す。横軸はGaN系基板1とゲート絶縁膜22の厚み方向に沿った距離を示しており、「5nm」の位置がGaN系基板1とゲート絶縁膜22の界面の位置に対応する。なお、この例では、レーザ照射前に成膜された分離膜22a(
図8中に「AlN」で示す)の膜厚は5nmであり、レーザ照射前に成膜された酸化膜22b(
図8中に「SiO
2」で示す)の膜厚は100nmであった。
【0025】
図8及び
図9に示されるように、分離膜22aが分解して生成されたアルミニウムは、レーザが照射された後にレーザの進行方向に沿って酸化膜22b側に移動する。この例では、GaN系基板1とゲート絶縁膜22の界面におけるアルミニウムは、レーザ照射後に検出限界以下にまで低下している。即ち、GaN系基板1とゲート絶縁膜22の界面においては、分離膜22aから酸化膜22bに完全に入れ換わっていることが確認された。
【0026】
このように、GaN系基板1と酸化膜22bの間に分離膜22aを設ける技術は、レーザ照射と組み合わせることにより、分離膜22aの少なくとも一部を酸化膜22bと入れ換えることができる。この結果、GaN系基板1とゲート絶縁膜22の界面にGaN系基板1と酸化膜22bの良質な界面が形成され、チャネル領域のキャリア移動度及びゲート絶縁膜22の絶縁破壊強度を向上させることができる。
【0027】
図10に、上記の製造方法で製造された半導体装置の閾値電圧から換算されるチャネル領域のp型不純物濃度と閾値電圧の関係を示す。なお、上記の製造方法で製造された半導体装置の閾値電圧の測定値は6.5Vであり、チャネル領域のp型不純物濃度が5×10
17cm
-3であった。また、レーザ照射前に成膜された分離膜22aの膜厚は5nmであり、レーザ照射前に成膜された酸化膜22bの膜厚は100nmであった。
【0028】
図10に示されるように、チャネル領域のp型不純物濃度が6×10
16cm
-3以上であれば、半導体装置はエンハンスモードで動作することができる。また、チャネル領域のp型不純物濃度が9×10
17cm
-3以下であれば、半導体装置の閾値電圧を1桁とすることができる。実用的な閾値電圧の2~3Vとするためには、チャネル領域のp型不純物濃度を1.4×10
17~2×10
17cm
-3とすればよい。
【0029】
このように、上記の製造方法で製造された半導体装置は、チャネル領域のp型不純物濃度が低くても、エンハンスモードで動作可能であることが示唆された。このため、上記の製造方法で製造された半導体装置は、エンハンスモードで動作可能であるとともに、低いチャネル抵抗を有することが示唆された。
【0030】
上記の製造方法では、レーザ剥離のためのレーザの抜け光の影響を抑えながら、GaN系基板とゲート絶縁膜の間に良質な界面を形成することができる。この例に代えて、レーザ剥離のためのレーザとは別の目的のレーザ又はその抜け光を利用してGaN系基板とゲート絶縁膜の間に良質な界面を形成してもよい。例えば、GaN系基板とゲート絶縁膜の間に良質な界面を形成する目的のためだけにレーザを照射してもよい。本明細書が開示する技術は、レーザ剥離技術を利用した製造方法以外の製造方法にも適用可能である。
【0031】
分離膜の材料は、酸素を含まない材料であれば特に限定されるものではない。分離膜の材料は、レーザの波長域に応じてレーザを効率よく吸収できる材料が選択されてもよい。分離膜の材料は、例えば、窒化物と金属膜とSiとからなる群から選択される少なくとも1つを含んでもよい。窒化物としては、窒化アルミニウム(AlN)又は窒化シリコン(SiN)であってもよい。これらの材料の分離膜は、可視光のレーザを吸収することができる。
【0032】
分離膜の厚みは、GaN系基板に含まれるガリウムの酸化が抑えられる限りにおいて特に限定されるものではない。分離膜の厚みは、レーザ照射によって分離膜と酸化膜が効果的に入れ換わるために薄い方が望ましい。分離膜の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば10nm以下であってもよい。
【0033】
以下、本明細書で開示される技術の特徴を整理する。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0034】
(特徴1)
半導体装置の製造方法であって、
第1主面と第2主面を有するGaN系基板の前記第1主面上に分離膜と酸化膜を有するゲート絶縁膜を形成する工程であって、前記分離膜が前記GaN系基板の前記第1主面に接するように成膜されるとともに酸素を含まない材料であり、前記酸化膜が前記分離膜を介して前記GaN系基板の前記第1主面に対向するように成膜される、ゲート絶縁膜形成工程と、
前記ゲート絶縁膜形成工程の後に、前記GaN系基板の前記第2主面から前記GaN系基板内に向けてレーザを照射するレーザ照射工程と、を備える、半導体装置の製造方法。
【0035】
(特徴2)
前記GaN系基板のうちの前記ゲート絶縁膜が形成されたデバイス層を前記GaN系基板の残りの層から剥離する剥離工程、をさらに備えており、
前記レーザ照射工程では、前記GaN系基板の前記第2主面から前記GaN系基板の所定深さを延びる面に前記レーザが照射され、
前記剥離工程では、前記レーザが照射された面に沿って前記デバイス層が前記GaN系基板の残りの層から剥離される、特徴1に記載の製造方法。
【0036】
(特徴3)
前記GaN系基板は、前記ゲート絶縁膜が接する部分にp型のチャネル領域(CH)を有しており、
前記チャネル領域のp型不純物の濃度が、6×1016~9×1017cm-3である、特徴1又は2に記載の製造方法。
【0037】
(特徴4)
前記分離膜が、窒化物と金属膜とSiとからなる群から選択される少なくとも1つを含む、特徴1~3のいずれかに記載の製造方法。
【0038】
(特徴5)
前記分離膜が、AlN又はSiNである、特徴4に記載の製造方法。
【0039】
(特徴6)
前記酸化膜が、SiO2である、特徴1~5のいずれかに記載の製造方法。
【0040】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0041】
1:GaN系基板、 2:デバイス層、 10:デバイス構造、 12:ドレイン領域、 14:ドリフト領域、 14a:JFET領域、 16:ボディ領域、 18:ソース領域、 20:MOS構造、 22:ゲート絶縁膜、 22a:分離膜、 22b:酸化膜、 24:ゲート電極、 32:レーザ