(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115001
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】係留システム
(51)【国際特許分類】
B63B 21/00 20060101AFI20240819BHJP
B63B 35/44 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
B63B21/00 Z
B63B35/44 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020424
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】竹内 海智
(72)【発明者】
【氏名】新里 英幸
(72)【発明者】
【氏名】松野 進
(57)【要約】
【課題】浮体構造物に対する波の影響を抑制しつつ係留システムの占有領域を小さくする。
【解決手段】浮体構造物2を多点係留方式にてカテナリー係留する係留システム1は、浮体構造物2と、複数の係留基体3と、複数の係留ライン4とを備える。複数の係留ライン4は、第1係留ライン4aと、第2係留ライン4bとを含む。第1係留ライン4aは、水面91側から水底92側に向かうに従って波上側から波下側へと向かうとともに、浮体構造物2の外周側から内側に向かって延びる。第2係留ライン4bは、水面側から水底側に向かうに従って波下側から波上側へと向かうとともに、浮体構造物2の外周側から内側に向かって延びる。第2係留ライン4bは、平面視において第1係留ライン4aと交差する。これにより、浮体構造物2に対する波の影響を抑制しつつ係留システム1の占有領域を小さくすることができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮体構造物を多点係留方式にてカテナリー係留する係留システムであって、
水面に浮かぶ浮体構造物と、
水底に固定された複数の係留基体と、
前記浮体構造物と前記複数の係留基体とをそれぞれ接続する複数の係留ラインと、
を備え、
前記複数の係留ラインは、
水面側から水底側に向かうに従って波上側から波下側へと向かうとともに、前記浮体構造物の外周側から内側に向かって、または、波の進行方向に平行に延びる第1係留ラインと、
水面側から水底側に向かうに従って波下側から波上側へと向かうとともに、前記浮体構造物の外周側から内側に向かって、または、波の進行方向に平行に延び、平面視において前記第1係留ラインと交差する第2係留ラインと、
を含む係留システム。
【請求項2】
請求項1に記載の係留システムであって、
平面視において、前記第1係留ラインと前記第2係留ラインとの平面視における交点であるライン交点から前記第1係留ラインの浮体側係留点に向かう部位と、前記ライン交点から前記第2係留ラインの浮体側係留点に向かう部位との成す角度は、60°以上かつ150°以下である係留システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の係留システムであって、
前記第1係留ラインの水底側係留点および前記第2係留ラインの水底側係留点は、前記浮体構造物の平面視における占有領域の鉛直下方に位置する係留システム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の係留システムであって、
前記第1係留ラインと前記第2係留ラインとの平面視における交点であるライン交点において、前記第1係留ラインおよび前記第2係留ラインは被覆材により被覆されている係留システム。
【請求項5】
請求項1または2に記載の係留システムであって、
前記第1係留ラインと前記第2係留ラインとの平面視における交点であるライン交点において、前記第1係留ラインと前記第2係留ラインとは非接触である係留システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮体構造物を多点係留方式にてカテナリー係留する係留システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、浮桟橋や浮消波堤、洋上風力発電施設等の海面に浮遊する浮体構造物は、係留鎖等の係留ラインによって海底に係留されている。このような浮体構造物を多点係留方式にてカテナリー係留する場合、風、波および潮流等の外力に耐えうるように、複数の係留ラインを浮体構造物上の係留点から平面視において外側に向かって延ばし、海底に配置された複数のアンカーとそれぞれ接続することが多い。
【0003】
複数の係留ラインを浮体構造物から外側に向かって延ばす場合、係留占有領域(すなわち、複数の係留ラインの水底側における係留点によって囲まれる領域と、浮体構造物の鉛直下方の領域とを合わせた領域)が大きくなる。したがって、浮桟橋のように岸壁に近い位置に浮体構造物を係留する場合、係留ラインと岸壁との干渉を防止する必要がある。また、ウインドファームのように洋上風力発電施設を多数設置する場合、隣接する洋上風力発電施設の係留ライン同士の干渉を防止する必要がある。
【0004】
一方、特許文献1のように、浮体構造物から外側に向かって延びる複数の係留ラインを、平面視において交差させることによって係留占有領域を小さくする係留方法も知られている。また、特許文献2および特許文献3でも、係留ラインを交差させる係留方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-101379号公報
【特許文献2】実開平5-38022号公報
【特許文献3】特開2015-214299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のような係留方法では、係留占有領域はあまり小さくはならない。また、浮体構造物の運動や係留ラインに作用する力は、波向きと係留ラインの延びる方向との関係によって大きく変化するが、特許文献1ないし特許文献3では、波向きと係留ラインの延びる方向との関係についての検討は為されていない。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、浮体構造物に対する波の影響を抑制しつつ係留システムの占有領域を小さくすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様1は、浮体構造物を多点係留方式にてカテナリー係留する係留システムであって、水面に浮かぶ浮体構造物と、水底に固定された複数の係留基体と、前記浮体構造物と前記複数の係留基体とをそれぞれ接続する複数の係留ラインと、を備える。前記複数の係留ラインは、水面側から水底側に向かうに従って波上側から波下側へと向かうとともに、前記浮体構造物の外周側から内側に向かって、または、波の進行方向に平行に延びる第1係留ラインと、水面側から水底側に向かうに従って波下側から波上側へと向かうとともに、前記浮体構造物の外周側から内側に向かって、または、波の進行方向に平行に延び、平面視において前記第1係留ラインと交差する第2係留ラインと、を含む。
【0009】
本発明の態様2は、態様1の係留システムであって、平面視において、前記第1係留ラインと前記第2係留ラインとの平面視における交点であるライン交点から前記第1係留ラインの浮体側係留点に向かう部位と、前記ライン交点から前記第2係留ラインの浮体側係留点に向かう部位との成す角度は、60°以上かつ150°以下である。
【0010】
本発明の態様3は、態様1または2の係留システムであって、前記第1係留ラインの水底側係留点および前記第2係留ラインの水底側係留点は、前記浮体構造物の平面視における占有領域の鉛直下方に位置する。
【0011】
本発明の態様4は、態様1または2(態様1ないし3のいずれか1つ、であってもよい。)の係留システムであって、前記第1係留ラインと前記第2係留ラインとの平面視における交点であるライン交点において、前記第1係留ラインおよび前記第2係留ラインは被覆材により被覆されている。
【0012】
本発明の態様5は、態様1または2(態様1ないし4のいずれか1つ、であってもよい。)の係留システムであって、前記第1係留ラインと前記第2係留ラインとの平面視における交点であるライン交点において、前記第1係留ラインと前記第2係留ラインとは非接触である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、浮体構造物に対する波の影響を抑制しつつ係留システムの占有領域を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一の実施の形態に係る係留システムを示す側面図である。
【
図5A】係留システムの実施例を示す平面図である。
【
図5B】係留システムの実施例を示す平面図である。
【
図5C】係留システムの実施例を示す平面図である。
【
図5D】係留システムの実施例を示す平面図である。
【
図5E】係留システムの実施例を示す平面図である。
【
図6A】比較例の係留システムを示す平面図である。
【
図6B】比較例の係留システムを示す平面図である。
【
図6C】比較例の係留システムを示す平面図である。
【
図6D】比較例の係留システムを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る係留システム1の構成を示す側面図である。
図2は、係留システム1を示す平面図である。
図1および
図2では、互いに直交する3つの方向であるX方向、Y方向およびZ方向を設定している。X方向およびY方向は水平面に平行であり、Z方向は重力方向に平行である。
【0016】
係留システム1は、浮体構造物2と、複数の係留基体3と、複数の係留ライン4とを備える。係留システム1は、水面91に浮かぶ浮体構造物2を、複数の係留ライン4により水底92に係留するシステムである。
図2では、浮体構造物2の下方に位置する係留基体3および係留ライン4を細実線にて描く。
【0017】
浮体構造物2は、水底92から上方に離間した状態で水面91に浮かぶ構造物である。浮体構造物2が海上に設置される場合、当該水面91および水底92はそれぞれ、海面および海底である。浮体構造物2は、例えば、岸壁近傍に設置される浮桟橋である。
図1および
図2では、浮体構造物2に対して風や波、潮流等の外力が作用していない状態(すなわち、浮体構造物2が静穏状態で浮いている状態)を示す。
【0018】
係留基体3は、水底92に固定された物体である。係留基体3は、例えば、水底92に沈められたシンカー(すなわち、錘)またはアンカー(すなわち、把駐力を有する錨)である。あるいは、係留基体3は、水底92に予め設置されている固定構造物であってもよい。係留基体3は、必ずしも水底92に直接的に固定される必要はなく、例えば、水底92に固定された他の構造物を介して、水中において間接的に水底92に固定される物体であってもよい。
【0019】
係留ライン4は、浮体構造物2と係留基体3とを接続する略線状の部材である。係留ライン4は、例えば、金属製のチェーンである。あるいは、係留ライン4は、係留ロープであってもよく、チェーンと係留ロープとが接続されたものであってもよい。係留ロープは、例えば、合成繊維製または金属製のロープである。
図1および
図2では、図示の都合上、係留ライン4を線にて示す。
【0020】
浮体構造物2は、複数の係留ライン4により多点係留方式にてカテナリー係留されている。複数の係留ライン4は、浮体構造物2において互いに離間して設けられた複数の係留点41、および、水底92において互いに離間して配置された複数の係留基体3にそれぞれ接続されている。
図2では、係留基体3を円にて描いているが、係留基体3の形状は様々に変更されてよい。また、複数の係留基体3は、例えば、水底92に固定された1つの構造物において互いに離間して設けられた複数の係留部であってもよい。
【0021】
図1および
図2に示す例では、浮体構造物2の形状は略直方体である。浮体構造物2の上面および下面はZ方向に略垂直な平面であり、浮体構造物2の4つの側面は、X方向またはY方向に略垂直な平面である。浮体構造物2の平面視における形状は、X方向(すなわち、
図2中の左右方向)に長い略長方形である。浮体構造物2のX方向およびY方向の長さは、例えば、数m~数十mである。
図2では、浮体構造物2が設置される海域における波の進行方向を、符号90を付した矢印にて示す。波の進行方向90は、Y方向と略平行である。
図2中の(+Y)側は、波の進行方向90における上流側である波上側であり、(-Y)側が、波の進行方向90における下流側である波下側である。
【0022】
図2に例示する係留システム1では、係留ライン4の浮体構造物2に接続される係留点41(以下、「浮体側係留点41」とも呼ぶ。)は、平面視における浮体構造物2の4つの角部において浮体構造物2の下面に設けられる。浮体側係留点41の位置は、
図2に示す例には限定されず、様々に変更されてよい。例えば、各浮体側係留点41は、X方向および/またはY方向において、浮体構造物2の角部よりも内側(すなわち、浮体構造物2の平面視における中心21に近い側)に配置されてもよい。なお、浮体構造物2の中心21とは、浮体構造物2の平面視における形状(
図2に示す例では、長方形)の重心の位置である。また、各浮体側係留点41は例えば、浮体構造物2の上面に設けられてもよい。
【0023】
図2に例示する係留システム1では、各係留ライン4の係留基体3側の係留点42(以下、「水底側係留点42」とも呼ぶ。)は、静穏状態で浮いている浮体構造物2の平面視における占有領域である浮体占有領域20の鉛直下方に位置する。
図2に示す例では、浮体占有領域20は、平面視において浮体構造物2の外周縁によって囲まれる略長方形状の領域である。
【0024】
なお、浮体構造物2の外周縁に、中心21側に凹む凹部が存在する場合、当該凹部の両端を結んで当該凹部の開口を塞ぐ仮想的な直線と当該凹部の周縁とに囲まれる領域も、浮体占有領域20に含まれる。例えば、浮体構造物2が、平面視において中心21から放射状に略等角度間隔にて3方向に延びる3つの略柱状の部位により構成される場合、浮体占有領域20は、平面視において当該3つの略柱状の部位の外端(すなわち、中心21から遠い方の先端)を結ぶ三角形である。
【0025】
図3は、
図2中における係留システム1の左側(すなわち、(-X)側)の部位を拡大して示す図である。
図3中の(+Y)側の浮体側係留点41に接続されている係留ライン4は、水面91側から水底92側へと(すなわち、(+Z)側から(-Z)側へと)向かうに従って、波上側から波下側へと(すなわち、(+Y)側から(-Y)側へと)延びる。また、当該係留ライン4は、水面91側から水底92側へと向かうに従って、平面視において、浮体構造物2の外周側に位置する浮体側係留点41から、浮体構造物2の内側(すなわち、(+X)側))へと向かって延びる。
【0026】
ここで、「浮体側係留点41から浮体構造物2の内側へと向かう」とは、平面視において、浮体構造物2の外周縁のうち浮体側係留点41近傍の部位から遠ざかる方向であって、かつ、波の進行方向90(
図2参照)に平行な方向(すなわち、Y方向)よりも浮体構造物2の中心21に近づく方向へと向かうことを意味する。
【0027】
一方、
図3中の(-Y)側の浮体側係留点41に接続されている係留ライン4は、水面91側から水底92側へと向かうに従って、波下側から波上側へと(すなわち、(-Y)側から(+Y)側へと)延びる。また、当該係留ライン4は、水面91側から水底92側へと向かうに従って、平面視において、浮体構造物2の外周側に位置する浮体側係留点41から、浮体構造物2の内側(すなわち、(+X)側))へと向かって延びる。
【0028】
図3中に示す2本の係留ライン4は、平面視において交差する。当該2本の係留ライン4の平面視における交点であるライン交点45は、静穏状態で浮いている浮体構造物2の浮体占有領域20の鉛直下方に位置する。浮体構造物2が静穏状態で浮いている状態では、ライン交点45において2本の係留ライン4は接触していてもよく、互いに離間して非接触であってもよい。
【0029】
図3中の(+Y)側の浮体側係留点41に接続されている係留ライン4を「第1係留ライン4a」と呼び、
図3中の(-Y)側の浮体側係留点41に接続されている係留ライン4を「第2係留ライン4b」と呼ぶと、第2係留ライン4bは、平面視において第1係留ライン4aとライン交点45にて交差する。また、第1係留ライン4aは、平面視において水面91側から水底92側に向かうに従って波上側から波下側へと向かうとともに、浮体構造物2の外周側から内側に向かって延びる。第2係留ライン4bは、平面視において水面91側から水底92側に向かうに従って波下側から波上側へと向かうとともに、浮体構造物2の外周側から内側に向かって延びる。
【0030】
平面視において、第1係留ライン4aのうちライン交点45から浮体側係留点41に向かう部位と、第2係留ライン4bのうちライン交点45から浮体側係留点41に向かう部位との成す角度(以下、「平面視における交差角度θ」、または、単に「交差角度θ」とも呼ぶ。)は、60°以上かつ150°以下であることが好ましく、120°以上かつ150°以下であることがさらに好ましい。
【0031】
なお、第1係留ライン4aは、平面視において浮体側係留点41から略(-Y)方向に延びていてもよく、第2係留ライン4bは、平面視において浮体側係留点41から略(+Y)方向に延びていてもよい。すなわち、第1係留ライン4aは、平面視において水面91側から水底92側に向かうに従って波上側から波下側へと向かうとともに、波の進行方向90に平行に延びていてもよい。また、第2係留ライン4bは、平面視において水面91側から水底92側に向かうに従って波下側から波上側へと向かうとともに、波の進行方向90に平行に延びていてもよい。この場合、上述の交差角度θは180°となる。
【0032】
図3中において二点鎖線にて示すように、第1係留ライン4aのうち、ライン交点45から浮体側係留点41に向かう所定の長さの部位、および、ライン交点45から水底側係留点42に向かう所定の長さの部位は、被覆材46によって被覆されていてもよい。第2係留ライン4bにおいても、第1係留ライン4aと略同様に、ライン交点45から浮体側係留点41に向かう所定の長さの部位、および、ライン交点45から水底側係留点42に向かう所定の長さの部位が、被覆材46によって被覆されていてもよい。被覆材46は、例えば、ゴム等の樹脂により形成されており、ライン交点45近傍において、第1係留ライン4aおよび第2係留ライン4bは被覆材46から露出していない。
【0033】
係留システム1では、第1係留ライン4aおよび第2係留ライン4bが、ライン交点45において被覆材46によって被覆されることにより、浮体構造物2の変位や動揺によって第1係留ライン4aと第2係留ライン4bとがライン交点45近傍にて衝突した場合であっても、当該衝突による第1係留ライン4aおよび第2係留ライン4bの損傷が抑制される。浮体構造物2が静穏状態で浮いている状態では、ライン交点45において第1係留ライン4aの被覆材46と第2係留ライン4bの被覆材46とが接触していてもよく、互いに離間して非接触であってもよい。なお、被覆材46は、第1係留ライン4aおよび/または第2係留ライン4bの一部のみに設けられてもよく、略全長に亘って設けられてもよい。
【0034】
図4は、
図2中における係留システム1の右側(すなわち、(+X)側)の部位を拡大して示す図である。係留システム1の右側の部位の形状および構造は、浮体構造物2の中心21を通る仮想的なYZ平面に対して、上述の
図3に示す部位と略面対称である。なお、係留システム1では、上述の左側の部位と右側の部位とは、必ずしも上記YZ平面に対して面対称である必要はない。
【0035】
図4中の(+Y)側の浮体側係留点41に接続されている係留ライン4を「第3係留ライン4c」と呼び、
図4中の(-Y)側の浮体側係留点41に接続されている係留ライン4を「第4係留ライン4d」と呼ぶと、第3係留ライン4cは、平面視において水面91側から水底92側に向かうに従って波上側から波下側へと向かうとともに、浮体構造物2の外周側から内側に向かって、または、波の進行方向90(
図2参照)に平行に延びる。また、第4係留ライン4dは、平面視において水面91側から水底92側に向かうに従って波下側から波上側へと向かうとともに、浮体構造物2の外周側から内側へと向かって、または、波の進行方向90に平行に延びる。
【0036】
第4係留ライン4dは、平面視において第3係留ライン4cとライン交点45にて交差する。第3係留ライン4cと第4係留ライン4dとのライン交点45は、静穏状態で浮いている浮体構造物2の浮体占有領域20の鉛直下方に位置する。浮体構造物2が静穏状態で浮いている状態では、ライン交点45において第3係留ライン4cおよび第4係留ライン4dは接触していてもよく、互いに離間して非接触であってもよい。
【0037】
平面視において、第3係留ライン4cのうちライン交点45から浮体側係留点41に向かう部位と、第4係留ライン4dのうちライン交点45から浮体側係留点41に向かう部位との成す角度θ(以下、「平面視における交差角度θ」、または、単に「交差角度θ」とも呼ぶ。)は、60°以上かつ150°以下であることが好ましく、120°以上かつ150°以下であることがさらに好ましい。
【0038】
第3係留ライン4cおよび第4係留ライン4dは、ライン交点45において被覆材46によって被覆されていてもよい。浮体構造物2が静穏状態で浮いている状態では、ライン交点45において第3係留ライン4cの被覆材46と第4係留ライン4dの被覆材46とは接触していてもよく、互いに離間して非接触であってもよい。なお、被覆材46は、第3係留ライン4cおよび/または第4係留ライン4dの一部のみに設けられてもよく、略全長に亘って設けられてもよい。
【0039】
次に、本発明の実施例1~5に係る係留システム1、および、本発明と比較される比較例1~4に係る係留システムについて説明する。実施例1~5の係留システム1では、浮体構造物2、4つの係留基体3、および、4本の係留ライン4の形状、大きさ、重量および長さ等は同じであり、4本の係留ライン4の延びる方向のみが異なる。比較例1~4の係留システムについても、実施例1~5との相違点は、4本の係留ラインの延びる方向のみである。
【0040】
図5A~
図5Eは、実施例1~5の係留システム1を示す平面図である。
図5Aに示す実施例1では、第1係留ライン4aと第2係留ライン4bとの平面視における交差角度θ、および、第3係留ライン4cと第4係留ライン4dとの平面視における交差角度θはそれぞれ、60°である。
図5Bに示す実施例2では、上述の交差角度θはそれぞれ90°である。
図5Cに示す実施例3では、上述の交差角度θはそれぞれ120°である。
図5Dに示す実施例4では、上述の交差角度θはそれぞれ150°である。
【0041】
図5Eに示す実施例5では、平面視において、第1係留ライン4aは浮体側係留点41から(-Y)方向へと延びており、第2係留ライン4bは浮体側係留点41から(+Y)方向へと延びている。換言すれば、第1係留ライン4aは、浮体側係留点41から平面視において第2係留ライン4bの浮体側係留点41に向かって延びており、第2係留ライン4bは、浮体側係留点41から平面視において第2係留ライン4bの浮体側係留点41に向かって延びている。第3係留ライン4cと第4係留ライン4dとの関係は、第1係留ライン4aと第2係留ライン4bとの関係と同じである。上述の交差角度θはそれぞれ180°である。
【0042】
図6A~
図6Dは、比較例1~4の係留システム81を示す平面図である。
図6Aに示す比較例1では、平面視において、第1係留ライン84aおよび第2係留ライン84bはそれぞれ、浮体側係留点841から(+X)方向へと延びており、第3係留ライン84cおよび第84係留ライン4dはそれぞれ、浮体側係留点841から(-X)方向へと延びて、第1係留ライン84aおよび第2係留ライン84bと交差している。すなわち、第1係留ライン84a、第2係留ライン84b、第3係留ライン84cおよび第4係留ライン84dは、平面視において波の進行方向90(
図2参照)と垂直な方向に延びている。
【0043】
図6Bに示す比較例2では、第1係留ライン84aは、平面視において水面91側から水底92側に向かうに従って波上側から波下側へと向かうとともに、浮体構造物2の外周側から外側に向かって(すなわち、浮体構造物2から離れる方向に)延びる。第2係留ライン84bは、平面視において水面91側から水底92側に向かうに従って波下側から波上側へと向かうとともに、浮体構造物2の外周側から外側に向かって延びる。第1係留ライン84aと第2係留ライン84bとは平面視において交差しており、平面視における交差角度θは60°である。第3係留ライン84cおよび第4係留ライン84dについても、第1係留ライン84aおよび第2係留ライン84bと同様である。
【0044】
図6cに示す比較例3は、第1係留ライン84aと第2係留ライン84bとの平面視における交差角度θ、および、第3係留ライン84cと第4係留ライン84dとの平面視における交差角度θが、90°である点を除いて比較例2と同じである。
図6dに示す比較例4は、第1係留ライン84aと第2係留ライン84bとの平面視における交差角度θ、および、第3係留ライン84cと第4係留ライン84dとの平面視における交差角度θが、120°である点を除いて比較例2と同じである。
【0045】
図7Aおよび
図7Bは、実施例1~5および比較例1について、波による浮体構造物2の運動を比較した図である。
図7Aは、浮体構造物2のY方向における運動量の時間的平均を示し、
図7Bは、浮体構造物2のY方向における運動量の標準偏差を示す。
図8Aおよび
図8Bは、実施例1~5および比較例1について、波による浮体構造物2の運動に起因する係留力を比較した図である。
図8Aは、4本の係留ライン4の浮体側係留点41に作用する当該係留力の合計(以下、「合計係留力」とも呼ぶ。)の時間的平均を示し、
図8Bは、当該合計係留力の標準偏差を示す。上述の運動量および合計係留力は、ポテンシャル理論に基づく3次元特異点分布法より求められる付加質量係数、造波減衰係数や波強制力係数等を用いた時刻歴応答計算によって算出した。
【0046】
図7A、
図7B、
図8Aおよび
図8Bから、実施例1~5における浮体構造物2の運動および合計係留力は、比較例1の浮体構造物2の運動および合計係留力よりも小さいことが分かる。
【0047】
また、実施例1~5を比較すると、
図5Eに示す実施例5では、第1係留ライン4a、第2係留ライン4b、第3係留ライン4cおよび第4係留ライン4dの水底側係留点42が、浮体構造物2の鉛直下方には位置しておらず、平面視において浮体構造物2の外周縁から外側に離間している。一方、
図5A~5Dに示す実施例1~4では、水底側係留点42は浮体構造物2の鉛直下方に位置する。このため、実施例5の係留システム1では、係留占有領域(すなわち、複数の係留ライン4a~4dの水底側係留点42によって囲まれる領域と、浮体構造物2の鉛直下方の領域とを合わせた領域)が、実施例1~4の係留システム1の係留占有領域よりも少し大きくなる可能性が高くなる。したがって、係留占有領域を小さくするという観点からは、第1係留ライン4aと第2係留ライン4bとの平面視における交差角度θ、および、第3係留ライン4cと第4係留ライン4dとの平面視における交差角度θは、60°以上かつ150°以下であることが好ましい。
【0048】
また、実施例1~4を比較すると、実施例3~4の方が、実施例1~2よりも浮体構造物2の運動および合計係留力が小さい。したがって、上述の交差角度θは120°以上かつ150°以下であることがさらに好ましい。
【0049】
実施例1と比較例2とを比較すると、2本の係留ラインの平面視における交差角度θは60°で同じであるが、4本の係留ラインが浮体構造物2の外周側から内側に延びるか、外側に延びるかの違いがある。比較例2の係留システム81における浮体構造物2の運動および合計係留力を、実施例1等と同様の方法によって求めたところ、実施例1の係留システム1における浮体構造物2の運動および合計係留力を略同じであった。一方、係留占有領域は、
図5Aおよび
図6Bから明らかなように、実施例1の方が比較例2よりも小さい。
【0050】
平面視における交差角度θが同じである実施例2および比較例3(
図5Bおよび
図6C参照)においても同様に、浮体構造物2の運動および合計係留力は略同じであったが、係留占有領域は、実施例2の方が明らかに小さい。また、平面視における交差角度θが同じである実施例3および比較例4(
図5Cおよび
図6D参照)においても同様に、浮体構造物2の運動および合計係留力は略同じであったが、係留占有領域は、実施例3の方が明らかに小さい。
【0051】
このように、実施例1~3では、平面視における交差角度θが同じである比較例2~4と比較して、浮体構造物2に対する波の影響(すなわち、波による運動および合計係留力の増大)を抑制しつつ係留システム1の占有領域を小さくすることができる。実施例4においても同様である。
【0052】
図3に示す例では、第1係留ライン4aの浮体側係留点41および水底側係留点42はそれぞれ、第2係留ライン4bの浮体側係留点41および水底側係留点42と、X方向において略同じ位置に位置する。したがって、第1係留ライン4aおよび第2係留ライン4bが、浮体構造物2の中心21を通る仮想的なXZ平面に対して略面対称となるため、ライン交点45において第1係留ライン4aと第2係留ライン4bとが接触する可能性が比較的高い。
図4に例示する第3係留ライン4cおよび第4係留ライン4dについても同様である。
【0053】
図9に例示する係留システム1aでは、ライン交点45における第1係留ライン4aおよび第2係留ライン4bの接触の可能性を低減するために、第1係留ライン4aおよび第2係留ライン4bを、浮体構造物2の中心21を通る仮想的なXZ平面に対して、非面対称としている。具体的には、例えば、第2係留ライン4bの浮体側係留点41を
図3に示す位置から少し(+Y)側に移動させ、第2係留ライン4bの水底側係留点42を
図3に示す位置から少し(-X)側に移動させることにより、平面視における交差角度θを変更することなく第1係留ライン4aと第2係留ライン4bとを非面対称とし、第2係留ライン4bを第1係留ライン4aから(-X)側へと離間させることができる。これにより、浮体構造物2が静穏状態で浮いている状態において、第1係留ライン4aと第2係留ライン4bとは、ライン交点45において非接触となる。
【0054】
なお、第1係留ライン4aと第2係留ライン4bとを非面対称とする際には、第1係留ライン4aおよび第2係留ライン4bにおける浮体側係留点41および水底側係留点42の位置関係は、上記例には限定されず、様々に変更されてよい。例えば、第1係留ライン4aおよび第2係留ライン4bのうち一方の浮体側係留点41を、(+X)側または(-X)側のいずれかに移動させるだけでもよい。また、第1係留ライン4aおよび第2係留ライン4bのうち一方の水底側係留点42を、(+X)側または(-X)側のいずれかに移動させるだけでもよい。あるいは、第1係留ライン4aおよび第2係留ライン4bのうち一方の浮体側係留点41または水底側係留点42を、(+Y)側または(-Y)側のいずれかに移動させるだけでもよい。第3係留ライン4cおよび第4係留ライン4dについても同様である。また、
図5A~
図5Eに示す例においても同様に、第1係留ライン4aと第2係留ライン4bとを非面対称とすることにより、浮体構造物2が静穏状態で浮いている状態において第1係留ライン4aと第2係留ライン4bとを非接触としてもよい。第3係留ライン4cおよび第4係留ライン4dについても同様である。
【0055】
以上に説明したように、浮体構造物2を多点係留方式にてカテナリー係留する係留システム1は、浮体構造物2と、複数の係留基体3と、複数の係留ライン4とを備える。浮体構造物2は、水面91に浮かぶ。複数の係留基体3は、水底92に固定される。複数の係留ライン4は、浮体構造物2と複数の係留基体3とをそれぞれ接続する。複数の係留ライン4は、第1係留ライン4aと、第2係留ライン4bとを含む。第1係留ライン4aは、水面91側から水底92側に向かうに従って波上側から波下側へと向かうとともに、浮体構造物2の外周側から内側に向かって、または、波の進行方向90に平行に延びる。第2係留ライン4bは、水面91側から水底92側に向かうに従って波下側から波上側へと向かうとともに、浮体構造物2の外周側から内側に向かって、または、波の進行方向90に平行に延びる。第2係留ライン4bは、平面視において第1係留ライン4aと交差する。これにより、上述のように、浮体構造物2に対する波の影響を抑制しつつ係留システム1の占有領域(すなわち、係留占有領域)を小さくすることができる。
【0056】
係留システム1では、上述の複数の係留ライン4の全てが、浮体構造物2の外周側から内側に向かって、または、波の進行方向90に平行に延びることが好ましい。これにより、係留システム1の占有領域をさらに小さくすることができる。
【0057】
上述のように、平面視において、第1係留ライン4aと第2係留ライン4bとの平面視における交点であるライン交点45から第1係留ライン4aの浮体側係留点41に向かう部位と、ライン交点45から第2係留ライン4bの浮体側係留点41に向かう部位との成す角度(すなわち、平面視における交差角度θ)は、60°以上かつ150°以下であることが好ましい。これにより、浮体構造物2に対する波の影響を抑制しつつ、係留システム1の占有領域を容易に小さくすることができる。また、係留システム1では、浮体構造物2に対する波の影響をさらに抑制するという観点からは、平面視における交差角度θは120°以上かつ150°以下であることがさらに好ましい。
【0058】
上述のように、第1係留ライン4aの水底側係留点42および第2係留ライン4bの水底側係留点42は、浮体構造物2の平面視における占有領域(すなわち、浮体占有領域20)の鉛直下方に位置することが好ましい。これにより、係留システム1の占有領域を好適に小さくすることができる。また、係留システム1の占有領域をさらに小さくするという観点からは、複数の係留ライン4の全ての水底側係留点42が、浮体構造物2の平面視における占有領域の鉛直下方に位置することがさらに好ましい。
【0059】
上述のように、第1係留ライン4aと第2係留ライン4bとの平面視における交点であるライン交点45において、第1係留ライン4aおよび第2係留ライン4bは被覆材46により被覆されていることが好ましい。これにより、第1係留ライン4aと第2係留ライン4bとの衝突や摩擦等による第1係留ライン4aおよび第2係留ライン4bの損傷を抑制することができる。
【0060】
上述のように、第1係留ライン4aと第2係留ライン4bとの平面視における交点であるライン交点45において、第1係留ライン4aと第2係留ライン4bとは非接触であることが好ましい。これにより、第1係留ライン4aと第2係留ライン4bとの衝突や摩擦等による第1係留ライン4aおよび第2係留ライン4bの損傷を抑制することができる。
【0061】
上述の係留システム1,1aでは、様々な変更が可能である。
【0062】
例えば、係留ライン4を被覆する被覆材46は必ずしも設けられる必要はなく、省略されてもよい。
【0063】
第1係留ライン4aの水底側係留点42は、必ずしも浮体占有領域20の鉛直下方に位置する必要はない。第2係留ライン4b、第3係留ライン4cおよび第4係留ライン4dの水底側係留点42についても同様である。
【0064】
第1係留ライン4aと第2係留ライン4bとの平面視における交差角度θは、60°未満であってもよく、150°よりも大きくてもよい。第3係留ライン4cと第4係留ライン4dとの平面視における交差角度θについても同様である。
【0065】
図5Eに示す実施例5では、第1係留ライン4a、第2係留ライン4b、第3係留ライン4cおよび第4係留ライン4dの水底側係留点42が、平面視において浮体構造物2の外周縁から外側に離間している例を示したが、これらの水底側係留点42は、浮体構造物2の鉛直下方に位置するように設置されてもよい。
【0066】
複数の係留基体3および複数の係留ライン4の数はそれぞれ、4には限定されず、2以上の範囲で適宜変更されてよい。
【0067】
浮体構造物2の形状は、上述のように、略直方体には限定されず、様々に変更されてよい。また、浮体占有領域20の形状も、上述のように、略長方形には限定されず、浮体構造物2の形状に合わせて様々に変更されてよい。
【0068】
浮体構造物2は、浮桟橋には限定されず、係留システム1,1aの構造は、浮消波堤や洋上風力発電施設等、様々な設備を係留する際に適用されてよい。
【0069】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0070】
1,1a 係留システム
2 浮体構造物
3 係留基体
4 係留ライン
4a 第1係留ライン
4b 第2係留ライン
20 浮体占有領域
41 浮体側係留点
42 水底側係留点
45 ライン交点
46 被覆材
91 水面
92 水底
θ 交差角度