(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115035
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】金属インゴットを製造するための方法とプログラム
(51)【国際特許分類】
B22D 46/00 20060101AFI20240819BHJP
B22D 27/02 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
B22D46/00
B22D27/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020474
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】増田 知▲徳▼
(57)【要約】
【課題】溶解鋳造法によって高品質の金属インゴットを低コストで製造するための方法を提供すること。
【解決手段】
この方法は、溶解炉内で金属を溶解して溶湯を形成し、鋳型内で溶湯を凝固すること、溶湯の表面を含む動画像を取得すること、当該動画像を構成する複数のフレーム画像から選択される連続する複数のフレーム画像を背景作成用フレーム画像として用いて背景画像を作成すること、ならびに背景作成用フレーム画像以降の連続する複数のフレーム画像である検知対象フレーム画像の各々ついて、背景画像を利用して落下物を検知することを含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解炉内で金属を溶解して溶湯を形成し、鋳型内で前記溶湯を凝固すること、
前記溶湯の表面を含む動画像を取得すること、
前記動画像を構成する複数のフレーム画像から選択される連続する複数のフレーム画像を背景作成用フレーム画像として用いて背景画像を作成すること、ならびに
前記背景作成用フレーム画像以降の連続する複数のフレーム画像である検知対象フレーム画像の各々ついて、
前記背景画像との輝度差を取得すること、
前記輝度差が輝度閾値を超える領域の面積が面積閾値を超える場合に、前記領域を候補領域として選択すること、
前記候補領域に対して膨張処理を行って膨張領域を作成すること、および
前記候補領域の輝度の平均値と前記膨張領域の輝度の平均値の差分が判定閾値を超える場合、前記候補領域は固体状の前記金属または前記溶解炉に備え付けられた治具であると判断し、前記差分が前記判定閾値以下の場合、前記候補領域は前記溶湯であると判断することを含む、金属インゴットを製造するための方法。
【請求項2】
前記動画像を構成する前記複数のフレーム画像の各々は、赤色の輝度情報を含む複数の赤色データポイント、緑色の輝度情報を含む複数の緑色データポイント、青色の輝度情報を含む複数の青色データポイントで構成され、
前記背景画像の前記作成と前記輝度差の前記取得は、前記複数の赤色データポイントのみを用いて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記動画像を構成する前記複数のフレーム画像の各々は、複数のデータポイントで構成され、
前記背景画像は、前記複数のデータポイントのそれぞれについて、前記背景作成用フレーム画像の輝度の中央値を取得することで作成される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記検知対象フレーム画像について前記判断を行った後、前記検知対象フレーム画像に続く連続する複数のフレーム画像を用いて前記背景画像を更新することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記検知対象フレーム画像の各々について、
前記治具と重なる判定領域、および、前記判定領域と接する例外領域を設定すること、
前記候補領域が前記判定領域と重ならない場合に前記候補領域が固体状の前記金属であると判断すること、
前記候補領域が前記判定領域と重なり、かつ、前記例外領域と重なる場合に前記候補領域が固体状の前記金属であると判断すること、ならびに
前記候補領域が前記判定領域と重なり、かつ、前記例外領域と重ならない場合に前記候補領域が前記治具であると判断することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記固体状の前記金属は、前記溶湯から蒸発する前記金属の蒸気が前記溶解炉内で固化・堆積し、前記溶湯内に落下した落下物である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
金属のインゴットを製造するための溶解炉に接続される制御装置に対し、
前記溶解炉内で形成される溶湯の表面を含む動画像を取得すること、
前記動画像を構成する複数のフレーム画像から選択される連続する複数のフレーム画像を背景作成用フレーム画像として用いて背景画像を作成すること、ならびに
前記背景作成用フレーム画像以降の連続する複数のフレーム画像である検知対象フレーム画像の各々ついて、
前記背景画像との輝度差を取得すること、
前記輝度差が輝度閾値を超える領域の面積が面積閾値を超える場合に、前記領域を候補領域として選択すること、
前記候補領域に対して膨張処理を行って膨張領域を作成すること、および
前記候補領域の輝度の平均値と前記膨張領域の輝度の平均値の差分が判定閾値を超える場合、前記候補領域は、固体状の前記金属または前記溶解炉に備え付けられた治具であると判断し、前記差分が前記判定閾値以下の場合、前記候補領域は前記溶湯であると判断することを実行させるように構成されるプログラム。
【請求項8】
請求項7に記載の前記プログラムが記録されたコンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、チタンなどの金属のインゴット(鋳塊)を製造するための方法、およびこの方法を実施するためのシステムとプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属のインゴットを製造する方法の一つとして、溶解鋳造法が挙げられる。溶解鋳造法では、原料となる金属単体または合金の粉体、ペレット、ワイヤー、スポンジ、ブリケット、プレート、またはビレットなどを溶解することで得られる液体状態の金属(溶湯)を鋳型に注入し、凝固することで鋳型の形状を反映したインゴットが得られる。溶解鋳造法では、不良発生を防止して製造される金属インゴットの品質を維持するため、溶湯の映像を取得し、得られた映像に基づいて温度管理や異物の混入を監視することがある(例えば、特許文献1、2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-192747号公報
【特許文献2】特開2022-169267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、金属単体または合金のインゴットを製造するための新規方法、およびこの方法を実施するためのプログラムとシステムを提供することを課題の一つとする。例えば、本発明の実施形態の一つは、溶解鋳造法によって高品質の金属インゴットを低コストで製造するための方法、およびこの方法を実施するためのプログラムとシステムを提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る実施形態の一つは、金属インゴットを製造するための方法である。この方法は、溶解炉内で金属を溶解して溶湯を形成し、鋳型内で溶湯を凝固すること、溶湯の表面を含む動画像を取得すること、当該動画像を構成する複数のフレーム画像から選択される連続する複数のフレーム画像を背景作成用フレーム画像として用いて背景画像を作成すること、ならびに背景作成用フレーム画像以降の連続する複数のフレーム画像である検知対象フレーム画像の各々ついて、背景画像との輝度差を取得すること、輝度差が輝度閾値を超える領域の面積が面積閾値を超える場合に、当該領域を候補領域として選択すること、候補領域に対して膨張処理を行って膨張領域を作成すること、および候補領域の輝度の平均値と膨張領域の輝度の平均値の差分が判定閾値を超える場合、候補領域は固体状の金属または溶解炉に備え付けられた治具であると判断し、差分が判定閾値以下の場合、候補領は溶湯であると判断することを含む。
【0006】
本発明に係る実施形態の一つは、プログラムである。このプログラムは、金属のインゴットを製造するための溶解炉に接続される制御装置に対し、溶解炉内で形成される溶湯の表面を含む動画像を取得すること、当該動画像を構成する複数のフレーム画像から選択される連続する複数のフレーム画像を背景作成用フレーム画像として用いて背景画像を作成すること、ならびに背景作成用フレーム画像以降の連続する複数のフレーム画像である検知対象フレーム画像の各々ついて、背景画像との輝度差を取得すること、輝度差が輝度閾値を超える領域の面積が面積閾値を超える場合に、当該領域を候補領域として選択すること、候補領域に対して膨張処理を行って膨張領域を作成すること、および候補領域の輝度の平均値と膨張領域の輝度の平均値の差分が判定閾値を超える場合、候補領域は、固体状の金属または溶解炉に備え付けられた治具であると判断し、差分が判定閾値以下の場合、候補領域は溶湯であると判断することを実行させるように構成される。
【0007】
本発明に係る実施形態の一つは、上記プログラムが記録されたコンピュータ可読記憶媒体である。
【0008】
本発明に係る実施形態の一つは、金属インゴットを製造するためのシステムである。このシステムは、溶解炉、および溶解炉に接続される制御装置を含む。制御装置は、溶解炉内で形成される溶湯の表面を含む動画像を取得すること、当該動画像を構成する複数のフレーム画像から選択される連続する複数のフレーム画像を背景作成用フレーム画像として用いて背景画像を作成すること、ならびに背景作成用フレーム画像以降の連続する複数のフレーム画像である検知対象フレーム画像の各々ついて、背景画像との輝度差を取得すること、輝度差が輝度閾値を超える領域の面積が面積閾値を超える場合に、当該領域を候補領域として選択すること、候補領域に対して膨張処理を行って膨張領域を作成すること、および候補領域の輝度の平均値と膨張領域の輝度の平均値の差分が判定閾値を超える場合、候補領域は、固体状の金属または溶解炉に備え付けられた治具であると判断し、差分が判定閾値以下の場合、候補領域は溶湯であると判断することを実行するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態の一つに係る、金属インゴットを製造する方法を実施するためのシステムの機能ブロック図。
【
図2】本発明の実施形態の一つに係るシステムに含まれる溶解炉の模式的端面図。
【
図3】本発明の実施形態の一つに係る、金属インゴットを製造する方法を示すフローチャート。
【
図4】本発明の実施形態の一つに係る、金属インゴットを製造する方法を示すフローチャート。
【
図5】本発明の実施形態の一つに係る、金属インゴットを製造する方法を示すフローチャート。
【
図6】本発明の実施形態の一つに係る、金属インゴットを製造する方法を示すフローチャート。
【
図7】本発明の実施形態の一つに係る、金属インゴットを製造する方法を示すフローチャート。
【
図8】本発明の実施形態の一つに係る、金属インゴットを製造する方法を示すフローチャート。
【
図9】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットを製造する方法を説明する模式図。
【
図10】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットを製造する方法を説明する模式図。
【
図11】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットを製造する方法を説明する模式図。
【
図12】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットを製造する方法を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の各実施形態について、図面などを参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0011】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。符号が付された要素の一部を表記する際には、符号に小文字のアルファベットが添えられる。同一または類似の構造を有する複数の要素をそれぞれ区別して表記する際には、符号の後にハイフンと自然数を付す。同一または類似の構造を有する複数の要素を纏めて表記する際には、符号のみを用いる。
【0012】
ここで、溶解とは液体に気体、液体、固体が混合して均一な液相を形成する現象であるが、本明細書においては、固体が液体へ変化する現象である溶融を包含する用語として使用する。
【0013】
1.金属インゴットを製造するためのシステム
本発明の実施形態の一つに係る、金属インゴットを製造するためのシステムは、溶解鋳造法で金属単体または合金のインゴット(以下、金属単体のインゴットと合金のインゴットを総じて金属インゴットまたはインゴットと記す。)を製造するためのシステムである。
図1の機能ブロック図に示すように、本システム100は、制御装置160と溶解炉110を含む。
【0014】
以下に詳述するように、溶解炉110は、金属(0価の金属)を含む原料に対して熱エネルギーを供給することによって金属を溶解し、得られる溶湯を鋳型に注入するように構成される。溶湯を鋳型内で凝固することで、金属インゴットが得られる。原料の加熱は、電子銃やプラズマトーチなどの熱源を用いて行われる。以下、熱源として電子銃を用いる電子ビーム溶解鋳造法について記述するが、本システム100は、熱源としてプラズマトーチを用いるプラズマアーク溶解鋳造法にも適用することができる。
【0015】
溶解炉110で使用可能な金属に制約はなく、チタン、銅、ニッケル、アルミニウム、ジルコニウム、ハフニウム、タングステン、モリブデン、タンタル、またはこれらの金属から選択される金属を含む合金など、様々な金属を含む原料を取り扱うことができる。原料の形状にも制約はなく、粉体状、ペレット状、棒状、ワイヤー状、プレート状の原料を用いてもよい。例えばチタンを含む原料を用いる場合には、クロール法またはハンター法などに例示される四塩化チタンの還元で生じるスポンジチタンを用いてもよい。なお、チタンを含む金属は、チタン単体だけでなく、チタン-アルミニウム合金などのチタン合金を含む。
【0016】
図1に示すように、制御装置160は、図示しないアプリケーションプログラミングインターフェースを介して溶解炉110または溶解炉110に設けられる少なくとも一つの構成に接続され、溶解炉110の機能の全てまたは一部を制御するように構成してもよい。あるいは、制御装置160と溶解炉110は互いに非接続の独立した装置であり、フラッシュメモリなどの各種記憶媒体を用いて溶解炉110において取得された情報を制御装置160で読み取ってもよい。
【0017】
1-2.溶解炉
図2に溶解炉110の模式的端面図を示す。溶解炉110は、主な構成として、原料を溶解・凝固するための空間を提供するチャンバー112、チャンバー112内に設けられるハース120、鋳型124、一つまたは複数の電子銃140、一つまたは複数の電子銃142、チャンバー112内を減圧するための排気装置(真空ポンプ)116、およびチャンバー112外に設けられる撮像装置150を有する。溶解炉110にはさらに、金属を含む原料104が充填されたドラムフィーダ114や、ドラムフィーダ114から供給される原料104をハース120へ輸送するための振動フィーダ118、溶湯をサンプリングするためのサンプラー138などの種々の治具を設けることができる。排気装置116によりチャンバー112内を0.01Pa以下の減圧雰囲気にすることができ、これにより、活性の高い金属、例えば溶解状態で容易に酸素や窒素と反応するチタンなどの金属を取り扱うことができる。振動フィーダ118は、ハース120側がドラムフィーダ114側よりも低くなるように設けられ、図示しない振動装置に連結される。このため、例えばドラムフィーダ114を回転させて原料104を振動フィーダ118へ供給し、振動フィーダ118を振動させることで原料104をハース120に搬送することができる。
【0018】
電子銃140は、ハース120に供給された原料104に熱エネルギーを供給する熱源である。図示しないが、電子銃140は、熱電子を発生させるためのフィラメント、および電子ビームを偏向させるための磁石を基本構成として備える。磁石の磁界を制御することで電子ビームの照射方向が制御され、電子ビームをハース120上で走査することができる。電子ビームによって供給されるエネルギーによって原料104に含まれる金属が溶解し、溶湯106が形成される。また、意図せず蒸着物(後述)がハース120に落下した場合、電子銃140を用いて当該蒸着物に電子ビームを照射して蒸着物を溶解してもよい。
【0019】
ハース120は、原料104と溶湯を保持し、溶湯を鋳型124に供給するように構成される。ハース120上には、予め原料に含まれる金属を溶解・凝固することで得られるスカル122が形成されていてもよい。スカル122は溶湯106の流路としても機能するが、一部を再溶解して溶湯106の供給源として機能させてもよい。
【0020】
鋳型124は、ハース120内で形成された溶湯106を受容する容器であり、ハース120に設けられる溶湯の注ぎ口の下に配置される。ハース120や鋳型124は、例えば銅や銅合金などの熱伝導率の高い金属を用いて構成される。鋳型124の数に制約はなく、一つまたは複数の鋳型124をチャンバー112内に配置してもよい。ハース120の注ぎ口の数は、鋳型124の数と同数またはそれ以上になるように設けられる。任意の構成として、鋳型124は鋳型124を冷却するための流路126を有していてもよい。流路126に冷却媒体を環流させることで、鋳型124に注入された溶湯106を効果的に冷却することができる。
【0021】
鋳型124の形状にも制約はなく、鋳型124の水平断面の形状、より詳細には水平断面における内壁の形状は矩形などの多角形でもよく、円もよく、あるいは内壁の輪郭は直線と曲線によって構成されていてもよい。鋳型124の大きさにも制約はなく、例えば水平断面の面積が1500cm2以上15000cm2以下になるように適宜設定すればよい。
【0022】
鋳型124の底部には、底蓋として機能するダブテール128が設けられる。ダブテール128上にはスタブとも呼ばれるスターティングブロック130が形成されてもよい。鋳型124に注入された溶湯106はダブテール128側から凝固するため、ダブテール128に接続される引出機構(図示しない)を利用してダブテール128および/またはスターティングブロック130を鋳型124から下方向(
図2の実線の直線矢印参照。)に引き抜くことで、溶湯106が鋳型124内で凝固した部分を金属インゴット108として得ることができる。なお、スターティングブロック130は、溶湯106が凝固する際に一体化され、金属インゴット108の一部を構成してもよい。金属インゴット108の鋳造後においてスターティングブロック130を切断除去してもよい。
【0023】
任意の構成として、溶解炉110は、金属インゴット108を冷却するための冷却管134を備えてもよい。冷却管134は、ダブテール128、スターティングブロック130や得られる金属インゴット108を囲むように設けられる。鋳型124と同様、冷却管134も熱伝導率の高い銅や銅合金などの金属を含むことが好ましい。冷却管134にも冷却媒体を環流させるための流路136を設けてもよい。
【0024】
電子銃142は、電子銃140とは異なり、鋳型124内の溶湯106に電子ビームを照射するように配置される。電子銃142を配置することで、溶湯106の温度を調整し、凝固速度を制御することができる。また、意図せず蒸着物(後述)が鋳型124内の溶湯106に落下した場合、当該蒸着物を溶解させることにも電子銃142を使用できる。電子銃140と同様、電子銃142もフィラメントと磁石を備える。磁石の磁界を制御することで、電子ビームを溶湯106上で走査したり、溶湯106の任意の位置に照射したりすることが可能となる。
【0025】
サンプラー138は、溶湯106の一部をサンプリングするための治具であり、サンプリングされた溶湯106の成分分析を随時または定期的に行うことで、得られる金属インゴットの品質を監視することができる。サンプラー138は、
図2の点線矢印で示すように、通常は鋳型124とは重ならず、サンプリングする際に移動して鋳型124と重なるように設けてもよい。
【0026】
撮像装置150としては、例えば電荷結合素子(CCD)または相補性金属酸化膜半導体(CMOS)素子を含む撮像装置などが例示される。
図2に示す例では、撮像装置150は、鋳型124と鋳型124内の溶湯106の動画像を取得するように配置される第1の撮像装置150-1、およびハース120とハース120内に形成される溶湯106を取得するように配置される第2の撮像装置150-2を含む。溶解炉110には、第1の撮像装置150-1と第2の撮像装置150-2の両者を配置してもよく、いずれか一方を配置してもよい。撮像装置150を設けることで、金属インゴット108の製造時に鋳型124および/またはハース120とその内部の溶湯106の表面を含む動画像を取得することができる。
【0027】
チャンバー112の上部には開口部が形成され、窓152が開口部に設けられる。窓152は、ガラス、石英ガラス、および鉛ガラスのうち一つまたは複数を含み、例えば石英ガラスと鉛ガラスの積層でもよい。撮像装置150は、窓152を介して鋳型124および/またはハース120の上面の画像を取得できるように配置される。開口部が設けられる位置は任意に設定することができる。ただし、チャンバー112内で原料104を溶解させると、金属の種類によっては一部が蒸発し、その結果、チャンバー112の内壁や窓152の内側に金属が堆積することがある。特に鉛直方向で鋳型124と重なる位置は溶湯から蒸発する金属が堆積しやすい。このため、
図2に示すように、開口部を鋳型124やハース120などと鉛直方向において重ならない位置に設けることが好ましい。撮像装置150は、開口部を通して鋳型124に対して斜めの方向から撮像することが好ましい。すなわち、撮像装置150のレンズの光軸が鉛直方向から傾くように撮像装置150を配置することが好ましい。
【0028】
なお、図示しないが、一つまたは複数の開口またはスリットを有する防着板を窓152と重なるように設けてもよい。防着板を設けることで、金属の蒸気が窓152に付着することが抑制され、その結果、金属の堆積が防止され、窓152の透明度を長時間に亘って維持することができる。また、
図2に示すように、窓152の内側にアルゴンやヘリウムなどの不活性ガスを吹き付けるためのノズル154をチャンバー112に設けてもよい。ノズル154はチャンバー112外に設けられる不活性ガス供給源(図示しない)と接続される。鋳造時に不活性ガス供給源から不活性ガスを窓152の内側へ供給することで、金属蒸気の窓152への付着が抑制されるため、窓152の透明度が維持される。第2の撮像装置150-2の窓にもノズル154が設けられてよい。
【0029】
上述した溶解炉110では、原料104はドラムフィーダ114からハース120に供給され、ハース120上で溶解されるが、原料104の供給方法はこれに限られない。例えば、原料として金属インゴットを用いてもよい。この場合、図示しない支持部材などの治具を用いてハース120上に金属インゴットを配置し、この金属インゴットに対する電子ビーム照射によって得られる溶湯を鋳型124に直接、またはハース120を介して供給してもよい。この場合には、撮像装置150で取得される動画像には、原料である金属インゴットや支持部材が含まれることがある。
【0030】
1-2.制御装置
制御装置160は通信機能と計算機能を有するコンピュータであり、ノート型、または据え置き型のコンピュータでもよく、あるいはタブレットコンピュータなどの携帯型通信端末でもよい。制御装置160は、インターネットなどの外部ネットワーク、あるいはLAN(Local Area Network)などの内部ネットワークを介してチャンバー112、またはチャンバー112に設けられる構成の全て若しくは一部(例えば電子銃142や撮像装置150など)と接続されてもよい。
【0031】
図1のブロック図に示すように、制御装置160には、制御装置160の動作を制御する制御部162に加え、制御部162によって制御される入力部164、出力部166、送受信部168、記憶部170、音声出力部172、入力ポート174などが設けられる。
【0032】
記憶部170には、制御装置160を動作させるための基本アプリケーションプログラムとともに、後述する金属インゴット108の製造方法を実施するためのプログラムが格納される。制御部162は中央演算ユニット(CPU)などのプロセッサを備え、記憶部170に格納される基本アプリケーションプログラムや上記プログラムを動作させて制御装置160で実行される各種処理を制御する。入力部164は制御装置160に命令や情報を入力する際に用いられるユーザインターフェースであり、典型的にはキーボードやタッチパネル、マウス、またはこれらの組み合わせが挙げられる。出力部166は記憶部170に格納された各種データを画像として提供するものであり、液晶表示装置や有機電界発光表示装置などの表示装置である。送受信部168は、ネットワークを介して溶解炉110またはそれに設けられる構成との通信を行う機能を有する。例えば送受信部168は、撮像装置150で取得された画像を受信するとともに、電子銃140、142など、チャンバー112に設けられる構成に対して信号を送信するように構成してもよい。音声出力部172は種々の音を発生する機能を有するスピーカーである。入力ポート174は、撮像装置150または撮像装置150に装着されるフラッシュメモリなどの記憶媒体を接続するためのインターフェースである。制御装置160と溶解炉110が通信接続されない場合でも、撮像装置150または記憶媒体を入力ポート174を介して制御装置160に接続することで、取得された動画像を読み込み、記憶部170に格納することができる。
【0033】
図1のブロック図では、溶解炉110に備えられるドラムフィーダ114や排気装置116、振動フィーダ118、電子銃140と142、および撮像装置150の全てが制御装置160によって制御される例が示されている。しかしながら、制御装置160はこれらの構成の全てを制御する必要は無い。例えば、制御装置160は撮像装置150のみに接続され、撮像装置150で取得された動画像のデータを受信または格納し、そのデータを処理するように構成されてもよい。この場合には、他の構成、例えばドラムフィーダ114や振動フィーダ118、排気装置116、引き抜き機構(図示しない)、電子銃140、142などは、制御装置160から独立した制御システムによって制御・操作すればよい。あるいは、上述したように、制御装置160は溶解炉110に接続されず、独立してもよい。この場合、入力ポート174を介して撮像装置150で取得された動画像が制御装置160に入力される。
【0034】
2.金属インゴットの製造方法
上述したように、溶解鋳造法による金属インゴット108の製造では、ハース120や鋳型124内の高温の溶湯106から金属が徐々に蒸発することがある。金属の蒸気がハース120の外壁、チャンバー112の天井や内壁などに付着すると冷却され、金属が析出・堆積する。このような堆積物は、液体状態の溶湯106と異なって固体状の金属であり、蒸着物と呼ばれる。蒸着物の堆積が進むと、蒸着物が鋳型124やハース120内の溶湯106に落下することがある。落下した蒸着物が再度溶解すれば溶湯106と均一に混ざり合うため、均一な密度を有する金属インゴット108が得られる。しかしながら、蒸着物が完全に溶解しない場合、溶湯106の冷却過程において蒸着物は固体状態を維持し、蒸着物を取り込むように溶湯106が凝固する。蒸着物の密度は、溶湯106が凝固して得られる金属インゴット108の密度よりも小さい。このため、取り込まれた蒸着物は、金属インゴット108中に局所的に密度の小さい欠陥を作り出す。このような欠陥は低密度介在物(LDI:Low Density Inclusions)と呼ばれる。LDIが金属インゴット108中に存在すると、LDIは金属インゴット108の圧延後に表面疵として現れ、材料として致命的な欠陥を引き起こす。また、金属インゴット108の製造後、内部にLDIが存在するかどうかを判断するのは必ずしも容易ではない。
【0035】
以下に詳述するように、本発明の実施形態に係る製造方法を適用することで、溶解鋳造法による金属インゴット108の製造工程において蒸着物を落下物として容易にかつ速やかに検知することができる。このため、落下物が溶湯106内に混入しても、その挙動を効率よく追跡することができ、落下物による影響を容易に把握することができる。その結果、LDIを含む、または含む可能性の高い金属インゴット108を除去し、良品の金属インゴット108のみを選択的に確保・提供することが可能となる。以下、本システム100を用いる金属インゴットの製造方法について説明する。
【0036】
2-1.原料の供給からインゴットの引き抜きまで
本製造方法の一例を示すフローチャートを
図3に示す。まず、チャンバー112内の雰囲気を適宜調整する。例えば排気装置116を用い、チャンバー112内を減圧状態にしてもよい。チタンなどの溶解状態で高い反応性を示す金属を含む原料104を用いる場合には、チャンバー112内を0.001Paから0.005Paの圧力に調整することが好ましい。溶解状態における反応性が低い金属を含む原料104を用いる場合には、チャンバー112内の雰囲気は空気でもよく、あるいはガス導入口から導入された不活性ガスでもよい。この場合、チャンバー112内の圧力が高くなるので、熱源としてプラズマトーチを用いることが好ましい。なお、チタンなどの溶解状態で高い反応性を示す金属を含む原料104を用い、かつ熱源としてプラズマトーチを用いる場合は、チャンバー112内の雰囲気をアルゴンなどの不活性雰囲気としてよい。
【0037】
引き続き、ドラムフィーダ114から振動フィーダ118へ原料104を供給する。例えば原料104が充填されたドラムフィーダ114を用い、ドラムフィーダ114を回転させて原料104を振動フィーダ118へ落下させればよい(
図2、曲線矢印参照。)。振動フィーダ118には図示しない振動装置が設けられ、振動フィーダの振動により原料104がハース120側へ移動し、最終的にハース120内に供給される。なお、上述したように、金属インゴットを原料として用い、これを支持部材などの治具によってハース120または鋳型124上に配置してもよい。
【0038】
この後、電子銃140を用い、原料104に電子ビームが照射されるよう、電子ビームをハース120上で走査する。ハース120上に配置された金属インゴットを原料として用いる場合には、電子ビームはさらに金属インゴットにも照射される。これにより、原料104に含まれる金属が溶解し、溶湯106が形成される。溶湯106が一定量貯まるとハース120の注ぎ口から溶湯106が流出し、鋳型124へ注入される。鋳型124への溶湯106の供給速度は、原料104の供給量と電子ビームの強度を適宜制御することで調節することができる。なお、溶湯106を鋳型124に注入する前に鋳型124の底部には予めダブテール128を配置してもよい。あるいは、ダブテール128とその上に形成されたスターティングブロック130を配置してもよく(
図2参照。)、ダブテール128に替わってスターティングブロック130のみを単独で配置してもよい。スターティングブロック130が配置される場合、凝固する溶湯106とスターティングブロック130が一体化し、スターティングブロック130を含む金属インゴット108が形成される。
【0039】
鋳型124に供給された溶湯106の表面にも電子銃142から射出される電子ビームが走査される。電子銃142からの電子ビームの強度や走査速度を適宜制御することで、凝固速度を調節することができる。
【0040】
溶湯106の注入後、ダブテール128および/またはスターティングブロック130を下方向にスライドさせて鋳型124から金属インゴット108を引き出す。これにより、金属インゴット108を得ることができる。
【0041】
2-2.落下物自動検知処理
本製造方法では、落下物の検知のため、溶湯106の動画像を撮像装置150を用いて取得し、動画像を用いて落下物自動検知処理を行う(
図3)。その結果、落下物が検知されなければ、製造される金属インゴット内にLDIが存在しないと判断される。一方、蒸着物が落下物として検知された場合、当該落下物が映し出された動画像を用いて落下物の挙動を目視で追跡する。落下物が溶湯106内で溶解して消失すればLDIが発生していないと判断することができる。逆に、蒸着物が完全に溶解せずに残存することが確認されれば、金属インゴット内にLDIが存在する可能性が高いと判断され、得られる金属インゴットを不良品として排除することができる。一つの金属インゴットの製造には数時間以上を要するが、本製造方法を適用することで、鋳造の開始から終了まで常に動画像を目視監視する必要が無くなり、蒸着物が自動検知された時の画像とそれに引き続く画像を検討するだけで落下物の挙動を把握することができる。このため、本製造方法によって落下物の見落としが防止されるとともに、作業者の負担が大幅に軽減され、人的資源の大幅な節約が可能である。このことは、金属インゴットの製造コストの低減と品質向上に寄与する。
【0042】
以下、落下物自動検知処理について詳述する。この処理は、
図4のフローチャートに示すように、溶湯106の動画像を取得すること、動画像から背景画像を作成・更新すること、動画像に基づいて落下物を検知すること(落下物検知処理)、および、この検知が誤検知であるか否かを判断する誤検知判定処理を含む。
【0043】
(1)動画像の取得
鋳造が開始されたのち、動画像を取得する。動画像は、鋳型124とその中の溶湯106を含むように取得してもよく、あるいは、ハース120とその上の溶湯106を含むように取得してもよい。あるいは、これらの動画を同時に取得してもよい。以下の説明では、鋳型124とその中の溶湯106を含む動画像を用いて落下物を検知する方法について説明する。動画像の取得は、鋳造が終了するまで行われる。
【0044】
撮像装置150が取得する動画像は、複数のフレーム画像によって構成される。換言すると、撮像装置150は、静止画像であるフレーム画像を連続的に取得し、得られる複数のフレーム画像によって一つの動画像が構成される。フレーム画像の取得間隔(フレーム間隔)にも制約はなく、例えば0.01秒(1秒あたりに取得されるフレーム画像数が100)以上3秒(1秒あたりに取得されるフレーム画像数が0.33)以下の範囲から適宜選択すればよい。
【0045】
各フレーム画像は、複数の列と複数の行で構成されるマトリクス形状に配置されるデータポイントのそれぞれの座標とその階調の組み合わせの集合として取得される。各データポイントは、最も暗い第0階調から最も明るい第255階調の合計256の階調から選択される階調として表現される。フレーム画像を表示装置のディスプレイ上で表示する場合には、各データポイントは画素に対応し、画素はその階調に対応する輝度の光を与える。すなわち、256段階の異なる輝度を与える画素の集合体として鋳型124や溶湯106の画像がディスプレイ上で視認される。
【0046】
動画像はカラー画像として取得される。したがって、各フレーム画像を構成する複数のデータポイントは、赤色の輝度情報を有する複数の赤色データポイント、緑色の輝度情報を有する複数の緑色データポイント、および青色の輝度情報を有する複数の青色データポイントを含む。本製造方法では、各フレーム画像を構成する全てのデータポイントを用いてもよいが、複数のデータポイントのうち赤色データポイントのみを使用してもよい。後述するように、溶湯106の輝度は、落下物が存在していない領域でも必ずしも一定ではなく、溶湯106の表面には輝度斑が発生する。しかしながら、赤色データポイントのみを使用することで、比較的高輝度で斑の少ないフレーム画像を取得できることが発明者によって確認されている。このため、より正確な落下物の検知のため、赤色データポイントのみを使用することも好ましい態様の一つである。
【0047】
(2)背景画像の作成
背景画像を作成する方法を
図5のフローチャートを用いて説明する。背景画像は、鋳造の開始から終了まで取得された動画像の全体を構成する一連の複数のフレーム画像のうち、その一部に対応する連続する複数のフレーム画像を用いて作成される。具体的には、連続する複数のフレーム画像I
1からI
nを背景作成用フレーム画像として選択する。フレーム画像I
1は、動画像の最初のフレーム画像でもよく、二番目以降のフレーム画像でもよい。nは自然数であり、例えば50以上1000以下の範囲から選択すればよい。例えば、電子ビームは鋳型124中の溶湯106の上面全体の走査を繰り返すため、nは、溶湯106の上面全体を電子ビーム走査するために必要な時間取得されるフレーム画像の数以上でもよい。
【0048】
図9に模式的に示すように、各フレーム画像Iは、鋳型124に対応する低階調の鋳型領域R
t、および鋳型領域R
tに囲まれ、溶湯106に対応する比較的高輝度の領域に大別される。しかしながら、溶湯106は必ずしも均一な輝度で表されるのではなく、溶湯106の表面の揺れ、電子ビーム照射によって一時的に発生する輝点やその反射光などの影響により、輝度に斑が生じる。また、落下物が存在すると、落下物は暗い領域として映し出される。このため、各フレーム画像Iにおいて、溶湯106は全体として輝度が高い領域として存在するが、相対的に輝度が低い低輝度領域R
LLや電子ビーム照射によって発生する輝点領域R
EBなどが含まれる。
【0049】
背景画像の作成では、まず、溶湯106に対応する領域を抽出する。すなわち、フレーム画像I
1からI
nの各々において、一定の輝度(以下、この輝度を輝度閾値と呼ぶ。)を超える高輝度領域R
HL1からR
HLnを取得する。
図9においてハッチングが施されたこれらの高輝度領域R
HL1からR
HLnは、輝度閾値を超える輝度を有するデータポイントの集合である。したがって、各高輝度領域R
HL1からR
HLnには、溶湯106を示す領域であっても輝度閾値以下の低輝度領域R
LLは含まれない。輝度閾値は適宜設定すればよく、例えば第100階調から第255階調から選択される階調に対応する輝度を輝度閾値として設定すればよい。
【0050】
次に、これらの高輝度領域RHL1からRHLnが交差する領域を生成する。すなわち、これらの高輝度領域RHL1からRHLnを重ね合わせて得られる重畳領域ROLを生成する。重畳領域ROLは、高輝度領域RHL1からRHLnのそれぞれの全体と重なる最小領域である。なお、重畳領域ROLが複数生じる場合には、最大面積を有するものを重畳領域ROLとして選択すればよい。例えば、溶湯106が鋳型124から飛散して鋳型124の壁面などに付着したり、動画像を加工して溶湯と重なる領域に輝度の高い文字や図形が表示されたりすると、複数の重畳領域ROLが生じる場合がある。この時、最大面積を有する重畳領域ROLを用いることで、飛散した溶湯106や文字などが占める領域を排除することができる。
【0051】
次に、重畳領域ROLに含まれる複数のデータポイントのそれぞれについて、フレーム画像I1からInの輝度の中央値を取得する。すなわち、重畳領域ROLに含まれる各画素に着目し、各画素のフレーム画像I1からInにおけるn個の輝度の中央値を取得する。重畳領域ROLに含まれる各画素に輝度の中央値を採用して得られる画像を背景画像として作成する。
【0052】
得られる背景画像は、背景作成用フレーム画像以降の複数のフレーム画像(すなわち、フレーム画像I(n+1)からフレーム画像I(n+m)、mは自然数。)である検知対象フレーム画像における落下物検知に利用される。一つの背景画像を用いて落下物検知が行われる検知対象フレーム画像の数(すなわちm)に制約はなく、例えばmは、n以上50000以下またはn以上10000以下の範囲から適宜選択すればよい。
【0053】
背景画像は、落下物に起因する低輝度領域を正確に検知できるよう、全体に亘って輝度が均一であることが好ましい。しかしながら、上述したように、電子ビームに起因する輝点領域REBが背景作成用フレーム画像の一部に含まれることがある。また、溶湯106の表面の揺れなどに起因し、溶湯106表面の輝度には斑が発生する。さらに、落下物は低輝度領域を与える。このため、単一のフレーム画像を直接背景画像として選択すると、輝度斑の大きい背景画像を用いて落下物検知処理が行われる可能性が高く、落下物を正確に検知することができないことがある。しかしながら、本製造方法では、検知対象フレーム画像に先行する複数のフレーム画像が背景画像の作成に用いられるため、一時的に発生する輝度斑の影響を排除することができる。
【0054】
さらに、背景画像の作成では、複数の背景作成用フレーム画像のデータポイントの平均値ではなく中央値が用いられるため、背景作成用フレーム画像の輝度斑を効果的に解消し、全体的に輝度が高く、かつ、輝度斑の低い背景画像を得ることができる。この理由は以下の通りである。電子ビームは溶湯106上で走査されるためその照射位置は固定されず、輝点領域REBの位置は複数の背景作成用フレーム画像間で異なる。また、ハース120内では溶湯106は流れており、鋳型124にも溶湯106が供給されるため、溶湯106は流動する。このため、落下物は溶湯106上で移動し、その位置は複数の背景作成用フレーム画像で異なることになる。データポイントの平均値を用いて背景画像を作成すると、輝度が大きく異なる輝点領域REBや低輝度領域RLLの影響を大きく受けるが、中央値を採用することで、これらの領域による一時的な影響を排除し、各データポイントにおける溶湯106の定常的な輝度を採用することができる。その結果、輝度が高く均一な背景画像を取得することができる。
【0055】
上述したように、鋳造時には溶湯106から金属が徐々に蒸発し、窓152に付着して蒸着物を形成する。窓152に蒸着物が堆積すると、動画像中のフレーム画像は徐々に暗くなる。また、蒸着物は必ずしも窓152に均一には堆積しないため、フレーム画像上では点在する低輝度領域RLLとして現れる。このため、最初に取得した背景画像を鋳造終了まで用いた場合、鋳造の進行とともに落下物を誤検知する可能性が増大する。このような誤検知を防ぐため、m個の検知対象フレーム画像の処理が終了したのち、背景画像が更新される。すなわち、検知対象フレーム画像であるフレーム画像I(n+m)に続く連続するn個のフレーム画像(フレーム画像I(n+m+1)からI(2n+m+1))などを用いて新たな背景画像が作成され、先行する背景画像と置換される。背景画像の更新は、鋳造が終了するまで、すなわち、溶湯の動画取得が終了するまで行われる。背景画像を更新する方法については後述する。
【0056】
(3)落下物検知処理
図6に落下物検知処理のフローチャートを示す。この処理では、まず、各検知対象フレーム画像と背景画像の輝度差を取得する。すなわち、背景画像を構成するデータポイントの各々について、背景画像の輝度から検知対象フレーム画像の輝度を減じる。この処理で得られる画像を差分画像I
Dと言う。検知対象フレーム画像中に低輝度領域R
LLが存在しない場合には、背景画像と検知対象フレームの各データポイント間に大きな輝度差が無いため、全体的に低輝度の差分画像I
Dが得られる。これに対し、
図10(A)と
図10(B)に模式的に示すように、低輝度領域R
LLでは検知対象フレーム画像と背景画像の輝度差が大きいので、低輝度領域R
LLは差分画像I
Dにおいて相対的に輝度が高い高輝度領域R
HLとして表される。
【0057】
次に、差分画像I
Dにおいて、輝度が一定の閾値(以下、この閾値を判定閾値と呼ぶ。)を超える領域を一次候補領域R
c1として検出する。これにより、背景画像と比較すると輝度は低いものの、その差が小さい領域が排除される。例えば
図10(C)に示す例では、差分画像I
Dの三つの高輝度領域R
HLのうち一つが排除され、二つの一次候補領域R
c1が検出されている。なお、背景画像は溶湯106が存在する領域のみを含むが、検知対象フレームにはさらに鋳型124(またはハース120)に対応する鋳型領域R
tが含まれ、さらに溶湯106から飛散して鋳型124上に存在する溶湯106も含むことがある。このため、検知対象である鋳型124(またはハース120)内の溶湯106のみを選択するため、重畳領域R
OLと重なる一次候補領域R
c1のみを二次候補領域R
c2として取得してもよい(
図10(D))。これにより、溶湯106以外の領域に検知された一次候補領域R
c1を排除することができる。鋳型124上に存在する溶湯は鋳型124に戻らないのでLDIを与えない。このため、二次候補領域R
c2として取得することで、LDIを与える可能性のある蒸着物のみを選択的に検知することができる。
【0058】
この一次候補領域R
c1または二次候補領域R
c2のうち、一定の面積(以下、この面積を面積閾値と呼ぶ。)を超える面積を有する領域を蒸着物の候補である三次候補領域R
c3として選択する。
図10(E)に示された例では、二つの二次候補領域R
c2のうち小さい方が排除され、大きい方のみが三次候補領域R
c3として選択されている。面積閾値も任意に設定すればよく、例えば溶湯106に対応する面積に対して0.005%以上の範囲(換言すると、差分画像のピクセル数の0.005%以上の範囲)から選択すればよい。これは、上述したように、ハース120や鋳型124内の溶湯106には電子ビームによって熱エネルギーが常時供給されるため、比較的小さい蒸着物は速やかに溶解する可能性が高く、LDIを与える可能性が低いためである。また、窓152に堆積する蒸着物の大きさは、通常落下物と比較すると極めて小さいため、面積閾値以下の二次候補領域R
c2を排除することで、窓152に付着した堆積物を落下物として誤検知することを防止することができる。以上のステップにより、落下物が検知される。なお、サンプラー138などの治具が検知対象フレーム画像に一時的に出現して面積閾値を超える三次候補領域R
c3を与えた場合、後述する誤検知判定処理において落下物と区別される。
【0059】
なお、上述した例では、差分画像IDは背景画像の輝度から検知対象フレーム画像の輝度を減じることで作成されるが、検知対象フレーム画像の輝度から背景画像の輝度を減じて差分画像IDを作成してもよい。この場合には、差分画像ID中の低輝度領域を用いて三次候補領域Rc3を選択すればよい。
【0060】
(4)誤検知判定処理
この段階で選択される三次候補領域Rc3は、実際に落下物に由来する領域だけでなく、落下物とは無関係の領域を数多く含む。これは、上述したように、各フレーム画像において落下物が存在していない領域でも輝度に斑があることが一つの大きな原因である。例えば、溶湯106表面の輝度に斑がある場合、実際には溶湯106であるものの落下物として誤検知される場合がある。また、一時的に出現する治具も落下物であると誤検知することになる。
【0061】
そこで、本製造方法では、誤検知判定処理を行う。具体的には、
図7のフローチャートに示すように、三次候補領域R
c3に対して膨張処理を行う。膨張処理とは、画像処理において汎用される手法の一つであり、ノイズを除去する方法として知られている。三次候補領域R
c3の膨張処理によって生成する領域を膨張領域R
expと呼ぶ。膨張処理のアルゴリズムは任意に選択することができる。例えば、注目するデータポイント(画素)の上下左右(4近傍)に位置するデータポイントに対して膨張処理を行ってもよく、あるいは上下左右と斜め方向(8近傍)に位置するデータポイントに対して膨張処理を行ってもよい。あるいは、注目するピクセルを重心とする楕円や矩形などの特定の形状に含まれるデータポイントを近傍データポイントとして扱い、膨張処理を行ってもよい。さらに、膨張処理は1回でもよく、複数回行ってもよい。
【0062】
次に、膨張処理前の三次候補領域Rc3と膨張領域Rexpのそれぞれについて平均輝度ALRc3とALRexpを算出する。そして、これらの差分、すなわち、平均値ALRexpから平均値ALRc3を減じることで得られる輝度の差分が一定の閾値(以下、この閾値を判定閾値ThDと呼ぶ。)以下である場合には、三次候補領域Rc3は誤検知されたものであり、落下物ではなく溶湯106であると判断する。逆に、この差分が判定閾値ThDを超える場合には、三次候補領域Rc3は落下物であると判断する、または、落下物若しくは溶解炉110に備えられる治具であると判断する。
【0063】
このように、誤検知判定処理を行うことで、より正確に落下物を検知することができる。これは、検知対象フレーム画像において局所的に低輝度な領域が存在すると誤検知が頻発するが、誤検知である場合は、通常、局所的に低輝度な領域の周辺も同程度に低輝度であるため、膨張処理によっても輝度の平均値は大きく変化しない。このため、膨張処理を含む誤検知判定処理を行うことで、局所的に低輝度な領域を落下物として誤検知することを防止することができる。実際、発明者は、誤検知判定処理を行わない場合には、検知された約9千の落下物のほとんどが誤検知であったものの、誤検知判定処理を行った場合には、大多数の誤検知が排除され、検知された数十の落下物の内、誤検知は僅かしか含まれないこと確認している。
【0064】
図11(A)の模式的上面図に示すように、溶解炉110に備えられるサンプラー138などの治具が鋳型124(またはハース120)と一時的に重なると、治具が動画像に含まれることがある。この場合、治具に起因する誤検知を防止するための処理を誤検知判定処理の一環として行ってもよい。治具が動画像に出現する領域は一定であるため、
図11(B)に示すように、点線で表された治具と完全に重なる領域を判定領域R
Jとして設定する。判定領域R
Jの形状は、治具の形状を正確に反映した形状でもよく、あるいは、治具の画像を内接するまたは内包する形状でもよい。例えば、治具の全体と重なる四角形の形状を判定領域R
Jの形状として採用してもよい。さらに、判定領域R
Jの周辺であり、かつ、判定領域R
Jと接する領域を例外領域R
Eとして設定する。例外領域R
Eの形状も任意であり、四角形などの多角形でもよく、あるいは輪郭に曲線を含む形状でもよい。また、例外領域R
Eは判定領域R
Jを囲んでもよく、あるいは、
図11(C)に示すように、判定領域R
Jを挟む複数(例えば、一対)の例外領域R
Eを設けてもよい。溶湯106が流れる方向を考慮し、判定領域R
Jを基準として溶湯106の上流側および/または下流側を含むように例外領域R
Eを設定してもよい。例外領域R
Eの面積も任意に設定することができ、例えば判定領域R
Jの10%以上200%の範囲から選択すればよい。
【0065】
落下物と治具の区別は、各検知対象フレーム画像において、三次候補領域R
c3が判定領域R
Jと例外領域R
Eに重なるか否かによって行われる。三次候補領域R
c3が判定領域R
Jと重ならない状況とは、
図12(A)に示すように、選択された三次候補領域R
c3がサンプラー138などの治具に対応する領域から完全に離れた位置に存在することを意味する。よって、この場合には、三次候補領域R
c3は落下物であると判断する。一方、三次候補領域R
c3が判定領域R
Jと重なり、かつ、例外領域R
Eと重なる状況(
図12(B))とは、三次候補領域R
c3の少なくとも一部が治具に対応する領域以外の領域に存在することを意味する。よって、この場合においても、三次候補領域R
c3は落下物であると判断する。
【0066】
逆に、三次候補領域R
c3が判定領域R
Jと重なり、かつ、例外領域R
Eと重ならない状況とは、三次候補領域R
c3の全てが治具に対応する領域に存在する(
図12(C))ことを意味する。よって、この場合には、3時候補領域R
c3は治具であると判断する。換言すると、治具が一時的に検知されたと判断される。なお、三次候補領域R
c3が治具であると判断される状況には、落下物が存在するものの落下物が治具に完全に隠された状況も含む。しかしながら、検知対象フレーム画像中で治具が占める範囲は限定的であり、このような限定的な領域のみに出現する落下物は速やかに溶解する。また、落下物は溶湯106上で移動するため、移動後には治具と重ならない領域(例外領域R
Eなど)において検知することができる。したがって、仮に幾つかの検知対象フレーム画像において落下物が治具であると誤判断された場合でも、その前後の検知対象フレーム画像において落下物として確実に検知することができる。
【0067】
このように、動画像中に溶解炉110の治具や原料の金属インゴット、それを支持する支持部材などが出現する場合においても、判定領域RJと例外領域REを適宜設定することで、落下物と治具を区別することができ、より正確な落下物検知が可能となる。
【0068】
(5)落下物の追跡
本製造方法では、鋳造工程において全く落下物が検知されない場合には、蒸着物によるLDIの発生が生じていないため、製造されたインゴットを良品として判断することができる(
図3)。一方、落下物が検知された場合、そのフレーム画像がさらに特定される。フレーム画像の特定方法に限定は無く、例えば、一つの動画像に含まれる全てのフレーム画像に対して順にフレーム番号を付与し、落下物が検知されたフレーム画像のフレーム番号を記憶部170に格納すればよい。落下物が検知された場合、音声出力部172から警告音を発してもよく、出力部166を構成する表示装置上にアラートを表示してもよい。さらに、落下物として検知された領域を囲む図形を表示装置上に表示してもよい。治具が検知された場合にも警告音を発してもよく、アラートなどを表示してもよい。これにより、検知された落下物の挙動を速やかに追跡することができるので、落下物がLDIとして金属インゴットに混入したと判断すれば、鋳造を停止し、当該インゴットを不良品として排除することも可能である(
図3)。なお、鋳造終了までの動画像取得を行い、その後、取得した動画像を用いて落下物の有無の判断を行ってもよい。この場合でも、落下物が検知されたフレーム画像は特定されているため、LDIの発生の有無を容易に判断することができる。
【0069】
このように、本製造方法では、落下物が検知されたフレーム画像とそれに引き続く複数のフレーム画像のみを用いて落下物を目視で追跡することで、落下物の挙動を速やかに把握することができる。このため、鋳造の開始から終了まで常時作業員が溶湯106の監視をする必要がない。本製造方法のこの特徴は、作業員の負担軽減に寄与し、人的資源の節約と金属インゴットの製造コストの低減を可能にする。
【0070】
(6)背景画像の更新
鋳造開始後に最初に取得される背景画像は、蒸着物がほとんど発生せず、窓152にも蒸着物がほぼ付着していない状況下で作成される。このため、高輝度で斑のない背景画像を容易に得ることができる。しかしながら、上述したように、鋳造が進むにつれて蒸着物が徐々に窓152に付着するため、フレーム画像の輝度が全体的に低下し、また、窓152上に点在する蒸着物が輝度の低い領域として検知対象フレーム画像に定常的に出現する。このため、背景画像は定期的にまたは随時更新される。背景画像を更新する間隔は任意であり、窓152に付着する蒸着物の量を考慮して決定すればよい。例えば、3分から10分の範囲から選択される時間ごとに背景画像を更新してもよい。
【0071】
図8に背景画像を更新する方法を示すフローチャートを示す。背景画像の更新では、最後に作成された背景画像(以下、先行背景画像と呼ぶ。)によって落下物自動検知処理が行われた検知対象フレーム画像以降の連続する複数のn個のフレーム画像を背景更新用フレーム画像として選択する。ただし、大型の落下物が検知された際、当該落下物に対して一次的に電子ビームを集中的に照射して落下物を溶解させることがあり、この場合には、背景更新用フレーム画像の多くに共通する領域に輝点領域R
EBが発生することがある。このような場合には、異なるフレーム画像(例えば、当該背景更新用フレーム画像前後の複数のフレーム画像)を背景更新用フレーム画像として選択として選択してもよい。
【0072】
選択された複数の背景更新用フレーム画像を用い、上述した背景画像の作成と同様の方法で更新用背景画像を作成する。なお、背景更新用フレーム画像のそれぞれに対しても上述した落下物自動検知処理(すなわち、落下物検知処理と誤検知判定処理)が行われ、落下物の有無が検証される。
【0073】
次に、得られた更新用背景画像が適切であるか否かを判断する。上述したように、輝点REBや落下物に起因する低輝度領域RLLは溶湯106上で常に移動するため、背景画像作成時にフレーム画像のデータポイントの中央値を採用することで、これらの影響を排除することができる。しかしながら、背景更新用フレーム画像に一時的に治具が写り込んでいる場合、治具は比較的長時間一定の場所に存在し得るため、更新用背景画像にも治具に対応する低輝度領域が含まれることがある。このため、先行背景画像を用いて更新用背景画像に対して上記落下物検知処理と誤検知判定処理を行い、治具の有無を判断する。治具が存在しない場合(すなわち、三次候補領域Rc3が判定領域RJと重ならない、または、三次候補領域Rc3が判定領域RJと重なり、かつ、例外領域REと重なる場合)には、更新用背景画像は新たな背景画像として適切であるため、先行背景画像を新たな背景画像で置換する。この新たな背景画像が背景更新用フレーム画像以降の検知対象フレーム画像の落下物検知に用いられる。
【0074】
一方、更新用背景画像中に治具が確認された場合(すなわち、三次候補領域Rc3が判定領域RJと重なり、かつ、例外領域REと重ならない場合)には、この更新用背景画像は新たな背景画像として不適切であるため、落下物検知に用いられない。この場合には、当該更新用背景画像は削除され、異なる背景更新用フレーム画像を用いて更新用背景画像を再作成する。例えば、削除された更新用背景画像の作成で用いられたフレーム画像の前または後に存在する複数のフレーム画像を用いて更新用背景画像を再作成すればよい。
【0075】
窓152に付着する蒸着物は、更新された背景画像内だけでなく、更新用背景画像以降の検知対象フレーム画像にも存在するため、各検知対象フレーム画像と更新された背景画像の輝度差を取得することで、付着した蒸着物に対応する領域は差分画像において低輝度領域として存在する。このため、当該領域を落下物として誤検知することを防止することができる。
【0076】
3.プログラム
本発明の実施形態の一つに係る製造方法は、上述した溶解炉110、およびその制御装置160に搭載されるプログラムによって実施することができる。よって、本発明に係る実施形態の一つは、溶解鋳造法によって金属インゴットを製造するため上記処理の一部または全てを制御装置160に実行させるためのプログラムである。
【0077】
また、このプログラムが記録されたコンピュータ可読記録媒体も本発明に係る実施形態の一つである。コンピュータ可読記録媒体の例としては、ハードディスク、フレキシブルディスク、および磁気テープのような磁気媒体、CD-ROM、DVDのような光媒体、フロプティカルディスク(floptical disk)のような光磁気媒体、およびROM、RAM、フラッシュメモリなどの、当該プログラムを格納して実行するように構成されたハードウェア装置が含まれる。当該プログラムは、コンパイラによって生成される機械語コードだけではなく、インタプリタなどを使用してサーバによって実行される高級言語コードを含む。当該プログラムは、コンピュータ可読媒体から記憶部170にインストールされてもよく、ネットワークから記憶部170にダウンロード可能であってもよい。
【0078】
従来、溶解鋳造法による金属インゴットの製造においては、その製造工程中に亘って鋳型やハースを目視で観察することで蒸着物の有無を確認していた。しかしながら、蒸着物が落下するタイミングや位置、蒸着物の大きさを事前に予想することは不可能である。また、蒸着物の大きさや密度、溶湯の温度によって蒸着物の溶解速度や沈降速度が大きく異なる。このため、目視による検知は作業者の負荷が大きいのみならず、蒸着物を見落とすおそれがあり、より高精度の検知手法が望まれていた。本発明の実施形態の一つに係るシステムと製造方法を適用することで、溶湯やハース内の落下物をより確実に検知することができ、その発生時刻もフレーム番号から瞬時に特定することができる。さらに、蒸着物の挙動は、蒸着物が発生したとき以降の動画像から確認することができるので、金属インゴット中のLDIの存否を速やかに判断することができる。このため、良品の金属インゴットを選択的に提供することが可能である。
【0079】
本発明の実施形態として上述した実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったもの、または工程の追加、省略もしくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0080】
100:システム、104:原料、106:溶湯、108:金属インゴット、110:溶解炉、112:チャンバー、114:ドラムフィーダ、116:排気装置、118:振動フィーダ、120:ハース、122:スカル、124:鋳型、126:流路、128:ダブテール、130:スターティングブロック、134:冷却管、136:流路、138:サンプラー、140:電子銃、142:電子銃、150:撮像装置、150-1:第1の撮像装置、150-2:第2の撮像装置、152:窓、154:ノズル、160:制御装置、162:制御部、164:入力部、166:出力部、168:送受信部、170:記憶部、172:音声出力部、174:入力ポート