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特開2024-115040光ファイバ、医療機器、照明機器、及びプローブ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115040
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】光ファイバ、医療機器、照明機器、及びプローブ
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/02 20060101AFI20240819BHJP
   G02B 6/036 20060101ALI20240819BHJP
   G02B 6/00 20060101ALI20240819BHJP
   A61B 1/07 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
G02B6/02 391
G02B6/036
G02B6/00 331
A61B1/07 732
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020481
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 暁人
(72)【発明者】
【氏名】岡沢 徹
(72)【発明者】
【氏名】梶野 佳範
【テーマコード(参考)】
2H038
2H250
4C161
【Fターム(参考)】
2H038AA51
2H250AA30
2H250AA33
2H250AB35
2H250AB37
2H250AB38
2H250AB43
2H250AB45
2H250AD14
2H250AD15
2H250AD32
2H250AD34
2H250AH24
2H250AH25
2H250AH31
4C161FF46
4C161JJ03
(57)【要約】
【課題】 照射範囲が広く引張強度に優れ、さらに黄色みの少ない白色光を出射することができる光ファイバと、それを用いた医療機器、照明用機器、眼科手術照明用プローブを提供する。
【解決手段】 コアとクラッドを有する光ファイバであって、
525nmにおける透光損失が2,500dB/km以下であり、
下記式で表される降伏点応力係数が40以上であり、
前記コアが、ガラス転移温度Tgが137℃以上147℃以下で、屈折率が1.55以上である重合体1を含む、光ファイバ。
式: 降伏点応力係数 = 降伏点応力(N)/(ファイバ径(mm))
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアとクラッドを有する光ファイバであって、
525nmにおける透光損失が2,500dB/km以下であり、
下記式で表される降伏点応力係数が40以上であり、
前記コアが、ガラス転移温度Tgが137℃以上147℃以下で、屈折率が1.55以上である重合体1を含む、光ファイバ。
式: 降伏点応力係数 = 降伏点応力(N)/(ファイバ径(mm))
【請求項2】
前記重合体1がポリカーボネートである、請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記コアと接するクラッドが重合体2を含み、
前記重合体2の屈折率が、コアの屈折率よりも0.18以上小さい、請求項1または2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記コアと接するクラッドが重合体2を含み、
前記重合体2が、フッ化ビニリデン35重量%以下を共重合成分として含む、請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記重合体2が、
ヘキサフルオロプロピレン10~35重量%
テトラフルオロエチレン45~75重量%
フッ化ビニリデン5~35重量%
パーフルオロアルキルビニルエーテル1~15重量%
を共重合成分として含む、請求項4に記載の光ファイバ。
【請求項6】
前記クラッドが積層構成である、請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項7】
最外層のクラッドが、エチレンを共重合成分として含む重合体3を含む、請求項6に記載の光ファイバ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の光ファイバを有する医療機器。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載の光ファイバを有する照明機器。
【請求項10】
請求項1~7のいずれかに記載の光ファイバを有する眼科手術照明用プローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバとそれを用いた医療機器、照明用機器、眼科手術照明用プローブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
内視鏡手術や眼科手術においては、一般的に、光ファイバの一端から光を入射させ、出射端面から光を照射させて患部を観察する方法がとられている。光の照射角度が大きいほど、患部周辺を広く観察することができるため、開口数の大きい光ファイバが好ましく用いられる。
【0003】
一般に、光ファイバの開口数を大きくするためには、高屈折率のコアと低屈折率のクラッドを組み合わせることが有効である。このようなコアとクラッドの組み合わせとして、例えば、コアにポリカーボネート樹脂やノルボルネン系樹脂を用いた光ファイバが開示されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61-210303号公報
【特許文献2】特開2000-275448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に係る光ファイバは、粘度が低く紡糸温度が低いため、強度が弱く連続紡糸時に糸切れしてしまうなど、生産性の課題があった。
【0006】
また、特許文献2に係る光ファイバは、低波長領域の透光損失が大きく出射光が黄色に着色するため、医療用途での使用に適さない課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、照射範囲が広く引張強度に優れ、さらに黄色みの少ない白色光を出射することができる光ファイバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、以下である。
(1)
コアとクラッドを有する光ファイバであって、
525nmにおける透光損失が2,500dB/km以下であり、
下記式で表される降伏点応力係数が40以上であり、
前記コアが、ガラス転移温度Tgが137℃以上147℃以下で、屈折率が1.55以上である重合体1を含む、光ファイバ。
【0009】
式: 降伏点応力係数 = 降伏点応力(N)/(ファイバ径(mm))
(2)
前記重合体1がポリカーボネートである、前記(1)に記載の光ファイバ。
(3)
前記コアと接するクラッドが重合体2を含み、
前記重合体2の屈折率が、コアの屈折率よりも0.18以上小さい、前記(1)又は(2)2に記載の光ファイバ。
(4)
前記コアと接するクラッドが重合体2を含み、
前記重合体2が、フッ化ビニリデン35重量%以下を共重合成分として含む、前記(1)~(3)のいずれかに記載の光ファイバ。
(5)
前記重合体2が、
ヘキサフルオロプロピレン10~35重量%
テトラフルオロエチレン45~75重量%
フッ化ビニリデン5~35重量%
パーフルオロアルキルビニルエーテル1~15重量%
を共重合成分として含む、前記(1)~(4)のいずれかに記載の光ファイバ。
(6)
前記クラッドが積層構成である、前記(1)~(5)のいずれかに記載の光ファイバ。
(7)
最外層のクラッドが、エチレンを共重合成分として含む重合体3を含む、前記(1)~(6)のいずれかに記載の光ファイバ。
(8)
前記(1)~(7)のいずれかに記載の光ファイバを有する医療機器。
(9)
前記(1)~(7)のいずれかに記載の光ファイバを有する照明機器。
(10)
前記(1)~(7)のいずれかに記載の光ファイバを有する眼科手術照明用プローブ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、照射範囲が広く引張強度に優れ、さらに黄色みの少ない白色光を出射することができる光ファイバを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る光ファイバ、医療機器、照明機器、眼科手術照明用プローブの実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0012】
なお、本発明において「以上」とは、そこに示す数値と同じかまたはそれよりも大きいことを意味する。また、「以下」とは、そこに示す数値と同じかまたはそれよりも小さいことを意味する。
【0013】
本発明の光ファイバは、コアとクラッドを有する。光を通す機能を有するコアとその周囲のクラッドを、求められる特性に応じて組み合わせることにより、光学的特性や機械的特性等を所望の範囲に調整することができる。なお、本発明の光ファイバのコア数は特に限定されるものではなく、1つのコアのみを有する態様であっても、複数のコアとその周囲にクラッドを有する態様であっても、いずれでも構わないが、照射角度を大きくすることができるため、1つのコアのみを有する態様が好ましい。
【0014】
本発明の光ファイバは、525nmにおける透光損失が2,500dB/km以下である。本発明の光ファイバの525nmにおける透光損失は、好ましくは2,100dB/km以下、より好ましくは1,800dB/km以下であることで、黄色みの少ない白色光を出射することができる。525nmにおける透光損失について、小さいほど好ましく下限は特に限定されないが、材料の汎用性やコストの観点から、100dB/km程度が下限と考えられる。
【0015】
コアの透明性により、光ファイバの透光損失を低減することができる。そのためには、例えば、コアとして透明性の高い材料を選択し、コアのガラス転移温度を低減し、メルトフローレートを向上し、紡糸温度を適切に設定することで、透明性が高く透光損失が小さい光ファイバを得ることができる。
【0016】
本発明の光ファイバは、650nmにおける透光損失が1,200dB/km以下が好ましい。1,000dB/km以下、より好ましくは800dB/km以下であることで、光ファイバを長く使用した場合にも強い光を出射することができる。材料の汎用性やコストの観点から、100dB/km以上が好ましい。
【0017】
本発明の光ファイバは、525nmにおける透光損失と650nmにおける透光損失の比(525nmにおける透光損失)/(650nmにおける透光損失)が、3.0以下であると好ましい。3.0以下、より好ましくは2.5以下であることで、黄色みの少ない白色光を出射することができる。
【0018】
ここで、光ファイバの透光損失は、JIS C 6823:2010の第7項に準拠し、例えば、かせ巻きの状態にした光ファイバに、ハロゲンの平行光(入射NA=0.25)を入射し、入射部から10mの位置における光量A(dBm)と入射部から5mの位置における光量B(dBm)を測定し、(B-A)/((10-5)/1000)から、透光損失C(dB/km)を算出することができる。
【0019】
本発明の光ファイバは、下記式で表される降伏点応力係数が40以上である。
【0020】
式: 降伏点応力係数 = 降伏点応力(N)/(ファイバ径(mm))
ここでファイバ径とは、保護層等を除く光ファイバ素線部分の長径を示す。本発明の光ファイバの降伏点応力係数は、好ましくは48以上、より好ましくは56以上であることで、生産性や取り扱い性が向上する。降伏点応力係数は高いほど好ましく、上限は特に限定されないが、現実的に製造可能な範囲でいえば160程度と考えられる。
【0021】
光ファイバの降伏点応力係数は、例えば、コアのガラス転移温度を向上し、メルトフローレートを低減し、さらに製造時に延伸処理を行うことで、光ファイバの降伏点応力係数を向上することができる。
【0022】
ここで、光ファイバの降伏点応力は、サンプル長10cmの光ファイバを、引張試験機を用いて、JIS C 6821:2022の第5項に準拠して測定することができる。
【0023】
光ファイバの開口数(NA)は、0.7以上が好ましい。開口数が0.7以上、より好ましくは0.8以上であれば、例えば内視鏡や眼科手術照明、カテーテルのように、数メートル程度の長い光ファイバであっても、透光損失を抑制し、照射範囲を大きくすることができる。
【0024】
光ファイバの長径は、0.1~2.0mmが好ましい。1.0mm以下、より好ましくは0.5mm以下であると、患部への影響を抑えることができるため、医療用途として好適に用いることができる。ここで、光ファイバの長径は、マイクロメーターを用いて測定することができる。
【0025】
[コア]
(重合体1)
本発明の光ファイバは、コアが重合体1を含む。ここで重合体1とは、ガラス転移温度Tgが137℃以上147℃以下で、屈折率が1.55以上である重合体である。
【0026】
なお、コアが重合体1を含む複数の成分で構成されているために、コアから重合体1を分取する場合には、コアから、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて重合体1を溶出した後、各種測定を行うことができる。
【0027】
重合体1のガラス転移温度Tgは、137℃以上147℃以下であるが、好ましくは137℃以上、より好ましくは140℃以上であることで、650nmにおける透光損失を低減することができる。さらに降伏点応力が高い光ファイバを得ることができる。また重合体1のガラス転移温度Tgは147℃以下であるが、より好ましくは145℃以下であることで、流動性が良化し紡糸温度を低減することができるため、525nmにおける透光損失を低減することができる。
【0028】
本発明におけるガラス転移温度は、JIS K 7121:2012に準拠し、DSC(示差走査熱量計)を用いて、窒素雰囲気下、以下の条件で測定して得られる値である。まず、-40℃から昇温速度10℃/分で昇温し、200℃に到達後5分間保持する。その後、-40℃に下げてから5分間保持した後、再び昇温速度10℃/分で200℃まで昇温する。2回目の昇温過程で得られた熱量の変化点をガラス転移温度とする。示差走査熱量計としては、例えば、Perkin Elmer社製のDiamond DSC等が挙げられる。コアを採取して直接ガラス転移温度を測定することが困難な場合、コアの組成が既知であれば、同組成のコアを作製してガラス転移温度を測定することができる。
【0029】
重合体1は、屈折率が1.55以上である。屈折率が1.55以上であることで、開口数が高い光ファイバを得ることができる。重合体1の屈折率の上限は特に限定されないが、材料の汎用性やコストの観点から、1.65程度が上限と考えられる。
【0030】
本発明における屈折率は、JIS K 7142:2014に準拠し、20mm×8mm×1.4mmの試験片について、室温25℃雰囲気下、アッベ屈折率計を用いて測定することができる。なお、コアを採取して直接屈折率を測定することが困難な場合、採取したコアをプレス成形機により210℃で5分間加熱した後、室温に冷却して、20mm×8mm×1.4mmに成形した試験片を作製し、屈折率を測定することができる。また、コアの組成が既知であれば、既知の組成から同様に試験片を作製し、屈折率を測定することができる。
【0031】
重合体1は、温度300℃、荷重1.2kgの条件におけるメルトフローレート(以下、MFRと略記することがある。)が、70g/10分以上160g/10分以下が好ましい。メルトフローレートの下限について、より好ましくは100g/10分以上とすることで、流動性が向上し紡糸温度を低減することができるため、525nmにおける透光損失を低減することができる。またメルトフローレートの上限について、より好ましくは145g/10分以下とすることで、降伏点応力が高い光ファイバを得ることができる。
【0032】
重合体1としては、例えば、芳香族環やシクロアルキル基などの環状構造や、原子屈折の大きい構造を有することが好ましく、例えば、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリスチレン、ポリカーボネート、フルオレン含有ポリエステル、ポリメチルペンテン等が好ましい。これらの中でも、高い屈折率とガラス転移点を両立できることから、重合体1としてはポリカーボネートが特に好ましい。
【0033】
コアには、さらに酸化防止剤などの安定剤やその他添加剤を、透光性に影響しない範囲で少量含有してもよい。
【0034】
前述のとおり、コアは重合体1を含むが、その含有量は特に限定されないものの、コアは重合体1から実質的になること、つまりコア100重量%中に重合体1が95~100重量%、より好ましくは99~100重量%、さらに好ましくは100重量%含まれることが好ましい。
【0035】
[クラッド]
本発明の光ファイバは、クラッドを有する。
【0036】
(重合体2)
本発明の光ファイバは、コアと接するクラッドが、重合体2を含むことが好ましい。ここで重合体2とは、コアと接するクラッド中で最も含有量(重量基準)の多い重合体である。
【0037】
そして重合体2は、屈折率がコアの屈折率よりも0.18以上小さい重合体であることが好ましい。重合体2の屈折率は、コアの屈折率よりも0.18以上小さい事が好ましいが、より好ましくは0.20以上小さいことであり、これにより開口数が高い光ファイバを得ることができる。なお、重合体2とコアの屈折率の絶対値としては、1.40以下が好ましく、1.38以下がより好ましい。
【0038】
なお、クラッドが重合体2を含む複数の成分で構成されているために、クラッドから重合体2を分取する場合には、クラッドから、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて重合体2を溶出した後、各種測定を行うことができる。
【0039】
ここで、クラッドや重合体2の屈折率は、コアの屈折率と同様に測定することができる。なお、クラッドや重合体2を採取して直接屈折率を測定することが困難な場合、採取したクラッドをプレス成形機により210℃で5分間加熱した後、室温に冷却して、20mm×8mm×1.4mmに成形した試験片を作製し、屈折率を測定することができる。また、クラッドの組成が既知であれば、既知の組成から同様に試験片を作製し、屈折率を測定することができる。
【0040】
重合体2としては、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体や、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などのフッ素含有ポリマーが好ましい。重合体2としてフッ素含有ポリマーを用いることにより、コアと接するクラッドの柔軟性を向上させることができる。重合体2としては、これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、重合体2は、共重合成分としてフッ化ビニリデンを35重量%以下含むことが好ましい。重合体2が、共重合成分としてフッ化ビニリデンを35重量%以下含むことで、コアと接するクラッドの屈折率が低下し、開口数が高い光ファイバを得ることができる。さらにコアと接するクラッドの透明性が向上することで透光性に優れる光ファイバを得ることができる。
【0041】
さらに重合体2は、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、パーフルオロアルキルビニルエーテルを共重合成分として含む共重合体が好ましく、共重合成分中、ヘキサフルオロプロピレンを10重量%以上35重量%以下、好ましくは30重量%以下、テトラフルオロエチレンを45重量%以上75重量%以下、フッ化ビニリデンを5重量%以上35重量%以下、好ましくは10重量%以上35重量%以下、パーフルオロアルキルビニルエーテルを1重量%以上15重量%以下、好ましくは10重量%以下を含むことが好ましい。かかる共重合体を重合体2として用いることにより、透光性が高く、屈折率が低く、柔軟性により優れる光ファイバを得ることができる。
【0042】
重合体2の共重合成分であるパーフルオロアルキルビニルエーテルは、直鎖構造、分岐構造および/または環状構造のパーフルオロアルキル基を有することが好ましい。パーフルオロアルキルビニルエーテルとしては、例えば、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)、パーフルオロ(ヘキシルビニルエーテル)、パーフルオロ(オクチルビニルエーテル)などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)が好ましい。
【0043】
重合体2の、温度265℃、荷重5kgの条件におけるMFRは、10g/10分以上60g/10分以下が好ましい。
【0044】
前述のとおり、コアと接するクラッドは重合体2を含むことが好ましいが、その含有量は特に限定されないものの、コアと接するクラッドは重合体2から実質的になること、つまりコアと接するクラッド100重量%中に重合体2が95~100重量%、より好ましくは99~100重量%、さらに好ましくは100重量%含まれることが好ましい。
【0045】
コアと接するクラッドの厚みは特に限定されないが、2~20μmが好ましい。
【0046】
ここで、コアと接するクラッドの厚みは、プラスチック光ファイバから無作為に選択した5箇所について、長手方向に対し垂直に切断し、コア/クラッドの界面が観察できるように断面を研磨した後、デジタルマイクロスコープVHX-7000(Keyence製)を用いて、断面を拡大観察することにより測定することができる。拡大観察の倍率は、10~200倍の間で、断面が全て視野範囲に入り、界面が観察できる範囲を選択する。断面において、コアと接するクラッドの最も薄い部分の厚みを測定し、コアと接するクラッドの厚みとする。5断面についてそれぞれコアと接するクラッドの厚みを測定し、その平均値をコアと接するクラッドの厚みとする。
【0047】
(重合体3)
本発明の光ファイバは、コアの周囲にクラッドを有するが、そのクラッドの積層数は特に限定されないものの、積層構成のクラッドを有することが好ましい。クラッドを積層構成とすることで、ファイバの降伏点応力を向上することができる。この場合、コアと接するクラッドを低屈折率の材料で形成することが好ましく、光ファイバから照射される光の照射範囲を広くすることができ、内視鏡や眼科手術照明、カテーテルなどの医療機器部材に好適に用いることができる。
【0048】
積層構成のクラッドを有する場合、最外層のクラッドがエチレンを共重合成分として含む重合体3を含むことが好ましい。重合体3がエチレンを共重合成分として含むことにより、最外層のクラッドの可撓性を維持しながら、耐傷性を向上させ、さらに光ファイバの降伏点応力を向上することができる。重合体3としては、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(共重合成分として、エチレン、テトラフルオロエチレン、及びヘキサフルオロプロピレンを含む重合体)がより好ましい。重合体3としてエチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体を用いる場合、共重合成分中、エチレンを10~35重量%、テトラフルオロエチレンを45~69重量%、ヘキサフルオロプロピレンを20~45重量%含むことが好ましい。最外層のクラッド中の重合体3において、重合体3の共重合成分であるエチレンが10重量%以上の場合、成形安定性が向上する。35重量%以下の場合、結晶性を低くでき、透明性が向上する。重合体3の共重合成分であるエチレンの割合は11~30重量%が好ましい。重合体3の共重合成分であるテトラフルオロエチレンが45重量%以上の場合、成形安定性が向上する。69重量%以下の場合、結晶性を低くでき、透明性が向上する。重合体3の共重合成分であるヘキサフルオロプロピレンが20重量%以上の場合、柔軟性が向上し、曲げ状態における透光損失をより小さくすることができる。45重量%以下の場合、粘着性が低下し、被覆層を被覆するときの加工性が向上する。
【0049】
重合体3は、さらにカルボニル基含有官能基を有することが好ましく、これを有することで耐溶剤性を向上させることができる。重合体3は、ポリマー鎖末端にカルボニル基含有官能基を有してもよいし、側鎖にカルボニル基含有官能基を有してもよい。
【0050】
カルボニル基含有官能基としては、例えば、-OC(=O)O-の結合を有するカーボネート基、-COY[Yはハロゲン元素]の構造を有するカルボン酸ハライド基などが挙げられる。これらの中でも、カーボネート基が好ましい。また、カルボニル含有官能基はフッ素を有することが好ましく、含フッ素カーボネート基(-RF-O-C(=O)-RF’-)、カルボン酸フルオライド基(-C(=O)F)が好ましい。ここで、RFやRF’はフッ素を有する基、例えばフッ化アルキル基やフッ化ビニリデン基などを表す。
【0051】
また、重合体3は、下記一般式(1)で示されるフルオロビニル化合物を共重合成分として含むことが好ましい。
CH=CX(CF)nX (1)
上記一般式(1)中、Xはフッ素原子または水素原子を示し、Xはフッ素原子または水素原子を示し、nは1~10の整数である。
【0052】
上記式(1)で表されるフルオロビニル化合物としては、例えば、CH=CF(CFH、CH=CH(CFH、CH=CF(CFH、CH=CH(CFH、CH=CF(CFCH、CH=CF(CF、CH=CH(CFFなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、下記構造式(2)で表される、パーフルオロ(1,1,5-トリハイドロ-1-ペンテン)が好ましく、プラスチック光ファイバの生産性、コスト、環境性および伝送特性において優れている。
【0053】
CH=CF(CFH (2)
最外層のクラッドは、重合体3を含むことが好ましいが、その含有量は特に限定されないものの、最外層のクラッドが重合体3から実質的になること、つまり最外層のクラッド100重量%中に重合体3が95~100重量%、より好ましくは99~100重量%、さらに好ましくは100重量%含まれることが好ましい。
【0054】

重合体3の融点は、150~200℃が好ましい。また、重合体3の屈折率は、1.37~1.41が好ましい。
【0055】
最外層のクラッドの厚みは、2~20μmが好ましい。
【0056】
[製造方法・用途]
光ファイバの製造方法としては、例えば、コアと積層構成(2層)のクラッドを有する場合、コアとクラッドとを、加熱溶融状態下、同心円状複合用の複合口金から吐出してコア/コアと接するクラッド/最外層のクラッドの3層芯鞘構造を形成する複合紡糸法が好ましく用いられる。紡糸温度は、高すぎると光ファイバが着色し、低すぎると糸斑が発生し、いずれも透光損失を悪化させる原因となるため、適切な温度条件を設定する必要がある。続いて、延伸処理を行うことが一般的である。1.2倍以上の延伸処理を行うことで、高分子が配向し降伏点応力が大きい光ファイバを得ることが出来るため好ましく、3倍以下の延伸処理を行うことで、高分子の配向を抑え透光損失が小さい光ファイバを得ることができるため好ましい。
【0057】
本発明の光ファイバは、医療機器、照明機器、眼科手術照明用プローブに好適に用いることができる。つまり本発明の医療機器は本発明の光ファイバを有する医療機器であり、本発明の照明機器は本発明の光ファイバを有する照明機器であり、本発明の眼科手術照明用プローブは本発明の光ファイバを有する眼科手術照明用プローブである。医療機器としては、内視鏡、眼科手術、腹腔鏡手術、カテーテル等をあげることができる。照明機器としては、前述の医療機器と組み合わせて当該医療機器中に本発明の光ファイバを照明として用いることができる。
【実施例0058】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
クラッド組成比(重量%):各実施例および比較例に用いたクラッドについて、固体19F-NMR(Bruker社製AVANCE NEO 400)とFT-IR(Bio-RadDigilab製FT-IR)を用いて組成比(重量%)を求めた。
【0060】
コアとクラッド(重合体2)の屈折率(-):各実施例および比較例において用いたコアとクラッド(重合体2)からそれぞれ20mm×8mm×1.4mmの試験片を作製し、アッベ屈折率計を用いて、室温25℃雰囲気下、屈折率を測定した。
【0061】
光ファイバの長径(μm):各実施例および比較例において得られた光ファイバについて、マイクロメーターを用いて光ファイバの直径を測定した。
【0062】
光ファイバの理論開口数(-):前述の方法により測定した屈折率から、下記式により開口数を算出した。
【0063】
開口数=((コアの屈折率)-(コアと接するクラッドの屈折率)1/2
【0064】
光ファイバの透光損失(dB/km):各実施例および比較例により得られた、かせ巻きの状態の光ファイバについて、ハロゲンの平行光(波長525nmおよび650nm、入射NA=0.25)を入射し、入射部から10mの位置における光量A(dBm)と入射部から5mの位置における光量B(dBm)を測定し、(B-A)/((10-5)/1000)から、透光損失C(dB/km)を求めた。
【0065】
降伏点応力(N):各実施例および比較例において得られた光ファイバについて、10cmにサンプリングし、卓上形精密万能試験機(オートグラフAGS-10kNX、(株)島津製作所製)を用いて測定した。
【0066】
降伏点応力係数(N/mm):前述の方法により測定した降伏点応力および光ファイバの長径から、下記式により降伏点応力係数を算出した。
【0067】
式: 降伏点応力係数 = 降伏点応力(N)/(ファイバ径(mm))
各実施例および比較例に用いた材料を以下に示す。
【0068】
コアA:ポリカーボネート(商品名「HL8002」、三菱エンジニアリングプラスチック(株)製)、Tg:141℃、MFR:141g/10分
コアB:ポリカーボネート(商品名「HL7001」、三菱エンジニアリングプラスチック(株)製)、Tg:143℃、MFR:113g/10分
コアC:ポリカーボネート(商品名「LC1202」、出光興産(株)製)、Tg:135℃、MFR:150g/10分
コアD:ポリカーボネート(商品名「TX0301」、住化ポリカーボネート(株)製)、Tg:149℃、MFR:29g/10分
クラッドA:フッ化ビニリデン74.5重量%/テトラフルオロエチレン25.5重量%の共重合体
クラッドB:フッ化ビニリデン40重量%/テトラフルオロエチレン40重量%/ヘキサフルオロプロピレン20重量%の共重合体
クラッドC:フッ化ビニリデン20重量%/テトラフルオロエチレン60重量%/ヘキサフルオロプロピレン20重量%の共重合体
クラッドD:フッ化ビニリデン18重量%/テトラフルオロエチレン62重量%/ヘキサフルオロプロピレン16重量%/パーフルオロプロピルビニルエーテル4重量%の共重合体
クラッドE:エチレン20重量%/テトラフルオロエチレン55重量%/ヘキサフルオロプロピレン25重量%
[実施例1]
前記コアA、コアに接するクラッドとしてクラッドAを複合紡糸機に供給し、温度245℃にてコア、クラッドを芯鞘複合溶融紡糸し、ファイバ径250μm(コア径:246μm、クラッド厚み:4μm)、理論開口数0.71の光ファイバを得た。得られた光ファイバについて、前述の方法により評価した結果を表1に示す。
【0069】
[実施例2]
コアをBに変更した以外は、実施例1と同様の方法で光ファイバを作製し、前述の方法により評価した結果を表1に示す。
【0070】
[実施例3]
クラッドをBに変更した以外は、実施例1と同様の方法で光ファイバを作製し、前述の方法により評価した結果を表1に示す。クラッドBの屈折率が、コアの屈折率よりも0.18以上小さいため、開口数が高く良好であった。
【0071】
[実施例4]
クラッドをCに変更した以外は、実施例1と同様の方法で光ファイバを作製し、前述の方法により評価した結果を表1に示す。クラッドCが、フッ化ビニリデン35重量%以下を共重合成分として含むため、透光性が良好であった。
【0072】
[実施例5]
クラッドをDに変更した以外は、実施例1と同様の方法で光ファイバを作製し、前述の方法により評価した結果を表1に示す。クラッドDが、ヘキサフルオロプロピレン10~35重量%、テトラフルオロエチレン45~75重量%、フッ化ビニリデン5~35重量%、パーフルオロアルキルビニルエーテル1~15重量%を共重合成分として含むため、透光性がより良好であった。
【0073】
[実施例6]
前記コアA、コアと接するクラッドとしてクラッドDおよび最外層のクラッドとしてクラッドAを複合紡糸機に共有し、温度245℃にてコア、クラッドを芯鞘複合溶融紡糸し、ファイバ径250μm(コア径:242μm、コアと接するクラッド厚み:4μm、最外層クラッド厚み:4μm)の光ファイバを得た。得られた光ファイバについて、前述の方法により評価した結果を表1に示す。クラッドが積層構成であるため、降伏点応力係数が高く良好であった。
【0074】
[実施例7]
最外層のクラッドをEに変更した以外は、実施例6と同様の方法で光ファイバを作製し、前述の方法により評価した結果を表1に示す。クラッドEがエチレンを共重合成分として含むため、降伏点応力係数がより良好であった。
【0075】
[実施例8~12]
コアとクラッドを表1に記載のとおりに変更した以外は、実施例6と同様の方法で光ファイバを作製し、前述の方法により評価した結果を表1に示す。
【0076】
[比較例1]
コアをCに変更した以外は、実施例1と同様の方法で光ファイバを作製し、前述の方法により評価した結果を表1に示す。コアCのTgが137℃未満であり、降伏点応力係数が40未満であるため、連続紡糸が困難であった。
【0077】
[比較例2]
コアをDに変更した以外は、実施例1と同様の方法で光ファイバを作製し、前述の方法により評価した結果を表1に示す(525nmにおける透光損失は、光量が小さく測定不可であった)。コアDのTgが147℃より大きいため、透光性が不良であった。
【0078】
[比較例3]
コアをDに変更し、紡糸温度を260℃に変更した以外は実施例1と同様の方法で光ファイバを作製し、前述の方法により評価した結果を表1に示す。コアDのTgが147℃より大きく、紡糸温度が高いため、525nmにおける透光性が不良であり出射光が黄色みを帯びていた。
【0079】
【表1】
【0080】
表中「屈折率差」とは、クラッドの屈折率とコアの屈折率の差を意味する。