(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115041
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】自着性繊維構造体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/48 20120101AFI20240819BHJP
D04H 1/46 20120101ALI20240819BHJP
D04H 1/50 20120101ALI20240819BHJP
D04H 1/435 20120101ALI20240819BHJP
D04H 1/4382 20120101ALI20240819BHJP
D04H 1/4391 20120101ALI20240819BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
D04H1/48
D04H1/46
D04H1/50
D04H1/435
D04H1/4382
D04H1/4391
D01F8/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020482
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】新宅 知徳
【テーマコード(参考)】
4L041
4L047
【Fターム(参考)】
4L041AA07
4L041BA02
4L041BA05
4L041BA09
4L041BD11
4L041CA06
4L041CA11
4L041DD04
4L041EE20
4L047AA21
4L047AA27
4L047AB02
4L047AB09
4L047BA03
4L047BA04
4L047BA05
4L047BA24
(57)【要約】
【課題】優れた自着性を有する繊維構造体を簡便に、低コストで製造する方法を提供する。
【解決手段】
自着性を有する帯状の繊維構造体であって、繊維構造体同士を重ね合わせて100g/m2の圧力を3秒間かけた時に自重で剥がれないことを特徴とする繊維構造体、および、180℃の温度における無荷重熱処理時の発現捲縮数が50コ/25mm以上の潜在倦縮繊維の短繊維をスライバーとし、ニードルパンチ加工または/およびウォータージェット加工を行うことを特徴とする前記繊維構造体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自着性を有する帯状の繊維構造体であって、繊維構造体同士重ね合わせて100g/m2の圧力を3秒間かけた時に自重で剥がれないことを特徴とする繊維構造体。
【請求項2】
180℃の温度における無荷重熱処理時の発現捲縮数が50コ/25mm以上の潜在倦縮繊維の短繊維をスライバーとし、ニードルパンチ加工または/およびウォータージェット加工を行うことを特徴とする請求項1に記載の繊維構造体の製造方法。
【請求項3】
潜在捲縮短繊維が、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン2~7モル%とイソフタル酸5~13モル%とを共重合した共重合ポリエチレンテレフタレート(A)と、ポリエチレンテレフタレート(B)とが、サイドバイサイドに接合されてなる複合繊維であって、前記共重合ポリエチレンテレフタレート(A)と前記ポリエチレンテレフタレート(B)の固有粘度差が0.03~0.08の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の繊維構造体の製造方法。
【請求項4】
熱処理により倦縮を発現させる工程を有することを特徴とする、請求項2または3に記載の繊維構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自着性を有する繊維構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維構造体に関して、その用途に対して必要な物性や特性をもった繊維を用いて達成せんとするものが過去多数提案されてきた。そのなかで、医療・スポーツ等の分野における、四肢や患部などの適用部位を圧迫、固定、保護することを目的とした各種の包帯やサポーターなどのテープ類等の用途として、自着性のある繊維構造体もしくは繊維製品を得る為に多数の提案がなされている。
【0003】
例えば、潜在倦縮繊維を使用した繊維構造体として、特許文献1には、熱収縮率の異なる複数の樹脂が相構造を形成した複合繊維を含む不織布であって、熱収縮率の異なる複数の樹脂が相構造を形成した複合繊維を含む繊維をウェブ化する工程と、繊維ウェブを高温水蒸気で加熱して平均曲率半径20~200μmに捲縮する工程とを含む製造方法によって得られ、前記複合繊維が、面方向に対して略平行に配向され、かつ平均曲率半径20~200μmで厚さ方向において略均一に捲縮している不織布が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、カチオン可染ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む少なくとも2成分から構成され、該カチオン可染ポリエチレンテレフタレート樹脂が共重合成分として式(I)で表される化合物と、シクロヘキサンジカルボン酸及び/又はそのエステル形成誘導体を含み、平均曲率半径が50~200μmである捲縮繊維を80質量%以上含む不織布からなり伸縮自着性不織布が提案されている。自着性製品に意匠性を持たせるために染色性を有するカチオン可染ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む繊維を使用する提案である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2008/015972
【特許文献2】特開2014-037649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、高水温の蒸気を使用することなど特異的な工程が必要であり、製造ラインを構築する時に難度が高く、導入するコスト的にも不利なものであった。また、特許文献2に記載の技術は、潜在捲縮を有する繊維を使用したものであるが、特許文献1と同様に水蒸気噴射が必要であり、製造ラインを構築する時に難度が高く、導入するコスト的にも不利なものであった。
【0007】
本発明は、従来技術の課題を克服し、優れた自着性を有する繊維構造体を簡便に、低コストで製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、優れた自着性を有する繊維構造体を得るものであり、目的を達成するため、以下の構成を採用する。
【0009】
自着性を有する帯状の繊維構造体であって、繊維構造体同士重ね合わせて100g/m2の圧力を3秒間かけた時に自重で剥がれないことを特徴とする繊維構造体。
【0010】
また、180℃の温度における無荷重熱処理時の発現捲縮数が50コ/25mm以上の潜在倦縮繊維の短繊維をスライバーとし、ニードルパンチ加工または/およびウォータージェット加工を行うことを特徴とする前記繊維構造体の製造方法。
【0011】
繊維構造体の製造方法においては、以下の態様が好ましい。すなわち、潜在捲縮短繊維が、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン2~7モル%とイソフタル酸5~13モル%とを共重合した共重合ポリエチレンテレフタレート(A)と、ポリエチレンテレフタレート(B)とが、サイドバイサイドに接合されてなる複合繊維であって、前記共重合ポリエチレンテレフタレート(A)と前記ポリエチレンテレフタレート(B)の固有粘度差が0.03~0.08の範囲であること、さらに、熱処理により倦縮を発現させる工程を有すること。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、優れた自着性のある繊維構造体の簡便な、低コストでの製造および提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の製造方法の前工程の模式図であり、原綿をスライバーにする工程の模式図である。
【
図2】本発明の製造方法の後工程の模式図であり、繊維を絡め、熱処理、ワインディングする工程の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明における繊維構造体は、自着性を有する帯状の繊維構造体であって、繊維構造体同士を重ね合わせて100g/m2の圧力を3秒間かけた時に自重で剥がれない繊維構造体である。上記の特性を有するものとするために、本発明における繊維構造体は、以下の潜在倦縮繊維を用いてなることが好ましい。繊維構造体の好ましい形態としては、表面に毛羽状の形態を有する不織布が挙げられる。さらに、表面の毛羽形状が曲線的であることが、自着性のある繊維構造体を得るために好ましく、かつ繊維構造体表面に毛羽が略平行的に配列されることで、優れた自着性を発揮するものである。そのため繊維構造体を構成する繊維が潜在捲縮繊維であることが好ましいのである。
【0016】
なお、本発明における帯状とは、特に数値的に規定されるものではないが、例えば、幅10cm程度で、長さ1m以上あるような形状ものを言う。また、本発明において自着性とは、接着剤や粘着剤を必要とせずに、自己につく(自己どうしがひっつく)性質を保有することであり、繊維構造体同士を重ね合わせて100g/m2の圧力を3秒間かけた時に自重で剥がれないかどうかは実施例の欄に記載の測定方法で判断する。
【0017】
繊維構造体を構成する主たる繊維は潜在倦縮繊維であり、潜在倦縮性を有する繊維であれば特に限定されないが、熱収縮率や粘度の異なる2種のポリマーが偏心芯鞘構造となったもの、もしくはサイドバイサイドに接合されてなる複合繊維が好ましい。ポリマーとしては熱可塑性ポリマーが用いられるが、なかでもポリエステルが好ましい。
【0018】
本発明において、潜在倦縮繊維としては、具体的には、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン2~7モル%とイソフタル酸(以下、IPAを略すことがある。)5~13モル%を共重合した共重合ポリエチレンテレフタレート(A)と、ポリエチレンテレフタレート(B)とが、サイドバイサイドに接合されてなる複合繊維であって、前記共重合ポリエチレンテレフタレート(A)と前記ポリエチレンテレフタレート(B)の固有粘度差が0.03~0.08の範囲にあり、180℃の温度における無荷重熱処理時の発現捲縮数が50コ/25mm以上であり、単繊維繊度が1.0~14.0dtexである潜在捲縮性ポリエステル複合繊維の短繊維が用いられることが好ましい。
【0019】
本発明で用いられる共重合ポリエチレンテレフタレート(A)は、エチレンテレフタレート単位を主たる構成成分とする共重合ポリエチレンテレフタレートであり、共重合成分として2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンまたはそのエステル形成誘導体(以下、エステル形成誘導体も含めてBHPPと略すことがある。)とIPAとを用いて改質された共重合ポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。ここで言うエチレンテレフタレート単位とは、テレフタル酸とエチレングリコールの一等量同士が脱水縮合反応したものである。
【0020】
本発明においては、共重合ポリエチレンテレフタレート(A)中のBHPPの共重合割合は、2~7モル%とすることが好ましく、中でも共重合割合を4~6モル%とすることがより好ましい。
【0021】
BHPPの共重合割合を2モル%~7モル%とすることで、本発明に最適な捲縮発現が得られ、繊維構造体とした場合、十分な空隙やクッション性が得られる繊維構造体を作製するのに好適な繊維が得られる。また、本発明においては、共重合ポリエチレンテレフタレート(A)中のIPAの共重合割合は、5~13モル%とすることが好ましく、中でも共重合割合を7~11モル%とすることが好ましい。IPAの共重合割合を5~13モル%とすることで、実施的に大きさが十分な倦縮が得られポリマーの融点も大きく低下することがなく熱安定性も確保できる。
【0022】
本発明で用いられるポリエチレンテレフタレート(B)は、共重合成分としてのBHPPが0.5モル%未満であり、IPAが1モル%未満のポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。ポリエチレンテレフタレート(B)は、上記のとおり、BHPPを0.5モル%未満共重合することができるが、その共重合割合は好ましくは0.25モル%未満であり、最も好ましくはゼロ(0)モル%である。
【0023】
また、ポリエチレンテレフタレート(B)は、上記のとおり、IPAを1モル%未満共重合することができるが、その共重合割合は好ましくは0.5モル%未満であり、最も好ましくはゼロ(0)モル%である。
【0024】
本発明で用いられるポリエチレンテレフタレート(B)において、BHPPとIPAの共重合割合が多くなると、本発明で用いられるポリエチレンテレフタレート(B)において、BHPPとIPAの共重合割合を0~0.5モル%とすることで、共重合ポリエチレンテレフタレート(A)との間で十分な熱収縮差を有するものとなり、十分な発現倦縮数が得られるものである。
【0025】
繊維に潜在倦縮性を付与するため、共重合ポリエチレンテレフタレート(A)とポリエチレンテレフタレート(B)の固有粘度に差があることが必要であり、固有粘度差は0.03~0.08の範囲であることが好ましい。この範囲であれば180℃の温度における無荷重熱処理時の発現捲縮数が50コ/25mm以上のものが得られる。
【0026】
本発明における潜在倦縮繊維は、共重合ポリエチレンテレフタレート(A)とポリエチレンテレフタレート(B)とが、サイドバイサイドに接合されてなる複合繊維であることが好ましいが、共重合ポリエチレンテレフタレート(A)とポリエチレンテレフタレート(B)との複合比率は、質量比率でA:B=30~70:70~30の範囲が好ましく用いられる。この範囲内であれば180℃の温度における無荷重熱処理時の発現捲縮数が50コ/25mm以上のものが得られる。
【0027】
本発明における潜在倦縮繊維は、180℃の温度における無荷重熱処理時の発現捲縮数が50コ/25mm以上であることが必要である。50コ/25mm未満であると倦縮が不足し、繊維構造体となったときに立体的な捲縮が得られなくあり自着性を得られない。発現捲縮数の上限は特にないが、捲縮があまりに多く発現すると空隙がつぶれて繊維構造体に十分な空隙を付与することができない可能性があるため、90コ/25mm未満であることが好ましい。発現捲縮数は、共重合ポリエチレンテレフタレート(A)やポリエチレンテレフタレート(B)の組成、固有粘度差や複合比率等により調整が可能である。
【0028】
本発明における潜在倦縮繊維の単繊維繊度は、好ましくは1.0~14.0dtex、さらに好ましくは1.0~6.0dtex、よりさらに好ましくは1.0~2.0dtexであることが、自着性、風合いなど使用感の点から好ましい。
【0029】
本発明における潜在倦縮繊維は短繊維であり、好ましくは10mm以上、さらに好ましくは30~100mmの繊維長を有するものが選択される。
【0030】
本発明における潜在倦縮繊維の断面形態は、丸型、Y型、T型、扁平、楕円、だるま型など各種の形態のものを使用することができ、中実、中空のいずれも使用できる。
【0031】
本発明における潜在倦縮繊維は、このほか必要に応じてその他の重合体成分、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料のほか、各種の抗酸化剤、着色防止剤、耐光剤、帯電防止剤等を、本来の機能を喪失しないかぎり、複合や混合などにより添加することができる。
【0032】
本発明の繊維構造体は自着性を有するものであり、繊維構造体表面の短繊維に捲縮が発現した繊維構造体とする必要がある
次に、本発明の繊維構造体の製造方法について説明する。
図1に前工程、
図2に後工程の概略を模式的に示す。
【0033】
自着性のある繊維構造体に用いられる繊維は、表面に毛羽を有する必要があるため繊維形態は短繊維であることが最も好ましい。繊維長は特に限定しないが、繊維長は30~150mm程度が好ましく、さらに好ましくは38~51mmの範囲が最も好ましい。
まず、上述した潜在倦縮繊維を公知の方法で製造し、この段階でカード通過性を保持するために機械捲縮を付与し短繊維とした後、この短繊維をスライバーとする。スライバーとする製法は特に限定されないが、具体的には、潜在倦縮繊維の短繊維をオープナーで粗く開繊し、カード機にかけて更に開繊しスライバーとする製法があげられ、これは通常紡績工程で用いられる装置で得ることができる。
【0034】
スライバーの太さは、特に規定されるものではないが、およそ1~10g/m程度であることが好ましい。
【0035】
また、必要に応じて、カード機から得たスライバーを集めて、紡績工程で用いられる練条(Drawing)を実施して長手方向の繊維の平行度を向上させてもよいし、スライバーに軽い撚り(5ターン/m程度)をかけてもよい。
【0036】
通常、ウェブに行う繊維同士の交絡のための加工として、ニードルパンチ加工、スパンレース加工、ウォータージェット加工などがあげられるが、本発明の製造方法は、スライバーに対してニードルパンチ加工とウォータージェット加工のどちらか1つ、もしくは2つの加工を行う製造方法である。ニードルパンチ加工では、スライバーにニードル加工することにより、一部の繊維を適度にスライバーの厚み方向に配列、交絡させたうえ帯状化させる作用がある。ウォータージェット加工でも前述と同じ効果を得られるほか、水流で繊維を交絡させるため、スライバー全体の繊維をからみこませることも可能であり優位な加工方法である。
【0037】
本発明において、ニードルパンチ加工とウォータージェット加工との順序およびどちらを採用するかは特に限定されないが、ニードルパンチ加工後にウォータージェット加工を行うことが好ましい。ニードルパンチ加工後にウォータージェット加工を行うことで、より繊維配列がスライバーの厚み方向に配列され易くなるため好ましい。
【0038】
ニードルパンチ加工としては、その条件は繊維構造体の目付により適宜選択できるが、ロッド数(ニードルの打ち込み条件)が40本/cm2~200本/cm2の範囲が好ましく用いられる条件である。打ち込み数は繊維構造体の目付や使用繊維の繊度により適宜調整選択できる。
【0039】
また、ウォータージェット加工としては、その条件は繊維構造体の目付や繊維の繊度により適宜選択できるが、水圧は30~130barが好ましい。スライバーの片面からだけでなく、両面から加工することもできる。
【0040】
本発明の製造方法では、熱処理により倦縮を発現させる工程を有することが好ましい。帯状化した後、熱処理を行うことによって倦縮を発現させ、繊維構造体中に曲線的な空隙を発現させることができ、優れた自着性を有する繊維構造体となる。熱処理としては、潜在倦縮繊維を構成するポリマーの組成等にもよるが、150℃から200℃で処理時間は1~3分程度が最も好ましい。
【0041】
本発明において、繊維構造体の目付(密度)は、特に規定されるものではないが、目付は50~300g/m2とすることが好ましい。
【0042】
また、本発明の繊維構造体は180℃の温度における無荷重熱処理時の発現捲縮数が50コ/25mm以上の潜在倦縮繊維の短繊維のみからなることが好ましいが、その他に繊維構造体に吸水性などを持たせるためにレーヨンやコットンといった繊維を10重量%~30重量%の範囲で混合することも、本来の性能が失われない範囲で可能である。ただし、潜在倦縮性を持たない繊維をあまり多く混合すると、繊維構造体表面における潜在捲縮繊維の存在が十分でなくなり、必要とする自着性が得られない場合が生じる可能性があり、留意する必要がある。
【0043】
これまで述べたとおり、本発明の製造方法によって製造された繊維構造体は、潜在捲縮繊維がニードルパンチ加工またはおよびウォータージェット加工によって交絡された状態で熱処理により捲縮発現されることにより、自着性のある繊維構造体をより容易・簡便に製造し、提供せんとするものである。
【0044】
本発明にて製造された繊維構造体は、自着性を必要とする、もしくは自着性があると好ましい用途、主に包帯やサポーターといったものの基材に好適に用いられるほか、果実・野菜などの保護材、樹木など植物の保護材、また壊れやすい荷物を運搬する時の緩衝材、保護材といった用途にも使用することができる。
【実施例0045】
以下、本発明を実施例で詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、繊維構造体としては以下のとおり不織布を作製し、実施例中の各特性値等は、以下の評価方法を用いて測定した。
【0046】
<評価方法>
<固有粘度>
試料2gを、オルトクロロフェノールを25ml加え102℃で加熱しながら70分間攪拌溶解した。冷却後、15mlをオストワルド改良型粘度計に入れ、落下秒数から固有粘度を算出した。
【0047】
<繊度>
JIS-L1015(2010年)-7-51Aの方法に基づいて測定した。
【0048】
<切断強度(cN/dtex)および切断伸度(%)>
JIS-L1015(2010年)の方法に従い測定した。
【0049】
<平均繊維長(カット長)>
JIS-L1015(2010年)A法(ステープルダイヤグラム法)に基づいて測定した。
【0050】
<捲縮数および捲縮度>
捲縮数および捲縮度はJIS-L1015(2010年)-7-12-1およびJIS-L1015(2010年)-7-12-2の方法に基づいて測定した。
【0051】
なお、180℃における無荷重熱処理時の発現捲縮数は乾熱180℃における無荷重下での熱処理後の繊維の捲縮数であり、測定法は上記に同じである。
【0052】
<繊維構造体の目付け(g/m2)>
JIS-L1085(1998年)の方法に準じて、繊維構造体の幅(cm)×20cmの試料重量を測定し、換算になるが1m2あたりの質量として求めた。
【0053】
<自着性評価>:
図3に測定方法の概略を示す。繊維構造体の幅(cm)×20cmのサンプルを2枚で1組として、それぞれ5組(n=5)準備した。室温下にて、どちらか1枚の繊維構造体aを、平面な板Aに両面テープなどで張り付け(
図3(1))、その上にもう1枚の繊維構造体bを平面方向に重ね合わせ(
図3(2))、さらにその上から板Bを置きおもりを用いて100g/m
2の圧力を3秒間かけた(
図3(3))。そののち、おもり及び板Bを除去してひっくり返し、重ね合わせた繊維構造体を地面に対して平行にした(
図3(4))とき、重ね合わせた繊維構造体bが、10秒以内に落下する(剥がれる):不合格、10秒経っても落下しない(剥がれない):合格、で判定した。
【0054】
[実施例1]
共重合ポリエチレンテレフタレート(A)として、エチレンテレフタレートを主成分とし、これにIPA7.1モル%とBHPP4.4モル%とを共重合した、固有粘度0.67の共重合ポリエチレンテレフタレートを用い、またポリエチレンテレフタレート(B)として、固有粘度0.60のポリエチレンテレフタレートホモポリマーを用いて、複合溶融紡糸装置によって丸断面口金孔から300℃の温度で質量比率(A)/(B)=50/50とし、0.60g/分の単孔吐出量で溶融紡出し、1200m/分の速度で巻き取り、サイドバイサイド型未延伸糸を得た。得られたサイドバイサイド型未延伸糸を収束後、延伸倍率3.30倍、延伸温度85℃で延伸し、緊張熱処理温度140℃で熱処理を行い、押し込み式捲縮機で機械捲縮を付与した後、切断して捲縮数が16コ/25mm、繊維長が51mm、単繊維繊度が2.2dtex、180℃での無荷重熱処後の発現倦縮数が63コ/25mmの潜在捲縮性を有する短繊維を得た。
【0055】
得られた短繊維を、オープナー(小原鉄工社製:SBO)にかけた後、フラットカード(豊田自動織機社製:CK-7)にかけて太さ3g/mのスライバーを得た。得られたスライバーをニードルパンチ加工機(大和機工株式会社製:NL-700)に打ち込み回数40本/cm2にて1回通し、更に180℃の温度で1分間熱処理して100g/m2の帯状の幅8cmの繊維構造体を得た。
【0056】
得られた繊維構造体は優れた自着性を示すものでった。
【0057】
[実施例2]
ニードルパンチ加工に換えて、ウォータージェット機(上野山機工 試験用ジェットレース機)にて水圧60Bar、速度1m/分、ノズル形状0.08mmφ、0.6mmピッチ2列、499.5mm効き幅の条件で片面加工した以外は実施例1と同じように繊維構造体を得た。得られた繊維構造体は優れた自着性を示した。
【0058】
[実施例3]
実施例1において、ニードルパンチ加工の後に実施例2と同じウォータージェット加工を加えた以外は同じように繊維構造体を作成した。得られた繊維構造体は自着性のあるものであった。
【0059】
[比較例1]
実施例1と同じ方法で得られた短繊維を、オープナー(大和機工株式会社;OP-200)にかけた後、ローラーカード(大和機工株式会社;SC―600DI2)にかけて繊維ウェブを得た。得られた繊維ウェブを、ニードルパンチ加工機(大和機工株式会社、NL-700)に打ち込み回数40本/cm2にて加工した後、180℃の温度で1分間熱処理して100g/m2のシート状の繊維構造体を得た。不織布としては良好なものが得られたが、スライバー化せずに作製したため自着性に劣るものであった。
【0060】
[比較例2]
短繊維としてポリエチレンテレフタレート繊維(東レ製“テトロン”短繊維T201-2.2T×51mm)を用いた以外実施例1と同じ方法で繊維構造体を得た。使用した繊維は潜在倦縮繊維ではないため倦縮は発現せず(180℃での無荷重熱処後の発現倦縮数は0コ/25mm)、自着性がないものであった。
【0061】
[比較例3]
実施例1において熱処理を実施しなかった以外は同様にして繊維構造体を得た。得られた繊維構造体は、熱処理を行っていないため自着性がないものであった。
【0062】
[比較例4]
実施例2において、ウォータージェット加工を行わない以外は同様にして繊維構造体を得た。得られた繊維構造体は、繊維が絡合していないため自着性に乏しく、帯状化されていないため本発明の繊維構造体の目的に達しないものでった。
【0063】