(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115054
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】生物の取得方法、生物の取得システム
(51)【国際特許分類】
A01K 61/20 20170101AFI20240819BHJP
C12N 15/01 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
A01K61/20
C12N15/01 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020505
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】神▲崎▼ 寛
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA34
(57)【要約】
【課題】所望の突然変異が生じた生物を効率良く得る。
【解決手段】生物の取得方法は、同種の複数の生物からなる生物群を準備するステップと、生物群に放射線を照射するステップと、生物群に環境負荷を与えるステップと、生物群に放射線を再度照射するステップと、生物群に環境負荷を与えるステップとは異なる条件の環境負荷を生物群に与えるステップと、を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同種の複数の生物からなる生物群を準備するステップと、
前記生物群に放射線を照射するステップと、
前記生物群に環境負荷を与えるステップと、
前記生物群に放射線を再度照射するステップと、
前記生物群に環境負荷を与えるステップとは異なる条件の環境負荷を前記生物群に与えるステップと、を含む
生物の取得方法。
【請求項2】
前記生物群に放射線を再度照射するステップと、前記生物群に環境負荷を与えるステップとは異なる条件の環境負荷を前記生物群に与えるステップと、を繰り返し行う
請求項1に記載の生物の取得方法。
【請求項3】
前記環境負荷は、前記生物の生育に必要不可欠なものの減少と、前記生物の生育に害となるものの増加との少なくとも一方である
請求項1又は2に記載の生物の取得方法。
【請求項4】
前記生物群に環境負荷を与えるステップ、及び、前記生物群に環境負荷を与えるステップとは異なる条件の環境負荷を前記生物群に与えるステップでは、前記生物の育成及び繁殖を行う
請求項1又は2に記載の生物の取得方法。
【請求項5】
前記環境負荷に適応して生き残った前記生物を取得するステップ、をさらに含む
請求項1又は2に記載の生物の取得方法。
【請求項6】
前記生物は、プランクトンである
請求項1又は2に記載の生物の取得方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の生物の取得方法により前記生物を取得するための生物の取得システムであって、
同種の複数の生物からなる前記生物群を収容する収容部と、
前記生物群に放射線を照射する放射線照射部と、
前記生物群に環境負荷を与える環境負荷付与部と、を備える
生物の取得システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生物の取得方法、生物の取得システムに関する。
【背景技術】
【0002】
各種の農林水産物等において、生育環境における耐性等を高めるため、品種改良が行われている。例えば、特許文献1には、電離放射線照射によって花色変異体植物を作出する方法において、電離放射線の照射前に、植物をストレス処理する方法が開示されている。このような方法によれば、電離放射線照射による突然変異を生じた花色変異体植物が得られる頻度(確率)が高まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたような方法では、生産者にとって望ましい方向への突然変異が生じた生物を得られるとは限らない。
【0005】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、所望の突然変異が生じた生物を効率良く得ることができる生物の取得方法、生物の取得システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係る生物の取得方法は、同種の複数の生物からなる生物群を準備するステップと、前記生物群に放射線を照射するステップと、前記生物群に環境負荷を与えるステップと、前記生物群に放射線を再度照射するステップと、前記生物群に環境負荷を与えるステップとは異なる条件の環境負荷を前記生物群に与えるステップと、を含む。
【0007】
本開示に係る生物の取得システムは、上記したような生物の取得方法により前記生物を取得するためのものである。前記生物の取得システムは、収容部と、放射線照射部と、環境負荷付与部と、を含む。前記収容部は、同種の複数の生物からなる生物群を収容する。前記放射線照射部は、前記生物群に放射線を照射する。前記環境負荷付与部は、前記生物群に環境負荷を与える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の生物の取得方法、生物の取得システムによれば、所望の突然変異が生じた生物を効率良く得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施形態に係る生物の取得システムを示す図である。
【
図2】本開示の実施形態に係る生物の取得方法の手順を示すフローチャートである。
【
図3】本開示の実施形態に係る生物の取得方法により、生物群の複数の生物のうちの一部に、放射線の照射による突然変異が生じた状態を示す図である。
【
図4】本開示の実施形態に係る生物の取得方法により、環境負荷に適応した生物が生き残った状態を示す図である。
【
図5】本開示の実施形態に係る生物の取得方法により、生物群の複数の生物のうちの一部に、放射線の再度の照射による突然変異が生じた状態を示す図である。
【
図6】本開示の実施形態に係る生物の取得方法により、生物群に環境負荷を与えるステップとは異なる条件の環境負荷に適応した生物が生き残った状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態に係る生物の取得方法、生物の取得システムについて、
図1~
図6を参照して説明する。
【0011】
(生物の取得システムの全体構成)
図1に示すように、この実施形態の生物の取得システム1は、収容部2と、放射線照射部3と、環境負荷付与部4と、を含んでいる。この生物の取得システム1は、生物Mに放射線を照射することで、生物Mに突然変異を生じさせ、環境負荷に適応可能な生物Mを得るためのものである。この実施形態では、生物Mとして、例えば、プランクトンを用いる場合を一例にして説明する。
【0012】
収容部2は、同種の複数の生物Mからなる生物群Gを収容する。収容部2は、生物Mを生育可能な状態で収容する。この実施形態では、生物M(プランクトン)を収容する収容部2として、例えば水槽が用いられている。収容部2は、水槽に限らず、海や河川において、所定の水域に設けられた生け簀等であってもよい。生物Mは、収容部2に貯留された水の中に収容される。
【0013】
放射線照射部3は、生物群Gに放射線を照射する。放射線照射部3は、放射線を照射可能な線源を備えている。放射線照射部3は、放射線として、例えば、α線、β線、γ線、X線、中性子線、イオンビーム、電子線、紫外線のうちの少なくとも一種を照射可能である。放射線照射部3により生物群Gに放射線を照射すると、生物群Gを構成する複数の生物Mのうちの一部に突然変異が生じることがある。放射線照射部3によって照射する放射線は、事前に行う実験等により、生物群Gを構成する複数の生物Mのうちの少なくとも一部に突然変異が生じるよう、その種類、強度、照射時間、照射回数等を設定するのが好ましい。例えば、放射線の強度が高すぎたり照射時間が長すぎたりすると生物群Gが死滅してしまう一方で、放射線の強度が低すぎたり照射時間が短すぎたりすると生物群G内の生物Mに突然変異が生じないこととなる。
【0014】
環境負荷付与部4は、生物群Gに環境負荷を与える。ここで、環境負荷とは、生物群Gを構成する生物Mにとって、その生存、生育、繁殖等に負荷が掛かることを指す。例えば、環境負荷とは、生物群Gを構成する生物Mの生存数が減少してしまうような影響が生じうる環境的な負荷である。環境負荷としては、生物Mの生育に必要不可欠なものの減少と、生物Mの生育に害となるものの増加との少なくとも一方を用いることができる。この実施形態の生物Mとして例示するプランクトンの場合、上記環境的な負荷としては、プランクトンの生活している海、河川、湖、池等の水における、水素イオン濃度(pH)、酸素濃度、二酸化炭素濃度、硫化水素濃度、温度等を変化させることが挙げられる。なお、プランクトンにとっての環境負荷は、プランクトンの種類に応じて異なる場合があるため、環境負荷は上記したものに限られない。例えば、有機物濃度、水圧、水流速度、水中の明るさ等を更に挙げることができる。
【0015】
環境負荷付与部4は、生物Mが生存、生育、繁殖等をしている現在の環境を、生物Mの生存、生育、繁殖等に負荷となる環境に変化させることが可能となっている。この実施形態では、収容部2(水槽)中の水の水素イオン濃度を変化させる場合を一例にして説明する。例えば、生物Mが生育している現在の環境で、収容部2中の水の水素イオン濃度がpH7.0であった場合、環境負荷付与部4は、収容部2中の水の水素イオン濃度を変化させる。例えば、将来的に、地球の大気中の二酸化濃度が高まると、プランクトンが生育している海等の水中に溶け込む二酸化濃度も高まると予想されている。このように水中の二酸化濃度が高まると、水の水素イオン濃度も酸性に変移する。このような水素イオン濃度の変移は、プランクトンにとって環境負荷となる。そこで、この実施形態の環境負荷付与部4は、この水素イオン濃度の変移を模して、収容部2の水の水素イオン濃度を、酸性寄りに変移させている。
【0016】
環境負荷付与部4で与える環境負荷は、収容部2に収容した生物群Gを構成する複数の生物Mにおいて、環境負荷に耐えられずに死に至る生物Mと、環境負荷に耐えて生き残る生物Mとの双方が存在するようなレベルとするのが好ましい。環境負荷付与部4で環境負荷を与えることによって、収容部2に収容した生物群Gを構成する複数の生物Mの全数が死に至る場合、環境負荷が高すぎる。また、環境負荷付与部4により環境負荷を与えることによって、収容部2に収容した生物群Gを構成する複数の生物Mの全数が生き残っている場合、与える環境負荷が低すぎる。
【0017】
放射線照射部3によって放射線を照射された生物群Gの生物Mのうち、どの個体に突然変異が生じたのか、どのような突然変異が生じたのかを目視などで把握することは困難である。しかし、放射線を照射された生物Mのうち、環境負荷付与部4で与える環境負荷に耐えて生き残った場合、その生物Mは、環境負荷付与部4で与える環境負荷に耐えることが可能な性質を有した個体であることが分かる。このような個体は、先天的にその環境負荷に強い個体か、又は、放射線の照射による突然変異によって環境負荷に適応可能な性質を獲得した個体である。このように環境負荷に耐えることが可能な性質は、生物Mの子孫にも受け継がれる。一方で、放射線照射部3から放射線が照射された生物Mのうち、環境負荷に耐えられずに死に至った個体は、環境負荷付与部4で与える環境負荷に対して先天的に耐えることができず突然変異も生じなかった個体と、突然変異が生じたとしてもその突然変異により獲得した性質が上記環境負荷に適応するものではない個体と、である。なお、環境負荷付与部4が水素イオン濃度のみを変化させる場合について説明したが、環境負荷付与部4は、複数種の環境負荷を、生物Mに同時に与えるようにしてもよい。
【0018】
(生物の取得方法の手法)
図2は、本開示の実施形態に係る生物の取得方法の手順を示すフローチャートである。
図3は、本開示の実施形態に係る生物の取得方法により、生物群の複数の生物のうちの一部に、放射線の照射による突然変異が生じた状態を示す図である。
図4は、本開示の実施形態に係る生物の取得方法により、環境負荷に適応した生物が生き残った状態を示す図である。
図2に示すように、この実施形態に係る生物の取得方法S10では、同種の複数の生物からなる生物群を準備するステップS20と、生物群に放射線を照射するステップS30と、生物群に環境負荷を与えるステップS40と、生物を取得するステップS45と、生物群に放射線を再度照射するステップS50と、生物群に環境負荷を与えるステップとは異なる条件の環境負荷を生物群に与えるステップS60と、生物を取得するステップS65と、を含んでいる。
【0019】
同種の複数の生物からなる生物群を準備するステップS20では、この実施形態における生物の取得方法S10の対象となる同種の複数の生物Mからなる生物群Gを準備する。これには、作業者が、
図1に示すように、準備した生物群Gを収容部2に収容する。この実施形態では、同種の複数の生物Mとしてのプランクトンを含む水を収容部2としての水槽に収容する。
【0020】
生物群に放射線を照射するステップS30では、放射線照射部3により、収容部2に収容された生物群Gに放射線を照射する。具体的には、水槽に収容されたプランクトンを含む水に対して放射線を照射することで、プランクトンに放射線を照射する。この際、放射線照射部3は、上述したように、α線、β線、γ線、X線、中性子線、イオンビーム、電子線、紫外線のうちの少なくとも一種を放射線として照射する。さらに、放射線の種類、強度、照射時間、照射回数等の条件としては、上述したように、事前に行う実験等により設定した、生物群Gを構成する複数の生物Mのうちの少なくとも一部に突然変異が生じるような、放射線の種類、強度、照射時間、照射回数等の条件とする。
【0021】
図3に示すように、照射された放射線により、生物群Gを構成する複数の生物Mのうちの少なくとも一部の生物M1(
図3中において、ハッチングを付してある)に突然変異が生じる。ここで、生物Mが単細胞生物である場合、この突然変異による性質の変化は、放射線を照射された生物M自身に現れる。その一方で、生物Mが多細胞生物である場合、突然変異が生殖細胞に生じて、放射線を照射した生物Mの子孫に突然変異による性質の変化が現れる。以下の説明では、単細胞生物の場合と、多細胞生物の場合との両方を含んでおり、生物M(後述する生物M1,M2も同様)は、繁殖後の子孫も含まれるものとする。
【0022】
生物群に環境負荷を与えるステップS40では、環境負荷付与部4によって、収容部2に収容された生物Mに対して環境負荷を与える。例えば、この実施形態では、収容部2(水槽)中の水の水素イオン濃度を変化させる。生物Mの生存、生育、繁殖等している現在の水の水素イオン濃度がpH7.0である場合、環境負荷付与部4は、収容部2中の水の水素イオン濃度を、生物Mの生存が難しくなるような値、例えばpH6.8程度に変化させる。すると、生物群Gのうち、ステップS30における放射線の照射によって突然変異の生じなかった生物Mのほとんどは、環境負荷に適応できずに死に至る。一方で、生物群Gのうち、ステップS30における放射線の照射によって突然変異して環境負荷に適応可能になった生物M1が生き残る。つまり、
図4に示すように、収容部2内には、先天的にその環境負荷に適応可能な生物M1、及び、放射線の照射によって突然変異して環境負荷に適応可能となった生物M1が生き残る。本実施形態では、ステップS40において、上記の環境負荷を与えた環境下にて、生物M1の育成及び繁殖を行っている。
【0023】
生物を取得するステップS45では、収容部2に収容された生物群Gのうち、突然変異によって環境負荷に適応可能な生物M1を取得する。ここで、ステップS30で適切な環境負荷を与えることにより、環境負荷に耐えられる生物M1と、環境負荷に耐えられない生物Mとが、生死によって明確に選別できる。この実施形態のように生物Mがプランクトンの場合、死に至ったプランクトン(生物M)は、収容部2の底部に沈む。このため、収容部2内には、環境負荷に適応した生物M1と、環境負荷に適応できずに死に至った生物Mとが混在することにはなるが、生きているのは環境負荷に適応した生物M1のみであるため、実質的に、環境負荷に適応した生物M1を選別して取得することができる。なお、このステップS45において、例えば、収容部2としての水槽の水を別の水槽に移し替えることで、環境負荷に適応した生物M1のみを取り出すこともできる。
【0024】
生物群に放射線を再度照射するステップS50では、ステップS45を経た生物群Gに、放射線照射部3によって放射線を再度照射する。ここで、ステップS50で放射線を照射する生物群Gは、ステップS30、S40、S45を経た複数の生物M(M1)の子孫のみであってもよい。
【0025】
図5は、本開示の実施形態に係る生物の取得方法により、生物群の複数の生物のうちの一部に、放射線の再度の照射による突然変異が生じた状態を示す図である。
ステップS50では、放射線照射部3により、収容部2に収容された生物群Gに放射線を照射する。
図5に示すように、照射された放射線により、生物群Gを構成する複数の生物M(M1)のうちの少なくとも一部の生物M2において、さらなる突然変異が生じる。
【0026】
生物群に環境負荷を与えるステップとは異なる条件の環境負荷を生物群に与えるステップS60では、環境負荷付与部4によって、収容部2に収容された生物群Gの生物M(M1)に対して環境負荷を与える。ここで、ステップS60で与える環境負荷は、生物群に環境負荷を与えるステップS40とは異なる条件である。より具体的には、ステップS60で与える環境負荷は、ステップS40で与えた環境負荷に対し、生物M(M1)の生存が、厳しくなる環境負荷である。
【0027】
この実施形態のステップS60では、ステップS40においてpH6.8程度とした収容部2の水の水素イオン濃度を、例えばpH6.5程度に変化させている。これにより、生物群Gのうち、ステップS50における放射線の再度の照射によって突然変異の生じなかった生物M1、及び突然変異が生じたものの突然変異による性質の変化がステップS60で与えた環境負荷に適応するものでは無かった生物M(M1)は、当該環境負荷に適応できずに死に至る。この実施形態では、ステップS60により付加する環境負荷は、上記の先天的にその環境負荷に強い個体であっても生き残ることができないレベルの環境負荷となっている。
【0028】
その一方で、生物群Gのうち、ステップS50における放射線の照射によって突然変異が生じるとともに、この突然変異による性質の変化が環境負荷に適応する変化であった生物M(M2)は、環境負荷に適応して生き残ることとなる。本実施形態では、ステップS40と同様に、ステップS60においても、上記の環境負荷を与えた環境下にて、生物M(M2)の育成及び繁殖を行っている。
【0029】
図6は、本開示の実施形態に係る生物の取得方法により、生物群に環境負荷を与えるステップとは異なる条件の環境負荷に適応した生物が生き残った状態を示す図である。
生物を取得するステップS65では、
図6に示すように、収容部2に収容された生物群Gのうち、突然変異によって環境負荷に適応できるようになった生物M2を取得する。
【0030】
ここで、ステップS65では、ステップS60によって適切な環境負荷を与えることにより、突然変異によって環境負荷に適応できるようになった生物M2と、それ以外の環境負荷に耐えられない生物M1とが、生死によって明確に選別できる。このステップS65においても、ステップS45と同様、収容部2内には、環境負荷に適応した生物M2と、環境負荷に適応できずに死に至った生物M1とが混在することになるが、生存しているのは環境負荷に適応した生物M2のみであるため、実質的に、環境負荷に適応した生物M1を選別して取得することができる。なお、上記のステップS50、S60、S65は、順次繰り返し行ってもよい。このようにステップS50、S60、S65を繰り返し行い段階的に環境負荷の条件を異ならせるようにすることで、複数回、複数世代にわたって、生物群Gの複数の生物Mを突然変異させて、より厳しい環境負荷等、所望の環境負荷に適応できる生物Mを得ることが可能となる。
【0031】
(作用効果)
上記実施形態の生物の取得方法S10では、生物群Gに放射線を照射することで、放射線を照射された生物群Gの複数の生物Mの一部に、放射線の照射による突然変異を生じさせている。そのため、突然変異の発生確率を上昇させることができる。そして、このように放射線の照射された生物群Gに、通常であれば生物Mが生存できないような環境負荷を与えている。これにより、環境負荷に適応できない(耐えられない)生物Mは死に至り、放射線の照射による突然変異によって環境負荷に適応できる新たな性質を獲得した生物Mを生き残らせることができる。
しがって、所望の突然変異が生じた生物Mを効率良く得ることができる。
【0032】
さらに、上記実施形態では、ステップS40で生き残った生物Mや、この生き残った生物Mの子孫からなる生物群Gに対し、放射線を再度照射している。これにより、放射線を照射された生物群Gの複数の生物Mの一部に、放射線の照射によるさらなる突然変異を生じさせることができる。そして、ステップS60によって、放射線を照射された生物群Gに対し、ステップS40とは異なる条件の環境負荷を与えている。そのため、ステップS40で与えた環境負荷に加えて、ステップS40とは異なる条件の環境負荷に適応できる生物Mを得ることができる。しがって、複数回の突然変異を生じさせて、生物Mの性質を徐々に所望の性質に近づけることができるため、より厳しい環境負荷に適応するなど、一度の突然変異では獲得できないような性質を有した生物Mを効率良く得ることができる。
【0033】
また、上記実施形態では、環境負荷が、生物Mを生育させる環境における、水素イオン濃度(pH)である。
これにより、環境負荷としての水素イオン濃度の条件に耐えうる生物Mを得ることができる。つまり、地球上の二酸化炭素濃度の上昇により、海水、河川や湖、池の水が酸性化しても、プランクトンの減少を抑えることができる。プランクトンは、水中における生態系での食物連鎖の起点ともなるものであるため、このようなプランクトンの減少によるプランクトンを摂取する魚等の減少を抑えることもできる。
【0034】
また、上実施形態では、生物群に環境負荷を与えるステップS40、及び、生物群に環境負荷を与えるステップとは異なる条件の環境負荷を生物群に与えるステップS60では、それぞれ生物M(生物M1,M2)の育成及び繁殖を行っている。
これにより、放射線の照射により突然変異が生じて環境負荷に耐えうるようになった生物Mの性質を複数世代にわたって繁殖させて固定することができると共に、繁殖により個体数を増やすことができる。
【0035】
また、上記実施形態では、環境負荷に適応して生き残った生物を取得するステップS45、をさらに含んでいる。
これにより、環境負荷に適応しうる生物Mを生死により明確に選別して取得することができる。
【0036】
また、上記実施形態では、生物Mは、プランクトンである。
これにより、放射線の照射による突然変異によって、これまでは死滅してしまうような環境負荷に適応したプランクトンを効率よく得ることができる。したがって、海洋や河川などの環境変化による悪影響を改善することができる。
【0037】
上記実施形態の生物の取得方法S10では、同種の複数の生物Mからなる生物群Gを準備するステップS20と、生物群Gに放射線を照射するステップS30と、生物群Gに環境負荷を与えるステップS40と、環境負荷に適応して生き残った生物Mを取得するステップS45と、を含んでいる。そして、ステップS40では、放射線を照射した後の生物群Gに対して放射線を照射する以前の生物Mでは生き残ることが困難な環境負荷を与えている。
これにより、放射線を照射された生物群Gの複数の生物Mの一部に、放射線の照射による突然変異を生じさせることができる。さらに、放射線の照射により突然変異が生じて環境負荷に適応可能になった生物Mを生き残らせることができる。したがって、新たな環境負荷に適応しうる生物Mを明確に選別して取得することができる。
【0038】
上記実施形態の生物の取得システム1は、収容部2と、放射線照射部3と、環境負荷付与部4と、を備えている。
これにより、収容部2に収容した生物群Gに対し、放射線照射部3で放射線を照射し、環境負荷付与部4で環境負荷を与えることで、上記したような生物の取得方法S10を容易に実行することができる。その結果、所望の突然変異が生じた生物Mを効率良く得ることができる。
【0039】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
上記実施形態では、生物Mとして、水中に生息するプランクトンを例示したが、これに限るものではない。例えば、生物Mは、細菌、植物、動物、微生物等、各種の生物であってもよい。これらのうち、生物Mとしては、人為的に生育、飼育される各種の農林水産物であってもよい。また、生物Mは、水中に生息するものに限られず、例えば、空気中や土中に生息する生物であってもよい。
【0040】
また、プランクトン以外の生物Mは、単細胞生物であってもよいし、多細胞生物であってもよい。プランクトン以外の生物Mが単細胞生物である場合、放射線は、単細胞生物である生物Mに照射する。また、プランクトン以外の生物Mが多細胞生物である場合、生殖細胞に放射線を照射すればよい。また例えば、生物Mが植物である場合、放射線を種子に照射するようにしてもよい。
【0041】
さらに、収容部2は、水槽に限らず、例えば、ケージ、檻、柵で囲ったエリア、部屋、建物等、生物Mの生息環境に準じたものであればよい。
また、環境負荷としては、これ以外にも、温度、湿度、気圧、風速、振動量、食事(餌、エネルギー)の量や種類、移動の拘束等が挙げられる。これにより、従来は生育できなかった温度域、湿度域であっても、生育が可能となる植物等の生物Mを取得することが期待できる。
【0042】
さらに、上記実施形態では、環境負荷として水素イオン濃度を一例にして説明するとともに、ステップS40における環境負荷と、ステップS60における環境負荷とをそれぞれ同種の環境負荷である水素イオン濃度の条件(ペーハー値)を異ならせたものとした場合について説明した。しかし、ステップS60における環境負荷は、ステップS40における環境負荷と同種のもののみに限られない。例えば、ステップS40では水素イオン濃度を変化させて、ステップS60では、温度を変化させる等、ステップS40とステップS60とで異なる種類の環境負荷の条件を用いるようにしてもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、ステップS40及びステップS60にて生物M(M1,M2)の育成及び繁殖を行う場合について説明した。しかし、生物Mが単細胞生物であり、且つ個体数が十分に確保できている場合には、ステップS40、ステップS60における育成及び繁殖を省略してもよい。
【0044】
上記実施形態では、放射線を照射した生物群Gに環境負荷を与える場合を例示した。しかし、上記生物の取得方法では、放射線を照射した後に環境負荷を与える場合に限られない。例えば、生物群Gに対する環境負荷の付与と、放射線の照射とを同時に行ったり、生物群Gに環境負荷を付与した後に放射線を照射したりしてもよい。さらに、上記実施形態では、放射線の照射を複数回行い、その間に段階的に環境負荷を上げていく場合を例示した。しかし、環境負荷は、同一環境負荷とした状態で、複数回の放射線の照射を行うようにしてもよい。また、上記実施形態のステップS30、ステップS50では、同一環境下で放射線の照射を複数回行うようにしてもよい。
【0045】
<付記>
実施形態に記載の生物の取得方法S10、生物の取得システム1は、例えば以下のように把握される。
【0046】
(1)第1の態様に係る生物の取得方法S10は、同種の複数の生物Mからなる生物群Gを準備するステップS20と、前記生物群Gに放射線を照射するステップS30と、前記生物群Gに環境負荷を与えるステップS40と、前記生物群Gに放射線を再度照射するステップS50と、前記生物群Gに環境負荷を与えるステップS40とは異なる条件の環境負荷を前記生物群Gに与えるステップS60と、を含む。
生物Mの例としては、プランクトン、細菌、植物、動物,農林水産物が挙げられる。
【0047】
この生物の取得方法S10では、環境負荷に耐えられない生物Mは死に至り、放射線の照射により突然変異を生じ、環境負荷に適応できた生物Mが生き残る。さらに、環境負荷に適応できた生物に放射線を再度照射することで、さらなる突然変異を生じさせることができる。そして、再度放射線を照射された生物群Gの生物Mに、異なる条件の環境負荷を与えているため、異なる条件の環境負荷に耐えて生き残った生物Mを得ることができる。
このようにして、環境負荷に耐えうる突然変異を生じた生物Mと、環境負荷に耐えうる突然変異を生じなかった生物Mとを容易に選別することができる。しがって、所望の突然変異が生じた生物Mを効率良く得ることができる。
【0048】
(2)第2の態様に係る生物の取得方法S10は、(1)の生物の取得方法S10であって、前記生物群Gに放射線を再度照射するステップS50と、前記生物群Gに環境負荷を与えるステップS40とは異なる条件の環境負荷を前記生物群Gに与えるステップS60と、を繰り返し行う。
【0049】
これにより、求める環境条件に耐えうる方向に順次突然変異した生物Mを得ることができる。
【0050】
(3)第3の態様に係る生物の取得方法S10は、(1)又は(2)の生物の取得方法S10であって、前記環境負荷は、前記生物Mの生育に必要不可欠なものの減少と、前記生物Mの生育に害となるものの増加との少なくとも一方である。
生物Mの生育に必要不可欠なものの減少としては、酸素濃度の減少、明るさの減少が挙げられる。生物Mの生育に害となるものの増加としては、二酸化炭素濃度の増加、硫化水素濃度の増加が挙げられる。
【0051】
これにより、生物の生育に必要不可欠なものの減少と、生物の生育に害となるものの増加との少なくとも一方に耐えうる生物Mを得ることができる。
【0052】
(4)第4の態様に係る生物の取得方法S10は、(1)から(3)の何れか一つの生物の取得方法S10であって、前記生物群に環境負荷を与えるステップS40、及び、前記生物群に環境負荷を与えるステップとは異なる条件の環境負荷を前記生物群に与えるステップS60では、前記生物Mの育成及び繁殖を行う。
【0053】
これにより、環境負荷に耐えうる生物Mの性質を固定できるとともに、その個体数を増加させることができる。
【0054】
(5)第5の態様に係る生物の取得方法S10は、(1)から(4)の何れか一つの生物の取得方法S10であって、前記環境負荷に適応して生き残った前記生物Mを取得するステップS45、をさらに含む。
【0055】
これにより、環境負荷に適応しうる生物Mを生死により明確に選別して取得することができる。
【0056】
(6)第6の態様に係る生物の取得方法S10は、(1)から(5)の何れか一つの生物の取得方法S10であって、前記生物Mは、プランクトンである。
【0057】
これにより、放射線の照射による突然変異によって、これまではプランクトンが減少してしまうような環境負荷に耐えうるプランクトンを得ることができる。したがって、海洋や河川などの環境変化による悪影響を改善する可能性が高まる。
【0058】
(7)第7の態様に係る生物の取得システム1は、(1)から(6)の何れか一つの生物の取得方法S10により前記生物Mを取得するための生物の取得システム1であって、同種の複数の生物Mからなる前記生物群Gを収容する収容部2と、前記生物群Gに放射線を照射する放射線照射部3と、前記生物群Gに環境負荷を与える環境負荷付与部4と、を含む。
【0059】
これにより、上記したような生物の取得方法S10を容易に実行することができる。その結果、所望の突然変異が生じた生物Mを効率良く得ることができる。
【符号の説明】
【0060】
1…取得システム 2…収容部 3…放射線照射部 4…環境負荷付与部 G…生物群 M、M1、M2…生物 S10…生物の取得方法 S20…同種の複数の生物からなる生物群を準備するステップ S30…生物群に放射線を照射するステップ S40…生物群に環境負荷を与えるステップ S45…生物を取得するステップ S50…生物群に放射線を再度照射するステップ S60…生物群に環境負荷を与えるステップとは異なる条件の環境負荷を生物群に与えるステップ S65…生物を取得するステップ