(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115057
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】色素増感太陽電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/20 20060101AFI20240819BHJP
【FI】
H01G9/20 115A
H01G9/20 119
H01G9/20 109
H01G9/20 121
H01G9/20 113D
H01G9/20 203B
H01G9/20 307
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020510
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】512076221
【氏名又は名称】株式会社プロセシオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100171941
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 忠行
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 寛敏
(72)【発明者】
【氏名】松田 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉川 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】田邊 功二
(57)【要約】
【課題】色素増感太陽電池の信頼性、生産性および発電効率を向上する。
【解決手段】プラスマイナスの透明電極層12,13が形成されたガラス基板11上に、多孔質半導体層14、多孔質絶縁層15および背面電極層16が順次積層されて成るモノリシック型の色素増感太陽電池1において、電解液19を多孔質絶縁層15の微細な孔に溢れない程度に染込ませ、表面張力で保持させ、外周縁の封止材17から離間させる。したがって、発電効率の高い液状電解質を用いつつ、電解液の漏洩を無くすことができる。また、封止材17を固める前に電解液を塗布(滴下)することができ、厳密な充填作業は必要無くなり、製造工程を大幅に簡略化できる。さらに、背面電極層16を多孔質カーボン層とし、その材料のカーボンペーストに金属レジネートを混ぜておくことで、焼成後、金属微粒子を担持させ、電気伝導度、したがって、発電効率を向上できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明電極層を有する透光性の基板の前記透明電極層上に多孔質半導体層が積層され、該多孔質半導体層は色素吸着され、該多孔質半導体層と背面電極層との間に多孔質絶縁層を備え、それらの間が電解液で接続されて成るモノリシック型の色素増感太陽電池において、
前記背面電極層は、前記多孔質絶縁層に積層される多孔質カーボン層から成り、
前記多孔質カーボン層は、基材となるカーボンペーストに金属レジネートを分散・焼成して成る貴金属微粒子を担持していることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項2】
前記背面電極層では、前記多孔質カーボン層上の一部に、該多孔質カーボン層よりも前記貴金属微粒子の濃度の高い表面層が引回されていることを特徴とする請求項1記載の色素増感太陽電池。
【請求項3】
前記表面層は、平面視で横櫛の形状に形成され、背面電極の引出し側を相互に連結する前記横櫛における棟の部分と、前記棟の部分に所定間隔で、該棟の部分から離反方向に延びる前記横櫛における歯の部分とを含むことを特徴とする請求項2記載の色素増感太陽電池。
【請求項4】
前記電解液は、該色素増感太陽電池の内部空間で、満充填よりも少なく充填され、前記多孔質絶縁層に浸透していることを特徴とする請求項1記載の色素増感太陽電池。
【請求項5】
前記多孔質絶縁層は、その微細な孔に毛細管現象で前記電解液が染込み、前記電解液を表面張力で保持していることを特徴とする請求項1記載の色素増感太陽電池。
【請求項6】
前記貴金属微粒子は、プラチナ、金、またはパラジウムの微粒子であることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の色素増感太陽電池。
【請求項7】
前記貴金属微粒子は、焼成後の前記多孔質カーボン層における重量%が、0より大きく、0.2%以下、好ましくは0.02%以下であることを特徴とする請求項6記載の色素増感太陽電池。
【請求項8】
透明電極層を有する透光性の基板の前記透明電極層上に多孔質半導体層が積層され、該多孔質半導体層は色素吸着され、該多孔質半導体層と背面電極層との間に多孔質絶縁層を備え、それらの間が電解液で接続されて成るモノリシック型の色素増感太陽電池の製造方法において、
前記背面電極層は、前記多孔質絶縁層に積層される多孔質カーボン層から成り、該多孔質カーボン層の生成には、
該多孔質カーボン層の基材となるカーボンペーストに液体の金属レジネートを分散しておく工程と、
前記金属レジネートを含有した前記カーボンペーストを前記多孔質絶縁層上に塗布する工程と、
塗布した前記カーボンペーストを乾燥・焼成することで、前記多孔質カーボン層に貴金属微粒子を担持させる工程とを含むことを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項9】
前記背面電極層の多孔質カーボン層の生成工程において、
前記金属レジネートの濃度の高いもう1つのカーボンペーストを作成する工程と、
前記カーボンペーストを塗布した後、さらにその表層の一部に、前記もう1つのカーボンペーストを塗布する工程とを含むことを特徴とする請求項8記載の色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項10】
前記電解液を染込ませる工程は、該電解液が前記背面電極層上から塗布されることで、前記背面電極層から前記多孔質絶縁層および多孔質半導体層まで染込むことで実現されることを特徴とする請求項8記載の色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項11】
前記電解液を染込ませる工程では、該電解液が、その表面張力で保持できる量だけ、前記背面電極層から前記多孔質絶縁層および多孔質半導体層に染込ませられることを特徴とする請求項10記載の色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項12】
前記背面電極層としての前記多孔質カーボン層の形成後、前記多孔質半導体層に前記色素を吸着させる工程は、該色素を含有する溶液中に浸漬することで行われ、その際、振動および/または温度が加えられることを特徴とする請求項8記載の色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項13】
前記金属レジネートは、プラチナ、金、またはパラジウムの液体のレジネートであり、前記カーボンペーストへの分散は、粉体のカーボンの溶媒への撹拌・混練後に、前記液体を注入・撹拌することで行われることを特徴とする請求項8~12の何れか1項に記載の色素増感太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感太陽電池(DSC)は、シリコン太陽電池に比べて、低照度で効率良く発電でき、また、低コスト、低エネルギーで生産できるので、低消費電力な独立型(スタンドアローン)の機器の電源などとして利用が始まっている。そのような色素増感太陽電池の一例として、1枚の基板上に印刷パターンで形成でき、コストと量産性とに優れたモノリシック型の色素増感太陽電池が、たとえば特許文献1で提案されている。
【0003】
モノリシック型の色素増感太陽電池は、太陽電池の波長に対する透光性を有する平板のガラス基板上に、透明電極層が形成され、その上に、チタニアなどから成る多孔質(ポーラス状の)半導体層(作用極層)、多孔質絶縁層および背面電極(対極)層が、印刷および焼成が適宜繰返されて、所望の厚さで順次積層されて成る。その後、それらが色素溶液に浸漬されて前記多孔質半導体層に色素吸着された後、前面側の前記ガラス基板と、被せられた対向(裏面の)基板との間で外周部分が封止材で封止され、形成された内部空間に電解液が充填されて構成される。そして、モノリシック型の特徴は、背面電極が対向(裏面の)基板に形成されるのではなく、前記多孔質絶縁層上に形成され、表面側のガラス基板から電極引出しが可能になることである。つまり、モノリシック型は、一方向からの印刷工程で太陽電池を作成することができ、製造工程を簡略化することができるものである。
【0004】
一方、モノリシック型の色素増感太陽電池に限らず、Z型の色素増感太陽電池においても、電解液の漏洩は、懸念すべき事項であり、また電解液の充填も、真空引きで行うなど、手間の掛るものである。なお、電解液の漏洩が無い固体・ゲル電解質は、導電度が低く、太陽電池としての発電効率は、液状電解質を用いる方が高くなる。
【0005】
そこで、本件出願人は、先に特許文献2を提案した。それによれば、前記モノリシック型の色素増感太陽電池において、背面電極(対極)層が多孔質絶縁層上に形成されることから、電解液をその多孔質絶縁層から多孔質半導体層に保持させることで、太陽電池の内部空間一杯に電解液を満充填する必要を無くしたものである。これによって、電解液の膨張による封止材の破損を防止している。そしてさらに、背面電極(対極)層を金属薄膜ではなく、多孔質カーボン層とすることで、該多孔質カーボン層上から、多孔質半導体層の染料や電解液を塗布(滴下)するだけで、それらを染込ませられるようになって、製造工程を大幅に簡略化できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-15761号公報
【特許文献2】特許第7071767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2は、製造工程が劇的に簡略化されるものの、背面電極(対極)層が前記多孔質カーボン層であるので、金属薄膜に比べると、導電性では不利である。この背面電極(対極)層の導電性を高めることで、発電効率を高めることができる。
【0008】
本発明の目的は、電解液の漏洩を防止し、製造工程を大幅に簡略化し、コストを低下し、歩留りも向上することができるとともに、発電効率を高めることができる色素増感太陽電池およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の色素増感太陽電池は、透明電極層を有する透光性の基板の前記透明電極層上に多孔質半導体層が積層され、該多孔質半導体層は色素吸着され、該多孔質半導体層と背面電極層との間に多孔質絶縁層を備え、それらの間が電解液で接続されて成るモノリシック型の色素増感太陽電池において、前記背面電極層は、前記多孔質絶縁層に積層される多孔質カーボン層から成り、前記多孔質カーボン層は、基材となるカーボンペーストに金属レジネートを分散・焼成して成る貴金属微粒子を担持していることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の色素増感太陽電池の製造方法は、透明電極層を有する透光性の基板の前記透明電極層上に多孔質半導体層が積層され、該多孔質半導体層は色素吸着され、前記多孔質半導体層と背面電極層との間に多孔質絶縁層を備え、それらの間が電解液で接続されて成るモノリシック型の色素増感太陽電池の製造方法において、前記背面電極層は、前記多孔質絶縁層に積層される多孔質カーボン層から成り、該多孔質カーボン層の生成には、該多孔質カーボン層の基材となるカーボンペーストに液体の金属レジネートを分散しておく工程と、前記金属レジネートを含有した前記カーボンペーストを前記多孔質絶縁層上に塗布する工程と、塗布した前記カーボンペーストを乾燥・焼成することで、前記多孔質カーボン層に貴金属微粒子を担持させる工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、太陽電池の波長に対する透光性を有する基板上には、たとえばガラスメーカーなどで予め透明電極層が形成され、その基板の前記透明電極層は、太陽電池メーカーで、レーザートリミング等でパターニングされた後、チタニア等の多孔質(ポーラス状の)半導体層(作用極層)が積層され、さらにその多孔質半導体層は色素吸着され、さらに前記多孔質半導体層と背面電極層(対極層)との間に多孔質絶縁層を備え、前記多孔質半導体層、多孔質絶縁層および背面電極層の間が電解液で電気的に接続されて成る色素増感太陽電池およびその製造方法において、前記背面電極層が多孔質カーボン層から成る場合に、その多孔質カーボン層の基材となるカーボンペーストに、通常は、電極材や配線材として使用される金属レジネート(金属の有機化合物)を分散した後、焼成することで、該多孔質カーボン層に貴金属微粒子を担持させる。
【0012】
具体的には、背面電極層は、ペースト状のカーボンをスクリーン印刷等で印刷し、乾燥、焼成することで作成されるので、そのペースト中に金属レジネートの液体を予め分散させておく。つまり、たとえば食器の場合で、生地に金レジネート(液体)を塗布して、乾燥して、焼成すると、金の薄膜が残るように、通常は、電極や配線の金属薄膜電極の作成などに使用される金属レジネート(金属の有機化合物)の液体をカーボンペーストに分散させておくことで、該金属レジネートを多孔質カーボン層における貴金属の微量添加剤として使用する。
【0013】
したがって、多孔質半導体層(作用極層)、多孔質絶縁層および背面電極層(対極層)を、透明電極基板上への1または複数回の印刷および焼成で、順次積層してゆくことができ、プロセスの大幅な簡素化が可能なモノリシック型の色素増感太陽電池を実現することができる。そして、そのような色素増感太陽電池において、さらに発電部を染色する色素や電解液を滴下で染込ませられるようにするために背面電極層(対極層)をポーラス状にした場合、該背面電極層(対極層)の抵抗値を下げることは難しかったのに対して、金属レジネート(金属の有機化合物の液体)の形態で該背面電極層(対極層)に分散させて(練込んで)おくことで、印刷した後、焼成すると、該背面電極層には、単独の貴金属から成り、膜ではない微小な数十nmの粒子を担持させることができる。その粒子としては、原子レベルにまで分解することもあり、凝集して数個の原子が存在することが常であるので、前記数十nmとする。
【0014】
これによって、背面電極層(カーボン対極層)の電気伝導を補強し、したがって太陽電池内の抵抗を下げ、ロスを抑えて効率をアップすることができる。また、その貴金属微粒子を含有しても、背面電極層(対極層)は、変わらずポーラスな構造であり、さらに貴金属微粒子も小さいので、多孔質半導体層の染料粒子が容易に通過でき、発電部を染色することが可能であるとともに、電解液も該背面電極層(対極層)上から滴下して、多孔質絶縁層から多孔質半導体層まで浸透させることができる。つまり、純粋貴金属パウダーは、粒子も大きく、均等に分散させ難いのに対して、液体の金属レジネート(金属の有機化合物)の形で練込んでおくことで、乾燥・焼成すると、カーボンペーストが多孔質(ポーラス状)になるとともに、金属レジネートの有機化合物は蒸発し、微小な貴金属粒子のみが多孔質(ポーラス状)のカーボン内に略均等に残留することになる。
【0015】
また、本発明の色素増感太陽電池は、前記背面電極層では、前記多孔質カーボン層上の一部に、該多孔質カーボン層よりも前記貴金属微粒子の濃度の高い表面層が引回されていることを特徴とする。
【0016】
好ましくは、前記貴金属微粒子は、焼成後の前記多孔質カーボン層における重量%が、0より大きく、0.2%以下、好ましくは0.02%以下であることを特徴とする。
【0017】
さらにまた、本発明の色素増感太陽電池の製造方法では、前記背面電極層の多孔質カーボン層の生成工程において、前記金属レジネートの濃度の高いもう1つのカーボンペーストを作成する工程と、前記カーボンペーストを塗布した後、さらにその表層の一部に、前記金属レジネートの濃度の高いもう1つのカーボンペーストを塗布する工程を含むことを特徴とする。
【0018】
上記の構成によれば、貴金属微粒子を一定量含む前記多孔質カーボン層によって背面電極層の電気伝導度は向上するが、貴金属微粒子の濃度をより高くする程、前記電気伝導度も向上する。一方、貴金属微粒子の濃度が高くなる程、電解液や、特に色素(染料)の流れが悪くなる。そこで、1つの(下層の)多孔質カーボン層で背面電極層の全体の電気伝導度を向上しつつ、その表面を大きく開口するように、より貴金属微粒子の濃度の高いもう1つの多孔質カーボン層を表面層として引き回す。
【0019】
したがって、1つの(下層の)多孔質カーボン層における貴金属微粒子の濃度を下げて前記電解液や色素の良好な流れを確保しつつ、もう1つの(表層の)多孔質カーボン層で電気伝導度をより高くすることができる。
【0020】
さらにまた、本発明の色素増感太陽電池では、前記表面層は、平面視で横櫛の形状に形成され、背面電極の引出し側を相互に連結する前記横櫛における棟(背)の部分と、前記棟(背)の部分に所定間隔で、該棟(背)の部分から離反方向に延びる前記横櫛における歯の部分とを含むことを特徴とする。
【0021】
上記の構成によれば、背面電極として、貴金属微粒子を含み、1つの(下層の)全面の多孔質カーボン層上に形成されるもう1つの(表層の)多孔質カーボン層は、横櫛の形状をしており、そのため引出しの距離が短く、電気抵抗を少なくでき、また大きな開口で、前記電解液や色素を通り易くすることができる。さらに、貴金属の量を少なくして、コストも抑えることができる。
【0022】
また、本発明の色素増感太陽電池では、前記電解液は、該色素増感太陽電池の内部空間で、満充填よりも少なく充填され、前記多孔質絶縁層に浸透していることを特徴とする。
【0023】
さらにまた、本発明の色素増感太陽電池では、前記多孔質絶縁層は、その微細な孔に毛細管現象で前記電解液が染込み、前記電解液を表面張力で保持していることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の色素増感太陽電池の製造方法では、前記電解液を染込ませる工程では、該電解液が、その表面張力で保持できる量だけ、前記背面電極層から前記多孔質絶縁層および多孔質半導体層に染込ませられることを特徴とする。
【0025】
上記の構成によれば、電解液を内部空間に満充填するのではなく、それより少なく、多孔質半導体層と背面電極層との間に介在される多孔質絶縁層の微細な孔に、前記多孔質半導体層と背面電極層との間を電気的に接続できる程度に、電解液を染込ませる。具体的には、塗布(滴下)すると、電解液は多孔質絶縁層の微細な孔に毛細管現象により溢れない適度な量が染込み、表面張力で保持される(外には出なくなる)。そうして、外周縁の封止材から前記電解液を離間して保持する。
【0026】
したがって、元々、電解液の漏洩が無い固体・ゲル電解質に比べて、導電度が高く、太陽電池としての発電効率の高い液状電解質を用いつつも、電解液の漏洩を無くすことができる。また、含浸された電解液は、多孔質絶縁層を通り抜けて、背面電極層から多孔質半導体層(作用極層)を電気的に接続するので、電解液を用いる色素増感太陽電池としての通常の機能を実現(高い発電能力を発揮)することができる。一方、外周縁の封止材が、多孔質絶縁層から一定の距離をおいて(離間して)いることで、ヨウ素等の侵食性の強い化学物質が含まれる電解液と該封止材との直接の接触を回避することができるとともに、内部空間には真空あるいは気体の空間が存在することになり、電解液の熱膨張は前記空間が吸収し、封止材へのストレスを防止することができる。これによって、該色素増感太陽電池の信頼性を向上し、寿命も延ばすことができる。さらにまた、製造時には、電解液量がある程度ばらついてもよく、そのため電解液の射出精度が低くて済み、また或る程度の基板の反りも許容でき、電解液を塗布(滴下)するだけで容易に、先入れで充填することができる(すなわち、電解液の後入れ・エンドシール工程を省略できる)。これによって、製造工程を大幅に簡略化し、コストを低下し、歩留りも向上することができる。
【0027】
また、本発明の色素増感太陽電池の製造方法では、前記背面電極層としての前記多孔質カーボン層の形成後、前記多孔質半導体層に前記色素を吸着させる工程は、該色素を含有する溶液中に浸漬することで行われ、その際、振動および/または温度が加えられることを特徴とする。
【0028】
上記の構成によれば、絶縁層および背面電極まで、すなわち総ての層を形成した後、色素吸着を行わせるにあたって、その色素吸着工程を、前記総ての層を形成した基板を色素溶液に浸漬して行う場合、振動と温度との少なくとも一方を加えることで、浸透速度を向上することができる。
【0029】
さらにまた、本発明の色素増感太陽電池では、前記貴金属微粒子は、プラチナ、金、またはパラジウム(Pt,Au,Pd)の微粒子であることを特徴とする。
【0030】
また、本発明の色素増感太陽電池の製造方法では、前記金属レジネートは、プラチナ、金、またはパラジウム(Pt,Au,Pd)の液体のレジネートであり、前記カーボンペーストへの分散は、粉体のカーボンの溶媒への撹拌・混練後に、前記液体を注入・撹拌することで行われることを特徴とする。
【0031】
上記の構成によれば、導電性が高い貴金属であり、かつ金属レジネート(金属の有機化合物)を液体の状態で得られるので、カーボンペーストに極微量を均等に分散させることができ、好適である。また、カーボンペーストにするための混練時は、カーボンや樹脂の粉は粒が大きく、また溶媒も含めてバラバラの状態であり、金属レジネートを注入しても偏在する恐れがある。そのため、混練して液体状に完成したカーボンペーストに金属レジネートを混ぜて撹拌することで、金属レジネートをより均一に分散することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の色素増感太陽電池およびその製造方法は、以上のように、透明電極層が形成された透光性を有する基板上に多孔質半導体層が積層され、該多孔質半導体層は色素吸着され、さらに該多孔質半導体層と背面電極層との間に電解液を介在して成る色素増感太陽電池において、前記背面電極層が多孔質カーボン層から成る場合に、その多孔質カーボン層の基材となるカーボンペーストに、金属レジネートを分散しておき、それを焼成することで、該多孔質カーボン層に貴金属微粒子を担持させる。
【0033】
それゆえ、多孔質半導体層、多孔質絶縁層および背面電極層を、透明電極基板上への1または複数回の印刷および焼成で積層でき、プロセスの大幅な簡素化が可能なモノリシック型の色素増感太陽電池において、さらに発電部を染色する色素や電解液を滴下で染込ませられるようにするために背面電極層をポーラス状にしても、前記貴金属微粒子が電気伝導を補強し、したがって太陽電池内の抵抗を下げ、ロスを抑えて効率をアップすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の実施の一形態に係る色素増感太陽電池のセル構造を模式的に示す縦断面図である。
【
図3】背面電極層となる多孔質カーボン層の内部構造を模式的に示す断面図である。
【
図4】本発明の実施の他の形態に係る色素増感太陽電池のセル構造を模式的に示す水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の一形態に係る色素増感太陽電池1のセル構造を模式的に示す縦断面図であり、
図2は平面視の水平断面図である。
図1では、理解し易くするために、図の厚み方向を強調している。これらの
図1および
図2の模式図のレベルでは、本実施形態の色素増感太陽電池1は、特許文献2の
図1および
図2と同様に表れる。この色素増感太陽電池1は、モノリシック型で、大略的に、以下のようにして作成される。
【0036】
先ず、予めガラスメーカーで、太陽電池の波長に対する透光性を有する平板のガラス基板11上に、透明電極層12が形成されている。そのような基板は、市販のFTO(フッソドープ酸化スズ)やITO(インジウムドープ酸化スズ)等をスパッタしたガラスで実現することができる。
【0037】
次に、太陽電池メーカーでは、その透明電極層がレーザートリミング等でパターンニングされ、少なくともプラスマイナスの透明電極層12,13に形成される。その透明電極層12,13上に、多孔質(ポーラス状の)半導体層(作用極層)14、多孔質絶縁層15および背面電極(対極)層16が、印刷および焼成が適宜繰返されて、所望の厚さで順次積層形成される。詳しくは、微粒子酸化チタンペースト等により多孔質半導体層14のスクリーン印刷・焼成が、必要な厚さとなるように1または複数回行われる。次に、微粒子ジルコニアペースト等により多孔質絶縁層15のスクリーン印刷・焼成が、必要な厚さとなるように1または複数回行われる。続いて、導電性カーボンペースト等により背面電極層16のスクリーン印刷・焼成が、必要な厚さとなるように1または複数回行われる。多孔質半導体層14、多孔質絶縁層15および背面電極層16の間は、添加物によりずれが防止されている。
【0038】
そうすると、積層されている多孔質半導体層14、多孔質絶縁層15および背面電極層16は、ポーラス状(多孔質)であるので、総ての層12~16を形成した後、ガラス基板11を色素溶液槽に浸漬することにより、背面電極層16の表面から色素溶液を浸透させ、前記多孔質半導体層14に色素吸着させることができる。このとき、色素が結合するのはチタニア(多孔質半導体)層14のみで(エステル結合でチタニア表面に単一層で化学固定される)、浸透後、余剰となった色素溶液を洗い流すことで、多孔質絶縁層15および背面電極層16に該色素溶液はほとんど残らない。こうして、色素溶液に浸漬するだけで、背面電極層16の表面から該色素溶液は浸透し、極めて簡単に色素吸着を行わせることができる。この際、色素溶液は、多孔質である前記の各層16,15,14を浸透してゆくので、振動と温度との少なくとも一方を加えることで、浸透速度を向上することができる。
【0039】
その後、塗布機あるいは印刷機によって、周囲に接着性合成樹脂やガラスフリット等の封止材17が連続した堤となるように形成され、さらに前記の各層16,15,14が多孔質であるので、ディスペンサーによる塗布(滴下)によって電解液19が充填された後、平板のカバーガラス18で封止される。封止材17は、紫外線、加熱、レーザ等で固化されることで、ガラス基板11とカバーガラス18とを接合する。
【0040】
したがって、ガラス基板11上に、透明電極層12,13、多孔質半導体層14、多孔質絶縁層15および背面電極層16が順次積層されて成るモノリシック型の色素増感太陽電池において、多孔質半導体層14と背面電極層16との間を電気的に接続する多孔質絶縁層15に前記電解液19を充填するにあたって、背面電極層16を多孔質(ポーラス状の)カーボン層で形成することで、電解液19を該背面電極層16上に塗布(滴下)するだけで、該背面電極層16から前記多孔質絶縁層15および多孔質半導体層14にまで染込ませることができる。これによって、透明電極層12,13、多孔質半導体層14、多孔質絶縁層15および背面電極層16を、それぞれ1または複数回のスクリーン印刷および焼成で、順次積層形成することができる。
【0041】
そして、その電解液19を染込ませる工程では、電解液19を内部空間10に満充填するのではなく、それより少なく、多孔質半導体層14と背面電極層16との間に介在される多孔質絶縁層15の微細な孔に、該多孔質半導体層14と背面電極層16との間を電気的に接続できる程度に、電解液を染込ませる。具体的には、塗布(滴下)すると、電解液19は多孔質絶縁層15の微細な孔に毛細管現象により溢れない適度な量が染込み、表面張力で保持される(外には出なくなる)。そうして、外周縁の封止材17から前記電解液19を離間して保持することができる。
【0042】
これによって、元々、電解液の漏洩が無い固体・ゲル電解質に比べて、導電度が高く、太陽電池としての発電効率の高い液状電解質を用いつつも、電解液19の漏洩を無くすことができる。また、含浸された電解液19は、多孔質絶縁層15を通り抜けて、背面電極層16から多孔質半導体層(作用極層)14を電気的に接続するので、電解液19を用いる色素増感太陽電池としての通常の機能を実現(高い発電能力を発揮)することができる。一方、外周縁の封止材17が、多孔質絶縁層15から一定の距離をおいて(離間して)いることで、ヨウ素等の侵食性の強い化学物質が含まれる電解液19と該封止材17との直接の接触を回避することができるとともに、内部空間10には真空あるいは気体の空間が存在することになり、電解液19の熱膨張は前記空間が吸収し、封止材17へのストレスを防止することができる。これによって、該色素増感太陽電池1の信頼性を向上し、寿命も延ばすことができる。さらにまた、製造時には、電解液量がある程度ばらついてもよく、そのため電解液19の射出精度が低くて済み、また或る程度の基板11の反りも許容でき、電解液19を塗布(滴下)するだけで、容易に、先入れで充填することができる(すなわち、電解液の後入れ・エンドシール工程を省略できる)。これによって、製造工程を大幅に簡略化し、コストを低下し、歩留りも向上することができる。
【0043】
なお、残余の内部空間10は、真空から低圧、もしくは不揮発性(乾燥)ガスが充填されてもよい。そのような構成は、カバーガラス18を貼合せる際、そのような雰囲気中で行うことで実現することができる。真空に近くても、電解液19の溶媒に高沸点のものを使用することで、該電解液19が蒸散することもない(導電率が下がって発電効率が低下することはない)。
【0044】
前記封止材17による封止は、光硬化性のアクリレート樹脂、UV、熱併用硬化性のエポキシ変性アクリレート樹脂を硬化させ、あるいは低融点ガラスフリットを塗布してレーザ融着させることで実現することができる。前記色素吸着は、カルボキシル基を有するN719やN749ブラック色素などのルテニウム系色素、クマリン系色素、ポリフィン色素等を、ジメチルホルムアミドやメタノールなどの有機溶媒に溶解させて成る前記の色素溶液に、各層12~16が積層されたガラス基板11を浸漬し、乾燥させることで、微粒子チタニアの表面に前記の色素を吸着させることで行うことができる。電解液19には、アセトニトリルやメトキシプロピオニトリル等の溶媒に、ヨウ化カリウムやジメチルプロピオイミダゾリウムヨウ素等を溶解し、さらにターシャリーブチルアミン等を添加したものを用いることができる。
【0045】
また、前記背面電極層16には、4-スチレンスルホン酸をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(通称PEDOT/PSS)等の光透過性導電性ポリマーや、微粉末の導電性酸化インジウムスズ、カーボンナノファイバーを透明樹脂に分散した光透過性導電性インキを、パターン塗布して用いることができる。背面電極をこのような光透過性導電性電極で構成することにより、発電効率は多少低下するが、色素増感太陽電池にデザイン性を付与することができる。
【0046】
また、多孔質半導体層14と多孔質絶縁層15との間に、多孔質反射膜を形成してもよい。詳しくは、前記多孔質半導体層14の微粒子酸化チタンよりも粒子の大きい酸化チタンやジルコニア等は、光反射性の粒子であり、それらのペーストをスクリーン印刷・焼成し、5μm程度積層することで行うことができる。このように構成することで、透光性のガラス基板11側から入射した光で、多孔質半導体層(作用極層)14を透過してしまった光を、前記反射膜で前記多孔質半導体層14に戻すことができ、発電効率を、より高めることができる。また、反射膜も多孔質であるので、上述のように多孔質絶縁層15から多孔質半導体層14へ染込んでゆく電解液19や色素溶液が通過することもできる。
【0047】
上述のように構成される色素増感太陽電池1において、注目すべきは、本実施形態の色素増感太陽電池およびその製造方法によれば、前記背面電極層16が多孔質カーボン層から成るので、その多孔質カーボン層の基材となるカーボンペーストに、金属レジネート(金属の有機化合物)を分散しておくことである。前記金属レジネートは、たとえば食器の場合で、生地に金レジネート(液体)を塗布して、乾燥して、焼成すると、金の薄膜が残るように、通常は、電極や配線の金属薄膜の作成などに使用されるものである。本実施形態では、この金属レジネートの液体をカーボンペーストに分散させておくことで、焼成後、前記多孔質カーボン層に貴金属微粒子を担持させるものである。つまり、該金属レジネートを多孔質カーボン層における貴金属の微量添加剤として使用する。
【0048】
前記貴金属微粒子は、プラチナ、金、またはパラジウム(Pt,Au,Pd)の微粒子であり、それらは導電性が高い貴金属であり、かつ金属レジネート(金属の有機化合物)を液体の状態で得られるので、カーボンペーストに極微量を均等に分散させることができ、好適である。特に好ましくは、Ptレジネートであり、たとえば、Dysol(ダイソル)社製のPT-1が挙げられる。そのデータシートによれば、テルピネオールTerpineol 90-100%、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物Dihydrogen hexachloroplatinic (IV) hydrate H2PtCl6・6H2O 0.5-1.0%となっている。ヘキサクロロ白金は粉末で、テルピネオールは液体で、前記PT-1は、テルピネオール中にヘキサクロロ白金を溶かしたもので、若干粘性のある液体である。これを、一般的には、スクリーン印刷でガラスなどに、印刷、乾燥、焼成(400~500℃位)することで、白金の薄膜が得られている。なお、このPT-1は、構造的には有機酸にはなっていないが、レジネートは、一般的な粘調質のものを言うことがある。
【0049】
次に、一般的なスクリーン印刷で使用されるカーボンペースト(印刷なので、インキとも言う)の作成方法について説明する。代表的には、3本ロールミル装置を用い、予めビヒクル(溶媒中に樹脂を溶かしたもの)にカーボンの粉体を入れて、ヘラで撹拌した後、前記3本ロールミル装置で混練して作成する。この3本ロールミルを通すことで、当初は、粘度があり、凝集した状態から、ロールを通す毎に、凝集した粒がバラけ(「解砕」と言う)、その粉表面が溶媒や樹脂で濡れてゆき、光沢のあるペーストとなって、粘度も低くなる。カーボンの場合、混練が難しく、5回以上通すこともある。ロールの隙間を小さくしたり、通す回数を増やすことで、カーボンの粒子を極力小さくすることが好ましい。
【0050】
或いは、簡易的には、遊星撹拌装置を使用することができる。この遊星撹拌装置は、前記のビヒクルおよび粉体を容器に入れ、その容器を自転・公転させて、撹拌を行うものである。しかしながら、この遊星撹拌装置の通常の使用方法では、カーボンのような微細な粉末の混練は困難であるので、容器中に、さらにビーズを加える、所謂、「ビーズミル」という使い方でカーボンの混練が可能になる。その後、ステンレスメッシュやナイロンメッシュを使って、ビーズとペーストとを分離することができる。
【0051】
こうして撹拌・混練して作成されたカーボンペーストに、前記の金属レジネートを混合わせて攪拌することで、液中分散のように、均一な分散を容易に行うことができる。すなわち、前記のようなカーボンペーストにするための混練時は、カーボンや樹脂の粉は粒が大きく、また溶媒も含めてバラバラの状態であり、金属レジネートを注入しても偏在する恐れがある。
【0052】
以下に、本件発明者の実験結果を説明する。カーボンペーストの混練には、前記の3本ロールミル法を用いている。高密度ポリエチレン容器に、前記ビヒクルとして日新化成製EC-100FTDを80重量部入れ、カーボン粉としてオリオンエンジニアドカーボンズ株式会社製PRINTEX Lを60重量部入れ、スパチラで手攪拌し、予備混練を行う。続いて、得られた予備混練物を3本ロールミルに5回通し、カーボンペーストを得る。その際、印刷適正を与えるため、テルピネオールを適宜入れ、100dPa・Sに粘度調整を行った。こうして混練を終えたカーボンペーストにPtレジネート(前記DYESOL社製 PT-1)を、100重量部:2重量部で秤量し、シンキー製遊星攪拌装置にて、前記のビーズミル法で攪拌混合した。このカーボンペーストの焼成後の固形分比率は、カーボン:Ptで99.98:0.02であった。比較のため、Ptレジネートを入れていないカーボンペーストを作成している。それらのカーボンペーストで作成された背面電極層16を有する同じ構造の6直の太陽電池セルを作成した。電解液は、EiPs(エチルイソプロピルスルホン(ethyl isopropyl sulfone:EIPS))3を使用している。
【0053】
その結果、カーボン層の1層塗りでは、直列抵抗Rs(配線抵抗・電解液等を含む)が、レジネート無の920Ωから、レジネート有で654Ω、2層塗りでは、レジネート無の777Ωから、レジネート有で621Ωと、大幅に低下している。この直列抵抗Rsの低下による電力取出し効率の向上で、変換効率は、1層塗りでは、レジネート無の17.71%から、レジネート有で18.55%、2層塗りでは、レジネート無の18.45%から、レジネート有で18.77%と、大幅に向上している。したがって、レジネート有のカーボンペースト1層印刷品は、無の1層印刷品に対して、変換効率が0.84%上昇し、しかもレジネート無の2層印刷品を上回る変換効率が得られている。勿論、レジネート有の2層印刷品は、最高効率である。
【0054】
ここで、特開2010-203539号公報には、多孔質電極を、導電体の微粒子と触媒物質の微粒子との焼結体で形成することが示されている。そして、前記導電 体の微粒子としては、ITOまたはSnO2、または金属微粒子等であり、触媒物 質の微粒子は、Ptまたは炭素で構成されることが示されている。しかしながら、触媒物 質は、Ptであるが、微粒子である。
【0055】
図3は、前記背面電極層16となる多孔質カーボン層の内部構造を模式的に示す断面図である。カーボン粉は、原料の段階では、前記の通り、粘度があり、凝集した状態で10μm程度の粒径を有するが、前記「解砕」により細かくなる。そして、印刷、乾燥、焼成の工程を経ることで、樹脂が燃焼して、溶媒と共に抜け、本来、カーボンが持つストラクチャー構造により、
図3(a)のようにポーラスな構造となっている。その際、カーボン粒子は数十nm程度、アグリゲート(1次凝集体)、アグロメレート(2次凝集体)も存在する。一方、色素粒子も数nm~数十nmであるので、粒子の間を通過することができる。電気伝導性も有するものの、前記ポーラスな構造で抵抗値は高い。
【0056】
ここで、前記特開2010-203539号公報による微粒子Ptを、貴金属のままカーボンペーストに混込み、焼成すると、
図3(b)で示すようになると思われる。貴金属粒子は数μm程度の粒径があるので、色素粒子が通過し難く、染色に時間が掛る。また、電気伝導には、寄与するものの、部分的で、全体的に効果は小さい。つまり、純粋貴金属パウダーは、粒子も大きく、均等に分散させ難い。本件発明者の実験では、上述のようなPtが0.02%程度では効果は無く、添加量を多くしたり、Pt微粒子単独多孔質層を別途設けないと十分な触媒効果は得られなった。さらにまた、電解液のヨウ素で、一般的な金属であれば、腐食してしまう。
【0057】
これに対して、本実施形態の金属レジネートを用いる手法では、焼成後得られる貴金属微粒子は、原子レベルにまで分解することもあり、凝集して数個の原子が存在することが常であるので、数十nmであり、構造的に、
図3(c)で示すようになると思われる。つまり、液体の金属レジネート(金属の有機化合物)の形で練込んでおくことで、乾燥・焼成すると、カーボンペーストが多孔質(ポーラス状)になるとともに、金属レジネートの有機化合物は蒸発し、微小な貴金属粒子のみが多孔質(ポーラス状)のカーボン内に略均等に残留することになる。
【0058】
以上のように、本実施形態の色素増感太陽電池1およびその製造方法によれば、透明電極層12,13を有するガラス基板11の前記透明電極層12,13上に、多孔質半導体層14、多孔質絶縁層15および背面電極層16を、1または複数回の印刷および焼成で、順次積層してゆくことができ、プロセスの大幅な簡素化が可能なモノリシック型の色素増感太陽電池において、発電部を染色する色素や電解液19を浸透させられるようにするために背面電極層16をポーラス状とするにあたって、該背面電極層16の材料となるカーボンペーストに金属レジネート(金属の有機化合物の液体)の形態で貴金属を分散させて(練込んで)おくので、印刷した後、焼成すると、該背面電極層16には、単独の貴金属から成り、膜ではない微小な数十nmの粒子を担持させることができる。
【0059】
これによって、背面電極層16の電気伝導を補強し、したがって太陽電池1内の抵抗を下げ、ロスを抑えて効率をアップすることができる。また、その貴金属微粒子を含有しても、背面電極層は、変わらずポーラスな構造であり、さらに貴金属微粒子も小さいので、多孔質半導体層14の染料粒子が容易に通過でき、発電部を染色することが可能であるとともに、電解液19も該背面電極層上から滴下して、多孔質絶縁層15から多孔質半導体層14まで浸透させることができる。
【0060】
なお、上述の説明では、カーボンペーストを例示しているが、グラファイト粉(人造黒鉛等)を混ぜて印刷後の抵抗値を下げることも可能である。また、カーボンペースト内には、絶縁層(15)との密着力をアップするため、チタニア粉を混ぜることも可能である。さらに、分散剤を入れて粘度を下げることも可能である。
【0061】
(実施の形態2)
図4は本発明の実施の他の形態に係る色素増感太陽電池1aのセル構造を模式的に示す水平断面図である。縦断面図は、
図1とほぼ同様に表れる。
図4において、
図1および
図2の構成に類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。注目すべきは、本実施形態の色素増感太陽電池1aでは、背面電極層16aが、多孔質絶縁層15上の全面に形成される上述の多孔質カーボン層(16)と、その上の一部分に形成される表面層16a1とを備えて構成されることである。表面層16a1は、多孔質カーボン層(16)よりも前記貴金属微粒子の濃度が高い。該表面層16a1は、非常に薄いので、縦断面図は、上述のように、
図1とほぼ同様に表れる。
【0062】
本実施形態では、前記貴金属微粒子は、前記のプラチナの微粒子とし、焼成後の前記多孔質カーボン層(16)における重量%は、0より大きく、1以下(上述の例では0.02%)であるのに対して、前記表面層16a1における重量%は、2以上10以下とする。そのため、前記3本ロールミル法を用いて混練した後のカーボンペーストに、前記のビーズミル法で、Ptレジネートの少ないカーボンペーストと、多いカーボンペーストとの2種類を作成し、順次塗布する。
【0063】
これは、前記多孔質カーボン層(16)によって背面電極層16aの電気伝導度が向上するが、貴金属微粒子の濃度を高くする程、前記電気伝導度も向上する一方、貴金属微粒子の濃度が高くなる程、電解液や、特に色素の流れが悪くなるためである。そのため、上述のように、1つの(下層の)多孔質カーボン層(16)で背面電極層16aの全体の電気伝導度を向上しつつ、その表面を大きく開口するように、より貴金属微粒子の濃度の高いもう1つの多孔質カーボン層を表面層16a1として引き回すことで、前記電解液19や色素の良好な流れを確保しつつ、もう1つの(表層の)多孔質カーボン層(16a1)で電気伝導度を確保することができる。
【0064】
そして、
図4の例では、前記表面層16a1は、平面視で横櫛の形状に形成され、背面電極の引出し側を相互に連結する前記横櫛における棟(背)の部分16a2と、前記棟(背)の部分16a2に所定間隔で、該棟(背)の部分16a2から離反方向に延びる前記横櫛における歯の部分16a3とを備えて構成される。
【0065】
このように構成することで、引出しの距離を短く、したがって電気抵抗を少なくでき、また大きな開口で、前記電解液19や色素を通り易くすることができる。さらに、貴金属の量を少なくして、コストも抑えることができる。櫛の歯の部分16a3の幅WAと、その歯の部分16a3の間隔WBとは、基本的には、WA<WBであるが、たとえば多孔質カーボン層(16)の電気伝導度が高ければ、間隔WBを広く、或いは表面層16a1の電気伝導度がより高ければ、幅WAを狭くとのように、2層(16,16a1)の電気伝導度などに応じて定められればよい。また、同じ開口率でも、歯の部分16a3の幅WAと、ピッチ(間隔WB)とによって背面電極全体の電気伝導度が異なるが、あまりピッチ(間隔WB)を詰め過ぎると(歯の部分16a3の幅WAを狭くして、本数を多くすると)、色素が通り難くなる。
【0066】
上述の例では、プラチナ微粒子の焼成後の多孔質カーボン層(16)における重量%は、0より大きく、特に好ましい0.02%であるが、0.2%以下、すなわち、ペーストの状態で20重量%以下でもよい。
【符号の説明】
【0067】
1,1a 色素増感太陽電池
10 内部空間
11 ガラス基板
12,13 透明電極層
14 多孔質半導体層
15 多孔質絶縁層
16 背面電極層(多孔質カーボン層)
16a 背面電極層
16a1 表面層
16a2 棟(背)の部分
16a3 歯の部分
17 封止材
18 カバーガラス
19 電解液