(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115070
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】バンパ構造体、及び宇宙機
(51)【国際特許分類】
B64G 1/56 20060101AFI20240819BHJP
【FI】
B64G1/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020533
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】仲鉢 貴臣
(57)【要約】
【課題】さらに軽量化され、かつより安定的に衝撃を低減することが可能なバンパ構造体、及び宇宙機を提供する。
【解決手段】バンパ構造体は、内側に与圧空間を形成する主壁、及び主壁に対して間隔をあけて対向する外側バンパを有する宇宙機に取り付けられるバンパ構造体であって、主壁と外側バンパとを接続する複数のフレーム部材と、フレーム部材同士の間で、予め撓んだ状態で取り付けられている中間バンパと、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側に与圧空間を形成する主壁、及び該主壁に対して間隔をあけて対向する外側バンパを有する宇宙機に取り付けられるバンパ構造体であって、
前記主壁と前記外側バンパとを接続する複数のフレーム部材と、
該フレーム部材同士の間で、予め撓んだ状態で取り付けられている中間バンパと、
を備えるバンパ構造体。
【請求項2】
前記フレーム部材は、
フレーム部材本体と、
該フレーム部材本体から前記中間バンパに向かって突出する取付部と、
該取付部に対して前記中間バンパを固定する固定部と、
を有し、
互いに隣接する前記フレーム部材同士の間における一方の前記固定部から他方の前記固定部までの寸法よりも、前記中間バンパの寸法の方が大きく設定されることで、該中間バンパが撓んでいる請求項1に記載のバンパ構造体。
【請求項3】
前記フレーム部材は、
フレーム部材本体と、
該フレーム部材本体から前記中間バンパに向かって突出するとともに、前記フレーム部材本体に対して斜めに延びる傾斜面を有する取付部と、
該取付部に対して前記中間バンパを固定する固定部と、
を有し、
前記中間バンパの端縁が、前記取付部の傾斜面に沿って固定されることで、該中間バンパが撓んでいる請求項1に記載のバンパ構造体。
【請求項4】
前記取付部を前記フレーム部材本体に対して回動可能に支持する回動支持部をさらに備える請求項2又は3に記載のバンパ構造体。
【請求項5】
前記取付部、及び前記フレーム部材本体を接続する弾性部材をさらに備える請求項2又は3に記載のバンパ構造体。
【請求項6】
前記取付部、及び前記フレーム部材本体を接続する減衰部材をさらに備える請求項2又は3に記載のバンパ構造体。
【請求項7】
前記中間バンパと前記取付部とは互いに面接触した状態で前記固定部によって固定され、
前記固定部は、前記取付部、及び前記中間バンパを貫通するボルトを有し、前記取付部における前記ボルトが挿通される孔は前記取付部の延びる方向を長軸とする長円形をなしている請求項2又は3に記載のバンパ構造体。
【請求項8】
前記中間バンパは、
繊維材料で形成されたバンパ本体と、
少なくとも該バンパ本体における前記取付部側に偏った位置に一体に設けられ、前記繊維材料よりも低い剛性を有する材料で形成された低剛性部と、
を有する請求項2又は3に記載のバンパ構造体。
【請求項9】
内側に与圧空間を形成する主壁、及び該主壁に対して間隔をあけて対向する外側バンパを有する宇宙機に取り付けられるバンパ構造体であって、
前記主壁と前記外側バンパとを接続する複数のフレーム部材と、
該フレーム部材同士の間で、予め撓んだ状態で取り付けられている中間バンパと、
を備え、
前記フレーム部材は、
フレーム部材本体と、
該フレーム部材本体から前記中間バンパに向かって突出する取付部と、
該取付部に対して前記中間バンパを固定する固定部と、
を有し、
前記取付部を前記フレーム部材本体に対して回動可能に支持する回動支持部をさらに備えるバンパ構造体。
【請求項10】
内側に与圧空間を形成する主壁、及び該主壁に対して間隔をあけて対向する外側バンパを有する宇宙機に取り付けられるバンパ構造体であって、
前記主壁と前記外側バンパとを接続する複数のフレーム部材と、
該フレーム部材同士の間で、予め撓んだ状態で取り付けられている中間バンパと、
を備え、
前記フレーム部材は、
フレーム部材本体と、
該フレーム部材本体から前記中間バンパに向かって突出する取付部と、
該取付部に対して前記中間バンパを固定する固定部と、
を有し、
前記中間バンパは、
繊維材料で形成されたバンパ本体と、
少なくとも該バンパ本体における前記取付部側に偏った位置に一体に設けられ、前記繊維材料よりも低い剛性を有する材料で形成された低剛性部と、
を有するバンパ構造体。
【請求項11】
請求項1から3のいずれか一項に記載のバンパ構造体と、
前記主壁、及び前記外側バンパを有するとともに前記バンパ構造体が取り付けられる宇宙機本体と、
を備える宇宙機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バンパ構造体、及び宇宙機に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙空間を航行する宇宙機は、スペースデブリやメテオロイド等の飛翔体に衝突してしまうリスクに曝されている。このような飛翔体と衝突した際のリスクを下げるため、従来の宇宙機は、人員や貨物が搭載される与圧空間を形成する主壁と、主壁の外側に設けられたバンパを有することが一般的である。例えば下記特許文献1に係る技術では、主壁の外側にバンパとしての複数の層構造が設けられ、その1つには液体が充填されている。飛翔体が衝突した際には、層構造が衝撃の大部分を受け止めることで、主壁に及ぶ影響を小さく抑えることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のように複数の層構造を設け、かつその1つに液体を充填する場合、構造物全体の重量増加が問題となる。特に、重量当たりの打ち上げコストや燃料コストが高いことを考慮すると、宇宙機の軽量化は喫緊の課題と言える。
【0005】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、さらに軽量化され、かつより安定的に衝撃を低減することが可能なバンパ構造体、及び宇宙機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係るバンパ構造体は、内側に与圧空間を形成する主壁、及び該主壁に対して間隔をあけて対向する外側バンパを有する宇宙機に取り付けられるバンパ構造体であって、前記主壁と前記外側バンパとを接続する複数のフレーム部材と、該フレーム部材同士の間で、予め撓んだ状態で取り付けられている中間バンパと、を備える。
【0007】
本開示に係るバンパ構造体は、内側に与圧空間を形成する主壁、及び該主壁に対して間隔をあけて対向する外側バンパを有する宇宙機に取り付けられるバンパ構造体であって、前記主壁と前記外側バンパとを接続する複数のフレーム部材と、該フレーム部材同士の間で、予め撓んだ状態で取り付けられている中間バンパと、を備え、前記フレーム部材は、フレーム部材本体と、該フレーム部材本体から前記中間バンパに向かって突出する取付部と、該取付部に対して前記中間バンパを固定する固定部と、を有し、前記取付部を前記フレーム部材本体に対して回動可能に支持する回動支持部をさらに備える。
【0008】
本開示に係るバンパ構造体は、内側に与圧空間を形成する主壁、及び該主壁に対して間隔をあけて対向する外側バンパを有する宇宙機に取り付けられるバンパ構造体であって、前記主壁と前記外側バンパとを接続する複数のフレーム部材と、該フレーム部材同士の間で、予め撓んだ状態で取り付けられている中間バンパと、を備え、前記フレーム部材は、フレーム部材本体と、該フレーム部材本体から前記中間バンパに向かって突出する取付部と、該取付部に対して前記中間バンパを固定する固定部と、を有し、前記中間バンパは、繊維材料で形成されたバンパ本体と、少なくとも該バンパ本体における前記取付部側に偏った位置に一体に設けられ、前記繊維材料よりも低い剛性を有する材料で形成された低剛性部と、を有する。
【0009】
本開示に係る宇宙機は、上記のバンパ構造体と、前記主壁、及び前記外側バンパを有するとともに前記バンパ構造体が取り付けられる宇宙機本体と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、さらに軽量化され、かつより安定的に衝撃を低減することが可能なバンパ構造体、及び宇宙機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の第一実施形態に係る宇宙機の構成を示す模式図である。
【
図2】本開示の第一実施形態に係るバンパ構造体の構成を示す断面図である。
【
図3】本開示の第一実施形態に係るバンパ構造体の構成を示す平面図である。
【
図4】本開示の第一実施形態に係るバンパ構造体の変形例を示す断面図である。
【
図5】本開示の第二実施形態に係るバンパ構造体の構成を示す断面図である。
【
図6】本開示の第二実施形態に係るバンパ構造体の第一変形例を示す断面図である。
【
図7】本開示の第二実施形態に係るバンパ構造体の第二変形例を示す断面図である。
【
図8】本開示の第二実施形態に係るバンパ構造体の第三変形例を示す断面図である。
【
図9】本開示の第三実施形態に係るバンパ構造体の構成を示す平面図である。
【
図10】本開示の第三実施形態に係るバンパ構造体の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第一実施形態>
(宇宙機1の構成)
以下、本開示の第一実施形態に係る宇宙機1、及びバンパ構造体2について、
図1から
図3を参照して説明する。宇宙機1は、地上から打ち上げられた後、宇宙空間を航行する輸送機械である。
図1に示すように、宇宙機1は、宇宙機本体10と、推進装置11と、バンパ構造体2と、を備える。
【0013】
宇宙機本体10は、人員や貨物を搭載するための与圧空間を内部に有する容器状をなしている。与圧空間は、主壁12によって密封された空間である。宇宙機本体10の内部には、操縦装置や航法装置、生命維持装置等の各種機器も搭載されている。宇宙機本体10には、推進装置11が取り付けられている。推進装置11としては、固体燃料又は液体燃料をエネルギー源とするロケットエンジンが一例として挙げられれる。その他、推進装置11としてイオンエンジンを用いることも可能である。推進装置11を駆動することによって、宇宙機本体10の推進方向、速度が適宜調節される。
【0014】
(バンパ構造体2の構成)
宇宙機本体10の主壁12の外側には、当該主壁12の少なくとも一部を覆うようにしてバンパ構造体2が設けられている。バンパ構造体2は、スペースデブリやメテオロイド等の飛翔体から宇宙機本体10を保護するために設けられている。
図2に示すように、バンパ構造体2は、主壁12と、この主壁12の外側を覆う外側バンパ13との間に設けられている。より具体的には、バンパ構造体2は、フレーム部材21と、中間バンパ22と、を有する。
【0015】
フレーム部材21は、外側バンパ13と主壁12との間を接続する梁状の部材である。つまり、外側バンパ13と主壁12との間には、複数のフレーム部材21が間隔をあけて配列されている。フレーム部材21は、フレーム部材本体31と、取付部32と、固定部33と、を有する。フレーム部材本体31は、主壁12から外側バンパ13に向かって延びている。また、
図3に示すように、フレーム部材本体31は、外側から見てI字型をなしている。具体的には、フレーム部材本体31は、主壁12の面方向に延びる柱状部34と、この柱状部34の両端に一体に設けられたフランジ部35と、を有する。フランジ部35には、取付部32が設けられている。取付部32は、互いに隣接する一対の柱状部34同士の間で、一方側のフランジ部35から他方側のフランジ部35に向かう方向に斜めに突出している。
【0016】
取付部32の先端(つまり、フランジ部35と接続されている側とは反対側の端部)には、固定部33を介して中間バンパ22が固定されている。固定部33は、ボルト40と、不図示のナットと、を有する。ボルト40は、取付部32に形成された孔36に挿通されている。ナットは、ボルト40の先端部に螺合することで、中間バンパ22と取付部32とを一体に締結固定している。
【0017】
中間バンパ22は、例えば矩形の膜状をなす繊維材料で形成されている。繊維材料としてはアルミナ繊維や超高分子量ポリエチレン繊維等が好適に用いられる。これらの繊維材料を編み込むことによって膜状の中間バンパ22が形成されている。
図2に示すように、中間バンパ22は、取付部32に固定された状態で、予め撓んだ状態となっている。より具体的には、中間バンパ22の中央部が主壁12側に凸となるように撓んだ状態とされている。このような撓みは、取付部32同士の間の離間寸法よりも、中間バンパ22自体の製造時の寸法を大きく設定することで実現されている。このように撓んだ状態で中間バンパ22が支持されていることによって、当該中間バンパ22は外力によってわずかに変形することが可能である。特に、中間バンパ22の面内方向への伸縮変形に加えて、撓みが大きくなる方向への変形(面外変形)も生じやすくなっている。さらに言い換えれば、中間バンパ22は、張力を伴って支持されていないことから、剛性が極めて低い状態となっている。
【0018】
(作用効果)
宇宙空間を航行する宇宙機1は、スペースデブリやメテオロイド等の飛翔体に衝突してしまうリスクに曝されている。このような飛翔体と衝突した際に、衝撃によって与圧空間が破壊されてしまうリスクを下げるため、従来の宇宙機1は、人員や貨物が搭載される与圧空間を形成する主壁12と、主壁12の外側に設けられたバンパを有することが一般的であった。特に、多数の層構造をバンパに持たせることによって耐衝撃性能を向上させることが主流であった。しかしながら、層の数を増やすほど宇宙機1全体の重量増加を招いてしまうという課題があった。特に、重量当たりの打ち上げコストや燃料コストが高いことを考慮すると、宇宙機1の軽量化は喫緊の課題と言える。そこで、本実施形態に係るバンパ構造体2は上述の各構成を採用している。
【0019】
以下では、飛翔体が外側バンパ13を貫通して中間バンパ22に到達した際の挙動について説明する。上記構成によれば、中間バンパ22が予め撓んだ状態で取り付けられている。つまり、中間バンパ22は、外力によってさらに変形する余地を伴って取付部32に支持されている。これにより、飛翔体が中間バンパ22に衝突した際には、中間バンパ22が面外変形を生じやすくなる。面外変形とは、中間バンパ22の面に対する法線方向成分を含む変形である。一例として、中間バンパ22の撓みがさらに大きくなる方向への三次元的な変形が挙げられる。このような面外変形が生じる際には、飛翔体を包み込むようにして中間バンパ22が変形するため、当該飛翔体と中間バンパ22との接触時間や衝撃の伝搬時間が長くなる。つまり、同じ運動量の飛翔体から受ける力積のうちの時間成分が相対的に大きくなるため、結果として衝撃力が低減される。その結果、飛翔体やその飛散物の速度を大きく下げることが可能となる。したがって、これら飛翔体や飛散物が中間バンパ22を貫通して主壁12に到達してしまう可能性を低減することができる。特に、中間バンパ22に撓みを持たせることのみによって上記のような保護性能の向上を実現できることから、部品点数を削減することができる。これにより、宇宙機1のさらなる軽量化を達成することができる。したがって、宇宙機1の打ち上げコストの低減や、航続距離、航行速度の向上を実現することが可能となる。
【0020】
さらに、上記構成によれば、固定部33同士の間の寸法よりも中間バンパ22の寸法を大きく設定することのみによって、当該中間バンパ22が撓んだ状態を容易かつ安価に実現することができる。これにより、製造コストやメンテナンスコストを削減することができる。さらには、中間バンパ22にあえて撓みを持たせることから、中間バンパ22を製造する際に過度な寸法精度や形状精度が要求されることがない。これにより、製造コストやメンテナンスコストをさらに削減できるとともに、製造やメンテナンスに要する工数も削減することが可能となる。
【0021】
以上、本開示の第一実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、変形例として
図4に示す構成を採ることも可能である。同図の例では、取付部132の構成が第一実施形態とは異なっている。具体的には、取付部132は、フレーム部材21に対して傾斜する方向に延びる傾斜面133を有している。中間バンパ22の端部は、この傾斜面133に沿って取り付けられている。したがって、中間バンパ22の中央部と端部とを比較すると、端部では傾斜の分だけ中間バンパ22が撓んだ状態となっている。このような構成によっても上述したものと同様の作用効果を得ることができる。加えて、上記のような取付部132の寸法体格を一律に定めることで、中間バンパ22に生じる撓み量も各所で一定に揃えることができる。これにより、中間バンパ22の取り付けられる位置による保護性能のばらつきを抑えることができる。したがって、宇宙機1をより安定的に飛翔体から保護することが可能となる。また、製造やメンテナンスに際しての作業者ごとの取付誤差の発生も抑制することができる。これにより、中間バンパ22の取り付け、交換を一定の品質のもとで円滑かつ効率的に行うことができる。
【0022】
<第二実施形態>
次に、本開示の第二実施形態について、
図5を参照して説明する。なお、上記第一実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。同図に示すように、本実施形態に係るバンパ構造体2は、第一実施形態で説明した各構成に加えて、回動支持部50をさらに備えている。
【0023】
回動支持部50は、取付部32と、フレーム部材21との間に設けられている。つまり、取付部32は、フレーム部材21に対して相対回転可能に支持されている。回動支持部50の回動軸Xは、主壁12又は外側バンパ13の延びる方向に沿っている。言い換えれば、取付部32は主壁12に対して近接、又は離間する方向に回動自在である。さらに、本実施形態では、中間バンパ22が取付部32同士の間で撓みを伴わずに支持されている。なお、ここで言う撓みを伴わない状態とは、中間バンパ22に生じる張力がゼロよりもわずかに大きい状態を指している。
【0024】
(作用効果)
上記構成によれば、飛翔体が中間バンパ22に衝突した際に、衝撃によって取付部32が回動支持部50の回動軸X回りに回動する。これにより、中間バンパ22自体に加わる衝撃力の一部は、取付部32の回動によって吸収される。つまり、中間バンパ22が見かけ上、柔な構造によって支持されていることとなる。その結果、例えば中間バンパ22が剛な構造によって支持されている構成に比べて、衝撃吸収性をさらに高めることができる。これにより、飛翔体が中間バンパ22を貫通して主壁12に到達してしまう可能性が低減される。したがって、宇宙機1をさらに安定的に飛翔体から保護することができる。
【0025】
以上、本開示の第二実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。
【0026】
例えば、第一変形例として
図6に示す構成を採ることが可能である。同図の例では、取付部32とフレーム部材21との間に弾性部材60が設けられている。弾性部材60は、取付部32の回動方向の両側に1つずつ設けられている。弾性部材60としてはコイルバネや板ばねが好適に用いられる。この構成によれば、取付部32とフレーム部材本体31の間に弾性部材60を取り付けることで、中間バンパ22に衝撃が加わった際の変形に対する剛性を適正に調節することが可能となる。つまり、弾性部材60の弾性係数を変えることによって中間バンパ22の見かけ上の剛性を精緻に設定することが可能となる。さらに、弾性部材60が設けられていることによって取付部32の回動がわずかに規制されることから、外部から加わる振動や音響振動の特定の周波数に対してバンパ構造体2が共振してしまう可能性を低減することもできる。これにより、宇宙機1をより効率的かつ安定的に航行させることが可能となる。
【0027】
さらに、第二変形例として
図7に示す構成を採ることも可能である。同図の例では、第一変形例で説明した弾性部材60に代えて、取付部32とフレーム部材21との間に減衰部材70が取り付けられている。減衰部材70としては油圧シリンダや空気シリンダが挙げられる。この構成によれば、取付部32とフレーム部材本体31の間に減衰部材70を取り付けることで、中間バンパ22に衝撃が加わった際の変形に対する剛性を適正に調節することが可能となる。さらに、減衰部材70によって衝撃力が大きく減衰されることから、中間バンパ22による衝撃吸収性能をさらに向上させることも可能となる。なお、弾性部材60と減衰部材70とを併設することも可能である。この場合、弾性復元力と減衰力とに基づいて、中間バンパ22の耐衝撃性能をさらに精緻にコントロールすることができる。
【0028】
また、第三変形例として
図8に示す構成を採ることも可能である。同図の例では、取付部32におけるボルト40(固定部33)が挿通される孔36が、当該取付部32の延びる方向を長軸とする長円形をなしている。つまり、ボルト40は長孔に挿通されている。また、中間バンパ22と取付部32とは互いに面接触している。この構成によれば、取付部32と中間バンパ22を固定するボルト40は、当該取付部32の長円形の孔36に挿通されている。したがって、中間バンパ22は、取付部32に対して孔36の長軸方向の寸法分だけ相対変位することが可能である。これにより、中間バンパ22に衝撃が加わった際には、当該中間バンパ22と取付部32が相対変位する際の摩擦力によって衝撃を減衰させることができる。したがって、中間バンパ22の保護性能をさらに向上させることが可能となる。
【0029】
<第三実施形態>
続いて、本開示の第三実施形態について、
図9を参照して説明する。なお、上記の各実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。同図に示すように、本実施形態に係るバンパ構造体2では、中間バンパ22の構成が上記の各実施形態とは異なっている。具体的には、この中間バンパ22は、バンパ本体81と、低剛性部82と、を有する。
【0030】
バンパ本体81は、上述の各実施形態で説明したものと同様に繊維材料で形成された膜状をなしている。低剛性部82は、このバンパ本体81における取付部32の近傍に一体に設けられている。
図9の例では、低剛性部82は、取付部32のボルト40が挿通される三角形の部分(バンパ本体81の一部)と、バンパ本体81の中央部を形成する八角形の部分との間に介在している。つまり、取付部32にかかる荷重方向に対して交差する方向に低剛性部82が延びている。さらに言い換えれば、低剛性部82は、バンパ本体81における取付部32側に偏った位置に設けられている。低剛性部82の具体例としてはゴムやシリコン等のように弾性変形可能で、かつバンパ本体81を形成する繊維材料よりも剛性が低い樹脂材料等が挙げられる。
【0031】
(作用効果)
上記構成によれば、中間バンパ22に衝撃が加わった際に、バンパ本体81の伸縮変形や面外変形に先立って、低剛性部82が優先的に変形することで、バンパ本体81に加わる衝撃を低減することができる。したがって、耐衝撃性能に加えて、中間バンパ22の耐久性が向上して、より長期にわたってバンパ構造体2による保護性能を維持することができる。その結果、宇宙機1のメンテナンスコストを低減することが可能となる。
【0032】
以上、本開示の第三実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、第三実施形態の変形例として
図10に示す構成を採ることが可能である。同図の例では、矩形をなす中間バンパ22の4つの角部における三角形の部分全体が低剛性部82によって構成されている。つまり、低剛性部82が取付部32に対して固定されている。このような構成によっても上述したものと同様の作用効果を得ることができる。
【0033】
<その他の実施形態>
上記の各実施形態に共通する変形例、又は実施形態として、以下の各構成を採ることが可能である。
【0034】
例えば、上述の各実施形態で説明した宇宙機1の形状は一例であり、設計や仕様に応じて適宜決定されてよい。また、宇宙機本体10として、輸送機械に代えて人工衛星にバンパ構造体2を適用することも可能である。この場合であっても、スペースデブリ等の飛翔体の衝突リスクは同等であることから、バンパ構造体2による保護性能の向上を図る意義がある。
【0035】
また、飛翔体の例としてスペースデブリやメテオロイドを例に説明したが、他の例として、人工衛星等から人為的に発射された物体から宇宙機1を保護することを目的としても、上記のバンパ構造体2は有効に機能する。
【0036】
さらに、中間バンパ22が設けられる範囲や面積、位置は
図1の例によっては限定されず、宇宙機本体10の全体をバンパ構造体2によって覆う構成を採ることも可能である。
【0037】
また、上記の第一実施形態で説明した中間バンパ22の撓みの形状は一例であって、他の例として波型に撓んでいてもよいし、不規則に撓みが形成されている状態でもよい。この場合でも、上述したものと同様の作用効果を得ることができる。
【0038】
さらに、中間バンパ22の形状は、上記の各実施形態で説明した矩形に限定されない。バンパ構造体2が設けられる位置や形状に応じて、多角形状や円形状をなしていてもよい。また、重量増加が許容される限りにおいて、中間バンパ22を複数層設けることも可能である。
【0039】
また、上記の第一実施形態で説明した、撓みを有する中間バンパ22を第二実施形態や第三実施形態の各構成と組み合わせて適用することも可能である。この構成によれば、中間バンパ22による保護性能をさらに向上させることができる。
【0040】
さらに、第一実施形態の変形例で説明した中間バンパ22の撓みの方向(つまり、取付部32の傾斜面133の傾斜方向)は一例であって、反対の方向に撓んでいてもよい。この構成であっても、上述したものと同様の作用効果を得ることが可能である。
【0041】
加えて、中間バンパ22の材質は、上述した繊維材料に必ずしも限定されない。他の例として、撓ませることが可能な柔軟な特性を有する樹脂材料による一様なシートや、金属性のメッシュ等を用いることも可能である。この場合であっても、上述したものと同様の作用効果を得ることができる。
【0042】
<付記>
各実施形態に記載のバンパ構造体2、及び宇宙機1は、例えば以下のように把握される。
【0043】
(1)第1の態様に係るバンパ構造体2は、内側に与圧空間を形成する主壁12、及び該主壁12に対して間隔をあけて対向する外側バンパ13を有する宇宙機1に取り付けられるバンパ構造体2であって、前記主壁12と前記外側バンパ13とを接続する複数のフレーム部材21と、該フレーム部材21同士の間で、予め撓んだ状態で取り付けられている中間バンパ22と、を備える。
【0044】
上記構成によれば、中間バンパ22が予め撓んだ状態で取り付けられている。これにより、飛翔体が中間バンパ22に衝突した際には、中間バンパ22が面外変形を生じやすくなる。面外変形が生じると、飛翔体と中間バンパ22との接触時間や衝撃の伝搬時間が長くなる。その結果、飛翔体やその飛散物の速度を大きく下げることが可能となる。したがって、これら飛翔体や飛散物が中間バンパ22を貫通して主壁12に到達してしまう可能性を低減することができる。特に、中間バンパ22を撓ませることのみによって上記のような保護性能の向上を実現できることから、部品点数を削減することができる。これにより、宇宙機1の軽量化を実現することが可能となる。
【0045】
(2)第2の態様に係るバンパ構造体2は、(1)のバンパ構造体2であって、前記フレーム部材21は、フレーム部材本体31と、該フレーム部材本体31から前記中間バンパ22に向かって突出する取付部32と、該取付部32に対して前記中間バンパ22を固定する固定部33と、を有し、互いに隣接する前記フレーム部材21同士の間における一方の前記固定部33から他方の前記固定部33までの寸法よりも、前記中間バンパ22の寸法の方が大きく設定されることで、該中間バンパ22が撓んでいる。
【0046】
上記構成によれば、固定部33同士の間の寸法よりも中間バンパ22の寸法を大きく設定することのみによって、当該中間バンパ22が撓んだ状態を容易かつ安価に実現することができる。これにより、製造コストやメンテナンスコストを削減することができる。
【0047】
(3)第3の態様に係るバンパ構造体2は、(1)のバンパ構造体2であって、前記フレーム部材21は、フレーム部材本体31と、該フレーム部材本体31から前記中間バンパ22に向かって突出するとともに、前記フレーム部材本体31に対して斜めに延びる傾斜面133を有する取付部32と、該取付部32に対して前記中間バンパ22を固定する固定部33と、を有し、前記中間バンパ22の端縁が、前記取付部32の傾斜面133に沿って固定されることで、該中間バンパ22が撓んでいる。
【0048】
上記構成によれば、取付部32の傾斜面133に合わせて中間バンパ22を取り付けることによって、当該中間バンパ22に撓みを持たせることができる。また、取付部32の寸法体格を一律に定めることで、中間バンパ22に生じる撓み量も各所で一定に揃えることができる。これにより、中間バンパ22の取り付けられる位置による保護性能のばらつきを抑えることができる。したがって、宇宙機1をより安定的に飛翔体から保護することが可能となる。
【0049】
(4)第4の態様に係るバンパ構造体2は、(2)又は(3)のバンパ構造体2であって、前記取付部32を前記フレーム部材本体31に対して回動可能に支持する回動支持部50をさらに備える。
【0050】
上記構成によれば、飛翔体が中間バンパ22に衝突した際に、衝撃によって取付部32が回動支持部50の回動軸X回りに回動する。つまり、中間バンパ22が見かけ上、柔な構造によって支持されていることとなる。これにより、例えば中間バンパ22が剛な構造によって支持されている構成に比べて、衝撃吸収性をさらに高めることができる。したがって、宇宙機1をさらに安定的に飛翔体から保護することができる。
【0051】
(5)第5の態様に係るバンパ構造体2は、(2)から(4)のいずれか一態様に係るバンパ構造体2であって、前記取付部32、及び前記フレーム部材本体31を接続する弾性部材60をさらに備える。
【0052】
上記構成によれば、取付部32とフレーム部材本体31の間に弾性部材60を取り付けることで、中間バンパ22に衝撃が加わった際の変形に対する剛性を適正に調節することが可能となる。さらに、外部から加わる振動や音響振動の特定の周波数に対してバンパ構造体2が共振してしまう可能性を低減することができる。
【0053】
(6)第6の態様に係るバンパ構造体2は、(2)から(5)のいずれか一態様に係るバンパ構造体2であって、前記取付部32、及び前記フレーム部材本体31を接続する減衰部材70をさらに備える。
【0054】
上記構成によれば、取付部32とフレーム部材本体31の間に減衰部材70を取り付けることで、中間バンパ22に衝撃が加わった際の変形に対する剛性を適正に調節することが可能となる。さらに、減衰部材70によって衝撃力が大きく減衰されることから、中間バンパ22による衝撃吸収性能をさらに向上させることも可能となる。
【0055】
(7)第7の態様に係るバンパ構造体2は、(2)から(6)のいずれか一態様に係るバンパ構造体2であって、前記中間バンパ22と前記取付部32とは互いに面接触した状態で前記固定部33によって固定され、前記固定部33は、前記取付部32、及び前記中間バンパ22を貫通するボルト40を有し、前記取付部32における前記ボルト40が挿通される孔36は前記取付部32の延びる方向を長軸とする長円形をなしている。
【0056】
上記構成によれば、中間バンパ22と取付部32が面接触した状態で固定されている。さらに、取付部32と中間バンパ22を固定するボルト40は、当該取付部32の長円形の孔36に挿通されている。したがって、中間バンパ22は、取付部32に対して孔36の長軸の分だけ相対変位することが可能である。これにより、中間バンパ22に衝撃が加わった際には、当該中間バンパ22と取付部32が相対変位する際の摩擦力によって衝撃を減衰させることができる。これにより、中間バンパ22の保護性能をさらに向上させることが可能となる。
【0057】
(8)第8の態様に係るバンパ構造体2は、(2)から(7)のいずれか一態様に係るバンパ構造体2であって、前記中間バンパ22は、繊維材料で形成されたバンパ本体81と、少なくとも該バンパ本体81における前記取付部32側に偏った位置に一体に設けられ、前記繊維材料よりも低い剛性を有する材料で形成された低剛性部82と、を有する。
【0058】
上記構成によれば、中間バンパ22に衝撃が加わった際に、低剛性部82が優先的に変形することで、バンパ本体81に加わる衝撃を低減することができる。したがって、中間バンパ22の耐久性が向上して、より長期にわたってバンパ構造体2による保護性能を維持することができる。
【0059】
(9)第9の態様に係るバンパ構造体2は、内側に与圧空間を形成する主壁12、及び該主壁12に対して間隔をあけて対向する外側バンパ13を有する宇宙機1に取り付けられるバンパ構造体2であって、前記主壁12と前記外側バンパ13とを接続する複数のフレーム部材21と、該フレーム部材21同士の間で、予め撓んだ状態で取り付けられている中間バンパ22と、を備え、前記フレーム部材21は、フレーム部材本体31と、該フレーム部材本体31から前記中間バンパ22に向かって突出する取付部32と、該取付部32に対して前記中間バンパ22を固定する固定部33と、を有し、前記取付部32を前記フレーム部材本体31に対して回動可能に支持する回動支持部50をさらに備える。
【0060】
上記構成によれば、飛翔体が中間バンパ22に衝突した際に、衝撃によって取付部32が回動支持部50の回動軸X回りに回動する。つまり、中間バンパ22が見かけ上、柔な構造によって支持されていることとなる。これにより、例えば中間バンパ22が剛な構造によって支持されている構成に比べて、衝撃吸収性をさらに高めることができる。したがって、宇宙機1をさらに安定的に飛翔体から保護することができる。
【0061】
(10)第10の態様に係るバンパ構造体2は、内側に与圧空間を形成する主壁12、及び該主壁12に対して間隔をあけて対向する外側バンパ13を有する宇宙機1に取り付けられるバンパ構造体2であって、前記主壁12と前記外側バンパ13とを接続する複数のフレーム部材21と、該フレーム部材21同士の間で、予め撓んだ状態で取り付けられている中間バンパ22と、を備え、前記フレーム部材21は、フレーム部材本体31と、該フレーム部材本体31から前記中間バンパ22に向かって突出する取付部32と、該取付部32に対して前記中間バンパ22を固定する固定部33と、を有し、前記中間バンパ22は、繊維材料で形成されたバンパ本体81と、少なくとも該バンパ本体81における前記取付部32側に偏った位置に一体に設けられ、前記繊維材料よりも低い剛性を有する材料で形成された低剛性部82と、を有する。
【0062】
上記構成によれば、中間バンパ22に衝撃が加わった際に、低剛性部82が優先的に変形することで、バンパ本体81に加わる衝撃を低減することができる。したがって、中間バンパ22の耐久性が向上して、より長期にわたってバンパ構造体2による保護性能を維持することができる。
【0063】
(11)第11の態様に係るバンパ構造体2は、(1)から(10)のいずれか一態様に係るバンパ構造体2と、前記主壁12、及び前記外側バンパ13を有するとともに前記バンパ構造体2が取り付けられる宇宙機本体10と、を備える。
【0064】
上記構成によれば、飛翔体の衝突に対して高いロバスト性を有する堅牢な宇宙機1を提供することができる。
【符号の説明】
【0065】
1…宇宙機 2…バンパ構造体 10…宇宙機本体 11…推進装置 12…主壁 13…外側バンパ 21…フレーム部材 22…中間バンパ 31…フレーム部材本体 32…取付部 33…固定部 34…柱状部 35…フランジ部 36…孔 40…ボルト 50…回動支持部 60…弾性部材 70…減衰部材 81…バンパ本体 82…低剛性部 132…取付部 133…傾斜面 X…回動軸