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  • 特開-水硬性組成物用表面美観向上剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115077
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】水硬性組成物用表面美観向上剤
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/02 20060101AFI20240819BHJP
   C04B 24/08 20060101ALI20240819BHJP
   C04B 24/16 20060101ALI20240819BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20240819BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20240819BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240819BHJP
   G01N 13/02 20060101ALN20240819BHJP
【FI】
C04B24/02
C04B24/08
C04B24/16
C04B24/26 E
C04B24/26 F
C04B24/26 G
C04B24/26 B
C04B24/32 A
C04B28/02
G01N13/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020544
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(74)【代理人】
【識別番号】100203242
【弁理士】
【氏名又は名称】河戸 春樹
(72)【発明者】
【氏名】名越 悠登
(72)【発明者】
【氏名】川上 博行
(72)【発明者】
【氏名】島田 恒平
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MD01
4G112PB15
4G112PB22
4G112PB29
4G112PB31
4G112PB32
4G112PB37
4G112PC03
(57)【要約】
【課題】水硬性組成物の硬化体表面の気泡痕の原因となる、水硬性組成物中の気泡の挙動を制御して、前記硬化体の表面美観を向上させることのできる、水硬性組成物用表面美観向上剤の提供。
【解決手段】(A)特定の要件(i)、(ii)を満たす界面活性剤を含有する、水硬性組成物用表面美観向上剤。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記要件(i)、(ii)を満たす界面活性剤〔以下、(A)成分〕を含有する、(B)空気連行剤〔以下、(B)成分〕と併用するための水硬性組成物用表面美観向上剤。
〔要件(i)〕
0.3質量%濃度の(A)成分水溶液をバブルプレッシャー法(20℃)により測定したとき、前記(A)成分水溶液の泡膜寿命10msにおける動的表面張力(σa)と、前記(B)成分水溶液における動的表面張力(σb)とが、σb≦σaの関係を満たすものである。
〔要件(ii)〕
0.3質量%濃度の(A)成分水溶液をバブルプレッシャー法(20℃)により測定したとき、泡膜寿命1000msにおける動的表面張力(σa)が28mN/m以下である。
【請求項2】
(A)成分が、下記要件(iii)を満たすものである、請求項1記載の水硬性組成物用表面美観向上剤。
〔要件(iii)〕
(A)成分の拡散係数(Da)と(B)成分の拡散係数(Db)において、Da<Dbの関係を満たす。
【請求項3】
(A)成分が、アルキル基の炭素数が8以上12以下であり、エチレンオキシドの平均付加モル数が1以上6以下の、ポリオキシエチレンアルキルエーテルである、請求項1又は2記載の水硬性組成物用表面美観向上剤。
【請求項4】
併用される(B)成分が、ロジン酸、ポリエチレングリコールアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン(2)ラウリル硫酸ナトリウム、ポリエチレングリコールアルキルエーテルリン酸塩から選ばれる1種以上である、請求項1~3の何れか1項記載の水硬性組成物用表面美観向上剤。
【請求項5】
更に、セメント分散剤を含有する、請求項1~4の何れか1項に記載の水硬性組成物用表面美観向上剤。
【請求項6】
セメント分散剤が、下記一般式(1c)で示される単量体(1c)と、下記一般式(2c)で示される単量体(2c)とを構成単量体として含む共重合体である、請求項5に記載の水硬性組成物用表面美観向上剤。
【化1】

〔式中、
1c、R2c、R3c:同一でも異なっていても良く、水素原子、メチル基又は(CH2)rCOOM2であり、(CH2)rCOOM2は、COOM1又は他の(CH2)rCOOM2と無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM1、M2は存在しない。
1、M2:同一でも異なっていても良く、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、置換アルキルアンモニウム基、アルキル基、ヒドロアルキル基又はアルケニル基
r:0以上2以下の数
を示す。〕
【化2】

〔式中、
4c、R5c: 同一でも異なっていても良く、水素原子又はメチル基
6c:水素原子又は-COO(AO)n17c
7c:水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基
AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基
n1:AOの平均付加モル数であり、4以上200以下の数
q1:0以上2以下の数
p1:0又は1
を示す。〕
【請求項7】
更に、下記一般式(d)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物を含有する、請求項1~4の何れか1項に記載の水硬性組成物用表面美観向上剤。
1d-O-[(EO)n・(PO)m]-SO3M (d)
〔式中、R1dは炭素数4以上20以下の炭化水素基、EOはエチレンオキシ基、POはプロピレンオキシ基、nはEOの平均付加モル数で1以上50以下の数、mはPOの平均付加モル数で0以上10以下の数であり、EOとPOはブロック又はランダムに結合してもよい。〕
【請求項8】
(A)下記要件(i)、(ii)を満たす界面活性剤〔以下、(A)成分〕、(B)空気連行剤〔以下、(B)成分〕、水硬性粉体、及び水を含有する、水硬性組成物。
〔要件(i)〕
0.3質量%濃度の(A)成分水溶液をバブルプレッシャー法(20℃)により測定したとき、前記(A)成分水溶液の泡膜寿命10msにおける動的表面張力(σa)と、前記(B)成分水溶液における動的表面張力(σb)とが、σb≦σaの関係を満たすものである。
〔要件(ii)〕
0.3質量%濃度の(A)成分水溶液の泡膜寿命1000msにおける動的表面張力(σa)が28mN/m以下である。
【請求項9】
(A)下記要件(i)、(ii)を満たす界面活性剤〔以下、(A)成分〕、(B)空気連行剤〔以下、(B)成分〕、水硬性粉体と、水とを混合して水硬性組成物を調製する工程、
調製された前記水硬性組成物を型枠に充填し、硬化させる工程、
硬化した前記水硬性組成物を脱型する工程、
を有する水硬性組成物の硬化体の製造方法。
〔要件(i)〕
0.3質量%濃度の(A)成分水溶液をバブルプレッシャー法(20℃)により測定したとき、前記(A)成分水溶液の泡膜寿命10msにおける動的表面張力(σa)と、前記(B)成分水溶液における動的表面張力(σb)とが、σb≦σaの関係を満たすものである。
〔要件(ii)〕
0.3質量%濃度の(A)成分水溶液をバブルプレッシャー法(20℃)により測定したとき、泡膜寿命1000msにおける動的表面張力(σa)が28mN/m以下である。
【請求項10】
(A)下記要件(i)、(ii)を満たす界面活性剤〔以下、(A)成分〕、及び(B)空気連行剤〔以下、(B)成分〕を添加する、水硬性組成物の表面美観向上方法。
〔要件(i)〕
0.3質量%濃度の(A)成分水溶液をバブルプレッシャー法(20℃)により測定したとき、前記(A)成分水溶液の泡膜寿命10msにおける動的表面張力(σa)と、前記(B)成分水溶液における動的表面張力(σb)とが、σb≦σaの関係を満たすものである。
〔要件(ii)〕
0.3質量%濃度の(A)成分水溶液をバブルプレッシャー法(20℃)により測定したとき、泡膜寿命1000msにおける動的表面張力(σa)が28mN/m以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用表面美観向上剤、水硬性組成物、水硬性組成物の硬化体の製造方法、及び水硬性組成物の表面美観向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートに代表される水硬性組成物は、例えば型枠に未硬化の硬化性組成物を充填し、後工程で乾燥や化学反応により硬化させ、硬化体を得る工程により製造することができる。硬化体の価値を左右する要因の一つに、表面の美観が挙げられる。これは、文字通り硬化体表面の美しさを意味し、表面美観に優れるほど、製品価値が高く評価される傾向にある。
【0003】
硬化体の表面美観を損なう原因のひとつとしては、硬化体表面に露出する気泡痕が挙げられる。この問題に対して、硬化後に気泡痕を隠すための補修工程を追加する策が講じられているが、コストや労働力の確保等の観点から、好ましくない。
【0004】
特許文献1には、特定の脂肪酸アルカノールアミド、ポリカルボン酸系分散剤及び特定の溶剤を含有する水硬性組成物用表面美観向上剤が開示されている。
特許文献2には、特定のエマルション樹脂、水系溶媒及び前記樹脂の乳化重合に用いるノニオン系乳化剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)を含む、セメント添加剤に用いられる樹脂エマルションが開示されており、前記樹脂エマルションを含むセメント添加剤を用いることでセメント組成物の硬化物の表面美観を向上させることができることが開示されている。
【0005】
また、水硬性組成物を硬化させる際に用いる型枠に、離型剤を塗布することにより、前記組成物中の気泡の浮上を促して完全に硬化する前に前記組成物と型枠の界面に生じた気泡を減らす対策も講じられている。例えば、特許文献3には、特定の脂肪酸アルカノールアミドを含む型枠剥離剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-196282号公報
【特許文献2】特開2019- 26506号公報
【特許文献3】特開2018-130957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、水硬性組成物の硬化体表面の気泡痕の原因となる、水硬性組成物中の気泡の挙動をより良好に制御して、前記硬化体の表面美観を向上させることのできる、水硬性組成物用表面美観向上剤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(A)下記要件(i)、(ii)を満たす界面活性剤〔以下、(A)成分〕を含有する、(B)空気連行剤〔以下、(B)成分〕と併用するための水硬性組成物用表面美観向上剤を提供する。
【0009】
〔要件(i)〕
0.3質量%濃度の(A)成分水溶液をバブルプレッシャー法(20℃)により測定したとき、前記(A)成分水溶液の泡膜寿命10msにおける動的表面張力(σa)と、前記(B)成分水溶液における動的表面張力(σb)とが、σb≦σaの関係を満たすものである。
〔要件(ii)〕
0.3質量%濃度の(A)成分水溶液をバブルプレッシャー法(20℃)により測定したとき、泡膜寿命1000msにおける動的表面張力(σa)が28mN/m以下である。
【0010】
また本発明は、(A)前記要件(i)、(ii)を満たす界面活性剤、(B)空気連行剤、水硬性粉体、及び水を含有する、水硬性組成物を提供する。
【0011】
また本発明は、(A)前記要件(i)、(ii)を満たす界面活性剤、(B)空気連行剤、水硬性粉体と、水とを混合して水硬性組成物を調製する工程、調製された前記水硬性組成物を型枠に充填し、硬化させる工程、硬化した前記水硬性組成物を脱型する工程、を有する水硬性組成物の硬化体の製造方法を提供する。
【0012】
また本発明は、(A)前記要件(i)、(ii)を満たす界面活性剤、及び(B)空気連行剤を添加する、水硬性組成物の表面美観向上方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤を使用すると、水硬性組成物の硬化体表面の気泡痕の原因となる、水硬性組成物中の気泡の挙動を制御することができ、水硬性組成物の硬化体の表面美観を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(a)比較例2-3の水硬性組成物の硬化体表面の写真。(b)実施例2-3の水硬性組成物の硬化体表面の写真。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、上記した動的表面張力を満たす界面活性剤(以下、本件界面活性剤(A)という)が、水硬性組成物中の気泡、特に気泡痕として目立つような数cm単位の粗大気泡に吸着して、型枠からの気泡の引き剥がしを可能にすることを見出した。これにより、水硬性組成物と型枠との間の気泡が減少し、水硬性組成物の硬化体の表面気泡痕が低減されて表面美観性が向上することを見出した。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、このような効果が発現する理由は以下のように推測される。
【0016】
コンクリートのような水硬性組成物は、例えば金属製の型枠に離型油を塗布し、流し込み及び加振によって型枠内に充填され、硬化される。硬化時にはダイラタント性によりコンクリートの塑性化が解かれていくが、塑性化が解かれてしまうと型枠に付着して形成された気泡はコンクリートによって押さえつけられてしまうため、界面活性剤の作用によって引き剥がすことはできなくなる。
したがって塑性化が解かれる1000ms秒程度の時間より前に気泡を引き剥がすことが望ましい。ここで汎用の離型油の多くは、気体界面において28mN/m程度までの動的表面張力を示すことが知られている。そこで気液界面の泡膜寿命1000msにおいて28mN/m以下の動的表面張力を示すような界面活性剤(A)であれば、例えば、水硬性組成物と型枠とが離型油を介して接触した部分に出現した気泡、特に、気泡痕として目立つ大きさ(数cm単位)の粗大な気泡に吸着し、引き剥がしを行うことができると推測される。
【0017】
また、コンクリートのような水硬性組成物には、空気連行剤により微細気泡を導入することが行われる。この場合に本件界面活性剤(A)を使用すると空気連行剤は微細気泡に対する犠牲吸着剤として作用し、本件界面活性剤(A)が微細気泡表面で失活することを防ぐことができる。
【0018】
このような作用機構により、本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤を含有する水硬性組成物を、離型剤を塗布した型枠に充填した際、前記水硬性組成物と前記離型剤とが接触する部位に出現する気泡が、順次、水硬性組成物内部へ移動し、表面での気泡痕を低減し、表面美観性を向上させると考えられる。
【0019】
<水硬性組成物用表面美観向上剤>
本発明は、(A)下記要件(i)、(ii)を満たす界面活性剤〔以下、(A)成分〕を含有する、(B)空気連行剤〔以下、(B)成分〕と併用するための水硬性組成物用表面美観向上剤である。
【0020】
〔要件(i)〕
0.3質量%濃度の(A)成分水溶液をバブルプレッシャー法(20℃)により測定したとき、前記(A)成分水溶液の泡膜寿命10msにおける動的表面張力(σa)と、前記(B)成分水溶液における動的表面張力(σb)とが、σb≦σaの関係を満たすものである。
【0021】
〔要件(ii)〕
0.3質量%濃度の(A)成分水溶液をバブルプレッシャー法(20℃)により測定したとき、泡膜寿命1000msにおける動的表面張力(σa)が28mN/m以下である。
【0022】
本発明の動的表面張力は、例えば、KRUSS社製BP100、20℃、キャピラリー径:0.2~0.3mm、測定時間:10ms~10000ms)により測定することができる。
【0023】
(A)成分は、下記要件(i)を満たすものである。即ち、0.3質量%濃度の(A)成分水溶液をバブルプレッシャー法(20℃)により測定したとき、前記(A)成分水溶液の泡膜寿命10msにおける動的表面張力(σa)と、前記(B)成分水溶液における動的表面張力(σb)とが、σb≦σaの関係を満たすものである。前記水硬性組成物用表面美観向上剤と併用される(B)成分の水溶液濃度は、特に限定されるものではないが、その水溶液について測定される前記σbが前記σa以下である必要がある。
【0024】
(A)成分は、前記要件(ii)を満たすものである。即ち、0.3質量%濃度の(A)成分水溶液をバブルプレッシャー法(20℃)により測定したときの、泡膜寿命1000msにおける動的表面張力(σa)は、28mN/m以下、水硬性組成物の硬化体表面の気泡痕量削減効果の観点から、27mN/m以下が好ましく、25mN/m以下がより好ましい。
【0025】
(A)成分は、さらに下記要件(iii)を満たすものが好ましい。
【0026】
〔要件(iii)〕
(A)成分の拡散係数(Da)と(B)成分の拡散係数(Db)において、Da<Dbの関係を満たす。
【0027】
拡散係数Dは、水硬性組成物(溶媒)中の(A)成分及び(B)成分(溶質)の拡散のしやすさを定量的に表している。拡散係数Dは、Fsinerman et. al. Colloids and Surfaces, 1994, A, 87, 61-75.によると、厳密には、(泡膜寿命0~10msにおける表面張力変化の傾き)×(定数)で算出されるが、(泡膜寿命0msにおける水溶液の表面張力72.4mN/m)及び(定数)はいずれも界面活性剤の種類に依らず一定であるため、本発明では、〔泡膜寿命0msにおける水溶液の表面張力72.4mN/m〕と〔泡膜寿命10msにおける水溶液の表面張力値〕の差、即ち、溶媒中の溶質の動的表面張力の変化量を、拡散係数Dとする。そのため、拡散係数Dの算出方法の一態様として、本発明における(A)成分の拡散係数(Da)は、0.3質量%濃度の前記(A)成分水溶液をバブルプレッシャー法(20℃)により測定したときの、72.4mN/mと〔泡膜寿命10msにおける動的表面張力〕との差に相当し、本発明における(B)成分の拡散係数(Db)は、例えば、要件(i)を満たす水溶液濃度の前記(B)成分水溶液をバブルプレッシャー法(20℃)により測定したときの、72.4mN/mと〔泡膜寿命10msにおける動的表面張力〕との差に相当する。
【0028】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤では、併用される(B)成分の拡散係数Dbよりも、拡散係数Daが小さい(A)成分を用いることで、(A)成分よりも(B)成分が拡散しやすく、微細気泡に素早く吸着すると考えられる。
【0029】
(A)成分は、前記要件(i)、(ii)、必要に応じて前記要件(iii)を満たし、具体的な一態様として、次のような(A)成分が挙げられる。
【0030】
(A)成分は、前記要件(i)及び(ii)を満たすノニオン性界面活性剤が好ましく、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルアルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン等のノニオン性界面活性剤が挙げられ、水硬性組成物の硬化体表面の気泡痕量低減効果の観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。
【0031】
(A)成分は、前記要件(i)及び(ii)を満たすノニオン性界面活性剤である場合、水硬性組成物の硬化体表面の気泡痕量削減効果の観点から、(A)成分は、アルキル基の炭素数が、8以上が好ましく、9以上が好ましく、そして、12以下が好ましく、11以下がより好ましい、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有することができる。また、(A)成分は、前記要件(i)及び(ii)を満たすノニオン性界面活性剤である場合、水硬性組成物の硬化体表面の気泡痕量削減効果の観点から、(A)成分は、エチレンオキシドの平均付加モル数が、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、そして、6以下が好ましく、5以下よりが好ましい、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有することができる。
【0032】
即ち、本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤は、(A)成分として前記要件(i)及び(ii)を満たすノニオン性界面活性剤である場合、アルキル基の炭素数が8以上12以下であり、エチレンオキシドの平均付加モル数が1以上6以下の、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有することができる。
【0033】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤中、本発明の(A)成分の含有量は、水硬性組成物の硬化体表面の気泡痕量低減効果の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上が更に好ましく、そして、表面美観向上剤の保存安定性の観点から、8.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、4.0質量%が更に好ましい。
【0034】
このような(A)成分を含有する本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤は、(B)空気連行剤と併用される。具体的な一態様として、次のような(B)成分が挙げられる。
【0035】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤と併用される(B)成分は、特に限定されるものではないが、例えば、樹脂石鹸、飽和又は不飽和脂肪酸、ラウリルサルフェート、アルキルベンゼンスルホン酸又はその塩、アルカンスルホネート、ポリオキシアルキレンアルキル(又はアルキルフェニル)エーテル、ポリオキシアルキレンアルキル(又はアルキルフェニル)エーテル硫酸エステル又はその塩、ポリオキシアルキレンアルキル(又はアルキルフェニル)エーテルリン酸エステル又はその塩、蛋白質材料、アルケニルコハク酸、α-オレフィンスルホネート等が挙げられる。
【0036】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤と併用される(B)成分は、水硬性組成物の硬化体表面の気泡痕量削減効果及び水硬性組成物の硬化体の耐久性の観点から、ロジン酸等の樹脂石鹸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤が好ましい。
【0037】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤と併用される(B)成分は、樹脂石鹸、例えば、ロジン酸、ロジン酸エステル等が挙げられ、水硬性組成物の硬化体表面の気泡痕量削減効果及び水硬性組成物の硬化体の耐久性の観点から、ロジン酸が好ましい。
【0038】
また、本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤と併用される(B)成分は、アニオン性界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩等が挙げられ、水硬性組成物の硬化体表面の気泡痕量削減効果及び水硬性組成物の硬化体の耐久性の観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩が好ましい。
【0039】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤と併用される(B)成分がポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の場合、例えば、水硬性組成物の硬化体表面の気泡痕量削減効果の観点から、エチレンオキシドの平均付加モル数が、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、そして、水硬性組成物の硬化体の耐久性の観点から4以下が好ましく、3以下がより好ましく、水硬性組成物の硬化体表面の気泡痕量削減効果の観点から、アルキル基の炭素数が、10以上が好ましく、12以上がより好ましく、そして、水硬性組成物の硬化体の耐久性の観点から、22以下が好ましく、20以下がより好ましい。
【0040】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤と併用される(B)成分は、本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤中の(A)成分の含有量との質量比が下記範囲になる(B)含有量で組み合わせることができる。即ち、本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤中の(A)成分と、本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤と併用される(B)成分は、水硬性組成物の硬化体表面の気泡痕量削減効果の観点から、前記(A)成分の含有量と前記(B)成分の含有量の質量比である(A)/(B)が、0.005以上が好ましく、0.01以上がより好ましく、そして、水硬性組成物の硬化体の耐久性の観点から、10以下が好ましく、1.0以下がより好ましく、0.2以下が更に好ましい。
【0041】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤は、取り扱い性の観点から、液体状のものが好ましい。そのため、本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤は、均一溶液等の液体状で用いることが好ましく、水を含有するもの、更には水溶液がより好ましい。即ち、本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤として、(A)成分を含有する水溶液を用いることができる。
【0042】
また、本発明は、(A)前記要件(i)、(ii)を満たす界面活性剤及び(B)空気連行剤、を含有する水硬性組成物用表面美観向上剤を提供することができる。本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤において、(A)成分、(B)成分及び任意成分の、具体例及び好ましい態様は、それぞれ、前記した本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤と同じにすることができる。
【0043】
また、本発明は、0.3質量%濃度の界面活性剤水溶液の泡膜寿命10msにおける動的表面張力(σa)と、空気連行剤の動的表面張力(σb)とが、σb≦σaの関係を満たすものであって、0.3質量%濃度の界面活性剤水溶液の泡膜寿命1000msにおける動的表面張力(σa)が28mN/m以下である、界面活性剤を選択すること、を含む、空気連行剤と併用される水硬性組成物用表面美観向上剤中の界面活性剤の選択方法、を提供することができる。本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤中の界面活性剤の選択方法において、界面活性剤、空気連行剤及び任意成分の、具体例及び好ましい態様は、それぞれ、前記した本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤と同じにすることができる。
【0044】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤は、(A)成分が少量でも優れた表面美観向上を示すが、具体的な一態様として、セメント分散剤、製品安定剤、消泡剤等を含有することができる。
【0045】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤は、さらに、セメント分散剤を含有することができる。セメント分散剤は、リグニンスルホン酸系重合体、ポリカルボン酸系重合体、ナフタレン系重合体、メラミン系重合体、及びフェノール系重合体から選ばれる1種以上のセメント分散剤が挙げられ、分散性の観点から、リグニンスルホン酸系重合体、ポリカルボン酸系重合体、及びナフタレン系重合体から選ばれる1種以上のセメント分散剤が好ましく、水硬性組成物の流動保持性の観点から、ポリカルボン酸系分散剤が好ましい。
【0046】
ポリカルボン酸系重合体としては、ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのモノエステルと(メタ)アクリル酸等のカルボン酸との共重合体(例えば特開平8-12397号公報に記載の化合物等)、ポリアルキレングリコールを有する不飽和アルコールと(メタ)アクリル酸等のカルボン酸との共重合体、ポリアルキレングリコールを有する不飽和アルコールとマレイン酸等のジカルボン酸との共重合体等を用いることができる。ここで、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれるカルボン酸の意味である。
【0047】
セメント分散剤としては、下記一般式(1c)で示される単量体(1c)と、下記一般式(2c)で示される単量体(2c)とを構成単量体として含む共重合体を含有する、ポリカルボン酸系分散剤が好ましい。
【0048】
【化1】
【0049】
〔式中、
1c、R2c、R3c:同一でも異なっていても良く、水素原子、メチル基又は(CH2)rCOOM2であり、(CH2)rCOOM2は、COOM1又は他の(CH2)rCOOM2と無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM1、M2は存在しない。
1、M2:同一でも異なっていても良く、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、置換アルキルアンモニウム基、アルキル基、ヒドロアルキル基又はアルケニル基
r:0以上2以下の数、を示す。〕
【0050】
【化2】
【0051】
〔式中、
4c、R5c: 同一でも異なっていても良く、水素原子又はメチル基
6c:水素原子又は-COO(AO)n17c
7c:水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基
AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基
n1:AOの平均付加モル数であり、4以上200以下の数
q1:0以上2以下の数
p1:0又は1、を示す。〕
【0052】
前記一般式(1c)中、R1c、R2c、R3cは、同一でも異なっていてもよく、少なくとも一つはメチル基で残りは水素原子が好ましく、R1cは水素原子、R2cはメチル基、R3cは水素原子がより好ましい。前記一般式(1c)中、(CH)rCOOM1については、COOM1又は他の(CH)rCOOM1と無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM1、M2は存在しない。
【0053】
前記一般式(1c)中、M1、M2は同一でも異なっていても良く、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、置換アルキルアンモニウム基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基又はアルケニル基である。M1、M2のアルキル基、ヒドロキシアルキル基、及びアルケニル基は、それぞれ、炭素数1以上4以下が好ましい。前記一般式(1c)中、M1、M2は、同一でも異なっていても良く、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム基、又はアルキルアンモニウム基が好ましく、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、又はアンモニウム基がより好ましく、水素原子、アルカリ金属、又はアルカリ土類金属(1/2原子)が更に好ましく、水素原子、又はアルカリ金属がより更に好ましい。前記一般式(1c)中、(CH)rCOOM1のrは、1が好ましい。
【0054】
前記一般式(2c)中、R4c、R5cは同一でも異なっていても良く、水素原子又はメチル基であり、表面美観向上の観点から、R4cは水素原子、R5cはメチル基が好ましい。前記一般式(2c)中、R6cは水素原子又は-COO(AO)n17cであり、表面美観向上の観点から水素原子が好ましい。前記一般式(2c)中、R7cは水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基であり、メチル基が好ましい。前記一般式(2c)中、AOは炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基であり、エチレンオキシ基が好ましい。AOはエチレンオキシ基を含むことが好ましい。前記一般式(2c)中、n1は、AOの平均付加モル数であり、水硬性組成物の粘性及び分散性の観点から、4以上であり、5以上が好ましく、10以上がより好ましく、20以上が更に好ましく、そして、200以下であり、150以下が好ましく、120以下がより好ましい。前記一般式(2c)中、q1は0以上2以下の数であり、0が好ましい。前記一般式(2c)中、p1は0又は1であり、1が好ましい。
【0055】
セメント分散剤に含有される前記共重合体は、構成単量体中の単量体(1c)と単量体(2c)の合計量が、90質量%以上が好ましく、92質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましく、そして、100質量%以下である。この合計量は、100質量%であってもよい。
【0056】
セメント分散剤に含有される前記共重合体は、単量体(1c)と単量体(2c)の合計中の単量体(1c)の割合が、水硬性組成物の分散性の観点から、2モル%以上が好ましく、4モル%以上がより好ましく、5モル%以上が更に好ましく、10モル%以上が更に好ましく、そして、98モル%以下が好ましく、95モル%以下がより好ましく、90モル%以下が更に好ましい。
【0057】
セメント分散剤に含有される前記共重合体の重量平均分子量は、水硬性組成物の分散性の観点から、10,000以上が好ましく、20,000以上がより好ましく、30,000以上が更に好ましく、35,000以上がより更に好ましく、そして、100,000以下が好ましく、90,000以下がより好ましく、80,000以下が更に好ましい。
【0058】
セメント分散剤に含有される前記共重合体の重量平均分子量は、それぞれ、以下の条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定されたものである。
*GPC条件
装置:GPC(HLC-8320GPC)東ソー株式会社製
カラム:G4000PWXL+G2500PWXL(東ソー株式会社製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CH3CN=9/1
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出:RI
サンプルサイズ:0.2mg/mL
標準物質:ポリエチレングリコール換算(分子量既知の単分散ポリエチレングリコール、分子量87,500、250,000、145,000、46,000、24,000)
【0059】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤で使用されるセメント分散剤は、例えば、以下のセメント分散剤から選ばれる1種以上が挙げられる。
・ポリカルボン酸系分散剤1;メタクリル酸/メトキシポリエチレングリコール(23)モノメタクリレート=75モル/25モル、重量平均分子量=50,000(カッコ内はエチレンオキシドの平均付加モル数)
・ポリカルボン酸系分散剤2;メタクリル酸/メトキシポリエチレングリコール(120)モノメタクリレート=80モル/20モル、重量平均分子量=50,000(カッコ内はエチレンオキシドの平均付加モル数)
・ポリカルボン酸系分散剤3;アクリル酸/ポリエチレングリコール(50)イソプレニルエーテル=75モル/25モル、重量平均分子量=50,000(カッコ内はエチレンオキシドの平均付加モル数)
【0060】
上記に挙げたポリカルボン酸系分散剤1、2、3を併用する場合、前記分散剤1/前記分散剤2/前記分散剤3の質量比で、例えば、50/25/25の質量比で使用することができる。このように複数のセメント分散剤を使用する場合、各分散剤のAO平均付加モル数を分散剤の配合割合で質量平均を取って(併用された)分散剤のAO平均付加モル数とする。
【0061】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤中、前記セメント分散剤の含有量は、水硬性組成物の流動保持性の観点から、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、そして、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。
【0062】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤は、さらに、製品安定剤を含有することができる。具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸又はその塩、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル硫酸又はその塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテル(但し、本発明の特定の界面活性剤を除く)、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、等が挙げられる。また、具体的には、フェニルグリコール、フェニルジグリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル;オクチルジメチルアミン、デシルジメチルアミンなどが挙げられる。中でも、製品安定性及びコスト削減の観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸又はその塩、フェニルグリコールが好ましく、より具体的には、平均炭素数18でエチレンオキシドの平均付加モル数23のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸又はその塩、フェニルグリコールがより好ましい。
【0063】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤で使用される製品安定剤は、以下の下記一般式(d)で表される化合物から選ばれる1種以上〔以下、(d-1)成分という〕、を含有することができる。
【0064】
1d-O-[(EO)n・(PO)m]-SO3M (d)
〔式中、R1dは炭素数4以上20以下の炭化水素基、EOはエチレンオキシ基、POはプロピレンオキシ基、nはEOの平均付加モル数で1以上50以下の数、mはPOの平均付加モル数で0以上10以下の数であり、EOとPOはブロック又はランダムに結合してもよい。〕
【0065】
前記一般式(d)中、R1dは炭素数4以上20以下の炭化水素基であり、一液安定性の観点から、8以上が好ましく、12以上がより好ましく、16以上が更に好ましく、そして、20以下が好ましく、そして、18以下がより好ましい。前記一般式(d)中、nはEOの平均付加モル数で1以上50以下の数であり、一液安定性の観点から、10以上が好ましく、15以上がより好ましく、20以上が更に好ましく、そして、35以下が好ましく、30以下がより好ましく、25以下が更に好ましい。前記一般式(d)中、mはPOの平均付加モル数で0以上10以下の数であり、一液安定性の観点から、5以下が好ましく、3以下がより好ましく、1以下が更に好ましい。
【0066】
前記(d-1)成分は、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(平均炭素数が18、ポリオキシエチレン平均付加モル数が23)、等を使用することができる。
【0067】
製品安定剤は、前記(d-1)成分と、前記(d-1)成分以外の成分〔以下、(d-2)成分という〕を合わせて使用することもできる。
前記(d-2)成分は、具体的には、フェニルグリコール、フェニルジグリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル;オクチルジメチルアミン、デシルジメチルアミン等、が挙げられる。
【0068】
製品安定剤は、製品安定性及びコスト削減の観点から、(d-1)ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸又はその塩、(d-2)フェニルグリコールから選ばれる1種以上が好ましく、(d-1)ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸又はその塩及び(d-2)フェニルグリコールがより好ましく、具体的には、(d-1)平均炭素数18でエチレンオキシドの平均付加モル数23のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸又はその塩及び(d-2)フェニルグリコール、がより好ましい。
【0069】
前記(d-1)成分を含有する製品安定剤は、前記(d-1)成分と前記(d-2)成分の合計含有量中、前記(d-1)成分と前記(d-2)成分の含有量の質量比である(d-2)/(d-1)は、製品安定性の観点から、0.050質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましく、そして、コスト削減の観点から、1.0質量%以下が好ましく、0.50質量%以下がより好ましく、具体的には0.125が特に好ましい。前記製品安定剤は、対陽イオンとして、ナトリウム等のアルカリ金属塩が好ましい。
【0070】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤中、前記製品安定剤の含有量は、製品安定性の観点から、1.0質量%以上が好ましく、5.0質量%以上がより好ましく、そして、コスト削減の観点から、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0071】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤は、さらに、消泡剤を含有することができる。消泡剤としてはHLBが3未満の消泡剤が挙げられる。具体的には、ポリアルキレングリコールアルキルエーテル系消泡剤(本発明の特定の界面活性剤を除く)、ポリアルキレングリコールアルキルエステル系消泡剤、ポリオールポリエーテル系消泡剤、ポリアルキレングリコールブロックポリマー系消泡剤、シリコーン系消泡剤、更にこれらのうち、HLBが3未満の消泡剤が挙げられ、水硬性組成物中の空気量を調整する観点及び表面美観向上剤の保存安定性の観点から、ポリアルキレングリコールアルキルエーテル系消泡剤(本発明の特定の界面活性剤を除く)、ポリアルキレングリコールアルキルエステル系消泡剤、シリコーン系消泡剤が好ましく、ポリアルキレングリコールアルキルエーテル系消泡剤がより好ましい。なお、消泡剤のHLBは、HLB値の算出はグリフィン法の算出法を用いる。グリフィン法の算出法は、下記式より算出される。
HLB=20×親水部の式量の総和/分子量
【0072】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤中、前記消泡剤の含有量は、水硬性組成物中の空気量を調整する観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、そして、表面美観向上剤の保存安定性の観点から、0.5質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましい。
【0073】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤は、さらに具体的な一態様として、本発明の(A)成分、(C)セメント分散剤〔以下(C)成分〕、(D)製品安定剤〔以下(D)成分〕、(E)消泡剤〔以下(E)成分〕、を含有することができる。
【0074】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤において、(A)成分と(C)成分と(D)成分と(E)成分の合計含有量中、(A)成分の含有量は、水硬性組成物の硬化体表面の気泡痕量低減効果の観点から、1.0質量%以上が好ましく、3.0質量%以上がより好ましく、そして、表面美観向上剤の保存安定性の観点から、そして、10質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましい。
【0075】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤は、(A)成分と(C)成分と(D)成分と(E)成分の合計含有量中、(C)成分の含有量は、水硬性組成物の流動保持性の観点から、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、そして、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましい。
【0076】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤は、(A)成分と(C)成分と(D)成分と(E)成分の合計含有量中、(D)成分の含有量は、製品安定性の観点から、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、そして、コスト削減の観点から、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0077】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤は、(A)成分と(C)成分と(D)成分と(E)成分の合計含有量中、(E)成分の含有量は、水硬性組成物中の空気量を調整する観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、そして、表面美観向上剤の保存安定性の観点から、1.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。
【0078】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤は、(A)成分と(C)成分の質量比である(A)/(C)が、硬性組成物の硬化体表面の気泡痕量低減効果の観点から、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、そして、コスト削減の観点から、1.0以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。
【0079】
本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤は、(A)成分と(E)成分の質量比である(A)/(E)が、製品安定性の観点から、10以上が好ましく、15以上がより好ましく、そして、水硬性組成物中の空気量を調整する観点から、100以下が好ましく、50以下がより好ましい。
【0080】
また、本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤は、水硬性組成物を調製するときに使用される練り水に配合することができる。
【0081】
前記練り水中、(A)成分の含有量は、0.03質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、そして、1.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、前記範囲内になるように本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤を配合することができる。
【0082】
前記練り水中、(C)成分の含有量は、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、そして、2.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましく、前記範囲内になるように本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤を配合することができる。
【0083】
前記練り水中、(D)成分の含有量は、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、そして、1.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、前記範囲内になるように本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤を配合することができる。
【0084】
前記練り水中、(E)成分の含有量は、0.0001質量%以上が好ましく、0.0005質量%以上がより好ましく、そして、0.1質量%以下が好ましく、0.01質量%以下がより好ましく、前記範囲内になるように本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤を配合することができる。
【0085】
<水硬性組成物>
本発明の水硬性組成物は、(A)前記要件(i)、(ii)を満たす界面活性剤〔以下、(A)成分〕、(B)空気連行剤〔以下、(B)成分〕、水硬性粉体、及び水を含有する。本発明の水硬性組成物において、(A)成分、(B)成分及び任意成分の、具体例及び好ましい態様は、それぞれ、本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤と同じにすることができる。
【0086】
水硬性粉体は、セメントが挙げられる。セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)が挙げられる。これらの中でも、普通ポルトランドセメント、耐硫酸性ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントが好ましく、普通ポルトランドセメントがより好ましい。
【0087】
また、セメントには、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム等が含まれてよく、また、非水硬性の石灰石微粉末等が含まれていてもよい。セメントと混合されたシリカヒュームセメントや高炉セメントを用いることができる。
【0088】
本発明の水硬性組成物中、(A)成分の含有量は、水硬性組成物の硬化体表面の気泡痕量削減効果の観点から、水硬性粉体100質量部に対して、0.001質量部以上が好ましく、0.01質量部以上がより好ましく、そして、1.0質量部以下が好ましく、0.1質量部以下がより好ましい。
【0089】
本発明の水硬性組成物中、(B)成分の含有量は、水硬性組成物の硬化体表面の気泡痕量削減効果の観点から、水硬性粉体100質量部に対して、0.001質量部以上が好ましく、0.01質量部以上がより好ましく、そして、水硬性組成物の硬化体の耐久性の観点から、1.0質量部以下が好ましく、0.1質量部以下がより好ましい。
【0090】
本発明の水硬性組成物は、(A)成分と(B)成分を、水硬性組成物の硬化体表面の気泡痕量削減効果の観点から、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の質量比である(A)/(B)が、0.005以上が好ましく、0.01以上がより好ましく、そして、水硬性組成物の硬化体の耐久性の観点から10以下が好ましく、1.0以下がより好ましく、0.2以下が更に好ましい。
【0091】
本発明の水硬性組成物は、さらに、セメント分散剤を含有することができる。
本発明の水硬性組成物が前記分散剤を含有する場合、前記分散剤の含有量は、水硬性組成物の流動性向上の観点から、水硬性粉体100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、そして、水硬性組成物の硬化体の耐久性の観点から、1.0質量部以下が好ましく、0.5質量部以下がより好ましい。
【0092】
本発明の水硬性組成物は、さらに、製品安定剤を含有することができる。
本発明の水硬性組成物が製品安定剤を含有する場合、製品安定剤の含有量は、製品安定性の観点から、水硬性粉体100質量部に対して、0.001質量部以上が好ましく、0.01質量部以上がより好ましく、そして、1.0質量部以下が好ましく、0.1質量部以下がより好ましい。
【0093】
本発明の水硬性組成物は、さらに、消泡剤を含有することができる。
本発明の水硬性組成物が消泡剤を含有する場合、消泡剤を、水硬性組成物の硬化体の耐久性の観点から、水硬性粉体100質量部に対して、0.00001質量部以上が好ましく、0.0001質量部以上がより好ましく、そして、1.0質量部以下が好ましく、0.5質量部以下がより好ましい。
【0094】
本発明の水硬性組成物は、具体的な一態様として、本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤、水硬性粉体、及び水、を含有することができる。本発明の水硬性組成物は、さらに具体的な一態様として、本発明の(A)成分、(B)成分、(C)セメント分散剤〔以下(C)成分〕、(D)製品安定剤〔以下(D)成分〕、(E)消泡剤〔以下(E)成分〕、水硬性粉体、及び水、を含有することができる。
【0095】
本発明の水硬性組成物において、(A)成分と(B)成分と(C)成分と(D)成分と(E)成分の合計含有量中、(A)成分の含有量は、水硬性組成物の硬化体表面の気泡痕量低減効果の観点から、0.1質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、そして、表面美観向上剤の保存安定性の観点から、そして、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0096】
本発明の水硬性組成物において、(A)成分と(B)成分と(C)成分と(D)成分と(E)成分の合計含有量中、(B)成分の含有量は、水硬性組成物の硬化体表面の気泡痕量低減効果の観点から、1.0質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、そして、水硬性組成物の硬化体の耐久性の観点から、75質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
【0097】
本発明の水硬性組成物において、(A)成分と(B)成分と(C)成分と(D)成分と(E)成分の合計含有量中、(C)成分の含有量は、水硬性組成物の流動保持性の観点から、1.0質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、そして、95質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。
【0098】
本発明の水硬性組成物において、(A)成分と(B)成分と(C)成分(D)成分と(E)成分の合計含有量中、(D)成分の含有量は、製品安定性の観点から、1.0質量%以上が好ましく、5.0質量%以上がより好ましく、そして、コスト削減の観点から、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0099】
本発明の水硬性組成物において、(A)成分と(B)成分と(C)成分と(D)成分と(E)成分の合計含有量中、(E)成分の含有量は、水硬性組成物中の空気量を調整する観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、そして、表面美観向上剤の保存安定性の観点から、5.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましい。
【0100】
本発明の水硬性組成物において、(A)成分と(D)成分の質量比である(A)/(D)が、水硬性組成物の硬化体表面の気泡痕量低減効果の観点から、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、そして、コスト削減の観点から、1.0以下が好ましく、0.1以下がより好ましい。
【0101】
本発明の水硬性組成物において、(A)成分と(E)成分の質量比である(A)/(E)が、水硬性組成物中の空気量を調整する観点から、1.0以上が好ましく、10以上がより好ましく、そして、保存安定性の観点から、100以下が好ましく、50以下がより好ましい。
【0102】
本発明の水硬性組成物は、作業性と経済性の観点から、水/水硬性粉体比〔水硬性組成物中の水と水硬性粉体の質量比(水の質量/水硬性粉体の質量×100)、通常W/Pと略記され、水硬性粉体がセメントの場合はW/Cと略記される。〕が、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、そして、95%以下が好ましく、80%以下がより好ましい。
【0103】
本発明の水硬性組成物は、前記水硬性組成物中に含有される空気量について特に限定されないが、水硬性組成物の硬化体の耐久性の観点から、0%以上が好ましく、6.0%以下が好ましい。本発明の水硬性組成物中の空気量が前記範囲内になるように、前記(B)空気連行剤及び前記(d)消泡剤の添加量を調整することができる。
【0104】
本発明の水硬性組成物は、更に骨材を含有することができる。骨材として細骨材や粗骨材等が挙げられ、細骨材は山砂、陸砂、川砂、砕砂が好ましく、粗骨材は山砂利、陸砂利、川砂利、砕石が好ましい。用途によっては、軽量骨材を使用してもよい。なお、骨材の用語は、「コンクリート総覧」(1998年6月10日、技術書院発行)による。
【0105】
骨材は、コンクリートやモルタル等の調製に用いられる通常の範囲で用いることができる。水硬性組成物がコンクリートの場合、粗骨材の使用量は、コンクリートの性状の観点から、嵩容積50%以上が好ましく、55%以上がより好ましく、60%以上が更に好ましく、そして、100%以下が好ましく、90%以下がより好ましく、80%以下が更に好ましい。嵩容積は、コンクリート1m中の粗骨材の容積(空隙を含む)の割合である。また、水硬性組成物がコンクリートの場合、細骨材の使用量は、型枠等への充填性を向上する観点から、500kg/m以上が好ましく、600kg/m以上がより好ましく、700kg/m以上が更に好ましく、そして、1000kg/m以下が好ましく、900kg/m以下が好ましい。水硬性組成物がモルタルの場合、細骨材の使用量は、800kg/m以上が好ましく、900kg/m以上がより好ましく、1000kg/m以上が更に好ましく、そして、2000kg/m以下が好ましく、1800kg/m以下がより好ましく、1700kg/m以下が更に好ましい。
【0106】
本発明の水硬性組成物は、上記成分以外に更にその他の成分を含有することもできる。例えば、遅延剤、増粘剤、防水剤、流動化剤、早強剤等が挙げられる。早強剤としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属の塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、シアン酸塩、チオシアン酸塩、チオ硫酸塩、ギ酸塩から選ばれる化合物、又はアルカノールアミン、グリセリン誘導体、ホルムアルデヒド誘導体、カテコール誘導体から選ばれる有機化合物、ポルトランドセメントの水和生成物(C-S-H、及び水酸化カルシウム)のナノ粒子、が挙げられる。
【0107】
本発明の水硬性組成物は、コンクリート、モルタルを用いることができる。本発明の水硬性組成物は、セルフレベリング用、耐火物用、プラスター用、軽量又は重量コンクリート用、空気連行用、補修用、プレパックド用、トレーミー用、地盤改良用、グラウト用、寒中用等の何れの分野においても有用である。
【0108】
<水硬性組成物の製造方法>
本発明は、(A)成分、(B)成分、任意成分と、水硬性粉体と、水とを混合して調製する、水硬性組成物の製造方法を提供する。また本発明は、(A)成分を含有する水硬性組成物用表面美観向上剤と、(B)成分と、水硬性粉体と、水とを混合して調製する、水硬性組成物の製造方法を提供する。この製造方法において、(A)成分、(B)成分及び任意成分の、具体例及び好ましい態様は、それぞれ、本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤と同じにすることができる。また、本発明の水硬性組成物の製造方法において、水硬性粉体の、具体例及び好ましい態様は、それぞれ、本発明の水硬性組成物と同じにすることができる。また、本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤、及び水硬性組成物で述べた事項は、本発明の水硬性組成物の製造方法に適宜適用することができる。
【0109】
<水硬性組成物の硬化体の製造方法>
本発明は、(A)成分を含有する水硬性組成物用表面美観向上剤と、(B)成分と、水硬性粉体と、水とを混合して水硬性組成物を調製する工程、調製された前記水硬性組成物を型枠に充填し、硬化させる工程、硬化した前記水硬性組成物を脱型する工程、を有する水硬性組成物の硬化体の製造方法を提供する。
【0110】
本発明の水硬性組成物の硬化体の製造方法において、(A)成分、(B)成分及び任意成分の、具体例及び好ましい態様は、それぞれ、本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤と同じにすることができる。また、本発明の水硬性組成物の硬化体の製造方法において、水硬性粉体の、具体例及び好ましい態様は、それぞれ、本発明の水硬性組成物と同じにすることができる。また、本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤、及び水硬性組成物で述べた事項は、本発明の水硬性組成物の硬化体の製造方法に適宜適用することができる。
【0111】
水硬性組成物を調製する工程は、(A)成分、(B)成分と、水硬性粉体と、水とを混合して水硬性組成物を調製する。また水硬性組成物を調製する工程は、(A)成分、(B)成分、任意成分、水硬性粉体と、水とを混合して水硬性組成物を調製してもよい。本発明では、(A)成分、(B)成分、任意成分、を別々に水硬性粉体と混合して水硬性組成物を調製しても良いが、予め、(A)成分、(B)成分及び任意成分とを混合すると、新しくタンクを増設する必要がなく、それらを一体化したものを水硬性粉体と混合すること、即ち本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤と水硬性粉体とを混合することが好ましい。水硬性組成物を調製する工程における、各成分、水硬性粉体、水の混合量は、本発明の水硬性組成物で述べた各成分、水硬性粉体、水の含有量を混合量に置き換えて適用することができる。
【0112】
水硬性組成物を調製する工程では、(A)成分、(B)成分及び任意成分とセメント等の水硬性粉体とを円滑に混合する観点から、(A)成分、(B)成分、任意成分、水とを予め混合した後に、水硬性粉体と混合することが好ましい。また水を含有する本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤を用いることができる。
【0113】
また、水硬性組成物を調製する工程では、セメント等の水硬性粉体と、本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤と、(B)成分とを混合する方法が好ましい。本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤は、水硬性粉体に対して、(A)成分、(B)成分及び任意成分が、前述の混合量(含有量)となるように添加されることが好ましい。
【0114】
具体的には、本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤を、固形分の質量部として、水硬性粉体100質量部に対して、表面美観改善の観点から、0.01量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上が更に好ましく、そして、高流動性の確保による表面美観改善の観点から、3.0質量部以下が好ましく、2.5質量部以下がより好ましく、2.0質量部以下が更に好ましく、1.0質量部以下がより更に好ましい。
【0115】
水硬性組成物を調製する工程における混合は、モルタルミキサー、強制二軸ミキサー等のミキサーを用いて行うことができる。また混合時間は、1分間以上が好ましく、2分間以上がより好ましく、そして、5分間以下が好ましく、3分間以下がより好ましい。水硬性組成物の調製にあたっては、水硬性組成物で説明した材料や薬剤及びそれらの量を用いることができる。
【0116】
得られた水硬性組成物は、更に、水硬性組成物を型枠に充填し養生し硬化させる。型枠として、建築物の型枠、コンクリート製品用の型枠等が挙げられる。型枠への充填方法として、ミキサーから直接投入する方法、水硬性組成物をポンプで圧送して型枠に導入する方法等が挙げられる。
【0117】
水硬性組成物の養生の際、硬化を促進するために加熱養生し、硬化を促進させることができる。ここで、加熱養生は、40℃以上80℃以下の温度で水硬性組成物を保持して硬化を促進することができる。
【0118】
コンクリート製品である型枠を用いる水硬性組成物の硬化体としては、土木用製品では、コンクリートパイル、コンクリートポール、護岸用の各種ブロック製品、ボックスカルバート製品、トンネル工事等に使用されるセグメント製品、橋脚の桁製品等が挙げられ、建築用製品では、カーテンウォール製品、柱、梁、床板に使用される建築部材製品等が挙げられる。
【0119】
本発明では、水硬性組成物の調製で水硬性粉体に水を接触させてから脱型するまでの時間は、脱型に必要な強度を得る観点と製造サイクルを向上する観点から、16時間以上72時間以下が好ましい。
【0120】
<水硬性組成物の表面美観向上方法>
本発明の水硬性組成物の表面美観向上方法は、水硬性粉体と水を含有する水硬性組成物に、(A)成分と(B)成分を添加する、水硬性組成物の表面美観向上方法である。また、本発明の水硬性組成物の表面美観向上方法は、水硬性粉体と水を混合して水硬性組成物を調製する際に、(A)成分を含有する水硬性組成物用表面美観向上剤と(B)成分を添加する方法を用いることもできる。
【0121】
本発明の水硬性組成物の表面美観向上方法に用いられる(A)成分、(B)成分及び任意成分の具体例及び好ましい態様は、それぞれ、本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤で述べたものと同じにすることができる。また、本発明の水硬性組成物の表面美観向上方法に用いられる水硬性粉体の具体例及び好ましい態様は、本発明の水硬性組成物で述べたものと同じにすることができる。また、本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤、水硬性組成物及びその硬化体の製造方法で述べた事項は、本発明の水硬性組成物の表面美観向上方法に適宜適用することができる。
【実施例0122】
水硬性組成物の配合を表1に、また、評価結果を表2に示した。表中の化合物は以下のものである。()内の数字はエチレンオキシドの平均付加モル数を示す。
【0123】
・ポリオキシエチレン(2)オクチルエーテル;製造例1で得られる界面活性剤
・ポリオキシエチレン(2)デシルエーテル;製造例2で得られる界面活性剤
【0124】
〔製造例1〕ポリオキシエチレン(2)オクチルエーテルの調製
オクチルアルコール860g(6.71モル)と水酸化カリウム(純分86%)4.36g(0.067モル)を、撹拌装置、温度計、EO導入管付きの2Lオートクレーブに仕込み、窒素置換した後、110℃、-0.101MPaで30分間脱水した。その後、初期窒素圧0.005MPa、155±5℃にエチレンオキサイド590g(13.4モル)を前記混合反応物に供給して反応させた。その後、酢酸を4.095g(0.068モル)加えて中和した。得られた生成物の平均EO付加モル数をH-NMRで確認したところ、平均EO付加モル数は2モルであった。
【0125】
〔製造例2〕ポリオキシエチレン(2)デシルエーテルの調製
デシルアルコール1060g(6.71モル)と水酸化カリウム(純分86%)4.36g(0.067モル)を、撹拌装置、温度計、EO導入管付きの2Lオートクレーブに仕込み、窒素置換した後、110℃、-0.101MPaで30分間脱水した。その後、初期窒素圧0.005MPa、155±5℃にてエチレンオキサイド590g(13.4モル)を前記混合反応物に供給して反応させた。その後、酢酸を4.095g(0.068モル)加えて中和した。得られた生成物の平均EO付加モル数をH-NMRで確認したところ、平均EO付加モル数は2モルであった。
【0126】
<任意成分>
(B-1)空気連行剤、「ヴィンソルW」、山宗化学(株)製
(B-2)空気連行剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(平均炭素数が12、エチレンオキシドの平均付加モル数が2)
・(C)ポリカルボン酸系分散剤;メタクリル酸/メトキシポリエチレングリコール(23)モノメタクリレート共重合体(カッコ内はエチレンオキシドの平均付加モル数)
・(D)(d-1)前記一般式(d)で表される化合物;ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(前記一般式(d)中、R1dは炭素数18の炭化水素基、nは23、mは0)、
(d-2);フェノキシエタノール
・消泡剤;シリコーン系消泡剤
【0127】
【表1】
【0128】
水と水硬性粉体の質量比(W/C)は30%(水硬性粉体100質量部に対して水30質量部)である。細骨材は水硬性粉体100質量部に対して115質量部である。また、用いた成分は以下のものである。
・W:練り水(水道水(和歌山市上水道水))
・C:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント(株)製、密度3.16g/cm
・S:細骨材(京都府城陽産山砂、密度2.50g/cm
・G:粗骨材(兵庫県西島産安山岩砕石(直径10~20mmの砕石/直径5~10mmの砕石を質量比1/1で混合したもの)、密度2.63g/cm
【0129】
(1)水硬性組成物の調製
表1に示す配合条件で、強制二軸ミキサー((株)IHI製)内に、粗骨材(G)、半量の細骨材(S)、半量のセメント(C)、残りの半量の細骨材(S)、の順に投入し、15秒間空練りした。その後、下記組成の練り水を投入して、90秒間本練りして、水硬性組成物を調製した。前記練り水は、(A)成分、(B)成分、ポリカルボン系分散剤、製品安定剤、消泡剤、製品安定剤を含有し、前記練り水中の各成分の濃度は、表2、3記載の(A)成分を0.05質量%、(B)成分を0.84質量%(表2)又は0.28質量%(表3)、ポリカルボン酸系分散剤を0.82質量%、製品安定剤を0.15質量%、消泡剤を0.0033質量%、となるように調製した。
【0130】
(2)(A)成分、(B)成分の動的表面張力測定
(2-1)実施例、比較例1-2~1-8及び比較例2-2~2―5
表2、3に記載の(A)成分、(B)成分を、それぞれ水道水に溶解させて、(A)成分水溶液(濃度0.3質量%)及び(B)成分水溶液(濃度4.5質量%(表2)又は1.5質量%(表3))を得た。得られた水溶液を、KRUSS社製のバブルプレッシャー式動的表面張力計「製品名:BP100」を用いて、バブルプレッシャー法(20℃、キャピラリー径:0.2~0.3mm、測定時間:10ms~10000ms)により測定した。結果を表2、3に示した。
【0131】
(2-2)比較例1-1及び比較例2-1
前記「(1)水硬性組成物の調製」により、比較例1-1及び比較例2-1の水硬性組成物((A)成分を含有しない水硬性組成物)を調製した。そのとき、(B)成分の含有量は、実施例及びその他比較例と同じ空気量になる量を配合した。前記水硬性組成物を、遠心分離(株式会社コクサン製遠心分離装置、3000rpm、5min、20℃)にかけて、その上澄み液を水硬性組成物中の自由水とした。前記自由水から、(B)成分の含有量を算出したところ、比較例1-1の水硬性組成物では(B)0.5質量%、比較例2-1では(B)0.2質量%であることが確認できた。また、そのときの動的表面張力(σb)を、前記(2-1)と同様に測定し、それぞれ表2、3に示した。
【0132】
(3)水硬性組成物の空気量測定
上記で得られた水硬性組成物について、JISA1128:2019に準拠して水硬性組成物中の空気量(体積%)を測定した。結果を表2、3に示した。
【0133】
(4)水硬性組成物の硬化体の気泡痕量測定
(4-1)水硬性組成物の硬化体の作成
上記で得られた水硬性組成物を、0.1m×0.2m×0.5mの鋼製型枠に、0.2m×0.5mの面から無振動で充填して、20℃下で養生を行い、硬化させた。水硬性組成物の調製から24時間後に硬化した前記水硬性組成物の硬化体を型枠から脱型した。なお、型枠の内側には、油性ストレートタイプの離型剤を塗布した。
【0134】
(4-2)水硬性組成物の硬化体の気泡痕量測定
脱枠した前記硬化体の一面(0.2m×0.5mの面)の表面をプラスチック製のブラシで擦って薄皮を剥がし、その表面をスマートフォンで撮影した画像データを、ImageJを用いて2色化し(気泡痕がある箇所は黒、その他の箇所は白)、各色の比率から前記硬化体表面を占める気泡痕の面積割合を下記式により算出し、気泡痕量(%)とした。結果を表2、3に示した。
気泡痕量=気泡痕の面積(m)/流し込んだ側の0.2m×0.5mの面(m)×100
【0135】
【表2】
【0136】
【表3】
【0137】
実施例1、2の結果から、本発明の水硬性組成物用表面美観向上剤を、併用される(B)空気連行剤を合わせて用いた水硬性組成物の硬化体は、その表面の気泡痕1%未満であり、気泡痕が少ないことが確認できた。図1(a)に比較例2-3の、図1(b)に実施例2-3の、水硬性組成物の硬化体表面写真を示した。離型剤の付着具合によって前記硬化体表面の色が異なるが、2つの前記硬化体は(A)成分と(B)成分が異なる以外は同じ条件で調製されたものである。

図1