(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115089
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】ゼラチン組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 89/00 20060101AFI20240819BHJP
A61B 5/266 20210101ALI20240819BHJP
A61B 5/276 20210101ALI20240819BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20240819BHJP
C08K 5/053 20060101ALI20240819BHJP
C08K 5/06 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C08L89/00
A61B5/266
A61B5/276
C08K3/00
C08K5/053
C08K5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020567
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 秀
(72)【発明者】
【氏名】前山 洋輔
【テーマコード(参考)】
4C127
4J002
【Fターム(参考)】
4C127AA02
4C127AA03
4C127AA04
4C127LL02
4C127LL24
4C127LL30
4J002AD011
4J002CH012
4J002DD026
4J002DD056
4J002DD066
4J002DE028
4J002DE196
4J002DE216
4J002DG046
4J002DH046
4J002EC057
4J002ED027
4J002FD202
4J002FD206
4J002FD207
4J002FD208
4J002GB01
(57)【要約】
【課題】従来のゼラチン組成物よりも引張強度の強いゼラチン組成物を提供すること。
【解決手段】ゼラチン、無機金属塩、多価アルコール、及び水を含み、前記多価アルコールがポリグリセリンを含む、ゼラチン組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチン、無機金属塩、多価アルコール、及び水を含み、
前記多価アルコールがポリグリセリンを含む、ゼラチン組成物。
【請求項2】
前記多価アルコールが、グリセリンをさらに含む、請求項1に記載のゼラチン組成物。
【請求項3】
前記多価アルコールにおけるポリグリセリンとグリセリンとの含有割合が質量比で、
ポリグリセリン:グリセリン=20:80~80:20である、請求項2に記載のゼラチン組成物。
【請求項4】
前記ポリグリセリンが、直鎖状のポリグリセリンを含み、
前記多価アルコールにおける、直鎖状のポリグリセリンとグリセリンとの含有割合が質量比で、
直鎖状のポリグリセリン:グリセリン=50:50~100:0である、請求項1に記載のゼラチン組成物。
【請求項5】
前記ポリグリセリンが、分岐構造を有するポリグリセリンを含む、請求項1に記載のゼラチン組成物。
【請求項6】
前記ポリグリセリンが、分岐構造を有するポリグリセリンを含み、
分岐構造を有するポリグリセリンとグリセリンとの含有割合が質量比で、
分岐構造を有するポリグリセリン:グリセリン=20:80~80:20である、請求項2に記載のゼラチン組成物。
【請求項7】
前記ポリグリセリンの重合度が、2より大きく40未満である、請求項1に記載のゼラチン組成物。
【請求項8】
ゲル化した請求項1に記載のゼラチン組成物を含む、ゲル。
【請求項9】
引張強度が0.5MPa以上である、請求項8に記載のゲル。
【請求項10】
請求項1に記載のゼラチン組成物を含む、生体電極。
【請求項11】
ゼラチン、無機金属塩、多価アルコール、及び水を含む混合物により、ゼラチンを膨潤させる工程、
膨潤したゼラチンを加熱により溶解させる工程、及び
溶解したゼラチンを冷却してゲル化させる工程、
を含む、請求項1に記載のゼラチン組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼラチン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
心電図、筋電図、脳波等を測定する際に、電極を体表面に貼り付ける目的で、導電ペーストや粘着性ハイドロゲルシートが用いられる。しかし、導電ペーストは流動的であるため電極の固定が難しく、電極のずれにより測定に支障をきたしうる上に、除去には水洗が必要であり手間がかかるという欠点があった。また、粘着性ハイドロゲルシートは皮膚への固定及び除去が容易であるものの、体毛によりゲルと肌との密着が妨げられるため、体毛の濃い部分への貼り付けが困難であるという欠点があった。
【0003】
これらの課題を解決する手段として、ゼラチンを用いる方法が提案されている(特許文献1)。ゼラチンは、40℃前後の温度域にゾル-ゲル変化領域があることから、加熱によりゾル化するため、体毛の間にしみこみやすく、体毛の濃い部分への貼り付けが可能であり、放冷することで容易にゲル化するため、電極を固定することができる。
【0004】
しかし、ゼラチンは体温で軟化しやすく、除去する際にちぎれて皮膚上に残留しやすいという欠点があることから、強度の強いゼラチン組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決すべき課題は、皮膚粘着性に優れ、且つ、従来のゼラチン組成物よりも引張強度の強いゼラチン組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に記載の実施形態を包含する。
[項1]
ゼラチン、無機金属塩、多価アルコール、及び水を含み、
前記多価アルコールがポリグリセリンを含む、ゼラチン組成物。
[項2]
前記多価アルコールが、グリセリンをさらに含む、項1に記載のゼラチン組成物。
[項3]
前記多価アルコールにおけるポリグリセリンとグリセリンとの含有割合が質量比で、
ポリグリセリン:グリセリン=20:80~80:20である、項2に記載のゼラチン組成物。
[項4]
前記ポリグリセリンが、直鎖状のポリグリセリンを含み、
前記多価アルコールにおける、直鎖状のポリグリセリンとグリセリンとの含有割合が質量比で、
直鎖状のポリグリセリン:グリセリン=50:50~100:0である、項1に記載のゼラチン組成物。
[項5]
前記ポリグリセリンが、分岐構造を有するポリグリセリンを含む、項1に記載のゼラチン組成物。
[項6]
前記ポリグリセリンが、分岐構造を有するポリグリセリンを含み、
分岐構造を有するポリグリセリンとグリセリンとの含有割合が質量比で、
分岐構造を有するポリグリセリン:グリセリン=20:80~80:20である、項2に記載のゼラチン組成物。
[項7]
前記ポリグリセリンの重合度が、2より大きく40未満である、項1~6に記載のゼラチン組成物。
[項8]
ゲル化した項1~7のいずれか1項に記載のゼラチン組成物を含む、ゲル。
[項9]
引張強度が0.5MPa以上である、項8に記載のゲル。
[項10]
項1~7のいずれか1項に記載のゼラチン組成物を含む、生体電極。
[項11]
ゼラチン、無機金属塩、多価アルコール、及び水を含む混合物により、ゼラチンを膨潤させる工程、
膨潤したゼラチンを加熱により溶解させる工程、及び
溶解したゼラチンを冷却してゲル化させる工程、
を含む、項1に記載のゼラチン組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来のゼラチン組成物よりも引張強度の強いゼラチン組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(A)従来型ゼラチンゲルと本願実施例1との引張強度の比較。(B)従来型ゼラチンゲル(左)と本願実施例1のゼラチンゲル(右)の写真。
【
図2】分岐構造を有するポリグリセリンの重合度がゼラチン組成物の物性に与える影響。
【
図3】直鎖状のポリグリセリンの重合度がゼラチン組成物の物性に与える影響。
【
図4】分岐構造を有するポリグリセリンとグリセリンとの混合比率がゼラチン組成物の物性に与える影響。
【
図5】直鎖状のポリグリセリンとグリセリンとの混合比率がゼラチン組成物の物性に与える影響。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。また、本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値又は実施例から一義的に導き出せる値に置き換えてもよい。更に、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。
【0011】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0012】
<ゼラチン組成物>
本発明は、ゼラチン組成物を提供する。本発明のゼラチン組成物は、ゼラチン、無機金属塩、多価アルコール、及び水を含み、多価アルコールはポリグリセリンを含む。
【0013】
(ゼラチン)
本発明で用いられるゼラチンは、食品、医薬品及び医薬部外品等の分野において従来使用されているゼラチンから適宜選択することができる。特に限定されないが、例えば、牛、豚、鶏、魚等の皮、骨、腱、鱗等を原料とし、酸又はアルカリで処理して得られる粗コラーゲンを加熱抽出して製造されたものが用いられる。また、ゼラチンの加水分解物や酸素分解物、アシル化ゼラチン等のゼラチン誘導体等を用いることもできる。本発明においては、これらのゼラチンを1種単独で用いても良く、2種以上を組わせて用いても良い。ゼラチンは市販品を使用することができ、例えばシグマアルドリッチ社、新田ゼラチン株式会社、ゼライス株式会社等から購入することができる。
【0014】
本発明のゼラチン組成物において、ゼラチンの含有量は、ゼラチン組成物の全質量100質量部に対して、10~35質量部であることが好ましく、15~25質量部であることがより好ましい。上記範囲内であることにより、肌上においても放冷により容易にゲル化させることができ、かつ十分な粘着性が得られるため、好ましい。
【0015】
(無機金属塩)
本発明のゼラチン組成物は、無機金属塩を含む。ゼラチン組成物に無機金属塩を配合することにより、導電性のゼラチン組成物が得られ、電極用途に好適に用いることができる。
【0016】
無機金属塩としては特に限定されず、例えば、ハロゲン化ナトリウム(例えば塩化ナトリウム)、ハロゲン化リチウム、ハロゲン化カリウム等のハロゲン化アルカリ金属;ハロゲン化マグネシウム、ハロゲン化カルシウム等のハロゲン化アルカリ土類金属;その他の金属ハロゲン化物;各種金属の、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、燐酸塩等が挙げられる。この中でも、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム等の塩化アルカリ金属;塩化マグネシウム、塩化カルシウム等の塩化アルカリ土類金属が好ましく、塩化ナトリウムがより好ましい。これらは1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0017】
本発明のゼラチン組成物において、無機金属塩の含有量は、ゼラチン組成物の全質量100質量部に対して、1~15質量部であることが好ましく、3~10質量部であることがより好ましい。上記範囲内であることにより、十分にインピーダンスが低く、かつ引張強度が良好なゲルが得られるため、好ましい。水分を含んだゼラチン組成物は、元来誘電体としての特性を有し、電極素子と複合させて電極を作成した場合には、ゲルの厚さや電極素子面積に応じた電気容量を有する。しかし、電極のインピーダンス(Z)は、特に1kHz未満の低周波領域では、無機金属塩濃度に大きく影響される。ゼラチン組成物における無機金属塩の含有量が1質量部以上であると、インピーダンスを低くすることができる。また、15質量部以下であると、無機金属塩がゲル化を阻害して引張強度が低下するということが生じ難い。
【0018】
(多価アルコール)
多価アルコールは、ゼラチン組成物に保湿力を付与し、水分の蒸散を抑え、ゲルの柔軟性を保つものである。本発明のゼラチン組成物に含まれる多価アルコールは、ポリグリセリンを含む。
【0019】
ポリグリセリンとは、複数のグリセリンが重合した構造をもつものを広く包含し、例えば、直鎖状のポリグリセリン、分岐構造を有するポリグリセリンが挙げられる。ポリグリセリンは、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0020】
ポリグリセリンの重合度は、2より大きく40未満であることが好ましく、3以上39以下であることがより好ましく、3以上35以下であることがさらに好ましく、3以上30以下であることが特に好ましい。重合度が2より大きいと強度が十分であり、40未満であると、皮膚粘着力が維持される。
【0021】
本発明のゼラチン組成物において、ポリグリセリンとして、直鎖状のポリグリセリンを含むことができる。本明細書において、「直鎖状のポリグリセリン」とは、グリセリンの脱水縮合反応や、エピクロロヒドリンの重付加反応によって製造することができるポリグリセリンが挙げられるが、これらに限定されない。直鎖状のポリグリセリンの例として、例えば下記式(I)で表されるポリグリセリンが挙げられる。
【化1】
(nは2以上の整数である。)
【0022】
直鎖状のポリグリセリンの重合度は、2より大きく40未満であることが好ましく、3以上39以下であることがより好ましく、3以上30以下であることがさらに好ましく、3以上20以下が特に好ましく、3以上20以下が最も好ましい。
【0023】
直鎖状のポリグリセリンの平均分子量は200~5,000g/molが好ましく、230~3,000g/molがより好ましい。
直鎖状のポリグリセリンの粘度(40℃)は5000~50,000mPa・sが好ましく、8,000~30,000mPa・sがより好ましい。
直鎖状のポリグリセリンの水酸基価は500~2000KOHmg/gが好ましく、800~1,200KOHmg/gがより好ましい。
直鎖状のポリグリセリンとしては、阪本薬品工業株式会社から販売されている商品名ポリグリセリン#310、#500、#750、ジグリセリンS、PGL-S、日油株式会社から販売されている商品名ユニグリG6等を使用することができる。
直鎖状のポリグリセリンは1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0024】
本発明のゼラチン組成物において、ポリグリセリンとして、分岐構造を有するポリグリセリンを含むことができる。本明細書において、「分岐構造を有するポリグリセリン」とは、分岐構造を有するポリグリセリンとしては、グリシドールの重付加反応により製造することができるポリグリセリンや、グリセロール又はトリメチルプロパン末端水酸基のアリル化と、触媒を用いたアリル基の二重結合のジヒドロキシ化の繰り返しによって得られるポリグリセリンが挙げられるが、これらに限定されない。分岐構造を有するポリグリセリンの例として、例えば下記式(II)で示される分岐構造を有するポリグリセリンが挙げられる。直鎖状ポリグリセリンは、「分岐構造を有するポリグリセリン」には含まれない。
【化2】
【0025】
分岐構造を有するポリグリセリンは、ポリグリセリン全体の水酸基に占める1級水酸基の割合が50%以上であることが好ましい。なお、特定の化合物に含まれる全水酸基の占める1級水酸基の割合は、炭素原子に対する核磁気共鳴スペクトル(NMR)を測定する方法を用いて測定される。
例えば、ポリグリセリンの炭素原子に対するNMRスペクトルは、以下のようにして測定することができる。
ポリグリセリン500mgを重水2.8mLに溶解し、ろ過後、ゲートつきデカップリングにより13C-NMR(125MHz)スペクトルを得る。なお、ピーク強度は炭素数に比例する第1級水酸基と第2級水酸基の存在を示す13C化学シフトはそれぞれメチレン炭素(CH2OH)が63ppm付近、メチン炭素(CHOH)が71ppm付近であり、これらのシグナル強度を分析することにより、1級水酸基と2級水酸基の存在比を算出する。但し、2級水酸基を示すメチン炭素(CHOH)は、1級水酸基を示すメチレン炭素に結合するメチン炭素にさらに隣接するメチレン炭素ピークと重なるため、それ自体の積分値を得られない。そのため、メチン炭素(CHOH)と隣り合うメチレン炭素(CH2)の74ppm付近のシグナル強度により積分値を算出する。
【0026】
分岐構造を有するポリグリセリンの重合度は、3以上が好ましく、6以上がより好ましい。重合度が3以上であると、引張強度が良好となるため好ましい。また、重合度の上限は、40未満であることが好ましく、39以下がより好ましく、35以下がさらに好ましく、30以下が特に好ましい。
【0027】
分岐構造を有するポリグリセリンの平均分子量は200~5,000g/molが好ましく、230~3,000g/molがより好ましい。
分岐構造を有するポリグリセリンの粘度(40℃)は5,000~50,000mPa・sが好ましく、8,000~30,000mPa・sがより好ましい。
分岐構造を有するポリグリセリンの水酸基価は500~2000KOHmg/gが好ましく、800~1,200KOHmg/gがより好ましい。なお、水酸基価は、第9版食品添加物公定書「油脂類試験法」又は基準油脂分析試験法に準じて算出することができる。
分岐構造を有するポリグリセリンは1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0028】
分岐構造を有するポリグリセリンとしては、株式会社ダイセルから販売されている以下のものを使用することができる。なお、粘度は、E型粘度計を用いて、40℃で、粘度に応じ1~5rpmの回転数により測定されたものである。
商品名PGL03P:平均分子量=240g/mol、粘度(40℃)=8,300mPa・s、水酸基価=1,100~1,200KOHmg/g
商品名PGL06:平均分子量=460g/mol、粘度(40℃)=23,000mPa・s、ヒドロキシル価=900~1,000KOHmg/g
商品名PGL10:平均分子量=660g/mol、粘度(40℃)=27,900mPa・s、ヒドロキシル価=800~900KOHmg/g
商品名PGL10PSW:平均分子量=780g/mol、粘度(40℃)=16,800mPa・s、ヒドロキシル価=805~855KOHmg/g
商品名PGL20PW:平均分子量=1,500g/mol、粘度(40℃)=9,260mPa・s、ヒドロキシル価=695~755KOHmg/g
商品名PGLX:平均分子量=3,000g/mol、粘度(40℃)=8,500mPa・s、ヒドロキシル価=675~715KOHmg/g
商品名PGLXPW:平均分子量=3,000g/mol、粘度(40℃)=19,800mPa・s、ヒドロキシル価=650~750KOHmg/g
【0029】
本発明のゼラチン組成物におけるポリグリセリンの含有量(分岐構造を有するポリグリセリン及び直鎖状のポリグリセリンの合計含有量)は、ゼラチン組成物全量100質量部に対して、3~40質量部の範囲内であることが好ましく、5~36質量部の範囲内であることがより好ましく、15~36質量部の範囲内であることが特に好ましい。ポリグリセリンの含有量が上記範囲であると、ゼラチン組成物の引張強度及び肌粘着力が良好となるため、好ましい。
【0030】
本発明のゼラチン組成物における直鎖状のポリグリセリンの含有量は、ゼラチン組成物全量100質量部に対して、3~40質量部の範囲内であることが好ましく、15~36質量部の範囲内であることがより好ましく、20~36質量部の範囲内であることが特に好ましい。直鎖状のポリグリセリンの含有量が上記範囲であると、ゼラチン組成物の引張強度及び肌粘着力が良好となるため、好ましい。
【0031】
本発明のゼラチン組成物における分岐構造を有するポリグリセリンの含有量は、ゼラチン組成物全量100質量部に対して、3~40質量部の範囲内であることが好ましく、5~28質量部の範囲内であることがより好ましく、15~28質量部の範囲内であることが特に好ましい。分岐構造を有するポリグリセリンの含有量が上記範囲であると、ゼラチン組成物の引張強度及び肌粘着力が良好となるため、好ましい。
【0032】
また、多価アルコールとして、ポリグリセリンに加えて、グリセリンを含むことが好ましい。グリセリンを加えることにより、ゼラチン組成物の乾燥を抑制することができるため、好ましい。本発明のゼラチン組成物におけるグリセリンの含有量は、ゼラチン組成物全量100質量部に対して、0~30質量部の範囲内であることが好ましく、0~26質量部の範囲内であることがより好ましく、0~16質量部の範囲内であることが特に好ましい。グリセリンの含有量が上記範囲であると、ゼラチン組成物の引張強度及び肌粘着力が良好となるため、好ましい。
【0033】
本発明のゼラチン組成物におけるポリグリセリン(分岐構造を有するポリグリセリン及び直鎖状のポリグリセリンの合計)とグリセリンとの含有割合は、質量比で、20:80~80:20であることが好ましく、50:50~75:25であることがより好ましい。ポリグリセリンとグリセリンの含有割合が上記範囲であることにより、ゼラチン組成物の引張強度及び肌粘着力が良好となるため、好ましい。
【0034】
本発明のゼラチン組成物が直鎖状のポリグリセリンを含む場合、直鎖状のポリグリセリンとグリセリンとの含有割合は、質量比で、50:50~100:0であることが好ましく、70:30~80:20であることがより好ましい。直鎖状のポリグリセリンとグリセリンの含有割合が上記範囲であることにより、ゼラチン組成物の引張強度及び肌粘着力が良好となるため、好ましい。
【0035】
本発明のゼラチン組成物が分岐構造を有するポリグリセリンを含む場合、分岐構造を有するポリグリセリンとグリセリンとの含有割合は、質量比で、20:80~80:20であることが好ましく、50:50~75:25であることがより好ましい。分岐構造を有するポリグリセリンとグリセリンの含有割合が上記範囲であることにより、ゼラチン組成物の引張強度及び肌粘着力が良好となるため、好ましい。
【0036】
また、多価アルコールとして、上記に加えて、さらに他の多価アルコールを含むこともできる。他の多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のジオールの他、ぺンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール等の多価アルコール重合体、ポリオキシエチレングリセリン等の多価アルコール変性体等が使用可能である。これらの多価アルコールは、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0037】
多価アルコール中のポリグリセリンとグリセリンの合計の割合は、特に限定されないが、80質量%以上であることが好ましい。例えば多価アルコール中のポリグリセリンとグリセリンの合計の割合は100質量%である。
【0038】
本発明のゼラチン組成物における多価アルコールの合計含有量(分岐構造を有するポリグリセリン、直鎖状ポリグリセリン、グリセリン、他の多価アルコールの合計含有量)は、ゼラチン組成物全量100質量部に対して、3~40質量部の範囲内であることが好ましく、5~36質量部の範囲内であることがより好ましく、15~36質量部の範囲内であることが特に好ましい。多価アルコールの含有量が上記範囲であると、ゼラチン組成物の引張強度及び肌粘着力が良好となるため、好ましい。
【0039】
(水)
本発明のゼラチン組成物における水の含有量は、特に限定されないが、好適な粘着特性や電気特性を確保するためには、ゼラチン組成物全量100質量部に対して、30~50質量部の範囲内であることが好ましく、35~45質量部の範囲内であることがより好ましい。水の含有量が上記範囲内であると、無機金属塩を均一に溶解させることができ、かつ、ゼラチン組成物の引張強度及び肌粘着力が良好となるため好ましい。
【0040】
(その他添加剤)
ゼラチン組成物は、任意選択で、他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤としては、無機金属塩以外の電解質、防腐剤、殺菌剤、防徴剤、防錆剤、酸化防止剤、消泡剤、安定剤、香料、界面活性剤、着色剤、薬効成分(例えば、抗炎症剤、ビタミン剤、美白剤等)等が挙けられる。これらの添加剤は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。これらの添加剤は、高分子マトリックス、水、及び多価アルコールの合計100質量部に対して、0.01~10質量部の範囲内で用いることができる。
【0041】
(物性等)
本発明のゼラチン組成物は、ゲル化した際の引張強度が0.5MPa以上であることが好ましく、1.0MPa以上であることがより好ましい。引張強度が上記範囲であることにより、ゼラチン組成物の肌からの剥離の際に引きちぎれ難い。また、引張強度の上限は、特に限定されないが、例えば2.0MPa以下である。なお、本明細書において、引張強度は、実施例に記載した測定方法に従って測定されるものである。
【0042】
本発明のゼラチン組成物は、ゲル化した際の肌粘着力が1.0~6.0Nであることが好ましく、2.0~5.0Nであることがより好ましい。肌粘着力が上記範囲であることにより、皮膚表面からの脱落が起こり難く、また、剥離の際に痛みや発赤を伴う可能性が低い。なお、本明細書において、肌粘着力は、実施例に記載した測定方法に従って測定されるものである。
【0043】
本発明のゼラチン組成物は、融点が37~60℃であることが好ましく、38~50℃であることが特に好ましい。融点が上記範囲であることにより、ゼラチン組成物を融解させてゾル状態で皮膚に塗布する際に、被験者が不快な熱さを感じにくく、また、肌上においても放冷により容易にゲル化させることができる。なお、本明細書において、融点は、実施例に記載した測定方法に従って測定されるものである。
【0044】
<ゼラチン組成物の製造方法>
本発明のゼラチン組成物は、以下の工程を含む方法により製造することができる。
(1)ゼラチン、無機金属塩、多価アルコール、及び水を含む混合物により、ゼラチンを膨潤させる工程
(2)膨潤したゼラチンを加熱により溶解させる工程
(3)溶解したゼラチンを冷却してゲル化させる工程
【0045】
工程(1)において、混合物における混合順序は特に限定されず、無機金属塩、多価アルコール及び水を含む水溶液にゼラチンを混合しても良く、他の混合順序であっても良い。また、混合物は、必要に応じて、各種添加剤等を含むことができる。
混合物を10~60℃で0.5時間程度撹拌した後、10~30℃で1~3時間程度静置することにより、ゼラチンを膨潤させることが好ましい。ゼラチンを膨潤させることにより、以降の工程においてゼラチンの分散性が良好となるため、好ましい。
【0046】
工程(2)において、加熱条件は、混合物中のゼラチンを溶解させることができるものであれば特に限定されないが、例えば、50~75℃で0.5~1.5時間程度加熱することが好ましい。
【0047】
工程(3)において、冷却条件は、ゼラチンをゲル化させることができるものであれば特に限定されないが、例えば、10~30℃で2~3時間程度冷却することが好ましい。
【0048】
なお、本発明のゼラチン組成物の製造方法においては、多価アルコールとゼラチンの架橋の促進のための及び/又はゼラチン組成物の濃縮のための乾燥工程を含んでも含まなくてもよいが、好ましくは乾燥工程を含まない。このため、ゼラチン組成物の製造が簡便である。
【0049】
<ゼラチン組成物の用途>
本発明のゼラチン組成物は、室温ではゲル状態であるが、加熱により融解してゾル状態に変化する。そのため、ゾル状態で塗布する際には体毛の間にしみこみやすく、体毛の濃い部分であっても適用することができる。また、放冷することによりゲル化するため、ゼラチン組成物を皮膚上に固定することができる。さらに、本発明のゼラチン組成物は、ゲル化した際の引張強度が良好であることから、ゼラチン組成物のゲルを皮膚から除去する際に、ちぎれて皮膚に残留する、ということが起こりにくい。
そのため、生体電極における生体表面に貼着するゲル部材として好適に用いることができる。
【0050】
(生体電極)
本発明の一態様によれば、本発明のゼラチン組成物を含む生体電極が提供される。
生体電極は、本発明のゼラチン組成物と、導電材料から構成される電極とが積層された電極であってよい。電極は、導電性材料を含んでいればよい。そのような材料としては、例えば、アルミニウム、ステンレス、銅、白金、銀、銀-塩化銀の複合体、金、錫、チタン、ニッケル、モリブデン等の金属、カーボンブラックやグラファイト等の導電性炭素材料、これらの混合物等が挙げられる。
本態様の生体電極は、心電図、脳波、眼振、筋電、超音波検査等に使用する生体用電極、経皮的電気刺激療法(TENS)、低周波治療等に使用する電気刺激用電極、電気メス用対極板やイオントフォレシス用電極等の医療用電極として用いることができる。
【実施例0051】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0052】
(使用材料)
・ゼラチン:300ブルームのタイプAゼラチン粉末(ゼラチン from porcine skin、シグマアルドリッチ社製)
・塩化ナトリウム:御塩、赤穂化成株式会社製
・濃グリセリン:グリセリン、純分100%、日油株式会社製
・PGL 06P:分岐構造を有するポリグリセリン、株式会社ダイセル製、重合度6、純分100%
・PGL 10PSW R:分岐構造を有するポリグリセリン、株式会社ダイセル製、重合度10、純分95%
・PGL 20PW R:分岐構造を有するポリグリセリン、株式会社ダイセル製、重合度20、純分90%
・PGL X:分岐構造を有するポリグリセリン、株式会社ダイセル製、重合度30、純分90%
・ジグリセリンS:直鎖状のポリグリセリン、阪本薬品工業株式会社製、重合度2、純分100%
・PGL-S:直鎖状のポリグリセリン、阪本薬品工業株式会社製、重合度3、純分100%
・ポリグリセリン#310:直鎖状のポリグリセリン、阪本薬品工業株式会社製、重合度4、純分100%
・ユニグリG-6:直鎖状のポリグリセリン、日油株式会社製、重合度6、純分90%
・ポリグリセリン#750:直鎖状のポリグリセリン、阪本薬品工業社製、重合度10、純分90%
【0053】
物性等の測定は、以下の方法により実施した。
【0054】
(融点測定)
オーブン(MDN-19GA、いすゞ製作所株式会社製)を室温から段階的に昇温した。恒温槽内部の温度をデジタル温度計で計測し、これを計測温度とした。各段階における計測温度が安定したことを確認した後、約1cm角にカットしたゼラチン組成物を20mLガラス瓶に入れて密封し、オーブンに入れて30分間加熱した。液状化の確認は、ゼラチン組成物にスパチュラを接触させ、当該スパチュラにゼラチン組成物が付着しているか否かで行った。液状化した時の計測温度と、その手前の段階における計測温度の間を融点の範囲とした。
【0055】
(引張破断強度)
ダンベル7号で打ち抜いた厚さ1mmのシリコンゴムの枠を60℃に加熱した恒温槽に入れて保温した。60℃に加熱して液状化させたゼラチン組成物を保温したシリコンゴム枠に流し込み、同じく保温しておいた2枚のPETフィルムで挟んだ後、恒温槽から出して放冷した。ダンベル型に成型されたゼラチン組成物を、チャック間距離が24mmになるように治具で固定し、テクスチャーアナライザー(TA.XTplusC、英弘精機株式会社製)を用いて引張試験を行った。測定は室温で引っ張り速度300mm/分で行い、3点の試験片について応力-歪み曲線を記録し、破断までの最大引張り強さの平均値を破断強度とした。
【0056】
(肌粘着力)
2cm角に切り抜いた厚さ1mmのシリコンゴムの枠の下に、2cm×10cmにカットした不織布(9515F、シンワ株式会社製)の端部を敷き、60℃に加熱した恒温槽に入れて保温した。60℃に加熱して液状化させたゼラチン組成物を、同じく保温しておいたシリコンゴム枠に流し込み、不織布に浸み込ませた。被験者の左前腕上に溶融したゼラチン組成物を貼りつけた後、10分間放冷した。シリコンゴム枠を取り除き、不織布のゼラチン組成物が付着していない一端を治具で固定し、テクスチャーアナライザーを用いて腕に対し約90°方向へ引張した。3点の試験片について応力-歪み曲線を記録し、最大引張り強さの平均値を肌粘着力とした。
【0057】
(実施例1)
塩化ナトリウム0.93gをイオン交換水7.55gに溶解させ、濃グリセリン1.50g、分岐状ポリグリセリンPGL 20PWR 4.95gを混合した。得られた水溶液にゼラチン4.0gを加えて振り混ぜた後、室温で2時間静置してゼラチンを膨潤させた。得られたゼラチン分散液を75℃で45分間加熱した後、溶液が均一になるようかき混ぜ、放冷することでゼラチン組成物を製造した。得られたゼラチン組成物について、融点、引張破断強度、肌粘着力を測定した。結果を表1、
図1(A)、(B)に示す。
【0058】
(実施例2~22、比較例1)
各成分の配合量を表1~5に記載のように変更した以外は、実施例1と同様にして、ゼラチン組成物を製造した。得られたゼラチン組成物について、融点、引張破断強度、肌粘着力を測定した。結果を表1~5、
図1(A)~
図5に示す。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
上記の通り、いずれの実施例においても、ポリグリセリンを含まない組成である比較例1と比較して、引張強度が向上していることが明らかである。
【0065】
表1及び
図2において、実施例1~4のゼラチン組成物における分岐構造を有するポリグリセリンの重合度の影響を比較すると、実施例1~3のゼラチン組成物(ポリグリセリンの重合度が2より大きく40未満)において、特に引張強度及び肌粘着力が良好な結果となった。実施例4のゼラチン組成物では、肌粘着力において、実施例1~3のゼラチン組成物と比較すると改善の余地がある結果となった。
【0066】
表2及び
図3において、実施例5~9のゼラチン組成物における直鎖状のポリグリセリンの重合度の影響を比較すると、実施例6~9のゼラチン組成物(ポリグリセリンの重合度が2より大きく40未満)において、特に引張強度及び肌粘着力が良好な結果となった。実施例5のゼラチン組成物では、引張強度において、実施例6~9のゼラチン組成物と比較すると改善の余地がある結果となった。
【0067】
表3及び
図4において、実施例10~16のゼラチン組成物における分岐状ポリグリセリンの混合比率が導電性ゼラチン組成物の物性に与える影響を比較すると、実施例11~14のゼラチン組成物(ポリグリセリン:グリセリン混合比率が20:80~80:20の範囲内)において、特に引張強度及び肌粘着力が良好な結果となった。実施例10のゼラチン組成物では、引張強度において、実施例11~14のゼラチン組成物と比較すると改善の余地がある結果となった。また、実施例15、16のゼラチン組成物では、肌粘着力において、実施例11~14のゼラチン組成物と比較すると改善の余地がある結果となった。
【0068】
表4及び
図5において、実施例17~21のゼラチン組成物における直鎖状ポリグリセリンの混合比率が導電性ゼラチン組成物の物性に与える影響を比較すると、実施例20、21のゼラチン組成物(ポリグリセリン:グリセリン混合比率が50:50~100:0の範囲内)において、特に引張強度及び肌粘着力が良好な結果となった。実施例17~19のゼラチン組成物では、引張強度において、実施例20、21のゼラチン組成物と比較すると改善の余地がある結果となった。
【0069】
表5において、実施例22では分岐状ポリグリセリンと直鎖状ポリグリセリンを併用した組成で検討しているが、こちらにおいても引張強度及び肌粘着力が良好な結果となった。
【0070】
図1(A)において、実施例1のゼラチン組成物の引張強度は比較例1のゼラチン組成物の約5倍であった。
図1(B)において、皮膚に貼り付けたゼラチン組成物を皮膚から剥離すると、実施例1のゼラチンゲルは皮膚に残留なく剥離されたのに対し、比較例1のゼラチンゲルはちぎれて皮膚上に残留した。