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  • 特開-連層耐力壁構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115095
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】連層耐力壁構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240819BHJP
   E04B 2/56 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
E04H9/02 321E
E04B2/56 631D
E04B2/56 631J
E04B2/56 611D
E04B2/56 604F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020573
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 陽輔
(72)【発明者】
【氏名】貞広 修
(72)【発明者】
【氏名】木村 誠
【テーマコード(参考)】
2E002
2E139
【Fターム(参考)】
2E002FA04
2E002FB07
2E002JA01
2E002JA02
2E002JB02
2E002MA12
2E139AA01
2E139AC40
2E139AD03
(57)【要約】
【課題】木質耐力壁の平面的な位置が上下層で異なるような建築物を実現するための連層耐力壁構造を提供する。
【解決手段】上層の木質耐力壁12と、下層の木質耐力壁14と、前記上層の木質耐力壁12の下端と、前記下層の木質耐力壁14の上端との間に設けられる梁型の境界部材16とを備えた連層耐力壁構造10であって、前記境界部材16は、鉄骨部材30を内蔵するコンクリート24からなり、前記上層の木質耐力壁12は、前記鉄骨部材16に接合して前記境界部材16から上方に突出したアンカーボルト22に固定され、前記下層の木質耐力壁14は、前記鉄骨部材30に接合して前記境界部材16から下方に突出したアンカーボルトに固定されるようにする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上層の木質耐力壁と、下層の木質耐力壁と、前記上層の木質耐力壁の下端と、前記下層の木質耐力壁の上端との間に設けられる梁型の境界部材とを備えた連層耐力壁構造であって、
前記境界部材は、鉄骨部材を内蔵するコンクリートからなり、
前記上層の木質耐力壁は、前記鉄骨部材に接合して前記境界部材から上方に突出したアンカーボルトに固定され、
前記下層の木質耐力壁は、前記鉄骨部材に接合して前記境界部材から下方に突出したアンカーボルトに固定されることを特徴とする連層耐力壁構造。
【請求項2】
前記鉄骨部材は、水平面を有する型鋼であることを特徴とする請求項1に記載の連層耐力壁構造。
【請求項3】
前記アンカーボルトは、前記鉄骨部材に対して機械的に接合していることを特徴とする請求項1または2に記載の連層耐力壁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質耐力壁を用いた連層耐力壁構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、CLT(Cross Laminated Timber:直交集成板)をパネルとして、床、壁、屋根などに使用して建築物を構築するCLTパネル工法が知られている(例えば、特許文献1、2、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-101052号公報
【特許文献2】特開2019-167766号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「CLTを用いた建築物の設計施工マニュアル 2021年構造・材料増補版」、公益財団法人日本住宅・木材技術センター
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CLTパネル工法では基本的に、地震時の壁パネル(木質耐力壁)の転倒による圧縮/引張力を上層から下層に円滑に伝達するため、上層と下層の壁パネルの平面配置を合わせる必要がある(非特許文献1を参照)。すなわち、上階と下階の壁パネルの両側部がそれぞれ同一鉛直線上に位置するように配置する必要がある。図3(a)、(b)に、上下の壁パネル1の両側部がそれぞれ同一鉛直線上に位置する例を示す。図3(c)、(d)に、上下の壁パネル1の両側部がそれぞれ同一鉛直線上に位置しない例を示す。なお、符号2は床パネル(または梁部材)である。
【0006】
また、中高層建物や低層建物でも上層の階高が高い場合には、前述の壁パネルの圧縮/引張力が大きくなるため、床パネルの面外方向のめり込みの影響を少なくする措置(例えば、床パネルにめり込み防止の金物を設けたり、鉄骨梁や鉄筋コンクリート部材を併用する等の措置)が必要となる。
【0007】
これらの制約により、従来のCLTパネル工法では、上層に比較的大空間・高階高となる部屋を組み合わせた建築計画を成立させることが難しいという問題があった。
【0008】
また、従来のCLTパネル工法では、壁パネルの上下に引張用金物を設けるが、この引張用金物に引きボルト式接合構造を採用した場合、コンクリート躯体から上方に大きく突出させる上層の壁パネル用のアンカーボルトを如何に精度良く保持したまま、躯体のコンクリート打設を行うことができるかが施工上の大きな問題となっていた。
【0009】
以上のような問題を解決するための工法として、本発明者らは、CLTパネル工法をベースとして、床パネルと鉄筋コンクリート(RC)造床スラブを併用する工法を検討した。この工法において、市松状その他のデザイン要件により、上下層の壁パネルの平面的な位置が異なるような構造の建築物を実現するための技術が求められていた。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、木質耐力壁の平面的な位置が上下層で異なるような建築物を実現するための連層耐力壁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る連層耐力壁構造は、上層の木質耐力壁と、下層の木質耐力壁と、前記上層の木質耐力壁の下端と、前記下層の木質耐力壁の上端との間に設けられる梁型の境界部材とを備えた連層耐力壁構造であって、前記境界部材は、鉄骨部材を内蔵するコンクリートからなり、前記上層の木質耐力壁は、前記鉄骨部材に接合して前記境界部材から上方に突出したアンカーボルトに固定され、前記下層の木質耐力壁は、前記鉄骨部材に接合して前記境界部材から下方に突出したアンカーボルトに固定されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る他の連層耐力壁構造は、上述した発明において、前記鉄骨部材は、水平面を有する型鋼であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る他の連層耐力壁構造は、上述した発明において、前記アンカーボルトは、前記鉄骨部材に対して機械的に接合していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る連層耐力壁構造によれば、上層の木質耐力壁と、下層の木質耐力壁と、前記上層の木質耐力壁の下端と、前記下層の木質耐力壁の上端との間に設けられる梁型の境界部材とを備えた連層耐力壁構造であって、前記境界部材は、鉄骨部材を内蔵するコンクリートからなり、前記上層の木質耐力壁は、前記鉄骨部材に接合して前記境界部材から上方に突出したアンカーボルトに固定され、前記下層の木質耐力壁は、前記鉄骨部材に接合して前記境界部材から下方に突出したアンカーボルトに固定されるので、木質耐力壁の平面的な位置が上下層で異なるような建築物を実現することができるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係る他の連層耐力壁構造によれば、前記鉄骨部材は、水平面を有する型鋼であるので、型鋼の水平面の部分をアンカーボルト用の定着板として利用することができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る他の連層耐力壁構造によれば、前記アンカーボルトは、前記鉄骨部材に対して機械的に接合しているので、鉄骨部材そのものをアンカーボルト用の定着板として利用し、応力分散に寄与させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明に係る連層耐力壁構造の実施の形態を示す側断面図である。
図2図2は、鉄骨部材に仮固定されたアンカーボルトの設置状況を示す概略斜視図である。
図3図3は、上層と下層の壁パネルの配置例を示す正面断面図である(出典:非特許文献1)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る連層耐力壁構造の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0019】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る連層耐力壁構造10は、複数層の建築物の上層(2階)に配置される壁パネル12(上層の木質耐力壁)と、下層(1階)に配置される壁パネル14(下層の木質耐力壁)と、壁パネル12の下端と、壁パネル14の上端との間の境界部分に設けられる境界部材16とを備える。この連層耐力壁構造10は、CLTパネル工法をベースとして、床パネル18とその上のRC造床スラブ20を併用する工法において、市松状その他のデザイン要件により、上下層の壁パネル12、14の配置が平面的に一致しない場合に適用される。本実施の形態では、壁パネル12の両側部と、壁パネル14の両側部は、それぞれ同一鉛直線上に位置していない。
【0020】
壁パネル12、14は、CLTパネルである。本実施の形態では、スギ等の樹種からなる厚み200mm程度のCLTパネルを想定している。上層の壁パネル12は、境界部材16から上方に突出した複数本のアンカーボルト22に固定される。下層の壁パネル14は、境界部材16から下方に突出した図示しない複数本のアンカーボルトに固定される。
【0021】
境界部材16は、鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造の大梁(梁型)であり、床パネル18およびRC造床スラブ20の側端側に設けられる。この境界部材16は、矩形断面のコンクリート24の内部に鉄筋(主筋26および帯筋28)と鉄骨部材30を内蔵する。本実施の形態では、鉄骨部材30として溝形鋼32を用いている。溝形鋼32は、境界部材16の断面の略中央に設けられ、梁軸方向(図1の奥行方向)に延びている。溝形鋼32の上フランジ34は上側に水平に配置され、下フランジ36は下側に水平に配置される。上下フランジ34、36とウェブ38に囲まれた凹状の部分には、鉛直板状のリブ40が溶接されている。リブ40は、溝形鋼32の凹部から側方に張り出した張出部42を有しており、張出部42の下縁には、水平板状の内蔵鋼材44の上面が溶接されている。
【0022】
図2は、境界部材16のコンクリートを打設する前の状況を示している。内蔵鋼材44および溝形鋼32は、図示しないコンクリート用型枠に仮固定されている。この図に示すように、内蔵鋼材44は、梁軸方向に所定の間隔をあけて複数設けられる。リブ40は、内蔵鋼材44の梁軸方向の両端側に設けられる。内蔵鋼材44には、上下方向に貫通する穴が設けられており、この穴には上層の壁パネル12を固定するためのアンカーボルト22の下端側が通されている。アンカーボルト22の下端側には、内蔵鋼材44を挟んで上下にナット46が螺合している。アンカーボルト22はナット46を介して内蔵鋼材44に固定される。なお、下層の壁パネル14を固定するためのアンカーボルトについては、この構造を上下逆にした構造であるので、詳細な説明を省略する。
【0023】
地震時の壁パネルの転倒により生じる上層の壁パネル12と下層の壁パネル14からの圧縮力(支圧反力)と引張力(アンカーボルトの定着部反力)による力のつり合いをとるために、境界部材16には相応の曲げせん断強度が必要となる。RC造梁としてせん断性能が不足する場合に、境界部材16の内部に鉄骨部材30を設けてSRC造の梁とすることで梁せいを小さくすることができる。低層建物を計画する場合であれば、境界部材16の梁せいは扁平形状で300mm程度、内蔵する鉄骨部材30は溝形鋼程度の比較的軽量な部材で所要の性能を確保できる。なお、内蔵する鉄骨部材30については、溝形鋼32の他、後述する定着板としての性能をも担保するため水平面を有する形鋼(例えば、H形鋼)であって、コンクリート充填性を担保できる範囲の幅細断面であれば他の断面でも代用可能である。
【0024】
上層・下層の壁パネル12、14を境界部材16に固定するためのアンカーボルト22を、内蔵鋼材44にナット46等を介して機械的に直接接合することにより、アンカーボルトセットとして従来使用されることが多い定着板に替わって内蔵鋼材44そのものを定着板として利用し、応力分散に寄与させることができる。また、境界部材16の梁せいが小さく壁パネル12、14のアンカーボルト22を境界部材16に固定するために十分な長さ(定着長)を確保できない場合にその効果が大きい。
【0025】
CLTパネル工法では、壁パネル一枚あたりに引きボルト接合用のアンカーの他、せん断金物用のアンカーが必要となるため、アンカーボルト本数は膨大である。特に引きボルト接合用のアンカーは、地震時に建物として十分な靭性を確保するため、アンカーボルト自身の軸変形を担保するための所要の長さを確保することが必要となる。そのため、定着長が短い(境界部材の梁せいが小さい)場合には、図1に示すように、壁パネル12、14上下端面にアンカーボルト径より数mm程度大きい上下方向の穴48を開けた上でこの部分にアンカーボルト22を通し、このアンカーボルト22用の穴48とは別に壁パネル12、14を水平に貫通する穴50を設け、この穴50の部分に定着板52を介してアンカーボルト22の端部を支圧定着させる。なお、上層の壁パネル12の下端面は、無収縮モルタル54を介して境界部材16の上端面に配置する。また、下層の壁パネル14の上端面は、木質の板材(CLTパネルなど)18Aを介して境界部材16の下端面に配置する。
【0026】
本実施の形態によれば、境界部材16を介して上層の壁パネル12から下層の壁パネル14まで地震力を伝達可能である。これにより、壁パネル12、14の平面的な位置が上下層で異なるような建築物を実現することができ、各階の用途構成や外観デザインに応じた自由度の高い壁パネルの配置が可能となる。また、境界部材16から突出したアンカーボルト22を、境界部材16のコンクリート用型枠に仮固定された内蔵鋼材44を定規代わりとして留め付けることで、アンカーボルト22の通り・レベルを保持しながら境界部材16のコンクリート打設を行うことができる。ただし、アンカーボルト22を内蔵鋼材44のレベルのみで支保することはできないため、別途、倒れ防止としてコンクリート用型枠からアンカーボルト22を斜め方向に支保させることが望ましい。
【0027】
また、ビス留め、釘打ち等の簡易な接合の組合せにより、負圧力を含めた荷重に対して十分な面外剛性が期待できる。従来のCLTパネル工法と比較して、スパンの大きな建築空間を実現可能である。また、束壁内に斜材等を組み込むことによって、準耐火建築物建築物としての燃えしろ設計が可能である。
【0028】
以上説明したように、本発明に係る連層耐力壁構造によれば、上層の木質耐力壁と、下層の木質耐力壁と、前記上層の木質耐力壁の下端と、前記下層の木質耐力壁の上端との間に設けられる梁型の境界部材とを備えた連層耐力壁構造であって、前記境界部材は、鉄骨部材を内蔵するコンクリートからなり、前記上層の木質耐力壁は、前記鉄骨部材に接合して前記境界部材から上方に突出したアンカーボルトに固定され、前記下層の木質耐力壁は、前記鉄骨部材に接合して前記境界部材から下方に突出したアンカーボルトに固定されるので、木質耐力壁の平面的な位置が上下層で異なるような建築物を実現することができる。
【0029】
また、本発明に係る他の連層耐力壁構造によれば、前記鉄骨部材は、水平面を有する型鋼であるので、型鋼の水平面の部分をアンカーボルト用の定着板として利用することができる。
【0030】
また、本発明に係る他の連層耐力壁構造によれば、前記アンカーボルトは、前記鉄骨部材に対して機械的に接合しているので、鉄骨部材そのものをアンカーボルト用の定着板として利用し、応力分散に寄与させることができる。
【0031】
なお、2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施の形態に係る連層耐力壁構造は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「13.気候変動に具体的な対策を」の目標などの達成に貢献し得る。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上のように、本発明に係る連層耐力壁構造は、木質耐力壁を用いた階層建築物に有用であり、特に、木質耐力壁の平面的な位置が上下層で異なるような建築物を実現するのに適している。
【符号の説明】
【0033】
10 連層耐力壁構造
12 壁パネル(上層の木質耐力壁)
14 壁パネル(下層の木質耐力壁)
16 境界部材
18 床パネル
18A 板材
20 床スラブ
22 アンカーボルト
24 コンクリート
26 主筋
28 帯筋
30 鉄骨部材
32 溝形鋼
34 上フランジ
36 下フランジ
38 ウェブ
40 リブ
42 張出部
44 内蔵鋼材
46 ナット
48,50 穴
52 定着板
54 無収縮モルタル
図1
図2
図3