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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115106
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】印刷装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 19/20 20060101AFI20240819BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
B41J19/20 N
B41J2/01 451
B41J2/01 401
B41J2/01 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020588
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 悠介
(72)【発明者】
【氏名】小林 優揮
【テーマコード(参考)】
2C056
2C480
【Fターム(参考)】
2C056EB03
2C056EB07
2C056EB37
2C056EC03
2C056EC11
2C056EC67
2C056HA07
2C056HA12
2C056HA37
2C056JB18
2C480CA01
2C480CA53
2C480CB02
2C480CB11
2C480CB30
2C480CB35
2C480DA30
2C480DB03
(57)【要約】
【課題】印刷ヘッドが異物に当たることによるダメージを抑制できる印刷装置を提供する。
【解決手段】印刷装置は、媒体を支持する支持部の一例としての搬送ベルトと、印刷ヘッドが配置されるキャリッジ32と、搬送ベルトと印刷ヘッドとのギャップを調整するギャップ調整部60とを備える。印刷ヘッドは、搬送ベルトに支持される媒体に印刷を行う。ギャップ調整部60は、駆動部の一例としてのギャップ調整用モーターと、モーターによる駆動力で回転する回転軸69を含む動力伝達部62と、昇降部70と、相対変位機構90とを備える。昇降部70は、動力伝達部62によって伝達される回転軸69の回転力によってキャリッジ32を昇降させる。相対変位機構90は、動力伝達部62及び昇降部70の少なくとも一方を構成する2つの部材の一方を動作停止状態である他方に対してキャリッジ32の上向きの変位を許容する方向に相対変位させる。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体を支持する支持部と、
前記支持部に支持される前記媒体に印刷を行う印刷ヘッドが配置されるキャリッジと、
前記支持部と前記印刷ヘッドとのギャップを調整するギャップ調整部と、
を備え、
前記ギャップ調整部は、
駆動部と、
前記駆動部による駆動力で回転する回転軸を含む動力伝達部と、
前記動力伝達部によって伝達される前記回転軸の回転力によって前記キャリッジを昇降させる昇降部と、
前記動力伝達部及び前記昇降部の少なくとも一方を構成すると共に互いに接触する2つの部材の一方を動作停止状態である他方に対して前記キャリッジの上向きの変位を許容する方向に相対変位させる相対変位機構と、
を有することを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記相対変位機構は、前記2つの部材の一方の空転又はスライドを相対変位とすることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記2つの部材の一方は歯車であり、他方は前記歯車を相対回転可能に支持する回転軸であり、
前記相対変位機構は、前記歯車を前記回転軸に対して空転させる空転機構であることを特徴とする請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記空転機構は、
前記回転軸から径方向に延びるピンと、
前記回転軸に対して相対回転可能に配置されると共に、前記ピンと当接することで前記歯車の空転可能な範囲を規制する規制面を有する前記歯車と、
を備えることを特徴とする請求項3に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記動力伝達部は、ウォーム歯車を含み、
前記相対変位機構は、前記駆動部の駆動力が伝達される前記動力伝達部の動力伝達経路において前記ウォーム歯車よりも動力伝達方向の下流側に位置することを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記昇降部は、ピニオンとラックとを含み、
前記相対変位機構は、相対変位として、前記ピニオンの空転又は前記ラックの上向きのスライドを許容することを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項7】
前記印刷ヘッドが異物に当たった際の前記キャリッジの突き上げ変位を検知する突上げ検知部と、
前記印刷ヘッド及び前記キャリッジを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記キャリッジの移動中に前記突き上げ変位が検知されると、前記キャリッジを停止させることを特徴とする請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項8】
前記突上げ検知部は、
前記駆動部の駆動量を検出する第1検出部と、
前記相対変位機構による相対変位量を検出する第2検出部と、
前記第1検出部が検出する駆動量と前記第2検出部が検出する前記相対変位量とが閾値を超えて整合しなくなることをもって前記突き上げ変位が発生したと判定する突上げ判定部と、
を備えることを特徴とする請求項7に記載の印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷ヘッドが配置されたキャリッジを備える印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、用紙等の媒体を支持する支持部材(支持部の一例)と、媒体に印刷する液体吐出ヘッド(印刷ヘッドの一例)が配置されたキャリッジとを備える印刷装置が開示されている。キャリッジは、主キャリッジと、主キャリッジに対して上下方向への変位自在に組み付けられた副キャリッジとを有する。距離調整モーター(駆動部の一例)の出力軸の先端にはピニオンが固定され、そのピニオンの歯部は副キャリッジ側のラック部材の歯部と噛合している。副キャリッジは、距離調整モーターの駆動に伴いピニオンと噛合するラック部材が上下移動するため、このラック部材と共に上下移動する。副キャリッジに支持された液体噴射ヘッド(印刷ヘッドの一例)のノズル形成面と支持台における用紙の支持部位である支持面との上下方向での対向距離は、距離調整モーターが駆動することにより調整可能とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-85552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の印刷装置において、副キャリッジ(キャリッジ)を自重に抗してギャップに応じた高さ位置に維持する必要がある。例えば、距離調整モーター等の駆動部からトルクを与えて副キャリッジの高さ位置を維持したり、駆動部の動力をピニオン等の昇降部の構成要素に伝達する動力伝達部に含まれるウォーム歯車等のロック機能を用いて副キャリッジの高さ位置を維持したりする。
【0005】
キャリッジの下方にジャムが発生した際の媒体などの異物の挟み込みが発生すると、キャリッジを突き上げる力が発生するが、上記のような副キャリッジをギャップに応じた高さ位置に維持する力が働いているため、キャリッジが上方へ逃げることができず、印刷ヘッドにダメージを与えてしまうという課題がある。そのため、キャリッジをギャップに応じた高さ位置に維持する力が働いていても、印刷ヘッドが異物に当たるなどしてキャリッジを突き上げる力が発生した際は、キャリッジが上方へ逃げることができる印刷装置が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する印刷装置は、媒体を支持する支持部と、前記支持部に支持される前記媒体に印刷を行う印刷ヘッドが配置されるキャリッジと、前記支持部と前記印刷ヘッドとのギャップを調整するギャップ調整部と、を備え、前記ギャップ調整部は、駆動部と、前記駆動部による駆動力で回転する回転軸を含む動力伝達部と、前記動力伝達部によって伝達される前記回転軸の回転力によって前記キャリッジを昇降させる昇降部と、前記動力伝達部及び前記昇降部の少なくとも一方を構成すると共に互いに接触する2つの部材の一方を動作停止状態である他方に対して前記キャリッジの上向きの変位を許容する方向に相対変位させる相対変位機構と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態における印刷装置を示す正面図である。
図2】印刷装置を示す模式側断面図である。
図3】印刷ヘッド及びキャリッジを含む印刷ユニットを示す斜視図である。
図4】ギャップ調整装置の要部を示す斜視図である。
図5】ギャップ調整部の側断面図である。
図6】ラック・アンド・ピニオン機構を示す斜視図である。
図7】空転機構を有する歯車機構を示す斜視図である。
図8】突き上げ力がないときの空転機構を有するラック・アンド・ピニオン機構を示す斜視図である。
図9】突き上げ力を受けたときの空転機構を有するラック・アンド・ピニオン機構を示す斜視図である。
図10】印刷装置の電気的構成を示すブロック図である。
図11】変更例におけるスライド機構を示す模式側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態の印刷装置11について、図面を参照しながら説明する。図面では、印刷装置11が水平面上に置かれているものとして鉛直方向と平行な方向をZ軸で示し、水平面に沿う方向をX軸とY軸で示す。X軸、Y軸及びZ軸は、互いに直交する。以下の説明では、X軸に沿う方向を幅方向X、Y軸に沿う方向を搬送方向Y、Z軸に沿う方向を鉛直方向Zともいう。X軸は後述する搬送ベルト21の幅方向Xと平行な仮想軸であり、Y軸は搬送ベルト21上の媒体Mの搬送方向Yと平行な仮想軸である。なお、幅方向Xは、キャリッジ32が移動する走査方向でもあるので、走査方向Xともいう。
【0009】
<印刷装置11の構成>
図1図2を参照して印刷装置11の構成について説明する。図1に示すように、印刷装置11は、柱梁構造を有する筐体12を有する。印刷装置11は、操作部13を備える。操作部13は、例えば、操作パネルである。操作部13は、表示部14を備えてもよい。表示部14は、メニュー画面、印刷装置11の動作状況に関する情報を表示する。表示部14は、印刷装置11に発生した異常に関する情報をユーザーに報知する報知部としても機能する。表示部14は、例えば、タッチパネル式の表示部であってもよい。操作部13は、ユーザーが操作することで印刷装置11に指示を与えることが可能である。表示部14がタッチパネルである場合、そのタッチ操作機能部により操作部13の一部が構成されてもよい。なお、操作部13は、操作ボタンのみ備える構成でもよい。
【0010】
図1に示すように、印刷装置11は、搬送部20と、印刷部30とを備える。搬送部20は、媒体Mを搬送する搬送ベルト21を備える。搬送ベルト21は、表面21Aにおいて布帛、用紙などである印刷媒体M(以下、単に「媒体M」ともいう。)を支持して搬送する。本実施形態では、搬送ベルト21が、媒体Mを支持する支持部の一例に相当する。
【0011】
印刷部30は、印刷ヘッド31とキャリッジ32とを備える。印刷ヘッド31はキャリッジ32に配置される。印刷ヘッド31は、搬送ベルト21に支持される媒体Mに印刷を行う。印刷装置11は、キャリッジ32を走査方向Xに案内するガイドレール33を備える。キャリッジ32は、ガイドレール33に沿って走査方向Xに往復移動する。キャリッジ32が移動する途中で印刷ヘッド31が媒体Mに画像を印刷する。キャリッジ32の移動経路の一端部が待機位置である。キャリッジ32は、非印刷時に図1に二点鎖線で示す待機位置で待機する。待機位置にあるときの印刷ヘッド31と対向する位置には、メンテナンス部35が配置されている。メンテナンス部35は、印刷ヘッド31をメンテナンスする。メンテナンス部35は、キャップ36を有する。キャップ36は、印刷ヘッド31よりも下方の退避位置と、印刷ヘッド31に接触するキャッピング位置とに移動する。キャリッジ32は、キャップ36が印刷ヘッド31に接触するキャッピング状態の下で待機する。また、印刷ヘッド31のメンテナンスは、キャッピング状態の下で行われる。
【0012】
また、印刷装置11は、印刷部30にインクを供給するインク供給源15を備える。インク供給源15は、カラー印刷に用いられる複数色のインクの色数と同数である複数備えられてもよい。複数のインク供給源15は、複数色のうち1色ずつのインクをそれぞれ収容する。インク色は、例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック等を含む。印刷部30は、インク供給源15から供給されたインクを、印刷ヘッド31のノズル(図示略)から媒体Mに向かって吐出することで、媒体Mに文字又は画像等を印刷する。なお、インク供給源15は、例えば、インクカートリッジ又はインクタンクである。
【0013】
<搬送部20及び印刷部30等の詳細な構成>
次に、図2を参照して、搬送部20及び印刷部30等の詳細な構成を説明する。図2に示すように、搬送部20は、搬送ベルト21により媒体Mを搬送する。印刷部30は、搬送ベルト21上の媒体Mの部分に印刷する。搬送ベルト21よりも上方に配置される印刷部30等は、カバー16により覆われている。また、印刷装置11は、搬送部20及び印刷部30を制御する制御部100を備える。
【0014】
印刷部30は、印刷ヘッド31により搬送ベルト21に支持された媒体Mに印刷する。本実施形態の印刷ヘッド31は、インク等の液体を吐出することで媒体Mに印刷する。なお、搬送ベルト21のうち印刷ヘッド31と対向する部分は、支持台27により支持される。
【0015】
搬送部20は、搬送ベルト21を回転可能に備える搬送ユニット22を有する。搬送ユニット22は、筐体12の上部に設けられる。搬送ユニット22は、搬送ベルト21、駆動ローラー23、従動ローラー24及び搬送モーター26を有する。駆動ローラー23及び従動ローラー24は、いずれもX方向に沿った回転軸を有する。搬送ベルト21は、弾性を有する無端状のベルトである。搬送ベルト21は、駆動ローラー23および従動ローラー24の外周に巻き掛けられている。搬送モーター26は、駆動ローラー23の駆動源である。制御部100によって搬送モーター26が駆動されることにより、搬送ベルト21の駆動・停止、駆動中の搬送速度が制御される。
【0016】
搬送ユニット22は、駆動ローラー23を回転駆動させることで、無端状の搬送ベルト21を所定の周回経路で回転させる。そして、搬送ユニット22は、駆動ローラー23の回転による搬送ベルト21の移動に伴って、媒体Mを搬送方向Yに搬送可能である。印刷装置11は、搬送ベルト21に貼り付けられる媒体Mを給送する給送部(図示略)を備える。なお、印刷装置11は、印刷後の媒体Mを搬送ベルト21から剥がしつつ巻き取る不図示の巻取装置と一緒に使用される。
【0017】
搬送ベルト21は、媒体Mを貼り付け可能な粘着層25を有する。詳しくは、搬送ベルト21は、無端状のベルト基材21Bと、ベルト基材21Bの外周面に一層形成された粘着層25とを含む。媒体Mは、粘着層25の表面21Aに貼り付けられる。搬送ベルト21は、粘着層25に貼り付けた媒体Mを搬送方向Yに搬送可能である。粘着層25は、他の部材と一時的に接着可能でありかつ接着状態からの剥離が可能となる粘着特性を有する。ここで、粘着層25には、感熱型と感圧型とがある。感熱型の粘着層25は、温度が高まると粘着力が増加する性質を有する。感圧型の粘着層25は、加圧によって粘着力が高まる性質を有する。粘着層25は、感熱型と感圧型のどちらでもよいが、本実施形態では感熱型の例で説明する。
【0018】
そのため、搬送部20は、搬送ベルト21の粘着層25を加熱する加熱部51と、媒体Mを搬送ベルト21に押圧する押圧部52とを備える。加熱部51は熱源となるヒーター51Aを備える。押圧部52は、媒体Mを加圧しながら回転する加圧ローラー53とを備える。
【0019】
図2に示すように、加熱部51は、媒体Mの粘着層25への貼り付けが開始される貼付開始位置APよりも周回方向CDの上流の位置で粘着層25を加熱する。
押圧部52は、媒体Mを粘着層25に押し付ける機構である。押圧部52は、加圧ローラー53が搬送ベルト21上で媒体Mを加圧しながらY軸方向の所定範囲を+Y方向と-Y方向とに往復移動する。加圧ローラー53はヒーターを内蔵し、加熱しながら媒体Mを粘着層25に押圧してもよい。
【0020】
図2に示すように、印刷部30は、搬送部20の+Z方向に位置する。印刷部30は、+Y方向に搬送される媒体Mへの印刷を可能に構成される。印刷部30は、シリアル印刷方式でもよいし、ライン印刷方式でもよい。印刷部30は、シリアル印刷方式である場合、印刷ヘッド31と、印刷ヘッド31をX方向に沿って往復移動可能に支持するキャリッジ32とを含む。印刷ヘッド31は、媒体Mに対する+Z方向に配置され、媒体Mの被印刷面に液体の一例としてのインクを吐出することで、媒体Mに印刷する。印刷ヘッド31は、制御部100によって制御される。印刷が終わった媒体Mは、不図示の巻取装置が媒体Mをロール状に巻き取る力により、搬送ベルト21の曲面部から剥離させる。
【0021】
また、印刷装置11は、搬送ベルト21を清掃する清掃部54を備える。本実施形態の清掃部54は、粘着層25の表面21Aを洗浄液Qで洗浄する。清掃部54は、洗浄液Qが貯留される貯留槽55、ブラシ56、スキージ57及び乾燥部58を備える。ブラシ56は、洗浄液Qを用いて搬送ベルト21の表面21Aを清掃する。スキージ57は、清掃後の表面21Aから洗浄液Q等を払拭する。乾燥部58は、エア又は温風を吹き付けて表面21Aを乾燥させる。
【0022】
制御部100は、不図示のCPU(Central Processing Unit)、メモリーを含んで構成される。CPUは、演算処理装置である。メモリーは、CPUのプログラムを格納する領域または作業領域等を確保する記憶装置であり、RAM(Random Access Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の記憶素子及びストレージ等を有する。CPUは、メモリーに格納されているプログラムに従い、印刷装置11の各部の動作を制御する。すなわち、制御部100は、搬送ユニット22、印刷部30、加熱部51、押圧部52、清掃部54及び乾燥部58等を制御する。
【0023】
<キャリッジ32及びその周辺の構成>
図3に示すように、印刷装置11は、ガイドレール33を備える。キャリッジ32は、ガイドレール33に案内されて走査方向Xに移動可能に構成されるキャリッジガイド41と、キャリッジガイド41によってZ方向に移動可能に保持されるキャリッジ本体42とを備える。キャリッジガイド41は、一対の昇降レール(図示略)を有する。キャリッジ本体42はキャリッジガイド41に対して昇降レールを介して昇降可能に接続されている。
【0024】
ガイドレール33の一端部にはキャリッジモーター43が取り付けられている。キャリッジモーター43の出力軸に固定されたプーリー44と、このプーリー44と走査方向Xに反対側の端部に配置された不図示のプーリーとにタイミングベルト45が巻き掛けられている。キャリッジガイド41は、走査方向Xに沿って延設される無端状のタイミングベルト45の一部に固定されている。
【0025】
キャリッジモーター43が正逆転駆動されることにより、キャリッジ32は、走査方向Xに往復移動する。キャリッジ32の下部には印刷ヘッド31が配置される。印刷ヘッド31は、インクを吐出するノズルが開口するノズル面31Aを有する。ノズル面31Aは、搬送される媒体Mと対向する。
【0026】
印刷部30は、搬送ベルト21と印刷ヘッド31とのギャップGPを調整するギャップ調整部60を備える。ギャップ調整部60は、キャリッジ32の上部背面寄りの位置に取り付けられている。ギャップ調整部60は、駆動部の一例としてのギャップ調整用モーター61(以下、単に「モーター61」ともいう。)と、モーター61の動力を伝達する動力伝達部62とを備える。ギャップ調整用モーター61から動力伝達部62を介して伝達される動力によって、キャリッジ本体42はキャリッジガイド41に沿って昇降する。これによりギャップGPが調整される。動力伝達部62は、歯車群を含む歯車機構(歯車列)により構成される。なお、動力伝達部62を含むギャップ調整部60の詳細な構成については後述する。
【0027】
図3に示すように、印刷ヘッド31には、ノズル面31Aが異物と接触した際に異物から上向きの力を受けたことを検出するセンサー50が設けられてもよい。異物としては、ジャムの媒体Mや、搬送経路上に意図せず存在する物などがある。後者の物は、ユーザーがジャム解消時などのメンテナンス時にカバーを開けた際にキャリッジ32の移動経路上に誤って置いたあるいは落とした物などが挙げられる。
【0028】
通常、キャリッジ本体42は自重で下降しないように、ギャップ調整部60により調整されたギャップGPを維持できる目標の高さ位置に保持される。モーター61のトルクを用いてキャリッジ本体42を目標の高さ位置に維持する場合や、動力伝達部62のロック機能を利用してキャリッジ本体42を目標の高さ位置に維持する場合がある。印刷中に印刷ヘッド31が異物に当たってキャリッジ本体42が突き上げ力を受けた際に、キャリッジ本体42を目標の高さ位置に保持する力又はロックが働いていると、その突き上げ力に対してキャリッジ32が上方へ逃げることができない。この場合、印刷ヘッド31が異物から大きな衝撃力を受けることになるので、印刷ヘッド31の破損が発生し易い。また、動力伝達部62が過度な突き上げ力に起因して歯車等の構成部品が破損する場合も起こりうる。
【0029】
そこで、本実施形態では、印刷ヘッド31が異物に当たったことをセンサー50が検出すると、制御部100が、移動中のキャリッジ32を停止させることで印刷を強制的に終了する構成を採用する。これにより、異物に当たった際に異物から受ける突き上げ力に起因する印刷ヘッド31のダメージや動力伝達部62のダメージが抑制される。しかし、キャリッジ32の高速化が進むに連れ、センサー50が異物を検出してからキャリッジ32が停止するまでの移動距離が相対的に長くなるため、停止が間に合わない頻度が高まる。この場合、ダメージを受けた印刷ヘッド31の故障やギャップ調整部60の故障の頻度が高まる。
【0030】
そのため、本実施形態のギャップ調整部60は、突き上げ力の衝撃を受けた際に、キャリッジ本体42を目標の高さ位置に維持する力が働いていても、キャリッジ本体42を上方へ逃がすことが可能な相対変位機構90を備える。なお、相対変位機構90の詳細については後述する。
【0031】
<ギャップ調整部60の構成>
次に、図4図5を参照して、ギャップ調整部60の構成について説明する。
図4に示すように、モーター61及び動力伝達部62は、ギャップ調整部60を構成するフレーム63に組み付けられている。動力伝達部62は、モーター61の出力に取着された駆動歯車64と、駆動歯車64に噛合する第1歯車65と、第1歯車65と共通の回転軸66に取着されたウォーム歯車67と、ウォーム歯車67と噛合する第2歯車68(ウォームホイール)とを有する。第2歯車68は、第2回転軸69に取着されている。第1回転軸66と第2回転軸69は、互いに直交する。駆動歯車64、第1歯車65及びウォーム歯車67の各回転軸線は走査方向Xと平行であり、第2歯車68の回転軸線は搬送方向Yと平行である。このように、動力伝達部62は、ウォーム歯車67を含むウォーム減速機である。
【0032】
図5図6に示すように、ギャップ調整部60は、動力伝達部62と昇降部70とを備える。昇降部70は、モーター61から動力伝達部62を介して伝達された回転軸69の回転を入力する。昇降部70は、回転軸69においてフレーム63の背面側(反搬送方向-Y側)に突出する部分に接続され、回転軸69の回転によってキャリッジ本体42をキャリッジガイド41に対して昇降させる。昇降部70は、例えば、ラック・アンド・ピニオン機構である。昇降部70は、ピニオン71とラック81とを含む。ピニオン71は回転軸69に取着されている。ラック81はキャリッジガイド41を構成するガイドフレーム83に固定されている。ピニオン71の歯部72は、ラック81の歯部82と噛合している。ラック81は、回転するピニオン71が鉛直方向Zに移動可能な向きでキャリッジガイド41に固定されている。なお、第2回転軸69は、軸受69B等により回転可能に支持されている。
【0033】
モーター61が正転駆動されると、ピニオン71が正転する。正転するピニオン71はラック81に沿って上昇する。これにより、キャリッジ32本体がキャリッジガイド41に対して上昇する。一方、モーター61が逆転駆動されると、ピニオン71が逆転する。逆転するピニオン71はラック81に沿って下降する。これにより、キャリッジ32本体は、キャリッジガイド41に対して下降する。
【0034】
ウォーム歯車67は、一方向の回転をロックするロック機能を有する。本実施形態のウォーム歯車67は、キャリッジ本体42が自重で下降するときの回転方向にロックが働くように設定されている。このため、モーター61の駆動でギャップ調整した後は、モーター61の駆動を停止しても、キャリッジ本体42をギャップ調整後の位置に維持することが可能である。すなわち、ギャップ調整後にキャリッジ本体42の自重に抗してその高さ位置を維持するためにモーター61の駆動を維持する必要がない。
【0035】
このように、キャリッジ本体42が自重で下降しないようにウォーム歯車67のロック機能を利用することで、ギャップ調整部60により調整されたギャップGPを維持する。しかし、キャリッジ32の移動中に、印刷ヘッド31がジャムの媒体M等の異物に当たって異物から突き上げ力を受けた際にロックが働いていると、その突き上げ力に対してキャリッジ32が上方へ逃げることができない。そのため、印刷ヘッド31が異物から受ける衝撃力によって破損する可能性がある。
【0036】
そこで、センサー50が異物を検出すると、制御部100が、移動中のキャリッジ32を停止させる。しかし、キャリッジ32の高速化が進むに連れ、キャリッジ32の停止が間に合わず、印刷ヘッド31が異物から受ける大きな衝撃力でダメージを受ける頻度が増す。そのため、本実施形態のギャップ調整部60は、ウォーム歯車67のロック機能が働いていても、キャリッジ32が突き上げ力を受けた場合に、キャリッジ本体42が上方に逃げることを可能にする、前述の相対変位機構90を備える。本実施形態の相対変位機構90は、歯車を空転させる空転機構90Aである。
【0037】
<相対変位機構90の構成>
次に、図5図7を参照して、相対変位機構90の構成について説明する。図6に示すように、相対変位機構90は、キャリッジ32に上昇させる外力が加わると、動力伝達部62及び昇降部70の少なくとも一方を構成すると共に互いに接触する2つの部材の一方の他方に対する相対変位を可能にする機構である。相対変位機構90は、2つの部材の一方を他方の動作停止状態のまま空転又はスライドさせる機構でもよい。
【0038】
本実施形態の相対変位機構90は、2つの部材の一方を空転させる空転機構90Aである。本実施形態における2つの部材は、昇降部70を構成するピニオン71と、動力伝達部62を構成する回転軸69とである。空転機構90Aは、ピニオン71を、回転停止状態の回転軸69に対して空転させる。相対変位機構90は、キャリッジ32に上向きの外力が加わると、ピニオン71が回転軸69に対して空転(相対回転)することで、ピニオン71がラック81との噛み合いを介して上方に変位することを可能にした空転機構90Aである。ピニオン71がラック81との噛み合いを介して上方に変位することで、印刷ヘッド31が異物から突き上げ力を受けたときに、キャリッジ本体42が上方に逃げることが可能である。
【0039】
図5図6に示すように、ピニオン71は、第2歯車68よりも動力伝達経路の下流側となる回転軸69の先端部に、回転軸69に対して相対回転可能な状態で支持されている。空転機構90Aは、ピニオン71を所定の回転角度範囲内で空転させる。
【0040】
<空転機構90Aの詳細な構成>
次に、図7を参照して、空転機構90Aの構成について説明する。図7に示すように、空転機構90Aは、回転軸69から径方向に延びるピン91と、ピン91と当接することで回転軸69に対する空転可能範囲を規制する規制面75,76を有するピニオン71とを含む。ピン91は、回転軸69に固定され、回転軸69の回転と共に回転する。
【0041】
ピニオン71は、軸方向において歯部72と反対側の基部73に、ピン91と対応する部分が半円筒状に凹設された凹部74を有する。ピニオン71は、基部73の軸方向において、半円筒状の凹部74と対応する部分に突設された半円筒状の凸部73Aを有する。2つの規制面75,76は、半円筒状の凸部73Aの周方向両端面により形成される。ピニオン71は回転軸69に対して自由回転可能であるが、ピニオン71の空転可能範囲は規制面75,76がピン91が当たる範囲に規制される。規制面75,76のうち一方がピン91に当接すると、ピニオン71のそれ以上の空転が規制される。
【0042】
図7に示す例では、2つの規制面75,76は、周方向に約180度離れて対向している。そのため、ピニオン71は、回転軸69に対して約180度の範囲内で空転可能である。つまり、ピニオン71の空転可能な角度範囲θは、約180度である。なお、ピニオン71の空転可能な角度範囲θは、約180度に限定されず、0°<θ<360°の範囲で適宜設定してよい。空転可能な角度範囲θは、例えば、30度、45度、60度、90度、120度、240度、300度のうちいずれか1つであってもよい。
【0043】
図5に示すように、相対変位機構90は、モーター61の駆動力が伝達される動力伝達部62の動力伝達経路においてウォーム歯車67よりも動力伝達方向の下流側に位置する。このため、ウォーム歯車67がそのロック機能によりロックされても、ピニオン71が回転軸69に対して空転できるので、キャリッジ本体42の上方への変位が可能である。
【0044】
図8に示すように、通常、ピニオン71は、キャリッジ本体42の自重により図8に矢印で示す方向に回転した状態にあり、第1規制面75がピン91に当接する状態にある。この通常の状態において、キャリッジ本体42に異物による突き上げ力が作用すると、図9に示すように、ピニオン71が回転軸69に対して図9に矢印で示す方向に空転することで、ピニオン71がラック81との噛み合いを介して上方へ移動する。これにより、キャリッジ本体42がキャリッジガイド41に対して上方へ変位する。つまり、印刷ヘッド31が印刷中にジャムの媒体Mなどの異物に当たって異物から突き上げ力を受けても、空転機構90Aによるピニオン71の空転によってキャリッジ本体42は上方へ逃げることが可能である。
【0045】
<印刷装置11の電気的構成>
次に、図10を参照して印刷装置11の電気的構成を説明する。
図10に示すように、印刷装置11は、前述の制御部100を備える。制御部100は、α:コンピュータープログラムに従って各種処理を実行する1つ以上のプロセッサー、β:各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する1つ以上の専用のハードウェア回路、或いはγ:それらの組み合わせ、を含む回路として構成し得る。ハードウェア回路は、例えば特定用途向け集積回路である。プロセッサーは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリーを含み、メモリーは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリーすなわちコンピューター可読媒体は、汎用または専用のコンピューターでアクセスできるあらゆる可読媒体を含む。
【0046】
制御部100には、入力系として、操作部13、表示部14、リニアエンコーダー46、センサー50が電気的に接続されている。制御部100には、第1検出部の一例としての第1ロータリーエンコーダー101、及び第2検出部の一例としての第2ロータリーエンコーダー102が電気的に接続されてもよい。
【0047】
操作部13は、ユーザーが印刷装置11に対して指示を与えるために操作される。制御部100は、操作部13からユーザーの操作に基づく操作信号を入力する。表示部14は、各種のメニュー画面等を表示する。表示部14が、例えば、タッチパネルにより構成される場合、そのタッチ操作機能を操作部13の少なくとも一部として構成してもよい。また、表示部14は、ユーザーに対して異常が発生した旨の情報を表示する報知機能も有する。制御部100は、例えば、ジャムを検出した場合、表示部14にジャム発生の旨及びジャム解除作業を促すメッセージ等の報知情報を表示する。
【0048】
リニアエンコーダー46は、キャリッジ32に取り付けられた光学式センサー(図示略)と、キャリッジ32の移動経路に沿って張設されたリニアスケール47(図3参照)とを有する。光学式センサーは、不図示の投光部から、リニアスケール47に一定のピッチで設けられた透光部を透光した光を検知するとパルスを生成する。リニアエンコーダー46は、キャリッジ32の移動量に比例する数のパルスを含む検出信号を出力する。
【0049】
また、センサー50は、印刷ヘッド31に異物が当たったことを検知する。センサー50は、印刷ヘッド31のノズル面31Aに設けられている。センサー50は、異物がノズル面31Aに当たったときにノズル面31Aが受ける、突き上げ力、圧力、歪みのうちの1つを検出する検出部であってもよい。つまり、センサー50は、例えば、衝撃センサー、圧力センサー、歪みセンサーのうちのいずれか1つであってもよい。
【0050】
また、第1ロータリーエンコーダー101は、ギャップ調整用モーター61の回転を検出する。第1ロータリーエンコーダー101は、ギャップ調整用モーター61の回転量に比例する数のパルスを含む第1検出信号を出力する。
【0051】
また、第2ロータリーエンコーダー102は、空転機構90Aを構成するピニオン71の回転を検出する。第2ロータリーエンコーダー102は、ピニオン71の回転量に比例する数のパルスを含む第2検出信号を出力する。
【0052】
また、図10に示すように、制御部100には、出力系として、キャリッジモーター43、印刷ヘッド31、搬送部20及びギャップ調整用モーター61が電気的に接続されている。
【0053】
制御部100は、キャリッジモーター43を駆動制御することで、キャリッジ32を走査方向Xに移動させる。制御部100は、印刷中に、キャリッジモーター43を正逆転駆動させることで、キャリッジ32を走査方向Xに往復移動させる。
【0054】
制御部100は、印刷ヘッド31の吐出制御を行う。制御部100は、印刷データPDに含まれる画像データに基づいて印刷ヘッド31の吐出制御を行う。
制御部100には、搬送部20を制御する。制御部100には、搬送部20を構成する搬送モーター26を含む複数のモーターが電気的に接続されている。制御部100は、搬送モーター26を含む複数のモーターをそれぞれ制御することで、媒体Mの搬送制御を行う。
【0055】
制御部100は、入力した印刷データPDに基づいて、搬送部20、キャリッジモーター43及び印刷ヘッド31を制御することで、媒体Mに印刷する印刷制御を行う。印刷データPDには、印刷コマンド、印刷条件情報及び画像データが含まれる。印刷条件情報には、媒体の種類及びサイズ、カラー/モノクロの印刷モード等が含まれる。搬送部20が媒体Mを次の搬送位置まで搬送する搬送動作と、キャリッジ32を走査方向Xに1回移動させる過程で印刷ヘッド31が1走査分の印刷を行う印刷動作とを交互に行うことで、媒体Mに画像等を印刷する。
【0056】
制御部100は、印刷データPDを入力すると、ギャップ調整用モーター61を制御して、印刷条件情報中の媒体の種類に応じたギャップGPに調整する。制御部100は、ギャップ調整用モーター61を制御して、キャリッジガイド41に対するキャリッジ本体42の高さ位置を調整することで、搬送ベルト21と印刷ヘッド31とのギャップGPを調整する。
【0057】
制御部100は、コンピューター110を備える。コンピューター110は、第1カウンター111、第2カウンター112及び第3カウンター113を備える。さらに、コンピューター110は、突上げ判定部114及び記憶部115を備える。記憶部115には、プログラム等が記憶されている。突上げ判定部114は、コンピューター110がプログラムを実行することで構築されるソフトウェア、あるいはASIC等の電子回路よりなるハードウェアにより構成されてもよい。さらに、突上げ判定部114は、ソフトウェアとハードウェアとの協働により構成されてもよい。
【0058】
第1カウンター111は、リニアエンコーダー46からの入力パルス又はパルスエッジの数を計数することで、キャリッジ32の走査方向Xにおける位置(キャリッジ位置)を示す値を計数する。例えば、キャリッジ32がホーム位置にあることが検知されると、第1カウンター111はリセットされ、その後、リニアエンコーダー46からの入力パルスの数又はパルスエッジの数を計数する。第1カウンター111の計数値は、キャリッジ32がホーム位置にあるときを原点位置とするキャリッジ位置を示す。制御部100は、第1カウンター111の計数値からキャリッジ位置を認識する。
【0059】
第2カウンター112は、第1ロータリーエンコーダー101からの入力パルス又はパルスエッジの数を計数することで、ギャップGPを示す値を計数する。例えば、キャリッジ32がギャップGPの基準位置にあることが検知されると、第2カウンター112はリセットされ、その後、第1ロータリーエンコーダー101からの入力パルスの数又はパルスエッジの数を計数する。第2カウンター112の計数値は、ギャップGPの大きさ又はキャリッジ本体42の高さ位置を示す。制御部100は、第2カウンター112の計数値からギャップGP又はキャリッジ32の高さ位置を認識する。
【0060】
第3カウンター113は、第2ロータリーエンコーダー102からの入力パルス又はパルスエッジの数を計数することで、空転機構90Aを構成するピニオン71の回転位置を示す値を計数する。例えば、ピニオン71の規制面75がピン91に当接しているときにギャップGPの基準位置にあることが検知されると、第3カウンター113はリセットされる。その後、第3カウンター113は、第2ロータリーエンコーダー102からの入力パルスの数又はパルスエッジの数を計数する。第3カウンター113の計数値は、ピニオン71の回転位置を示す。制御部100は、第3カウンター113の計数値からピニオン71の回転位置を認識する。
【0061】
突上げ判定部114は、キャリッジ32の突き上げ変位の有無を判定する。突上げ判定部114は、第2カウンター112の計数値と第3カウンター113の計数値とを比較する。ここで、通常、ピニオン71は第1規制面75がピン91に当接する状態を維持したまま回転する。この状態では、ギャップ調整用モーター61の回転量とピニオン71の回転量との比は一定である。このため、第2カウンター112の計数値と第3カウンター113の計数値との間に、一定の対応関係が成立する。一方、キャリッジ32の突き上げ変位が発生すると、ピニオン71が空転するので、モーター61の回転量とピニオン71の回転量との間に一定比の整合がなくなる。突上げ判定部114は、第2カウンター112及び第3カウンター113の各値の対応関係に閾値を超える差が生じたか否かを判定し、閾値を超える差が生じると、キャリッジ32の突き上げ変位が発生したと判定する。なお、突上げ検知部120は、第1ロータリーエンコーダー101、第2ロータリーエンコーダー102及び突上げ判定部114等により構成される。
【0062】
<実施形態の作用>
次に、本実施形態の印刷装置11の作用について説明する。制御部100は、印刷データPDに含まれる印刷条件情報中の媒体種情報を取得する。媒体種情報は、普通紙、光沢紙、写真紙、ハガキなどの媒体Mの種類を示す情報である。ここで、媒体Mの種類が決まると、媒体Mの厚さが決まる。制御部100は、ギャップ調整部60のモーター61を制御することで、媒体Mの種類から決まる媒体Mの厚さに応じたギャップGPに調整する。
【0063】
モーター61が正転駆動されると、キャリッジ本体42と共に印刷ヘッド31が上昇する。これにより、ギャップGPが広くなる。一方、モーター61が逆転駆動されると、キャリッジ本体42と共に印刷ヘッド31が下降する。これにより、ギャップGPが狭くなる。こうして媒体Mの種類(厚さ)に応じたギャップGPに調整される。
【0064】
本実施形態では、動力伝達部62がウォーム歯車67を含むため、モーター61を停止しても、ウォーム歯車67のロック機能によってキャリッジ32をギャップ調整時の高さ位置に保持できる。このため、モーター61の駆動力(トルク)でキャリッジ本体42をギャップGPに応じた目標の高さ位置に保持する構成に比べ、ギャップ調整部60の消費電力が低減される。
【0065】
ギャップGPが調整されると、制御部100は、印刷データPDに基づいて搬送部20、キャリッジモーター43及び印刷ヘッド31を制御することで、媒体Mに画像データに基づく文字又は画像を印刷させる。
【0066】
印刷中に、媒体Mのジャムの発生、あるいは何らかの理由で印刷ヘッド31の移動経路上に物があると、これらは印刷中の印刷ヘッド31と衝突しうる異物となる。キャリッジ32が走査方向Xに移動する過程で、印刷ヘッド31が異物に当たると、ノズル面31Aに設けられたセンサー50が印刷ヘッド31が異物に当たったことを検知する。この場合、センサー50の検出結果に基づいて制御部100がキャリッジモーター43の駆動を停止させても、キャリッジ32が停止する前に印刷ヘッド31が異物から突き上げ方向の衝撃力を受けてしまい、異物からの過度な衝撃力の回避に間に合わない場合がある。
【0067】
しかし、本実施形態では、キャリッジ本体42が突き上げ力を受けたとき、空転機構90Aによってピニオン71が空転(相対回転)することで、キャリッジ本体42が上方へ逃げることができる。この結果、印刷ヘッド31が異物からの突き上げ力によるダメージを受けることによる故障が回避される。また、動力伝達部62のウォーム歯車67が突き上げ力を直に受けることによるギャップ調整部60の故障が回避される。
【0068】
なお、センサー50に替えて又は追加で突上げ検知部120が、キャリッジ本体42の突き上げ変位を検知する構成としてもよい。この場合、突上げ検知部120がキャリッジ32の突き上げ変位を検知すると、制御部100はキャリッジモーター43の駆動を停止させる。よって、この場合も、印刷中に印刷ヘッド31が異物に当たった際にキャリッジ32を停止させることができる。例えば、センサー50の検出結果に基づきキャリッジ32を停止させる場合、キャリッジ32の高速化により異物がノズル面31Aに当たったことを検知してからキャリッジ32の停止が間に合わない場合でも、突上げ検知部120の検知結果に基づいてキャリッジ32を停止させることができる場合もある。また、キャリッジ32が上方に逃げることによりセンサー50が受ける突き上げ力が相対的に小さくなる可能性がある。この場合、検知漏れが発生する可能性がある。仮に検知漏れがあっても、突上げ検知部120の検知結果に基づいてキャリッジ32をより確実に停止させることができる。
【0069】
よって、本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)印刷装置11は、媒体Mを支持する支持部の一例としての搬送ベルト21と、印刷ヘッド31が配置されるキャリッジ32と、搬送ベルト21と印刷ヘッド31とのギャップGPを調整するギャップ調整部60とを備える。印刷ヘッド31は、搬送ベルト21に支持される媒体Mに記録を行う。ギャップ調整部60は、駆動部の一例としてのギャップ調整用モーター61と、モーター61による駆動力で回転する回転軸69を含む動力伝達部62と、昇降部70と、相対変位機構90とを備える。昇降部70は、動力伝達部62によって伝達される回転軸69の回転力によってキャリッジ32を昇降させる。相対変位機構90は、動力伝達部62及び昇降部70の少なくとも一方を構成すると共に互いに接触する2つの部材の一方を動作停止状態である他方に対してキャリッジ32の上向きの変位を許容する方向に相対変位させる。なお、キャリッジ32の上向きの変位は、キャリッジ32の上昇方向の変位である。
【0070】
この構成によれば、モーター61の駆動力が動力伝達部62を介して回転軸69の回転として出力される。回転軸69の回転により昇降部70がキャリッジ32を昇降させる。これにより、印刷ヘッド31と支持部とのギャップGPが調整される。空転又はスライドする相対変位をキャリッジ32が移動経路上の異物(例えば、ジャム発生時の媒体等)に当たるなどすると、キャリッジ32を上昇させる方向の外力である突き上げ力がキャリッジ32に加わる。突き上げ力が加わると、相対変位機構90によって、2つの部材の一方が他方の動作停止状態のまま相対変位する。この相対変位によって、動力伝達部62及び昇降部70が駆動することなく、キャリッジ32の上昇変位が許容される。よって、異物による突き上げ力を印刷ヘッド31が受けた際にキャリッジ32は上方に逃げることができる。したがって、印刷ヘッド31が異物に当たることによるダメージを抑制できる。ここで、抑制できるダメージには、印刷ヘッド31へのダメージ又はギャップ調整部60へのダメージが挙げられる。
【0071】
(2)相対変位機構90は、2つの部材の一方の空転を相対変位とする空転機構90Aである。この構成によれば、印刷ヘッド31が異物に当たると、2つの部材の一方が空転することによってキャリッジ32の上昇が許容される。よって、印刷ヘッド31が異物に当たることによるダメージを抑制できる。
【0072】
(3)2つの部材の一方は歯車の一例としてのピニオン71であり、他方はピニオン71を相対回転可能に支持する回転軸69である。相対変位機構90は、ピニオン71を回転軸69に対して空転させる空転機構90Aである。この構成によれば、印刷ヘッド31が異物に当たったときにキャリッジ32が突き上げ力を受ける。この突き上げ力によって、ピニオン71が回転軸69に対して空転することでキャリッジ32は上昇側に逃げることができる。よって、印刷ヘッド31が異物に当たることによるダメージを抑制できる。
【0073】
(4)空転機構90Aは、回転軸69から径方向に延びるピン91と、回転軸69に対して相対回転可能に配置されると共に、ピン91と当接することで空転可能な範囲を規制する規制面75,76を有するピニオン71とを備える。この構成によれば、キャリッジ32の自重によってピニオン71はその規制面75がピン91に当接する状態にある。印刷ヘッド31が異物に当たったときにキャリッジ32が受ける突き上げ力によって、ピニオン71は規制面75がピン91から離れる方向に空転する。これにより、キャリッジ32は上昇側に逃げることができる。よって、印刷ヘッド31が異物に当たることによるダメージを抑制できる。
【0074】
(5)動力伝達部62は、ウォーム歯車67を含む。相対変位機構90は、モーター61の駆動力が伝達される動力伝達部62の動力伝達経路においてウォーム歯車67よりも動力伝達方向の下流側に位置する。この構成によれば、印刷ヘッド31が異物に当たってキャリッジ32に突き上げ力が発生した際に、ウォーム歯車67でロックされても、キャリッジ32の上昇が許容される。よって、印刷ヘッド31が異物に当たることによるダメージを抑制できる。
【0075】
(6)昇降部70は、ピニオン71とラック81とを含む。相対変位機構90は、相対変位として、ピニオン71の空転又はラック81の上昇方向のスライドを許容する。この構成によれば、印刷ヘッド31が異物に当たってキャリッジ32に突き上げ力が発生した際に、相対変位機構90が、相対変位として、ピニオン71の空転又はラック81の上昇方向のスライドが許容される。よって、印刷ヘッド31が異物に当たることによるダメージを抑制できる。
【0076】
(7)印刷装置11は、印刷ヘッド31が異物に当たった際のキャリッジ32の突き上げ変位を検知する突上げ検知部120と、印刷ヘッド31及びキャリッジ32を制御する制御部100とを備える。制御部100は、キャリッジ32の移動中に突き上げ変位が検知されると、キャリッジ32を停止させる。この構成によれば、印刷ヘッド31が異物に当たった際に、突上げ検知部120によってキャリッジ32の変位が検知される。
【0077】
(8)突上げ検知部120は、モーター61の駆動量を検出する第1検出部の一例としての第1ロータリーエンコーダー101と、相対変位機構90による相対変位量を検出する第2検出部の一例としての第2ロータリーエンコーダー102と、突上げ判定部114とを備える。突上げ判定部114は、第1ロータリーエンコーダー101が検出する駆動量と、第2ロータリーエンコーダー102が検出する相対変位量とが閾値を超えて整合しなくなることをもって突き上げ変位が発生したと判定する。この構成によれば、第1ロータリーエンコーダー101が検出する駆動量と第2ロータリーエンコーダー102が検出する相対変位量とが閾値を超えて整合しなくなることをもって突き上げ変位が発生したと突上げ判定部114が判定する。これにより、キャリッジ32の突き上げ変位を検出できる。よって、キャリッジ32の突き上げ変位を検出した際にキャリッジ32を停止する制御が可能になる。
【0078】
(9)印刷装置11は、キャリッジ32の移動中に印刷ヘッド31に当たった異物を検知するセンサー50を備える。制御部100は、センサー50が異物を検知すると、キャリッジ32の移動を停止させる。この構成によれば、キャリッジ32の移動中に印刷ヘッド31が異物に当たったことをセンサー50が検知すると、キャリッジ32が停止される。よって、印刷ヘッド31が異物に当たることによるダメージを一層抑制できる。
【0079】
なお、上記実施形態は以下に示す変更例のような形態に変更することもできる。さらに、上記実施形態および以下に示す変更例を適宜組み合わせたものを更なる変更例とすることもできるし、以下に示す変更例同士を適宜組み合わせたものを更なる変更例とすることもできる。
【0080】
・相対変位機構90は、空転機構90Aに限定されない。相対変位機構90は、空転に限らず、スライドを相対変位とするものでもよい。例えば、図11に示すように、相対変位機構90は、キャリッジガイド41に対するラック81の上昇方向(+Z方向)へのスライドを許容するスライド機構85であってもよい。ラック81は、キャリッジガイド41に対してレール88に案内されることで、鉛直方向Zに相対移動可能に構成される。ラック81は、その下面が規制面86に当接する下限位置と、その上面が規制面87に当接する上限位置との間をキャリッジガイド41に対して昇降方向にスライド可能に構成される。通常、ラック81は、その自重によって下面が規制面86に当接する状態にある。印刷ヘッド31が異物に当たったときの突き上げ力がキャリッジ32に作用すると、ピニオン71とラック81との噛合位置を維持したままラック81がキャリッジガイド41に対して上方にスライドすることで、そのスライド量と同じ量だけキャリッジ本体42が上方へ相対変位する。つまり、キャリッジ32は印刷ヘッド31が異物に当たった際に上方へ逃げることができる。このように、印刷ヘッド31が異物に当たると、2つの部材のうち一方がスライドすることによってキャリッジ32の上昇が許容される。よって、印刷ヘッド31のダメージを抑制できる。なお、2つの部材は、ピニオン71とラック81であり、2つの部材の噛合位置を維持したまま、2つの部材の一方(ラック81)がスライドする構成である。
【0081】
・印刷ヘッド31が異物に当たったことを検知するセンサー50を廃止してもよい。例えば、センサー50に替え、突上げ検知部120が印刷ヘッド31が異物に当たったことを検知する構成でもよい。
【0082】
・相対変位機構90(例えば、空転機構90A)は、ピニオン71を空転させる構成に限定されない。ウォーム歯車67よりも動力伝達経路の下流側に位置する2つの部材の一方を他方に対して空転させる機構でもよい。この場合、2つの部材は、共に動力伝達部62を構成する部材であってもよい。例えば、第2歯車68と回転軸69を2つの部材としてもよい。第2歯車68を回転軸69に対して相対回転可能に設け、空転機構90Aを構成する。この空転機構90Aでは、ウォーム歯車67と第2歯車68との噛合位置を維持したまま、第2歯車68に対して回転軸69がピニオン71と共に空転する。空転機構90Aは、第2回転軸69から径方向に延びるピンと、第2歯車68の2つの規制面とを含む。第2回転軸69は、共に回転するピンが第2歯車68の周方向両側の規制面に当たるまでの空転可能範囲内で空転が可能である。第2回転軸69が回転することでピニオン71が回転できるので、ピニオン71とラック81との噛み合いを介してキャリッジ本体42が上方に逃げることができる。
【0083】
・空転機構90Aは、ピン91と規制面75,76とを有する構成に限定されない。例えば、ピン91に替え、ピニオン71の規制面75,76と当接可能に第2回転軸69に突設された凸部でもよい。
【0084】
・昇降部70は、ラック・アンド・ピニオン機構に替え、ボールねじ機構でもよい。ボールねじ機構は、例えば、キャリッジ本体42の背面部に設けられるボールねじ軸と、ボールねじ軸に対して軸方向(鉛直方向Z)に移動可能に係合するスライダーとを備える。スライダーに対してキャリッジ本体42の昇降方向にスライド(相対変位)可能なスライド部材を設け、このスライド部材にキャリッジガイド41が固定されている。スライド部材は、スライダーを上方にスライドを可能に案内するレール部材であってもよい。この場合、2つの部材は、ボールねじ機構を構成するスライダーとスライド部材であり、スライド部材がスライダーに対して鉛直方向Zにスライド可能に取り付けられる。通常時は、スライダーはキャリッジ本体42の自重でスライド部材の規制面に当接している。キャリッジ本体42が突き上げ力を受けると、スライド部材に対してスライダーが上方に変位する。この構成によっても、印刷ヘッド31が異物に当たったときに、ボールねじ機構のスライダーがスライド部材に対して上方にスライドすることで、キャリッジ本体42が上方に逃げることができる。
【0085】
・モーター61に通電してキャリッジ本体42をギャップGPに応じた高さ位置に維持する構成でもよい。この場合、ウォーム歯車67を含まない動力伝達部62であってもよい。この構成であっても、印刷ヘッド31が異物に当たった際にキャリッジ32の上昇を許容できる。
【0086】
・ピニオン71と回転軸69との間にグリス等の摩擦防止剤を塗布又は注入してもよい。
・ピニオン71においてピン91が当たる規制面75,76の部分を焼き入れなどで硬くしてもよい。
【0087】
・支持部は、搬送ベルト21に替え、四角板状又は円筒形状の支持台(例えばプラテン)でもよい。四角板状の支持台は、例えば、上面に媒体Mを支持する複数のリブが突出する構成でもよい。さらに、支持部は、媒体Mを支持するテーブルでもよい。テーブルは、印刷ヘッド31に対する媒体Mの位置を移動できる可動テーブルでもよい。
【0088】
・印刷装置11は、布帛等の媒体Mに印刷する捺染装置に限定されず、単票紙またはロール紙等の媒体Mに印刷するものでもよい。
・印刷装置11は、シリアルプリンターに限定されない。印刷装置11は、印刷ヘッド31が走査方向Xと搬送方向Yとの2方向に移動可能なラテラル式プリンターでもよい。ラテラル式プリンターであっても、印刷ヘッド31が異物に当たった際にキャリッジ32が上方に逃げることができるので、印刷ヘッド31へのダメージを抑制できる。
【0089】
・印刷装置11は、インクジェット式プリンターに限定されない。例えば、ドットインパクト式プリンター、感熱式プリンター等でもよい。
・印刷装置11は、大サイズの媒体Mに印刷可能に構成される大判プリンターに限定されず、最大サイズがA3判以下の比較的小サイズの媒体Mに印刷可能に構成されるオフィス向け又は個人向けのプリンターでもよい。
【0090】
・印刷装置11は、スキャナー(画像読取部)を備える複合機であってもよい。
以下、前記実施形態及び変更例から把握される技術思想を効果と共に記載する。
(A)印刷装置は、媒体を支持する支持部と、前記支持部に支持される前記媒体に印刷を行う印刷ヘッドが配置されるキャリッジと、前記支持部と前記印刷ヘッドとのギャップを調整するギャップ調整部と、を備え、前記ギャップ調整部は、駆動部と、前記駆動部による駆動力で回転する回転軸を含む動力伝達部と、前記動力伝達部によって伝達される前記回転軸の回転力によって前記キャリッジを昇降させる昇降部と、前記動力伝達部及び前記昇降部の少なくとも一方を構成すると共に互いに接触する2つの部材の一方を動作停止状態である他方に対して前記キャリッジの上向きの変位を許容する方向に相対変位させる相対変位機構と、を有する。
【0091】
この構成によれば、駆動部の駆動力が動力伝達部を介して回転軸の回転として出力される。回転軸の回転により昇降部がキャリッジを昇降させる。これにより、印刷ヘッドと支持部とのギャップが調整される。印刷ヘッドが移動経路上の異物(例えば、ジャム発生時の媒体等)に当たるなどすると、キャリッジを上昇させる方向の外力である突き上げ力がキャリッジに加わる。キャリッジを上昇させる方向の外力が加わると、相対変位機構によって、2つの部材の一方が、他方の動作停止状態のまま相対変位する。この相対変位によって、キャリッジの上向き(上昇方向)の変位が許容される。よって、異物による突き上げ力を印刷ヘッドが受けた際にキャリッジは上方に逃げることができる。したがって、印刷ヘッドが異物に当たることによるダメージを抑制できる。
【0092】
(B)上記(A)に記載の上記印刷装において、前記相対変位機構は、前記2つの部材の一方の空転又はスライドを相対変位としてもよい。
この構成によれば、印刷ヘッドが異物に当たったときにキャリッジが突き上げ力を受ける。この突き上げ力によって、2つの部材の一方が空転又はスライドすることによって、キャリッジは上昇側に逃げることができる。キャリッジの上昇が許容される。よって、印刷ヘッドが異物に当たることによるダメージを抑制できる。
【0093】
(C)上記(B)に記載の上記印刷装において、前記2つの部材の一方は歯車であり、他方は前記歯車を相対回転可能に支持する回転軸であり、前記相対変位機構は、前記歯車を前記回転軸に対して空転させる空転機構であってもよい。
【0094】
この構成によれば、印刷ヘッドが異物に当たったときにキャリッジが突き上げ力を受ける。この突き上げ力によって、歯車が回転軸に対して空転することでキャリッジは上昇側に逃げることができる。よって、印刷ヘッドが異物に当たることによるダメージを抑制できる。
【0095】
(D)上記(C)に記載の上記印刷装において、前記空転機構は、前記回転軸から径方向に延びるピンと、前記回転軸に対して相対回転可能に配置されると共に、前記ピンと当接することで空転可能な範囲を規制する規制面を有する前記歯車と、を備えてもよい。
【0096】
この構成によれば、キャリッジの自重によって歯車はその規制面がピンに当接する状態にある。印刷ヘッドが異物に当たったときにキャリッジが受ける突き上げ力によって、歯車は規制面がピンから離れる方向に空転する。これにより、キャリッジは上昇側に逃げることができる。よって、印刷ヘッドが異物に当たることによるダメージを抑制できる。
【0097】
(E)上記(A)~(D)のいずれか一つに記載の上記印刷装において、前記動力伝達部は、ウォーム歯車を含み、前記相対変位機構は、前記駆動部の駆動力が伝達される前記動力伝達部の動力伝達経路において前記ウォーム歯車よりも動力伝達方向の下流側に位置してもよい。
【0098】
この構成によれば、印刷ヘッドが異物に当たってキャリッジに突き上げ力が発生した際に、ウォーム歯車でロックされても、キャリッジの上昇が許容される。よって、印刷ヘッドが異物に当たることによるダメージを抑制できる。
【0099】
(F)上記(A)~(E)のいずれか一つに記載の上記印刷装において、前記昇降部は、ピニオンとラックとを含み、前記相対変位機構は、相対変位として、前記ピニオンの空転又は前記ラックの上向きのスライドを許容してもよい。
【0100】
この構成によれば、印刷ヘッドが異物に当たってキャリッジに突き上げ力が発生した際に、相対変位機構が、相対変位として、ピニオンの空転又はラックの上向きのスライドが許容される。よって、印刷ヘッドが異物に当たることによるダメージを抑制できる。
【0101】
(G)上記(A)~(F)のいずれか一つに記載の上記印刷装において、前記印刷ヘッドが異物に当たった際の前記キャリッジの突き上げ変位を検知する突上げ検知部と、前記印刷ヘッド及び前記キャリッジを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記キャリッジの移動中に前記突き上げ変位が検知されると、前記キャリッジを停止させてもよい。
【0102】
この構成によれば、印刷ヘッドが異物に当たった際に、突上げ検知部によってキャリッジの変位が検知される。キャリッジの移動中に突き上げ変位が検知されると、キャリッジを停止させる。よって、印刷ヘッドが異物に当たることによるダメージを一層抑制できる。
【0103】
(H)上記(G)に記載の上記印刷装において、前記突上げ検知部は、前記駆動部の駆動量を検出する第1検出部と、前記相対変位機構による相対変位量を検出する第2検出部と、前記第1検出部が検出する駆動量と前記第2検出部が検出する前記相対変位量とが閾値を超えて整合しなくなることをもって前記突き上げ変位が発生したと判定する突上げ判定部と、を備えてもよい。
【0104】
この構成によれば、前記第1検出部が検出する駆動量と前記第2検出部が検出する前記相対変位量とが閾値を超えて整合しなくなることをもって前記突き上げ変位が発生したと突上げ判定部が判定することによって、キャリッジの突き上げ変位を検出できる。よって、キャリッジの突き上げ変位を検出した際にキャリッジを停止する制御が可能になる。
【符号の説明】
【0105】
11…印刷装置、12…筐体、13…操作部、14…報知部の一例としての表示部、15…液体供給源、16…カバー、20…搬送部、21…搬送ベルト、21A…表面、21B…ベルト基材、22…搬送ユニット、23…駆動ローラー、24…従動ローラー、25…粘着層、26…搬送モーター、27…支持台、30…印刷部、31…印刷ヘッド、32…キャリッジ、33…ガイドレール、35…メンテナンス部、36…キャップ、41…キャリッジガイド、42…キャリッジ本体、43…キャリッジモーター、44…プーリー、45…タイミングベルト、46…リニアエンコーダー、47…リニアスケール、50…センサー、51…加熱部、51A…ヒーター、52…押圧部、53…加圧ローラー、54…清掃部、55…貯留槽、56…ブラシ、57…スキージ、58…乾燥部、60…ギャップ調整部、61…駆動部の一例としてのギャップ調整用モーター(モーター)、62…動力伝達部、63…フレーム、64…駆動歯車、65…第1歯車、66…第1回転軸、67…ウォーム歯車、68…第2歯車(ウォームホイール)、69…第2回転軸、69B…軸受、70…昇降部、71…ピニオン、72…歯部、73…基部、74…切欠凹部、75…規制面の一例としての第1規制面、76…規制面の一例としての第2規制面、81…ラック、82…歯部、83…ガイドフレーム、85…相対変位機構の一例としてのスライド機構、86…規制面、87…規制面、88…レール、90…相対変位機構、90A…空転機構、91…ピン、100…制御部、110…コンピューター、101…第1検出部の一例としての第1ロータリーエンコーダー、102…第2検出部の一例としての第2ロータリーエンコーダー、111…第1カウンター、112…第2カウンター、113…第3カウンター、114…突上げ判定部、115…記憶部、120…突上げ検知部、M…媒体、GP…ギャップ、θ…空転可能な角度範囲、Q…洗浄液、AP…貼付開始位置、X…走査方向(幅方向)、Y…搬送方向、Z…鉛直方向、-Z…重力方向、CD…周回方向。
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