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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115118
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】エレベーター保守用システム
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/00 20060101AFI20240819BHJP
【FI】
B66B5/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020608
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 崇
(72)【発明者】
【氏名】國信 脩平
【テーマコード(参考)】
3F304
【Fターム(参考)】
3F304BA22
(57)【要約】
【課題】建屋に専用の工事を行う必要がなく、保守作業者がフック取付け部に安全帯フックを取り付けたことを容易に検出することができるエレベーター保守用システムを提供する。
【解決手段】エレベーター保守用システム100は、マーカー102が付与された安全帯フック101と、撮像部201と、画像処理部203と、判定部204とを備える。撮像部201は、安全帯フック101を用いる作業者21の一人称視点の画像を撮像する。画像処理部203は、撮像部201が撮像した画像からマーカー102の軌跡を抽出する。判定部204は、画像処理部203の抽出結果に基づいて、作業者21が乗りかごの上面に配置されたフック取付け部に安全帯フック101を取り付けたか否かを判定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者が、乗りかごの上面に配置されたフック取付け部に、安全帯フックを取り付けたか否かを検出するエレベーター保守用システムにおいて、
マーカーが付与された前記安全帯フックと、
前記安全帯フックを用いる作業者の一人称視点の画像を撮像する撮像部と、
前記撮像部が撮像した画像から前記マーカーの軌跡を抽出する画像処理部と、
前記画像処理部の抽出結果に基づいて、前記フック取付け部に前記安全帯フックを取り付けたか否かを判定する判定部と、を備える
エレベーター保守用システム。
【請求項2】
前記画像処理部は、
前記撮像部が撮像した画像から前記マーカーを含む画像を抽出するマーカー抽出部と、
前記マーカー抽出部が抽出した画像にマスク処理を施してマスク画像を生成するマスク画像生成部と、
時系列に並べられた複数の前記マスク画像から、前記マーカーの軌跡を抽出する軌跡抽出部と、を有する
請求項1に記載のエレベーター保守用システム。
【請求項3】
前記判定部は、前記マーカーの軌跡が画像下端から画像上端に向かって移動するものである場合に、前記フック取付け部に前記安全帯フックが取り付けられたことを特定する
請求項1に記載のエレベーター保守用システム。
【請求項4】
前記マーカーは、人の肌領域の補色となる青から緑の色相に設定されている
請求項1に記載のエレベーター保守用システム。
【請求項5】
前記撮像部、前記画像処理部、前記判定部、及び報知部を有するウェアラブルデバイスを備え、
前記報知部は、前記判定部が前記フック取付け部に前記安全帯フックを取り付けてないと判定した場合に、作業者に警告を報知する
請求項1に記載のエレベーター保守用システム。
【請求項6】
前記判定部の判定結果を、作業管理者の端末装置に送信する通信部を備える
請求項1に記載のエレベーター保守用システム。
【請求項7】
前記エレベーターに関する所定の制御信号を受信した場合に、前記撮像部に撮像を開始させる制御信号受信部を備える
請求項1に記載のエレベーター保守用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーター保守用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーターは、昇降路の上端や下端に設置された巻上機と、巻上機に掛けられた主ロープを備える。主ロープの一端側には、乗りかごが吊り下げられており、主ロープの他端側には、釣合いおもりが吊り下げられている。乗りかごと釣合いおもりは、巻上機を駆動して主ロープを巻き上げることにより、昇降路内をつるべ式に昇降する。
【0003】
このような構成のエレベーターにおいて、定期検査や保守等の点検作業を行う場合は、保守作業者が乗りかごの上面に乗り、乗りかごを昇降させて、昇降路内に設置された機器を検査したり点検したりする。保守作業者は、乗りかごの上面に乗って点検作業を行う際に、乗りかご上面に設けられたフック取付け部に安全帯フックを取り付ける必要がある。
【0004】
しかし、作業管理者がエレベーターの設置場所にいない場合は、保守作業者がフック取付け部に安全帯フックを取り付けたか否かを作業管理者が確認することができない。そこで、保守作業者が安全帯フックをフック取付け部に取り付けずに、昇降路内部に入ることを防止し、保守作業者に注意を促す技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-12744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された保全情報案内方法では、各階のホールにカメラを設置するため、エレベーターに専用の設計が必要である。また、既存のエレベーターに保全情報案内方法を適用する場合は、建屋にカメラを設置するための改修工事が必要になる。また、ホールにカメラを設置すると保守作業者以外の人が映り込む可能性があり、個人情報保護の観点で対策が必要になる。
【0007】
本発明の目的は、上記の問題点を考慮し、建屋に専用の工事を行う必要がなく、保守作業者がフック取付け部に安全帯フックを取り付けたことを容易に検出することができるエレベーター保守用システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の一態様であるエレベーター保守用システムは、乗りかごの上面に配置されたフック取付け部に、安全帯フックを取り付けたか否かを検出する。このエレベーター保守用システムは、マーカーが付与された安全帯フックと、撮像部と、画像処理部と、判定部とを備える。撮像部は、安全帯フックを用いる作業者の一人称視点の画像を撮像する。画像処理部は、撮像部が撮像した画像からマーカーの軌跡を抽出する。判定部は、画像処理部の抽出結果に基づいて、作業者がフック取付け部に安全帯フックを取り付けたか否かを判定する。
【発明の効果】
【0009】
上記構成のエレベーター保守用システムによれば、建屋に専用の工事を行う必要がなく、保守作業者がフック取付け部に安全帯フックを取り付けたことを容易に検出することができる。
なお、上述した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態に係るエレベーターの概略構成図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るエレベーター保守用システムの構成例を示す構成図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る画像処理部の機能構成を示すブロック図である。
図4】本発明の第1実施形態における乗りかご上面の作業者の動作と撮像部が撮像した映像との関係の一例を示す図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る安全帯フック取付検出処理を示すフローチャートである。
図6】本発明の第2実施形態に係るエレベーター保守用システムの構成例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.第1実施形態
以下、第1実施形態に係るエレベーター保守用システムについて説明する。なお、各図において共通の部分には、同一の符号を付している。
【0012】
[エレベーター]
まず、第1実施形態に係るエレベーターの構成について、図1を参照して説明する。
図1は、第1実施形態に係るエレベーターの概略構成図である。
【0013】
図1に示すように、エレベーター1は、建築構造物内に形成された昇降路2の上方に機械室を有しない、いわゆる機械室レスエレベーターである。なお、本発明に係るエレベーターは、機械室レスエレベーターに限定されるものではなく、昇降路2の上方に機械室を有するエレベーターであってもよい。
【0014】
エレベーター1は、昇降路2に配置された主ロープ3、乗りかご4、釣合おもり5、及び巻上機6を備えている。
【0015】
昇降路2は、頂部2aと、底部2bを有している。巻上機6は、昇降路2の頂部2aに設置されている。巻上機6は、主ロープ3を介して乗りかご4及び釣合おもり5をつるべ式に昇降させる。
【0016】
昇降路2内には、一対の乗りかご用ガイドレール(不図示)と、一対の釣合いおもり用ガイドレール(不図示)が配置されている。一対の乗りかご用ガイドレール乗りかご4を昇降方向(鉛直方向)に沿って案内する。一対の釣合いおもり用ガイドレールは、釣合いおもり5を昇降方向に沿って案内する。
【0017】
主ロープ3の一端部は、昇降路2に設けられた頂上梁7aに固定されている。主ロープ3の他端部は、昇降路2に設けられた頂上梁7bに固定されている。主ロープ3は、釣合いおもり5を経由して巻上機6に巻回された後、乗りかご4の下部に設けられたせり上げ用プーリに巻き掛けられている。
【0018】
巻上機6の駆動は、昇降路2内に設置された制御装置9によって制御される。昇降路2の頂部2aには、制動装置13a,13bが設けられている。制動装置13a,13bは、巻上機6の駆動を停止する場合に、巻上機6に制動力を付与する。
【0019】
以下の説明では、乗りかご4の奥行方向をx軸、乗りかご4の幅方向をy軸、乗りかご4の昇降方向をz軸とする座標系を用いる。
【0020】
昇降路2の頂部2aには、調速機10が設置されている。調速機10には、乗りかご位置検出装置10aが設置されている。そして、昇降路2内の底部2bには、調速機おもり11が設置されている。
【0021】
調速機10と調速機おもり11には、乗りかご4と連結された環状の調速機ロープ12が巻き掛けられている。調速機ロープ12の一端は、乗りかご4の上面8に連結され、調速機ロープ12の他端は、乗りかご4の底部に連結されている。これにより、調速機ロープ12は、全体として環状に形成されている。
【0022】
調速機ロープ12は、乗りかご4の昇降移動に伴って移動する。この調速機ロープ12の移動により、乗りかご4の昇降移動と連動して調速機10が回転する。乗りかご位置検出装置10aは、調速機10の回転を測定することで、乗りかご4のz軸方向の位置と速度を検出する。
【0023】
昇降路2内には、調速機10や乗りかご位置検出装置10a等を含む各機器がそれぞれ四方向に分散して設置されている。このため、保守作業や点検作業を行う作業者は、各機器を点検する際に、乗りかご4の上面8に乗り、乗りかご4の上面8を作業足場(作業領域)として使用して、昇降路2内の各機器に接近する。
【0024】
エレベーター1の点検作業を行う場合に、作業者は、乗りかご4内に設けられた操作盤17を操作して、運転モードを通常モードから作業モードに切り替える。その後、作業者は、各階の乗り場14に設けられた乗り場ドア15を開いて開口部を形成し、その開口部から乗りかご4の上面8に乗り込む。このとき、作業者は、乗りかご4の上面8に設けられたフック取付け部110に、安全帯フック101(図4参照)を取り付ける。
【0025】
乗りかご4の上面8には、落下防止用の手すり20(図4参照)が設けられている。落下防止用の手すり20は、上面8に沿う枠状に形成されており、作業者21の安全な作業範囲を示している。また、乗りかご4の上面8には、乗りかご上制御装置16が設けられている。各機器は、昇降路2内のz軸方向(昇降方向)の異なる位置にそれぞれ設置されている。作業者は、乗りかご上制御装置16を操作して、各機器に応じた位置に乗りかご4を昇降させる。
【0026】
[エレベーター保守用システム]
次に、第1実施形態に係るエレベーター保守用システムの構成について、図2を参照して説明する。
図2は、第1実施形態に係るエレベーター保守用システムの構成例を示す構成図である。
【0027】
図2に示すように、エレベーター保守用システム100は、安全帯フック101と、ウェアラブルデバイス200とを備える。
【0028】
安全帯フック101は、例えば、ハーネス(墜落制止用器具)に設けられている。ハーネスは、乗りかご4の上面8において作業者が安全に作業するために装着する器具である。作業者は、安全帯フック101を上述のフック取付け部110に取り付ける。
【0029】
安全帯フック101には、照度の低い場所でも安全帯フック101をウェアラブルデバイス200によって検知するために、マーカー102が付与されている。マーカー102は、例えば、人の肌領域の補色となる青から緑の色相に設定された再帰性反射テープである。
【0030】
ウェアラブルデバイス200は、例えば、作業者の作業着やヘルメットに装着するボディカメラである。ウェアラブルデバイス200は、撮像部201と、制御部202と、画像処理部203と、判定部204と、記憶部205と、報知部206と、通信部207とを備える。
【0031】
撮像部201は、作業者の一人称視点の画像を撮像する。撮像部201は、安全帯フック101に付与されたマーカー102を含む領域を撮像する。撮像部201は、例えば、カメラデバイスやウェアラブルデバイスのカメラモジュール、センサーカメラなどである。
【0032】
制御部202は、ウェアラブルデバイス200を統括制御する。制御部202、画像処理部203、及び判定部204は、それぞれ演算処理を行う。制御部202、画像処理部203、及び判定部204は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、AI(Artificial Intelligence)チップ等で構成される。
【0033】
画像処理部203は、撮像部201によって撮像された映像からマーカー102を抽出し、作業者の腕の動きを推定する。画像処理部203については、後で図3を用いて説明する。判定部204は、推定された作業者の腕の動きから安全帯フック101をフック取付け部110に取り付けたか否かを判定する。
【0034】
記憶部205は、撮像部201によって撮像された映像、画像処理部203により画像処理された結果、及び判定部204による判定結果が記憶する。記憶部205は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ(Flash Memory)等である。
【0035】
報知部206は、判定部204が安全帯フック101をフック取付け部110に取り付けてないと判定した場合に、作業者に警告を報知する。報知部206は、例えば、スピーカーやブザー等である。なお、本発明に係る報知部は、音によって警告を行うものに限定されず、例えば、文字によって警告を行う表示装置、光によって警告を行うLED(Light-Emitting Diode)などの発光装置であってもよい。
【0036】
通信部207は、ネットワーク121を介して計画作業DB(データベース)131、作業履歴DB(データベース)132、及び管理者端末装置133と各種データの送受信を行う。計画作業DB131は、作業者の点検作業の計画を示す情報(作業計画情報)を記録する。作業履歴DB132は、判定部204の判定結果、履行した作業、不履行の作業等の作業者の作業履歴を示す情報を記録する。
【0037】
通信部207は、作業者の点検作業の計画を示す情報を計画作業DB131から受信する。また、通信部207は、作業者の作業履歴を示す情報を作業履歴DB132に送信する。さらに、通信部207は、判定部204が安全帯フック101をフック取付け部110に取り付けてないと判定した場合に、安全帯フック101を使用していない作業者を示す情報(例えば、氏名、識別番号等)を、管理者端末装置133に送信する。
【0038】
[画像処理部の機能構成]
次に、画像処理部203の機能構成について、図3を用いて説明する。
図3は、画像処理部の機能構成を示すブロック図である。
【0039】
図3に示すように、画像処理部203は、安全帯フック101に付与されたマーカー102を検出するマーカー抽出部301と、マスク画像生成部302と、マスク映像合成部303と、軌跡抽出部304とを備える。
【0040】
マーカー抽出部301は、撮像部201で撮像された画像から、マーカー102部分を特定し、マーカー102の領域(以下、「マーカー領域」とする)を抽出する。マーカー抽出部301は、例えば、RGB表色系やHSV表色系といった色味からマーカー102の領域を抽出する。なお、マーカー102が再帰性反射テープである場合に、マーカー抽出部301は、反射光の明るさの違いからマーカー102の領域を抽出してもよい。この場合に、ウェアラブルデバイス200が照明装置を備えていてもよく、また、作業者が照明装置を携帯していてもよい。
【0041】
マスク画像生成部302は、マーカー抽出部301で抽出されたマーカー領域を除く領域を単色で塗りつぶして、マーカー領域のみを残した画像をマスク画像として生成する。マスク映像合成部303は、マスク画像生成部302で作成したマスク画像を時系列に並べてマスク映像を生成する。すなわち、マスク映像は、マーカー領域が抽出された連続する複数の画像から形成されている。
【0042】
軌跡抽出部304は、マスク映像合成部303で生成したマスク映像から、マーカー領域の軌跡を抽出する。軌跡抽出部304は、例えば、画像処理手法のひとつであるオプティカフローを使ってマーカー領域の移動方向(軌跡)を特定する。
【0043】
[作業者の動作と撮像部が撮像した映像との関係]
次に、作業者の動作と撮像部201が撮像した映像との関係について、図4を用いて説明する。
図4は、乗りかご4の上面8における作業者の動作と撮像部201が撮像した映像との関係の一例を示す図である。
【0044】
図4Aは、時間t1~t3において作業者21が安全帯フック101をフック取付け部110に取り付ける動作(以下、「フック取付動作」とする)を示している。図4Bは、時間t1~t3において作業者21の頭部又は胸部に取り付けられたウェアラブルデバイス200の撮像部201によって撮像された画像を示している。
【0045】
図4Aに示すように、時間t1は、作業者21がハーネス(墜落制止用器具)から安全帯フック101を外した状態である。このとき、図4Bに示すように、撮像部201によって撮像された画像には、安全帯フック101が写っていない。つまり、撮像部201の画角には、作業者21が把持する安全帯フック101が入っていない。
【0046】
図4Aに示すように、時間t2は、作業者21が手を前方に伸ばして安全帯フック101をフック取付け部110に近づけている状態である。このとき、図4Bに示すように、撮像部201によって撮像された画像には、下端から上端に向かって移動する安全帯フック101が写っている。つまり、撮像部201の画角には、作業者21が把持する安全帯フック101が入っている。
【0047】
図4Aに示すように、時間t3は、作業者21が安全帯フック101をフック取付け部110に取り付けた状態である。このとき、図4Bに示すように、撮像部201によって撮像された画像には、安全帯フック101と、安全帯フック101を把持する作業者21の腕が写っている。つまり、撮像部201の画角には、安全帯フック101と、作業者21の腕が入っている。
【0048】
このように、フック取付動作は、撮像部201が撮像した画像において、下端から上端へ向かう安全帯フック101の移動として写る。そして、安全帯フック101には、マーカー102が付与されている。したがって、画像下端から画像上端へ向かって移動するマーカー102の軌跡をマスク映像から抽出した場合に、フック取付動作を行ったと判定することができる。また、建屋にカメラを設置するなどの専用の工事を行う必要がない。
【0049】
[安全帯フック取付検出処理]
次に、作業者21が安全帯フック101をフック取付け部110に取り付けたか否かを検出する安全帯フック取付検出処理について、図5を用いて説明する。
図5は、安全帯フック取付検出処理を示すフローチャートである。
【0050】
まず、作業者21が安全帯フック101にマーカー102を付与する(S1)。ステップS1では、例えば、作業者21が再帰性反射テープからなるマーカー102を安全帯フック101に貼る。その際、ウェアラブルデバイス200の撮像部201で撮像しやすいように、安全帯フック101の表面積の広い面にマーカー102を貼付することが望ましい。なお、既に安全帯フック101にマーカー102を付与済みの場合は、ステップS1を省略できる。
【0051】
次に、作業者21の頭部又は胸部に取り付けられたウェアラブルデバイス200の撮像部201が、撮像を開始する(S2)。ステップS2において、作業者21がウェアラブルデバイス200を操作して、撮像部201による撮像を開始させる。ステップS2において、撮像部201が撮像した画像は、記憶部205に保存される。
【0052】
なお、ステップS2において、昇降路2の照度が不足している場合は、作業者が保持する照明装置やウェアラブルデバイス200に設けられた照明装置を使用して、撮像領域(作業者の前方)に照明を当てることが望ましい。
【0053】
次に、画像処理部203のマーカー抽出部301が、ステップS2において撮像した画像からマーカー102を抽出できるか否かを判定する(S3)。ステップS3において、マーカー102を抽出できると判定したとき(S3がYES判定の場合)、画像処理部203のマスク画像生成部302が、画像からマーカー領域のみを残したマスク画像を生成する(S4)。
【0054】
続いて、画像処理部203のマスク映像合成部303が、マスク画像を時系列順に並べたマスク映像を生成する(S5)。マスク映像合成部303は、ステップS4においてマスク画像が生成される度に、そのマスク画像を追加してマスク映像を更新する。ステップS5において、マスク映像合成部303が生成(更新)したマスク映像は、記憶部205に保存される。ステップS5の終了後、画像処理部203は、処理をステップS3に戻す。
【0055】
ステップS3において、マーカー102を抽出できないと判定したとき(S3がNO判定の場合)、画像処理部203の軌跡抽出部304が、ステップS5において生成されたマスク映像が記憶部205に保存されているか否かを判定する(S6)。ステップS6において、マスク映像が記憶部205に保存されていないと判定したとき(S6がNO判定の場合)、画像処理部203は、処理をステップS2に戻す。
【0056】
ステップS6において、マスク映像が記憶部205に保存されていると判定したとき(S6がYES判定の場合)、軌跡抽出部304は、マスク映像からマーカー102の軌跡(動線)を抽出するS7。ステップS7において、軌跡抽出部304は、例えば、疎なオプティカルフローを用いてマーカー102の軌跡(動線)を算出する。
【0057】
次に、判定部204が、ステップS7において抽出したマーカー102の軌跡が、フック取付動作に対応する軌跡と一致するか否かを判定する(S8)。ステップS8において、マーカー102の軌跡がフック取付動作に対応する軌跡と一致しないと判定したとき(S8がNO判定の場合)、制御部202は、フック取付け部110に安全帯フック101を取り付けてないことを示す警告を報知部206に報知させる(S9)。これにより、ウェアラブルデバイス200は、フック取付け部110に対する安全帯フック101の取り付けを促すことができる。
【0058】
続いて、制御部202は、フック取付け部110に安全帯フック101を取り付けてない作業者21を示す情報(例えば、作業者の氏名、作業者の識別番号等)を、通信部207から管理者端末装置133へ送信させる(S10)。通信部207は、例えば、メール、チャット、SNS(Social Networking Service)を利用して、フック取付け部110に安全帯フック101を取り付けてない作業者21を示す情報を管理者に通知する。
【0059】
なお、制御部202は、フック取付け部110に安全帯フック101を取り付けた作業者21を示す情報(例えば、作業者の氏名、作業者の識別番号等)を、通信部207から管理者端末装置133へ送信させてもよい。すなわち、制御部202は、判定部204の判定結果を通信部207から管理者端末装置133へ送信させてもよい。
【0060】
ステップS10の処理後、又はステップS8において、マーカー102の軌跡がフック取付動作に対応する軌跡と一致すると判定したとき(S8がYES判定の場合)、制御部202は、作業者21による安全帯フック101の使用状況を、通信部207から作業履歴DB132へ送信させる(S10)。作業履歴DB132は、作業者21による安全帯フック101の使用状況を格納する。ステップS20の処理後、制御部202は、安全帯フック取付検出処理を終了する。
【0061】
2.第2実施形態
[エレベーター保守用システム]
次に、第2実施形態に係るエレベーター保守用システムについて、図6を参照して説明する。なお、各図において共通の部分には、同一の符号を付している。
図6は、第2実施形態に係るエレベーター保守用システムの構成例を示す構成図である。
【0062】
第2実施形態に係るエレベーター保守用システム100Aは、第1実施形態に係るエレベーター保守用システム100(図2参照)と同様の構成を有している。エレベーター保守用システム100Aが、エレベーター保守用システム100と異なる点は、ウェアラブルデバイス200Aである。そこで、ここでは、ウェアラブルデバイス200Aの構成について説明し、エレベーター保守用システム100と重複する構成についての説明を省略する。
【0063】
図6に示すように、ウェアラブルデバイス200Aは、例えば、作業者の作業着やヘルメットに装着するボディカメラである。ウェアラブルデバイス200Aは、撮像部201と、制御部202と、画像処理部203と、判定部204と、記憶部205と、報知部206と、通信部207と、制御信号受信部208を備える。
【0064】
制御信号受信部208は、エレベーター1に関する所定の制御信号を受信した場合に、制御部202を介して撮像部201に撮像を開始させる。制御信号受信部208は、演算処理を行う装置である。制御信号受信部208は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等で構成される。
【0065】
エレベーター1に関する所定の制御信号は、昇降路2内に設置された制御装置9(図1参照)からネットワーク121及び通信部207を介して制御信号受信部208に送られる。エレベーター1に関する所定の制御信号としては、例えば、保守運転開始信号を挙げることができる。保守運転開始信号は、作業者21が操作盤17(図1参照)に設けられた保守運転切替スイッチを操作して運転モードを通常モードから作業モードに切り替えた際に、操作盤17から送信される。
【0066】
また、エレベーター1に関する所定の制御信号としては、例えば、かご上運転開始信号を挙げることができる。かご上運転開始信号は、作業者21が乗りかご上制御装置16(図1参照)に設けられたかご上運転制御スイッチを操作した際に、乗りかご上制御装置16から送信される。
【0067】
第2実施形態に係る安全帯フック取付検出処理では、制御信号受信部208がエレベーター1に関する所定の制御信号を受信すると、撮像部201による撮像が開始される。これにより、人為的なミスで撮像部201による撮像が開始されないことを防止することができる。その結果、作業者21が乗りかご4の上面8に載った際に、安全帯フック101をフック取付け部110に取り付けたか否かの検出を必ず実行することができる。
【0068】
なお、本発明に係るエレベーター保守用システムとしては、制御部202が制御信号受信部を兼ねる構成にしてもよい。この場合は、制御部202が、エレベーター1に関する所定の制御信号を受信した場合に、撮像部201に撮像を開始させる。
【0069】
3.まとめ
(1)上述した実施形態に係るエレベーター保守用システム100は、乗りかご4の上面8に配置されたフック取付け部110に、安全帯フック101を取り付けたか否かを検出する。このエレベーター保守用システム100は、マーカー102が付与された安全帯フック101と、撮像部201と、画像処理部203と、判定部204とを備える。撮像部201は、安全帯フック101を用いる作業者21の一人称視点の画像を撮像する。画像処理部203は、撮像部201が撮像した画像からマーカー102の軌跡を抽出する。判定部204は、画像処理部203の抽出結果に基づいて、作業者21がフック取付け部110に安全帯フック101を取り付けたか否かを判定する。
これにより、建屋にカメラを設置するなどの専用の工事を行う必要がなく、作業者21がフック取付け部110に安全帯フック101を取り付けたことを容易に検出することができる。
【0070】
(2)また、上述した実施形態に係る画像処理部203は、マーカー抽出部301と、マスク画像生成部302と、軌跡抽出部304とを有する。マーカー抽出部301は、撮像部201が撮像した画像からマーカー102を含む画像を抽出する。マスク画像生成部302は、マーカー抽出部301が抽出した画像にマスク処理を施してマスク画像を生成する。軌跡抽出部304は、時系列に並べられた複数のマスク画像から、マーカー102の軌跡を抽出する。
これにより、撮像部201が撮像した画像からマーカー102を精度よく抽出することができる。そして、マーカー102の軌跡を抽出する精度を高めることができる。その結果、フック取付け部110に安全帯フック101を取り付けたか否かの検出の信頼性を向上させることができる。
【0071】
(3)また、上述した実施形態に係る判定部204は、マーカー102の軌跡が画像下端から画像上端に向かって移動するものである場合に、フック取付け部110に安全帯フック101が取り付けられたことを特定する。
これにより、フック取付け部110に安全帯フック101が取り付けられたことを画像から直接確認する必要が無く、簡単な画像処理でフック取付け部110に安全帯フック101が取り付けられたことを特定することができる。
【0072】
(4)また、上述した実施形態に係るマーカー102は、人の肌領域の補色となる青から緑の色相に設定されている。
これにより、作業者の手(腕)とマーカー102とのコントラストを強くすることができ、撮像部201が撮像した画像からマーカー102を抽出しやすくすることができる。その結果、マーカー102の軌跡を抽出する精度を高めることができる。
【0073】
(5)また、上述した実施形態に係るウェアラブルデバイス200は、撮像部201、画像処理部203、判定部204、及び報知部206を有する。報知部206は、判定部204がフック取付け部110に安全帯フック101を取り付けてないと判定した場合に、作業者21に警告を報知する。
これにより、フック取付け部110に対する安全帯フック101の取り付けを促すことができる。
【0074】
(6)また、上述した実施形態に係るエレベーター保守用システム100は、判定部204の判定結果を、管理者端末装置133(管理者の端末装置)に送信する通信部207を備える。
これにより、作業管理者は、エレベーター1の設置場所にいなくても、作業者21がフック取付け部110に安全帯フック101を取り付けたか否かを認識することができる。
【0075】
(7)また、上述した実施形態に係るエレベーター保守用システム100Aは、エレベーター1に関する所定の制御信号を受信した場合に、撮像部201に撮像を開始させる制御信号受信部208を備える。
これにより、撮像部201による撮像が開始されないことを防止することができる。
【0076】
以上、エレベーター保守用システムの実施形態について、その作用効果も含めて説明した。しかしながら、本発明のエレベーター保守用システムは、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0077】
また、上述した実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0078】
また、上述した実施形態の各構成、機能、処理部、処理手段などは、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計するなどによりハードウェアで実現してもよい。また、上述した実施形態の各構成や機能などは、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイルなどの情報は、メモリやハードディスク、SSD(Solid State Drive)などの記録装置、またはメモリカード、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に置くことができる。
【0079】
また、上述した実施形態に係る図面の制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示している。しかし、上述した実施形態に係る図面は、必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【0080】
上述した実施形態では、ウェアラブルデバイス200が、画像処理部203、判定部204、及び記憶部205を備えている。しかし、本発明に係る画像処理部、判定部、及び記憶部は、ウェアラブルデバイスが備えるのではなく、ネットワーク121を介して接続された情報処理装置が備えていてもよい。この場合ウェアラブルデバイスは、撮像部で撮像した画像を、ネットワーク121を介して情報処理装置に送信する。そして、ウェアラブルデバイスは、情報処理装置における判断部の判断結果を受信する。受信した判断結果が「フック取付け部110に安全帯フック101を取り付けてない」である場合に、ウェアラブルデバイスは、報知部による警告を実行する。
【符号の説明】
【0081】
1…エレベーター、 2…昇降路、 3…主ロープ、4…乗りかご、 6…巻上機、 7a,7b…頂上梁、 8…上面、 9…制御装置、 10…調速機、 10a…位置検出装置、 12…調速機ロープ、 13a,13b…制動装置、 14…乗り場、 15…乗り場ドア、 16…乗りかご上制御装置、 17…操作盤、20…落下防止用の手すり、 21…作業者、 100,100A…エレベーター保守用システム、 101…安全帯フック、 102…マーカー、 110…フック取付け部、 121…ネットワーク、 131…計画作業DB、 132…作業履歴DB、 133…管理者端末装置、 200,200A…ウェアラブルデバイス、 201…撮像部、 202…制御部、 203…画像処理部、 204…判定部、 205…記憶部、 206…報知部、 207…通信部、 208…制御信号受信部、 301…マーカー抽出部、 302…マスク画像生成部、 303…マスク映像合成部、 304…軌跡抽出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6