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特開2024-115125イットリウム化合物含有ゾルゲル液、および、イットリウム酸化物膜の製造方法
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  • 特開-イットリウム化合物含有ゾルゲル液、および、イットリウム酸化物膜の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115125
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】イットリウム化合物含有ゾルゲル液、および、イットリウム酸化物膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20240819BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C09D1/00
H01L21/316 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020618
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】金子 大亮
【テーマコード(参考)】
4J038
5F058
【Fターム(参考)】
4J038AA011
4J038HA211
4J038PB09
5F058BA20
5F058BC03
5F058BF46
5F058BH03
(57)【要約】
【課題】イットリウム化合物をY換算で多く含み、かつ、ゾルゲル液中でのイットリウムの電離を抑制し、高密度で結晶性の高いイットリウム酸化物膜を成膜可能なイットリウム化合物含有ゾルゲル液を提供する。
【解決手段】イットリウム酸化物膜を成膜する際に用いられるイットリウム化合物含有ゾルゲル液であって、イットリウム化合物と、アルコールと、炭素数が6以下の低級アミノアルコールと、を含有し、含まれるイットリウム化合物のイットリウムをYに換算したY換算含有量が1mass%以上20mass%以下の範囲内とされ、前記低級アミノアルコールの含有量が1mass%以上10mass%以下の範囲内とされており、含まれる水分量が2.00mass%以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリウム酸化物膜を成膜する際に用いられるイットリウム化合物含有ゾルゲル液であって、
イットリウム化合物と、アルコールと、炭素数が6以下の低級アミノアルコールと、を含有し、
含まれるイットリウム化合物のイットリウムをYに換算したY換算含有量が1mass%以上20mass%以下の範囲内とされ、前記低級アミノアルコールの含有量が1mass%以上10mass%以下の範囲内とされており、
含まれる水分量が2.00mass%以下であることを特徴とするイットリウム化合物含有ゾルゲル液。
【請求項2】
前記アルコールは、炭素数が5以下の低級アルコールとされていることを特徴とする請求項1に記載のイットリウム化合物含有ゾルゲル液。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載されたイットリウム化合物含有ゾルゲル液を塗布する塗布工程と、塗布された前記イットリウム化合物含有ゾルゲル液を焼成する焼成工程と、を備えていることを特徴とするイットリウム酸化物膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イットリウム酸化物膜を成膜する際に用いられるイットリウム化合物含有ゾルゲル液、および、このイットリウム化合物含有ゾルゲル液を用いたイットリウム酸化物膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上述のイットリウム酸化物膜は、硬度の高いハードコート膜、エッチング用マスク、撥水膜等として利用されている。
例えば、3D-NAND等のメモリデバイスを製造する際には、基板の表面にエッチング用マスクとしてイットリウム酸化物膜を成膜し、基材の表面をエッチング処理する。これにより、イットリウム酸化物膜が成膜された部分がエッチングされずに残存し、基材の表面に特定のパターンが形成されることになる。
【0003】
ここで、上述のイットリウム酸化物膜を成膜する方法としては、例えば特許文献1,2に示すように、イットリウム化合物を含有するイットリウム化合物含有ゾルゲル液を用いたゾルゲル法が提案されている。
特許文献1においては、イットリウム化合物とアルコールと水と酸と所定の有機化合物を含むイットリアゾル混合物を用いてイットリウム酸化物膜を成膜する技術が提案されている。
特許文献2においては、Y換算濃度3~10重量%水溶液からなり、pHが7以上のアルカリ性を有するゾル液(実施例においてはY(OH)のゾル液、)を用いてイットリウム酸化物膜を成膜する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-342017号公報
【特許文献2】特開2005-097685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ゾルゲル法によってイットリウム酸化物膜を成膜する際には、ゾルゲル液におけるイットリウム化合物の含有量が少ないと、焼成時における膜の収縮により割れが生じるおそれがある。このため、ゾルゲル液においては、多量のイットリウム化合物を溶解することが求められる。このため、上述の特許文献1,2においては、溶媒として水を用いている。
しかしながら、溶媒に水を用いた場合には、イットリウム化合物(例えばイットリウム酸塩、イットリウムアルコキシド等)が水と反応し、イットリウムが電離してしまい、成膜したイットリウム酸化物膜の密度の低下、結晶性の低下が生じるおそれがあった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、イットリウム化合物をY換算で多く含み、かつ、ゾルゲル液中でのイットリウムの電離を抑制し、高密度で結晶性の高いイットリウム酸化物膜を成膜可能なイットリウム化合物含有ゾルゲル液、および、このイットリウム化合物含有ゾルゲル液を用いたイットリウム酸化物膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の態様1のイットリウム化合物含有ゾルゲル液は、イットリウム酸化物膜を成膜する際に用いられるイットリウム化合物含有ゾルゲル液であって、イットリウム化合物と、アルコールと、炭素数が6以下の低級アミノアルコールと、を含有し、含まれるイットリウム化合物のイットリウムをYに換算したY換算含有量が1mass%以上20mass%以下の範囲内とされ、前記低級アミノアルコールの含有量が1mass%以上10mass%以下の範囲内とされており、含まれる水分量が2.00mass%以下であることを特徴としている。
【0008】
本発明の態様1のイットリウム化合物含有ゾルゲル液によれば、含まれるイットリウム化合物のイットリウムをYに換算したY換算含有量が1mass%以上20mass%以下の範囲内とされており、比較的多くのイットリウム化合物を含有しており、焼成時における膜の収縮による割れの発生を抑制することができる。
そして、溶媒としてアルコールを用いており、含まれる水分量が2.00mass%以下に制限されるとともに、安定化剤として作用する炭素数が6以下の低級アミノアルコールが安定化剤を含有しているので、ゾルゲル液中においてイットリウムが電離することを抑制でき、高密度で結晶性の高いイットリウム酸化物膜を成膜することができる。
【0009】
本発明の態様2のイットリウム化合物含有ゾルゲル液は、本発明の態様1のイットリウム化合物含有ゾルゲル液において、前記アルコールは、炭素数が5以下の低級アルコールとされていることを特徴としている。
【0010】
本発明の態様2のイットリウム化合物含有ゾルゲル液によれば、炭素数が5以下の低級アルコールを溶媒として使用しているので、焼成時に溶媒を比較的容易に揮発させることができ、さらに密度の高いイットリウム酸化物膜を成膜することが可能となる。
【0011】
本発明の態様3のイットリウム酸化物膜の製造方法は、本発明の態様1または態様2のイットリウム化合物含有ゾルゲル液を塗布する塗布工程と、塗布された前記イットリウム化合物含有ゾルゲル液を焼成する焼成工程と、を備えていることを特徴としている。
【0012】
本発明の態様3のイットリウム酸化物膜の製造方法によれば、本発明の態様1または態様2のイットリウム化合物含有ゾルゲル液を使用しているので、焼成時における膜の収縮による割れの発生を抑制できるとともに、高密度で結晶性の高いイットリウム酸化物膜を成膜することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、イットリウム化合物をY換算で多く含み、かつ、ゾルゲル液中でのイットリウムの電離を抑制し、高密度で結晶性の高いイットリウム酸化物膜を成膜可能なイットリウム化合物含有ゾルゲル液、および、このイットリウム化合物含有ゾルゲル液を用いたイットリウム酸化物膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るイットリウム化合物含有ゾルゲル液の製造方法を示すフロー図である。
図2】本発明の一実施形態に係るイットリウム酸化物膜の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態であるイットリウム化合物含有ゾルゲル液、および、イットリウム酸化物膜の製造方法について説明する。
【0016】
本実施形態であるイットリウム化合物含有ゾルゲル液においては、溶剤となるアルコールと、イットリウム源となるイットリウム化合物と、炭素数が6以下の低級アミノアルコールと、を含有する。
そして、本実施形態であるイットリウム化合物含有ゾルゲル液においては、含まれるイットリウム化合物のイットリウムをYに換算したY換算含有量が1mass%以上20mass%以下の範囲内、低級アミノアルコールの含有量が1mass%以上10mass%以下の範囲内とされ、さらに、含まれる水分量が2.00mass%以下とされている。
以下に、本実施形態であるイットリウム化合物含有ゾルゲル液に含まれるイットリウム化合物、低級アミノアルコール、含まれる水分量、アルコールについて、具体的に説明する。
【0017】
(イットリウム化合物)
含まれるイットリウム化合物のイットリウムをYに換算したY換算含有量が1mass%未満である場合には、イットリウム化合物含有ゾルゲル液におけるイットリウムの含有量が少なく、Y膜の成膜する際の焼成時に割れが発生するおそれがある。一方、含まれるイットリウム化合物のイットリウムをYに換算したY換算含有量が20mass%を超える場合には、イットリウムが電離してしまい、高密度で結晶性の高いイットリウム酸化物膜を成膜できなくなるおそれがある。
【0018】
そこで、本実施形態においては、含まれるイットリウム化合物のイットリウムをYに換算したY換算含有量が1mass%以上20mass%以下の範囲内に設定している。
なお、含まれるイットリウム化合物のイットリウムをYに換算したY換算含有量の下限は1mass%以上とすることが好ましく、5mass%以上とすることがさらに好ましい。一方、含まれるイットリウム化合物のイットリウムをYに換算したY換算含有量の上限は20mass%以下とすることが好ましく、15mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0019】
ここで、イットリウム源となるイットリウム化合物としては、イットリウム酸塩、イットリウムアルコキシド等が挙げられる。具体的には、酢酸イットリウム、塩化イットリウム、イットリウムエトキシド、イットリウムプロポキシド、イットリウムイソプロポキシド、イットリウムブトキシド等を用いることができる。なお、水酸化イットリウム(Y(OH))は、アルカリ性で不溶であり、酸性では電離しやすいため、イットリウム源となるイットリウム化合物としては、水酸化イットリウム以外のものを用いることが好ましい。
【0020】
(低級アミノアルコールの含有量)
本実施形態であるイットリウム化合物含有ゾルゲル液に含まれる低級アミノアルコールは、安定化剤として作用することになる。低級アミノアルコールのアミノ基がイットリウム(Y)に対して配位し、アミノ基の反対側についたヒドロキシ基がアルコールに対して溶媒和しやすくなるため、イットリウム化合物を多く溶解することが可能となり、イットリウムの電離を抑制することが可能となる。
ここで、低級アミノアルコールの含有量が1mass%未満では、上述の作用効果を奏することができないおそれがある。一方、低級アミノアルコールの含有量が10mass%を超えても上述の作用効果は向上しない。
【0021】
そこで、本実施形態においては、低級アミノアルコールの含有量を1mass%以上10mass%以下の範囲内に設定している。
なお、低級アミノアルコールの含有量の下限は1mass%以上とすることが好ましく、2mass%以上とすることがさらに好ましい。一方、低級アミノアルコールの含有量の上限は10mass%以下とすることが好ましく、8mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0022】
ここで、炭素数が6以下の低級アミノアルコールとしては、例えば、アミノメタノール、1-アミノエタノール、2-アミノエタノール、2-(メチルアミノ)エタノール、2-(エチルアミノ)メタノール、2-(エチルアミノ)エタノール、1-アミノ-1-プロパノール、1-アミノ-2-プロパノール、2-アミノ-1-プロパノール、3-アミノ-1-プロパノール、2-アミノ-2-プロパノール、ジエタノールアミン(C=4)、トリエタノールアミン(C=6)等が挙げられる。
【0023】
(水分量)
本実施形態であるイットリウム化合物含有ゾルゲル液に含まれる水分量が2.00mass%を超える場合には、イットリウムが電離してしまい、成膜したイットリウム酸化物膜の密度の低下、結晶性の低下が生じるおそれがある。
そこで、本実施形態においては、水分量を2.00mass%以下に制限している。
なお、水分量の上限は2mass%以下とすることが好ましく、1mass%以下とすることがさらに好ましい。水分量の下限に特に制限はないが、0.08mass%であってもよい。
【0024】
(アルコール)
本実施形態であるイットリウム化合物含有ゾルゲル液において、溶剤となるアルコールとしては特に制限はないが、炭素数が5以下の低級アルコールを用いることが好ましい。
低級アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール等を挙げることができる。
【0025】
次に、上述した本実施形態であるイットリウム化合物含有ゾルゲル液を製造する方法について、図1のフロー図を参照して説明する。
【0026】
本実施形態であるイットリウム化合物含有ゾルゲル液の製造方法においては、図1に示すように、溶媒となるアルコールと、イットリウム源となるイットリウム化合物と、低級アミノアルコールとを混合する混合工程S01と、得られた混合液を還流する還流工程S02と、脱水工程S03と、を備えている。
【0027】
混合工程S01においては、溶媒となるアルコールを加温・撹拌した状態で、イットリウム化合物を添加するとともに、低級アミノアルコールを添加し、これらの混合液を得る。
なお、イットリウム化合物および低級アミノアルコールを添加する際の雰囲気は、非酸化雰囲気とすることが好ましく、本実施形態では窒素雰囲気としている。
【0028】
還流工程S02においては、混合工程S01で得られた混合液を、攪拌しながら加熱して還流処理する。
この還流工程S02における加熱温度は110℃以上150℃以下の範囲内とすることが好ましい。また、加熱温度での保持時間は1時間以上8時間以下の範囲内とすることがこのましい。
【0029】
脱水工程S03においては、還流工程S02を実施した混合液に対して、脱水処理を行うことにより、含まれる水分量を調整する。本実施形態では、蒸留により脱水処理を実施する。
蒸留条件は、常圧で5分以上30分以下の範囲で保持し、その後、0.01MPa以上0.05MPa以下にまで減圧し、減圧条件で保持することが好ましい。また、温度条件は110℃以上150℃以下の範囲内とすることが好ましい。
【0030】
以上の各工程によって、本実施形態であるイットリウム化合物含有ゾルゲル液が製造されることになる。
【0031】
次に、上述した本実施形態であるイットリウム化合物含有ゾルゲル液を用いたイットリウム酸化物膜の製造方法について、図2のフロー図を参照して説明する。
【0032】
本実施形態であるイットリウム酸化物膜の製造方法においては、図2に示すように、基材の表面に、本実施形態であるイットリウム化合物含有ゾルゲル液を塗布するイットリウム化合物含有ゾルゲル液塗布工程S11と、塗布したイットリウム化合物含有ゾルゲル液を乾燥させてイットリウム化合物含有ゲル膜を形成する乾燥工程S12と、イットリウム化合物含有ゲル膜を焼成してイットリウム酸化物膜を形成する焼成工程S13と、を備えている。
【0033】
ここで、本実施形態においては、イットリウム酸化物膜を成膜する基材は、金属基材とされているが、金属に限定されるものではない。また、この基材表面には、ブラスト処理やエッチング処理等によって凹凸が形成されていてもよい。
基材としては、アルミニウム、チタン、鉄、ニッケル、亜鉛、マグネシウム、銅などの単金属や、それらの合金、酸化物、シリコン、ガリウムなどの元素半導体、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、リン化インジウム、窒化ガリウム、ガリウムヒ素、酸化ガリウムなどの化合物半導体を用いることができる。
【0034】
イットリウム化合物含有ゾルゲル液塗布工程S11においては、基材の表面に本実施形態であるイットリウム化合物含有ゾルゲル液を塗布する。このとき、塗布方法に特に制限はなく、スプレー法、ディップ法などを用いてもよいが、本実施形態においては、スピンコートによりイットリウム化合物含有ゾルゲル液を塗布する。
【0035】
乾燥工程S12においては、基材表面に塗布したイットリウム化合物含有ゾルゲル液を乾燥させることで、イットリウム化合物含有ゲル膜を形成する。ここで、本実施形態であるイットリウム化合物含有ゾルゲル液が、溶媒として炭素数が5以下の低級アルコールを用いている場合には、乾燥工程S12によって溶媒を比較的容易に蒸発させることができる。
【0036】
この乾燥工程S12における加熱条件は、大気もしくは酸素雰囲気、加熱温度を100℃以上400℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間を0.5分以上10分以下の範囲内、とすることが好ましい。
なお、イットリウム化合物含有ゾルゲル液塗布工程S11と乾燥工程S12とを繰り返し実施することで、所定の厚さのイットリウム化合物含有ゲル膜を形成してもよい。
【0037】
焼成工程S13においては、イットリウム化合物含有ゲル膜を加熱して焼成することにより、イットリウム酸化物膜を形成する。
この焼成工程S13における加熱条件は、大気もしくは酸素雰囲気、加熱温度を400℃以上1000℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間を0.5分以上10分以下の範囲内、とすることが好ましい。
なお、イットリウム化合物含有ゾルゲル液塗布工程S11と乾燥工程S12とを繰り返し実施する場合には、毎回の乾燥工程S12後に焼成工程S13を行ってもよい。
【0038】
上述の各工程により、基材の表面に、本実施形態であるイットリウム酸化物膜が製造されることになる。
【0039】
以上のような構成とされた本実施形態であるイットリウム化合物含有ゾルゲル液によれば、含まれるイットリウム化合物のイットリウムをYに換算したY換算含有量が1mass%以上20mass%以下の範囲内とされており、比較的多くのイットリウム化合物を含有しており、焼成時における膜の収縮による割れの発生を抑制することができる。
そして、溶媒としてアルコールを用いており、含まれる水分量が2.00mass%以下に制限されるとともに、安定化剤として作用する炭素数が6以下の低級アミノアルコールが安定化剤を含有しているので、ゾルゲル液中においてイットリウムが電離することを抑制でき、高密度で結晶性の高いイットリウム酸化物膜を成膜することができる。
【0040】
また、本実施形態であるイットリウム化合物含有ゾルゲル液において、溶媒となるアルコールは、炭素数が5以下の低級アルコールとされている場合には、乾燥工程S12において、溶媒であるアルコールを比較的容易に揮発させることができ、さらに密度の高いイットリウム酸化物膜を成膜することが可能となる。
【0041】
本実施形態であるイットリウム酸化物膜の製造方法によれば、本実施形態であるイットリウム化合物含有ゾルゲル液を塗布する塗布工程S11と、塗布されたイットリウム化合物含有ゾルゲル液を乾燥してイットリウム化合物含有ゲル膜を形成する乾燥工程S12と、イットリウム化合物含有ゲル膜を焼成する焼成工程S13と、を備えているので、焼成時における膜の収縮による割れの発生を抑制できるとともに、高密度で結晶性の高いイットリウム酸化物膜を成膜することができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例0043】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0044】
イットリウム含有化合物、溶媒(アルコール)、低級アミノアルコールとして、表1,2に示すものを準備し、表1,2に示す割合で混合した。なお、本発明例14,15及び比較例1,6-11においては水を加えた。
そして、混合物に対して表1,2に示すように、本発明例1-6,8-16及び比較例1,4-11においては、脱水処理を実施した。
【0045】
本発明例および比較例のイットリウム含有ゾルゲル液、および、これらのイットリウム含有ゾルゲル液を用いて成膜したイットリウム酸化物膜について、以下の項目について評価した。評価結果を表3,4に示す。
【0046】
(イットリウム含有ゾルゲル液の水分量)
水分量は、イットリウム含有ゾルゲル液から試料を採取し、採取した試料の質量を測り、試料中の水分量をカールフィッシャー水分計(HIRANUMA社製AQ-2000)により測定して算出した。上記の水分計では、水分量はカールフィッシャー法における電量滴定法を用いて測定される。電量滴定法とは、滴定セルに用化物イオン・二酸化硫黄・アルコールを主成分とする電解液(カールフィッシャー試薬)が、メタノールの存在下で水と特異的に反応することを利用してイットリウム含有ゾルゲル液中の水分が定量される。評価結果を表3,4に示す。
【0047】
(イットリウム含有ゾルゲル液における沈殿物の有無)
イットリウム含有ゾルゲル液を作製してから1ヶ月間室温で保存した後に1mlのイットリウム含有ゾルゲル液中のパーティクル数をレーザパーティクルカウンタ(RION社製、KS-42B)で測定し、粒径0.5μm以上のパーティクル数が50個以下であったときを「良」とし、50個を超えたときを「不良」とした。
【0048】
(イットリウム酸化物膜の割れ)
膜外観については、基材としてφ100mmのSi製ウェーハを用い、液状組成物をスピンコーター(MIKASA社製スピンコーターMS-B150)にて回転数2,000RPMで塗布後に、マッフル炉にて700℃, 5minの焼成を実施したサンプルに対して、光学顕微鏡(オリンパス社製DSX500)による倍率100倍(視野サイズ:1,000μm×1,000μm)の像をサンプル中央付近でランダムに五カ所撮影し、長さ10μm以上のクラックの数が1つ以上のサンプルを不良とした。
【0049】
(イットリウム酸化物膜の結晶性)
結晶性については、基材として任意のサイズのSi製ウェーハを用い、液状組成物をスピンコーター(MIKASA社製スピンコーターMS-B150)にて回転数2,000RPMで塗布後に、マッフル炉にて700℃, 5minの焼成を実施したサンプルに対して、X線回折装置(リガク社製全自動多目的X線回折装置SmartLab)における集中法による測定を10°~90°の範囲で実施し、Y結晶のピークの有無を調べ、ピークがある場合に結晶性があると判定した。
【0050】
(イットリウム酸化物膜の密度比)
膜密度比については、基材として任意のサイズのSi製ウェーハを用い、液状組成物をスピンコーター(MIKASA社製スピンコーターMS-B150) にて回転数2,000RPMで塗布後に、マッフル炉にて700℃, 5minの焼成を実施したサンプルに対して、X線回折装置(リガク社製全自動多目的X線回折装置SmartLab)におけるX線反射率法による測定によって得られた膜密度をY2O3の理論密度で除することによって得られた値を100倍することによって、百分率による膜密度比を得た。
膜密度比は高ければ高いほど良く(最大100%)、耐プラズマ性のために70%以上であることが好ましい。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
比較例1においては、配合時における水の含有量が多いために脱水処理を実施しても、イットリウム化合物含有ゾルゲル液における水分量が2.19mass%と多くなり、成膜したイットリウム酸化物膜の密度が66%と低くなり、膜の結晶性も低下した。
比較例2においては、脱水処理を実施なかったために、イットリウム化合物含有ゾルゲル液における水分量が2.55mass%と多くなり、成膜したイットリウム酸化物膜の密度が45%と低くなり、膜の結晶性も低下した。
比較例3においては、低級アミノアルコールを含有しておらず、イットリウム化合物を十分に溶解することができずに沈殿物が生成し、塗工することができなかった。
【0056】
比較例4においては、イットリウム化合物として酢酸イットリウム四水和物を用いており、イットリウム化合物含有ゾルゲル液におけるY換算含有量が21.0mass%と多く、一部のイットリウム化合物を溶解することができず沈殿物が生成し、塗工することができなかった。
比較例5においては、イットリウム化合物として酢酸イットリウム四水和物を用いており、イットリウム化合物含有ゾルゲル液におけるY換算含有量が0.8mass%と少なく、成膜したイットリウム酸化物膜に割れが発生した。
【0057】
比較例6においては、イットリウム化合物としてイットリウムイソプロポキシドを用いており、イットリウム化合物含有ゾルゲル液におけるY換算含有量が22.0mass%と多く、一部のイットリウム化合物を溶解することができず沈殿物が生成し、塗工することができなかった。
比較例7においては、イットリウム化合物としてイットリウムイソプロポキシドを用いており、イットリウム化合物含有ゾルゲル液におけるY換算含有量が0.9mass%と少なく、成膜したイットリウム酸化物膜に割れが発生した。
【0058】
比較例8においては、低級アミノアルコールとして1-アミノ2-プロパノールを用いており、イットリウム化合物含有ゾルゲル液における低級アミノアルコールの含有量が10mass%を超えているため、成膜したイットリウム酸化物膜の密度が64%と低くなった。
比較例9においては、低級アミノアルコールとして1-アミノ2-プロパノールを用いており、イットリウム化合物含有ゾルゲル液における低級アミノアルコールの含有量が1.00mass%未満であるため、イットリウム化合物を十分に溶解することができずに沈殿物が生成し、塗工することができなかった。
【0059】
比較例10においては、低級アミノアルコールとしてジエタノールアミンを用いており、イットリウム化合物含有ゾルゲル液における低級アミノアルコールの含有量が10mass%を超えているため、成膜したイットリウム酸化物膜の密度が64%と低くなった。
比較例11においては、低級アミノアルコールとしてジエタノールアミンを用いており、イットリウム化合物含有ゾルゲル液における低級アミノアルコールの含有量が1.00mass%未満であるため、イットリウム化合物を十分に溶解することができずに沈殿物が生成し、塗工することができなかった。
【0060】
これに対して、本発明例1-16においては、イットリウム化合物含有ゾルゲル液におけるY換算含有量が1mass%以上20mass%以下の範囲内、低級アミノアルコールの含有量が1mass%以上10mass%以下の範囲内、含まれる水分量が2.00mass%以下とされており、イットリウム化合物を十分に溶解することが可能となり沈殿物は発生せず、良好に塗工できた。また、焼成時における割れの発生を抑制でき、密度が高く結晶性の高い高品質なイットリウム酸化物膜を安定して成膜することが可能となった。
【0061】
以上のことから、本発明例によれば、イットリウム化合物をY換算で多く含み、かつ、ゾルゲル液中でのイットリウムの電離を抑制し、高密度で結晶性の高いイットリウム酸化物膜を成膜可能なイットリウム化合物含有ゾルゲル液、および、このイットリウム化合物含有ゾルゲル液を用いたイットリウム酸化物膜の製造方法を提供可能であることが確認された。
図1
図2