(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115126
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】CYP3Aの薬物代謝酵素において、被験物質の酵素誘導または酵素阻害を評価するための方法、およびそのキット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/26 20060101AFI20240819BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240819BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C12Q1/26
C12M1/34 A
C12M1/34 E
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020619
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】福原 裕司
(72)【発明者】
【氏名】小松 加代子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 倫
(72)【発明者】
【氏名】川上 幸治
(72)【発明者】
【氏名】角 将一
(72)【発明者】
【氏名】小林 稔秀
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB11
4B029BB16
4B029FA12
4B029FA13
4B063QA05
4B063QQ08
4B063QQ22
4B063QR02
4B063QR58
4B063QR77
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】CYP3Aの薬物代謝酵素において、被験物質の酵素誘導または酵素阻害を評価するための方法を提供する。
【解決手段】(1)IEC-6細胞を含む培地にビタミンD3を添加して所定の期間にわたり培養する工程1と、(2)前記所定の期間内に、前記工程1の培地に前記被験物質を添加して再び培養する工程2と、(3)前記所定の期間が経過した後、前記工程1から取得したIEC-6細胞と、前記工程2から取得したIEC-6細胞のそれぞれの前記薬物代謝酵素の活性を比較して、前記酵素誘導または前記酵素阻害を評価する工程3と、を包含する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CYP3Aの薬物代謝酵素において、被験物質の酵素誘導または酵素阻害を評価するための方法であって、
(1)IEC-6細胞を含む培地にビタミンD3を添加して所定の期間にわたり培養する工程1と、
(2)前記所定の期間内に、前記工程1の培地に前記被験物質を添加して再び培養する工程2と、
(3)前記工程1から取得したIEC-6細胞と、前記工程2から取得したIEC-6細胞のそれぞれの前記薬物代謝酵素の活性を比較して、前記酵素誘導または前記酵素阻害を評価する工程3と、
を包含する方法。
【請求項2】
前記酵素誘導を評価する場合、前記所定の期間は6日~21日であり、
前記酵素阻害を評価する場合、前記所定の期間は13日~21日であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程1の前に、IEC-6細胞を継代培養する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
CYP3Aの薬物代謝酵素において、被験物質の酵素誘導または酵素阻害を評価するためのキットであって、
(1)IEC-6細胞を含む培地にビタミンD3を添加して所定の期間にわたり培養する手段1、
(2)前記所定の期間内に、前記手段1の培地に前記被験物質を添加して再び培養する手段2と、
(3)前記所定の期間が経過した後に、前記手段1から取得したIEC-6細胞と、前記手段2から取得したIEC-6細胞のそれぞれの前記薬物代謝酵素の活性を比較して、前記酵素誘導または前記酵素阻害を評価する評価手段と、
を備えるキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCYP3Aの薬物代謝酵素において、被験物質の酵素誘導または酵素阻害を評価するための方法、およびそのキットに関する。なお、本願において、CYP3Aの薬物代謝酵素とは、薬物代謝酵素として機能しているCytochrome P4503Aをさす。
【背景技術】
【0002】
薬物代謝は、薬物や毒物などの生体外物質の代謝反応であり、体を守る重要な反応である一方、医薬品の副作用の発現にも関わることが知られている。薬物代謝を行う酵素は薬物代謝酵素といい、主に肝細胞または腸管上皮細胞内の小胞体に発現している。経口薬は摂取後に腸に到達することから、薬物間相互作用または食薬相互作用の評価においては、腸における薬物代謝酵素への影響を評価することが重要である。
【0003】
例えば、特許文献1は被験物質が薬物代謝酵素へ与える影響を評価するため、肝細胞の小胞体に発現するミクロソームが有する薬物代謝酵素Cytochrome P450(CYP)を用いた評価法を開示する。具体的には、由来の明らかな肝臓をホモジナイズして得られる破砕物を遠心分離等してCYPを取得し、被験物質の評価に用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1による手法では、ミクロソームを取り出す際に肝細胞を破砕してしまう。そのため酵素阻害の評価はできても酵素誘導の評価を行うことはできない。
【0006】
また、生体ではミクロソームは肝細胞や小腸上皮細胞の細胞膜の内側に存在する。ところが特許文献1の評価系では、細胞膜は既に破壊されているため被験物質がミクロソームへ直接作用することとなり、in vivoの試験系と比較してリスクを過剰に検出してしまうなど、被験物質の評価方法に関し更なる研究・開発を行う余地が残っていた。
【0007】
そこで、本発明は、CYP3Aの薬物代謝酵素において、被験物質の酵素誘導または酵素阻害を評価するための方法であって、in vivoへの外挿性がより高い評価方法、およびそのキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、意外にもラット小腸上皮由来細胞(IEC-6細胞)にビタミンD3を添加して培養することにより、CYP3Aの薬物代謝酵素における、被験物質の酵素誘導または酵素阻害を評価する方法、及びそのキットを見出した。本発明の特徴については、以下の通りである。
【0009】
[1]CYP3Aの薬物代謝酵素において、被験物質の酵素誘導または酵素阻害を評価するための方法であって、
(1)IEC-6細胞を含む培地にビタミンD3を添加して所定の期間にわたり培養する工程1と、
(2)前記所定の期間内に、前記工程1の培地に前記被験物質を添加して再び培養する工程2と、
(3)前記工程1から取得したIEC-6細胞と、前記工程2から取得したIEC-6細胞のそれぞれの前記薬物代謝酵素の活性を比較して、前記酵素誘導または前記酵素阻害を評価する工程3と、
を包含する方法。
【0010】
[2]前記酵素誘導を評価する場合は、前記所定の期間は6日~21日であり、
前記酵素阻害を評価する場合は、前記所定の期間は13日~21日であることを特徴とする、上記[1]に記載の方法。
【0011】
[3]前記工程1の前に、IEC-6細胞を継代培養する工程をさらに含む、上記[1]に記載の方法。
【0012】
[4]CYP3Aの薬物代謝酵素において、被験物質の酵素誘導または酵素阻害を評価するためのキットであって、
(1)IEC-6細胞を含む培地にビタミンD3を添加して所定の期間にわたり培養する手段1、
(2)前記所定の期間内に、前記手段1の培地に前記被験物質を添加して再び培養する手段2と、
(3)前記手段1から取得したIEC-6細胞と、前記手段2から取得したIEC-6細胞のそれぞれの前記薬物代謝酵素の活性を比較して、前記酵素誘導または前記酵素阻害を評価する評価手段と、
を備えるキット。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特許文献1の評価系の様に評価試験中に細胞を破砕することがないため、被験物質の酵素阻害の評価だけでなく、酵素誘導の評価を行うこともできる。また、細胞を破砕せずに酵素阻害の評価を行うため、in vivoへの外挿性がより高い方法を提供できる。また、本方法にて使用するキットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は本発明の方法を説明するフローチャートである。
【
図2】
図2はIEC-6細胞に関し、生残性の指標となるATP活性の経時的推移を示すグラフである。
【
図3】
図3(a)はIEC-6細胞の培養13日目の透過型電子顕微鏡像である。また、
図3(b)は、IEC-6細胞の培養27日目の透過型電子顕微鏡像である。
【
図4】
図4(a)は各種サプリメント添加後のIEC-6細胞におけるCYP3A活性の経時的推移を示す棒グラフである。また、
図4(b)はビタミンD3添加によるIEC-6細胞の薬物応答性に対する影響を示す棒グラフである。
図4(c)はビタミンD3添加によるIEC-6細胞のCYP3A遺伝子の発現変動をRT-PCRにより解析した結果を示す。
【
図5】
図5は、IEC-6細胞を用いて、被験物質のCYP3Aの酵素誘導を評価する用途に供することが可能であるかを検証したグラフである。
【
図6】
図6は、IEC-6細胞を用いて、被験物質のCYP3Aの酵素阻害を評価する用途に供することが可能であるかを検証したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の評価方法およびそのキットについて詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の一実施形態としての一例であり、これらの内容に特定されるものではない。
【0016】
本発明はCYP3Aの薬物代謝酵素において、被験物質の酵素誘導または酵素阻害を評価する。評価系の培地にはIEC-6細胞に1α,25-dihydroxyvitamin D3(ビタミンD3)を添加して培養を行う。
【0017】
CYP3Aは医薬品の50%以上の代謝に関与する薬物代謝酵素であり、小腸および肝臓に発現する酵素として知られる。また、CYP3Aはグレープフルーツジュース(GFJ)によって活性が阻害されること、ハイパーフォーリン(hyperforin)やリファンピシン(rifampicin)によって活性が誘導されることで知られる。
【0018】
被験物質とは、薬物間相互作用または食薬相互作用の評価試験において対象となる化学的物質、生物学的物質、またはその製剤を指す。酵素誘導とは被験物質によって組織の酵素の量または活性が増加することをいう。また、酵素阻害とは被験物質によって組織の酵素の量または活性が減少することをいう。
【0019】
ここで、本発明の評価方法について
図1のフローチャートを用いて簡単に説明する。操作を開始すると、ステップS1001でIEC-6細胞を含む培地にビタミンD3を添加して所定の期間にわたり培養を行う。
【0020】
次に、ステップS1002で、ステップS1001の培地に被験物質を添加して再び培養を行う。
【0021】
次に、ステップS1003で、ステップS1001から取得したIEC-6細胞と、ステップS1002で取得したIEC-6細胞のそれぞれのCYP3Aの薬物代謝酵素の活性を比較して、酵素誘導または酵素阻害の評価を行い、操作を終える。
【0022】
上述したステップS1001ないしS1003の操作は、ステップS1001に係る操作を行う手段1、ステップS1002に係る操作を行う手段2、ステップS1003に係る操作を行う手段3、を備えるキット、または評価システムを用いることにより操作を行う。
【0023】
本方法で用いる細胞は、ラット小腸由来の株化細胞で未分化な非腫瘍性細胞のIEC-6細胞である。IEC-6細胞は、免疫学的および形態学的に未分化なクリプト細胞に類似した接着性の細胞である。IEC-6細胞は培養中にリファンピシン(rifampicin)等のCYP誘導剤を添加することでCYP3A分子種のmRNAが誘導されることが知られている。しかし、IEC-6細胞のCYP3A分子種の活性は極めて少なく、リファンピシン等を添加しても活性は誘導されない。そのため、IEC-6細胞をそのまま培養して腸管上皮様の細胞に分化させても、CYP3Aの活性および薬物応答性は認められない。
【0024】
ところが、ステップS1001にて述べたようにIEC-6細胞を含む培地にビタミンD3を添加して所定の期間にわたり培養すると、CYP3Aは酵素活性および薬物応答性を示すようになることを本願発明者等は予期せず発見した。本発明は当該発見に基づいて構成される。
【0025】
IEC-6細胞の培養期間について、下限として、好ましくは、培養開始から3日以上培養したものを各種評価に用いる。より好ましくは、培養開始から4日以上培養したものを各種評価に用いる。上記の下限よりも短い培養期間の細胞を評価試験で用いると、細胞の分化が不十分となり試験に適さないためである。
【0026】
また、上限として、好ましくは、培養開始から4週間以内のものを各種評価に用いる。より好ましくは、培養開始から3週間以内のものを各種評価に用いる。上記の上限よりも長い期間培養を行った細胞を評価試験で用いると、細胞の活性が低下して評価試験中に細胞死する可能性があるためである。
【0027】
また、被験物質の酵素誘導を評価する場合は、下限として、好ましくは、培養開始から6日以上培養したものを酵素誘導の評価に用いる。より好ましくは、培養開始から7日以上培養したものを酵素誘導の評価に用いる。上記の下限よりも培養期間の短い細胞を酵素誘導の評価に用いると、十分なCYP3A活性を得られず試験に適さないためである。
【0028】
また、上限として、好ましくは培養開始から4週間以内のものを酵素誘導の評価に用いる。より好ましくは、培養開始から21日(3週間)以内のものを酵素誘導の評価に用いる。上記の上限よりも長い期間培養を行った細胞を評価試験で用いると、細胞の活性が低下して評価試験中に細胞死する可能性があるためである。
【0029】
また、IEC-6細胞を用いて被験物質の酵素阻害を評価する場合は、下限として、好ましくは、培養開始から13日以上培養したものを酵素阻害の評価に用いる。より好ましくは、培養開始から14日以上培養したものを酵素阻害の評価に用いる。CYP3A阻害試験では、CYP活性が十分に上昇した状態のIEC-6細胞を用いる必要があるためである。
【0030】
なお、IEC-6細胞を用いて被験物質の酵素阻害を評価する場合の上限に関しては酵素誘導を評価する場合と変わらない。すなわち、好ましくは培養開始から4週間以内のものを用いる。より好ましくは、培養開始から21日(3週間)以内のものを用いる。
【0031】
また、IEC-6細胞へのビタミンD3の添加時期は、好ましくは培養開始から3日目である。より好ましくは、培養開始から4日目である。上記の日数よりも若い細胞では細胞の分化が不十分となり試験に適さないためである。
【実施例0032】
(実施例1)
〈細胞・試薬・測定キット〉
細胞、試薬、測定キット等の調達に関し説明する。IEC-6細胞(American Type Culture Collection細胞株)は、住商ファーマインターナショナルより購入した。Dulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM)、ウシインシュリンは、Merck(Sigma-Aldrich)より購入した。ウシ胎児血清、0.25%のtrypsin-EDTAは、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社(Gibco)より購入した。1α,25-dihydroxyvitamin(ビタミンD3)は、Merck(Calbiochem)より購入した。adenosine 5’-monophosphate disodium salt(AMP)、guanosine 5’-monophosphate disodium salt hydrate(GMP)、cytidine 5’-monophosphate disodium salt(CMP)、uridine 5’-monophosphate disodium salt(UMP)およびinosine 5’-monophosphate disodium salt hydrate(IMP)は、Sigma-Aldrichより購入した。イソフラボン混合物は、富士フイルム和光純薬より購入した。RIF、イソプロピルアルコールおよびクロロホルムは、富士フイルム和光純薬より購入した。Hyperforin.DCHAは、Adipogen life sciencesより購入した。Dole(登録商標)グレープフルーツ100%(GFJ)は、雪印メグミルクより購入した。TRIzol reagent、Oligo(dT)12-18Primer、dNTP Mix、RNaseOUT Recombinant RNase Inhibitor、SuperScript III Reverse Transcriptase(DTTと5×First-Standard Bufferを含む)およびtaqman gene expression master mixは、Thermo Fisher Scientificより購入した。P450-Glo Assay Systemはプロメガより購入した。
【0033】
(実施例2)
〈培養液、サプリメントおよびCYP誘導剤の調製〉
次に、培養液、サプリメントおよびCYP誘導剤の調製方法に関し説明する。IEC-6細胞を培養する培養液はDMEM培地に非働化したウシ胎児血清(10%)と、ウシインシュリン(0.1U/mL)を添加したものを使用した。
【0034】
上述した様に、未分化なIEC-6細胞は、そのまま腸管上皮様の細胞へ分化しても、CYP3Aの活性および薬物応答性を示すことはないか、活性が極めて低い。そこで、本発明者等は後述するように比較試験を行い、どのようなサプリメントを添加することにより、CYP3Aの活性および薬物応答性を誘導することができるのか検討した。
【0035】
比較試験に用いられたサプリメントは、ビタミンD3、イソフラボン、およびヌクレオチドである。ビタミンD3は1mMの試薬をそのまま使用した。イソフラボンはDMSOで希釈し、10mMに調製した溶液を使用した。ヌクレオチドはCMP:UMP:AMP:IMP:GMP=143:14.3:14.3:14.3:14.3の比率となるように超純水で20mg/mLに調製したものを使用した。
【0036】
また、CYP誘導剤のリファンピシン(RIF)は、DMSOで溶解し、100mMに調製したものを使用した。St. john’s wortの有効成分であるハイパーフォーリン(hyperforin)はDMSOで希釈し、10mMに調製した溶液を使用した。サプリメントおよびCYP誘導剤は、いずれも用時調製で使用した。
【0037】
(実施例3)
〈IEC-6細胞の継代培養〉
IEC-6細胞の継代培養について説明する。凍結されたIEC-6細胞を37℃恒温水層にて急速に溶解し、細胞懸濁液の9倍量の培養液に添加した。室温にて800rpmで7分間遠心し、上清を捨て得られたペレットに培養液を5mL加え、再懸濁した。再遠心後、得られたペレットに培養液を10mL加えて懸濁し、その全量を、培養液10mLを入れた培養用フラスコ(コーニング、75cm2)に移して37℃、5%のCO2条件下で3日間培養した。3日後にフラスコ内の細胞がコンフルエントになっていないことを確認し、Phosphate buffered salts(PBS)洗浄後に0.25%のtrypsin-EDTA液で処理して細胞を剥離し、0.25%のtrypsin-EDTA液と同量の培養液を添加して室温、800rpmにて7分間遠心した。上清を捨て得られたペレットに培養液を5mL加えて再懸濁し、血球計算盤で細胞数をカウントした。細胞浮遊液中の濃度が8×105cells/mLとなるよう培養液を添加し、培養液を20mL入れた培養用フラスコに1mLずつ播種した。各実験にはpassage number16-20の細胞を使用した。
【0038】
(実施例4)
〈96ウェルプレートでの培養〉
96ウェルプレートでのIEC-6細胞の培養について説明する。継代後3日目に培養用フラスコ内の細胞を0.25%のtrypsin-EDTA液で処理し、細胞数が4×104cells/mLとなるよう培養液で調製した。調製した細胞懸濁液を96ウェルプレート(Falcon)の各ウェルに100μLずつ充填し、37℃、5%のCO2条件下で培養した。
【0039】
細胞を96ウェルプレートに播種した日をday0とし、3~4日おきに培養液を交換し、最大day21まで培養を継続してCYP活性測定、および生存細胞数の測定に用いた。
【0040】
(実施例5)
〈6ウェルプレートでの培養〉
6ウェルプレートでのIEC-6細胞の培養について説明する。継代後3日目に培養用フラスコ内の細胞を0.25%のtrypsin-EDTA液で処理し、細胞数が4×104cells/mLとなるよう培養液で調製した。調製した細胞懸濁液を6ウェルプレート(Falcon)の各ウェルに3mLずつ充填し、37℃、5%のCO2条件下で培養した。
【0041】
細胞を6ウェルプレートに播種した日をday0とし、3~4日おきに培養液を交換して最大day21まで培養を継続し、mRNA発現量の解析に用いた。
【0042】
(実施例6)
〈生存細胞数の測定〉
細胞を96ウェルプレートに採種した日を0日目(Day0)として、Day4、8、12、16、20および24に、Cell Titer-Glo Luminescent Cell Viability Assay Kit(プロメガ株式会社)を用いて各2ウェルずつ生存細胞数を測定した。測定は1回実施した(n=1)。Cell Titer-Gloは代謝活性を有する生存細胞に由来するATPを、ルシフェラーゼを利用することで定量するキットである。通常、培養条件下では、ATP量は生存細胞数に比例することが広く知られているため、細胞数の測定に本キットを使用した。
【0043】
(実施例7)
〈電子顕微鏡的検査〉
また、実施例6において生存細胞数を測定する際、細胞を96ウェルプレートに採種した日を0日目(Day0)として、Day13および27に電子顕微鏡的検査を行った。手順は以下の通りである。まず、培地を除去し、0.1Mカコジル酸緩衝液で洗浄した。次に、氷上にて0.1Mカコジル酸緩衝液2.5%のグルタールアルデヒド液で培地を30分間浸漬固定した。次に、0.1Mカコジル酸緩衝液で洗浄した後、氷上にて0.1Mカコジル酸緩衝液1%四酸化オスミウム液で30分間浸漬固定した。次に、定法に従ってエポン樹脂包埋し、超薄切片を作成し、1%酢酸ウランおよびクエン酸鉛による二重染色を行って透過型電子顕微鏡で観察した。
【0044】
実施例6の結果を
図2に、実施例7の透過型電子顕微鏡像を
図3に示す。
図2は、IEC-6細胞に関し、生残性の指標となるATP活性の経時的推移を示すグラフである。縦軸は発光量(RLU)を用いてATP活性を示し、横軸がサンプリングの日数を示す。
図2から、IEC-6細胞は培養開始から4日には既にATP活性を示し始め、20日(培養開始から約3週間)をピークとしてATPの値が低下に転じることが明らかになった。また、24日目においても、ATPの値が低下するものの各種評価試験に供することは可能である。
【0045】
また、
図3の電子顕微鏡を用いた細胞の観察では、培養13日目にはCYPの発現部位である滑面小胞体(
図3aの白矢印が指し示す部分)が豊富に観察されたが、培養開始から27日目(培養開始から約4週間)には滑面小胞体の存在は不明瞭となり、オルガネラ(細胞内小器官)の残渣と考えられる構造物(
図3bの黒矢印が指し示す部分)が観察された。なお、
図3bのダイヤマークはミトコンドリアを示す。これらのデータから、培養開始から約4週間を過ぎると細胞の各種活性は低下し、細胞死に至ることが推察された。
【0046】
以上のことから、IEC-6細胞の培養期間に関し、下限として、好ましくは、培養開始から3日以上培養したもの、より好ましくは、培養開始から4日以上培養したものを各種評価に用いることが望ましいことが明らかとなった。
【0047】
また、上限として、好ましくは、培養開始から4週間以内のもの、より好ましくは、培養開始から3週間以内のものを各種評価に用いることが望ましいことが明らかとなった。
【0048】
(実施例8)
〈サプリメントの添加〉
96ウェルプレートおよび6ウェルプレートに播種したIEC-6細胞を、day4以降の培地交換時はサプリメント添加培養液を用いて材料採取日まで培養した。各サプリメントの培養液中の濃度は、ビタミンD3は250nM、ヌクレオチドは100μg/mL(CMP:UMP:AMP:IMP:GMP=143:14.3:14.3:14.3:14.3)、イソフラボンは100μMとなるように調製した。
【0049】
(実施例9)
〈CYP誘導剤の処置〉
RIFの濃度が100μMとなるように培養液で希釈し、材料採取日(day7、14および21)の前日に培地交換を行った。また、対照となる細胞は、CYP誘導剤と同じ容量のDMSOを含む培養液を用いて、材料採取日の前日に培地交換を行った。
【0050】
(実施例10)
〈総RNAの抽出とcDNAの合成〉
CYP誘導剤処置から約24時間経過後、各ウェルをPBSで2回洗浄し、洗浄液を除去した後にTRIzolを1mL加えて細胞を溶解して、1.7mLチューブに移して室温で5分間インキュベートした。クロロホルムを0.2mL加え、チューブを15秒間強く振って混合した後、室温で2-3分間インキュベートした。4℃で15分間、12,000gで遠心し、RNAが溶解する上部の水層(約0.6mL)を新しいチューブに移した後、イソプロピルアルコールを0.5mL加えて転倒混和し、室温で10分間インキュベートした。その後、4℃で10分間、12,000gで遠心し、上清を除去した後に残るRNAペレットを75%エタノールで1回洗浄した。チューブに75%エタノールを1mL加えてボルテックス処理し、4℃で5分間、7,500gで遠心した。上清を除去してRNAペレットを乾かし、20μLのRNase free水を加えて溶解したものをTotalのRNA溶液とした。抽出したRNAは分光光度計(Beckman Coulter DU800、ベックマンコールター株式会社)を用いて濃度と純度の確認を行った。次に、cDNAを合成するため、PCRチューブにoligo(dT)12-18(1μL)、10mMのdNTP Mix(1μL)、およびRNA量が3μgとなるようにRNA溶液と注射用水を合わせて13μL加え、65℃で5分間加熱し、氷上で1分間以上インキュベートした。チューブ内に0.1MのDTT(1μL)、RNaseOUT Recombinant RNase Inhibitor(1μL)、SuperScript III RT(1μL)および5×First-Standard Buffer(4μL)を加え、サーマルサイクラー(i Cycler、日本バイオ・ラッドラボラトリーズ)にて逆転写(50℃で45分間、70℃で15分間)し、cDNA溶液としてPCR反応を行うまで-20℃で保管した。
【0051】
(実施例10)
〈RT-PCR反応〉
プライマーはThermo Fisher Scientificよりtaqman gene expression assaysを購入した。mRNAの発現はtaqman gene expression master mixを用いて、ABI 7500リアルタイムPCRシステム(Life technologies)により測定した。CYP3A9を標的遺伝子とし、mRNAの発現はβ-actinを内在性コントロールとして補正し、比較定量法(ΔΔCt法)によりDMSO処置細胞に対するCYP誘導剤処置細胞の発現量の変化を解析した。
【0052】
(実施例11)
〈CYP活性の測定〉
CYP活性はプロメガより購入したP450-Glo Assay Systemを用いて測定した。まず、96ウェルプレート中の培養液を除去し、CYP誘導剤およびDMSOを添加していない培養液で1回洗浄した。次に、3mMのLuciferin-IPAを基質としDMEMで希釈して基質の終濃度を3μMとした基質溶液を50μLずつ添加し、37℃で4時間インキュベートした。発光試薬を50μL加え、細胞を融解させるためにシェーカーで2分間撹拌し、室温で20分間インキュベートした。ルミノメーターを用いて得られた発光量(Relative Light Unit; RLU)をCYP代謝物濃度の代替値として解析を行った。
【0053】
(実施例12)
〈食品または食品由来成分を用いたCYP3A誘導および阻害試験〉
ビタミンD3添加培地で培養したIEC-6細胞にハイパーフォーリンまたはGFJを処置した際のCYP3A活性の変動を解析した。ハイパーフォーリンは最終濃度が3.33μMとなるように培養液で調製したものを最高濃度として、公比3で合計5段階の濃度に段階希釈した。各濃度のハイパーフォーリンを含む培養液を用いてIEC-6細胞を48時間培養後、day21に測定を実施した。GFJは培養液で10倍希釈したものを最高濃度として、公比3で合計5段階の濃度に段階希釈した。各濃度のGFJを含む培養液を用いてIEC-6細胞を4時間培養後、day21に測定を実施した。CYP活性の測定は実施例11と同様に実施した。
【0054】
(実施例13)
〈データ解析〉
対照との比較対象が1群である場合はStudentのt検定、2群以上の場合はDunnett法を実施した(有意水準5%)。統計処理は、Easy Rを用いて行った。
【0055】
実施例8~13の結果を、
図4~6に示す。まず、
図4(a)は各種サプリメント添加後のIEC-6細胞におけるCYP3A活性の経時的推移を示す棒グラフである。縦軸は発光量(RLU)を用いてCYP3Aの薬物代謝酵素の活性を示し、横軸がサンプリングの日数を示す。データは各条件で培養した細胞(n=3)から得られた数値の平均値±標準偏差で示している。棒グラフのヒゲは発光量の最大値を示す。
【0056】
CYP3A活性は、サプリメント非添加の細胞、ヌクレオチドを添加した細胞、およびイソフラボンを添加した細胞ではいずれの解析時点においても検出限界値以下であった。一方、ビタミンD3を添加した細胞では、全ての解析時点で活性が検出され、さらに経時的な活性の増加が認められた。
【0057】
また、本発明者等はCYP3A以外にも、CYP1AおよびCYP2Bの活性についても比較試験を行ったが、ビタミンD3を添加して活性の増加が認められた薬物代謝酵素はCYP3Aだけであった(データ非開示)。このため、ビタミンD3のサプリメントは、薬物代謝酵素の中でもCYP3Aの活性に対してのみ特異的に作用することが明らかとなった。
【0058】
また、
図4(c)は、ビタミンD3添加によるIEC-6細胞のCYP3A9遺伝子の発現変動をRT-PCRにより解析した結果を示す。縦軸はmRNAの相対発現量(ΔΔCt)を示し、横軸はサンプリングの日数を示す。棒グラフのヒゲは相対発現量の最大値を示す。データは各条件で培養した細胞(n=3)から得られた数値の平均値±標準偏差で示している。*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【0059】
図4(c)から、サプリメント非添加細胞と比べて、ビタミンD3添加細胞では解析時点でのCYP3Aの薬物代謝酵素の有意な発現増加が遺伝子レベルで確認できた。
【0060】
また、
図4(b)は、ビタミンD3添加によるIEC-6細胞の薬物応答性に対する影響を示す棒グラフである。縦軸は発光量(RLU)を用いてCYP3Aの薬物代謝酵素の活性を示し、横軸がサンプリングの日数を示す。データは各条件で培養した細胞(n=3)から得られた数値の平均値±標準偏差で示している。#はp<0.05を示し、***はp<0.001を示す。DMSO処置細胞とCYP3A誘導剤処置細胞の間の有意差は、Dunnet検定によって検定した。
【0061】
ビタミンD3を添加したIEC-6細胞にCYP3A誘導剤のRIF処置し、対照(DMSO処置)と比較してCYP3A活性が誘導されるか否か確認をした結果、CYP3A活性はビタミンD3非添加の細胞ではいずれの誘導剤を処置しても誘導は認められなかったが(データ非開示)、ビタミンD3を添加した細胞では、全ての解析時点でRIF処置によるCYP3A活性の有意な増加が認められ、Day21において最も強い誘導が認められた。
【0062】
図4(b)から、ビタミンD3を添加したIEC-6細胞はCYP3A誘導剤に対し薬物応答性を有することが確認できた。また、IEC-6細胞の培養開始4日目からビタミンD3を添加して培養を行うと、培養開始7日目(ビタミンD3添加後4日目)からCYP3A活性は上昇し、CYP3A誘導剤のRIFによる誘導作用も検出された。
【0063】
このため、IEC-6細胞を用いて被験物質の酵素誘導を評価する場合は、下限として、好ましくは、培養開始から6日以上、より好ましくは、培養開始から7日以上培養したものを酵素誘導の評価に用いるのが望ましい。
【0064】
また、上限として、好ましくは培養開始から4週間以内、より好ましくは、培養開始から21日(3週間)以内のものを酵素誘導の評価に用いるのが望ましい。
【0065】
さらに、IEC-6細胞を用いて被験物質の酵素阻害を評価する場合は、下限として、好ましくは、培養開始から13日以上、より好ましくは、培養開始から14日以上培養したものを酵素阻害の評価に用いるのが望ましい。
【0066】
なお、IEC-6細胞を用いて被験物質の酵素阻害を評価する場合の上限に関しては酵素誘導を評価する場合と変わらない。
【0067】
次に、
図5および
図6は、IEC-6細胞を用いて、被験物質のCYP3Aの酵素誘導および酵素阻害を評価する用途に供することが可能であるかを検証したグラフである。
図5および
図6は、ビタミンD3添加条件下で培養したIEC-6細胞に対し、ハイパーフォーリン(
図5)、グレープフルーツジュース(GFJ)を処置した時のCYP3A活性の誘導または阻害を評価したグラフである。CYP誘導試験のデータ(
図5)は、DMSO、ハイパーフォーリン、またはRIFを処置した細胞(n=3)から得られた数値の平均値±標準偏差を示したものである。縦軸は発光量、横軸は処置した被験物質の濃度をそれぞれ示す。さらにCYP阻害試験のデータ(
図6)は、GFJを処置した細胞(n=3)から得られた数値の平均値±標準偏差を示したものである。縦軸は発光量、横軸は処置したGFJの濃度をそれぞれ示す。
【0068】
図5および
図6のいずれの結果からも、用量依存的なCYP3A活性の誘導および阻害がそれぞれ確認できた。よって、本方法が被験物質に関するCYP3Aの薬物代謝酵素の酵素誘導または酵素阻害を評価するための方法として適切であることが確認できた。また、本方法に基づくアッセイのキットとしても利用可能であることが確認できた。