(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115137
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】機械式時計
(51)【国際特許分類】
G04C 11/08 20060101AFI20240819BHJP
G04B 17/00 20060101ALI20240819BHJP
G04C 3/04 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
G04C11/08
G04B17/00 B
G04C3/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020643
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白井 琢矢
(72)【発明者】
【氏名】田京 祐
(72)【発明者】
【氏名】仁井田 優作
(57)【要約】
【課題】歩度調整の精度を向上する機械式時計1を提供する。
【解決手段】機械式時計1は、永久磁石40と、コイル43と、回転検出回路45と、複数の制動ランクそれぞれに対応する複数の制動力のうち現在設定されている制動ランクに対応する制動力を作用させる歩度調整手段40と、を含み、歩度調整手段40は、制動ランクを制御する制御回路44を含み、制御回路44は、所定の基準タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングに応じて、制動ランクを切り替え可能に構成されており、回転検出回路45による前回の検出信号DEの検出時と今回の検出信号DEの検出時とで、基準タイミングに対する検出タイミングの進み又は遅れのいずれか一方が連続する場合よりも、基準タイミングに対する検出タイミングの進み又は遅れが異なる場合の方が、制動ランクの変動幅が大きくなるよう制動ランクを制御する。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源と、
前記動力源からの動力により駆動するテン輪と、前記テン輪を正逆回転運動させるように弾性変形するヒゲゼンマイと、を含む調速機構と、
前記テン輪の正逆回転運動に伴い正逆回転運動する、二磁極化された永久磁石と、
コイルと、
前記テン輪の正方向運動及び逆方向運動に伴う前記永久磁石の運動により前記コイルに生じる検出電圧に基づいて検出信号を検出する回転検出回路と、
前記永久磁石を制動する、複数の制動ランクそれぞれに対応する複数の制動力のうち現在設定されている制動ランクに対応する制動力を作用させる歩度調整手段と、
を含み、
前記歩度調整手段は、前記制動ランクを制御する制御回路を含み、
前記制御回路は、
基準信号源の基準信号の出力タイミングに応じた所定の基準タイミングに対する前記検出信号の検出タイミングに応じて、前記制動ランクを切り替え可能に構成されており、
前記回転検出回路による前回の前記検出信号の検出時と今回の前記検出信号の検出時とで、前記基準タイミングに対する前記検出タイミングの進み又は遅れのいずれか一方が連続する場合よりも、前記基準タイミングに対する前記検出タイミングの進み又は遅れが異なる場合の方が、前記制動ランクの変動幅が大きくなるよう前記制動ランクを制御する、
機械式時計。
【請求項2】
前記制御回路は、前記基準タイミングに対する前記検出タイミングに応じて、高制動モードと低制動モードとで制動モードを切り替え可能に構成されており、
前記高制動モードにおける現在の制動ランクは、前記低制動モードにおける現在の制動ランクよりも高い制動ランクに設定されている、
請求項1に記載の機械式時計。
【請求項3】
前記歩度調整手段は、前記コイルの端子を短絡させることで前記永久磁石を制動する制動力を作用させる制動回路を含む、
請求項2に記載の機械式時計。
【請求項4】
前記制動回路は、
前記回転検出回路による今回の前記検出信号の検出時において、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが進んでいる場合、前記高制動モードにおける現在の制動ランクに対応する制動力を作用させ、
前記回転検出回路による今回の前記検出信号の検出時において、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが遅れている場合、前記低制動モードにおける現在の制動ランクに対応する制動力を作用させる、
請求項3に記載の機械式時計。
【請求項5】
前記制御回路は、前記基準タイミングに対する前回の前記検出信号の検出タイミングに基づいて、前記高制動モード及び低制動モードにおける現在の制動ランクを設定する、
請求項4に記載の機械式時計。
【請求項6】
前記制御回路は、
前記回転検出回路による今回の前記検出信号の検出時において、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが進んでいる場合であって、前記回転検出回路による前回の前記検出信号の検出時において、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが遅れている場合、
前記低制動モードから前記高制動モードに切り替える、
請求項2に記載の機械式時計。
【請求項7】
前記制御回路は、前記低制動モードから前記高制動モードに切り替えると共に、前記低制動モードにおける現在の制動ランクを上げる、
請求項6に記載の機械式時計。
【請求項8】
前記制御回路は、
前記低制動モードにおける現在の制動ランクを上げた場合、制動ランクが上げられた後の前記低制動モードにおける現在の制動ランクが、前記高制動モードの現在の制動ランクと異なる場合、
前記低制動モードから前記高制動モードに切り替えると共に、前記低制動モードにおける現在の制動ランクを上げ、
前記低制動モードにおける現在の制動ランクを上げた場合、制動ランクが上げられた後の前記低制動モードにおける現在の制動ランクが、前記高制動モードの現在の制動ランクと同じになる場合、
前記低制動モードから前記高制動モードに切り替えると共に、前記低制動モードにおける制動ランクを維持させる、
請求項6に記載の機械式時計。
【請求項9】
前記制御回路は、
前記回転検出回路による今回の前記検出信号の検出時において、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが進んでいる場合であって、前記回転検出回路による前回の前記検出信号の検出時において、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが進んでいる場合、
前記高制動モードにおける現在の制動ランクを上げる、
請求項2に記載の機械式時計。
【請求項10】
前記制御回路は、
前記回転検出回路による今回の前記検出信号の検出時において、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが遅れている場合であって、前記回転検出回路による前回の前記検出信号の検出時において、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが進んでいる場合、
前記高制動モードから前記低制動モードに切り替える、
請求項2に記載の機械式時計。
【請求項11】
前記制御回路は、前記高制動モードから前記低制動モードに切り替えると共に、前記高制動モードにおける現在の制動ランクを下げる、
請求項10に記載の機械式時計。
【請求項12】
前記制御回路は、
前記高制動モードにおける現在の制動ランクを下げた場合、制動ランクが下げられた後の前記高制動モードにおける現在の制動ランクが、前記低制動モードの現在の制動ランクと異なる場合、
前記高制動モードから前記低制動モードに切り替えると共に、前記高制動モードにおける制動ランク下げ、
前記高制動モードにおける現在の制動ランクを下げた場合、制動ランクが下げられた後の前記高制動モードにおける現在の制動ランクが、前記低制動モードの現在の制動ランクと同じになる場合、
前記高制動モードから前記低制動モードに切り替えると共に、前記高制動モードにおける制動ランクを維持させる、
請求項10に記載の機械式時計。
【請求項13】
前記制御回路は、
前記回転検出回路による今回の前記検出信号の検出時において、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが遅れている場合であって、前記回転検出回路による前回の前記検出信号の検出時において、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが遅れている場合、
前記低制動モードにおける現在の制動ランクを下げる、
請求項2に記載の機械式時計。
【請求項14】
前記制御回路は、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが進んでいる状態が所定回数連続する場合、又は前記出力タイミングに対して前記検出タイミングが遅れている状態が所定回数連続する場合、当該期間において前記制動ランクを維持した後、前記出力タイミングに対する今回の前記検出信号の検出タイミングに基づいて前記制動ランクを設定する、
請求項2に記載の機械式時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械式時計に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2には、電磁的な制動力により時計の歩度の調整を行う技術が開示されている。このような技術により経時的に蓄積される歩度ズレを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-38206号公報
【特許文献2】特開平11-166980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、時計の姿勢の変化や外部からの衝撃があった場合において、短時間で歩度が大きくズレてしまうことがある。このような場合においても、歩度ズレの調整を迅速かつ精度良く行う要請がある。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてされたものであって、その目的は、歩度調整の精度を向上する機械式時計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)動力源と、前記動力源からの動力により駆動するテン輪と、前記テン輪を正逆回転運動させるように弾性変形するヒゲゼンマイと、を含む調速機構と、前記テン輪の正逆回転運動に伴い正逆回転運動する、二磁極化された永久磁石と、コイルと、前記テン輪の正方向運動及び逆方向運動に伴う前記永久磁石の運動により前記コイルに生じる検出電圧に基づいて検出信号を検出する回転検出回路と、前記永久磁石を制動する、複数の制動ランクそれぞれに対応する複数の制動力のうち現在設定されている制動ランクに対応する制動力を作用させる歩度調整手段と、を含み、前記歩度調整手段は、前記制動ランクを制御する制御回路を含み、前記制御回路は、基準信号源の基準信号の出力タイミングに応じた所定の基準タイミングに対する前記検出信号の検出タイミングに応じて、前記制動ランクを切り替え可能に構成されており、前記回転検出回路による前回の前記検出信号の検出時と今回の前記検出信号の検出時とで、前記基準タイミングに対する前記検出タイミングの進み又は遅れのいずれか一方が連続する場合よりも、前記基準タイミングに対する前記検出タイミングの進み又は遅れが異なる場合の方が、前記制動ランクの変動幅が大きくなるよう前記制動ランクを制御する、機械式時計。
【0007】
(2)(1)において、前記制御回路は、前記基準タイミングに対する前記検出タイミングに応じて、高制動モードと低制動モードとで制動モードを切り替え可能に構成されており、前記高制動モードにおける現在の制動ランクは、前記低制動モードにおける現在の制動ランクよりも高い制動ランクに設定されている、機械式時計。
【0008】
(3)(2)において、前記歩度調整手段は、前記コイルの端子を短絡させることで前記永久磁石を制動する制動力を作用させる制動回路を含む、機械式時計。
【0009】
(4)(3)において、前記制動回路は、前記回転検出回路による今回の前記検出信号の検出時において、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが進んでいる場合、前記高制動モードにおける現在の制動ランクに対応する制動力を作用させ、前記回転検出回路による今回の前記検出信号の検出時において、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが遅れている場合、前記低制動モードにおける現在の制動ランクに対応する制動力を作用させる、機械式時計。
【0010】
(5)(3)または(4)において、前記制御回路は、前記基準タイミングに対する前回の前記検出信号の検出タイミングに基づいて、前記高制動モード及び低制動モードにおける現在の制動ランクを設定する、機械式時計。
【0011】
(6)(2)~(5)のいずれかにおいて、前記制御回路は、前記回転検出回路による今回の前記検出信号の検出時において、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが進んでいる場合であって、前記回転検出回路による前回の前記検出信号の検出時において、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが遅れている場合、前記低制動モードから前記高制動モードに切り替える、機械式時計。
【0012】
(7)(6)において、前記制御回路は、前記低制動モードから前記高制動モードに切り替えると共に、前記低制動モードにおける現在の制動ランクを上げる、機械式時計。
【0013】
(8)(6)または(7)において、前記制御回路は、前記低制動モードにおける現在の制動ランクを上げた場合、制動ランクが上げられた後の前記低制動モードにおける現在の制動ランクが、前記高制動モードの現在の制動ランクと異なる場合、前記低制動モードから前記高制動モードに切り替えると共に、前記低制動モードにおける現在の制動ランクを上げ、前記低制動モードにおける現在の制動ランクを上げた場合、制動ランクが上げられた後の前記低制動モードにおける現在の制動ランクが、前記高制動モードの現在の制動ランクと同じになる場合、前記低制動モードから前記高制動モードに切り替えると共に、前記低制動モードにおける制動ランクを維持させる、機械式時計。
【0014】
(9)(2)~(8)のいずれかにおいて、前記制御回路は、前記回転検出回路による今回の前記検出信号の検出時において、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが進んでいる場合であって、前記回転検出回路による前回の前記検出信号の検出時において、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが進んでいる場合、前記高制動モードにおける現在の制動ランクを上げる、機械式時計。
【0015】
(10)(2)~(9)のいずれかにおいて、前記制御回路は、前記回転検出回路による今回の前記検出信号の検出時において、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが遅れている場合であって、前記回転検出回路による前回の前記検出信号の検出時において、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが進んでいる場合、前記高制動モードから前記低制動モードに切り替える、機械式時計。
【0016】
(11)(10)において、前記制御回路は、前記高制動モードから前記低制動モードに切り替えると共に、前記高制動モードにおける現在の制動ランクを下げる、機械式時計。
【0017】
(12)(10)又は(11)において、前記制御回路は、前記高制動モードにおける現在の制動ランクを下げた場合、制動ランクが下げられた後の前記高制動モードにおける現在の制動ランクが、前記低制動モードの現在の制動ランクと異なる場合、前記高制動モードから前記低制動モードに切り替えると共に、前記高制動モードにおける制動ランク下げ、前記高制動モードにおける現在の制動ランクを下げた場合、制動ランクが下げられた後の前記高制動モードにおける現在の制動ランクが、前記低制動モードの現在の制動ランクと同じになる場合、前記高制動モードから前記低制動モードに切り替えると共に、前記高制動モードにおける制動ランクを維持させる、機械式時計。
【0018】
(13)(2)~(12)のいずれかにおいて、前記制御回路は、前記回転検出回路による今回の前記検出信号の検出時において、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが遅れている場合であって、前記回転検出回路による前回の前記検出信号の検出時において、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが遅れている場合、前記低制動モードにおける現在の制動ランクを下げる、機械式時計。
【0019】
(14)(2)~(13)のいずれかにおいて、前記制御回路は、前記基準タイミングに対して前記検出タイミングが進んでいる状態が所定回数連続する場合、又は前記出力タイミングに対して前記検出タイミングが遅れている状態が所定回数連続する場合、当該期間において前記制動ランクを維持した後、前記出力タイミングに対する今回の前記検出信号の検出タイミングに基づいて前記制動ランクを設定する、機械式時計。
【発明の効果】
【0020】
上記本発明の(1)~(14)の側面によれば、歩度調整の精度を向上する機械式時計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態の地板及びそれに組み込まれる各部材を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態における動力を伝達する機構及びその周辺を示す斜視図である。
【
図3】本実施形態における調速機構及びその周辺の部材を地板から分解した様子を示す分解斜視図である。
【
図4】本実施形態の軟磁性コアとその周辺を示す平面図、及びその一部を拡大して示す拡大平面図である。
【
図5】本実施形態に係る機械式時計の全体構成を示すブロック図である。
【
図6】本実施形態におけるテン輪の動作と、コイルに生じる逆起電圧との関係を説明する図である。
【
図7】機械式時計が有する回路の一例を示す回路図である。
【
図8】制動制御の一例を示すタイミングチャートである。
【
図9】本実施形態における各制動ランクにおける電磁ブレーキの作用期間の一例を示す図である。
【
図10】本実施形態における制動ランクの推移の一例を示す図である。
【
図11】本実施形態における制動ランクの推移の一例を示す図である。
【
図12】本実施形態における制動制御の一例を示すフローチャートである。
【
図13】本実施形態の変形例における制動ランクの推移の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態(以下、本実施形態という)について図面に基づき詳細に説明する。
【0023】
[全体構成の概要]
まず、
図1~
図5を参照して、本実施形態に係る機械式時計1の全体構成の概要について説明する。
図1は、本実施形態の地板及びそれに組み込まれる各部材を示す斜視図である。
図2は、本実施形態における動力を伝達する機構及びその周辺を示す斜視図である。
図3は、本実施形態における調速機構及びその周辺の部材を地板から分解した様子を示す分解斜視図である。
図4は、本実施形態の軟磁性コアとその周辺を示す平面図、及びその一部を拡大して示す拡大平面図である。
図5は、本実施形態に係る機械式時計の全体構成を示すブロック図である。なお、
図1~
図3は、機械式時計1の裏側から見た様子を示している。なお、裏側とは、機械式時計1の厚み方向のうち外装ケースの裏蓋が配置される側である。
【0024】
機械式時計1は、動力ゼンマイ11を動力源とし、脱進機構20及び調速機構30によって動力ゼンマイ11の動きを制御すると共に、指針を駆動させる時計である。機械式時計1は、指針を駆動する各機構が組み込まれる地板10を外装ケースに収容して成る。なお、本実施形態においては外装ケースの図示は省略する。また、外装ケースの側面に配置される竜頭の図示も省略する。竜頭は、
図1に示す巻き真2の端部に取り付けられている。
【0025】
[全体構成の概要:駆動機構の構成]
機械式時計1が備える駆動機構の概要について説明する。本実施形態において、動力源である動力ゼンマイ11、輪列12、指針軸13を含む機構を「駆動機構」と称する。なお、
図2においては、指針のうち秒針131のみを図示している。
図2に示す駆動機構は一例であり、これに限られるものではなく、図示する歯車以外の歯車等を備えていてもよい。
【0026】
動力ゼンマイ11は、金属製の帯状体からなり、外周に複数の歯が形成される香箱110に収容されている。香箱110は、円盤形状であって、動力ゼンマイ11を収容する空洞が内部に形成されている。動力ゼンマイ11は、その内端が香箱110の中心に設けられる回転軸である香箱真(不図示)に固定されており、その外端が香箱110の内側面に固定されている。ユーザの操作により竜頭が回転させられると、巻き真2が回転する。巻き真2の回転に伴って、動力ゼンマイ11が巻き上げられる。巻き上げられた動力ゼンマイ11は、その弾性力によりほどかれる。この際の動力ゼンマイ11の動作に伴って香箱110が回転することとなる。
【0027】
輪列12は、少なくとも、二番車122、三番車123、四番車124を含む。二番車122は、一番車として機能する香箱110に形成される複数の歯に噛み合うカナと、回転軸と、複数の歯とを含み、香箱110の回転を三番車123に伝達する。二番車122の回転軸は、分針(不図示)の指針軸である。三番車123は、二番車122の複数の歯と噛み合うカナと、回転軸と、複数の歯とを含み、二番車122の回転を四番車124に伝達する。四番車124は、三番車123の複数の歯に噛み合うカナと、回転軸と、複数の歯とを含み、三番車123の回転を脱進機構20に伝達する。
図2に示すように、四番車124の回転軸は、秒針131の指針軸13である。
【0028】
[全体構成の概要:脱進機構20及び調速機構30の構成、並びにそれらの動作の概要]
次に、脱進機構20及び調速機構30について説明する。動力ゼンマイ11からの動力は、輪列12を通じて、脱進機構20及び調速機構30に伝達される。脱進機構20は、ガンギ車21と、アンクル22とを含んで構成される。調速機構30は、テン輪31と、ヒゲゼンマイ32とを含んで構成される。なお、調速機構30はテンプと呼ばれることもある。
【0029】
ガンギ車21は、アンクル22と噛み合うことでアンクル22から調速機構30の刻むリズムを受け取り、規則正しい往復運動に変換する部品である。ガンギ車21は、四番車124の複数の歯と噛み合うカナと、回転軸と、複数の歯を含む。
図2に示すように、ガンギ車21の複数の歯は、輪列12の各歯車の歯よりも周方向に間隔を広く空けて形成されている。
【0030】
アンクル22は、
図4に示すアンクル真221を回転軸として正逆回転運動を行う。アンクル22は、アンクル真221からテン輪31の中心(テン真311)に向けて延びており、テン真311と共に回転する振り石(不図示)に衝突する竿部222を有する。なお、振り石はテン真311に固定されている。
【0031】
また、アンクル22は、ガンギ車21の複数の歯に衝突する入爪223aが取り付けられる第1腕部223と、第1腕部223の反対方向に延びると共にガンギ車21の複数の歯に衝突する出爪224aが取り付けられる第2腕部224とを有する。なお、入爪223aと出爪224aは、例えば、サファイア等の石であるとよい。
【0032】
テン輪31は、テン真311を回転中心として、輪列12により伝達された動力により正逆回転運動をする。なお、以下の説明において、正逆回転運動のうち正方向運動を「正方向の回転」と呼び、逆方向運動を「逆方向の回転」と呼ぶこともある。
【0033】
図3に示すように、テン輪31は、その外形が円形であるとよい。ただし、
図3に示すテン輪31の形状は一例であり、テン輪31の形状は任意である。テン真311は、
図3に示す支持部材33により支持されている。
【0034】
ヒゲゼンマイ32は、テン輪31を正逆回転運動させるように伸縮運動(弾性変形)をする。ヒゲゼンマイ32は、渦巻き状であり、その内端はテン真311に対して固定されており、その外端はヒゲ持受34に対して固定されている。なお、ヒゲ持受34は、支持部材33と共に地板10に対して固定されている。また、ヒゲ持受34は、
図3に示すように、支持部材33とワク部材35とに挟まれて設けられている。
【0035】
ガンギ車21は、四番車124の回転に伴って回転する。ガンギ車21が回転すると、アンクル22の入爪223aに衝突し、アンクル22はアンクル真221を中心に回転する。回転したアンクル22の竿部222はテン真311に固定される振り石に衝突し、それにより、テン輪31が回転する。テン輪31が回転すると、アンクル22の出爪224aがガンギ車21に衝突して、ガンギ車21を停止させる。テン輪31がヒゲゼンマイ32の復元力により逆方向に回転すると、アンクル22の入爪223aが解除され、ガンギ車21が再び回転する。なお、後述のように、テン輪31は2秒間で1往復の動作をするよう設計されていることより、ガンギ車21は、1秒に1ステップの動作を行うこととなる。
【0036】
本実施形態においては、ヒゲゼンマイ32の材料としてヤング率の低い樹脂材料を採用した。これにより、金属材料で構成した場合と比較して、テン輪31の低速振動化を実現することができる。仮に金属ヒゲゼンマイで低速振動化を実現しようとすると、加工困難なレベルまでヒゲゼンマイ32の断面積を小さくするか、扱いが困難なレベルまでヒゲゼンマイ長を長くしなければならない。
【0037】
本実施形態においては、ヒゲゼンマイ32の材料としてヤング率が約5[GPa]の樹脂を用いた。具体的には、ヒゲゼンマイ32の材料としてポリエステルを用いた。なお、樹脂材料からなるヒゲゼンマイ32は、例えば、レーザ加工により製作されるものであるとよい。なお、一般的な金属製のヒゲゼンマイのヤング率は200[GPa]程度である。ここで示したヤング率は一例であり、ヒゲゼンマイ32のヤング率は20[GPa]以下であるとよい。すなわち、ヒゲゼンマイ32のヤング率は、金属製のヒゲゼンマイのヤング率の10分の1以下であるとよい。さらに好ましくは、ヒゲゼンマイ32のヤング率は10[GPa]以下であるとよい。すなわち、ヒゲゼンマイ32のヤング率は、金属製のヒゲゼンマイのヤング率の20分の1以下であるとよい。また、ヤング率は20[GPa]以下であればよく、ヒゲゼンマイ3は紙や木材といった材料でも構わない。
【0038】
また、本実施形態においては、ヒゲゼンマイ32の弾性変形の中立位置にある状態におけるテン輪31及び永久磁石41の回転角度[deg]を0°とした。なお、ヒゲゼンマイ32の弾性変形の中立位置とは、言い換えると、ヒゲゼンマイ32が自然長である位置である。また、ヒゲゼンマイ32の弾性変形の中立位置にある状態におけるテン輪31に、動力ゼンマイ11からの動力が供給されることとした。すなわち、テン輪31及び永久磁石41は、回転角度が0°の位置において動力ゼンマイ11からの動力が供給される動力供給位置にある。また、後述のように、本実施形態において、永久磁石41は、回転角度0°の位置において、磁気的な釣り合いの位置にある。
【0039】
また、本実施形態においては、テン輪31が回転角度340°から-340°の範囲で駆動するよう設計した。このため、永久磁石41も回転角度340°から-340°の範囲で駆動する。ただし、これは一例であり、テン輪31の移動範囲は、回転角度270°から-270°の範囲以上であるとよい。このようにテン輪31の移動範囲をある程度大きくすることにより、テン輪31の低速振動化を実現できる。
【0040】
以上説明したように、調速機構30は、ヒゲゼンマイ32の伸縮運動によって、一定の周期でテン輪31を繰り返し正逆回転運動(往復運動)させる。脱進機構20は、テン輪31に対して往復運動するための力を与え続ける。このような構成及び動作により、秒針131等の指針が駆動することとなる。
【0041】
[全体構成の概要:歩度調整手段40の構成]
次に、歩度調整手段40の構成について説明する。本実施形態に係る機械式時計1は、駆動機構、脱進機構20、調速機構30に加えて、歩度調整手段40を含んでいる。
【0042】
歩度調整手段40は、永久磁石41と、軟磁性コア42(ステータと呼ばれることもある)と、コイル43と、各種回路(
図5参照)とを含んで構成される。歩度調整手段40は、永久磁石41の正逆回転運動に基づいて検出される検出信号と、基準信号源である水晶振動子70の基準振動数とに基づいて歩度調整を行うものである。本実施形態においては、後述の
図8等に示すように、基準信号OSの出力期間を、所定の幅を有する出力期間tsとする。なお、本実施形態においては、高い周波数精度を実現するために基準信号源として水晶振動子70を用いたが、これに限らず、例えば、コンデンサと抵抗とで構成されるCR発振器を用いてもよい。
【0043】
なお、図示は省略するが、コイル43は、外装ケースの内側に設けられる中枠と平面視において重なるように配置されているとよい。または、中枠の周方向の一部に切り欠きが形成されており、コイル43はその切り欠き内に配置されているとよい。
【0044】
永久磁石41は、二極磁化された円盤状の回転体であり、径方向にN極、S極に着磁されている。すなわち、永久磁石41は、N極部411と、S極部412とを含む磁石である。
【0045】
永久磁石41は、テン輪31の回転軸であるテン真311に取り付けられており、テン輪31(テン真311)の正逆回転運動に伴い正逆回転運動を行うように設けられている。すなわち、永久磁石41は、その回転角度がテン輪31の回転角度と同じとなるように、テン輪31と共に正逆回転運動する。なお、永久磁石41は、テン真311に対して圧入または接着等により固定されているとよい。
【0046】
永久磁石41は、磁化容易軸がランダムな方向に向いている等方性磁石であるとよい。なお、永久磁石41は、テン真311に取り付けられた状態で、ヘルムホルツコイル等により磁界が与えられることにより着磁されるとよい。このような着磁方法を採用することにより、永久磁石41の着磁方向を正確に合わせ込むことができる。
【0047】
軟磁性コア42は、軟磁性材から成り、
図4に示すように、永久磁石41の外周に沿うように設けられる第1端部421aを含む第1磁性部421と、永久磁石41の外周に沿うように設けられる第2端部422aを含む第2磁性部422とを有しており、コイル43と共に磁気回路を構成する。第1端部421aと第2端部422aは、共に半円弧状の内周面を有する形状であり、永久磁石41を介して互いに対向して配置されている。
【0048】
本実施形態においては、永久磁石41は、ヒゲゼンマイ32が弾性変形の中立位置にある状態において、N極部411が第2磁性部422側に配置されており、S極部412が第1磁性部421側に配置されている(
図4の拡大図参照)。なお、N極部411とS極部412の配置は逆であってもよいが、その場合、コイル43の巻き方向を本実施形態と反対にする必要がある。
【0049】
また、軟磁性コア42は、
図3に示すように、固定具であるパイプ33a及びネジ33bにより、支持部材33に対して固定されている。このような構成により、軟磁性コア42は、支持部材33と共に地板10に組付けられている。
【0050】
なお、地板10に組付けられる構成部品のうち、軟磁性コア42を除く永久磁石41に近い位置にある支持部材33やヒゲ持受34、ワク部材35、ヒゲゼンマイ32、テン輪31といった構成部品は、調速機構30の正逆回転運動や後述するコイル43によって生じる逆起電圧に影響しないよう非磁性材であることが望ましい。
【0051】
また、軟磁性コア42は、
図4に示すように、第1端部421aと第2端部422aとの磁気的な結合を分離する第1分離部である第1溶接部423と、第1端部421aと第2端部422aとの磁気的な結合を分離すると共に永久磁石41を介して第1溶接部423と対向して配置される第2分離部である第2溶接部424とを含んでいる。なお、第1溶接部423及び第2溶接部424は、第1端部421aと第2端部422aとを物理的に分離する間隙内に形成されるものであるとよい。
【0052】
永久磁石41は、着磁方向が第1溶接部423と第2溶接部424との対向方向と直交する位置する状態において磁気的な釣り合いの位置となっている。本実施形態において、永久磁石41の磁気的な釣り合いの位置を、回転角度0°とする。この位置において永久磁石41の保持トルクはほぼ0となる。なお、第1溶接部423と第2溶接部424との対向方向とは、
図4に示すように、第1溶接部423と第2溶接部424とを結ぶ直線が延びる方向である。
図4に示すように、本実施形態においては、軟磁性コア42の第1端部421a及び第2端部422aの内周面にノッチを形成した。具体的には、第1端部421aにノッチn11とノッチn12を形成した。また、第2端部422aに、永久磁石41を介してノッチn11と対向してノッチn21を形成し、永久磁石41を介してノッチn12と対向してノッチn22を形成した。このようにノッチが形成されることにより、永久磁石41が軟磁性コア42に受ける磁気的影響が低減される。
【0053】
本実施形態においては、
図4に示すように、軟磁性コア42の第1端部421aと第2端部422aが第1溶接部423及び第2溶接部424を介して一体となっている例を示したが、これに限られない。例えば、第1溶接部423及び第2溶接部424を有しておらず、第1端部421aと第2端部422aとは間隙を介して磁気的な結合が分離されるものであってもよい。また、磁気的な結合を完全に分離するものに限られない。例えば、第1端部421aと第2端部422aとは、分離部である狭窄部を介して物理的に繋がっていてもよい。
【0054】
また、
図5に示すように、歩度調整手段40は、制御回路44、回転検出回路45、調速パルス出力回路46、分周回路47、発振回路48、制動回路80を含んでいる。
図5においては、上述した永久磁石41、軟磁性コア42、コイル43の図示を省略している。なお、
図5に示す歩度調整手段40の構成は一例である。歩度調整手段40は、
図5に示す各回路を独立して備えている必要はなく、以下で説明する各機能を実現可能なものであればよい。
【0055】
制御回路44は、歩度調整手段40に含まれる各回路の動作を制御する回路である。特に、制御回路44は、後述のように、調速パルス出力回路46及び制動回路80を制御することにより永久磁石41を制動する制動力を制御する制動制御を行う。また、制御回路44は、基準信号源の基準信号の出力タイミングに対する検出信号の検出タイミングに応じて、高制動モードと低制動モードとで制動モードを切り替え可能に構成されている。
【0056】
発振回路48は、水晶振動子70の振動数に基づいて所定の発振信号を出力する。なお、水晶振動子70の振動数は32768[Hz]である。分周回路47は、発振回路48から出力された発振信号を分周する。分周回路47は、水晶振動子70に基づく発振信号を分周することで約1000[ms]毎に出力される基準信号OSを生成する。ただし、これに限られず、基準信号OSは、2000[ms]毎や3000[ms]毎に出力されるものであってもよい。すなわち、基準信号OSは、正秒毎に出力されるものであればよい。また、これに限られず、基準信号OSは調速機構30の周期に対応するものであればよい。
【0057】
回転検出回路45は、永久磁石41の運動によりコイル43に生じる電圧波形に基づいて検出信号を検出する。本実施形態において、所定の閾値Vth以上の逆起電圧が発生することで回転検出回路45により検出される信号を検出信号DEと定義する。なお、本実施形態においては、後述の
図8等に示すように、所定の閾値Vthを0.5[V]とする。なお、衝撃等の外的な要因やその他ノイズにより瞬間的に逆起電圧が閾値Vth以上となってしまう場合がある。このようなノイズ等に起因する誤検出を回避するため、例えば、回転検出は32[μs]間隔毎に行い、調速制御を行う起点は、検出信号DEが2回以上の所定回数検出されたタイミングであるとよい。ただし、これに限られず、回転検出の間隔、検出信号DEが連続的に検出された回数、検出信号の検出の蓄積回数等に基づいて適宜決定されるものであるとよい。なお、閾値Vthの値は0.5[V]に限られるものではない。また、機械式時計1の状態に応じて閾値Vthを可変としてもよい。例えば、動力ゼンマイ11の巻き上げ状態に応じて閾値Vthを可変としてもよい。具体的には、動力ゼンマイ11のトルクが弱まった状態においては、予め設定される複数の閾値Vthのうち低い閾値が選択されるとよい。
【0058】
調速パルス出力回路46は、分周回路47により生成された基準信号と、回転検出回路45が検出した検出信号DEとに基づいて、調速パルスを出力する。具体的には、回転検出回路45が検出した検出信号DE号の検出タイミングと、約1000[Hz]の基準信号の出力タイミングとを比較し、それらのタイミングにズレが生じている場合、調速パルス出力回路46は、検出信号DEが検出される周期を1000[ms](=1秒)に近づけるように調速パルスを出力する。
【0059】
調速パルスの出力は、コイル43を通電することにより行われる。そのため、調速パルス出力回路46は、検出信号DEが検出される周期が基準信号よりも早い場合、永久磁石41の動きを遅らせる方向にトルクが働くようにコイル43を通電し、検出信号DEが検出される周期が基準信号よりも遅い場合、永久磁石41の動きを早める方向にトルクが働くようにコイル43を通電するとよい。永久磁石41の動きを遅らせる方向にトルクが働くようにコイル43を通電した際に出力される調速パルスは、永久磁石41の動きを制動する制動力となる。
【0060】
調速パルス出力回路46は、出力期間(パルス幅)が互いに異なる複数の調速パルスを出力可能に構成されるとよい。また、調速パルス出力回路46は、出力電圧が互いに異なる複数の調速パルスを出力可能に構成されるとよい。
【0061】
[全体構成の概要:発電機としての調速機構30]
機械式時計1は、電磁誘導の原理を用いた発電機能を有する。本実施形態においては、調速機構30が発電機の一部として機能する。具体的には、テン輪31の正逆回転運動に伴い永久磁石41が正逆回転運動をし、永久磁石41の運動による磁界の変化に基づいてコイル43に生じる電流により発電を行う。このような動作原理により取り出した電力を用いて電源回路60を起動させる。電源回路60が起動することで、制御回路44が駆動可能となる。このような構成を採用するため、本実施形態においては、電池等の電源を別途設けることなく、制御回路44を駆動させることができる。
【0062】
整流回路50は、調速機構30のテン輪の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動に伴う永久磁石41の運動によりコイル43に生じる電流を整流する。電源回路60は、例えばコンデンサを含む回路であり、整流回路50により整流された電流に基づいて制御回路44を駆動させるための電力を蓄電する。
【0063】
[制動制御の概要]
次に、
図6~
図8を参照して、制動制御の概要について説明する。
図6は、本実施形態におけるテン輪の動作と、コイルに生じる逆起電圧との関係を説明する図である。
図6の上段のグラフにおいて、縦軸はテン輪31の角速度[rad/s]であり、横軸は測定時間[s]である。
図6の中段のグラフにおいて、縦軸はテン輪31の回転角度[deg]であり、横軸は測定時間[s]である。
図6の下段のグラフにおいて、縦軸はコイル43に生じる逆起電圧[V]であり、横軸は測定時間[s]である。また、
図6に示す各グラフにおいては、テン輪31(永久磁石41)の動きを4秒間測定した例を示している。
【0064】
図7は、機械式時計が有する回路の一例を示す回路図である。
図8は、制動制御の一例を示すタイミングチャートである。
図8の上段は制動制御を行った場合にコイル43に生じる電圧波形を示している。なお、電磁ブレーキDBが作用している期間においては、コイル43が短絡していることより逆起電圧は検出されない。
図8の上段においては視認性の都合上、逆起電圧の波形を全て実線で示しているが、電磁ブレーキDBが作用している期間において逆起電圧は0となっている。
図8の下段は、検出信号DEの検出タイミング、基準信号OSの出力タイミング、及び電磁ブレーキDBの作用タイミングを示している。電磁ブレーキとは、コイル43の第1端子O1と第2端子O2とを短絡させて閉ループ状態にし、永久磁石41の回転に伴ってコイル43に発生する磁束の変化を妨げる向きに磁界が生じるような誘起起電力によって得られる制動力のことをいう。
【0065】
本実施形態においては、制動回路80が電磁ブレーキDBを作用させることにより、永久磁石41の動きを制御することで、テン輪31の動きを制御して歩度調整を行う。
図6においては、電磁ブレーキDBを作用させるタイミング(歩度調整タイミング)を帯状の領域で示している。電磁ブレーキDBは、発電が得られやすい期間を避けて作用されることが好ましい。特に、発電のピークが含まれる期間である、永久磁石41が回転角度0°から180°に正方向に回転する期間、及び0°から-180°に逆方向に回転する期間を避けて作用されることが好ましい。
【0066】
次に、
図7を参照して、本実施形態における回路構成について説明する。
【0067】
図7に示すように、コイル43の第1端子O1及び第2端子O2に対しては、トランジスタTP1及びTP2がそれぞれ接続されている。トランジスタTP1及びTP2に対してはコイル43に生じた逆起電圧が入力されて、それに基づいて回転検出回路45が検出信号を検出する。所定のタイミングでトランジスタTP1又はTP2をONとすることで、それらトランジスタに対応する第1端子O1及び第2端子O2で発生する誘起電圧を電圧信号である検出信号として取り出すことができる。具体的には、正の逆起電圧の検出時はトランジスタTP1をOFF、トランジスタTP2をONにするとよい。一方、負の逆起電圧の検出時はトランジスタTP1をON、トランジスタTP2をOFFにするとよい。
【0068】
また、トランジスタP11、P12がコイル43の第1端子O1に接続されており、トランジスタP21、P22がコイル43の第2端子O2に接続されている。トランジスタP11、P12、P21、P22は調速パルス出力回路46からの調速パルスによりON/OFF制御がされる。発電時において、トランジスタP11、P12、P21、P22のゲート端子をOFFとする。また、この際、制動回路80が制動力を生じさせない状態とするとよい。すなわち、後述のトランジスタDB1、DB2をOFFにするとよい。その状態において、トランジスタTP1、TP2と、ダイオードDにより整流回路50が構成される。永久磁石41が正逆回転運動を行うことにより、コイル43に電流が流れ、コンデンサCが蓄電される。コンデンサCにある程度の蓄電がなされると、電源回路60が起動する。そして、電源回路60が起動することにより、制御回路44が起動し、制御回路44による歩度調整手段40に含まれる各回路の制御が行われることとなる。
【0069】
さらに、トランジスタDB1がコイル43の第1端子O1に接続されており、トランジスタDB2がコイル43の第2端子O2に接続されている。トランジスタDB1及びトランジスタDB2は、
図5に示す制動回路80を構成する。制動回路80は、第1端子O1、第2端子O2を短絡させることで、永久磁石41の振動数を低下させる制動力を生じさせる回路である。なお、
図5においては、制動回路80を歩度調整手段40の一部に含まれる構成であるとして示すが、これに限られるものではない。
【0070】
図8の下段に示す例においては検出信号DEが検出されてから時間tb1が経過したタイミングで、作用期間b1の電磁ブレーキDBを作用させている。また、電磁ブレーキDBは、検出信号DEが検出される毎に作用している。なお、
図8においては、1ステップ(1秒)基準で基準信号OSを設定した例を示すが、これに限られない。すなわち、2ステップ(2秒)や3ステップ(3秒)基準で基準信号OSを出力することとしてもよい。この場合、水晶振動子70に基づく発振信号を分周することで約2000[ms]毎や約3000[ms]毎に出力される基準信号OSを生成するとよい。
【0071】
また、コイル43に生じる逆起電圧Vの波形に関わらず検出信号DEを検出しない非検出期間を設けてもよい。非検出期間は、逆起電圧Vが閾値Vth以上であるか否かに関わらず、検出信号DEを検出しない期間であるとよい。非検出期間は、検出信号DEを検出してから所定期間経過後に開始されるとよい。非検出期間は、逆起電圧Vの最大値が検出されるタイミングと重ならない期間であるとよい。これにより、閾値Vthを低く設定した場合においても、発電量を確保しつつ、逆起電圧Vの最大値以外のピークを誤検出してしまうことを抑制できる。
【0072】
なお、
図5、
図7を参照して説明した調速パルス出力回路46は必須ではない。すなわち、歩度調整は、制動回路80による電磁ブレーキDBのみによって実現されるものであってもよい。また、
図7においては、回転検出回路45が第1端子O1側に接続されており、正の逆起電圧を検出可能な回路構成を示すが、これに限られず、回転検出回路45は負の逆起電圧も検出可能であってもよい。この場合、回転検出回路45は第2端子O2側にも接続されているとよい。
【0073】
[本実施形態における制動制御]
次に、
図9~
図11を参照して、本実施形態における制動制御の詳細について説明する。
図9は、本実施形態における各制動ランクにおける電磁ブレーキの作用期間の一例を示す図である。
図10及び
図11は、本実施形態における制動ランクの推移の一例を示す図である。
【0074】
図10及び
図11の上側のグラフに示す細実線は高制動モードにおける制動ランクの推移を示している。すなわち、
図10においては、歩度ズレの検出回数が0~9回において、高制動モードにおける制動ランクが12、11、11、10、10、11、10、10、10、10のように推移している例を示している。
【0075】
図10及び
図11の上側のグラフに示す細点線は低制動モードにおける制動ランクの推移を示している。すなわち、
図10においては、歩度ズレの検出回数が0~9回において、低制動モードにおける制動ランクが2、2、3、3、4、4、4、3、2、3のように推移している例を示している。
【0076】
図10及び
図11の上側のグラフの太実線は、実行された制動ランクを示している。すなわち、
図10においては、歩度ズレの検出回数が0~9回において、制動ランクが12、2、11、3、10、11、4、3、2、10に対応する電磁ブレーキDBがこの順で作用されている例を示している。
【0077】
図10及び
図11の下側のグラフにおいては、歩度ズレの推移を示している。
図10及び
図11の下側のグラフにおいて、歩度が進んでいる場合、期間差t(ズレ量)は正となっており、歩度が遅れている場合、期間差t(ズレ量)は負となっている。
【0078】
まず、制動制御の基本的な考え方として、歩度が進んでいる場合、制動ランクを大きくし、歩度が遅れている場合、制動ランクを小さくするとよい。すなわち、歩度が進んでいる場合、大きな制動力を作用させることで歩度ズレを小さくし、歩度が遅れている場合、小さな制動力を作用させる又は制動力を作用させないことで歩度ズレを小さくする。歩度が進んでいる場合とは、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより早い場合である。歩度が遅れている場合とは、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSより遅い場合である。
【0079】
本実施形態においては、制動回路80は、複数の制動ランクそれぞれに対応する複数の制動力のうち現在設定されている制動ランクに対応する制動力を作用させることが可能に構成される。具体的には、制動回路80は、ランク0~14の電磁ブレーキDBを作用させることが可能に構成される。ランク14の電磁ブレーキDBの作用期間が最も長く、ランクが下がるに従い作用期間が短くなっている。すなわち、ランク14の電磁ブレーキDBの制動力が最も大きく、ランクが下がるに従い制動力が小さくなっている。本実施形態においては、ランク0における電磁ブレーキDBの作用期間を0とした。すなわち、ランク0における電磁ブレーキDBの制動力を0とした。
【0080】
図9の上段においては、ランク0~4における電磁ブレーキの作用期間を示している。
図9の下段においては、ランク10~14における電磁ブレーキの作用期間を示している。本実施形態においては、電磁ブレーキDBを作用させることが可能な制動期間tcが予め設定されている。制動期間tcは、検出信号DEが検出されてから第1待ち期間tpを待って開始する期間である。第1待ち期間tpは、電磁ブレーキのランクに関わらず一定である。
【0081】
電磁ブレーキDBは、制動期間tcが開始してから、ランクに応じた第2待ち期間tsを待って、その作用が開始される。例えば、
図9の上段に示すように、ランク1においては、検出信号DEが検出されてから第1待ち期間tp及び第2待ち期間ts1が経過する際に、電磁ブレーキDEの作用が開始する。そして、ランク1においては、制動期間tcが経過すると共に電磁ブレーキDEの作用期間が終了する。他のランクにおいても同様の制御が行われ、ランクが大きいほど第2待ち期間tsが短くなっている。すなわち、ランクが大きいほど、電磁ブレーキDBの作用期間が長くなっている。本実施形態においては、ランク14における待ち期間を0とした。すなわち、ランク14においては、検出信号DEが検出されてから第1待ち期間tpが経過する際に、電磁ブレーキDEの作用が開始する。
【0082】
なお、制動期間tc、第1待ち期間tp、及び第2待ち期間tsは、機械式時計1の仕様に応じて予め任意に設定されているとよい。
【0083】
また、
図9の例においては、電磁ブレーキDBの作用期間の終期を制動期間tcの終期と一致させているが、これに限られるものではない。例えば、電磁ブレーキDBの作用期間の始期と制動期間tcの始期を一致させると共に、ランクに応じて制動期間tcの終期に対する電磁ブレーキの作用期間の終期を可変としてもよい。また、
図9の例においては、電磁ブレーキDBの作用期間の終点を固定し、ランクに応じて始点を変動させているが、これに限られない。例えば、電磁ブレーキDBの作用期間の始点を固定し、ランクに応じて終点を変動させてもよい。また、制動ランクの大きさに応じて、作用期間の始点と終点のいずれを変動させるかを切り替え可能としてもよい。また、作用期間の始点及び終点を固定せず、所定のタイミングを基準として作用期間を変動させてもよい。具体的には、例えば、ランクが上がる毎に、所定のタイミングを基準として前後に長くなるように作用期間を変動させてもよい。また、電磁ブレーキDBは、連続的に作用されるフルパルスに限らず、断続的に作用されるチョッパーパルスであってもよい。
【0084】
ここで、機械式時計1における歩度は継続的に使用することで僅かにズレが生じ、それが蓄積されることで大きな歩度ズレとなる。歩度ズレの原因は、継続的な使用に限らず、例えば、機械式時計1の姿勢が変化した場合や、外部衝撃が加わった場合に起こり得る。このように短時間で大きな歩度ズレが生じた場合、その調整を迅速かつ精度良く行うことは難しい。例えば、瞬間的な外部衝撃により歩度が大きく進んでしまった場合、制動制御において制動力が大きい電磁ブレーキDBを作用させるとよい。しかしながら、制動力が大きな電磁ブレーキDBを作用させた場合、その制動力が過度に大きいと、進んでいた歩度が大きく遅れてしまう。その状態で、さらに制動力が小さい電磁ブレーキDBを作用させた場合、その制動力が過度に小さいと、遅れていた歩度が進んでしまう。そこで、本実施形態に係る機械式時計1おいては、大きく歩度ズレが生じてしまった場合においても、迅速かつ精度良く歩度調整を行うことが可能な構成を採用した。
【0085】
本実施形態においては、制御回路44は、基準信号源の基準信号の出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングに応じて、高制動モードと低制動モードとで制動モードを切り替え可能に構成されている。高制動モードにおける現在の制動ランクは、低制動モードにおける現在の制動ランクよりも高い制動ランクに設定されている、すなわち、本実施形態において、高制動モードは、常時、低制動モードの制動ランクよりも高い制動ランクに設定されるモードである。
【0086】
本実施形態においては、前回の歩度ズレの検出時と、今回の歩度ズレの検出時とで、歩度のズレの正負が反転した場合、制動モードを切り替える。具体的には、前回の歩度ズレの検出時において歩度が進んでおり、今回の歩度ズレの検出時において歩度が遅れている場合、高制動モードから低制動モードに切り替える。また、前回の歩度ズレの検出時において歩度が遅れており、今回の歩度ズレの検出時において歩度が進んでいる場合、低制動モードから高制動モードに切り替える。
【0087】
また、制御回路44は、前回の歩度ズレの検出時において歩度が進んでいるか遅れているか、及び今回の歩度ズレの検出時において歩度が進んでいるか遅れているかに応じて、高制動モード及び低制動モードにおける現在の制動ランクを設定する。
【0088】
具体的には、前回の歩度ズレの検出時において歩度が進んでおり、今回の歩度ズレの検出時において歩度が進んでいる場合、高制動モードにおける現在の制動ランクを1上げる。また、前回の歩度ズレの検出時において歩度が遅れており、今回の歩度ズレの検出時において歩度が進んでいる場合、低制動モードにおける現在の制動ランクを1上げる。
【0089】
また、前回の歩度ズレの検出時において歩度が進んでおり、今回の歩度ズレの検出時において歩度が遅れている場合、高制動モードにおける現在の制動ランクを1下げる。また、前回の歩度ズレの検出時において歩度が遅れており、今回の歩度ズレの検出時において歩度が遅れている場合、低制動モードにおける現在の制動ランクを1下げる。
【0090】
図10に示す例においては、4回目の歩度ズレの検出時において、歩度が大きく進んでいるため、高制動モードを実行しており、その制動ランクは10である。これにより、5回目の歩度ズレの検出時において、歩度ズレ量は少し小さくなっているが、依然として進んでいる状態である。そのため、高制動モードの現在の制動ランクを1上げると共に、引き続き高制動モードを実行している。すなわち、5回目の歩度ズレの検出後に、制動ランク11に対応する電磁ブレーキDBを作用させている。このように、進んでいる歩度を遅らせる方向に調整を行っている。
【0091】
図10に示す例においては、6回目の歩度ズレの検出時において、歩度が大きく遅れている。そのため、高制動モードから低制動モードへ切り替えて、制動ランク4に対応する電磁ブレーキDBを作用させている。7回目の歩度ズレの検出時において、依然として歩度が遅れている状態である。そのため、低制動モードの現在の制動ランクを1下げると共に、引き続き低制動モードを実行している。すなわち、7回目の歩度ズレの検出後に、制動ランク3に対応する電磁ブレーキDBを作用させている。これにより、遅れている歩度を進ませる方向に調整を行っている。
【0092】
ここで、高制動モードにおける現在の制動ランクが最大ランクに達している場合、それ以上ランクを上げることなく、ランクを維持するとよい。低制動モードにおける現在の制動ランクが最小ランクに達している場合も同様に、それ以上ランクを下げることなく、ランクを維持するとよい。
【0093】
図11に示す例においては、2回目の歩度ズレの検出時において、歩度が進んでいるため、高制動モードを実行している。この際の制動ランクは14となっている。3回目の歩度ズレの検出時においても、歩度が進んでいる。しかしながら、高制動モードにおける現在の制動ランクが前回の検出時において既に最大であるため、3回目の歩度ズレの検出後においても現在の制動ランクを14としている。
【0094】
また、高制動モードにおける制動ランクと、低制動モードにおける制動ランクは、常時互いに異なっているとよい。言い換えると、高制動モードにおける現在の制動ランクと、低制動モードにおける現在の制動ランクは、互いに異なっているとよい。そのため、高制動モードの現在の制動ランクを下げた場合、下げられた後の高制動モードにおける現在の制動ランクが低制動モードにおける現在の制動ランクと同じになる場合、高制動モードにおける制動ランクを維持するとよい。また、低制動モードにおける現在の制動ランクを上げた場合、上げられた後の低制動モードにおける現在の制動ランクが高制動モードにおける現在の制動ランクと同じになる場合、低制動モードにおける制動ランクを維持するとよい。
【0095】
図11に示す例においては、6回目の歩度ズレの検出時における、低制動モードの制動ランクは11である。この際、高制動モードにおける制動ランクは12である。6回目の歩度ズレの検出時において歩度は遅れており、7回目の歩度ズレの検出時において歩度は進んでいる。そのため、低制動モードの現在の制動ランクを上げるとよいが、その場合、低制動モードにおける現在の制動ランクが高制動モードにおける現在の制動ランクと同ランクになる。したがって、7回目の検出時において低制動モードの現在の制動ランクを維持している。
【0096】
図11に示す例においては、7回目の歩度ズレの検出時において歩度は進んでおり、8回目の歩度ズレの検出時において歩度は遅れている。そのため、高制動モードにおける現在の制動ランクを下げるとよいが、その場合、高制動モードの現在の制動ランクが低制動モードにおける現在の制動ランクと同ランクになる。したがって、8回目の検出時において高制動モードの制動ランクを維持している。
【0097】
なお、歩度ズレの検出回数が0回目における高制動モードの制動ランク、低制動モードの制動ランクは任意に設定されているとよい。
図10においては、検出回数が0回目における高制動モードの制動ランクが12であって、低制動モードにおける制動ランクが2である例を示している。
【0098】
以上説明した本実施形態においては、歩度ズレの推移に応じて制動ランクを詳細に制御することで、迅速かつ精度良く歩度調整を行うことができる。特に、外部衝撃が生じた場合など、短期間で歩度が大きくズレてしまった場合においても、迅速かつ精度良く歩度調整を行うことができる。
【0099】
[フローチャート]
次に、
図12を参照して、本実施形態における制動制御の処理フローを説明する。
図12は、本実施形態における制動制御の一例を示すフローチャートである。
【0100】
本実施形態においては、永久磁石41の運動により発電が行われることにより電源回路60が起動し(ST1のY)、所定の閾値Vth以上の逆起電圧が発生した後、すなわち、回転検出回路45により検出信号DEが検出された後(ST2のY)、制動制御を開始する。
【0101】
制御回路44により、検出信号DEと基準信号OSとの期間差t(基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングのズレ量)を算出する(ST3)。期間差tが正又は0か否か、すなわち、歩度が進んでいるか否かを判定する(ST4)。
【0102】
期間差tが正又は0であると判定された場合(ST4のY)、前回の歩度ズレの検出時における期間差tが負であったか否か、すなわち、前回の歩度ズレの検出時において歩度が遅れていたか否かを判定する(ST5)。
【0103】
前回の歩度ズレの検出時における歩度が遅れていた場合(ST5のY)、低制動モードの制動ランクを上げると、高制動モードにおける現在の制動ランクと同じになるか否かを判定する(ST6)。同じになると判定された場合(ST6のY)、ランクを変更することなく、高制動モードにおける現在の制動ランクに対応する電磁ブレーキDBを作用させる(ST7)。一方、同じにならないと判定された場合(ST6のN)、低制動モードにおける制動ランクを1上げると共に(ST8)、高制動モードにおける現在のランクに対応する電磁ブレーキDBを作用させる(ST7)。
【0104】
前回の歩度ズレの検出時における歩度が進んでいた場合(ST5のN)、高制動モードの制動ランクを上げると、高制動モードの制動ランクが最大ランクを超えるか否かを判定する(ST9)。越えると判定された場合(ST9のY)、ランクを変更することなく、高制動モードにおける現在の制動ランクに対応する電磁ブレーキDBを作用させる(ST7)。一方、超えないと判定された場合(ST9のN)、高制動モードにおける制動ランクを1上げると共に(ST10)、ランクを上げた後の高制動モードにおける現在の制動ランクで、電磁ブレーキDBを作用させる(ST7)。
【0105】
ST4において、期間差tが負であると判定された場合(ST4のN)、前回の歩度ズレの検出時における期間差tが正又は0か否か、すなわち、前回の歩度ズレの検出時において歩度が進んでいたか否かを判定する(ST11)。
【0106】
前回の歩度ズレの検出時における歩度が進んでいた場合(ST11のY)、高制動モードの制動ランクを下げると、低制動モードにおける現在の制動ランクと同じになるか否かを判定する(ST12)。同じになると判定された場合(ST12のY)、ランクを変更することなく、高制動モードにおける現在の制動ランクに対応する電磁ブレーキDBを作用させる(ST13)。一方、同じにならないと判定された場合(ST12のN)、高制動モードにおける制動ランクを1下げると共に(ST14)、低制動モードにおける現在の制動ランクに対応する電磁ブレーキDBを作用させる(ST13)。
【0107】
前回の歩度ズレの検出時における歩度が遅れていた場合(ST11のN)、低制動モードの制動ランクを下げると、低制動モードの制動ランクが最小ランクを下回るか否かを判定する(ST15)。下回ると判定された場合(ST15のY)、ランクを変更することなく、低制動モードにおける現在の制動ランクに対応する電磁ブレーキDBを作用させる(ST13)。一方、下回ると判定された場合(ST15のN)、高制動モードにおけるランクを1下げると共に(ST16)、低制動モードにおける現在のランクに対応する電磁ブレーキDBを作用させる(ST13)。
【0108】
[変形例]
次に、
図13を参照して、本実施形態の変形例における制動制御の詳細について説明する。
図13は、本実施形態の変形例における制動ランクの推移の一例を示す図である。
【0109】
上記本実施形態においては、歩度ズレの検出毎に制動ランクを変更するか否かを判定しているが、これに限られない。歩度が進んでいる状態が所定回数連続した場合や、歩度が遅れている状態が所定回数連続した場合、現在の制動ランクを変更することなく維持してもよい。
【0110】
変形例においては、歩度が進んでいる状態が3回連続した場合、高制動モード及び低制動モードにおける現在の制動ランクを維持することとした。
図13においては、検出回数が0回から6回まで、歩度が進んでいる状態が継続している。そのため、検出回数が0回から2回までは、高制動モードの現在の制動ランクを12で維持している。その後、高制動モードの現在の制動ランクを13に上げている。それでも、検出回数が3回から5回まで、歩度が進んでいる状態が継続している。そのため、検出回数が3回から5回までは、高制動モードの現在の制動ランクを13で維持している。
【0111】
変形例においては、制動力が必要以上に大きくなることが抑制され、テン輪31が意図せず停止してしまうことを抑制できる。
【0112】
[その他]
上記本実施形態及び変形例においては、制動ランクが0~14の範囲で切り替えられる例について説明したが、これに限られるものではない。また、高制動モードと低制動モードとにおいて、それぞれ独自の制動ランクを設定していてもよい。すなわち、高制動モードと低制動モードとにおいて、制動ランクの範囲や、制動ランクに対応する制動力が異なっていてもよい。
【0113】
また、上記本実施形態及び変形例においては、回転検出を行う毎に制動ランクを1ずつ上下させる例を示したが、これに限られない。すなわち、制動ランクの変動幅は1ランクに限られない。例えば、回転検出を行う毎に、制動ランクを2上げたり、2下げたりしてもよい。具体的には、例えば、期間差tが所定の差以下の場合、1ランク上下させ、期間差tが所定の差より大きい場合、2ランク上下させるとよい。
【0114】
また、前回の期間差tと今回の期間差tとの差に応じて、制動ランクの変動幅を可変としてもよい。例えば、前回の期間差tと今回の期間差tとの差が小さい場合は、制動ランクの変動幅を大きくし、前回の期間差tと今回の期間差tとの差が大きい場合は、制動ランクの変動幅を小さくするとよい。これにより、急激な温度変化や大きな衝撃などが加わることで、大きな歩度ずれが発生した場合でも、迅速に歩度ズレを抑制することができる。そのため、誤った時刻が長時間表示されることがなくなるため、機械式時計1において精度の良い時刻表示を提供できる。
【0115】
さらに、上記本実施形態及び変形例においては、高制動モードと低制動モードとを切り替え可能な例を説明したが、これに限られない。すなわち、制御回路44は、少なくとも、基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングに応じて、制動ランクを切り替え可能に構成されているとよい。そして、制御回路44は、回転検出回路45による前回の検出信号DEの検出時と今回の検出信号DEの検出時とで、基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングの進み又は遅れのいずれか一方が連続する場合よりも、基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングの進み又は遅れが異なる場合の方が、制動ランクの変動幅が大きくなるよう制動ランクを制御するとよい。例えば、前回と今回とで進み又は遅れのいずれか一方が連続する場合においては制動ランクを1又は2ランク上下させ、前回と今回とで進み又は遅れが異なる場合においては制動ランクを3ランク以上上下させるとよい。
【0116】
また、機械式時計1の組み立て時における製造ばらつきや、出荷検査時における支持部材33によるテン輪31の位置調整等によって、テン輪31の回転角度の範囲が正方向と逆方向とで異なってしまう場合がある。正方向と逆方向とでテン輪31の回転角度の範囲が異なると、同じ大きさの制動力を作用させたとしても正方向と逆方向とで検出信号DEが検出されるタイミングが異なることとなる。そのため、テン輪31の正方向の回転と、逆方向の回転とで、それぞれ別の制動ランク設定を行ってもよい。具体的には、テン輪31の正方向の回転により検出された検出信号DEに基づいて、第1高制動モードと第1低制動モードとの間で制動モードを切り替え可能とし、テン輪31の逆方向の回転により検出された検出信号DEに基づいて、第2高制動モードと第2低制動モードとの間で制動モードを切り替え可能とするとよい。第1高制動モードと第2高制動モードとでは、切り替え可能な制動ランクの範囲は同じであってもよいが、現在の制動ランクがそれぞれ独自に設定されているとよい。第1低制動モードと第2低制動モードも同様である。
【0117】
また、上記本実施形態及び変形例においては、電磁ブレーキDBによる制動力を作用させる例を説明したが、これに限られず、制動力は、調速パルス出力回路46から出力される調速パルスによるものであってもよい。すなわち、調速パルス出力回路46が調速パルスを出力することにより、永久磁石41の動きを制動することで、テン輪31の動きを制御して歩度調整を行ってもよい。この場合、調速パルスの出力期間に応じた制動ランクが設定されているとよい。なお、調速パルスによる歩度調整(制動制御)は、永久磁石41の動きを早める方向にトルクが働くようにコイル43を通電する制御を含んでもよい。すなわち、制動力が負である制動ランクを設定してもよい。この場合、負の制動力の制動ランクは低制動モードに含まれているとよい。
【0118】
また、上記本実施形態及び変形例においては、基準信号OSの出力タイミングを基準タイミングとして、検出信号DEの検出タイミングが進んでいるか遅れているかに基づいて歩度が進んでいるか遅れているかを判定する例を説明したが、検出信号DEの進み又は遅れの基準は基準信号OSの出力タイミングに限られない。すなわち、基準信号OSの出力タイミングに応じた所定の基準タイミングに対して検出信号DEの検出タイミングが進んでいるか遅れているかを判定してもよい。言い換えると、検出信号DEが進んでいる又は遅れているとは、基準信号OSの出力タイミングと検出信号DEの検出タイミングとの差が所定値より進んでいる又は遅れている場合のことであってもよい。すなわち、所定の基準タイミングは、基準信号OSの出力タイミングから所定時間進んだタイミング又は遅れたタイミングであってもよい。また、所定の基準タイミングは、ある瞬間のタイミングに限られず、所定の幅を有する期間であってもよい。基準タイミングが所定の幅を有する期間とすると、基準タイミングの期間内に検出タイミングが含まれることがあるが、その場合は上記本実施形態及び変形例における期間差t=0とみなして制御を行うとよい。なお、上記本実施形態及び変形例においては、期間差t=0は期間差が正の場合と同等に扱って制御を行ったが、これに限らず、期間差t=0の場合のランク変動モードを新たに有していてもよい。例えば、期間差t=0の場合は低制動モードあるいは高制動モードのランクは変動させずに、低制動モードと高制動モードの中間のランクで制動を行ってもよい。
【0119】
また、歩度調整手段40は、2極磁化された永久磁石41の動作に基づいて検出信号を得るものであり、永久磁石41の周辺に磁気的な影響を及ぼす部材が存在する場合、検出精度が低下してしまう可能性がある。そのため、永久磁石41の周辺の部材の材料として、磁気的な影響が少ないものを採用するとよい。例えば、支持部材33及びヒゲ持受34の材料として樹脂材料を用いるとよい。また、支持部材33を地板10に対して固定するための固定具33aの材料としてリン青銅や真鍮を用いるとよい。また、テン輪31の材料として、樹脂材料やアルミニウム、真鍮を用いるとよい。
【0120】
また、上述のように、ヤング率を低減するためにヒゲゼンマイ32を樹脂製としたことより、金属製の場合と比較して、永久磁石41に与える磁気的な影響を低減することができる。また、ヒゲゼンマイ32が磁性を有する金属製である場合、永久磁石41から磁気的な影響を受け、ヒゲゼンマイ32の形状や姿勢が変位してしまう可能性がある。本実施形態においては、ヒゲゼンマイ32を樹脂製としたことより、ヒゲゼンマイ32自身の形状や姿勢を安定させることができる。また、別途磁性材料からなる耐磁板を機械式時計1に設けてもよい。これにより、機械式時計1に外部の磁石が近づいた場合であっても、永久磁石41(テン輪31)の正逆回転運動が乱れることが抑制され、安定した制動制御を行うことができる。
【符号の説明】
【0121】
1 機械式時計、2 巻き真、10 地板、10a 位置決めピン、10b 開口、11 動力ゼンマイ、12 輪列、122 二番車、123 三番車、124 四番車、13 指針軸、131 秒針、20 脱進機構、21 ガンギ車、22 アンクル、221
アンクル真、222 竿部、223 第1腕部、224 第2腕部、30 調速機構、31 テン輪、311 テン真、32 ヒゲゼンマイ、33 支持部材、33a パイプ、33b ネジ、34 ヒゲ持受、35 ワク部材、40 歩度調整手段、41 永久磁石、42 軟磁性コア、421 第1磁性部、421a 第1端部、422 第2磁性部、422a 第2端部、43 コイル、44 制御回路、45 回転検出回路、46 調速パルス出力回路、47 分周回路、48 発振回路、50 整流回路、60 電源回路、70 水晶振動子、80 制動回路、n11,n12,n21,n22 ノッチ。