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特開2024-115167樹脂製品中の酸化防止剤量の予測方法、および樹脂製品の寿命予測方法
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  • 特開-樹脂製品中の酸化防止剤量の予測方法、および樹脂製品の寿命予測方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115167
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】樹脂製品中の酸化防止剤量の予測方法、および樹脂製品の寿命予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20240819BHJP
   G01N 33/44 20060101ALI20240819BHJP
   G01N 21/76 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
G01N17/00
G01N33/44
G01N21/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020701
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002255
【氏名又は名称】SWCC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 菜穂子
【テーマコード(参考)】
2G050
2G054
【Fターム(参考)】
2G050AA02
2G050BA10
2G050CA01
2G050CA06
2G050EA01
2G050EB07
2G054AA04
2G054CA10
2G054EA01
(57)【要約】
【課題】比較的穏やかな条件、かつ簡便な方法で、樹脂製品中の酸化防止剤の量やその寿命を予測する方法を提供する。
【解決手段】上記課題を解決する酸化防止剤量の予測方法は、樹脂および酸化防止剤を含有する樹脂製品中の前記酸化防止剤の量を予測する方法であり、前記樹脂および前記酸化防止剤をそれぞれ含み、かつ既知の酸化防止剤濃度を有する複数の試料に対して、ケミルミネッセンス法による処理を行い、酸化誘導時間および前記酸化防止剤濃度に関する検量線を作成する工程と、予測対象である樹脂製品に対してケミルミネッセンス法による処理を行い、測定された酸化誘導時間および前記検量線から、前記予測対象が含む前記酸化防止剤の量を予測する工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂および酸化防止剤を含有する樹脂製品中の酸化防止剤量を予測する方法であり、
前記樹脂および前記酸化防止剤をそれぞれ含み、かつ既知の酸化防止剤濃度を有する複数の試料に対してケミルミネッセンス法による処理を行い、酸化誘導時間および酸化防止剤濃度に関する検量線を作成する工程と、
前記酸化防止剤量の予測対象である樹脂製品に対してケミルミネッセンス法による処理を行い、測定された酸化誘導時間を前記検量線に照らし合わせて酸化防止剤量を予測する工程と、
を含む、樹脂製品中の酸化防止剤量の予測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂製品中の酸化防止剤量の予測方法において、
前記予測対象が、絶縁電線の外被である、
樹脂製品中の酸化防止剤量の予測方法。
【請求項3】
樹脂および酸化防止剤を含有する樹脂製品の寿命を予測する方法であり、
前記樹脂および前記酸化防止剤をそれぞれ含み、かつ既知の酸化防止剤濃度を有する複数の検量線作成用試料に対してケミルミネッセンス法による処理を行い、酸化誘導時間および酸化防止剤濃度に関する第1の検量線を作成する工程と、
前記樹脂および前記酸化防止剤を含む加熱劣化促進用試料に対して加熱劣化促進処理を行いながら、異なるタイミングで複数回、ケミルミネッセンス法にて酸化誘導時間を測定する工程と、
前記第1の検量線に、前記加熱劣化促進処理を行ったときの酸化誘導時間を照らし合わせ、酸化防止剤濃度および加熱劣化促進処理時間に関する第2の検量線を作成する工程と、
予測対象である樹脂製品に対してケミルミネッセンス法による処理を行い、測定された酸化誘導時間、ならびに前記第1の検量線および前記第2の検量線から、前記予測対象の寿命を予測する工程と、
を含む、樹脂製品の寿命予測方法。
【請求項4】
請求項3に記載の樹脂製品の寿命予測方法において、
前記予測対象が、絶縁電線の外被である、
樹脂製品の寿命予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂製品中の酸化防止剤量の予測方法、および樹脂製品の寿命予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な樹脂は、熱や光等によってその分子結合が切断されると、ラジカルが発生する。そして、当該ラジカルが大気中の酸素と反応することで、劣化することが知られている。そのため、樹脂を含む様々な樹脂製品では、その酸化劣化を抑制するために、酸化防止剤が広く使用されている。ただし、全ての酸化防止剤が消費されてしまうと、樹脂が急激に劣化する。
【0003】
ここで、導体の周囲に外被(絶縁層)が配置された絶縁電線の外被においても、樹脂と共に酸化防止剤が使用されている。酸化防止剤が存在する場合には、外被が良好な伸び性を有し、絶縁電線の屈曲等が可能である。しかしながら、酸化防止剤が消失してしまうと、所望の伸びが得られなくなり、導体を十分に保護できなくなる。絶縁電線は、用途によっては、頻繁に交換したりその性能を確認したりすることが難しいものもある。したがって、酸化防止剤量の把握や、外被の寿命の評価は非常に重要である。
【0004】
ここで、各種樹脂製品の劣化評価方法として、実際に劣化した樹脂製品を分析し、その寿命を特定する方法がある。また、樹脂製品を加速劣化させ、その寿命をアレニウスプロットする方法、つまり外挿によって実使用環境下での寿命を予測する方法が知られている。また、ガスクロマトグラフィー・質量分析法等によって、絶縁電線の外被等、樹脂製品の寿命を判定する方法等も提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5760817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、実際に劣化させた樹脂製品を分析する方法では、評価に非常に長い期間を要する、という課題がある。また、加速劣化を用いた評価方法等では、加熱劣化促進処理時や、分析時にかかる熱によって、樹脂の結晶性が変化することがあった。そのため、樹脂の結晶性変化等を考慮して分析する必要があり、評価が非常に複雑になりやすい、という課題があった。
そこで、本発明の主な目的は、比較的穏やかな条件、かつ簡便な方法で、樹脂製品中の酸化防止剤の量やその寿命を予測する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一態様によれば、
樹脂および酸化防止剤を含有する樹脂製品中の酸化防止剤量を予測する方法であり、
前記樹脂および前記酸化防止剤をそれぞれ含み、かつ既知の酸化防止剤濃度を有する複数の試料に対してケミルミネッセンス法による処理を行い、酸化誘導時間および酸化防止剤濃度に関する検量線を作成する工程と、
前記酸化防止剤量の予測対象である樹脂製品に対してケミルミネッセンス法による処理を行い、測定された酸化誘導時間を前記検量線に照らし合わせて酸化防止剤量を予測する工程と、
を含む、樹脂製品中の酸化防止剤量の予測方法が提供される。
【0008】
また、本発明の他の態様によれば、
樹脂および酸化防止剤を含有する樹脂製品の寿命を予測する方法であり、
前記樹脂および前記酸化防止剤をそれぞれ含み、かつ既知の酸化防止剤濃度を有する複数の検量線作成用試料に対してケミルミネッセンス法による処理を行い、酸化誘導時間および酸化防止剤濃度に関する第1の検量線を作成する工程と、
前記樹脂および前記酸化防止剤を含む加熱劣化促進用試料に対して加熱劣化促進処理を行いながら、異なるタイミングで複数回、ケミルミネッセンス法にて酸化誘導時間を測定する工程と、
前記第1の検量線に、前記加熱劣化促進処理を行ったときの酸化誘導時間を照らし合わせ、酸化防止剤濃度および加熱劣化促進処理時間に関する第2の検量線を作成する工程と、
予測対象である樹脂製品に対してケミルミネッセンス法による処理を行い、測定された酸化誘導時間、ならびに前記第1の検量線および前記第2の検量線から、前記予測対象の寿命を予測する工程と、
を含む、樹脂製品の寿命予測方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、比較的穏やかな条件、かつ簡便な方法で、樹脂製品中の酸化防止剤量や樹脂製品の寿命を予測する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態にかかる樹脂製品中の酸化防止剤量の予測方法の流れを示すフローチャートである。
図2】ケミルミネッセンス法による発光強度の変化を説明するための模式的なグラフである。
図3】本発明の一実施形態にかかる樹脂製品中の酸化防止剤量の予測方法の流れを示すフローチャートである。
図4】実施例において作成した、酸化誘導時間および酸化防止剤濃度に関する第1の検量線である。
図5】実施例において加熱劣化促進処理を行ったときの加熱劣化促進処理時間と、酸化誘導時間との関係を示すグラフである。
図6】実施例において作成した、酸化防止剤濃度および加熱劣化促進処理時間に関する第2の検量線である。
図7】第2の検量線の縦軸(酸化防止剤濃度)を対数にしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.樹脂製品中の酸化防止剤量の予測方法
上述のように、一般的な樹脂は、熱や光によってその結合が切断されると、ラジカルが発生する。そして、当該ラジカルが大気中の酸素と反応することで、ペルオキシラジカルが発生する。ペルオキシラジカルは非常に反応性が高く、他の分子から酸素を引き抜き、過酸化物とラジカルとを発生させる。そして、当該ラジカルがさらにペルオキシラジカルを発生させる。また、過酸化物も不安定なため、分解してペルオキシラジカルやラジカルを発生させる。つまり、ラジカルが発生すると、連鎖的に酸化反応が進み、樹脂の劣化が進行する。
【0012】
一方、樹脂製品に使用される酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤や、芳香族アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤やリン系酸化防止剤等、様々なものが知られている。例えばフェノール系酸化防止剤は、上述のペルオキシラジカルと反応して、自身が安定なフェノキシラジカルになることで、新たなラジカルの発生を抑制する。また、芳香族アミン系酸化防止剤は、アミンがペルオキシラジカルと反応することで、新たなラジカルの発生を抑制する。一方、硫黄系酸化防止剤やリン系酸化防止剤は、これらが過酸化物と反応することで、新たなラジカルの発生を抑制する。つまり、いずれの酸化防止剤においても、全ての酸化防止剤がペルオキシラジカルや過酸化物と反応してしまうと、ラジカルの発生を抑制できなくなり、樹脂の劣化を抑制できなくなる。したがって、樹脂製品中の酸化防止剤量を精度よく予測することは非常に重要である。
【0013】
ここで、本実施形態の酸化防止剤量の予測方法は、樹脂および酸化防止剤を含む、様々な樹脂製品に対して行うことができる。当該樹脂製品は、樹脂および酸化防止剤以外の成分を含んでいてもよい。
また樹脂製品が含む樹脂の種類は特に制限されず、例えば2種以上の樹脂の組み合わせであってもよい。例えば、樹脂製品が絶縁電線の外被である場合、樹脂はポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレンプロピレンゴム等でありうる。
また、樹脂製品が含む酸化防止剤の種類も特に制限されず、上述のフェノール系酸化防止剤や、芳香族アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等のいずれであってもよい。また、樹脂製品は、これらを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0014】
本実施形態の樹脂製品中の酸化防止剤量の予測方法の流れを、図1のフローチャートに示す。本実施形態の方法では、まず、樹脂製品と同一の樹脂および酸化防止剤を含有し、かつ既知の酸化防止剤濃度を有する複数の試料に対してケミルミネッセンス法による処理を行い、酸化誘導時間(Oxidization Induction Time(OIT))および酸化防止剤の濃度に関する検量線を作成する(以下「検量線作成工程」ともいう、S10)。
【0015】
その後、酸化防止剤量の予測対象である樹脂製品に対して、ケミルミネッセンス法による処理を行い、測定された酸化誘導時間(OIT)と上記検量線とを照らし合わせ、当該予測対象が含む酸化防止剤の量を予測する(以下「酸化防止剤量予測工程」ともいう、S20)。
【0016】
なお、本実施形態の酸化防止剤量の予測方法は、目的および効果を損なわない範囲において、これら以外の工程をさらに含んでいてもよい。以下、上記検量線作成工程S10および酸化防止剤量予測工程S20について、詳しく説明する。
【0017】
(検量線作成工程)
検量線作成工程S10では、樹脂製品と同一の樹脂および同一の酸化防止剤を含み、かつ既知の酸化防止剤濃度を有する試料を複数準備する(S11)。このとき、各試料中の酸化防止剤濃度が、互いに異なるように、各試料の組成を調整することが好ましい。準備する試料の数は特に制限されず、検量線の作成効率および精度を勘案して適宜選択され、通常2つ以上であればよく、3つ以上がより好ましい。
また、各試料中の酸化防止剤濃度は、いずれの方法で特定したものであってもよい。例えば、製造してから長時間経過していない試料(樹脂製品)であれば、製造時の樹脂と酸化防止剤との配合比から、酸化防止剤濃度を算出可能である。一方、製造してから長期間経過した試料を使用する場合には、公知の分析法によって、試料中の酸化防止剤濃度を特定してもよい。ただし、酸化防止剤濃度を容易に特定可能であるとの観点では、製造直後または製造してから数日以内の試料(樹脂製品)を使用することが好ましい。
【0018】
上記で準備した各試料に対して、それぞれ同一条件でケミルミネッセンス法による処理を行い、その酸化誘導時間(OIT)を測定する(S13)。ケミルミネッセンス法は、化学発光法とも称される方法であり、化学反応において、反応系の分子が励起状態から基底状態になる際に生じる微弱な光を検出する方法である。当該ケミルミネッセンス法によれば、物質の酸化反応を初期段階で高感度に捉えることが可能であり、樹脂が劣化する際に生じる過酸化物から放出される発光を検出することが可能である。
【0019】
ケミルミネッセンス法に使用する装置は、ケミルミネッセンスアナライザー等と称され、例えば東北電子産業社製の装置を使用可能である。当該ケミルミネッセンスアナライザーは、試料を収容し、かつ加熱を行うための試料室と、検出器(光電子倍増管)と、その間に配置された分光フィルターとを備える。このようなケミルミネッセンスアナライザーを用いたケミルミネッセンス法による処理の手順について、図2に示すケミルミネッセンス法にて観測される発光強度の変化と併せて説明する。
ケミルミネッセンス法による処理を行う際、まず、試料をケミルミネッセンスアナライザーの試験室に入れ、不活性雰囲気(例えば窒素雰囲気)下で加熱する。これにより、試料中に元来存在する発光成分(例えば過酸化物等)が分解し、分解に伴う発光ピークが観測される。その後、試料室の雰囲気を酸素雰囲気に変換して、さらに加熱を行う。これにより、試料内に上述のペルオキシラジカル等が発生し、酸化防止剤が徐々に消費される。ただし、この状態では、酸化防止剤が発生したペルオキシラジカル等と反応するため、平衡状態となる。つまり、酸素雰囲気下での加熱開始から発光強度がほとんど変化しない。その後、酸化防止剤が略全て消費されると、試料中に過酸化物が発生する。その結果、図2に示すように、発光強度が急激に高まり、ピークが出現する。
本実施形態では、酸素雰囲気中で加熱を開始したとき(t1)から、ピークが立ち上がり始める時点(t2)までの時間を、酸化誘導時間(OIT)と称する。なお、ピークが立ち上がり始めるタイミング(t2)は、発光強度を示すグラフにおいて、酸化防止剤によって平衡状態にある直線と、発光量の増大によって立ち上がった直線(接線)との交点から特定する。
【0020】
なお、ケミルミネッセンス法による処理を行うときの試料室内の温度や酸素流量は適宜設定可能であり、樹脂製品の種類や、樹脂製品中の樹脂の種類等に応じて適宜選択される。中でも、試料室の温度を樹脂の融点と同じかそれより低い温度とすると、樹脂の分解や結晶性変化等を考慮する必要がなくなる。したがって、より簡便で正確な酸化防止剤量の予測が可能となる。
【0021】
続いて、上記ケミルミネッセンス法による処理で測定された酸化誘導時間と、試料中の酸化防止剤濃度とを用いて、これらに関する検量線を作成する(S15)。試料中の酸化防止剤濃度と酸化誘導時間との間には、通常、比例関係が成立し、酸化防止剤濃度が大きくなるほど、酸化誘導時間が長くなる。
【0022】
(酸化防止材料予測工程)
一方、酸化防止剤量予測工程S20では、酸化防止剤の量を予測する対象(予測対象)である樹脂製品について、ケミルミネッセンス法により、検量線作成工程S10と同一の条件で酸化誘導時間を測定する(S21)。予測対象は、製造されてから長期間使用した後の樹脂製品や、長期間保管した後の樹脂製品等、いずれの状態の樹脂製品であってもよい。
そして、ケミルミネッセンス法で測定された酸化誘導時間を、上述の検量線に照らし合わせることで、予測対象中の酸化防止剤濃度を予測でき、当該予測対象が、どの程度の量の酸化防止剤を含んでいるかを特定できる(S23)。
【0023】
2.樹脂製品の寿命予測方法
本発明は、さらに樹脂製品の寿命予測方法も提供する。以下、樹脂製品の寿命予測方法の一実施形態について説明する。なお、当該方法にて寿命を予測する対象(予測対象)となる樹脂製品は、上記酸化防止剤量の予測方法を行う樹脂製品と同様である。
【0024】
本実施形態の樹脂製品の寿命予測方法の流れを図3のフローチャートに示す。本実施形態の寿命の予測方法では、まず、樹脂製品と同一の樹脂および酸化防止剤を含有し、かつ既知の酸化防止剤濃度を有する複数の検量線作成用試料に対して、それぞれケミルミネッセンス法による処理を行い、酸化誘導時間(OIT)および酸化防止剤濃度に関する第1の検量線を作成する(以下「第1の検量線作成工程」ともいう、S110)。
【0025】
一方で、樹脂製品と同一の樹脂および酸化防止剤を含む加熱劣化促進用試料に対して、加熱劣化促進処理を行いながら、異なるタイミングで複数回、ケミルミネッセンス法にて酸化誘導時間(OIT)を測定する(以下「加熱劣化促進処理工程」ともいう、S120)。なお、第1の検量線測定工程S110と加熱劣化促進処理工程S120は、いずれを先に行ってもよく、同時に行ってもよい。
【0026】
さらに、上記第1検量線作成工程S110で作成した第1の検量線と、加熱劣化促進処理工程S120で測定された酸化誘導時間とを照らし合わせ、酸化防止剤濃度および酸化誘導時間に関する第2の検量線を作成する(以下「第2の検量線作成工程」ともいう、S130)。
【0027】
そして、寿命の予測対象である樹脂製品に対してケミルミネッセンス法による処理を行い、測定された酸化誘導時間(OIT)、上記第1検量線、および第2の検量線から、当該予測対象の寿命を予測する(以下「寿命予測工程」ともいう、S140)。
ただし、本実施形態の目的および効果を損なわない範囲において、これら以外の工程をさらに含んでいてもよい。以下、各工程について説明する。
【0028】
(第1の検量線作成工程)
第1の検量線作成工程S110では、樹脂製品と同一の樹脂および同一の酸化防止剤を含み、かつ既知の酸化防止剤濃度を有する検量線作成用試料を複数準備する(S111)。そして、各検量線作成用試料に対してそれぞれ、上述のケミルミネッセンス法による処理を行い、その酸化誘導時間(OIT)を測定する(S113)。さらに、上記検量線作成用試料中の酸化防止剤濃度と、酸化誘導時間とを用いて、第1の検量線を作成する(S115)。これらの工程は、上述の樹脂製品の酸化防止剤量の予測方法の検量線作成工程S10と同様であるため、ここでの詳しい説明は省略する。
【0029】
(加熱劣化促進処理工程)
加熱劣化促進処理工程S120では、まず、樹脂製品と同一の樹脂および同一の酸化防止剤を含む加熱劣化促進用試料を準備する。当該加熱劣化促進用試料は、酸化防止剤濃度が明らかであってもよく、不明であってもよい。通常、寿命の予測対象と同一の樹脂製品(ただし新品)を、加熱劣化促進用試料とすることが好ましい。
本工程では、準備した加熱劣化促進用試料に対して、加熱劣化促進処理を行いながら、異なるタイミングで複数回、ケミルミネッセンス法にて酸化誘導時間を測定する。加熱劣化促進処理時の温度は、樹脂製品の種類等に応じて適宜選択されるが、樹脂の融点と同じかそれより低い温度が好ましい。加熱劣化促進処理の温度が上記範囲であると、効率よく加熱劣化促進用試料を加熱劣化させることが可能である。また、加熱劣化促進処理を行う際、雰囲気中の酸素濃度を調整したり、圧力を調整したりしてもよいが、通常、大気下で加熱することが好ましい。加熱方法は、所定の温度で加熱を行うことができればよく、例えばオーブン等で加熱する方法であってもよい。
【0030】
一方、ケミルミネッセンス法による酸化誘導時間の測定は、異なるタイミングで2回以上行えばよいが、通常、上記加熱劣化促進処理を始める前と、加熱劣化促進処理を始めてから、複数回、酸化誘導時間の測定を行うことが好ましい。中でも、酸化誘導時間の測定を行う回数は、3回以上がより好ましい。また、ケミルミネッセンス法にて酸化誘導時間を測定するタイミングは特に制限されず、一定時間ごとに行ってもよく、ランダムな間隔で行ってもよい。
【0031】
(第2の検量線作成工程)
続いて、第2の検量線作成工程S130では、上記第1の検量線作成工程S110で作成した第1の検量線と、加熱劣化促進処理工程S120で測定された酸化誘導時間とを照らし合わせ、加熱劣化促進処理時間と酸化防止剤濃度とに関する第2の検量線を作成する。第2の検量線によれば、加熱劣化促進処理したときの酸化防止剤の濃度の減少速度が傾きとなって表れる。当該傾きとは、第2の検量線を対数プロットしたときの傾きであってもよいし(図7参照)、第2の検量線自体が直線の比例関係で表されるときはその直線の傾きをそのまま当該傾きとしてもよい。また、第2の検量線によれば、その傾きから、酸化防止剤が0質量%、もしくは予め定めた閾値に到達するまでの加熱劣化促進処理時間が明らかとなる。
【0032】
(寿命予測工程)
寿命予測工程S140では、寿命の予測対象である樹脂製品に対して、上記と同一の条件でケミルミネッセンス法による処理を行い、酸化誘導時間を測定する(S141)。予測対象は、製造されてから長期間使用した後の樹脂製品や、長期間保管した後の樹脂製品等、いずれの状態の樹脂製品であってもよい。
当該ケミルミネッセンス法で測定された酸化誘導時間と、上述の第2の検量線とを照らし合わせることで、予測対象中の酸化防止剤量が特定される。さらに、特定された酸化防止剤量と第2の検量線とを照らし合わせることで、予測対象の現在の状態、すなわち、どの加熱劣化促進処理時間に相当するかが明らかとなる。そして、酸化防止剤が0質量%、もしくは予め定めた閾値に到達するまでの加熱劣化促進処理時間から、予測対象の現在の加熱劣化促進処理時間を差し引くことで、凡その寿命(余寿命)を予測可能である(S143)。
なお、閾値の決定方法は特に制限されないが、樹脂の伸びによって決定することが好ましい。
【0033】
3.効果
上述のケミルミネッセンス法による酸化誘導時間(OIT)の測定は、比較的穏やかな条件で、行うことができる。また、当該ケミルミネッセンス法は比較的短時間で行うことができる。したがって、上述の樹脂製品中の酸化防止剤量の予測方法や、樹脂製品の寿命予測方法によれば、樹脂の結晶性変化等を考慮する必要がなく、さらには比較的短時間で精度良く、その酸化防止剤量や寿命を特定可能である。
また特に、絶縁電線の外被等では、酸化防止剤の消失により、十分な伸びが得られなくなり、屈曲等に対して十分な強度が得られないこと等がある。これに対し、上述の酸化防止剤量の予測方法や、寿命予測方法によれば、残存する酸化防止剤の量や外被の寿命を容易に予測できるため、交換時期等を見極めることが可能である。
【実施例0034】
以下、実際に絶縁電線中の外被中の酸化防止剤量および寿命を予測した実施例を示す。
【0035】
(1)(検量線作成用)試料の準備
まず、ポリプロピレンおよび酸化防止剤(フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤との混合物)を含み、酸化防止剤の濃度が0.15質量%である試料、酸化防止剤の量が0.45質量%である試料、酸化防止剤の量が0.75質量%である試料、および酸化防止剤の量が1.5質量%である、4種類の検量線作成用試料を準備した。
【0036】
(2)第1の検量線の作成
上記各試料に対して、ケミルミネッセンスアナライザー(東北電子産業社製)にて、下記条件で、酸化誘導時間を測定した。そして、酸化誘導時間および酸化防止剤濃度に関する第1の検量線を作成した。当該第1の検量線を図4に示す。
(測定条件)
・加熱時の試料室の温度:160℃
・窒素雰囲気での加熱時間:20分
・酸素雰囲気での加熱時間:10~350分(図4参照)
・酸素雰囲気時の酸素流量:50ml/分
【0037】
(3)加熱劣化促進処理
ポリプロピレンおよび酸化防止剤(フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤との混合物)を含み、酸化防止剤の濃度が0.45質量%である(加熱劣化促進用)試料を準備し、これを150℃のオーブン内に入れ、450時間加熱劣化させた。オーブンに入れる前(0時間)、ならびにオーブンに入れてから72時間経過後、168時間経過後、336時間経過後、および408時間経過後に、それぞれ上記検量線作成時と同様の条件で、ケミルミネッセンス法にて当該試料の酸化誘導時間を測定した。このときの結果を図5に示す。
【0038】
(4)第2の検量線の作成
上記第1の検量線に、上記加熱劣化の酸化誘導時間を照らし合わせ、酸化防止剤濃度および加熱劣化促進処理時間に関する第2の検量線を作成した。当該第2の検量線を図6に示す。また、当該検量線の縦軸を対数で表したグラフを図7に示す。
【0039】
(5)予測対象の樹脂製品の酸素濃度および寿命予測
80℃環境で2年間使用した樹脂製品(ポリプロピレンおよび酸化防止剤0.45質量%)を準備した。当該樹脂製品の設計寿命は80℃環境で11年程度を想定しており、当該樹脂製品では酸化防止剤濃度が0.05質量%まで低下し酸化防止剤が消失すると、樹脂の伸びが実質的に0となり、ここが閾値となる。
当該樹脂製品について、ケミルミネッセンス法による処理を行い、酸化誘導時間を測定したところ、30分であった。これを、第1の検量線に照らし合わせたところ、当該樹脂製品における酸化防止剤の濃度は0.2質量%であった(図4)。得られた酸化防止濃度を第2の検量線(縦軸が対数)に照らし合わせたところ、150℃における加熱劣化促進処理時間が130時間相当となり、その余寿命は9年程度であると予測された(図7)。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の樹脂製品中の酸化防止剤量の予測方法、および寿命予測方法によれば、例えば絶縁ケーブル等、各種樹脂製品中の酸化防止剤量やその寿命を予測可能である。したがって、各種産業分野において、非常に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7