(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011518
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】グラウト材注入方法、構造物の補強工法、及びグラウト材注入装置
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20240118BHJP
E04G 19/00 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
E04G23/02 E
E04G19/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113553
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 祐
(72)【発明者】
【氏名】水野 寛之
(72)【発明者】
【氏名】西村 卓也
(72)【発明者】
【氏名】今野 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】有竹 剛
(72)【発明者】
【氏名】阪田 真規
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 裕
(72)【発明者】
【氏名】吉川 将平
【テーマコード(参考)】
2E150
2E176
【Fターム(参考)】
2E150LB04
2E176AA02
2E176BB17
2E176BB28
(57)【要約】
【課題】縦孔へのグラウト材の注入作業が容易となる、グラウト材注入方法を提供する。
【解決手段】縦孔38にグラウト材46を注入するグラウト材注入方法であって、下部口部に設けられた開閉弁20を閉状態としたパイプ状の注入容器16にグラウト材46を投入するグラウト材投入工程と、グラウト材46が投入された注入容器16を縦孔38に挿入する挿入工程と、縦孔38に挿入された注入容器16の開閉弁20を開き、注入容器内のグラウト材46を縦孔38の内部に排出させて縦孔38内にグラウト材46を注入するグラウト材注入工程と、を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦孔にグラウト材を注入するグラウト材注入方法であって、
下部口部に設けられた開閉弁を閉状態としたパイプ状の注入容器に前記グラウト材を投入するグラウト材投入工程と、
グラウト材が投入された前記注入容器を前記縦孔の所定深さまで挿入する挿入工程と、
前記縦孔に挿入された前記注入容器の前記開閉弁を開き、注入容器内の前記グラウト材を前記縦孔内に注入するグラウト材注入工程と、
を有するグラウト材注入方法。
【請求項2】
支持部で支持された構造物の上端面から前記支持部に向けて穿孔し、前記支持部の内部に孔底を有した縦孔を形成する挿入孔形成工程と、
下部口部に設けられた開閉弁を閉状態としたパイプ状の注入容器にグラウト材を投入するグラウト材投入工程と、
前記注入容器を前記縦孔の所定高さまで挿入する挿入工程と、
前記縦孔に挿入された前記注入容器の前記開閉弁を開き、注入容器内の前記グラウト材を前記縦孔内に注入するグラウト材注入工程と、
前記注入容器を前記縦孔から取り出して、前記縦孔に棒材を挿入し、前記棒材の下部を前記グラウト材の中へ埋設する定着工程と、
前記グラウト材が固化した後、前記棒材に緊張力を付与し前記棒材の上部を前記構造物の上端面に固定するプレストレス工程と、
を有する構造物の補強工法。
【請求項3】
グラウト材を入れて縦孔に挿入するためのパイプ状の注入容器と、
前記注入容器の下端に設けられた開閉弁と、
前記開閉弁を前記注入容器の上端側で操作可能とする操作部材と、
を備えたグラウト材注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラウト材注入方法、構造物の補強工法、及びグラウト材注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物に形成された穴にグラウト材を注入する方法が、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のグラウト充填方法では、コンクリート壁体内に設けられたロッド引抜き穴の底部にホースを挿入し、ホースを介してグラウト注入用の圧入ポンプからグラウト材をロッド引抜き穴に注入している。
【0005】
しかしながら、圧入ポンプを使用するため、施工現場への圧入ポンプの搬送、セッティング、電源の確保など、作業が煩雑となり、改善の余地があった。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、縦孔へのグラウト材の注入作業が容易となる、グラウト材注入方法、構造物の補強工法、及びグラウト材注入装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、縦孔にグラウト材を注入するグラウト材注入方法であって、
下部口部に設けられた開閉弁を閉状態としたパイプ状の注入容器に前記グラウト材を投入するグラウト材投入工程と、グラウト材が投入された前記注入容器を前記縦孔の所定深さまで挿入する挿入工程と、前記縦孔に挿入された前記注入容器の前記開閉弁を開き、注入容器内の前記グラウト材を前記縦孔内に注入するグラウト材注入工程と、を有する。
【0008】
請求項1に記載のグラウト材注入方法は、縦孔にグラウト材を注入するグラウト材注入方法である。先ず、グラウト材投入工程において、下部口部に設けられた開閉弁を閉状態とした注入容器にグラウト材を投入する。
なお、グラウト材投入工程は、地上で行ってもいいし、縦孔に注入容器を挿入して吊した状態で行ってもよい。
挿入工程では、グラウト材が投入された注入容器を縦孔の所定深さまで挿入する。
グラウト材注入工程では、下部口部に設けられた開閉弁を開放して、注入容器内のグラウト材を縦孔内に注入する。
このように、請求項1に記載のグラウト材注入方法では、圧入ポンプを用いて縦孔にグラウト材を注入する方法に比較して、容易にグラウト材を縦孔に注入することができ、また、注入量を注入容器にグラウトを注入するときに調整できる。
【0009】
請求項2に記載の構造物の補強工法は、支持部で支持された構造物の上端面から前記支持部に向けて穿孔し、前記支持部の内部に孔底を有した縦孔を形成する挿入孔形成工程と、
下部口部に設けられた開閉弁を閉状態としたパイプ状の注入容器にグラウト材を投入するグラウト材投入工程と、前記注入容器を前記縦孔の所定高さまで挿入する挿入工程と、前記縦孔に挿入された前記注入容器の前記開閉弁を開き、注入容器内の前記グラウト材を前記縦孔内に注入するグラウト材注入工程と、前記注入容器を前記縦孔から取り出して、前記縦孔に棒材を挿入し、前記棒材の下部を前記グラウト材の中へ埋設する定着工程と、前記グラウト材が固化した後、前記棒材に緊張力を付与し前記棒材の上部を前記構造物の上端面に固定するプレストレス工程と、を有する。
【0010】
請求項2に記載の構造物の補強工法は、挿入孔形成工程で、構造物の上端面から支持部に向けて穿孔し、支持部の内部に孔底を有した縦孔を形成する。
【0011】
グラウト材投入工程では、下部口部に設けられた開閉弁を閉状態とした注入容器にグラウト材を投入する。
【0012】
挿入工程では、グラウト材を投入した注入容器を縦孔に挿入する。
【0013】
グラウト材注入工程では、縦孔に挿入された注入容器の開閉弁を開き、注入容器内のグラウト材を支持部に形成された縦孔内に注入する。
【0014】
定着工程では、縦孔に棒材を挿入し、棒材の下部を支持部に定着する。
【0015】
プレストレス工程では、グラウト材の硬化後、棒材に緊張力を付与し、棒材の上部を構造物の上端面に固定する。
【0016】
このように、請求項2に記載の構造物の補強工法では、圧入ポンプを用いて縦孔にグラウト材を注入する方法に比較して、容易に適量のグラウト材を縦孔に注入することができる。
【0017】
請求項3に記載のグラウト材注入装置は、グラウト材を入れて縦孔に挿入するためのパイプ状の注入容器と、前記注入容器の下端に設けられた開閉弁と、前記開閉弁を前記注入容器の上端側で操作可能とする操作部材と、を備えている。
【0018】
請求項3に記載のグラウト材注入装置は、グラウト材を入れて縦孔に挿入するためのパイプ状の注入容器を備えており、注入容器の下端には開閉弁が設けられている。また、グラウト材注入装置は、開閉弁を注入容器の上端側で操作可能とする操作部材を備えている。
【0019】
このため、注入容器の下端に設けられた開閉弁を閉状態とし、開閉弁を下方に向けた注入容器にグラウト材を投入し、グラウト材を投入した注入容器を縦孔に挿入してから開閉弁を開状態にすると、注入容器内のグラウト材が縦孔内に注入される。
【0020】
開閉弁を下端に設けた注入容器でグラウト材を縦孔に注入できるので、圧入ポンプを用いて縦孔にグラウト材を注入する場合に比較して、容易に適量のグラウト材を縦孔に注入することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明のグラウト材注入方法、構造物の補強工法、及びグラウト材注入装置によれば、縦孔へのグラウト材の注入作業が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係るグラウト材注入方法を適用する構造物を示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るグラウト材注入装置を示す断面図である。
【
図3】(A)はレンガ壁及びコンクリート基礎に縦孔を形成する様子を示す構造物の断面図であり、(B)は縦孔の一部に拡径部を形成する様子を示す構造物の断面図である。
【
図4】縦孔に挿入したグラウト材注入装置を示すグラウト材注入装置、及び構造物の断面図である。
【
図5】縦孔に挿入したグラウト材注入装置を示す構造物の断面図である。
【
図6】縦孔に注入したグラウト材、及び縦孔に挿入したPC鋼棒を示す構造物の断面図である。
【
図7】(A)はPC鋼棒の上部付近を示す側面図であり、(B)はPC鋼棒の下部付近を示す側面図である。
【
図8】グラウト材に埋設されたPC鋼棒の下部付近を示すコンクリート基礎の断面図である。
【
図9】第2の実施形態に係るグラウト材注入装置の下部付近を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1の実施形態]
以下に、本発明の第1の実施形態に係る構造物の補強工法について説明する。
図1には、本実施形態の構造物の補強工法を適用する構造物の一例としてのレンガ壁10が示されている。
【0024】
構造物の一例としてのレンガ壁10は、支持部の一例としてのコンクリート基礎14の上部に構築されている。
本実施形態のコンクリート基礎14は、一例として地盤Gに埋設されている。
レンガ壁10は、
図1、及び
図4に示すように、組積材としてのレンガ10Aを積み上げて造られている。レンガ10Aとレンガ10Aとの目地には目地材(モルタル、グラウト材)11が充填されている。
【0025】
図2には、本実施形態の構造物の補強工法に用いるグラウト材注入装置12が断面図にて示されている。
図2に示すように、グラウト材注入装置12は、パイプ状(筒状)の注入容器16を備えている。注入容器16は、合成樹脂、金属等で形成することができる。なお、本実施形態の注入容器16は、一例として透明な合成樹脂で形成されている。注入容器16は、一例として、市販のアクリルパイプを用いることができる。
【0026】
注入容器16の下端部分、及び上端部分は、各々先細りのテーパー状に形成されている。
注入容器16の上端部分には、注入容器吊下げ用ワイヤー18が取り付けられている。
注入容器16の内部には、注入容器16の一定径部分で、かつテーパー状に形成された部分の上側に、開閉弁20が設けられている。
【0027】
本実施形態の開閉弁20は、弁座部材22と、球弁24とを含んで構成されている。弁座部材22は、一例として、円環状、かつ一定厚さの合成樹脂で形成されている。弁座部材22は、注入容器16の一定径部分の下端側にネジ止めされている。なお、弁座部材22は、接着剤で注入容器16に固定してもよい。
【0028】
弁座部材22の中央部には円形の弁孔26が開口している。球弁24は、一例として、ステンレススチール等の金属で形成された球体である。球弁24の外径dは、弁孔26の内径Dよりも大径とされている。
【0029】
球弁24は、以下に説明するように、操作部材としての球弁吊下げ用ワイヤー28で吊下げ可能となっている。
球弁24には、金属製のアイボルト30が取り付けられており、このアイボルト30には、ヨリ戻し32を介して球弁吊下げ用ワイヤー28が取り付けられている。
【0030】
[構造物の補強工法]
次に、
図3、乃至
図8を用いて本実施形態の構造物の補強工法について説明する。
本実施形態の構造物の補強工法では、
図1に示すレンガ壁10の補強を行う。
【0031】
(1)挿入孔形成工程
先ず、
図3(A)に示すように、コアマシン34のドリル36でレンガ壁10の上端外面からコンクリート基礎14に向けて、レンガ壁10及びコンクリート基礎14に挿入孔としての縦孔38を穿孔する。なお、縦孔38は、コンクリート基礎14の内部に孔底を有するように、コンクリート基礎14を貫通しないように穿孔する。
なお、縦孔38の穿孔中、及び穿孔後、縦孔38の内部の切削屑は集塵機等を用いて除去する。
本実施形態では、適宜、レンガ壁10に形成された縦孔38をレンガ壁縦孔38A、コンクリート基礎14に形成された縦孔38をコンクリート基礎縦孔38Bと呼ぶ。
【0032】
(2)拡径工程
ドリル36を縦孔38から引き抜いてコアマシン34の掘削ロッド40からドリル36を外し、
図3(B)に示すように、掘削ロッド40の先端に孔拡径装置42を取り付け、孔拡径装置42をコンクリート基礎14に形成されたコンクリート基礎縦孔38Bの所定位置に挿入する。
【0033】
孔拡径装置42は、コンクリート基礎縦孔38Bに拡径部38Baを形成するための刃44が径方向外側へ突出可能に設けられており、孔拡径装置42を回転させつつ刃44を徐々に突出させることで、コンクリート基礎縦孔38Bの内周面が切削され、コンクリート基礎縦孔38Bの一部に拡径部38Baが形成される。
【0034】
孔拡径装置42としては、一例として、特開2019-78159号公報に開示の孔拡径装置、その他を用いることができる。なお、縦孔38の内周面を切削している間に、図示しない吸引装置で縦孔38の中の切削屑を集塵機等を用いて除去する。
【0035】
(3)グラウト材投入工程
図2に示すように、開閉弁20が下側になるようにグラウト材注入装置12を縦にして、球弁吊下げ用ワイヤー28で支持した球弁24を注入容器16の内部に降ろし、球弁24で弁座部材22の弁孔26を塞ぎ、開閉弁20を閉状態とする。次に、開閉弁20を閉状態とした注入容器16の内部に、予め決められた量のグラウト材46を投入する。
【0036】
本実施形態の構造物の補強工法では、コンクリート基礎14に形成されたコンクリート基礎縦孔38Bの内部に、グラウト材46を注入し、レンガ壁10に形成されたレンガ壁縦孔38Aの内部には、グラウト材46を注入しない。このため、コンクリート基礎縦孔38Bの容積を予め計算し(断面積×深さ+拡径部の容積)、コンクリート基礎縦孔38Bに注入するグラウト材46を計量して、計量したグラウト材46を注入容器16の内部に投入する。
【0037】
(4)挿入工程
図4に示すように、グラウト材46が投入された注入容器16を注入容器吊下げ用ワイヤー18で吊下げ、縦孔38の所定深さまで挿入する。
ここで、本実施形態における所定深さとは、
図5に示すように、注入容器16の下端がコンクリート基礎縦孔38Bの上端よりも若干上側となる深さのことである。注入容器16の下端が、コンクリート基礎縦孔38Bの上端よりも若干上側の位置(予め設定した深さ位置)に至ったら注入容器16の下降を停止し、その位置を維持する。
【0038】
なお、グラウト材注入装置12の注入容器吊下げ用ワイヤー18に沿って検尺テープを固定し、検尺テープの目盛を読むことで縦孔38の内部の注入容器16の位置(深さ)を把握することができる。なお、注入容器吊下げ用ワイヤー18の代わりに検尺テープで注入容器16を吊り下げてもよい。
【0039】
(5)グラウト材注入工程
グラウト材注入工程では、球弁吊下げ用ワイヤー28を引き上げ、球弁24を弁座部材22から離間させ、注入容器16の内部のグラウト材46を弁孔26からコンクリート基礎縦孔38Bの内部に自然落下させる。
【0040】
その後、所定時間をおいて注入容器16の内部のグラウト材46がコンクリート基礎縦孔38Bの内部に注入されたら、注入容器16を引き上げて注入容器16を縦孔38の外部に取り出す。
【0041】
(6)棒材挿入工程
棒挿入工程では、
図6に示すように、棒材としてのPC鋼棒48を、縦孔38に挿入する。
図7(A),(B)に示すように、PC鋼棒48は、上端側に雄螺子48Aが加工され、下端側に雄螺子48Bが加工されている。PC鋼棒48の下端側には、定着部材50が雄螺子48Bに捩じ込まれて取り付けられている。なお、定着部材50の径は、縦孔38の内径よりも若干小径である。
【0042】
この棒材挿入工程では、PC鋼棒48の下端を縦孔38の底部に突き当て,コンクリート基礎14の縦孔38に注入されたグラウト材46に、定着部材50の設けられたPC鋼棒48の下端側を埋設する。
【0043】
図8に示すように、定着部材50は、拡径部38Baよりも底側のコンクリート基礎縦孔38Bに配置され、
図7(A)に示すように、PC鋼棒48の上端側は、一部分(雄螺子48Bの形成されている部分)がレンガ壁10の上面よりも突出される。
【0044】
そして、
図7(A)に示すように、レンガ壁10の上面をレベル調整用均しモルタル53で均し、その上に上部固定部材52を配置する。上部固定部材52は、一例として、レンガ壁10の長手方向に沿って長尺状に形成された帯状の鋼板(一例として平鋼)、H形鋼、L字鋼、溝型鋼等の種々の形鋼を用いることができる。
【0045】
上部固定部材52には、PC鋼棒48を貫通する孔54が形成されており、この孔54にPC鋼棒48の上端側を貫通させる。その後、PC鋼棒48の上端に形成された雄螺子48Aにナット56を螺合し、PC鋼棒48を縦孔38の中心に垂直に位置決めする。
【0046】
(7)定着工程
その後、コンクリート基礎14の縦孔38とPC鋼棒48の端部との間に介在したグラウト材46が固化するまで放置する。グラウト材46が固化することで、PC鋼棒48がコンクリート基礎14に定着(固着)される(定着工程)。
【0047】
(8)プレストレス工程
PC鋼棒48の定着後、PC鋼棒48の雄螺子48Aに螺合したナット56を、工具を用いて締め付ける。
【0048】
ナット56を締め付けることで、PC鋼棒48は、上端部(レンガ壁10側の端部)がレンガ壁10の上端外面に固定されるとともに、ナット56とコンクリート基礎14に定着された下端側との間でプレストレス(緊張力)が付与される。すなわち、コンクリート基礎14と上部固定部材52とでレンガ壁10が上下方向に挟持されてレンガ壁10に圧縮力が付与される。
【0049】
本実施形態の構造物の補強工法によれば、上記の工程を経ることでレンガ壁10が上下方向に挟持されて圧縮され、レンガ10Aとレンガ10Aとの間の目地せん断強度が向上し、レンガ壁10の水平力に対する抵抗力(耐震性能)が向上する。
【0050】
また、本実施形態のグラウト材注入方法によれば、グラウト材46の注入に圧入ポンプを用いないので、施工現場への圧入ポンプの搬送、圧入ポンプのセッティング、電源の確保などの煩雑な作業が不要となり、圧入ポンプを用いる場合に比較して、コンクリート基礎14の縦孔38に対して容易に適量のグラウト材46を注入することができる。
【0051】
[グラウト材注入装置12の変形例]
以下に、グラウト材注入装置12の変形例について説明する。なお、第1の実施形態と同一構成には同一符号を付し、その説明は省略する。
図9に示すように、本実施形態のグラウト材注入装置12では、注入容器16の下部に、テーパー形状の弁座部材60が取り付けられている。
【0052】
弁座部材60は、合成樹脂等で形成され、注入容器16の外径と同径の一定径部60Aと、一定径部60Aの上側に設けられ、注入容器16に挿入される小径部60Bと、一定径部60Aの下側に設けられる先細り形状のテーパー部60Cを備えている。
【0053】
弁座部材60には、小径部60B側からテーパー部60C側に向けて孔62が形成されており、孔62の底部側には、テーパー部60Cの外周面に抜ける横孔64が一対形成されている。
【0054】
また、孔62の開口部分には、環状凹部62Aが形成されており、この環状凹部62Aにゴムなどの弾性体からなるパッキン66が嵌め込まれて固定されている。なお、パッキン66には、球弁24と接触する部位が面取加工されている。
【0055】
本実施形態では、球弁24が弾性体からなるパッキン66に当接するので、パッキン66が設けられていない場合に比較して、閉弁時において、高い密着性が得られる。
なお、注入容器16の内部のグラウト材46(
図9では図示せず)は、矢印Aで示すように、横孔64から径方向外側へ排出される。
【0056】
[その他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0057】
上記実施形態では、構造物の一例として、レンガ壁10を挙げたが、本発明はこれに限らず、一例として、石、コンクリートブロックなどを積み上げた組積構造物であってもよい。
【0058】
図8に示す拡径部38Baの形状は一例であり、拡径部38Baは、
図8に示す形状とは異なる形状であってもよい。また、コンクリート基礎縦孔38Bに、上下方向に沿って拡径部38Baを複数形成してもよい。
【0059】
図7(B)に示す定着部材50は一例であり、定着部材50は、
図7(B)に示すとは異なる形状であってもよい。
【0060】
なお、グラウト材46が落下し易く、また、グラウト材46が注入容器16の内面に付着したまま残らない様に、注入容器16の内面に、撥水性を有するシリコーン系、またはフッ素系の撥水コーティングを施してもよく、注入容器16の材料を、シリコーン、またはフッ素等を含んだ撥水性を有する樹脂材料としてもよい。
【符号の説明】
【0061】
10 レンガ壁(構造物)
12 グラウト材注入装置
14 コンクリート基礎(支持部)
16 注入容器
20 開閉弁
28 球弁吊下げ用ワイヤー(操作部材)
38 縦孔
38A レンガ壁縦孔
38B コンクリート基礎縦孔
46 グラウト材
48 PC鋼棒(棒材)