(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115182
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】二酸化炭素選択透過膜、二酸化炭素選択透過膜の製造方法、二酸化炭素分離装置、および、二酸化炭素分離方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/22 20060101AFI20240819BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240819BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240819BHJP
B01D 71/40 20060101ALI20240819BHJP
B01D 71/06 20060101ALI20240819BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20240819BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20240819BHJP
【FI】
B01D53/22
B01D69/00 500
B01D69/02
B01D71/40
B01D71/06
B01D71/56
C01B32/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020729
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】道幸 立樹
(72)【発明者】
【氏名】影山 洸
(72)【発明者】
【氏名】神尾 英治
(72)【発明者】
【氏名】川端 真帆
(72)【発明者】
【氏名】松山 秀人
【テーマコード(参考)】
4D006
4G146
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA01
4D006HA61
4D006JA14Z
4D006JA18Z
4D006JA51Z
4D006JA53Z
4D006JA70Z
4D006KA16
4D006KE06R
4D006KE13R
4D006MA01
4D006MA03
4D006MB04
4D006MB16
4D006MC07X
4D006MC30
4D006MC36
4D006MC54X
4D006NA41
4D006PA01
4D006PB17
4D006PB18
4D006PB19
4D006PB20
4D006PB64
4G146JA02
4G146JC12
4G146JC17
4G146JC39
4G146JD03
(57)【要約】
【課題】耐圧性を向上する。
【解決手段】二酸化炭素選択透過膜120は、架橋された高分子によって形成される3次元ネットワーク構造内にイオン液体が取り込まれたイオンゲルを備え、架橋された高分子は、2以上のアミノ基を官能基として有する高分子がアミド結合によって架橋されたものであり、イオン液体は、イミダゾリウム型カチオンおよびアセテート型アニオンを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋された高分子によって形成される3次元ネットワーク構造内にイオン液体が取り込まれたイオンゲルを備え、
前記架橋された高分子は、2以上のアミノ基を官能基として有する高分子がアミド結合によって架橋されたものであり、
前記イオン液体は、イミダゾリウム型カチオンおよびアセテート型アニオンを含む、二酸化炭素選択透過膜。
【請求項2】
前記イオン液体は、アミノ基を有するイオンを含まない、請求項1に記載の二酸化炭素選択透過膜。
【請求項3】
前記イオン液体は、イミダゾリウム型カチオンおよびアセテート型アニオンのみからなる、請求項1に記載の二酸化炭素選択透過膜。
【請求項4】
前記高分子は、ポリアクリル酸を含む、請求項1に記載の二酸化炭素選択透過膜。
【請求項5】
前記高分子は、こはく酸イミドを官能基として有するポリジメチルアクリルアミドである、請求項1に記載の二酸化炭素選択透過膜。
【請求項6】
高分子と、架橋剤と、イオン液体とを混合して混合液を生成する工程と、
前記混合液中で前記架橋剤による前記高分子の架橋反応を進行させる工程と、
を含み、
前記高分子は、2以上のアミノ基を官能基として有し、
前記架橋剤は、2以上のアミノ基を有し、
前記イオン液体は、イミダゾリウム型カチオンおよびアセテート型アニオンを含む、二酸化炭素選択透過膜の製造方法。
【請求項7】
前記架橋剤は、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテルである、請求項6に記載の二酸化炭素選択透過膜の製造方法。
【請求項8】
二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離装置であって、
架橋された高分子によって形成される3次元ネットワーク構造内にイオン液体が取り込まれたイオンゲルを有する二酸化炭素選択透過膜を備え、
前記架橋された高分子は、2以上のアミノ基を官能基として有する高分子がアミド結合によって架橋されたものであり、
前記イオン液体は、イミダゾリウム型カチオンおよびアセテート型アニオンを含む、二酸化炭素分離装置。
【請求項9】
前記二酸化炭素選択透過膜の前後の圧力差を400kPa以上とする圧力差生成機構を備える、請求項8に記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項10】
二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離方法であって、
架橋された高分子によって形成される3次元ネットワーク構造内にイオン液体が取り込まれたイオンゲルを有する二酸化炭素選択透過膜を用いて、前記混合ガスから二酸化炭素を分離する工程を含み、
前記架橋された高分子は、2以上のアミノ基を官能基として有する高分子がアミド結合によって架橋されたものであり、
前記イオン液体は、イミダゾリウム型カチオンおよびアセテート型アニオンを含む、二酸化炭素分離方法。
【請求項11】
前記分離する工程において、前記二酸化炭素選択透過膜の前後の圧力差を400kPa以上とする、請求項10に記載の二酸化炭素分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を選択的に透過する二酸化炭素選択透過膜、二酸化炭素選択透過膜の製造方法、二酸化炭素分離装置、および、二酸化炭素分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化を防止するために、排気ガス等の、二酸化炭素(CO2)を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する技術が利用されている。混合ガスから二酸化炭素を分離する技術として、化学吸収法、および、膜分離法が開発されている。
【0003】
化学吸収法では、二酸化炭素を吸収液に吸収させた後、二酸化炭素が吸収された吸収液を加熱して再生する。このため、化学吸収法では、吸収液の再生に莫大なエネルギーが消費されてしまうという問題がある。
【0004】
一方、膜分離法は、混合ガスの収容部と二酸化炭素の収容部とを膜で仕切り、混合ガスの収容部の圧力を二酸化炭素の収容部よりも高くする。これにより、混合ガスに含まれる二酸化炭素が膜を透過し、混合ガスの収容部から二酸化炭素の収容部へ二酸化炭素が移動する。このように、膜分離法は、二酸化炭素の分離の駆動エネルギーとして圧力差のみを用いている。したがって、膜分離法のエネルギー消費量は、化学吸収法と比較して少ない。
【0005】
膜分離法として、多孔質膜にイオン液体が含浸された二酸化炭素選択透過膜を用いて、混合ガスから二酸化炭素を分離する技術が開示されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6245607号公報
【特許文献2】特許第6431481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記膜分離法では、膜を介した圧力差が大きいほど、単位時間あたりに分離できる二酸化炭素の量が多い。このため、耐圧性を向上させた二酸化炭素選択透過膜の開発が希求されている。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、耐圧性を向上することが可能な二酸化炭素選択透過膜、二酸化炭素選択透過膜の製造方法、二酸化炭素分離装置、および、二酸化炭素分離方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の二酸化炭素選択透過膜は、架橋された高分子によって形成される3次元ネットワーク構造内にイオン液体が取り込まれたイオンゲルを備え、架橋された高分子は、2以上のアミノ基を官能基として有する高分子がアミド結合によって架橋されたものであり、イオン液体は、イミダゾリウム型カチオンおよびアセテート型アニオンを含む。
【0010】
また、イオン液体は、アミノ基を有するイオンを含まなくてもよい。
【0011】
また、イオン液体は、イミダゾリウム型カチオンおよびアセテート型アニオンのみからなってもよい。
【0012】
また、高分子は、ポリアクリル酸を含んでもよい。
【0013】
また、高分子は、こはく酸イミドを官能基として有するポリジメチルアクリルアミドであってもよい。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の二酸化炭素選択透過膜の製造方法は、高分子と、架橋剤と、イオン液体とを混合して混合液を生成する工程と、混合液中で架橋剤による高分子の架橋反応を進行させる工程と、を含み、高分子は、2以上のアミノ基を官能基として有し、架橋剤は、2以上のアミノ基を有し、イオン液体は、イミダゾリウム型カチオンおよびアセテート型アニオンを含む。
【0015】
また、架橋剤は、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテルであってもよい。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の二酸化炭素分離装置は、二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離装置であって、架橋された高分子によって形成される3次元ネットワーク構造内にイオン液体が取り込まれたイオンゲルを有する二酸化炭素選択透過膜を備え、架橋された高分子は、2以上のアミノ基を官能基として有する高分子がアミド結合によって架橋されたものであり、イオン液体は、イミダゾリウム型カチオンおよびアセテート型アニオンを含む。
【0017】
また、二酸化炭素分離装置は、二酸化炭素選択透過膜の前後の圧力差を400kPa以上とする圧力差生成機構を備えてもよい。
【0018】
上記課題を解決するために、本発明の二酸化炭素分離方法は、二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離方法であって、架橋された高分子によって形成される3次元ネットワーク構造内にイオン液体が取り込まれたイオンゲルを有する二酸化炭素選択透過膜を用いて、混合ガスから二酸化炭素を分離する工程を含み、架橋された高分子は、2以上のアミノ基を官能基として有する高分子がアミド結合によって架橋されたものであり、イオン液体は、イミダゾリウム型カチオンおよびアセテート型アニオンを含む。
【0019】
また、分離する工程において、二酸化炭素選択透過膜の前後の圧力差を400kPa以上としてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、耐圧性を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る二酸化炭素分離装置を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る二酸化炭素分離方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】本発明の一実施形態に係る二酸化炭素選択透過膜の製造方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図4】実施例および比較例の、圧力差と二酸化炭素透過性能との関係を示すグラフである。
【
図5】実施例および比較例の、圧力差と、窒素に対する二酸化炭素の選択性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0023】
[二酸化炭素分離装置100の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る二酸化炭素分離装置100を模式的に示す図である。
図1において、実線の矢印は、混合ガスMG1、MG2、スイープガスSG、および、排出ガスEGの流れを示す。また、
図1において、破線の矢印は、二酸化炭素(CO
2)の流れを示す。
【0024】
図1に示すように、二酸化炭素分離装置100は、透過セル110と、二酸化炭素選択透過膜120と、混合ガス供給部130と、スイープガス供給部140とを含む。
【0025】
透過セル110は、中空の容器である。透過セル110の内部には空間112が形成される。二酸化炭素選択透過膜120は、透過セル110の空間112に設けられる。透過セル110の空間112は、二酸化炭素選択透過膜120によって、混合ガス収容部114と、透過ガス収容部116とに仕切られる。つまり、混合ガス収容部114に二酸化炭素選択透過膜120の表面(前)が位置し、透過ガス収容部116に二酸化炭素選択透過膜120の裏面(後)が配される。
【0026】
二酸化炭素選択透過膜120は、混合ガスに含まれる二酸化炭素を選択的に透過する膜である。二酸化炭素選択透過膜120の具体的な構成は、後に詳しく述べる。
【0027】
混合ガス供給部130(圧力差生成機構)は、混合ガス収容部114に混合ガスMG1を供給する。混合ガス供給部130は、例えば、ブロワである。混合ガス供給部130として機能するブロワの吸入側は、混合ガスMG1の供給源(図示せず。)に接続され、吐出側は混合ガス収容部114の入口114aに接続される。混合ガス供給部130として機能するブロワは、混合ガスMG1の供給源から混合ガス収容部114へ混合ガスMG1を送出する。
【0028】
混合ガスMG1は、少なくとも二酸化炭素を含むガスである。混合ガスMG1は、例えば、大気、排気ガス、改質ガス、または、バイオガスであってよい。排気ガスは、例えば、化石燃料等の炭化水素を燃焼させることで生じる燃焼排ガスである。改質ガスは、例えば、化石燃料等の炭化水素を水蒸気改質することで得られるガスである。バイオガスは、生物の排泄物、有機肥料、生分解性物質、汚泥、汚水、有機廃棄物、植物等を発酵したり、嫌気性消化したりすることで得られるガスである。
【0029】
スイープガス供給部140(圧力差生成機構)は、透過ガス収容部116にスイープガスSGを供給する。スイープガス供給部140は、例えば、ブロワ、または、ボンベである。スイープガス供給部140として機能するブロワの吸入側は、スイープガスSGの供給源(図示せず。)に接続され、吐出側は透過ガス収容部116の入口116aに接続される。スイープガス供給部140として機能するブロワは、スイープガスSGの供給源から透過ガス収容部116へスイープガスSGを送出する。また、スイープガス供給部140として機能するボンベは、スイープガスSGを透過ガス収容部116よりも高圧で貯留する高圧ガス容器である。スイープガス供給部140として機能するボンベは、透過ガス収容部116の入口116aに接続される。
【0030】
スイープガスSGは、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスである。
【0031】
混合ガス供給部130およびスイープガス供給部140は、混合ガス収容部114の圧力が透過ガス収容部116の圧力よりも高くなるように混合ガスMG1、スイープガスSGを供給する。例えば、混合ガス供給部130およびスイープガス供給部140は、混合ガス収容部114の圧力が透過ガス収容部116の圧力よりも400kPa以上高くなるように混合ガスMG1、スイープガスSGを供給する。
【0032】
[二酸化炭素分離装置100の動作]
続いて、二酸化炭素分離装置100の動作について説明する。混合ガス供給部130によって、混合ガス収容部114に混合ガスMG1が供給されると、混合ガスMG1に含まれるガスのうち、二酸化炭素が、優先的に二酸化炭素選択透過膜120を透過して透過ガス収容部116側に移動する。透過ガス収容部116に移動した二酸化炭素は、スイープガスSGとともに排出ガスEGとして透過ガス収容部116の出口116bから外部へ排出される。このようにして、二酸化炭素選択透過膜120によって、混合ガスMG1から二酸化炭素が分離される。
【0033】
排出ガスEGとして排出された二酸化炭素は、例えば、水素と混合され、メタネーション反応によってメタンに変換される。また、混合ガスMG1から二酸化炭素が取り除かれた混合ガスMG2は、混合ガス収容部114の出口114bから外部へ排出される。
【0034】
[二酸化炭素分離方法]
続いて、二酸化炭素分離装置100を用いた二酸化炭素分離方法について説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る二酸化炭素分離方法の処理の流れを示すフローチャートである。
図2に示すように、本実施形態に係る二酸化炭素分離方法は、混合ガス供給工程S110と、スイープガス供給工程S120とを含む。
【0035】
[混合ガス供給工程S110]
混合ガス供給工程S110は、混合ガス供給部130によって、混合ガス収容部114に混合ガスMG1を供給する工程である。
【0036】
[スイープガス供給工程S120]
スイープガス供給工程S120は、スイープガス供給部140によって、透過ガス収容部116にスイープガスSGを供給する工程である。
【0037】
混合ガス供給工程S110およびスイープガス供給工程S120を行うことにより、混合ガスMG1に含まれる二酸化炭素が、二酸化炭素選択透過膜120を優先的に透過して透過ガス収容部116側に移動する。そして、透過ガス収容部116に移動した二酸化炭素は、排出ガスEGとして透過ガス収容部116の出口116bから外部へ排出される。このようにして、二酸化炭素を選択的に透過する二酸化炭素選択透過膜120によって、混合ガスMG1から二酸化炭素が分離される。
【0038】
[二酸化炭素選択透過膜120]
続いて、本実施形態に係る二酸化炭素選択透過膜120について説明する。二酸化炭素選択透過膜120は、二酸化炭素を含む混合ガスMG1のうち、二酸化炭素を優先的に透過させる膜である。本実施形態に係る二酸化炭素選択透過膜120は、イオンゲルを備える。イオンゲルは、架橋された高分子によって形成される3次元ネットワーク構造内にイオン液体が取り込まれたゲルである。イオンゲルは、イオノゲル、イオン液体ゲル、イオン液体含有ゲルとも呼ばれる。
【0039】
架橋された高分子は、2以上のアミノ基を官能基として有する複数の高分子がアミド結合によって架橋されたものである。架橋前の高分子は、例えば、2以上のアミノ基を官能基として有し、ポリアクリル酸を含むことが好ましい。高分子は、例えば、アクリル酸を共重合させた高分子であってもよい。高分子がポリアクリル酸を含むことにより、架橋された高分子によるイオン液体の保持力を向上させることができる。本実施形態に係る高分子は、例えば、こはく酸イミドを官能基として有するポリジメチルアクリルアミドであってもよい。
【0040】
イオン液体は、二酸化炭素を促進輸送させるイオンを含む。二酸化炭素を促進輸送させるイオンは、イミダゾリウム型カチオンおよびアセテート型アニオンである。イミダゾリウム型カチオンおよびアセテート型アニオンは、二酸化炭素と化学的に反応する。このため、イオン液体が、イミダゾリウム型カチオンおよびアセテート型アニオンを含むことにより、二酸化炭素を化学的に吸収することができる。具体的に説明すると、イミダゾリウム型カチオンおよびアセテート型アニオンを含むイオン液体は、下記scheme1に示す反応式に従い、二酸化炭素を化学的に吸収する。
【0041】
【0042】
また、イオン液体は、アミノ基を有するイオンを含まないことが好ましい。アミノ基を有するイオンは、アミノ基を官能基とする架橋剤を用いた架橋性高分子間の架橋反応を阻害したり、ラジカル重合反応による高分子ネットワークの生長反応を阻害したりする。このため、アミノ基を有するイオンは、本実施形態に係るイオンゲルを製造する際の架橋反応を阻害する。したがって、本実施形態に係るイオン液体がアミノ基を有するイオンを含まないことにより、イオンゲルの製造(高分子の架橋)が阻害されてしまう事態を回避することができる。
【0043】
また、本実施形態において、イオン液体は、イミダゾリウム型カチオンおよびアセテート型アニオンのみからなってもよい。これにより、イオン液体が二酸化炭素を効率よく吸収することができる。
【0044】
[二酸化炭素選択透過膜120の製造方法]
続いて、本実施形態に係る二酸化炭素選択透過膜120の製造方法について説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る二酸化炭素選択透過膜120の製造方法の処理の流れを示すフローチャートである。
図3に示すように、本実施形態に係る二酸化炭素選択透過膜120の製造方法は、混合液生成工程S210と、架橋反応工程S220とを含む。
【0045】
[混合液生成工程S210]
混合液生成工程S210は、高分子と、架橋剤と、イオン液体とを混合して混合液を生成する工程である。高分子は、2以上のアミノ基を架橋反応性官能基として有する高分子である。イオン液体は、イミダゾリウム型カチオンおよびアセテート型アニオンを含む。
【0046】
架橋剤は、高分子を架橋する機能を有する。本実施形態において、架橋剤は、2以上のアミノ基を有する。これにより、高分子同士を架橋することができる。また、架橋剤は、例えば、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテルであることが好ましい。ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテルは、イオン液体との親和性が高く、イオン液体へ容易に溶解することができる。したがって、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテルを架橋剤とすることにより、イオンゲルを容易に製造することが可能となる。
【0047】
[架橋反応工程S220]
架橋反応工程S220は、上記混合液生成工程S210を行うことによって生成された混合液中で架橋剤による高分子の架橋反応(アミド結合形成反応)を進行させる工程である。架橋反応工程S220は、例えば、混合液を60℃程度に加熱して、脱水処理を行うことによって、架橋反応を進行させる。
【0048】
混合液生成工程S210および架橋反応工程S220を行うことにより、架橋された高分子によって形成される3次元ネットワーク構造内にイオン液体が取り込まれたイオンゲルを備える二酸化炭素選択透過膜120が製造される。
【0049】
以上説明したように、本実施形態に係る二酸化炭素選択透過膜120は、架橋された高分子によって形成される3次元ネットワーク構造内にイオン液体が取り込まれたイオンゲル、つまり、イオン液体がゲル化されたイオンゲルを備える。
【0050】
従来の二酸化炭素選択透過膜は、ゲル化されていないイオン液体が多孔質膜に含浸されているだけである。つまり、従来の二酸化炭素選択透過膜では、イオン液体が、キャピラリー力によってのみ多孔質膜の細孔内に保持されている。このため、膜の前後の圧力差が大きすぎると、多孔質膜の孔からイオン液体が流出し、混合ガスの通過孔が形成されてしまう。そうすると、多孔質膜の通過孔を通じて、混合ガス収容部114から透過ガス収容部116へ混合ガスが移動してしまい、二酸化炭素の分離性能が低下するという問題がある。
【0051】
これに対し、本実施形態に係る二酸化炭素選択透過膜120は、イオンゲルを備える。イオンゲルでは、イオン液体が、ゲル浸透圧によって、3次元ネットワーク構造内に保持されている。ゲル浸透圧は、キャピラリー力よりも大きいため、イオンゲルは、多孔質膜にイオン液体が含浸された従来の二酸化炭素選択透過膜と比較して、イオン液体の保持力が大きい。このため、本実施形態に係る二酸化炭素選択透過膜120は、従来の二酸化炭素選択透過膜と比較して、混合ガス収容部114と透過ガス収容部116との間の圧力差(二酸化炭素選択透過膜120の前後の圧力差)による、イオン液体の流出を抑制することができる。すなわち、本実施形態に係る二酸化炭素選択透過膜120は、従来の二酸化炭素選択透過膜よりも圧力差に対する強度(耐圧性)を向上させることが可能となる。したがって、本実施形態に係る二酸化炭素選択透過膜120は、従来の二酸化炭素選択透過膜より圧力差を大きくすることができるので、従来の二酸化炭素選択透過膜と等しい膜面積を有する場合であっても、従来の二酸化炭素選択透過膜よりも、単位時間あたりに分離できる二酸化炭素の量を多くすることが可能となる。
【0052】
また、本実施形態に係る二酸化炭素選択透過膜120は、従来の二酸化炭素選択透過膜と比較して耐圧性が高いため、コンパクト化された膜モジュールを製造することが可能となる。
【0053】
具体的に説明すると、混合ガスMG1の処理量を増加させるために、膜モジュールにおける二酸化炭素選択透過膜120の比表面積(単位体積あたりの膜面積)を大きくすることが好ましい。例えば、スパイラル型モジュールでは、比表面積を大きくするために、膜の充填密度を高くする。また、中空糸膜モジュールでは、比表面積を大きくするために、中空糸膜の内径を小さくする。一方、膜の充填密度が高くなるほど、また、中空糸膜の内径が小さくなるほど、膜モジュール内の圧力損失が大きくなる。つまり、膜モジュールにおける二酸化炭素選択透過膜120の比表面積が大きくなるほど、膜モジュール内の圧力損失が大きくなる。そうすると、圧力損失の分、膜モジュールに供給する混合ガスMG1を昇圧しなければならない。
【0054】
本実施形態に係る二酸化炭素選択透過膜120は、高い耐圧性を有するため、膜モジュールに供給される混合ガスMG1の圧力を増加させることができる。したがって、二酸化炭素選択透過膜120を収容した膜モジュール内の二酸化炭素選択透過膜120の比表面積を大きくすることが可能となる。このため、同じ膜面積を有する膜モジュールをコンパクト化することができる。
【0055】
また、本実施形態に係る二酸化炭素選択透過膜120は、高い耐圧性を有するため、混合ガスMG1の供給量(処理量)の調整幅を広くすることができる。
【0056】
また、本実施形態に係る二酸化炭素選択透過膜120は、イオン液体を有する。これにより、二酸化炭素選択透過膜120は、混合ガスMG1の湿度が低い場合であっても、二酸化炭素の分離性能を高く維持することができる。
【実施例0057】
次に、本発明の実施例について説明する。ただし、以下に説明する実施例は、上述した本実施形態に係る二酸化炭素選択透過膜、二酸化炭素選択透過膜の製造方法、二酸化炭素分離装置、および、二酸化炭素分離方法の構成や効果等を説明するために例示される具体例であり、本発明が、以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
実施例の二酸化炭素選択透過膜120、および、比較例の二酸化炭素選択透過膜を作成した。
【0059】
実施例の二酸化炭素選択透過膜120を製造するにあたり、イオン液体として、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート([Emin][Ace])を用いた。高分子として、poly(DMMAm-co-AA-co-NSA)を用いた。また、poly(DMMAm-co-AA-co-NSA)におけるアクリル酸分率を、5mol%とした。架橋剤として、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル(DGBE)を用いた。
【0060】
上記イオン液体、高分子、架橋剤を混合して混合液を得た。下記表1に示すように、混合液中のイオン液体の量を2.00[g]とした。また、混合液中の高分子の量を0.474[g]とした。混合液中の架橋剤の量を0.026[g]とした。なお、混合液中には、イオン液体に含まれる溶媒としてエタノールが1.25[g]含まれ、高分子に含まれる溶媒としてエタノールが1.50[g]含まれ、架橋剤に含まれる溶媒としてエタノールが1.25[g]含まれる。
【0061】
【0062】
そして、混合液に多孔性PTFE(polytetrafluoroethylene)膜を浸漬した。多孔性PTFE膜として、Advantech Co., Ltd製の親水性PTFEメンブレンフィルタ H010A047A(公称孔径100nm)を用いた。
【0063】
続いて、混合液に多孔性PTFE膜を浸漬したものを減圧下で1時間静置し、多孔性PTFE膜内の気体を除去した。
【0064】
その後、多孔性PTFE膜上の混合液を拭き取り、60℃の恒温槽中で24時間静置した。これにより、架橋反応(脱水反応)を進行させた。こうして、実施例の二酸化炭素選択透過膜120を製造した。
【0065】
一方、比較例の二酸化炭素選択透過膜として、多孔質膜にイオン液体を含浸させたものを用いた。
【0066】
[二酸化炭素透過性能および窒素に対する二酸化炭素の選択性の検討]
実施例の二酸化炭素選択透過膜120を用いた二酸化炭素分離装置100、および、比較例の二酸化炭素選択透過膜を用いた二酸化炭素分離装置を製造した。
【0067】
また、混合ガスMG1として、1[kPa]の二酸化炭素分圧を有する二酸化炭素と窒素との混合ガスを用いた。混合ガス供給部130による混合ガスMG1の供給流量を200[sccm]とした。また、スイープガスSGとしてアルゴンガスを用いた。スイープガス供給部140によるスイープガスSGの供給流量を50[sccm]とした。また、透過セル110の温度を100[℃]とした。透過セル110の湿度を0[%]とした。
【0068】
そして、透過ガス収容部116の圧力を大気圧とし、混合ガス収容部114と透過ガス収容部116との圧力差を0[kPa]から600[kPa]まで変化させた。
【0069】
図4は、実施例および比較例の、圧力差と二酸化炭素透過性能との関係を示すグラフである。
図4において、縦軸は、二酸化炭素透過性能[Barrer]を示し、横軸は、圧力差[kPa]を示す。なお、1Barrer=3.35×10
-16mol・m
-1・s
-1・Pa
-1である。また、
図4において、黒丸は、実施例を示し、黒三角は、比較例を示す。
【0070】
図4に示すように、比較例では、圧力差が0[kPa]から300[kPa]である場合、4000[Barrer]程度の二酸化炭素透過性能を有することが確認された。しかし、比較例は、圧力差を400[kPa]にすると破断してしまった。
【0071】
一方、実施例では、圧力差が0[kPa]から500[kPa]である場合、2000[Barrer]以上の二酸化炭素透過性能を有することが確認された。なお、実施例は、圧力差を600[kPa]にすると破断した。
【0072】
以上の結果から、実施例では、圧力差を400[kPa]以上、600[kPa]未満にしても破断することなく、2000[Barrer]以上の二酸化炭素透過性能を維持できることが確認された。これにより、実施例は、比較例よりも耐圧性が高いことが確認された。
【0073】
図5は、実施例および比較例の、圧力差と、窒素に対する二酸化炭素の選択性との関係を示すグラフである。
図5において、縦軸は、窒素に対する二酸化炭素の選択性を示し、横軸は、圧力差[kPa]を示す。また、
図5において、黒丸は、実施例を示し、黒三角は、比較例を示す。
【0074】
窒素に対する二酸化炭素の選択性とは、二酸化炭素選択透過膜120を透過する二酸化炭素の透過度と窒素の透過度の比である。
【0075】
図5に示すように、比較例では、圧力差が0[kPa]である場合、窒素に対する二酸化炭素の選択性が65程度であった。比較例では、圧力差が100[kPa]である場合、窒素に対する二酸化炭素の選択性が45程度であった。比較例では、圧力差が200[kPa]である場合、窒素に対する二酸化炭素の選択性が35程度であった。比較例では、圧力差が300[kPa]である場合、窒素に対する二酸化炭素の選択性が25程度であった。しかし、比較例は、圧力差を400[kPa]にすると破断してしまった。
【0076】
一方、実施例では、圧力差が0[kPa]である場合、窒素に対する二酸化炭素の選択性が40程度であった。実施例では、圧力差が100[kPa]である場合、窒素に対する二酸化炭素の選択性が35程度であった。実施例では、圧力差が200[kPa]である場合、窒素に対する二酸化炭素の選択性が23程度であった。実施例では、圧力差が300[kPa]である場合、窒素に対する二酸化炭素の選択性が20程度であった。実施例では、圧力差が400[kPa]である場合、窒素に対する二酸化炭素の選択性が18程度であった。実施例では、圧力差が500[kPa]である場合、窒素に対する二酸化炭素の選択性が18程度であった。なお、実施例は、圧力差を600[kPa]にすると破断した。
【0077】
以上の結果から、実施例では、圧力差が300[kPa]である場合、窒素に対する二酸化炭素の選択性が比較例とほとんど変わらないことが確認された。また、実施例では、圧力差が200[kPa]以上、600[kPa]未満である場合、窒素に対する二酸化炭素の選択性がほとんど低下しないことが確認された。
【0078】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0079】
例えば、上記実施形態において、イオン液体が、イミダゾリウム型カチオンおよびアセテート型アニオンのみからなる場合を例に挙げて説明した。しかし、イオン液体は、イミダゾリウム型カチオンおよびアセテート型アニオンを少なくとも含んでいればよい。例えば、イオン液体は、イミダゾリウム型カチオンおよびアセテート型アニオンに加えて、他のイオン液体を含んでいてもよい。
【0080】
また、上記実施形態において、高分子として、こはく酸イミドを官能基として有するポリジメチルアクリルアミドを例に挙げて説明した。しかし、高分子は、少なくとも2以上のアミノ基を官能基として有していれば、これに限定されない。
【0081】
また、上記実施形態において、架橋剤として、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテルを例に挙げて説明した。しかし、架橋剤は、2以上のアミノ基を有していれば、これに限定されない。
【0082】
また、上記実施形態において、二酸化炭素分離装置100がスイープガス供給部140を備える場合を例に挙げて説明した。しかし、スイープガス供給部140は、必須の構成ではない。二酸化炭素分離装置100は、混合ガス収容部114の圧力を透過ガス収容部116の圧力よりも高くする圧力差生成機構を有していればよい。二酸化炭素分離装置100は、例えば、スイープガス供給部140を省略してもよい。つまり、二酸化炭素分離装置100は、透過セル110と、二酸化炭素選択透過膜120と、混合ガス供給部130とを備えてもよい。この場合、二酸化炭素分離装置100を用いた二酸化炭素分離方法において、スイープガス供給工程S120は省略される。また、二酸化炭素分離装置100は、透過セル110と、二酸化炭素選択透過膜120と、混合ガス供給部130と、減圧ブロワとを備えてもよい。減圧ブロワの吸入側は、透過ガス収容部116の出口116bに接続される。この場合、二酸化炭素分離装置100を用いた二酸化炭素分離方法において、スイープガス供給工程S120に代えて、減圧ブロワによって透過ガス収容部116が減圧される減圧工程が行われる。
【0083】
また、二酸化炭素分離装置100は、透過セル110の温度を調整する温度調整機構(例えば、加熱機構)を備えていてもよい。