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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115205
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】プロジェクタ
(51)【国際特許分類】
   G03B 21/14 20060101AFI20240819BHJP
   G03B 21/00 20060101ALI20240819BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20240819BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20240819BHJP
   H04N 5/74 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
G03B21/14 Z
G03B21/00 E
G02B5/30
G02B5/18
H04N5/74 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020772
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】520487808
【氏名又は名称】シャープディスプレイテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】臼倉 奈留
【テーマコード(参考)】
2H149
2H249
2K203
5C058
【Fターム(参考)】
2H149AA17
2H149BA04
2H149BA05
2H149DA05
2H149FA21W
2H149FA21Y
2H249AA12
2H249AA60
2H249AA61
2K203FA03
2K203FA24
2K203FA33
2K203FA42
2K203FA44
2K203FA62
2K203FA82
2K203GC09
2K203HA32
2K203HA35
2K203HA43
2K203HA45
2K203MA21
5C058BA35
5C058EA02
5C058EA13
(57)【要約】
【課題】光の利用効率が高く、かつ照射領域を切り替え可能なプロジェクタを提供する。
【解決手段】光源と、上記光源からの光をP偏光とS偏光とに分離する偏光ビームスプリッタと、上記分離されたP偏光を変調する第1の反射型ディスプレイと、上記分離されたS偏光を変調する第2の反射型ディスプレイと、上記反射型ディスプレイからの反射光を入射する投射レンズと、上記投射レンズの光出射側に配置された、入射する偏光に応じて光の進行方向を可変させる偏向素子と、を備える、プロジェクタ。
【選択図】図1



【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源からの光をP偏光とS偏光とに分離する偏光ビームスプリッタと、
前記分離されたP偏光を変調する第1の反射型ディスプレイと、
前記分離されたS偏光を変調する第2の反射型ディスプレイと、
前記反射型ディスプレイからの反射光を入射する投射レンズと、
前記投射レンズの光出射側に配置された、入射する偏光に応じて光の進行方向を可変させる偏向素子と、
を備える
ことを特徴とするプロジェクタ。
【請求項2】
前記偏向素子は、液晶を用いた素子である
ことを特徴とする請求項1に記載のプロジェクタ。
【請求項3】
前記偏向素子は、PB偏向素子を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のプロジェクタ。
【請求項4】
前記偏向素子は、前記PB偏向素子を2個以上有する
ことを特徴とする請求項3に記載のプロジェクタ。
【請求項5】
前記偏向素子は、前記PB偏向素子を4個以上有する
ことを特徴とする請求項3に記載のプロジェクタ。
【請求項6】
前記偏向素子は、切替可能な半波長板(sHWP)を有する
ことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のプロジェクタ。
【請求項7】
前記偏向素子は、液晶回折素子を有し、
前記液晶回折素子は、電圧印加により液晶分子の配向を制御することで、入射する偏光に応じて光の進行方向を可変させる素子である
ことを特徴とする請求項1に記載のプロジェクタ。
【請求項8】
前記偏向素子は、前記液晶回折素子を有する
ことを特徴とする請求項7に記載のプロジェクタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の開示は、プロジェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクタとは、映像を対象面に投影して表示する映像表示装置である。プロジェクタでは一般に、液晶を利用した反射型ディスプレイを映像源として用い、かつ入射光をP偏光とS偏光とに分離する偏光ビームスプリッタを用いる方式が知られている。このような方式は、偏光を利用することで歪みの少ない像を実現できる一方で、光の利用効率が低いという点で課題がある。
【0003】
そこで、光の利用効率を向上する観点から、反射型ディスプレイを2台用いる構成のプロジェクタが提案されている。例えば特許文献1には、反射型液晶表示装置として、偏光ビームスプリッタによって分離されたS偏光成分及びP偏光成分をそれぞれ処理する2台の液晶パネルユニットを用い、スクリーン上で投射光を重ね合わせて画像を映出する投射型表示装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-119285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、光の利用効率を向上する観点から、映像源として反射型ディスプレイを2台用いる構成のプロジェクタが提案されている。このようなプロジェクタは、光の利用効率の向上が見込まれるものの、コスト高になることや高精度な位置合わせが求められる点で改善の余地がある。例えば特許文献1に記載の投射型表示装置は、2台の液晶パネルユニットを用いる点でコスト高となり、輝度向上以外にコスト高に見合うだけの付加価値が期待できない。
【0006】
ところで近年、プロジェクタは、四角形等の一定のスクリーン上に光を照射してそこに映像を投影するだけのものにとどまらず、建築物等の立体物をスクリーンとして映像を投影するプロジェクションマッピング等でも利用されるようになっており、利用用途が広がっている。このようなプロジェクタにおいて照射領域を動かすことができれば、光の利用効率の更なる向上や用途の広がりが期待できるものの、従来のプロジェクタは一定のエリアだけを照射することを想定しており、照射領域を切り替えることができるものは未だ実用化されていないのが現状である。特許文献1に記載の投射型表示装置も照射領域が固定されており、切り替えることができない。
【0007】
図15は、偏光ビームスプリッタを用い、かつ反射型ディスプレイを2台用いる構成のプロジェクタ(比較形態のプロジェクタと称す)において、光の照射機構を検討した図である。図15に示すように、この比較形態のプロジェクタ1Rは、光の出射方向に、光源10、レンズ20、偏光ビームスプリッタ30、2台の反射型ディスプレイ41、42、及び、投射レンズ50を備える。光源10からの光がレンズ20で略平行となって偏光ビームスプリッタ30に入射し、このうちP偏光は偏光ビームスプリッタ30を透過して反射型ディスプレイ42に入射する一方、S偏光は反射して反射型ディスプレイ41に入射する。P偏光は、反射型ディスプレイ42が備える液晶層の複屈折性によりS偏光に変換され、S偏光は反射型ディスプレイ41が備える液晶層の複屈折性によりP偏光に変換された後、それぞれ反射して偏光ビームスプリッタ30に再入射する。このうち反射型ディスプレイ42からのS偏光12は反射して投射レンズ50に入射し、反射型ディスプレイ41からのP偏光11は偏光ビームスプリッタ30を透過して投射レンズ50に入射する。これらの光11、12は投射レンズ50を経て、スクリーン70上に拡大照射される。
【0008】
このような比較形態のプロジェクタ1Rでは、照射領域を切り替えることができない。スクリーン70上では、反射型ディスプレイ41からの光11の照射領域と、反射型ディスプレイ42からの光12の照射領域とが重なるため、反射型ディスプレイ41と反射型ディスプレイ42とは、同じ映像を表示する必要がある。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、光の利用効率が高く、かつ照射領域を切り替え可能なプロジェクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の一実施形態は、光源と、上記光源からの光をP偏光とS偏光とに分離する偏光ビームスプリッタと、上記分離されたP偏光を変調する第1の反射型ディスプレイと、上記分離されたS偏光を変調する第2の反射型ディスプレイと、上記反射型ディスプレイからの反射光を入射する投射レンズと、上記投射レンズの光出射側に配置された、入射する偏光に応じて光の進行方向を可変させる偏向素子と、を備える、プロジェクタ。
【0011】
(2)また、本発明のある実施形態は、上記(1)の構成に加え、上記偏向素子は、液晶を用いた素子である、プロジェクタ。
【0012】
(3)また、本発明のある実施形態は、上記(1)又は上記(2)の構成に加え、上記偏向素子は、PB偏向素子を有する、プロジェクタ。
【0013】
(4)また、本発明のある実施形態は、上記(3)の構成に加え、上記PB偏向素子を2個以上有する、プロジェクタ。
【0014】
(5)また、本発明のある実施形態は、上記(3)の構成に加え、上記PB偏向素子を4個以上有する、プロジェクタ。
【0015】
(6)また、本発明のある実施形態は、上記(1)、上記(2)、上記(3)、上記(4)又は上記(5)の構成に加え、上記偏向素子は、切替可能な半波長板(sHWP)を有する、プロジェクタ。
【0016】
(7)また、本発明のある実施形態は、上記(1)、上記(2)、上記(3)、上記(4)、上記(5)又は上記(6)の構成に加え、上記偏向素子は、液晶回折素子を有し、上記液晶回折素子は、電圧印加により液晶分子の配向を制御することで、入射する偏光に応じて光の進行方向を可変させる素子である、プロジェクタ。
【0017】
(8)また、本発明のある実施形態は、上記(7)の構成に加え、上記偏向素子は、上記液晶回折素子を有する、プロジェクタ。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、光の利用効率が高く、かつ照射領域を切り替え可能なプロジェクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態1のプロジェクタにおいて、光の照射機構を検討した模式図である。
図2A】実施形態1のプロジェクタにおいて、PB偏向素子における液晶分子の並び方を検討した図であり、PB偏向素子の液晶分子配列を光の入射側から見た場合の平面模式図である。
図2B図2Aに示されるPB偏向素子の断面模式図である。
図2C】円編光が、図2A及び図2Bに示す液晶分子配列を有するPB偏向素子を通過した後の偏向方向及び偏光状態を検討した図である。
図3A】実施形態1のプロジェクタにおいて、PB偏向素子における液晶分子の並び方を検討した図であり、PB偏向素子の液晶分子配列を光の入射側から見た場合の平面模式図である。
図3B図3Aに示されるPB偏向素子の断面模式図である。
図3C】円編光が、図3A及び図3Bに示す液晶分子配列を有するPB偏向素子を通過した後の偏向方向及び偏光状態を検討した図である。
図4】円偏光が、入射した円編光を逆円偏光に変換して出射させるモード(i)と、入射した円偏光をそのまま出射させるモード(ii)とのそれぞれに設定された切替可能な半波長板を通過した後の偏光状態を検討した図である。
図5】実施形態1のプロジェクタの照射領域が照射領域(1)となる場合の光の進行方向を示す模式図である。
図6】実施形態1のプロジェクタの照射領域が照射領域(2)となる場合の光の進行方向を示す模式図である。
図7】照射領域(2)の一態様を示す模式図である。
図8A】第1の反射型ディスプレイからの光の照射領域と、第2の反射型ディスプレイからの光の照射領域とが一部重なる態様(図7参照)において、これらの光の輝度の好ましい態様を概念的に示すグラフである。
図8B】第1の反射型ディスプレイからの光の照射領域と、第2の反射型ディスプレイからの光の照射領域とが隙間なく正確に分かれる態様において、これらの光の輝度の好ましい態様を概念的に示すグラフである。
図9】照射領域(2)の他の態様を示す模式図である。
図10】実施形態2のプロジェクタにおいて、光の照射機構を検討した模式図である。
図11A】実施形態2で用いる偏向素子の一例の断面模式図である。
図11B】実施形態2で用いる偏向素子の一例の断面模式図である。
図11C】実施形態2で用いる偏向素子の一例の断面模式図である。
図12】実施形態3のプロジェクタにおいて、光の照射機構を検討した模式図である。
図13A】実施形態3のプロジェクタにおいて、液晶回折素子における液晶分子の並び方を検討した図であり、液晶回折素子の液晶分子配列を光の入射側から見た場合の平面模式図である。
図13B図13Aに示される液晶回折素子の断面模式図である。
図14A】実施形態3のプロジェクタにおいて、液晶回折素子における液晶分子の並び方を検討した図であり、液晶回折素子の液晶分子配列を光の入射側から見た場合の平面模式図である。
図14B図14Aに示される液晶回折素子の断面模式図である。
図15】比較形態のプロジェクタにおいて、光の照射機構を検討した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(用語の定義)
略平行とは、両者のなす角度(絶対値)が0°±10°の範囲内であることを意味する。好ましくは0±5°の範囲内であり、より好ましくは0±3°の範囲内であり、更に好ましくは0±1°の範囲内であり、特に好ましくは0°(完全に平行)である。
【0021】
略垂直又は略直交とは、両者のなす角度(絶対値)が90°±10°の範囲内であることを意味する。好ましくは90±5°の範囲内であり、より好ましくは90±3°の範囲内であり、更に好ましくは90±1°の範囲内であり、特に好ましくは90°(完全に垂直)である。
【0022】
可視光とは、波長380nm以上、800nm未満の光を意味する。
【0023】
Pancharatnam-Berry偏向素子を、PB偏向素子又はPBD(Pancharatnam-Berry Phase Deflector)とも称す。
λ/4位相差板を、QWP(Quarter-Wave Plate)とも称す。
半波長板を、λ/2位相差板又はHWP(Half-Wave Plate)とも称し、切替可能な半波長板を、sHWP(switchable-HWP)とも称す。
【0024】
以下、本発明の実施形態に係るプロジェクタについて説明する。本発明は、以下の実施形態に記載された内容に限定されるものではなく、本発明の構成を充足する範囲内で適宜設計変更を行うことが可能である。なお、図1図6図9図10及び図12では、便宜上、偏向素子60による偏向方向を上下方向とし、第1の反射型ディスプレイ41からの光11の偏向方向を下方向、第2の反射型ディスプレイ42からの光12の偏向方向を上方向、とした。
【0025】
(実施形態1)
図1は、本実施形態のプロジェクタにおいて、光の照射機構を検討した模式図である。本実施形態のプロジェクタ1は、図1で示すように、光の出射方向に、少なくとも、光源10と、偏光ビームスプリッタ30と、第1、第2の反射型ディスプレイ41、42と、投射レンズ50と、偏向素子60とを、備える。第1の反射型ディスプレイ41及び第2の反射型ディスプレイ42を、反射型ディスプレイ40と総称する。
【0026】
光源10は、可視光を含む光を発するものである。可視光のみを含む光を発するものであってもよく、可視光及び紫外光の両方を含む光を発するものであってもよい。カラー表示を可能にするためには、白色光を発する光源が好適に用いられる。光源の種類としては、例えば、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、レーザー等が好適に用いられる。
【0027】
光源10からの光をより効率的に利用する観点から、光源10からの光の出射方向に、レンズ等の光学素子を有することが好ましい。本実施形態のプロジェクタ1は、光源10と、偏光ビームスプリッタ30との間に、レンズ20を備える(図1参照)。レンズ20として好ましくは、光源10からの光を略平行にするコリメータレンズである。例えば光源10として照明用のLEDを用いる場合、LED光がレンズ20において略平行となって反射型ディスプレイ40に入射できるため、光の利用効率がより向上する。
【0028】
偏光ビームスプリッタ30は、光源10からの光をP偏光とS偏光とに分離するものである。具体的には、入射光のP偏光を透過し、P偏光と直交する偏光であるS偏光を反射する。本実施形態では、偏光ビームスプリッタ30としてキューブ形状のものを使用するが(図1参照)、その他の形状(例えばプレート形状)のものを使用することもできる。
【0029】
反射型ディスプレイ40は、液晶を利用したものが好適である。この場合、液晶の複屈折性を利用して、反射型ディスプレイ40に入射したP偏光をS偏光に、S偏光をP偏光に、それぞれ変換することが可能になる。反射型ディスプレイ40として具体的には、反射型LCD(Liquid Crystal Display)が好ましく、反射型LCDとしては、LCоS(Liquid Crystal on Silicon:シリコン基板を用いた反射型液晶パネル)が好適であるが、コスト低減と投影画像サイズ拡大とを容易にするため、基板としてガラス基板を用いたものを用いても良い。反射型LCDは、一対の基板間に液晶層が挟持され、当該液晶層の背面に反射層を備える構造を有するが、通常は更に、電極やカラーフィルタ、偏光板等の各種部材を備える。
【0030】
投射レンズ50は、入射した光を拡大してスクリーン70、71、72に照射する素子であり、プロジェクタの分野で通常使用されるものを用いればよい。投射レンズ50の個数は特に限定されない。なお、符号70、71、72は、スクリーン(即ち、映像を表示する対象面)を指すが、プロジェクタ1の照射領域にも該当する。符号70は、第1の反射型ディスプレイ41からの光11及び第2の反射型ディスプレイ42からの光12の照射領域に該当し、符号71は、当該光11の照射領域に該当し、符号72は、当該光12の照射領域に該当する。
【0031】
偏向素子60は、入射する偏光に応じて光の進行方向を可変させるものである。より具体的には、入射する偏光に応じて光の進行方向を変化させる(即ち光を偏向させる)ことと、変化させない(即ち光を偏向させない)ことと、の両方が可能な素子である。
【0032】
偏向素子60は、液晶を用いた素子であることが好ましい。中でも、PB偏向素子(PBD)62を有するものが好ましい。より好ましくは、光の入射方向から順に、λ/4位相差板(QWP)61とPBD62とを有するものである。また、切替可能な半波長板(sHWP)63を有するものも好適である。特に好ましくは、QWP61、PBD62及びsHWP63を少なくとも有するものである。
【0033】
QWP61は、直線偏光を円偏光に変換させる波長板である。QWP61に入射した直線偏光は、QWP61出射時には円偏光となる。
【0034】
PBD62は、液晶分子の周期的な配向により、入射する偏光に応じて光の進行方向を曲げる素子である。即ち液晶分子の周期的な配向によって回折が発生することを利用して、光を特定の角度に曲げる機能を有する。PBD62は、入射光の進行方向を、例えば上下、左右、斜め方向等に曲げることができる。
【0035】
PBD62は、偏向素子60中に2個以上有することが好ましい。即ち偏向素子60は、PBD62を2個以上有することが好適である。3個以上でもよいが、投射レンズ50の正面に光を照射させる観点から、PBD62の個数は偶数個であることが好ましい。例えば、偏向素子60がPBD62を4個以上有することも好適である。本実施形態では、後述するようにPBD62を2個有する偏向素子60を使用する(図1参照)。
【0036】
PBD62としては、一対の基板6211、6212間に液晶層6220が挟持された構造のものが好適である(例えば図2B及び図3B参照)。PBD62の液晶層6220の厚みtを、位相差がλ/2となる厚みに調整すると、PBD62に入射した円編光は、出射時には逆の円偏光となる。
【0037】
例えばPBD62が入射光(例えば円偏光)の進行方向を左右方向に曲げる場合について説明する。PBD62として、一対の基板6211、6212間に液晶層6220が挟持された構造を有し、かつ液晶層6220の厚みtが、位相差がλ/2となる厚みである素子を用いるものとする。このようなPBD62を上から見たとき(即ち光の入射側から見たとき)の液晶分子6230の並び方としては例えば、図2A及び図3Aに示す2種類が挙げられる。図2A図2B図3A及び図3Bは、PBD62における液晶分子6230の並び方を検討した図であり、このうち図2A及び図3Aは、PBD62の液晶分子配列を、PBD62の上から見た場合(即ち光の入射側から見た場合)の平面模式図であり、図2Bは、図2Aに示されるPBD62の断面模式図であり、図3Bは、図3Aに示されるPBD62の断面模式図である。
【0038】
図2A及び図2Bに示す液晶分子配列を有するPBD62に入射する円編光100が右円偏光100Rである場合、PBD62を通過すると、光の進行方向は右方向に曲がる(図2Cの100(R)を参照)。但し、出射時の偏光は、入射時とは逆の左円偏光100Lとなる。一方、図2A及び図2Bに示す液晶分子配列を有するPBD62に入射する円編光100が左円偏光100Lである場合、PBD62を通過すると、光の進行方向は左方向に曲がる(図2Cの100(L)を参照)。但し、出射時の偏光は、入射時とは逆の右円偏光100Rとなる。図2Cは、円編光が、図2A及び図2Bに示す液晶分子配列を有するPBD62を通過した後の偏向方向及び偏光状態を検討した図である。
【0039】
また図3A及び図3Bに示す液晶分子配列を有するPBD62に入射する円編光100が右円偏光100Rである場合、PBD62を通過すると、光の進行方向は左方向に曲がる(図3Cの100(R)を参照)。但し、出射時の偏光は、入射時とは逆の左円偏光100Lとなる。一方、図3A及び図3Bに示す液晶分子配列を有するPBD62に入射する円編光100が左円偏光100Lである場合、PBD62を通過すると、光の進行方向は右方向に曲がる(図3Cの100(L)を参照)。但し、出射時の偏光は、入射時とは逆の右円偏光100Rとなる。図3Cは、円編光が、図3A及び図3Bに示す液晶分子配列を有するPBD62を通過した後の偏向方向及び偏光状態を検討した図である。
【0040】
sHWP63は、円偏光を、選択的に、そのまま又は逆円偏光に変換して出射させる波長板である。即ちsHWP63は、入射した円編光を逆円偏光に変換して出射させるモード(i)と、入射した円偏光をそのまま出射させるモード(ii)とを、選択的に切り替える機能を備える。
【0041】
sHWP63としては、一対の基板6311、6312間に液晶層6320が挟持された構造のものが好適である(例えば図4参照)。通常は更に、一対の電極等も備える(図示せず)。液晶層を備えることで、電圧をかけると液晶分子配列が変わるという液晶分子の特性を活用できるため、電圧のオン/オフにより上記のモード切り替えを実現することができる。図4は、円偏光が、上記モード(i)、(ii)それぞれに設定されたsHWP63を通過した後の偏光状態を検討した図である。
【0042】
例えば基板6311、6312に対して液晶分子6330が略平行に配列している場合、sHWP63に入射した円偏光は、液晶層6320の位相差により、出射時には逆の円偏光となる(図4の(i)を参照)。一方、基板6311、6312に対して液晶分子6330が略垂直に配列している場合、液晶層6320に位相差が生じないため、sHWP63に入射した円偏光は、そのままの円偏光で出射する(図4の(ii)を参照)。このようにsHWP63では、入射した円編光を逆円偏光に変換して出射させるモード(i)と、入射した円偏光をそのまま出射させるモード(ii)とを、電圧のオン/オフにより切り替えることができる。
【0043】
プロジェクタ1は、プロジェクタの分野で通常使用される各種部材を更に有してよい。部材によっては、他の部材に組み込まれていてもよい。
【0044】
以下では、本実施形態のプロジェクタ1における光の照射機構や映像の表示機構等について、更に説明する。
【0045】
図1に示すように、光源10からの光は、好ましくはレンズ20を経た後、偏光ビームスプリッタ30においてP偏光とS偏光とに分離される。即ち入射光のうちP偏光は偏光ビームスプリッタ30を透過して第2の反射型ディスプレイ42に入射する一方、S偏光は反射して第1の反射型ディスプレイ41に入射する。第2の反射型ディスプレイ42に入射したP偏光は、反射型ディスプレイ42においてS偏光に変換された後、反射して偏光ビームスプリッタ30に再入射するが、偏光ビームスプリッタ30で反射されて投射レンズ50に入射し、その後、偏向素子60に入射する(図1中の光12を参照)。図1中の(a)は、S偏光を表す。一方、第1の反射型ディスプレイ41に入射したS偏光は、反射型ディスプレイ41においてP偏光に変換された後、反射して偏光ビームスプリッタ30に再入射する。そして偏光ビームスプリッタ30を透過して投射レンズ50に入射し、その後、偏向素子60に入射する(図1中の光11を参照)。図1中の(b)は、P偏光を表す。このように第1の反射型ディスプレイ41からの光11と、第2の反射型ディスプレイ42からの光12とで偏光が異なるが、この偏光の違いを利用した点に本発明の重要な技術的意義がある。
【0046】
本実施形態では、偏向素子60として、光の入射方向から順にQWP61、PBD62(PBD62(1)とも称す)、sHWP63、及び、PBD62(PBD62(2)とも称す)から構成される素子を使用する(図1参照)。偏向素子60に入射した各偏光は、QWP61でそれぞれ円偏光に変換されるが、その際、互いに逆の円偏光に変換される。その後、各偏光はPBD62(1)を経ることで互いに異なる方向に進行する。例えばPBD62が入射光の進行方向を左右方向に曲げる特性を有する場合には、光11及び光12のうち、片方は左方向に、もう片方は右方向に曲がることになる。PBD62が入射光の進行方向を上下方向に曲げる特性を有する場合には、光11及び光12のうち、片方は上方向に、もう片方は下方向に曲がることになる。それゆえ、PBD62を経ることで、全体としての光の照射領域は広くなる。
【0047】
このようにPBD62は入射光の進行方向を曲げることができる一方で、その性質上、進行方向を曲げない(即ち、光に作用しない)ということができない。だが、本実施形態の偏向素子60は、PBD62(1)の光出射側にsHWP63を配置し、このsHWP63においてモードを切り替えることで、PBD62(1)による偏向をキャンセルすることを可能にしている。このように偏向をキャンセルすることを可能した点にも、本発明の重要な技術的意義がある。
【0048】
sHWP63を出射した円偏光と逆円偏光とは、次に入射するPBD62(2)において光の振る舞い(即ち挙動)が相違する(図2C及び図3C参照)。この特性を生かせば、照射領域を更に広くすることができる。このように偏向素子60は、sHWP63の光出射側にPBD62を有するものが好ましい。例えば、偏向素子60の最出射側にPBD62が配置されていてもよい。
【0049】
PBD62(1)及びPBD62(2)がそれぞれ、入射する円偏光の進行方向を上下方向に曲げる特性を有し、かつその偏向角がθ度であるときの光の偏向方向について、以下に説明する。
【0050】
なお、偏向角とは、偏向しない光の進行方向と、偏向した光の進行方向と、がなす角度である。例えばPBD62による偏向角θは、下記式(1):
θ=Asin(λ/p) (1)
の関係にある。式中、λは、光の波長である。pは、PBD62が備える液晶層6220中の液晶分子の回転周期である。
【0051】
偏向素子60に入射した光11及び光12は、QWP61に次いでPBD62(1)を通過することで、光11は下方向にθ度偏向し、光12は上方向にθ度偏向する(表1及び表2参照)。
【0052】
PBD62(1)の光出射側に配置されるsHWP63を、入射した円編光を逆円偏光に変換して出射させるモード(i)に設定すると、PBD62(1)によって下方向にθ度偏向した光11は、PBD62(2)によって上にθ度偏向する一方、PBD62(1)によって上方向にθ度偏向した光12は、PBD62(2)によって下にθ度偏向する(表1参照)。結果として、光11及び光12は、偏向が相殺される(θ-θ=0)。スクリーン上では、光11及び光12のいずれも、照射中心は、投射レンズ50の正面となる(表1参照)。即ち第1の反射型ディスプレイ41からの光11の照射領域と、第2の反射型ディスプレイ42からの光12の照射領域とが重なることになる(図5の符号70参照)。この照射領域を照射領域(1)と称する。
【0053】
このモード(i)では、第1の反射型ディスプレイ41と、第2の反射型ディスプレイ42とは、同じ映像を表示する。照射領域(1)の輝度は、各光の輝度の和となる。図5は、本実施形態のプロジェクタの照射領域が照射領域(1)となる場合の光の進行方向を示す模式図である。図5の右側に、照射領域(1)を投射レンズ50側から見た図(正面図:Front view)を記載した。
【0054】
一方、sHWP63を、入射した円偏光をそのまま出射させるモード(ii)に設定すると、PBD62(1)によって下方向にθ度偏向した光11は、PBD62(2)によって更に下方向にθ度偏向する一方、PBD62(1)によって上方向にθ度偏向した光12は、PBD62(2)によって更に上方向にθ度偏向する(表2参照)。結果として、光11及び光12は、偏向角度が2倍になる(2×θ)。スクリーン上では、光11の照射中心は下方向に(2×θ)度移動し、光12の照射中心は上方向に(2×θ)度移動する(表2参照)。即ち、全体としての光の照射領域は広くなる(図6の符号71及び72参照)。この照射領域全体を照射領域(2)と称する。
【0055】
このモード(ii)では、第1の反射型ディスプレイ41と、第2の反射型ディスプレイ42とは、異なる映像を表示する。照射領域(2)は、その面積は照射領域(1)よりも広くなるが、基本的な輝度は照射領域(1)の輝度の約半分になる。図6は、本実施形態のプロジェクタの照射領域が照射領域(2)となる場合の光の進行方向を示す模式図である。図6の右側に、照射領域(2)を投射レンズ50側から見た図(正面図:Front view)を記載した。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
図1では、プロジェクタ1の照射領域が照射領域(1)になる場合(図5参照)と、照射領域(2)になる場合(図6参照)との両方を記載している。図1中、矢印(c)は、上記のようにモード(i)とモード(ii)とを切り替えることによって、光12の照射中心が移動することを示す。矢印(d)は、上記のようにモード(i)とモード(ii)とを切り替えることによって、光11の照射中心が移動することを示す。矢印(e)は、上記のようにモード(i)とモード(ii)とを切り替えることによって、照射領域が切り替わることを示す。
【0059】
プロジェクタ1の照射領域が照射領域(1)、(2)のいずれになる場合であっても、本実施形態のプロジェクタ1では、光源10からの光が効率的にスクリーンに照射されるため、光利用効率の高いプロジェクタ映像を、利用シーンに合わせて照射領域を切り替えて使用することができる。
【0060】
照射領域(2)について更に補足する。
照射領域(2)の具体的な態様としては例えば、第1の反射型ディスプレイ41からの光11の照射領域71と、第2の反射型ディスプレイ42からの光12の照射領域72とが、図7に示すように一部重なる態様(隙間なく正確に分かれる態様も含む)と、図9に示すように完全に重ならない態様と、がある。図7及び図9は、照射領域(2)の具体的な態様を示す模式図である。図7及び図9では、右側に、照射領域71、72を投射レンズ50から見た図(正面図:Front view)を記載した。
【0061】
前者の態様(図7参照)では、第1の反射型ディスプレイ41の映像と、第2の反射型ディスプレイ42の映像とが、スムーズに繋がるような処理を行うことが好ましい。具体的には、角度の設計や照射距離等によって両者の映像が一部重なったり離れたりするため、その対応を考えることが好ましい。例えば偏向素子60によって光を20度曲げる場合、即ち偏向素子60による偏向角θが20度である場合を例に挙げると、tanθは約0.364であるため、照射距離(即ち、投射レンズ50とスクリーンとの間の距離)Lが1mである場合、光の照射中心のずれ量H1、H1’は、それぞれ約36.4cmとなる。スクリーンに投影される映像の高さH2は、厳密には投射レンズの設計により多少ズレは生じ得るものの、基本的には照射距離Lに比例する。それゆえ、H2、H2’がそれぞれ72.8cmであれば、光の照射領域は、隙間なく正確に分かれることになる。
【0062】
H1は、光12が偏向せずにスクリーンに照射したときの照射中心から、偏向してスクリーンに照射したときの照射中心までの距離を意味する。H1’は、光11が偏向せずにスクリーンに照射したときの照射中心から、偏向してスクリーンに照射したときの照射中心までの距離を意味する。H2は、スクリーンに投影される第2の反射型ディスプレイ42の映像のうち、最上部から最下部までの距離を意味する。H2’は、スクリーンに投影される第1の反射型ディスプレイ41の映像のうち、最上部から最下部までの距離を意味する。
【0063】
光11の照射領域71と光12の照射領域72とは、隙間なく正確に分かれることが理想的ではあるが、実際には一部重なる(図7の重なり部分73参照)。また実用的には、投影対象面(スクリーン)には一般に、ディストーションと称される歪み(例えば樽型又は糸巻型の歪み)が発生するため、多少重なるように設計することが好適である。その際、2つの映像の境界部(即ち照射領域71、72の境界部)では、映像の位置及び輝度を合わせる必要がある。この合わせ方として、機構的に厳密に合わせる方法もあるが、照射距離Lを可変にする場合は照射距離Lに応じて僅かなズレが生じ得るため、カメラ等を取り付けて映像の状態をフィードバックする等して、映像位置を調整したり重なり部分を調整したりすることが好ましい。
【0064】
具体的には例えば、図8Aのように、光12及び光11の輝度に勾配を設けて、なるべく自然に繋がるようにすることが好ましい。図8Aは、光11の照射領域71と光12の照射領域72とが一部重なる態様(図7参照)において、光11及び光12の輝度の好ましい態様を概念的に示すグラフである。また、図8Bのように、光12の輝度と光11の輝度とを、照射領域71、72の境界部で正確に合わせることも好ましい。図8Bは、光11の照射領域71と光12の照射領域72とが隙間なく正確に分かれる態様において、光11及び光12の輝度の好ましい態様を概念的に示すグラフである。図8A及び図8Bにおいて、位置を表す縦軸は、図7中の光11及び光12の偏向方向に該当する。つまり図7では、光12は図面の上方向に、光11は下方向に、それぞれ偏向するものとして記載したが、これらに対応するように、図8A及び図8Bでは、光12の輝度は縦軸の上方向に、光11の輝度は縦軸の下方向に、それぞれ示した。図8A及び図8Bにおいて、輝度を表す横軸は、その値が大きくなるほど(図面の右方向に進むほど)、輝度が大きいことを意味する。
【0065】
一方、光11の照射領域71と光12の照射領域72とが完全に重ならない態様(図9参照)では、各光の照射領域の境界付近における映像の重ね合わせを検討する必要がない。それゆえ、特に映像調整等を行う必要がない。
【0066】
(実施形態2)
本実施形態では、本実施形態に特有の特徴について主に説明し、上記実施形態1と重複する内容については説明を省略する。本実施形態は、偏向素子60が備えるPBD62の個数が異なることを除いて、実施形態1と実質的に同じである。
【0067】
図10は、本実施形態のプロジェクタにおいて、光の照射機構を検討した模式図である。本実施形態のプロジェクタ1は、図10で示すように、光の出射方向に、少なくとも、光源10と、偏光ビームスプリッタ30と、第1、第2の反射型ディスプレイ41、42と、投射レンズ50と、偏向素子60とを、備える。更に、光源10と、偏光ビームスプリッタ30との間に、レンズ20を備える。
【0068】
偏向素子60は、QWP61、PBD62及びsHWP63を備え、かつ該PBD62は4個含まれる(図11A図11C参照)。上述したようにPBD62の偏向角θは、上記式(1)の関係にあるが、例えばPBD62が備える液晶層6220中の液晶分子6230の回転周期が2.5μmピッチである場合、青色光(波長450nm)に対し、偏向角θは約10度となる。だが、同じPBD62を2個積層したものを1セットとすると、この1セットでの偏向角θは、約2倍の約20度となる。従って、偏向素子60が備えるPBD62の個数を増やすことにより、偏向素子60の偏向角θは大きくなるため、照射領域(2)を更に広くすることができる。図11A図11B及び図11Cは、本実施形態で用いる偏向素子60の具体例の断面模式図である。
【0069】
図11Aに示す偏向素子60は、光の入射方向から順に、QWP61、2個のPBD62(PBD62(1)とも称す)、sHWP63、及び、2個のPBD62(PBD62(2)とも称す)から構成される。PBD62(1)は、2個のPBD62を積層して構成されたものであり、PBD62(2)もまた、2個のPBD62を積層して構成されたものである。即ち本例は、PBD62を2個積層したものを1セットとし、それを2セット使用した例である。
【0070】
PBD62がそれぞれ、入射する円偏光の進行方向を上下方向に曲げる特性を有し、かつその偏向角(1個のPBD62の偏向角)がθ度である場合、第1の反射型ディスプレイ41からの光11及び第2の反射型ディスプレイ42からの光12は、PBD62(1)を経ることで、光11は、下方向に(2×θ)度偏向し、光12は、上方向に(2×θ)度偏向する。次に入射するsHWP63を、入射した円偏光をそのまま出射させるモード(ii)に設定すると、sHWP63を経た光11は、PBD62(2)によって更に下方向に(2×θ)度偏向する一方、sHWP63を経た光12は、PBD62(2)によって更に上方向に(2×θ)度偏向する。結果として、光11及び光12は、偏向角が4倍になる(4×θ)。それゆえ、スクリーン上では、光11の照射中心は下方向に(4×θ)度移動し、光12の照射中心は上方向に(4×θ)度移動する。
【0071】
図11Bに示す偏向素子60は、光の入射方向から順に、QWP61、PBD62、sHWP63、PBD62、sHWP63、PBD62、sHWP63、及び、PBD62から構成されている。即ち本例は、4個のPBD62の間に、3個のsHWP63をそれぞれ配置した例である。4個のPBD62がそれぞれ、入射する円偏光の進行方向を上下方向に曲げる特性を有し、かつその偏向角(即ち1個あたりのPBD62の偏向角)がθ度である場合、PBD62間の各sHWP63のモード切替によって、結果として、光11及び光12の偏向角を、0度、(2×θ)度、及び、(4×θ)度の3段階で切り替えることが可能になる(図11B参照)。また、図示していないが、4個のPBD62が、入射する円偏光の進行方向を上下方向に曲げる特性を有し、かつそのうちの2個のPBD62の偏向角(即ち1個あたりのPBD62の偏向角)がθ度であり、残りの2個のPBD62の偏向角(即ち1個あたりのPBD62の偏向角)が(θ/2)度である場合には、PBD62間の各sHWP63のモード切替によって、結果として、光11及び光12の偏向角を、0度、θ度、(2×θ)度、及び、(3×θ)度の4段階で切り替えることが可能になる。
【0072】
図11Cに示す偏向素子60は、図11Bに示す偏向素子60が備える4個のPBD62のうち、光入射側の2個のPBD62(a)を、入射する円偏光の進行方向を上下方向にθ度曲げる素子とし、光出射側の2個のPBD62(b)を、入射する円偏光の進行方向を左右方向に曲げる特性を有する素子とした例である。PBD62(a)の偏向角を、それぞれ、θ度とする。図11Cでは、便宜上、上下方向の偏向角しか記載していないが、左右方向にも偏向し得る。このように、上下方向に偏向させるPBD62と、左右方向に偏向させるPBD62とを組み合わせることで、上下、左右、斜め方向等に、映像を表示することが可能になる。
【0073】
図10では、プロジェクタ1の照射領域が照射領域(1)(即ち符号70)になる場合と、照射領域(2)(即ち符号71及び72)になる場合との両方を記載している。図10中、矢印(c)は、実施形態1とほぼ同様にsHWPのモードを切り替えることによって、光12の照射中心が移動することを示す。矢印(d)は、実施形態1とほぼ同様にsHWPのモードを切り替えることによって、光11の照射中心が移動することを示す。矢印(e)は、実施形態1とほぼ同様にsHWPのモードを切り替えることによって、照射領域が切り替わることを示す。
【0074】
(実施形態3)
本実施形態では、本実施形態に特有の特徴について主に説明し、上記実施形態1と重複する内容については説明を省略する。本実施形態は、偏向素子60が異なることを除いて、実施形態1と実質的に同じである。
【0075】
実施形態1及び2は、偏向素子60がPBD62を備える構成について説明したが、偏向素子60が入射する偏光に応じて光の進行方向を可変させる素子であれば、それ以外の構成の偏向素子60を用いてよい。例えば、偏向素子60として、電圧印加により液晶分子の配向を制御することで、入射する偏光に応じて光の進行方向を可変させる、液晶回折素子を用いることも好適である。本実施形態では、偏向素子60として、このような液晶回折素子を2個組み合わせて使用する。
【0076】
図12は、本実施形態のプロジェクタにおいて、光の照射機構を検討した模式図である。本実施形態のプロジェクタ1は、図12で示すように、光の出射方向に、少なくとも、光源10と、偏光ビームスプリッタ30と、第1、第2の反射型ディスプレイ41、42と、投射レンズ50と、偏向素子60とを、備える。更に、光源10と、偏光ビームスプリッタ30との間に、レンズ20を備える。
【0077】
偏向素子60は、2個の液晶回折素子64から構成される(図12参照)。このうち光の入射方向に配置された液晶回折素子64を液晶回折素子64Aとも称し、光の出射方向に配置された液晶回折素子64を液晶回折素子64Bとも称す。液晶回折素子64は、電圧印加により液晶分子の配向を制御することで、入射する偏光に応じて光の進行方向を可変させる素子である。液晶回折素子64は、入射光の進行方向を、上下、左右、斜め方向等に曲げることができる。
【0078】
液晶回折素子64としては、一対の基板6411、6412間に、一対の電極6441、6442と液晶層6420とが挟持された構造のものが好適である(例えば図13B及び図14B参照)。この液晶層6420の厚みtを、位相差がλ/2となる厚みに調整すると、液晶回折素子64に例えば縦の直線偏光(液晶分子の長軸方向と略平行な偏光)が入った場合は位相差の影響を受けて光の方向が変化するが、横の直線偏光(液晶分子の長軸方向と略直交する偏光)が入った場合は位相差の影響を受けないため、光の方向は変化しない。
【0079】
例えば液晶回折素子64が入射光の進行方向を左右方向に曲げる場合について説明する。液晶回折素子64としてそれぞれ、一対の基板6411、6412間に、一対の電極6441、6442と液晶層6420とが挟持された構造を有し、該液晶層6420の厚みtが、位相差がλ/2となる厚みである素子を用いるものとする。このような液晶回折素子64を上から見たとき(即ち光の入射側から見たとき)の液晶分子の並び方としては例えば、図13A及び図14Aに示す配列が挙げられる。
【0080】
図13A図13B図14A及び図14Bは、液晶回折素子64における液晶分子6430の並び方を検討した図であり、このうち図13A及び図14Aは、液晶回折素子64における液晶分子配列を、液晶回折素子64の上から見た場合(即ち光の入射側から見た場合)の平面模式図であり、図13Bは、図13Aに示される液晶回折素子64の断面模式図であり、図14Bは、図14Aに示される液晶回折素子64の断面模式図である。
【0081】
図13A及び図13Bに示される液晶分子配列を示す液晶回折素子64は、第1の反射型ディスプレイ41からの光11に略平行な方向に、液晶分子6430が一様にアンチパラレル配向した態様の液晶を用い、縦電界をかける(即ち縦電界を生じさせる)ことで、実現することができる。縦電界が生じた状態(図13A及び図13B参照)では、液晶回折素子64に入射する光11は、紙面の左方向に曲がり(偏向し)、液晶回折素子64に入射する光12は、曲がらない(偏向しない)。図13Aの右側に、光11の偏光方向と、光12の偏光方向とを、それぞれ矢印で示した。縦電界のかけ方によって、光を左方向に回折させるモード(I)と、光に作用しない(即ち、まっすぐ光を通す)モード(II)と、右方向に回折させるモード(III)と、を切り替えることができる。図13B(断面図)において、液晶分子6430が基板6411、6412に対して略垂直となっている部分は、例えば一対の電極6441、6442間に5Vの電圧を印加し、液晶分子6430が基板に対して水平になっている部分は0Vの電圧を印加させる(即ち電圧を印加しない)ことで、実現される。
【0082】
図14A及び図14Bに示される液晶分子配列を示す液晶回折素子64は、第2の反射型ディスプレイ42からの光12に略平行な方向に、液晶分子6430が一様にアンチパラレル配向した態様の液晶を用い、縦電界をかける(即ち縦電界を生じさせる)ことで、実現することができる。縦電界が生じた状態(図14A及び図14B参照)では、液晶回折素子64に入射する光12は、紙面の左方向に曲がり(偏向し)、液晶回折素子64に入射する光11は、曲がらない(偏向しない)。図14Aの右側に、光11の偏光方向と、光12の偏光方向とを、それぞれ矢印で示した。縦電界のかけ方によって、光を左方向に回折させるモード(I)と、光に作用しない(即ち、まっすぐ光を通す)モード(II)と、右方向に回折させるモード(III)と、を切り替えることができる。図14B(断面図)において、液晶分子6430が基板6411、6412に対して略垂直となっている部分は、例えば一対の電極6441、6442間に5Vの電圧を印加し、液晶分子6430が基板に対して水平になっている部分は0Vの電圧を印加させる(即ち電圧を印加しない)ことで、実現される。
なお、本実施形態では縦電界の例を記載したが、横電界を用いて同様の配向を実現することも可能であり、横電界を用いても構わない。
【0083】
本実施形態では、液晶回折素子64Aとして、液晶分子6430の並び方が図13A及び図13Bに示される素子を用い、液晶回折素子64Bとして、液晶分子6430の並び方が図14A及び図14Bに示される素子を用いるものとする。
【0084】
液晶回折素子64A、64Bそれぞれにおいて、電圧のオン/オフや電圧値を調整することで、上記のようにモードをモード(I)、(II)又は(III)に切り替えることができる。それゆえ、液晶回折素子64Aと液晶回折素子64Bとを組み合わせることで、偏向素子60として、光を偏向させることと、偏向させないようにすること(即ち偏向をキャンセルすること)と、の両方が可能になる。
【0085】
例えば、液晶回折素子64Aを、光を左方向に偏向させるモード(I)に設定し、液晶回折素子64Bを、右方向に偏向させるモード(III)に設定し、かつ各液晶回折素子の偏向角をθ度とすると、偏向素子60に入射した光11は、液晶回折素子64Aによって左方向にθ度偏向した後、液晶回折素子64Bによって右方向にθ度偏向する(表3参照)。結果として、光11は、偏向が相殺される(θ-θ=0)。一方、偏向素子60に入射した光12は、液晶回折素子64A、64Bのいずれによっても偏向しない。スクリーン上では、光11及び光12のいずれも、照射中心は、投射レンズ50の正面となる(表3参照)。即ち第1の反射型ディスプレイ41からの光11の照射領域と、第2の反射型ディスプレイ42からの光12の照射領域とが重なることになる。この照射領域を照射領域(1)と称する。
【0086】
一方、液晶回折素子64A、64Bのいずれも、光を左方向に回折させるモード(I)に設定し、かつ各液晶回折素子の偏向角をθ度とすると、偏向素子60に入射した光11は、液晶回折素子64Aによって左方向にθ度偏向した後、液晶回折素子64Bによって更に右方向にθ度偏向する(表4参照)。結果として、光11は、偏向角が2倍になる(2×θ)。一方、偏向素子60に入射した光12は、液晶回折素子64A、64Bのいずれによっても偏向しない。スクリーン上では、光11の照射中心は左方向に(2×θ)度移動し、光12の照射中心は、投射レンズ50の正面となる(表4参照)。即ち、全体としての光の照射領域は広くなる。この照射領域全体を照射領域(2)と称する。
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
このように本実施形態の偏向素子60にも、実施形態1及び2のようにPBD62を用いた偏向素子60とほぼ同様の効果が期待でき、プロジェクタ1の照射領域を、実施形態1及び2と同様に照射領域(1)と照射領域(2)とに切り替えることができる。
【0090】
上記では、液晶回折素子64が入射光の進行方向を左右方向に回折させる場合について説明したが、液晶回折素子64を構成する電極の配置によって、上下方向に回折させることもできる(図12参照)。
【0091】
図12では、プロジェクタ1の照射領域が照射領域(1)になる場合と、照射領域(2)になる場合との両方を記載している。図12中、矢印(c)は、液晶回折素子64A、64Bのモードを切り替えることによって、光12の照射中心が移動することを示す。矢印(d)は、液晶回折素子64A、64Bのモードを切り替えることによって、光11の照射中心が移動することを示す。矢印(e)は、液晶回折素子64A、64Bのモードを切り替えることによって、照射領域が切り替わることを示す。
【0092】
(実施形態4)
本実施形態では、本実施形態に特有の特徴について主に説明し、上記実施形態1と重複する内容については説明を省略する。本実施形態は、偏向素子60が異なることを除いて、実施形態3と実質的に同じである。
【0093】
本実施形態では、偏向素子60は、1個の液晶回折素子64から構成される。液晶回折素子64としては、一対の基板6411、6412間に、一対の電極6441、6442と液晶層6420とが挟持された構造のものが好適である(例えば図13B及び図14B参照)。この液晶回折素子64に、縦電界を全面的に生じさせる(例えば一対の電極6441、6442間の電圧値を5Vとする)ことで、全ての液晶分子6430を、基板6411、6412に対して略垂直に立たせることができる。この場合、液晶回折素子64において面内の位相差分布をなくすことができるため、例えば電圧のオン/オフや電圧値を調整することで、光を偏向させるモード(IV)と、光に作用しない(即ち、まっすぐ光を通す)モード(V)と、に切り替えることができる。従って、偏向素子60として1個の液晶回折素子64のみで、入射する偏光に応じて光の進行方向を変化させる(即ち光を偏向させる)ことと、変化させない(即ち光を偏向させない)ことと、の両方を実現できる。
【0094】
例えば、液晶回折素子64を、光に作用しないモード(V)に設定した場合、偏向素子60(即ち液晶回折素子64)に入射した光11及び光12はいずれも、偏向せずに透過する(表5参照)。スクリーン上では、光11及び光12のいずれも、照射中心は、投射レンズ50の正面となる(表5参照)。即ち第1の反射型ディスプレイ41からの光11の照射領域と、第2の反射型ディスプレイ42からの光12の照射領域とが重なることになる。この照射領域を照射領域(1)と称する。
【0095】
一方、液晶回折素子64を、光を偏向させるモード(IV)、より具体的には、例えば左方向に偏向させるモードに設定し、かつ偏向角をθ度とすると、偏向素子60(即ち液晶回折素子64)に入射した光11は、左方向にθ度偏向する(表6参照)。一方、偏向素子60に入射した光12は、偏向しない。スクリーン上では、光11の照射中心は左方向にθ度移動し、光12の照射中心は、投射レンズ50の正面となる(表6参照)。即ち、全体としての光の照射領域は広くなる。この照射領域全体を照射領域(2)と称する。
【0096】
【表5】
【0097】
【表6】
【0098】
このように本実施形態の偏向素子60にも、PBD62を用いた偏向素子60とほぼ同様の効果が期待でき、プロジェクタ1の照射領域を、照射領域(1)と照射領域(2)とに切り替えることができる。
【0099】
なお、本実施形態では縦電界の例を記載したが、横電界を用いて同様の配向を実現することも可能であり、横電界を用いても構わない。また、液晶回折素子64を構成する電極の配置によって、上下方向に偏向させることもできる。
【0100】
以上、本発明の実施形態について説明したが、説明された個々の事項は、すべて本発明全般に対して適用され得るものである。
【0101】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0102】
(実施例1)
本例のプロジェクタは、上記実施形態1のプロジェクタに対応する。PBD62として、光の進行方向を上下方向に曲げる特性を有するものを使用する。本例のプロジェクタは、光の利用効率が高く、かつ光の照射領域を、照射領域(1)と照射領域(2)とに切り替えることができるものである。
【0103】
(実施例2-1~2-3)
本例のプロジェクタは、上記実施形態2のプロジェクタに対応する。PBD62として、光の進行方向を上下方向に曲げる特性を有するものを使用する。偏向素子60として、実施例2-1では、図11Aで示される構造の偏向素子を使用し、実施例2-2では、図11Bで示される構造の偏向素子を使用し、実施例2-3では、図11Cで示される構造の偏向素子を使用する。本例のプロジェクタもまた、光の利用効率が高く、かつ光の照射領域を、照射領域(1)と照射領域(2)とに切り替えることができるものである。
【0104】
(実施例3)
本例のプロジェクタは、上記実施形態3のプロジェクタに対応する。偏向素子60として、液晶回折素子64Aと液晶回折素子64Bとから構成されたものを使用し、液晶回折素子64A、64Bとして、入射光の進行方向を上下方向に偏向させる特性を有するものを使用する。本例のプロジェクタもまた、光の利用効率が高く、かつ光の照射領域を、照射領域(1)と照射領域(2)とに切り替えることができるものである。
【0105】
(実施例4)
本例のプロジェクタは、上記実施形態4のプロジェクタに対応する。偏向素子60として、1個の液晶回折素子64から構成されたものを使用し、液晶回折素子64として、入射光の進行方向を左右方向に偏向させる特性を有するものを使用する。本例のプロジェクタもまた、光の利用効率が高く、かつ光の照射領域を、照射領域(1)と照射領域(2)とに切り替えることができるものである。
【0106】
以上に示した本発明の各態様は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜組み合わされてもよい。
【符号の説明】
【0107】
1、1R :プロジェクタ
10 :光源
11、12 :光
20 :レンズ
30 :偏光ビームスプリッタ
40、41、42:反射型ディスプレイ
50 :投射レンズ
60 :偏向素子
61 :λ/4位相差板(QWP)
62 :PB偏向素子(PBD)
63 :切替可能な半波長板(sHWP)
64、64A、64B:液晶回折素子
70、71、72:スクリーン又は照射領域
73 :照射領域71と照射領域72との重なり部分
100 :円編光
100L :左円偏光
100R :右円偏光
100(R) :入射時右円偏光が出射した後の偏向方向
100(L) :入射時左円偏光が出射した後の偏向方向
6211、6212、6311、6312、6411、6412:基板
6220、6320、6420:液晶層
6230、6330、6430:液晶分子
6441、6412:電極

図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
図15