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特開2024-115210長距離圧送方法及びコンクリート構造物の構築方法
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  • 特開-長距離圧送方法及びコンクリート構造物の構築方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115210
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】長距離圧送方法及びコンクリート構造物の構築方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20240819BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20240819BHJP
   C04B 24/06 20060101ALI20240819BHJP
   F04B 15/02 20060101ALI20240819BHJP
   E04G 21/04 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/26 F
C04B24/06 A
F04B15/02 A
E04G21/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020784
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390029458
【氏名又は名称】ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】512270807
【氏名又は名称】株式会社北斗工業
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100213388
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 康司
(72)【発明者】
【氏名】土師 康一
(72)【発明者】
【氏名】澤村 淳美
(72)【発明者】
【氏名】仲野 弘識
(72)【発明者】
【氏名】守屋 健一
(72)【発明者】
【氏名】椎名 貴快
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 雄介
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰介
(72)【発明者】
【氏名】篠原 明
(72)【発明者】
【氏名】作江 富夫
(72)【発明者】
【氏名】木戸 邦也
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄大
(72)【発明者】
【氏名】武石 海斗
【テーマコード(参考)】
2E172
3H075
4G112
【Fターム(参考)】
2E172AA05
2E172AA12
2E172CA33
3H075AA13
3H075CC06
3H075CC40
3H075DA25
4G112MD01
4G112PB17
4G112PB31
(57)【要約】
【課題】本発明は、コンクリート組成物をポンプの圧力を高めて圧送する圧送負荷の大きいポンプ施工でも材料分離を起こしにくく、凝結遅延が生じない長距離圧送方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る長距離圧送方法は、少なくとも水、セメント及び骨材を含むコンクリート組成物に圧送助剤を添加して混合し、混合後のコンクリート組成物をポンプにより圧送する。骨材は0.3mm以下の細骨材を含む。コンクリート組成物におけるセメント及び0.3mm以下の細骨材の粉体量が550kg/m以上である。圧送助剤は、(A)側鎖にポリエーテル鎖を有するポリカルボン酸系分散剤と、(B)オキシカルボン酸又はその塩とを少なくとも含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水、セメント及び骨材を含むコンクリート組成物に圧送助剤を添加して混合し、当該混合後のコンクリート組成物をポンプにより圧送する、長距離圧送方法であって、
前記骨材が0.3mm以下の細骨材を含み、
前記コンクリート組成物における前記セメント及び前記細骨材の粉体量が550kg/m以上であり、
前記圧送助剤は、(A)側鎖にポリエーテル鎖を有するポリカルボン酸系分散剤と、(B)オキシカルボン酸又はその塩とを少なくとも含む、長距離圧送方法。
【請求項2】
少なくとも水、セメント、混和材及び骨材を含むコンクリート組成物に圧送助剤を添加して混合し、当該混合後のコンクリート組成物をポンプにより圧送する、長距離圧送方法であって、
前記骨材が0.3mm以下の細骨材を含み、
前記コンクリート組成物における前記セメント、前記混和材及び前記細骨材を合わせた粉体量が550kg/m以上であり、
前記圧送助剤は、(A)側鎖にポリエーテル鎖を有するポリカルボン酸系分散剤と、(B)オキシカルボン酸又はその塩とを少なくとも含む、長距離圧送方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の長距離圧送方法において、
前記圧送助剤は、前記(A)成分/前記(B)成分が99/1~20/80の範囲である、長距離圧送方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の長距離圧送方法において、
前記圧送助剤は、粉体であり、かつ、前記コンクリート組成物中のアルカリに容易に溶解もしくは崩壊する包装材料、または水に容易に溶解もしくは崩壊する包装材料に充填された状態で前記包装材料と共に前記コンクリート組成物と混合される、長距離圧送方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の長距離圧送方法で圧送された前記コンクリート組成物を硬化してコンクリート構造物を形成する、コンクリート構造物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート組成物をポンプにより圧送する長距離圧送方法及び当該方法を用いるコンクリート構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポンプを用いてセメントペースト、モルタル及びコンクリートなどのセメント組成物を所定の施工現場まで移動させる圧送方法が知られている(例えば特許文献1)。ポンプを用いた圧送方法は、地下鉄や下水道などのシールド工事のインバート部分あるいは二次覆工のコンクリート打設に採用されている。
【0003】
近年、コンクリートを圧送する距離が長くなる傾向にあり、例えば400m以上の距離を圧送する施工現場もある。このような長距離圧送の場合、圧送能力の大きなポンプや径の大きな配管を使用するなど設備面による対策と併せて、圧送直前にコンクリート組成物に添加するあと添加タイプの圧送助剤の使用が提案されている(例えば特許文献2)。このようなあと添加タイプの圧送助剤を使用することにより、コンクリートを400m以上圧送してもコンクリートの粘性を増加させずに優れた流動性を保持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7050188号公報
【特許文献2】特開2000-191354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年のシールドマシンの高性能化などにより、コンクリートを圧送する距離が益々長くなり、例えば1500m以上となる施工現場も登場している。そのような施工現場に対応するためにポンプの圧力を高めると配管内で材料分離を起こしやすくなり、分離を防止するために従来の圧送助剤の量を増やすと打込み後のコンクリートが凝結遅延を起こすことがあった。
【0006】
そこで、コンクリート組成物をポンプの圧力を高めて圧送する圧送負荷の大きいポンプ施工でも材料分離を起こしにくく、凝結遅延が生じない長距離圧送方法及び当該方法を用いるコンクリート構造物の構築方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0008】
[1]本発明に係る長距離圧送方法の一態様は、
少なくとも水、セメント及び骨材を含むコンクリート組成物に圧送助剤を添加して混合し、当該混合後のコンクリート組成物をポンプにより圧送する、長距離圧送方法であって、
前記骨材が0.3mm以下の細骨材を含み、
前記コンクリート組成物における前記セメント及び前記細骨材の粉体量が550kg/m以上であり、
前記圧送助剤は、(A)側鎖にポリエーテル鎖を有するポリカルボン酸系分散剤と、(B)オキシカルボン酸又はその塩とを少なくとも含むことを特徴とする。
【0009】
[2]本発明に係る長距離圧送方法の一態様は、
少なくとも水、セメント、混和材及び骨材を含むコンクリート組成物に圧送助剤を添加して混合し、当該混合後のコンクリート組成物をポンプにより圧送する、長距離圧送方法であって、
前記骨材が0.3mm以下の細骨材を含み、
前記コンクリート組成物における前記セメント、前記混和材及び前記細骨材を合わせた粉体量が550kg/m以上であり、
前記圧送助剤は、(A)側鎖にポリエーテル鎖を有するポリカルボン酸系分散剤と、(B)オキシカルボン酸又はその塩とを少なくとも含むことを特徴とする。
【0010】
[3]前記長距離圧送方法の一態様において、
前記圧送助剤は、前記(A)成分/前記(B)成分が99/1~20/80の範囲であることができる。
【0011】
[4]前記長距離圧送方法の一態様において、
前記圧送助剤は、粉体であり、かつ、前記コンクリート組成物中のアルカリに容易に溶解もしくは崩壊する包装材料、または水に容易に溶解もしくは崩壊する包装材料に充填された状態で前記包装材料と共に前記コンクリート組成物と混合されることができる。
【0012】
[5]本発明に係るコンクリート構造物の構築方法の一態様は、前記長距離圧送方法の一態様で圧送された前記コンクリート組成物を硬化してコンクリート構造物を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る長距離圧送方法の一態様によれば、コンクリート組成物をポンプにより長距離を圧送しても均質性を保持しつつ、顕著な凝結遅延が生じないため、圧送負荷の大きいポンプ施工にも対応できる。また、本発明に係るコンクリート構造物の構築方法の一態様によれば、長距離圧送されても均質性を保持しつつ顕著な凝結遅延が生じないコンクリート組成物によりコンクリート構造物を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例における圧送試験の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0016】
本発明において、「アルキル」は、例えば、直鎖状または分枝状のアルキルを含む。本発明において、アルキル基は、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基およびtert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等があげられる。
【0017】
本発明において、「アルキレン」は、例えば、直鎖状アルキレン(メチレンもしくはポリメチレン)または分枝状のアルキレンを含む。本発明において、アルキレン基は、特に
限定されないが、例えば、メチレン基、ジメチレン基(エチレン基)、エチリデン基、トリメチレン基、1-メチルエチレン基(プロピレン基)、テトラメチレン基、1-メチルトリメチレン基、2-メチルトリメチレン基、1,1-ジメチルエチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基等があげられる。
【0018】
1.長距離圧送方法
本実施形態に係る長距離圧送方法は、少なくとも水、セメント及び骨材を含むコンクリート組成物に圧送助剤を添加して混合し、当該混合後のコンクリート組成物をポンプにより圧送する、長距離圧送方法である。また、コンクリート組成物は、少なくとも水、セメント、混和材及び骨材を含んでもよい。
【0019】
コンクリート組成物への圧送助剤の添加は、特に限定されないが、レディーミクスト工場で製造されたコンクリート組成物が施工現場に到着した際に添加することが好ましい。圧送助剤の添加方法としては、粉体の状態でコンクリート組成物に添加してもよいし、他の水溶液に混合した上で水溶液と共にコンクリート組成物に添加してもよい。圧送助剤の添加時期は、添加後のコンクリート組成物の品質が温度依存性を有する為、品質確保の観点からポンプによる圧送直前が好ましい。
【0020】
圧送助剤が添加されたコンクリート組成物を混合する工程は、コンクリートプラントで添加して混合する方法またはアジテータ車に後から添加して混合する公知の方法により実施することができる。
【0021】
混合後のコンクリート組成物の圧送は、公知のポンプを用いることができる。圧送用のポンプとしては、例えば、一対のプランジャポンプを交互駆動して吐出管からコンクリート組成物を吐出するいわゆるピストン式圧送ポンプを用いることができる。長距離を圧送するため、高い圧送能力を有するポンプを用いることが好ましく、例えば、理論吐出量55m/hr以上の圧送能力で、吐出量20m/hrの時の吐出圧力が4MPa以上を有することが望ましい。ポンプから吐出されたコンクリート組成物は、ポンプから打設現場まで1500m以上の長さで延在する圧送管内を圧送される。本実施形態における長距離圧送方法によれば、長距離を圧送しても均質性を保持しつつ、顕著な凝結遅延が生じないため、圧送負荷の大きいポンプ施工にも対応できる。
【0022】
2.コンクリート組成物
コンクリート組成物は、少なくとも水、セメント及び骨材を含み、圧送されるコンクリート組成物はさらに圧送助剤を含む。また、コンクリート組成物は、少なくとも水、セメント、混和材及び骨材を含んでもよく、圧送されるコンクリート組成物はさらに圧送助剤を含む。
【0023】
セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、低発熱セメント、白色セメントなどが挙げられる。また、コンクリート組成物が混和材を含む場合、混和材としては、水硬性粉体である高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフュームなどであってもよいし、非水硬性である石灰石微粉末などであってもよい。
【0024】
骨材としては、少なくとも0.3mm以下の細骨材を含み、さらに、0.3mmを超える細骨材及び粗骨材を含んでもよい。0.3mm以下の細骨材は、微粉末であるセメントと共に圧送管内におけるコンクリート組成物の材料分離抵抗性を付与する働きを期待でき、またコンクリート組成物の流動性を向上させる。圧送助剤を添加する前のコンクリート組成物におけるセメント及び0.3mm以下の細骨材の粉体量が550kg/m以上で
ある。また、コンクリート組成物が混和材を含む場合、圧送助剤を添加する前のコンクリート組成物におけるセメント、混和材及び0.3mm以下の細骨材の粉体量が550kg/m以上である。これらの粉体量が550kg/m以上であることにより、コンクリート組成物の材料分離抵抗性を付与する働きを期待でき、また圧送管内における流動性に優れる。なお、骨材の量は用途に応じて適宜設定される。
【0025】
1500mの距離を圧送した後のコンクリート組成物を硬化した硬化体の圧縮強度は、当該圧送助剤を添加する前の圧縮強度に対して70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。圧縮強度は、JIS A1132に準拠して成型後、材齢24時間まで養生した硬化体(供試体)に対しJIS A1180に準拠して一軸圧縮強度(N/mm)を測定する。硬化体は、JIS 1132に準拠した円柱形の供試体を用いる。圧送後におけるコンクリート組成物の良否は、圧送助剤添加前の圧縮強度(Fa)に対して圧送後の圧縮強度(Fb)の保持率(Fb×100/Fa)で判断できる。
【0026】
3.圧送助剤
圧送助剤は、(A)側鎖にポリエーテル鎖を有するポリカルボン酸系分散剤と、(B)オキシカルボン酸又はその塩とを少なくとも含む。
【0027】
[(A)成分]
(A)成分は、側鎖にポリエーテル鎖を有するポリカルボン酸系分散剤である。
(A)成分の種類は、特に限定されない。例えば、1つ以上のカルボキシレートまたはカルボン酸の繰り返し単位を有するポリカルボン酸系分散剤であってもよい。
(A)成分を構成する繰り返し単位も特に限定されないが、例えば、ビニル基、(メタ)アクリル基、マレイン酸等が挙げられる。ここで、「(メタ)アクリル基」は「アクリル基又はメタクリル基」を意味する。
【0028】
前記繰り返し単位を有する(A)成分は、ホモポリマーでもコポリマーであってもよい。ホモポリマーとしては、例えば、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールのホモポリマーなどが挙げられる。コポリマーは、例えば、二種類以上の繰り返し単位が、ポリマー鎖の長さ方向に並んでいるポリマーであってもよい。二種類以上の繰り返し単位の並んでいる順序は、特に限定されない。
【0029】
(A)成分は、例えば、下記一般式(a1)で表される単量体の少なくとも1種(以下、単量体(a1)という)と、下記一般式(a2)で表される単量体の少なくとも1種(以下、単量体(a2)という)とを共重合させて得られるポリカルボン酸であってもよい。なお、(A)成分は、下記一般式(a1)及び下記一般式(a2)に限定されるものではない。
【0030】
C=CR-(CHm1(CO)O(AO)n1 (a1)[一般式(a1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよく、m1は、0~2の整数であり、Rは、水素原子又は-COO(AO)n2Xを表し、pは、0又は1の整数であり、AOおよびAOは、それぞれ独立に、炭素数2~4のオキシアルキレン基又はオキシスチレン基を表し、各AOおよびAOは、互いに同一でも異なっていてもよく、n1及びn2は、2~300の整数を表し、n2は0~300の整数を表し、各n1及びn2は、互い同一でも異なっていてもよく、X及びXは、水素原子又は炭素数1~18のアルキル基を表し、各X及びXは、互いに同一でも異なっていてもよい。]
OおよびAOは、炭素数2~4のオキシアルキレン基が好ましく、オキシエチレン基がより好ましい。n1及びn2は、5~200が好ましく、8~150がより好まし
く、12~60がさらに好ましい。
【0031】
単量体(a1)としては、特に限定されないが、例えば、メトキシポリエチレングリコール、メトキシポリプロピレングリコール、メトキシポリブチレングリコール、メトキシポリスチレングリコール、エトキシポリエチレンポリプロピレングリコール等の片末端アルキル封鎖ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸、マレイン酸との(ハーフ)エステル化物や、3-メチル-3-ブテニルアルコール、(メタ)アリルアルコールとのエーテル化物、及び(メタ)アクリル酸、マレイン酸、3-メチル-3-ブテニルアルコール、(メタ)アリルアルコールへのエチレンオキシド、プロピレンオキシド付加物等が挙げられる。単量体(a1)は二種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
C=CR-COOM (a2)
[前記一般式(a2)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、メチル基又は(CHm2COOMであり、互いに同一でも異なっていてもよく、(CHm2COOMはCOOM又は他の(CHm2COOMと無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM、Mは存在しない。MおよびMは、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基又は置換アルキルアンモニウム基を表し、m2は、0~2の数である。MおよびMは、互いに同一でも異なっていてもよく、R~Rの2以上が(CHm2COOMのとき各m2は互いに同一でも異なっていてもよく、各Mは互いに同一でも異なっていてもよい。]。
【0033】
単量体(a2)としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸系単量体、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等のジカルボン酸系単量体、又はこれらの無水物もしくは塩(例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩)、水酸基が置換されていてもよいモノ、ジ、トリアルキル(炭素数2~8)アンモニウム塩が挙げられる。
【0034】
中でも、(メタ)アクリル酸又はその塩、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、(メタ)アクリル酸又はこれらのアルカリ金属塩がより好ましい。
単量体(a2)は二種以上を混合して用いてもよい。
単量体(a2)は、(メタ)アクリル酸又はこれらのアルカリ金属塩と、マレイン酸を含むことが特に好ましい。
【0035】
(A)成分は、単量体(a1)に基づく繰り返し単位、単量体(a2)に基づく繰り返し単位に加えて、アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、スチレン、(メタ)アクリル酸アルキル(水酸基を有していてもよい炭素数1~12のもの)エステル、スチレンスルホン酸等の共重合可能な単量体に基づく繰り返し単位を有していてもよい。
これらの共重合可能な単量体の使用量は特に限定されないが、例えば、全単量体中0モル%以上、5モル%以上、10モル%以上でもよく、例えば、50モル%以下、40モル%以下、30モル%以下でもよい。
【0036】
成分(A)の重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法、ポリエチレングリコール換算)は、特に限定されないが、分散性の観点から、1,000~100,000が好ましく、3,000~75,000がより好ましく、5,000~50,000がさらに好ましい。
【0037】
(A)成分は1種あるいは2種以上の混合物として使用することができる。
【0038】
(B)成分のオキシカルボン酸(塩)としては、クエン酸(塩)、グルコン酸(塩)、
グルコヘプトン酸(塩)、酒石酸(塩)、リンゴ酸(塩)、グリコール酸(塩)、グリセリン酸(塩)などが挙げられ、好ましくはグルコン酸(塩)である。これらの金属塩としてはアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩などが挙げられる。これらは1種あるいは2種以上の混合物として使用することができる。
【0039】
圧送助剤の粒度分布としては、特に限定されないがアルカリ水又は水への溶解性を考慮すると5000μm以下が好ましい。
【0040】
圧送助剤は、粉体状であることが好ましい。圧送助剤は、コンクリート組成物中のアルカリに容易に溶解もしくは崩壊する包装材料、または水に容易に溶解もしくは崩壊する包装材料に充填された状態で包装材料と共にコンクリート組成物と混合されることができる。ここで「容易に溶解もしくは崩壊する」とは、ビーカーにアルカリ水もしくは水を100ml計量し、マグネチックスターラーを用いて60rpmで攪拌し、そこに、当該包装材料を投入し、3分以内で崩壊する材料である。このような包装材料を用いることにより、コンクリート組成物と混合される際に圧送助剤が飛散することなく、添加の作業性や軽量誤差などが軽減できる。
【0041】
粉体状の圧送助剤は、従来の製造法で製造された粉体を分級すること、あるいは圧送助剤の水溶液を噴霧乾燥または流動層造粒することにより得られる。粉体状の圧送助剤の粒度分布としては、目開き寸法100μmのふるいでふるい分けした際にふるい上に残存する量(ふるい残量)が50重量%以上、目開き寸法1000μmのふるい残量が50重量%以下が好ましい。より好ましくは150μmのふるい残量が60重量%以上、600μmのふるい残量が20%以下である。このように、水溶液の形態と異なり、比較的粒子径の大きい粉体状の圧送助剤は、コンクリート組成物に添加・混合された際には均一に分散しているが完全には溶解せずに、コンクリート組成物がポンプ圧送された際に徐々に溶解して流動性を保持し、かつコンクリート組成物の粘性が低い状態で配管の中を流動するため、ポンプ圧送による流動性低下、あるいは配管内の閉塞を防止すると考えられる。
【0042】
圧送助剤の使用量は、使用するコンクリート組成物の材料や配合、環境条件、施工条件に応じて適宜決定され、基本的にはコンクリート組成物に対して施工に必要な流動性保持、およびポンプ圧送性を付与するのに十分な量であればよく、例えば通常はコンクリート組成物中のセメント量に対して好ましくは0.01重量%~10.0重量%であり、特に0.02重量%~2.0重量%であることが好ましい。
【0043】
圧送助剤は、(A)成分によるセメント分散効果と(B)成分によるセメント凝結遅延効果を組み合わせることが好ましい。圧送助剤が(A)成分を有することにより、コンクリート組成物がポンプで圧送された際にセメントが分散することで流動性を保持できる。また、圧送助剤が(B)成分を有することにより、圧送管の中において、コンクリート組成物の凝結を遅延させることにより、圧送管内の閉塞を防止すると考えられる。
【0044】
圧送助剤は、(A)成分/(B)成分が99/1~20/80の範囲であることができる。(A)成分が圧送助剤全体における20重量%未満になると流動性を保持できなくなり、(B)成分が圧送助剤全体における80重量%を超えると凝結が遅延してしまうことが考えられる。
【0045】
圧送助剤は他のセメント混和剤と併用あるいは配合して使用することができる。例えば、(A)成分とは異なるセメント分散剤、増粘剤、スランプ保持剤、空気量調整剤、乾燥収縮低減剤、早強剤、凝結促進剤、消泡剤、防錆剤、急結剤、防水剤、膨張剤、珪砂、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、炭酸塩などが例示できる。セメント分散剤としては一般的に市販されているもので、ポリカルボン酸、アミノスルホン酸、ナフタレ
ンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリスチレンスルホン酸、リグニンスルホン酸またはそれらの金属塩などが挙げられ、これらの金属塩としてはアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩が挙げられる。増粘剤としては重量平均分子量が5000~100000のポリエチレングリコール、B型粘度計により測定された2%水溶液の粘度が0.3~10Pa・sのセルロース誘導体などが挙げられる。またスランプ保持剤としては、炭素数2~8のオレフィンとエチレン性不飽和ジカルボン酸無水物の共重合物であり、例えば重量平均分子量5000~50000のイソブチレンと無水マレイン酸の共重合物、重量平均分子量2000~50000のスチレンと無水マレイン酸の共重合物などが挙げられる。特にポリエチレングリコール、および/あるいはオレフィンとエチレン性不飽和ジカルボン酸無水物の共重合物との併用が好ましい。
【0046】
4.コンクリート構造物の構築方法
本実施形態に係るコンクリート構造物の構築方法は、上記1に記載の長距離圧送方法で圧送された上記2に記載のコンクリート組成物を硬化してコンクリート構造物を形成する。本実施形態に係るコンクリート構造物の構築方法により形成されるコンクリート構造物は、例えば、シールド工事のインバート部分や二次覆工部分などである。
【0047】
本実施形態に係るコンクリート構造物の構築方法の一態様によれば、長距離圧送されても均質性を保持しつつ顕著な凝結遅延が生じないコンクリート組成物によりコンクリート構造物を形成できる。そのため、地下鉄や下水道などの工事において長距離を圧送する場合でも、コンクリート構造物は早期に所望の初期強度を得ることができる。
【実施例0048】
(1)圧送助剤の調製
表1に実施例および比較例に使用した圧送助剤サンプルの混合割合を示す。実施例に用いた圧送助剤1は、表1の成分をそれぞれが均一になるよう混合して調製した。
【0049】
(A)成分:メタクリル酸と、メタクリル酸メチルと、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコール(EO付加量:25モル)との共重合体(メタクリル酸/メタクリル酸メチル/メタクリル酸メトキシポリエチレングリコール=70/15/15、重量平均分子量:25,000)、
(B)成分:グルコン酸ナトリウム。
【0050】
【表1】
【0051】
(2)コンクリート組成物の配合及び製造
実施例及び比較例のコンクリート組成物は、表2に示した水、セメント、高性能AE減水剤及び骨材の配合(kg/m)で製造した。レディーミクスト工場で製造されたコンクリート組成物(ベース配合は30-21-20N)をアジテータ車で現場まで運搬し、現場に到着したコンクリート組成物に前記(1)で製造した圧送助剤1,2を0.25kg/mで添加した。さらに、コンクリート組成物をアジテータ車で混合して、圧送するコンクリート組成物を製造した。
【0052】
コンクリート組成物におけるセメント及び0.3mm以下の細骨材(細骨材1)の粉体量が550kg/m以上となる配合を選定した。また、圧送助剤1,2の使用量はセメント量の0.072重量%であった。コンクリート組成物の製造に用いた0.3mmを超える細骨材は、細骨材2と呼ぶ。表2においてセメント及び骨材は粉体量(kg/m)で示す。また、コンクリート組成物の練り上がり温度が25℃になるように材料を調節した。
【0053】
使用材料は、
水:上水道水、
セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)、
化学混和剤:高性能AE減衰剤(フローリック社製)。
【0054】
【表2】
【0055】
(3)ポンプ圧送試験
図1の圧送試験装置を用いて上記(2)で得られた実施例及び比較例のコンクリート組成物の圧送試験を実施した。圧送試験は、材料分離が起きやすい圧送負荷の大きいポンプ施工を再現した。具体的には、圧送助剤1,2が添加されて混合されたコンクリート組成物をアジテータ車1からホッパー3に投入し、定置式ポンプ2によって吐出量一定の条件で圧送管4にコンクリート組成物を吐出した。圧送管4は、実管長233m(水平換算距離367m)で敷設した。圧送管4を運搬されたコンクリート組成物はホッパー3に戻されて、定置式ポンプ2によって実管長が1500mになるまで圧送管4内を循環させて、圧送後のサンプルを採取した。圧送は、高圧コンクリートポンプ:MKW-55SM(シンテック社製)、圧送管:5インチ管(S管)、吐出量:30m/h、気温:10℃、コンクリート組成物温度12℃の条件で行った。
【0056】
(4)性状観察
1500mの距離を圧送された後の各サンプルを取り出してそれぞれの性状を目視観察した。比較例のコンクリート組成物は、一部が材料分離を起こしていた。実施例のコンクリート組成物は、材料分離も確認されず、良好なスラリーであった。
【0057】
(5)一軸圧縮強度試験
圧送前後の実施例及び比較例のコンクリート組成物を、JIS A1132に準拠して成型し、材齢24時間まで養生を行い、実施例及び比較例の円柱形の硬化体を製造した。実施例の硬化体の製造は、凝固遅延を起こしていないことが確認された。圧送前後の実施例及び比較例の各硬化体を用いて、JIS A1108に準拠して一軸圧縮強度(N/mm)を測定した。測定結果は、表3に示す。なお、表3において「保持率」は、圧送助剤添加前の圧縮強度(Fa)に対して圧送後の圧縮強度(Fb)の割合(Fb×100/Fa)である。
【0058】
【表3】
【0059】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0060】
1…アジテータ車、2…定置式ポンプ、3…ホッパー、4…圧送管
図1