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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115213
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】添加剤および金属の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/44 20060101AFI20240819BHJP
【FI】
C23C18/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020787
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 慶樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 敬子
【テーマコード(参考)】
4K022
【Fターム(参考)】
4K022AA02
4K022AA04
4K022AA35
4K022BA01
4K022BA03
4K022BA18
4K022DA01
4K022DB01
(57)【要約】
【課題】液相合成による金属の析出において、生成した金属のネッキングや粗大化を抑制する添加剤を提供する。
【解決手段】ここで開示される添加剤は、金属イオン及び/又は金属錯体を含む溶液から該金属を析出させる液相合成に用いられる。ここで開示される添加剤は、キノンオリゴマーを含有することを特徴とする。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオン及び/又は金属錯体を含む溶液から該金属を析出させる液相合成に用いられる添加剤であって、キノンオリゴマーを含有する添加剤。
【請求項2】
前記析出される金属が遷移金属である、請求項1に記載の添加剤。
【請求項3】
前記キノンオリゴマーが、以下の(1)および(2)の特徴:
(1)熱分解GC-MSによりヒドロキノンが検出されること;
(2)MALDI-TOF/MSにより、m/z値が200~1200の範囲内に少なくとも1つのピークが検出されること;
を有する、請求項1または2に記載の添加剤。
【請求項4】
前記キノンオリゴマーのMALDI-TOF/MSの測定結果において、m/z値が200以上1200以下の範囲のピーク強度の合計が、全体のピーク強度の50%以上を占める、請求項3に記載の添加剤。
【請求項5】
金属イオン及び/又は金属錯体と、キノンオリゴマーとを含有する溶液から該金属を析出させること、を含む金属の製造方法。
【請求項6】
前記溶液中の前記キノンオリゴマーの濃度が、0.02g/L以上200g/L以下である、請求項5に記載の金属の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属を析出させる液相合成に用いられる添加剤と、当該添加剤を用いた金属の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の小型化、電極薄層化に伴い、電子ペースト中のコアシェル金属粉に対して小粒径化、シャープな粒度分布が要求される。例えば、特許文献1、非特許文献1、2には、導電性粒子に関する技術が開示されている。また、非特許文献3には、保護剤としてポリビニルピロリドン(PVP)が使用した微粒子合成の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-238419号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】嶋本 大祐, 服部 真史, 吾郷 浩樹, 辻 正治, 第9回分子科学討論会講演要旨 2P077, 2015年8月31日公開
【非特許文献2】Nature nanotechnology, 6, 302 (2011) Supplementary information
【非特許文献3】趙 斌, 戸嶋 直樹、高分子論文集 Vol. 46 (1989) No. 9 pp. 551
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、導電性粒子の粒子径が小さいほど、液相合成(無電解めっき)による金属析出工程において粒子同士がネッキング、粗大化してしまう傾向がある。そして、こうした凝集・連結(ネッキング)は解砕できないほど強固である場合があり、導電性粉末として利用し難い。
【0006】
そこで、本開示は、液相合成による金属の析出において、生成した金属のネッキングや粗大化を抑制する添加剤を提供することを主な目的とする。また、当該添加剤を用いた金属の析出方法(製造方法)を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここで開示される添加剤は、キノンオリゴマーを含有することを特徴とする。ここで開示される添加剤は、金属イオン及び/又は金属錯体を含む溶液から当該金属を析出させる液相合成に用いられる。
【0008】
キノンオリゴマーの存在下で、金属イオン及び/又は金属錯体から金属を析出させることで、析出した金属粒子同士のネッキングや金属の粗大化が抑制される。
【0009】
ここで開示される添加剤の一態様では、析出される金属が遷移金属である場合に用いられ得る。キノンオリゴマーと遷移金属は錯体を形成し易いため、析出した遷移金属粒子同士のネッキングや金属の粗大化が好適に抑制される。
【0010】
ここで開示される添加剤の一態様では、上記キノンオリゴマーが、以下の(1)および(2)の特徴:
(1)熱分解GC-MSによりヒドロキノンが検出されること;
(2)MALDI-TOF/MSにより、m/z値が200~1200の範囲内に少なくとも1つのピークが検出されること;
を有する。これにより、より好適に析出した金属粒子同士のネッキングや金属の粗大化が抑制される。
【0011】
ここで開示される添加剤の一態様では、上記キノンオリゴマーのMALDI-TOF/MSの測定結果において、m/z値が200以上1200以下の範囲のピーク面積が、全体のピーク面積の50%以上を占める。これにより、より好適に析出した金属粒子同士のネッキングや金属の粗大化が抑制される。
【0012】
また、本開示により金属の製造方法(析出方法)が提供される。ここで開示される金属の製造方法は、金属イオン及び/又は金属錯体と、キノンオリゴマーとを含有する溶液から該金属を析出させることを含む。これにより、ネッキングや粗大化が抑制された金属(例えば、粒子状または膜状)を得ることができる。
【0013】
ここで開示される金属の製造方法の一態様では、上記溶液中の上記キノンオリゴマーの濃度が、0.02g/L以上200g/L以下である。これにより、製造される金属のネッキングや粗大化を好適に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】キノンオリゴマーの熱分解GC-MS(熱分解温度:300℃)の測定結果を示すピーク図である。
図2】キノンオリゴマーの熱分解GC-MS(熱分解温度:600℃)の測定結果を示すピーク図である。
図3】キノンオリゴマーのMALDI-TOF/MS測定結果である(m/z値が10~1500の範囲のピーク図)。
図4図3に示すMALDI-TOF/MS測定結果のm/z値が10~300の範囲の拡大図である。
図5】実施例1における粉体材料のTEM-EDX分析の画像(倍率:100,000倍)である。
図6】実施例1における粉体材料のTEM-EDX分析の画像(倍率:1,000,000倍)である。
図7】比較例1における粉体材料のFE-SEM-EDX分析の画像(倍率:20,000倍)である。
図8】実施例2における粉体材料のTEM-EDX分析の画像(倍率:100,000倍)である。
図9】実施例2における粉体材料のTEM-EDX分析の画像(倍率:1,000,000倍)である。
図10】比較例2における粉体材料のFE-SEM-EDX分析の画像(倍率:20,000倍)である。
図11】実施例3における粉体材料のFE-SEMの反射電子像である。
図12】実施例4における粉体材料のFE-SEMの反射電子像である。
図13】比較例3における粉体材料のFE-SEMの反射電子像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本技術の一実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において数値範囲を「A~B(ここでA、Bは任意の数値)」と記載している場合は、「A以上B以下」を意味すると共に、「Aを超えてB未満」、「Aを超えてB以下」、および「A以上B未満」の意味を包含する。
【0016】
ここで開示される添加剤は、少なくともキノンオリゴマーを含有する。ここで開示される添加剤は、液相合成における金属の析出反応における添加剤として好適に用いられる。液相合成における金属の析出は、例えば、金属イオン及び/又は金属錯体の還元によるものである。溶液中に存在するキノンオリゴマーにより、金属の析出挙動が好適に制御され、析出される金属同士のネッキングや粗大化を抑制される。
【0017】
本明細書において、「キノンオリゴマー」とは、キノンを有するモノマーが複数結合した重合体のことをいう。キノンオリゴマーの組成や構造は特に限定されないが、キノンオリゴマーを構成するモノマーとしては、例えば、ヒドロキノン(HQ)、ベンゾキノン(BQ)等が挙げられる。例えば、ここで開示される添加剤に含まれるキノンオリゴマーの一好適例では、モノマーとして少なくともヒドロキノンを含み、分子量が200以上のキノンオリゴマーであり得る。キノンオリゴマーがヒドロキノンを含むことにより、キノンオリゴマーが有するOH基の数が増加し水に溶解しやすくなるため、水系溶媒での利用が容易となる。なお、本明細書において、「オリゴマー」とは、少なくとも2つのモノマーが重合したものをいい(例えば2量体~6量体)、その上限は特に限定されるものではない(即ち、ポリマーを包含する)。また、キノンオリゴマーは、単一組成、単一構造でなくてもよく、混合物であってよい。
【0018】
キノンオリゴマーは、600℃の熱分解GC-MSにより、ヒドロキノン由来のピークが検出されることが好ましい。また、600℃の熱分解GC-MSによりベンゾキノンが検出され得る。なお、600℃の熱分解GC-MSで得られる結果が煩雑で解析が困難ある場合は、一度300度に加熱後、600℃に加熱を行い、2段階に分けて解析を行うダブルショットを行ってもよい。この場合、いずれかの温度でヒドロキノンが検出されることが好ましい。また、いずれかの温度でベンゾキノンが検出され得る。
【0019】
なお、キノンオリゴマーを熱分解GC-MSをしたとき、キノンオリゴマーの合成段階で混入し得る不純物や、キノンオリゴマー由来の熱分解物が検出され得る。例えば、600℃の熱分解GC-MSにより、エタノール、プロパノール、酢酸、フェノール等が検出され得る。フェノールは、ベンゼン環を有するため、キノンオリゴマーを構成するキノン由来であると推測される。また、300℃の熱分解GC-MSにて、例えば、ヒドロキノン、酢酸、2-フラノン、マレイミド、4-メチル-3-ペンテン-2-オン等が検出され得る。
【0020】
キノンオリゴマーを構成するモノマーのうちキノンを有するモノマーの割合が、50%以上がキノンを有していればよく、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または100%であり得る。
【0021】
キノンオリゴマーをMALDI-TOF/MSにより分析して得られたピーク図において、例えば、m/z値が200以上1200以下の範囲に少なくとも1つのピークを有するとよく、好ましくは、m/z値が200以上1000以下、200以上700以下、250以上750以下、または250以上500以下の範囲に少なくとも1つのピークを有する。これにより、好適に金属の析出挙動が制御される。
【0022】
また、キノンオリゴマーをMALDI-TOF/MSにより分析して得られたピーク図において、m/z値が200以上1200以下の範囲に3以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上のピークから成るピーク群を有するとよい。また、m/z値が200から1000の間に3以上、より好ましくは5以上、10以上のピークから成るピーク群を有するとよい。また、m/z値が200以上700以下の範囲に3以上、より好ましくは5以上、10以上のピークから成るピーク群を有するとよい。また、m/z値が250から500の間に3以上、より好ましくは5以上、10以上のピークから成るピーク群を有するとよい。これらは、キノンオリゴマーが複雑な分岐構造を有すること、様々な分子量や構造の物質の混合物であることを示し、様々な金属の析出反応への対応が可能となる。また、キノンオリゴマーが分岐構造を有することで、金属の析出反応の過程でキノンオリゴマーがゲル化しやすく、後述のように生成した金属表面にこのキノンオリゴマー由来の有機物が付着することで金属同士のネッキングや粗大化が抑制される。
【0023】
また、キノンオリゴマーをMALDI-TOF/MSにより分析して得られたピーク図において、m/z値が200以上1200以下の範囲のピーク強度の合計が、全体のピーク強度の50%以上を占めることが好ましく、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上であり得る。これにより、キノンオリゴマー合成時に生じ得る未反応のモノマーや、不純物等が少ないキノンオリゴマーであると推定されるため、キノンオリゴマーによる金属のネッキングおよび粗大化抑制効果がより好適に発揮される。
【0024】
ここで開示される添加剤は、キノンオリゴマーを固体として含んでいてもよく、適当な溶媒に溶解した状態で含んでいてもよい。添加剤がキノンオリゴマーを固体として含む場合には、その形状は特に限定されず、例えば、粉末状、顆粒状、ブロック状、綿状等であってもよい。固体のキノンオリゴマーを含む添加剤は、溶媒と混合されることによってキノンオリゴマーが溶解し、液相合成の際には、溶解した状態のキノンオリゴマーを供給することができる。添加剤に含まれるキノンオリゴマーが溶解している場合には、その溶媒として、例えば、水系溶媒が用いられることが好ましい。水系溶媒は、キノンオリゴマーを溶解させ易い。水系溶媒としては、例えば、水(例えば、純水、脱イオン水等)、水を主体とする混合液(例えば、水と低級アルコールとの混合溶液)等が挙げられる。
【0025】
キノンオリゴマーの合成方法は、特に限定されるものではなく、例えば、Polymer Science U.S.S.R vol.24 No.10 pp. 2434-2440, 1982を参照して合成することができる。後述の試験例に、キノンオリゴマーの合成方法の一例を示す。
【0026】
ここで開示される添加剤は、キノンオリゴマーに加え、その他の添加物を有していてもよい。かかる添加物としては、例えば、pH調整剤、保護剤、分散剤、錯化剤、還元剤等が挙げられる。
【0027】
以下、ここで開示される添加剤を用いた金属の製造方法(析出方法)について説明する。ここで開示される金属の製造方法は、金属イオン及び/又は金属錯体と、キノンオリゴマーとを含有する溶液から該金属を析出させることを含んでいる。
【0028】
以下の説明では、一例として、基材上に金属を析出させる方法について説明する。なお、本技術において基材は必須ではない。基材がない場合には、析出される金属は、溶液中に析出される。基材を用いる場合には、基材の種類は特に限定されず、例えば、金属粒子、金属部材、セラミックス粒子、セラミックス部材等であってもよい。以下の例では、基材としてセラミックス粒子を採用した場合について説明する。なお、基材を用いない場合の製造例は、以下の説明から基材を省略することで理解される。
【0029】
ここで開示される金属の製造方法は、金属イオン及び/又は金属錯体と、キノンオリゴマーとを含有する溶液から該金属を析出させる金属析出工程を含む。また、ここで開示される製造方法は、金属析出工程の前に材料準備工程を含み得る。以下、各工程について具体的に説明する。
【0030】
(1)材料準備工程
材料準備工程では、析出させる金属が溶解した溶液(以下「金属析出用溶液」ともいう)を準備することを含む。また、本実施形態では、基材としてセラミックス粒子準備する。
【0031】
金属析出用溶液は、キノンオリゴマーと、析出させる金属とを含む。析出させる金属は、好適には溶媒に溶解した状態で存在しており、例えば、金属イオン、金属錯体の状態で含まれる。例えば、析出させる金属を含む金属化合物を溶媒へ溶解させることで、金属析出用溶液に当該金属を含ませることができる。かかる金属化合物としては、金属塩、錯体等を好ましく用いることができる。塩としては、例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物などのハロゲン化物や、水酸化物、硫化物、硫酸塩、硝酸塩、等が挙げられる。錯体としては、アンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体、ヒドロキシ錯体、等が挙げられる。なお、金属析出用溶液の溶媒は、上述した種粒子生成用溶液の溶媒として例示したものと同様であってよいが、好ましくはキノンオリゴマーを溶解させやすくするため、水系溶媒が使用される。
【0032】
金属析出用溶液中のキノンオリゴマーの濃度は、特に限定されないが、濃度が低すぎる場合には、キノンオリゴマーによる効果が十分に得られない場合がある。そのため、金属析出用溶液中のキノンオリゴマーの濃度は、例えば、0.02g/L以上であって、0.05g/L以上、0.1g/L以上、または0.2g/L以上であるとよい。また、キノンオリゴマーの濃度が高すぎる場合には、析出した金属に付着する不純物の量が多くなりすぎ、当該不純物の除去工程が煩雑になる。そのため、金属析出用溶液中のキノンオリゴマーの濃度は、例えば、200g/L以下、100g/L以下、50g/L以下、20g/L以下、または10g/L以下であり得る。
【0033】
析出させる金属の種類は、特に限定されるものではないが、キノンオリゴマーと錯体を形成しやすい金属であることが好ましい。例えば、当該金属としては、例えば、遷移金属(3族~11族の元素)であって、より好ましくは貴金属(Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、Os)、さらに好ましくは白金族(Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、Os)である。
【0034】
金属析出用溶液がキノンオリゴマーを含むことで、当該金属析出溶液から析出する金属の粗大化を抑制することができる。これにより、基材上に金属を析出させた場合でも、金属同士が凝集・ネッキングすることが抑制される。これは、キノンオリゴマーが溶解している金属と錯体を形成することで、金属の析出挙動(例えば反応速度)が好適に制御されるからと推定される。このようなキノンオリゴマーの効果は、特に白金族元素を析出させる際において顕著となる。なお、上述したメカニズム推測を含み、本技術を何ら限定するものではない。
【0035】
金属析出用溶液は、還元剤を含み得る。還元剤としては、例えば、炭酸ヒドラジン、ヒドラジン、抱水ヒドラジン、フェニルヒドラジン、硫酸ヒドラジン、ヒドラジン二塩酸塩、アルキルヒドラジンなどのヒドラジン化合物を用いることができる。また、還元剤の他の例として、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸などの有機酸およびその塩(酒石酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩)や、水素化ホウ素ナトリウムなどが挙げられる。これらの中でも、毒劇物ではなく、かつ、均一で表面が滑らかな金属粒子を形成し得る炭酸ヒドラジン、酒石酸塩(例えば、酒石酸ナトリウム)、クエン酸塩(例えば、クエン酸ナトリウム)などを好ましく用いることができる。なお、還元剤は、金属析出用溶液に予め混合されていてもよく、後述の金属析出工程で混合してもよい。還元剤の添加量は、反応系の状態に合わせて適切に設定すればよいため、特に制限はない。
【0036】
金属析出用溶液は、他に種々の添加剤を加えてもよく、かかる添加剤としては、例えば、保護剤、分散剤、錯化剤等が挙げられる。
【0037】
基材として例示されるセラミックス粒子は、例えば、アルミナ(Al)、シリカ(SiO)、ジルコニア(ZrO)、マグネシア(MgO)、チタニア(TiO)、セリア(CeO)、イットリア(Y)、ハフニア(HfO)、チタン酸バリウム(BaTiO)、二酸化マンガン(MnO)、石灰(CaO)、酸化亜鉛(ZnO)、ベンガラ(Fe)、ジルコン(ZrSiO)、ムライト(Al13Si)、ケイ酸アルミニウム等の酸化物系セラミックであってもよく、窒化ケイ素(Si)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ケイ素(SiC)、炭窒化ホウ素等の非酸化物系セラミックであってもよく、もしくはこれらのようなセラミックを少なくとも1種以上含む複合材料などであってもよい。これらのセラミックは、粉体材料の用途や求められる特性等に応じて、いずれか1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
セラミックス粒子の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、例えば、0.01μm~1μmであって、0.05μm~0.8μmであると好ましく、0.1μm~0.4μmであるとより好ましい。なお、ここでの粒子径は、動的光散乱法(DLS:Dynamic light scattering)においてキュムラント法で解析を行うことによって測定されるZ平均粒子径(DDLS)である。なお、上記平均粒子径の範囲は、基材としてセラミックス粒子の代わりに金属粒子を用いた場合でも同様であり得る。
【0039】
セラミックス粒子には、表面の一部に所定の金属を含む金属粒子(以下、「種粒子」ともいう)が担持されていることが好ましい。かかる種粒子は、粒子成長の核となる粒子である。種粒子がセラミックス粒子の表面に存在することによって、後述の金属析出工程において、種粒子を起点として金属が析出するため、セラミックス粒子の表面に効率よく金属を付着させることができる。
【0040】
種粒子を構成する金属元素は、金属析出用溶液に溶解している金属と同族(さらには同種)元素あっても、異種金属元素であってもよいが、同族元素であることが好ましい。例えば、金属析出用溶液に溶解している金属と種粒子とが白金族元素で構成されることが好ましい。
【0041】
種粒子の担持量は、セラミックス粒子の重量を1としたとき、例えば、0.05以下であって、0.03以下、0.02以下で、または0.01以下であり得る。また、種粒子の担持量は、セラミックス粒子の重量を1としたとき、例えば、0.002以上、0.005以上であり得る。種粒子の担持量が少なすぎる場合には、セラミックス粒子の表面に析出する金属量が不十分となってしまうおそれがある。
【0042】
種粒子を表面の一部に担持するセラミックス粒子の調製方法は、特に限定されないが、例えば、液相還元法によって調製することができる。液相還元法では、まず、種粒子を構成する金属元素を含む金属化合物が溶解した溶液(以下、「種粒子生成用溶液」ともいう)を準備する。金属化合物としては、目的の金属の塩、錯体等を好ましく用いることができる。塩としては、例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物などのハロゲン化物や、水酸化物、硫化物、硫酸塩、硝酸塩、等が挙げられる。錯体としては、アンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体、ヒドロキシ錯体、等が挙げられる。
【0043】
種粒子生成用溶液の溶媒は、水系溶媒でもよいし、有機系溶媒であってもよい。水系溶媒としては、水(例えば、純水、脱イオン水等)または水を主体とする混合液(例えば、水と低級アルコールとの混合溶液)を用いることができる。なお、本明細書において、「水を主体とする混合液」は、混合液のうち50vol%以上が水である混合液のことをいう。一方、有機系溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類、若しくは、アセトン、メチルケトンのようなケトン類、若しくは、酢酸エチルのようなエステル類、等を用いることができる。
【0044】
次いで、種粒子生成用溶液と、セラミックス粒子と、適当な還元剤とを混合して還元処理することによってセラミックス粒子の表面に種粒子を生成する。還元剤としては、上述した金属析出用溶液が含み得る還元剤として例示したものと同様であってよい。
【0045】
セラミック粒子表面に生成される種粒子の分布の偏りを抑制する観点から、上記還元処理は撹拌しながら行うことが好ましい。また、還元剤と混合する前に、セラミックス粒子を予め超音波分散等で分散させることが好ましい。
【0046】
還元処理される上記金属化合物の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.001mM~1mM(例えば0.01mM~0.1mM)となるように溶液を調製することができる。また、かかる溶液には他に種々の添加剤を加えてもよい。かかる添加剤としては、例えば、保護剤、分散剤、錯化剤等が挙げられる。
【0047】
上記のような還元処理によって生成した種粒子を備えるセラミックス粒子の回収は、従来と同様でよく、特に制限はない。一例では、まず、液中でセラミックス粒子を沈降させ、あるいは遠心分離して上澄みを除去する。その後、好ましくは複数回の洗浄後、乾燥させることで種粒子を表面の一部に担持したセラミックス粒子を得ることができる。洗浄には、例えば、水系溶媒、アルコール類等の有機系溶媒を使用することができる。
【0048】
以上のようにして、種粒子を表面の一部に担持するセラミックス粒子を調製することができる。種粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば50nm以下であって、30nm以下、20nm以下、または10nm以下であり得る。また、種粒子の平均粒子径の下限は限定されないが、例えば1nm以上であり得る。種粒子の平均粒子径は、SEM画像から400個の粒子を無作為に抽出し測定したフェレ―径(水平)の算術平均として測定されたものをいう。
【0049】
(2)金属析出工程
金属析出工程では、上記金属析出用溶液から、金属を析出させる。基材上に金属を析出させる場合には、上記準備した基材(本実施形態では上記種粒子を担持するセラミックス粒子)と、上記金属析出用溶液とを混合し、基材上に金属を析出させる。ここでは、液相還元法により金属を析出させる。金属析出をより均一に析出させる観点から、撹拌しながら還元反応を進行することが好ましい。特に制限はないが、還元反応の時間は、例えば、0.1時間~3時間程度が好ましい。また、同様の観点から、上記セラミックス粒子と、還元剤を混合していない上記金属析出用溶液とを混合した後、超音波分散等によりセラミックス粒子を分散させてから、還元剤を混合することが好ましい。
【0050】
還元処理の進行を良好とするため、上記セラミックス粒子と上記金属析出用溶液との混合溶液にpH調整剤を混合して、pHを8以上、例えば9~11程度に調整することが好ましい。ここで、pH調整剤には、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、アンモニア水、その他の塩基性物質を用いることができる。
【0051】
上記のような還元処理によって生成した金属または金属が付着した基材(セラミックス粒子)を含む粉体材料の回収は、従来と同様でよく、特に制限はない。一例では、まず、液中で粉体材料を沈降させ、あるいは遠心分離して上澄みを除去する。その後、好ましくは複数回の洗浄後、乾燥させることで、粉体材料を得ることができる。洗浄には、例えば、水系溶媒、アルコール類等の有機系溶媒を使用することができる。
【0052】
ここで開示される方法で製造される金属(析出した金属)は、例えば、粒子状または膜状であり得る。析出した金属が粒子状で存在する場合に、その平均粒子径は、例えば、1nm以上であって、10nm以上、20nm以上、30nm以上、または40nm以上であり得る。また、上記平均粒子径は、例えば、100nm以下であって、90nm以下、80nm以下、70nm以下、または60nm以下であり得る。本明細書において、析出した金属の平均粒子径は、SEM画像から400個の粒子を無作為に抽出し測定したフェレ―径(水平)の算術平均として測定されたものをいう。
【0053】
なお、生成した金属の表面には、キノンオリゴマー由来の有機物が観察され得る。かかる有機物は、金属同士のネッキングや粗大化の抑制に寄与し得る。かかる有機物は、キノンオリゴマーの水に対する溶解度が低下したものであってよく、キノンオリゴマーが高分子化(例えばキノンポリマー)、ゲル化したものであってよい。また、かかる有機物は、アルコールへ溶解するため、容易に洗浄除去することができる。また、かかる有機物は、熱分解により、例えばヒドロキノンが生成し、さらにはベンゾキノン、フェノールが生成され得る。かかる有機物をMALDI-TOF/MSで分析したとき、m/z値が2000以上、4000以上、7000以上、10000以上に少なくとも1つのピークが検出され得る。
【0054】
上述した方法により製造された金属を含む粉体材料(例えば、セラミックス粒子または金属粒子をコア、析出した金属をシェルとして有するコアシェル粒子を含む粉体材料)は、様々な用途に使用可能である。例えば、電子部品や半導体装置の導電性部材の製造に用いることができる。
【0055】
以下、本技術に関する試験例を説明するが、かかる試験例は本技術を限定することを意図したものではない。
【0056】
<キノンオリゴマーの合成>
ヒドロキノン15gを純水900mLに溶解し、塩基性条件下で酸素ガスを用いて酸化、重合させた。これにより、キノンオリゴマーを含む水溶液を得た。
【0057】
<キノンオリゴマーの分析(1)>
上記得られたキノンオリゴマーを含む水溶液にアセトンを加え、黒色沈殿物を得た。該黒色沈殿物を以下の条件にて、熱分解GC-MSで分析した。
測定条件
使用装置 GC-MS-QR2010 Ultra(島津製作所製)
熱分解条件 ダブルショット:300℃で熱分解後、再度600℃で熱分解
解析ソフト LabSolutions(島津製作所製)
【0058】
上記熱分解GC-MS(熱分解温度:300℃)の測定結果を図1、上記熱分解GC-MS(熱分解温度:600℃)の測定結果を図2に示す。また、各ピークの情報(保持時間(Ret.Time)、ピーク面積(Area)、ピーク高さ(Height)、ピーク面積/ピーク高さ(A/H)、濃度(全ピーク面積に対する各ピーク面積の割合)および物質名を表1、2に示す。また、各物質についてキノンオリゴマー独自の構造と相関の強い順に分類1~3に分けた。分類1はキノンオリゴマーの主骨格となるヒドロキノンまたはベンゾキノン、分類2はキノン由来と推定されるベンゼン環を有する物質、分類3はそれ以外とした。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
表1、2に示すように、特に600℃の熱分解で分類1の物質が多く検出された。これは300℃では十分にキノンオリゴマーの結合が切れず、600℃で多くキノンオリゴマーの結合が切れているためと考えられる。
【0062】
<キノンオリゴマーの分析(2)>
上記得られた黒色沈殿物を水に溶解、懸濁した後、以下の条件にて、MALDI-TOF/MS測定を行った。
測定条件
使用装置 JMS-S3000 (日本電子製)
イオン化法 LDI
測定モード スパイラルTOFモード(高分解能モード)
イオン極性 Negative
スキャン範囲 m/z値 10~10000
【0063】
MALDI-TOF/MS測定の結果を図3図4に示す。図3は、m/z値(横軸)が10~1500の範囲のピーク図である。図4は、図3で示すm/z値(横軸)が10~300の範囲のピークの拡大図である。図3図4の縦軸は絶対強度(Absolute intensity)を示す。図3に示すように、m/z値が10~1200の付近に試料由来のピーク群が検出された。本測定では、前処理において上記黒色沈殿物を水に溶解・懸濁し、陰イオンを検出するNegativeモードで高いピーク強度を得ることができた。このことから、検出されたピーク群は、陰イオン化しやすい、即ちOH基を多く持つ構造を有した物質由来であると推定される。また、図4に示すように、本測定では非常に多くのピークが連なって検出された。かかるピークの検出傾向から、試料は重合体であって、多数の成分が生成し混在していると推定される。
【0064】
<キノンオリゴマーの分析(3)>
キノンオリゴマー水溶液の濃度は次のように測定した。まず、ヒドロキノンを蒸留水に溶解させたヒドロキノン標準液を5、10、20g/Lの3種類用意してGC-MS測定を行い、検量線を作成した。この検量線を用いてキノンオリゴマー水溶液中の未反応のヒドロキノン濃度を測定し、仕込み量のヒドロキノンの濃度から引いた値をキノンオリゴマー濃度とした。なお、かかる測定には、Agilent 7010B トリプル四重極 GC/MS(アジレント・テクノロジー製)を使用し、カラムとしてDB-WAX UI、長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μmを使用した。
【0065】
[試験1:Ag粒子表面へのPdの析出]
(実施例1)
ジクロロジアミンパラジウム(DDPd)15.9g、純水80mL、28%アンモニア水14.4mLを混合してテトラアンミンパラジウム(II)水溶液を調製した。当該水溶液に純水を加えて200mLに定容し、Pd濃度40g/LのPd溶液とした。
次にAg粉末(三井金属工業社製、SPQ-02X)3gに純水81.7mLを加えた。これをマグネチックスターラー、40mm棒状撹拌子で撹拌(400rpm)しながら、6g/Lのキノンオリゴマーを含む水溶液10mLおよび上記Pd溶液8.33mLを加え、5分間撹拌を継続した(このとき、AgとPdとの合計に対するPdの重量割合は10wt%)。その後、超音波洗浄機を用いて超音波分散を10分間行った後、上記条件で撹拌しながら、炭酸ヒドラジンを0.85mL加えた。この時の溶液温度は25~31℃であり、炭酸ヒドラジン添加後Pd析出に伴う発泡、黒変が観察された。30分間撹拌を継続した後、得られた粉末を1時間沈降させ上澄み除去した。沈降した粒子の表面にはキノンオリゴマー由来のゲル状の有機物が付着していた。当該ゲル状の有機物はキノンオリゴマー同士の重合が進みより高分子化したものと考えられる。
【0066】
沈降した粉末に純水-エタノール混合液(体積比1:1)40mLを加え、ガラス棒で砕きながら超音波分散させた後、6000rpm,5分間の遠心分離によって沈降させた後、上澄みを除去することで上記有機物を洗浄した。この洗浄工程を計3回繰り返した。沈降した粉末を60℃で18時間乾燥し、乳鉢で解砕することで、Ag粒子上へPdが析出した粒子を含む粉体材料を得た。
【0067】
(比較例1)
キノンオリゴマーを含む水溶液の代わりに純水を用いた以外は実施例1と同様にして粉体材料を得た。
【0068】
<粉体材料のEDX分析>
実施例1で得られた粉体材料を樹脂埋めした後、集束イオンビーム(FIB)で薄片化し、TEM-EDX分析をした。また、比較例1で得られた粉体材料をFE-SEM-EDX分析した。図5に、実施例1における粉体材料のTEM-EDX分析の結果(倍率:100,000倍)を示す。図6に、実施例1における粉体材料のTEM-EDX分析の結果(倍率:1,000,000倍)を示す。図7に、比較例1における粉体材料のFE-SEM-EDX分析の結果(倍率:20,000倍)を示す。
【0069】
<粉体材料のDLS測定>
実施例1で得られた粉体材料を純水40mLに加え、超音波分散後、DLS(Dynamic light scatering)測定(マルバルーン・パナリティカル社製、装置名:Zetasizer nano)を行った。DLS測定では、キュムラント法で解析することで測定されるZ平均粒子径と、多分散指数(PDI)とを測定した。また、比較例1で得られた粉体材料にも同様の操作を行った。また、原料としたAg粉末も同様にしてDLS測定を行った。結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
図5に示すように、実施例1における粉体材料では、Ag粒子の表面にPdが略均一に析出しており、コアシェル構造を有していることがわかる。また、図6より、実施例1における粉体材料のシェル部分(Pd)は、5nm程度の粒子が概ね2層に積み重なっており、シェル部分の厚みが10nm程度であることがわかった。
【0072】
また、表3に示すように、実施例1における粉体材料は、原料Ag粉末と略同じZ平均粒子径およびPDIを有していた。このことから、実施例1における粉体材料では、異なるAg粒子の表面上に生成されたPd間のネッキングが抑制されたことがわかる。
【0073】
図7に示すように、比較例1における粉体材料では、Ag粒子の表面にPdが略均一に析出していた。しかしながら、比較例1における粉体材料では、Ag粒子が集合した二次粒子が多く観察された。これは、異なるAg粒子の表面上に析出したPd間のネッキングが原因と考えられる。
【0074】
また、比較例1における粉体材料は、サンプルの沈降が早かったため、DLS測定をすることができなかった。これは、比較例1における粉体材料が二次粒子を多く含むことが原因であると考えられる。
【0075】
[試験2:Au粒子表面へのPtの析出]
(実施例2)
Au粉末(Au2061 L-82B)2gに水50mL、6g/Lのキノンオリゴマーを含む水溶液6mLを加え、攪拌しながらジクロロテトラアンミン白金(II)水和物(Pt[(NH]Cl・HO)0.397g(Pt:0.220g相当)を加えた(このとき、AuとPtとの合計に対するPtの重量割合は10wt%)。かかる混合液をマグネチックスターラーで5分間攪拌後、ガラス棒でかき混ぜながら10分間超音波分散した。そして、マグネチックスターラーで攪拌しながら0.56mLの炭酸ヒドラジンを加えた。この時直ちにPt析出によるスラリーの黒変が観察された。かかる混合液をさらに30分間攪拌した後、混合液中の粉末を沈降させ、上澄みを除去した。沈降した粒子の表面にはキノンオリゴマー由来の有機物が付着していた。この沈降した粉末を実施例1と同様に純水-エタノール混合液(体積比1:1)で洗浄後、乾燥、乳鉢で軽く解砕することで粉体材料を得た。
【0076】
(比較例2)
キノンオリゴマーを含む水溶液の代わりに純水を用いた以外は実施例2と同様にして粉体材料を得た。
【0077】
実施例1と同様にして、実施例2で得られた粉体材料をTEM-EDX分析した。図8に、実施例2における粉体材料のTEM-EDX分析の結果(倍率:100,000倍)を示す。図9に、実施例2における粉体材料のTEM-EDX分析の結果(倍率:1,000,000倍)を示す。また、比較例2で得られた粉体材料をFE-SEM-EDX分析した。図10に、比較例2における粉体材料のFE-SEM-EDX分析の結果(倍率:20,000倍)を示す。
【0078】
実施例2で得られた粉体材料を実施例1と同様にしてDLS測定を行った。また、比較例2で得られた粉体材料にも同様の操作を行った。また、原料としたAu粉末も同様にしてDLS測定を行った。結果を表4に示す。
【0079】
【表4】
【0080】
図8に示すように、実施例2における粉体材料は、Au粒子の表面にPtが略均一に析出しており、コアシェル構造を有していることがわかる。また、図9に示すように、実施例2における粉体材料のシェル部分(Pt)は、2nm程度の粒子が多層に積み重なっており、シェル部分の厚みが20nm程度であることがわかった。
【0081】
また、表4に示すように、実施例2における粉体材料は、原料Au粉末と略同じZ平均粒子径およびPDIを有していた。このことから、実施例2における粉体材料では、異なるAu粒子の表面上に生成されたPt間のネッキングが抑制されたことがわかる。
【0082】
図10に示すように、比較例2における粉体材料では、Au粒子の表面にPtが略均一に析出していた。しかしながら、比較例2における粉体材料では、Au粒子が集合した二次粒子が多く観察された。これは、異なるAu粒子の表面上に析出したPt間のネッキングが原因と考えられる。
【0083】
また、比較例2における粉体材料は、サンプルの沈降が早かったため、DLS測定をすることができなかった。これは、比較例2における粉体材料が二次粒子を多く含むことが原因であると考えられる。
【0084】
[試験3:アルミナ粒子表面へのPdの析出]
(実施例3)
塩化アンモニウム1.02gを純水10mLに溶解し、ここに塩化パラジウム0.835g(Pd:0.501g、0.00471mol)を加えて溶解した。この溶解液を100mLに定容し、パラジウムアンモニア錯体水溶液を調製した。
次に、アルミナ粉末8gを純水2320mLに加え、超音波分散させ、撹拌した。ここに、上記パラジウムアンモニア錯体水溶液を4mL加え、撹拌しながら0.12mol/Lのヒドラジン-水和物水溶液80mLを加え、さらに30分間撹拌を続けた。これにより、Pd種粒子担持アルミナ粉末を調製した。なお、このときPd粒子の析出に伴い、スラリーの色がうっすらと褐色になった。
【0085】
ジクロロジアミンパラジウム(DDPd)5.47gに、6g/Lのキノンオリゴマーを含む水溶液82.5mL、28%アンモニア水4.95mL、および純水737mLを加え、マグネチックスターラーで撹拌後、超音波洗浄機で5分間処理することでDDPdを溶解させた。ここに、上記Pd種粒子担持アルミナ粉末8.14gを加え撹拌後、超音波洗浄機を用いて超音波分散を10分間行った(このとき、アルミナとPdとの合計に対するPdの重量割合は25wt%)。さらに、撹拌しながら、液温25℃で炭酸ヒドラジン水溶液(70%)7.04mLを加えた。このとき、約5~6分後にPd析出に伴う発泡、黒変が観察された。さらに、30分間撹拌を継続した後、得られた粉末を1時間静置させ沈降させた後、上澄み液を除去し、遠心分離機を用いてエタノールで洗浄した。これにより、実施例3における粉体材料を得た。
【0086】
(実施例4)
Pd種粒子担持アルミナ粉末を0.9gとした以外は実施例3と同様にして粉体材料を得た。即ち、アルミナとPdとの合計に対するPdの重量割合を75wt%とした。
【0087】
(比較例3)
キノンオリゴマーを含む水溶液の代わりに純水を用いた以外は実施例3と同様にして粉体材料を得た。
【0088】
実施例3、実施例4、比較例3で得られた粉体材料をそれぞれFE-SEMで観察した。図11に、実施例3における粉体材料のFE-SEMの反射電子像を示す。図12に、実施例4における粉体材料のFE-SEMの反射電子像を示す。図13に、比較例3における粉体材料のFE-SEMの反射電子像を示す。
【0089】
図11に示すように、実施例3における粉体材料では、アルミナ粒子の表面にPdが析出していた。析出したPdの多くは粒子状であって、アルミナ粒子の表面に存在の偏りなく付着していた。なお、Pd粒子の平均粒子径は0.05μmであった。かかる平均粒子径は、SEM画像から400個の粒子を無作為に抽出して測定したフェレ―径(水平)の算術平均のことをいう。
【0090】
図12に示すように、実施例4における粉体材料では、実施例3と比較して、アルミナ粒子表面においてPdが成長し、アルミナ粒子一つひとつの表面を概ね覆っていることが確認された。
【0091】
図13に示すように、比較例3における粉体材料では、Pdの粗大化、Pd間のネッキングが観察され、ほとんどのPdがアルミナ粒子上に析出していなかった。
【0092】
以上の試験1~3の結果から、金属を析出する液相合成の際に、キノンオリゴマーを添加することで、析出する金属同士がネッキングすることが抑制されることがわかる。
【0093】
以上、本技術の具体例を試験例に基づいて詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13