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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011522
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】回転電機およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/16 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
H02K1/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113558
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岩城 源三
(72)【発明者】
【氏名】西濱 和雄
(72)【発明者】
【氏名】阿部 敦
(72)【発明者】
【氏名】三石 健央
(72)【発明者】
【氏名】市毛 祥貴
【テーマコード(参考)】
5H601
【Fターム(参考)】
5H601AA22
5H601AA26
5H601CC05
5H601CC19
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601DD18
5H601EE03
5H601EE18
5H601EE31
5H601EE34
5H601FF02
5H601FF15
5H601GA02
5H601GB05
5H601GB12
5H601GB27
5H601GB33
5H601GB48
5H601GC02
5H601GC12
5H601KK01
5H601KK07
(57)【要約】
【課題】固定子コアの形状を改良することにより、回転電機の損失を低減させて効率を高める。
【解決手段】固定子のスロット30を構成するティースつば部24のティース付根部の幅をh1、先端部の幅をh2、スロット側長さをL1、回転子側の長さをL2とした場合に、(L1+L2)/(h1+h2)≧2.4 かつ 0.4≦h2/h1≦1.1を満足させる寸法にてティースつば部24を形成した。スロット30内にコイルを挿入する際には、対向する2つのティースつば部24a、24bを径方向内側に曲げて間隔Wを広げ、コイルの挿入後に2つのティースつば部24a、24bを元の形状に曲げ戻すようにした。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に複数の磁極が設けられた回転子と、
前記回転子の径方向外側に隙間を介して配置されるものであって周方向に複数のティースが設けられた固定子を有し、
隣接する前記ティースの間にスロットが形成され、前記スロットにコイルが収められた回転電機において、
それぞれの前記ティースの内周側先端には、周方向の一方側に延在する第1ティースつば部と、他方側に延在する第2ティースつば部が形成され、
前記第1ティースつば部は、径方向に見た付根部の幅をh1、先端部の幅をh2、スロット側の周方向長さをL1、回転子側の周方向長さをL2とした場合に、
(L1+L2)/(h1+h2)≧2.4 かつ
0.4≦h2/h1≦1.1
が成り立つような形状にて形成されることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記回転子は複数の鋼板を積層した回転子コアを有し、前記固定子は複数の鋼板を積層した固定子コアを有し、
前記固定子コアを形成する各々の鋼板は、厚さが0.3~0.5mmの範囲にあって、前記ティース及び前記ティースつば部の周方向位置が軸方向から見て一致するように積層されたものであることを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記第1ティースつば部と、前記第2ティースつば部の形状は、前記ティースの周方向中心線に対して対称形状であって、
前記第2ティースつば部は、径方向に見た付根部の幅をh1、先端部の幅をh2、スロット側の周方向長さをL1、回転子側の周方向長さをL2で形成されることを特徴とする請求項2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記第1ティースつば部と、前記第2ティースつば部の形状は、前記ティースの周方向中心線に対して非対称形状であって、
前記第2ティースつば部は、前記第2ティースつば部の付根部の幅をh3、先端部の幅をh4、スロット側の周方向長さをL3、回転子側の周方向長さをL4とし、
L1>L3、及び、L2>L4の関係となることを特徴とする請求項2に記載の回転電機。
【請求項5】
前記第1ティースつば部の先端部と、隣接する前記第2ティースつば部の先端部との間隔Wが、前記スロット内に配置される前記コイルの線径Dとの関係において、
0<W<2D
が成り立つように形成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の回転電機。
【請求項6】
周方向に複数の磁極が設けられた回転子と、
前記回転子の径方向外側に隙間を介して配置されるものであって、周方向に複数のティースが設けられた固定子を有し、
前記ティースの内周側先端付近に、周方向の一方側に延在する第1ティースつば部と、他方側に延在する第2ティースつば部が形成され、隣接する前記ティースの間にスロットが形成され、前記スロットにコイルが収められた回転電機において、
電磁鋼板からプレス打ち抜きによって前記第1ティースつば部の先端部と前記第2ティースつば部の先端部が間隔Wを有するような固定子コアを形成し、
前記固定子コアの各々の第1ティースつば部と第2ティースつば部を径方向内側に曲げることによって、前記第1ティースつば部と前記第2ティースつば部の間隔がWになるまで広げ、
間隔が広げられた所定枚数の前記固定子コアを積層したのちに、前記第1ティースつば部と前記第2ティースつば部の間からエナメル線を挿入するようにして前記固定子のコイルを形成し、
積層された状態の前記固定子コアの前記第1ティースつば部及び前記第2ティースつば部を、前記プレス打ち抜き直後の形状に曲げ戻すことによって前記固定子を製造することを特徴とする回転電機における固定子の製造方法。
【請求項7】
前記電磁鋼板からプレス打ち抜きをする工程において、前記第1ティースつば部は、前記第1ティースつば部の付根部の幅をh1、先端部の幅をh2、スロット側の周方向長さをL1、回転子側の周方向長さをL2とした場合に、
(L1+L2)/(h1+h2)≧2.4 かつ
0.4≦h2/h1≦1.1
が成り立つような形状にて打ち抜くことを特徴とする請求項6に記載の回転電機における固定子の製造方法。
【請求項8】
前記電磁鋼板からプレス打ち抜きをする工程において、前記第2ティースつば部は、前記第2ティースつば部の付根部の幅をh3、先端部の幅をh4、スロット側の周方向長さをL3、回転子側の周方向長さをL4とし、
L1>L3、及び、L2>L4の関係が成り立つ形状が形成されることを特徴とする請求項7に記載の回転電機における固定子の製造方法。
【請求項9】
前記固定子コアを形成する各々の鋼板は、厚さが0.3~0.5mmの範囲であり、
前記電磁鋼板からプレス打ち抜きをする工程において、前記第1ティースつば部の先端部と、隣接する前記第2ティースつば部の先端部との間隔Wが、前記スロット内に配置される前記コイルの線径Dとの関係において、
0<W<2D
が成り立つような形状にて打ち抜かれることを特徴とする請求項7又は8に記載の回転電機における固定子の製造方法。
【請求項10】
前記プレス打ち抜きをする工程において、前記回転子の回転子コアと前記固定子コアを、中心点が同軸となる状態で同時に打ち抜くことを特徴とする請求項9に記載の回転電機における固定子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子の形状に特徴を有する回転電機、及び、その固定子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の地球温暖化防止の観点から、回転電機に対し、損失低減を図り、運転効率を高効率化し、電気エネルギー消費量を一層低減することが求められている。誘導電動機等の固定子コアのスロット形状は、開放型(オープン・スロット型)又は半閉型(セミオープン・スロット型)で構成されるが、固定子と回転子との間のギャップにおけるギャップ磁束密度変動に伴って高調波磁束が発生することが知られており、この高調波磁束に起因する漂遊負荷損が、全損失の中で比較的高い割合を占めている。
【0003】
回転電機における高調波磁束は、スロット開放部では磁束密度が低く、固定子コアのティース部では磁束密度が高くなり、磁束密度が局部的に激しく変動することで発生する。高調波磁束は、漂遊負荷損の増大だけでなく、力率やトルク特性の低下、回転子鉄損の増大の要因ともなる。よって、磁束密度の局部的な変動の低減が求められている。
【0004】
スロット形状が開放型(オープン・スロット型)の大型回転電機では、固定子/回転子間ギャップの磁束密度脈動抑制手段として、スロット開口部に磁性楔を装着する手法が従来より用いられている。この方法では、(a)磁性楔がモータの構成部材に新たに加わることにより回転電機の材料コストが増大する、(b)回転電機運転時に磁性楔に作用する電磁力による磁性楔の疲労破壊の虞や、脱落を起因とした回転電機の信頼性が低下するという懸念がありうる。
【0005】
他方、半閉型(セミオープン・スロット型)の固定子スロット形状を有する中・小型回転電機では、固定子スロット開口部を形成するつば部の円周方向張り出しを長くしスロット開口部幅を極力狭くすれば、磁性楔を用いずに磁性楔と同様の効果が得られる。しかし、この手法ではスロット開口部が狭くなり、固定子スロット内へのコイル挿入ができなくなるといった問題点があり実用化されていない。
【0006】
この課題を解決するために特許文献1の技術が知られている。特許文献1では、つば部を一般的な円周方向に延在する形状ではなく、半径方向に向けて延在するように配置した固定子コアを打ち抜きにて成形し、その開口部よりコイルを挿入して、コイルの挿入後にティースのつば部を曲げ加工してスロットを閉じるように構成した。この製造方法によれば、スロット開口部の狭い固定子スロットを形成することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-36010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、コア半径方向に伸びた形につば部を予め配したコアを打ち抜き成形し、積層し、コイル挿入後につば部をスロット開口部を閉じる方向に曲げ加工して固定子コアを成形する。この手法におけるつば部曲げでは、塑性加工における体積一定の原理から圧縮変形側のつば部のコア肉厚が増大し、固定子のコア占積率が必然的に低下する。コア占積率低下は、回転電機の主特性である回転トルクの低下を招きかねない。また、半径方向に延びたつば部を有する固定子コアを電磁鋼板から打ち抜く場合、つば部が回転子と干渉する位置まで径方向外側に延出するため、1枚の電磁鋼板から回転子コアと固定子コアの共取り(同時打ち抜き)ができなくなり、コア材の歩留まりを低下させ、製造コスト増大を招くという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、固定子コアのスロット開口部の幅Wを十分狭くし、固定子コアとロータコア間ギャップの磁束密度脈動を抑え、高調波鉄損低減、効率アップを図った回転電機を提供することにある。
本発明の他の目的は、回転電機の固定子スロット開口部を形成するつば部の周方向長さを十分長くすると共に、コイルの組み込み前につば部を径方向一方側に曲げて固定子スロット開口部の間隔を広げ、コイルの組み込み後につば部を元の位置に曲げ戻すようにした固定子コアの新たな製造方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明のうち代表的な特徴を説明すれば次のとおりである。
本発明の一つの特徴によれば、固定子のティースのつば部を、径方向内側に曲げ加工して開口部を一時的に拡げ、コイルを挿入後につば部を曲げ戻すことで、開口部幅が狭いスロットを有する固定子を製作する。本手法を適用する場合、ティースのつば部の径方向内側への曲げ加工は、電磁鋼板をプレス打ち抜きした後の1枚単位又は数枚単位で行う。次に、曲げ加工が済んだ所定枚数の電磁鋼板を積層する。この後、スロット内にコイルを挿入することになるがが、その際の固定子コアは、曲げ加工済の積層鋼板がモータの回転軸方向に複数枚積層された状態にある。スロット内へのコイルの挿入が完了したら、ティースのつば部を元の形状にするための曲げ戻し加工を行う。曲げ戻し加工は、コイルの挿入後であるため、曲げ戻す対象のつば部は、複数枚積層された状態である。従って、曲げ戻し加工の対象(複数枚の電磁鋼板)は、曲げ加工時の対象(1枚の電磁鋼板)とは異なる。曲げ戻し加工によって、つば部の形状はプレスによって打ち抜かれた直後の形状、即ち元の形状に戻る。尚、固定子コアの曲げ加工、曲げ戻し加工を行うには、曲げ及び曲げ戻しを容易に行い、かつ、曲げ加工後と曲げ戻し加工後のコア平坦度が損なわれないようなつば部であることが重要である。この要求される要件を、固定子コアのつば部のアスペクト比と、径方向厚さ比を所定の範囲内とすることで満たすことができた。
【0011】
本発明の他の特徴によれば、周方向に複数の磁極(ティース)が設けられた回転子と、回転子の径方向外側に隙間を介して配置されるものであって周方向に複数のティースが設けられた固定子を有し、隣接するティースの間にスロットが形成され、スロットにコイルが収められた回転電機において、それぞれのティースの内周側先端には、周方向の一方側に延在する第1ティースつば部と、他方側に延在する第2ティースつば部が形成される。ここで、第1ティースつば部は、径方向に見た付根部の幅をh1、先端部の幅をh2、スロット側の周方向長さをL1、回転子側の周方向長さをL2とした場合に、
(L1+L2)/(h1+h2)≧2.4 かつ
0.4 ≦ h2/h1 ≦ 1.1
が成り立つような形状にて形成される。第1ティースつば部と第2ティースつば部は、ティースの周方向中心線に対して対称形状に形成しても良いし、非対称形状にて形成しても良い。非対称形状とする場合は、第1ティースつば部又は第2ティースつば部の一方側(曲げ加工を行う側のつば部)の形状を前式に該当するように形成すればよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、固定子コアのスロット開口部の開口幅を狭くすることで、固定子と回転子間のギャップの磁束密度脈動を抑えることができ、高調波鉄損を低減して損失が少なく、高いモータ効率を得られる回転電機を実現できる。また、固定子コアの各スロットに位置するつば部の曲げ加工をしてから固定子コアへのコイル組み立てを行い、つば部の曲げ戻し加工で各スロットの開口部の間隔を狭くするので、製造コストが増加する要因となる磁性楔を装着せずとも、固定子コアのスロット開口部幅を、コイルの線径よりも小さく構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に適用する回転電機1の固定子20及び回転子10の断面図である。
図2図1の固定子20のスロット形状を説明するための部分拡大図である。
図3】本実施例の実施例に係る回転電機1のティース23のつば部24の形状を示す部分拡大図である。
図4】本発明の実施例に係る回転子コア11と固定子コア21の打ち抜き手法を説明するための図である。
図5】本発明の実施例に係る固定子コア21へのコイル組み立て手順(a)~(e)を説明するための図である。
図6図5(b)のティースのつば部24a、24bの曲げ加工の仕方を説明するための図である。
図7】開先無しのティースのつば部124の曲げ加工と、本実施例による開先有りのティースのつば部24の曲げ加工の状態を説明する図である。
図8図5(e)のティースのつば部24a、24bの曲げ戻し加工の仕方を示す部分断面図である。
図9】本発明の第2の実施例に係るティース23のつば部74、84の形状を示す部分拡大図である。
図10】本発明の第2の実施例に係る非対称配置のティース23のつば部74の曲げ加工の仕方を説明するための図である。
図11】本発明の実施例と、比較例に用いた電磁鋼板の「引張応力-伸び曲線」を示す図である。
図12】特定の寸法の模擬コアのティースつば部を最大たわみで曲げた際の実験結果の一覧を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、モータの回転軸線方向、径方向、周方向は図中に示す方向であるとして説明する。
【0015】
図1は本発明の適用対象とする回転電機1の固定子20及び回転子10の一般的な形状を示す断面図である。この図は、回転電機1の回転軸3の回転軸線5(図1の紙面と垂直方向)の直角断面である。図1に示すように、回転電機1は、回転軸3に固定された回転子10と、回転子10の径方向外側に設置された固定子20とを有して構成される。固定子20と回転子10との間には、所定のギャップが設けられ、回転子10は固定子20と非接触状態にて回転可能である。
【0016】
回転子10は、所定の形状に打ち抜いた電磁鋼板50(図4にて後述)を積層して形成された回転子コア11と、回転子コア11のスロット内に挿入された二次導体12と、を有している。回転子コア11は、回転軸3に固定されており、回転子10の回転に伴い、回転軸3も同期して回転する。
【0017】
固定子20は、所定の形状に打抜いた電磁鋼板50(図4にて後述)を積層して形成された、いわゆる“積層コア”と呼ばれる形状であって、固定子コア21とコイル36を有して構成される。固定子コア21は、回転子10の外周面に対向するように配置されている。積層状態で形成される固定子コア21の各ピースは、電磁鋼板などの軟磁性材料を切り出して形成したもので、軟磁性材料の厚さは0.3~0.65mm程度、好ましくは0.5mmのものである。固定子コア21には外側の周方向に連続する円筒状のコアバック22と、コアバック22から径方向内側であって、回転軸3方向に延在する複数のティース23が形成される。ここでは周方向に等間隔で60個のティース23が配置されているが、ティース23を周方向に何個配置するかは任意である。
【0018】
図2は、図1の固定子コア21の部分拡大図である。図2では、周方向に連続する固定子コア21のティース2つ分、即ち1/30周分の大きさだけを図示している。また、ティース123とつば部124は従来の回転電機の形状を示しているので、スロット130とつば部124の番号は、図3図10の本願発明に係る対応部位とは異なる番号としている。スロット130は、固定子コア121の外周側に設けられた円環状のコアバック22から回転子10の径方向内側に向けて放射状に延びるティース123間に形成されており、周方向に向けて複数形成されている。スロット130には、回転子10側に開口するスロット開口部131が形成されている。ティース123の回転子10側の端部には、固定子コア21の周方向に向けて双方向(第1の回転方向及び第2の回転方向)にわずかに張り出したつば部124が形成される。図2のスロット130の形状は、この種の回転電機で一般的に用いられる半閉型(セミオープン・スロット型)と呼称される形状であり、スロット開口部131の周方向の間隔は、図示しないコイルの線径の2~4倍程度の間隔を有し、図示しないコイル36がスロット130に挿入されることにより固定子120が形成される。
【0019】
図2に示すように、一般的なスロット130では開口部幅が比較的広く形成され、固定子120から回転子10(図1参照)に流れる磁束がティース123に集中するため、固定子120と回転子10間のギャップ(以下、「固定子/回転子間ギャップ」と呼ぶ)における磁束密度が局所的に変動することになる。固定子/回転子間ギャップにおける磁束密度を平準化するには、ティースのつば部124の周方向一方側への張り出し、及び、他方側への張り出しを長くし、つば部124から回転子コア11に磁束が流れるようにすれば良い。しかしながら、つば部124を周方向に大きくすることは、周方向の開口部131の幅が狭くなることを意味し、固定子120へのコイル挿入が困難になる上に、組み立て性が大きく阻害されるため、実用化されていない。
【0020】
この問題を解決できる手法として、発明者は、開口幅を狭くして形成された固定子コアのつば部124を、回転子10側(径方向内側)に一旦曲げ加工して幅を拡げ、拡げられた開口部131からコイルを挿入し、コイルを形成した後に、つば部124を曲げ戻すことにより固定子120を形成する方法を考えた。この手法を実現する課題は、つば部124を曲げる加工と、その後の曲げ戻す加工を行ってもつば部124が破損したりしないようにすることである。さらには、固定子120を構成する鋼板の圧縮曲げ変形部分の局所的な肉厚増大を防止し、固定子コア21の各鋼板の占積率低下を防止することが重要である。これらの条件を満たすために、発明者が種々の検証を行った結果、つば部124の形状を特定の数値範囲内にて形成することでその目的が達成できることを見出した。この特定の数値範囲内の形状を有するつば部(図3図9で後述)を形成することで、開口幅Wを十分狭くすることができる上に、固定子コア21のスロット内にコイルを組み込むことが可能となった。
【実施例0021】
図3は本実施例のつば部24の形状と、寸法を示すティース23の部分拡大図である。図3(a)と(b)のティース23は同じ部位を示しており、(a)には特定箇所を示すための参照符号を付し、(b)には各部の寸法を付している。これらの図は、1枚の電磁鋼板50(後述の図4参照)から打抜き加工によって形成された後の、曲げ加工を行う前のティース23の形状である。
【0022】
図3(a)で示すように、ティース23には、周方向に突出するつば部24が形成される。本明細書では、つば部24は、ティース23の特定の一部分を指すものとし、ティース23の略平行に径方向に延在する部分より周方向の一方側と他方側に延在する部分をつば部24と呼んでいる。図3(a)の右側のつば部24で言えば、点線40よりも紙面左側が本明細書で第1のティースつば部(24a)と称する部分であり、左側のつば部24で言えば、点線41よりも紙面右側が本明細書で第2のティースつば部(24b)と称する部分である。図3(a)に示す固定子コア21では、ティース23のつば部24は、第1回転方向及び第2回転方向に向けて延在し、隣接するつば部24の先端部28a同士が近接する。ティース23の内周部分から周方向の第1回転方向側に突出するつば部24(24a)の形状は、第2回転方向側に突出するつば部24(24b)の形状と対称形状とされる。つまり、図3(a)のティースのつば部24a、24bは、ギャップ中心線C1に対し対称形状とされる。隣接するつば部24の先端部28a同士の、周方向に見た間隔は、つば部曲げ加工前の初期打ち抜き後の開口幅であり、図3(b)に示す通りWとなる。間隔Wは、コイル36の線径(直径)Dよりも小さくすると最も好ましいが、図2で示した一般的なスロット130の間隔Wよりも十分小さくすれば良い。例えば、0<間隔W<2D程度とすると良い。固定子/回転子間ギャップ内の磁束密度分布の均等化の観点からは、スロット開口部がない全閉型スロットとすることが望ましいことになるが、全閉型スロットでは、スロットを周回する漏洩磁束が生じ効率を低下させるため、有限長のスロット開口部を設ける必要がある。
【0023】
つば部24の内周側は、回転子コア11の外周面(図示せず)と一定の間隔を隔てて隣接するように、円弧面25にて形成される。円弧面25の曲率半径は、回転子コア11の直径よりもわずかに大きい程度である。円弧面25と反対側に位置するコイル保持面27は、つば部24の付け根28c部分で、円弧面25と所定の距離h1を有し、第1回転方向側にいくにつれて円弧面25との径方向距離が小さくなり、変曲点28bに至るまで直線状(平面状)に形成される。変曲点28bにおいて、円弧面25との径方向の距離がh2となる。変曲点28bよりも第1回転方向側の先端傾斜面26は、先端部28aに接続されるように急角度で円弧面25に接続される。角度θ(開先角)は、つば部24の先端傾斜面26とコア内周接線となす“開先角”であって、開先角θは0°を上回るのが好ましく、特に好ましくは10°~30°程度である。つば部24を曲げて形成される開口部幅W(後述の図5参照)が回転子側先端(径方向の最内周位置である先端部28a)で最大幅となるために設けられる。
【0024】
本実施例の固定子コア21のつば部24では、スロット30の周方向中心軸に対して対称に配した場合につば部24のスロット30側の長さをL1、回転子10側の長さをL2とすると、
(L1+L2)/(h1+h2)≧2.4 かつ
0.4 ≦ h2/h1 ≦ 1.1
とする。この数値は、発明者による検証で得られたものである。使用する電磁鋼板の板厚は、例えば0.5mmである。尚、電磁鋼板の板厚は、0.20~0.65mmの範囲内であれば上式の関係が同様に成り立つ。コイル36の形成に用いられるエナメル線は、0.6mm~2.2mmの範囲、例えば1.5mmとすれば良い。
【0025】
つば部の曲げ加工に関しては、つば部縦横比、(L1+L2)/(h1+h2)が大きい程有利となる。これは、つば部24の曲げ変形によるコア積厚変動が小さくなるからである。本発明が適用される図3の構造を有する回転電機1では、運転中につば部24に対向する回転子10と引き合う電磁力が作用し、その作用周期は、基本波周波数の2倍となることが知られている。金属材料は、静的な破壊応力には満たない低応力が繰り返し印加されることで疲労破壊するため、本発明を適用した回転電機1を製作する場合は、この電磁力によるつば部24の疲労破壊を考慮する必要がある。一般的に金属材料の高サイクル疲労限度は、引張強さの0.5倍程度となることが知られている。図11で後述する本発明で用いた電磁鋼板の引張応力-伸び曲線から、本発明に用いた電磁鋼板50の引張強さは、476MPaであることがわかり、疲労限度は、238MPa付近となると推定される。一方、つば部24と回転子10が引き合い電磁力は最大0.5MPaであることが分かっており、この電磁力がつば部24に均一に作用する等分布荷重の片持ち梁の曲げに近似してつば部24が受ける最大曲げ応力を求めると、つば部長さ5.5mm、幅0.5mm((L1+L2)/(h1+h2)=11)、厚さ0.5mmのつば部では、182MPaとなり、上記の疲労限度以下となり、疲労破壊は起きないことになる。
【0026】
本発明のつば部24の形状では、つば部24の付け根28cに応力集中が生じるため、応力集中を加味して疲労破壊に対する危険度を評価する必要がある。つば部24の付け根28cには、過大な応力集中を避けるために0.2mm程度のコーナーR(曲率半径)を設けられる。応力集中度合は、つば部24の幅とコーナーRとの比によって変化する。幅0.5mmでの応力集中係数(付け根部応力とつば部最大曲げ応力との比)は、約1.5となり、つば部付け根部の応力は、273MPa(=182x1.5)まで高くなり、疲労限度238MPaを超過し疲労破壊の危険性が高いことがわかる。
【0027】
同様に、長さ5.5mm、幅0.55mm((L1+L2)/(h1+h2)=10)、厚さ0.5mmのつば部付け根部の応力を求めると225MPaとなり、この場合は、疲労限度未満となりつば部24の疲労破壊の危険性はほぼ消失する。以上から、本発明におけるつば部24の縦横比、(L1+L2)/(h1+h2)は、10以下とすることが望ましいことが分かった。例えば、50Hzで運転される場合は、100Hzで電磁力が作用する。1ヵ月を30日として連続運転すると、2.6x10回の吸引電磁力が作用することになるからである。尚、本発明の効果を得るためには、つば部縦横比、(L1+L2)/(h1+h2)が10を超えても差し支えない。
【0028】
図4は本発明の実施例に係る回転子コア11と固定子コア21の打ち抜き手法を説明するための図である。回転子コア11と固定子コア21は、厚さ0.5mmの薄い電磁鋼板50による母材から、プレス加工により同時に打ち抜かれる。この工程は従来の製造方法と同じ方法である。特許文献1に示した固定子コアでは、ティースの先端付近に形成されるつば部が中心軸に向かう方向に、あらかじめ半径方向内側に延びた形とした状態で、電磁鋼板50から打ち抜き加工する必要がある。その製造方法の場合は、半径方向内側に延びた形状のつば部が、回転子コア11の占める領域と干渉するために、固定子コア21と回転子コアの同時打ち抜きができないことになる。つまり、回転子コアと固定子コア21を別々に打ち抜き加工する必要があるので、電磁鋼板50の有効利用が図れずに、コア打ち抜き歩留まりが大幅に低下する。これに対して、本発明の固定子コア21では、図3の形状のまま電磁鋼板50から打ち抜かれるので、固定子コア21の内側に回転子コア11を配置した状態で、電磁鋼板50から固定子コア21と回転子コア11を同時に打ち抜くことが可能である。
【0029】
次に、打ち抜かれた状態で、積層されていない状態の固定子コア21の板材から、所定の組み立て工程を経て固定子20を完成させる。図5は、本発明の実施例に係る固定子コア21へのコイル組み立て手順を説明する図である。図5(a)は、図4に示す工程によって打ち抜かれた固定子コア21の板材のスロット30とつば部24付近の拡大図である。ここでは便宜上、ティース23に対して第1の回転方向側に位置するつば部を24a、第2の回転方向側に位置するつば部を24bとして説明する。図3にて示したように、つば部24a、24bは、スロット開口部31aの間隔がWであり、先端部28a(図3参照)が接近している状態にある。この状態の間隔Wは、コイル36の形成に用いられるエナメル線35の直径(線径D)よりも小さい関係にある。この状態では、スロット30内にコイル36を形成することができない。
【0030】
次に、図5(b)に示すように、つば部24a、24bに対して1回目の曲げ加工を行い、拡げた状態のスロット開口部31bを形成する。1回目の曲げ加工では、つば部24a、24bに対してスロット30の内側から回転軸線5(図1参照)方向に向けて、即ち矢印29aの方向に力を加えることによって、つば部24a、24bを図5(b)に示すような形状になるまで曲げる。
【0031】
図5(b)の曲げ加工のやり方を図6を用いて説明する。図6は、スロット30の開口部形成の曲げ加工のやり方を模式図にて示したものである。図6(a)に示すように、1枚の固定子コア21を固定し、径方向外側から内側に向けて可動とする曲げ治具210をスロット30内に配置する。曲げ治具210は、先端が約120度の2面を有し、つば部24の厚さ(回転軸方向の長さであり、ここでは0.5mm)よりも十分大きい厚さを有する金属性の部材である。曲げ治具210を所定のスロット30内に位置付けて、先端211をスロット開口部31aの中心に合わせて、曲げ治具210を径方向内側に向けて移動させる。図6の、曲げ加工は、電磁鋼板50から打ち抜かれ後の鋼板1枚分のティース23に対して行われるため、つば部24(24a、24b)の曲げ加工は容易である。
【0032】
図6(b)で示すように、曲げ治具210を径方向外側から内側に、点線212で示す曲げ治具210の元の位置から中心方向に所定量Sだけ移動させる。この曲げ加工の結果、つば部24(24a、24b)は、内側に突出するように曲げられ、先端部28aの間隔は、元のWからW(W>W)に広がることになる。図6(a)と(b)に示す曲げ加工は、周方向に連続して形成される全つば部24a、24bに対して行われる。尚、1つのスロット30毎に1つの曲げ治具210を順次入れて曲げ加工をするだけでなく、複数又は全部のスロット30に対して複数の曲げ治具を同時にセットして、一回又は数回の曲げ加工ですべてのつば部24(24a、24b)を曲げるようにしても良い。このようにして、スロット開口部31bの拡幅が終了した固定子コア21単板を、所定枚数積層して固定子コア21を成形する。1つの回転電機1を形成するのに必要な枚数の固定子コア21部品の、回転軸3(図1参照)の回転線方向への積層方法は、従来と同じ製造方法にて形成すれば良いので、ここでの説明は省略する。
【0033】
再び図5に戻る。図6に示した曲げ加工によって、つば部24a、24bの間隔Wは、エナメル線35の直径(線径D)よりも大きい間隔、例えば、W≧1.2~2倍程度に広げられる。このように1回目の曲げ加工を行うことで、コア打抜き後のスロット開口部の間隔Wでは挿入不能なエナメル線35を、スロット30へ挿入することが可能となる。
【0034】
次に、図5(c)に示すように回転軸線方向に所定枚数分だけ積層された状態の固定子コア21に対して、内側からコイル36を挿入する工程を行う。この工程は従来の製造工程と同じ方法で良い。例えば、積層された固定子コア21の各スロット30にスロット/コイル間絶縁のためのスロットライナー(図示せず)を装着後、各スロット30内に直径Dのエナメル線35を挿入することによりコイル36を形成する。ここではスロット30内に1種類以上のエナメル線が、少なくとも10本以上、無秩序に又は秩序良く収納される。スロット30内に所定の量のエナメル線35を挿入して、コイル36の形成が完了したら、図5(d)に示すように、積層状態にある固定子コア21に対して、複数枚のつば部24a、24bを矢印29bの方向にまとめて力を加えることによってつば部24a、24bを曲げ戻す(2回目曲げ加工)この曲げ戻した状態が図5(e)である。
【0035】
ここで図7を用いて、開先無しのティース123のつば部124の曲げ加工と、本実施例による開先有りのティース23のつば部24の曲げ加工の状態を説明する。左側の(a)が従来の開先無しのティースのつば部124の曲げ加工前の状態(打抜かれた状態のコア)であり、(b)が図6に示した曲げ治具210を用いてティースのつば部124の曲げ加工をおこなった後の状態(つば曲げ後)を示す図である。ティースのつば部124は、開先が形成されていない状態(図7(c)のθに相当する角が0°)であるので、つば部124の先端部128aと変曲点128bの位置(周方向の位置)が同じ位置にある。つば部124の曲げ加工を行うことによって、コア打抜き後のスロット開口部の間隔W00は、間隔W10のように拡張される。ここで、間隔W10を規定する部分は、隣接する先端部128aの間隔ではなくて、隣接する変曲点128bの間隔である。
【0036】
図7(c)と(d)は、本実施例のティース23のつば部24を示す図である。つば部24には、開先角θが形成されているので、つば部24の曲げ加工を行うことで、スロット開口部の間隔W01は、間隔W11に広がることになる。この際、間隔W11を規定するのは、対向する変曲点28bの間隔ではなくて、対向する先端部28aの間隔である。そして図7からわかるように、W11はW10よりも十分大きい関係になる。このように、本実施例のつば部24には、つば部曲げ後の開口幅W11を最大とするために、つば部24の先端部分に開先角θを設けるようにした。開先角θを設けることにより、少しの曲げ加工でスロット開口部の間隔を大きくできるので、スロット内へのエナメル線の挿入が容易になる。
【0037】
次に、図5(d)の製造工程を図8を用いてさらに説明する。図8は、つば部24a、24bの曲げ戻し工程の手順を示す部分断面図である。図8(a)の固定子コア21は、図5(d)のコイル挿入工程が完了した後の状態である。ここで、コイル36を挿入した後の積層状態の固定子コア21の内側に、つば部曲げ戻し装置300をセットする。つば部曲げ戻し装置300の押し治具311を、スロット30に対向するように放射状に配置する。この挿入は、回転子コア11の挿入前に、回転電機1の回転軸線5の方向から行う。つば部曲げ戻し装置300は、複数の押し治具311と、押し治具311の半径方向への移動を行う移動手段と、押し治具311の移動をガイドする押し治具ガイド310を有して構成される。ここで移動手段として、移動ストローク制御機構を備えた加圧ゴム312を有し、加圧ゴム312は空気を貯留する空間を有し、圧縮空気を注入することによって膨張し、貯留された空気を排出させることで収縮する。
【0038】
押し戻し装置300の所定の位置への配置後に、高圧の空気により加圧ゴム312を加圧することにより、押し治具311を半径方向外側に移動させ、押し治具311の先端をつば部24a、24bの間隔W部分に押し当てて、つば部24a、24bを径方向外側に曲げ戻す。押し治具311は、押し治具ガイド310内面の貫通穴310aに沿って径方向外側に移動し、押し治具311の移動のストッパとなるフランジ部311bが押し治具ガイド310の内周面310bに当接することで停止し、つば部24a、24bの曲げ戻し加工が終了する。図8(b)の曲げ戻し加工では、周方向に多数設けられるつば部24a、24bに対して同時に曲げ戻しを行うが、周方向を数ブロックに区画し、数ブロックごとに押し治具311を回転移動させながら、すべてのつば部24a、24bの曲げ戻し加工を行うようにしても良い。尚、図8(b)のつば部24a、24bの曲げ戻し加工後のつば部つば部24a、24bのスプリングバックを考慮して、押し治具311による曲げ戻し量は、図5(a)の初期形状よりもわずかに径方向外側まで曲がるようにオーバーベンドさせ、曲げ戻し量を精密に制御すると良い。
【0039】
以上の曲げ戻し工程が完了したら、図8(c)に示すように、加圧ゴム312を除荷し、押し治具311を径方向内側の初期位置に後退させる。加圧ゴム312を除荷した後に、押し治具311を径方向内側の初期位置に後退させる手段は、スプリングなどの付勢手段や、その他の公知の可動手段を用いると良い。押し治具311を径方向内側の初期位置に後退させた後には、固定子コア21の内側から軸方向に向けて押し戻し装置300を取り出すことによって、つば部24a、24bの曲げ戻し加工(2回目の曲げ加工)が終了し、固定子20の製作が終了する。この終了後の開口部を閉じた状態が図5(e)である。以上、図5(a)から(e)のように、つば部24a、24bを曲げ加工と曲げ戻し加工の2回の曲げ加工すれば、プレス打ち抜き時のスロット開口部の幅Wが狭くてもスロット内へのコイル挿入が可能となる。図5(e)においてコイル組み立て手順が完了した状態では、つば部24a、24bの形状は、図5(a)で示したつば部24a、24bの形状と同一となり、つば部24a、24bの先端部28a間の間隔はWに戻る。
【0040】
以上説明したように、本実施例ではつば部24a、24bを曲げ加工しやすいような特定の形状にて設計したので、つば部24a、24bの先端をコア内周側に曲げ加工して得られる開口部分より、エナメル線35をスロット30内に挿入することによりコイル36を形成することができる。また、コイル36を固定子20のスロット30内に形成した後に、複数の積層されたつば部24a、24bを打ち抜き時の形状になるように、複数枚の固定子コア21をまとめて曲げ戻すことで、従来技術では起こり得た圧縮曲げ変形部分の肉厚増大、固定子コアの占積率低下を防止することが可能となった。特に、1回目の曲げ加工、2回目の曲げ戻しを行っても肉厚増大や固定子コアの占積率低下、その他の不具合が発生しないようなつば部24(24a、24b)の形状を限定できたので、スロット30内に1種類以上のエナメル線が10本以上収納される固定子において、スロット30の開口部幅(W)をエナメル線35の最大径(D)未満に形成でき、製造コストの上昇を抑えつつ性能が優れた回転電機1の固定子20を実現できた。
【0041】
また、つば部24a、24bの最初の曲げ加工をする前の形状は、固定子コア21と回転子コア11が半径方向に重複する部分を有しないため、固定子コア21と回転子コア11を別々に打ち抜き製作する必要はない。よって、同一の電磁鋼板50から固定子コア21と回転子コア11を同時に打ち抜き加工が可能であるので、省エネルギー性に優れ、環境に優しい回転電機1を実現できた。また、隣接するつば部24a、24bの先端部28aとの間隔Wを、エナメル線35の線径D未満にまで小さくすることができるので、回転電機の高効率化を達成することが容易となり、誘導モータの更なる高効率化の要求を達成可能となった。
【実施例0042】
次に図9を用いて本発明の第2の実施例のつば部の寸法の説明図である。図9に示す回転電機においては、使用する回転子10は第1の実施例と同様である。また、固定子20Aのコアバック22の形状と、ティースのつば部つば部74、84を除いたティース23の形状は、第1の実施例の固定子20と同じ形状である。ここでは、片側のつば部74の周方向の長さを長くし、第1の回転方向側に突出する長さ(L4)と、第2の回転方向側に突出する長さ(L6)が異なるように構成した。つまり、ティース23の内周側先端に形成されるつば部74と84が非対称となるように、つば部74、84を形成した。図9(a)で示すように、つば部74の形状は、つば部74のスロット80側の長さをL3、回転子10側の長さをL4とすると、
(L3+L4)/(h3+h4)≧2.4 かつ
0.4 ≦ h3/h4 ≦ 1.1
とする。この数値は、第1の実施例で得られた数値と同じ条件である。
【0043】
第1の実施例のL1(図3参照)が上式のL3に相当し、第1の実施例のL2(図3参照)が上式のL4に対応する。図3図9を比較してわかるように、同じ直径のコアバック22で同じ極数(ティース23の数)の場合は、L3>L1、L4>L2の関係となる。また、第1の実施例のh1(図3参照)が、上記h3に対応し、h3がh1とほぼ等しい関係となり、第1の実施例のh2(図3参照)が、上記h4に対応し、h4がh2とほぼ等しい関係となる。
【0044】
第1の実施例のつば部24に比べて、つば部74を大きく形成した関係から、つば部74に隣接するつば部84の大きさは小さくなり、特に周方向の長さL5、L6が十分小さくなるように形成される。ここで、つば部74の先端部78aと、つば部84の先端部88aの間隔Wは、第1の実施例Wと同じ程度にして、エナメル線35の線径D未満にまで小さくすると良い。このように、間隔Wを狭く形成することにより、片側のつば部74の形状が大きくても、第1の実施例と同様の効果を得ることができる。
【0045】
図10は第2の実施例に係るつば部74の曲げ加工のやり方を模式図にて示したものである。図6で示した第1の実施例のつば部24(24a、24b)を曲げる工程と異なり、第2の実施例では片側のつば部74だけを曲げるようにした。そのため曲げ治具260の形状も異なり、斜面261が片側のつば部74だけに対応するように形成される。その他の条件は、図6で示した第1の実施例の工程と同じであり、曲げ工程を行う対象は1枚の固定子コア21に対してであり、打ち抜き加工された固定子コア21を固定し、スロット中心軸方向に可動な曲げ治具260をスロット80内に配し、曲げ治具260を径方向内側に所定量Sだけ移動させる。つば部74の回転軸線方向の厚さは、電磁鋼板1枚分の厚さであり、曲げ治具260の回転軸方向(紙面垂直方向)の厚さは、つば部74の厚さ(ここでは0.5mm)よりも十分大きい。この曲げ治具260の移動の結果、つば部74の先端部78aと、隣接するつば部84の先端部84aとの距離は、コイル36を形成するエナメル線35を挿入するのに十分な間隔に広がることになる。
【0046】
第2の実施例における、コイル36の製造方法は、図5(c)及び(d)の工程と同等になる。また、図5(e)のつば部74の曲げ戻し工程は、図8で示したつば部曲げ戻し装置300を用いることで行う。図8で示したつば部曲げ戻し装置300をそのまま用いても良いが、押し治具311の先端形状をつば部74に合わせるように変形させると良い。このように、隣接する2つのティース23間に、対向するように延在する2つのつば部(74、84)のうち、長さの長い一方のつば部74だけを曲げ加工及び曲げ戻し加工をするように構成したので、コイル36の製造後のつば部74、84の先端部74a、84aとの間隔Wを、エナメル線35の線径D未満にまで小さくすることができた。
【0047】
次に図11を用いて、本発明の実施例に係る固定子コア21の製造に用いた電磁鋼板の引張応力と伸びの関係を説明する。ここでは、固定子コア21と同サイズの模擬コアを、スロット開口部が半閉型の図1に示した回転電機と同種の出力110kWの既存回転電機のスロットをベースに製作した。110kW既存回転電機の内径265mmの固定子コアには50A300クラスの電磁鋼板が用いられており、模擬コアには既存回転電機回転子コアと同一材を用いた。固定子スロット内のコイルには、導体径1.4mmの絶縁被膜厚1種のエナメル線が用いられ、つば部曲げ加工で成形される開口部が既存回転電機で用いられるエナメル線を通過させるに十分な幅を有するか否かを効果有無の判断基準とした。
【0048】
つば部曲げ加工における曲げ治具の移動量は、図6図10から、本発明のつば部曲げは、片持ち梁の集中荷重による曲げと同様の扱いが可能であることがわかる。幅b、高さhの矩形断面を有し、長さLの片持ち梁を片端に集中荷重Pを印加して曲げる場合、片持ち梁のヤング率をEとすると、最大応力σmax、最大歪εmax、最大たわみwmaxは、下式で求められる。
σmax = 6PL/bh ・・・ 式1
εmax = 6PL/bhE ・・・ 式2
max = 4PL/bhE ・・・ 式3
【0049】
図11は、既存の回転電機固定子コアに用いられている電磁鋼板の引張応力-伸び曲線400を示したものである。この曲線400より、局部くびれ等の塑性不安定現象が起きずに一様な伸びでつば部曲げ加工が可能な最大伸び(歪とほぼ等価)は約15%であることがわかる。しかし、圧縮変形側では、引張変形側と同等の歪が加わった場合には座屈が起きかねない。開口部形成曲げ加工で座屈が発生すると、コイル挿入後の曲げ戻し加工で座屈した部分は初期状態に戻らず歪み、固定子コアにおけるコア占積率低下を招く。これを防ぐために、本発明ではつば部曲げ加工における最大歪を10%とした。
【0050】
更に、図11の引張応力-伸び曲線から伸び10%における引張応力を最大応力σmax、伸び10%における引張応力と原点とを結ぶ直線の傾きを見掛けのヤング率E、つば部の平均長さ(L1+L2)/2、平均幅(h1+h2)/2をそれぞれ片持ち梁の長さL、高さhとして、(2)、(3)式から最大歪10%となるつば部曲げ加工の最大たわみwmaxを算出し、夫々のつば部曲げ加工におけるたわみがwmaxとなるように、図6図10における曲げ治具210、260の移動量S、Sを設定した。鋼板の厚さbは、0.5mmである。
【0051】
上記検証結果に基づき、つば部寸法を夫々変えたスロット数が1ケの模擬コアを準備し、それらを曲げ加工して形成される開口部の最大幅、および曲げ加工で生じるつば部の割れ、座屈等、回転電機の特性上好ましくない現象の発生有無を実験的に調査した。その調査の結果が図12に示す表である。図12において、第1の実施例で示す隣接するつば部の形状が同じのもの(対称形状:実験例1、実験例2)と、第2の実施例で示した隣接するつば部の形状が異なるもの(非対称形状:実験例3~実験例6)の6つの実験を調査した。また、その比較のために3つの比較例1~3の調査も行った。
【0052】
上記、実験例1~実験例6、比較例1~比較例3の模擬コアのつば部形状と上記の最大たわみで曲げた結果は図12に示すとおりである。図12の表中には記載していないが、つば部の初期開口幅Wは、ティースのつば部の配置がスロット中心軸対称、非対称にかかわらず、実験例1~実験例6のいずれもが0.5mmである。上述したように、既存回転電機で使用するエナメル線が通過できる開口幅が形成され、かつ曲げ変形において引張側で割れ、圧縮側で座屈等の問題が発生しないことが、本発明に適用可能なつば部形状となる。
【0053】
実験例1から実験例6のつば部形状では、つば部曲げで形成される開口部の最小幅は、いずれも既存回転電機コイルに使用されるエナメル線の絶縁被膜厚さ込み仕上がり最大径1.508mmを上回る開口幅が一様な曲げ変形で形成された。これに対し、比較例1では、開口部幅がエナメル線径に達しなかった。比較例2では、先端側で優先的に曲げ変形が進行し、回転子側の辺に座屈が生じた。比較例3では、つば部の付け根付近が優先的に曲げ変形し、割れが生じた。
【0054】
この調査の結果から、つば部形状を無次元的に表す指標として用いたつば部の縦横比に相当する(L1+L2)/(h1+h2)、およびつば部の先端、付根幅比h2/h1により曲げ加工の良否が決定されることがわかり、つば部形状は、(L1+L2)/(h1+h2)を2.4以上、h2/h1を0.4以上、1.1以下とする必要があることが判明した。
【0055】
詳細説明は省略するが、図12に示した実験的な調査では、開口部形成曲げ加工後に曲げ戻し加工も実施した。曲げ戻しでは、開口部形成曲げ加工された模擬コアを上限反転させて固定し、曲げ治具を回転子側より押し当て曲げ戻した。曲げ戻しでは、スプリングバックを考慮してオーバーベンド気味に曲げ戻した。曲げ戻しによりつば部と回転子間距離には若干の変動が生じたが、実用上支障のない範囲内に収まることを確認している。
【0056】
以上説明したように、本実施例では、固定子コアのティースのつば部の縦横比に関する数値を所定の範囲内に収めるように形成したので、曲げ加工及び戻し加工を行った後にも曲げ変形や、割れなどを生ずることがない上に、コイルを形成するエナメル線の直径よりも小さい間隔W、Wとした固定子コアを製造できた。この結果、回転電機において固定子コアとロータコア間ギャップの磁束密度脈動を抑え、高調波鉄損を低減でき、効率アップを達成することができた。
【符号の説明】
【0057】
1 回転電機
3 回転軸
5 回転軸線
10 回転子
11 回転子コア
12 二次導体
20 固定子
21 固定子コア
22 コアバック
23 ティース
24、24a、24b (ティースの)つば部
25 円弧面
26 先端傾斜面
27 コイル保持面
28a 先端部
28b 変曲点
28c 付け根
29a 曲げ方向
29b 曲げ戻し方向
30 スロット
31、31b スロット開口部
36 コイル
50 電磁鋼板
74 (ティースの)つば部
75 円弧面
78a 先端部
80 スロット
84 (ティースの)つば部
88a 先端部
120 固定子
123 ティース
124 (ティースの)つば部
130 スロット
131 スロット開口部
210 曲げ治具
260 曲げ治具
261 斜面
300 つば部曲げ戻し装置
310 押し治具ガイド
310a 貫通穴
310b 内周面
311 押し治具
311a 先端部
311b フランジ部
312 加圧ゴム
400 引張応力-伸び曲線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2022-09-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
本願において開示される発明のうち代表的な特徴を説明すれば次のとおりである。
本発明の一つの特徴によれば、固定子のティースのつば部を、径方向内側に曲げ加工して開口部を一時的に拡げ、コイルを挿入後につば部を曲げ戻すことで、開口部幅が狭いスロットを有する固定子を製作する。本手法を適用する場合、ティースのつば部の径方向内側への曲げ加工は、電磁鋼板をプレス打ち抜きした後の1枚単位又は数枚単位で行う。次に、曲げ加工が済んだ所定枚数の電磁鋼板を積層する。この後、スロット内にコイルを挿入することになるが、その際の固定子コアは、曲げ加工済の積層鋼板がモータの回転軸方向に複数枚積層された状態にある。スロット内へのコイルの挿入が完了したら、ティースのつば部を元の形状にするための曲げ戻し加工を行う。曲げ戻し加工は、コイルの挿入後であるため、曲げ戻す対象のつば部は、複数枚積層された状態である。従って、曲げ戻し加工の対象(複数枚の電磁鋼板)は、曲げ加工時の対象(1枚の電磁鋼板)とは異なる。曲げ戻し加工によって、つば部の形状はプレスによって打ち抜かれた直後の形状、即ち元の形状に戻る。尚、固定子コアの曲げ加工、曲げ戻し加工を行うには、曲げ及び曲げ戻しを容易に行い、かつ、曲げ加工後と曲げ戻し加工後のコア平坦度が損なわれないようなつば部であることが重要である。この要求される要件を、固定子コアのつば部の縦横比と、径方向厚さ比を所定の範囲内とすることで満たすことができた。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
図1】本発明に適用する回転電機1の固定子20及び回転子10の断面図である。
図2図1の固定子20のスロット形状を説明するための部分拡大図である。
図3】本実施例の実施例に係る回転電機1のティース23のつば部24の形状を示す部分拡大図である。
図4】本発明の実施例に係る回転子コア11と固定子コア21の打ち抜き手法を説明するための図である。
図5】本発明の実施例に係る固定子コア21へのコイル組み立て手順(a)~(e)を説明するための図である。
図6図5(b)のティースのつば部24a、24bの曲げ加工の仕方を説明するための図である。
図7】開先無しのティースのつば部124の曲げ加工と、本実施例による開先有りのティースのつば部24の曲げ加工の状態を説明する図である。
図8図5(e)のティースのつば部24a、24bの曲げ戻し加工の仕方を示す部分断面図である。
図9】本発明の第2の実施例に係るティース23のつば部74、84の形状を示す部分拡大図である。
図10】本発明の第2の実施例に係る非対称配置のティース23のつば部74の曲げ加工の仕方を説明するための図である。
図11】本発明の実施例と、比較例に用いた電磁鋼板の「引張応力-伸び曲線」を示す図である。
図12】特定の寸法の模擬コアのティースつば部を所定たわみで曲げた際の実験結果の一覧を示す表である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0042
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0042】
次に図9を用いて本発明の第2の実施例のつば部の寸法の説明図である。図9に示す回転電機においては、使用する回転子10は第1の実施例と同様である。また、固定子20のコアバック22の形状と、ティースのつば部つば部74、84を除いたティース23の形状は、第1の実施例の固定子20と同じ形状である。ここでは、片側のつば部74の周方向の長さを長くし、第1の回転方向側に突出する長さ(L4)と、第2の回転方向側に突出する長さ(L6)が異なるように構成した。つまり、ティース23の内周側先端に形成されるつば部74と84が非対称となるように、つば部74、84を形成した。図9(a)で示すように、つば部74の形状は、つば部74のスロット80側の長さをL3、回転子10側の長さをL4とすると、
(L3+L4)/(h3+h4)≧2.4 かつ
0.4 ≦ h3/h4 ≦ 1.1
とする。この数値は、第1の実施例で得られた数値と同じ条件である。