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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115225
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】溶接継手
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240819BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240819BHJP
   H01M 8/0612 20160101ALI20240819BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20240819BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240819BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
H01M8/0612
H01M8/12 101
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020812
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】小林 稜
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 優馬
(72)【発明者】
【氏名】秦野 正治
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA06
5H127AA07
5H127AC06
5H127BA01
5H127BA03
5H127BA05
(57)【要約】
【課題】オーステナイト系ステンレス鋼材を母材とし、プッシュ-プル方式のMIG溶接で溶接した場合であっても、良好な強度と延性とを有する溶接継手を提供する。
【解決手段】母材の化学組成は、質量%で、C:0.100%以下、Si:0.5~4.0%、Mn:0.01~4.00%、P:0.040%以下、S:0.0040%以下、Cr:16.0~26.0%、Ni:7.0~23.0%、N:0.001~0.250%、Al:0.05%以下、任意元素、残部:Feおよび不純物であり、溶接金属の化学組成が、質量%で、C:0.100%以下、Si:1.0%以上2.0%未満、Mn:2.00%以下、P:0.040%以下、S:0.0040%以下、Cr:17.0~25.0%、Ni:8.0~23.0%、N:0.100%以下、Al:0.10%以下、を含有し、[Cr+2Si≦28.5]を満足する、溶接継手。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーステナイト系ステンレス鋼材からなる母材と、溶接金属とを備える溶接継手であって、
前記母材の化学組成は、質量%で、
C:0.100%以下、
Si:0.5~4.0%、
Mn:0.01~4.00%、
P:0.040%以下、
S:0.0040%以下、
Cr:16.0~26.0%、
Ni:7.0~23.0%、
N:0.001~0.250%、
Al:0.05%以下、
Cu:0~2.00%、
Mo:0~1.00%、
Sn:0~0.030%、
W:0~0.30%、
Co:0~1.0%、
V:0~0.20%、
Zr:0~0.030%、
B:0~0.0020%、
Mg:0~0.0010%、
Ca:0~0.0020%、
REM:0~0.010%、
Sb:0~0.30%、
Ga:0~0.10%、
Ta:0~0.10%、
Ti:0~0.35%、
Nb:0~0.30%、
残部:Feおよび不純物であり、
前記溶接金属の化学組成が、質量%で、
C:0.100%以下、
Si:1.0%以上2.0%未満、
Mn:2.00%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0040%以下、
Cr:17.0~25.0%、
Ni:8.0~23.0%、
N:0.100%以下、および
Al:0.10%以下、
を含有し、
下記(i)式を満足する、溶接継手。
Cr+2Si≦28.5 ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号は溶接金属中に含まれるCrまたはSiの含有量(質量%)を表す。
【請求項2】
前記溶接金属におけるδ-フェライト相の面積率が、20%以下である、請求項1に記載の溶接継手。
【請求項3】
前記溶接金属において、
Si含有量が2.2%超である領域の面積率が、25%以下であり、
Cr含有量が26%超である領域の面積率が、10%以下である、
請求項1に記載の溶接継手。
【請求項4】
前記溶接金属において、
Si含有量が2.2%超である領域の面積率が、25%以下であり、
Cr含有量が26%超である領域の面積率が、10%以下である、
請求項2に記載の溶接継手。
【請求項5】
前記母材の化学組成が、質量%で、
Cu:0.001~2.00%、
Mo:0.001~1.00%、
Sn:0.001~0.030%、
W:0.001~0.30%、
Co:0.001~1.0%、
V:0.01~0.20%、
Zr:0.001~0.030%、
B:0.0002~0.0020%、
Mg:0.0001~0.0010%、
Ca:0.0002~0.0020%、
REM:0.001~0.010%、
Sb:0.001~0.30%、
Ga:0.001~0.10%、
Ta:0.001~0.10%、
Ti:0.01~0.35%、および
Nb:0.01~0.30%、
から選択される一種以上を含有する、請求項1~4のいずれかに記載の溶接継手。
【請求項6】
燃料改質器に用いられる、請求項1~4のいずれかに記載の溶接継手。
【請求項7】
燃料改質器に用いられる、請求項5に記載の溶接継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接継手に関する。
【背景技術】
【0002】
オーステナイト系ステンレス鋼材は、耐熱性に優れ、溶接されて、部材として使用されることがある。このため、例えば、特許文献1のように、溶接欠陥の一種である高温割れおよび延性低下割れの発生を抑制し、溶接性を向上させたオーステナイト系ステンレス鋼の溶接継手が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-051968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、溶接技術が改良されており、様々な技術が開発されている。例えば、その一つにMIG溶接がある。MIG溶接は、溶加材を送給し、シールドガスに不活性ガスを使用して溶接する方法である。そして、他の溶接方法と比較しても、溶接速度が速く、生産効率が高い。
【0005】
MIG溶接では、溶加材の送給方法がいくつかある。例えば、近年、ロボット溶接等では、プッシュ-プル方式と呼ばれる溶加材の送給方法が提案されている。プッシュ-プル方式は、溶加材の送給特性に優れ、溶接速度の向上に加え、スパッタの発生が少ない。しかしながら、プッシュ-プル方式のMIG溶接で溶接継手を製造した場合、低入熱のため凝固速度が速く、溶接部の金属組成が不均一となりやすい。不均一部においては、600℃以下となる中~低温域に曝されると、δ-フェライト相のスピノーダル分解による脆化相が生じ、所謂、475℃脆化が生じやすくなる。この結果、強度と延性バランスとが不良になるという課題がある。しかしながら、特許文献1では、プッシュ-プル方式のMIG溶接で溶接継手を製造した場合に発生する、強度延性バランスの低下について、検討していない。
【0006】
以上を踏まえ、本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼材を母材とし、プッシュ-プル方式のMIG溶接で溶接した場合であっても、良好な強度と延性とを有する溶接継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記の溶接継手を要旨とする。
【0008】
(1)オーステナイト系ステンレス鋼材からなる母材と、溶接金属とを備える溶接継手であって、
前記母材の化学組成は、質量%で、
C:0.100%以下、
Si:0.5~4.0%、
Mn:0.01~4.00%、
P:0.040%以下、
S:0.0040%以下、
Cr:16.0~26.0%、
Ni:7.0~23.0%、
N:0.001~0.250%、
Al:0.05%以下、
Cu:0~2.00%、
Mo:0~1.00%、
Sn:0~0.030%、
W:0~0.30%、
Co:0~1.0%、
V:0~0.20%、
Zr:0~0.030%、
B:0~0.0020%、
Mg:0~0.0010%、
Ca:0~0.0020%、
REM:0~0.010%、
Sb:0~0.30%、
Ga:0~0.10%、
Ta:0~0.10%、
Ti:0~0.35%、
Nb:0~0.30%、
残部:Feおよび不純物であり、
前記溶接金属の化学組成が、質量%で、
C:0.100%以下、
Si:1.0%以上2.0%未満、
Mn:2.00%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0040%以下、
Cr:17.0~25.0%、
Ni:8.0~23.0%、
N:0.100%以下、および
Al:0.10%以下、
を含有し、
下記(i)式を満足する、溶接継手。
Cr+2Si≦28.5 ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号は溶接金属中に含まれるCrまたはSiの含有量(質量%)を表す。
【0009】
(2)前記溶接金属におけるδ-フェライト相の面積率が、20%以下である、上記(1)に記載の溶接継手。
【0010】
(3)前記溶接金属において、
Si含有量が2.2%超である領域の面積率が、25%以下であり、
Cr含有量が26%超である領域の面積率が、10%以下である、
上記(1)または(2)に記載の溶接継手。
【0011】
(4)前記母材の化学組成が、質量%で、
Cu:0.001~2.00%、
Mo:0.001~1.00%、
Sn:0.001~0.030%、
W:0.001~0.30%、
Co:0.001~1.0%、
V:0.01~0.20%、
Zr:0.001~0.030%、
B:0.0002~0.0020%、
Mg:0.0001~0.0010%、
Ca:0.0002~0.0020%、
REM:0.001~0.010%、
Sb:0.001~0.30%、
Ga:0.001~0.10%、
Ta:0.001~0.10%、
Ti:0.01~0.35%、および
Nb:0.01~0.30%、
から選択される一種以上を含有する、上記(1)~(3)のいずれかに記載の溶接継手。
【0012】
(5)燃料改質器に用いられる、上記(1)~(4)のいずれかに記載の溶接継手。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、オーステナイト系ステンレス鋼材を母材とし、プッシュ-プル方式のMIG溶接で溶接した場合であっても、良好な強度と延性とを有する溶接継手を得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、オーステナイト系ステンレス鋼材を母材とし、プッシュ-プル方式のMIG溶接で溶接した場合において、475℃脆化に伴う強度延性バランスの低下を検討し、以下の(a)および(b)の知見を得た。
【0015】
(a)プッシュ-プル方式のMIG溶接で溶接した場合、入熱量が低く、溶融金属が凝固する時間が短くなりやすい。この場合、溶融金属が溜まっている溶融池内で拡散、対流が十分生じにくい。そして、溶接金属において、Si含有量が高く、Siが濃化している箇所、およびCr含有量が高く、Crが濃化している箇所が生じやすくなる。この結果、300℃~550℃程度に一定時間加熱した時に、δ-フェライト相の形成が促進され、脆化する、475℃脆化が生じやすくなる。
【0016】
(b)従って、本発明者らは、Siの濃化を抑制するため、溶接金属の化学組成において、Si含有量を2.0%以下とし、Si含有量とCr含有量との合計を28.5%以下にすることが有効であることを明らかにした。また、溶接金属中で、Siが濃化した領域およびCrが濃化した領域を一定の範囲以内に制御することも、有効であることを明らかにした。
【0017】
本発明の一実施形態である溶接継手は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本実施形態の溶接継手の各要件について詳しく説明する。
【0018】
1.溶接継手の構成
本実施形態の溶接継手は、オーステナイト系ステンレス鋼材からなる母材と、溶接金属とを備える。母材とは、溶接後の被溶接材のことである。なお、母材には、溶接により入熱の影響を受ける溶接熱影響部を含む。従って、溶接熱影響部を除いた母材は、継手の素材となるオーステナイト系ステンレス鋼材(母鋼材)と同様の化学組成、金属組織、特性を有する。また、溶接金属とは、溶融金属が凝固し、接合部となった部分のことであり、溶接部とは、溶接金属を指す。
【0019】
2.母材の化学組成
上述したように、母材は、オーステナイト系ステンレス鋼材からなる。この母材の化学組成において、各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0020】
C:0.100%以下
C(炭素)は、常温での強度を向上させる効果を有する。しかしながら、Cが過剰に含有されると、延性が低下する。このため、C含有量は、0.100%以下である。C含有量は、0.080%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、C含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0021】
Si:0.5~4.0%
Si(ケイ素)は、耐酸化性を向上させる効果を有する。このため、Si含有量は、0.5%以上である。Si含有量は、1.0%以上であるのが好ましい。しかしながら、Siが過剰に含有されると、母材の延性が低下する。また、溶接金属中でσ相析出が促進され、強度延性バランスが低下する。このため、Si含有量は、4.0%以下である。Si含有量は、3.5%以下であるのが好ましい。
【0022】
Mn:0.01~4.00%
Mn(マンガン)は、オーステナイト相の安定性を高め、強度を向上させる効果を有する。このため、Mn含有量は、0.01%以上である。Mn含有量は、0.10%以上であるのが好ましい。しかしながら、Mnが過剰に含有されると、高温延性および靭性が低下する。このため、Mn含有量は、4.00%以下である。Mn含有量は、3.80%以下であるのが好ましい。
【0023】
P:0.040%以下
P(リン)は不純物として、熱間加工性および靭性を低下させる。また、溶接性を低下させる。このため、P含有量は、0.040%以下である。P含有量は極力低減することが好ましいが、極端なPの低減は、製造コストの増加に繋がる。このため、P含有量は、0.010%以上であるのが好ましい。
【0024】
S:0.0040%以下
S(硫黄)は不純物として、鋼中に含有され、熱間加工性および延性を低下させる。このため、S含有量は、0.0040%以下である。S含有量は極力低減することが好ましいが、極端なSの低減は、製造コストの増加に繋がる。このため、S含有量は0.0003%以上であるのが好ましい。
【0025】
Cr:16.0~26.0%
Cr(クロム)は、耐食性を向上させる効果を有する。このため、Cr含有量は、16.0%以上である。Cr含有量は、16.2%以上であるのが好ましい。しかしながら、Crが、過剰に含有されると、溶接金属において、Crが濃化した部分が過剰に生じ、δ-フェライト相の形成を促進させる。この結果、強度延性バランスが低下する。このため、Cr含有量は、26.0%以下である。Cr含有量は、25.5%以下であるのが好ましい。
【0026】
Ni:7.0~23.0%
Ni(ニッケル)は、オーステナイト相を安定化させる効果を有する。また、高温強度を向上させる効果も有する。このため、Ni含有量は、7.0%以上である。Ni含有量は、8.0%以上であるのが好ましい。しかしながら、Niが過剰に含有されると、溶接性が低下する。このため、Ni含有量は、23.0%以下である。Ni含有量は、22.0%以下であるのが好ましい。
【0027】
N:0.001~0.250%
N(窒素)は、オーステナイト相を安定化させ、強度を向上させる効果を有する。このため、N含有量は、0.001%以上である。しかしながら、Nが過剰に含有されると、延性が低下する。このため、N含有量は、0.250%以下である。
【0028】
Al:0.05%以下
Al(アルミニウム)は、脱酸効果を有する元素である。しかしながら、Alが過剰に含有されると、溶接性が低下する。このため、Al含有量は、0.05%以下である。一方、上記効果を得るためには、Al含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0029】
上記の元素に加えて、さらに、Cu、Mo、Sn、W、Co、V、Zr、B、Mg、Ca、REM、Sb、Ga、Ta、Ti、およびNbから選択される一種以上を、以下に示す範囲において含有させてもよい。各元素の限定理由について説明する。
【0030】
Cu:0~2.00%
Cu(銅)は、オーステナイト相を安定化させ、耐食性および強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Cuが過剰に含有されると、熱間加工性および溶接性が低下する。このため、Cu含有量は、2.00%以下である。一方、上記効果を得るためには、Cu含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0031】
Mo:0~1.00%
Mo(モリブデン)は、耐食性、常温での強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Moが過剰に含有されると、製造コストが増加する。また、製造性も低下する。このため、Mo含有量は、1.00%以下である。一方、上記効果を得るためには、Mo含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0032】
Sn:0~0.030%
Sn(スズ)は、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Snが過剰に含有されると、偏析等が生じやすくなり、製造性が低下する。このため、Sn含有量は、0.030%以下である。一方、上記効果を得るためには、Sn含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0033】
W:0~0.30%
W(タングステン)は、強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Wが過剰に含有されると、製造コストが増加する。このため、W含有量は、0.30%以下である。一方、上記効果を得るためには、W含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0034】
Co:0~1.0%
Co(コバルト)は、耐食性を向上させ、オーステナイト相を安定化させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Coが過剰に含有されると、製造コストが増加する。このため、Co含有量は、1.0%以下である。一方、上記効果を得るためには、Co含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0035】
V:0~0.20%
V(バナジウム)は、母材中で固溶する、または炭窒化物として析出し、強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Vが過剰に含有されると、炭窒化物が過剰に形成し、熱間加工性が低下する。そのため、V含有量は、0.20%以下である。一方、上記効果を得るためには、V含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0036】
Zr:0~0.030%
Zr(ジルコニウム)は、酸化物等を形成し、母材の清浄性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Zrが過剰に含有されると、却って、酸化物等が過剰に形成し、製造性が低下する。このため、Zr含有量は、0.030%以下である。一方、上記効果を得るためには、Zr含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0037】
B:0~0.0020%
B(ホウ素)は、粒界の強度を高め、高温での延性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Bが過剰に含有されると、上記効果が飽和するばかりか、ボロン化合物(BN、BC、CrB)の粒界析出を促進して、靭性等が低下しやすくなる。このため、B含有量は、0.0020%以下である。一方、上記効果を得るためには、B含有量は、0.0002%以上であるのが好ましい。
【0038】
Mg:0~0.0010%
Mg(マグネシウム)は、脱酸に有効な元素であり、溶接性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Mgが過剰に含有されると、酸化物等が過剰に形成し、製造性が低下する。このため、Mg含有量は、0.0010%以下である。一方、上記効果を得るためには、Mg含有量は、0.0001%以上であるのが好ましい。
【0039】
Ca:0~0.0020%
Ca(カルシウム)は、熱間加工性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Caが過剰に含有されると、却って、熱間加工性が低下する。また、高温延性も低下する。このため、Ca含有量は、0.0020%以下である。一方、上記効果を得るためには、Ca含有量は、0.0002%以上であるのが好ましい。
【0040】
REM:0~0.010%
REM(希土類元素)は、熱間加工性および高温延性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、REMが過剰に含有されると、製造コストが増加する。このため、REM含有量は、0.010%以下である。一方、上記効果を得るためには、REM含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0041】
REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REM含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。REMは、工業的には、ミッシュメタルの形で添加されることが多い。
【0042】
Sb:0~0.30%
Sb(アンチモン)は、高温強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Sbが過剰に含有されると、靭性等の機械的特性が低下する。また、溶接性も低下する。このため、Sb含有量は、0.30%以下である。一方、上記効果を得るためには、Sb含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0043】
Ga:0~0.10%
Ga(ガリウム)は、高温強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Gaが過剰に含有されると、靭性等の機械的特性が低下する。また、溶接性も低下する。このため、Ga含有量は、0.10%以下である。一方、上記効果を得るためには、Ga含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0044】
Ta:0~0.10%
Ta(タンタル)は、炭化物を形成することで、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Taが過剰に含有されると、靭性等の機械的特性が低下する。このため、Ta含有量は、0.10%以下である。一方、上記効果を得るためには、Ta含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0045】
Ti:0~0.35%
Ti(チタン)は、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Tiが過剰に含有されると、延性および靭性が低下する。このため、Ti含有量は、0.35%以下である。一方、上記効果を得るためには、Ti含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0046】
Nb:0~0.30%
Nb(ニオブ)は、常温および高温での強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Nbが過剰に含有されると、溶接性が低下する。このため、Nb含有量は、0.30%以下である。一方、上記効果を得るためには、Nb含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0047】
本実施形態の母材の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、母材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0048】
3.溶接金属の化学組成
溶接金属の化学組成において、各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。なお、溶接金属の化学組成とは、溶接金属における平均の化学組成のことを意味する。
【0049】
C:0.100%以下
C(炭素)は、溶接金属の強度を向上させる効果を有する。しかしながら、Cが過剰に含有されると、溶接割れが生じやすくなる。このため、C含有量は、0.100%以下である。C含有量は、0.090%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、C含有量は、0.003%以上であるのが好ましい。
【0050】
Si:1.0%以上2.0%未満
Si(ケイ素)は、耐酸化性を向上させる効果を有する。このため、Si含有量は、1.0%以上である。Si含有量は、1.1%以上であるのが好ましい。しかしながら、Siが過剰に含有されると、溶接金属において、δ-フェライト相が増加し、475℃脆化が生じやすくなる結果、強度延性バランスが低下する。このため、Si含有量は、2.0%未満である。Si含有量は、1.9%以下であるのが好ましい。
【0051】
Mn:2.00%以下
Mn(マンガン)は、オーステナイト相の安定性を高め、強度を向上させる効果を有する。しかしながら、Mnが過剰に含有されると、高温延性および靭性が低下する。このため、Mn含有量は、2.00%以下である。Mn含有量は、1.95%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mn含有量は、0.50%以上であるのが好ましい。
【0052】
P:0.040%以下
P(リン)は不純物として、靭性を低下させる。また、溶接性を低下させる。このため、P含有量は、0.040%以下である。P含有量は極力低減することが好ましいが、極端なPの低減は、製造コストの増加に繋がる。このため、P含有量は、0.010%以上であるのが好ましい。
【0053】
S:0.0040%以下
S(硫黄)は不純物として、鋼中に含有され、高温延性を低下させる。このため、S含有量は、0.0040%以下である。S含有量は極力低減することが好ましいが、極端なSの低減は、製造コストの増加に繋がる。このため、S含有量は、0.0002%以上であるのが好ましい。
【0054】
Cr:17.0~25.0%
Cr(クロム)は、耐食性および耐酸化性を高める効果を有する。このため、Cr含有量は、17.0%以上である。Cr含有量は、18.0%以上であるのが好ましい。しかしながら、Crが、過剰に含有されると、Crの濃化が生じやすくなり、δ-フェライトが形成しやすくなる。この結果、475℃脆化が生じやすくなり、強度延性バランスが低下する。このため、Cr含有量は、25.0%以下である。
【0055】
Ni:8.0~23.0%
Ni(ニッケル)は、オーステナイト相を安定化させる効果を有する。また、強度を向上させる効果も有する。このため、Ni含有量は、8.0%以上である。Ni含有量は、10.0%以上であるのが好ましく、10.5%以上であるのがより好ましい。しかしながら、Niが過剰に含有されると、溶接性が低下する。このため、Ni含有量は、23.0%以下である。Ni含有量は、22.5%以下であるのが好ましく、15.0%以下であるのが好ましい。
【0056】
N:0.100%以下
N(窒素)は、オーステナイト相を安定化させ、強度を向上させる効果を有する。しかしながら、Nが過剰に含有されると、延性が低下する。このため、N含有量は、0.100%以下である。一方、上記効果を得るためには、N含有量は、0.010%以上であるのが好ましい。
【0057】
Al:0.10%以下
Al(アルミニウム)は、脱酸効果を有する元素である。しかしながら、Alが過剰に含有されると、溶接性が低下する。このため、Al含有量は、0.10%以下である。Al含有量は、0.08%以下であるのが好ましい。また、上記効果を得るためにAl含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0058】
上記の元素に加えて、さらに、Cu、Mo、Sn、W、Co、V、Zr、B、Mg、Ca、REM、Sb、Ga、Ta、Ti、およびNbから選択される一種以上を、以下に示す範囲において含有させてもよい。各元素の限定理由について説明する。
【0059】
Cu:0~2.00%
Cu(銅)は、オーステナイト相を安定化させ、耐食性および強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Cuが過剰に含有されると、溶接性が低下する。このため、Cu含有量は、2.00%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Cu含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0060】
Mo:0~1.00%
Mo(モリブデン)は、耐食性、常温での強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Moが過剰に含有されると、製造コストが増加する。このため、Mo含有量は、1.00%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mo含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0061】
Sn:0~0.030%
Sn(スズ)は、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Snが過剰に含有されると、偏析等が生じやすくなり、製造性が低下する。このため、Sn含有量は、0.030%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Sn含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0062】
W:0~0.30%
W(タングステン)は、強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Wが過剰に含有されると、製造性が低下する。このため、W含有量は、0.30%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、W含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0063】
Co:0~1.0%
Co(コバルト)は、耐食性を向上させ、オーステナイト相を安定化させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Coが過剰に含有されると、製造コストが増加する。このため、Co含有量は、1.0%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Co含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0064】
V:0~0.20%
V(バナジウム)は、溶接金属で固溶する、または炭窒化物として析出し、強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Vが過剰に含有されると、炭窒化物が過剰に形成し、靭性および延性が低下する。そのため、V含有量は、0.20%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、V含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0065】
Zr:0~0.030%
Zr(ジルコニウム)は、酸化物等を形成し、溶接金属の清浄性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Zrが過剰に含有されると、却って、酸化物等が過剰に形成し、延性が低下する。このため、Zr含有量は、0.030%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Zr含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0066】
B:0~0.0020%
B(ホウ素)は、粒界の強度を高め、高温での延性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Bが過剰に含有されると、上記効果が飽和するばかりか、ボロン化合物(BN、BC、CrB)の粒界析出を促進して、靭性等が低下しやすくなる。このため、B含有量は、0.0020%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、B含有量は、0.0002%以上であるのが好ましい。
【0067】
Mg:0~0.0010%
Mg(マグネシウム)は、脱酸に有効な元素であり、溶接性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Mgが過剰に含有されると、酸化物等が過剰に形成し、製造性が低下する。このため、Mg含有量は、0.0010%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mg含有量は、0.0001%以上であるのが好ましい。
【0068】
Ca:0~0.0020%
Ca(カルシウム)は、耐酸化性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Caが過剰に含有されると、高温延性も低下する。このため、Ca含有量は、0.0020%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ca含有量は、0.0002%以上であるのが好ましい。
【0069】
REM:0~0.010%
REM(希土類元素)は、高温延性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、REMが過剰に含有されると、製造コストが増加する。このため、REM含有量は、0.010%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、REM含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0070】
REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REM含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。REMは、工業的には、ミッシュメタルの形で添加されることが多い。
【0071】
Sb:0~0.30%
Sb(アンチモン)は、高温強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Sbが過剰に含有されると、靭性等の機械的特性が低下する。また、溶接性も低下する。このため、Sb含有量は、0.30%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Sb含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0072】
Ga:0~0.10%
Ga(ガリウム)は、高温強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Gaが過剰に含有されると、靭性等の機械的特性が低下する。また、溶接性も低下する。このため、Ga含有量は、0.10%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ga含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0073】
Ta:0~0.10%
Ta(タンタル)は、炭化物を形成することで、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Taが過剰に含有されると、靭性等の機械的特性が低下する。このため、Ta含有量は、0.10%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ta含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0074】
Ti:0~0.35%
Ti(チタン)は、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Tiが過剰に含有されると、延性および靭性が低下する。このため、Ti含有量は、0.35%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ti含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0075】
Nb:0~0.30%
Nb(ニオブ)は、常温および高温での強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Nbが過剰に含有されると、溶接性が低下する。このため、Nb含有量は、0.30%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Nb含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0076】
本実施形態の溶接金属の化学組成において、残部はFeおよび不純物であるのが好ましい。ここで「不純物」とは、溶接金属が形成する際に、母材、溶加材等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0077】
(i)式
本実施形態の溶接継手は、溶接金属におけるSiおよびCrの濃化を抑制するため、下記(i)式を満足する必要がある。
Cr+2Si≦28.5 ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号は溶接金属中に含まれるCrまたはSiの含有量(質量%)を表す。
【0078】
(i)式左辺値が28.5超であると、溶接金属におけるSiおよびCrの濃化が生じ、δ-フェライト相の形成が促進され、475℃脆化が生じやすくなる。このため、(i)式左辺値は、28.5以下である。(i)式左辺値は、28.0以下であるのが好ましい。なお、(i)式左辺値の下限は、特に、限定されないが、通常、19.0以上になると考えられる。
【0079】
4.δ-フェライト相の面積率
本実施形態の溶接継手では、溶接金属におけるδ-フェライト相の面積率が、20%以下であるのが好ましい。溶接金属におけるδ-フェライト相の面積率が、20%以下であると、475℃脆化が生じにくくなり、強度延性バランスが向上する。なお、溶接継手におけるδ-フェライト相の面積率の下限は、特に、限定されないが、上記面積率が、5%以上であると、溶接割れが生じにくくなるため、上記面積率は、5%以上であるのがより好ましい。
【0080】
溶接金属におけるδ-フェライト相の面積率は、以下の手順で測定されればよい。溶接継手の溶接方向に垂直な断面の溶接金属において、フェライトメータを用いて測定する。なお、異なる5か所で測定を行い、その平均をδ-フェライト相の面積率とする。すなわち、n=5で面積率を算出する。
【0081】
5.SiおよびCrの濃化
δ-フェライト相の形成に伴う、475℃脆化の発生を抑制するために、溶接金属において、SiおよびCrが濃化しない方が望ましい。従って、溶接金属において、Si含有量が2.2%超である領域の面積率が、25%以下であり、Cr含有量が26%超である領域の面積率が、10%以下であるのが好ましい。
【0082】
溶接金属において、Si含有量が2.2%超である領域の面積率が、25%以下であると、溶接金属において、δ-フェライト相のスピノーダル分解が抑制され475℃脆化が抑制されやすくなる。このため、溶接金属において、Si含有量が2.2%超である領域の面積率が、25%以下であるのが好ましい。なお、溶接金属において、Si含有量が2.2%超である領域の面積率の下限は、特に限定されず、当該面積率は、小さければ小さい程好ましい。
【0083】
同様に、溶接金属において、Cr含有量が26%超である領域の面積率が、10%以下であると、溶接金属において、Crの局所的な濃化が抑制され、δ-フェライト相の形成がしにくくなる。このため、溶接金属において、Cr含有量が26%超である領域の面積率が、10%以下であるのが好ましい。なお、溶接金属において、Cr含有量が26%超である領域の面積率の下限は、特に限定されず、当該面積率は、小さければ小さい程好ましい。
【0084】
溶接金属における、Si含有量が2.2%超である領域の面積率およびCr含有量が26%超である領域の面積率は、以下の手順で測定されればよい。溶接継手の溶接方向に垂直な断面の溶接金属において、SiおよびCrの元素分析を、EPMAを用いて行う。EPMAでの測定条件は、加速電圧は15.0kV、照射電流は1.3×e-9A、ビーム径は、1μmとする。測定面積は、縦(板厚)370μm×横(幅)500μmとする。EPMAでの元素分析結果をマッピングし、Si含有量が2.2%超である領域の面積率およびCr含有量が26%超である領域の面積率を算出する。
【0085】
6.用途
本実施形態の溶接継手は、燃料電池中で、水素製造を行う燃料改質器に用いられるのが好ましい。なお、燃料改質器中の種類は、特に、限定されず、SOFCであっても、PEFC、SOECであってもよい。これら改質に用いる原料については、特に限定されないが、一般的な都市ガス、メタン等の炭化水素類、メタノール・エタノール等のアルコール類、その他(シクロヘキサン・アンモニア等)が挙げられる。また、改質の逆反応である、メタネーション等の装置においても適用できる。
【0086】
7.製造方法
本実施形態の溶接継手は、例えば、以下のような製造方法により、安定して製造することができる。
【0087】
最初に、溶接継手の素材となる母鋼材を用意する。母鋼材は、母材の化学組成と同様、その化学組成が、質量%で、C:0.100%以下、Si:0.5~4.0%、Mn:0.01~4.00%、P:0.040%以下、S:0.0040%以下、Cr:16.0~26.0%、Ni:7.0~23.0%、N:0.001~0.250%、Al:0.05%以下、Cu:0~2.00%、Mo:0~1.00%、Sn:0~0.030%、W:0~0.30%、Co:0~1.0%、V:0~0.20%、Zr:0~0.030%、B:0~0.0020%、Mg:0~0.0010%、Ca:0~0.0020%、REM:0~0.010%、Sb:0~0.30%、Ga:0~0.10%、Ta:0~0.10%、Ti:0~0.35%、Nb:0~0.30%、残部:Feおよび不純物であるのが好ましく、オーステナイト系ステンレス鋼材であるのが好ましい。なお、オーステナイト系ステンレス鋼材の形状は、特に、限定されない。鋼板であっても、棒鋼であってもよい。
【0088】
また、溶接のために、母鋼材を加工し、母鋼材に開先を設けてもよい。開先形状は、特に限定されないが、例えば、I形、Y形、V形、逆台形、U形などの形状がある。母鋼材の厚さについても特に限定しないが、通常、5.0mm以下であるのが好ましく、3.0mm以下であるのがより好ましく、1.5mm以下であるのがさらに好ましい。なお、母鋼材の厚さの下限も、特に、限定されないが、通常、0.6mmである。
【0089】
上記母鋼材に対し、溶加材を用い、溶接する。溶加材は、溶接金属の化学組成を満足する範囲で適宜選択して用いてよく、JIS規格で定められるYS304、YS308、YS309、YS310、YS316に準拠した鋼種などを用いることができる。例えば、YS309には、YS309L、YS309LSiなどの適用も含まれる。溶接方法は、プッシュ-プル方式のMIG溶接とする。その他、溶接条件は、特に、限定されるものではないが、例えば、MIG溶接の場合、溶接条件は、入熱量を600J/cm以上で実施することが多い。なお、溶接の際には、シールドガスを使用して溶接するのが好ましい。その他、溶接条件は、常法に従えばよい。
【0090】
なお、本実施形態の溶接継手のビード幅は、およそ8mm以下となることが一般的である。
【0091】
以下、実施例によって本発明に係る溶接継手をより具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0092】
オーステナイト系ステンレス鋼材である母鋼材を用意した。母鋼材の形状は、300mmL×300mmW×0.8mmtとした。この母鋼材と溶加材を用い、入熱量を600~1000J/cmとなるよう調整し、プッシュ-プル方式のMIG溶接で溶接し、溶接継手を得た。得られた溶接継手の母材の化学組成を表1に示し、得られた溶接継手の溶接金属の化学組成を表2に示す。なお、入熱量は、表3に示すとおりとし、溶加材はYS304およびYS309、YS310を用いた。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
得られた溶接継手について、溶接金属のδ-フェライト相の面積率を測定した。溶接継手の溶接方向に垂直な断面の溶接金属において、フェライトメータを用いて測定した。なお、異なる5か所で測定を行い、その平均をδ-フェライト相の面積率とした。すなわち、n=5で面積率を算出した。
【0096】
また、溶接金属における、Si含有量が2.2%超である領域の面積率およびCr含有量が26%超である領域の面積率を測定した。溶接継手の溶接方向に垂直な断面の溶接金属において、SiおよびCrの元素分析を、EPMAを用いて行う。EPMAでの測定条件は、加速電圧は15.0kV、照射電流は1.3×e-9A、ビーム径は、1μmとした。測定面積は、縦(板厚)370μm×横(幅)500μmとした。EPMAでの元素分析結果をマッピングし、Si含有量が2.2%超である領域の面積率およびCr含有量が26%超である領域の面積率を算出した。
【0097】
強度および延性は以下の手順で測定された。溶接継手の溶接部が平行部中央部を跨ぐよう、溶接軸と直交する方向が長手方向になるよう、JIS13号B引張試験片を切り出した。切り出された引張試験片は、650℃、2000hで、時効熱処理された。その後、溶接部の板厚が0.8mmになるよう研磨した。その後、JIS Z 2241:2022に準拠する室温(常温)の引張試験を行った。なお、表中の強度延性バランスは、室温引張試験で得られた引張強さ(TS)と全伸び(T-EL)の積として算出した。そして、強度延性バランスが5000以上である場合を特性が良好であると判断した。以下、結果を纏めて表3に示す。
【0098】
【表3】
【0099】
本実施形態の要件を満足する符号A~Oは、良好な強度延性バランスを示した。符号A~Oの中でも、符号NおよびOは、SiおよびCr含有量の面積率の要件を満足しなかったため、本発明例の中では、やや強度延性バランスが低下した。一方、本実施形態の要件を満足しない符号P~Wは、強度延性バランスが不良であった。