(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115248
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】電池用蓋および電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/198 20210101AFI20240819BHJP
H01M 50/159 20210101ALI20240819BHJP
H01M 50/176 20210101ALI20240819BHJP
H01M 50/188 20210101ALI20240819BHJP
H01M 50/195 20210101ALI20240819BHJP
H01M 50/193 20210101ALI20240819BHJP
H01M 50/586 20210101ALI20240819BHJP
H01M 50/59 20210101ALI20240819BHJP
H01M 50/55 20210101ALI20240819BHJP
【FI】
H01M50/198
H01M50/159
H01M50/176
H01M50/188
H01M50/195
H01M50/193
H01M50/586
H01M50/59
H01M50/55 101
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020855
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】江原 強
(72)【発明者】
【氏名】内田 陽三
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友紀
(72)【発明者】
【氏名】土屋 詔一
(72)【発明者】
【氏名】浅井 正孝
(72)【発明者】
【氏名】浅野 剛史
(72)【発明者】
【氏名】内村 将大
(72)【発明者】
【氏名】永野 泰章
(72)【発明者】
【氏名】松本 繁
【テーマコード(参考)】
5H011
5H043
【Fターム(参考)】
5H011AA02
5H011CC06
5H011FF02
5H011GG02
5H011HH02
5H011HH09
5H011HH12
5H011KK00
5H043AA02
5H043CA04
5H043DA09
5H043GA22
5H043GA23
5H043GA26
5H043KA08D
5H043KA09D
5H043KA15D
5H043KA22D
(57)【要約】
【課題】蓋体と端子部材とが樹脂材により絶縁されているとともに、熱履歴を受けても蓋体と樹脂材との剥離が生じにくい電池用蓋およびそれを用いた電池を提供すること。
【解決手段】本開示技術では、アルミ製の蓋体5と、蓋体5の表側と裏側とにわたって設けられたアルミ製の第1端子部材および銅製の第2端子部材13と、第1端子部材および第2端子部材13を蓋体5に固定する樹脂材11とを有する電池用蓋20であって、第2端子部材13の表面のうち樹脂材11を介して蓋体5の壁面14、15と対面している対向面16、17に凹凸形状が形成されるとともに、凹凸形状に樹脂材11が食い込んでいる微細アンカー構造が形成されており、樹脂材11は、基材樹脂にフィラーを配合してなるものであり、樹脂材11の線膨張係数が、アルミの線膨張係数の80%以上120%以下の範囲内にあるものを提供する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミ製の蓋体と、前記蓋体の表側と裏側とにわたって設けられたアルミ製の第1端子部材および銅製の第2端子部材と、前記第1端子部材および前記第2端子部材を前記蓋体に固定する樹脂材とを有する電池用蓋であって、
前記第2端子部材の表面のうち前記樹脂材を介して前記蓋体の壁面と対面している対向面に凹凸形状が形成されるとともに、前記凹凸形状に前記樹脂材が食い込んでいる微細アンカー構造が形成されており、
前記樹脂材は、基材樹脂にフィラーを配合してなるものであり、
前記樹脂材の線膨張係数が、アルミの線膨張係数の80%以上120%以下の範囲内にある電池用蓋。
【請求項2】
請求項1に記載の電池用蓋であって、
前記第1端子部材の表面のうち前記樹脂材を介して前記蓋体の壁面と対面している対向面に凹凸形状が形成されるとともに、前記第1端子部材の前記凹凸形状に前記樹脂材が食い込んでいる微細アンカー構造が形成されている電池用蓋。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電池用蓋であって、
前記蓋体の外面および内面のうち前記樹脂材に覆われている範囲内に凹凸形状が形成されるとともに、前記蓋体の前記凹凸形状に前記樹脂材が食い込んでいる微細アンカー構造が形成されている電池用蓋。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の電池用蓋であって、
前記フィラーはガラスである電池用蓋。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の電池用蓋であって、
前記基材樹脂はポリフェニレンスルファイド樹脂である電池用蓋。
【請求項6】
開口のある箱体と、前記箱体に収納された電極集積体と、前記箱体の開口を塞ぐ電池用蓋とを有し、
前記電池用蓋は請求項1または請求項2に記載のものであり、
前記第1端子部材および前記第2端子部材はそれぞれ、前記電極集積体を構成する電極板に接続されている電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示技術は、電池用蓋および電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電池の端子部分では、端子部材が外装体の表側に露出している。端子部材は電池の内部の電極板に繋がっている。このため端子部材は、外装体の表側と裏側とにわたって設けられている。このような端子部分は通常、外装体のうち蓋体の部分に設けられる。蓋体と端子部材との間には絶縁部材が設けられる。絶縁部材としては樹脂が用いられる。このため端子部分には、金属と樹脂との接合箇所が存在する。上記接合箇所には、例えば特許文献1に開示されている「金属/樹脂複合構造体」の技術を適用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蓋体における端子部分には、端子部材を通すための形状が形成される。当該形状中には、端子部材を囲む壁面状の部位が存在する。当該部位は昇温時に熱膨張により拡大する。このため、絶縁部材の熱膨張がこれに追いつかなければそれらの接合界面に引っ張り応力が作用する。その程度、発生頻度によっては蓋体と絶縁部材との剥離に至る場合がある。一般的に、電池の蓋体の素材としてはアルミが、端子部材の素材としてはアルミと銅とが用いられる。
【0005】
本開示技術の課題とするところは、蓋体と端子部材とが樹脂材により絶縁されているとともに、熱履歴を受けても蓋体と樹脂材との剥離が生じにくい電池用蓋およびそれを用いた電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示技術の一態様における電池用蓋は、アルミ製の蓋体と、蓋体の表側と裏側とにわたって設けられたアルミ製の第1端子部材および銅製の第2端子部材と、第1端子部材および第2端子部材を蓋体に固定する樹脂材とを有し、第2端子部材の表面のうち樹脂材を介して蓋体の壁面と対面している対向面に凹凸形状が形成されるとともに、凹凸形状に樹脂材が食い込んでいる微細アンカー構造が形成されており、樹脂材は、基材樹脂にフィラーを配合してなるものであり、樹脂材の線膨張係数が、アルミの線膨張係数の80%以上120%以下の範囲内にあるものである。
【0007】
上記態様に係る電池用蓋では、温度変化があっても、第1端子部材の伸縮の程度と樹脂材の伸縮の程度とがほぼ同じである。このため、第1端子部材が樹脂材により蓋体に固定されている箇所において、蓋体と樹脂材との間に隙間が生じることはほとんどなく、剥離に至ることはない。第2端子部材が樹脂材により蓋体に固定されている箇所においては、第2端子部材の伸縮が樹脂材の伸縮よりわずかに小さいことになる。しかし第2端子部材と樹脂材との接触箇所には微細アンカー構造によるアンカー効果が作用するので、こちらも剥離に至ることはない。
【0008】
上記態様に係る電池用蓋では、第1端子部材の表面のうち樹脂材を介して蓋体の壁面と対面している対向面に凹凸形状が形成されるとともに、第1端子部材の凹凸形状に樹脂材が食い込んでいる微細アンカー構造が形成されていることとすることができる。このようになっていれば第1端子部材と樹脂材との接合がより確実である。
【0009】
上記のいずれかの態様に係る電池用蓋ではさらに、蓋体の外面および内面のうち樹脂材に覆われている範囲内に凹凸形状が形成されるとともに、蓋体の凹凸形状に樹脂材が食い込んでいる微細アンカー構造が形成されていることとすることができる。このようになっていれば蓋体と樹脂材との接合がより確実である。
【0010】
上記のいずれかの態様に係る電池用蓋ではまた、フィラーはガラスであることとすることができる。ガラスをフィラーとして基材樹脂に配合することで樹脂材の機械的強度を向上させるとともに、ガラスの配合比率により樹脂材の線膨張係数を調整することができる。
【0011】
上記のいずれかの態様に係る電池用蓋ではまた、基材樹脂はポリフェニレンスルファイド樹脂であることとすることができる。ポリフェニレンスルファイド樹脂は、樹脂としては比較的高強度であり、フィラーの配合比率により樹脂材の線膨張係数を調整することができる。
【0012】
本開示技術の別の一態様における電池は、開口のある箱体と、箱体に収納された電極集積体と、箱体の開口を塞ぐ電池用蓋とを有し、電池用蓋は上記のいずれかの態様のものであり、第1端子部材および第2端子部材はそれぞれ、電極集積体を構成する電極板に接続されているものである。この電池では、電池用蓋における樹脂材の剥離が起こりにくい。
【発明の効果】
【0013】
本開示技術によれば、蓋体と端子部材とが樹脂材により絶縁されているとともに、熱履歴を受けても蓋体と樹脂材との剥離が生じにくい電池用蓋およびそれを用いた電池が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】電池における外部端子の箇所の構造を示す断面図(その1)である。
【
図3】電池における外部端子の箇所の構造を示す断面図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本形態は、
図1に示す電池1において本開示技術を具体化したものである。電池1は、外装体2に電極集積体3を収納してなるものである。外装体2は、箱体4と蓋体5とを有している。蓋体5には、正負の外部端子6、7が設けられている。電池1の外部から見ると外部端子6、7の箇所には、端子面8、9と樹脂材10、11とが見えている。
【0016】
外部端子6の箇所の構造を
図2により説明する。
図2は、
図1中の厚さ方向Tと平行な縦断面を示す断面図である。
図2に示されるように外部端子6の箇所には、第1端子部材12が設けられている。第1端子部材12は、蓋体5の表側(
図2中で上側)と裏側(同下側)とにわたって設けられた部材である。蓋体5および第1端子部材12は、いずれもアルミ製である。第1端子部材12は、外装体2の内部(
図2で蓋体5より下方)で電極集積体3の正極板に接続されている。
図1中の端子面8は、第1端子部材12の外向きの露出面である。
【0017】
外部端子6の箇所では、蓋体5に、第1端子部材12を通す貫通孔が形成されている。
図2中には、当該貫通孔における蓋体5の壁面14、15が現れている。また、第1端子部材12における端子面8より下方の部位には、図中で縦方向の対向面16、17が現れている。対向面16、17は、第1端子部材12の表面の一部である。対向面16は壁面14と対面する面であり、対向面17は壁面15と対面する面である。蓋体5における
図2中で上向きの面を外面18といい、下向きの面を内面19という。
図2における蓋体5と第1端子部材12との間は、樹脂材10により塞がれている。樹脂材10により、第1端子部材12が蓋体5から絶縁されている。また、外装体2の内部空間と外部空間とが区切られている。
【0018】
図2の構造中、蓋体5と樹脂材10との接触箇所および第1端子部材12と樹脂材10との接触箇所には、微細アンカー構造が形成されている。微細アンカー構造が形成されている箇所は、蓋体5の外面18および内面19のうち樹脂材10に覆われている範囲、および、第1端子部材12の対向面16および対向面17のうち樹脂材10に覆われている範囲である。
図2ではこれらの箇所を太線で示している。対向面16、17のうち樹脂材10を介して壁面14、15と対面している部分にも微細アンカー構造が形成されている。微細アンカー構造の箇所では、金属部材(蓋体5、第1端子部材12)の面が粗化された微細凹凸面となっている。その凹凸形状に樹脂材10が食い込むことで、アンカー効果が奏されるようになっている。
【0019】
外部端子7の箇所の構造を
図3に示す。
図3は、各部の形状に関しては
図2と同様のものである。ただし、
図3中の第2端子部材13は銅製であり、電極集積体3の負極板に接続されているものであ。
図1中の端子面9は第2端子部材13の外向きの露出面である。対向面16、17の意味は
図2の第1端子部材12における意味と同様である。
図3の箇所でも、
図2中の微細アンカー構造の箇所に相当する箇所には微細アンカー構造が形成されている。
【0020】
図2および
図3に示すように蓋体5に対して第1端子部材12および第2端子部材13を樹脂材10、11により固定したものを電池用蓋20という。
図1の電池1では、電極集積体3を収納している箱体4の開口が電池用蓋20により塞がれている。
【0021】
樹脂材10、11の詳細について説明する。これらはいずれも、基材樹脂にフィラーを配合した複合樹脂である。基材樹脂として使用可能な樹脂としては、ポリフェニレンスルファイド樹脂(PPS)、ポリアリーレンスルフィド(PAS)等が挙げられる。フィラーとして使用可能なものとしては、ガラス、アルミナ、チタン酸カリウム等が挙げられる。以下の説明では、基材樹脂がPPS樹脂であり、フィラーがガラスであるものとする。
【0022】
基材樹脂にフィラーを配合することの意味は、樹脂材10、11の機械的強度の向上と、熱膨張率の調整との2つである。本開示技術としては主としてそのうちの後者の熱膨張率である。本形態の樹脂材10、11は、熱膨張の線膨張係数が、蓋体5、すなわちアルミ材の線膨張係数とだいたい同じくらいになるようにフィラーの配合比率を調整したものである。
【0023】
本開示技術における線膨張係数としては、電池1が一般的に使用される温度域におけるものをいうものとする。電池1が使用される温度域は、広く捉えれば-40~65℃程度であり、そのうち多用されるのは25~60℃程度である。電池用蓋20を構成する各素材の20℃のときの線膨張係数は、微量成分元素や成形方法等の要因により多少の変動はあるがだいたい次の通りである。
PPS樹脂(フィラーを含まないもの):49.0×10-6/K
アルミ :24.1×10-6/K
銅 :18.0×10-6/K
【0024】
つまり、アルミの線膨張係数は銅の線膨張係数よりも大きく、基材樹脂としてのPPS樹脂の線膨張係数はさらに大きい。PPS樹脂にフィラーを配合した複合樹脂の線膨張係数は、基材樹脂としてのPPS樹脂の線膨張係数より小さい。フィラーの配合比率を増やすことにより、複合樹脂の線膨張係数をさらに下げることができる。この手法により、樹脂材10、11の線膨張係数は、アルミの線膨張係数の83%以上120%以下の範囲内に調整されている。
【0025】
本形態の電池用蓋20では、この、樹脂材10、11とアルミとの線膨張係数が近いことから、温度変化があった場合でも、蓋体5と樹脂材10、11との間に剥離が生じにくい。
【0026】
このことを
図2の外部端子6の箇所にて説明する。
図2中、蓋体5における壁面14と壁面15との間の間隔をL1とし、そのうちの第1端子部材12が占めている部分の長さ、すなわち第1端子部材12の
図2中での厚さをL2とする。蓋体5における第1端子部材12を通す貫通孔のうち樹脂材10が占める部分の長さのうち、第1端子部材12の
図2中右側をL3とし、左側をL4とする。常温(例えば20℃程度)でL2とL3とL4との合計がL1と一致しているものとする。
【0027】
樹脂材10の線膨張係数がアルミの線膨張係数と同じであれば、温度が上昇しても下降しても、
図2中の蓋体5の貫通孔の長さL1と、第1端子部材12の長さL2と、樹脂材10の長さL3、L4とは揃って伸縮する。このため、蓋体5と樹脂材10との間にも、樹脂材10と第1端子部材12との間にも、隙間が生じることはない。樹脂材10の線膨張係数がアルミの線膨張係数と完全には同じでなくても、上記の範囲内であれば剥離が生じる程には至らない。樹脂材10はフィラーの添加により比較的硬いものとされているとは言え、ある程度の柔軟性を有するからである。
【0028】
続いて、
図3の外部端子7の箇所の場合について考察する。L1、L2、L3、L4の記号の意味は
図2の場合と同じとする。
図3の場合、第2端子部材13がアルミでなく銅であることを考慮する必要がある。この場合でも、
図3中の蓋体5の貫通孔の長さL1と、樹脂材10の長さL3、L4とは、やはり揃って伸縮する。このため、蓋体5と樹脂材10との間にも、樹脂材10と第1端子部材12との間にも、隙間が生じることはない。しかし第2端子部材13の長さL2の伸縮の程度はそれらよりやや小さいことになる。
【0029】
まず温度が上昇する局面を考える。この局面では、長さL1、L3、L4の膨張に対して、長さL2の膨張がやや不足することになる。このことは、樹脂材11と第2端子部材13の対向面16、17との間にわずかながら隙間を生じさせる要因である。しかしながら実際には剥離が生じるまでには至らない。その理由は、前述の樹脂材11のある程度の柔軟性と、第2端子部材13の対向面16、17に形成されている微細アンカー構造の効果である。
【0030】
次に温度が下降する局面を考える。この局面でも、樹脂材11の長さL3、L4と、蓋体5の貫通孔の長さL1とは揃って縮小する。したがってやはり、樹脂材11と蓋体5の壁面14、15との間に隙間は生じない。第2端子部材13の長さL2の縮小の程度はやや少ないが、このことは、樹脂材11と第2端子部材13の対向面16、17とがむしろ軽く押し付け合うことを意味する。このためやはり、剥離が生じることはない。
【0031】
比較のため、樹脂材10、11の線膨張係数が上記の範囲を外れていた場合についても考察する。まず、樹脂材10、11の線膨張係数が大きすぎた場合、つまりフィラーの配合比率が足りなかった場合について述べる。この場合には、温度が下降する局面で、樹脂材10、11と壁面14、15との間に剥離が生じやすいことになる。蓋体5の貫通孔の長さL1の縮小に対して、樹脂材10、11の長さL3、L4が過剰に縮小するからである。温度上昇の局面では、蓋体5の貫通孔の長さL1の膨張に対して、樹脂材10、11の長さL3、L4が過剰に膨張することになる。このこと自体は樹脂材10、11と壁面14、15とが押し付け合うことを意味するが、膨張の差が過大であれば界面と平行な方向の剪断応力による樹脂材10、11の破壊に至ることもある。
【0032】
続いて、樹脂材10、11の線膨張係数が小さすぎた場合、つまりフィラーの配合比率が過剰だった場合について述べる。この場合の樹脂材10、11の線膨張係数は、アルミの線膨張係数よりさらに小さく、銅の線膨張係数に近いことになる。このため、温度が上昇する局面で、蓋体5の貫通孔の長さL1の膨張に対して、樹脂材10、11の長さL3、L4の膨張が不足する。これにより樹脂材10、11と壁面14、15との間に剥離が生じることがある。
【0033】
これに対し、樹脂材10、11の線膨張係数がアルミの線膨張係数とほぼ同じくらいとなるように調整されている本形態の電池用蓋20では、温度上昇の局面でも温度下降の局面でも、また、外部端子6の箇所でも外部端子7の箇所でも、樹脂材10、11と壁面14、15とが剥離するに至ることはほとんどない。
【0034】
以上詳細に説明したように本実施の形態によれば、樹脂材10、11として基材樹脂にフィラーを配合した複合樹脂を用いるとともに、フィラーの配合比率を調整して複合樹脂としての線膨張係数がアルミの線膨張係数とほぼ同じくらいになるようにしている。そのことと、第2端子部材13の対向面16、17と樹脂材11との間の微細アンカー構造とにより、蓋体5と端子部材12、13とが樹脂材10、11により絶縁されているとともに、熱履歴を受けても蓋体5と樹脂材10、11との剥離が生じにくい電池用蓋20およびそれを用いた電池1が実現されている。
【0035】
本実施の形態および実施例は単なる例示にすぎず、本開示技術を何ら限定するものではない。したがって本開示技術は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能である。例えば、微細アンカー構造のうち、蓋体5の外面18および内面19のものについては、いずれか一方だけでもよい。ただし、これらの箇所の両方に微細アンカー構造が形成されていた方が、外部端子6、7の各箇所における樹脂材10、11と金属部材(蓋体5、第1端子部材12)との接合強度がより優れることはもちろんである。
【0036】
また、樹脂材10の線膨張係数と樹脂材11の線膨張係数とは、同一である必要はない。例えば、上記の調整される樹脂材10、11の線膨張係数の範囲内で、樹脂材10の線膨張係数よりも樹脂材11の線膨張係数の方が小さい(つまり銅の線膨張係数に近い)こととしてもよい。また、
図2、
図3は電池1における
図1中の厚さ方向Tと平行な縦断面を示す断面図であることとしたが、これには限られない。電池1における幅方向Wと平行な縦断面が
図2、
図3のような構造になっているものであってもよい。
【0037】
[予備請求項1]
請求項3に記載の電池用蓋であって、
前記フィラーはガラスである電池用蓋。
【0038】
[予備請求項2]
請求項3、請求項4、予備請求項1のいずれか1つに記載の電池用蓋であって、
前記基材樹脂はポリフェニレンスルファイド樹脂である電池用蓋。
【0039】
[予備請求項3]
開口のある箱体と、前記箱体に収納された電極集積体と、前記箱体の開口を塞ぐ電池用蓋とを有し、
前記電池用蓋は請求項3から請求項5までおよび予備請求項1、予備請求項2のいずれか1つに記載のものであり、
前記第1端子部材および前記第2端子部材はそれぞれ、前記電極集積体を構成する電極板に接続されている電池。
【符号の説明】
【0040】
1 電池
2 外装体
3 電極集積体
4 箱体
5 蓋体
6 外部端子
7 外部端子
8 端子面
9 端子面
10 樹脂材
11 樹脂材
12 第1端子部材
13 第2端子部材
14 壁面
15 壁面
16 対向面
17 対向面
18 外面
19 内面