(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115257
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】小型光学装置
(51)【国際特許分類】
G11B 7/0065 20060101AFI20240819BHJP
G11B 7/135 20120101ALI20240819BHJP
G02B 5/32 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
G11B7/0065
G11B7/135
G02B5/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020867
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】仲間 一貴
(72)【発明者】
【氏名】岡本 勝就
(72)【発明者】
【氏名】飯田 公平
(72)【発明者】
【氏名】林 健太
【テーマコード(参考)】
2H249
5D090
5D789
【Fターム(参考)】
2H249CA01
2H249CA04
2H249CA05
2H249CA08
2H249CA09
2H249CA12
2H249CA24
5D090BB16
5D090KK06
5D090LL01
5D789FA05
5D789JA36
5D789JA43
5D789JA46
(57)【要約】 (修正有)
【課題】従来技術では拡大用の対物レンズや光軸調整用のミラーなどの光学素子によって、光学系が大型化・複雑化する問題があった。この為生体組織下等を観察する際には生体内部から生体や生体細胞を摘出する等が必要となり、計測には時間がかかっていた。また摘出を必要としない場合でも蛍光プローブなどで標識付けが必要となり、共焦点顕微鏡や二光子顕微鏡のような計測装置では装置が大型化になると同時に計測時間が長く、扱いが難しい等の課題があった。
【解決手段】前記課題を解決するための手段として、薄型導波路6を使った光学系で構成する小型光学装置1であって、薄型導波路は例えばシリコンナイトライド導波路を用いた構造にする。これによりミラーやビームスプリッタなどの空間光学系を必要としなくなるので光学系がコンパクトであり、簡易的なアライメントが可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の波長を有する光源で発光された光が導波路内で複数の光に分けられ被写体を透過する第一の光と、位相シフト機能により位相変調された第一の光以外の光によって被写体表面に形成された複数の干渉縞画像を記録する記録光学機能と、記録した干渉縞画像に対して演算処理を行い対象物体内の情報を得る小型光学装置において、前記導波路内で複数の光に分波する部位と、位相シフト機能と、第一の光とそれ以外の光を所望の方向に出射するグレーティングカプラを同一基板に形成したことを特徴とする小型光学装置。
【請求項2】
上記請求項1記載の小型光学装置において、第一の光とそれ以外の光を所望の方向に出射するグレーティングカプラをフレネルゾーンプレートのような集光させた集光型グレーティングカプラで形成したことを特徴とする小型光学装置。
【請求項3】
上記請求項1、2記載の小型光学装置において、対象物体が生体組織であり、第一の光は生体組織内の観察対象物を透過し、それ以外の光はそのまま生体組織を透過し、上記2つの光によって生体組織表面に生じる干渉縞画像を記録する記録光学機能を有することを特徴とする小型光学装置。
【請求項4】
上記請求項1、2、3記載の小型光学装置において、光導波路は、積層プロセスまたは除去プロセスで形成されることを特徴とする小型光学装置。
【請求項5】
上記請求項1、2、3記載の小型光学装置において、光源も光導波路と同一基板状に形成され、積層プロセスまたは除去プロセスで形成されることを特徴とする小型光学装置。
【請求項6】
上記請求項1、2、3、4、5記載の小型光学装置において、光導波路がシリコンナイトライド導波路を用いた構造である薄型光学系で形成されることを特徴とした小型光学装置。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
【技術分野】
【0002】
本発明は、高精度、且つ小型化が可能なデジタルホログラフィック顕微鏡に係り、薄型導波路によりビームスプリッタによるアライメント調整不要な簡易的に物体の振幅・位相情報を計算できる小型光学装置に関する。
【背景技術】
【0003】
インターネットやマルチメディア通信の急速かつグローバルな普及に伴い、光通信ネットワークの成長が加速している。光通信網の大容量化に向けて、光波長分割多重(Wavelength Division Multiplexing : WDM)伝送網(非特許文献1)などの開発が行われており、このような光通信網のキーとして石英系平面導波路(Planer Lightwave Circuit : PLC)を提供することができる。これは大規模集積に適し、長期安定性があり大量生産が可能であるためである(非特許文献2)。PLC技術により光パワースプリッター(非特許文献3)、アレイ型導波路回折格子(Array Waveguide Grating: AWG)(非特許文献4)、熱光学位相シフタ(非特許文献5、6)に応用されている。しかし、石英系導波路のコアは屈折率の低い材料を用いているため、導波路の製造、特に曲がり導波路の作製においては曲げ半径を小さくすることができず、光集積回路の微小化への限界があった。そのため、シリコンやInPなど屈折率の高い材料をコアとして用いた導波路の開発および光集積回路の微小化が進められてきた。近年ではシリコンナイトライド導波路が注目されている。このシリコンナイトライド導波路は微小な光集集積回路の開発可能な点の他に400から2350 nmの広い波長範囲で透明性を持ち、0.3 dB/mから1.0 dB/mという低い伝送損失で光を導波できるという特徴をもつ(非特許文献7)。このため、シリコンナイトライド導波路の特徴を生かし、1チップで光ビームを送受信できるグレーティングカプラ(特許事例1)や多モード干渉の原理をもとに低損失かつ広帯域で利用可能な波長多重化器が提案・開発されている(非特許文献8)。
【0004】
デジタルホログラフィック顕微鏡(Digital Holographic Microscope : DHM)(非特許文献9)は非侵襲・非接触で微小物体の厚みや屈折率の定量位相情報の計測が可能な光学測定装置の一つである。DHMは光源の光を物体光と参照光に分波し、対象物体を透過及び反射した物体光と基準となる参照光を合波することで干渉縞を形成する。その干渉縞を撮像素子で記録し、ホログラムを生成したのちに再生伝搬計算で対象物体を再構成する手法である。この手法を用いた癌細胞の識別や対象物体の表面形状分析などが行われている(非特許文献10)。しかし、従来技術では拡大用の対物レンズや光軸調整用のミラーなどの光学素子によって、光学系が大型化・複雑化する問題や生体細胞を摘出する等の課題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H. Toba, et.al., “A 100-ch optical WDM transmission/distribution at 622 Mbits/s over 50 km,” J. Lightwave Technol., 8,1396–1401(1990).
【非特許文献2】A. Himeno, K. Kato and T. Miya, "Silica-based planar lightwave circuits," in IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics, 4(6), 913-924 (1998).
【非特許文献3】M.Okuno, A. Takagi, M.Yasu and N. Takato, Spring Natl. Cony. IECE. Jpn., (1989).
【非特許文献4】X. JM. Leijtens, et.al., "Arrayed waveguide gratings." Wavelength filters in fibre optics. Springer, Berlin, Heidelberg, 125-187 (2006).
【非特許文献5】M. Haruna and H. Koyama, Proc. ECOC'83, Firenze, October (1983).
【非特許文献6】M.Kawachi, "Silica waveguides on silicon and their application to integrated-optic components." Optical and Quantum Electronics 22.5, 391-416 (1990).
【非特許文献7】D. J. Blumenthal, R. Heideman, D. Geuzebroek, A. Leinse and C. Roeloffzen, "Silicon Nitride in Silicon Photonics," in Proceedings of the IEEE, 106(12), 2209-2231(2018).
【非特許文献8】J.Mu, S, et.al., "A Low-Loss and Broadband MMI-Based Multi/Demultiplexer in Si3N4/SiO2 Technology," in Journal of Lightwave Technology, 34(15), 3603-3609 (2016).
【非特許文献9】J. W. Goodman, et al., “Digital image formation from electronically detected holograms” Appl. Phys. Lett. 11 77(1967).
【非特許文献10】E. Watanabe, T. Hoshiba, and B. Javidi, “High-precision microscopic phase imaging without phase unwrapping for cancer cell identification,” Opt. Lett. 38(8), 1319-1321 (2013).
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術では拡大用の対物レンズや光軸調整用のミラーなどの光学素子によって、光学系が大型化・複雑化する問題があった。この為例えば生体組織下の細胞や血管を観察する際には生体内部から生体や生体細胞を摘出する等が必要となり、計測には時間がかかっていた。また摘出を必要としない場合でも蛍光プローブなどで標識付けが必要となり、共焦点顕微鏡や二光子顕微鏡のような計測装置では装置が大型化になると同時に計測時間が長く、扱いが難しい等の課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段として、薄型導波路を使った光学系で構成する。薄型導波路は例えばシリコンナイトライド導波路を用いた構造にする。これによりミラーやビームスプリッタなどの空間光学系を必要としない光学系とする。また、光源から出射された光を導波路によって物体光と参照光に分波・出射し、物体光と参照光の干渉させることで、ビームスプリッタによるアライメントの調整を必要としない光学系とする。さらに出射部分にグレーティングカプラを配置し、そのグレーティングカプラをフレネルゾーンプレートのように集光させることにより,任意の点におけるイメージングを可能にする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光源から出射された光を薄型の導波路によって物体光と参照光に分波・出射し、物体光と参照光の干渉させることで、ビームスプリッタによるアライメントの調整を必要としない光学系が作成できる。また、導波させた波長の干渉縞からサンプルの透過スペクトルに応じたイメージングが作成できる。さらに、出射端面を入射端面と垂直に配置することで、入射した光の漏れ光が出射光に重畳することなく物体光の振幅情報を取得でき計算によるイメージングがより高精度に出来る。出射部分にグレーティングカプラを配置し、導波路平面上から物体光と参照光を出射させることで、導波路の同一端面からの出射する方法に比べ、物体光のみ照射される範囲を確保することができる。さらに出射部のグレーティングカプラをフレネルゾーンプレートのように集光させることにより,任意の点におけるイメージングを可能になる等の効果があり高精度イメージングデータを取得することが可能である。このため、生体観察の用途として簡易な血管検査や生体内の癌細胞の検査(正常細胞と癌細胞の識別)、生体組織の3次元生体認証等の用途に関して有効である。また、光導波路を含めた光学系の多くを1チップ化することができ、超小型の光学系を構築することが可能となる。従って小型で且つ低コスト化も可能であることから医療用や生体観察用だけではなく、例えば生体認証用途にも応用可能となり、ATMや防犯用途等にも応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例に係る小型光学装置を含む全体システム構成の一例を示す図。
【
図2】実施例に係る小型光学装置のソフトウェア構成図。
【
図3】実施例に係る小型光学装置の薄型光学系の構成図。
【
図4】実施例に係る小型光学装置のMMIスプリッタの例を示す図。
【
図5】実施例の有効性を示すシミュレーションを示す図。
【発明を実施する形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。全図を通じて同一の構成には同一の符号を付けてその重複説明は省略する。以下の実施形態においては、本発明に係る小型光学装置を例に挙げて説明する。
【0012】
図1は本発明の実施形態の小型光学装置1を含む全体構成の一例を示した図である。
図1の小型光学装置1では対象物体4は光を透過する形の例を示しているが、これに限ることはなく、反射型でも良い。この小型光学装置1は光導波路6を含む薄型光学系7を使った光学系2とシステム制御・処理機能11の2つの機能要素から構成されている。以下各機能について詳細に記載する。前記光導波路6は詳細を後述するが例えばシリコンナイトライド導波路を用いた構造になっている薄型光学系7を構成する。この為一般的なミラーやビームスプリッタなどの空間光学系と比較して光学系がコンパクトであり、簡易的なアライメントが可能となっている。光学系2では例えば特定の波長を有する光源5から照射された光から出射した光は例えばシリコンナイトライドの光導波路6に入射し、後述するMMI (Multi-Mode Interference)スプリッタ10で物体光と参照光に分波される。光導波路6で分波された光は物体を透過する物体光と基準の光となる参照光であり、2つのグレーティングカプラ9によって所定の角度で出射される。このグレーティングカプラ9は波長と凹凸間隔によって出射角が決定する。物体光と参照光は光導波路6から対象物4入射し、例えばCCDやC-MOSセンサー等のカメラ3に入射する。その後電気信号に変換されたのちにC P U12に入力される。上述の光学系2の動作を含めた機能の詳細説明は後述する。位相シフト機能8は分波された物体光または参照光の波長の位相をシフトさせる機能を有するもので、例えばヒーターと温度センサーを使って波長の位相を変化させる、或いはピエゾ素子を使って光路長を変えることで位相をシフトさせる事を可能にする機能部材である。この位相差により物体光と参照光との間でホログラムを作成する。光源5は特定の波長を有しているが、一定の波長でなく、波長の可変機能を有していても良い。
【0013】
上述の各機能の動作の制御及び計算処理を行うのがシステム制御・処理機能11でありC P U12、ROM13、RAM14、外部メモリ15、システムバス17で構成されている。その他には対象物体4の詳細画像を表示する表示部16からなる。C P U12は光学系2内の光源5の電源のON/OFFや位相シフト機能8の細かな制御や各種設定値の設定、後述する対象物体の画像処理計算を行うプログラムの制御や各種コマンドセット等を行う。ROM13にはシステムのソフトウェアや処理計算プログラムやそれらの初期値等が記録されている。RAM14はC P U12行われる各種ソフトウェアの実行処理を行う、或いは計算処理等で一時的に記録されたデータや設定値を記録するためのメモリ空間である。外部メモリ15はROM13やRAM14に保存しきれないデータや以前のデータ等を保持しておくためのメモリである。あるいはソフトウェアのアップデータ等の保存や新たな設定値の保存等にも利用できる。後述するC P U12で画像処理計算された対象物体4の画像データは表示部16で表示される。これらデータ等はシステムバス17でデータは送受信される。
図1では表示されていないが、前記データはネットワークを介して外部へ送受信しても良い。
【0014】
図2は本実施例の小型光学装置1のソフトウェア構成図であり、C P U12、ROM13、RAM14、及び外部メモリ15、システムバス17からなる。
【0015】
C P U12は、所定のプログラムに従って小型光学装置1全体を制御するマイクロプロセッサユニットである。システムバス17はC P U12と小型光学装置1内の各部との間でデータ送受信を行うためのデータ通信路である。
【0016】
ROM(Read Only Memory)13は、オペレーティングシステムなどの基本動作プログラムやその他のアプリケーションプログラムが格納されたメモリであり、例えばEEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)やフラッシュROMのような書き換え可能なROMが用いられ、ROM12に格納されたプログラムを更新することにより、基本動作プログラムやその他のアプリケーションプログラムのバージョンアップや機能拡張が可能である。
【0017】
RAM(Random Access Memory)14は基本動作プログラムやその他のアプリケーションプログラム実行時のワークエリアとなる。具体的には、例えばROM13に格納された基本動作プログラム13aはRAM14に展開され、更にC P U12が前記展開された基本動作プログラムを実行することにより、基本動作実行部14aを構成する。以下では、説明を簡単にするために、C P U12がROM13に格納された基本動作プログラム13aをRAM14に展開して実行することにより各部の制御を行う処理を、基本動作実行部14aが各部の制御を行うものとして記述する。なお、その他のアプリケーションプログラムに関しても同様の記述を行うものとする。
【0018】
画像処理実行部14bはカメラ3で光強度を電気信号化された電気信号に対して様々なソフトウェアの処理でいわゆる電気信号のレベルとして表される輝度や色彩等の補正や電気信号化された画像をより鮮明にするためのエッジ処理や画質改善処理、ノイズ除去処理等を行う。再構成計算実行部14cについての詳細は後述するが、記録光学機能2で得られた干渉縞画像に対し様々な光伝搬計算を行いそれによって新たな詳細の対象物体の画像やプロファイル等を作成する計算を行う処理である。各種部材の設定値実行部14dはカメラ3、光源5、位相シフト機能8、表示部16の各種設定値制御や初期値設定等を行う。画像表示実行部14eは後述する再構成計算実行部14cで計算されたデータより対象物体4の詳細画像を表示部16に表示させる処理を行う。一時記憶領域14fは上述の各処理中のデータ等を一時的に記憶する領域である。
【0019】
本実施例の物体形状計測装置1の動作は、
図2に示したように、主として外部メモリ15に記憶された画像処理プログラム15bと、再構成計算プログラム15cと、各種部材の設定プログラム15d、画像表示プログラム15eがRAM14に展開され、C P U12により実行される画像処理実行部14bと、再構成計算実行部14cと、各種部材の設定値実行部14d、画像表示実行部14eによって制御されるものとする。各種情報/データ記憶領域15aは各種機能の初期値等を記憶する領域である。前述の画像処理実行部14bと、再構成計算実行部14c、各種部材の設定値実行部14d、画像表示実行部14eはその一部または全部の動作をハードウェアで実現する各ハードウェアブロックで行っても良い。
【0020】
ROM13及びRAM14はC P U12と一体構成であっても良い。また、ROM13は、
図2に示したような独立構成とはせず、外部メモリ15内の一部記憶領域を使用しても良い。また、RAM14は、各種アプリケーションプログラム実行時に、必要に応じてデータを一時的に保持する一時記憶領域を備えるものとする。
【0021】
外部メモリ15はカメラ3で検出された情報を一時的に蓄えても良い。また、小型光学装置1の各動作設定値や小型光学装置1の位置情報や各種情報、小型光学装置1が撮影した画像や情報等の一部または全部のデータ、その他プログラムを格納しても良い。
【0022】
外部メモリ15の一部領域を以ってROM13の機能の全部または一部を代替しても良い。また、外部メモリ15は、小型光学装置1に電源が供給されていない状態であっても記憶している情報を保持する必要がある。したがって、例えばフラッシュROMやSSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disc Drive)等のデバイスが用いられる。
【0023】
次に本発明の基礎的な技術に関して数式と
図3を用いながら説明を行う。
図3は例えばシリコンナイトライド導波路を用いた構造になっている薄型光学系7を示している。ここではより小型化を考慮して光源5を例えばレーザを用いたチップ構成を示しているが、これに限ることは無く、光源5は別の部材として配置し、光源5から発生した光が薄型光学系7に入射しても良い。光源5を出射した光は後述するMMIスプリッタ10で物体光と参照光2つの光に分かれる。ここでは例えば参照光の照光路に取り付けられた位相シフト機能7によって干渉縞の位相差を与え、相対位相差の異なる干渉縞を記録することで、再生像に重畳する0次光と1次光を除去する方法について述べる。本小型光学装置1では、例えば4段階位相シフト法を採用し、参照光の位相を 毎位相シフトさせ、4種の干渉縞画像を取得する。撮像素子で記録した干渉縞画像から物体光の複素振幅分布を導出する式を下記に示す。
【0024】
【0025】
位相シフト機能8として位相変調を与える方式としてピエゾ素子や空間変調器を用いた方法もあるが、ここでは熱光学効果を利用した方法の例を示す。位相シフト機能8として利用される例えば熱源から発する熱でコアの屈折率勾配を変化させ、参照光路の光路長および干渉縞の位相を変化させる。これにより光導波路を用いた利点であるコンパクトな光学系を維持したままノイズ除去ができる。簡単化のために定数項は省略し1次元で記述するが、位相シフト後の複素振幅分布U(x)を用いることでフレネル・キルヒホッフの回折式から物体の複素振幅分布は計算される。
【0026】
【0027】
ここで、 は光波の波長、 は伝搬距離、 はフーリエ変換演算を表す。
【0028】
上記計算式を光伝搬計算で行うことにより、目的の物体光のみを再生することが可能となる。これらの計算式等は
図2の再構成計算実行部14cで行う。
【0029】
本実施例の光導波路6は、例えばシリコンナイトライドのコアと二酸化シリコンのクラッドで構成されおり、比屈折率差が24%程度あるものを例にして述べる。シリコンナイトライドの光導波路6は光をコアに強く閉じ込めるため、曲がり導波路やMMI(Multi-Mode Interference)スプリッタでの損失は小さく導波させることができる。しかし、導波路の端面から出射させた場合、シリコンナイトライドの光導波路6の開口数が1.0であることから、出射端付近から2つの光が重なり、サンプルを配置する位置、つまり物体光のみサンプルに照射できる範囲がなくなる。そこで、出射させる位置にグレーティングカプラ9を配置して、導波路平面上から出射させることで物体光のみ照射される範囲を確保する。グレーティングカプラ9はコアの表面にある一定の周期の凹凸を設けた構造であり、この凹凸構造によって導波光の一部が回折され放射光を生じさせ、自由空間の光ビームと導波光の結合することができる。
【0030】
次に光導波路6内で物体光と参照光に分けるためのMMIスプリッタ10の構造について
図4を用いて説明する。シリコンナイトライドの光導波路6は入射した光を物体光と参照光に分けるためにMMIスプリッタ10を設けている。MMIスプリッタは入出力導波路と多モード干渉領域で構成されており、多モード干渉領域内で各導波モードが干渉させながらある一定の距離を伝搬させると、スポット状に集光できる。例えば、スポットが 2 個形成されるよう領域の長さを設定し、出力導波路を配置すれば、入射光を2等分された光を取得することができる。MMI スプリッタの多モード干渉領域の長さは 0 次モードと 1 次モード間のビート長 を用い、次式で導出することができる。
【0031】
【0032】
【0033】
ここでコアの実効屈折率 、真空中の波長 であり、 は導波路からの光の染み出しや Goos-Hahnchen シフトを考慮した MMI の幅である。
図4で示すような形状のMMIスプリッタ10を導波路シミュレーションソフトFIMMWAVEを用いて計算した。この場合、コア厚0.35 µm、コア幅1µm、マルチモード領域の幅4 µm、マルチモード領域の長さ25 µm、出射間隔2 µm、設計波長632.8 nmのMMIスプリッタを設計し、入射端に基本モードのみ励起したと想定して導波シミュレーションを行った。
【0034】
入射端の基本モードの伝送パワーに対するPort1に出射される基本モードの伝送パワーの割合は43.29%であり十分使用に耐えられる。
【0035】
図3で示す薄型光学系7では光導波路6ではその進行方向を数箇所曲げている。この場合、光の進行方向を曲げることによる損失を考慮する必要がある。そこで、光導波路の曲がりによる影響をシミュレーションし、適切な値を導き出した。それを
図5に示す。比屈折率差24%の高さより小さい損失のまま光の進行方向を曲げられる最小曲げ半径は10 µm程度である。そこで、コア幅1µm、曲げ半径30 µmのS字曲がり導波路をシミュレーション上で作成し、波長500 nm 632.8 nm、800nmを導波させたときの伝送パワーの割合を導出した。その結果が
図5の(b)である。可視域におけるS字曲がり導波路の波長特性をシミュレーションした結果、入射端の基本モードの伝送パワーに対する出射端の基本モードの割合は90%以上であることが分かった。このため曲げ半径を30 µm以上持たせて光導波路6を設計することで光源5、位相シフト機能8、グレーティングカプラ9、MMIスプリッタ10等の部位を設置した薄型光学系7が作成できる。この薄型光学系7を使うことで、導波させた波長の干渉縞から対象物体4の透過スペクトルに応じたイメージングができる。
図3のグレーティングカプラ9ではグレーティングを直線で形成している場合を示しているが、これに限ることは無く、例えば
図3(b)で示すような集光型グレーティングカプラ9aで形成してもよい。この場合グレーティング部分は円弧で形成されるので、この部分で出射された光は出射された後に
図1の対象物体4の任意の部分に集光するようになる。この集光する位置(焦点)は円弧の曲率や光源5で使われる光の波長等で決まるので、対象物体の構造や大きさ等で設計して決めれば良い。この様に出射部分にグレーティングカプラ9を配置し、そのグレーティングカプラ9をフレネルゾーンプレートのような集光型グレーティングカプラ9aにすることで、任意の点におけるイメージングが可能になる。
【0036】
次に本発明の薄型光学系7を使った別の実施例について
図6を使って説明する。
図6(a)は薄型光学系7と同じくカメラ3部分を薄型化し、短冊状に形成したものを示す。薄型光学系7の2つのグレーティングカプラ9から出射される光は参照光と物体光であり、それが対象物体4に入射し、その干渉縞からホログラムが形成されてカメラ3に入射されるため、カメラ3の前方には特にレンズ等の光学系は必要としない。従って、カメラ3部分は例えばCCDセンサーやC-MOSセンサーそのものでもよく、薄型化が可能であり、かつ小型化も可能となる。
図6(b)は
図6(a)の2つの短冊状の薄型光学系7とカメラ3を対向して設置し、その間に対象物体4を配置した図である。ここではシステム制御・処理機能11は省いているが、実際の動作では光源5で照射された光がMMIスプリッタ(図示せず)で2つの光に分離し、一方の物体光は導波路6を通りグレーティングカプラ9から対象物体4に入射する。MMIスプリッタ(図示せず)で分離されたもう一方の光は参照光として位相シフト機能8に入射し、参照光の位相を例えば 毎位相シフトさせ、4種類の参照光として対象物体4に入射させる。これにより干渉縞に位相差が生じ、相対位相差が異なる複数(例えば4種)の干渉縞を記録する。この記録された複数の干渉縞画像は画像処理実行部14bでカメラ3において光強度を電気信号化された電気信号に対して様々なソフトウェアの処理でいわゆる電気信号のレベルとして表される輝度や色彩等の補正や電気信号化された画像をより鮮明にするためのエッジ処理や画質改善処理、ノイズ除去処理等を行う。その後この干渉縞画像は一時記憶領域14fで記録され、複数枚(例えば4種)の画像データが作成される。これら4枚の画像データを再構成計算実行部14cの画像処理により再生像に重なるノイズを除去すると同時に複数の前記位相差の干渉縞画像からホログラムを形成し、その画像処理を施して光波伝搬計算を行って対象物体4の内部の情報を再構成する。これにより大掛かりな光学系が無くても画像処理と光波伝搬計算計算により対象物体内部の鮮明な画像が作成できる。これらの計算はCPU12の指示により再構成計算実行部14cで行い、画像表示実行部14eを使って画像化し、表示部16で表示する。
図6(b)で示す装置は非常に薄型化、小型化が容易で、システム制御・処理機能11もLSI化すれば小型化ができる。あるいは
図6(b)で示す装置のみを小型化し、例えばPCに接続してPC内でシステム制御・処理機能11をソフトウェア化すればよりコンパクト化が可能となる。
図6(b)の装置の具体例としては例えば
図6(c)で示すような指静脈を使った生体認証装置の小型化や低コスト化が可能である。また、上記グレーティングカプラ9を集光型グレーティングカプラ9aで作成すると、より対象物体の特定部分の画像を得ることができるので、小型化と共に高精度な装置が作成できる。前述の装置をインターネットで繋げて遠くから制御、認証をすればよりセキュリティの高いシステム構築ができる。
【符号の説明】
【0037】
1:小型光学装置、2:光学系、3:カメラ、4:対象物体、5:光源(レーザー)、6:光導波路、7:薄型光学系、8:位相シフト機能、9:グレーティングカプラ、9a:集光型グレーティングカプラ、10:MMIスプリッタ、11:システム制御・処理機能、12:C P U、13:R O M、14:R A M、15:外部メモリ、16:表示部、17:システムバス