(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115295
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】シートパッド及び車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/90 20180101AFI20240819BHJP
A47C 7/18 20060101ALI20240819BHJP
A47C 7/40 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
B60N2/90
A47C7/18
A47C7/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020912
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】常盤 祐二
(72)【発明者】
【氏名】武本 一隆
(72)【発明者】
【氏名】大槻 慧
(72)【発明者】
【氏名】福田 修也
(72)【発明者】
【氏名】清水 昇明
【テーマコード(参考)】
3B084
3B087
【Fターム(参考)】
3B084CA01
3B084CB01
3B084EA01
3B084EC03
3B084EC05
3B087DE03
3B087DE10
(57)【要約】
【課題】車両用シートの外観が悪化しないようにする。
【解決手段】シートバックパッド20は、発泡成形されて車両用シートのクッション体を構成し、車両用シートの表皮によって覆われる。このシートバックパッド20は、縫製溝32と、スリット34と、凸部36とを備えている。縫製溝32は、シートバックパッド20の表面より凹んでシートバックパッド20に形成され、表皮の裏面に設けられた縫製代を収容する。スリット34は、縫製溝32と同一線上に並んで形成されてシートバックパッド20の一部を分割し、上記の縫製代を収容すると共に、シートバックパッド20が発泡成形型から脱型される際に拡大される。凸部36は、縫製溝32とスリット34との間でシートバックパッド20に設けられ、縫製溝32よりもシートバックパッド20の上記表面側へ突出している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡成形されて車両用シートのクッション体を構成し、前記車両用シートの表皮によって覆われるシートパッドであって、
前記シートパッドの表面より凹んで前記シートパッドに形成され、前記表皮の裏面に設けられた縫製代を収容する縫製溝と、
前記縫製溝と同一線上に並んで前記シートパッドに形成され、前記シートパッドの一部を分割し、前記縫製代を収容すると共に、前記シートパッドが発泡成形型から脱型される際に拡大されるスリットと、
前記縫製溝と前記スリットとの間で前記シートパッドに設けられ、前記縫製溝よりも前記表面側へ突出した凸部と、
を備えたシートパッド。
【請求項2】
前記シートパッドの表面には、前記縫製溝及び前記スリットと交差する方向に延びる稜線が形成され、当該稜線上に前記凸部が設けられる請求項1に記載のシートパッド。
【請求項3】
前記スリットと前記凸部との間で前記シートパッドには、前記スリットの幅よりも直径が大きい貫通孔が形成され、当該貫通孔に前記スリットが連通している請求項1又は請求項2に記載のシートパッド。
【請求項4】
乗員が着座するシートクッションと、
前記乗員の背部を支持すると共に、請求項1又は請求項2に記載のシートパッドによってクッション体が構成され、当該シートパッドの背部に前記縫製溝、前記スリット及び前記凸部が設けられたシートバックと、
を備えた車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに関し、特に車両用シートのクッション体を構成するシートパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、発泡成形されて自動車用シートバックに設けられ、当該シートバックの表皮によって覆われるクッション体が開示されている。このクッション体の背部には、シートバックのフレームを嵌め込むための凹部が形成されており、当該凹部の開口縁部には、フランジ部が設けられている。このフランジ部を含むクッションの背部には、表皮の裏面に設けられた縫製代を収容する縫製溝が形成されており、この縫製溝の底面に形成されたスリットによって上記のフランジ部が分割されている。これにより、発泡成形型からのクッション体の脱型時にフランジ部の一部を変形させ、脱型をスムーズにするようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の先行技術では、表皮における縫製代の部分の剛性が高いため、表皮の下端部をフレームに固定した際に、縫製代の部分が縫製溝の内側へ凹んでしまい、シートバックの外観が悪化するという課題がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、車両用シートの外観が悪化しないようにすることができるシートパッド及びこれを備えた車両用シートを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様のシートパッドは、発泡成形されて車両用シートのクッション体を構成し、前記車両用シートの表皮によって覆われるシートパッドであって、前記シートパッドの表面より凹んで前記シートパッドに形成され、前記表皮の裏面に設けられた縫製代を収容する縫製溝と、前記縫製溝と同一線上に並んで前記シートパッドに形成され、前記シートパッドの一部を分割し、前記縫製代を収容すると共に、前記シートパッドが発泡成形型から脱型される際に拡大されるスリットと、前記縫製溝と前記スリットとの間で前記シートパッドに設けられ、前記縫製溝よりも前記表面側へ突出した凸部と、を備えている。
【0007】
第1の態様によれば、発泡成形されて車両用シートのクッション体を構成し、車両用シートの表皮によって覆われるシートパッドは、縫製溝と、スリットと、凸部とを備えている。縫製溝は、シートパッドの表面より凹んでシートパッドに形成され、表皮の裏面に設けられた縫製代を収容する。スリットは、縫製溝と同一線上に並んでシートパッドに形成され、シートパッドの一部を分割し、上記の縫製代を収容すると共に、シートパッドが発泡成形型から脱型される際に拡大される。凸部は、縫製溝とスリットとの間でシートパッドに設けられ、縫製溝よりもシートパッドの表面側へ突出している。この凸部によって表皮の縫製代が支持されることにより、縫製代の部分が縫製溝及びスリットの内側へ凹むことを防止又は抑制できる。これにより、車両用シートの外観が悪化しないようにすることができる。
【0008】
第2の態様のシートパッドは、第1の態様において、前記シートパッドの表面には、前記縫製溝及び前記スリットと交差する方向に延びる稜線が形成され、当該稜線上に前記凸部が設けられる。
【0009】
第2の態様によれば、シートパッドの表面に形成された稜線上に凸部が設けられるので、表皮において最もテンションが高くなる稜線上で縫製代が凸部に支持される。これにより、シートパッドの稜線付近の造形に表皮を良好に沿わせることができる。
【0010】
第3の態様のシートパッドは、第1の態様又は第2の態様において、前記スリットと前記凸部との間で前記シートパッドには、前記スリットの幅よりも直径が大きい貫通孔が形成され、当該貫通孔に前記スリットが連通している。
【0011】
第3の態様によれば、上記のように構成されているので、シートパッドが発泡成形型から脱型され、スリットが拡大される際に、スリットにおける凸部側の端部に集中する応力を緩和できる。これにより、上記の応力集中によってシートパッドが破れてしまうことを防止可能となる。
【0012】
第4の態様の車両用シートは、乗員が着座するシートクッションと、前記乗員の背部を支持すると共に、第1の態様~第3の態様の何れか1つの態様のシートパッドによってクッション体が構成され、当該シートパッドの背部に前記縫製溝、前記スリット及び前記凸部が設けられたシートバックと、を備えている。
【0013】
第4の態様によれば、シートクッションに着座する乗員の背部がシートバックによって支持される。このシートバックのクッション体を構成するシートパッドの背部には、縫製溝、スリット及び凸部が設けられている。このシートパッドは、第1の態様~第3の態様の何れか1つの態様のものであるため、前述した効果が得られる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、車両用シートの外観が悪化しないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る車両用シートを示す側面図である。
【
図2】実施形態に係る車両用シートのシートバックパッドとシートバックフレームを示す斜視図である。
【
図4】
図3のF4-F4線に対応した断面図である。
【
図5】
図3のF5-F5線に対応した断面図である。
【
図6】実施形態の変形例を示す
図3に対応した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、
図1~
図5を参照して本発明の実施形態に係る車両用シート10について説明する。なお、各図中においては、図面を見易くする関係から一部の符号を省略している場合がある。また、各図中に適宜示される矢印FR、LH及びUPは、車両用シート10の前方、左方及び上方をそれぞれ示している。以下、単に前後左右上下の方向を用いて説明する場合、車両用シート10に対する方向を示すものとする。
【0017】
図1に示されるように、本実施形態に係る車両用シート10は、車両の乗員が着座するシートクッション12と、乗員の背部を支持するシートバック14と、乗員の頭部を支持するヘッドレスト16とを備えている。
【0018】
図1及び
図2に示されるように、シートバック14は、その骨格を構成するシートバックフレーム18と、シートバックフレーム18に被せられたクッション体であるシートバックパッド20と、シートバックフレーム18に取り付けられてシートバックパッド20を後方側から弾性的に支持したシートバックばね22と、シートバックパッド20を覆ったシートバック表皮24とを備えている。シートバックパッド20は、本発明における「シートパッド」に相当し、シートバック表皮24は、本発明における「表皮」に相当する。
【0019】
シートバックフレーム18は、例えば金属によって構成されており、シートクッション12の骨格を構成する図示しないシートクッションフレームに連結されている。シートバックばね22は、例えば金属のばね材によって構成されている。シートバックパッド20は、発泡成形されたものであり、ウレタンフォーム等の発泡体によって構成されている。シートバック表皮24は、例えば布材、表皮、合成皮革からなる複数枚の表皮片が縫製されて袋状に構成されている。このシートバック表皮24は、シートバックパッド20に対して上方側から被せられ、下端部がシートバックフレーム18に固定される構成になっている。
【0020】
図2に示されるように、シートバックパッド20の背部には、シートバックフレーム18が嵌め込まれた凹部26が形成されている。凹部26は、前後方向から見て上下方向を長手とする略長尺矩形状をなしており、後方側及び下方側が開放されている。この凹部26の上縁部には、下方側へ張り出した上部フランジ28が形成されており、凹部26の左右の縁部には、左右方向中央側へ張り出した側部フランジ30が形成されている。この凹部26は、シートバック表皮24によって閉塞される構成になっている。
【0021】
凹部26よりも上方側でシートバックパッド20の背部には、左右一対の縫製溝32と、左右一対のスリット34と、左右一対の凸部36とが形成されている。左右の縫製溝32は、シートバック表皮24の裏面に設けられた左右一対の縫製代24A(
図4及び
図5参照;左側の縫製代24Aは図示省略)を収容するための凹溝であり、シートバックパッド20の背部の表面に対して凹んでいる。左右の縫製溝32は、シートバックパッド20の上部の左右両側に離間して配置されており、上下方向に延在している。
【0022】
左右のスリット34はそれぞれ、左右の縫製溝32の下方に配置されている。左右のスリット34は、左右の縫製溝32と同一線上に並んで上部フランジ28に形成されており、上部フランジ28を左右方向中央部28Sと左側部28Lと右側部28Rとに分割している。左右のスリット34は、前述した縫製代24Aを収容している。これらのスリット34は、シートバックパッド20が図示しない発泡成形型から脱型される際に拡大される。この発泡成形型は、ポリウレタン原料を発泡膨張させるための従来周知の成形型であり、上型、下側及び中型によってキャビティを形成する。この中型からシートバックパッド20の成形品を脱型する際には、上部フランジ28が障害となるため、左右のスリット34によって上部フランジ28を分割することで、左右方向中央部28S、左側部28L及び右側部28Rをそれぞれ変形し易くしている。
【0023】
左右の凸部36はそれぞれ、左右の縫製溝32と左右のスリット34との間でシートバックパッド20に設けられている。左右の凸部36は、左右の縫製溝32よりもシートバックパッド20の背部の表面側へ突出している。左右の凸部36の先端面(後面)は、一例としてシートバックパッド20の背部の表面と同一面上に配置されている。左右の縫製代24Aは、左右の縫製溝32と左右のスリット34との間の部位が、左右の凸部36と接触しており、左右の凸部36によって前方側から支持されている。
【0024】
左右のスリット34と左右の凸部36との間で上部フランジ28にはそれぞれ、左右のスリット34の幅よりも直径が大きい貫通孔38が形成されている。左右の貫通孔38は、所謂ストッピングホールであり、前後方向から見て円形状をなしている。左右のスリット34は、左右の貫通孔38にそれぞれ連通している。
【0025】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
本実施形態によれば、発泡成形されて車両用シート10のシートバック14のクッション体を構成し、シートバック表皮24によって覆われるシートバックパッド20は、左右の縫製溝32と、左右のスリット34と、左右の凸部36とを備えている。
【0026】
左右の縫製溝32は、シートバックパッド20の表面より凹んでシートバックパッド20に形成され、表皮の裏面に設けられた左右の縫製代24Aを収容する。左右のスリット34は、左右の縫製溝32と同一線上に並んでシートバックパッド20に形成されており、シートバックパッド20の上部フランジ28を分割すると共に、左右のスリット34には、上記左右の縫製代24Aを収容している。これらのスリット34は、シートバックパッド20が発泡成形型から脱型される際に拡大される。
【0027】
左右の凸部36は、左右の縫製溝32と左右のスリット34との間でシートバックパッド20に設けられており、左右の縫製溝32よりもシートバックパッド20の表面側へ突出している。これらの凸部36によって左右の縫製代24Aが支持されることにより、シートバックパッド20における左右の縫製代24Aの部分が左右の縫製溝32及び左右のスリット34の内側へ凹むことを防止又は抑制できる。これにより、シートバック14の外観が悪化しないようにすることができる。
【0028】
また、本実施形態では、左右のスリット34と左右の凸部36との間でシートバックパッド20の上部フランジ28には、左右のスリット34の幅よりも直径が大きい左右の貫通孔38が形成されている。左右の貫通孔38には、左右のスリット34が連通している。このため、シートバックパッド20が発泡成形型から脱型され、左右のスリット34が拡大される際に、左右のスリット34における左右の凸部36側の端部に集中する応力を緩和できる。これにより、上記の応力集中によってシートバックパッド20が破れてしまうことを防止可能となる。
【0029】
なお、
図6に示される変形例のように、シートバックパッド20の背部の表面上に形成された稜線40上に凸部36を設ける構成にしてもよい。この稜線40においては、シートバックパッド20の背部の表面が屈曲している。この稜線40上に凸部36が配置されることにより、シートバック表皮24において最もテンションが高くなる稜線40上で縫製代24Aが凸部36に支持される。これにより、シートバックパッド20の稜線40付近の造形にシートバック表皮24を良好に沿わせることができるので、シートバック14の外観向上に寄与する。
【0030】
また、上記実施形態では、凸部36の先端面がシートバックパッド20の背部の表面と同一面上に配置された構成にしたが、これに限らず、凸部36の先端面がシートバックパッド20の背部の表面よりも若干凹んでいてもよい。
【0031】
また、上記実施形態では、シートバックパッド20に対して本発明が適用された場合について説明したが、これに限らず、シートクッション12のクッション体であるシートクッションパッドに対して本発明が適用される構成にしてもよい。
【0032】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0033】
10 車両用シート
12 シートクッション
14 シートバック
20 シートバックパッド(シートパッド)
24 シートバック表皮(表皮)
24A 縫製代(縫製代)
32 縫製溝
34 スリット
36 凸部
38 貫通孔
40 稜線