(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115299
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】環境対応型アルキド樹脂塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 167/08 20060101AFI20240819BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C09D167/08
C09D163/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020917
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206335
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】岡田 朋也
(72)【発明者】
【氏名】梶谷 一喜
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DB002
4J038DD231
4J038JA46
4J038JA47
4J038JB22
4J038KA04
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA09
4J038MA06
4J038MA09
4J038NA25
4J038NA27
4J038PA06
4J038PA18
4J038PB02
4J038PB05
4J038PB07
4J038PB09
4J038PC01
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】表面乾燥性、付着性に優れた環境に対応したアルキド樹脂を用いた塗装作業性、表面乾燥性、塗膜外観に優れ、環境の安全性に対応し、かつ、粘度調整、相溶性に優れた環境対応型塗料組成物が求められている。
【解決手段】本発明の環境対応型塗料組成物は、アルキド樹脂(A)、有機溶剤(B)およびドライヤー(C)を含む塗料組成物であって、前記アルキド樹脂(A)が、フェノール変性アルキド樹脂からなる第1アルキド樹脂(A1)を含み、かつ、前記アルキド樹脂(A)に占める前記第1アルキド樹脂(A1)の含有量が、5.0~20.0質量%であり、前記有機溶剤(B)は、芳香族化合物の含有量が1000ppm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキド樹脂(A)、有機溶剤(B)およびドライヤー(C)を含む塗料組成物であって、
前記アルキド樹脂(A)が、フェノール変性アルキド樹脂からなる第1アルキド樹脂(A1)を含み、かつ、
前記アルキド樹脂(A)に占める前記第1アルキド樹脂(A1)の含有量が、5.0~20.0質量%であり、
前記有機溶剤(B)は、芳香族化合物の含有量が1,000ppm以下である、環境対応型塗料組成物。
【請求項2】
前記アルキド樹脂(A)が、前記第1アルキド樹脂(A1)以外の第2アルキド樹脂(A2)を含み、
前記第2アルキド樹脂(A2)の重量平均分子量が、60,000~240,000である、請求項1に記載の環境対応型塗料組成物。
【請求項3】
前記アルキド樹脂(A)が、前記第2アルキド樹脂(A2)を含み、
前記第2アルキド樹脂(A2)の重量平均分子量が100,000~200,000であることを特徴とする、請求項1に記載の環境対応型塗料組成物。
【請求項4】
前記有機溶剤(B)が、パラフィン系炭化水素溶剤(B1)を含む、請求項1又は2に記載の環境対応型塗料組成物。
【請求項5】
前記ドライヤー(C)が、脂肪酸金属塩を含む、請求項1又は2に記載の環境対応型塗料組成物。
【請求項6】
前記塗料組成物が、エポキシ基を有する樹脂(D)をさらに含む、請求項1又は2に記載の環境対応型塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境対応型アルキド樹脂塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋼製建具の保護と美観の付与だけではなく、自然環境への汚染防止、省資源化、人的健康の保護といった社会的要請に対応した高い機能を有する塗料が求められている。一般に、塗料組成物に求められる性能としては、貯蔵安定性に優れ、また、作業効率の観点から表面乾燥性に優れていること、さらに、塗装作業性(例えば短時間で十分な膜厚を形成しやすい特性)に優れていること、などが挙げられる。
【0003】
また、鋼製建具に塗料を塗布する作業者や鋼製建具を使用する利用者は、有機溶剤の化学物質から健康障害を受けるおそれがあることから、「化学物質排出把握管理促進法」におけるPRTR制度により届け出る義務がある対象化学物質、および、「特定化学物質障害予防規則」(特化則)に規制する特定化学物質に対処していることが求められている。
【0004】
例えば、特許文献1は、優れた防錆性を発現させることを目的として複数の変性エポキシ樹脂とエポキシエステル樹脂、顔料を含む一液型組成物が開示されている、これにより、高濃度でも塗装しやすく、高い防錆性を発現することができることが記載されている。また、特許文献2は、防食性や仕上がり外観を良くすることを目的として分子量が異なる2種類のフェノール変性アルキド樹脂とシランカップリング剤、平均粒子径が規定された硫酸バリウムを含有する塗料組成物が開示されている。これにより、2つの平均分子量の異なる樹脂によりウェットオンウェット適正と塗料高固形分化、シランカップリング剤による密着性向上からの防食性塗膜形成、小平均粒子の硫酸バリウムによる平滑性向上による仕上がり外観に優れた塗膜を得ることができることが記載されている。また、特許文献3は、皮張りを防ぐ目的として溶媒と樹脂、乾燥剤の入った組成物に皮張り防止剤としてアルキルオキシム系材料が入った塗料組成物が開示されている。これにより、樹脂の架橋をアルキルオキシム材料により制御することで皮張りを防止することができることが記載されている。
【0005】
しかしながら、実質的に特化則やPRTR等の対象物質ではない有機溶剤は、アルキド樹脂との相溶性が低く、塗膜後の表面乾燥性に劣るために塗装作業性に優れず、かつ、塗装後の外観、付着性に劣るという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-152877号公報
【特許文献2】特開2020-037622号公報
【特許文献3】特表2018-515644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の課題は、実質的に特化則やPRTR制度等の対象物質ではない有機溶剤を用いたアルキド樹脂塗料であって、相溶性に優れて、塗装作業性がよく、塗装後の表面乾燥性、塗膜外観、付着性に優れた環境対応型アルキド樹脂塗料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の特徴は、以下に列挙される。
(1)アルキド樹脂(A)、有機溶剤(B)およびドライヤー(C)を含む塗料組成物であって、前記アルキド樹脂(A)が、フェノール変性アルキド樹脂からなる第1アルキド樹脂(A1)を含み、かつ、前記アルキド樹脂(A)に占める前記第1アルキド樹脂(A1)の含有量が、5.0~20.0質量%であり、前記有機溶剤(B)は、芳香族化合物の含有量が1,000ppm以下である、環境対応型塗料組成物。
(2)前記アルキド樹脂(A)が、前記第1アルキド樹脂(A1)以外の第2アルキド樹脂(A2)を含み、前記第2アルキド樹脂(A2)の重量平均分子量が、60,000~240,000である、(1)に記載の環境対応型塗料組成物。
(3)前記アルキド樹脂(A)が、前記第2アルキド樹脂(A2)を含み、前記第2アルキド樹脂(A2)の重量平均分子量が100,000~200,000である、(1)に記載の環境対応型塗料組成物。
(4)前記有機溶剤(B)が、パラフィン系炭化水素溶剤(B1)を含む、(1)又は(2)に記載の環境対応型塗料組成物。
(5)前記ドライヤー(C)が、脂肪酸金属塩を含む、(1)又は(2)に記載の環境対応型塗料組成物。
(6)前記塗料組成物が、エポキシ基を有する樹脂(D)をさらに含む、(1)又は(2)に記載の環境対応型塗料組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、実質的に特化則やPRTR制度等の対象物質ではない有機溶剤を用いたアルキド樹脂塗料であって、相溶性に優れて、塗装作業性がよく、塗装後の表面乾燥性、塗膜外観、付着性に優れた環境対応型アルキド樹脂塗料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の環境対応型アルキド樹脂塗料を詳細に説明する。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態を説明するもので、本発明の範囲を限定するものではない。
【0011】
本発明の環境対応型アルキド樹脂塗料は、有機溶剤(B)およびドライヤー(C)を含む塗料組成物であって、アルキド樹脂(A)が、フェノール変性アルキド樹脂からなる第1アルキド樹脂(A1)を含み、かつ、アルキド樹脂(A)に占める第1アルキド樹脂(A1)の含有量が、5.0~20.0質量%であり、有機溶剤(B)は、芳香族化合物の含有量が1000ppm以下である。
【0012】
<アルキド樹脂(A)>
アルキド樹脂(A)は、多塩基酸成分、多価アルコール成分、および不飽和脂肪酸成分を縮重合することにより得られる熱可塑性ポリエステル樹脂の一種である。優れた耐候性を備えた保護コーティングの作成に使用され、その汎用性と低コストのために、多くの合成塗料の重要な成分です。本発明の環境対応型塗料組成物において、アルキド樹脂(A)は、溶解性が高く、低粘度であるため作業性を良好とし、また、フロー性にも良好であるため得られる塗膜の光沢に寄与する。本発明においては、一般的な塗料組成物に適用できるアルキド樹脂(A)であれば、特に限定されるものではない。
【0013】
アルキド樹脂(A)の原料となる多塩基酸成分としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、テトラヒドロフタル酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、イタコン酸、アゼライン酸、ピロメリット酸およびそれらの酸無水物等を挙げることができる。
【0014】
また、多価アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、デカンジオール、ジエチレングリコール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0015】
不飽和脂肪酸成分としては、例えば、アマニ油、サフラワー油、大豆油、ごま油、ケシ油、エノ油、トウモロコシ油、トール油、ヒマワリ油、綿実油、キリ油、脱水ヒマシ油、米ぬか油等の乾性油および半乾性油の脂肪酸、ならびにハイジエン脂肪酸で代表される合成不飽和脂肪酸を例示することができる。
【0016】
本発明に適用できるアルキド樹脂(A)は、縮重合させる原料として、他の成分を含むものであってもよい。他の成分としては、例えば、安息香酸やp-ヒドロキシ安息香酸等の一塩基酸が挙げられる。アルキド樹脂(A)の製造は、公知の方法で行うことが可能である。例えば、上記の各原料成分を、不活性ガス雰囲気中、約200~240℃で酸価10以下になるまで脱水縮合する方法が挙げられる。
【0017】
<第1アルキド樹脂(A1)>
本発明の環境対応型塗料組成物に含まれるフェノール変性アルキド樹脂からなる第1アルキド樹脂(A1)は、アルキド樹脂(A)をフェノール樹脂によって変性して得られる樹脂である。本発明においては、一般的に適用できるフェノール変性アルキド樹脂であれば、特に限定されるものではない。
【0018】
本発明の環境対応型塗料組成物において、第1アルキド樹脂(A1)であるフェノール変性アルキド樹脂は、ベンゼン環を有することに起因して、得られる塗膜の耐溶剤性を高めることが可能となる。さらに、弱溶剤への溶解度が低く、ガラス転移点(Tg)が高いことで、形成される塗膜に乾燥性を与える。特に、第1アルキド樹脂(A1)はアルキド樹脂(A)のうち、5.0~20.0質量%配合することにより、表面乾燥性が良好になる。但し、第1アルキド樹脂(A1)の含有量が20.0質量%よりも多い場合、塗膜がやせたように見えて、表面乾燥が顕著になるため、中うみ状態になりやすく、外観不良になる。
【0019】
アルキド樹脂(A)を変性するためのフェノール樹脂としては、公知のフェノール樹脂を適宜選択して使用することができる。例えば、フェノール類とホルムアルデヒド類とを反応させて得られる樹脂を使用することができる。アルキド樹脂(A)にフェノール樹脂を反応させる方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を適用することができる。例えば、アルキド樹脂(A)とフェノール樹脂とを混合し、温度120~180℃で1~10時間程度加熱反応させる方法が挙げられる。
本発明の塗料組成物に含まれる第1アルキド樹脂(A1)であるフェノール変性アルキド樹脂は、市販品を適用することも可能であり、例えば、アルキディア1341(DIC社製)、アラキード7107(荒川化学社製)、HIRENOL PL-1000S(Kolon Industries,Inc社製)が挙げられる。
【0020】
変性するフェノール類としては、例えば、フェノール、メチルフェノール、p-エチルフェノール、p-n-プロピルフェノール、p-イソプロピルフェノール、p-n-ブチルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-tert-アミルフェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、p-シクロヘキシルフェノール、p-オクチルフェノール、p-ノニルフェノール、3,5-キシレノール、レゾルシノール、カテコール等の1分子中にベンゼン環を1個有するフェノール類;フェニルo-クレゾール、p-フェニルフェノール等の1分子中にベンゼン環を2個有するフェノール類;ビスフェノールA、ビスフェノールF等を挙げることができ、これらは単独で、或いは2種以上を組合せて使用することができる。また、ホルムアルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン等を挙げることができる。
【0021】
本発明の環境対応型塗料組成物は、アルキド樹脂(A)に占める第1アルキド樹脂(A1)の含有量が、5.0~20.0質量%である。フェノール変性アルキド樹脂からなる第1アルキド樹脂(A1)の重量平均分子量は、40,000~200,000であり、好ましくは45,000~150,000、さらに好ましくは50,000~90,000である。第1アルキド樹脂(A1)(フェノール変性アルキド樹脂)の固形分総量を基準とするフェノール樹脂の質量が5.0~20.0質量%、好ましくは1.0~10.0質量%の範囲内にあることが仕上り外観の観点から適している。
【0022】
<第2アルキド樹脂(A2)>
さらに、本発明の環境対応型塗料組成物は、前記第1アルキド樹脂(A1)以外の第2アルキド樹脂(A2)を含んでいる。第2アルキド樹脂(A2)は、上述したアルキド樹脂(A)から、適宜選択することができる。
本発明に適用できるアルキド樹脂(A)は、特に限定されるものではないが、適切な表面乾燥性の観点から、フェノール変性アルキド樹脂からなる第1アルキド樹脂(A1)以外の第2アルキド樹脂(A2)の重量平均分子量を60,000~240,000とすることが好ましく、より好ましくは、100,000~200,000で、さらに好ましくは150,000~180,000とする。
【0023】
その中でも、第2アルキド樹脂(A2)は、変性されていてもよく、アクリル変性、フェノール変性、ウレタン変性、エポキシ変性、他にも多種の油を用いた油変性等があげられる。特に、重合性ビニル単量体の反応により変性されたアルキド樹脂であることが好ましく、アクリル変性アルキド樹脂であることがより好ましい。かかる変性アルキド樹脂は、分散安定性の向上の観点から好ましい。アクリル変性アルキド樹脂とは、重合性ビニル単量体としてアクリル成分(アクリル酸、メタクリル酸並びにそのエステル、アミド及びニトリル等)を用いた変性アルキド樹脂であり、アクリル成分が主成分であることが好ましい。第2アルキド樹脂(A2)は、重量平均分子量が低すぎると強靭な膜ができない、重量平均分子量が高すぎると塗料作成時に溶解がしにくくなり塗料として安定性等が悪くなる。したがって、重量平均分子量は、60,000~240,000であることが好ましく、より好ましくは100,000~200,000、さらに好ましくは150,000~180,000である。
【0024】
本発明の環境対応型塗料組成物における樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定した保持時間(保持容量)を、同一条件で測定した分子量既知の標準ポリスチレンの保持時間(保持容量)によりポリスチレンの分子量に換算して求める。ゲルパーミエーションクロマトグラフ装置として、TSKgelカラム(東ソー(株)社製)を用い、示差屈折率(RI)検出器を装備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー、商品名「HLC-8420GPC」、東ソー株式会社製)により求めた。SECの条件として、展開溶媒にテトラヒドロフランを用い、流速0.35ml/分、温度40℃にて測定を行った。なお、TSK標準ポリスチレン(東ソー株式会社製)を標準物質として用いた。
【0025】
<エポキシ基を有する樹脂(D)>
本発明の環境対応型塗料組成物において、その他の樹脂としてエポキシ基を有する樹脂(D)が好ましい。エポキシ基を有する樹脂(D)は、電着処理基材への付着性を付与するために適している。本発明に使用されるエポキシ基を有する樹脂(D)としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルアミン型樹脂、複素環式エポキシ樹脂、多官能型エポキシ樹脂などがあげられる。これらは単独でまたは併用して使用することができる。具体的には、ビスフェノールAとエピハロヒドリン、エピクロロヒドリンとから合成される固形エポキシ樹脂、ビスフェノールAと2価フェノール類およびエピハロヒドリンから誘導されるエポキシ基を有する樹脂(D)と、ビスフェノールAとの伸長反応により得られる固形エポキシ樹脂などが好ましい。
【0026】
エポキシ基を有する樹脂(D)は、エポキシ当量の異なる複数のエポキシ基を有する樹脂(D)を混合して使用することができる。エポキシ当量も特に限定されるものではないが、好ましくは400~3,000のものである。また、エポキシ当量が1,000以下のものと、1,000以上のものを組み合わせることが好ましく、最小のエポキシ当量を有するエポキシ樹脂と最大のエポキシ当量を有するエポキシ樹脂のエポキシ当量の差は、300以上、好ましくは500以上である。エポキシ基を有する樹脂(D)は、塗膜特性や塗装作業性の点から重量平均分子量が100~600が好ましく、より好ましくは250~500である。
【0027】
このようなエポキシ基を有する樹脂(D)としては、三菱化学(株)製JER828、JER1004、JER1004F、JER1007、JER4005P、DIC(株)製EPICLON3050、EPICLON4050、新日鉄住金化学(株)製エポトートYD014D、南亜プラスチック(株)製EPONANYANPES-904などが挙げられる。
【0028】
<その他の樹脂>
また、本発明の環境対応型塗料組成物は、樹脂成分としては、第1アルキド樹脂(A1)と第2アルキド樹脂以外の他の樹脂とを混合して用いることができる。混合する樹脂としては、通常使用されている樹脂が用いられるが、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ふっ素樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、キシレン樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂、アミン樹脂、ケチミン樹脂等が挙げられる。これら樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
<有機溶剤(B)>
本発明の環境対応型塗料組成物は、有機溶剤(B)としては、特に限定されないが、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸メトキシプロピル等のエステル系溶剤、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール等のアルコール系溶剤、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、分子式CnH2n+2で表せる飽和鎖状化合物で直鎖、および分岐構造を有するオクタン、ノナン、デカン、ドデカン、テトラデカン等のパラフィン系炭化水素溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等のナフテン系炭化水素溶剤等が挙げられる。その中でも、エステル系溶剤、パラフィン系炭化水素溶剤が好ましい。エステル系溶剤としては酢酸ブチル、酢酸エチルが好ましい。パラフィン系炭化水素溶剤としては、分枝のないノルマルパラフィン系と枝分かれしたイソパラフィン系があるが、C10以上のイソパラフィン系が特に好ましい。これら溶媒については、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。イソパラフィン系炭化水素溶剤を15.0質量%含むことにより、さらに、塗装に適した粘度調整が容易になる。なお、イソパラフィン系炭化水素溶剤を使用しないで、酢酸ブチルのみを用いる場合は、アルキド樹脂(A)との溶解性が高くなりすぎて、溶剤希釈した場合に粘度が急激に低下しやすい。一方で、イソパラフィン系炭化水素溶剤を、C20未満の低炭素数からなる炭化水素溶剤に置き換えた場合は、アルキド樹脂(A)との相溶性が悪くなりダマになりやすいという問題が発生する。
【0030】
本発明の環境対応型塗料組成物における有機溶剤(B)は、実質的に特化則やPRTR制度の対象物質ではない有機溶剤である。特に、PRTR制度の年間取扱量や排出量等を把握する際に対象となる製品(取扱原材料、資材等)の要件は、対象化学物質(第一種指定化学物質)を1質量%以上、ただし、ベンゼン、トルエン、キシレン等の特定第一種は、0.1質量%(1,000ppm)以上)含有する製品が対象となる。
したがって、本発明の環境対応型塗料組成物における有機溶剤(B)は、芳香族化合物の含有量が1,000ppm以下であり、好ましくは500ppm以下である。本発明の環境対応型塗料組成物における有機溶剤(B)は、実質的に、芳香族化合物を含む有機溶剤を用いないことにより、特化則対応し、利用者に対する有機溶剤の化学物質から健康障害を防止することで環境に対応している。
【0031】
通常は、樹脂等の有機化合物の溶解性の高い芳香族化合物を含有する有機溶剤(B)が、塗料組成物に用いられている。芳香族化合物を含有する有機溶剤(B)は、ベンゼン環があることで水に溶けにくいが、樹脂等の有機化合物の溶解性が高く、沸点が低いことで揮発性が高いために塗装の作業効率を高くすることができる。しかし、人体に有害で発がん性があるために、作業者に職業がん、皮膚炎、神経障害などを発症させる危険性がある。したがって、本発明の環境対応型塗料組成物における有機溶剤(B)は、実質的に特化則やPRTR制度等の対象物質となる芳香族化合物を含む有機溶剤を実質的に含有せず、アルコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、パラフィン系溶剤を含有することで、アルキド樹脂(A)との溶解性を高め塗料性能の相溶性を有し、塗装作業性、塗膜の表面乾燥性、外観、付着性を向上させることができる。
【0032】
なお、芳香族系溶剤としては、芳香族化合物を含有する溶剤であり分子内に共鳴状態にあるベンゼン環を有する化合物で、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ナフタレン、スチレンモノマー、C9芳香族炭化水素混合物~C11芳香族炭化水素混合物などが挙げられる。
【0033】
本発明における有機溶剤(B)の含有量は、塗料組成物に対して50質量%以下である。有機溶剤(B)の含有量が、50質量%を超えると相溶性が向上する。しかし、塗装作業で乾燥するまでの作業時間が長くなり、塗装作業性が低下する。さらに、塗布作業者が溶剤を吸収する可能性が高くなり、健康被害の可能性が高くなる。本発明の芳香族化合物を含有しない有機溶剤(B)の含有量の下限は、塗料組成物に対して塗布作業が不可能な粘度になる含有量である。
【0034】
<ドライヤー(C)>
本発明の環境対応型塗料組成物は、ドライヤー(C)を含有する。ドライヤー(C)は、下塗の塗料組成物の硬化を促進して、塗装した塗膜表面を乾燥させるための硬化触媒として作用する。ドライヤー(C)は、金属と脂肪酸との金属塩化合物を用いる。金属として、コバルト、マンガン、ジルコニウム、リチウム、バリウム、亜鉛、銅、鉄、カルシウム、マグネシウム、セリウム、アルミニウム、ストロンチウム等を挙げることができる。脂肪酸として、オクチル酸、ナフテン酸、ネオデカン酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグリノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、トウハク酸、リンデル酸、ツズ酸、マッコウ酸、ミリストオレイン酸、ゾーマリン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、鯨油酸、エルシン酸、サメ油酸、リノール酸、ヒラゴ酸、エレオステアリン酸、ブニカ酸、トリコサン酸、リノレン酸、モロクチ酸、パリナリン酸、アラキドン酸、イワシ酸、ヒラガシラ酸、ニシン酸、大豆油脂肪酸、ステアリン酸、トール油脂肪酸等を挙げることができる。
【0035】
ドライヤー(C)は、具体的にオクチル酸コバルト、ナフテン酸ジルコニウム、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸バリウム、オクチル酸ジルコニウム、オクチル酸バリウム、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸銅、ナフテン酸鉄、ナフテン酸カルシウム、ナフテン酸マグネシウム、オクチル酸亜鉛、オクチル酸銅、オクチル酸鉄、オクチル酸カルシウム、オクチル酸マグネシウム、オクチル酸セリウム、オクチル酸アルミニウム、ネオデカン酸カルシウム等を挙げることができる。これらは単独で或いは2種以上を併用して用いることができる。特に、オクチル酸コバルト、オクチル酸ジルコニウムが好ましい。
【0036】
ドライヤー(C)の添加量は、アルキド樹脂(A)100質量%に対して、0.01~2.5質量%の範囲とすることができる。ドライヤー(C)は、塗膜表面の硬化に寄与し、また、塗膜内部の硬化に特に寄与する。これにより、本発明の環境対応型塗料組成物は、基材との密着性がよく、表面乾燥性に優れ、かつ、耐候性に優れる塗膜が得られる。
【0037】
<顔料(E)>
本発明の環境対応型塗料組成物は、顔料(E)を含有することが好ましい。顔料(E)を含有することで、相溶性に優れ、表面乾燥性に優れる塗膜を形成することができる。少なくとも体質顔料(E1)を含有することが必要であり、さらに必要に応じて、着色顔料(E2)、防錆顔料(E3)、光輝顔料(E4)を含むことができる。
【0038】
<<体質顔料(E1)>>
体質顔料(E1)は、白色ないし無色の顔料である。屈折率が低いため、展色剤に混和しても隠蔽性にほとんど影響を与えないことから、増量剤として着色力や光沢、強度、使用感などの調整に使われる。体質顔料(E1)は、公知の材料が使用でき、例えば、沈降性硫酸バリウム、シリカ、クリストバライト、炭酸カルシウム、アルミナ、ミョウバン、白土、水酸化マグネシウム、および酸化マグネシウムなどが挙げられる。また、体質顔料(E1)は、箔のような薄く平らな形状をした顔料(鱗片状顔料)であってもよく、その具体例としては、ガラスフレーク、タルク、マイカ、カオリンクレーなどが挙げられる。
【0039】
本発明の環境対応型塗料組成物は、体質顔料として、特に、沈降性硫酸バリウムを含むことが好ましい。バリウムイオンと硫酸イオンからなるイオン結晶性の化合物である。酸に全く溶解せず、人体に吸収されないので、毒性を有しないことから、環境対応型塗料組成物に適している。
本発明の環境対応型塗料組成物に含まれる顔料(E)は、平均粒径が10μm以下の体質顔料(E1)を含んでいる。ここで、顔料の平均粒径は、走査型電子顕微鏡等を用いて粒子を観察し、粒子の最大長(粒子の周上の任意の2点間のうち最大の長さ)を測定し、その個数平均値を平均粒径とする。尚、粒子が凝集体として撮影される場合には、凝集体を形成する一次粒子の粒子径を測定する。
【0040】
また、本発明の環境対応型塗料組成物に含まれる顔料(E)は、吸油量が15ml/100g以上25ml/100g以下の体質顔料(E1)を含んでいる。
ここで、吸油量は、JIS規格(JIS K 5101-13-1)による亜麻仁油を用いた精製あまに油法で測定する。顔料(E)の吸油量が25ml/100gを超えて大きいと、顔料の表面積が大きく、かつ表面形状が複雑になることから、塗膜性能として外観、付着性が向上する。吸油量が15ml/100g未満と小さいと、塗料性能として相溶性、塗膜性能として表面乾燥性、が大きく低下する。さらに、15ml/100g以上20ml/100g以下の範囲が好ましい。
【0041】
<<着色顔料(E2)>>
着色顔料(E2)としては、その組成から無機顔料と有機顔料に大別される。無機顔料としては、酸化チタン、ベンガラ、黄色酸化鉄、カーボンブラック等、有機顔料としては、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ナフトールレッド、キナクリドンレッド、ベンズイミダゾロンイエロー、ハンザイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、およびジオキサジンバイオレット等が挙げられる。
【0042】
また、本発明の環境対応型塗料組成物において、塗膜形成成分の固形分中における顔料の含有量は、6質量%以上10質量%以下であることが好ましい。含有量が6質量%未満では、相溶性に優れるが、塗装作業性が低下し、表面乾燥性が低下する。含有量が10質量%を超えると、付着性が低下し、外観で塗膜不良が発生する。
【0043】
<その他の添加剤(F)>
本発明の環境対応型塗料組成物は、その他の添加剤として、他の樹脂、艶消し剤、可撓性付与剤、表面調整剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、粘度調整剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、消泡剤、色分かれ防止剤、レベリング剤、乾燥剤、可塑剤、成膜助剤、防カビ剤、抗菌剤、殺虫剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、帯電性滑剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。これら成分は、市販品を好適に使用することができる。
【0044】
<<粘度調整剤(F1)>>
本発明の環境対応型塗料組成物は、粘度調整剤として、ケイ酸ソーダやベントナイト等の無機系粘度調整剤、数平均分子量が20,000以上のメチルセルロール、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシメチルセルロース等のセルロース系粘度調整剤、カゼイン、カゼインソーダ及びカゼインアンモニウム等のタンパク質系粘度調整剤、数平均分子量が20,000以上のポリアクリル酸ナトリウム及びポリアクリル酸アンモニウム等のアクリル系粘度調整剤、数平均分子量が20,000以上のポリビニルアルコール等のビニル系粘度調整剤を用いることができる。特に、無機系粘度調整剤が好ましく、特に、ベントナイトが好ましい。ベントナイトを含有させることで、粘度の調整が容易であり、熱に強く、劣化を起こしにくい。
【0045】
<<分散剤(F2)>>
本発明の環境対応型塗料組成物は、分散剤として、塗料組成物の粘度の増加を図り、平滑な表面を形成するために用いることができる。この分散剤としては、特に限定されないが、界面活性剤を乳化剤として作用させることで粘度を増加させることができる。この界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤等が挙げられる。このような界面活性剤が修復用塗料に含まれることで、アルキド樹脂と有機溶剤とを含むエマルションを形成することができる。特に、カチオン性界面活性剤が好ましい。カチオン性界面活性剤は、分散性を良好にし、結果として塗膜になった際の色や光沢等を良くすることができる。
【0046】
<<表面調整剤(F3)>>
本発明の環境対応型塗料組成物は、表面調整剤として、シリコーン系添加剤、フッ素系添加剤、セルロース系添加剤等を用いることができる。シリコーン系添加剤は、表面張力を低下させて濡れ性を高めることにより、金属基材に塗布するときのハジキを防止する作用を有する。シリコーン系添加剤の具体例としては、特に、ジメチルシリコーンオイル等を挙げることができる。さらに、メチルシリコーンオイルは、表面乾燥性と塗膜表面の平滑性を示す外観に優れ、表面乾燥性を重視すると塗膜表面の外観は失われる傾向にあるため相反する性能を両立させることができる。
【0047】
<<皮張り防止剤(F4)>>
本発明の環境対応型塗料組成物は、皮張り防止剤を、塗装した塗膜表面が空気と接すると皮ができてしまう現象を防ぐために用いることができる。皮張り防止剤としては、メチルエチルケトンオキシムなどのオキシム系皮張り防止剤、2,6-ジ-第三-ブチル-P-クレゾール(B.H.T)、ブチル化ヒドロキシアニゾール(B.H.A)、2,2-メチレン-ビス(4-メチル-6-第三-ブチルフェノール)等のフェノール系皮張り防止剤が挙げられる。特に、メチルエチルケトンオキシムが好ましい。皮張り防止剤によっては、空気との接触を抑え酸化を抑制するが、表面乾燥性を悪くすることがある。メチルエチルケトンオキシムは、表面乾燥性に悪影響を与えず、適度に空気との接触を抑え酸化を抑制することができる。
【0048】
これら添加剤(F)により、本発明の環境対応型塗料組成物の相溶性、塗装作業性を、塗装後の表面乾燥性、塗膜外観、付着性をさらに向上させることができる。本発明の環境対応型塗料組成物は、これらの添加剤(F)はとして、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。添加剤(F)の含有量は、本発明の環境対応型塗料組成物において、0.1~10質量%であることが好ましい。
【0049】
<環境対応型塗料組成物の製造方法>
本発明の環境対応型塗料組成物は、例えば、アルキド樹脂(A)、有機溶剤(B)およびドラヤー(C)と、必要に応じて適宜選択される各種添加剤とを配合して撹拌、混練することにより調製する。その際には、SGミル等を使用し、できるだけ均一に分散させることが好ましい。
【0050】
<塗布方法>
本発明の環境対応型塗料組成物は、塗布する方法としては、特に制限されず、公知の塗布方法、例えば、ディッピング法、スピンコート法、フローコート法、ロールコート法、スプレーコート法、ブレードコート法及びエアーナイフコート法等が挙げられる。
【0051】
<環境対応型塗料組成物の用途>
本発明の環境対応型塗料組成物は、スプレー塗装やディッピング塗装に用いることができるが、例えば、塗装対象として建築物や構築物等の構造物、車両(自動車等)、家具、建具、電子機器(家電機器等)やそれらの部品の金属基材表面に塗膜を有するものが挙げられる。金属基材としては、特に限定されるものではないが、その形状は、例えば板状、シート状、箔状等である。また、該基材を構成する金属としては、鉄鋼、亜鉛めっき鋼、ステンレス鋼、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられ、中でも、鉄鋼が好ましい。さらに、金属基材としては各種表面処理、例えば酸化処理が施されてもよい。一例として、アルマイト処理、リン酸塩処理、クロメート処理、ノンクロメート処理等の方法で鉄鋼、アルミニウムに酸化処理を施した基材を用いることができる。また、金属基材には、金属薄膜を表面に備える各種プラスチック基材(その形状は、例えば3次元の構造を持つ筐体及びフィルム等がある)も含まれる。金属の成膜には、蒸着、スパッタ、メッキ法等が利用できる。金属薄膜としては、アルミニウム、錫、亜鉛、金、銀、白金、ニッケル等の金属の薄膜が挙げられる。
本発明の環境対応型塗料組成物の塗布量は、塗布される基材の種類や用途に応じて変えることができる。
【実施例0052】
本発明の実施例について以下に説明する。本発明は様々な態様が可能であり、以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
<実施例1~12、比較例1~5の調製>
表1に示す配合(数値は質量部である)によって、アルキド樹脂(A)のうちフェノール変性アルキド樹脂を用いる第1アルキド樹脂(A1)とフェノール変性アルキド樹脂の第1アルキド樹脂(A1)を用いない第アルキド樹脂(A2)と、有機溶剤(B)として酢酸ブチル、C8~C15パラフィン系溶剤と、顔料としてカーボンブラック、沈降性硫酸バリウムおよびその他の材料として粘度調整剤、分散剤を予め混合した後に、ビーズミルにて分散処理を施して練合を製造した。
【0054】
この分散処理で混合した練合を、さらに、アルキド樹脂(A)のうちでフェノール変性アルキド樹脂の第1アルキド樹脂(A1)とフェノール変性アルキド樹脂の第1アルキド樹脂(A1)を用いない第アルキド樹脂(A2)とエポキシ樹脂(D)、有機溶剤(B)として酢酸ブチル、酢酸エチル、C8~C15パラフィン系溶剤、ドライヤー(C)としてオクチル酸ジルコニウム、オクチル酸コバルトと、その他の材料として表面調整剤、皮張り防止剤を同様に撹拌しながら加え、環境対応型脂塗料組成物(実施例1~12、比較例1~5)を製造した。
【0055】
使用した原料の詳細および配合例を表1に示している。
(1)アルキド樹脂(A)
(アルキド樹脂の調製>
大豆油脂肪酸、ひまし油脂肪酸、ペンタエリスリトール、エチレングリコール、安息香酸、無水フタル酸、共沸溶剤として高沸点芳香族溶剤S100を反応容器に入れ撹拌しながら生成水を取り除きつつ、エステル化反応を行った。反応混合物を150℃から235℃まで6時間かけて昇温させ当該温度を維持しつつ反応を行った。なお、反応終点は反応系のサンプリングを行い、当該サンプリングした反応系の酸価を測定した。酸価が7から13迄下がった時点を反応の終点とした。酸価は、フェノールフタレインを指示薬とし、1/10規定水酸化カリウムのメタノール溶液で手規定することにより測定した。反応させる際に使用する反応容器は、原料を入れる前に窒素置換を行い、窒素ガスを吹き込みながら調製を行った。
【0056】
(フェノール変性アルキド樹脂の調製>
反応容器にアルキド樹脂、酢酸ブチル、スチレンを入れ、加熱下に撹拌し、110℃に達してからメチルメタクリレート、スチレン、重合開始剤として日油株式会社製のナイパーBMT-40(SV)とtert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートをあらかじめ混合して得られた混合物を1時間かけて滴下した。滴下終了後、反応混合物を110℃に保持したまま、さらに、重合開始剤に日油株式会社製のナイパーBMT-40(SV)とtert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、溶媒に酢酸ブチルの混合物を3時間かけて滴下し、引き続き110℃で1時間撹拌して調製を行った。
【0057】
次に、エステル交換体、グリセリン、無水フタル酸の量を調整して、以下に示す重量平均分子量の異なる第1アルキド樹脂、第2アルキド樹脂を調整した。
(A1-1)第1アルキド樹脂(フェノール変性アルキド樹脂:重量平均分子量:22,000)
(A1-2)第1アルキド樹脂(フェノール変性アルキド樹脂(フェノール変性アルキド樹脂:重量平均分子量:20,000)
(A2-1)第2アルキド樹脂(アルキド樹脂、重量平均分子量:150,000)
(A2-2)第2アルキド樹脂(アルキド樹脂、重量平均分子量:100,000)
(A2-3)第2アルキド樹脂(アルキド樹脂、重量平均分子量:60,000)
(A2-4)第2アルキド樹脂(アルキド樹脂、重量平均分子量:200,000)
(A2-5)第2アルキド樹脂(アルキド樹脂、重量平均分子量:250,000)
【0058】
(2)エポキシ樹脂(D)
(D-1)エポキシ樹脂(エポキシ樹脂(商品名:JER828、三菱化学(株)社製)、重量平均分子量:370)
(D-2)エポキシ樹脂(エポキシ樹脂(商品名:JER815、三菱化学(株)社製)、重量平均分子量:370)
【0059】
(3)ドライヤー(C)
(C-1)脂肪酸金属塩(オクチル酸ジルコニウム(商品名:12%Zr-OCTOATE、DIC (株)社製))
(C-2)脂肪酸金属塩(オクチル酸コバルト(商品名:Co-OCTOATE、DIC (株)社製))
【0060】
(4)顔料(E)
(E-1)着色顔料(カーボンブラック(商品名:三菱カーボンブラックMA100、三菱化学(株)社製))
(E-2)体質顔料(沈降性硫酸バリウム(商品名:沈降性硫酸バリウム、川津産業(株)社製)
【0061】
(5)その他(F)
(F-1)粘度調整剤(0.50質量部:(商品名:ANTI-TERRA-U、ビックケミー社製))
(F-2)分散剤(0.07質量部:(商品名:ホモゲノールL-95、花王(株)社製))
(F-3)表面調整剤(0.10質量部:(商品名:KF-69、信越化学(株)社製))
(F-4)皮張り防止剤(0.30質量部:(商品名:MEKオキシム、宇部興産(株)社製))
【0062】
(7)有機溶剤(B)
(B-1)エステル系溶剤(酢酸ブチル(商品名:酢酸ブチル、昭栄ケミカル社製))
(B-2)エステル系溶剤(酢酸エチル(商品名:酢酸エチル、昭栄ケミカル社製))
(B-3)イソパラフィン系溶剤(C8~C15イソパラフィン混合物(商品名:IPソルベント1620、出光興産(株)社製))
(B-4)芳香族系溶剤(トルエン(不純物のため不明))
【0063】
表1は、配合処方に従って調製した実施例1~12を示している。
表2は、配合処方に従って調製した比較例1~5を示している。
【0064】
【0065】
【0066】
<塗料性能・塗膜性能の評価>
実施例1~12および比較例1~5の塗料性能として、相溶性を評価した。
また、実施例1~12および比較例1~5の試料(塗装体)における塗膜性能として、塗装作業性、表面乾燥性、外観、付着性を評価した。試験板は、ノンクロメート処理を施した亜鉛めっき鋼板上に、調製した環境対応型塗料組成物を、エアースプレーを用いて、乾燥膜厚が一様に塗装し、一定の温度で、一定の時間乾燥させて、試験塗膜を形成した。評価方法を以下に説明する。
また、表3は、実施例1~12の評価結果を示している。
さらに、表4は、比較例1~5の評価結果を示している。
【0067】
<<相溶性>>
各試料の固形分と同量の有機溶剤と混合し、十分撹拌した後に、25℃、24時間静置した。その後目視で分離の確認を行った。評価基準は以下の通りである。
○:溶剤に溶解し、翌日に分離しない。
×:溶剤に溶解するが、翌日までに分離する。または溶解しない。
【0068】
<<塗装作業性の評価>>
十分撹拌した後に、エアースプレーを用いて塗装を行った。その場合の塗装作業性を評価した。評価基準は以下の通りである。
○:霧化性や塗面付着時の状態が、環境非対応品と比較して同等レベルの状態にある場合。
△:霧化性や塗面付着時の状態が、環境非対応品と比較してやや劣る程度の状態である場合。
×:希釈剤にて溶解は可能だが、塗装時に明らかに不具合が見られる状態である場合
-:塗料内の樹脂と溶剤の相溶性が悪いため評価ができない場合
【0069】
<<表面乾燥性の評価>>
十分撹拌した後に、膜厚が30~40μmとなるようエアースプレーを用いて塗装を行った。塗装後、22℃、50%RH環境下で1時間静置する。その後、塗膜表面にJIS K5600-1-1:1999に準拠して、表面乾燥性を評価した。評価基準は以下の通りである。
○:塗面に指先で触れたとき、指紋等の跡が付かず、指を離した際に粘着性が感じられない状態である場合
△:塗面に指先で触れたとき、指紋等の跡が若干残るが、指を離した際に粘着性は感じられない状態である場合
×:塗面に指先で触れたとき、指紋等の跡が残るとともに、指を離した際に粘着性が感じられる状態である場合
-:塗料内の樹脂と溶剤の相溶性が悪いため表面乾燥性の評価ができない。
【0070】
<<外観の評価>>
十分撹拌した後に、乾燥後膜厚が30~40μmとなるようエアースプレーを用いて塗装を行った。塗装後、23℃、 50%RH環境下で1時間静置する。その後塗膜表面にJIS K5600-1-1:1999に準拠して、外観を評価した。評価基準は以下の通りである。
○:環境非対応品と比較し、色、光沢および塗膜の状態が同等レベルであって、一般的な塗膜の不具合がない状態である場合
△:環境非対応品と比較し、色、光沢および塗膜の状態のいずれかに差異が認められるものの、一般的な塗膜の不具合がない状態である場合
×:一般的な塗膜不良が発生している状態である場合
-:塗料内の樹脂と溶剤の相溶性が悪いため外観の評価ができない場合
【0071】
<<付着性の評価>>
十分撹拌した後に、乾燥後膜厚が30~40μmとなるようエアースプレーを用いて塗装を行った。塗装後、23℃、50%RH環境下で1時間静置する。その後塗膜表面にJIS K 5600-5-6:1999(クロスカット法:1mm×100マス、素材:SPCC-SB)を行うことにより付着性を評価した。評価基準は以下の通りである。
○:カットの縁が完全に滑らかで,どの格子の目にもはがれがない場合
△:カットの交差部における塗膜の小さなはがれが認められるものの、塗膜面積に占める剥離した面積の割合が5%未満である場合
×:クロスカットにより、塗膜面積に占める剥離した面積の割合が5%以上である場合
-:塗料内の樹脂と溶剤の相溶性が悪いため評価ができない。
【0072】
【0073】
【0074】
表3に示す結果から、実施例1~12の環境対応型塗料組成物は、相溶性、塗装作業性、表面乾燥性、外観、付着性のいずれも評価が「〇」または「△」で、実用上の問題はなかった。
【0075】
表4に示す結果から、比較例1の試料は、芳香族溶剤B-4:トルエンを含有することで、相溶性が「×」であり、また、塗装作業性、表面乾燥性、外観、付着性のいずれも評価できない状態である。
【0076】
比較例2の試料は、ドライヤー(C)を含まないことで、表面乾燥性が「×」である。
【0077】
比較例3の試料は、第1アルキド樹脂のアルキド樹脂に対する含有量が、下限の範囲外であり、表面乾燥性が「×」である。
【0078】
比較例4の試料は、第1アルキド樹脂のアルキド樹脂に対する含有量が、下限の範囲外であり、外観、付着性が「×」である。
【0079】
比較例5の試料は、第1アルキド樹脂とドライヤーを含まないことで、表面乾燥性が「×」である。
【0080】
これらの実施例1~12および比較例1~5の結果から、本発明の一液型エポキシ樹脂塗料組成物は、相溶性、塗装作業性、表面乾燥性、外観、付着性についても実用上問題がないことが分かった。