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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115379
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】比率差動継電器
(51)【国際特許分類】
   H02H 7/045 20060101AFI20240819BHJP
【FI】
H02H7/045 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021046
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】武井 明久
(72)【発明者】
【氏名】市川 義治
【テーマコード(参考)】
5G043
【Fターム(参考)】
5G043AA02
5G043AC02
5G043BA03
5G043BB01
5G043BC01
5G043CA03
5G043CB01
(57)【要約】
【課題】比率差動継電器において異常検出の感度を向上させる。
【解決手段】比率差動継電器1はデータ処理制御回路8を備え、データ処理制御回路8は、第1変流器2の第1変流比Nct1に基づいて第1変流器2の第1検出電流I1sを変圧器50の一次側電流I1に換算した電流である第1電流(I1s×Nct1)と、第2変流器3の第2変流比Nct2および変圧比Ntrに基づいて第2変流器3の第2検出電流I2sを一次側電流I1に換算した電流である第2電流(I2s×Nct2×Ntr)との差である差電流Idを算出するとともに、第1電流の絶対値と第2電流の絶対値との和である抑制電流Isを算出する。データ処理制御回路8は、差電流Idと抑制電流Isとの比率Kと第1整定値131とを比較し、比較結果に基づいて変圧器50が異常であるか否かを判定することを特徴とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変圧器の一次側の巻線に流れる一次側電流を第1変流比に基づいて変換し、第1検出電流として出力する第1電流検出器と、
前記変圧器の二次側の巻線に流れる二次側電流を第2変流比に基づいて変換し、第2検出電流として出力する第2電流検出器と、
前記第1検出電流を測定する第1電流測定回路と、
前記第2検出電流を測定する第2電流測定回路と、
前記第1電流測定回路によって測定された前記第1検出電流と前記第2電流測定回路によって測定された前記第2検出電流とに基づいて、前記変圧器が異常であるか否かを判定し、前記変圧器に接続されている遮断器を制御するデータ処理制御回路と、を備え、
前記データ処理制御回路は、
前記第1変流比、前記第2変流比、前記変圧器の変圧比、および第1整定値を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記第1変流比に基づいて前記第1検出電流を前記一次側電流に換算した電流である第1電流と、前記記憶部に記憶された前記第2変流比および前記変圧比に基づいて前記第2検出電流を前記一次側電流に換算した電流である第2電流との差である差電流を算出する差電流算出部と、
前記第1電流の絶対値と前記第2電流の絶対値との和である抑制電流を算出する抑制電流算出部と、
前記差電流と前記抑制電流との比率を算出する比率算出部と、
前記比率と前記第1整定値とを比較し、比較結果に基づいて前記変圧器が異常であるか否かを判定する第1異常判定部と、
前記第1異常判定部の判定結果に基づいて、前記遮断器を制御するための制御信号を生成して出力する制御信号出力部と、を有する
比率差動継電器。
【請求項2】
請求項1に記載の比率差動継電器であって、
前記データ処理制御回路は、
前記第1変流比および前記第1検出電流に基づいて算出した前記一次側電流と前記第2変流比および前記第2検出電流に基づいて算出した前記二次側電流との比に基づいて前記変圧比を算出し、前記記憶部に記憶されている前記変圧比を更新する変圧比算出部、を更に有する
比率差動継電器。
【請求項3】
請求項2に記載の比率差動継電器であって、
前記記憶部は、前記第1整定値を記憶し、
前記第1整定値は、前記比率の閾値である第1比率特性動作値と、前記差電流の閾値である第1最小動作値とを含み、
前記データ処理制御回路は、
前記一次側電流と前記二次側電流の少なくとも一方の大きさに応じて前記第1比率特性動作値が大きくなるように前記第1整定値を決定する整定値決定部を更に有する
比率差動継電器。
【請求項4】
請求項3に記載の比率差動継電器であって、
前記整定値決定部は、
基準比率と、前記第1電流検出器の誤差に関する第1変流比誤差比率と、前記第2電流検出器の誤差に関する第2変流比誤差比率とを加算して前記第1比率特性動作値を算出する比率特性動作値算出部と、
前記一次側電流と前記第1電流検出器の定格電流に基づく第1定格電流閾値とを比較し、前記一次側電流が前記第1定格電流閾値より小さい場合に前記第1変流比誤差比率を第1値に設定し、前記一次側電流が前記第1定格電流閾値以上である場合に前記第1変流比誤差比率を前記第1値より大きい第2値に設定する第1変流比誤差比率算出部と、
前記二次側電流と前記第2電流検出器の定格電流に基づく第2定格電流閾値とを比較し、前記二次側電流が前記第2定格電流閾値より小さい場合に前記第2変流比誤差比率を第3値に設定し、前記二次側電流が前記第2定格電流閾値以上である場合に前記第2変流比誤差比率を前記第3値より大きい第4値に設定する第2変流比誤差比率算出部と、を含む
比率差動継電器。
【請求項5】
請求項4に記載の比率差動継電器であって、
前記比率特性動作値算出部は、
前記第1検出電流と第1最小電流閾値とを比較するとともに、前記第2検出電流と第2最小電流閾値とを比較し、前記第1検出電流が前記第1最小電流閾値より大きく且つ前記第2検出電流が前記第2最小電流閾値より大きい場合に、基準比率を第5値に設定し、前記第1検出電流が前記第1最小電流閾値以下であることと前記第2検出電流が前記第2最小電流閾値以下であることの少なくとも一方を満足する場合に、前記基準比率を前記第5値よりも大きい第6値に設定して、前記第1比率特性動作値を算出する
比率差動継電器。
【請求項6】
請求項3に記載の比率差動継電器であって、
前記第1異常判定部は、前記差電流と前記抑制電流との比率が前記第1比率特性動作値以上であり、且つ前記差電流が前記第1最小動作値以上である場合に時間の計測を開始し、計測した時間が所定時間に到達した場合に、前記変圧器が異常であると判定する
比率差動継電器。
【請求項7】
請求項3に記載の比率差動継電器であって、
前記記憶部に、前記第1整定値と異なる第2整定値が記憶され、
前記第2整定値は、前記抑制電流と前記差電流との比率の閾値である第2比率特性動作値と、前記差電流の閾値である第2最小動作値とを含み、
前記第2比率特性動作値および前記第2最小動作値は、それぞれ固定値であって、
前記データ処理制御回路は、
前記差電流と前記抑制電流との比率が前記第2比率特性動作値以上であり、且つ前記差電流が前記第2最小動作値以上である場合に前記変圧器が異常であると判定する第2異常判定部を更に有し、
前記制御信号出力部は、前記第1異常判定部および前記第2異常判定部の少なくとも一方が前記変圧器が異常であると判定した場合に、前記遮断器を遮断するための前記制御信号を生成して出力する
比率差動継電器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比率差動継電器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、送電用変圧器や配電用変圧器等の変圧器内部の事故を検出する装置として、差動継電器が知られている。例えば、配電用変圧器において一次側または二次側の巻線の層間短絡が発生した場合に生じる小さな差電流を高感度で検出する差動継電器として、比率差動継電器(RDFR,制御機器番号:87)が主に用いられている(例えば、特許文献1参照)。比率差動継電器は、変圧器の一次側の巻線に流れる一次側電流と二次側の巻線に流れる二次側電流のスカラー和である抑制電流と、一次側電流と二次側電流との差(差電流)との比率に基づいて、一次側または二次側の巻線の短絡等の変圧器の異常を検出し、変圧器に接続されている遮断器を遮断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-112773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、変圧器における比率差動継電器には、異常判定の基準となる比率特性(整定値)が設定されている。比率特性には、抑制電流と差電流との比率の閾値である比率特性動作値と、差電流の閾値である最小動作値とが含まれる。比率差動継電器は、抑制電流に対する差電流の比率が比率特性動作値以上、且つ差電流が最小動作値以上となった場合に、変圧器において異常が発生したと判定する。
【0005】
ここで、比率差動継電器の比率特性は、変圧器の使用態様に基づいて決定される。一般に、比率差動継電器による異常検出の感度を高めるためには、比率特性をより低い値に設定することが好ましい。
【0006】
一方で、変圧器に搭載される比率差動継電器では、種々の誤差等に起因する誤検知を回避するために、比率特性が比較的高い値(例えば、基準値が約50%)に設定され、比率差動継電器の動作範囲が狭く設定されていることが一般的である。例えば、一次側の巻線と二次側の巻線との間の巻数比は、理論値に対して誤差を含んでいる。また、比率差動継電器は、変圧器の一次側電流と二次側電流をそれぞれ検出するための変流器(CT)を有しており、変流器の変流比にも誤差が含まれている。更に、タップが設けられた変圧器の場合、タップの切り替えによって巻数比が変更される場合がある。
【0007】
このように、変圧器において種々の誤差およびタップの切り替えによる巻数比の変動等が生じるため、変圧器に搭載される比率差動継電器では、比率特性の基準値が50%程度に設定されている。また、変圧器が正常動作している状態において過渡的に発生する電流(過渡電流)を検出しないようにするために、比率特性の最小動作値も比較的高い値に設定されている。
【0008】
しかしながら、比率特性および最小動作値を高い値に設定した場合、比率差動継電器の異常検出の感度が低下するため、変圧器の巻線のワンターンの層間短絡(レアショート)や、主巻線に比べて小容量の内蔵安定巻線の短絡検出等の小さな差電流が生じる事象を適切に検出できない可能性がある。
【0009】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、比率差動継電器において異常検出の感度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の代表的な実施の形態に係る比率差動継電器は、変圧器の一次側の巻線に流れる一次側電流を第1変流比に基づいて変換し、第1検出電流として出力する第1電流検出器と、前記変圧器の二次側の巻線に流れる二次側電流を第2変流比に基づいて変換し、第2検出電流として出力する第2電流検出器と、前記第1検出電流を測定する第1電流測定回路と、前記第2検出電流を測定する第2電流測定回路と、前記第1電流測定回路によって測定された前記第1検出電流と前記第2電流測定回路によって測定された前記第2検出電流とに基づいて、前記変圧器が異常であるか否かを判定し、前記変圧器に接続されている遮断器を制御するデータ処理制御回路と、を備え、前記データ処理制御回路は、前記第1変流比、前記第2変流比、前記変圧器の変圧比、および第1整定値を記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された前記第1変流比に基づいて前記第1検出電流を前記一次側電流に換算した電流である第1電流と、前記記憶部に記憶された前記第2変流比および前記変圧比に基づいて前記第2検出電流を前記一次側電流に換算した電流である第2電流との差である差電流を算出する差電流算出部と、前記第1電流の絶対値と前記第2電流の絶対値との和である抑制電流を算出する抑制電流算出部と、前記差電流と前記抑制電流との比率を算出する比率算出部と、前記比率と前記第1整定値とを比較し、比較結果に基づいて前記変圧器が異常であるか否かを判定する第1異常判定部と、前記第1異常判定部の判定結果に基づいて、前記遮断器を制御するための制御信号を生成して出力する制御信号出力部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る比率差動継電器によれば、異常検出の感度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1に係る比率差動継電器の構成を示す図である。
図2】実施の形態1に係る比率差動継電器における比率特性の一例を示す図である。
図3】従来の一般的な比率差動継電器における比率特性の一例を示す図である。
図4】実施の形態1に係る比率差動継電器におけるデータ処理制御回路の構成の一例を示す図である。
図5】整定値決定部の構成の一例を示す図である。
図6】実施の形態1に係る比率差動継電器による変圧器の異常判定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図7】実施の形態2に係る比率差動継電器におけるデータ処理制御回路の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【0014】
〔1〕本発明の代表的な実施の形態に係る比率差動継電器(1,1A)は、変圧器(50)の一次側の巻線に流れる一次側電流(I1)を第1変流比(Nct1)に基づいて変換し、第1検出電流(I1s)として出力する第1電流検出器(2)と、前記変圧器の二次側の巻線に流れる二次側電流(I2)を第2変流比(Nct2)に基づいて変換し、第2検出電流(I2s)として出力する第2電流検出器(3)と、前記第1検出電流を測定する第1電流測定回路(4)と、前記第2検出電流を測定する第2電流測定回路(5)と、前記第1電流測定回路によって測定された前記第1検出電流と前記第2電流測定回路によって測定された前記第2検出電流とに基づいて、前記変圧器が異常であるか否かを判定し、前記変圧器に接続されている遮断器を制御するデータ処理制御回路(8)と、を備え、前記データ処理制御回路は、前記第1変流比、前記第2変流比、前記変圧器の変圧比(Ntr)、および第1整定値(131)を記憶する記憶部(13)と、前記記憶部に記憶された前記第1変流比に基づいて前記第1検出電流を前記一次側電流に換算した電流である第1電流(I1s×Nct1)と、前記記憶部に記憶された前記第2変流比および前記変圧比に基づいて前記第2検出電流を前記一次側電流に換算した電流である第2電流(I2s×Nct2×Ntr)との差である差電流(Id)を算出する差電流算出部(9)と、前記第1電流の絶対値と前記第2電流の絶対値との和である抑制電流(Is)を算出する抑制電流算出部(10)と、前記差電流と前記抑制電流との比率(K)を算出する比率算出部(14)と、前記比率と前記第1整定値とを比較し、比較結果に基づいて前記変圧器が異常であるか否かを判定する第1異常判定部(15)と、前記第1異常判定部の判定結果に基づいて、前記遮断器を制御するための制御信号(Sc)を生成して出力する制御信号出力部(16,16A)と、を有することを特徴とする。
【0015】
〔2〕上記〔1〕に記載の比率差動継電器であって、前記データ処理制御回路は、前記第1変流比および前記第1検出電流に基づいて算出した前記一次側電流と前記第2変流比および前記第2検出電流に基づいて算出した前記二次側電流との比に基づいて前記変圧比を算出し、前記記憶部に記憶されている前記変圧比を更新する変圧比算出部(11)、を更に有していてもよい。
【0016】
〔3〕上記〔2〕に記載の比率差動継電器であって、前記記憶部は、前記第1整定値を記憶し、前記第1整定値は、前記比率の閾値である第1比率特性動作値(Kset1)と、前記差電流の閾値である第1最小動作値(Ids1)とを含み、前記データ処理制御回路は、前記一次側電流と前記二次側電流の少なくとも一方の大きさに応じて前記第1比率特性動作値が大きくなるように前記第1整定値を決定する整定値決定部(12)を更に有していてもよい。
【0017】
〔4〕上記〔3〕に記載の比率差動継電器であって、前記整定値決定部は、基準比率(Kb)と、前記第1電流検出器の誤差に関する第1変流比誤差比率(Kct1v)と、前記第2電流検出器の誤差に関する第2変流比誤差比率(Kct2v)とを加算して前記第1比率特性動作値(Kset1)を算出する比率特性動作値算出部(19)と、前記一次側電流(I1)と前記第1電流検出器の定格電流に基づく第1定格電流閾値(I1rth)とを比較し、前記一次側電流が前記第1定格電流閾値より小さい場合に前記第1変流比誤差比率を第1値に設定し、前記一次側電流が前記第1定格電流閾値以上である場合に前記第1変流比誤差比率を前記第1値より大きい第2値に設定する第1変流比誤差比率算出部(17)と、前記二次側電流と前記第2電流検出器の定格電流に基づく第2定格電流閾値とを比較し、前記二次側電流が前記第2定格電流閾値より小さい場合に前記第2変流比誤差比率を第3値に設定し、前記二次側電流が前記第2定格電流閾値以上である場合に前記第2変流比誤差比率を前記第3値より大きい第4値に設定する第2変流比誤差比率算出部(18)と、を含んでいてもよい。
【0018】
〔5〕上記〔4〕に記載の比率差動継電器であって、前記比率特性動作値算出部は、前記第1検出電流と第1最小電流閾値(I1sth)とを比較するとともに、前記第2検出電流と第2最小電流閾値(I2sth)とを比較し、前記第1検出電流が前記第1最小電流閾値より大きく且つ前記第2検出電流が前記第2最小電流閾値より大きい場合に、基準比率を第5値(K1)に設定し、前記第1検出電流が前記第1最小電流閾値以下であることと前記第2検出電流が前記第2最小電流閾値以下であることの少なくとも一方を満足する場合に、前記基準比率を前記第5値よりも大きい第6値(K0)に設定して、前記第1比率特性動作値を算出してもよい。
【0019】
〔6〕上記〔3〕乃至〔5〕の何れか一つに記載の比率差動継電器であって、前記第1異常判定部は、前記差電流と前記抑制電流との比率が前記第1比率特性動作値以上であり、且つ前記差電流が前記第1最小動作値以上である場合に時間の計測を開始し、計測した時間が所定時間(タイマ設定値)に到達した場合に、前記変圧器が異常であると判定してもよい。
【0020】
〔7〕上記〔3〕に記載の比率差動継電器(1A)であって、前記記憶部に、前記第1整定値と異なる第2整定値(132)が記憶され、前記第2整定値は、前記抑制電流と前記差電流との比率の閾値である第2比率特性動作値(Kset2=Kx)と、前記差電流の閾値である第2最小動作値(Ids2=Idsx)とを含み、前記第2比率特性動作値および前記第2最小動作値は、それぞれ固定値であって、前記データ処理制御回路(8A)は、前記差電流と前記抑制電流との比率(K)が前記第2比率特性動作値以上であり、且つ前記差電流が前記第2最小動作値以上である場合に前記変圧器が異常であると判定する第2異常判定部(21)を更に有し、前記制御信号出力部は、前記第1異常判定部および前記第2異常判定部の少なくとも一方が、前記変圧器が異常であると判定した場合に、前記遮断器を遮断するための前記制御信号を生成して出力してもよい。
【0021】
2.実施の形態の具体例
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。
【0022】
≪実施の形態1≫
図1は、実施の形態1に係る比率差動継電器1の構成を示す図である。
図1に示される比率差動継電器1(RDFR)は、変圧器50の状態を監視し、変圧器50の異常を検出するための装置である。
【0023】
変圧器50としては、配電用変圧器や送電用変圧器等の各種変圧器を例示することができる。変圧器50は、例えば、変圧比を可変するためのタップを有している。例えば、比率差動継電器1は、配電用変圧器内に設けられている。比率差動継電器1は、配電用変圧器の一次側または二次側の巻線の層間短絡が発生した場合に生じる小さな差電流を高感度で検出し、配電用変圧器における異常の有無を判定して、変圧器50に接続されている遮断器の開閉を制御する。
【0024】
以下の説明において、変圧器50の一次側の巻線に流れる電流を“I1”、変圧器50の二次側の巻線に流れる電流を“I2”、変圧器50の変圧比を“Ntr(=I2/I1)”とする。
【0025】
先ず、実施の形態1に係る比率差動継電器1の概要について説明する。
【0026】
図2は、実施の形態1に係る比率差動継電器1における比率特性の一例を示す図である。
【0027】
図3は、従来の一般的な比率差動継電器における比率特性の一例を示す図である。
【0028】
図2および図3において、横軸は抑制電流Is〔A〕を表し、縦軸は差電流Id〔A〕を表している。
【0029】
図3に示すように、一般的な従来の比率差動継電器の比率特性は、整定値としての比率特性動作値Kxと最小動作値Idsxとによって定められる。すなわち、従来の比率差動継電器は、抑制電流に対する差電流の比率が比率特性動作値Kx以上、且つ差電流が最小動作値Idsx以上となった場合に、変圧器において異常が発生したと判定する。
【0030】
ここで、比率特性動作値Kxおよび最小動作値Idsxはそれぞれ一定値である。従来の比率差動継電器では、比率差動継電器の誤検知を防止するため、比率特性動作値Kxおよび最小動作値Idsxをより高い値に設定している(例えば、比率特性動作値Kxは50%)。
【0031】
これに対し、実施の形態1に係る比率差動継電器1は、比率特性が第1比率特性動作値Kset1と第1最小動作値Ids1とによって定められる点において従来技術と共通するが、図2に示すように、変圧器50の一次側電流I1および二次側電流I2の少なくとも一方の大きさに応じて第1比率特性動作値Kset1を可変させることが可能となっている点で従来の比率差動継電器と相違する。
【0032】
また、従来の比率差動継電器は、抑制電流に対する差電流の比率が比率特性動作値Kx以上、且つ差電流が最小動作値Idsx以上となった場合に、速やかに、変圧器において異常が発生したと判定して遮断器を開く(即時遮断)。これに対し、実施の形態1に係る比率差動継電器1は、抑制電流に対する差電流の比率が第1比率特性動作値Kset1以上、且つ差電流が第1最小動作値Ids1以上となった状態が所定時間継続した場合に、変圧器50において異常が発生したと判定して遮断器を開く。
【0033】
更に、従来の比率差動継電器では、変流器からの出力された電流の値をそのまま用いて差電流および抑制電流を算出する方式が多い。これに対し、実施の形態1に係る比率差動継電器1は、変圧器50の一次側電流と二次側電流をそれぞれ検出する変流器から出力された電流を、変流器の変流比および変圧器50の変圧比Ntrに基づいて変圧器50の一次側電流にそれぞれ換算し、換算した二つの電流に基づいて差電流と抑制電流を算出する。
【0034】
次に、比率差動継電器1の具体的な構成について説明する。
【0035】
図1に示すように、比率差動継電器1は、第1電流検出器2、第2電流検出器3、第1電流測定回路4、第2電流測定回路5、およびデータ処理制御回路8を備えている。なお、比率差動継電器1は、図1に示した構成要素以外の構成要素を含んでいてもよい。
【0036】
第1電流検出器2は、変圧器50の一次側の巻線に流れる一次側電流I1を検出する装置である。第1電流検出器2は、例えば、変流器(CT:Current Transformer)である。第1電流検出器2は、変圧器50の一次側電流I1を第1変流比(Nct1:1)に基づいて変換し、第1検出電流I1s(=I1/Nct1)として出力する。
【0037】
第2電流検出器3は、変圧器50の二次側の巻線に流れる二次側電流I2を検出する装置である。第2電流検出器3は、例えば、変流器である。第1電流検出器2は、変圧器50の二次側電流I2を第2変流比(Nct2:1)に基づいて変換し、第2検出電流I2s(=I2/Nct2)として出力する。
【0038】
なお、以下の説明において、「第1電流検出器2」を「第1変流器2」と、「第2電流検出器3」を「第2変流器3」と、それぞれ表記する場合がある。
【0039】
第1電流測定回路4は、第1検出電流I1sを測定する回路である。第1電流測定回路4は、例えば、フィルタ回路6_1とアナログ/デジタル変換回路(ADC)7_1とを有している。フィルタ回路6_1は、第1変流器2から出力された第1検出電流I1sに含まれるノイズ成分を除去する回路である。フィルタ回路6_1は、例えば、ローパスフィルタである。アナログ/デジタル変換回路7_1は、フィルタ回路6_1によってノイズ成分が除去された第1検出電流I1sの大きさ(アナログ信号)をデジタル信号に変換し、第1検出電流I1sの測定値として出力する。
【0040】
第2電流測定回路5は、第2検出電流I2sを測定する回路である。第2電流測定回路5は、例えば、フィルタ回路6_2とアナログ/デジタル変換回路(ADC)7_2とを有している。フィルタ回路6_2は、第2変流器3から出力された第2検出電流I2sに含まれるノイズ成分を除去する回路である。フィルタ回路6_2は、例えば、ローパスフィルタである。アナログ/デジタル変換回路7_2は、フィルタ回路6_2によってノイズ成分が除去された第2検出電流I2sの大きさをデジタル信号に変換し、第2検出電流I2sの測定値として出力する。
【0041】
データ処理制御回路8は、比率差動継電器1における各種の演算処理と比率差動継電器1を構成する各構成要素に対する統括的な制御処理を行う回路である。データ処理制御回路8は、例えば、プログラム処理装置である。プログラム処理装置としては、例えば、CPU等のプロセッサと、RAM、ROM等の各種記憶装置と、カウンタ(タイマ)、A/D変換回路、D/A変換回路、クロック発生回路、および入出力インターフェース回路等の周辺回路とがバスや専用線を介して互いに接続された構成を有するマイクロコントローラ(MCU:Micro Controller Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等を例示することができる。
【0042】
具体的に、データ処理制御回路8は、第1電流測定回路4によって測定された第1検出電流Is1と第2電流測定回路5によって測定された第2検出電流Is2とに基づいて、変圧器50が異常であるか否かを判定し、変圧器50に接続されている遮断器(不図示)を制御することにより、変圧器50の一次側への電力供給および二次側からの電力出力を制御する。
【0043】
図4は、実施の形態1に係る比率差動継電器1におけるデータ処理制御回路8の構成の一例を示す図である。
【0044】
なお、図4では、第1電流測定回路4および第2電流測定回路5を省略している。
【0045】
図4示すように、データ処理制御回路8は、各種の演算処理および制御処理を実現するための機能ブロックとして、差電流算出部9、抑制電流算出部10、変圧比算出部11、整定値決定部12、記憶部13、比率算出部14、第1異常判定部15、および制御信号出力部16を有している。
【0046】
これらの機能ブロックは、例えば、上述したプログラム処理装置において、プロセッサがメモリに記憶されているプログラムに従って各種演算を実行し、その演算結果に基づいて上記周辺回路を制御することによって実現される。
【0047】
記憶部13は、各種の演算処理および制御処理に必要なパラメータや演算結果等を記憶する。例えば、記憶部13は、第1変流比Nct1、第2変流比Nct2、変圧比Ntr、第1定格電流閾値I1rth、第2定格電流閾値I2rth、第1最小電流閾値I1sth、第2最小電流閾値I2sth、第1整定値131、基準比率Kb、およびタイマ設定値等が記憶されている。これらの情報(データ)は、データ処理制御回路8内の記憶装置に予め記憶されていてもよいし、比率差動継電器1の外部に設けられたサーバ等の情報処理装置が、比率差動継電器1と有線または無線の通信を行うことにより、データ処理制御回路8内の記憶装置に書き込んでもよい。
【0048】
第1変流比Nct1は、第1変流器2の変流比を示す値である。第2変流比Nct2は、第2変流器3の変流比を示す値である。変圧比Ntrは、変圧器50の変圧比を示す値である。第1整定値131は、比率差動継電器1による変圧器50の異常の有無を判定する処理(異常判定処理)に用いるパラメータである。第1整定値131、第1定格電流閾値I1rth、第2定格電流閾値I2rth、第1最小電流閾値I1sth、第2最小電流閾値I2sth、第1整定値131、基準比率Kb、およびタイマ設定値の詳細については、後述する。
【0049】
差電流算出部9は、監視対象の変圧器50の一次側の巻線に流れる一次側電流I1と二次側の巻線に流れる二次側電流I2との差に基づく電流を算出する機能部である。差電流算出部9は、第1変流器2から出力される第1検出電流Is1と第2変流器3から出力される第2検出電流Is2との差を単純に算出するのではなく、第1検出電流Is1および第2検出電流Is2を、第1変流比Nct1、第2変流比Nct2、および変圧比Ntrに基づいて変圧器50の一次側電流としてそれぞれ換算し、換算した二つの電流の差を算出する。
【0050】
具体的には、差電流算出部9は、記憶部13に記憶されている第1変流比Nct1に基づいて第1検出電流Is1(ベクトル)を変圧器50の一次側電流に換算した電流である第1電流(Is1×Nct1)を算出する。また、差電流算出部9は、記憶部13に記憶されている第2変流比Nct2および変圧比Ntrに基づいて第2検出電流Is2(ベクトル)を変圧器50の一次側電流に換算した電流である第2電流(Is2×Nct2×Ntr)を算出する。そして、差電流算出部9は、第1電流と第2電流との差(ベクトル和)である差電流Id(=|I1s×Nct1+I2s×Nct2×Ntr|)を算出する。
【0051】
抑制電流算出部10は、第1電流(Is1×Nct1)の絶対値と第2電流(Is2×Nct2×Ntr)の絶対値との和(スカラー和)である抑制電流Is(=|Is1×Nct1|+|Is2×Nct2×Ntr|)を算出する機能部である。
【0052】
比率算出部14は、差電流算出部9によって算出した差電流Idと抑制電流算出部10によって算出した抑制電流Isとの比率Kを算出する機能部である。例えば、比率算出部14は、抑制電流Isに対する差電流Idの割合を比率K(=Id/Is)として出力する。
【0053】
第1異常判定部15は、変圧器50の異常の有無を判定する機能部である。制御信号出力部16は、遮断器を制御するための制御信号Scを生成する機能部である。第1異常判定部15および制御信号出力部16の詳細については後述する。
【0054】
変圧比算出部11は、変圧器50の変圧比Ntrを算出し、更新する機能部である。例えば、記憶部13には、予め、変圧比Ntrの情報(初期値)が設定されている。
上述したように、変圧器50がタップを複数有している場合、タップの切り替わりにより、変圧器50の巻線比、すなわち変圧比Ntrが変化する。そこで、実施の形態1に係る比率差動継電器1において、変圧比算出部11が、第1変流比Nct1および第1検出電流I1sに基づいて算出した一次側電流(I1s×Nct1)と、第2変流比Nct2および第2検出電流I2sに基づいて算出した二次側電流(I2s×Nct2)との比に基づいて、変圧比Ntr(=I1s×Nct1/(I2s×Nct2))を算出し、記憶部13に記憶されている変圧比Ntrを更新する。
【0055】
なお、後述するように、変圧器50の一次側電流I1または二次側電流I2が小さいことにより、変圧比Ntrを正確に算出できない可能性が高い場合には、変圧比算出部11は、変圧比Ntrの更新する処理を行わない。すなわち、変圧比Ntrは、初期値から更新されない。
【0056】
整定値決定部12は、変圧器50の異常判定の基準となる比率特性を定める第1整定値を決定する機能部である。
【0057】
第1整定値には、例えば、図2に示すように、抑制電流と差電流との比率Kの閾値である第1比率特性動作値Kset1と、差電流Idの閾値である第1最小動作値Ids1とが含まれる。第1最小動作値Ids1として、例えば、候補となる値(α、β)が予め記憶部13に記憶されている。第1比率特性動作値Kset1は、後述するように、整定値決定部12によって算出され、記憶部13に設定される。
【0058】
一般に、変流器の変流比の誤差は、変流器に流れる検出対象の電流が大きくなるほど大きくなる傾向がある。すなわち、変流器に流れる電流が定格電流より低い領域(定格領域)にある場合の変流比の誤差(例えば、1%)は、変流器に流れる電流が定格電流以上の領域(過電流領域)にある場合の変流比の誤差(例えば、10%)よりも小さい。
【0059】
従来の比率差動継電器の多くは、変流器の変流比の誤差の最大値、すなわち過電流領域における変流比の誤差(例えば、10%)を基準として比率特性動作値を決定していたため、図3に示すように、比率特性動作値Kxが大きくなる傾向があった。
【0060】
そこで、実施の形態1に係る比率差動継電器1は、変流器に流れる電流、すなわち変圧器50の一次側電流I1および二次側電流I2の少なくとも一方に基づいて、第1比率特性動作値Kset1を動的に変化させる。
【0061】
具体的には、整定値決定部12は、一次側電流I1および二次側電流I2の少なくとも一方の大きさに応じて第1比率特性動作値Kset1が大きくなるように第1整定値131を決定する。より具体的には、整定値決定部12は、一次側電流I1および二次側電流I2の少なくとも一方が変流器の定格領域と過電流領域のどちらの領域に存在するかを判定し、領域に応じて比率特性動作値(第1比率特性動作値Kset1)の算出方法を切り替える。
【0062】
図5は、整定値決定部12の構成の一例を示す図である。
【0063】
図5に示すように、整定値決定部12は、第1変流比誤差比率算出部17、第2変流比誤差比率算出部18、および比率特性動作値算出部19を含む。
【0064】
第1変流比誤差比率算出部17は、第1変流比誤差比率Kct1vを算出するための機能部である。第1変流比誤差比率Kct1vは、第1変流器2の変流比の誤差に基づく値である。第1変流比誤差比率算出部17は、第1変流器2の定格電流(一次側)に基づく第1定格電流閾値I1rthと一次側電流I1とを比較し、その比較結果に基づいて第1変流比誤差比率Kct1vを決定する。
【0065】
ここで、一次側電流I1は、上述したように、第1変流比Nct1および第1検出電流I1sに基づいて算出される第1電流(=|Nct1×I1s|)である。第1定格電流閾値I1rthは、例えば、第1変流器2の一次側の定格電流そのものであってもよいし、第1変流器2の一次側の定格電流の値に所定値を加算、減算、または乗算等した値であってもよい。すなわち、第1定格電流閾値I1rthは、第1変流器2の定格電流を基準に定めた値であればよい。第1定格電流閾値I1rthの値は、例えば、記憶部13に記憶されている。以下の説明では、一例として、第1変流器2の定格電流値を第1定格電流閾値I1rthとする。
【0066】
第1変流比誤差比率算出部17は、第1変流器2が定格領域で動作している場合、すなわち一次側電流I1が第1定格電流閾値I1rthより小さい場合に、第1変流比誤差比率Kct1vを第1値に設定する。例えば、第1定格電流閾値I1rthが300A、第1変流器2の定格領域における変流比の誤差が1%である場合に、一次側電流I1が200Aであったとき、第1変流比誤差比率算出部17は、第1変流比誤差比率Kct1vを第1値(=1%)に設定する。
【0067】
一方、第1変流器2が過電流領域で動作している場合、すなわち一次側電流I1が第1定格電流閾値I1rth以上である場合、第1変流比誤差比率算出部17は、第1変流比誤差比率Kct1vを第1値より大きい第2値に設定する。具体的には、第1変流比誤差比率算出部17は、一次側電流I1に応じて第1変流比誤差比率Kct1v(第2値)が大きくなるようにする。例えば、第1変流比誤差比率算出部17は、下記式(1)にしたがって第2値を計算し、第1変流比誤差比率Kct1vとする。式(1)において、I1は変圧器50の一次側電流、n1は第1変流器2の過電流定数、Ir1は第1変流器2の一次側の定格電流である。
【0068】
【数1】
【0069】
上述した第1値、第2値を求めるための式(1)、第1変流器2の過電流定数n1、および定格電流Ir1の情報等は、例えば、予め記憶部13に記憶されている。
【0070】
第2変流比誤差比率算出部18は、第2変流比誤差比率Kct2vを算出するための機能部である。第2変流比誤差比率Kct2vは、第2変流器3の変流比の誤差に基づく値である。第2変流比誤差比率算出部18は、第2変流器3の定格電流(一次側)に基づく第2定格電流閾値I2rthと二次側電流I2とを比較し、その比較結果に基づいて第2変流比誤差比率Kct2vを決定する。
【0071】
ここで、二次側電流I2は、第2変流比Nct2および第2検出電流I2sに基づいて算出される電流(=|Nct2×I2s|)である。第2定格電流閾値I2rthは、例えば、第2変流器3の一次側の定格電流そのものであってもよいし、第2変流器3の一次側の定格電流の値に所定値を加算、減算、または乗算等した値であってもよい。すなわち、第2定格電流閾値I2rthは、第2変流器3の定格電流を基準に定めた値であればよい。第2定格電流閾値I2rthの値は、例えば、記憶部13に記憶されている。以下の説明では、一例として、第2変流器3の定格電流値を第2定格電流閾値I2rthとする。
【0072】
第2変流比誤差比率算出部18は、第2変流器3が定格領域で動作している場合、すなわち二次側電流I2が第2定格電流閾値I2rthより小さい場合に、第2変流比誤差比率Kct2vを第3値に設定する。例えば、第2定格電流閾値I2rthが300A、第2変流器3の定格領域における変流比の誤差が1%である場合に、二次側電流I2が200Aであったとき、第2変流比誤差比率算出部18は、第2変流比誤差比率Kct2vを第3値(=1%)に設定する。
【0073】
一方、第2変流器3が過電流領域で動作している場合、すなわち二次側電流I2が第2定格電流閾値I2rth以上である場合、第2変流比誤差比率算出部18は、第2変流比誤差比率Kct2vを第3値より大きい第4値に設定する。具体的には、第2変流比誤差比率算出部18は、二次側電流I2に応じて第2変流比誤差比率Kct2v(第4値)が大きくなるようにする。例えば、第2変流比誤差比率算出部18は、下記式(2)にしたがって第4値を算出し、第2変流比誤差比率Kct2vとする。式(2)において、I2は変圧器50の二次側電流、n2は第2変流器3の過電流定数、Ir2は第2変流器3の一次側の定格電流である。
【0074】
【数2】
【0075】
上述した第3値、第4値を求めるための式(2)、第2変流器3の過電流定数n2、および定格電流Ir2の情報等は、例えば、予め記憶部13に記憶されている。
【0076】
比率特性動作値算出部19は、第1比率特性動作値Kset1を算出する機能部である。比率特性動作値算出部19は、基準比率Kbと、第1変流比誤差比率算出部17によって算出された第1変流比誤差比率Kct1vと、第2変流比誤差比率算出部18によって算出された第2変流比誤差比率Kct2vとに基づいて、第1比率特性動作値Kset1を算出する。具体的には、比率特性動作値算出部19は、下記式(3)にしたがって第1比率特性動作値Kset1を算出する。
【0077】
【数3】
【0078】
基準比率Kbは、第1比率特性動作値Kset1を決定する上で基準となる値である。基準比率Kbは、固定値であり、例えば記憶部13に予め設定されている。基準比率Kbは、例えば、変圧器50のタップ数、換言すれば、実際に変圧器50を運用するときの変圧比の変動幅、を考慮して予め設定しておくことが好ましい。すなわち、変圧比の変動幅が大きいほど基準比率Kbの値が大きくなるように設定することが好ましい。
【0079】
ここで、基準比率Kbは、変圧比Ntrの計算の可否に応じて値を切り替えてもよい。例えば、変圧器50の一次側電流および二次側電流が非常に小さいとき、変圧比Ntrを正確に算出できない場合がある。この場合には、基準比率Kbを大きな値に設定し、第1比率特性動作値Kset1をより大きな値に設定することが好ましい。
【0080】
そこで、例えば、比率特性動作値算出部19は、第1変流器2の第1検出電流I1sが第1最小電流閾値I1sth以上であること、および第2変流器3の第2検出電流I2sが第2最小電流閾値I2sth以上であることの少なくとも一方が満たされた場合に、基準比率Kbを“K1”に設定し(Kb=K1)、第1変流器2の第1検出電流I1sが第1最小電流閾値I1sthより小さく、且つ第2変流器3の第2検出電流I2sが第2最小電流閾値I2sthより小さい場合に、基準比率KbをK1より大きい“K0”に設定してもよい(Kb=K0(>K1))。
【0081】
更に、基準比率Kbのみならず、第1最小動作値Ids1の値も変圧比Ntrの算出の可否に応じて変更してもよい。例えば、比率特性動作値算出部19は、第1変流器2の第1検出電流I1sが第1最小電流閾値I1sth以上であること、および第2変流器3の第2検出電流I2sが第2最小電流閾値I2sth以上であることの少なくとも一方が満たされた場合に、変圧比Ntrの算出が可能と判定し、第1最小動作値Ids1を“α”に設定する(Ids1=α)。一方、第1変流器2の第1検出電流I1sが第1最小電流閾値I1sthより小さく、且つ第2変流器3の第2検出電流I2sが第2最小電流閾値I2sthより小さい場合に、比率特性動作値算出部19は、変圧比Ntrの算出が不可能と判定し、第1最小動作値Ids1をαより大きい“β”に設定してもよい(Ids1=β(>α))。
【0082】
比率特性動作値算出部19は、このようにして算出した第1比率特性動作値Kset1を記憶部13に設定する。
【0083】
上述した手法により、第1整定値131としての第1比率特性動作値Kset1を算出することにより、従来よりも比率差動継電器の動作範囲を広げることが可能となる。例えば、図2に示すように、変圧器50の定格電流が300A(第1定格電流閾値I1rth=300A)である場合に、変圧器50の一次側電流I1が定格電流(300A)を超えた範囲では、変圧器50の一次側電流I1が大きくなるにつれて第1比率特性動作値Kset1が緩やかに増加するので、比率差動継電器の動作範囲が、図3に示す従来の比率差動継電器の動作範囲に比べて広くなり、異常検出の感度を向上させることが可能となる。
【0084】
第1異常判定部15は、比率算出部14によって算出された差電流Idと抑制電流Isとの比率Kと記憶部13に記憶されている第1整定値131とを比較し、比較結果に基づいて変圧器50が異常であるか否かを判定する。
【0085】
具体的に、第1異常判定部15は、比率Kが第1比率特性動作値Kset1以上であり、且つ差電流Idが第1最小動作値Ids1以上である場合に時間の計測を開始する。例えば、第1異常判定部15は、タイマ150を有している。第1異常判定部15は、比率Kが第1比率特性動作値Kset1以上であり、且つ差電流Idが第1最小動作値Ids1以上である状態を検出したとき、記憶部13に記憶されているタイマ設定値をタイマ150にセットし、タイマ150を起動して時間の計測を開始する。第1異常判定部15は、比率Kが第1比率特性動作値Kset1以上であり、且つ差電流Idが第1最小動作値Ids1以上である状態が継続している間、タイマ150による時間の計測を継続させる。
【0086】
一方、第1異常判定部15は、タイマ150による時間の計測開始後に、比率Kが第1比率特性動作値Kset1以上であり、且つ差電流Idが第1最小動作値Ids1以上である状態が解消された場合、すなわち、比率Kが第1比率特性動作値Kset1より低い状態および差電流Idが第1最小動作値Ids1より低い状態の少なくとも一方の状態を検出した場合に、タイマ150による時間の計測を停止させて、タイマ150の計測時間をリセットする。
【0087】
なお、タイマ設定値として任意の値を記憶部13に設定することが可能となっている。例えば、より速やかに変圧器50の異常を検出した場合には、タイマ設定値を小さくし、誤検知をより回避したい場合にはタイマ設定値を大きくすればよい。
【0088】
第1異常判定部15は、タイマ150の計測時間が所定時間(タイマ設定値)に到達した場合、すなわち、比率Kが第1比率特性動作値Kset1以上であり、且つ差電流Idが第1最小動作値Ids1以上である状態が所定時間継続した場合に、変圧器50が異常であると判定する。
【0089】
制御信号出力部16は、第1異常判定部15の判定結果に基づいて制御信号Scを生成して出力する。例えば、制御信号出力部16は、第1異常判定部15によって変圧器50の異常が検出された場合に、遮断器を開状態(OFF)とする制御信号Scを出力する。
【0090】
次に、実施の形態1に係る比率差動継電器1による変圧器50の異常判定処理の流れについて説明する。
【0091】
図6は、実施の形態1に係る比率差動継電器1による変圧器50の異常判定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0092】
先ず、比率差動継電器1において、変圧器50に係る電流を算出する(ステップS1)。具体的には、上述したように、第1電流測定回路4が第1変流器2の第1検出電流I1sを測定してデータ処理制御回路8に与え、第2電流測定回路5が第2変流器3の第2検出電流I2sを測定してデータ処理制御回路8に与える。そして、データ処理制御回路8において、変圧比算出部11が、上述した手法により、変圧比Ntrを算出し、差電流算出部9が、上述した手法により、差電流Idを算出し、抑制電流算出部10が、上述した手法により、抑制電流Isを算出する。
【0093】
次に、比率差動継電器1は、変圧器50のロックが必要か否かを判定する(ステップS2)。具体的には、一次側電流I1が第1変流器2の過電流定数に基づく最大閾値電流以上、および二次側電流I2が第2変流器3の過電流定数に基づく最大閾値電流以上の少なくとも一方を満たす場合に、データ処理制御回路8が、変圧器50のロックが必要と判定し、遮断器を開状態(OFF)とする制御信号Scを出力して、変圧器50への電力供給と変圧器50からの電力出力を停止させる。
【0094】
一方、一次側電流I1が第1変流器2の過電流定数に基づく最大閾値電流より小さく、且つ二次側電流I2が第2変流器3の過電流定数に基づく最大閾値電流より小さい場合に、比率差動継電器1は、変圧器50の変圧比Ntrの算出が可能か否かを判定する(ステップS3)。具体的には、上述したように、データ処理制御回路8が、、第1変流器2の第1検出電流I1sが第1最小電流閾値I1sth以上、および第2変流器3の第2検出電流I2sが第2最小電流閾値I2sth以上の少なくとも一方を満たしているか否かを判定する。
【0095】
第1変流器2の第1検出電流I1sが第1最小電流閾値I1sth以上、および第2変流器3の第2検出電流I2sが第2最小電流閾値I2sth以上の少なくとも一方を満たしている場合に、データ処理制御回路8は、変圧比Ntrの算出が可能と判定し(ステップS3:YES)、上述したように、基準比率Kbを“K1”に設定する(ステップS4)。
【0096】
また、データ処理制御回路8は、上述した手法により、第1変流比誤差比率Kct1vおよび第2変流比誤差比率Kct2vを算出する(ステップS5)。具体的には、第1変流比誤差比率算出部17は、一次側電流I1が第1定格電流閾値I1rthより小さい場合に、第1変流比誤差比率Kct1vを第1値(例えば、1%)に設定し、一次側電流I1が第1定格電流閾値I1rth以上である場合に、第1変流比誤差比率Kct1vを第1値より大きい第2値に設定する(上記式(1)参照)。同様に、第2変流比誤差比率算出部18は、二次側電流I2が第2定格電流閾値I2rthより小さい場合に、第2変流比誤差比率Kct2vを第3値(例えば、1%)に設定し、二次側電流I2が第2定格電流閾値I2rth以上である場合に、第2変流比誤差比率Kct2vを第3値より大きい第4値に設定する(上記式(2)参照)。
【0097】
次に、データ処理制御回路8は、第1整定値131を算出する(ステップS6)。具体的には、比率特性動作値算出部19は、ステップS4で決定した基準比率Kb(=K1)と、ステップS5で算出した第1変流比誤差比率Kct1vおよび第2変流比誤差比率Kct2vとに基づいて、第1比率特性動作値Kset1=K1+Kct1v+Kct2vを算出するとともに、第1最小動作値Ids1をαとする。そして、第1比率特性動作値Kset1(=K1+Kct1v+Kct2v)および第1最小動作値Ids1(=α)を第1整定値131として記憶部13に設定する。
【0098】
一方、ステップS3において、第1変流器2の第1検出電流I1sが第1最小電流閾値I1sthより小さい、または第2変流器3の第2検出電流I2sが第2最小電流閾値I2sthより小さい場合に、データ処理制御回路8は、変圧比Ntrの算出が不可能と判定し(ステップS3:NO)、上述したように、基準比率Kbを“K0(>K1)”に設定する(ステップS7)。また、データ処理制御回路8は、ステップS5と同様に、第1変流比誤差比率Kct1vおよび第2変流比誤差比率Kct2vを算出する(ステップS8)。
【0099】
次に、データ処理制御回路8は、第1整定値131を算出する(ステップS9)。具体的には、比率特性動作値算出部19は、ステップS7で決定した基準比率Kb(=K0)と、ステップS8で算出した第1変流比誤差比率Kct1vおよび第2変流比誤差比率Kct2vとに基づいて、第1比率特性動作値Kset1=K0+Kct1v+Kct2vを算出するとともに、第1最小動作値Ids1をβ(>α)とする。そして、第1比率特性動作値Kset1(=K0+Kct1v+Kct2v)および第1最小動作値Ids1(=β)を第1整定値131として記憶部13に設定する。これにより、変圧比Ntrが算出不可能な場合の第1比率特性動作値Kset1および第1最小動作値Ids1は、変圧比Ntrが算出可能な場合の第1比率特性動作値Kset1および第1最小動作値Ids1よりも大きくなる。
【0100】
ステップS6またはステップS9の後、比率算出部14が、上述した手法により、比率K(=Id/Is)を算出する(ステップS10)。次に、第1異常判定部15が、変圧器50の異常の有無を判定する(ステップS11)。具体的には、第1異常判定部15は、比率Kが第1比率特性動作値Kset1以上であり、且つ差電流Idが第1最小動作値Ids1以上であるか否かを判定する。
【0101】
比率Kが第1比率特性動作値Kset1以上であり、且つ差電流Idが第1最小動作値Ids1以上である場合(ステップS11:YES)、第1異常判定部15は、タイマ150にタイマ設定値をセットし、タイマ150による時間の計測を開始する(ステップS12)。一方、比率Kが第1比率特性動作値Kset1より小さい、または差電流Idが第1最小動作値Ids1より小さい場合(ステップS11:NO)、第1異常判定部15は、タイマ150の計測時間をリセットする(ステップS13)。その後、比率差動継電器1は、ステップS1に戻る。
【0102】
ステップS12の後、第1異常判定部15は、タイマ150による計測時間がタイマ設定値(所定時間)に到達したか否かを判定する(ステップS14)。計測時間がタイマ設定値(所定時間)に到達していない場合(ステップS14:NO)、比率差動継電器1は、ステップS1に戻る。
【0103】
一方、計測時間がタイマ設定値(所定時間)に到達した場合(ステップS14:YES)、第1異常判定部15は、変圧器50が異常であると判定する(ステップS15)。次に、制御信号出力部16が、遮断器を開状態(OFF)とする制御信号Scを出力することにより、変圧器50に接続されている遮断器を開状態にして、変圧器50への電力供給と変圧器50からの電力出力を停止する(ステップS16)。
【0104】
以上、実施の形態1に係る比率差動継電器1は、第1変流器2の第1変流比Nct1に基づいて第1検出電流I1sを一次側電流I1に換算した電流である第1電流(Is1×Nct1)と、第2変流器3の第2変流比Nct2および変圧比Ntrに基づいて第2検出電流I2sを一次側電流に換算した電流である第2電流(Is2×Nct2×Ntr)との差である差電流Id(=|I1s×Nct1+I2s×Nct2×Ntr|)を算出し、第1電流の絶対値と第2電流の絶対値との和である抑制電流Is(=|Is1×Nct1|+|Is2×Nct2×Ntr|)を算出する。そして、比率差動継電器1は、差電流Idと抑制電流Isとの比率Kを算出し、比率Kと第1整定値131とを比較することにより、変圧器50の異常の有無を判定する。
【0105】
これによれば、従来の比率差動継電器のように、変流比および変圧比が理論値であることを前提として変流器から出力される検出電流の差電流と抑制電流を算出する場合に比べて、実際の変圧比および変流比の理論値に対する誤差を考慮して差電流および抑制電流を算出することができる。これにより、変圧器の異常判定処理に用いる整定値(比率特性)を決定する際に考慮すべき誤差成分が減るので、従来の比率差動継電器1に比べて整定値をより低くすることができ、比率差動継電器の動作範囲を広げること、すなわち変圧器に対する異常検出の感度を向上させること、が可能となる。また、上述した差電流および抑制電流の算出処理等をソフトウェアによるプログラム処理によって実現することができるので、新たなハードウェアを追加する必要がなく、比率差動継電器の製造コストを抑えることが可能となる。
【0106】
また、実施の形態1に係る比率差動継電器1は、第1変流比Nct1および第1検出電流I1sに基づいて算出した一次側電流(I1s×Nct1)と第2変流比Nct2および第2検出電流I2sに基づいて算出した二次側電流(I2s×Nct2)との比に基づいて変圧比Ntr(=I1s×Nct1/(I2s×Nct2))を算出する。
【0107】
これによれば、変圧器のタップが切り替わった場合であっても、そのときのタップの状態を考慮した適切な変圧比Ntrを用いて差電流および抑制電流を高制度に算出することが可能となる。これにより、変圧器の異常判定処理に用いる整定値(比率特性)を決定する際に考慮すべき変圧比の変動分をより減らすことができるので、従来の比率差動継電器に比べて整定値をより低くすることができ、変圧器に対する異常検出の感度をより向上させることが可能となる。また、既存の変流器によって検出した第1検出電流I1sおよび第2検出電流I2sに基づいて変圧比Ntrを算出するので、変圧比を算出するために新たなハードウェアを設ける必要がない。
【0108】
また、実施の形態1に係る比率差動継電器1は、変圧器50の一次側電流I1および二次側電流I2の少なくとも一方の大きさに応じて第1比率特性動作値Kset1が大きくなるように第1整定値131を決定する。
【0109】
上述したように、一般的な変流器は検出対象の電流が大きくなるほど変流比の誤差が大きくなる傾向があるので、変流器によって検出する一次側電流I1および二次側電流I2の少なくとも一方に大きさに応じて第1比率特性動作値Kset1を変化させることにより、変圧器の実際の動作状態に応じた適切な整定値を設定することができる。これによれば、整定値を決定する際に考慮すべき誤差成分をより減らすことができるので、従来の比率差動継電器のように変流器の変流比の最大誤差を一律に考慮して整定値を設定する場合に比べて整定値をより低くすることができ、変圧器に対する異常検出の感度をより向上させることが可能となる。
【0110】
また、実施の形態1に係る比率差動継電器1は、一次側電流I1と第1変流器2の定格電流に基づく第1定格電流閾値I1rthとを比較し、一次側電流I1が第1定格電流閾値I1rthより小さい場合に第1変流比誤差比率Kct1vを第1値に設定し、一次側電流I1が第1定格電流閾値I1rth以上である場合に第1変流比誤差比率Kct1vを第1値より大きい第2値に設定する。また、二次側電流I2と第2変流器3の定格電流に基づく第2定格電流閾値I2rthとを比較し、二次側電流I2が第2定格電流閾値I2rthより小さい場合に第2変流比誤差比率Kct2vを第3値に設定し、二次側電流I2が第2定格電流閾値I2rth以上である場合に第2変流比誤差比率Kct2vを第3値より大きい第4値に設定する。そして、比率差動継電器1は、基準比率Kbと、第1変流比誤差比率Kct1vと、第2変流比誤差比率Kct2vとを加算して第1比率特性動作値Kset1(=Kb+Kct1v+Kct2v)を算出する。
【0111】
上述したように、変流器において、検出対象の電流が定格領域にある場合の変流比の誤差は、検出対象の電流が過電流領域にある場合の変流比の誤差よりも小さい。そこで、実施の形態1に係る比率差動継電器1のように、一次側電流I1および二次側電流I2が定格領域と過電流領域のどちらに存在するかを判定し、その判定結果に応じて第1変流比誤差比率Kct1vおよび第2変流比誤差比率Kct2vの算出方法を切り替えることにより、変圧器の実際の動作状態に応じた適切な整定値を設定することが容易となる。
【0112】
また、実施の形態1に係る比率差動継電器1は、第1検出電流I1sと第1最小電流閾値I1sthとを比較するとともに、第2検出電流I2sと第2最小電流閾値I2sthとを比較し、第1検出電流I1sが第1最小電流閾値I1sthより大きく且つ第2検出電流I2sが第2最小電流閾値I2sthより大きい場合に、基準比率Kbを第5値(K1)に設定し、第1検出電流I1sが第1最小電流閾値I1sth以下、および第2検出電流I2sが第2最小電流閾値I2sth以下の少なくとも一方を満足する場合に、基準比率Kbを第5値よりも大きい第6値(K0)に設定してもよい。
【0113】
これによれば、上述したように、変圧比Nctが正確に算出できない状態において、より誤検知が発生しないように整定値を定めることができるので、変圧器の異常検出の精度を向上させることが可能となる。
【0114】
また、実施の形態1に係る比率差動継電器1は、比率Kが第1比率特性動作値Kset1以上であり、且つ差電流Idが第1最小動作値Ids1以上である場合に時間の計測を開始し、計測した時間が所定時間(タイマ設定値)に到達した場合に、変圧器50が異常であると判定する。
【0115】
これによれば、変圧器50が通常動作を行っている状況において、負荷変動等により、瞬間的に、比率Kが第1比率特性動作値Kset1以上、且つ差電流Idが第1最小動作値Ids1以上の状態になった場合には、異常検出を行わないようにすることが可能となる。これにより、従来の比率差動継電器に比べて、小さな差電流に対する検出の感度を向上させつつ、過渡的な電流変化に対する検出の感度を抑えることが可能となる。
【0116】
≪実施の形態2≫
図7は、実施の形態2に係る比率差動継電器1Aにおけるデータ処理制御回路8Aの構成の一例を示す図である。
【0117】
実施の形態2に係る比率差動継電器1Aは、変圧器の異常を検出するための複数の異なる異常判定処理を実行する点において、実施の形態1に係る比率差動継電器1と相違し、その他の点においては、実施の形態1に係る比率差動継電器1と同様である。
【0118】
例えば、実施の形態2に係る比率差動継電器1Aは、異なる異常判定処理を行うための2種類のプログラムがデータ処理制御回路8Aに記憶されている。具体的には、図7に示すように、データ処理制御回路8Aは、上述した実施の形態1に係る異常判定処理のための機能部に加えて、またはそれらの一部に代えて、別の異常判定処理を行うための機能部として、第2異常判定部21および制御信号出力部16Aを有している。
【0119】
第2異常判定部21および制御信号出力部16Aは、他の機能部と同様に、プログラム処理装置としてのデータ処理制御回路8Aにおいて、プロセッサがメモリに記憶されているプログラムに従って各種演算を実行し、その演算結果に基づいて上記周辺回路を制御することによって実現される。
【0120】
第2異常判定部21は、記憶部13に記憶された第2整定値132と比率Kに基づいて、変圧器50の異常の有無を判定する。
【0121】
第2整定値132は、例えば、予め記憶部13に記憶されている。第2整定値132は、抑制電流Isと差電流Idとの比率の閾値である第2比率特性動作値Kset2と、差電流Idの閾値である第2最小動作値Ids2とを含む。第2比率特性動作値Kset2および第2最小動作値Ids2は、それぞれ固定値である。
第2比率特性動作値Kset2および第2最小動作値Ids2は、例えば、図3に示した比率特性を実現するように構成されており、第2比率特性動作値Kset2は“Kx”であり、第2最小動作値Ids2は“Idsx”である。
【0122】
第2異常判定部21は、比率Kが第2比率特性動作値Kset2(=Kx)以上であり、且つ差電流Idが第2最小動作値Ids2(=Idsx)以上である場合に、変圧器50が異常であると判定する。
【0123】
制御信号出力部16Aは、第1異常判定部15および第2異常判定部21の少なくとも一方が、変圧器50が異常であると判定した場合に、遮断器を遮断するための制御信号Scを生成して出力する。
【0124】
以上、実施の形態2に係る比率差動継電器1Aによれば、第1整定値131を用いた第1異常判定部15による異常判定処理に加えて、第1整定値131とは異なる第2整定値132を用いた第2異常判定部21による異常判定処理を行うので、より高精度に変圧器50の異常を検出することが可能となる。
【0125】
例えば、上述したように、第2整定値132としての第2比率特性動作値Kset2(=Kx)および第2最小動作値Ids2(=Idsx)をそれぞれ固定値とすることにより、図3に示した従来の比率差動継電器と同様の機能を持たせつつ、第1整定値131に基づく新たなアルゴリズムの異常判定処理を行うことができる。これにより、新たなアルゴリズムの異常判定処理によって層間短絡等の小さな差電流が生じる事故を高精度に検出しつつ、従来の比率差動継電器と同様のアルゴリズムの異常判定処理によって、変圧器の内部短絡等の大きな差電流が生じる事故を速やかに検出して、変圧器を即時に遮断することが可能となる。
【0126】
≪実施の形態の拡張≫
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0127】
例えば、上記実施の形態では、第1変流器2および第2変流器3によって検出した第1検出電流I1sおよび第2検出電流I2sに基づいて変圧比Ntrを算出する方法を例示したが、これに限られない。例えば、変圧器50における一次側の電圧の測定値と二次側の電圧の測定値との比に基づいて変圧比Ntrを算出してもよい。
【0128】
この場合、例えば、計器用変圧器(VT:Voltage Transformer)を変圧器50の一次側と二次側にそれぞれ設け、各計器用変圧器から出力される電圧を電圧測定回路(フィルタ回路およびA/D変換回路等)によって測定し、その測定値をデータ処理制御回路8,8Aに入力する。データ処理制御回路8,8Aは、電圧測定回路から出力された一次側および二次側の電圧の測定値を用いて変圧比Ntrを算出する。これによれば、電流を測定する場合と同様に、変圧器50の実際の変圧比を算出することが可能となる。
【0129】
上記実施の形態に係る比率差動継電器1,1Aにおいて、データ処理制御回路8,8Aは、自ら算出した変圧比Ntrの情報を外部に出力してもよい。また、比率差動継電器1,1Aは、算出した変圧比Ntrに基づいて変圧器50のタップの情報を生成し、外部に出力してもよい。例えば、データ処理制御回路8,8Aは、変圧器50の取り得るタップ値と変圧比Ntrとの対応関係を表す対応関係情報(関数またはテーブル)を記憶部13に記憶しておき、上記対応関係情報を用いて、算出した変圧比Ntrに対応するタップ値を算出し、タップ情報として内部の記憶装置に記憶し、外部に出力してもよい。これによれば、新たなハードウェアを設けることなく、変圧器50のタップ情報をユーザに提示することが可能となる。
【0130】
また、上述のフローチャートは、動作を説明するための一例を示すものであって、これに限定されない。すなわち、フローチャートの各図に示したステップは具体例であって、このフローに限定されるものではない。例えば、一部の処理の順番が変更されてもよいし、各処理間に他の処理が挿入されてもよいし、一部の処理が並列に行われてもよい。
【符号の説明】
【0131】
1,1A…比率差動継電器、2…第1変流器、3…第2変流器、4…第1電流測定回路、5…第2電流測定回路、6_1,6_2…フィルタ回路、7_1,7_2…アナログ/デジタル変換回路(ADC)、8…データ処理制御回路、9…差電流算出部、10…抑制電流算出部、11…変圧比算出部、12…整定値決定部、13…記憶部、14…比率算出部、15…第1異常判定部、16,16A…制御信号出力部、21…第2異常判定部、50…変圧器、131…第1整定値、132…第2整定値、I1…一次側電流、I2…二次側電流、I1s…第1検出電流、I2s…第2検出電流、Id…差電流、Is…抑制電流、Ids1…第1最小動作値、Ids2…第2最小動作値、I1rth…第1定格電流閾値、I2rth…第2定格電流閾値、I1sth…第1最小電流閾値、I2sth…第2最小電流閾値、Kset1…第1比率特性動作値、Kset2…第2比率特性動作値、Kb…基準比率、Kct1v…第1変流比誤差比率、Kct2v…第2変流比誤差比率、Nct1…第1変流比、Nt2…第2変流比、Ntr…変圧比。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7