(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115380
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】有機性排水の処理方法及び有機性排水の処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 3/12 20230101AFI20240819BHJP
【FI】
C02F3/12 F
C02F3/12 M
C02F3/12 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021048
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】豊島 光康
(72)【発明者】
【氏名】二見 賢一
【テーマコード(参考)】
4D028
【Fターム(参考)】
4D028BB06
4D028BC18
4D028BD11
4D028BD16
4D028CA04
4D028CA07
4D028CA11
4D028CA12
4D028CC09
(57)【要約】
【課題】余剰汚泥の大量発生が生じ得る高負荷条件下での処理においても安定して汚泥の減容化を図ることが可能な有機性排水の処理方法及び有機性排水の処理装置を提供する。
【解決手段】有機性排水を、第1生物処理槽2と、第1生物処理槽2よりも低いBOD-SS負荷で処理する第2生物処理槽3とにおいて、活性汚泥の存在下で生物処理し、第2生物処理槽3の生物処理液を固液分離して得られる分離汚泥を第1生物処理槽2へ返送することを含み、第1生物処理槽2の溶存酸素濃度を0.1~10mg/Lになるように制御し、第1生物処理槽2及び第2生物処理槽3で構成される生物処理の全槽のBOD容積負荷が1.0kg/(m
3・d)よりも高くなるように生物処理を行うとともに第2生物処理槽3の水理学的滞留時間を第1生物処理槽2の水理学的滞留時間よりも長くする有機性排水の処理方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性排水を、第1生物処理槽と、前記第1生物処理槽よりも低いBOD-SS負荷で処理する第2生物処理槽とにおいて、活性汚泥の存在下で生物処理し、前記第2生物処理槽の生物処理液を固液分離して得られる分離汚泥を前記第1生物処理槽へ返送することを含み、
前記第1生物処理槽の溶存酸素濃度を0.1~10mg/Lになるように制御し、前記第1生物処理槽及び前記第2生物処理槽で構成される生物処理の全槽のBOD容積負荷が1.0kg/(m3・d)よりも高くなるように生物処理を行うとともに前記第2生物処理槽の水理学的滞留時間を前記第1生物処理槽の水理学的滞留時間よりも長くすることを特徴とする有機性排水の処理方法。
【請求項2】
前記第1生物処理槽の生物処理液のBODが、前記第1生物処理槽へ流入する前記有機性排水のBODに対して重量比で3.0~25%となるように前記第1生物処理槽の生物処理液中にBODを残存させ、前記BODを残存させた前記生物処理液を前記第2生物処理槽内に導入して、前記第2生物処理槽内において汚泥を可溶化処理することを特徴とする請求項1に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項3】
前記第1生物処理槽のBOD-SS負荷が0.1~1.5kg/(kg・d)となるように生物処理することを特徴とする請求項1又は2に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項4】
前記第1生物処理槽の溶存酸素濃度が0.1~2.0mg/Lとなるように曝気風量を調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項5】
前記全槽のBOD容積負荷が1.2~2.0kg/(m3・d)となるようにBOD容積負荷を調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項6】
前記第1生物処理槽の水理学的滞留時間が3~15時間となるように調整し、且つ前記全槽の水理学的滞留時間が10~35時間となるように調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項7】
前記分離汚泥を前記第1生物処理槽へ流入する前記有機性排水の流量の50~200流量%となるように前記第1生物処理槽へ返送することを特徴とする請求項1又は2に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項8】
前記第2生物処理槽の生物処理を複数の生物処理槽を用いて行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項9】
有機性排水を生物処理して第1生物処理液を得る第1生物処理槽と、
前記第1生物処理槽の生物処理液を、前記第1生物処理槽よりも低いBOD-SS負荷で活性汚泥処理する第2生物処理槽と、
前記第1生物処理槽及び前記第2生物処理槽に空気を供給可能な曝気手段と、
前記第1生物処理槽の溶存酸素濃度が0.1~10mg/Lになるように制御する制御手段と、
前記第2生物処理槽の生物処理液を固液分離する固液分離槽と、
前記固液分離槽で固液分離された分離汚泥を前記第1生物処理槽へ返送する返送ラインとを備え、
前記第1生物処理槽及び前記第2生物処理槽で構成される生物処理の全槽のBOD容積負荷が1.0kg/(m3・d)よりも高く、前記第2生物処理槽の水理学的滞留時間が前記第1生物処理槽の水理学的滞留時間よりも長いことを特徴とする有機性排水の処理装置。
【請求項10】
前記第2生物処理槽が、溶存酸素濃度の異なる複数の生物処理槽を備えることを特徴とする請求項9に記載の有機性排水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性排水の処理方法及び有機性排水の処理装置に関し、例えば、活性汚泥法を用いた有機性排水の処理に好適な有機性排水の処理方法及び有機性排水の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
農業、畜産業、漁業、し尿、化学産業、製造産業、食品製造業から排出される有機性排水を処理する方法として活性汚泥法が一般的に知られている。しかしながら、活性汚泥法は、生物処理をする際には大量に余剰汚泥が発生する。余剰汚泥は、廃水処理設備の増加に伴い年々増加しており、その処分費用や汚泥の埋め立て地確保が問題となっている。余剰汚泥を適切に処理するために、殺菌剤、薬剤、酸・アルカリ、オゾン等を用いた化学的処理法、或いは、水熱反応、加圧、湿式ビーズミル、超音波等を用いた物理的処理法に関する研究開発が古くから行われており、これらの技術により汚泥減容効果が得られることが確認されている。
【0003】
近年、大量消費型社会から資源循環型社会への転換が求められてきている。しかしながら、上記の汚泥減容化方法は、多大なエネルギーや労力が必要な場合が多いため、実用化されている例は少ない。
【0004】
特開2016-155069号公報は、クラフトパルプ製造由来の排水を含む工場排水を過酸化水素併用オゾン処理する工程と、活性汚泥処理する工程を有し、前記活性汚泥処理する工程では、活性汚泥処理を行う少なくとも1つの曝気槽の溶存酸素濃度を0.1~5.0mg/lとする排水の処理方法が記載されている。
【0005】
特開2022-48468号公報は、余剰汚泥の安定した削減に加えて、最終の処理水のCODCr値の低減を両立するために、有機性廃水を分散菌が生息する第1生物処理槽で処理し、該第1生物処理槽の処理水を活性汚泥処理する第2生物処理槽に導入して生物処理する2相式活性汚泥法を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-155069号公報
【特許文献2】特開2022-48468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
汚泥減容化技術の根本的な原理は、有機物である汚泥を溶解させることにある。薬剤やオゾンにより可溶化した汚泥を曝気槽に返送して処理に用いる際、これら手段により可溶化した汚泥は、一定の滞留時間で馴致を経なければ処理に寄与しない。そのため、場合によっては処理不良が起こる可能性がある。特に、余剰汚泥が大量に発生する高負荷条件時は、汚泥減容に伴い、汚泥由来の有機物、窒素、リンが増加することになり、結果的に処理水水質の悪化をもたらす場合がある。
【0008】
特許文献1は、活性汚泥処理を行う少なくとも1つの曝気槽の溶存酸素濃度を適切に制御することを提案している。しかしながら、酸素濃度以外の他の制御因子も考慮しないと汚泥の減容効果が安定して得られるとは言えず、処理水水質の悪化抑制に繋がらない場合がある。また、特許文献1は、そもそもクラフトパルプ製造由来の排水の処理工程において発生する臭気と臭素酸を低減させるための発明であり、有機性排水の活性汚泥処理による余剰汚泥の大量発生の問題及び汚泥減容化の課題については全く検討されていない。
【0009】
特許文献2は、高負荷槽と低負荷槽を配置し、高負荷槽のBOD容積負荷を1.5~20kg/m3・日及び水理学的滞留時間(HRT)を0.5~12時間に設定して処理するとともに、低負荷槽から高負荷槽に汚泥を返送するシーディングを適切な比率とすることで、汚泥削減と処理水のCODcrの低減を図ることが提案されている。しかしながら、特許文献2は、高負荷槽と低負荷槽とを含めた生物処理の全槽の容積負荷については記載されておらず、多く見積もっても1.0kg/m3・日程度と低く、生物処理全槽の容積負荷が1.0kg/m3・日を超えるような、余剰汚泥が大量に発生する高負荷条件での処理は全く検討されていない。
【0010】
上記課題に鑑み、本発明は、余剰汚泥の大量発生が生じ得る高負荷条件下での処理においても安定して汚泥の減容化を図ることが可能な有機性排水の処理方法及び有機性排水の処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、高負荷処理と低負荷処理とを有する二段活性汚泥法を採用し、高負荷槽と低負荷槽との生物処理のバランスをそれぞれ適正化するとともに、高負荷槽の溶存酸素濃度を適正化することが有効であるとの知見を得た。
【0012】
上記課題を解決するために、本開示は一側面において、有機性排水を、第1生物処理槽と、第1生物処理槽よりも低いBOD-SS負荷で処理する第2生物処理槽とにおいて、活性汚泥の存在下で生物処理し、第2生物処理槽の生物処理液を固液分離して得られる分離汚泥を第1生物処理槽へ返送することを含み、第1生物処理槽の溶存酸素濃度を0.1~10mg/Lになるように制御し、第1生物処理槽及び第2生物処理槽で構成される生物処理の全槽のBOD容積負荷が1.0kg/(m3・d)よりも高くなるように生物処理を行うとともに第2生物処理槽の水理学的滞留時間を第1生物処理槽の水理学的滞留時間よりも長くする有機性排水の処理方法である。
【0013】
本発明に係る有機性排水の処理方法は一実施態様において、第1生物処理槽の生物処理液のBODが、第1生物処理槽へ流入する有機性排水のBODに対して重量比で3.0~25%となるように第1生物処理槽の生物処理液中にBODを残存させ、BODを残存させた生物処理液を第2生物処理槽内に導入して、第2生物処理槽内において汚泥を可溶化処理する。
【0014】
本発明に係る有機性排水の処理方法は別の一実施態様において、第1生物処理槽のBOD-SS負荷が0.1~1.5kg/(kg・d)となるように生物処理する。
【0015】
本発明に係る有機性排水の処理方法は更に別の一実施態様において、第1生物処理槽の溶存酸素濃度が0.1~2.0mg/Lとなるように曝気風量を調整する。
【0016】
本発明に係る有機性排水の処理方法は更に別の一実施態様において、全槽のBOD容積負荷が1.2~2.0kg/(m3・d)となるようにBOD容積負荷を調整する。
【0017】
本発明に係る有機性排水の処理方法は更に別の一実施態様において、第1生物処理槽の水理学的滞留時間が3~15時間となるように調整し、且つ全槽の水理学的滞留時間が10~35時間となるように調整する。
【0018】
本発明に係る有機性排水の処理方法は更に別の一実施態様において、分離汚泥を第1生物処理槽へ流入する有機性排水の流量の50~200流量%となるように第1生物処理槽へ返送する。
【0019】
本発明に係る有機性排水の処理方法は更に別の一実施態様において、第2生物処理槽の生物処理を複数の生物処理槽を用いて行う。
【0020】
本発明は別の一側面において、有機性排水を生物処理して第1生物処理液を得る第1生物処理槽と、第1生物処理槽の生物処理液を、第1生物処理槽よりも低いBOD-SS負荷で活性汚泥処理する第2生物処理槽と、第1生物処理槽及び第2生物処理槽に空気を供給可能な曝気手段と、第1生物処理槽の溶存酸素濃度が0.1~10mg/Lになるように制御する制御手段と、第2生物処理槽の生物処理液を固液分離する固液分離槽と、固液分離槽で固液分離された分離汚泥を第1生物処理槽へ返送する返送ラインとを備え、第1生物処理槽及び第2生物処理槽で構成される生物処理の全槽のBOD容積負荷が1.0kg/(m3・d)よりも高く、第2生物処理槽の水理学的滞留時間が第1生物処理槽の水理学的滞留時間よりも長い有機性排水の処理装置である。
【0021】
本発明に係る有機性排水の処理装置は別の一実施態様において、第2生物処理槽が、溶存酸素濃度の異なる複数の生物処理槽を備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、余剰汚泥の大量発生が生じ得る高負荷条件下での処理においても安定して汚泥の減容化を図ることが可能な有機性排水の処理方法及び有機性排水の処理装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態に係る有機性排水の処理装置の一例を示す概略図である。
【
図2】第1生物処理槽内の溶存酸素濃度と必要酸素量/BOD-SS負荷との関係の例を表すグラフである。
【
図3】本発明の実施の形態の変形例に係る有機性排水の処理装置の一例を示す概略図である。
【
図4】本発明の実施例に係る有機性排水の処理装置を説明する概略図である。
【
図5】本発明の変形例に係る有機性排水の処理装置を説明する概略図である。
【
図6】本発明の実施例における高負荷処理槽の処理条件推移の例を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施例における処理水の水質測定結果の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図面を参照しながら本発明の実施の形態を以下に説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。なお、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0025】
(有機性排水の処理装置)
本発明の実施の形態に係る有機性排水の処理装置は、
図1に示すように、有機性排水を貯留する貯留槽1と、有機性排水を生物処理して第1生物処理液を得る第1生物処理槽2と、第1生物処理槽2の生物処理液を、第1生物処理槽2よりも低いBOD-SS負荷で活性汚泥処理する第2生物処理槽3と、第1生物処理槽2及び第2生物処理槽3内に空気を供給可能な曝気手段6と、第2生物処理槽3の生物処理液を固液分離する固液分離槽4と、固液分離槽4で固液分離された分離汚泥を第1生物処理槽2へ返送する返送ライン5と、固液分離槽4で固液分離された処理水を収容する処理水槽7とを備える。
【0026】
有機性排水としては、特に限定されないが、典型的には、下水、し尿及び食品工場から排出される有機性排水を対象とすることができる。例えば、生物化学的酸素要求量(BOD濃度)が1000~15000mg/L、より典型的には1500~10000mg/L、更に典型的には2000~5000mg/Lの高有機物濃度の有機性排水が本実施形態に係る有機性排水として好適に利用できる。
【0027】
有機性排水は典型的には窒素及びリンを含む。有機性排水中の窒素及びリン濃度は以下に限定されないが、例えば、全窒素濃度(T-N)が30~150mg/L、より典型的には30~100mg/L、更に典型的には30~70mg/L、全リン濃度(T-P)が5~40mg/L、より典型的には5~20mg/L、更に典型的には5~15mg/Lの有機性排水が特に好適に利用できる。なお、本実施形態において、BOD、T-N、T-Pは被処理水の種類に応じて上水試験法(日本水道協会発行、上水試験方法)または下水試験法(日本下水道協会発行、下水試験方法)に準拠して測定する。有機性排水は市水等で希釈することにより本処理に適した濃度範囲に調整してもよい。
【0028】
第1生物処理槽2は、有機性排水に対して活性汚泥法による生物処理を行うことにより有機性排水中に含まれる有機物を分解させる処理槽である。第1生物処理槽2では、BOD-SS負荷が0.1kg/(kg・d)以上、より典型的には0.1~1.5kg/(kg・d)となるように有機性排水を生物処理する。このような高負荷条件で生物処理を行うことにより、BODの濃度が高い有機性排水でも、BODを効率良く分解できる。
【0029】
第1生物処理槽2におけるBOD-SS負荷は、0.2~1.5kg/(kg・d)とすることが好ましく、0.5~1.5kg/(kg・d)とすることがより好ましく、更には0.8~1.5kg/(kg・d)とすることが好ましく、更には1.2~1.5kg/(kg・d)とすることがより更に好ましい。BOD-SS負荷は、活性汚泥1kgあたりのBOD流入量を評価したものである。第1生物処理槽2におけるBOD-SS負荷を適正範囲に制御することにより、第1生物処理槽2の生物処理における処理性能をより適切に管理及び評価できる。特に、本実施形態では可溶化後の余剰汚泥を第1生物処理槽2に返送するため、BOD-SS負荷に基づく第1生物処理槽2の処理条件の設定を適切に行うことで、余剰汚泥の大量発生が生じ得る高負荷条件下での処理においても安定して有機性排水の処理及び汚泥の減容化を図ることが可能となる。
【0030】
例えば、第1生物処理槽2内の必要酸素量/BOD-SS負荷及び第1生物処理槽2内の有機性排水の溶存酸素濃度は、水温20~25℃において
図2に示すような関係を有する。第1生物処理槽2の溶存酸素濃度を1.0mg/Lに調整したい場合は、
図2の近似曲線式により必要酸素量/BOD-SS負荷は0.32となる。BOD-SS負荷が1kg/(kg・d)である場合、曝気槽1m
3当たり必要な酸素量(必要酸素量)は1日に0.32gとなる。
【0031】
本実施形態によれば、BOD-SS負荷と、溶存酸素濃度と、曝気槽1m
3当たり一日に必要な必要酸素量との関係から、第1生物処理槽2内の溶存酸素量が適切な範囲となるように、第1生物処理槽2内へ供給する曝気風量を制御する。例えば、第1生物処理槽2の溶存酸素濃度が、0.1~10mg/Lの範囲内で、BOD-SS負荷が0.1~1.5kg/(kg・d)となるように、
図2の関係から必要酸素量を求め、必要酸素量に基づいて、より適正な溶存酸素濃度となるように第1生物処理槽2内の曝気風量が制御できる。その結果、可溶化後の余剰汚泥を第1生物処理槽2に返送する場合においても第1生物処理槽2の処理条件を安定して適正な条件に制御できる。これにより、余剰汚泥の大量発生が生じ得る高負荷条件下での処理においても、余剰汚泥の発生を極力少なくして汚泥の減容化を図りながら、長期間安定して清澄な処理水を得ることが可能な有機性排水の処理装置が提供できる。
【0032】
第1生物処理槽2では、有機性排水の負荷変動に伴う処理性能の変動を抑制するために、MLSS濃度を調整することが好ましい。第1生物処理槽2のMLSS濃度が低くなりすぎるとBOD除去が不十分となることがある。一方、第1生物処理槽2のMLSS濃度が高くなりすぎると、第1生物処理槽2における溶存酸素(DO)の制御が難しくなることに加え、必要な曝気量が増加し、処理コストの増加が懸念される。第1生物処理槽2のMLSS濃度は、2000~10000mg/Lとすることが好ましく、3000~8000mg/Lとすることがより好ましく、4000~7000mg/Lとすることが更に好ましい。第1生物処理槽2のMLSS濃度は第1生物処理槽2にMLSS計を配置することによって連続的に測定してもよいし、第1生物処理槽2内の有機性排水をサンプリングして一定期間ごとにバッチ式に測定してもよい。
【0033】
第1生物処理槽2では、第1生物処理槽2における活性汚泥処理を経た生物処理水に、有機性排水由来のBODが一定程度に残存するように、第1生物処理槽2の処理条件が決定されることがより好ましい。具体的には、第1生物処理槽2の生物処理液のBODが、第1生物処理槽2へ流入する有機性排水のBODに対して重量比で3.0~25%となるように第1生物処理槽2の生物処理液中にBODを残存させることが好ましい。BODを残存させた第1生物処理槽2の生物処理液を、後述する第2生物処理槽3内に導入して、第2生物処理槽3内において汚泥を可溶化処理することにより、余剰汚泥の大量発生が生じ得る高負荷条件下での処理においても安定して汚泥の減容化を図ることが可能となる。
【0034】
第1生物処理槽2の生物処理液のBOD残存量が多すぎると、第2生物処理槽3への負荷が高まる一方で、第1生物処理槽2の生物処理液のBOD残存量が少なすぎると、余剰汚泥減容効果及び処理水の水質の向上を安定して両立できなくなる場合もある。よって、第1生物処理槽2の生物処理液のBODは、第1生物処理槽2へ流入する有機性排水のBODに対して重量比で3.0~15%となるように、第1生物処理槽2の生物処理液中にBODを残存させることがより好ましく、更に好ましくは3.0~10%である。
【0035】
一実施態様においては、第1生物処理槽2の生物処理液中にBODが50~250mg/L、好ましくは60~150mg/L、更には80~120mg/L残存するように、第1生物処理槽2の生物処理条件が決定されることが好ましい。
【0036】
第1生物処理槽2の生物処理液の残留BOD量を把握するために、第1生物処理槽2の後段に、簡易的で小規模な固液分離槽(不図示)を配置することが好ましい。この固液分離槽には、BOD計センサ(不図示)等の残留BODを測定するための測定器を配置する。そして、この測定器を用いて第1生物処理槽2の生物処理液の残留BOD量を管理することが好ましい。第1生物処理槽2の生物処理液の残留BOD量の測定結果に基づいて、第1生物処理槽2の生物処理条件を更に調整することで、余剰汚泥減容効果及び処理水水質悪化抑制効果をより向上させることができる。
【0037】
第1生物処理槽2のDOは、0.1~10mg/Lとなるように、曝気風量を調整することにより、処理水中のBOD、溶解性BOD(S-BOD)、CODMn、溶解性CODMnを効果的に除去できる。第1生物処理槽2のDOは、有機性排水、第1生物処理槽2の生物処理水又は最終的に得られる処理水の水質又は二段活性汚泥処理の処理条件に基づいて制御することが好ましい。例えば、第1生物処理槽2のDOを好ましくは1.0~8.0mg/L、より好ましくは4.0~7.0mg/Lに調整することで、第1生物処理槽2の生物処理液のBODを5~50mg/L程度残存するように調整できる。その後、後述する第2生物処理槽3で生物処理液中に残存する汚泥を活性汚泥処理によって溶解させることにより、高濃度の有機性排水であっても活性汚泥法によって効率良く処理を行うことができる。
【0038】
別の一実施態様では、第1生物処理槽2のDOを好ましくは0.1~2.0mg/L、より好ましくは0.1~1.5mg/L、更に好ましくは0.2~1.2mg/Lとすることが好ましい。第1生物処理槽2のDOを好ましくは0.1~2.0mg/Lとすることで、第2生物処理槽3での汚泥の可溶化を促進できる。これにより、固液分離槽4で得られる分離汚泥は、汚泥容量指標が良好な範囲となり、分離汚泥の沈降性が向上する。更に、最終的に得られる処理水のBODの除去率、T-N除去率及びT-P除去率も向上する。
【0039】
第1生物処理槽2のHRTは、3~15時間となるように調整することが好ましい。これにより、比較的短時間で効率の良い処理が行える。第1生物処理槽2のHRTは、3~12時間とすることがより好ましく、5~10時間とすることが更に好ましい。
【0040】
第1生物処理槽2のBOD容積負荷を適切な範囲に制御することにより、汚泥可溶化の効率化を図ることができる。具体的には、第1生物処理槽2のBOD容積負荷を2.0~6.5kg/(m3・d)となるように制御するのが好ましく、2.0~6.0kg/(m3・d)とするのがより好ましく、3.0~5.0kg/(m3・d)となるように制御するのが更に好ましい。
【0041】
第1生物処理槽2の水温は20~30℃に保つことが好ましく、25~30℃に保つことがより好ましい。第1生物処理槽2のpHは、5.5~8.5を保つことが好ましく、6.5~8.5に保つことがより好ましい。このようにpHを保つことで生物活性度を低下することなく汚泥の減容効果を維持できる。
【0042】
第1生物処理槽2において、生物処理に必要な栄養塩としての窒素及びリンはBOD:N:P=100:5:1程度とすることが好ましい。有機性排水中のBODに対して窒素の不足が認められた場合、有機性排水のBOD:アンモニア態窒素の重量比にして100:1.0~6.0で導入することが望ましい。導入したアンモニア態窒素は第1生物処理槽2の段階で、菌体合成のための同化作用で使用されていることが望ましい。第1生物処理槽2のアンモニア態窒素濃度は0.5mg/L未満に調整し、第1生物処理槽2以降の曝気槽には、アンモニア態窒素の残留が実質的に無いようにすることがより好ましい。有機性排水中のリン不足が認められた場合、リン酸態リンの導入を行うことが好ましい。具体的には、有機性排水のBOD:リン酸態リンの重量比が100:1.0~2.0となるようにリン酸態リンを導入をすることが好ましい。且つ、全曝気槽内のリン酸態リン濃度は常に0.5mg/L以上を残留させることが望ましい。第1生物処理槽2においてはアンモニア態窒素、リン酸態リンの濃度を更に制御することで、汚泥の減容効果を維持しつつ、良好な処理水水質が得られる。
【0043】
第2生物処理槽3は、第1生物処理槽2の生物処理液に対して、第1生物処理槽2よりも低いBOD-SS負荷で活性汚泥法による生物処理を行うことにより、第1生物処理槽2の生物処理液中の汚泥を可溶化処理する処理槽である。
【0044】
全槽のBOD-SS負荷が低すぎても特に弊害はないが、全槽のBOD-SS負荷が高すぎると槽内の溶存酸素濃度の制御が難しくなり、有機性排水の処理不良に陥る可能性もある。全槽のBOD-SS負荷は0.05~0.5kg/(kg・d)とすることが好ましく、より好ましくは0.1~0.5kg/(kg・d)、更に好ましくは0.2~0.4kg/(kg・d)である。
【0045】
第2生物処理槽3のBOD容積負荷を更に制御することにより、汚泥可溶化の効率化を図ることができる。具体的には、第1生物処理槽2及び第2生物処理槽3で構成される生物処理の全槽のBOD容積負荷が1.0kg/(m3・d)よりも高くなるように生物処理を行う。全槽のBOD容積負荷は、1.2~2.0kg/(m3・d)とするのがより好ましく、1.5~2.0kg/(m3・d)となるように制御するのが更により好ましい。
【0046】
第2生物処理槽3のMLSS濃度が低すぎると有機性排水の処理不良に陥る場合があり、第2生物処理槽3のMLSS濃度が高すぎると、第2生物処理槽3における溶存酸素(DO)の制御が難しくなることに加え、第2生物処理槽3において汚泥の過剰な可溶化が進み、処理水水質の悪化を招く場合もある。第2生物処理槽3のMLSS濃度は、2000~10000mg/Lとすることが好ましく、3000~8000mg/Lとすることがより好ましく、4000~7000mg/Lとすることがより好ましい。
【0047】
第2生物処理槽3のDOは0.5~10.0mg/L、より好ましくは1.0~9.0mg/L、更に好ましくは1.5~5.5mg/Lとなるように、曝気風量を調整することにより、汚泥の可溶化処理を行うことが好ましい。第2生物処理槽3では、比較的低濃度でのDOで処理水水質の悪化を抑制しながら汚泥の可溶化処理を行うことが好ましい。しかしながら、DOが低すぎると、スファエルエチルスやType1701等の糸状細菌によりバルキングが生じ、その後の固液分離に支障が生じる可能性がある。第2生物処理槽3のDOは、処理状況に応じて、一時的に設定値よりも高い値となるように、曝気風量を調整することが好ましい。これにより、固液分離槽4でのバルキングの発生を抑制できる。
【0048】
多槽方式の方が完全混合方式より糸状細菌が発生する頻度が低い。そのため、余剰汚泥の可溶化及びバルキングの発生を抑制するために、第2生物処理槽3は、DOの異なる複数の生物処理槽(第2生物処理槽3a、3b)を備えることが好ましい。第2生物処理槽3は、二槽以上が好ましく、三槽以上がより好ましい。
【0049】
例えば、固液分離槽4のバルキングが発生しそうな場合又は発生した場合に、最も後段にある生物処理槽(
図1では第2生物処理槽3b)のDOを、設定値よりも1.0~2.0mg/L程度高くして、一時的に曝気風量を強める処理をする。これにより、バルキング発生の抑制と、処理水水質の悪化抑制と汚泥の減容効果とが期待できる。
【0050】
第2生物処理槽3bのDOを上げるだけではバルキング抑制効果が小さい場合には、第2生物処理槽3bよりも更に前段の第2生物処理槽3aのDOを設定値よりも1.0~2.0mg/L程度高くすることで、バルキング発生の抑制と、処理水水質の悪化抑制と汚泥の減容効果がより高まる。過剰な曝気は余剰汚泥の過剰な分解に繋がり、処理水水質の悪化の原因にもなる。よって、第2生物処理槽3a、3bのDOは6.0mg/L以下とすることがより好ましい。
【0051】
第2生物処理槽3のHRTは、第1生物処理槽2のHRTよりも長くすることで、第1生物処理槽2の生物処理液に残存するBODを分解して処理水水質の悪化を抑制しながら汚泥を可溶化させることができ、装置全体としての汚泥発生量を低減できる。具体的には、第2生物処理槽3のHRTは、第1生物処理槽2及び第2生物処理槽3で構成される生物処理で構成される全槽のHRTが10~35時間となるように調整することが好ましく、20~30時間とすることがより好ましく、25~30時間とすることが更に好ましい。
【0052】
固液分離槽4は、第2生物処理槽3bから得られた生物処理液を導入し、分離汚泥と処理水とに固液分離するための装置であれば特に限定されない。典型的には、沈降分離を利用した沈殿槽等が固液分離槽4として用いられる。分離汚泥は返送ライン5を介して貯留槽1から流出する有機性排水と混合され、第1生物処理槽2へ返送される。返送ライン5は、分離汚泥を第1生物処理槽2へ流入する有機性排水の流量の50~200流量%、より好ましくは50~150流量%、更に好ましくは50~100流量%となるように第1生物処理槽2へ返送することが好ましい。
【0053】
(有機性排水の処理方法)
本発明の実施の形態に係る有機性排水の処理方法は、有機性排水を、第1生物処理槽2と、第1生物処理槽2よりも低いBOD-SS負荷で処理する第2生物処理槽3とにおいて、活性汚泥の存在下で生物処理し、第2生物処理槽3の生物処理液を固液分離して得られる分離汚泥を第1生物処理槽2へ返送することを含み、第1生物処理槽2の溶存酸素濃度を0.1~10mg/Lになるように制御し、第1生物処理槽2及び第2生物処理槽3で構成される生物処理の全槽のBOD容積負荷が1.0kg/(m3・d)よりも高くなるように生物処理を行うとともに第2生物処理槽3の水理学的滞留時間を第1生物処理槽2の水理学的滞留時間よりも長くすることを含む。
【0054】
本発明の実施の形態に係る有機性排水の処理装置及び処理方法によれば、第1生物処理槽2が、例えば、0.1~1.5kg/(kg・d)となるような高負荷処理であって、且つ全槽のBOD容積負荷が1.0kg/(m3・d)よりも高くなるように生物処理を行うような、余剰汚泥が大量に発生し得る高負荷条件であっても、安定して汚泥の減容化を図ることが可能となる。
【0055】
(変形例)
図3に示すように、本発明の実施の形態の変形例に係る有機性排水の処理装置は、貯留槽1の水質を測定する測定手段20と、第1生物処理槽2の水質を測定する測定手段21と、第2生物処理槽3a、3bの水質を測定する測定手段22、23を備える。貯留槽1と第1生物処理槽2との間には、有機性排水の流量を調整するための流量調整手段11が設けられている。返送ライン5には、分離汚泥の供給流量を調整するための流量調整手段12が設けられている。流量調整手段11、12、測定手段20、21、22、23は制御手段10に接続されている。
【0056】
測定手段20は、水質項目として、BOD、S-BOD、CODMn、S-CODMn、MLSS、pH、DO、全窒素、全リン、CODcr、S-CODcr、TOC、アンモニア態窒素、リン酸態リンの少なくともいずれかを測定可能な計測器を備えることが好ましい。例えば、DOが低い状態で長期間活性汚泥処理を行うと生物処理槽内に糸状細菌等が増殖してバルキングが発生し、余剰汚泥の沈降性が悪化する場合がある。本変形例によれば、測定手段20を介して有機性排水、第1生物処理槽2及び第2生物処理槽3a、3bの水質を測定し、水質の測定結果に基づいて、バルキングが発生し得る場合、制御手段10が、第1生物処理槽2及び第2生物処理槽3a、3bの曝気風量を調整して、一時的に曝気風量を上げて第1生物処理槽2及び第2生物処理槽3a、3bのDOを高めるように処理する。これにより、バルキングの発生を長期間抑制しながら安定した活性汚泥処理が行える。また、水質の測定結果に基づいて、制御手段10が流量調整手段11、12による有機性排水又は分離汚泥の供給流量を調整することにより、第1生物処理槽2及び第2生物処理槽3a、3bのBOD-SS負荷を適正な範囲に調整することができる。これにより、余剰汚泥の大量発生が生じ得る高負荷条件下での処理においても安定して汚泥の減容化が図れる。
【0057】
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。即ち、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を相互に組み合わせ、変形して具体化できることは勿論である。
【実施例0058】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0059】
(試験条件)
本実施例1、2では、
図6及び
図7に示すように、汚泥馴致期間1、実施例1、汚泥馴致期間2、実施例2の4工程からなる連続通水式による活性汚泥処理試験を実施した。実施例1、2では、
図4に示すような、
図1の第1生物処理槽2に対応する高負荷処理槽と、
図1の第2生物処理槽3a、3bに対応する低負荷処理槽(第1低負荷処理槽及び第2低負荷処理槽)とを備える有機性排水の処理装置を用意し、二段活性汚泥法により有機性排水を処理した。比較例として、
図5に示すように、高負荷処理槽と低負荷処理槽とを備える有機性排水の処理装置を用意し、汚泥馴致期間1、2を経た二段活性汚泥法により有機性排水を処理した。原水(有機性排水)は冷却水槽内に収容して水温が一定になるように貯留し、高負荷処理槽及び低負荷処理槽は恒温槽内に収容して水温が一定に維持されるようにした。
【0060】
比較例及び実施例1、2の試験条件を表1に示す。
図6及び
図7の評価項目であるBOD、S-BOD、COD
Mn、S-COD
Mn、全窒素、全リン、MLSSの分析は、下水試験方法(日本下水道協会2012年度版)に準拠して行い、MLSS分析は遠心分離法を用いた。DO(溶存酸素)は蛍光式溶存酸素計を用いて測定した。比較例では汚泥発生量の測定点数を1点とした結果を表している。実施例1及び2では汚泥発生量の測定点数をそれぞれ複数回測定し、最大値と最小値を評価した結果を表している。
【0061】
【0062】
汚泥馴致期間1では全槽BOD容積負荷及び全槽BOD-SS負荷がそれぞれ1.56[kg/(m3・d)]、0.30[kg/(kg・d)]になるように段階的に負荷を上げるように設定して処理を行った。実施例1終了後は汚泥馴致期間2を設けた。具体的には、汚泥馴致期間2では、全槽BOD容積負荷及び全槽BOD-SS負荷をそれぞれ0.32[kg/(m3・d)]、0.06[kg/(kg・d)]に下げるようにして処理を行った後、汚泥馴致期間1と同様に段階的に全槽BOD容積負荷及び全槽BOD-SS負荷を段階的に上げた。
【0063】
試験試水は有機物(BOD)濃度が2,100~2,460mg/L含有している有機性排水(産業排水)を用いた。また、汚泥馴致期間1、2のための負荷調整は有機性排水を市水で適宜希釈したものを試験に供した。
【0064】
曝気槽における有機性排水のHRTの影響を検討するため、全試験期間の有機性排水の流入量は4.6~5.1L/dと、ほぼ一定で連続通水した。水温は24.0~27.9℃で実施した。有機性排水は生物処理に必要な栄養塩としてのN及びPを含有していなかったため、NH4Cl試薬及びKH2PO4試薬を用いて重量比率としてBOD:N:P=100:5:1になるように調整した。
【0065】
実施例1では、高負荷処理槽の容積を2L、第1低負荷処理槽及び第2低負荷処理槽の容積をそれぞれ2L、高負荷処理槽のHRTが8.3~10.9時間、全槽のHRTが合計で28.6~33.8時間となるように試験を実施した。高負荷処理槽のBOD容積負荷は4.4~5.8[kg/(m3・d)]、全槽BOD容積負荷は1.5~1.9[kg/(m3・d)]で実施した。高負荷処理槽のBOD-SS負荷は0.82~0.90[kg/(kg・d)]、全槽BOD-SS負荷が0.28~0.35[kg/(kg・d)]で実施した。高負荷処理槽の溶存酸素濃度は4.4~6.5mg/Lに調整したところ、高負荷処理槽のS-BODの濃度(高負荷処理槽で得られる生物処理液の残留BOD)は4~11mg/Lであった。なお、後述する汚泥性状及び処理水水質の測定時の全槽BOD容積負荷は1.8[kg/(m3・d)]、全槽BOD-SS負荷は0.32[kg/(kg・d)]であった。
【0066】
実施例2では、有機物(BOD)濃度が2,080~2,210mg/Lの有機性排水を試水とし、実施例1と同様の処理装置を用いて汚泥馴致期間を経た後に、表1に示す処理条件で連続通水式の活性汚泥処理試験を実施した。実施例2では、高負荷処理槽の容積を2L、第1低負荷処理槽及び第2低負荷処理槽の容積をそれぞれ2L、高負荷処理槽のHRTが8.2~9.5時間、全槽のHRTは合計で27.8~30.8時間で試験を実施した。高負荷処理槽のBOD容積負荷は5.1~5.4[kg/(m3・d)]、全槽BOD容積負荷は1.7~1.8[kg/(m3・d)]で実施した。高負荷処理槽のBOD-SS負荷は0.88~0.95[kg/(kg・d)]、全槽BOD-SS負荷が0.30~0.37[kg/(kg・d)]で実施した。高負荷処理槽の溶存酸素濃度は0.2~1.2mg/Lに調整したところ、高負荷処理槽S-BODの濃度(高負荷処理槽で得られる生物処理液の残留BOD)は82~102mg/Lであった。なお、後述する汚泥性状及び処理水水質測定時の全槽BOD容積負荷は1.7[kg/(m3・d)]、全槽BOD-SS負荷は0.31[kg/(kg・d)]であった。
【0067】
比較例では、有機物(BOD)濃度が2,100mg/Lの有機性排水を試水とし、
図5に示す処理装置で表1に記載の処理条件で連続通水式の活性汚泥処理試験を実施した。好適な処理性能を検討するため、汚泥馴致のため全槽のBOD容積負荷は1.4~1.8[kg/(m
3・d)]、BOD-SS負荷は0.26~0.28[kg/(kg・d)]の条件で2週間ほど連続通水を実施した。高負荷処理槽の容積を4L、低負荷処理槽は1槽で容積は2Lとした。高負荷処理槽のHRTが19.2時間、低負荷処理槽のHRTが9.6時間となり、全槽のHRTは実施例とほぼ同等だが、実施例1と比べて高負荷処理槽の滞留時間が1.8~2.3倍となり、低負荷処理槽のHRTが約41.9~47.3%低い条件となる。高負荷処理槽の溶存酸素濃度は7.5mg/Lとし、高負荷処理槽のS-BODの濃度(高負荷処理槽で得られる生物処理液の残留BOD)は35mg/L残留している状況で汚泥発生量の検討を実施した。後述する汚泥性状及び処理水水質測定時の全槽BOD容積負荷は1.8[kg/(m
3・d)]、全槽BOD-SS負荷は0.27[kg/(kg・d)]であった。
【0068】
(試験結果)
図6に、実施例1、2の制御因子となる、高負荷処理槽のBOD容積負荷及びBOD-SS負荷、曝気槽(高負荷処理槽、第1及び第2低負荷処理槽)溶存酸素濃度及び高負荷処理槽S-BOD濃度の実績値の推移を示す。
図7に、処理水のSS、COD
Mn、S-COD
Mn、BOD、S-BODの推移を示す。
【0069】
比較例及び実施例1、2の流入原水である有機性排水の水質項目と、BOD容積負荷、BOD-SS負荷、処理水の水質、分離汚泥の汚泥性状の測定結果を表2に示す。有機性排水及び処理水のBOD、T-N、T-Pは下水試験法(日本下水道協会発行、下水試験方法)に準じて測定した。処理水のBOD除去率、T-N除去率及びT-P除去率は、有機性排水と処理水のBOD、T-N及びT-Pの測定結果より算出した。余剰汚泥減容化の評価として、試験期間中に流入したBODの除去量に対して発生した余剰汚泥の割合で用いられる指標である、BOD汚泥転換率を用いた。また、汚泥沈降性の評価として、汚泥1gが占める容量mL数で表す汚泥容量指標であるSVI(Sludge volume index)を用いた。SVIの定義式は下記式(1)で表される。なお、SV30(%)は曝気槽の混合液を30分間静置した後沈降した汚泥量の割合で示した指標である。
SVI(mL/g)=SV30(%)×10,000/MLSS(mg/L) (1)
【0070】
【0071】
(実施例1)
汚泥性状の指標である実施例1のBOD汚泥転換率は18.5%、SVIは74mL/gであった。比較例と比べてBOD汚泥転換率が15.5%減少し、SVIは約4割となり、汚泥発生量削減、汚泥沈降性の改善が確認できた。また、実施例1の処理水BODは7mg/Lと比較例と同等のBOD除去効果が得られた。実施例1では、処理水T-Nが19.9mg/L(T-N除去率:61.0%)、処理水T-Pが8.5mg/L(T-P除去率:<1%)であり、汚泥可溶化の影響とみられるN及びPの残留が確認された。また、実施例1では、汚泥馴致期間1からの負荷増加により有機物濃度に増加がみられ、試験開始5日目には、処理水CODMn、S-CODMnがそれぞれ最高で95.8mg/L、77.0m/Lに増加した。試験開始9日目に処理水BOD及びS-BODはそれぞれ37mg/L、6mg/Lに増加した。なお、処理水SSは最大で42mg/Lとなった。
【0072】
(実施例2)
汚泥性状の指標である実施例2のBOD汚泥転換率は18.8%と実施例1とほぼ同等のBOD汚泥転換率であり、比較例と比べてBOD汚泥転換率が15.2%削減され汚泥発生量の削減効果が維持できていることが確認できた。実施例2のSVIは113mL/gであり、実施例1と比較して約1.5倍の増加がみられたが、標準的なSVIは一般的には50~150mL/gであり、汚泥の固液分離に支障がないことを実施例2でも確認できている。なお、実施例2の処理水BODは9mg/Lであり、比較例1及び実施例1と同様に良好なBOD除去効果が得られた。実施例2の処理水T-Nは12.3mg/L(T-N除去率:81.6%)であり、実施例1と比較してT-Nの除去率が7.6ポイント改善した。また、処理水T-Pは4.8mg/L(T-P除去率:53.8%)であり、T-Pの除去効果がみられたことから、過剰な汚泥の可溶化が抑制されたことが示唆された。
【0073】
本発明による制御がない汚泥馴致期間2である全槽BOD容積負荷0.7[kg/(m3・d)]、全槽BOD-SS負荷0.14[kg/(kg・d)]時の処理水SS、CODMn、BODはそれぞれ76mg/L、74.8mg/L、19mg/Lであり、負荷の増加及び汚泥可溶化による処理水水質の悪化がみられた。しかし、試験開始1日目の処理水SSは64mg/L、試験開始6日目には8mg/Lに低減しており、処理水に流出するSSが僅かとなった。
【0074】
試験開始1日目の処理水CODMnは最大で86.5mg/Lとなったが、負荷増加によるCODMnの増加は実施例1が約2.2倍であるのに対して、実施例2は約1.2倍であった。また、S-CODMnが最大で49.4mg/Lに留まり、実施例1と比較して処理水水質の悪化が限定的であることが確認できた。試験経過1日目の処理水BODは20mg/Lと実施例1と比べてBODの残留が改善しており、BODの増加は限定的であった。試験経過3~7日の処理水BODは5~9mg/L、S-BODは2mg/Lを推移しており、良好なBOD除去が確認できた。