IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社奥村組の特許一覧

<>
  • 特開-削孔システム 図1
  • 特開-削孔システム 図2
  • 特開-削孔システム 図3
  • 特開-削孔システム 図4
  • 特開-削孔システム 図5
  • 特開-削孔システム 図6
  • 特開-削孔システム 図7
  • 特開-削孔システム 図8
  • 特開-削孔システム 図9
  • 特開-削孔システム 図10
  • 特開-削孔システム 図11
  • 特開-削孔システム 図12
  • 特開-削孔システム 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115404
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】削孔システム
(51)【国際特許分類】
   E21B 6/02 20060101AFI20240819BHJP
【FI】
E21B6/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021084
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】100101971
【弁理士】
【氏名又は名称】大畑 敏朗
(72)【発明者】
【氏名】三澤 孝史
(72)【発明者】
【氏名】石井 敏之
(72)【発明者】
【氏名】川澄 悠馬
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正士
【テーマコード(参考)】
2D129
【Fターム(参考)】
2D129AA06
2D129AA08
2D129BA30
2D129CA02
2D129CA04
2D129CA19
2D129CB11
2D129CB13
(57)【要約】
【課題】削孔範囲全域において高い深さ精度を確保しながら効率良く孔を削成することができる。
【解決手段】削孔装置Aにより構造物Sに複数の孔Hを削成する削孔システムSYSにおいて、削孔区間の構造物Sの壁面SFの状況などに応じて、削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離を構造物Sの壁面SF内の1点のみで計測する1点計測方式と、削孔箇所の全点で計測する全点計測方式とで選択できるようにした。これにより、削孔範囲の全域において高い深さ精度を確保しながら効率良く孔を削成することができる。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
削孔対象の構造物に孔を削成する削孔装置と、
前記削孔装置の動作を制御する制御手段と、
前記制御手段に対して前記削孔装置の動作の仕方を入力する入力手段と、
を備え、
前記削孔装置は、
前記削孔装置自体を前記構造物の壁面に沿って移動させる削孔装置移動手段と、
前記構造物に孔を削成する削孔手段と、
前記削孔手段を前記壁面内に沿って移動させる面内移動手段と、
前記削孔手段を前記壁面に向かって前進させるとともに、前記壁面から後退させる進退手段と、
前記削孔装置と前記構造物との対向間距離を計測する対向間距離計測手段と、
を備え、
前記入力手段は、前記対向間距離を前記壁面内の1点で計測する第1の計測方式と、前記対向間距離を削孔箇所の全点で計測する第2の計測方式とのいずれか一方を選択可能とする機能を備えるとともに、当該選択された計測方式情報を前記制御手段に入力する機能を備え、
前記制御手段は、前記入力手段から送られた前記計測方式情報に基づいて、前記対向間距離の計測動作を制御する機能を備えることを特徴とする削孔システム。
【請求項2】
前記入力手段は、無線通信機能を備えており、当該無線通信機能により前記制御手段と互いに電気的に接続されることを特徴とする請求項1記載の削孔システム。
【請求項3】
前記対向間距離計測手段は、前記削孔手段を待機位置から前記壁面に向かって移動させて前記削孔手段の削孔先端部が前記壁面に接触するまでの前記削孔手段の移動距離を前記対向間距離として計測することを特徴とする請求項1または2記載の削孔システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、削孔システムに関し、例えば、既設のコンクリート製の構造物に孔を削成する削孔システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
地上、地中、半地下などにおいて地盤に接するコンクリート製の構造物や、鉄道や道路等に近接する地上に構築されたコンクリート製の構造物においては、耐震補強を目的として、削孔装置を用いて構造物の片側面から孔を削成し、その孔内に定着材を充填した後、後施工せん断補強鉄筋(以下、せん断補強鉄筋という)を挿入して構造物と一体化させることで当該構造体のせん断耐力を向上させる工法が行われる。
【0003】
また、コンクリート製の躯体で構成された道路、橋梁、ダム、堤防などの既設の構造物においては、耐力の維持や補強を目的として、削孔装置を用いて躯体の側面や上下面に対し、所定間隔で孔を削成し、その孔内に、あと施工アンカーを埋め込み、当該あと施工アンカーと連結するように配筋を行ってさらにコンクリートを打設する増し打ち工法が行われている。
【0004】
なお、構造物に対するせん断補強工法については、例えば特許文献1(特開2016-037787号公報)が知られている。また、構造物に対するコンクリートの増し打ち工法については、例えば特許文献2(特開2018-131848号公報)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-037787号公報
【特許文献2】特開2018-131848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記した削孔装置においては、削孔作業に先立って、構造物に削成される複数の孔の深さを所定の値にするために、削孔装置と構造物との対向間距離を計測している。この対向間距離は、削孔装置の待機位置に設置されたドリフタの削孔ロッドを構造物の壁面に対して垂直に対峙させた状態で壁面に向かって接近させていき、削孔ロッドの先端部のビットが構造物の壁面に当たると削孔ロッドが壁面から自動的に元の待機位置に自動的に戻る一連の計測動作の中で、待機位置から壁面に当たった時までの削孔ロッドの移動量を削孔ロッドの後方に設置されたレーザー計測計によって計測することにより導き出している。
【0007】
ここで、削孔作業の効率を考慮すると、構造物の壁面内の一点で対向間距離を計測し、その値に基づいて構造物に複数の孔を削成することが考えられる。この場合、上記一連の計測動作が1回で済むので、削孔作業の効率を大幅に向上させることができる。しかし、実際の構造物においては、壁面内に凹凸部が存在していたり、横方向または高さ方向に向かって傾斜または湾曲していたり、あるいはスラブの状態等に応じて削孔装置と壁面との対向間距離を削孔範囲の途中で変えなければならなかったりする場合があるので、一点だけで削孔装置と壁面との対向間距離を決めてしまうと、場所によって所定の深さの孔を削成することができなくなる、という問題が生じる。
【0008】
そこで、孔を開ける場所毎に対向間距離を計測し、その個々の値に基づいて構造物に複数の孔を削成することが考えられる。この場合、削孔装置と壁面との対向間距離を孔毎に計測するので、複数の孔の深さ精度を向上させることができる。しかし、この場合、削孔ロッドを壁面に向かって移動し、ロッドの移動距離を計測し、ロッドを元の位置に戻す一連の計測動作を複数の孔毎に実施するので、削孔作業の効率が著しく低下する、という問題が生じる。
【0009】
そこで、削孔作業においては、如何にして削孔範囲全域の複数の孔において高い深さ精度を確保しながら効率良く孔を削成するかが重要な課題となっている。
【0010】
本発明は、上述の技術的背景からなされたものであって、削孔範囲全域において高い深さ精度を確保しながら効率良く孔を削成することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明の削孔システムは、削孔対象の構造物に孔を削成する削孔装置と、前記削孔装置の動作を制御する制御手段と、前記制御手段に対して前記削孔装置の動作の仕方を入力する入力手段と、を備え、前記削孔装置は、前記削孔装置自体を前記構造物の壁面に沿って移動させる削孔装置移動手段と、前記構造物に孔を削成する削孔手段と、前記削孔手段を前記壁面内に沿って移動させる面内移動手段と、前記削孔手段を前記壁面に向かって前進させるとともに、前記壁面から後退させる進退手段と、前記削孔装置と前記構造物との対向間距離を計測する対向間距離計測手段と、を備え、前記入力手段は、前記対向間距離を前記壁面内の1点で計測する第1の計測方式と、前記対向間距離を削孔箇所の全点で計測する第2の計測方式とのいずれか一方を選択可能とする機能を備えるとともに、当該選択された計測方式情報を前記制御手段に入力する機能を備え、前記制御手段は、前記入力手段から送られた前記計測方式情報に基づいて、前記対向間距離の計測動作を制御する機能を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の本発明の削孔システムは、上記請求項1に記載の発明において、前記入力手段は、無線通信機能を備えており、当該無線通信機能により前記制御手段と互いに電気的に接続されることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の本発明の削孔システムは、上記請求項1または2に記載の発明において、前記対向間距離計測手段は、前記削孔手段を待機位置から前記壁面に向かって移動させて前記削孔手段の削孔先端部が前記壁面に接触するまでの前記削孔手段の移動距離を前記対向間距離として計測することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、削孔範囲全域において高い深さ精度を確保しながら効率良く孔を削成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施の形態に係る削孔装置により削成された孔にせん断補強鉄筋を挿入して耐震補強されたコンクリート製の構造物の一部を示す説明図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る削孔装置の側面図である。
図3図1の削孔装置の正面図である。
図4図1の削孔装置の平面図である。
図5図3のV-V線の断面図である。
図6図2のVI-VI線の断面図である。
図7図1の削孔装置に設けられたチェーンの配置を示す説明図である。
図8図2図7で説明した削孔装置を備えた削孔システムのブロック図である。
図9】上段は待機位置にあるドリフタの側面図、下段はドリフタを前進させてロッドの先端のビットが構造物に接した位置のドリフタの側面図である。
図10】最初の過程の削孔領域の一例の要部平面図である。
図11図10に続く過程の削孔領域の一例の要部平面図である。
図12図11に続く過程の削孔領域の一例の要部平面図である。
図13図12に続く過程の削孔領域の一例の要部平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一例としての実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0017】
図1は本発明の一実施の形態に係る削孔装置により削成された孔にせん断補強鉄筋を挿入して耐震補強されたコンクリート製の構造物の一部を示す説明図である。
【0018】
本実施の形態の削孔装置は、例えば図1に示すような地盤Gに接する既設のコンクリート製の構造物Sや、鉄道や道路等の建造物に近接する地上に構築された既設のコンクリート製の構造物(図示せず)などに対して、補強工事の一工程として片側面(壁面)から孔Hを開けるために用いられる。開けた孔Hの内部に定着材Mを充填した後、せん断補強鉄筋Rを挿入して構造物Sと一体化させることで、構造物Sのせん断耐力を向上させる。なお、せん断補強鉄筋Rとしては、例えば、一般的に使用される鉄筋R1の片側をネジ切り、斜め切断加工し、先端部に六角ナット(定着体)R2を装着したものなどが適用される。
【0019】
図2は本発明の一実施の形態に係る削孔装置の側面図、図3図1の削孔装置の正面図、図4図1の削孔装置の平面図、図5図3のV-V線の断面図、図6図2のVI-VI線の断面図、図7図1の削孔装置に設けられたチェーンの配置を示す説明図である。
【0020】
図2図6に示すように、本実施の形態の削孔装置Aは、コラム(角形鋼管)やH形鋼などの棒状の鋼材で直方体の形状に構成された本体フレーム10と、同様にコラムやH形鋼などの鋼材で矩形に構成されて本体フレーム10内において昇降可能に設けられた昇降フレーム20と、昇降フレーム20に設けられて前方のコンクリート製の構造物Sを削孔するドリフタ(削孔手段)30とを備えている。
【0021】
本体フレーム10は、図3に示すように、前後面が開口する一方、図2および図5に示すように、側面には、桁材11が上下の複数箇所(ここでは、例えば2カ所)に取り付けられるとともにブレース(筋交い)12が設けられ、所要の強度が確保されている。また、図4および図6に示すように、昇降フレーム20は、矩形を形成する4本のフレームロッド21からなり、図2図5および図6に示すように、本体フレーム10の上下に延びる4本の柱材13に沿って設けられたガイドレール14に嵌め込まれており、当該ガイドレール14に案内されながら前面の開口範囲内を昇降する。
【0022】
図5に示すように、ドリフタ30は、先端にビット31が取り付けられたロッド32と、ロッド32に打撃力、回転力および推力を加える削岩機33とを備えており、コンクリート製の構造物Sに対して所定深さの孔Hを開ける。このドリフタ30は、開口した前面の所望位置へと移動できるように昇降フレーム20上を横行移動(削孔対象の壁面に沿って移動)させることが可能になっており、さらに開口した前面を介して構造物Sを削孔するために進退移動(削孔対象の壁面に対して交差(直交)する方向に沿って移動)させることが可能になっている。
【0023】
なお、本実施の形態のドリフタ30では、例えば深さ1m程度の比較的深い孔Hを開けることが可能になっている。但し、孔Hの深さは自由に設定することができ、本実施の形態の1mに限定されるものではない。
【0024】
ここで、ドリフタ30の横行移動機構および進退移動機構の具体例について説明する。
【0025】
図4および図6に示すように、昇降フレーム20には、当該昇降フレーム20上を横行移動させる横行部材(面内移動手段)40が設けられている。また、横行部材40には、当該横行部材40の移動方向に対して直交する方向に往復動可能な進退部材(進退移動手段)50が設置されている。そして、進退部材50がドリフタ30を進退移動させ、横行部材40が進退部材50を横行移動させることにより、ドリフタ30は横行移動および進退移動することが可能になっている。
【0026】
図6において、横行部材40は、矩形の昇降フレーム20を形成する後部に位置したフレームロッド21に沿って横方向に延びて設けられた横行用ガイドレール41と、前後方向に長くなってこの横行用ガイドレール41をスライド移動する横行体42と、横行体42に螺合するとともに横行用モータ43により回転駆動されるボールねじ44とを備えている。また、ドリフタ30は進退部材50を介して横行体42に設置されている。したがって、ボールねじ44の回転により横行体42が横行用ガイドレール41に沿って移動することにより、ドリフタ30は昇降フレーム20上を前面の開口範囲内にわたって横行移動する。
【0027】
図4および図6において、進退部材50は、横行体42に沿って設けられた進退用ガイドレール51と、進退用ガイドレール51をスライド移動するスライダ52と、進退用モータ53により周回駆動されることによって取り付けられたスライダ52をスライド移動させる無端状ベルト54とを備えている。また、ドリフタ30はスライダ52に搭載されている。したがって、進退用モータ53の回転により無端状ベルト54が周回してスライダ52が進退用ガイドレール51に沿って移動することにより、ドリフタ30は昇降フレーム20上を進退移動する。なお、本実施の形態において無端状ベルト54は、例えば非金属のゴムベルトであるが、金属ベルトであってもよい。
【0028】
次に、昇降フレーム20の昇降機構の具体例について説明する。
【0029】
図3に示すように、昇降機構(面内移動手段)は、昇降フレーム20を吊り下げるチェーン60と、チェーン60を上げ下ろしして昇降フレーム20を昇降させる昇降用モータ61と、チェーン60が掛け渡されたスプロケット62とを備えている。
【0030】
チェーン60は、一方端が昇降フレーム20における相互に対向する2辺の中央にそれぞれ取り付けられた第1のチェーン60aおよび第2のチェーン60bで構成されている。すなわち、図3図4および図6に示すように、第1のチェーン60aおよび第2のチェーン60bの一方端は、矩形の昇降フレーム20の構成要素である左右の2本のフレームロッド21の中央上部に取り付けられている。また、第1のチェーン60aおよび第2のチェーン60bの他方端は、その反対側であるフレームロッド21の中央下部に取り付けられている。
【0031】
なお、チェーン60が左右のフレームロッド21に取り付けられているのは、前後のフレームロッド21に取り付けられていると、横行移動するドリフタ30と干渉してしまうからである。
【0032】
ここで、本体フレーム10には、図3および図7に示すように、左右上部における前後方向の中央にスプロケット62a、62bが配置され、これと対応した左右下部における前後方向の中央にスプロケット62c、62dが配置されている。また、昇降用モータ61と当該昇降用モータ61の近傍に位置するスプロケット62dとの間で、且つスプロケット62dよりもやや高い位置には、スプロケット62eが配置されている。さらに、昇降用モータ61には駆動スプロケット61aが取り付けられている。
【0033】
なお、駆動スプロケット61aおよび昇降用モータ61が位置する側(図示する場合には、右側)のスプロケット62b、62d、62eは、2枚のスプロケットが同軸上となって一体化されたシングルダブルスプロケットとなって、2本のチェーン60(第1のチェーン60a、第2のチェーン60b)を掛け渡すことができるようになっている。また、その反対側(図示する場合には、左側)のスプロケット62a、62cは、1枚だけのシングルスプロケットとなって、第1のチェーン60aのみを掛け渡すことができるようになっている。
【0034】
そして、図3に示すように、第1のチェーン60aは、昇降フレーム20の左側の上部取付位置から上方に向けてスプロケット62a、スプロケット62b、スプロケット62e、駆動スプロケット61a、スプロケット62dおよびスプロケット62cに順次掛け渡されて昇降フレーム20の左側の下部取付位置に至っている。また、第2のチェーン60bは、昇降フレーム20の右側の取付位置から上方に向けてスプロケット62b、スプロケット62e、駆動スプロケット61aおよびスプロケット62dに順次掛け渡されて昇降フレーム20の右側の下部取付位置に至っている。
【0035】
図3において昇降用モータ61が時計回りに回転して第1のチェーン60aおよび第2のチェーン60bが周回すると、昇降フレーム20がこれらのチェーン60で吊り上げられて上昇する。また、同じく図3において昇降用モータ61が反時計回りに回転して第1のチェーン60aおよび第2のチェーン60bが逆方向に周回すると、昇降フレーム20がこれらのチェーン60で吊り下げられて下降する。
【0036】
ここで、図2図4に示すように、本体フレーム10の上端部の左右2箇所には、削孔対象である構造物Sに対して削孔時の推進反力を伝達する反力伝達部70が設置されている。この反力伝達部70は、図示しない真空ポンプによる負圧吸引力により構造物Sに吸着する吸着パッド71と、吸着パッド71を進退移動させるスライドジャッキ72とを備えている。そして、削孔時にはスライドジャッキ72で吸着パッド71を前方に伸ばして構造物Sに押し当て、真空ポンプにより吸着パッド71を当該構造物Sに吸着させることにより、ドリフタ30で構造物Sを削孔する際の推進反力が得られ、スムーズに削孔を実行することが可能になる。但し、吸着パッド71による吸着操作は必須ではなく、省略してもよい。
【0037】
なお、反力伝達部70は、本実施の形態のように本体フレーム10の上端部の左右2箇所に設置されるのが望ましいが、上端部の左右何れか1箇所、上端中央部の1箇所、あるいは上端部以外の箇所などに設置されていてもよい。
【0038】
このような削孔装置Aは、その本体フレーム10の下部に設けられた走行モータ(削孔装置移動手段)81により走行レールGRに沿って移動することが可能になっている。すなわち、図2図3および図5に示すように、削孔装置Aは、その本体フレーム10の下部に取り付けられた複数個(本実施の形態では、例えば4個)のローラ(削孔装置移動手段)82を介して走行レールGR上に搭載されている。ローラ82は、走行モータ81により駆動されて走行レールGR上を転動する回転部材であり、2個の駆動ローラ82a(図2図3図6参照)と、2個の従動ローラ82b(図3図6参照)とを備えている。2個の駆動ローラ82aは、走行用モータ81によりベルト(削孔装置移動手段)83を介して回転駆動される走行駆動軸(削孔装置移動手段)84の同軸上に取り付けられている。一方、2個の従動ローラ82bは、走行レールGRの延在方向において駆動ローラ82aの対向位置に回転可能な状態で設置されて駆動ローラ82aの回転に従って回転するようになっている。
【0039】
このような削孔装置Aにおいて、削孔時におけるドリフタ30の移動制御としては、例えば、横方向の削孔位置毎に、ドリフタ30の高さを変えて複数の孔を削成してもよいし、高さ方向の削孔位置毎に、ドリフタ30の横方向位置を変えて複数の孔を削成してもよい。
【0040】
横方向の削孔位置毎に、ドリフタ30の高さを変えて複数の孔を削成する場合は、横行用モータ43により横行体42を横方向に移動してドリフタ30を第1の横方向削孔位置にセットする。続いて、第1の横方向削孔位置において、昇降用モータ61により昇降フレーム20を高さ方向に移動してドリフタ30の高さを変えながら複数の孔を削成する。そして、第1の横方向削孔位置の削孔が終了したら、横行用モータ43により横行体42を第1の横方向削孔位置の隣りの第2の横方向削孔位置に移動してドリフタ30を第2の横方向削孔位置にセットする。その後、第2の横方向削孔位置において、上記と同様にドリフタ30の高さを変えながら複数の孔を削成する。これを繰り返すことにより、構造物Sの壁面内に複数の孔を削成する。
【0041】
一方、高さ方向の削孔位置毎に、ドリフタ30の横方向位置を変えて複数の孔を削成する場合は。昇降用モータ61により昇降フレーム20を高さ方向に移動してドリフタ30を第1の高さ方向削孔位置にセットする。続いて、第1の高さ方向削孔位置において、横行用モータ43により横行体42を横方向に移動してドリフタ30の横方向位置を変えながら複数の孔を削成する。そして、第1の高さ方向削孔位置の削孔が終了したら、昇降用モータ61により昇降フレーム20を第1の高さ方向削孔位置の直上または直下の第2の高さ方向削孔位置に移動してドリフタ30を第2の高さ方向削孔位置にセットする。その後、第2の高さ方向削孔位置において、上記と同様にドリフタ30の横方向位置を変えながら複数の孔を削成する。これを繰り返すことにより、構造物Sの壁面内に複数の孔を削成する。
【0042】
このように、本実施の形態の削孔装置Aによれば、コンクリート製の構造物Sの削孔対象の壁面内に対して高さ方向および横方向にドリフタ30を移動して孔を削成することができるので、作業者の負担を軽減しつつ壁面内に複数の孔を削成することができる。
【0043】
次に、図8は、以上の構成を有する削孔装置Aを備えた削孔システムSYSのブロック図である。なお、図8において、破線で結ばれたブロック同士は、両者が間接的な関係にあることを示している。
【0044】
削孔システムSYSは、上述した削孔装置Aと、構造物Sに対する種々の削孔条件を設定する削孔条件シート(図示せず)の入力(設定)および削孔結果の出力を行う入出力部(入力手段)PCと、削孔システムSYS全体の動作制御を実行する制御部(制御手段)Cと、削孔装置Aの削孔状態を検出する削孔状態検出部SSと、作業者が手動操作を行うペンダントスイッチなどの手動操作部MUとを備えている。
【0045】
入出力部PCは、例えばパーソナルコンピュータ等によって構成されており、削孔条件シートが格納される削孔条件シート記憶部PCm1、削孔結果が格納される削孔結果記憶部PCm2および削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離の計測方式を格納する計測方式記憶部PCm3とを備えている。
【0046】
削孔条件記憶部PCm1に格納される削孔条件シートは、構造物Sの壁面に対する削孔条件を設定したシートである。削孔条件には、例えば孔番号、昇降設定値(原点から縦方向への設定値)、スライド設定値(原点から横方向への設定値)、低速深さ設定値(ドリフタ30による削孔開始から低速回転による削孔深さの設定値)、削孔深さ設定値(ドリフタ30による最終的な削孔深さの設定値)および削孔無(削孔深さの孔が開けられなかったときに入れるチェックマーク欄)などがあり、削孔条件シートへの削孔条件の入力は、例えば、構造物Sの厚さ(コンクリート厚)や構造物Sに配された鉄筋の位置、削孔領域の広さを考慮して作業者が数値などを入力する。但し、AI(Artificial Intelligence:人工知能)など用いて、削孔条件(数値)が自動的に入力されるようにしてもよい。
【0047】
後述するように、制御部Cでは、計測方式記憶部PCm3に記憶された対向間距離の計測方式を読み込んで削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離を計測した後、削孔条件シート記憶部PCm1に格納された削孔条件シートを読み込んで孔を削成する。なお、削孔条件として、例えば、削孔速度、削孔速度未満の場合において削孔進行中であることを判断するための所定時間などが設定されていてもよい。また、削孔位置は、隣接する縦方向1列または横方向1行の間隔と削孔開始位置と削孔ピッチとの組み合わせなどで設定してもよい。
【0048】
また、削孔結果記憶部PCm2に格納される削孔結果は、構造物Sに開けた孔の削孔結果である。後述するように、制御部Cは、削孔状態検出部SSから送信された検出情報に基づいて削孔結果を取得して削孔結果記憶部PCm2に格納する。なお、入出力部PCにおいては、削孔結果が削孔条件とともに出力される。本実施の形態においては、当該出力を履歴ファイルと称している。この履歴ファイルには、例えば削孔の開始時間、削孔時間、孔番号、シート番号(削孔条件シートShの番号)、昇降設定値、昇降完了値、スライド設定値、スライド完了位置、壁(構造物S)までの距離計測値、低速深さ設定値、低速での削孔値、削孔深さ設定値、削孔量全長および判定が表示される。
【0049】
また、入出力部PCにおいては、削孔条件シート記憶部PCm1に格納された削孔条件シートや削孔結果記憶部PCm2に格納された削孔結果を、作業者が確認することができるようになっている。本実施の形態の削孔システムSYSでは、削孔条件シートを入力(設定)する入力部と削孔結果である履歴ファイルを出力する出力部とが一体になった入出力部PCとなっているが、入力部と出力部とは相互に別体になっていてもよい。
【0050】
削孔条件シートには、キーボード、マウス、タブレット端末などの様々な入力媒体により数値等が入力される。タブレット端末は、入出力が可能な液晶ディスプレイを備えているとともに無線通信機能を備えており、当該無線通信機能により制御部Cと互いに電気的に接続される。また、履歴ファイルは、液晶ディスプレイやプリントアウトされた紙媒体などの様々な出力媒体に出力される。
【0051】
制御部Cは、入出力部PCの計測方式記憶部PCm3に格納された計測方式を読み込んで削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離を計測する。また、入出力部PCの削孔条件シート記憶部PCm1に格納された削孔条件シートを読み込んで削孔装置Aを駆動して構造物Sに複数の孔を順次削成する。さらに、削孔状態検出部SSからの検出情報に基づいて削孔結果を取得し、これを入出力部PCに送信する。
【0052】
削孔装置Aの昇降用モータ61はインバータIVaにより、横行用モータ43はインバータIVbにより、走行用モータ81はインバータIVcにより、それぞれ回転動作するようになっている。また、コンプレッサCPから削岩機33、エアモータ53およびスライドジャッキ72に対して圧縮空気を供給する経路上には、当該経路を開閉する電磁弁SVaが配置されている。さらに、吸着パッド71とこれを負圧吸引する真空ポンプ73との間には、両者間の経路を開閉する電磁弁SVbが配置されている。
【0053】
そして、インバータIVa,IVbおよび電磁弁SVa,SVbの動作は、制御部Cにより制御されるようになっている。また、インバータIVa,IVb,IVcおよび電磁弁SVa,SVbの動作は、手動操作部MUにより制御されるようになっている。したがって、作業者が手動操作部MUを操作し、インバータIVcを介して走行用モータ81を駆動して削孔装置Aを走行させて所定の削孔位置に設置したならば、制御部Cにより削孔が自動的に実行される。また、手動操作部MUを操作することにより、制御部Cによる削孔とは別に、作業者が所望する箇所に孔を削成することができる。
【0054】
なお、前述した防塵カバー85を進退移動させるためのカバー進退用モータ87が設けられており、当該カバー進退用モータ87はインバータIVdにより手動操作部MUで回転動作するようになっている。また、集塵機86は制御部Cにより制御されるようになっている。但し、集塵機86も手動操作部MUで作業者の操作により動作するようにしてもよい。
【0055】
一方、削孔状態検出部SSは、削孔位置検出部SSaと、距離検出部(対向間距離計測手段)SSbと、削孔深さ検出部SScと、吸着パッド71のストローク検出部SSdと、吸着パッド71のON/OFF検出部SSeとを備えている。
【0056】
削孔位置検出部SSaは、ドリフタ移動部34により移動したドリフタ30の削孔位置(構造物Sの壁面内の位置)を検出する検出部であり、昇降位置検出部SSaaと、横行位置検出部SSbbとを備えている。昇降位置検出部SSaaは昇降用モータ61の回転量に基づいてドリフタ30の昇降位置を検出する検出部であり、横行位置検出部SSbbは横行用モータ43の回転量に基づいてドリフタ30の横行位置を検出する検出部である。
【0057】
距離検出部SSbは削孔装置Aと構造物Sの壁面との対向間距離を検出する検出部であり、削孔深さ検出部SScは削孔深さを検出する検出部である。この距離検出部SSbおよび削孔深さ検出部SScは、ドリフタ30に設けられた共通の変位センサ(変位計)によって構成されている。すなわち、削孔装置Aと構造物Sの壁面との対向間距離や削孔深さは、ドリフタ30(削岩機33およびロッド32)の移動距離(前進長)により計測されるようになっている。なお、ドリフタ30(削岩機33およびロッド32)はエアモータ53により前進および後退するようになっている。
【0058】
吸着パッド71のストローク検出部SSdは吸着パッド71を進退移動させるスライドジャッキのストローク長を検出する検出部であり、吸着パッド71のON/OFF検出部SSeは吸着パッド71のON/OFFを検出する検出部である。
【0059】
このような削孔状態検出部SSにより検出された検出情報は制御部Cに送信される。そして、制御部Cでは、削孔状態検出部SSから送信された様々な検出情報から削孔装置Aによる構造物Sに対しての削孔結果を取得(算出)し、これを入出力部PCに送信し、削孔結果記憶部PCm2に格納する。
【0060】
ここで、削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離の計測例について図8および図9を参照して説明する。図9の上段は待機位置にあるドリフタの側面図、図9の下段はドリフタを前進させてロッドの先端のビットが構造物に接した位置のドリフタの側面図である。
【0061】
図9に示すように、本実施の形態においては、上記した距離検出部SSbおよび削孔深さ検出部SScが削岩機33の後方に設置されている。距離検出部SSbおよび削孔深さ検出部SScは、例えばレーザー変位計等のような非接触型の変位計によって構成されている。すなわち、距離検出部SSb(削孔深さ検出部SSc)から放射されたレーザー光Laをドリフタ30の削岩機33の後端面に照射した時にドリフタ30の削岩機33の後端面から反射された反射光Lbを受光することによりドリフタ30の位置を計測するようになっている。
【0062】
但し、距離検出部SSbおよび削孔深さ検出部SScは、レーザー変位計に限定されるものではなく種々変更可能である。また、距離検出部SSbおよび削孔深さ検出部SScは、非接触型の変位計に限定されるものではなく、接触型の変位計を用いることもできる。
【0063】
ここで、図9の上段に示すように、削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離は、削孔装置Aのドリフタ30を構成するロッド32の先端のビット31と、そのビット31に対向する構造物Sの壁面SFとの間の対向間距離Zaになる。したがって、この対向間距離Zaは、ドリフタ30を待機位置(図9の上段)からビット31が構造物Sに接する位置(図9の下段)に前進移動させた時のドリフタ30の移動距離Zbに等しい。
【0064】
このため、当該対向間距離Zaの計測に際しては、ドリフタ30を待機位置(図9の上段)からビット31が構造物Sに接する位置(図9の下段)まで前進移動させ、ビット31が構造物Sに接したらドリフタ30を自動的に元の待機位置に戻すという一連の動作の中で、待機位置にある時のドリフタ30の位置と、ビット31が構造物Sに接触した時のドリフタ30の位置とを距離検出部SSbにより検出してドリフタ30の移動距離Zbを計測することにより削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離Zaを計測している。
【0065】
なお、当該計測過程でドリフタ30のビット31を構造物Sから一旦離す(ビット31を構造物Sに接触させたまま削孔に移行しない)理由は、削岩機33のような回転系の機器ではビット31を構造物Sの壁面SFに押し当てた状態で回転を開始しようとすると大きなトルクが必要になり回転させることができないからである。また、ドリフタ30を待機位置に戻す理由は、構造物Sの壁面SFから待機位置に戻るまではほぼ無負荷状態なのでそれほど時間がかからないからと、その方が制御プログラムを簡単にすることができる(ビット31を少しだけ後退させるだけにすると、かえって制御プログラムが複雑になる)からである。
【0066】
ところで、削孔作業の効率を考慮すると、構造物Sの壁面SF内の一点で対向間距離を計測し、その値に基づいて構造物Sに複数の孔を削成することが考えられる。この場合、上記一連の計測動作が1回で済むので、削孔作業の効率を大幅に向上させることができる。しかし、実際の構造物Sにおいては、壁面SF内に凹凸部が存在していたり、横方向または高さ方向に向かって傾斜または湾曲していたり、あるいはスラブの状態等に応じて削孔装置Aと壁面との対向間距離を削孔範囲の途中で変えなければならなかったりする場合があるので、一点だけで削孔装置Aと壁面SFとの対向間距離を決めてしまうと、場所によって所定の深さの孔を削成することができなくなる、という問題が生じる。
【0067】
一方、孔を開ける場所毎に対向間距離を計測し、その個々の値に基づいて構造物Sに複数の孔を削成することが考えられる。この場合、削孔装置Aと壁面SFとの対向間距離を孔毎に計測するので、複数の孔の深さ精度を向上させることができる。しかし、この場合、待機位置のドリフタ30を壁面SFに向かって移動し、ドリフタ30の移動距離を計測し、ドリフタ30を元の待機位置に戻す一連の計測動作を孔毎に実施するので、削孔作業の効率が著しく低下する、という問題が生じる。
【0068】
そこで、本実施の形態の入出力部PCにおいては、削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離を構造物Sの壁面SF内の1点で計測する1点計測方式(第1の計測方式)と、当該対向間距離を削孔箇所の全点で計測する全点計測方式(第2の計測方式)とのいずれか一方を選択できる機能を備えているとともに、選択された計測方式情報を制御部Cに入力(伝送)する機能を備えている。そして、制御部Cは、入出力部PCから送られた計測方式情報に基づいて、当該対向間距離の計測動作を制御する機能を備えている。
【0069】
具体的には、図8に示した入出力部PCの入出力可能な液晶ディスプレイに、1点計測方式選択用のボタンと、全点計測方式選択用のボタンとが表示されるようになっている。そして、1点計測方式選択用のボタンと全点計測方式選択用のボタンとのいずれかのボタンを作業者が押すことにより、いずれか一方の計測方式を選択することができるようになっている。このような計測方式の選択は、例えば削孔装置Aを移動(移設)するたびに入出力部PCの入出力可能な液晶ディスプレイに表示されるようになっている。
【0070】
また、削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離の計測方式を設定する他の方法として、上記した削孔条件シートに、削孔前段階の対向間距離計測方式の項目を作り、作業者が1点計測方式または全点計測方式のいずれか一方を入力するようにしてもよい。
【0071】
このように本実施の形態においては、削孔前段階の削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離の計測に際して、例えば、構造物の壁面に凹凸、傾斜または湾曲が生じていたり、スラブの状態等に応じて削孔装置Aと壁面との対向間距離を削孔範囲の途中で変えなければならなかったりする場合は作業者が全点計測方式を選択する一方、例えば構造物の壁面に凹凸もなく、傾斜または湾曲もなく、削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離を削孔範囲の途中で変える必要もないなどの場合は作業者が一点計測方式を選択することができる。このため、削孔範囲の全域において高い深さ精度を確保しながら効率良く孔を削成することができる。したがって、削孔作業の汎用性を向上させることができる。
【0072】
次に、本実施の形態の削孔システムによる削孔方法の一例について図1図9を参照して説明する。
【0073】
まず、作業者が手動操作部MUを操作することにより、走行レールGR上の削孔装置Aを走行させて削孔区間に移設する。そして、削孔装置Aを削孔区間に設置したならば、必要に応じてスライドジャッキ72で吸着パッド71を前方に伸ばして構造物Sに押し当てて吸着させ、削孔装置Aをその場に拘束する。
【0074】
続いて、作業者により、複数の削孔条件シートに削孔条件を入力する。本実施の形態では、例えば、入出力部PCの液晶ディスプレイに表示された「削孔条件シート1」などのボタンをクリックして該当の削孔条件シートを読み出して必要な数値を設定する。そして、設定後、入出力部PCの液晶ディスプレイに表示された「書込」ボタンをクリックすることにより、複数の削孔条件シートを削孔条件シート記憶部PCm1に格納する。なお、ここでは、全ての削孔条件シートに削孔条件を入力した後に、これらの削孔条件シートを一括して削孔条件シート記憶部PCm1に格納するようになっているが、各削孔条件シート毎に、削孔条件の入力と削孔条件シート記憶部PCm1への格納とを行うようにしてもよい。
【0075】
続いて、本実施の形態においては、作業者により、削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離の計測方式(上記した1点計測方式と全点計測方式)を選択する。ここでは、入出力部PCの液晶ディスプレイに表示された「1点計測方式」および「全点計測方式」などのボタンのいずれか一方を押すことにより、選択された計測方式を計測方式記憶部PCm3に格納する。なお、上記した削孔条件の入力および格納のステップおよび対向間距離の計測方式の選択のステップは、削孔装置Aの移設の前にあるいは並行して行ってもよい。
【0076】
次いで、制御部Cは、削孔条件シート記憶部PCm1に格納された削孔条件シートおよび計測方式記憶部PCm3に格納された計測方式を読み込む。これにより、昇降用モータ61で昇降フレーム20を上端または下端にスライドさせ、横行用モータ43で横行体42を左右何れか一方端にスライドさせてドリフタ30を構造物Sの壁面SF内の原点位置に移動させる。
【0077】
なお、本実施の形態においては、ドリフタ30を上下・左右の移動端である原点位置に移動させているが、任意の位置に移動させてもよい。ここでの移動は、次のステップで削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離を計測するための移動であり、原点位置である必要はないからである。また、ここでの操作は、作業者が手動操作部MUを操作してドリフタ30を原点位置に移動させてもよい。
【0078】
続いて、削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離を計測する。すなわち、図9に示したように、ドリフタ30を待機位置(図9の上段)からビット31が構造物Sに接する位置(図9の下段)まで前進移動させ、ビット31が構造物Sに接したらドリフタ30を自動的に元の待機位置に戻すという一連の動作の中で、待機位置にある時のドリフタ30の位置と、ビット31が構造物Sに接触した時のドリフタ30の位置とを距離検出部SSbにより検出してドリフタ30の移動距離を計測することにより削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離を計測する。
【0079】
次いで、昇降用モータ61で昇降フレーム20を昇降移動させ、横行用モータ43で横行体42を横行移動させて、削孔条件シートに設定された削孔開始位置にドリフタ30を移動した後、ドリフタ30の駆動を開始する。このとき、ドリフタ30(詳しくは、先端にビット31が取り付けられたロッド32)に対しては、相対的に低速回転、低圧打撃の駆動力が加えられる。
【0080】
続いて、カバー進退用モータ87で防塵カバー85を前進させて構造物Sに当接させ、併せて、集塵機86の吸引を開始して削孔時に発生する粉塵の収集に備える。なお、集塵機86の吸引開始および吸引停止については制御部Cの制御下で自動的に行われ、最初の削孔開始時に吸引を開始し、最終削孔後に吸引を停止する。したがって、後述するドリフタ30を次の削孔位置へ移動した後のステップでは、既に集塵機86が吸引を行っているので、当該ステップにおいては、防塵カバー85の前進のみが実行される。
【0081】
その後、エアモータ53でスライダ52をスライド移動させてドリフタ30を前進移動させ、ロッド32の先端のビット31を構造物Sの削孔位置に押し当てて削孔を開始する。削孔を開始したならば、削孔深さ検出部SScによって孔の深さを逐次検出しておき、検出された削孔深さが所定値に達したかどうかを判断する。このステップは、ビット31が構造物S内に所定深さ入り込むことでドリフタ30の駆動が安定したかどうかを判断するためのものである。そして、削孔深さが所定値に達したならば、ドリフタ30の駆動が安定したと考えられるので、ドリフタ30を高速回転・高圧打撃で駆動して削孔を行う。
【0082】
その後、所定の深さまで孔を削成し終えたならば、ドリフタ30を後退(ドリフタ30先端のビット31が構造物Sから引き抜かれる程度まで後退)して待機位置(基準位置)に戻し駆動を停止する。併せて防塵カバー85も後退して構造物Sから離す。
【0083】
次いで、今回の削孔が最終削孔か否かを判断し、最終削孔でない場合には、昇降用モータ61および横行用モータ43の双方あるいは何れかを駆動させて、削孔条件シートに設定された次の削孔位置へとドリフタ30を移動し、上記と同様に削孔動作を実施する。ここで、削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離の計測方式として1点計測方式が選択された場合は、1点で計測された対向間距離に基づいて各孔の削孔を実施する。一方、全点計測方式が選択された場合は、各孔を削孔する前に各孔の位置で対向間距離を計測し、各孔位置の計測結果に基づいて各孔を削成する。
【0084】
続いて、最終削孔である判断された場合には、粉塵が吸引されると考えられる時間(例えば、3~5秒程度)の経過後、自動的に集塵機86の吸引が停止される。そして、出力された削孔条件シートと削孔結果とから、削孔条件に不適合の孔(「削孔失敗」と判定された孔)があるか否かを判断し、削孔条件シートに設定された削孔条件に不適合の孔(設定した深さに削孔されなかった孔)がないと判断された場合には、削孔動作を終了する。
【0085】
次に、上記した削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離の計測方式の選択例について図10図13を参照して説明する。図10図13は各過程における削孔領域の一例の要部平面図である。
【0086】
まず、図10に示すように、削孔装置Aを走行レールGRに沿って移動させて第1削孔区間X1に移設する。第1削孔区間X1では、構造物Sの壁面SFが平坦なので、作業者は、削孔システムSYSの入出力部PCを通じて、削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離の計測方式として1点計測方式を選択する。そして、第1削孔区間X1においては、削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離を壁面SFの面内の1つの位置のみで計測する。
【0087】
次いで、図11に示すように、1点で計測した対向間距離に基づいて第1削孔区間X1の構造物Sに複数の孔Hを削成した後、削孔装置Aを走行レールGRに沿って移動させて隣りの第2削孔区間X2に移設する。第2削孔区間X2では、構造物Sの壁面SFに凹凸があるので、作業者は、削孔システムSYSの入出力部PCを通じて、削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離の計測方式として全点計測方式を選択する。そして、第2削孔区間X2においては、削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離を各孔の削孔前に各孔の削孔位置毎に計測する。
【0088】
次いで、図12に示すように、削孔位置毎に計測した対向間距離に基づいて第2削孔区間X2の構造物Sに複数の孔Hを削成した後、削孔装置Aを走行レールGRに沿って移動させて隣りの第3削孔区間X3に移設する。第3参考区間X3では、構造物Sの壁面SFが第1削孔区間X1の壁面SFより奥に窪んでいるが全体的に平坦なので、作業者は、削孔システムSYSの入出力部PCを通じて、削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離の計測方式として1点計測方式を選択する。そして、第3削孔区間X3においては、削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離を壁面SFの面内の1つの位置のみで計測する。
【0089】
次いで、図13に示すように、1点で計測した対向間距離を用いて第3削孔区間X3の構造物Sに複数の孔Hを削成した後、削孔装置Aを走行レールGRに沿って移動させて隣りの第4削孔区間X4に移設する。第4削孔区間X4では、構造物Sの壁面SFが削孔装置Aの走行方向に向かって傾斜しているので、作業者は、削孔システムSYSの入出力部PCを通じて、削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離の計測方式として全点計測方式を選択する。そして、第4削孔区間X2においては、削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離を各孔の削孔前に各孔の削孔位置毎に計測する。その後、第4削孔区間の複数の孔を削成する。なお、ここでは、構造物Sの壁面が削孔装置Aの走行方向に沿って傾斜している場合を例示したが、例えば構造物Sの壁面SFが高さ方向に沿って傾斜していたり湾曲していたりする場合も全点計測方式を選択する。
【0090】
このように本実施の形態においては、構造物Sの壁面SFの状況などに応じて、削孔装置Aと構造物Sとの対向間距離の計測方式を1点計測方式と全点計測方式とで選択することができるので、削孔範囲の全域において高い深さ精度を確保しながら効率良く孔を削成することができる。したがって、削孔作業の汎用性を向上させることができる。
【0091】
以上本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本明細書で開示された実施の形態はすべての点で例示であって、開示された技術に限定されるものではない。すなわち、本発明の技術的な範囲は、前記の実施の形態における説明に基づいて制限的に解釈されるものでなく、あくまでも特許請求の範囲の記載に従って解釈されるべきであり、特許請求の範囲の記載技術と均等な技術および特許請求の範囲の要旨を逸脱しない限りにおけるすべての変更が含まれる。
【0092】
例えば、上記した実施の形態においては、削孔機としてドリフタ30を用いたが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば円筒状ノコ歯ビットが先端に取り付けられたロッドを回転させて削孔するコアドリルなど、コンクリート製の構造物Sを削孔可能な様々な削孔機を適用することができる。
【0093】
また、削孔装置Aの構造は上記した実施の形態に限定されるものではない。すなわち、高さ方向および横方向の少なくとも何れかの方向に移動可能なドリフタ30などの削孔機を備えて、構造物Sに複数の孔を開けることが可能である限り、様々な構造の削孔装置Aを用いることができる。例えばドリフタ30等のような削孔機を高さ方向のみに移動する機構を備え、ドリフタ30の横方向の移動は削孔装置Aの全体を走行レールGRに沿って移動することで実施する小型の削孔装置に適用することもできる。
【0094】
また、上記した実施の形態においては、走行レールGRが削孔範囲の全域で一体の構造となっている場合を例示したが、これに限定されるものではなく、例えば走行レールGRを長手方向に沿って複数の単位レールを連結することで構成し、削孔作業が終了した削孔区間の単位レールを取り外し、走行レールの先端(削孔装置Aの走行方向の先端)に再度連結するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0095】
以上の説明では、本発明の削孔システムを、コンクリート製の既設の構造物にせん断補強鉄筋を挿入するための孔開けに用いられた場合が示されているが、これに限定されるものではなく、コンクリート製の構造物の孔開けに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0096】
10 本体フレーム
11 桁材
12 ブレース
13 柱材
14 ガイドレール
20 昇降フレーム
21 フレームロッド
30 ドリフタ(削孔手段)
31 ビット
32 ロッド
33 削岩機
40 横行部材(面内移動手段)
41 横行用ガイドレール(面内移動手段)
42 横行体(面内移動手段)
43 横行用モータ(面内移動手段)
44 ボールねじ(面内移動手段)
50 進退部材(進退移動手段)
51 進退用ガイドレール
52 スライダ
53 進退用モータ
54 無端状ベルト
60 チェーン(面内移動手段)
60a 第1のチェーン(面内移動手段)
60b 第2のチェーン(面内移動手段)
61 昇降用モータ(面内移動手段)
61a 駆動スプロケット(面内移動手段)
62,62a,62b,62c,62d,62e スプロケット(面内移動手段)
70 反力伝達部
71 吸着パッド
72 スライドジャッキ
81 走行用モータ(削孔装置移動手段)
82 ローラ(削孔装置移動手段)
82a 駆動ローラ
82b 従動ローラ
83 ベルト(削孔装置移動手段)
84 走行駆動軸(削孔装置移動手段)
85 防塵カバー
86 集塵機
87 カバー進退用モータ
SYS 削孔システム
A 削孔装置
C 制御部(制御手段)
PC 入出力部(入力手段)
PCm1 削孔条件シート記憶部
PCm2 削孔結果記憶部
PCm3 計測方式記憶部
MU 手動操作部
IVa,IVb,IVc,IVd インバータ
SS 削孔状態検出部
SSa 削孔位置検出部
SSaa 昇降位置検出部
SSab 横行位置検出部
SSb 距離検出部(対向間距離計測手段)
SSc 削孔深さ検出部
SSd スライドジャッキのストローク検出部
SSe 吸着パッドのON/OFF検出部
SVa,SVb 電磁弁
GR 走行レール
H 孔
R せん断補強鉄筋
S 構造物
SF 壁面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13