(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115428
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】樹幹注入剤
(51)【国際特許分類】
A01N 47/40 20060101AFI20240819BHJP
A01N 43/40 20060101ALI20240819BHJP
A01N 43/90 20060101ALI20240819BHJP
A01N 57/32 20060101ALI20240819BHJP
A01N 57/14 20060101ALI20240819BHJP
A01N 43/54 20060101ALI20240819BHJP
A01P 5/00 20060101ALI20240819BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20240819BHJP
A01N 51/00 20060101ALI20240819BHJP
A01M 1/20 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
A01N47/40 Z
A01N43/40 101C
A01N43/90 101
A01N43/90 103
A01N57/32 105
A01N57/14 D
A01N43/54 E
A01P5/00
A01P7/04
A01N51/00
A01M1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021120
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】502083174
【氏名又は名称】株式会社 ニッソーグリーン
(71)【出願人】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】相川 宏史
(72)【発明者】
【氏名】伊山 公二
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩一
(72)【発明者】
【氏名】丸 章彦
(72)【発明者】
【氏名】南柿 哲
(72)【発明者】
【氏名】前川 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】加藤 徹朗
【テーマコード(参考)】
2B121
4H011
【Fターム(参考)】
2B121CC02
2B121CC31
2B121EA24
4H011AC01
4H011BB08
4H011BB09
4H011BB10
4H011BB11
4H011BB17
4H011BC18
4H011DA15
4H011DD03
(57)【要約】
【課題】樹木への浸透移行性が良好で、センチュウ類などの防除効果を有する、樹幹注入剤を提供する。
【解決手段】イミダクロプリド、アセタミプリド、チアメトキサム、クロチアニジン、ジノテフラン、ニテンピラム、チアクロプリドなどのネオニコチノイド系殺虫性化合物、ネマデクチン、塩酸レバミゾール、酒石酸モランテル、メスルフェンホス、ミルベメクチンなどの殺センチュウ性化合物、およびアルコール類、ケトン類、ピロリドン類、アミド類、グリコール類などの溶媒を含有する、樹幹注入剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネオニコチノイド系殺虫性化合物および殺センチュウ性化合物を含有する、樹幹注入剤。
【請求項2】
溶媒をさらに含有する、請求項1に記載の樹幹注入剤。
【請求項3】
界面活性剤をさらに含有する、請求項1または2に記載の樹幹注入剤。
【請求項4】
ネオニコチノイド系殺虫性化合物がイミダクロプリド、ニテンピラム、アセタミプリド、チアメトキサム、クロチアニジン、ジノテフランおよびチアクロプリドからなる群から選ばれる少なくともひとつである、請求項1または2に記載の樹幹注入剤。
【請求項5】
殺センチュウ性化合物がネマデクチン、塩酸レバミゾール、ホスチアゼート、酒石酸モランテル、メスルフェンホス、エマメクチン安息香酸塩およびミルベメクチンからなる群から選ばれる少なくともひとつである、請求項1または2に記載の樹幹注入剤。
【請求項6】
溶媒がアルコール類、ケトン類、ピロリドン類、アミド類およびグリコール類からなる群から選ばれる少なくともひとつである、請求項1または2に記載の樹幹注入剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹幹注入剤に関する。より詳細に、本発明は、樹木への浸透移行性が良好で、センチュウ類などの防除効果を有する、樹幹注入剤に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、マツなどの樹木において発生する材線虫病は、枝の傷(例えば、カミキリなどの昆虫による噛み傷など)からセンチュウ類が侵入することにより始まる。侵入したセンチュウ類は樹体内を移動する。その結果、水分通導組織に気体が入り(キャビテーション)、水の流れが遮断される現象(エンボリズム)が生じる。センチュウ類の移動が原因で生じたエンボリズムは自然には直らない。エンボリズムが樹体全体に広がると、樹木は最終的に萎凋枯死に至る。このような樹木内の有害生物による樹木(特に松類)の枯損を有効に防止するために従来から樹幹注入剤が使用されている。
【0003】
樹幹注入剤として、例えば、特許文献1は、ネオニコチノイド系化合物と、アルコール、ケトン、ピロリドン、アミド、グリコールなどの溶剤とからなる群から選ばれる少なくともひとつの溶剤と界面活性剤とを含有する、樹幹注入用組成物を開示している。
【0004】
特許文献2は、殺虫性または殺菌性有効成分、製油、および界面活性剤を含有する、樹幹注入剤を開示している。殺虫性有効成分として、イミダクロプリド、ニテンピラム、アセタミプリド等のネオニコチノイド系殺虫剤; ミルベマイシン類、アベルメクチン類、ネマデクチン類;などを例示している。
【0005】
特許文献3は、メスルフェンホス、塩酸レバミゾール、酒石酸モランテル、ミルベメクチン、ネマデクチン、エマメクチン安息香酸塩及びホスチアゼートの中から選択される1又は2以上の殺センチュウ活性化合物を含有する、マツザイセンチュウ病防除用の薬液を開示している。
【0006】
特許文献4は、13-(α-メトキシイミノフェニルアセトキシ)ミルベマイシンA4 、13-(α-メトキシイミノフェニルアセトキシ)ミルベマイシンA3、13-[2-フェニル-2-(2-ピリミジニルチオ)アセトキシ]ミルベマイシンA4、13-[2-フェニル-2-(2-ピリミジニルチオ)アセトキシ]ミルベマイシンA3、ミルベマイシンα11、ミルベマイシンα14、4″-デオキシ-4″-メチルアミノアベルメクチンB1a又は4″-デオキシ-4″-メチルアミノアベルメクチンB1b、から成るミルベマイシン系化合物群から選ばれた少なくともひとつの化合物を有効成分として含有する松類の枯損防止用組成物を開示している。
【0007】
ところが、従来から在る樹幹注入剤の多くは、注入部位周辺で活性成分が結晶析出して水分の通導阻害を起こしたり、活性成分が樹体内の水で加水分解して効力の充分な持続性が得られなかったり、する。そのため、樹幹注入された活性成分が、樹体内の水中にて分解し難く、樹幹から樹皮、枝などに浸透移行しやすく、効力の持続性の高いことが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-255566号公報
【特許文献2】特開平10-152407号公報
【特許文献3】特開2008-179589号公報
【特許文献4】特開平9-77617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、樹木への浸透移行性が良好で、センチュウ類などの防除効果を有する、樹幹注入剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために鋭意検討した結果、以下の形態を包含する本発明を完成するに至った。
【0011】
〔1〕 ネオニコチノイド系殺虫性化合物および殺センチュウ性化合物を含有する、樹幹注入剤。
〔2〕 溶媒をさらに含有する、〔1〕に記載の樹幹注入剤。
〔3〕 界面活性剤をさらに含有する、〔1〕または〔2〕に記載の樹幹注入剤。
【0012】
〔4〕 ネオニコチノイド系殺虫性化合物がイミダクロプリド、ニテンピラム、アセタミプリド、チアメトキサム、クロチアニジン、ジノテフランおよびチアクロプリドからなる群から選ばれる少なくともひとつである、〔1〕または〔2〕に記載の樹幹注入剤。
〔4〕 ネオニコチノイド系殺虫性化合物がアセタミプリドである、〔1〕または〔2〕に記載の樹幹注入剤。
【0013】
〔5〕 殺センチュウ性化合物がネマデクチン、塩酸レバミゾール、ホスチアゼート、酒石酸モランテル、メスルフェンホス、エマメクチン安息香酸塩およびミルベメクチンからなる群から選ばれる少なくともひとつである、〔1〕~〔4〕のいずれかひとつに記載の樹幹注入剤。
〔6〕 殺センチュウ性化合物が酒石酸モランテルである、〔1〕~〔4〕のいずれかひとつに記載の樹幹注入剤。
【0014】
〔7〕 溶媒がアルコール類、ケトン類、ピロリドン類、アミド類およびグリコール類からなる群から選ばれる少なくともひとつである、〔1〕~〔6〕のいずれかひとつに記載の樹幹注入剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明の樹幹注入剤は、樹木への活性成分の浸透移行性が良好で、センチュウなど及びセンチュウなどを媒介する樹木害虫の防除効果が長く持続する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の樹幹注入剤は、ネオニコチノイド系殺虫性化合物および殺センチュウ性化合物を含有する。
【0017】
本発明に用いられるネオニコチノイド系殺虫性化合物は、昆虫を殺す作用を持ち、ニコチン類似化学構造を有する化合物である。ネオニコチノイドは、化学構造の中にシアノイミン(=N-CN)、ニトロイミン(-C=N-NO2)、クロロピリジル基、クロロチアゾリル基、またはフリル基を有することが好ましい。なお、昆虫は、動物分類上、節足動物門昆虫綱に属する小動物の総称である。俗に虫(むし)とよばれる場合は昆虫以外の小動物も含まれる。
ネオニコチノイド系殺虫性化合物としては、イミダクロプリド、ニテンピラム、アセタミプリド、チアメトキサム、クロチアニジン、ジノテフラン、チアクロプリドなどを挙げることができる。これらのうちアセタミプリドが好ましい。
ネオニコチノイド系殺虫性化合物を有効成分として含む、市販の殺虫剤(農作物(樹木および農林産物を含む)を害する昆虫を防除するために用いる薬剤)を用いてもよい。例えば、日本曹達社製のマツグリーン(登録商標)またはモスピラン(登録商標)、シンジェンタ社製のアクタラ(登録商標)、住友化学社製のダントツ(登録商標)またはベストガード(登録商標)、バイエル社製のアドマイヤー(登録商標)などを挙げることができる。
ネオニコチノイド系殺虫性化合物は、昆虫の神経伝達を阻害することで殺虫活性を発現し、適用できる害虫の種類が広いという特徴がある。また、脊椎動物への急性毒性が低く、環境中で分解されにくく残効性があり、水溶性で植物体への浸透移行性が高いと言われている。
【0018】
本発明に用いられる殺センチュウ性化合物は、センチュウ類を殺す作用を持つ化合物である。なお、農林水産省による農薬の用途別分類には殺センチュウ剤の項目はなく、殺ダニ剤とともに殺虫剤に分類されている。センチュウ類は昆虫類などと生理が異なるので、一般の殺虫剤の多くは効果がないと言われている。
殺センチュウ性化合物としては、ネマデクチン、塩酸レバミゾール、ホスチアゼート、オキサミル、酒石酸モランテル、メスルフェンホス、エマメクチン安息香酸塩、ミルベメクチンなどを挙げることができる。
殺センチュウ性化合物を有効成分として含む、市販の殺センチュウ剤(農作物(樹木および農林産物を含む)を害するセンチュウ類(ネマトーダ)を防除するために用いる薬剤)を用いてもよい。例えば、日本曹達社製のグリンガード(登録商標)、理研グリーン社製のメガトップ(登録商標)、保土谷アグロテック社製のセンチュリー(登録商標)、日本特殊農薬製造社製のネマノーン(登録商標)、三井化学アグロ社製のマツガード(登録商標); 石原バイオサイエンス社製のネマトリン(登録商標)、三井化学アグロ社製のバイデート(商標)、シンジェンタ社製のショットワン・ツーなどを挙げることができる。
【0019】
ネオニコチノイド殺虫剤と殺センチュウ剤の組合せとしては、例えば、
イミダクロプリドと塩酸レバミゾールとの組み合わせ、
イミダクロプリドとホスチアゼートとの組み合わせ、
イミダクロプリドとオキサミルとの組み合わせ、
イミダクロプリドと酒石酸モランテルとの組み合わせ、
イミダクロプリドとメスルフェンホスとの組み合わせ、
イミダクロプリドとエマメクチン安息香酸塩との組み合わせ、
イミダクロプリドとミルベメクチンとの組み合わせ、
イミダクロプリドとネマデクチンとの組み合わせ;
ニテンピラムと塩酸レバミゾールとの組み合わせ、
ニテンピラムとホスチアゼートとの組み合わせ、
ニテンピラムとオキサミルとの組み合わせ、
ニテンピラムと酒石酸モランテルとの組み合わせ、
ニテンピラムとメスルフェンホスとの組み合わせ、
ニテンピラムとエマメクチン安息香酸塩との組み合わせ、
ニテンピラムとミルベメクチンとの組み合わせ、
ニテンピラムとネマデクチンとの組み合わせ;
アセタミプリドと塩酸レバミゾールとの組み合わせ、
アセタミプリドとホスチアゼートとの組み合わせ、
アセタミプリドとオキサミルとの組み合わせ、
アセタミプリドと酒石酸モランテルとの組み合わせ、
アセタミプリドとメスルフェンホスとの組み合わせ、
アセタミプリドとエマメクチン安息香酸塩との組み合わせ、
アセタミプリドとミルベメクチンとの組み合わせ、
アセタミプリドとネマデクチンとの組み合わせ;
チアメトキサムと塩酸レバミゾールとの組み合わせ、
チアメトキサムとホスチアゼートとの組み合わせ、
チアメトキサムとオキサミルとの組み合わせ、
チアメトキサムと酒石酸モランテルとの組み合わせ、
チアメトキサムとメスルフェンホスとの組み合わせ、
チアメトキサムとエマメクチン安息香酸塩との組み合わせ、
チアメトキサムとミルベメクチンとの組み合わせ、
チアメトキサムとネマデクチンとの組み合わせ;
クロチアニジンと塩酸レバミゾールとの組み合わせ、
クロチアニジンとホスチアゼートとの組み合わせ、
クロチアニジンとオキサミルとの組み合わせ、
クロチアニジンと酒石酸モランテルとの組み合わせ、
クロチアニジンとメスルフェンホスとの組み合わせ、
クロチアニジンとエマメクチン安息香酸塩との組み合わせ、
クロチアニジンとミルベメクチンとの組み合わせ、
クロチアニジンとネマデクチンとの組み合わせ;
ジノテフランと塩酸レバミゾールとの組み合わせ、
ジノテフランとホスチアゼートとの組み合わせ、
ジノテフランとオキサミルとの組み合わせ、
ジノテフランと酒石酸モランテルとの組み合わせ、
ジノテフランとメスルフェンホスとの組み合わせ、
ジノテフランとエマメクチン安息香酸塩との組み合わせ、
ジノテフランとミルベメクチンとの組み合わせ、
ジノテフランとネマデクチンとの組み合わせ;
チアクロプリドと塩酸レバミゾールとの組み合わせ、
チアクロプリドとホスチアゼートとの組み合わせ、
チアクロプリドとオキサミルとの組み合わせ、
チアクロプリドと酒石酸モランテルとの組み合わせ、
チアクロプリドとメスルフェンホスとの組み合わせ、
チアクロプリドとエマメクチン安息香酸塩との組み合わせ、
チアクロプリドとミルベメクチンとの組み合わせ、
チアクロプリドとネマデクチンとの組み合わせ;
などを挙げることができる。
これらのうち、アセタミプリドと酒石酸モランテルとの組み合わせが好ましい。
【0020】
本発明に用いられるネオニコチノイド系殺虫性化合物の殺センチュウ性化合物に対する質量比は、通常、1/100~1/1、より好ましくは1/50~1/2、更に好ましくは1/20~1/5である。
【0021】
本発明に用い得る溶媒としては、例えば、水; アルコール類、ケトン類、ピロリドン類、スルホキシド類、アミド類、グリコール類、ニトリル類、芳香族炭化水素などの有機溶剤を挙げることができる。有機溶剤は水と容易に混和するもの、すなわち親水性有機溶剤が好ましい。
【0022】
アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノールなどを挙げることができる。
【0023】
グリコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール; エチレングリコールモノアセテート等のグルコールエステル; エチレングリコールモノメチルエーテル等のグルコールエーテル;などを挙げることができる。
【0024】
エーテル類としては、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどを挙げることができる。
【0025】
エステル類としては、γ-カプロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-アンゲリカラクトン; 酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸ヘキシルなどを挙げることができる。
【0026】
ケトン類としては、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロペンタンジオン、シクロヘキサンジオン; アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどを挙げることができる。
【0027】
アミド類としては、ピロリドン、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、1-シクロヘキシル-2-ピロリドン、δ-バレロラクタム、2-ピロリジノン; N,N-ジメチルホルムアミドなどを挙げることができる。これらのうち、N-メチルピロリドンが好ましい。
【0028】
ニトリル類としては、アセトニトリル、プロピオニトリルなどを挙げることができる。
【0029】
スルホキシド類としては、ジメチルスルホキシドなどを挙げることができる。
【0030】
これらのうち、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N-メチルピロリドン、ジエチレングリコール、並びにこれらのエステル類及びエーテル類が好ましい。
【0031】
芳香族炭化水素としては、ソルベッソ100(蒸留範囲162~178℃、エクソンモービル社製)、ソルベッソ150(蒸留範囲184~206℃、エクソンモービル社製)、ソルベッソ200(蒸留範囲231~284℃、エクソンモービル社製)などを挙げることができる。
【0032】
これらの溶媒は1種単独でまたは2種以上組合せて用いることができる。混合溶媒としては、エタノール、酢酸ブチル、シクロヘキサノンおよびN-メチルピロリドンからなる群から選ばれる少なくともふたつからなる溶媒、または1-デカノール、シクロヘキサノンおよびN-メチルピロリドンからなる群から選ばれる少なくともふたつからなる溶媒が好ましい。
【0033】
本発明の樹幹注入剤に含有し得る溶媒の質量は、特に限定されないが、ネオニコチノイド系殺虫性化合物、殺センチュウ性化合物および溶媒の合計質量に対して、好ましくは20~99.9質量%、より好ましくは50~95質量%、さらに好ましくは65~90質量%である。
【0034】
本発明の樹幹注入剤は、ネオニコチノイド系殺虫性化合物および殺センチュウ性化合物以外の他の殺虫性化合物をさらに含有していてもよい。
【0035】
他の殺虫性化合物としては、例えば、有機塩素系殺虫性化合物、有機リン系殺虫性化合物、カーバメート系殺虫性化合物、ピレスロイド系殺虫性化合物、ネライストキシン系殺虫性化合物、天然殺虫性化合物(除虫菊剤、マシン油剤、でんぷん剤などに含まれる殺虫性化合物)、昆虫成長制御性化合物、生物由来殺虫性化合物(BT剤、スピノサド剤、害虫対象の生物農薬などに含まれる殺虫性化合物)などを挙げることができる。これらのうち、ピレスロイド系殺虫性化合物、有機リン系殺虫性化合物が好ましい。
【0036】
ピレスロイド系殺虫性化合物としては、ペルメトリン、シペルメトリン、デルタメスリン、フェンバレレート、フェンプロパトリン、ピレトリン、アレスリン、テトラメスリン、レスメトリン、ジメスリン、プロパスリン、フェノトリン、シフェノトリン、プロトリン、フルバリネート、シフルトリン、シハロトリン、フルシトリネート、エトフェンプロクス、シクプロトリン、イミプロトリン、トロラメトリン、シラフルオフェン、ブロフェンプロクス、アクリナスリン、フタルスリン、プラレトリン、エムペントリン、メトフルトリン、トランスフルトリンなどを挙げることができる。
【0037】
有機リン系殺虫性化合物として、例えば、フェニトロチオン、フェンチオン、ジクロルボス、プロペタンホスなどを挙げることができる。これらのうちフェニトロチオンが好ましい。有機リン系殺虫性化合物と殺センチュウ性化合物の好ましい組合せとしては、フェニトロチオンと酒石酸モランテル、フェニトロチオンとミベルメクチン、フェニトロチオンとエマメクチン安息香酸塩、フェニトロチオンとネマデクチンなどを挙げることができる。
【0038】
これら他の殺虫性化合物は1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の樹幹注入剤に含有し得る他の殺虫性化合物の量は、本発明の効果を阻害しない範囲で、適宜設定できる。
【0039】
本発明の樹幹注入剤は、殺菌性化合物をさらに含有していてもよい。
【0040】
本発明に用いられる殺菌性化合物は、特に限定されない。例えば、トリアジメノール、プロピコナゾールなどのトリアゾール系殺菌性化合物、キャプタンなどのポリハロアルキルチオ系殺菌性化合物、ベノミル、カルベンダジム、チオファネート、チオファネートメチルなどのベンゾイミダゾール系殺菌性化合物、メタラキシル、オキサジキシルなどのアシルアラニン系殺菌性化合物、ピリフェノックス、プロクロラッツなどのエルゴステロール生合成阻害殺菌性化合物、トリフルミゾール、テブコナゾール、テトラコナゾール、メトコナゾール、トリホリン、ビテルタノール、フェンブコナゾール、ミクロブタニルなどのステロール生合成阻害殺菌性化合物、カスガマイシン、ポリオキシン、ストレプトマイシンなどの抗生物質などを挙げることができる。
これらの殺菌性化合物は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、ベンズイミダゾール系殺菌性化合物またはステロール生合成阻害殺菌性化合物が好ましく、チオファネートメチルまたはトリフルミゾールがより好ましい。
本発明においては、殺菌性化合物を有効成分として含む、市販殺菌剤を用いてもよい。例えば、日本曹達社製のトップジンM(商標)又はトリフミン(商標)などを挙げることができる。
本発明の樹幹注入剤に含有し得る殺菌性化合物の量は、本発明の効果を阻害しない範囲で、適宜設定できる。
【0041】
本発明の樹幹注入剤は、殺ダニ性化合物、植物成長調整性化合物などの農薬活性成分をさらに含有していてもよい。本発明の樹幹注入剤に含有し得る殺ダニ性化合物、植物成長調整性化合物などの農薬活性成分の量は、本発明の効果を阻害しない範囲で、適宜設定できる。
【0042】
本発明の樹幹注入剤は、界面活性剤をさらに含有していてもよい。
界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤などを挙げることができる。
ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類及びプロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類などを挙げることができる。
【0043】
アニオン系界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、高級脂肪酸塩などを挙げることができる。前記の塩としては、特に限定されないが、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩を挙げることができる。
【0044】
カチオン系界面活性剤としては、アルキルアミン、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩などを挙げることができる。
【0045】
これらの界面活性剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これら界面活性剤のうち、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩が好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸カルシウム塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムが特に好ましい。
【0046】
本発明の樹幹注入剤に含有し得る界面活性剤の量は、特に限定されないが、ネオニコチノイド系殺虫性化合物、殺センチュウ性化合物、溶媒および界面活性剤の合計質量に対して、好ましくは0~30質量%、より好ましくは5~25質量%、さらに好ましくは7~23質量%である。
【0047】
本発明の樹幹注入剤は、補助剤をさらに含有していてもよい。補助剤は、製剤化若しくは樹幹注入後における含有成分の安定性の維持; 殺虫性化合物、殺センチュウ性化合物、殺菌性化合物などの活性の維持;などに寄与することがある。
補助剤としては、酸、アルカリ及びそれらの塩などからなるpH調整剤; キレート剤; 酸化防止剤; 紫外線吸収剤; ピペロニルブトキサイドなどの効力増強剤; 消泡剤、防腐剤などを挙げることができる。
【0048】
キレート剤としては、EDTA、ジメチルグリオキシム、ジチゾン、オキシン、アセチルアセトン、グリシン、ニトリロトリ酢酸等のキレート剤などを挙げることができる。
酸化防止剤としては、t-ブチルヒドロキノン、ジt-ブチルヒドロキノン、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、アスコルビン酸、クエン酸イソプロピル、トコフェロール、没食子酸プロピルなどを挙げることができる。
紫外線吸収剤としては、サリチル酸誘導体、ヒドロキシベンゾフェノン誘導体、安息香酸誘導体、ケイ皮酸誘導体、クマリン誘導体などを挙げることができる。
本発明の樹幹注入剤に含有し得る補助剤の量は、特に限定されないが、ネオニコチノイド系殺虫性化合物、殺センチュウ性化合物および溶媒の総質量100質量部に対して、好ましくは0~30質量部、より好ましくは0~20質量部である。
【0049】
本発明の樹幹注入剤は、肥料成分や植物活力剤成分をさらに含有していてもよい。肥料成分や植物活力剤成分は、病虫害によって衰弱した樹木を活性化させることに寄与することがある。樹木を活性化させる成分としては、窒素、リン、カリウム、カルシウム、硫黄、亜鉛、銅、モリブデン、ホウ素、鉄、マンガン、マグネシウム、ビタミン類、アミノ酸、スギエキス、ヒノキエキス、マツエキスなどを挙げることができる。
本発明の樹幹注入剤に含有し得る樹木を活性化させる成分の量は、好ましくは0~30質量%、より好ましくは0~20質量%、さらに好ましくは0~10質量%である。
【0050】
本発明の樹幹注入剤は、製剤化されたものであってもよい。製剤形態としては、粉剤、粒剤、粉粒剤、水和剤、水溶剤、乳剤、液剤、ペースト剤、マイクロカプセル剤などを挙げることができる。
【0051】
(使用方法)
本発明に係る樹幹注入剤を樹木に注入する方法は特に限定されない。例えば、先ず、樹幹注入剤を必要に応じて水若しくは有機溶剤で溶解若しくは希釈する。そして、樹幹注入剤の収容されたノズル付容器を用意する。容器は押し潰すことによってノズルから空気を圧し出すことができる程度の柔軟性を有するものが好ましい。そのような容器として、例えば、樹脂製容器が挙げられる。ノズルは樹幹に穿った孔に差し込み樹木内部に液剤を送り込むことができるものであれば特に制限されない。なお、樹幹注入剤の運搬の便宜のために、容器は、ノズル付きの蓋と、ノズル無しの蓋とを交換ができるような構造とするか、ノズル口にキャップを取り付けることができる構造とすることが好ましい。
【0052】
次に樹木生立木の樹幹に孔(注入孔)を穿つ。注入孔はノズルの大きさに応じて適切な直径とすることができ、例えば、直径7~8mm程度である。注入孔は、下方に45度傾けて、主管導管部まで(深さ4cm程度)穿つことが好ましい。注入孔は樹幹下部(地際)の周囲に複数箇所分散させて穿つのが好ましい。注入孔の位置が高すぎると注入孔より下の部位に害虫が加害することがある。注入孔は、ドリル等で穿ってもよいし、ムシが樹木に穿孔した穴を利用してもよい。
【0053】
そして、前記容器のノズルを注入孔に差し込み、前記樹幹注入剤を樹木に注入する。樹幹注入剤は自然圧若しくは加圧によって樹木に注入する方法が好ましい。注入開始時に容器を押し潰してノズル内の空気を排出することが好ましい。下方に向けて差し込んだ容器の底に目打ち孔を開けて、容器内を大気圧にすることが好ましい。
なお、本発明の樹幹注入剤は、樹幹注入する以外に、樹幹、樹皮または枝に散布または塗布することによって、株元に散布することによって、または土壌潅注することによって、樹木に施用することができる。これら施用方法と樹幹注入法とを併用することによって病害防除の効果が増す場合がある。
【0054】
注入量は、特に限定されないが、樹幹の胸高直径に応じて増減させることができる。例えば、胸高直径15cm以下に対して90~140ml、胸高直径15cm超過30cm以下に対して135~560ml、胸高直径30cm超過40cm以下に対して360~840ml、胸高直径40cm超過は直径5cm増す毎に45~210ml追加するなどの目安で量を設定することができる。
【0055】
注入完了後、木栓、ゴム栓、癒合剤などで注入孔を塞いで、雨水や雑菌の侵入を防ぐことが好ましい。
【0056】
本発明の樹幹注入剤は、通常、春季から夏季までの時期、好ましくは開葉期以降から害虫(例えば、マツノマダラカミキリ、クビアカツヤカミキリ、コガネムシ、カイガラムシ、ケムシ、アブラムシなど)の発生(新成虫の羽化開始)前から成虫発生期までの時期に、樹木に施用することができる。なお、マツノマダラカミキリの新成虫の羽化開始時期は地域によって異なるが、日本においては概ね5月~7月である。樹木の病害(例えば、松枯れ病など)は、例えば、つぎのようにして広がると考えられている。まず、枯れた松の材の中で越冬したカミキリ幼虫は、春から初夏にかけて蛹になり羽化してカミキリ成虫になる。その間にマツノザイセンチュウなどのセンチュウがカミキリの体に乗り移り、センチュウを抱えたカミキリは樹木に穴を開けて外へ飛び出す。カミキリ成虫が、健全な樹木間を飛びまわり、樹木の若枝の樹皮を食べる。カミキリ成虫の体内に潜入していたセンチュウは、カミキリ成虫の食べた樹皮の傷口から樹木の材の中に侵入、急激な生理異変をもたらし、樹木を枯らす。カミキリ成虫はセンチュウによって衰弱した樹木を探し出して樹皮にかみ傷をつくり、そこに排卵管を差し込んで卵を産みつける。卵からふ化したカミキリ幼虫は、樹皮の下で柔らかい皮を食べながら成長し、成長した幼虫は、材に深く穴を開けその中で越冬する。
【0057】
本発明に係る樹幹注入剤を適用することができる樹木としては、例えば、ウバメガシ、クヌギ、アベマキ、カシワ、ミズナラ、コナラ、イチイガシ、アカガシ、アラカシ、ウラジロガシ、シラカシなどのコナラ属の樹木、クリなどのクリ属の樹木、スダジイ、ツブラジイなどのシイ属の樹木、マテバシイなどのマテバシイ属の樹木、アカマツ、クロマツ、リュウキュウマツ、ゴヨウマツ、ヒメコマツ、ハイマツ、チョウセンゴヨウ、ヤツタネゴヨウなどのマツ属の樹木、サクラ、つつじ、とちのき、プラタナス、さんごじゅ、ひいらぎもくせい、いぬまき、あじさい、ばらなどを挙げることができる。これらのうち、マツ属の樹木への適用が好ましい。
【0058】
以下に実施例を示して、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0059】
実施例1
アセタミプリド2質量%および酒石酸モランテル20.6質量%を含有する樹幹注入剤A(水と親水性有機溶剤とからなる溶媒)を調製した。
【0060】
(浸透移行性評価試験)
【0061】
マツザイセンチュウ非感染の10~15年生クロマツを用意した。クロマツの樹幹の胸高さの位置に孔を穿ち、その孔から自然圧にて胸高直径に基づき事前に定めた量の樹幹注入材Aを注入した。
【0062】
注入から5か月経過したときに、長さ10cmの当年枝ならびに二年枝を採取した。採取した枝から葉を取り除き、樹皮(二次師部、皮層、表皮)と木部(髄、一次木部、二次木部、形成層)とに分けた。樹皮および木部の各抽出液を、液体クロマトグラフィ質量分析法を用いて分析し、樹皮および木部のぞれぞれに含まれていたアセタミプリドおよび酒石酸モランテルの量を決定した。
アセタミプリドは、樹皮に0.47ppm、木部に0.5ppm含まれていた。酒石酸モランテルは、樹皮に18.45ppm、木部に25.92ppm含まれていた。
【0063】
注入から5か月間経過したときに、長さ10cmの当年枝ならびに二年枝を採取した。15の区画に、採取した枝を1本ずつ入れた。前記の区画に、羽化直後のカミキリ成虫を1個体ずつ入れた。3日おきに採取した新しい枝に交換した。
4回目交換時に、区画ごとに、取り除いた4本の枝を観察して、後食痕の長さを測定し、合計した。4回目交換時に、区画ごとに、カミキリ成虫の生死を観察した。
【0064】
その結果、カミキリ成虫は15個体中7個体が死亡していた。後食痕の長さの合計の平均値は、8の生存区で375.7mm、7の死亡区で11.8mm、15の区画の平均で205.88mmであった。
【0065】
比較例1
アセタミプリド2質量%を含有する樹幹注入剤B(酒石酸モランテル不含、水と親水性有機溶剤とからなる溶媒)を得た。
樹幹注入剤Aを樹幹注入剤Bに変えた以外は、実施例1と同じ方法で浸透移行性評価試験を行った。アセタミプリドは、樹皮に0.11ppm、木部に0.14ppm含まれていた。樹幹注入剤Aは樹幹注入剤Bよりもアセタミプリドの浸透移行性に優れていることがわかる。
カミキリ成虫は15個体中9個体が生存していた。後食痕の長さの合計の平均値は、9の生存区で397.9mm、6の死亡区で45.1mm、15の区画の平均で256.78mmであった。樹幹注入剤Aは樹幹注入剤Bよりも後食痕が小さいことがわかる。
【0066】
比較例2
水と親水性有機溶剤とからなる溶媒を樹幹注入剤Cとした。
樹幹注入剤Aを樹幹注入剤Cに変えた以外は、実施例1と同じ方法で浸透移行性評価試験を行った。カミキリ成虫は15個体中15個体が生存していた。後食痕の長さの合計の平均値は、生存区で495.6mmであった。
【0067】
以上のことから、ネオニコチノイド系殺虫性化合物および殺センチュウ性化合物を合わせて含有する本発明の樹幹注入剤は、ネオニコチノイド系殺虫性化合物のみを含有する樹幹注入剤よりもネオニコチノイド系殺虫性化合物の浸透移行性が良好であり、カミキリ成虫の後食痕が短いことがわかる。その結果、マツなどへのセンチュウの寄生を効果的に抑制できることがわかる。また、殺センチュウ性化合物によってマツなどに寄生してしまったセンチュウ類を殺滅できる。よって、本発明の樹幹注入剤は、樹木への活性成分の浸透移行性が良好で、センチュウなど及びセンチュウなどを媒介する樹木害虫の防除効果が長く持続するという著効を奏する。